AIによるSAR衛星データ解析システムを開発するスペースシフトが5億円調達、開発体制を大幅強化

AIによるSAR衛星データ解析システムを開発をするスペースシフトが5億円調達、開発体制を大幅強化

衛星データ解析システムの開発を手がけるスペースシフトは2月16日、シリーズAラウンドにおいて、第三者割当増資による5億円の資金調達を発表した。引受先は、宇宙特化型の宇宙フロンティアファンド(スパークス・イノベーション・フォー・フューチャー)、EEI4号イノベーション&インパクト投資事業有限責任組合(環境エネルギー投資)ほか1社の合計3社。

今回の調達は、同社初の大型資金調達という。調達した資金により、開発体制の大幅に強化し、SAR(合成開口レーダー)衛星データ解析に特化したAIの開発を推進する。

近年、AIやビッグデータ処理、クラウドの普及を背景に、地球観測データの活用が様々な分野で進んでいる。ただ、従来自動解析に活用されていた衛星データは、主に光学衛星による可視光を用いた衛星写真だったという。

これに対してSAR衛星は、太陽の光を必要としないため、雲で被われていても地表の様子を見ることができ、夜でも観測可能であるなど利点も多く、今後の衛星データ利用の拡大においては重要な存在という。

ただ、SAR衛星は光学衛星と異なり、衛星から発するマイクロ波の反射により地表を見るため、独特なノイズがある画像になり、地表の様子を判読には特殊な知識を必要とする場面が多くある。

この課題解決のためスペースシフトが開発した新方式では、専門家でも判読が難しいとされるSAR衛星の画像をAIによって自動解析可能としたという。

スペースシフトは、今後もSAR衛星データの解析のためのソフトウェア開発に経営資源を集中させることで、世界中のあらゆるSAR衛星事業者、衛星データ利用者が必要とする高度な衛星データ解析技術を提供。地球全体のあらゆる変化を検知可能にすることで、社会活動の最適化、持続可能な社会の実現に寄与するとしている。

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カテゴリー:宇宙
タグ:宇宙(用語)資金調達(用語)人工衛星(用語)スペースシフト日本(国・地域)

Omnispaceは63億円を調達し衛星と5Gを単一のユビキタスネットワークに統合

この数年間、周波数帯域が広がり遅延が減ると無線事業者やスマートフォンメーカーが5Gを大げさに宣伝しまくり、大騒ぎになっている。しかし、消費者の関心を多く集めている5Gだが、その次世代無線技術のもっとも重要な用途は、むしろ事業者の側にある。わかりやすい例が自律運転車だ。それが機能するためには、エッジコンピューティングと低遅延高帯域幅通信の組み合わせが欠かせないとされている。

だが、おそらく自律運転車よりもずっと面白くて、今すでに実用化可能な利用法がある。農場では、ネットワーク接続が農器具の管理、家畜の監視、そして農作物の育成を最適化する水利用の分析の役に立つ。物流業界では、グローバルなサプライチェーンの監視や、世界の港から港へ慎重に運ばれるコンテナの追跡などが欠かせない。

ただひとつだけ問題がある。基地局の設置が採算に合わないために数が少なく間隔も広く空いてしまっている僻地では、5G無線通信を導入しにくいという点だ。ましてや洋上には、無線基地局などひとつもない。

ワシントンD.C.を拠点とするOmnispace(オムニスペース)は、ユビキタスな5G無線ネットワーク接続を、地上の無線技術と人工衛星のハイブリッドで法人ユーザーに提供したいと考えている。同社のアイデアは、地上と宇宙という2つの異なるモードをひとつのパッケージに凝集することで、農業や物流などの法人エンドユーザーが、そのIoT接続をいくつもの異なる技術間で転送する必要なく、安定した5G接続を確実に得られるようにするというものだ。

本日(米国時間2月2日)、同社は株式投資6000万ドル(約63億円)の調達を発表した。この投資ラウンドは、現在急成長中のFortress Investment Groupでクレジット運用の責任者を務めているJoshua Pack(ジョシュア・パーク)氏と、同社のSPACのひとつFortress Value Acquisitionの主導によるものだ。また、以前からの投資者であるColumbia Capital、Greenspring Associates、TDF Ventures、Telcom Venturesも参加している。

