LAオートショー2021の高揚感としらけムード

LAオートショーは、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック下で初めて戻ってきた室内自動車ショーだ。ニュースに乏しく、いつも以上にベーパーウェアが多い中、それでも、いくつかのクルマやテクノロジーや企業が、イベントに先立って行われた2日間のプレスデーで目立っていた。

以下に、2021年のロサンゼルスで良くも悪くもTechCrunchの目に止まったクルマとテーマを紹介する。

グリーン&クリーンへと変わるストーリー

画像クレジット:Kirsten Korosec

米国時間11月17日正午前に行われた少数の主要なニュースカンファレンスでは、持続可能性と気候変動が中心テーマだった。そこには企業の偽善的環境配慮と実際の行動が入り混じっていた。

Hyundai(ヒョンデ)とKia(キア)は、環境の認識がいかに大切かを訴える短編動画を流したあと、全電動コンセプトカーとプラグインハイブリッド車を披露した。Fisker(フィスカー)は海洋保護について話した。長年グリーン化に取り組み、国立公園から動物保護まであらゆる活動の支援に多額の資金を投入してきたSubaru(スバル)も、環境保護の支援を継続していくことを強調した。

これは過去においても珍しくなかったことだが、自動車業界全体が二酸化炭素排出量低下に重い腰を上げ、持続可能な生産と調達に革新を起こし、有効な寿命を終えた部品や車両リサイクルと再利用の方法を探求していることは銘記しておくべきだろう。人類の気候変動への影響を減せる時間はあと10年しかないという恐怖の警告は、ショーで行われた複数のプレス会見で言及されていた。

ハリウッドモード

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2021年特に目立った発表の1つが、Fisker Ocean(フィスカー・オーシャン)の量産間近なバージョンだ。全電動SUVが備える17.1インチ巨大スクリーンは、180度回転可能で、同社が「ハリウッドモード」と呼ぶ横位置のランドスケープモードから縦位置のポートレートモードへ回転できる。

横位置モードでは、Oceanが駐車あるいは充電中に、ゲームをプレイしたりビデオを見たりできる。Fiskerは、このスクリーン回転技術の特許を取得していると述べた。

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電化、電化、電化

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2021年のLAオートショー全体のテーマは、(驚くに当たらないが)あらゆるものの電化だ。展示場にはICE(内燃エンジン)駆動の車両が数多く見られたものの、バッテリー電力の世界にいくつもビッグニュースがやってきた。

Nissan(日産)の全電動SUV、Ariya(アリヤ)、Toyota(トヨタ)bz4xと双子車Subaru Solterra(ソルテラ)から、TechCrunchのお気に入りである全電動Porsche(ポルシェ)Sport Turismo(スポーツ・ツーリズモ)セダンの最新モデルとマジックルーフ付きワゴンまで話題は尽きない。

健康被害からあなたを守るテクノロジー

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現行パンデミックが3年目を迎える中、自動車メーカーは利用者を病気から守る方法を考え始めている。HyundaiがLAオートショーで披露した SUVコンセプトカーSEVEN は、垂直空気循環、抗菌性の銅、紫外線殺菌装置などの機能を提供している。

電動化レストモッドがやってくる

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2021年のLAオートショーで目についたトレンドの1つが、何台かの古い車体に電動パワートレインを積んだレストモッド(レジストレーション&モディフィケーション)モデルだ。内燃エンジンのような直感的体験を与えることはないかもしれないが、クラシックカーの新しい楽しみ方を提供するものだ。

自動車製造のスタートアップ、Cobera(コベラ)が展示していたC300は、懐かしいShelby Cobraとよく似た外観だ。しかし、ボンネットの中にはV8エンジンに代わってC300を時速0〜62マイル(0〜約99.8km)まで2.7秒で加速すると同社がいう全電動パワートレインが入っている。Cobera C300は、ハンガリーの乗用車とキャンピングカーの製造に特化した会社Composite-Projects(コンポジット・プロジェクト)が設計・製造した。車両のスイッチを入れると、合成されたサウンドが出て、昔のV8に少しだけ似た音が聞こえる。

