多様化するスタートアップ企業の技術チャレンジ、CTO Night登壇10社のピッチをご紹介

スタートアップといえばWebサービス、という時代はもう過去のものになりつつあるかもしれない。ハードウェアを開発したり、金融のようなお固い業界で新しいサービスを作り出したりと、その幅は大きく広がっている。

2016年11月17日に「TechCrunch Tokyo 2016」の中で行われたイベント「CTO Night powered by AWS」では、スタートアップ企業のCTO、10名が登壇し、それぞれのビジョン実現に向け、テクノロジーの観点から成長にどのように寄与してきたのかを語った。限られた時間でのプレゼンテーションながら、技術面からの掘り下げあり、チームマネジメントや組織作りの工夫ありといった具合に、多様なチャレンジが紹介された。

以下ピッチ内容と審査の結果選出されたCTO・オブ・ザ・イヤーを紹介するが、イベント全編の様子は、こちらの動画でもご覧いただける。

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人やチームを動かすのは「ユニークな仕事と生きるのに必要なお金」ーープレイド 柴山CTO

すでに1300社以上に導入されているというWeb接客プラットフォーム「KARTE」は、自社のサイトにどんなユーザーが来ているか把握できるよう支援するサービスだ。年間の解析流通金額は3000億円に達しているというが、これを数兆規模にまで伸ばしていくことが目的という。

その実現に向けて奮闘している柴山直樹氏は、元々は「人」というものを研究するため工学部に進学し、神経科学やロボティクス、機械学習などを研究してきた経歴の持ち主だ。「人を作りたい」と考えてきた同氏が見るところ、「結局のところ人間やチームをドライブするのは、ユニークな仕事と生きていくために必要なお金に尽きると思っているし、CTOの仕事もそれに尽きると思っている」という。

KARTEでは「今来ているユーザーはどんなユーザーか」を知ることができるインターネット横断型のミドルウェアを作り、すべてのインターネットサービスに入れていくこと」をミッションにしている。柴山氏のCTOとしての役割は、この目的、つまり「やりたいこと」とやれること、稼げることの中間地点をビジョンとして設定していくことだ。「CTOの仕事の80%はビジョンを作ること。面白いビジョンやプロダクトと、力強い事業を作りお金にしていくことにフォーカスすることが、熱狂的な組織を作る」と同氏は述べた。

逆に「組織やフロー、文化についてはなあなあで進めていくほうが、他を縛ったりしないのでいいのではないかというポリシーでやっている」そうだ。「いろんな考え方の人がいるので、一番良いものを探すのが難しい。課題があったら毎回その場で考えるのがいいかなと考えている」という。

3人体制のころからスクラムを導入し、進捗を共有ーークフ 佐藤大資CTO

クラウド労務アプリケーション「SmartHR」を提供しているクフは、ちょうどCTO Nightの翌日、11月18日に1周年を迎えるという。年末調整機能をはじめ次々に機能追加、強化を行っているが、それを支えるのはデザイナーも含め7名体制のチームだ。同社CTOの佐藤大資氏は、この少人数で次々開発を可能にした秘訣を紹介した。

最初はカンバン方式で、Trelloを用いてタスクを管理していたが、「おのおのが黙々と開発を行っていて、互いの進捗が分からない」という課題に直面した。「機能ごとにタスク管理を行っているが、工期が伸びてしまうことがあったし、ディレクターはヒアリングのため外回りが多く、進捗が分かりにくかった。営業にも機能追加の時期を伝えにくくなっていた」。そこで見積り精度を高め、進捗状況を共有するために採用したのが「スクラム開発」だった。

スクラム開発を導入した当初、開発チームはわずか3名。その規模でもはじめはスケジュール調整やタスク粒度調整に手間取り、3回目くらいからようやくスクラムが回り始めたという。結果として「綿密な工数出しで工期が正確になり、朝会でタスクごとの進捗や問題点が共有できるようになった。機能追加時期の精度も高くなった。何より最大のメリットとして、経営も週一単位のスプリントで見直しと改善ができるようになった」と述べた。

もう1つ課題となったのは、いかに価値観を共有するかだ。メンバーが増えるにつれて「やるべきこと」と「やらないこと」の区別や機能の優先度がバラバラになってしまう問題が生じた。そこで、30秒程度の短い時間でサービスの全体像を明確に言語化する「エレベーターピッチ」と、機能を段階的に整理する「ホールプロダクト」を取り入れることで優先順位のずれをなくし、会議でも率直な意見が出せる環境にしていった。

「一番大切なことは、サービスについてチームでよく話し合い、サービスの価値観をしっかり共有すること。そしてその場を会社が提供すること。そうすることで、エンジニアも含めすべての職種がサービスに向き合い、自律して行動できるようになる」(佐藤氏)

コミュニティの力を借り、公開できる成果は公開するーーRepro 橋立CTO

フリーランスのエンジニアとして活動した後Reproにジョインし、2016年7月にCTOに就任したばかりという橋立友宏氏は「何をやっていたらCTOになってしまったのか」というタイトルでプレゼンテーションを行った。

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Reproはモバイルアプリケーションに特化したアナリティクス/オートメーションツールを提供している。サービスは急速に成長しており、「入社当初は1日の生ログが100MBくらいだったのが、今は1日15GB程度へと、150倍になっている。単純に同じようなやりかたをしていては、とっくに破綻しているだろう。ビジネスの成長に合わせて技術者とアーキテクチャも一緒に成長していくことが求められる」(橋立氏)

破綻を避けるため、CTOやエンジニアには「ビジネスが重大な課題に直面しても、継続して環境を維持し、成長を妨げないこと。そのために技術者は常に適切なアーキテクチャを選定し、それを実際に形にしていく能力が必要だ。コトが起こってからでは遅いので、先を読んで調査し、それを実際に形にしていく開発力を持っていなければならない」という。実際に同氏は、「fluentd」を活用したスケーラブルなバッチ基盤の構築と高速化、「Embulk」を用いたデータ処理効率化、アプリケーションのコンテナ化といった取り組みを進めてきた。

しかし橋立氏は自らを「僕自身は凡百のプログラマーだと思っている」という。「なぜこのような活動ができたかというと、オープンソースソフトウェアのコミュニティをはじめとするエコシステムの力を借りることに慣れていたから」と述べ、限られたリソースの中でスピード感を持ってサービスを形にしていくには「先達の知識」を借りる必要があると語った。

Rubyコミュニティなどで「Joker1007」として知られる同氏は、ただ先人の力を借りただけではない。バッチ処理改善の過程で、fluentdのプラグイン「BigQuery」のメンテナーになるなど、公開できるものは公開し、コミュニティに還元できるものは還元してきた。

「オープンにできるもの、公開できるものは積極的に公開してコミュニティに還元する。それがエンジニアの世界をよくすることにつながる。そしてエンジニアの世界がよくなれば、世の中全体をよくしていく力になるはず」(同氏)。言うはやすし、行うは難しのこの言葉を、仕事の中で当たり前に実行し、続くエンジニアに背中で見せるのが「僕のCTOの仕事として大事なこと」だという。

ユーザー参加型のテストを採用し、激しい変化に対応ーーOne Tap BUY 山田氏

「投資をもっと身近に」というビジョンのもと、スマホ証券サービスを提供しているOne Tap BUY。さまざまな規制への遵守が求められる金融システムと連携したサービスである以上、いわゆる「Webサービス」とは異なる苦労があったという。

同社システム部 執行役員 システム部長の山田晋爾氏は、「スマホアプリの開発以外に、証券システムも開発する必要があるが、証券業務を回すために必要な注文処理、約定処理、入出金処理、出庫処理、法定帳簿や権利処理など、いろいろと作らなければならないシステムがあった」と振り返った。

スマホアプリのデザインについても試行錯誤してブラッシュアップしていったが、「スマホ側のデザインが変われば、証券システムのサーバ側の処理も変えなければいけない。お客様が入力する情報が変われば、証券業務をどう回していけばいいかも変わっていく」(同氏)。しかし、激しく変更が加わるスマホアプリに応じて対応に当たる開発担当者は当時2名しかいなかった。

「いろいろ悩んだ挙げ句、ユーザー参加型のテストを採用して開発を進めた。通常ならば、システム部でテストを行って保証したものをユーザー側に渡すが、今回はトライアルアンドエラーで、ユーザー部門にデバッグ、テストまでやってもらう形を取った」(山田氏)。全社を取り込んだテストを行うことで品質もかなりの程度高めることができ、おかげでシステムリリース以降、顧客に迷惑をかけるようなクリティカルな障害は出ていないという。

成功体験にとらわれず、「逆説」で課題を乗り越えるーーフロムスクラッチ 井戸端氏

フロムスクラッチのCTOである井戸端洋彰氏は、あらゆるデータソースから企業のマーケティングに必要なデータを取得し、メールやCMS、アナリティクス、MAといったあらゆるマーケティング施策に活用できるプラットフォーム「B→Dash」のアーキテクチャ設計や開発に携わってきた。その中で直面した課題には、常識とされている事柄への「逆説」で解決してきたという。

1つ目の逆説は「多機能開発」。たいていはキャパシティやリソースが限られている中で「選択と集中」を考えるところだが、「自分たちは必要な機能、お客様の要望は全部やります、というスタイルでやってきた」(井戸端氏)。TDDやマイクロサービスを採用し、インターフェイスにもこだわりつつ、「ペルソナを作りながら、どういうユーザーがどういうふうに使っていくか、開発メンバーも社内もしっかり認識を合わせながら開発に取り組んできた結果、順調に伸びている」という。

2つ目は、ウォーターフォールベースで開発しながら、短いときは2週間でリリースするというスタイルだ。「Web系はアジャイルでやっているところが多く、『ウォーターフォールって時代遅れじゃないの』と言われるけれど、逆に業務システムにはアジャイルを適用するのはまだ難しい部分がある。そこでわれわれは適材適所で、ところどころアジャイルの手法を取り込みながら開発をガンガン進めてきた」(井戸端氏)。しっかり要件定義を行いながら、実現時期もコミットし、タイムリーに機能を届ける体制を実現したという。

「マーケティングプラットフォーム市場にはグローバルなビッグ企業が競合として存在し、かなりレッドオーシャンな市場。後発かつベンチャー、フルスクラッチで開発する会社が戦っていくためには、こうせざるを得なかったと思う」(井戸端氏)

最後の逆説は、外部の業務委託エンジニアの比率が高く、一時期は8割を占める体制で開発を行ったことだ。外部エンジニアが増えすぎると、コントロールや効率、モチベーションの面で困難が生じると言われがちだ。しかし「テクノロジーやビジネスが急激に変化している中で、開発組織が柔軟な体制を維持しなければ、圧倒的な開発効率は得られなかった。リスク志向でできない理由を並べるのは簡単だが、たくさんのエンジニアの方とお会いして、会社として実現したい世界観を腹を割って惜しまず話すことで、プロパー、外部エンジニア関係なく仲間としてやる雰囲気作りにこだわってきた」(同氏)という。

「エンジニア、人は、どうしても過去の成功体験にとらわれてしまい、非常識と言われていることに対して『無理だよね』と考えがち。でも、われわれには実現したいものが明確にある。不可能や非常識を常識に変えながら、世界を変えるプロダクトを日本発信で作っていきたい」(井戸端氏)

時にはシビアな意思決定も下しつつ、企業文化を育てるーーカラフル・ボード 武部CTO

カラフル・ボードでは、当初ターゲットにしていたファッションをはじめ、映画や音楽などさまざまな領域で個々人の好みを理解したパーソナルAI「SENSY」を作り、プラットフォーム化して提供している。2016年10月には単月黒字化に成功し、イベントと相前後してチャット型パーソナルAIの「SENSY Bot」や、クローゼットアプリケーション「SENSY Closet」をリリースした他、AI技術をAPI化して「SENSY AI API」としてクローズド公開した。

しかし「戦犯としてのCTO」と題してプレゼンテーションを行った取締役CTO、武部雄一氏によると、道のりは平坦ではなかった。特に武部氏の場合は「カラフル・ボードに参画早々、大きな意思決定を求められる場面があった。当時、コンセプトアプリの域を出ていなかったSENSYにもう一度大きなリバイズをかけるか、それとも別の選択肢を選ぶのか。しかもこの時点で赤字経営となっており、体力の限界が見える中、どこで事業収益を上げ、経営基盤を安定させるという課題もあった」という。

結局武部氏は、「将来性のある新しいサービスに着手する」という判断を下した。新しいサービスで収益を上げ、経営基盤を安定させた上で、パーソナルAIとプラットフォーム化というビジョンに最短経路で結びつける狙いがあった。「入社してすぐ、せっかくみんなががんばって作ってきたアプリに、これから先はそんなに注力しないと宣言した。タイトルに『戦犯』という言葉を使ったとおり、恨まれても仕方がないけれど、そういうシビアな判断をした」。

その実現に向け、マイクロサービス化や開発プロセス、ツールの見直しなど、さまざまな工夫を凝らしたという。「ただ、発明はしてない。当たり前のことを当たり前にやってきた」と同氏は振り返る。チームビルディングについても同様だ。「企業文化やチーム文化を育てて守ることを何より大事にしようと決めた。そのためチームが大切にしたいことを言語化し、『クレド』として明文化した」(武部氏)

最後に武部氏は、次世代のCTOに向けて「リスクテイクしてほしい。それまでのキャリアを捨てて新しいスタートアップに飛び込んでみたり、事業戦略ならば思い切って全然違う方向を選択してみたり、技術ならばこれまでの既存技術の延長線上にないものを選択してみる。そうでなければ大きな成果は望めない」と述べた。さらに「自分は、生き甲斐と仕事がマージできているか、いつも振り返っている。ここが乖離してdiffがある状態だと、あとでconflictしてつらいこともある。コードと違って、自分の人生のpull request権限は自分にしかない」とも述べている。

多様なバックグランドを持つ専門家をまとめるのは「共感」ーーBONX 楢崎CTO/COO

今回のCTO Nightで目立ったのは、ソフトウェア以外領域で成長しているスタートアップだ。その1つ、ウェアラブルトランシーバー「BONX」の開発を行っているBONXの共同創業者でCTO/COOの楢崎雄太氏は、「よく『ハードウェアスタートアップって大変?』と尋ねられるので、今日はその現実を伝えられれば」と、自らの経験を紹介した。

ハードウェアの開発には、ソフトウェアとは桁違いの時間がかかる。BONXの表面仕上げを決めるだけで、デザイン作成と構造設計、素材の選定、仮金型に基づく確認、本金型の作成と調整……、という具合で、約4カ月の時間を要したという。