Omnispaceは、周波数割当資産、なかでも2ギガヘルツ周辺の「Sバンド」帯域のための持ち株会社として2012年に創設。後に、倒産した衛星通信プロバイダーICO Globa(アイシーオー・グローバル)の残党によって買収された。2016年初めにOmnispaceに加わったCEOのRam Viswanathan(ラム・ビスワナータン)氏によると、同社は、さまざまな保有資産をテクノロジーのレイヤーを使って統合することを考え始め、やがて、IoTの特定分野に向けたグローバルな5G無線接続の活用という好機を探り当てたという。

「5Gの展開は、移動体通信事業者のカバー範囲と展開の仕方によって制限されます」とビスワナータン氏。従来型の地上用の無線技術に頼るかぎり「地上の全域、または全顧客をカバーすることできません」。「衛星の主要ユーティリティーは、ネットワークのカバー範囲を、僻地にまで大きく広げます」

ビスワナータン氏は、衛星と無線通信の市場で数十年の経験を持つ。直近では、インドを中心としたネットワーク接続スタートアップDevas Multimedia(ディバス・マルチメディア)を共同創設し、同社の衛星打ち上げのキャンセルを巡ってインド政府と長期にわたる法廷闘争を続けてきた。最近になってアメリカの裁判所は、インドの政府関連商業化法人に対して、12億ドル(約1260億円)の賠償金をDevasに支払うよう命じた

SpaceX(スペースエックス)のStarlink(スターリンク)プロジェクトと比べたくなるが、Omnispaceは消費者向けのブローロバンド市場には目を向けていない。むしろそのターゲットは法人とIoTユースケースだ。さらにOmnispaceは、異なるテクノロジーを組み合わせたハイブリッドネットワークであるのに対して、Starlinkは宇宙での展開に特化している。

Omnispaceは、Fortressからの今回の新しい投資資金を使ってサービスの肉付けを行い、移動体通信事業者数社との試験運用を完了させ、2023年からのネットワークの商用運用開始に向けた準備を進める予定だ。ビスワナータン氏は「あらゆる地域をカバーする足場」を築き「サービスのグローバル展開を目指す」と話している。

Omnispaceは、宇宙戦略を実行するためにフランスの宇宙防衛複合企業に属するThales Alenia(タレス・アレーニア)と提携した。地上では、所有する帯域資産と複数の移動体通信事業者とを結び付けて、ひとつにまとまったソリューションを生みだそうとしている。まずは、アジア太平洋地域と中南米地域で重点的に展開する。

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画像クレジット: Yuichiro Chino / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

2021年には軌道上での燃料補給や製造が理論から現実へ変わる

軌道上を周回中の人工衛星や宇宙船に燃料補給したり、修理したり、さらには新しい機能を追加するというアイデアは、一般的には「理論としては素晴らしい」ものとされてきた。しかし、Maxar Technologies(マクサー・テクノロジーズ)、Astroscale(アストロスケール)、Orbit Fab(オービット・ファブ)のリーダーは、TechCrunch主催のTC Sessions: Spaceにて、2021年はそれが現実になる年だと語った。少なくとも現実的にはなるという。

ひとたび軌道に打ち上げられた衛星は、通常は減価償却する一方の固定資産とみなされる。次第に時代遅れとなり、やがて燃料が尽きれば軌道を外れる運命にある。だが、少し調整してやれば、いろいろなかたちで、桁外れに高価な宇宙船の寿命を延ばすことができる。新しい衛星を打ち上げるコストを思うと、そうしたビジョンが魅力的に見えてくる。

「打ち上げコストは下がり、同時に打ち上げ頻度、つまり宇宙に物を送り届けるケイデンスが高まっています」とMaxar Technologiesのロボティクス担当ジェネラルマネージャーLucy Condakchian(ルーシー・コンダクチェイン)氏は指摘した。「なので、小さな部品や、小さなペイロードや、その他もろもろのものが打ち上げられるようになれば、宇宙で物を組み立てることが可能になります。衛星の役割を変更することもできるでしょう。実際に動力システムの交換、カメラ装置やコンピューター関連要素の交換など、どんなことも、上に行ってやればいいのです」。

それこそが、MaxarとNASAが来年、これまでRestore-L(レストアエル)と呼ばれていたOSAM-1(オザムワン)で実証実験を進めようとしていることだ。この宇宙船は、軌道上でアイテムの保守、組み立て、製造を行う。ちなみにOSAMという名称は、Orbit(軌道)、Service(保守)、Assemble(組み立て)、Manufacture(製造)の頭字語だ。