Electra Meccanica(エレクトラ・メカニカ)は、LAオートショーで三輪自動車Solo(ソロ)(詳しくは下で解説)も発表している会社だが、もう1台、Porsche 356 Speedsterに似た電動車、eRoadsterを披露した。エアコンディショニング、パワーウィンドウ&ロック、最新インフォテイメントシステムなどを備える。

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新たなパワートレインを搭載したレストモッドを披露したのは比較的無名で小さなメーカーだけではない。Ford(フォード)は11月初旬のSEMAショーに登場した電動化したF-100を持ちこんだ。1978 F-100 Ford Eluminator(フォード・エルミネーター)はFordの電動モーター、E-crate(イークレート)を備えたレストモッド機能で、ユーザーはこれを購入して自分の車両に取りつけられる。

F-100は前輪と後輪に1台ずつモーターを備え、最高出力480馬力、最大トルク634lb-ft(860Nm)を誇る。室内には新型インフォテイメントシステムのスクリーンとデジタル・ダッシュボードがある。

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三輪車

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例年、会場には少なくとも数台の三輪自動車が登場するが、2021年はいつもより多かった。Biliti Electric(ビリティ・エレクトリック)が持ってきた電動&ソーラー駆動トゥクトゥクは、Amazon(アマゾン)やWalmart(ウォルマート)が世界の人口密集都市のラストワンマイル配達に使える、と同社は言っている。

同社のGMW Taskmanは、すでにヨーロッパ、アジアの各所で使われていて、これまでに1200万個の荷物を配達し、延べ2000万マイル(3200万km)を走ったとファンダーが言っていた。

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Electra Meccanica のもう1台、Soloは同社が2016年のこのショーでも披露したsharyou

で、プレスデーにテスト乗車を提供していた。同社によるとSoloは1回の充電で最長100マイル(約161 km)走行可能で、最大出力82馬力、最大トルク140lb-ft(約190N-m)、最高速度は80mph(約128 km/h)。定員1名で荷物スペースを備え、近距離の移動や都市圏での通勤のために作られている。Soloの価格は1万8500ドル(約211万円)で、アリゾナ州メサで製造されている。

Sondors(ソンダーズ)の三輪電気自動車は、3人乗りで航行可能距離は約100マイル(約160km)と同社はいう。このクルマは、100万ドル(約1億1400万円)以上を集めて成功したクラウドファンディングの後に開発されたもので、33 kWhのバッテリーパックを備え、最大出力170馬力、最大トルク323 lb-ft(約438N-m)を発揮する。

Imperium (インペリウム)も三輪電気自動車、Sagitta(サギッタ)を披露した。ショーに登場した三輪乗用車の中では最大で、4人まで乗ることができるスペースをもつ。Sagittaは車両のスペックを発表していないが、2022年中頃から予約を開始すると同社は述べた。

バービー

画像クレジット:Abigail Bassett

ことしのLAオートはには、バービーまで登場した。Mattel(マテル)はBarbie Exra(バービー・エクストラ)カーの実物大バージョンを公開した。2021年式Fiat(フィアット)500のシャシーに載せたファイバーグラスのボディーはキラキラの白い塗装で飾られ、ウィング式ドアと後部にはペット用プールもある。

ソーラーパワー

画像クレジット:Kirsten Korosec

2021年のショーには、興味深いソーラー充電オプションを備えたクルマがいくつかあった。中国のエネルギー会社、SPI参加のPhoenix Motor Inc.(フェニックス・モーター)が発表したピックアップトラック、EF1-Tの収納可能なソーラーピックアップベッカバーは、最大25〜35マイル(約40〜56km)の走行距離を追加できると同社はいう。EF1-TおよびバンバージョンのEF1-Vは、いずれも巨大な車両で、明らかにまだプロトタイプであり、機能や利用形態について顧客の意見を聞いているところだと会社は述べた。

大きな虫のような外観のEF1-Tは、1回の充電で380〜450マイル(約612〜724 km)走行可能で、2025年の発売に向けて予約を受け付けているという。ずいぶんと遠い話だ。

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(文:Abigail Bassett、翻訳:Nob Takahashi / facebook

