ビッグデータに関する2つの神話を解体する―オープンソース・データサイエンスのもたらすチャンス

2015-05-08-bigdata

編集部: この記事の寄稿者、David SmithはMicrosoftの子会社でオープンソース・ソリューションを提供するRevolution Analyticsの責任者。Revolutionsブログに、R言語のアプリケーションと予測的アナリティクスについて毎日記事を書いている。またAn Introduction to R(PDF)の共著者。

神話というのは文化の研究には役立つが、テクノロジーの理解には障害になる。今回はビッグデータ革命に関連して、「ビッグデータは一夜にして生まれた突発的現象だ」と「ビッグデータは現実的なビジネス価値のない流行語だ」という2つの神話を取り上げて検討する。

神話1: 一夜にして生まれた突発的現象だ

最初に取り上げるのは「ビッグデータ革命はある日、何の前触れもなしに魔法のように突如起きた」という神話だ。実際にはビッグデータ革命は10年以上前から始まっていた。スタートはGoogleやYahooのような検索企業が巨大なデータを高速に処理するために新たなフレームワークとテクノロジーを必要としたことだった。

ウェブ検索という新たなニーズに対して既存のデータベース・テクノロジーは十分に対応できなかった。しかも、当時の伝統的IT部門が採用していたソリューションではハードウェアとソフトウェアに莫大な投資を必要とした。

そこで新興検索企業は社内で独自にコストパフォーマンスの高い新たなソリューションを開発した。安価なコモディティー・ハードウェアを大量に導入してオープンソースのソフトウェアを走らせるという手法だ。このときに、巨大データを高い信頼性で処理できるフレームワークのパイオニアとなるHadoop、MapReduceなどのテクノロジーが開発された。

「ある日突然生まれた」どころではない。ビッグデータ革命はごく単純なビジネス経済上の必要性から始まったのだ。伝統的なITの手法ではハードウェアに膨大な費用がかかり、検索企業はビジネスとして成立し得なかった。日々急速に増殖する大量のマシンにベンダーがライセンスする商用ソフトウェアを導入することもコストの面から不可能だった。検索企業はそこで大学、スタートアップ、小規模なベンダーの力を借りつつシステムを内製することにした。そこで重要な要素となったのがオープンソースの世界的なコミュニティーだった。これによって世界でトップクラスの優秀なプログラマーの協力を得る道が開かられた。

Hadoopのようなフレームワークが登場する前は、データを処理する企業はどのデータを保持し、どのデータを捨てるかという困難な決断を日々強いられていた。当時、データのストレージは今よりはるかにコストがかかったし、伝統的なソフトウェア・ベンダーが提供するデータ処理ソフトウェアはカスタマイズするにもアップデートを待つにも数ヶ月かかるのが普通だった。

ビッグデータ革命はこうした状況を変えようとする努力の中から生まれた。オープンソースのソフト、安価なハード、信頼性の高い高速インターネット接続の組み合わせが大量データの処理に付随していた困難を取り除いた。オープンソースのアナリティクス・ツールはベンダーの商用ソフトに比べてはるかに頻繁にアップデートされた。

こうしてビッグデータの処理は次第に進化していった。たしかに進化はかなり急速だったが、「一夜にして生まれた」わけではない。この間、ビッグデータ処理の進歩の多くの部分はR言語によって支えられた。Rは高度な統計的分析を処理するために、1990年代に2人のニュージーランドの大学の研究者によって開発されたプログラミング言語だ。一貫してデータ・サイエンスでもっとも人気のある言語であり、現在何千という企業や組織がデータサイエンス・アプリケーションの開発R言語を利用している。たとえば、

  • Googleは広告キャンペーンのROI分析に
  • フォードは自動車デザインの改良に
  • Twitterはユーザー体験の分析に
  • アメリカ国立測候所は危険な洪水の予測に
  • ロックフェラー政治学研究所は公的年金基金の財務状態のシミュレーションに
  • 人権データ分析グループは戦争の人権に与える影響の計測に
  • ニューヨーク・タイムズは記事のインフォグラフィックスや対話的グラフの作成に

それぞれRを利用している。

神話2:現実的なビジネス価値のない流行語だ

「ビッグデータなるものはある種の流行語で現実的経済価値のないものである」という神話もやはり完全な誤りだと用意に実証できる。現在もっとも急速な成長を続けている産業分野はビッグデータ・テクノロジーの発達によってもたらされたものだ。モバイルとソーシャル・サービスはオープンソースのビッグデータ処理システムがなければまったく不可能だった。前述したようにGoogleの検索と広告ビジネスもオープンソースのビッグデータ処理アプリケーションの上に築かれている。

出現しつつある新しい産業分野がそれぞれに新しいビジネスモデルを生み出している。製造業における3Dプリンティング、ソフトウェア開発におけるラピッド・プロトタイピング、地理的情報システム、モノのインターネット、予測的メンテナンス、無人走行車などがそれだが、すべてビッグデータ処理と低コストのストレージなくしては実現できなかったものだ。オープンソース・ソフトウェアがなければ存在しえなかったもっとも典型的な例はクラウド・サービスだろう。RedMonkのアナリスト、Stephen O’Gradyは次のように書いている

以前の産業界では、社内に存在しないソフトウェア・テクノロジーについては外部のサードパーティーの企業にアウトソースするのが普通だった。しかしAmazon、Facebook、Googleは自分たちの必要とするソフトウェアは外部にも存在しない、あるいは存在しても伝統的なライセンス契約では、処理の規模の拡大と共にコストが禁止的になることをいち早く悟った。

2016年には上に挙げた新しい産業分野の売上が年間1000億ドルにも達すると予想されている。同時にビッグデータの利用の進展は処理すべきビッグデータそのものをさらに巨大化しつつある。

ビッグデータは一時のブームでもないし、ぱっと燃え上がってはそのまま消えてしまうバズワードでもない。Microsoft、GE、IBM、Intel、Goldman Sachs、Greylock Partners、Sequoia Capital、Accel Partnersを始めとして多数のトップ企業がビッグデータ・テクノロジーに巨大なリソースを投入している。こうしたプレイヤーはビッグデータ革命がまだごく初期の段階にあり、ビッグデータはビッグビジネスチャンスと同義語だと確信しているのだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ユーザーの位置情報デベロッパーが守らなくてはならない

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編集部注: Eric GundersenはMapboxのCEO。

位置情報データは極めて繊細だ。そこには住んでいる場所、日々の習慣、友達のネットワークなどに関するデータが含まれている。新たな目的地を発見し、そこへ行く道路の渋滞を避け、到着したらスワイブして新しい友達と会い、帰宅前にエアコンを入れることさえできる。データがここまでわれわれのこと知っている時、注意深い保護が必要になる。

米国第4巡回区控訴裁判所は憲法修正第4条がユーザーのデータを保護するかどうかの重要な裁定を数週間後に下す可能性が高く、デベロッパーはその成り行きに備える必要がある。

位置データの安全を守る方法には、明確な技術的方法がある。データは匿名で集約化されるだけでなく、デバイス上の暗号化や不正開封を防止するハードウェアキーなどの技術によって保護されなくてはならない。こうした方法によって不法アクセスを防ぐことができる。しかし、もし当局がこれらの安全弁を取り外してカギをあけるよう命じ、データを見たからどうなるだろう。

現在個人データに対する政府の関心は高まっている。われわれはこれを認識し、不可避な政府介入を前提にシステムを設計する必要がある。米国自由人権協会(ACLU)が調べた全米250警察署の要求記録によると、「事実上すべての」回答者が、携帯通信会社が保持している携帯電話位置情報を追跡していると答え、「捜査令状を取得し、相当な理由を提示しているのはごく少数だった」

位置情報データを扱うデベロッパーは、法律の及ぶ限りユーザー情報を保護する責任を持つ。

捜査当局の懸命な努力によって、われわれの安全は守られるが、この種のデータ取得は違憲である。修正第4条は、重大な緊急事態を除き、個人の場所あるいは文書を捜索する前に令状を取得することを義務付けている。この令状要求によって、当局が捜索前に、探している情報を具体的に説明する過程で、独立した裁判官に「相当な理由」を提示することが約束される。

捜査当局は、第三者か保有する位置情報は修正第4条の保護対象にならないと主張している。しかし、公開されているiOSアプリ130万本の半数以上が位置情報に対応している現在、位置情報が保管されている場所に関わらず保護されなければ、われわれの憲法上の権利はなんら意味を持たない。

デベロッパーがユーザーデータを安全に保つためにできる最も重要なことは、高度に集約し匿名化された形式で保管することだ ー 何も持っていなければ、誰かがドアを破って手に入れようとする理由はない。しかし、匿名化されたデータであっても、他のデータと組み合わせることによって情報を漏洩させる可能性がある。このため、われわれがユーザーのデータを技術的にも法的にも守ることは決定的に重要である。

位置情報データを扱うデベロッパーは、法律の及ぶ限りユーザー情報を保護し、相当な理由の捜査令状に応じてあるいは生死に関わるか同様の緊急事態を除き、捜査当局に開示しない責任を持つ。

米国の全デベロッパーは,自社の捜査対応ガイドラインを改定し、ユーザーの位置情報は相当な理由の捜査令状に応じてのみ開示することを明確に記すべきである。

GoogleとBoston Consulting Groupの研究によると、位置情報分野は毎年30%ずつ伸びている。われわれは位置情報の可能性とそれがいかにわれわれの生活に影響するかを理解し始めたばかりだ。その恩恵は膨大であり、われわれはユーザーのプライバシーを損なうことなくそれを利用することが可能だ ー 注意深くさえあれば。

多くのユーザーが、得られる恩恵と引き換えに自分の位置情報を渡すことを選択している。今やユーザーのプライバシーを安全に保つ責任はデベロッパーにある。今このデータをどう扱うかは、われわれ全体の未来にとって決定的に重要である。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

スタートアップが成功のために守るべき10箇条

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編集部記 :Carol BroadbentとTom Hoganは、シリコンバレーのマーケティングエージェンシーであるCrowded Oceanのファウンダーでマーケティングの専門家である。同社は、35社以上のスタートアップをローンチし、その内10の会社は売却か株式公開を行った。

事業を開始してから10年の間に35社以上をローンチし、幸運なことにいくつかのユニコーン企業(Palo Alto Networks、Nimble Storage)や優秀な白馬企業(Sumo Logic、Trifacta、Snowflake Computing)に携わることができた。多種多様な企業と関わる中で、様々な成功と失敗も見てきた。成功する企業の特徴は何かと尋ねられることが多いため、このリストを作成した。10箇条は以下の通りだ。

1. 優秀な人しか採用しない

Warren BuffetのBerkshire Hathawayやその他のビジネス界の巨人と同様に、全てのスタートアップは素晴らしいチームを作るのにあたり「無能な人はお断り」のポリシーを掲げるべきだ。このルールを掲げている会社はこのリストの通り だ。全てのスタートアップもこのリストに掲載されるように努めるべきだろう。(もしこのルールに同意しないと言うなら、自身が優秀な人材かどうかを今一度問うべきだ。)