「私たちに何ができるのかを宇宙で実証できれば、『はい、できますよ』という段階に達して、その道のずっと先にある好機の展開が期待できるようになります」とコンダクチェイン氏。同社の火星着陸専用ロボットアームは汎用性が実証されているので、その衛星用アームも幅広く活躍できると考えて差し支えないだろう。

Maxarは将来の宇宙船への機能の追加を目指しているが、それに対してAstroscale US(日本企業エアロスケールの米国法人)の社長Ron Lopez(ロン・ロペス)氏は、今の老朽化した宇宙インフラに期待を寄せている。

「軌道上での点検サービスを開発している企業はたくさんあります。それは、すでに軌道上を巡っているが、そうしたロボティック機能を持たない、あるいは将来、衛星のオーナーや運用者が軌道に留まらせるか否か判断する際に、そのようなロボティック機能を追加できる予算がない衛星を対象としています」と彼は説明する。

「この能力には、さまざまな使用事例があります」と彼は続けた。「例えば、衛星に異常が発生して保険を請求するときは、何が起きたのか、そして宇宙の状況をしっかり見極める必要があります。宇宙を飛び交う物体の増加が、みなさんの大きな懸念要素になっていることも、私たちはもちろん認識しています。何がどこで、何をしているのか、またそれが宇宙の他のオブジェクトに危険を及ぼさないかどうかを把握することが、非常に重要です」

シリーズE投資で5100万ドル(約53億円)を調達したAeroscaleは、数カ月以内に、軌道上の宇宙ゴミ(スペースデブリ)を検知して除去する実証実験ミッションを開始する。ゴミと言っても、ISSの船外活動で落とした予備のネジみたいなものではなく、軌道上に放置され、仕事もなく漂い続けている運用を終えた衛星などだ。それは何年間も宇宙に居座る。それらは、ちょっと押してやりさえすればよい。それで地球低軌道は、安全できれいになる。

Orbit FabのCEOで創業者のDaniel Faber(ダニエル・ファーバー)氏は、そもそもそうした状況に陥らないよう「宇宙のガソリンステーション」と彼が呼ぶものを構築しようとしている。ガソリンスタンドと言っても、地上にあるものとは少し違う。むしろ、ジェット機に燃料を補給する空中給油機に近いと言えば、なんとなく理解してもらえるだろうか。

「Orbit Fabが想定する未来は、宇宙経済が大いに協力的に賑やかになることです。すべての宇宙船にロボットアームを装着したところで、それは実現しません。何か不具合が発生したり壊れたりすれば、牽引トラックがどうしても必要になります。ロボットによる複雑なサービスも必ず必要になります。しかし現状では、点検保守を受けるように作られているものはありません。そのため、どんなタイプの宇宙船でも牽引できるトラックが必要なのです」と同氏は話す。

「衛星用ガソリンタンカーの製造は叶いませんでした。衛星に給油口がないからです。なので、私たちはそれを作りました」と同氏は同社のRAFTIコネクターについて説明した。現在、数十の提携企業がこれを各社の衛星に採用することにしている。「顧客の衛星に燃料補給できるようにするためには、その他の製品や技術を開発する必要もありました」。

同社のタンカーは、初めての軌道上テストを行う。その時期はもうおわかりだろう。来年だ。先日新たな資金調達を発表し、同社のシードラウンドは総額で600万ドル(約6億2000万円)に達した。それがテストの実現に拍車をかけたようだ。2021年は、宇宙産業のさまざまな分野にとってビッグな年になる。しかし、とりわけこの分野では、可能性が実証される時となり、その先の大な発展につなが年になることだろう。

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「宇宙のガソリンスタンド」を目指すスタートアップOrbit Fabがシードラウンドで6.2億円を調達

カテゴリー:宇宙
タグ:人工衛星、Maxar Technologies、Astroscale、Orbit Fab
画像クレジット:Maxar/NASA

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(翻訳:金井哲夫)

「宇宙のガソリンスタンド」を目指すスタートアップOrbit Fabがシードラウンドで6.2億円を調達

TC Disrupt 2019にて衛星カップリングシステムを披露するOrbit Fabの最高開発責任者Jeremy Schiel (ジェレミー・シール)氏

「宇宙のガソリンステーション」の構築に特化した企業を自称する、軌道上でのサービス提供を目指すスタートアップOrbit Fab(オービット・ファブ)は、シード投資ラウンドに新たな投資者を迎えた。この追加拡張投資は、Munich Re Ventures(ミューニック・リー・ベンチャーズ、世界最大クラスの保険会社ミュンヘン再保険グループのコーポレートベンチャー投資部門)によるものだ。Munich Reグループは、特に衛星運用者には非常に重要な保険会社であり、打ち上げ前、打ち上げ時、軌道上の運用をカバーする保険商品を提供している。