「ハードウェアの開発って、全然終わらないんです。ものの開発が終われば部材を調達し、倉庫を手配し、どんな物流網で届けるかなど、とにかくやることがいっぱい出てくる。経験がないと分からない分野も多く、専門性が高い。これら全てをやらなくてはならないのが、ハードウェアスタートアップの現実」(楢崎氏)。もちろん、並行してサービスやアプリの開発も必要だ。

これらを形にするために同社では「物語を全ての起点とした製品開発とモノ作りを意識している。『物語』とは、プロダクトビジョンやユーザー体験、カスタマージャーニーといった事柄とおそらく同じことで、要は、モノを通じてどんな価値観を伝えるかが一番大切だと考えている」(同氏)。目指すべき姿が明確になり、一致すれば、エンジニアのモチベーションが沸き、自律的に「次はあれを作るべき」「これはいらないよね」と動くようになり、技術的なチャレンジにも取り組んでくれるという。

photo03もう1つ、組織作りの上では「共感」が大事だと感じているそうだ。「ハードウェアスタートアップは、多様なバックグラウンドのある専門的な人が集まらないとなかなか実現できない。共感してもらうことによって、どんどんいろんな人がきてくれる」(同氏)。

事実BONXには、アプリやサーバだけでなく、音声処理やハードウェア、構造設計や工場管理など、さまざまな専門性を持った人材が集まっている。ただ「その人たちが集まれば自動的にBONXができるかと言うとそうではなく、CEO、CTOのようなゼネラリストの立場の人間が横串をしっかり通し、ストーリーを伝えていくことによってはじめてものができる」(楢崎氏)。ちなみに同氏が、専門性の高いメンバーと話すときに心がけているのは「100%理解しにいかないこと。でも70%は絶対に理解すること。自分はコードは書けないし、CADも書けないけれど、誰とでも同じレベルで議論できていうる自負はある」そうだ。

全てが分かるCTOがいないなら、皆で役割分担すればいいーーチカク 桑田氏

続けて、同じくハードウェアスタートアップであるチカクの共同創業者でまごチャンネル事業部の桑田健太氏がステージに立った。チカクは、スマホとテレビを遠隔で連携させ、孫の写真を遠くにいる祖父・祖母が簡単に見られるようにするコミュニケーションIoT「まごチャンネル」を開発している。

やはりハードウェアスタートアップには独自の苦労があるようだ。「ソフトウェアスタートアップならば結構ノウハウがたまってきており、システム構成や開発プロセスがぱっと思い浮かぶと思うが、ハードウェアスタートアップとなるとなかなかそうはいかない。しかもハードウェアは一度出荷すると、後からの機能アップデートはハードウェア的には行えないため、スペック決めやスケジュールなど、考えることがたくさんある」と同氏。ソフトウェア開発に求められる技術の選択だけでなく、ハードウェアの開発、製造、出荷管理、法律関連の知識に組み込みソフトウェアなど、求められる事柄は倍以上になるという。

「そんなことができる完璧超人は、世の中にはそんなにいない。でもいないからといってハードウェアスタートアップをあきらめるわけにはいかない。そこで、いいことを思いついた。一人でできないなら、皆で役割分担すればいいじゃないかと」(桑田氏)

チカクでは現在、ハードウェアや製造の担当とソフトウェア担当、サーバサイドと出荷管理という分担で3人で技術選択を担う「Chikaku Triad Development」体制を取っている。「一人で全てについてレベルの高い専門知識を持つのは難しいんですが、3人寄ると、それぞれ詳細に突っ込めるので、深めな技術的視点からの指摘ができる。3人いると人的冗長性もできるし、話し合うことで専門分野以外のことにも詳しくなれる」(同氏)。

チカクでは、ビジネスが成長する中で長期的にこの体制を続けるわけではないとしながらも、「CTOがいないからといってやめるのではなく、何とか手持ちのコマで頑張って、みんなでCTO的機能を実現していくのもありじゃないかな」という。

品質とスピードのバランスを重視ーーフューチャースタンダード 鈴木CTO

photo02フューチャースタンダードでは、「気楽にカメラ映像を活用したい」という声に応えるべく、映像解析IoTサービス「SCORER」を提供している。カメラによる映像の取り込みから映像解析、BIツールへのつなぎこみまで、映像解析に必要なものを、クラウドサービスも含めて提供するものだ。

同社のCTO、鈴木秀明氏は「光学系センサーは使うのにいろいろノウハウが必要だが、SCORERの特徴の1つはさまざまなカメラを活用し、多様なシチュエーションに対応できること。また、映像解析アルゴリズムの開発は、自分でやろうとすると莫大な費用がかかるが、弊社が代理で一括して利用権を取得することで、高度なアルゴリズムをリーズナブルに、簡単に利用できる」と説明した。

「IoTの目になる」というビジョンを掲げる同社。かつてNECで15年ほど製品開発・保守を行ってきた経験を持つ鈴木氏が、CTOとして重視してきたのが「品質とスピードのバランス」だったという。「品質というものは、結局は使い方で決まる。そのため、プロトタイプと製品とをしっかり分けることで、どちらも満足させる方法をとってきた」(同氏)。特に製品バージョンの設計は、将来のスピードを殺さないと言う意味で重要だととらえ、時間をかけて検討したそうだ。その経験から「技術的負債の返済は、多少時間をかけてもあとで必ずもとが取れる」という。

金融機関なのに、半数以上がエンジニアーーウェルスナビ 井上CTO

資産運用を自動化する「ロボアドバイザー」によって資産管理を支援するサービス「WealthNavi」を提供しているウェルスナビ。同社は「次世代の金融インフラを構築し、働く人が豊かさを実感できる社会を作る」ことをミッションに掲げてサービスを開発しているが、やはり、証券会社ならではの課題に直面したという。取締役CTOでプロダクト開発ディレクターも務める井上正樹氏は「スタートアップが証券会社って作れるの? と思うかもしれませんが、大変です」と率直に述べた。

例えば、画面上の項目を1つ減らしたいだけなのに、金融証券取引法、日証協、税法などさまざまな法令や取り決めを確認したり、時には弁護士と相談したりで簡単にはいかず、あっというまに1週間やそこらの時間がかかってしまう。オペレーションにしても、障害管理にしても数百ページにわたる安全基準が定められており、遵守が求められる。万一、顧客に影響があるような障害が発生すれば大ごとで、金融庁に報告にいかなくてはならない、という具合だ。

さらにコスト削減を図りつつ、証券や銀行、勘定系といった「固い」システムとの連携が求められたりと、さまざまな難しさがある中で、「既存の金融サービスをいかにネットのサービスにしていくかが私たちのミッション」だと井上氏は述べ、そんな中でもほぼ毎月新機能をリリースするという、普通の金融機関ではあまり考えられないペースで開発サイクルを回しているという。

中でもこだわっているのは、社員の半数以上がエンジニアという金融機関として、システムを内製していることだ。「フィンテックの最終形が何かが分からないうちに、システム作りの外注は難しいと思っている。そこで、フィンテックをちゃんと作れる開発チームを作ろうということをテーマにしている」(同氏)。それも、誰かが作った仕様通りに実装のではなく、現場のエンジニアも企画に入り、効果があるのかどうかを考えながら作れる組織にしようとしているそうだ。

既存のプレイヤーに正面から喧嘩を売るつもりもなく、「きちんと金融機関とコミュニケーションし、既存のものを生かしつつ、次世代のフィンテックインフラを一緒に作っていきたい。そこにもエンジニアが活躍できる場があると思う」(同氏)。

エンジニアが開発プロセスの中で自然となじんでいる論理設計やモジュール化といった考え方は、情報整理や組織設計といったプロジェクトマネジメントにも大いに発揮できるだろうと井上氏。その意味からも「これからのCTOは、テクノロジーを駆使するのはもちろんですが、プロダクトを作って、かつ事業まで入ることが大事」と呼び掛けた。

CTO of the year 2016はReproの橋立氏に

こうして、時に時間的負債を蓄積しつつ行われた10人のCTOのプレゼンテーション。審査委員による審査の結果、今回の「CTO of the year」にはReproの橋立氏が輝いた。

審査員を代表してコメントした藤本真樹氏(グリー 取締役 執行役員常務 CTO)は、「事業もそうだし、CTOとしてのタイプもそうだが、今年は幅が広がっていると感じた。スタートアップやCTOの世界が成熟していることは間違いないと思う」と述べ、互いに交流を深め、学び、より早く成長して競争し、業界が盛り上がれば、と期待を述べた。

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失敗しても死ぬことはない、重要なのはその業界の成長ーーさくらインターネット田中氏

さくらインターネット創業者で代表取締役社長の田中邦裕氏

11月16日〜17日にかけて渋谷ヒカリエで開催されたスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」。1日目の午前、「駆け抜けたネット黎明期、さくらの創業物語」と題したセッションには、さくらインターネット創業者で代表取締役社長の田中邦裕氏が登壇した。

さくらインターネットは1996年に事業をスタートし、1998年に法人化している。レンタルサーバーを中心とするデータセンター事業を手がけ、まさにインターネット黎明期からインフラ支えてきた企業だ。また最近では、通信環境とデータの保存や処理システムを一体型で提供するIoTのプラットフォーム「さくらのIoT Platform β」などIoT領域での取り組みも積極的に行い注目されている。

そんな同社のはじまりは、学生ベンチャー。「学内回線を使用して、サーバーを立ち上げていたが、学校に知られてしまい、サーバーを撤去しないといけないことになったことがきっかけ」だと田中氏は語る。当時はまだ「データセンター」というものは無く、地元のプロバイダーに労働力を提供し、場所を借りるというバーター契約ではじまったそうだ。創業当初は月額1000円という価格設定をするも、単価が安いためになかなか売上げに繋がらず、地元プロバイダーから施してもうらうお金だけで事業を続けているという状況が半年ほど続いたという。

田中氏は「起業は2種類あると思う」と続ける。起業したいと考えて実行する人と、手段としてせざるを得ないという人。田中氏の場合は後者で、サーバーの運用を続けるために、サービスを立ち上げたという経緯だ。京都府舞鶴市で事業を営んできたが、1998年に大阪に移転。多くの投資家に出会ったことが転機となり、株式会社化に至った。

その後2005年にマザーズ上場に至るまで、サービスや組織が拡大するに伴って、さまざまな問題が起こったという。当時の状況について田中氏は「技術やお客様に喜んでもらえるサービスを生み出そうというよりも、上場することが目的となり、社風が変わってしまった」と振り返る。最終的に田中氏は一度社長の座を退いている。さくらインターネットからの退社までを考えたが、ネットバブルの崩壊の影響もあって経営危機に面することになり、エンジニアとして会社に関わり続けた。スタートアップ企業の従業員数が増えることで会社に変化が起こる「成長痛」はよく聞く話だが、同社も例外ではなかった。

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ネット黎明期からインフラを提供する老舗企業だったさくらインターネットだが、インターネットの盛り上がりとともに、競合となるサービスも現れてきた。レンタルサーバーの価格競争は、誰もが感じられるスピードで加速してきた。「うちが2000円でやっていたものを月額数百円で提供するというものも出ていた。また一方で『Web 2.0』の波が来ていて、専用サーバの需要が増えていた」と話す。

つまり、個人ユーザーをロングテールで獲得しようとすると価格を下げることになるが、価格を下げても大きく市場が広がる確信を持てなかったのだそう。価格破壊が起こる中で、同社は法人向けに専用サーバーに注力していた。「最近のレンタルサーバーの平均単価は500円程度で、また破壊的イノベーションが起きるのではと危機感は持っている。市場開拓をするか、ARPPUを上げるかのどちらかを迫られていて、折り返し地点にきているなと感じる」と、今日の状況について話した。

また今日の動きでいうと、2011年に稼働を開始した石狩データセンターがある。投資額としてはかなり大きいものだが、FS(フィジビリティスタディ:事業の実現性を調査すること)を行ったところ、明らかに東京よりもいい環境だったという。

大きな投資を行ったが、IR資料を見ると売上は上昇傾向にある。サービス別ではクラウド事業が大きい。田中氏は、「クラウドの時代が来る」と目論んでいたわけではないという。ここで先行投資について、「やったらいいと思うんですよ。失敗しても死ぬことはないくらいの感覚をつかむのは。実際失敗するのは怖いですし、時間がかかりましたが。重要なのはその業界が成長しているかどうか。『クラウドが来る』とは読めなくとも、コンピューターは今の1億倍、1兆倍になることは多くの人が感じているはず」と田中氏は話した。

また田中氏は、スタートアップでも大企業でも何かと話題の多い働き方の話題についても言及した。「考えが変わったんですけど、あまり仕事だけで人生を楽しめないのは勿体ないなと思うんですよね。適度に働いて、やり甲斐を探す方が健全な気がする」(田中氏)。同社ではここ数年で多くの人材を採用したこともあり、有給休暇や定時に縛られないような制度を導入。兼業も認めるなど、新たな取り組みを進めているそうだ。

これまでの起業、経営を振り返り、田中氏は「15〜20年前は、良いサービスを作っていたら売れる、なぜこのサービスを知らない人がいるのかくらいに思っていたが、違うなと。謙虚にいきたい」と言い、またさくらインターネットの経営は大前提だとした上で「起業には何度でも挑戦したい」と話した。

サイバー藤田氏「無理な黒字化は事業がおかしくなる」ーー大型投資での成長を狙うAbemaTVのこれから

サイバーエージェント代表取締役の藤田晋氏

11月17日、18日に東京・渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。17日の最終セッションには、サイバーエージェント代表取締役の藤田晋氏が登壇した。藤田氏は4月11日の本開局(サービス正式ローンチ)からわずか半年で1000万ダウンロードを突破するなど、快進撃を続けるインターネットテレビ局「AbemaTV」について、サービス開始から今後の展開までを語った。聞き手はTechCrunch Japan副編集長・岩本有平が務めた。

若年層の取り込みに成功。わずか半年で1000万ダウンロードを突破

サイバーエージェントとテレビ朝日がタッグを組んで展開しているインターネットテレビ局AbemaTV。オリジナルの生放送コンテンツや、ニュース、音楽、スポーツ、アニメなど約30チャンネル(2016年12月現在)が全て無料で楽しめる。

4月11日の本開局から、約半年で1000万ダウンロードを突破。順調に成長を続けている。その状況について、藤田氏はこう口にする。

「予想を上回るスピードで1000万ダウンロードを突破することができましたが、そもそもスマートフォンでテレビ番組を観る視聴習慣が整っていない中、フライング気味にスタートしたサービス。なので長期戦になると思っています。そういう意味では何とかなるだろうと楽観的な一方で、予断を許さないとも思っています」(藤田氏)

「長期戦になる」という言葉どおり、藤田氏は2017年、AbemaTVに年間200億円を先行投資すると発表。予算のほとんどをコンテンツ制作と広告に充てるという。

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驚異的なスピードでユーザー数を増やしているAbemaTV。その内訳を見てみると、10代〜20代の若年層がほとんど。“若者のテレビ離れ”が叫ばれて久しいが、スマートフォンに最適化された動画コンテンツを配信することで若年層の取り込みに成功しているのだ。

「もともと狙っていたのが、テレビを見なくなった若年層だったので、この結果は狙い通りです。テレビを見なくなった層が何をしているかというと、スマートフォンを覗き込んでいるので、スマートフォン上にコンテンツを送り込めばいい、と思いました」(藤田氏)

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なぜテレビで勝負することにしたのか?

