EUの新たな規制がフィンテックの繁栄につながるかもしれない

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【編集部注】執筆者のDennis Mitznerは、Tel Aviv在住でスタートアップやテクノロジートレンドを専門とするライター。

EUの金融市場に対する規制強化の動きは、グローバルに活動するフィンテック企業に新たなチャンスをもたらせた。というのも彼らは、28カ国から構成され、高収益が期待されるEU市場に入り込むため、共通基準の導入を待っていたのだ。過剰規制が経済の成長を抑制してしまう一方、消費者の信頼が必要なフィンテック業界は、規制フレームワークがきちんと定められることで多くを得ることができる。

「フィンテックスタートアップは、製品やマーケティング戦略のほかにも、とても明確な規制対応やコンプライアンスに関する戦略が必要になってきます。透明性の高さやデータインテグリティを支えに、データ駆動型のビジネスを開発しているフィンテック企業は、新しい規制環境から利益を享受することができるでしょう」とストックホルムを拠点とする投資会社、NorthzoneのMarta Sjögrenは語る。

ある地域でビジネスを行うために規制機関から認可を得る必要があるなど、各種の規制は企業にとって参入障壁となることが多い。事業拡大を目指すスタートアップにとっても、コンプライアンスは避けられない問題であり、特に金融システムはリスクを嫌う傾向にある。

「結果的に、フィンテック企業のファウンダーは規制機関と協力しなければならず、さらには回答までの長い期間を考慮に入れ、この長期戦に付き合いつつ成長の手助けをしてくれるような戦略的パートナーをみつける必要があります。フィンテックは短距離走ではなくマラソンのようなビジネスなんです」とFuture Asia VenturesのファウンダーであるFalguni Desaiは、最近の白書の中に書いている。

明確な規制環境を構築するまでにかかる長い期間や、フィンテックスタートアップ、銀行、規制機関の3者間でのやりとりは、消費者にとって安全な環境をつくりだすためにあるのだ。

さらに、融通の利かないことが多い銀行とは対照的に、柔軟なフィンテック企業が提供する価値全体が、より良い金融商品をより安く、より効率的に顧客へ届けることにかかっている。そして、もしもフィンテック企業が旧来の金融サービスを代替しようとしているのであれば、消費者の信頼を勝ち取らなければならない。規制機関の役割はここで必要になるのだ。

「結局のところ、規制対応の目的は消費者の保護と共に、企業と消費者が信頼関係を築いていくことにあります。以前は、銀行がその役割を全て担っていましたが、これからは状況が変わってくるかもしれません」とSjögrenは言う。

近年、EUは新たな規制を多数導入しており、モバイル・インターネット決済基準(PSD2)や銀行の自己資本比率やストレステストに関する任意の規制フレームワーク(バーゼルIII)をはじめ、反マネーロンダリング指令(AMLD)、EU域内でのユーロ電子決済処理方法の標準化イニシアティブ(SEPA)、統一的投資規制(MiFID II)、EU全体での統一的保険規制体制(Solvency II)、会計基準(IFRS)のほかにも、そろそろ施行が予定されている電子請求書指令では、28加盟国に対して2018年11月27日までに、企業と政府・自治体間で行われる取引(B2G)では規定の基準に沿った電子請求書を利用するよう求めている。

もしもフィンテック企業が旧来の金融サービスを代替しようとしているのであれば、消費者の信頼を勝ち取らなければならない。

現時点でのヨーロッパの電子請求書利用率は24%で、2024年までにはこの数字が95%まで増加することが予想されている。その結果、企業は1年あたり全体で約645億ユーロ(720億ドル)の経費を削減できるようになる。

経費削減もさることながら、2008年の金融危機が近年の規制強化に直接の影響を与えている。特にフィンテック企業のような新たなプレイヤーにとって、コンプライアンスは事業継続に欠かせないものであるため、新しい規制環境は天の恵みのようなものだ。

「2008年の金融危機の結果、ヨーロッパ・アメリカの両地域で規制機関が積極的な活動を行っており、新たなプレイヤーにとってのチャンスが生まれていますが、コンプライアンスは絶対的に必要なものです」とSjögrenは話す。なお、彼女の勤めるNorthzoneは、ヘルシンキを拠点とする電子請求プラットフォーム企業のZervantが行った450万ドルの投資ラウンドに最近参加していた。

Sjögrenによれば、昔から存在する金融機関が持つ何世紀分にもおよぶデータによって、静的モデルを通じて資本を守るための保守的なオペレーションモデルが確立されてきた結果、金融業界は旧来のインフラや、実際には機能していないプロセスに縛られてしまっている。これは、リスクを評価するためのリアルタイムなデータ解析とは対照的だ。

「旧来の金融機関は、経済の中心地となることで独占的な地位を獲得したのです」とSjögrenは話す。

PSD2のような規制によって、銀行は将来的に自分たちのシステムをフィンテック企業に公開しなければならず、さらにはAPI関連の規制のおかげでスタートアップは銀行と顧客を仲介する役割を担うことができるようになる。

「フィンテックはみるみるうちに、世界中で様々なビジネス間の結合組織として機能し始めています。散り散りになったシステムやプロセスがつなげ合わされることで効率性が上がるほか、迅速な金融・事業戦略を後押しする仕組みができ、全てのビジネスパートナーが恩恵を受けることができます。このおかげで、ますます競争が激化し不確実性が高まっている市場においても、各企業が経済成長に貢献しつつさらなる成功をおさめることができるようになります」とサプライチェーンファイナンス関連ソフトを開発するTauliaのCEO Cedric Bruは話す。

Zervantのような企業を含めた全てのプレイヤーにとって、新たな規制は参入障壁を下げることにつながる。例えば、電子請求書指令が成功すれば、ヨーロッパ市場が完全電子化の方向へ向かい、他のオンラインベースのソリューションが浸透しやすくなる。

「EUの電子請求書に関する指令は、請求関連分野の電子化を促進することにつながるため、私たちにとってはプラスだと考えています。私たちがコアターゲットとしているスモールビジネスは、この指令に基いて数年のうちに請求ソフトを使用しなければいけなくなります」とZervantの共同ファウンダー兼CEOのMattias Hanssonは話す。

将来の規制フレームワークがどのような形になるかについての共通見解が生まれつつある中、電子化によって、B2B、B2C、B2Gを問わず、フィンテックサービスを提供する全ての企業が活躍できる土壌が生まれようとしている。