2. 競合他社から学び、盗むこと

ほとんどのスタートアップは近視のようだ。自社のプロダクトや技術しか見えておらず、直近のことしか考えていない。しかし、同じ道を辿った競合他社も多いはずだ。そうでなければそこに「市場」は存在していない。私たちはクライアントに対して、競合他社の失敗だけでなく成功からも学ぶように助言している。競合他社のメッセージ、キーワード、コンテンツ計画と顧客獲得戦略を研究するということだ。他の人が考えた素晴らしいアイディアを借りたり、アレンジしたりすることは、恥ずかしいことではないと私たちは考えている。

3. 良いチームを作るにはダイバーシティを考慮に入れる

私たちが関わったスタートアップの多くは、ダイバーシティに力を入れている。様々な国の人が働いている。しかし、性別に関してのダイバーシティは、あまり取り入れられていない。このデータは、チームに女性を採用している企業の方が成功していることを示している。素晴らしいチームを作るには、ダイバーシティを意識した雇用を早い段階から行うことが重要だ。バックグラウンドや考え方が異なるプロを雇うこと、そしてスタートアップの企業文化のDNAになるよう、早い段階から女性を雇用するということだ。

4. 仕事は終わらせることが大事

多くの時間と資金があれば、スタートアップチームは完璧な物を作り出すことができるだろう。成果物の細かい部分まで抜かりなく仕上げることができる。しかし、このようなことは長期的には上手くいかない。なぜなら急成長するスタートアップには、時間やリソースが充分でないことの方が多いからだ。ゲームを制するのに重要なのは質ではなく、量ということになる。チームの生産性を高めるためには、設定したゴールに到達する必要はあるが、完璧を追求するための最後の2%を追いたい気持ちは抑えることだ。

5. 全てのローンチは二度遅れると思うこと

大手テクノロジー企業と10年以上にも渡って仕事をし、何百というプロダクトをローンチしてきた経験から、このルールはどこにでも当てはまることを見出した。何故そうであるかは定かではないが、正しいことに間違いない。カスタマーによる妥当性の検証が遅れたり、UIの全体的な点検作業が遅れたり、モンキーパッチが上手く動作していなかったりといったことが発生する。スタートアップはローンチ日が遅れる可能性を考慮にいれておくべきだろう。優秀なスタートアップは、事業を左右する重要な要素(例えば、資金調達や人材採用の強化)のタイミングとローンチのタイミングを慎重に考えている。

6. 解雇は素早く

採用のミスマッチはどのスタートアップにも起きる。良い人材だが採用する時期が早すぎた場合や企業に合わない人材を面接で見抜くことができずに採用した場合もある。覚えてほしいのは、スタートアップは俊敏であるべきだということ。ミスマッチが起きた理由は関係ない。軌道修正することの方が大事だ。合わない人材が速やかにオフィスから去ることで、他のチームメンバーが失敗を認識し、そこから挽回して前に進むことができる。

7. 企業文化は作るべきだが、執着すべきではない

無料のドーナッツやランチタイムの肩のマッサージ、職場に犬を連れてくるといった制度は、スタートアップの看板を魅力的にするものである。しかしそれは、「今月のスタートアップ」特集に掲載する内容であって、対外的に会社を魅力的に見せるものに過ぎない。候補者を面接する際にも、自社を良く見せることができるものではある。しかし、このようなことは自社が重要としている価値観や企業のDNAから発生したものだけを取り入れるべきだろう。目標を明確にし、あとの実行はオフィスマネージャーに任せ、あなたはビジネスに注力することだ。

8. SWOT分析を自ら行い、全社に伝えること

私たちはスタートアップクライアントのマネジメントチームに対し、有用性が実証されている「SWOT分析」の強み、弱み、機会、脅威を用いて自社の分析を行うよう促している。それぞれのメンバーがSWOT分析を行うと、各自の考える戦略に開きがあることが分かる場合が良くある。SWOT分析自体は50年以上前から存在するものだが、マネジメントチームの中のそのような開きを埋めていき、物事の優先順位を共有することができるとても有用な手段だ。SWOT分析で得られたことを保存しておくのではなく、スタートアップでは社員の全員が共有できるように伝えることが重要だ。

9. 外部に委託するなら専門家に依頼すべき

ウェブデザイン、写真素材、ライティング、UIのデザインといったマーケティング部分をアウトソースする場合は、専門家に依頼すべきだ。アーリーステージのスタートアップは大手企業に依頼して、大企業の名前を背負った人と仕事すべきではない。新米のプレーヤーと仕事をする可能性が高いからだ。彼らに何かを教えたり、メンターになったりする時間はない。仕事を依頼するなら、専門家が担当することが保証される、特定の分野に特化した小さい企業に依頼すべきだろう。

10. 全てを検証すること

スタートアップのマーケティングというのは、賢明な推測と検証が全てだ。そして、それを何回も繰り返すことだ。プロダクトの価格設定や、無料ダウンロードのボタンの色まで、ウェブサイトの全ての要素はテスト対象であり、フィードバックに基づいて検証し、変更を加えるべきものだ。ただし、おおっぴらに検証中だという言うのは聞こえが悪いので、パイロット版だと言う方が良いだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

4月30日を「インターネット独立記念日」に制定しよう

internetfreedom

編集部注:本稿の執筆者Daniel Berningerは、インターネットの構築に尽力した人々からなる団体、Tech Innovatorsの委員。他のメンバーにはBob Metcalfe、Bryan Martin、Charlie Giancarlo、Dave Farber、George Gilder、Jeff Pulver、John Gilmore、John Perry Barlow、Les Vadasz、Mark Cuban、Michael Robertson、Ray Ozzie、Tom Evslin、およびTim Draperがいる。

この4月はインターネット商用化20周年にあたるが、皮肉なことに同月、FCCの新たなオープンインターネット規則が正式に発表され、インターネットに低迷と曖昧性の象徴である公共事業モデルを適用しようとしている。同規約は、1934年の独占電話事業のために作られた方法で当局がインターネットを規制することによって、インターネットが守るべき “permissionless innovation”[自由なイノベーション]を潰そうとするものである。

過去20年間にインターネットがもたらした成功は、1991年、当時の上院議院アル・ゴアによる高性能コンピューティング法案の成立とともに動きだした。そしてそれは史上最も成功した法案の一つであることが実証された。議会は、今あるインターネットの現実と、その商用化がいかに日々の生活を変化させたかを認識し、4月30日を「インターネット独立記念日」に制定すべきである。

インターネット独立記念日の制定は、インターネットの民間セクターフレームワークを維持する超党派的立法のチャンスでもある。

現在アメリカ人は、90年代に1500万人のインターネット早期利用者たちが頼りにしていたダイアルアップモデムより、1000倍改善された体験を享受している。今日インターネットは30億人を結び、様々なサービスの普及によって、通信手段の選択肢は1995年の長距離通話のはるか先を行く。

音声通話のために作られた1930年代の法律を導入することが答にならないことは明白である。改めて言うが、FCCの新しいインターネットルールは、今日のインターネットを作り上げたポリシーを完全否定するものだ。FCCの”Title II”条項が求める公共事業モデルは、180度の方向転換であり、非常に稀薄な根拠に依存し20年間の進歩を危険にさらす。

他の電話タイプの規制は例外なく停滞をもたらしている。インターネットを電話ネットワーク規制の対象にすることによる、不明確な利益と明確な意図せぬ結果は、大衆によるコミュニケーションを不必要な危険にさらす。

恣意的な規制権力の介入は、FCCのWheeler委員長の言う「人間史上最も強力なネットワーク」 ― 即ちFCC介入のないネットワーク ― を作るのに必要な起業家精神エネルギーにとって致命傷となるだろう。事実、この法律はこの重大な決定の権限を、連邦議会のみに与えている。

この命令は現在のインターネットを事実上崩壊させ、市場をコンテンツ会社、インターネットプロバイダー、およびエンドユーザーという縦割りへと分解する。この種の、電話ネットワークの「長距離通話」や「地域内通話」のような恣意的区分がイノベーションを不可能にするのは間違いない。

要するに、これらのルールは助言的意見に拘束力を持たせないまま、法の執行を可能にする。インターネットにおけるプライバシーとサイバーセキュリティーの行く末は未だに全くわからない。しかもFCCは、彼らが新ルールを適用するか否かの判断を下すだけでなく、定義を変更することでインターネットが電話ネットワークのように変わるわけではないとも主張している。

法廷闘争を続けることは、その結果によらずインターネットエコシステムを危機に暴す。議会が80年前の規制フレームワークの可能性を考えるよりも、現在の状況と問題に取り組むべきであることに議論の余地はない。

20年間にわさる疑いようもない成功は明白だ。インターネット独立記念日が、われわれにとって過去を認識し未来の計画を正しく策定する助けになることを願っている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

テック系スタートアップに便乗した食品バブルが到来する

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編集部記:Robyn Metcalfeは、オースティンのテキサス大学の食物史家で、また同大学でThe Food Labのディレクターを務める。科学的、文化的な探求に魅了され、食品システムの検証とイノベーションを起こしている。

1851年、チャールズ・マッケイは600ページにも及ぶ大作、「Memoirs of Extraordinary Popular Delusions and the Madness of Crowds(邦題:狂気とバブル―なぜ人は集団になると愚行に走るのか )」を記した。本の中で、彼は86の経済バブルについて説明している。例えば、バブルが弾け、投機した何千もの人が多額の資金を失った17世紀のチューリップバブルや18世紀の南海泡沫事件などが取り上げている。マッケイは、このような経済現象は人の執拗で無謀な行動が引き起こしているとした。

同じようなことが、食品業界でも起きようとしている。誰もが食品関連のスタートアップという新しい波に乗ろうと先を争っている。これはバブルの予兆だろう。残念なことにベンチャーキャピタリストは、一般のスタートアップに対して行うようなデューデリジェンスを食品系スタートアップには行っていないようだ。

食料品配送のためのクラウドベースシステムを提供するFreshRealmのCEO、Michael Lippoldもふくらむ懸念を共有している。2013年の12月、購入した食料品を配送するサービスを提供するサンフランシスコのInsacartは20億ドルの評価を受け、2億2000万ドルを調達した。2014年のInsacartの収益はおよそ1億ドルだった。

投資家は食料関連ビジネスを加速するテクノロジーに注意を払うべきだ

Instacartは収益を出している方だ。急増する食品関連スタートアップの多くはまだ収益を生み出していない。Deliverooはイギリスの食料品配送を行うスタートアップで、1億ドルの評価額を得て、2500万ドルの資金を調達したが収益は僅か1万ドル程度だった。このリストは更に続く。

2014年にはベンチャーキャピタルは全体で 480億ドル を投資し、食品関連スタートアップも潤っている。これは2000年以降の最高値である。水資源や農耕に適した土地は足りていないにも関わらず、資金だけが溢れている状況だ。

ただ、食品に関連するイノベーションは喜ぶべきことでもある。食品の啓蒙活動を行う人も、起業家も、投資家も、技術提供者も人々の食生活を見直し、向上するために動いている。マクドナルドさえ、この動きに加わろうとしている。ファーストフードは、もう「ファースト」を追求することはなくなった。彼らは、カジュアルで地域に根付き、自然環境に配慮することで、今まさに動き出した注目の集まる市場に加わろうとしている。起業家は経済を成長させるための原動力となる。この業界は成長を欲している。