2016年を「動画元年」と位置づけ、AbemaTVの本開局に踏み切った藤田氏。だが「Hulu」や「Netflix」といった定額制動画配信サービスや、「YouTube」のような動画配信プラットフォームではなく、なぜテレビで勝負しようと思ったのだろうか?

「最初はテレビ型にするかどうかを決めず、動画事業に参入することだけを決めていたのですが、自分の中でAppleのiTunesが伸び悩んでいたことが決定打となりました。好きな音楽を好きなときに聴けるiTunesの仕組みは個人的にすごく良かったのですが、好きなもの以外を見つけるのが面倒くさいんですよね。受け身で音楽が聴けるストリーミングサービス『AWA』を始めたとき、やっぱり人は受け身で探す方が楽なんだと痛感しました。数ある映像が並んでいても、自分で選んで再生するというのは結構億劫なもの。受け身のサービスの方が人は楽なんじゃないかという前提に立って、テレビ型にすることを決めました」(藤田氏)

“受け身”というように、AbemaTVは暇があったら開く状態を目指している。例えば、1チャンネル目にニュースを持ってきて新鮮な情報を提供していることを打ち出したり、会員登録をなくしたり、とにかくユーザビリティの向上に注力しているそうだ。

「簡単で使いやすくすることで手が癖になり、アプリを立ち上げてくれるかもしれない。FacebookやTwitterといったコミュニティサービスに勝てるとは思っていませんが、SNSを見尽くして、やることがなくなったときに見てもらえるメディアであればいいと思っています」(藤田氏)

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Netflixの日本上陸がAbemaTVの立ち上げの契機に

もちろん、テレビである以上、使いやすいだけでなくコンテンツも面白くなければユーザーに観てもらえない。その点、AbemaTVはテレビ朝日と提携することでクオリティの高い番組が作れているといってもいい。

堀江貴文氏がフジテレビを買収する、三木谷浩史氏がTBSを買収する騒動があった10年前には想像できなかったかもしれないが、テレビとネットの関係性は劇的に変化している“今”だからこそ、サイバーエージェントとテレビ朝日の提携が実現したという。

「昔から通信と放送は融合すると言われ続けていましたが、まだスマホも登場していなかったので実感値が全くなかった。だからこそ、コンテンツは独占してこそ価値があるものだと思われていましたし、テレビ以外のデバイスに映すのはもってのほかだった。そんな状況を大きく変えたのがNetflixの日本上陸。ワールドワイドで収益を上げ、膨大な制作資金をかけてドラマを作っている会社が日本に来るということで、各テレビ局が対応を迫られることになった。この出来事がAbemaTVが生まれるきっかけにもなりました」(藤田氏)

 

Netflixの上陸だけでなく、Apple TVやChromecastといった端末も登場してきた。テレビは今後どうしていくのかを、たまたまテレビ朝日の審議委員会で話していた(藤田氏はテレビ朝日の番組審議委員を務めていた)こともあり、テレビ朝日側に立って出した答えがサイバーエージェントとテレビ朝日の提携だったそうだ。

まさにNetflixの日本上陸がAbemaTVを立ち上げる契機になったと言えるが、運営していく中で自社でコンテンツを作っていく考えはなかったのだろうか?

「自社でコンテンツを作れるのではないか、という考えも頭をよぎりました。例えば映画の買い付けや放映権の取得などお金を出せば何とかなりそうかなと思ったのですが、それは大きな間違いでした。テレビ局と組むことが必須だったんです。主要な映像コンテンツは基本的に全てテレビ局に集まっていますし、映像制作のクオリティがすごく高い。よく視聴率がとれる番組は制作会社が作っていると思われがちなんですけど、それは全然違う。クリエイティブディレクションをやっているのはテレビ局の人たちなので、彼らと組む以外、道はなかったと思います」(藤田氏)

無理に黒字化しようとすると事業がおかしくなる

様々な動画サービスが立ち上がっていることもあり、今後、テレビ局がネット企業と手を組むなど、AbemaTVの競合が出てくる可能性は十分に考えられる。その点、藤田氏はどう考えているのだろうか?

「AbemaTVは世界的にも見たことがないサービス形態になったのですが、有り無しがまだ分からない。もちろん、有りだと思い込んでやっているんですけど、マスメディアに出来るかは全くの未知数。こんな状態で競合は出てきてほしくないのが本音ですが、テレビ朝日が社を挙げて全面的に協力してくれている。こんな奇跡的な状況の会社はそうそう無いと思っているので、競合は来ないんじゃないかなと思っています」(藤田氏)

先ほど、「テレビ局の協力が必須だった」と述べていたように、テレビに進出する時にテレビ局の協力、ネットに進出するときはネット企業の協力が必須だという。だからこそ、同じような形でサービスを立ち上げてくる可能性は少ないと考えているようだ。

約半年で1000万ダウンロードを突破したAbemaTVの今後の展開について、「いつまでに黒字化する、いつまでに◯◯ユーザーを獲得するといったことは絶対に言いません。無理に黒字化させようとすると事業がおかしくなるので」と前置きをした上で次のように語った。

「これからAndroid TV、Apple TVにも対応していきますが、Amazon Fire TVなどを使った視聴体験が思った以上に素晴らしいので、そこのマーケティングは強化していく予定です。あと、年明けにはバックグラウンド再生と縦画面でも開けるようにして、より気軽に使えるようにしていきます。コンテンツ面ではニュースに力を入れていき、大事なニュースがあったらAbemaTVをつける習慣を作っていくことを考えています」(藤田氏)

SFから現実世界へ広がるAI、その質を左右するのは?

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TechCrunch Tokyo 2016で11月17日の夜に行われたセッション「機械学習と音声UIのゆくえ、元Cortana開発者に聞く」では、人工知能が適切に学習していくために不可欠な、「適切なデータ」の提供に特化したスタートアップ企業、DefinedCrowdの共同創業者兼CEO、ダニエラ・ブラガ氏が登場し、AIや機械学習の動向を説明するとともに、新たなβプラットフォームを発表した。

SFから現実へ、多様化進むAIの姿

2001年宇宙の旅の「HAL 9000」、ナイトライダーの「K.I.T.T」、そしてエクス・マキナの「エヴァ」——古今東西、さまざまな小説や映画の世界では、人間と対話し、考え、自ら判断を下すAIの姿が描かれてきた。ブラガ氏は今、それらが「SFから現実になろうとしている」と述べた。

すでに世界中で多くの企業がAIとそれを搭載したロボットの開発に取り組んでいる。音声認識機能や自然言語処理機能を備えた家庭用AIロボット「Jibo」はその一例だ。Jiboのオフィシャルトレイラー動画では、人間とのやり取りを通じて学習し、命令に従って写真を撮影してくれたり、子どもと遊んだり、いろんな仕事をしてくれる様子が紹介されている。

ブラガ氏はこうした例を紹介し、AIやロボットには「Pepperのように人間型をしているものとそうでないもの、体を持たないソフトウェアだけのものとハードウェアを持つもの、そして(同氏が開発者の1人である)CortanaやWatsonのように音声で会話を行うものと、テキストチャットで意思疎通を図るものなどさまざまなものがある」と説明。市場規模はますます拡大するだろうと述べた。

さて、AIとはそもそも何なのだろうか。ブラガ氏は「人の振る舞いを真似て、認知し、会話し、考え、ビジョンを持つもの」と定義する。そして機械学習は、AIが学習していくための1つのテクニックという位置付けだ。AIはさまざまなアルゴリズムを使って機械学習を行い、より賢くなっていく。

データの質がAIの質を左右する

AIの機械学習にはデータが欠かせない。しかしそのデータの質が、時にAIそのものの質を左右することになる。かつてマイクロソフトでCortanaの開発に取り組んだ経験を持つブラガ氏が新たに起業した理由は、そこにあるという。

「今や人間は日々、2.5クィンティリオン(10の18乗)というとんでもない量のデータを生み出している。しかもその9割は、機械が処理できる構造化データではなく、非構造化データだ」(同氏)

photo02加えて、これまでのAI分野でのさまざまな経験も、起業の理由の1つになった。「マイクロソフトでCortanaを開発する際、学習のためのデータはアウトソーシングで集めてこなければならなかった。しかしそのデータのうち2割は質の悪いデータだった。もし質の悪いデータを受け取って学習されると、何が起こるかを紹介しよう」とブラガ氏は述べ、過去にメディアでも報道されたいくつかの残念な例を挙げた。

1つは、マイクロソフトがTwitterで公開したチャットボット「Tay」だ。Tayはユーザーとのやり取りから学ぶように作られていたが、数時間後には人種差別発言を繰り返すようになり、公開後わずか24時間で停止に追い込まれた。また、グーグルが2015年5月に公開したフォトアプリ「Google Photos」は、アップロードされた画像を解析し、自動的にタグを付ける人工知能機能を搭載していたが、2人の黒人が写った写真に「ゴリラ」とタグを付け、謝罪する事件も発生している。いずれも「Garbage in, garbage out」の典型例と言えるだろう。

「このように質の悪いデータを用いると、AIの機械学習にも影響が及んでしまう。AIは構造化され、かつクリーンなデータで学ばなければならない。そこにわれわれの役割がある」とブラガ氏。同氏らが設立したスタートアップ企業のDefinedCrowdは人工知能をトレーニングするためのデータを収集し、構造化し、機械学習に使えるプラットフォームを影響することが役割という。

自然言語処理技術とクラウドソーシングを組み合わせたプラットフォームを提供

同社のプラットフォームは、技術とクラウドコミュニティーを組み合わせて実現されている。入力データに対し、音声認識や自然言語処理といったパイプライン処理を加え、そのデータに対してさらに、世界53カ国、46の言語をカバーする約5000人のクラウドソーシング協力者(学生らが中心という)がタグ付けなどの処理を行う。そうした質の高いデータを用いて学ぶことによって、機械学習のクオリティを保つことができると同氏は説明し、人を介することによる品質の高さとスピード、そして世界の言語の9割をカバーする拡張性が、同社プラットフォームの特徴だとした。

DefinedCrowdはこの日、TechCrunch Tokyo 2016に合わせて、新たなプライベートベータ版を発表した。音声処理テンプレートの強化に加え、新たに画像処理用のデータ群ならびにデータパイプラインを追加したことが大きな特徴だ。イメージおよび動画のタグ機能や感情ラベリング、診断システムなども搭載されているという。

ブラガ氏によると既に、Fortune 500も含むいくつかの企業が同社のプラットフォームを利用し、AI開発に活用しているという。広告やメディア企業も含まれており、「例えば、インターネット上で自社ブランドに関してどんな会話が行われているかを知りたいというときには、プラットフォーム上でパイプラインを作るとクリーンなデータが構造化された形で流れ込み、傾向を把握できる」そうだ。フレッシュなデータを得てフィードバックできることも利点という。

最後にブラガ氏は、「AIはこれから5年で、コールセンター、クルマや公共交通機関、さらには小売店鋪や医療、音楽、教育(特に外国語学習)、高齢者の介護など、あらゆる領域に普及していくだろう。わたしのお気に入りだけれど、家事もその1つに入るだろう」と予想し、セッションを締めくくった。

メルカリ創業者の山田進太郎氏、日米5500万DLの躍進をTechCrunch Tokyoで語る

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11月17日、18日に、東京・渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。18日のキーノート・セッションでは、フリマアプリ「メルカリ」創業者でCEOの山田進太郎氏に、日米5500万ダウンロードを達成したメルカリの海外展開の取り組み、プロダクトへの姿勢について語ってもらった。聞き手はTechCrunch Japan編集長・西村賢。

躍進するメルカリの海外展開

今年3月に84億円の大型資金調達を果たし、未上場ながら評価額はビリオン(10億ドル)超、日本発のユニコーン企業として注目を集めるメルカリ。この週、11月15日にメルカリでは決算公告を発表していた。既に2015年末時点で黒字化、2016年3月時点で月間の流通総額100億円以上を達成していたメルカリ。2016年6月期の決算では、売上高は122億5600万円と前期の約3倍となり、営業利益は32億8600万円で、2013年創業から4期にして黒字化、大きな話題となった。

発表された決算の数字の中でも興味深いのは、90%を超える高い粗利率。山田氏は「原価のほとんどが人件費」と言う。「日本で300人ぐらいの人員がいて、海外でも結構増えています。」(山田氏)

山田氏はしかし、この超優良な決算公告の数字を「まだ日本単体で、海外や子会社の数字は含まれていない。(世界)全体として見たらまだまだ投資している(モードだ)」と控えめに評価する。「国内でも伸びしろはあるが、次の桁を変えるには海外へ出て行かなければいけない。開発リソースは9割、米国に割いている。最悪、日本を落としてでも、米国市場を取っていく」(山田氏)

なぜ米国にこだわるのか。タイや台湾などは、日本と文化的にも親和性が高いし、インドネシアであれば多くの人口を狙っていけるが、東南アジアではいけないのか。この質問に「米国市場は大きい。ミッションである”世界的なマーケットプレイスを創る”ためには、米国でサービスが使われていないといけない」と山田氏は話す。

「個人的には、世界のいろんな人にサービスを便利に使ってもらうことで、大きく言えば人類への貢献ができるんじゃないかと考えている。そのために会社を作ったんだし、そこ(世界へのサービス展開)をやっていく」(山田氏)