2019年TechCrunch Disruptバトルフィールドの最終選考まで勝ち残った経験のあるOrbit Fabのシステムは、基本的には、宇宙船を軌道上の給油所まで誘導する宇宙タグボートで成り立つ。給油所には、同社が注文に応じて製作するインターフェイスを使って接続できる。新しく衛星を設計する際に、比較的簡単に組み込めるようデザインされており、キャプチャーやドッキングのための特別なロボットシステムなどを必要とせず、宇宙空間で簡単に燃料補給ができる。

このスタートアップの目標は、宇宙船の寿命を延ばして宇宙デブリを減らし、運用者の経費を削減することで、持続可能な軌道上の商用運用環境の構築を助けることだ。Munich Re Venturesの参加は、衛星運用者の打ち上げと運用のリスクモデルに持続可能性が高く運用期間が長い宇宙船を組み込めるという点で、極めて大きな前進となるずだ。

「推進剤のサプライチェーンの立ち上げを見てみると、その大部分は財務モデルです」と、Orbit Fabの共同創設者でCEOのDaniel Faber(ダニエル・ファーバー)氏はインタビューで私に話した。「顧客のリスクを移動し、設備投資を運営費用に確実に移動し、それでいて新たなリスクを招かないようにするには、これをどう使えばよいのか。そのすべてを、Munich Reの財務商品、保険とリスクの評価に任せることができます。なのでこれは、大変に意味深いパートナーシップなのです」。

ファーバー氏は続けて、Munich Re Ventures のTimur Davis(ティムア・デイビス)氏が宇宙関連のカンファレンスによく顔を出すようになり、そうしたイベントでファーバー氏は彼と言葉を交わすようになったと話した。それがやがて、宇宙でのサービスと基盤整備を見すえたMunich Re Venturesの投資計画に発展し、Orbit Fabはその新計画を背景とした最初の投資先となったわけだ。

この新規投資によって、Orbit Fabのシード投資ラウンドの総額は600万ドル(約6億2000万円)に達した。この中には、ベンチャー投資企業からのものに加えて、米国政府からの200万〜300万ドル(約2億6000万〜3億9000万円)の資金援助も含まれている。同社はまた、新たにドッキングのための「自動運転衛星」キットを着想し研究を行っている。これには、米国立科学財団から予備的な要求開発のための資金を獲得し、現在、その設計製造に着手できる段階に至っている。2021年は、宇宙産業の新企業にとっては大きな年となる。持続可能で規模の拡張が可能な衛星運用というアプローチを掲げるOrbit Fabも、間違いなくその中の1つだ。

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カテゴリー:宇宙
タグ:Orbit Fab人工衛星保険持続可能性

画像クレジット:TechCrunch

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(翻訳:金井哲夫)

小型・安価な独自衛星打ち上げロケットを開発するドイツのIsar Aerospaceが95億円調達

航空宇宙産業はスタートアップの世界からの爆発的な活動の広がりを見てきたが、そこでは聡明なエンジニアたちが、大企業の下で働くよりも、ますます野心的になるベンチャー投資家から資金を調達して自分でスタートアップを起業し、壮大な計画を現実的なビジネスに変換する道を選んでいる。そんな中、最も新しい展開として、ミュンヘンのスタートアップが、ヨーロッパの宇宙技術業界で最高額の投資ラウンドによる資金調達を成功させた。

極めて小型で、現在市場で活躍している大型ロケットよりも安く超小型衛星の打ち上げができるロケットを開発するIsar Aerospace(イザー・エアロスペース)は、7500万ユーロ(約94億7000万円)を調達した。同社は、この資金を使って研究開発と建造を継続し、その過程で、2022年初頭に最初の商業打ち上げを実施する計画だ。

際立って画期的な設計のロケットを提供するだけではないが、打ち上げに成功すれば、Isarはヨーロッパの宇宙関連企業として初めて、世界の衛星市場で戦える確実な衛星打ち上げロケットのメーカーとなる。

今回のラウンドは、Lakestarrが主導するシーリズBで、以前からの支援者であるEarlybirdとVsquared Venturesも大きく貢献していると同社は話している。Earlybirdと戦略的支援者であるAirbus Venturesは、前回、2019年12月にクローズした1700万ドル(約17億7000万円)のラウンド(Isar Aerospaceリリース)を主導している。