これから来るだろう食品バブルは、他のバブルとの違いを理解するのが難しくなる要因がいくつかある。

このバブルは、既存のテック系スタートアップバブルと組み込まれていて、その中で拡大している。幻想は感染する。テック系スタートアップは過大評価されることで、食料関連のコミュニティーの評価も上がるが、本当に食品配送サービスの評価が妥当なものなのか、あるいはテクノロジーだけが過大評価されているかの線引は難しい。

今の食品関連スタートアップは、テクノロジーと食品を組み合わせものだが、投資家は食料関連ビジネスを加速するテクノロジーに注意を払うべきだ。これからくるバブルは、今までの当たり前が移り変わる時代の将来が不透明な中、弱い経済成長に乗ってやってくることでさらに複雑さを増すだろう。

テクノロジー分野での過大評価は食品系スタートアップ自体にも影響を及ぼしている。過大評価されている食品系スタートアップは他のテック系スタートアップとさほど変わらない。同じ材料で作られているからだ。若く輝かしいリーダー、誰も理解していないが急成長を遂げている分野、そして完璧に整えられれたアイディアをピッチする舞台が整っている。

食品系スタートアップが、一般的なテック系スタートアップと違う所は、食品を扱うことで人と食品の間の感情的な関係に踏み入れていることだ。プロダクトが醜ければ、人は安全だと感じない。食品を扱う場合、食品の生産から流通のアイデンティティとなる部分を考慮に入れる必要もある。これらの関連性を甘く見積ることは、市場に受け入れる準備があり、プロダクトを支えるテクノロジーがいかに優れていたとしても、破綻に直結するだろう。

また食品に関連するビジネスを立ち上げる者の多くは食品業界での経験に欠けている。農業を行っていたり、食品の流通に携わっていたり、美味しい食品を作る術を知る者はほとんどいない。彼らと食品との接点は全員が食事を摂るということのみだ。それだけで食品系スタートアップを立ち上げる資格があるようだ。

食品システムの経験がある人をアドバイザリーボードに起用しなくても良いのか?必ずしも必要ではないかもしれない。今後の食品システムは既存のものとはまるで異なるのかもしれないからだ。それには既存の農業、食品、飲料の業界の外から違うアイディアを持ち込む必要があるだろう。しかし新しくスタートを切る中で、経験の乏しさはどのように捉えるべきかは検討すべきだ。

アイディアは多いほど、予期せぬ改革を受け入れる準備が整う。想像もしなかったつながりの構築と破壊が地球上のより多くの食卓に健康的な食事を届けることになる。

多くの食品系スタートアップはスケールすることを好まないし、ビジネスを収益化することさえ避けているようだ。起業家にどのようにビジネスをスケールする予定かと尋ねると、ほとんどがそのようなことは考えていないと答える。食品関連のスタートアップを起業した者の中には、ビジネスを大きくすることは悪だ、あるいは倫理的でない、更には工業的で恐ろしいことだとする者もいる。中には、少量で高単価の価格帯が理にかなうビジネスを展開し、自営業やスモールビジネスで満足している者もいる。

自分の手で作った生鮮食品を扱って、信頼関係を築いていくことは魅力的なことではある。職人気質なのも悪いことではないが、これが「次の大きな流れ」と捉えるべきかどうかには慎重になるべきだ。それは食品を扱うスモールビジネスにすぎない。立派な仕事だ。しかし、革新的かと問われれば、そうではないかもしれない。

食品バブルの準備を整えておこう。マッケイの幻想的な行動に対する警告には耳を傾けるべきだが、スタートアップの台頭も快く受け入れるべきだろう。食品システムを改革する新しい種となり、開花することを期待しよう。

アイディアは多いほど、予期せぬ改革を受け入れる準備が整う。想像もしなかったつながりの構築と破壊が地球上のより多くの食卓に健康的な食事を届けることになる。今日の食品系スタートアップがマッケイの言う「今日の小さな喜び」を感じるバブルの初期段階であろうと、全ての起業家は新しいコラボレーションビジネス文化に貢献し、誰もが健康的な食品を手に入れられる未来を期待する。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

ビットコインとウォール街が繰り広げる愛憎劇

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編集部記:Phillip Kimは、ビットコインウォレット事業ビットコインの決済処理を行うSnapcardのマーケティングアナリストだ。

「最初は無視をする。」

最初の数年間、ウォール街は反応を示さなかった。The Wall Street Journalは、2011年6月のブログ投稿 までビットコインに触れることはなかった。ビットコインのコミュニティーはアメリカの金融を支配する者達のデジタル通貨に対する反応を待った。有力なビットコインの支持者や熱狂的なファンは、彼らが反応を示さない理由について憶測した。ビットコインを真に受けていないから反応がないのでは?ビットコインの潜在的な力に恐れおののいているのでは?一時的なトレンドだと考えて気に留めていないのでは?ビットコインが主流となるのを避ける手立てを考えているのでは?確かなのは、ウォール街は彼らの仕事を奪う可能性のある新しい技術について無知では無かったということだ。

2013年の12月、Bank of America Merrill Lynchはアメリカの銀行の中で初めてビットコインに関する報告書を発表し、事態は動きを見せた。報告書の名称は「 Bitcoin: A First Assessment (ビットコイン:最初の考察)」だ。その中で、ビットコインについて「eコマースにおける主要な決済方法になりうる」と評し、さらに「既存の送金事業者と真っ向から対抗するものになりうる」とした。また「ビットコインが成長することは明白だ」と記し、ビットコインの利点についての包括的な分析が載せられた。

この報告書はウォール街が新しい技術を取り込むことを信仰者に少しだけ期待させた。JPMorgan Chaseが同じ月にビットコインに類似する独自の暗号通貨の 特許を申請したことも彼らの希望となった。

「やがて嫌悪に変わり、対決へと向かう。」

2014年1月、JPMorgan ChaseのCEOであるJamie Dimonは、ビットコインのファンではないと明言し、その希望をかき消した。そのすぐ後にも同社はビットコインを痛烈に批判する報告書を発表し、その中でビットコインは通貨の体を成していない「劣悪なもの」だと呼んだ。

Citigroupの通貨ストラテジストであるSteven Englanderは、クライアントに対しビットコインには3つの大きなリスクに直面していると伝えた。セキュリティの問題、他のデジタル通貨との競争、そして既存金融機関との競争だ。

Goldman Sachsもまたビットコインを報告書の中で攻撃した。「ビットコインの基盤となる決済テクノロジーは成功する可能性を秘めている」としつつも「通貨として機能することは不可能」とした。

3月には、Morgan StaleyのCEOであるJames P. Gormanはビットコインについて「完全に非現実的」と評し、私には理解できないと話した。これらの一連の出来事を受け、ビットコインの支持者はウォール街がテクノロジーを取り入れること以前にビットコインを真剣に受け止めることすらないと確信した。

しかし、すぐその後に事態は急転回する。Morgan StanleyのCEOがビットコインを批判した翌月の3月、同社はニューヨークでビットコインのイベントを開催したのだ。Citigroupは5月にビットコインはデビットカードやクレジットカードの発行元にとって脅威になると報告した。Deliotteはそれまでこの議論については言及していなかったが、2014年の6月の報告で「ビットコインが通貨の進化において次のステップになるのは自然だろう」と伝えた。

ビットコインに注目が集まる年

2015年1月、ニューヨーク証券取引所、USAA、BBVAとCitigroupのチーフエグゼクティブであるVikram Panditは、ビットコインのサービスプロバイダーのCoinbaseに出資すると発表し、世界に衝撃を与えた。その後Coinbaseはアメリカで初となる正式な取引所を開設した。数日後、CameronとTyler Winklevossは完全に統制されたコンプライアンスを順守するビットコイン取引のGeminiをニューヨークでローンチした。Geminiは「ビットコインのNasdaq」と呼ばれることもある。

3月には、NasdaqはNoble Marketsを支持するとし、既存の投資家が株の取引と同じようにデジタル通貨に投資できるツールを提供することを発表した。Goldman Sachsは同じ月、ビットコインは金融の未来を形作ると報告書で伝え、前年度から比べるとずいぶんと前向きな態度を示した。

公式な報告書より如実にビットコインを支持する風潮を感じるのは、ウォール街がデジタル通貨に精通した人を雇用する動きを見せていることだ。今年の1月、金融業界に特化した人材紹介会社であるGlocapはサンフランシスコのヘッジファンドでの「ビットコインのジュニアトレーダー」の役職の求人を掲載した。JP Morgan Chaseでも「ビットコインや他のデジタル通貨についての助言」ができる 人材を探していて、「将来的に有力金融機関で働くことに前向きな人」が最適だそうだ。当初はビットコインを金融システムへの脅威だと考えていなかったとしても、盛り上がりを見せる分野での優秀な人材の獲得では、他社に出し抜かれることはできないと気づいたようだ。

トレーダーは当初からビットコインに心酔している

新規雇用からもビットコインに惹かれていることが分かるが、権威ある金融企業のトレーダーはすでにビットコインに魅力を感じていたようだ。2012年には、ウォール街のトレーダー間でのビットコインの人気は高まっていて、Morgan StanleyやGoldman Sachsの従業員は、ビットコイン取引のウェブサイトに日に30回もアクセスしていた。

さらにウォール街の支持者たちはビットコインの認知度を高めるために集まった。2014年9月、Digital Currency Council がマンハッタンに設けられ、金融業界のプロ向けの教育、コンサルティング、トレーディングの提供が始まった。2015年3月、ウォール街の職員は「デジタル通貨時代にウォール街に提言するグループ」とするWall Street Bitcoin Allianceを結成した。

ウォール街が変化する環境に適応しようともがく中、有力な銀行員や役員の中には高名な仕事を辞め、ビットコイン企業へと行く者もいた。

2014年12月、JP Morgan Chaseのグローバル取引のリーダーを務めていたPaul Campは、デジタル通貨のウォレットサービスを展開する企業CircleのCFOに転身した。グローバルコモディティのリーダーを務めていたBlythe Mastersも同様にJPMorgan Chaseを2015年3月に去り、ビットコインの技術を活用して金融機関の取引の効率化を目指す Digital Asset HoldingsのCEOになった。4月にはMorgan StanleyでインベストメントマネージャーだったJacob Dieneltは、ビットコインの監査企業Factomの財務を率いる立場となった。業界のベテランがデジタル通貨へのパラダイムシフトを認識するほどにこのリストは続く

ビットコインとウォール街の明るい未来

先月、Noble Marketsに投資しているMatthew RoszakはInside Bitcoinsにこう話した。「ウォール街にあるホワイトボードでビットコインと書かれていないものなんて一つもない」。

ウォール街とビットコインの初対面での印象は決して良いものではなかったが、両者の関係は始まったばかりだ。両者は互いの足を引っ張るのではなく、高め合うことができるはずだ。ウォール街の影響力でビットコインを主流となるよう押し上げることができるだろうし、ビットコインは銀行が効率的で信頼できるサービスを提供することに役立つだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