「実は最初(に起業した時)から、(世界への展開に対する)意識はあった」という山田氏は、ウノウのZyngaへの売却と、Zynga Japanへの参加についても「グローバルなインパクトを出すことができると考えたから。Facebookで強かったZyngaはユーザーが全世界に3億人以上いて魅力があった」と言う。

今年だけでも84億円の調達を実施し、株式市場への上場も視野に入っているはずのメルカリだが、これまでのところ、上場は選択していない。海外展開に当たって、海外市場への上場などは検討しているのだろうか。「いろんなオプションを探っているところだ。いつIPOするかも含めて、まだ何も決まっていない。会社が大きくなっていけば、社会責任を果たすこと、社会の公器になることは必要だと思うけれども、まだタイミングではないですね」(山田氏)

そのタイミングとは。山田氏は「米国でのサービスは伸びているが、もっともっと成功しなければ。米欧で成功できれば、いろんな国で継続的に成功していく方法論が確立するのでは、と思っている。今のところ、どうやって米国で成功するかに集中している。その後、日米欧3拠点でどうやって開発していくのか、コミュニケーションをどう取っていくのか、多拠点での事業の進め方も考えなければならない。まだ、事業計画を出して(ワールドワイドで)継続的に成長していくという段階ではない」と堅実に事業を進めていく考えを示す。

プロダクトの差別化は少しずつの改善の積み重ね

アプリケーションとしてのメルカリは、2016年8月時点で、日本で3500万ダウンロードを達成している。メルカリの日本での今後の見通しについて、山田氏は「減速の予見はない。流通額も伸びている」と話す。「PC時代やガラケー時代に比べると、スマホ時代はユーザーが多い。LINEなんかもMAU(月間アクティブユーザー数)が国内で6000万ぐらいある。一家に1台だったPCと比べると、ひとり1台に普及していることが大きい」(山田氏)

米国でも、2000万ダウンロードを2016年9月に達成。ダウンロード数の推移を見ると、この夏、急速に伸びていることが見て取れる。

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「この伸びは、CMなど特別なプロモーションを打ったわけではなくて、インスタグラマーやSnapchatユーザーが“メルカリはいいよ”と投稿を始めて、そこから招待コード制度で拡散したことが理由。App StoreやGoogle Playのランキングに載ったことで、さらに加速した」(山田氏)

現在の米国の状況については「一時よりは落ち着いたが、ベースが上がっている感じ。招待コードキャンペーンは続けている。インフルエンサーにお金をかけるプロモーションは行っていない。ただ、あらゆる機能改善を米国にフォーカスして、1年ぐらい続けてやってきていて、それが広がる下地となった」と山田氏は話している。

この施策が当たった!というものはなく、少しずつの積み重ねが、米国でのDL数増に功を奏したと言う山田氏。「GoogleでもSnapchatでも、エンジニア中心の小さなチームが無数にあって、それぞれが改善を続けている。Facebookで動画が急にきれいに見えるようになったりしたのも、そうした結果。みんな、ちょっとずつそういう改善を続けて、Facebookの場合なら友だちが増えたり投稿が増えたりしていって、今や誰も追いつけないくらいの機能とユーザー数になっている。メルカリにとっても、1%の改善をどれだけ繰り返せるか、ということをやり続けることが強みになっている」(山田氏)

開発には現在100人ぐらいが関わっているが、役割を固定せず、流動性を大きくしている、と言う山田氏。「A/Bテストができる基盤は作ってあるので、各チームの中で自由に『こういうことしたら、いいんじゃない?』と(機能の調整を)やってます」(山田氏)

「Facebookなんかだと、少しずつ違う機能や見た目が部分的に反映された、何万というABテストが(同時に)走っている。メルカリでも数十本は走ってる。米国版ではテストが特に多い。(米国版の機能で)日本だと受け入れられるかどうか、というものは日本でもテストしているので、パターンは膨大にある」(山田氏)

アプリの機能以外のサービス面でも、米国ではトライアルが続いている。手数料の導入はサービス面での大きな変更だ。「米国でも新規の出品者に10%の手数料を導入したところ。まだ結果は分からない。来週からは出品者全体で手数料を始めるので、勝負どころになります」(山田氏)

山田氏は、米国でも日本でも、今までのウェブサービスの普及パターンと違う動きが見えると言う。「LINEなどもそうかもしれないが、日本だと、ユーザー数でいえば東京は多いんだけれども、地方ユーザーでも若くて子どものいるお母さんみたいな層から火が付いた。米国の場合もこれまでは東西海岸の都市部が普及の中心だった。それがメルカリでは、カリフォルニアは確かにユーザー数は一番多いけれども、その後はテキサス、フロリダと続いていって、普通の人が使っている印象。両海岸から広がっているのは今までと同じだが、広がるスピードが早くなっている。スマホ時代になって、時間×量という意味では、地方に住んでいる可処分時間が多い人がサービスを使うようになった。ユーザー数と時間・量の全体で見たときに、総時間では都市も地方も同じになっているのではないか」(山田氏)

メルカリ特有の“文化”について

「取り置き」「○○さん専用ページ」「確認用ページ」……。メルカリにはアプリ独自で、利用規約やシステムとは連動していないユーザーによる“私設ルール”がたくさんある。これらの“メルカリ文化”ともいうべきルールについても、山田氏に聞いてみた。

photo03「本来はシステムや機能で解決すべきだとは思います。Twitterの返信で使われている“@”なんかも、元々はユーザーが勝手に使い始めた運用をシステムで取り入れた例。ユーザーの使われ方によって、機能を取り入れられるのが良いとは思う。メルカリでもやりたいんですが、優先順位の問題で取り入れられていないですね。米国にフォーカスして(開発を)やっているので、日本でやったらいいな、ということがなかなかできていない。それは申し訳ないけど、これから要望に応えていく部分もあるので……」(山田氏)

日本だけにフォーカスした機能は、ローカライズが進みすぎるので避けたい、とも山田氏は言う。「バランスを取っていかなければ。シンプルで誰が見ても使える、というものをユニバーサルに作っていきます。会社全体、経営陣として、全世界に必要な機能は議論(して検討)する。それが日本ローカルな機能なら、優先順位は低くなる」(山田氏)

またeBayなどのオークションサービスでは価格が安定しているのに対し、メルカリでは出品物の価格のばらつきが大きく、状態もさまざまだ。このことについては「オークションでは、モノに適正な値段を付けるというところがある。でも(メルカリの場合は)価格だけじゃない。同じ物でもコンビニはスーパーより高く売っているけれども、それはその分便利という価値がある、ということ。メルカリならすぐに買える、店にないものがある、という購入者の感情と、自分はいらないから誰かに使ってもらいたい、という出品者の感情をうまくつなげている。中には、タダでもいいから、もったいないから使ってほしいという出品もある。その気持ちに経済的価値があるんです」と山田氏は話す。

山田氏は、ポイントの存在も購入行動に影響を及ぼしていると見る。「アマゾンより高い出品もあるのに、なんで売れるのかというと、ユーザーが別の出品で売上を持っていて、ポイントなんかを使う感覚なのではないか。売上を引き出してアマゾンで買えばいいんだけど、それだと手間と時間がかかるので、利便性を取っているのではないかと思う」(山田氏)

メルカリの日本での利用の伸びについては、こうも話している。「昔は日本でも道ばたでモノを売るような世界があったし、新興国では今でもまだそういう売買のシーンがある。それが単純にオンラインで仕組み化されたことで、復活してきているということではないか」(山田氏)

メルカリでは、企業ではなく個人ユーザー同士によるCtoCのフリマにこだわっている。運営側が常に見てくれていて、ヤフオクなどと比べると気を遣ってくれている感じ、安心感がユーザーにあるのではないだろうか。だがここへ来て、業者ではないかと思われるユーザーも出てきているようにも見える。ユーザーのサポートやケアについて、山田氏はどう考えているのか。

「メルカリはできる限り、自由な場であってほしい。(先日Twitterなどで話題になった)お子さんが仮面ライダーカードを買うために、お母さんが子どもの拾ってきたドングリをメルカリに出品したケースのように、何でもやり取りしてもらえれば、と思う。規制していたら、ドングリみたいな新しいものは生まれないです」(山田氏)

一方で取引のトラブルや、悪い出品者・購入者に当たったというケースもある、と山田氏は続ける。「そこでメルカリに問い合わせをすれば、解決してくれる、という安心感があれば、場が健全に保たれる。商品が送られてこなかった、という時でも、すぐにお金を返してくれた、となれば、『今回はたまたま悪い取引に当たっただけで、メルカリ自体はいいところだ』と思ってくれるでしょう」(山田氏)

「こういう出費は5年先、10年先を考えたら回収できる」と山田氏。「長期的に使ってくれて、何十年も続いていけるサービスにしたいと思って、そういうカスタマーサポートをやってます。今はエンジニアとカスタマーサポートにお金をかけている」(山田氏)

日本発ユニコーン企業の先駆者として

日本人メジャーリーガーとして活躍し、イチローや松井秀喜のメジャーリーグ入りに先鞭をつけた、投手・野茂英雄。彼を例えに、山田氏に米国での躍進と、後進への思いについて聞いたところ、その返事は意外なほど慎ましいものだった。

「誰かが(アメリカへ)行って通用すると分かれば、フォロワーが出る。先駆者がいれば後も変わっていくと思っているので、何とかして成功したいとは思っている。だが、そこまで余裕があるわけじゃないんです。自分たちが何とかしなければ、という危機感は社内にも強い。2000万ダウンロードで順風満帆、人材も潤沢で完成されているように見えるかもしれないけれども、実際は大変。日本のプロダクトも改善は足りないし、相当の危機感がある」(山田氏)

好調決算についても「日本単体での数字で、それもアメリカへの投資に使っているわけだし、まだまだ」とさらなる成長を追求する姿勢だ。

さらに競合に関する質問では「プロダクトで勝つしかないので、競合という視点はないんです。プロモーションなどでお金をかけることはできるが、結局いかにいいものにし続けられるかが大事」と山田氏は語る。そのプロモーションについては、メルカリではTV CMに大きく費用を投下しているという。「米国でもCMのテストを行っている。まだ結果は分からないが、分析を続けて、あらゆるチャレンジをしている」(山田氏)

最後に、起業家志望の方に向けて、山田氏からメッセージを伺った。「僕も必死でやっているところだけれど。海外へ出て、何かを作って、便利に使ってもらうことはとても価値があること。一緒に頑張っていきましょう」と山田氏。学生起業を目指す人にはこう語った。「僕が1990年代後半の楽天に内定して働いていた頃は、毎月のように人が増えていて高揚感があった。それが起業家としての原体験にもなっていて、そのころの雰囲気をメルカリでいかに再現するかが指標にもなっている。だから伸び盛りの会社に一度行ってみるのもいいと思う。ただ、やりたいことがもうハッキリしているなら、早くやればいいと思うよ」(山田氏)

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実世界測定スタートアップPlacemeter代表が語る、創業ストーリーと国外で事業を伸ばす秘訣

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Webサイトやアプリの世界では自社のページに訪れた人数を数え、属性や行動を分析し、より高い成果を獲得するために最適化するという一連のプロセスは当たり前のように行われてきた。

ここ数年、センサーが取得できるデータの精度が向上しディープラーニングに代表される画像認識技術が進歩したことで、道路や広場、施設内など「実世界」での出来事を定量化するプレイヤーが世に出始めている。

店内に設置された監視カメラのデータを元に店舗オペレーションを分析、最適化できるスタートアップとして日本ではAbejaが有名だが、11月17〜18日に東京・渋谷で開催された「TechCrunch Tokyo 2016」ではリアルタイムの映像解析技術を持つNY拠点のスタートアップ、PlacemeterのCEO Alexandre Winter氏が登壇し現状を語った。

きっかけはうんざりするハンバーガー屋の待ち行列

「世界で1番美味しいと評判のNYのハンバーガー屋に初めて行ったとき、1時間以上行列で待たされてヘトヘトになりました。ようやく入れた店内でWebカメラを見つけたとき、コンピュータビジョンの技術で待ち時間を予想できるのではないかと思ったのです」とAlex氏はPlacemeterの原型となったアイディアを語る。

創業したスタートアップのイグジット経験を持つAlex氏だが、その後シードアクセラレータであるTechstarsに参加し急速に事業を伸ばす。「軽い気持ちで応募したら受かってしまいました。アクセラレーターに参加する必要はないと思っていたのですが、初日に言われた『ここで過ごす3ヶ月間は2年分の仕事に相当する』という言葉が実際にその通りで、劇的に会社を変えることができました」。

アジャイルな都市開発計画

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今では街中の監視カメラや自前のセンサーデバイスが取得したデータで屋内外の人数をカウントし性別を特定したり、人間だけでなく車両やバイクの動線を分析することで、企業向けのビジネスに留まらず都市計画にもサービスが活用されているという。パリで行われている都市計画プロジェクト「The Paris Smart City 2020」では広場の再開発を行うためPlacemeterで人々の動線データ取得・分析を行っている。

「都市計画では一回建てると長い期間変えることはできません。パリでは有名な7つの広場の再開発を行っています。1つの広場では従来の方法で施策を立てて実行しましたが、結果的に利便性が向上せず市民からのクレームが多かったと聞いています。そのためナシオン広場はアジャイル型の全く新しい開発プロセスを導入したのです」。19台のカメラを広場に設置し、どの程度人の行き来がある場所なのかを測定。実験的にフェンスを立てて人や車の流れを変えるパターンを複数試し、最適な動線になるよう広場の設計を行っているという。

国外で成功する事業開発の勘所と日本市場の魅力

日本で法人向けのビジネスを行う場合、導入実績をセールストークに次の案件を獲得していくケースが一般的な手法だが、それは海外でも変わらないようだ。「新しい市場では最初の案件をまず勝ち取る。そしてそれをレファレンスとしてさらに拡大することが重要です」。Alex氏によると、特にアメリカで事業を行う場合はとりわけ人からの紹介が重要だという。

Placemeterは新しい国に参入する場合、技術的なチューニングはもちろん、システムのインテグレーションを行う現地のパートナーと共同で事業を行う場合が多い。日本市場は過小評価されることが多いが、日本を入り口にすることでアジアに展開できることを考えると魅力的な市場であるという。日本は2020年に向けたオリンピックに向けた観光含めた多額の投資を行っており、施策を効果測定する手段としてぜひ自社の技術を活用して欲しいと語った。

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巨額買収、eスポーツの加速──ゲーム実況動画コミュニティの今後をTwitchディレクターに聞く

