Oculus VRに視線追跡機能を付加したようなヘッドマウントディスプレイ「FOVE」(フォーブ)が、2015年夏の開発者向けキット発売に向けた準備を進めている。7月16日には日本企業としては初めてとなるMicrosoft Ventures Londonアクセラレータープログラムに採択され、ゲーム領域でのXBox事業との連携を視野に開発を進めるという。「熱量の高いハイエンドゲーマーをターゲットにしたい」といい、来年の年明けをめどにKickstarterでの資金調達を予定。現在はエンジェル投資家と東京大学の産学連携施設「Intellectual Backyard」からプロトタイプが作れる程度の数千万円の資金を調達して開発を進めている。
FOVEを創業したCEOの小島由香さんに話を聞いたところ、「自分たちがゲーマーなので、自分が使いたいものを作っている」と言っていて、主要なターゲット市場はゲーム。それに並んで医療関係の応用も模索しているという。
Oculus VRをかぶってみたことがある人なら分かると思うが、非常にシンプルなデバイスにも関わらず高い没入感を味わえる。周囲を見回すと、そこに世界が存在しているかのように映像が映し出される。FOVEは、こうしたOculus VRのようなVR機能に加えて、視線追跡機能を追加。頬骨の辺り、斜め下45度から赤外線を眼球に照射して利用者が見ている視線のアングルを検知する。目の動きを読み取ることで、ゲームなど3次元空間におけるポインティング・デバイスとして機能させることができるという。シューティングゲームであれば射撃の照準合わせとしての応用がある。
「ユーザーがどこを見ているか」を検知できることで、たとえば奥行きのあるFPSゲームのシーンで手前のオブジェクトを見ているのか、奥のオブジェクトを見ているのかが判別可能となる。左右の視差を計測することで焦点距離を読み取れる。ポインティングに加え、人間の「焦点」が合っていない部分、たとえば背景の映像をぼかすことで、従来以上の没入感を実現できるという。
これまでの3次元ゲームではマウスを使った操作が主で、これは3次元空間を球面に投射した2次元平面をポイントするには有効であるものの、奥行きが分からないという問題があった。「自分がマウスを持って世界に入ったと想像すると、これは非常に難しい」(小島CEO)。マウスは2次元のGUIの操作のために考案されたものだから当然だ。FOVEをマウスと併用することで、照準合わせのスポードと精度が格段に上がるのだという。
FOVEプロトタイプを試用させてもらったけれど、確かにOculus VRとは違った世界観があるように感じた。ぼくが試したデモは、仮想世界の森に佇むで女性と目が合うと微笑み返して来るというもの。首だけ向けて目をそらすと微笑んでくれない。やや遅延と精度が気になったが、キャリブレーションがうまく行けば精度は良く、そういえば画面内のキャラと「目を合わせる」という感覚は、これまで1度も味わったことがないなと思った。FOVE CEOの小島さんに聞けば、こうした仕組みを使った自閉症患者の治療という応用もあるそうで、福祉関係者と話を始めているという。医療福祉領域への展開では他にも、手が不自由な障害者向けに目でコンピューターの操作できる装置の開発も、筑波大学附属桐が丘特別支援学校の協力を得て進めているという。キーボードを視線で叩くデモを見せてもらったが、すでに十分実用レベルに見えた。
ちなみに現在の精度は立体角12度程度で、これは3度ぐらいまで上げられるだろうと共同創業者でCTOのロックラン・ウィルソン氏は話している。黒目を見るか白目を見るか、眼球から反射した光を見るかどうかなどは、人種(眼の色)によって有効なアプローチも違っていて、現在最適解を模索中だそう。
ロンドンのMicrosoftのアクセラレータープログラムに採択されたことは、XBoxのゲームでの応用があり得ることを示唆している。PCにはOculusがあり、ソニーにはProject Morpheusがあるが、XBox向けHMDはシアトルでの開発の噂が漏れ聞こえてくる程度。ゲームで奥行きという軸が加わるとしても、ゲーム側が対応してくれないと意味がないが、もしXBoxとの協業があるのであれば、コンテンツのエコシステムの面での展開もあり得そうだ。また、FOVEはPCゲームやコンソールだけでなく、アーケードゲームにおける大手ゲーム会社との協業も模索中という。
販売価格は既存のHMDと同程度を見込む。2014年現在、Oculusの登場で幕を開けた感のあるHMD市場は2018年に2400万台規模の市場になると見ているそうで、HMDユーザーの5〜15%に相当するハイエンドゲーマー向けをターゲットとしていくという。
FOVEは2014年5月法人設立。小島さんはソニー・コンピューター・エンターテイメントで、サルゲッチュやトロ、グリーでは探検ドリランドのユニットリーダーなどを担当するなど、ゲームディレクターとしての道を歩んできた。共同創業者でロックラン・ウィルソンCTOは、日本語のうまいオーストラリア出身のエンジニアで、空港の監視カメラの顔認識モジュールの開発などを経験。画像処理を研究してきたという。