テクノロジーがパッケージ化された商品やサービスを分解していく

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編集部記Joe McCannは、NodeSourceの共同ファウンダーでCEOだ。彼は、ハッカーで職人だ。ものを作ったり、壊したりする。ウェブ、モバイル、ソフトウェア開発において13年以上の経験を持つ。

私たちが生きる世界の全てのものは、何らかのパッケージの中にまとめられた状態になっている。テレビのチャンネルはスポート番組のESPNとアニメ番組のNickelodeonがパッケージになっているし、健康保険は雇用者が提供するパッケージの中にある。教育も、大学や学位に包まれて提供される。私たちは、パッケージ化された商品やサービスに囲まれすぎていて、それらを本来の単独の状態で得ることでもたらされる、柔軟性や価値を忘れてしまっている。

企業がパッケージを作るのにはいくつか理由がある。一つは、企業は顧客に彼らが欲しくもないものを売るために、本当に顧客が欲しいものと組み合わせて販売するためだ。例えば、アルバムの中に一曲しか良い曲はないが、その曲のためにアルバムを購入するといったことだ。まとめて販売するのが理にかなっていることもある。単独の商品やサービスを販売するための料金やその他の取引コストが高くなり、採算が取れない場合だ。

取引の流れがインターネットベースのテクノロジーで効率的になるほど、無意味な抱き合わせは消滅し、顧客は好きな物だけを選択できる柔軟性が生まれる。どの業界でも、このような既成概念を覆すサービスが増えている。エンターテイメントから、仕事の仕方から、法人向けテクノロジーといった全ての分野でそれは始まっているのだ。

アラカルトでの提供が進む

テレビを例にとってみよう。ケーブルテレビの様々な番組が詰まったパッケージを購入する代わりに、私たちは見たいチャネルや見たい番組だけ、更には見たい特定の番組の回だけを選ぶことができるようになった。今年は、インターネットにサブスクライブした視聴者が、ケーブルテレビにサブスクライブした視聴者を上回る重要な分岐点の年になる。このことは、パッケージかアラカルトかを選べる場合、コンシューマーは好きなものだけを購入できるアラカルトプランを選択するということを示唆している。

既存の組み合わせを解くことは、私たち個人への影響も大きい。例えば、健康保険だ。今まで職を失うということは、健康保険を失うことを意味していた。しかし今、医療保険が雇用主と紐づくあり方を解体するトレンドが生まれているのは周知の事実だ。このことは、雇用主がカスタマーなのではなく、病を患う全ての人がカスタマーになることを意味する。それを受け、ヘルスケアはカスタマーサービスであるという意識に変わってきている。個人は選択する自由と、それに伴い多くの選択肢 を手にいれた。

高等教育はどうだろうか。教育機関は異なるサービスをまとめて提供してきた。例えば、それは授業や寮生活、アスリート教育といったことだが、それらをひとまとめにした学費は高額だった。アラカルトの教育が可能になれば、一般的にとても高額な大学教育を選ばずとも教育が受けられるようになる。学科プログラムの費用の全てを賄えなくとも、必要な高等教育を受けることができるようになるのだ。Khan AcademyGeneral Assemblyの学生はコースごとに受講することができる。ハーバード大学やエール大学もオンライン修了書の提供を始めた。教育水準の高い教育機関も小分けの教育を提供することで得られる価値に気がついていることを示唆している。

総合的なサービスからマイクロサービスへー小さい方が良い

既存のひとまとめのものを小分けにすることは、テック業界に変革をもたらしている。既存の統一された巨大なものをイノベーションが起こしやすい簡単に扱える大きさのユニットに分ける動きが加速している。マクロレベルでは、テクノロジー企業の荷解きが始まった。eBayとPayPalは友好的に別れ、Dellは大胆な施策を打つために身軽なプライベート企業となった。一方Symantecは、2つのプライベート企業に分社した。

大規模な会社を小分けにする作業は、社内の小さいレベルでの既存のあり方を見直す作業を促進する。特に年季の入ったコードの重たいソフトウェア設計によって発生する問題の解決へと向かうだろう。かつては主力技術だったとしても、メンテナンスするのが困難ということは、 その企業が技術的な負債を積み上げてきたということに他ならない。才能ある開発者の仕事を阻み、結果的に革新を起こすことから遠ざかっている。

巨大企業にとって既存のものを紐解く施策を行うことが変化を呼び込み、停滞から脱することにつながる。身軽な競合他社と張り合うのにも役立つだろう。革新的なスタートアップは、旧来の技術に固執することで積み上がる技術的な負債やそれに伴う官僚的な開発プロセスに縛られることはないのだ。

旧来の技術から脱却することで、企業に才能ある人材を引き寄せて留めることにもつながるだろう。多くの開発者は、何百万行にも及ぶコードで構成されたJavaのアプリをメンテナンスすることは好まない。Javaや.Netといった過去の技術に依存している企業にとってこのようなことは良くある話だ。対してPaypalは、2014年だけで、400人ものJavaScript開発者を採用したが、一人も技術的な負債に苛まれることはなかった。

全ての企業がテクノロジー企業になる

モノリス的な構造を解くことで、実際に多くのメリットが得られるのは明白だ。それはどの業界にもあてはまる。コンシューマーにとってパッケージを解くことは、柔軟性と選択肢をもたらすことを意味する。自分が欲しい商品やサービスだけを購入することができるからだ。企業にとって既存の方法を解くことは、イノベーションを起こすのに重要な施策となる。

今の時代、全ての企業がテクノロジー企業であると言っても過言ではない。どのようなビジネスであろうと、テクノロジーはあなたのビジネス、あるいは競合他社のいずれかに利益をもたらすことになる。広範な総合サービスや旧来に技術から離れることで、企業はスタートアップのような軽快さと柔軟さを取り戻すことにつながるだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

企業にデジタル戦略は要らない。必要なのは、デジタル企業に転換すること

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編集部記 :Tom GoodwinはHavas Mediaで戦略イノベーションを担当するシニアバイスプレジデントだ。

2015年現在、企業がデジタル戦略やモバイル戦略を考えることは滑稽に思える。本当に必要なのは、今の時代に則したビジネス戦略だ。Uberは交通ビジネスの再発明し、Instagramは写真の役回りを変革し、Netflixは動画コンテンツのあり方を刷新した。これらの企業に共通することは、ビジネスの中枢にデジタルの考え方を持ち込んだことだ。デジタルはただのツールではない。

Tesla、Instacart、Hotel Tonight、Twitter、BuzzFeedやWhatsAppに至るまで、高い成長率と利益率を誇り、評価されている輝かしい企業のいずれもが、たった一つのことだけを考えてきた。それは、いかにして「今の時代」に則するかということだ。

これらの企業は、人々が今までとは違う全く新しい行動習慣を身につけた世界に誕生し、最新テクノロジーに触発され、新しい市場のダイナミックスの中で開花してきた。同じ分野に存在した既存の企業は眼中にない。かつてそれらの企業を潤した、同じ要素、資産、知識、学習能力を超え、彼らは急成長する力を手にした。

「私たちが形作ったツールは、その内私たちを形作ることになる。」マーシャル・マクルーハンの有名な言葉は、今の時代のビジネスを表すぴったりの言葉だ。これらの企業は、現代においてスマートフォンが全ての物とつながる最も重要な接点であり、現代はそこから生まれた豊富なつながりの中で、人々の注意を奪い合う時代であると理解している。お金を含めた全ての物がデジタルになり、利益はインターフェイスから生まれ、物理的な物と従業員が資産となった。現代では、効率的な方法で人々に最高の顧客体験を提供することがビジネスを成功させる条件である。

これらの企業は最新テクノロジーが全てを作り、全ての企業と人がテクノロジーのもたらす無限の可能性を認知する重要性を理解している。しかし、世界は過去から学ぶのが得意ではない。新しいテクノロジーというものは、私たちの生活の基盤に溶け込むものだということを忘れてしまう。

例えば産業革命の後、電気はどこでも利用できるようになったが、電気は一晩にして世界に変革をもらしたのではない。何十年もかけて徐々に浸透し、世界を変えていったのだ。電気は最初、既存の物を少し良くするために、部分的に使われていた。工場では一つの電気モーターを導入し、固定の場所に据えられた機械にゴムベルトで動力を伝えていた。

今こそ、当時の電気の使い方について助言することができるが、それは過去を振り帰った時にしか分からない。20数年余りが経過してようやく、人々は電気が全ての中核となることを理解し、電気によって可能になることと、それをどのように実現できるかが分かった。電気の本当の効果は、工業のあり方を根底から覆したことにある。従業員を減らし、24時間機械を回して新製品を作り出すことができるようになった。最も重要なのは、これにより燃料のある場所に縛られることなく、従業員を人口の集まる場所や港などの拠点に配置することができるようになったことだ。

2015年の現在、電気を宣伝する広告代理店はないし、どの企業も電気戦略を掲げたり、電気担当役員を据えたりしない。全員が使うものだと考えているからだ。なぜデジタルに対してはそのように扱わないのか?

テクノロジーはビジネスを加速させるための燃料ではない。テクノロジーは、ビジネスに変革をもたらすアイディアを育てる酸素そのものだ。現代のビジネスは、人々の新しい行動習慣に着目し、最新技術で可能となることを見据えた上で、自社のビジネスを根幹から見直す必要がある。銀行は現代に則した役回りを果たすべきだし、スポーツジムはテクノロジーを駆使して人々の健康をサポートするパートナーになるべきで、自動車製造業は交通ソリューションを提供するようになるべきだろう。なぜ、通信会社がWhatsAppを発明しなかったのか?なぜ、GMがUberを、KodakがInstagramを、BlockbusterがNetflixを発明できなかったのか?