「共通基準はビジネスの連携をスピードアップさせる力があるため極めて有益です。サイズや業界を問わず、全ての市場参加者がビジネスの連携によって利益を得ることを可能にする上で、大きな影響力を持つ関連基準やガイドラインを構築しようとしている官民パートナーシップにとっては大きなチャンスがあります」とBruは語る。

多くのフィンテック企業のファウンダーや投資家は、規制の複雑さや曖昧さに対する不安感を示しており、規制過多さえ叫ばれている一方、現在成長期にあるフィンテック業界にとっては、一握りの例外を除いて、規制は少なすぎるよりも多すぎる方がまだ良いのかもしれない。なお、規制サポートネットワークの献身的な活動のおかげで、イギリスはフィンテック界を率いるハブとして機能している。

EUのような規制機関にとっての課題は、過度な規制という官僚的な落とし穴を避け、その代わりにフィンテック企業に対してオープンで先進的なアプローチをとっていくということだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Shopify、決済用カードリーダーとPOSアプリをイギリスで近日提供開始

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Shopifyは事業者向けクレジットカードリーダー(読み取り機)とPOSアプリをイギリスでまもなくローンチする。同社のリーダーは非接触式、ICチップ、磁気テープによる決済をサポートし、店舗側はAndroid PayやApple Payなどのコンタクトレス決済と、従来のカード読み取り式決済の両方に対応できる。アプリは無料で、iPhoneまたはiPadに接続したリーダーと連動する。

Shopifyのアプリとリーダーをセットで使えば、イベントや期間限定のポップアップ・ストア、固定店舗などで幅広い支払方法に対応できるようになる。さらにShopifyのeコマース機能で、実店舗でのショッピング・エクスペリエンスをオンラインストアと結びつけることも可能だ。

Shopifyのカードリーダー本体は、今なら期間限定で20ポンド引きの59ポンドで事前予約が可能。前述のようにアプリは無料で、決済手数料は1.6パーセントから。決済ごとの基本料金はかからない。

Shopifyのプロダクト・グロース・マネージャーHailey Colemanは「イギリスはShopifyにとって2番目に大きな市場」とTechCrunchに語る。「Shopify POSアプリとカードリーダーのローンチで、スモールビジネスオーナーはカード決済をいつでもどこででも、簡単かつ安全に受付可能になります。これでイギリスの事業者にもShopifyでビジネス全体を回してもらえます」。

今回イギリスで提供開始となるShopifyのリーダーとソフトウェアがあると、小売店側にとって最新のモバイル決済技術の導入もかなり容易になる。同社のカードリーダーはコンタクトレス(非接触/NFC)決済機能を内蔵し、Android PayとApple Payにも自動的に対応する。

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(翻訳:Ayako Teranishi)

「飛び放題」を提供する航空会社Surf Airがヨーロッパに事業を拡大

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有料会員に「飛び放題」サービスを提供するトラベルサービスのスタートアップSurf Airは本日、今年の10月よりヨーロッパ内でのサービスを開始すると発表した。

具体的には、Surf Airのヨーロッパ路線は、英国ロンドン・ルートン空港と他のビジネスの中心都市であるカンヌ、ジュネーブ、チューリッヒなどを含む。

また、同社は週末にはホリデーの目的地として人気のあるイビサ島へのフライトも提供する意向で、2017年には目的地にドバイ、パリ、アムステルダム、バルセロナが加わる予定だ。

アメリカにおいて、Surf Airは都市近傍の小さな空港を使用して、ビジネスと観光で人気のある主要都市をカバーしているが、それらはロサンゼルス、サンフランシスコ、リノ(トラッキー経由)、パームスプリングズ、ナパなどだ。

会員は1000ドルの入会金を払い、国内サービスは毎月1950ドルとなっている。機体はPilatus PC-12 NG aircraftを使用、これは7人乗りのビジネスターボジェットで、キャビンのデザインはBMW DesignworksUSAが担当した。

ヨーロッパ会員の費用は入会金プラス毎月2500ユーロで、Surf Airの就航する路線内を回数無制限で乗り放題だ。会員は友人や家族のためにゲストパスを片道750ユーロで発行して貰える。

さらに同社のアプリを使えばフライトを予約することができ、空港ではバレットパーキングサービスも利用出来る。

ヨーロッパに事業を拡張することでSurf Airの競争力は増すだろう。競合相手としては、ジェット機の共同所有プログラムやチャーターサービスなどがあり、既にVista JetやNetJetsなどが名を連ねる。また、スタートアップとしてはJetSmarterなどがあり、メンバーになれば他人の所有するジェット機の空席を予約することが可能だ。

アメリカ内ではSurf AirはWheels Upなどと競合する。Wheels Upは会費を低く抑える一方で飛行時間で課金する方式を採用している。

Surf Airは2011年に設立され、これまで1876万ドルを株式ファンドで調達した。Anthem Venture Partners、Baroda Ventures、Base Ventures、NEA、ff Venture Capital、Mucker Labなどが同社に投資している。また、資金を借り入れ航空機の購入と事業拡張を行った。

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(翻訳:Tsubouchi)

地上走行配送ドローンの普及は近い―Skypeの共同ファウンダーのスタートアップが実験を拡大

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今のところ空を飛ぶドローンによる配送は現実性というより話題作りで会社をPRするのが主な目的だ。しかし車輪によって歩道をゆっくり走る自動運転ドローンはeコマースの配送手段として意外に早くわれわれの身近に姿を現しそうだ。

ロンドンに本拠を置くStarship Technologiesの共同ファウンダーにはSkypeの共同ファウンダーとして著名なAhti HeinlaとJanus Friisが含まれている。このスタートアップは今月からイギリス、ドイツ、スイスで自動運転配送ドローンの大規模な実用化テストを開始する。

Starshipの小型の車輪走行ロボットは、すでに9ヶ月前から12カ国で試験走行を行ってきた。しかし今回はこのドローンとしては初めて実際に商品を配達する実験を行う。つまり提携企業に対し、実際に配送能力を提供するものだ。世界的に料理配達ネットワークを展開するJust Ea、ロンドンのPronto.co.uk、、ドイツのリテラー、Metro Group、荷物の配送ネットワークのHermesなどがパイロット・プログラムに参加する。テストでは5都市でこれらの企業の実際の顧客にロボットが注文の品を配達する。

ドローンが最初に歩道に登場するのはロンドン、デュッセルドルフ、ベルンになる。このテストが成功すればヨーロッパとアメリカの他の都市にも運用が拡張される。Starship Technologiesのマーケティングとコミュニケーションのマネージャー、Henry Harris-BurlandはTechCrunchのインタビューに対し、「テストは6ヶ月から8ヶ月を予定している。テストの結果にもよるが、われわれは2017年にも全面的な実用化ができるものと期待している」と語った。