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11月17日、18日に、東京・渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。17日の午後にはTwitchからAPACディレクターのRaiford Cockfield III(レイフォード・コックフィールド、以下レイ)氏を迎え、ゲームのライブストリーミングサービス、Twitchの創業からAmazonによる1000億円の巨額買収に至る道のり、ビデオゲームを競技化したeスポーツの勃興、日本やアジアでのサービス展開などについて、語ってもらった。聞き手は元TechCrunchのライターで、日本のゲーム産業のコンサルタントとして活躍する、Kantan Games CEOのSerkan Toto(セルカン・トト)氏。

創業からAmazonによる巨額買収、そして現在

バンカーとして自身の経歴をスタートさせたレイ氏は、香港でプライベート・エクイティに関わり、その後、事業に参画。コミュニティに役立つ仕事がしたい、との思いから、Twitchへやってきた。そのTwitchの生い立ちは、2007年にスタートした24時間ライブ配信サイト、Justin.tvにさかのぼる。

photo02「リアルのアーケード(ゲームセンター)って、いろいろな人とプレイを見せあったり感想を言ったりする、コミュニティだったでしょう? ビデオゲームって、元々ソーシャルなものだったんだ。だから、それがライブ配信サイトであるJustin.tvにも現れ始めたんだ」(レイ氏)

2011年、Justin.tvからゲームカテゴリーを切り出して誕生した、Twitch.tv。現在、PCのブラウザでもスマホのアプリでもゲーム動画のライブストリーミングが楽しめ、お気に入りの配信ユーザーをフォローして、チャットでコミュニケーションが取れる、ゲームユーザーの一大コミュニティとなっている。

Twitchが重視しているのは、Justin.tvから受け継がれたライブキャスティングの部分なのか、それともビデオゲームなのか。レイ氏は「どちらも重視している」と質問に答える。「ビデオキャスティングの分野では、Amazon、YouTube、Netflixに続く、第4の勢力を目指している。だから接続と回線スピードの質を上げたくてAWS(Amazon Web Services)を利用しているし、Amazonの買収も受けたんだ」(レイ氏)

2014年5月時点では、TwitchはGoogleによる買収を受けると目されていた。だが8月にふたを開けてみれば、Googleではなく、Amazonが1000億円での買収を完了させていた。なぜGoogleは選ばれず、Amazonが買い手となったのだろうか。レイ氏は「Amazonとは、顧客第一の思想が共通していた。それにTwitchの独立性を担保してくれたので、Amazonを選んだんだ」と振り返る。

「実は買収の2年半前から話はあった。Twitchとしてはスケーリングしたい、バックエンドも整えたいと考えていたから、インフラは大事だった。そこをAmazonが対応してくれた」(レイ氏)

超巨大IT企業による巨額の買収ということで気になる、事業への干渉などはなかったのだろうか。「干渉はない。TwitchのDNAはしっかり残されている。変わったことといえば、規模がワールドワイドに広がったことと、社員が何百人にも増えたことかな」(レイ氏)

その“TwitchのDNA”とは一体どういうものなのだろう。「まずはコミュニティありき、コミュニティが一番(大事)ということだね。それから絵文字なんかもDNAかな。アジアでは特に絵文字は大事なんだ」と言うレイ氏は、Twitchがいかにコミュニティを重視しているかについて、「コミュニティによって、事業のロードマップが決まるし、ミッションが決まる」と話している。

「今は(ゲームの)ジャンルは全てにフォーカスしている。それから、(音楽やイラストなどの創作活動を実況する)クリエイティブカテゴリも大切にしている。アジアの場合は、インタラクションを失いたくないという思いも強い。コミュニティとインタラクションが肝だ」(レイ氏)
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加速するeスポーツと日本、アジアでのTwitchの展開

今や一大ジャンルとなったゲーム実況動画。だが何時間も視聴に費やすユーザーがいることを、不思議がる人もいるのでは?と尋ねられたレイ氏はこう答える。「サッカー観戦と一緒だよ。興味がある分野の映像なら、何時間でも見るよね? ゲーム動画を見る動機は、プレイを体験したい、もしくはプレイスキルを学びたい、っていうところから。それって、サッカーと同じだよね」(レイ氏)

そして、まさにサッカーと同様に、ハイレベルのプレイヤーによるビデオゲームの対戦を、競技として楽しみ、観戦し、プロも誕生しているのがeスポーツの世界だ。何千万という規模のアカウントと何千万ドルもの金額が動き、加速するeスポーツについて、レイ氏はこう話す。

「今、eスポーツのアクティブユーザーは1日100万以上。トーナメント数も多くなっている。アジアなら大規模なイベントとして成立する。日本ではまだそれほど大きな動きではないが、それは成長の機会がまだまだある、ということだ」(レイ氏)

他の面でも、Twitchのアジアのユーザーへの期待は高い。「ワールドワイドでは、1ユーザーが1日当たりTwitchで費やす時間は106分。アジアだとそれが300分以上にもなる。コミュニティからのエンゲージメントも高い。ユーザー層はミレニアル世代が中心だ」(レイ氏)

Twitchの売上の大半は、気に入った配信者のチャンネルを月額4.99ドルでサポートする「スポンサー登録」(サブスクリプション)と広告だという。「日本なら(単にスポンサーになった配信者のチャンネルの広告が消えるだけじゃなくて)配信者を“応援”する機能なんかがあるといいかもしれないね」(レイ氏)

日本での展開も具体化に入ったTwitch。レイ氏は東京オフィスと日本での成長について、こう話す。「2017年の成長にフォーカスして、スタッフを採用し、まだリモートで仕事をしているけれどもオフィスも構えるし、コミュニティも作る。また韓国、東南アジアの一部も攻めていくつもりだ」(レイ氏)

コミュニティファーストで、コミュニティからロードマップが決まると話していたレイ氏。日本でのコミュニティについても「2016年は、日本ではデータの収集と言語ローカライズをやってきた。これから、外資のサービスだと気づかれないぐらいのサービスを提供していきたい」と意気込む。

日本の場合、ゲーム実況動画のプラットフォームとしては競合にYouTubeとニコニコ動画がある。ニコニコ動画は既にミレニアル世代のユーザーも多く抱えている。そんな中、Twitchはどのように日本でサービスを広げていくつもりなのか。「Twitchは大手企業からの関心も高いし、そもそもコミュニティ第一主義を採っているのでコミュニティは大切にするけど、競合の存在とかはサービス拡大には関係ないんだ。それにeスポーツの分野は、まだまだ伸びるしね」(レイ氏)

また、モバイルに関しては「ウェブサービスもアプリも、プラットフォームとしては総合的に対応しているつもり。でも特にアジアではモバイルは重要。ロードマップもモバイル中心で考えている」とレイ氏は話してくれた

最後に日本のゲームファンに向けて、レイ氏はこう語った。「Twitchを生活の一部、ゲームスキルの向上やキャリアアップにつなげてもらえるとうれしい。日本のみんなにもぜひ、この体験を共有してほしいな」(レイ氏)

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VRとARはいずれ統合してMRに──オピニオンリーダーが語るVRの今と未来

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11月17日、18日に、渋谷で開催したTechCrunch Tokyo 2016。17日のTech Trendセッションには、VR界のオピニオンリーダーで、VR関連スタートアップへの投資を行う米VCのThe Venture Reality Fund(以下VR Fund)ジェネラル・パートナーのTipatat Chennavasin(ティパタット・チェーンナワーシン)氏が登壇した。ティパタット氏は、これまでに1500以上のVR/ARスタートアップを見てきており、14のVR/ARスタートアップに投資、世界中のVRインキュベーターやアクセラレーターでメンターとして支援を行う、VRのエキスパートだ。

『THE BRAVE NEW VIRTUAL WORLD〜Investing in the future of reality(すばらしき‘バーチャル’新世界〜リアリティの未来への投資)』と題されたセッションで、ティパタット氏は、VR/AR業界で起こっている近年の変化と現況、そして近い将来予想される動きについて語ってくれた。

VRとは何か──まずは体験してみてほしい

ティパタット氏は「VRで体験できていることが、ARでも実現できるようになり、VRとARはいずれ統合されて、MR(Mixed Reality)となる。VRとARが私たちの生活を永遠に変えてしまうだろう」と話し始めた。

TechCrunch Tokyo 2016では、最先端のVRが体験できる「VRゾーン」で7社による展示も行われていた。出展内容のほとんどを知っていた、というティパタット氏は、映画『マトリックス』の登場人物・モーフィアスのセリフになぞらえて、「バーチャルリアリティとは何かを知るには、VRを体験することだ。この機会にぜひ、まずは体験していってほしい」と会場に呼びかけた。

ティパタット氏は「身の回り全体にスクリーンが常にある世界がいずれ来る」と言う。「完璧なVR体験とは何か。より多くの感覚を回りの環境に浸透させることだ。視覚、聴覚、自分の動きの感覚があれば“そこにいる感じ”は実現できる。それを実現するハードウェアとして、ディスプレイとスピーカーとセンサーがあり、3次元移動×回転のジェスチャー・コントローラーがある」(ティパタット氏)

VRを説明する分かりやすい例として、ティパタット氏は2Dと3D、そしてVRを比較。「2Dディスプレイと比べれば、3Dシネマの技術では立体感のある映像は見られるが、まだ完全な3Dとは言いがたい。周りの環境全体がディスプレイ化して、からだを取り囲んでいるような体験が得られるのがVRだ」(ティパタット氏)

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ではなぜ今、VRなのか

“VRブーム”の要因をティパタット氏はこう説明する。「ひとつはハードウェアの価格が下がったこと。スマートフォンの普及で身の回り中にスクリーンとセンサーがある状況が生まれた。次に、インタラクティブ・コンテンツの充実。3Dゲームが主流となって、制作ツールの機能が向上し、アーティストや開発者も増えている。それからメディア・コンテンツの発展。Go Proなどの撮影機材の普及でジャーナリストやハリウッド・メディアがコンテンツ制作に参入し、エコシステムができあがった」(ティパタット氏)

またティパタット氏は、VRにつきものだった“シミュレーター酔い”の課題がほぼ解消されたことも、VRの浸透に貢献していると言う。「VRヘッドセットの進化により、技術的な問題は解消している。かつて『ポケモン』のアニメ放映で、激しく点滅するフラッシュ光によって体調を悪くする人が出て問題になったが、原因が分かって、あのようなコンテンツを作る者はいなくなった。それと同じで、VRコンテンツによる酔いは、作り手によって意図されたものでもなければ、VRの前提(としてどうしても外せないもの)でもない。ただし、ヘッドセットのデザインの問題はまだ残っている」(ティパタット氏)

VR業界の現況

それでは、普及へのお膳立てが整ったVR業界は、現在どのような状況なのだろうか。まずはハードウェアでの参入企業をティパタット氏に紹介してもらった。Facebook率いるOculusGear VRのSamsung、PSVRのソニー、Viveを提供するHTCといった、VRヘッドセットのメーカーをはじめ、Google、Microsoft、Appleといった巨大IT企業、そしてPCやスマホ、CPU、GPUメーカーなど、そうそうたる顔ぶれがそろう。

さらに最近はNew York Times、ABC News、Huffington Post、LIFE、Disneyなどのメディア企業の参入も進む。ティパタット氏によれば「メディアのVR業界参入は、将来のコンテンツへの投資として考えられている」という。

VR市場も年々拡大している。「2020年のワールドワイドでのVR市場規模は、404億ドルになると予測されている」というティパタット氏。米国では過去2年で40億ドルが投資されており、VR Fundも参加するVirtual Reality Venture Capital Alliance(VRVCA)で120億ドルの投資が確定。ほかOculusが5億ドル、IMAXが5000万ドルをコンテンツへ投資しており、2020年に最小でも146億ドルの市場規模となると推定されるそうだ。

VRコンテンツや関連商品・サービスは実際に、どのように提供されているのだろうか。ティパタット氏はまず、オンラインゲーム・プラットフォームのSteamの例を紹介。Steamに関する情報を提供するSteam Spyのデータによれば、Steam Storeでは、13万2000点のVive関連商品が扱われている。これは中国を除いた数字だ。Steamでは、VRのみのタイトルで2400万ドルの収入があり、インストール件数は500万。VRコンテンツのトップタイトルには、ゲームだけでなくユーティリティーアプリやIKEAのシミュレーターなども含まれている。

次にティパタット氏が紹介してくれたのは、360度動画の台頭だ。360度動画はYouTubeでもFacebookでも急激にユーザー数を伸ばし、YouTubeで10億ユーザー、Facebookでは17億ユーザーが閲覧しているという。全画面動画は、再生ディスプレイがデスクトップ、スマホのティルト、そしてGear VRなどのモバイルVR機器へと広がったことで、多くの閲覧者を獲得した。

そして、ロケーション・ベースド・エンターテインメントの流行である。ロケーション・ベースド・エンターテインメントとは、装置や設備が備わっていて場所が固定された、VR体験ができるエンターテイメント施設。ティパタット氏によると、日本でも見かけるようになったVRカフェは、中国では既に2000軒あるそうだ。VRゲームセンターも世界各地で開設されている。またIMAXは、6カ所でVRシアターの開設を予定。さまざまなジェットコースターが楽しめる米国のテーマパーク、Six FlagsとCedar Pointでは、VRローラーコースターが導入されている。

これらのVR業界の動向を、最後にティパタット氏作成の全体図で確認。3Dデータ入力のインフラ部分を担うプレイヤーから、ヘッドセットメーカー、コンテンツ制作のためのカメラ、ツール、プラットフォームの提供者、そしてコンテンツ提供者までが俯瞰して紹介された。
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さまざまなVRコンテンツとVRアプリ

ここからは、VRコンテンツのさまざまなカテゴリを少し詳細に、ティパタット氏が紹介してくれた。まずはゲームから。「PSVRでの人気ゲームはシューティングやアクションもあるが、実はジョブシミュレーションなども強い。それから、ナラティブ(物語)エンターテインメントも人気がある」(ティパタット氏)

「コンテンツとしては、先ほども紹介した、テーマパーク、ゲームセンター、カフェといった場所固定のVRエンターテイメント施設、そしてスポーツの分野もある。スポーツでは観戦や、エクストリーム・スポーツを体験するものが人気だ。中国では、スポーツ観戦会場に人が入りきれないような試合もあって、こうしたVRコンテンツのニーズは高い。コンサート、ライブのコンテンツもよく利用されている」(ティパタット氏)

