写真左よりNearMe代表取締役の高原幸一郎氏、同CTOの細田謙二氏
郊外の地域では、終電後のタクシー乗り場に長蛇の列ができることが多い。なんとか終電で最寄り駅まで辿り着いたのはよいものの、もうすでに最終バスもない。そんな人は自分だけじゃないから、タクシーを求めて長い列ができるのだ。
海外にはUberがあり、自分がどこにいてもUberドライバーを気軽に呼ぶことができる。向かう方角が同じ他のユーザーとライドシェアして、運賃を浮かすこともできる。でも、日本ではいわゆる「白タク」は違法行為であり、海外でUberを経験したTechCrunch Japan読者のみなさんは「日本はまだまだ」と悔しい思いをしたこともあるだろう。
そんななか、白タクとは違うやり方でこの課題を解決しようとするスタートアップがいる。ニッセイ・キャピタルのアクセラレーションプログラム「50M」の“特待生”として5000万円の資金調達を実施し、本日6月25日にタクシー相乗りアプリ「 nearMe.(ニアミー)」を東京エリアで先行リリースしたNearMeだ。
同じ方角に向かうユーザーをマッチング
先ほどUberの名前を挙げたばかりの僕が言うのもなんだけれど、Uberの仕組みを理解している人は、まず頭をまっさらにしてほしい。nearMeはUberとはまったくの別物だからだ。nearMeは自社でタクシードライバーを抱えていないし、指定されたポイントにタクシーを配車することもない。彼らがやるのは、同じ方角に向かうユーザー同士をマッチングすることだけだ。
ユーザーはまず、nearMeのアプリを開いて目的地を入力する。すると、自分の近くにいて、かつ同じ方角に向かう“相乗り候補”と、その人と相乗りする場合のルート、相乗り運賃がアプリに表示される。その条件にユーザーが納得した場合、アプリ内のチャット/音声通話機能でマッチングした相手とコミュニケーションをとり、相乗りするための待ち合わせをするという流れだ。待ち合わせと言っても、そこにタクシーが配車されるわけではなく、ユーザーは自分でタクシーをつかまえる必要がある。
ユーザー間の清算は以下のようになる。まず、タクシーを最後に降りる人(ライドリーダー)は通常通りタクシーの運転手に運賃を支払う。その一方、途中で降りる人(ライドメンバー)はアプリに登録したクレジットカードを通してマッチング時に表示された“相乗り運賃”をライドリーダーに支払う。その後、ライドリーダーの銀行口座に相乗り運賃が入金される仕組みだ。もちろん、相乗りなのでユーザーは1人で乗車したときよりもお得にタクシーを利用できる。
ただ、注意すべきなのは、この時にライドメンバーがライドリーダーに支払う金額は、実費ベースで計算したものではなく、相乗りする前に表示された想定運賃だということ。つまり、タクシーが実際に走ったルートによっては事前に想定した相乗り運賃と実際の運賃のあいだに多少のズレが生じてしまう。
Uberとは違う、日本らしいやり方
今お伝えしたように、ユーザーが自分自身でタクシーをつかまえなければならなかったり、想定金額と実際の運賃とのあいだに多少のズレが生じる可能性があるなど、nearMeにはスマートじゃない部分もたくさんある。でも、それは日本の規制をクリアして、かつスケーラブルにビジネスを拡大するために彼らがあえて採用した戦略でもある。
まず、日本では白タク行為は禁止されているから、Uberのように自社でドライバーを抱え込んでタクシーサービスを提供することはできない。では、既存のタクシー業界と組んで相乗りサービスを展開するのはどうか。そうすれば、ユーザーの位置情報をもとにタクシーを配車することもできるし、支払いシステムも現状よりスマートになるだろう。
しかし、それも将来的なスケーラビリティを考えると微妙な選択肢となってしまう。国土交通省の調べによれば、全国のタクシー車両台数の合計は約23万台(平成28年時点)。その一方、タクシー大手の第一産業交通が抱える車両台数は約8400台であることからも分かるように、日本では1つのタクシー会社が持つ市場シェアは極めて小さい。
このような背景もあり、ある特定のタクシー会社と手を組んでサービスを提供しようとすれば、マッチしても利用できるタクシーが限られるなど、ユーザーの利便性を損ねてしまう。かといって、スタートアップであるNearMeが群雄割拠のタクシー業界を1つに束ねるプラットフォームを構築するのは至難の業だ。だからこそ同社は、タクシー業界との正式なパートナーシップを必要とせず、最初からどんなタクシー会社にも対応する現在のビジネスモデルを選択したのだ。
楽天グループのケンコーコム執行役員、同じくグループ会社の仏Aquafadas CEOなどを歴任したNearMe代表取締役の高原幸一郎氏は、nearMeが既存のタクシーサービスを補完する存在になり得ると主張する。「相乗りという選択肢なければ、タクシーを利用することを諦めていた人がいるはず。タクシーの実車率(全体の走行距離のうち、乗客をのせて走行した距離)は40%代と言われるなか、そのようなユーザーをタクシー会社に送客できるという意味で、nearMeとタクシー会社は協力する関係になれるはずだ」(高原氏)
タクシーという日本の既存資産を利用し、ライドシェアとは異なる方法で新しい移動方法を実現することを目指すNearMeはまず、終電と終バスの時間に開きがあり、タクシー乗り場に列ができやすい地域などに的を絞って局地的にPR活動を展開。その後は随時利用地域を拡大していく構えだ。