高級SUV「レンジローバー」の電気自動車が2024年に登場

Land Rover(ランドローバー)は、そのラインナップに高級SUV「Range Rover(レンジローバー)」の電気自動車を、2024年に加える計画があることを明らかにした。

この発表は、第5世代モデルにあたる新型レンジローバーの公開に併せて行われた。デザインが一新された新型レンジローバーは、無線によるソフトウェア・アップデートのサポートなど新たな技術を満載しており、プラグイン・ハイブリッド車や電気自動車にも対応するその新開発のフレキシブルなアーキテクチャは、ランドローバーから将来登場する新型モデルのベースとしても使われる予定だ。

ランドローバーは、この近々登場する電気自動車について、多くの情報を開示していない。だが、ブランドの親会社であるJaguar Land Rover(ジャガー・ランドローバー)の動きを観察していた人であれば、この事態を予測していたかもしれない。振り返れば2017年に、JLRはJaguar(ジャガー)とランドローバーの両ブランドから2020年以降に発表されるすべての新型車に、電気自動車またはハイブリッド車を設定すると述べていたからだ。

ランドローバーによると、新型レンジローバーは、まずマイルド・ハイブリッド・バージョンが発売になり、やや遅れて(米国では2023年に)プラグイン・ハイブリッド・バージョンが追加されるという。

2023年に登場するExtended Range(エクステンデッド・レンジ)プラグイン・ハイブリッドは、48ボルトのマイルド・ハイブリッド技術を採用した直列6気筒エンジンと、105kWを発生する電気モーター、そして38.2kWh(使用可能容量は31.8kWh)のリチウムイオンバッテリーを搭載し、システム合計で最高出力440psを発生。電気のみで最長100kmの距離を走行可能だ。

画像クレジット:Land Rover

2022年に発売になる新型レンジローバーには、標準 / ロングホイールベースのボディ、6気筒/ 8気筒のパワートレイン、2列5人乗り/ 2列4人乗り/ 3列7人乗りの座席オプションなど、さまざまなバリエーションが用意されている。

米国向けの2022年モデルでエントリーグレードとなるマイルド・ハイブリッドの「レンジローバーP400 SE」は、最高出力400ps、最大トルク550Nmを発揮する3.0Lガソリンターボ直列6気筒エンジンを搭載し、ベース価格は10万4000ドル(約1180万円)。そして最上級グレードは、ロングホイールベースのボディに最高出力530psと最大トルク750Nmを発揮する4.4LガソリンツインターボV8エンジンを搭載した「P530 First Edition」で、こちらは16万3500ドル(約1860万円)からとなっている。いずれも価格には税金およびディーラーまでの輸送費1350ドル(約15万円)は含まれていない。

新型レンジローバーにおけるもう1つの注目すべき技術的なハイライトは「Electrical Vehicle Architecture(EVA 2.0)」と呼ばれる新しい電気系アーキテクチャが採用されたことで、これによって70以上の電子モジュールにおける無線ソフトウェアアップデートが可能になったという。つまり、ランドローバーはこの無線アップデートを介して、新型レンジローバーに新しいアプリなどの機能を追加したり、既存の機能を改良したりできるようになるということだ。これはテクノロジー中心の時代に対応したいと考える自動車メーカーにとって重要な機能である。

新型レンジローバーには、音声アシスタントとしてAmazon Alexa(アマゾン・アレクサ)が搭載されており、最新ニュースを読み上げたり、ドライバーがカレンダーにアクセスできる他、一部の車載機能の制御や、自宅の照明の点灯、Alexa対応の他のデバイスとの接続などが可能だ。

また、スマートフォンの見た目や機能を、車内に設置された画面に表示して使うことができる「Apple CarPlay(アップル・カープレイ)」と「Android Auto(アンドロイド・オート)」も、新型レンジローバーの前席中央に備わる車載タッチスクリーンで利用できる。

画像クレジット:Land Rover

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【レビュー】2022年のフォード・マーベリックは可能性を秘めたコンパクトトラック

Ford(フォード)のFシリーズピックアップは、米国のトラックである。少なくとも数字を見る限りその事実は間違いない。

半世紀近くにわたって米国で最も売れているトラック、それがフォードのFシリーズピックアップだ。Chevrolet Silverado(シボレー・シルバラード)やRam(ラム)のピックアップシリーズも立派な競争相手ではあるが、フォードはいまだにそのどちらよりも数万台多く販売している。