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テストの目標についてHarris-Burlandは「いろいろあるが、中でも公衆の反応、テクノロジーの信頼性、人間とのコミュニケーションが重要だ。また食べ物でいえば熱いもの熱く、冷たいものを冷たいまま運べるか、生鮮食品を運べるかなどもテストする」と語った。

私はHarris-Burlandにこのロボットはいたずらやバンダリズムの被害に遭う(残念ながらそういう実例がある)ことはないか、また行き会う人々を驚かせはしないか尋ねてみた。

メールで送られてき回答によると、「ロボットに対する不正な行動は実はごくまれだ。 5000マイルにおよぶテストを繰り返してきたが、これまでに第三者による妨害に遭遇したことは一度もない。しかし多数のドローンが路上を走行するようになれば、いずれは何かが起きる可能性がある。そうした妨害を予防し、対処するテクノロジーを確立することも実用化に向けたテストの目的の一つだ。ロボットには9台のカメラが装備されており、ごく近距離まで常時監視している。正常な運行に障害が生じればオペレーターに直ちに警告が発せられる。いずれにせよロボットは40万以上の人々の間で運用されてきたが、これま問題は起きていない」ということだ。

この先進的ロボットが一般人を驚かせるのではないかという質問に対して、Starship Technologiesでは「ロボットの目的(商品の配送)を広く啓蒙する」ということだ。またHarris-Burlandによれば「広汎なテストを通じてロボットと人間との付き合い方を研究していく」と語った。

「配送実験の初期の段階ではロボットは単独では運用されず、人間のオペレーターが付きそう。これにはいくつかの理由があるが、公衆の反応を観察するのもその一つだ。たとえば門口にロボットが現れたとき注文主はどういう反応を示すか? 注文主が抱くであろう疑問に対して答えるのも付き添いのオペレーターの役割だ。いずにしても世界最初のロボット配達の注文主になるのは大いにクールな経験として喜んでもらえると思う」とHarris-Burlandは付け加えた。

Starship Technologiesではロボットを社会に溶けこませるためにどうしたらよいかなどロボットの実用化にあたって見過ごされがちな点を細部にわたって検討している。こうしたロボットがオペレーターの介入の必要なしに順調かつ効率的に荷物の配送を続けられるとよいと思う。

〔日本版〕ビデオではSkypeの共同ファウンダー、アーティ・ヘインラ〔Ahti Heinla〕がサラ・バー記者にロボットの機能やテスト計画を詳しく説明している。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Brexit + fintech―英国のEU離脱でフィンテックはどうなるのか?

LONDON, UNITED KINGDOM - MARCH 17:  In this photo illustration, the European Union and the Union flag are pictured on a pin badge on March 17, 2016 in London, United Kingdom. The United Kingdom will hold a referendum on June 23, 2016 to decide whether or not to remain a member of the European Union (EU), an economic and political partnership involving 28 European countries which allows members to trade together in a single market and free movement across its borders for citizens.  (Photo by Dan Kitwood/Getty Images)

この記事の筆者はCrunch Networkのメンバー、Shefali Roy。彼女はStripeの前ヨーロッパ担当コンプライアンス、マネーロンダリング監視責任者。Stripe以前はAppleで同様の職にあり、Christie’s Worldwideで最高コンプライアンス・倫理責任者を務めた。Goldman Sachsでも同様の役割を果たした。RMIT〔メルボルン工科大学〕、オックスフォード大学、LSE〔ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス〕で学び、学位を取得。現在はオックスフォードのサイード・ビジネス・スクールのEMBA〔エグゼクティブMBA〕課程で学んでいる。

最近、英国の有権者はEUからの離脱に賛成した。それが賢明な判断であったか否かは将来の歴史に待たねばならない。当面の問題は、これによって次になにが起きるのかだ。

この離脱にともなって多数の条約が白紙化され、さまざまな影響が生じる。金融およびテクノロジーのビジネス関係者はその詳細を把握する必要がある。最終的な結果を予測する前に、まずは当面何が起きるのかを知らねばならない。

英国.は離脱にあたって、 50条を発動することになる。EUの基本条約の修正条約であるリスボン条約の50条は過去に一度しか適用されたことがない。それはEUの前身であるEEAが加盟国の脱退の手続きを定めたもので、過去には1985年にグリーンランドが〔デンマークの自治州に昇格したのを機に〕脱退した際に一度適用されたのみだ。デビッド・キャメロン首相は、辞意を表明した演説中で10月に保守党大会で選出される次期首相がEUに対して50条に基づく通告を行うことになるだろうと述べている。

しかしEU官僚は英国が50条を発動すのはそれより早くなると観測しているという報道があった。欧州議会議長のマルティン・シュルツは6月28日までに50条通告が欲しいと述べた。欧州委員会委員長のジャン=クロード・ユンケルは離脱交渉はただちに始められるべきだと語った。50条の通告がなされると英国は2年以内にEU離脱手続きを完了しなければならない。

2年というのは長い時間に思われるかもしれないが、金融ビジネス関係者はEU指令(EU directives)がいかに長期間かけて準備されているかを知っている。通常の場合それは2年よりはるかに長い。たった2年で一国が(それも英国はEU経済で2番目に大きい)まるごとEUを脱退できるとは考えられない。

しかしEUが英国に対して即刻行動に移るよう要求するのには根拠がある。さまざまな不安定さが生じて市場が混乱することを最小限に止めるためには離脱プロセスを素早く、スムーズに実行する必要がある。

50条の通告後、離脱交渉が開始される。英国は離脱後も現在保持している特権を最大限維持したいと考えるはずだ。EUという単一市場に対するアクセス、労働力の自由な移動、金融サービス規制、輸出入規則、さらにはEU政策の決定に対する発言権などだ。英国の今後の地位に関しては3つのモデルが考えられる。

  • Tノルウェイ・モデル: 英国は貿易とEU単一市場に関してメンバーと同様の特権を保持する。ノルウェイはEUには参加していないがEFTA〔European Free Trade Agreement=欧州自由貿易連合〕のメンバーだ。英国はEUのさまざまな規則を順守する代わりにEU市場へのメンバーなみアクセスの権利を保持する。ただしEUがどのような政策を採用するかについては発言権がない。
  • スイス・モデル: スイスと同様、英国はEUの事実上のメンバーという地位にはとどまらない。英国はスイスのように独自の金融サービスの規則を制定し、実行する。EU諸国とは個別に二国間協定を結ぶ。
  • 非EU諸国モデル: 英国はEUに参加していない世界中の諸国と同様の地位となる。EU市場への参入に関してはゼロからの交渉となる。簡単にいえば、英国の地位はシンガポールやペルーと変わりなくなる。