このスタートアップは、名門ミュンヘン工科大学(TUM)からスピンアウトして生まれた。共同創設者のDaniel Metzler(ダニエル・メッツラー)氏、Josef Fleischmann(ヨーゼフ・フライシュマン)氏、Markus Brandl(マーカス・ブランドル)氏は、みなTUMで工学を学んだ。中でもフライシュマン氏には、Isar創設前にちょっと自慢できる出来事があった。彼は、米国で行われたHyperloop(ハイパーループ)のコンペにTUMチーム(Isar Aerospaceリリース)の一員として参加した。その功績により、米国の有名ベンチャー企業から非常に興味深い仕事に誘われたのだが、彼はドイツに帰り、自身の会社を立ち上げることを選んだ。それがIsar Aerospaceだ。

メッツラー氏はインタビューの中で、データソースの増強や刷新のために衛星技術を利用したい、または利用する必要に迫られた企業の累積需要が非常に大きいと説明していた。政府や通信事業者にそうした需要があることは簡単に想像がつくが、ナビゲーション、GPS、地図製作の専門家、農業関連産業、メディアおよびインターネット企業、その他、宇宙でしか実現し得ない高速かつ遠距離のデータアクセスを必要とする団体などもそこに含まれる。

問題は、衛星を軌道に乗せる現行技術は、費用も時間もかかりすぎることだ。

ロケットは大型で、打ち上げ頻度も低い。その積載スペースを確保するためには、長い準備期間と大量の投資が必要になる。運良くそれが叶っても、技術的問題や天候によって突然中止になることもある。

こうした問題は、SpaceX(スペースX)のような民間企業の成長でなんとか対処しようとしてきた。ロケットを量産し、広い場所にたくさんの発射台を備えて打ち上げ回数を増すことで、需要に応えるという方法だ。

だが、Isarのアプローチはまったく違う。新しい方式の打ち上げ台に加え、小型で安価な新型ロケットの建造だ。こうすることで、多くの団体がより安く、より簡単に柔軟に衛星の打ち上げを予約できるようになるという考えだ。目標は1000kg以上のペイロードを打ち上げることだ。

Isarのシステムに使用されている革新的な技術の中には、現在のロケットで通常使われているものとは異なる、軽い燃料を使う推進システムがあるとメッツラー氏は話す。また、ロケットの建造費用を低く抑える、新しいシンプルな設計アプローチの採用もその1つだ。

メッツラー氏によると、現在の衛星打ち上げ料金の相場は1kgあたり3万ドルから4万ドル(約310万円から420万円)だという。「私たちはさら斬り込んで、1kgあたり1万ドル(約104万円)を目指します」

この提案は「顧客からの問い合わせ」がすでに5億ドル(約520億円)に達しているほど魅力的なものだとIsarはいう。つまりそれは、同社の打ち上げ事業が開始された場合の売上げとなるであろう、緩い予約のようなものだ。

同社は、衛星打ち上げが需要対応の明らかなボトルネックだと考えている。

「週に1度宇宙に行くことは、3年前から準備してきた打ち上げ計画とはまったくの別物です」と彼は、現状と比較したIsarが想定すべき未来について語った。また彼は、Isarでは持続可能性を念頭にロケットを作っているとも話していた。地上で回収して再利用できない部分が1つでもあるなら、大気圏で完全に燃え尽きて、一切の残骸が出ないようにロケットを設計するべきだと考えている。

長期的には、Isarは宇宙探査や別の分野の開発にも乗り出す可能性がある。そうした意欲的なロードマップ(この場合はスカイマップか?)には、投資家も喜んで支援するだろう。

「私たちは、ヨーロッパの民間宇宙開発を目指すIsar Aerospaceを、最大手機関投資会社として支援できることを誇りに思います。地球低軌道の超小型衛星は、今後数十年間、計り知れないイノベーションとビジネスの可能性をもたらす主要な基盤技術となります。そのため、次なる技術革新を傍観者として眺めていたくなければ、ヨーロッパに競争力のある宇宙産業を持たなければならないのです」と、Earlybirdの共同創設者Hendrik Brandis(ヘンドリック・ブランディス)氏はいう。「特にこれだけの規模のラウンドを完全にドイツの資金だけで支援できたことを、私は誇りに思います。これは、近年この国でスタートアップとベンチャー投資産業が確実に育っている明白な証です」。

カテゴリー:宇宙
タグ:Isar Aerospaceロケット人工衛星ドイツ資金調達

画像クレジット:Isar Aerospace

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(翻訳:金井哲夫)

Rocket Labが打ち上げ後のブースター回収に初成功!