一度実際に乗ってみると、その魅力がわかるかもしれない。大きくてパワフルなトラックは、モバイルオフィスとしても作業台としても機能し、あらゆるタスクやあらゆる地形に対応することができるからだ。しかしフォードも、このオールインワンのユーティリティービークルがすべての人に向いているわけではないことくらいわかっている。

このトラックに対して否定的な人にとって、Fシリーズは大きすぎて面倒で無駄が多い。不愉快な気持ちにさえしてしまうかもしれない。フォードが必要としていたのは、フォードのNo.1セラーに嫌悪感を抱いている人たちのために向けたトラックであり、ピックアップのあるべき姿という一般的な期待から外れた、常識にとらわれないクルマだったのである。

そこで登場したのが、Ford Maverick(フォード・マーベリック)である。

フォードはおよそ10年間にわたって北米のコンパクトピックアップトラック市場を放棄してきたが、同社はマーベリックによってそのブランクを破り市場に戻ってきた。先代モデルのRanger(レンジャー)は中型トラックに改良されて戻ってきたが、新型マーベリックはこれまでの流れを継承している。ちなみにマーベリックという名前は、1970年代にフォードがコンパクトセダンのシリーズに初めて使用したものである。

基本概要

画像クレジット:Alex Kalogianni

ユニボディ構造の同新型トラックは、4ドア5人乗り の「SuperCrew」キャビンと約54.4インチ(140cm強)の荷台を備えている。比較のために書くと、この長さはSuperCrewキャビンを持つレンジャーよりも15cmほど短いものとなっている。

TechCrunchが試乗したマーベリックは、ハイブリッド化された2.5リッター4気筒エンジンを標準搭載し、191馬力と155ポンドフィートのトルクを発揮。無段変速機と組み合わされて、前輪にパワーを送る仕組みだ。

標準的な構成を持ちながらも、この小さなトラックは優れた燃費性能を実現している。都市部では推定40mpg、1タンクで500マイルの航続距離となっている。また、1500ポンド(約680kg)の荷物を積み、2000ポンド(約900kg)の荷物を牽引することが可能だ。

さらなるパワーを求めるなら、オプションの2.0リッターEcoBoostエンジンにアップグレードすることで最高出力250馬力、最大トルク277ポンドフィートを発揮する。このエンジンはより伝統的な8速オートマチックギアボックスと組み合わされ、前輪または4輪を駆動できる。性能面ではペイロードの数値は変わらないものの、単体で2000ポンドの荷物を牽引し、オプションの「4K Tow Package」(AWDモデルのみ)を付ければその2倍の荷物を引くことができるという。

EcoBoostを搭載したマーベリックのAWD(全輪駆動)車には、オフロードでの活動をサポートするアンダーボディプロテクション、サスペンションのチューニングの調整、オフロードに特化した追加のドライブモードを揃えたFX4パッケージを加えることも可能だ。

XL、XLT、Lariatの各トリムレベルは、フォードファミリーらしい馴染みのあるものだ。マーベリックではXLとXLTに大きな違いはないが、XLTにはより豊富なアクセサリーが装備されている。どちらも布製シートで、パワートレインは好みのものを選択できる。

Lariatトリムでは複数の付属品が追加されている他「activeX」と呼ばれる合成素材を使用してキャビンに若干のプレミアム感を与えている。マーベリックの初値はベースとなるハイブリッド車で2万ドル(約223万円)を下回り、その他のトリムは2万ドルから3万ドル(約335万円)の範囲に収まっている。フル装備の場合でも最大で3万5500ドル(約396万円)程度となっている。

搭載テクノロジー

画像クレジット:Alex Kalogianni

同社の大型版と同様に、このコンパクトトラックにも最新の安全技術や便利なテクノロジーが搭載されている。しかし感心させられるような技術はほとんどがオプションだ。歩行者検知機能つきの自動緊急ブレーキや衝突警告機能は標準装備されているものの、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシスト、ヒルディセントコントロールなどの、さまざまな運転支援機能を希望する場合は追加のテクノロジーパッケージとして装備する必要がある。