現時点ではどれが英国にとってもっとも有利な選択であるかについては議論の余地がある。また交渉者の能力による部分も大きい。ボリス・ジョンソン(あるいはマイケル・ゴーヴ)、ナイジェル・ファラージ、ジェレミー・コービンのいずれかが交渉に当たるのが英国にとって有利だろうか? コンセンサスはノーのようだ。英国のテレビは明らかにノルウェイ・モデルが英国にとって有利だとしている。しかし離脱交渉の当事者からはこのオプションは選択肢に入っていないという情報が聞こえてくる。

それが賢明な判断であったか否かは将来の歴史に待たねばならない

そういった前提はあるものの、金融、フィンテックの関係者はおおまなかにいって以下のような側面を考え、対策を練る必要がある。ちなみにこの記事でいうフィンテックとはEUの定めた電子マネー機関(EMI、eMoney Institutions)や決済サービス機関(Payment Institution、PI) に属するとしてイギリスの金融行動監視機構( Financial Conduct Authority、FAC)の規制下にあるような組織を言う。具体的なビジネス内容としては決済手続き、ピア・ツー・ピア決済、電子マネーの発行、オンライン・ウォレット、クラウドファンディング、オンライン貸付、一般的送金、FX決済、等々だ(このリストは一例にすぎない)。

人材: ロンドンは金融サービスに関してEU中の優秀な人材を集めていることで知られている。EUが単一市場であり、人の移動も自由であることから、EU諸国の人材は誰であろうと最小限の雇用上の規則さえクリアすればロンドンで働くことができる。フィンテックの急成長に伴い。金融サービスの消長を決定するのは人材の質となった。もし英国が非EU諸国モデルを採用するなら、金融分野はEUとの競争上の不利益を被るおそれがある。英国金融機関の中には業務の一部を海外に移す動きが始まっている。当然、その業務に従事する人間も移ることになる。

スキル:フィンテック・ビジネスは エンジニア、デベロッパー、サイバーセキュリティー専門家、優れたソフトウェア・ビジョナリストを奪い合い、激しく競争している。. EU離脱は、英国が5億人に近い労働力の供給源から切り離され、これにより競争力を維持し、もっと重要なことだが、最新の状態を保つことが困難になる。

投資: 投資、ことにベンチャーキャピタリストのフィンテック・スタートアップへのアクセスが著しく阻害される。これに加えて、スタートアップのプレゼンや投資を受ける機会に税制の変化がもたらす悪影響が及ぶ。スタートアップは自らのベンチャーキャピタリストよりアメリカや中国のベンチャーキャピタリストから投資を受ける方が有利になるかもしれない。

単一市場とデジタル市場へのアクセス: これも離脱交渉のテーマだが、ノルウェイ・モデルないしスイス・モデルが採用されるのでないと、英国はEU市場へ従来のような自由なアクセスを失い、イノベーションを起こすような未来志向のデジタル市場へのアクセスにも悪影響が及ぶ。たとえばインターネットを通じた支払のセキュリティー・システムであるe-KYC、また住宅に関するe-residencyや企業に関するe-corporationsなどのプログラムといった市場へのアクセスだ。

プライバシー/データ保護/セキュリティー: EUで活動するアメリカ企業にとってEUからアメリカへ大西洋を移転するデータの保護のあり方を定めたセーフハーバー協定が2015年10月に欧州司法裁判所によって無効とされたのは大きな打撃だった。新たに合意されたプライバシー・シールド(EU-U.S.
Privacy Shield)はともかく正しい方向への一歩だった。しかし新たな協定は欧州人のデータ、セキュリティー、プライバシーを十分に守れるものとなっていないとする批判がEU内に強くあった。英国は個人データとプライバシーの保護に関して新たにEUと協定を結ぶ必要があるだけでなく、アメリカとも合意しなければならない。EUで活動しようとする英国企業はEU向けのデータ保護規則に従う必要が出てくるが、同時にアメリカで活動することを望むjならアメリカ独自の規則にも従わねばならない。

規制: 現在多数のEU指令案がEU諸国間で協議されている。こうした案は諸国レベルで合意を見たうえで、EU指令として採択され、各国を拘束する。EU各国はこの指令に応じた国内法を整備して強制力を持たせることになる。これらのEU指令には、PSD2〔改訂版支払サービス指令〕、2EMD〔改訂版電子通貨指令〕、 MLD4〔第4版マネー・ローンダリング指令〕などの重要な指令が含まれ、インターネットを通じた支払と電子通貨の処理の基本を定める根本的な規則となっている。英国の離脱に伴い、指令案に関する各国の協議は今後の新しい方向が定まるまで事実上棚上げされる可能性がある。

英国のフィンテックにとって非常に重要となるのは各種サービスを「パスポート」する地位を失うという問題だ〔EU加盟国内に営業拠点を持つ企業は他のEU諸国内に営業拠点をもたなくてもEU企業として扱われ、全域で活動できる。現在ロンドンがEU域外の多数の金融サービスに「パスポート」を提供している〕。「パスポート」の失効はEU全域に活動の場を広げようとする英国フィンテック企業にとって破壊的影響をもたらす可能性がある。そこで問題は最初にもどってどの国からライセンスを得ればいいのかが重要となる。

英国のフィンテック企業は従来、金融行動監視機構〔Financial Conduct Authorit=FAC〕の規制を受けてきた。FACは先進的かつイノベーション志向であり、ビジネスに理解のある規制者だった。断固とした姿勢であると同時に現実的でもあり、EU全域に影響を与える金融上の規制の方向を決める他の国家的規制組織に対して十分な影響力があった。#Brexit後はFCAのこうしたEU全域へ権威は失われる。英国のフィンテックにとって、当面もっとも重要となるのは、EUという単一市場で活動を続けるためにはいったいどの国の規則当局の監督に服せばよいのかを決めることだ。

英国の一部のフィンテック・スタートアップはスペイン、イタリー、アイルランド、オランダからライセンスを得ようと動いている。フィンテックがすでにこれらの国で活動している、その国の法制を熟知している、などによりライセンス取得のコストが低いことがそうした国を選ぶという「倍賭け」の理由になっている。しかし他の国にも有能な規則制定者は多い。以下に述べるようないくつかの理由により、はドイツという選択がもっとも常識にかなう。