デジタルへの移行はデジタル部門だけの問題ではないし、モバイル戦略担当が会社を救ってくれることもないだろう。取って付けたような部門が、デジタルに無頓着の企業を市場のリーダーに押し上げることはできない。これは、全ての企業が身につけなければならない哲学であると言える。物理的な商品を扱う小売業を営んでいるのなら隣の商店より優れたアプリを制作するのではなく、ユーザーが商品を購入するまでの一連の工程を見直す所から始めるべきだろう。それは、配達や返品への対応、そしてユーザーがサービスを利用し終わるまでの間にユーザーとどのように関係を築いていくかということまで含まれる。

ホテルを運営しているのなら、テクノロジーを今の時代に相応しいもてなしやその人に最適なサービスを提供するために利用すべきだ。例えば、スタッフはフロントに常駐するのではなく、iPadを持たせて接客を行うようにするなど、フリーランスやリモートワークする人が増える将来のことを見据え、ホテルの役割について考え直すことができる。

レンタカー事業を展開するHertzはテクノロジーを活かしきれていない一つの例だ。アプリからはレンタカーを予約することができ、デジタルディスプレイの特集にはゴールドメンバーである私の車が掲載されることもあるが、それだけだ。

レンタカーの予約の時間と場所を変更するには、面倒なことに電話をしなければならない。アップグレードしたい場合でも、車を借りる時に何時間にも感じる手続きをしなければならない。テクノロジーを事業とより深く連携させた場合、例えばiBeaconを使用してアップグレードの提案を表示し、ユーザーがスワイプ一つで承認することができるようにすることもできるだろう。最新テクノロジーを活用し、借りた場所以外の店舗でも車を返せる彼らのワンウェイレンタカービジネスをより魅力を与えることができる。所有する多くの車を上手く活用することで数時間単位のレンタルも可能となる。テクノロジーを部分的に使うのではなく、このような施策を実施することで持っている資産を有効活用し、利益を劇的上げることが可能になるだろう。

デジタル担当やデジタル部門は不要だ。「デジタル」という言葉さえ、過去の遺物である。企業は、変革の時代にいることを認識し、テクノロジーがもたらす可能性と脅威を鑑みた上で近い将来の自社の立ち位置について検討すべきだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

起業したい女性は、今すぐにでも起業すべき

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編集部記:Zoe Barryは、デジタルヘルススタートアップのZappRxのファウンダーCEOである。

シリコンバレーで女性がテック企業を始める割合は、驚くほど低い。たったの3%だ。女性がCEOを務めるプライベート企業は全体の6.5%で、女性がファウンダーの企業は僅か1.3%だ。女性が歴史上初めて、学士及び博士課程を修了する割合が半数を上回ったのに、なぜ未だにこのような状況なのだろうか?

落胆を禁じ得ない数字や、最近のニュースを賑わせたEllen PaoとKleiner Perkinsの裁判で浮き彫りになった性差の問題の他に注目すべき良いニュースもある。テック業界にいる女性は、素晴らしい仕事をしていて、それに注目が集まっている。最近のデータから、女性が率いるテック企業のほうが、資本を効率的に回し、投資額に対するリターンが35%も高いことがわかった。ベンチャーキャピタルの取引でも2013年前半には女性リーダーの企業が13%を占めるようになった。2004年時点ではたったの4%だった。言い変えれば、投資家が女性リーダーの企業に投資する魅力に気がついたということだ。

私は、ベンチャーキャピタルから投資を受けたデジタルヘルスケアスタートアップを一人で創業した女性CEOだ。仕事の中でテック業界での女性の扱いが良い方向に向かっていることを実感している。私より以前にこの業界にいた女性たちの悲惨な状況とは違ってきているのだ。そして女性が起業するのに完璧なタイミングが来ていると感じるようになった。

女性でも優れたリーダーになれる

Marissa Mayer、Sheryl SandberやGinni Romettyのように重役に就き、Fortune 500の有名企業を率いてる女性の存在は衝撃的だ。彼女らのリーダーシップとそれによって得たステータスは、女性が重役に付くイメージを定着させ、テック業界、さらには他の業界でも女性をリーダーに起用する必要性を訴えている。

そして嬉しいことに、彼女らほど輝かしい立場でない女性でも素晴らしい仕事を成し遂げて、際立ったリーダーシップを発揮していることも分かった。Harvard Business Reviewに掲載された2011年の研究 では、職場の男性と女性の仕事ぶりを評価している。

どの役職レベルでも、女性の方が同僚、上司、部下、そして仕事で関係する人からの評価が比較対象となる男性より高かった。役職レベルが高いほど、その差は開いていった。そして注目すべきは、どの役職レベルでも、リーダーシップの発揮に関連する16の能力のうち、12の能力で女性の方が高い評価を得ていたことだ。その中でも、主導権を持つことと結果を追求することの2つの能力においては最も大きな差が見られた。このような能力は男性特有の能力であると考えられてきた。

女性は家にいるもので、役員会議とは縁遠いと長いこと思われていたことを考えると、この情報はとても興味深いもので希望を感じる。女性起業家の背中を押すには、これ以上ない変革のタイミングである。

女性が率いるビジネスに成功の兆し

驚くべきことではないかもしれないが、優れた女性が舵を取ることで、興味深いことが起きる。女性がリーダーの企業は、典型的な男性リーダーの比較となる企業より成長率が高いのだ。収益が1000万ドル以上の規模の女性リーダーの企業は過去10年間で、56.6%成長していた。全ての1000万ドル以上の規模の企業と比較するとそれは47%早い計算になる。

女性をリーダーシップを発揮するポジションに据えることが、会社の成功にとって重要な要素であるようだ。役員に女性が2人以下のスタートアップの失敗する確率は50.3%だが、5人以上の女性が重要なポジションにいる企業の成功確率は61%に跳ね上がる。

ヘルスケアの分野では、特に女性が重要な役割を果たすようになってきた。それは役員クラスでも一般社員でも変わらない。医療や健康関連のサービスのマネージャーの73%が女性であり、女性がそれらの企業を代表する立場になった。ここ十年の間で高い収益を上げる、女性リーターのヘルスケアや社会保障に関連する企業の数は3倍になり、さらに成長を続けている。 それらの企業全体では54.9%の成長が見られ、1000万ドル以上の収益規模の企業に至っては183%の成長が見られた。

ヘルスケア分野にアメリカ国内の注目を集まる中、才能ある女性リーダーが数多く台頭し、アメリカの健康とウェルネスの新時代を築くことになるだろう。

ベンチャーキャピタルが起こす雪だるま効果

女性が率いる企業が成功するほど、ベンチャーキャピタルの関心が集まり、更なる成長を促すことになる。ドットコムバブルの間、女性が率いるビジネスに投資するベンチャーキャピタルは最低水準だった。1997年から2000年の間にアメリカ国内で投資された資金のたった6%しか投資されなかったのだ。しかし、2000年から2011年の間のその数字は41%まで伸びた。

この事と、女性リーダーのテック企業が男性リーダーのテック企業より12%も高い収益を上げている事実もある。成長が約束されていることが分かるだろう。

女性が率いる企業に投資したベンチャーキャピタルがそのリターンを得られれば、さらに投資に積極的になる。転がりだした雪だるまを止めることは難しいので、この流れは更に加速するだろう。

女性が女性を支援する動きが始まった

女性起業家が、若くて経験の少ない女性起業家を支援する活動が今までになく活発になってきた。例えば、私には成長と成功を得るのに大きな影響を与えたメンターがいた。私はこの感謝の気持ちを次の起業家を教えることで表したいと思う。

ここ数年、私は100万ドルを調達した若い女性起業家のメンターを引き受けていた。彼女のスタートアップは、Forbes30のUnder 30に名を連ねた。素晴らしいことに女性テック起業家の80%にメンターがいるそうだ。私の経験から言うと、メンターの存在は将来、成功する確率を高めると考えている。

女性リーダーの企業や良い企業に投資したい女性投資家も増えている。役員や取締役会に女性を入れる企業も増えるだろう。なぜなら、数字は嘘をつかない。女性が決定権を持った時の成功の確率は数字で出ている。テック業界に女性が増えることで、メンターとのつながりも充実することだろう。今、若い女性起業家が最初の会社を立ち上げるのに盛り上がっていて最適な時期でないと言うなら、いつそのような時代がくると言うのだろうか?

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

小規模スタートアップの買収が次のトレンドになる理由

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編集部記:Amit Pakaは、クリエイティブな写真ネットワークをiOSで提供するParableの共同ファウンダーである。以前彼は、StubHub-eBayによる買収されたFlokishを設立し、Paypalではモバイルペイメントのためのプロダクトを率いた。Microsoftで商品開発を行った経験も持つ。

最近Pinterestが二人だけで運営するスタートアップを買収したことがニュースになり、どういうことだろうと頭を悩ませた人もいると思う。しかし、これは当たり前の流れになりそうだ。KoseiやHike Labsの小規模なスタートアップの買収は、Pinterestのコンテンツの配信力を強化するために行われた。Pinterestのこの動きを、他の企業も取り入れるべきだ。

Pinterest

今までテック企業は、確立したプロダクトを持ち、収益が上がることを証明したスタートアップの買収しか行ってこなかった。そのようなスタートアップは何百人もの従業員と何億ドルもの資本金を抱えている。しかし、ここ数年で投資の関心はどんどん小さなチームに向けられるようになった。アクイハイヤ、つまり雇用目的とは違う流れが加速している。

Facebook、Google、Twitter、Apple、LinkedIn、更にeBayまでもが、この流れを作っている。息を吹き返したMicrosoftも、長いこと何億ドル規模の取引にしか関心がなかったものの、Liveloop、Sunrise、Accompliの買収でこの流れに乗ってきた。

Microsoft

ソフトウェアのプロダクトをリリースするコストは急速に下がったが、その間にもディストリビューションチャネルは増え続けている。Appleに特集されたParableアプリを例に取ってみても、このアプリは私ともう一人で構成されるたった二人のチームが数ヶ月の間に制作し、全世界の人に向けてローンチしたものだ。このようなことは10年前は不可能だった。企業は、自社のサービスを補強できるプロダクトを早い段階から評価するようになり、その結果、完全に準備が整っていないプロダクトでもそれを開発したチームを早めに獲得しようとする動きを見せている。

結果的に小規模なマイクロチームの買収が活発になり、これ以上ない面白い時代が到来しようとしている。私はこのような買収を「ブースター買収」と呼ぶ。実績が無かったとしても、既に確立されたプロダクトを補強(ブースト)する目的で、プロダクトとチームの買収を行うことからそう名づけた。

更に多くの企業がこの流れに加わるべきだろう。

プロダクト開発

プロダクトの開発は確かに簡単になったが、良いプロダクトを開発するのは難しい。それは大企業の中で新しいプロダクトを作る場合も同じだ。企業は実験を繰り返しても、市場に参入するのが遅かったり、その分野で成功するためのノウハウがなかったり、間違ったアイディアに大きな賭けをしてしまうことがある。例えばGoogle Waveを覚えているだろうか?