車内にはApple CarPlayとAndroid Autoに対応した8インチのタッチスクリーンが搭載されている。内蔵のWi-Fiホットスポットでは、最大10台のデバイスがFordPass Connectを介してインターネットにアクセス可能だ。ちなみにFordPass Connectは契約が必要になる前の3カ月間、無料トライアルが用意されている。

一方で、スマートフォンのアプリを使ってクルマにアクセスできるなど、便利な機能を備えているFordPassは無料だ。スマートフォンのアプリでクルマにアクセスすると、クルマの始動やドアのロック解除、クルマの状態の更新などが遠隔操作で行える。

マーベリックの真骨頂は、多様なニーズに対応するために構築された標準装備の荷台「Flexbed(フレックスベッド)」にある。マルチポジションのテールゲートや内蔵式の収納スペース、フォルスロードフロア用のスロット、リアカーゴを固定するための複数のアタッチメントポイントなど、細やかな工夫が施されている。

マーベリックは柔軟性を重視し、あらゆる面で実用性を高められるように設計されている。例えばユニボディ構造を採用したことで、燃料タンクを後方に移動させることができ、後部座席の下にかなりの量の収納を確保することができた。また、今人気のマルチユースのドリンクボトルを想定してドアを設計したり、空いているスペースをすべて収納機能として活用したりしているのである。

マーベリックのデザインには、フォードのトラックオーナーのDIY精神が反映されている。

ユーザーたちが自分のトラックを最大限に活用するために考え出したユニークなソリューションを観察した同社。その結果としてマーベリックは、ユーザーが配線するためにテールランプをハッキングしたり、ブラケットを取り付けるためにトラックの荷台にドリルで穴を開けたりする必要がないよう改めてレイアウトされたのである。マーベリックオーナーは車内各所に設置されたQRコードから、ハウツー動画が掲載されたサイトにアクセスすることが可能だ。また、一部の部品のCADファイルもアップロードされ、3Dプリンターでオリジナルのアクセサリーを作ることもできるようになる。

ユーザーエクスペリエンス

F-150のような大型トラックの走りを敬遠してしまう人にも、マーベリックはフレッシュな親しみやすさを感じさせてくれる。半分はクルマ、半分はトラックというデザインのため、ボディオンフレーム車のような走りではなく、シートポジションを高くしたサブコンパクトカーのような感覚になっている。ユニボディ構造のサスペンションにはしっかりとした安定感があり、重厚なピックアップにありがちな車体のロールはない。スポーツカーではないが乗り心地は良く、楽しい道も無駄なく楽しむことができる。

前輪駆動のこのハイブリッド車は、ノーマルモードでもスポーツモードでもよく走る。後者は効率を重視したアトキンソンサイクルエンジンにもう少しスロットルレスポンスを求める人のためのものだ。また、CVTトランスミッションとの相性も良く、良い意味で普通である。ハイブリッドのマーベリックのドライビングエクスペリエンスを表現するには「無難」という言葉が最適かもしれない。マーベリックは日常の足として期待を裏切らずに仕事をこなしてくれるが、特に何かが優れているわけではない。期待を裏切らないという意味では勝利と言えるだろう。

ある意味十分なパフォーマンスを発揮してくれたため、EcoBoostを搭載したマーベリックのパワーに大きな期待を抱く必要もなかったが、クルマを乗り換えたときに良く分かった。ちょっとしたパワーがあるのはいいことだが、ハイブリッドを差し置いて選ぶほど路上でのダイナミクスが劇的に変化することはなかったのだ。オフロードでは別の話だろうが、それはまた複雑な話になってくる。

ハイブリッドへのためらい

フォードはマーベリックのオフロード性能に対して慎重に言葉を選んでいる。「Built Ford Tough」ではあるものの、このトラックはドライバーを冒険のスタート地点に連れて行くためのものであり、トラック自体が冒険なのではない。これは、マーベリックがフォードのオフロード性能ランクの下の方に位置することを遠回しな言葉で伝えているのである。

どこまでも旅をしたい冒険家はBroncoを、また放浪好きなドライバーにはBronco Sportがおすすめだ。マーベリックと同じプラットフォームを採用していながら、ホイールベースの短さとクリアランスの面で、コンパクトトラックよりも優れている。