  • ドイツのBaFin〔Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht、英語名はFederal Financial Supervisory Authority=連邦金融監督庁〕は未来志向であり、効率的かつ強力な規制機関だ。
  • BaFinは昨年、フィンテックに関する多数のレポートを公刊している。Bitcoin、支払、インターネット送金手法、クラウドファンディング、フィンテックの現状などが分析されている。
  • 優秀かつ効率的な規制当局の管轄下に入ることはスタートアップにとって長期的に大きな利益となる。つまりビジネスに理解がなく有能でもない監督機関の下にあるライバルに比べて大きな競争上の優位を得られる。またユーザーは信頼できる規制機関の下にあるサービスを好む。そうした要素を考え合わせるとBaFinという選択はますます動かないものになる。
  • EU各国の規制機関はEuropean Banking Authority〔欧州銀行監督庁〕を通じてEU全域の規制を形作ることを助ける。ここでもBaFinは強力な存在だ。BaFinはEU指令にもとづいて国内法を整備する際にも諸国のリーダーとなる。この点も英国のフィンテック・スタートアップにとって有利に働く。フィンテックはBaFinの制定した規制に従うことで〔他国も同様の国内法を整備する可能性が高いので〕迅速かつ低コストの運営が可能になるだろう。
  • またこれと並行して、ドイツはテクノロジーとしても先進的な成長中かつ強力なフィンテック・ビジネスを持っている。このコミュニティは英国のフィンテック・スタートアップの参加に対して友好的だ。

EU離脱には英国にとって破滅的な悪影響をもたらす可能性のある上記のような要素が多数あるが、最終的にそれらがどういう結果をもたらすかについてはまだ多くの不明点がある。圧倒的なコンセンサスは「まだ誰にも分からない」だ。さて、何が起きるのか?

本稿で示された見解は筆者個人のものであり、筆者の所属する組織、企業の立場を反映するものではない。本稿に述べられた意見、方針等を実際の行動にあたっては採用しようとするなら、事前に専門的な法律的、税制的な助言を受けることを強く勧める。

画像: Dan Kitwood/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

さすがのノルウェイ、水産飼料企業がスタートアップコンテストで優勝

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もしも、あなたがテック業界の記者で、自分にとって大切な国であるノルウェイに出張し、ノルウェイのスタートアップシーンについて、良いニュースを持って帰ってきたいと本気で願っているとしよう。そして、あなたは他でもない、Angel Challenge開催のスタートアップコンテストの決勝戦に招待された。しかし優勝したのは、MiniProというインターネット上にもその存在が全く知られていない企業だった。MiniProの製品といえば、稚魚のベビーフード。あなたは、これから起きることを信じられないだろう。

Ingmar Høgøy, CEO of MiniPro, pitching his company (Image by Dan Taylor/Heisenberg Media)

MiniProについてピッチを行う、CEOのIngmar Høgøy氏(Image by Dan Taylor/Heisenberg Media)

他の国であれば、MiniProのピッチは冗談だと思われただろう。パロディのような会社が、何かの拍子で間違って部屋に入ってしまい、気がついたら、言語障害を持つ子どものためのアプリを開発している企業(Milla Says)や、AirBnBモデルの補完サービスとなるようなビジネスを行う企業(EasyBnB)と並んでピッチを行うことになってしまったとさえ感じる。

私はこれまで、数多くのデモデイやピッチイベントの様子を見てきたが、MiniProがステージに出てきたときには、「本気か…」と不運にも私の隣に座っていた人たちに漏らさずにはいられなかった。「魚のエサを作る会社が、スタートアップコンテストの決勝に残れるのはノルウェイだけじゃないでしょうか」という私に対して、周りの人たちはちょっと時間をおいて肩をすくめながら、「まぁノルウェイですからね」と答えた。

そしてコンテストの優勝者が発表されると、それはもちろん、MiniProだった。私は周りの人たちに同意するしかなかった。これがノルウェイなのだ。

そしてそれは実はとても大切なことだ。

20 investors each invested 50,000 NOK (approx $6k) each. Here, they're trying to decide which company to invest in (Image by Dan Taylor/Heisenberg Media)

20人の投資家が、1人あたり5万ノルウェイクローネ(およそ6000ドル)の資金を、どの企業に提供しようかと悩んでいる様子。(Image by Dan Taylor/Heisenberg Media)

ノルウェイのスタートアップシーンが賞賛に値するのは、さらなるシリコンバレーのクローン(シリコンフィヨルド?)にならないよう、意識的な決定がなされているように感じられる点だ。そして、その様子が現地スタートアップシーンのいくつかの面に反映されている。例えば、このエコシステムの中にいる多くのスタートアップは、原油やガス、海運や漁業などノルウェイが伝統的に力を持っている業界に特化している。国の長所を利用するという意味で、この傾向には納得がいく。起業家は業界のどこに課題があるか理解しており、ソリューションを考え出すのに必要なスキルも持っている。さらに、投資家が共感できるような企業の方が資金調達もしやすい。 そして当然、ノルウェイでは海運関連企業の方が、例えばUberの競合となるような国産企業よりもイグジットを想像しやすいのだ。

優勝者であるMiniProは、100万ノルウェイクローネ(およそ12万ドル)の資金を調達した。私が知る限り、MiniProは自社のウェブサイトどころか、ネット上に全く情報が掲載されていない。ノルウェイの商業登録を除いては、同社に関する情報をひとつもネット上で見つけることはできなかった。魚のエサを作っているMiniProの存在は、私が普段慣れ親しんでいるスタートアップから全くかけ離れている。前述の話に戻ると、「稚魚のベビーフード」を作っている企業を、スタートアップコンテストで優勝させるというのは、テック業界記者の私にとって頭をもたげさせる出来事だった。(もしもこの記事を読んでいるノルウェイの人がいたら、今回の出来事が、どれだけ自国を嘲笑の的にしているかというのを考えてみてほしい)

しかし同時に、MiniProの優勝が、ノルウェイはなぜこんなにも興味をそそる国であるかというのを上手く表している。客観的にどの基準で見ても、その日ステージに上がっていたスタートアップの中では、MiniProが一番だったのだ。

従来型のテック系スタートアップとは対照的な存在として認識されていても、MiniProはスタートアップとして重要な要素を備えている。強固なチーム、ターゲットとなる市場の深い理解、特許で保護された製品、はっきりしたビジョン、明解なGTM戦略、大きな成長可能性、厚い利益、明確なプロダクト/マーケットフィットなどがその要素として挙げられる。MiniProが、マーケット全体に相当する1年あたり60億ドルの売上をあげる可能性があることは否定できないし、もしもMiniProが水産業以外の業界にいたならば、同社のオフィスの周りに投資家が列を作っていても驚きではない。