Twitter

マイクロチームとそのプロダクトを自社のポートフォリオに加える場合はどうだろうか。そのチームはその分野の専門家であるし、実行力において社内で新しくプロダクトを作る場合より優れているだろう。ビジネスの面においても、そのようなチームを社内に迎えリソースを補充する方が理にかなっている。

多くの注目を集めたTwitterのPeriscopeVineの買収もプロダクトがローンチされる前に行われた。Twitterのネットワークの基盤を得ることで、3人チームのVine、そして10人チームのPeriscopeのどちらも他の企業が試してきたアイディアでも成功を収めることができた。それと引き換えにTwitterは、クリエイティブな動画とライブストリーミングの大ヒットアプリを割安で手に入れることができたのだ。

才能ある人材の獲得

優秀な人材の奪い合いは、シリコンバレーを象徴するものだ。企業に必要な才能を持つ人材が、適切なタイミングで会社に参加した時、ビジネスが急加速することを誰もが知っている。例えば、eBayが私のスタートアップFlockishを買収してからまもなく、年間3000万ドルだったモバイルのチケット予約の事業は10倍になった。買収でマイクロチームの専門的な才能を最大限発揮することができる。彼らはプロダクトを開発する中で、その分野の専門的な知識を身につけてきた。新しい人を採用した場合と比べると、学習曲線の大部分を削減できることを意味する。彼らの経験値はプロダクティビティを何倍にもするだろう。この状態で、買収側が提供できるリソースと合わされば、どうなるかを考えてほしい。

Facebook

InstagramはLumaの買収で、今にも芽吹きそうだったカメラスタビライザー技術を持つ3人のチームを手に入れることだった。このチームは、 Instagramの魅力を高めるのに欠かせないHyperlapseアプリの開発に必要不可欠だった。

コストはどうか

それなりの規模のスタートアップの買収となると、たいていシリーズB以降、4000万ドル以上の資金調達を行った企業になる。その時点での評価額を考えると、決して安くない買い物だ。規模が大きいほど、ビジネス面と統合面でのリスクが増える。

マイクロチームは、たいていシリーズB以前の規模で、1000万ドル以下の資金調達を行っている程度だ。シードラウンドのチームなら、調達した数百万ドルで運営している規模の所もあるだろう。小さなプロダクトを持つ小さなチームなら、統合するのも難しくない。更に企業戦略としてもマイクロチームの合理性を見出すことができる。競合他社が手に入れることや、将来的にそのスタートアップが競合になることを防ぐことができることを考えれば、バーゲン価格だ。

プロダクトが失敗して買収側に負担があったとしても、自社内で制作した場合とそう変わらないだろう。少なくとも、素晴らしいチームは手元に残る。

熱量の効用

最後に熱量を手にすることの利点を話したい。スタートアップを始めた最初の数人は、本物のリスクテイカーで、根本的に他の人と違う考え方をしている。どんな目標も達成できないことはないし、どんな困難も乗り越えられないことはないと考えている。このマインドは、冷めてしまった会社を定期的に活気づけるのに最も必要なものだ。

インスピレーションがもたらす健康的な衝撃は、買収側のチームのモラルとプロダクティビティを活発にする。Andy Rubinと彼の不屈のチームを忘れることはできない。Androidを作った8人のチームをGoogleは5000万ドルで買収した。AndyがDangerで培った「絶対無理なんて、絶対言わない」精神が、GoogleがほかのOEMに屈せず、今日のAndroidの立ち位置を作ることに貢献した。

Google

一つだけ確かなことがある。買収対象のチームは更に小さくなるだろう。問題は、企業がどれだけ早くこの「ブースター企業」をM&A戦略に入れ、競合他社より先に、有望な取引を取り付けていく土壌を築けるかにかかっている。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

大企業は近づく「モバイルゲドン」に対応しているか?

Ready For Mobile Search?

(編集部注:Brad EwaldはBoulder Marketing Technologyのプリンシパル兼ファウンダー)

Googleは4月21日、自身がモバイルフレンドリーであると判定するサイトをモバイル検索にて優先するように、アルゴリズムに変更を加えるようになっている(「ハルマゲドン」にちなんで「モバイルゲドン」と呼ばれる。#Mobilegeddonのハッシュタグもある)。

モバイルフレンドリーであるためには、ブラウザ画面のサイズに応じて異なるレイアウトを表示する必要がある。ウェブへのアクセスにモバイルデバイスが用いられる比率が上がり続けている昨今にあって、「モバイルフレンドリー」なサイトを優先するというGoogleの方針は確かに意味のあることだろう。

2013年に行われたPure Oxygen Labsの調査によると、Fortune 100企業の3分の2がモバイルフレンドリーではなかったようだ。時は流れてモバイルゲドンも間近に迫った今日、そうした大企業はどのような対策をとっており、そして検索結果にどのような影響を及ぼすことになるのか調べてみようと考えた。

私たちが調査をしたのはフォーチュン500に名を連ねる企業だ。GoogleのPageSpeed Insights APIを用いて各サイトをクロールし、モバイルフレンドリーであるのかどうかを確認した。4月21日の段階で、検索アルゴリズムによりペナライズされる可能性があるサイトがどの程度あるものなのかを調査してみたわけだ。

結果、モバイルゲドンが非常に深刻な影響を及ぼしそうであることがわかった。すなわち、フォーチュン500企業のウェブサイトのうち44%がテストに不合格だった。ちなみに4%からはレスポンスが得られなかった。レスポンスが得られなかったサイトは、GoogleやBingなどのウェブボットからのアクセスを拒否しているケースが多いようだ。

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モバイルフレンドリーとは何か。SEOへの影響はあるのか。

モバイルデバイスの利用率がPCを凌駕するに従い、モバイル版のサイトをもたない企業がある種の不利益を被っていることは間違いない。Googleもこの流れに応じてモバイルフレンドリーなサイトを有利に扱うことを発表し、アルゴリズムの変更点を明らかにしている。詳細についてはたとえばモバイル検索に関するGoogleのブログ記事などに記されている。

モバイルフレンドリーなサイトとは、簡単にいえばブラウザの画面サイズに応じてレイアウトを変化させるサイトのことだ。サイトによってはPC版とは別にモバイルフレンドリーなサイトを用意しているところもある。しかし趨勢としては「レスポンシブデザイン」化することが求められている。

レスポンシブデザイン化したサイトでは、ブラウザの画面サイズに応じてコンテンツの表示方式がダイナミックに変化することとなる。たとえば画面サイズによってカラム数やメニューのレイアウト、画像の表示方法などが変化するわけだ。PC版と別にモバイル版を用意するのと比較して、レスポンシブデザインの方が新しいタイプのデバイスにも柔軟に対応することができ、またメンテナンスも容易となる。そしてSEO面でも効率的であるといえる。

モバイルフレンドリーであるかどうかのテスト方法

Googleは、指定したサイトをGoogleがモバイルフレンドリーであると判断するかどうかを示すモバイルフレンドリーテストというツールを用意している。あるいは、ブラウザのウィンドウサイズを変えてみるというだけでも、ある程度は理解できるかもしれない。ウィンドウを小さくしたときに、表示スタイルが変わるようであれば、サイトはレスポンシブであるのだろう。表示されているテキストやメニューが隠れてしまうようであれば、そのサイトはレスポンシブでないということになる。あるいはmobiletest.meでは、さまざまなデバイス上での見え方をエミュレートしたりできるようにもなっている。

SEOリスク ― 大企業もモバイルゲドンは影響するのか

モバイルフレンドリーにしないことで、どのようなペナルティーが課されるのかについてはドキュメントもいろいろと公開されている(TechCrunchにも関連記事が投稿されている)。対応方法についても各所で明らかにされている。しかし、フォーチュン500のような大企業については、そもそも知らない人などほとんどいないわけで、検索エンジンのアルゴリズムに対応する必要などないのではないかと考える人もいるだろう。また、IBMのようにウェブボットのアクセスを拒否しているところもある。さらにこうした大企業のサイトは膨大な数の被リンク(有料のものやオーガニックなもの)がある。SEO作業などはサイトランキングにほとんど影響を及ぼさない可能性もある。ただ、ネット上の消費行動はますますモバイルにシフトしつつあるのは確かであり、検索エンジンを意識せずとも、モバイルフレンドリー化をすすめる必要があるのは間違いないことであるように思われる(尚、ウェブボットを拒否するIBMのサイトはツールによる測定はできなかったが、画面サイズ変更による調査ではモバイルフレンドリーであることがわかった)。

私たちの行った調査で良いスコアを得たトップ20のサイトは以下の通り。

Top 20 Mobile Friendly Fortune 500

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(翻訳:Maeda, H

iOS上にApple純正の「キッズモード」が搭載されればこんな感じかと考えてみた

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編集部注:本稿執筆者はEric Elia。プロダクトデザインおよび開発業務を行うCainkadeのマネージング・ディレクターを務めている。

Googleにとって「YouTube Kids」は成功といって良いプロダクトであるように思える。レビュー数や評価の面からみても、人気を集めそうな気配だ。ペアレンタルコントロールのツールを用いてスクリーンタイムを設定するまでもなく、子供たちのYouTube利用時間を制限したり、あるいは怪しげなコンテンツを閲覧することを防ぐことができる。

機能制限がついただけでなく、AmazonのKindle FreeTimeや、キャラクターがたくさん登場するNetflixのキッズメニュー風のインタフェースを用意しているのも人気の秘訣だろう。先行アプリケーションのアイデアなども借りつつ、簡単で面白いデザインを実現している。但し、気になる点がないわけではない。

すなわち、iOSにおいてはアプリケーション側からは制御できない機能が存在するのだ。たとえばソフトウェア的にホームボタンの動作を無効にすることはできない。子供たちはホームボタンを押して他のアプリケーションを立ち上げ、そして時間を忘れて遊び続けることになるかもしれない。

こうした面からのニーズを考えるに、Apple自身がiOSの「キッズ・モード」を用意してはどうかと思うのだがどうだろうか。どんなアプリケーションを使うかに関わらず、子供たちの利用状況をコントロールできるようになれば喜ぶ保護者も多いのではないかと思われる。私自身も子供を持つ身であり、子供がテクノロジーに触れる機会は提供したいと考えている。ただ、いろいろと苦労することなくちょっとした制限を行いたいと思っているのだ。

そんなわけで、CainkadeではiOS 8にフィットする形で「キッズ・モード」を実現するデザインを考案してみた。実現したいと考えた主要な機能は以下の通りだ。

  • 親の指定した特定のアプリケーションのみにアクセスすることができる。
  • アプリケーション横断的に、利用時間を制限することができる。
  • キッズ・モードを簡単には解除できないようにする。
  • ホームスクリーンにはわかりやすく、シンプルなアイコンを表示する。
  • 複数のプロフィールを作成でき、プロフィール毎に細かな設定ができるようにする。

デザイン面では次のようなことを意識した。

  • キッズ・モードの実現にぜひとも必要であると考える点以外については、iOSのデザインを最大限に尊重する。
  • 通常の使用感から外れることがないように心がける。
  • キッズ・モード利用中に、親の操作が必要となるような場面を極力作らないようにする。
  • 親が子供にiPhoneないしiPadを渡し、そして子供がそれを自由に操作するというユースケースに適したものを作成する。

ちなみに、デザインの現場ではiPhoneをコンセプトデバイスとして利用した。しかし同様のデザインはiPadにも適用できるはずだ。

ホーム画面

下に表示したホーム画面では、3人の子供それぞれのプロフィールアイコンが表示されている。Len、Nicky、そしてSarahの3人だ。もちろんアイコンの画像や色は変更できるようになっている。それぞれの子供が利用できるプログラムを指定するには、プログラムのアイコンをそれぞれのプロフィールアイコンの上にドロップする。すなわち、このプロフィールアイコンは動作可能アプリケーションを保持するフォルダーとして機能するわけだ。

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Sarah用ホームスクリーン

以下の画像はSarahのホームスクリーンとなっている。アプリケーションは通常と同様の方法で起動することができる。壁紙は設定メニューにてカスタマイズできる。

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アプリケーションの動作

アプリケーションの利用感については、従来から変わらない。下の画像で示しているToca Hair Salon 2も従来通りに動作する。ただし、指定した利用時間を超過すると…

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Source: Toca Hair Salon 2

時間制限

信号機の画像が表示されて、時間切れであることを示すようになっている。このように、子供に対する通知には文章ではなく、なるべくグラフィックを用いるようにしようと考えた。とくに指定しなければ、全体用に指定した時間制限がすべてのアプリケーションに適用されるようになっている。

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時間延長?