ティパタット氏がこれから特に注目しているコンテンツカテゴリは、教育とのこと。「それから旅行コンテンツも面白いね。旅行したい街をゴジラの視点で歩き回ることもできるだろう。そして報道コンテンツも。シリアなどの危険な戦地をVRで体感すれば、ものの感じ方が変わると思う。New York Timesの360度動画コンテンツは毎日更新されているね」(ティパタット氏)

コンテンツに続いて、各種VRアプリが紹介された。「企業向けアプリでは、デザイン、3Dデータ体感ができるシミュレーターのほか、トレーニング用アプリも出ていて、採掘や重機操作など、すぐに実体験するのが難しい業務で使われている。MicrosoftがVRに投資するのは、こうした動きがあるからだ」(ティパタット氏)

医療分野のアプリは、手術のトレーニングなどに使われるほか、高所・閉所恐怖症などの治療にも利用されているという。「私は、自分の高所恐怖症をVRの治療アプリで克服したんだ。片目だけの視力が弱い患者が、9カ月のトレーニングで症状を改善したという例もある」(ティパタット氏)

「ソーシャル分野のアプリでは、リアルタイムで遠隔地とのコミュニケーションができることに可能性がある。Facebookのマーク・ザッカーバーグも、VRによるソーシャル体験についてコメントしているし、この分野は伸びるだろう」(ティパタット氏)

そして、VRコンテンツも含めた3Dコンテンツを制作するのに必要なのが、クリエイティブアプリだ。ティパタット氏は「(VRによる)完璧な3D環境があれば、インプットをVRで行うことが可能だ。これはコンテンツ制作に応用できる。Mindshowなどはその例だ」と言う。「VRを使えば、3Dコンテンツはより短期間で、より少額で制作できるようになるだろう」(ティパタット氏)

VR業界のこれから

このように、いま盛り上がるVR/AR業界で、今後のチャンスはどういったところにあるのか。

「現在のVRデバイスは、かつてのモトローラ製のブロックのように大きな携帯電話のようなもの。電話がiPhoneへと変わっていったように、VRデバイスも変わっていかなければならない」とティパタット氏は言う。「そのために必要なものは何か。早いスピードと大きなデータ容量を支える回線などのインフラ技術、VRネイティブなメディアや、毎日触れる機会があるVRアプリ、そしてコンテンツ制作の敷居を下げること。さらに、テクノロジー分野でもコンテンツ分野でも新しい投資家が必要だ」(ティパタット氏)

「今後、物質世界の体験とVRでの体験は重なっていく。ARはVRに比べて3年遅れで、開発キットがこれから登場する、といったところ。だが、VRでの開発の知見が生きるだろう」と今後のVR/AR界の展望についてティパタット氏は語る。「だから、VR/ARにどんどん投資しようではないか。そして一緒にVR/ARの未来を作りましょう!」(ティパタット氏)

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TechCrunch Tokyo 2016の「スタートアップバトル」、ファイナルラウンド出場チームはこの6社だ

いよいよ幕を開けた、東京・渋谷で開催する日本最大級のスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」。今年も旬なゲストをセッションなど様々な企画が目白押しだが、最も注目したいのが目玉企画の1つである、創業3年以内で、今年プロダクトをローンチしたスタートアップがプレゼンで競い合う「スタートアップバトル」だ。「市場性」「独自性」「将来性」の3点で審査を行い、最優秀プロダクトを決める。

11月17日の初日にファーストラウンドが開催され、書類審査を通過した20社がしのぎを削った。ファイナルラウンドへの進出を決めたスタートアップはどこか。本稿では、ファーストラウンドを通過した6社のプロダクトをお伝えする。あわせて、明日開催されるファイナルラウンドの審査員もご紹介したい。

ファイナルラウンドへの出場が決まったスタートアップ

1. タウンWiFi(株式会社タウンWiFi)

公衆の無料Wi-Fiに自動で接続&認証してくれるアプリ。スマホの通信量が削減され、多くの人を悩ませる速度制限を解消してくれる。

2. Refcome(株式会社Combinator)

社員の紹介による「リファラル採用」を活性化するサービス。施策設計のサポート(コンサルティング)に加えて、人事担当者、社員、社員の友人(採用対象)の3者に向けた機能を提供している。

3. Folio collection(株式会社FOLIO)

リスク許容度に応じた分散投資を自動化する資産運用サービス。金融資産への投資を誰もが簡単、効率的に実現できる世界を目指す。サービスリリースは年内を予定している。

4. 小児科オンライン(株式会社Kids Public)

小児科に特化した遠隔医療相談サービス。平日の夜18〜22時、こどもについての質問や悩みをLINE、電話、Skypeで医師に相談することができる。料金は初週無料だが、それ以降は月額980円かかる(※12月1日から月額3,980円に変更予定)

5. SCOUTER(株式会社SCOUTER)

転職希望者を企業に紹介することで報酬をもらえるソーシャルヘッドハンティングサービス。スカウターにのみ限定公開される求人情報を友人や知人に共有し、その方の推薦文を書き、転職が決まると報酬が得られる。

6. Diggle(タシナレッジ株式会社)

企業の予算管理と資金シミュレーション業務を支援するサービス。予算策定機能、予実対比機能、資金シミュレーション機能を提供することで、予算管理を誰でも簡単にできるようにすることを目指す。

ファイナルラウンド審査員

赤坂優氏(エウレカ/共同創業者)
川田尚吾氏(ディー・エヌ・エー/顧問)
木村新司氏(AnyPay/代表取締役)
国光宏尚氏(gumi/代表取締役)
西村賢(TechCrunch Japan編集長)
松本大氏(マネックスグループ/代表執行役社長CEO)
宮田拓弥氏(Scrum Ventures/ゼネラルパートナー)

※審査員はすべて五十音順

産みの苦しみと楽しさを語る―、CTO Nightは木曜夜、集え日本のCTOたち!

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すでにお伝えしているように、いよいよ明後日17日木曜日の夜にTechCrunch Tokyo 2016のイベント内で「CTO Night」を開催する。まだオーディエンスとしての参加申し込みは間に合うので、もう1度イベントについてご案内したい(登壇者の募集は締め切っている)。

TechCrunch Tokyo 2016 CTO Nightは登壇者も参加者も基本CTOばかりという無料イベントで、比較的新しいスタートアップ企業10社から10人のCTOたちが登壇する。技術的観点からビジネスや経営にいかにコミットしてきたかというピッチを披露して讃え合う場で、経験豊富なCTO審査員によって、今年最高に輝いていたCTOに対して「CTO・オブ・ザ・イヤー2016」の称号をお贈りする。

2015年の様子はこちらの記事で詳しくお伝えしている。去年の各発表を紹介する小見出しを並べると、以下の通り。

・「書いたことがなかった」Pythonベースの決済サービスを立ち上げ―BASEの藤川真一CTO
・「Qiitaを良くする」ことに注力―Incrementsの高橋侑久CTO
・Webの力でものづくりを加速―フォトシンス (Akerun) 本間和弘CTO
・2人CTO体制のメリット―トランスリミット 松下雅和CTO
・技術的チャレンジが会社の強み―Vasily (iQON) 今村雅幸CTO
・チームもアーキテクチャも疎結合で非同期―ソラコム安川健太CTO
・「ゴール駆動開発」を提唱―airCloset 辻亮佑CTO
・紙という強敵と戦う―トレタ増井雄一郎CTO

テーマとして多いのは、駆け出したばかりの組織におけるスキルアップや、アウトプット品質向上の方法論だ。

2015年のCTO・オブ・ザ・イヤーに輝いたソラコムCTOの安川健太氏は、「チームもシステムも疎結合で非同期」というもの。ソラコムではチームは1日1回30分の全体進行のシェアをするが、それ以外はSlackで連携しつつ非同期で動くのだという。それを可能にするにはシステムの各モジュールの相互依存を下げるマイクロサービスによる「疎結合」がカギだった。

例年CTO Nightの司会も務めていて思うのは、組織面でも技術的方法論の面でも、スタートアップ企業というのは新しい領域を切り開いている感じがあるなということだ。良く言えば過去に縛られずに「あるべき論」が堂々とできるということ。逆に、参考にすべき基準や経験豊富な人がいなかったりする中で、自分たちのアイデンティティを模索するということもあるだろう。

スタートアップ企業というのは、まっさらな状態からプロダクトや組織、文化を作っていくもの。そこで働くCTOたちは過去の失敗経験から「今度こそ」と理想とするものを追い求めたり、逆に何もかも初めての中で試行錯誤したりしていることが毎年発表からうかがえる。

システムや組織には強い「慣性」が働くので創業10年ともなると、時代の要請や技術トレンドに合わない部分が出てきたりする。そうした違和感を覚えている中堅企業のCTOや、大手エンジニアリーダー層たちにも是非、最新のスタートアップ各社の取り組みについて聞きに来てほしいと思う。CTO Nightへの観客としての参加は無料。CTOか、それに準じる役職者であれば誰でも歓迎だ(一般参加チケットを申し込んでいる方はCTO Nightにもご参加いただけます)。

今年登壇するスタートアップ企業と審査員は以下の通り。

プレイド(ウェブ接客プラットフォーム「KARTE」) 関連記事
クフ(クラウド労務管理「SmartHR」) 関連記事
Repro(アプリ解析・マーケティング「Repro」) 関連記事
・One Tap BUY(スマホ証券「One Tap BUY」) 関連記事
フロムスクラッチ(次世代マーケティングプラットフォーム「B→Dash」) 関連記事
カラフル・ボード(ファッション人工知能アプリ「SENSY」) 関連記事
BONX(ウェアラブルトランシーバー「BONX」) 関連記事
チカク(スマホ・テレビ遠隔連携コミュニケーションIoT「まごチャンネル」) 関連記事
フューチャースタンダード(遠隔カメラ画像処理プラットフォーム「SCORER」) 関連記事
ウェルスナビ(個人向け資産運用管理サービス「WealthNavi」) 関連記事

【CTO・オブ・ザ・イヤー2016審査員】
藤本真樹氏(グリー株式会社 取締役 執行役員常務 最高技術責任者)
安武弘晃氏(元楽天CTO / カーディナル合同会社)
松尾康博氏(アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 ソリューションアーキテクト)
白井英氏(株式会社サイバーエージェント SGE統括室CTO)
和田修一氏(元nanapi CTO)
藤門千明(ヤフージャパンCTO)

CTO Night参加登録は、こちらから

【イベント名称】TechCrunch Tokyo CTO Night 2016 powered by AWS
【日時】TechCrunch Tokyo 2016初日の11月17日木曜日の夜19時30分スタート(90〜100分)
【コンテスト】登壇CTOによる1人7分の発表+3分のQAセッションを10社行い、審査を経て「CTO・オブ・ザ・イヤー 2016」を選出する
【審査基準】技術によるビジネスへの貢献度(独自性、先進性、業界へのインフルエンス、組織運営についても評価対象)
【審査】CTOオブ・ザ・イヤー実行委員会・審査員による
【企画・協力】アマゾン ウェブ サービス ジャパン
【運営】TechCrunch Japan / AOLオンライン・ジャパン
【チケット】無料(参加登録ページ
【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp

TC Tokyoセッション変更のお知らせ:Prismaに代わってPlacemeter CEOが登壇

楽しみにしていた来場者予定の皆さまにお詫びしなければならない。9月に告知していたTechCrunch Tokyo 2016のゲストスピーカー、Prismaの共同ファウンダー兼CEOのAlexey Moiseenkov氏の来日の都合がつかなくなり、17日午前に予定していたセッションをキャンセルしなければならなくなった。

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PlacemeterのCEOで連続起業家のAlexandre Winter氏

代わりに、画像処理技術を使って「実世界コンバージョン率を導き出す」とうたうPlacemeterのCEOで連続起業家のAlexandre Winter氏にご登壇いただくこととなったのでお知らせしたい。

2012年にニューヨークを拠点に創業したPlacemeterは道路・歩道・店舗などの混雑や通行状況をリアルタイムの映像解析で行うクラウドベースのサービスだ。映像は街や店舗に設置するIPカメラで撮影するが、1台90ドルのPlacemeter提供の専用カメラを使うと、画像解析はカメラ内で行うためプライバシーの懸念にも対処している。

今のところPlacemeterの利用用途は商業用途と都市設計の2つがあるようだ。商業地区での店舗出店場所の選定のための基礎データや、ディスプレイの最適化によるコンバージョン率の向上(ウィンドウショッピングから、より多くの人が実際の購買に至るようにする)などだ。

自治体による都市設計だと、例えば先日Placemeterはシスコと組んでパリにおける都市設計の基礎データ収集を行ったという。これは「The Paris Smart City 2020」と名付けらた2014年から2020年にかけて1億ユーロ(約1160億円)の予算をかけて行う都市設計プロジェクトで、パリをエネルギー効率の良い都市に作り変えるのだという趣旨のもとにオープンイノベーションのディスカッション・プラットフォームまで用意して市民を巻き込んだ議論をしている。こうしたとき議論の基礎となるデータとして、人や自動車が区別できるだけは足りないので、Placemeterの画像解析エンジンは歩行者、自転車、オートバイ、自動車、大型車が区別できるように改善されていて、今後は区別できるオブジェクトの種類も15とか20に増やしていく計画だという。例えば、日本に多いスクーターだとか小型トラックなども認識するニーズだ。画像処理では、単にオブジェクトを認識するだけでなく、道路のどこを通っているかも分かるそうで、こうした分解能力の高さはコンピューターによる画像処理ならではという。

今回登壇するAlex自身はもともとはフランス国立情報学自動制御研究所の研究者で、Airbus Defenceで誘導ミサイルの画像処理の専門家として働いていた経験もある。その後、画像処理のスタートアップ企業LTU technologiesをフランスで起業し、これを米国市場でグロース。後に日本企業へ売却している。自分のことを画像処理を専門とするコンピューター科学者であるする一方、ビジネスや起業に情熱を持っている起業家と認識しているという。米著名アクセラレーターのTechstarsでは2014年からメンターも務めている。Alexは画像処理でPhDを取得しているほか、9つの特許を持つ。

ちょっと興味深いのは、Placemeterがシード調達をした2013年頃には、今とだいぶ違う方向性を模索していたこと。2013年に参加していたTechstarsのデモデイでPlacemeterは、将来人々は出かける前に天気予報を見るかのように商業施設や道路の混雑予想を見てから出かけるようになる、と言ってWazeに似たアプリとビジネスモデルを構想していたようだ。