そしてこれが、今回の私のノルウェイ出張の中での一番の気づきであった。ノルウェイのことを、シリコンバレーの視点から伝えようとしても意味がなく、かといってノルウェイのスタートアップシーンに明るい未来がないという訳でもない。しかし、それだけにノルウェイは今後ユニークな課題に向き合うことになるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

DOZ、半自動的にフリーランスのマーケターから見積もりを取り契約するサービスQuoterをローンチ

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DOZ の登場からしばらく経つが、同社は、マーケティングキャンペーンの見積もりを取ってローンチする自動化ツールを製品の機能に追加しようとしている。従来のマーケティング代理店に比べ、DOZの雇用プロセスはかなりの時間短縮となる。

社名を聞いてピンと来ない方に説明すると、DOZはマーケティングに長けたフリーランスワーカーのマーケットプレイスだ。コピーライティング、見込み客の囲い込み、SEO対策、ソーシャルメディア対応などを誰かに任せたい場合に、DOZのマーケターならそのすべてを提供可能だ。DOZのアプローチは、マーケティング代理店を機能に分解し、マーケットプレイスで提供するものだ。

しかし、本日に至るまで、DOZに参加してもプロセス自体は従来と変わり映えがなかった。概要を送信し、しばらく待つと見積もりが送られてきて、やり取りをすることになる。時には、発注者にマーケティングの経験がなく、マーケティングキャンペーンが適当なものであるかすら確信が持てないこともある。

Quoterを利用すると、プロジェクトの送信から見積もりを取って決定するまでが非常に短時間で行える。Quoterにはチャットインターフェイスがあり、マーケティングキャンペーンについて発注者にさまざまな質問を投げかける。自動化された応答と人間による対応により、Quoterはコストの目安を算出可能だ。

その後は、承諾することもキャンセルすることも自由であり、オファーを断る場合は一銭もかからない。承諾があると、DOZはマーケターとのオートマッチングを実行する。

現在、7000人のフリーランスマーケターがDOZのプラットフォームを利用しており、全体では5万件のマーケティングタスクを完了している。Quoterは、DOZのコア製品に大きく影響するものではないが、登録障壁は低くなるだろう。

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    詳細 – Quoter by DOZ

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    DOZで実行中のキャンペーン

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(翻訳:Nakabayashi)

Energysquareのパッドはスマートフォンを置くだけで充電できる―Kickstarterでキャンペーン中

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Energysquareは長方形の薄い充電パッドだ。これがあればもうモバイル・デバイスの充電器を探してうろうろしないですむ。 Energysquareのパッドは既存のワイヤレス充電デバイスのような誘導充電方式を採用していない。その代わりEnergysquareではパッドの表面を導電性素材とし、モバイル・デバイスの背面に充電用の金属突起を持つステッカーを貼る方式としている。

この製品は現在、Kickstarterキャンペーンを実施中だ。

私はパリで開発チームに会い、製品のプロトタイプを試してみた。メインとなるのはマウスパッド大のデバイスで、導電性の金属が貼られた25区画に分割されている。金属の表面にスマートフォンを置くというのは気が進まないが、これで充電できるならそうも言っていられない。

ユーザーはスマートフォンの裏側に専用のステッカーを貼る必要がある。ステッカーの表面には小さな金属の突起があり、USBまたはLightningコネクターが付属する。ステッカーから伸びるコネクターをデバイスの充電ソケットに挿せば準備完了だ。

自分のスマートフォンにステッカーを貼るのもあまり好きではないが、充電器から充電器へと毎日忙しくプラグの抜き差しを繰り返すのも飽き飽きしていた。Energysquareのアイディアというのは、この充電パッドを自宅の寝室のサイドテーブルと職場のデスクに置いておけば、もう充電器を探す必要がなくなるというものだ。ユーザーがパッドの上にスマートフォンを置くだけで充電がスタートする。

誘導充電方式に比べるとEnergysquareの接触充電方式はフルスピードで充電ができる。またパッドに載せられるかぎり多数のデバイスを同時に充電できる。要するにステッカー上の2つの金属突起がパッドの別の区画に接触するようにデバイスが置けさえすればよい。

もうひとつ良い点はこのステッカーが安いことだ。1枚が10ドルなので複数のデバイスに使うことも、取り換えることも簡単だ。Energysquareの充電パッドはKickstarterで65ドル(59ユーロ)で入手できる。

開発チームはこの充電パッドを公共の場所、駅や空港、レストランやバーなどに普及させたいとしている。これはなかなか野心的な計画だが、もちろんそういった場所で簡単に充電ができるなら便利であることは言うまでもない。

〔日本版〕キャンペーンのページによれば、最初の出荷は今年11月を予定している。3万ドルの目標額に対し、すでに4万8000ドル以上がプレッジされているのでプロジェクトはスタートするはず。59ドルのプレッジで充電パッドとステッカー5枚が入手できる。ビデオによればテープ状のステッカーの端が充電プラグになっており、他のプラグを挿す必要があれば簡単に外せるようだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

「タトゥー」のメインストリーム化をうけ、タトゥー版InstagramのTatoodoがアプリケーションをリリース

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タトゥー文化はますますメインストリーム化しているようだ。タトゥー関連産業は消費産業の中で6番目のはやさで成長しており、またアメリカ人の30%がタトゥーをいれているのだそうだ。そんな中でスタートしているのがTattoodoで、タトゥー関連の「デジタルハブ」を目指してサービスを提供中だ。タトゥーの写真を掲載し、コミュニティやマーケットプレイスとして機能する。すなわちタトゥー版のPinterestのようなサービスを展開しているわけだ。

コペンハーゲン発のこのTattoodoはこの2月、250万ドルの資金を調達している。出資にはAOLのJimmy Maymann(AOLのContent部門およびConsumer Brands部門のプレジデント)、Tom Ryan(Pluto TVのCEO)、Jake Nickell(ThreadlessのCEO)、Rene Rechtman(Maker StudiosのInternational President)、そのほかおおぜいのエグゼクティブたちが参加している。

このTattoodoだが、このたびiOS版およびAndroid版のアプリケーションをリリースした。手軽に数千ものタトゥーギャラリーや、Tatoo界で有名な人が発信する情報などを持ち運べるようになったわけだ。タトゥーコレクターないしタトゥーアーティストたちにはおおいに役立つに違いない。アプリケーションでフィーチャーされているのはMike Rubendall、Megan Massacre、およびHenning Jørgensenなどで、彼らの新しいデザインやファッションスタイルを見ることができる。タトゥーに興味がある人はきっとハマるのではなかろうか。