保護者が必要性を認めた場合には時間を延長することもできる。延長設定の画面では、延長時間を指定して、そしてパスコードを入力する。時間延長に必要となるパスワードは、両親の責任にて秘密にしておく必要がある。

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len用のホームスクリーン

こちらではホームスクリーンの壁紙が自分の写真になっている。この中に入っているアプリケーションを、複数の子供の間で共有させたい場合もあるだろう。

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アプリケーションの共有

iOSの標準機能では、アプリケーションのショートカットをいろいろな場所に保存しておくことはできないようになっている。しかしキッズモードでは、自身のプロフィールにしかアクセスできないわけで、アプリケーションのアイコンを複数利用できるようにする必要がある。

操作が子供には少々むずかしいかもしれないが、しかし子供も本機能にアクセスできるようにした。この機能をキッズモードの中から使えるようにするか、それともキッズモードの設定画面(保護者が操作する)のみで利用できるようにするかは悩んだ。しかし標準的なドラッグ&ドロップ操作でアプリケーションを管理できるようにすることで、結局は一番使いやすいものになりそうだと考えた。

操作するには、まずアイコンを長押しする。すると通常の場合と同様に、アイコンが震え出すことになる。このときに再度アイコンをおさえるようにすれば、アイコンを他のプロフィールの上にドラッグ&ドロップできるようになる。

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共有オプション

プログラムアイコンを他のプロフィールの上にドラッグしていくと、プログラムを移動させるのか、それとも複製するのかが尋ねられることになる。

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複製

複製しようとして、すでにターゲットのプロフィール内に存在する場合には、単純にエラーメッセージが表示されることとなる。

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設定

プライバシー設定や通知機能の設定を一箇所で行っているように、共通となる基本設定はまとめて行えるようにしている。アプリケーション側からも細かい設定は行えるようになっている。個別の設定は下にあるプロフィールアイコンをタップすることで行う。

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カスタマイズ

プロフィール毎のカスタム設定画面では、名前を指定したり、壁紙やアプリケーションのアイコンを設定することができる。さらにデフォルトの制限時間設定もこちらで行う。ウォールペーパーにカラーやテクスチャーを利用する場合には、名前のイニシャルが壁紙上に表示されることになる。

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壁紙

既存の写真を壁紙として用いるのならば、保存されている写真を壁紙に指定する。

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カラーによる塗りつぶしないしテクスチャーを壁紙として利用する場合は、下のような画面から選ぶことになる。

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カメラアプリケーションのフィルタリング機能のような感じで、各カラー背景とテクスチャーをミックスして利用することもできる。iOS 8の標準的な機能のみを使っても、少々遊べるところだ。

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完成したホーム画面は下のようになる。

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時間制限

制限時間の指定は標準的なインタフェースを通じて行い、ここでアラートのサウンドも選ぶことができる。

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以上が、私たちのチームが考えてみたキッズ用インタフェースの例だ。こうした機能が将来のiOSに実装されれば面白いと考えている。ちなみに掲載したデザインはクリエイティブコモンズのCC BY 4.0で公開するので、適切な条件のもとで自由にお使いいただきたい。あるいはBeerwareライセンスで扱っていただいても結構だ。

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(翻訳:Maeda, H

UberやAirbnbのレビューはどこまで信用して良いものなのか?

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編集部記: Aimee Millwoodは、Yotpo blogでEコマースマーケティング、グロース、エンゲージメントを担当している。

レビューは私達の生活の全てに影響を与えている。それは、そのブランドを信頼するかどうか、何を購入するか、何を食べるか、更にはどうやって旅行するかなど様々な分野に及んでいる。オンラインでのレビューは、1980年から2000年代生まれのミレニアル世代の私にとって、何かを決めるための重要な要素となっている。Yelpが誕生した頃、私はティーンネイジャーにもなっていなかった。それから10年が経過し、レビューはオンラインでのコンシューマーの立ち位置を大きく変えた。レストランでの食事客、タクシーの搭乗客、自宅のゲストさえレビューを行うようになったことで、将来はどのように変わるのだろうか?

シェアリングエコノミーで「信頼」は通貨となった

Uberが搭乗客に対して無断でレビューを行っていたというニュースから、相互評価のレビューシステムに注目が集まった。もちろん、このようなシステムを採用しているのはUberだけでなく、LyftやAirbnbでもプラットフォームの信頼を構築するのに用いられてきた。

相互評価とシェアリングエコノミーは、 互いに手を取り発展してきた。他人と何かをシェアするには信頼関係が必要不可欠だ。そしてオンラインにおける「信頼」とはその人の過去の取った態度や行動のレビューに基づく。シェアリングエコノミーでの「信頼」は通貨ほど重要なものであり、レビューはそれを得るために必要なものとなった。

相互評価には利点がある。サービスの透明性を保ち、人々は誠実になり、評価はシステム全体の改善にもつながる。Lyftの搭乗客は、車に乗る前にドライバーが信用に値する人物であるかを知る権利があるし、同様にドライバーも搭乗客がタクシーの呼び出しをキャンセルした過去がないかを知る権利がある。Airbnbのゲストだったら、旅先の家が自身のニーズに合っているかを知る必要があるし、ホスト側もゲストが家を汚したような過去がないかを知る必要がある。

Uberのニュースが出た時、搭乗客の多くはレビューされていることを知らなかった。その事実と共にレビューの基準が開示されていないことにも腹を立てた。主観的なレビューは危険であるし、事態を悪化させるだろう。決められた基準もないのに、どのように評価すると言うのだろうか?何がA判定に値するか分からずに学校が生徒に成績を付けるようなものだ。5つ星が何を意味しているか分からないのでは、評価はできない。

「5つ星」が平均だと思われるようになってしまったら、星の価値は崩壊していると言える。

シェアリングエコノミーでは信頼を得るために相互評価が必要かもしれないが、だからといって全てのビジネスにおいてそれが適切だとは限らない。eBayのレビューを思い出してほしい。彼らは2008年まで相互評価を取り入れていた。しかし、eBayはこのレビューシステムに大きな問題点をみつけた。商品に対して料金を支払っているカスタマーは、自身がレビューされることに疑問を感じたのだ。

「お客様は神様です」の文句と通じる所があるかもしれない。eBayの場合は、顧客は20ドルを支払って商品を受取る。商品の対価として料金を支払う取引を行っている。このようなビジネスでは購入者と販売者との線引が明確だ。しかし、シェアリングエコノミーでは、この線引が曖昧になる。シェアリングエコノミーでは、ドライバーはUberのサービスに対価を支払っているし、搭乗客はタクシーに対価を支払っているので、全員がレビューの対象となるのだ。

相互評価が持つリスク

Boston University の研究者は、相互評価が全体の評価に与える影響に注目した。彼らは、相互評価のシステムの無いTripAdvisorとそのシステムを採用するAirbnbのどちらにも掲載されている物件を比較検討した。この研究では、Airbnbに掲載されている物件の方がTripAdvisorに掲載されている同じ物件よりも評価が14%高いことが分かった。

これは、星での評価では僅かな開きだったとしても、業界全体で見ると大変な開きであることが分かる。例えば、ホテルを探している人が5つ星より3つ星の物件を選ぶ確率は3倍低い 。Eコマースでは、3つ星の商品より4つ星の商品は 11.6倍の注文を受ける

何がこの開きを生んでいるのだろうか?社会的な圧力が働いていることが考えられる。オープンな相互評価システムの場合、相手から良いレビューが欲しいがために相手に対して良いレビューを書くことが考えられる。また、自分を良く見せたいために良いレビューを書くことだってあるだろう。例えばAirbnbのゲストだったら、宿泊した部屋の冷房が壊れていたり、冷蔵庫が綺麗でなかったとしても、自分に対して悪いレビューを受けたくないがために5つ星のレビューを書くことも大いに有り得る。

Airbnbはこの問題に気づき、どちらのレビューも提出されてから、あるいは滞在が終わってから14日後以降にしかレビューを公開しないようにシステムを変更した。しかし、この施策ではもう一つの要素を低減させることは難しい。人は良く見られたいという思いがある。社会的な場では、匿名でない限り、人は他人の悪いことを言いたがらない。誰も、あの人はいつも批判していて、クレームを際限なく言う人だと思われたくないのだ。

誰もがみんな5つ星ではない

Uberで3つ星未満のドライバーを見ることはない。だからといって、Uberには3つ星ドライバーがいないということではない。多くの人は平均的なドライバーのはずだ。「5つ星」が平均だと思われるようになってしまったら、星の価値は崩壊していると言える。

完璧な5星のレビューにサービスの問題点を探すのは、一見矛盾しているように感じるが、完璧なフィードバックの中からでも貴重な意見を掬い取ることができる証拠である。

ビジネスやサービスを提供している側は、評価は彼らが提供するものを正確に反映していることを忘れ、評価を上げることだけに執着してしまっている。ここでの最大の問題は、Airbnb、Uber、Lyftのようなサービスにおけるレビューは必ずしも信用できるものではないということだ。「5つ星」が主観でしかなく、サービスを提供する側は良い評価がないと仕事が得られず、顧客も良い評価がないとサービスを受けらないのなら、企業も顧客も評価を高めるのに躍起になるだろう。

ネガティブなレビューに対する偏見

相互評価のシステムが上手く機能するには、確立しなければならないことが3つある。1つ目は、全員が評価の明快な基準を認識すること。2つ目は、Airbnbの教訓に学び、レビューが反撃のために利用されないこと。それには、ネガティブなレビューを投稿したい場合は、匿名でも良いようにするといった施策が必要だ。そして忘れてはいけないのは、ネガティブなレビューに対する偏見をなくすということだ。

ネガティブなレビューに対する恐怖が最大の問題なのだ。ネガティブなレビューは良い効果をもたらすこともあり、悪いこととは限らない。各ブランドは星だけの評価にとらわれないでほしい。 Nordstromは、素晴らしい取り組みを行った。5つ星のレビューだけを分析して、隠されたユーザーの思いを読み取り、事業の改善に役立てることができたのだ。完璧な5つ星のレビューにサービスの問題点を探すのは、一見矛盾しているように感じるが、完璧なフィードバックの中からでも貴重な意見を掬い取ることができる証拠である。

レビューを長期に渡って機能させるには、星での評価から進まなくてはならない。明確な基準を設定し、社会的圧力を受けずに誰もが公平だと感じるシステムを構築する必要があるだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

オープンソースのスタートアップが失敗する本当の理由

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編集部注:Alex FreedlandはMirantisの共同ファウンダー・会長でOpenStack Foundationのボードメンバー。

Nebulaのサービス終了にまつわる最近のニュースは、OpenStack市場の現状が原因でOpenStackスタートアップが苦戦しているという憶測を呼んだ。中にはOpenStackドリームは「生命維持」状態だと主張する記事さえある。