経験を積んだ連続起業家でも「ピボット」と呼ばれる軌道修正をしながらプロダクト・マーケットフィットを模索していることが分かる話だと思う。Alexには、技術シーズと起業家マインドを持つ人たちが持つべき柔軟さやビズデブの重要性についても語ってもらえたらと考えている。ちなみに、これまでPlacemeterは4回のラウンドで784万ドル(約8.3億円)を資金調達している。

TC Tokyoバトル卒業の起業家たちが、再び17、18日に渋谷ヒカリエにやってくる

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17日、18日に迫ったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」だが、この年次イベントは今年で6回目となる。毎年プロダクトをローンチしたばかりか、TechCrunch Tokyoの場でプロダクトをローンチするスタートアップ企業が多数登壇するので、すでに「TCバトル卒業生」は82社。TechCrunch Japanで把握しているだけで5社のエグジットと、310億円を超える累計資金調達額となっている。

そのTechCrunch Tokyoでデビューしたスタートアップ企業たちは、どうしているのか? エグジット、閉鎖、シリーズA、シリーズBとステージはさまざまだが、多くのスタートアップは素早く、力強く、前進を続けている。新機能リリースや業務提携の発表、ユーザーベース拡大など全部をTechCrunch Japanでお伝えしきれないほどだ。

そうした驀進するスタートアップ企業の起業家たちに、再びTechCrunch Tokyoのステージに戻ってきてもらって、過去1年とか2年のアップデートをまとめてお聞きするコーナーとして「プロダクト・アップデート」という形のセッションを予定している。これまでもスタートアップバトル開始前にやっていただくことはあったのだが、今年はここを拡大して、初日、2日目とも多くの起業家にご登壇いただけることとなった。忙しいスタートアップのCEO業務の合間をぬって登壇してくれる起業家の皆さんには、プロダクトの最新情報や市場動向について語っていただこうと考えている。

登壇予定の起業家は、

・クラウド会計「Freee」の佐々木大輔氏
・UI/UX改善プラットフォーム「Kaizen Platform」の須藤憲司氏
・最速で覚えられる英単語アプリ「mikan」の宇佐美峻氏
・スマートロック「Akerun」を提供するPhotosynthの河瀬航大氏
・労務クラウド「SmartHR」の宮田昇始氏
・スマホ証券「One Tap BUY」の林和人氏
・ウェアラブル・トランシーバー「BONX」の宮坂貴大氏
・ロボアドバイザー「WealthNavi」の柴山和久氏
・回路を印刷するプリンテッド・エレクトロニクス「AgIC」の清水信哉氏
・家計簿・会計クラウド「Money Forward」の瀧俊雄氏

の10名だ。各分野のトレンドにキャッチアップする意味でも、ぜひ会場に足を運んで彼らの生の声に触れていただければと思う。

TechCrunch Tokyo、展示ブースとミニセッションステージ「TC Lounge」のご紹介

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年に1回開催しているスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」がいよいよ来週に迫っている。ここ数週間でプログラムの案内をしてきたが、この記事ではメインセッションが行われるホールAの隣、ホールBの「TC Lounge」についてご紹介したい。

渋谷ヒカリエ9階の会場入口を入って正面にあるのがホールAだ。ここでは午前9時よりメインのセッションを行う。ホールBは入口を左に進み、展示ブースが並ぶ通路の少し先にある会場だ。

TechCrunch Tokyo 2016会場案内図

TechCrunch Tokyo 2016会場案内図

今年はこの会場を「TC Lounge」と名付け、今年のスタートアップバトルのファイナリストの展示スペースとした。スタートアップバトルを見て気になるプロダクトやサービスを見つけたのなら、ぜひ「TC Lounge」まで足を運んでチェックしてみてほしい。

また「TC Lounge」のホール奥には、ミニセッションを行うステージを設置している。ここではホールAで登壇したゲストを迎え、カジュアルな雰囲気のQ&Aセッションを行う予定でいる。また、バトル出場スタートアップ以外の展示ブースやVRゾーンでの出展企業を迎えたインタビューセッションも行うので立ち寄ってもらえればと思う。

TC Loungeで開催するミニセッションのスケジュールは以下の通りだ。

初日TC Lounge スケジュール(11月17日 木曜日)

13:50-14:20 展示ブース紹介
14:40-15:00 Tipatat Chennavasin氏(The Venture Reality Fund, General Partner)
16:50-17:10 Raiford Cockfield III氏(Twitch.tv APACディレクター)

2日目TC Lounge スケジュール(11月18日 金曜日)

9:50-10:10 Qasar Younis氏 (Y Combinator COO )
宮田拓弥氏(Scrum Ventures ゼネラル・パートナー)
11:30-11:50 山田進太郎氏(メルカリ、ファウンダー・CEO)
14:10-14:30 展示ブース紹介
15:00-15:20 Edward Kim氏(Gusto共同創業者・CTO)

 

TechCrunch Tokyo 2016では「TC Lounge」以外にも昨年のバトルファイナリストや創業3年未満のスタートアップ総勢60社以上が出展する予定だ。ホールAとホールBのホワイエには、最新のVR技術を体感できる「VRゾーン」も用意しているので楽しみにしてほしい。

echCrunch TokyoのVRゾーンで7つの展示、ビジネスの種を見つけよう

11月17日、18日と約1週間後に迫ったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」において、ぜひ訪れて欲しいのがVRゾーンの展示だ。

HTC Viveのデモ。何もない空間にいるように見えるが、当人はディスプレーに表j8位されている仮想世界にいる(写真は東京ゲームショウ2016の展示)

HTC Viveのデモ。何もない空間にいるように見えるが、当人は上のディスプレーに表示されている仮想世界にいる(写真は東京ゲームショウ2016の展示)

2016年といえば、「VR元年」と呼ばれている年だ。2015年にOculus Riftを手がけるOculus VRが20億ドル(2000億円)で買収された北米はもちろん、コロプラ、グリー、gumiをはじめ国内でもVR業界に積極的に投資している企業が次々と現れている。英投資銀行のDigi-Capitalによれば、いまだに投資額はクオーター単位で右肩上がりになっている。

VRの何がそんなに人々を熱狂させるのか。かぶると映像につつまれて、その中に入った気分になる。CGに触ったり、バーチャル空間を歩いたりできる──。トレンドに敏感なTechCrunch読者なら、そうした言葉を聞いたことがあるかもしれない。現在のVRが置かれた環境を、インターネットやスマートフォンの黎明期と似ていると見る向きもある。

いろいろなメディアがVRの面白さを取り上げるものの、残念ながらその本質は、いくらネットに上がっている記事を読んだり、動画を見てもまったく伝わらない。VR業界では、「百見は一体験にしかず」という言葉がある。その価値を知るためには自分でかぶって体験するしかないのだ。

TechCrunch Tokyo 2016では、VRゾーンを特設して7つの展示を行う予定だ。ぜひ現地で体験してみて、ビジネスのアイデアを得てほしい。

VRゾーン出展社(順不同)
*1日3回、整理券を発行予定です

ドスパラ(株式会社サードウェーブデジノス)
HTC Viveを使ったグリーンバック合成のデモを展示予定。

STEEL COMBAT(株式会社コロプラ)
早期からVRコンテンツ開発に取り組むコロプラより、Oculus Rift向けVR格闘ゲームの「STEEL COMBAT」を展示。

VR CRUISE(株式会社エジェ)
横浜DeNAベイスターズをはじめ、国内で数多くの360度VRコンテンツを手がける同社。Gear VR向けに360度動画の配信プラットフォーム「VR CRUISE」を展示予定。

FOVE 0(FOVE, Inc.)
独自の視線追従機能を備えたVRヘッドマウントディスプレーを展示。3種類のコンテンツを体験できる。

IDEALENS K2(株式会社クリーク・アンド・リバー社)
ケーブルなしで、すぐにVRを体験できるという一体型VRヘッドマウントディスプレー「IDEALENS K2」を展示。

InstaVR(InstaVR株式会社)
不動産の下見や観光案内などに使えるVRアプリ作成クラウドツール。3500社の採用実績あり。

HoloEyes(HoloEyes株式会社)
医療画像データを活用して、人間の体をVR空間で見てコミュニケーションできるというツールを開発。

大型新ファンドの組成、エンジェルの活躍、セレブ投資の加速——投資環境の変化をTechCrunch Tokyoで学ぶ

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いよいよ開催まで1週間弱となったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」だが、まだご紹介できていなかったセッションをここで紹介しよう。

1日目、11月17日の午後には、「変化するスタートアップ投資、その最新動向」と題したパネルディスカッションが開催される。スタートアップ企業の動きが活発になるのと同時に、ベンチャーキャピタルによる投資も増えてきたのがここ数年のスタートアップエコシステムのトレンドだった。だが最近ではそのトレンドにも変化が起きているという。

1つ例を挙げるならば、国内のスタートアップ投資額は増加しているのに、一方で資金調達を実施している企業数は減少している。つまり「集まるところには集まっている」が、資金を集められないスタートアップには厳しい状況になりつつあるということ。ジャパンベンチャーリサーチが9月に発表したところによると、2016年上半期の資金調達額は928億円で、これは2015年の約56%。今後順調に推移すれば2015年を上回る予想だ。だが一方で、資金調達を行った企業数は2014年1071社、2015年946社と減少傾向。2016年上半期は、調達金額不明なものを含めても373社(調達金額判明のみは275社)なのだそうだ。

ほかにも独立系VC、金融系VC、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)に加えて、大学系VCも大きなファンドを組成しており、成長に時間のかかる技術系スタートアップにもVCマネーが回り始めた。さらにはここ数年でイグジットした起業家が、エンジェル投資家としてスタートアップに対して投資を積極的に行うようにもなっている。このセッションでは、そういったスタートアップ投資の変化やトレンドについて、3人の登壇者から話を伺う予定だ。

インキュベイトファンド 代表パートナーの村田祐介氏は、ベンチャーキャピタリストとして投資を行う傍ら、業界の調査を実施しており、JVCA(一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会)などを通じてそのレポートを発表している。またコーチ・ユナイテッド ファウンダーの有安伸宏氏は、自社をクックパッドに売却して以降、エンジェル投資家として積極的に投資を進めている。2人には日本のスタートアップ投資をそれぞれの立場から語ってもらう予定だ。

さらにKSK Angel Fund パートナーの中西武士氏も登壇する。KSK Angel Fundは日本代表でもあるプロサッカー選手・本田圭佑氏が手がけるファンドで、中西氏はそのパートナーとして活躍している(と同時に、Honda Estilo USAでサッカースクールビジネスを展開している)人物だ。海外ではセレブリティによる投資が盛んだがその実情、そしてなによりも、本田氏が投資活動をはじめた思いなどを聞いていきたいと思う。

TC TokyoでJubliaを使ってコミュニティーに参加してみよう!

毎年恒例のスタートアップ関連イベント「TechCrunch Tokyo 2016」が11月17日、18日に迫った。プログラムはすでに大部分を公開しているが、こうしたイベントに参加する価値というのはプログラムから見える「コンテンツ」だけにあるのではない。コンテンツのほかにも「コミュニティー」という面がある。コミュニティーは「交流」と言い換えてもいい。

ステージ上にはテクノロジービジネスの最先端を切り開いている起業家や投資家が多く登壇する。その生の言葉に触れて、彼らが話すトレンドやビジネスの未来予想図を吸収するというのがコンテンツ。会場にはVRゾーンも含めて多くのスタートアップ企業による展示があるので、ビジネスや投資のシードを見つけるという意味でもコンテンツ的な価値があるだろう。

一方、TechCrunch Tokyoのようなイベントは、発表スライドを見て勉強するというセミナー形式のイベントとは違って、そこに来ている人たちと交流することにも価値がある。われわれのイベントがきっかけでチームを作って起業したとか、投資が決まったという話を聞く機会がますます増えている。毎年イベント終了後には「あの人を紹介してほしい」「あのスタートアップに繋いでほしい」という依頼がTechCrunch Japan編集部に数多く届いている。

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交流の価値をもっと提供したいということから、今年はイベント交流プラットフォームの「Jublia」(ジュブリア)を導入している。すでにチケットをご購入いただいた方はお気づきと思うが、先週あたりからJubliaからの招待メールが届いているはずだ。メールの招待に従ってJublia上でアカウントをアクティベートすると、ほかの参加者がズラッと表示される。

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イベント当日は人が多くて誰がどこにいるかが分からなかったり、展示スペースに常時目当ての人がいると限らず会えなかったりということが起こる。Jubliaを使えば、事前に会いたい人とアポを取ることができる。

ちょっと話を聞いてみたい人や企業があったら、すぐにJublia上でメッセを送って会場の指定エリア(Jubliaミーティングスポット:テーブルが6つある)で指定時刻に落ち合える。各ミーティングスポットのタイムスロットは1回15分だ。ミーティングのアポは「申し込む→受諾する」と双方の合意があって初めて成立するものなので、遠慮せずに申し込むのが良いと思う。扉というのは叩く人には開かれるものだ。

Jublia導入はTechCrunch Tokyoでは初めての試みで、どこまで意味のある出会いが生まれるかは未知数なところはある。ただ、先日ぼくは別のイベントでJubliaを使ってみたのだけど、印象はとても良かったので少しお伝えしたい。そのイベントというのは8月末にイベントレジスト主催で虎ノ門ヒルズで開催された「BACKSTAGE」というイベントだ。このイベントは「イベントを主催・運営する人」向けのイベント。ぼくとしては「イベント向けサービスやプロダクトを提供する人」と事前に3件ほどアポを取って会場の立ち話で概要を聞けたのは収穫だった。今年のTechCrunch Tokyoへの導入には至らなかったものの、イベントアプリ製作を手がけるスタートアップ企業や、イベントでのライブ配信のプロなどに詳しい話が聞けたりしたのだった。

TechCrunch Tokyoに来る人は多様だ。いわゆる「スタートアップ業界」のど真ん中の人たちばかりでなくて、スタートアップのエコシステムに興味・関心を寄せている大企業やプロフェッショナルの人も少なくない。探している機会(投資・資金調達や提携、採用・転職、法務・財務・ITなどのサービス提供)に応じて職種や企業規模などでフィルタリングしてミーティング相手を探すことができる。ぜひ、ご活用いただければと思う。なお、Jubliaを使ったマッチングサービスはイベント会期中も使えるが、現地ではバタバタしていてあまりうまく機能しないそうだ。だから、ぜひ事前にアポを取っておいてほしい。

前売りチケットの販売期間は今週11月4日金曜日までとなっている。一般チケットが3万5000円(税込)のところ前売りチケットは2万5000円とお安くなっているので、もしまだ検討中だったという人がいたら、急ぎご登録いただければと思う。