TattoodoはアントレプレナーのJohan PlengeおよびMik Thobo-Carlsenが2013年にコペンハーゲンで立ち上げたサービスだ。後に世界的に有名なタトゥーアーティストであるAmi Jamesも参加している。

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(翻訳:Maeda, H

ルーマニアは東ヨーロッパのシリコンバレーである

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編集部注:本稿を執筆したBryan Martinは、8×8の取締役兼CTOだ。

ルーマニアは長らくの間、テック企業の問い合わせセンター、ソフトフェア開発、そして研究開発のアウトソース先として重要な拠点であった。今、ルーマニアは独自の起業家カルチャーを育みつつある。

オンライン上のデータベースであるRomanian Startupsでは、国内のスタートアップを300社を掲載している。一年前の掲載数は約250社だった。このセクターにおけるインキュベーター、エンジェル投資家、ファウンダーも増えており、合計するとその数は600ほどになる。

ルーマニアのテック企業のスタートアップシーンはまだ芽が出たばかりではあるが、成長している。そして登場したばかりの、あるいはこれから登場するいくつかの企業は、ゲームチェンジャーとなりうる素質を持っている。ルーマニアにエンジニア・チームをもつVector Watchは、30日間充電不要のバッテリーを備えたスマートウォッチを開発した。Axosuitsは障がい者向けの安価な外骨格を開発したロボティクス分野のスタートアップだ。

ルーマニアにおけるテック系スタートアップ文化が小規模なのは当然だ。

また、大規模なテック企業もルーマニアが生んだ企業たちに目を光らせている。2014年、Facebookは2人のルーマニア人によって創立されたLiveRailというテック系スタートアップを買収した。2013年には、ブカレストに拠点をもつ、eコマースの各種機能を提供するAvangateがサンフランシスコのFrancisco Partnersに買収された。2012年には、ルーマニアの起業家が創立した、バンクーバー発のSummifyをTwitterが買収。そして2015年には、豊富なエンジニア人材と最先端のクオリティ管理ソフトウェアをもつQuality Software Corporationを我われが買収した。

マーケット調査のThomson Reutersのデータによると、過去3年間においてルーマニアのテック企業とテレコム企業が合計16社買収された。13社のルーマニア籍のメディア、エンターテイメント企業も同様だ。

魅力に溢れる人材

ルーマニアでのアウトソーシングは今でも魅力的だ。IntelやOracleを含む企業たちは、ルーマニアに店舗やコールセンター、ソフトウェア開発拠点、サポートサービス拠点を設置している。

彼らはルーマニアが持つチカラに惹きつけられ、同様にそれはルーマニア独自のテック業界の発展に寄与するだろう。それは以下のものだ:

人材:労働市場の調査会社であるBrainspottingのレポートによると、人口が2000万人ほどのルーマニアにおいて、ITスペシャリストの資格をもつ人数は9万5000人にのぼり、世界ランキングのトップ10入りを果たしている。その半数がソフトフェア開発者だ。そして、ルーマニアのITプロフェッショナルの約9割が英語を使いこなす。ルーマニアのAssociation of SoftwareとIT Servicesは、IT分野の国内労働人口が2020年までに3倍になると予測している。

教育へのフォーカス:ルーマニアの大学はIEEE Design Competitionの上位3校に2001年から毎年ランクインしている。さらにBrainspottingの2014年度版のレポートによると、国際情報オリンピックと数学オリンピックのルーマニア人メダリストの数はロシアと中国に次ぐ第3位で、ヨーロッパの国々の中では最も多い。

経済トレンド:世界銀行によると、過去20年間ルーマニアは常にEU諸国の中でも最も高い経済成長率をもち、パフォーマンスも高い国の一つである。インターネット速度のランキングでも高い順位を保ち続けている。若者に起業家スキルを教育する非営利団体のJunior Achivement Romaniaは、高等学校でアントレプレナーシップを教える授業が一般化しているという。

テクノロジーにフォーカスする

ルーマニアにおけるテック系スタートアップ文化が小規模なのは当然だ。

これまでの共産主義体制によって民間企業は軽蔑され、禁止されてきた。民間企業が出現したのは、ほんの20年ほど前にルーマニアが民主化を果たしてからのことだ。それ以降、その他の周辺国と同じように、ルーマニアの再建は外国からの投資に重度に依存してきた。同時にルーマニア政府はテクノロジー分野にも注力した。

ルーマニアが真のテクノロジー・ハブとなるまでには超えるべきハードルが多く存在するのも確かだ。

2001年以降、ルーマニアはIT分野の労働者に対し、雇用者への貢献度に応じた非課税政策を実施している。この政策は新しい労働者のIT分野への流入を加速している。ルーマニアはヨーロッパの最貧国の1つなのだが、昨年のRed Herringのレポートによると、ルーマニアでのIT分野における給与は平均より3倍(またはそれ以上)高いことがしばしばであるという。

ルーマニアがIT分野に強みをもつのは、この国の過去も関係しているとRed Herringは述べている。ソビエト連邦の経済の階層化計画において、ルーマニアはITコンピューターの製造を任された東ヨーロッパ圏の国であると位置づけられていた。

「それによって私たちは有利なスタートを切ることができました」。ルーマニア人のテック起業家であり投資家でもあるRadu GeorgescuはRed Herringの記事の中でこう語った。Georgescuが率いるGeCADはRAV Antivirusを開発し、2003年にマイクロソフトによって買収された。この出来事は、ルーマニアのテクノロジー・セクターが持つポテンシャルの開花を説明するために語られることが多い。

健全な競争

Brainspottingによると、現在ではルーマニア国内においてIT企業の半数以上が首都ブカレストに拠点を構えているという。Oracle、Intel、IBM、Adobeなどの企業の拠点もそうだ。しかし、ルーマニア第2の都市クルジュにも注目が集まっている。growthbusiness.co.ukの新しい記事のヘッドラインは、「ヨーロッパのシリコンバレーなのか?」と問いかける。Brainspottingは、クルジュにおけるIT人材に対する需要は供給を超過していると述べた。

クルジュが企業の需要を活用して、街の発展につなげることを考えていることは確かだ。

Cluj Innovation Cityは、この都市とその周辺地域における主要なプロジェクトだ。このプロジェクトの目的は、地方自治体、大学、そしてビジネス・コミュニティを連携させ、テック・セクターの発展を促すことだ。これは、スタンフォード大学、テック企業のパイオニアたち、そしてVCコミュニティによって10年前にシリコンバレーで組織的に発生した協同プロジェクトによく似ている。