ニュージーランドにも拠点を置くロケット打ち上げ会社であるRocket Lab(ロケット・ラボ)は米国時間11月20日、ペイロードを軌道に乗せた後にElectronのブースターを安全に落下させて回収し、再使用可能ロケットへの一歩を踏み出した。上の画像は、ブースターをパラシュートで安全に落下させている様子だ。

ロケットの第1段、つまり地上から宇宙までペイロードを運ぶブースターを再利用することで、打ち上げコストを大幅に削減できる可能性がある。数百万ドル(数億円)もの費用をかけて製造されるロケットは何十年もの間、再突入時に分解され放棄されてきた。

SpaceX(スペースX)は何度かの失敗の後、2015年にFalcon 9ロケットの回収を初めて成功させ、ドローン船に着陸(未訳記事)させた。使用済みの第1段は2017年に初めて再打ち上げられた(未訳記事)。

Rocket LabのPeter Beck(ピーター・ベック)CEOは2019年に、使用済みブースターを回収する独自の方法を試みると発表した。Falcon 9のような複雑な推進力で制御する着陸の代わりに、ブースターはパラシュートにより安全に降下し、着水前にヘリコプターで捕獲するというものだ。

画像クレジット:Rocket Lab

しかし今日のミッションでは、最初の試みとしては少し野心的すぎるとして、ヘリコプターのステップをスキップした。約30機の人工衛星と3Dプリントされたノーム(精霊の人形)を大気圏の端に投入した後、Electronのブースターは地球に戻り、約2時間後に着水した場所も確認された。

打ち上げ後に公開されたRocket Labのプレスリリースによると、ブースター降下と回収は計画どおりに実施された。

打ち上げの約2分半後、標準的なミッション手順に従ってElectronの第1段と第2段が高度約80kmで分離されました。Electronの第1段エンジンが停止すると、反応制御システムがブースターの向きを180度変え、再突入に最適な角度に調整し、地球に帰還する際の「壁」として知られる膨大な熱と圧力に耐えられるようにしました。小型パラシュートは降下中の第1段階の抗力を増加させ安定させるために展開され、その後に大きなメインパラシュートが最後の高度1km時点で展開されました。そして、第1段は計画通りに着水しました。Rocket Labの回収チームがブースターを同社の生産施設に送り返し、エンジニアがステージを点検して将来の回収ミッションに役立つデータを収集します。

「本日、チームが達成したElectronの第1段の回収は、決して離れ業というわけではありません。Rocket Labの多くのチームの多大な努力の結果、Electronを再使用可能なロケットにするための大きな一歩として、その成果を見ることができて興奮しています」とベック氏は語る。

打ち上げのリプレイは以下で見ることができる。

関連記事:Rocket Labが次に打ち上げるのは小型衛星30基とゲーム業界のレジェンドが搭乗料金を支払ったノーム人形

カテゴリー:宇宙
タグ:Rocket Labロケット人工衛星
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(翻訳:塚本直樹 / Twitter

Rocket Labが次に打ち上げるのは小型衛星30基とゲーム業界のレジェンドが搭乗料金を支払ったノーム人形

Rocket Lab(ロケット・ラボ)の次のミッションは、同社のKick Stage(キック・ステージ)スーペスタグを使って数十基の衛星を軌道に乗せ、同時に、Value Software(バリュー・ソフトウエア)のGabe Newell(ゲイブ・ニューウェル)氏が持ち込んだ3Dプリントによるガーデンノーム人形も宇宙に運ぶ。これは新しい製造技術のテスト用なのだが、ゲーム業界のレジェンド、ニューウェル氏による慈善活動でもある。

打ち上げは、ニュージーランドの打ち上げ場の現地時間で16日以降に設定されている。いまだ無名のこのミッション(Rocket Labはこれまですべてのミッションに小粋な名称を与えてきた)だが、同社にとって「最も多様性に富む」もとになると広報資料には書かれていた。

合計で30基の衛星を、Rocket Lab独自のKick Stage放出プラットフォームから放出する。Kick Stageは他社のスペースタグと同じく、特定の予備軌道に到達した際に第2段ロケットから切り離され、ペイロードをそれぞれ固有の軌道に送り込むというものだ。Rocket Labが一度に打ち上げる衛星の数としては、今回が最大となる。