実際には、スロットルとホイールのスリップを制御するドライブモードが追加され、より高性能なタイヤと組み合わされたマーベリックは、試乗会のオフロードでも活躍を見せた。大きな岩がゴロゴロしたヒルクライムを除けば、平坦な砂利道と草原の中のよく整備された道では特に難しいことはなかった。

マーベリックは荒れた道でも問題なく走破した。オフロード経験者にとってはなんてことのない道だろうが、まだ慣れないクルマに乗っているドライバーにとっては一瞬躊躇するほどの岩場である。

全輪駆動のEcoBoostバージョンのマーベリックが、軽い障害物を乗り越えられるというのは疑う余地もない。しかしハイブリッドは別の話である。今のところフォードは全輪駆動のハイブリッドを提供していない。また、前輪バージョンをオフロードで走らせることはできなかった。

メカニズム的には、マイルドハイブリッドシステムは非常にインパクトの少ないシステムだ。大雑把に言えば、大容量のパワーパックを搭載したマルチモーターのPHEVとは逆に、ドライブトレインに組み込まれた小型モーターと小型バッテリーを組み合わせて、軽快な動力回復を実現するというものである。ハイブリッドマーベリックに独自の全輪駆動を搭載することは、不可能ではなさそうではないか。オフロードではEcoBoostよりも性能が落ち、燃費が下がるのは間違いないだろうが、その落差はごくわずかなものだろう。

例として燃費を見てみよう。フォードは前輪駆動のハイブリッドマーベリックで40mpgの燃費を実現したと大々的に発表している。より重く、よりパワーを必要とする全輪駆動システムは、このリターンを下回る可能性が高いが、とは言え30または25といったところだろう。40とはいかなくとも、コンパクトトラックとしてはかなり良い数値だと言えるのではないだろうか。

フォード自身も認めている通り、最もたくましいマーベリックでもオフロード機能に関しては限界がある。オフロードで最も重要な数値である277ポンドフィートのトルクというのは、150ポンドフィートに比べれば間違いなく優れているが、それでもマーベリックが必要とするパラメーターを考えれば十分である。

FX4を搭載したEcoBoost AWDマーベリックの方が優れていることは間違いないが、ハイブリッドシステムが標準搭載され、かつ最も魅力的であることを考えると、ハイブリッドのマーベリックが最も売れるであろうことは明らかであり、ドライバーたちが試乗しようと思うのはまずはハイブリッドだろう。

ライバルたち

フォードはマーベリックをデザインするにあたり、トラックからダウングレードしようと考えている人に向けてというよりは、乗用車をアップグレードしたい人に向けてデザインしている。中型のレンジャーとマーベリックの間には顧客がオーバーラップする部分があるかもしれないが、厳密には対立するものではないだろう。

都市部や郊外での使用を想定しているため、マーベリックの最も近いライバルとなるピックアップは、Honda Ridgeline(ホンダ・リッジライン)と言ったところだろうか。洗練されたクルマのような中型トラックとしての実績は、今のところ他の追随を許していないが、マーベリックや新型Hyundai Santa Cruz(ヒュンダイ・サンタクルス)がその地位を揺るがす可能性もある。

フォード・マーベリックは、その実力というよりも、可能性を秘めた「白紙状態」のクルマとしての魅力が高いトラックである。

このトラックは、コストパフォーマンスに優れた低燃費のコンパクトユーティリティービークルであるのと同時に、そこそこの性能を持つオフローダーでもあるわけだ。新たな家族にと犬を探す際、セントバーナードではなくテリアを選ぶのと同様、トラックのような実用性を持ちながらも価格や物理的な制約が少ないクルマを探している人の目に留まるのだろう。

乗用車のように扱えるため、初めて運転する人にも、重厚なSUVやフルサイズのピックアップを運転するのが苦手だという人にも親しみやすいのがこのトラックだ。フォード・マーベリックは 極めて「無難」であり、またその可能性は無限大なのである。

画像クレジット:Alex Kalogianni

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(文:Alex Kalogiannis、翻訳:Dragonfly)