多くの人々が指摘するように、ルーマニアが真のテクノロジー・ハブとなるまでには超えるべきハードルが多く存在するのも確かだ。資本へのアクセスは限られている。リスクテイクを良しとする文化はまだ始まったばかりだ。政府は官僚的で、スタートアップを支援する法律は不足している。しかし、すべての変革はどこかで始まらなければならない。私たちが見るかぎりでは、ルーマニアはその一歩を踏み出している。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉/ Website/ Twitter

ノンユーザをクッキーで追跡しているFacebookがベルギーで毎日26万8000ドルを払う罰金刑に直面

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【抄訳】
データ保護をめぐるベルギーの裁判で、Facebookは、クッキーの保存に関する方針を変えないかぎり毎日25万ユーロの罰金を払うことになった。Facebookは控訴中だ。

事の発端は、ベルギーのデータ保護監視当局(DPA)が6月にFacebookに対する行政訴訟を起こしたことにある。その前に同政府機関は、今年の初めFacebookのプライバシーポリシーが変更された直後に、データ保護に関するFacebookのやり方を強く批判する報告書を発表していた。

具体的な訴件は: FacebookがサードパーティのWebサイトでクッキーの保存とソーシャルプラグイン(Likeボタンなど)を展開して、ユーザとFacebookのユーザでない者のインターネット上の活動を追跡するやり方(の違法性)だ。起訴の時点でベルギーのDPAは、ノンユーザの追跡方法と集めたデータをどうしているか、に関する質問にFacebookが答えなかったことを、起訴に踏み切った理由として挙げている。また同機関がこの訴訟を起こしたことに対する適法性の判断も、裁判所に求めている。

被告のFacebook側は、ベルギーのプライバシー機関には同社のヨーロッパにおける事業を告訴する法的資格がない、と主張した(Facebookのヨーロッパ本社はアイルランドにあるから)。しかし裁判所は、この主張を退け、問題がベルギー国民にも関わる以上ベルギーのデータ保護法が適用され、ベルギーの裁判所に裁判権がある、とした。

さらに重要なのは、ブラッセルの裁判所による裁定がEUの最高裁であるECJの画期的な判決と、軌を一にしていることだ。ECJはGoogle Spainが関与したいわゆる忘れられる権利について裁定し、もっと最近の判決ではハンガリーのデータ保護当局に対し、ハンガリーにもサービスを提供しているスロバキアのWebサイトに対する罰金の賦課を認めた。共通する原則は、従来の古典的な裁判の原則であった“居住国限定主義”を無視し、むしろ、インターネットサービスの本質である、不定形な広域性(被害〜被害可能性の及ぶ範囲が一国に限定されない)に着目していることだ。

Facebookは、クッキーの保存をユーザのための重要なセキュリティ手段(ユーザの本物性を確認できる)だ、と主張しているが、ノンユーザのデータまで集めていることに関しては、今のところコメントがない。裁判所は、重要なセキュリティ手段、という理由付けにも、同意していない。

【後略】

[原文へ]。
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)。

今年のWeb Summitから気になった21社をピックアップ、これがヨーロッパの最新スタートアップ動向だ

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アイルランドの首都ダブリンで行われた今年のWeb Summitも、パブやバーが満員になる大盛況で、この都市の人口が一挙に3万人増えたため、至るところで交通渋滞が起きた。本誌TechCrunchはあちこちのステージを回遊して、おもしろいスタートアップを探した。出場したスタートアップの数は数百のオーダーだから、探すといってもたいへんである。でもいくつかは、拾い上げるのに成功したと思う。なお、各スタートアップの説明文は、自己紹介からの引用がほとんどだ:


re:3D
“re:3Dの旗艦的技術Gigabotは、業務用の大型3Dプリントを価格破壊する。”

Holotech Studios / FaceRig
“Webカメラのストリームからモーションキャプチャを行い、リアルタイムで優れたCGキャラクタを誰でも作れるシステム。”

Unu Motors
“unuは都市用の電脳スクーター。充電ステーションやガレージがなくてもよい。unuの革新的な電池は、ふつうの家庭用電源から充電できる。”

Scooterson
“Scootersonは世界初のクラウドに接続した電動キックスクーター。ビッグデータとアルゴリズムにより、ユーザの今の乗車状態を理解する。”

GarbShare
“GarbShareはユーザが着ている服を見て、モアベターなファッションアドバイスをする。”

Livestock Wealth
“保有している牛の頭数をベースとするアフリカの(Bitcoinのような)仮想通貨。すでに1兆ドルを展開。”

RADIOOOOO
“国と年代(1900年以降)を指定すると、そのころその国で流行していた音楽を聴ける!”

Locadot
“信頼できる友だちとの接続を維持して、外出時や旅先における安全を確保する。”

OptIn
“OptInは女性の産休後の職場復帰を助ける。”

Mucho
“スタイリストが服を選ぶように、ユーザの味の好みに合ったレシピーを教えてくれる。”

Telescrypts
“医療が充実していない途上国などで、遠隔医療を提供する。”

VoteCircle
“選挙に行かない無関心層を、候補者を含むソーシャルネットワークに誘って関心を喚起する。”

The Digital Bra
“ユーザの体をスキャンして完全にフィットした美しくて健康的なブラを作る。”

eparxis
“養蜂家のミツバチの巣箱を、音などにより遠隔モニタする。”

Your.MD
“難解な医学テキストではなく、分かりやすい言葉でユーザの症状や治療法を説明する。”

Codacy
“コードレビューを自動化するツール。デベロッパのワークフローを最適化し、時間を節約し、良いソフトウェアを早く納めるようにする。”

Whistle
“ペットの健康的な生活をさまざまなプロダクトで助ける。”

Thuzio
“企業はThuzio 360を使って、信頼できるインフルエンサーを見つける。”

COBI
“COBIはConnected Bikingの意味。自転車とスマートフォンをインテリジェントに結びつける世界初のシステム。”

Crowdit
“Crowditは、あなたの町のナイトライフアドバイザー。楽しいお店などを教える。”

Hint
“通知機能つきのTODOアプリ。とくに、物忘れがひどくなった高齢者に持たせたい。重要な用事を、間に合うタイミングで思い出せるように。”


来年からWeb Summitはポルトガルの首都リスボンで行われ、モバイルが重視される。会場が分散しているから、靴底が減ることを覚悟して。

[原文へ]。
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)。