そのうち24基は、Swarm Technologies(スウォーム・テクノロジーズ)の超小型衛星SpaceBEE(スペースビー)だ。サンドウィッチ程度の大きさの通信衛星で、IoTのためのローコストで低帯域幅のグローバルなネットワーク構築に使われる。

だが最も奇抜なペイロードは、なんといっても「ノーム・チョンプスキー」だろう。こいつの搭乗料金はValue Softwareの社長であるニューウェル氏が支払った。3Dプリントで作られたこの人形は、大気圏再突入で燃え尽きるまでKick Stageに固定される。これは、人気PCゲーム「Haif-Life」シリーズに登場するアイテムのレプリカだ。「ロード・オブ・ザ・リング」など数多くの映画制作に関わったエフェクトスタジオWeta Workshop(ウェタ・ワークショップ)が制作した。便利に使える可能性のある新しいコンポーネントの印刷技術のテストであると同時に、「世界のゲーマーの革新性と創造性へのオマージュ」でもある。

しかしもっと大切なこととしてニューウェル氏は、打ち上げを視聴した人から1ドルずつStarship Children’s Hospital(スターシップ子ども病院)への寄付を募ることにしている。なので、みなさんもぜひ今回の打ち上げを見て欲しい(現在、ニューウェル氏に詳しい話を聞かせて欲しいと打診中)。

この他に、TriSept(トライセプト)、Unseenlabs(アンシーンラボズ)、Auckland Space Institute(オークランド宇宙研究所)の衛星も搭載される。オークランド宇宙研究所のものは、ニュージーランドで初となる学生が製作した宇宙船だ。

Rocket Labでは、見込み客がサービスやコンポーネントをあちこち探し回らずに済むよう、すべてが1つに収まった打ち上げプラットフォームの開発に力を入れてきた。同社CEOのPeter Beck(ピーター・ベック)氏によれば、理想は基本的な骨組みだけ持ち込めば、後はすべて同社が面倒を見るというかたちだという。

画像クレジット:Rocket Lab

「小型衛星の運用者は、相乗りミッションで打ち上げる際に、軌道で妥協する必要はありません。今回のミッションでは、30基の衛星それぞれにオーダーメイドの宇宙への道を提供できることに対して私たちは胸を躍らせています。私たちがKick Stageを開発したのはそのためです。どのミッションでも注文どおりの軌道に乗せることができるよう、また、宇宙船の推進装置を開発したり、サードパーティーのスペースタグを使うといった余計な手間、時間、コストを排除できるようにです」とベック氏は広報資料で述べている。

Rocket Labでは、先日、自前の衛星First Light(ファースト・ライト)も打ち上げた。ベック氏の言葉を借りれば「ウザイこと」なく軌道に載せられることを証明するためだ。

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(翻訳:金井哲夫)

Rocket Labが15回目の商用ミッションとして地球観測衛星10基の打ち上げに成功

ニュージーランドのロケット打ち上げ企業Rocket Lab(ロケット・ラボ)は、15回目の商用ペイロードの打ち上げに成功し、地球観測衛星10基をそれぞれの目標軌道に載せた。同社はターンアラウンドタイムの最短記録樹立を目指していたものの2020年7月の混乱で計画が停滞していたが、再び元のペースに戻りつつある。

最新のElectron(エレクトロン)ロケットに搭載され地球を旅立ったペイロードのうち9基は、Planet(プラネット)のSuperDove(スーパーダブ)衛星だ。新世代の観測衛星で、画像の更新間隔が縮まり、地表のより広い範囲をカバーできるようになる。

キヤノンのCE-SAT-IIBは、デモンストレーション用衛星だ。「超高感度カメラで地球の夜の映像が撮影できる中型望遠鏡」を搭載している。また通常の観測が行える小型カメラも数台備えられている。Planetとのライドシェア(相乗り)は、打ち上げライドシェア専門業者Spaceflight(スペースフライト)が手配した。

今回の打ち上げは先週に予定されていたものだが、「一部のセンサーから、今後調査すべき気になるデータが返ってきた」ために延期されていた。幸い、予備日には余裕があったので、本日が再挑戦の日に設定された。

すべてが順調に進み、衛星は打ち上げからおよそ1時間後に、それぞれの軌道に到達できた。

 

7月にペイロードを失いRocket Labが一時的に打ち上げを停止してから、今回で2回目の打ち上げとなる。その事故は派手な爆発などではなく、衛星を軌道に放出する前に電気系統に故障が生じたために、むしろいさぎよくシャットダウンしたというものだ。