起業家を待つのは華やかな話題だけではない——TC Tokyoで聞く「スタートアップの光と影」

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開催まで3週間を切ったスタートアップの祭典「TechCrunch Tokyo 2016」。プログラムも公開したが、まだ紹介できていなかったセッションについてここでご紹介しよう。

11月18日午後に予定されているのは、国内有力ベンチャーキャピタリストの2人に登壇いただくパネルディスカッション「投資家から見たスタートアップの『光と影』」だ。

TechCrunchを含め、オンラインメディアで目にするスタートアップのニュースは、「IPOやM&Aといったイグジットをした」「新しいサービスが登場して、こんな課題を解決してくれる」「資金を調達して、今後の成長に向けてアクセルを踏んだ」といった基本的にポジティブなものが中心だ。

だが華やかにも見えるスタートアップの裏側は、実に泥臭い努力の積み重ねで成り立っていたりする。いや、努力したところでうまくいかないケースだって多い。

起業家は企画を練り、チームをまとめ、プロダクトを立ち上げる。さらに資金が足りなければ投資家を探すし、プロダクトをより大きく育て、最終的に買収や上場を目指すことになる。この1つ1つのステップには、数多くの選択や交渉が必要とされている。例えばチームを集めれば株式の取り分や方向性で揉めることもあるし、資金を集める際には投資家との激しい交渉が待っている。時には起業家におかしな条件を提示する「自称投資家」「自称コンサルタント」だってやってくるとも聞く。M&Aによるイグジットまでたどり着いたとしても、買収先との折り合いの付けどころを調整することにだって苦労が伴う。それぞれの局面での困難さに起業家は立ち止まりそうになる、いや立ち止まってしまうことだって少なくないのだ。

このセッションでは、そんな普段メディアでは触れられない、スタートアップの「影」の部分について触れていければと思う。ただし勘違いして欲しくないのは、何もゴシップめいたことを発信していきたいわけではない。起業家の成功と失敗、その両面を見てきたベンチャーキャピタリストの生々しい経験から、成長途中にある落とし穴に落ちないよう、「○○すべき」「○○すべからず」というヒントをもらいたいと思っている。

本セッションに登壇頂くのは、グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナーでChief Operating Officerの今野穣氏、iSGSインベストメントワークス代表取締役で代表パートナーの五嶋一人氏の2人。いずれも投資経験豊富なベンチャーキャピタリストだ。チケットの購入はこちらから。

2度エグジットで3社目がユニコーンに、YC卒業生でGusto共同創業者がTC Tokyoに登壇

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11月17日、18日に迫ったTechCrunch Tokyo 2016の登壇者をまた1人お知らせしたい。給与支払い業務を始めとするクラウドベースの人事サービス「Gusto」の共同創業者でCTOのEdward Kim(エドワード・キム)氏だ。Gustoは2011年創業で2015年12月には10億ドル(約1044億円)のバリュエーションで5000万ドル(52億円)を調達しているユニコーン企業だ。

ドリルで腕に穴を開ける大怪我からピボット

エドワードはC向け、開発者向けと2つのスタートアップ創業し、それぞれ売却。いまは3社目で、もっとも大きな成功を収めつつある。ぼくがエドワードに初めて会ったのは2010年5月のことで、Y Combinatorに受け入れられた彼の最初のスタートアップであるPicwingに取り組む若き起業家だった頃だ。

2008年創業のPicwingはWiFiデジタルフォトフレームを製造・販売するという本当にガレージから始まったスタートアップ企業だった。2008年というのは経済環境が悪くて資金調達はうまくいかないし、フォトフレームも売れないしとツラい時期を過ごしたという。1台また1台とWiFiフォトフレームをガレージで組み立てているとき、エドワードは工作機械のドリルを落っことして腕に穴を開けてしまう。救急病院に運ばれて何針も縫う手術を受けた。精神的ダメージとともに、もうこのアイデアはダメだと悟って「ピボット」したのだという。

実は2010年にぼくがエドワードに話を聞いた頃というのは、シリコンバレーで「ピボット」という言葉が盛んに言われるようになった時期だった。ピボットというのはご存じの通り、軸足は同じ事業領域にとどめたまま、異なるサービスやビジネスモデルに変えることだ。結局、Picwingはクラウド上の写真を紙にプリントして、ちゃんちゃんと毎月送るというサービスにピボット。孫の写真を祖父母に送る忙しい働き盛りの層がターゲットだったが、これがヒット。2011年には100万ドル弱で事業を売却したという。

Picwingの次に2011年にエドワードが創業したHandsetCloudは、Android開発者向けのアプリテストサービスだった。クラウド上で複数のAndroid実機を使ったテストができるサービスだ。今ではGoogleやAmazonを含めて、類似サービスはたくさん出ているが、2011年としては新しいものだった。自分自身が開発者だったから出てきたサービスといえる。HandsetCloudは200〜300万ドルのレンジで買収された。

Gustoは、もともとZenPayrollという社名だった。アメリカには個人経営のスモールビジネスがたくさんあって、そこでの給与支払い業務は旧態依然としている。これをウェブでやる、というのがZenPayrollだった。B向けSaaSの王道とも言えるZenPayrollは、やがて休暇申請や401K、保険業務なども取り込みサービスを拡大。それにともなって社名・サービス名をGustoに変更している。

Why not me? (オレにだって)という効果

連続起業家としてのエドワードは、C向け、D向け、B向けと3種のスタートアップ創業に関わって、どれも成功を収めてきている。自分でコードも書けばハードウェアも自作するハッカーで、いまもGustoでRubyのDSL(目的に合わせてプログラミング言語に語彙を定義して「方言」のようなサブセットを作る手法)を使って州ごとに大きく異なる税法の違いを抽象化したことがビジネスを一気に加速するキモだったと語ったりしている。

そんなエドワードは、もともとスタンフォード卒業後にはフォルクスワーゲンの研究所でエンジニアをしていた。それが2007年のあるとき、Y Combinatorの主催するStartup Schoolに参加したことをキッカケに「オレにもできるかも?」と考えるようになったのが起業のキッカケだったという。

edward「2007年ってさ、数億円から十数億円でスタートアップ企業が買収されたというニュースがTechCrunchに飛び交うようになった時期なんだだよね。希薄化とか持分とかって話もあるけど、それでも創業者が手にするお金って数億円でしょ? 23歳にしてみたら、それって聞いたことのない大金だった。だから、そういうのを見て、ぼくも『Why not me?』って思ったんだよね」(エドワード・キム氏)

ぼくは2009年から2010年ごろにDropbox、Airbox、Cloudkick、Disqus、Justin.tv、Weebly、Zencoder、ZenCoder、ZumoDriveといったY Combinatorに参加しているスタートアップの創業者たちにインタビューしているが、多くの創業者が「オレ(わたし)にもできるかも?」(why not me?)と思った瞬間があったと話していた。シリコンバレーのスタートアップ・アクセラレーターブームの初期には、そうした空気があったという。Dropbox創業者のドリュー・ハウストン氏も、同じ大学の同期生がXobniというスタートアップ企業をYahooに6000万ドル(約63億円)で売却したのを目の当たりにして、なんだオレにだってと思ったとぼくに教えてくれたりしたのだった。

実はいま東京で2007年当時のシリコンバレーで起こっていたことが少し起こりつつあるのではないかという気がしている。日本のスタートアップ関係者は無用な妬みを嫌ってあまり語らないが、数億円や数十億円を手にするエグジットを果たしたネット系起業家は、日本にもどんどん増えている。起業家だけじゃない。隣に座っていたエンジニアが聞いたことのないスタートアップ企業に転職したと思ったらストック・オプションで数億円を手にしてエンジェル投資を始めていた、というような事例はまだまだ増えると思う。

もともとの才能や取り組みの粘り、運の強さなど、確かに成功している人にはそれなりに理由がある。でも、全員が全員、最初から超サイヤ人というわけではない。

TechCrunch Tokyo 2016の2日目、11月18日に登壇してくれるエドワードには、過去10年ほどのシリコンバレーのスタートアップブームの実際のところを、内側から経験した視点で語ってもらいたいと考えている。TechCrunch Tokyoには成功している日本人起業家も多数登壇する(ちなみに、起業に失敗したときに何が起こるのかという割と生々しいパネル・セッションも用意している)。だから来場者の何パーセントかの人が、why not me? という気持ちになってくれるのを、ぼくは密かに期待していたりする。

「機械学習+クラウドソーシング」(人間)のDefinedCrowd創業者がTechCrunch Tokyoに登壇

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11月17日、18日に渋谷・ヒカリエで開催するTechCrunch Tokyo 2016への登壇者を、また1人ご紹介したい。「機械学習+クラウドソーシング」というシアトル拠点のスタートアップ企業DefinedCrowdの共同創業者でCEOのDaniela Braga(ダニエラ・ブラガ)博士だ。

ソフトウェアに関わる人であれば「ガーベージ・イン、ガーベージ・アウト」(ゴミを入れたら、ゴミしか出てこない)という冗談のような警句をご存じかもしれない。コンピューターは手順に従って正確に処理するだけなので、どんなに賢いプログラムであっても入力データがゴミだと、そこから得られる結果や知見もまたゴミにすぎないということだ。データ量が増えたことで機械学習を含むデータサイエンスの適用分野が広がっているが、まずゴミでないデータをどう集めるのかというのも課題だ。

こうした問題意識からスタートしているのがシアトルベースのスタートアップ企業、DefinedCrowdだ。

例えば多くのテキストデータに対して意味的な注釈をつけるような処理だとか、画像や動画にタグを付ける処理、音声データとテキストデータの適合性チェックといった、まだまだ人間がやったほうが正確な処理だけをクラウドソース上の協力者を使って処理することができる。ちょうどAmazon Mechanical Turkがコンピューターの処理フローの中に人間のマイクロタスクを挟めるようにしたのと同じで、DefinedCrowdはクラウドソーシングをデータ処理の一部に組み込んで結びつけようとしている。

もし今後モバイルアプリにおいてVUI(音声UI)やチャットUIが広く使われていくことになるのだとしたら、これは興味深い狙いだ。デバイスに向かって人間が話す言葉を理解したり、何らかの洞察を得るという市場に広がりが感じられるからだ。

DefinedCrowdはまだ出来たてのスタートアップだが、この9月にはSony Innovation Fund、Amazon Alexa Fund、Microsoft Accelerator Seattleなどから合計110万ドル(約1.1億円)の資金調達をしている。ブラガ博士は音声合成で博士号を取得した音声関連技術の専門家で、MicrosoftではWindows 10向けのCortanaの基本技術を構築した人物だ。

TechCrunch読者なら説明不要かもしれないが、Amazon Alexaというのは声でAmazonの注文をしたり音楽をかけたりできる、あの日本未発売の黒いタワー型のスピーカー「Amazon Echo」に搭載されている音声エージェントの名前だ。米Amazonは約100億円を投じて、この音声エージェントの可能性を広げるスタートアップ企業への投資を2015年に開始している。DefinedCrowdは、Alexa Fundのポートフォリオ企業の1社だから、ブラガ博士はCortanaやAlexaといった音声系サービスが開こうとしている未来について語るのには最適の人物だと思う。自然言語処理や機械学習、音声関連技術の現在と、今後の見通しについて語っていただければと考えている。

ブラガ博士のセッションは、ちょっと遅めの時間、11月17日木曜日の18時開始を予定している。なお、割引適用の前売りチケット販売は10月末いっぱいで終了となるので、来場を検討していた人は月が変わる前に購入いただければと思う。

1000億円の巨額エグジット、TechCrunch TokyoでTwitchにライブ動画の未来を聞く

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Twitch.tvからAPACディレクターのRaiford Cockfield III(レイフォールド・コックフィールド)氏がTechCrunch Tokyo 2016に登壇することが決定したのでお知らせしたい。

たとえあなたがゲーマーでなくても、今やゲーム動画がオンライン動画における一大ジャンルとなっていることに違和感を覚えたりはしないことだろう。超絶技巧のプレイ動画をシェアしたり、面白おかしいコメンタリーを付けながらプレイ中の動画をストリーミングでシェアするコミュニティーは世界中で大きく成長している。

でも、「誰かがゲームをやるのを動画でみる」というアイデアを2011年に聞いて、もしあなたが投資家だったとして投資しただろうか? あるいはストリーミング動画サービスを提供するという2007年のスタートアップ企業なら?

2014年8月にAmazonに9億6000万円(約1000億円)という巨額で買収されたTwitch.tvこそ、その会社だ。いまや月間1億人の視聴者が毎日106分もの時間を過ごすオンラインのゲーミング動画コミュニティーとなっていて、ゲームのライブ配信を行う人も月間100万人にものぼるという。

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Twitch.tvは2007年にスタートしたJustin.tvが発端となっている。当初は共同創業者のJustin Kanが日常を垂れ流すという話題性で局所的に注目されたが、本当に大きくサービスが伸び始めたのは2011年にゲームカテゴリーだけを切り出してTwitch.tvとしたところからだ。

自分たちは本当に何を見たいだろうか? 実際に何を見ているだろうか? そう自問していて、自分たちの世代は誰しもゲームをやって育ってきたのだという気づきがあった。Justin.tvからTwitch.tvへのピボットを、彼らはそんな風に振り返っている。そのTwitch.tvからAPACディレクターのRaiford Cockfield III(レイフォールド・コックフィールド)氏がTechCrunch Tokyo 2016にやってくる。レイには、Twitch.tvの歴史を振り返りつつ日本を含むアジアにおけるゲーム市場やストリーミング市場の現在、そして今後のTwitchの展開などについてお話いただこうと考えている。

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Kantan Games代表のSerkan Toto(セルカン・トト)氏

レイ氏に話を聞くのは、元TechCrunchのライターで、日本のゲーム産業のコンサルタントとして活躍しているKantan GamesのSerkan Toto(セルカン・トト)氏だ。かつてセルカンは良く本家アメリカのTechCrunchに日本のゲーム業界の動向について寄稿してくれていた人物。いまもヘビーなゲーマーで、ガチのTwitchユーザーでもあることから「Twitchには聞きたいことは山ほどある」と話している。

オンラインゲーミング動画という意味でも、コミュニティーという意味でも、それからeSportsという文脈でも注目プラットフォームであるTwitch。ケビンとセルカンの登壇するセッションは、TechCrunch Tokyo 2016初日11月17日の15時開始を予定している。