幸いにも同社は、その迅速な原因究明により、事故から1カ月以内に打ち上げ再開を果たすことができた。

ついでながら、この顛末やその他の話が、12月開催予定のTC Sessions: Space 2020で聞けることになった。Rocket Labの創設者でCEOのPeter Beck(ピーター・ベック)氏が登壇してくれる。

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タグ:Rocket Lab人工衛星

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(翻訳:金井哲夫)

ロケット打ち上げスタートアップAstraが8月2日以降に初軌道飛行テストを実施、SpaceXなどより低コスト

米国拠点のロケット打ち上げスタートアップであるAstra(アストラ)は、初の軌道飛行テストの準備を進めている。天候に応じて、今週末か来週末にも打ち上げを実施する。同社は、アラスカ州コディアクから「Rocket 3.1」と呼ばれるロケットを打ち上げる。厳密に言えば軌道飛行テストに分類されるが、米国時間7月30日に開かれた記者会見では「最初の3回の打ち上げが、どれも正しく軌道に載ると信じているわけではない」とジャーナリストに対して早々に釘を刺していた。

「ホールインワンを狙っているわけではありません」とCEOのChris Kemp(クリス・ケンプ)氏は言う。「これはパー3のコースです。3回の打ち上げを行った後に、適切に軌道飛行が行えると確証を持てるだけの経験を積もうと考えているのです。私たちにとってそれは、予定どおりに第1段のエンジンが燃焼し、第2段が正常に分離されることを意味します。そこで習得したあらゆることを、上に積み上げてゆきます。私たちは、第2段が点火すれば満足です。そして第2段が、次の打ち上げをもっとうまくやるための何かを教えてくれたらそれで十分なのです」。

Astraのロケットの建造と打ち上げに対する考え方は競合他社とは異なっている。このスタートアップは創業からまだ3年しか経っていない。同社は、オークランドにほど近いカリフォルニア州アラマダでロケットを建造している。Rocket 3.1は、高さおよそ40フィート(約12m)で、小さなペイロードを打ち上げることができる。現在、数多くの企業が地球の低軌道で運用する衛星コンステレーションを打ち上げているが、それを構成する小型衛星1基が搭載できる程度だ。ちなみにSpaceXのStarlink計画では、一度に60個の衛星を載せて打ち上げている)。

結局は受賞者を出さずに終了したDARPA(米国防高等研究計画局)の打ち上げコンテストに初めて挑戦する前にケンプ氏が私に話した(未訳記事)ところによると、低コストで大量にロケットを作り、SpaceX(スペースX)やRocket Lab(ロケット・ラボ)などの新進宇宙企業よりも、失敗を許容するマージンを大きく取るのだと強調していた。

「最初の1回で成功させるために何年間も費やすのではなく、我々は軌道への挑戦を何度も繰り返します」とケンプ氏は、来週の打ち上げを前にした7月30日の記者会見で話していた。

Rocket 3.0型では、最初の計画から何度もやり直すこの方法で、同社は異常事態によりロケットを丸ごと失うという事故に見舞われた(未訳記事)。同社はその後、設計を見直して失敗の原因になったものを含めいくつもの問題点を解決した。今回の打ち上げは、もともと3月末に予定されていたものだが、新型コロナウイルスの影響で延期されていた。だがAstraは、オフィスに従業員を集めて仕事を続けることができる数少ない企業のひとつに国から指定されている。なぜならその事業が、国の安全保障にとって重要なものだからだ。

これから行われる3回の打ち上げテストでは、ペイロード(積載物)は搭載されない。理由のひとつとして、少なくとも最初のロケットは完全に失われることを想定しているという点がある。しかしAstraのロケットは、その経済性のために多少の失敗は許容できる。1回の打ち上げ費用は、小型衛星を打ち上げたいときに候補に挙げられるSpaceXやRocket Labなどの乗り合い型ミッションと比較しても、ずっと安い。

最初のAstraのテストの打ち上げ計画は、米国時間8月2日から8月7日の間の、米国太平洋夏柑午後7時から午後9時(日本時間8月3〜8日の間の午前11時)の間に設定されている。いまのところ、現地の8月2日の天候はあまり芳しくない。しかし同社によれば、天候は目まぐるしく変化するため、注意深く観察し、柔軟に対応するとのことだ。

画像クレジット:Astra

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(翻訳:金井哲夫)