これは真実にほど遠い。現実はと言えば、オープンソースの世界で勝つためには、現在のテクノロジーに投資している多くのVCが知っているものとは大幅に異なる戦略が必要だということだ。

2011年の夏、Mirantisはオープンソース基盤技術のコンサルタントを行う150人のIT企業だった。

われわれは仕事で何回かOpenStackと遭遇し、それを支えるコミュニティーの勢いを見て全面参加する決断を下した。事業を早期に立ち上げるために、われわれはCloudscalingのRandy Biasに連絡を取った。CloudscalingはOpenStackサービスのスタートアップで、OpenStackディストリビューションを作るためのシリーズAラウンドを終えたばかりだった。

「われわれは資金を調達し、今は自分たちの製品を作ることがすべてだ」と彼は言った。「InternapのためにOpenStackをデプロイする商談がある ― 君のところにわが社の下請けをする人員はいるか?」

これはわれわれにとって初めての純粋なOpenStackプロジェクであり、こうしてサービスに焦中することによって、Randyが当初Cloudscalingで目指していたOpenStack製品会社へとわれわれが成長するための基盤づくりとなった。

しかしRandyにとって、VCラウンドを立ち上げることは全く異なる旅の始まりだった。投資家たちにガイダンスに従い、Randyは好調だった数百万ドルのクラウドコンサルタント事業を解体し、Cloudscaling OpenStackを開発した。それはサービスに飢えたOpenStack市場を満足させるには、まだ早すぎる不完全な製品だった。

3年後、RandyはRed Hatが1億ドル近くをeNovanceに支払うのを見た。eNovanceは2011年のCloudscalingと殆ど変わらない規模のOpenStackコンサルタント会社だった。昨年会社を売り、EMC Corporationという静かな海で船の上陸に成功したRandyに心から称賛の拍手を送りたい。

CloudscalingとNebulaはどこで道を誤ったのだろう?彼らは間違った脚本を使ったのだ。典型的なIPベース企業の脚本はこんな具合に進む。

  • 一人の天才エンジニアが、差別化できるテクノロジーを作る。ファウンダーとセールスチームが山ほどの契約を取ってきてテクノロジーを実証する
  • 会社は、既存流通チャネルを持つ企業に数百万ドルで売られる、あるいは、
  • IPOのために大きな調達ラウンドを何度も行って自ら流通チャネルを構築する。

この脚本はイノベーション市場で通用する。VCたちは差別化テクノロジーを部分所有することで、そのテクノロジーに需要が起きた時それをテコに収益化する。

オープンソースエコシステム市場は、挙動が異なるため全く異なる脚本が必要になる。そこでは差別化要因は自分たちが作るテクノロジーの中にはない。それはいつの間にか長い時間をかけて徐々に蓄積された専門技術の中にある。成功した新規参入者はみな(Red Hat、Cloudera、Hortonworks等)同じ脚本に沿っている。こんな具合に進む:

  • エコシステムの周辺でサービス契約を販売し、顧客分析データを取得する
  • 自分のビジネスが依存しているコードベースに直接寄与することによって、対応する上流コミュニティーへの影響力拡大に注力する(OpenStackでは、誰が貢献して誰が貢献していないかを、Stackalyticsで容易に見ることができる
  • 教育プログラムを提供する
  • テクノロジーの商品パッケージを追加する
  • オプション:そのテクノロジーの上流あるいは周辺に付加価値を構築する

オープンソース企業の設立には、卓越した運用能力と持久力が必要であり、VMwareを倒すビジョンを持った天才ハッカーだけでは足りない。イノベーション脚本で会社を運営するスタートアップとVCは失敗し、専門知識に集中する ― 即ちオープンソース脚本 ― スタートアップやVCが成功する。これが、OpenStack分野でわれわれが目撃したことだ。

迫り来るOpenStackの死というニュースは、大きな見出しにはなるがそこにはエコシステムの現状理解が欠けている。真実を見れば、企業の売上や顧客満足度は着実に伸びている。Red Hat、Mirantis、HP、IBM、Huawei、およびCiscoは、それぞれ独自バージョンのOpenStackを販売して成功を収めている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

モバイルさえ飲み込むVR/AR市場、2020年には1500億ドルの市場規模に

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編集部記 :Tim Merelは、Digi-Capitalのマネージングディレクターである。

仮想現実(VR)と拡張現実(AR)はとてもエキサイティングな分野だ。Google Glassが一時の脚光を浴びて去っていき、FacebookはOculusを20億ドルで買収し、GoogleはMagic Leapに5億4200万ドルを投じた。MicrosoftにはHoloLensがあるのも忘れてはいけない。現在、アーリーステージのプラットフォームやアプリが登場しているが2015年における拡張現実と仮想現実の市場は、言うなればiPhoneが登場する前のスマートフォン市場に似ている。誰かがプレゼンで「最後にもう一つ」と言って、みんなを説得してしまうような「これぞ未来!」と思えるものの発表を心待ちにしている。

今の時点でVR/ARの市場規模を数値的に表すのは難しい。分析できるほどの情報が集まっていないからだ。この記事では成長方法についても記述していくが、以下の分析結果は来年以降VR/ARが新しい市場を育てる可能性、そして既存の市場を吸収する可能性についての予測をベースとしている。

ARは火星から、VRは金星からやってきた

VRとAR、双方とも高解像度の3D映像とステレオ音響を再生できるヘッドセットがつきものだが、VRとARには大きな違いがある。 VRは閉鎖的で没入する空間を提供するのに対し、ARは部分的に没入する形で、空間も開放されている。つまり、ARを見ながら周囲を見たり、ARを透かして見ることができる。VRでは仮想空間の中にユーザーが入り込むが、ARはユーザーのいる現実世界に部分的に仮想空間を当て込み、拡張する。

些細な違いだと思うかもしれないが、この違いこそARをVR、そしてスマートフォン、タブレット市場を凌駕する存在に押し上げるかもしれない。Apple、Google、Microsoft、Facebookなどの企業から、そのヒントがいくつか出ている。

それぞれの得意分野は?

VRはゲームや3D映画に向いている。そもそもそれ用に開発されたのだ。ただしVRでの体験は、自宅のリビングルームやオフィスで、座って体験するのが前提条件だ。周りが見えないヘッドセットを街中で着けて歩いていたら、色々な物にぶつかってしまう。この技術はとても素晴らしいものであることは間違いなく、何千万というゲームコンソールやPC、MMOゲーム愛好者、2D映画より3D映画が好きな人がVRの登場を待ち望んでいる。さらには、医療、軍関係、教育といったニッチな分野の法人ユーザーもこの技術に関心を寄せている。すでにUnity、Valve、Razerといった先行する企業のサービスに、アプリやゲームのエコシステムが出来つつある。

ARのゲームも楽しいだろうが、完全な没入感を味わえるVRほどではないかもしれない。これはモバイルゲーム対コンソールゲームの違いのようだと言える。ゲーマーにとっては弱点ともいえるこのARの特徴は、反対に言えば、私たちの生活におけるモバイルのような役回りとなり、何億人ものユーザーを獲得できる可能性がある。ARは、いつでも、何をしていても体験することができるのだ。VRがコンソール(例えば、Oculus)を装着するのに対し、ARは半透明なモバイルデバイス(Magic Leap、HoloLens)を装着するのに似ている。

メガネ型スマホ

ARは様々な分野を横断しているモバイルのような役目になるだろう。そして、まだ見ぬサービスを媒介するようにもなるだろう。例えばARを、ARを通じた「aコマース」(電子商取引を表すeコマース、モバイルコマースを表すmコマースの新たな従兄弟分だ。)、通話、ウェブの閲覧、従来の2Dと3Dでの映画やテレビのストリーミング、法人向けアプリ、広告、コンシューマーアプリ、ゲーム、テーマパークの乗り物などに活用できるだろう。今のAR技術でのデモではゲームが大きく取り上げられているが、ゲームユーザーはARの潜在的なユーザーの一部に過ぎない。分野ごとの分析はここから見てほしい。

どの程度のお金になるのか

私たちは2020年までにAR/VRの市場は1500億ドル規模になると予測している。ARが一番多くの割合を占めるだろう。私たちはARは1200億ドル規模、VRは300億ドル規模であると予測した。

ARVR Forecast

どこからこの金額が生まれるのか?

VRの主要市場はゲームと3D映画、そしてニッチな法人ユーザーから構成されると私たちは考えている。VRはコンソールゲームと同じくらいの価格で手に入り、想定ユーザー数は何千万人規模となる。コンシューマー向けのソフトウェアとサービス市場は、既存のゲーム、映画、テーマパークと類似するようになると予想した。通話や通信市場はVRでは、大きく拓かれることはないと考えた。法人からの価値ある収入は見込めるだろうが、通話や通信はARに取り込まれると考えている。

ARの市場は、スマートフォンやタブレット市場に類似するだろう。ハードウェアの価格は、既存のスマートフォンやタブレット程度で、ユーザー数は億単位に上ると予測した。ハードウェアを製作するメーカーに大規模な収益が見込まれるだろう。

ARのソフトウェアとサービス市場は現在のモバイル市場と似てくるだろう。どちらも他の市場を吸収しながら成長していく。ARのユーザーベースは、テレビや映画、法人、広告、FacebookやUberやClash of Clansといったゲームなどのコンシューマー向けアプリを製作する者にとって重要な収入源となる。AmazonやAlibabaにとってはマスに商品を訴求できる全く新しいプラットフォームに映るはずだ。このような企業、そしてこれから市場に参入するであろう革新的なアプリの登場によって、モバイルの通話と通信ネットワークを展開するビジネスは巨万の富を得ることとなる。誰かがモバイルデータの送受信のために料金を支払う必要があるのだ。

2016年からの各セクターにおける成長予測の詳細は ここから確認できる。下の図は、2020年の市場がどのようになっているかの予想を表したものだ。私たちは継続的にデータを集め、より正確な予測を随時出していく予定だ。この市場の行く末について議論が活性化することを期待している。

ARVR 2020

現実的な問題

仮想空間の実現には課題もまだある。VRのアプリで乗り物酔いを起こす人もいるし、Google Glassはプライバシーの問題で多くの批判と議論を巻き起こした。この分野の市場が現実のものとなるためには、まだ技術的な改良が必要であるし、さらに社会に受け入れられるために解決しなければならない問題もある。

最後にもう一つ

巨大企業の道筋にはそれぞれ利点と欠点がある。FacebookはOculusに先行投資したことでVRでは勝利を収めることができるかもしれないが、より大きい市場となるであろうARを物にすることはできないかもしれない。GoogleはGoogle Glassの教訓を持ってMagic Leapの可能性に投資した。MicrosoftはHololensで一度Appleに奪われた栄光を取り戻すことができるかもしれない。そしてAppleに関しては、プレゼンで「最後にもう一つ」と言い出す日を心待ちにしている。

全分析結果はここから見てほしい。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

セキュリティが気になるならオンプレミスよりクラウドを選ぶべき

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一般的に、自社のデータセンターはオンプレミスの方が安全でセキュリティが高いと言われてきた。しかし、ここ2年の間に起きた情報漏洩の事件を思い出してほしい。例えば、AnthemSony、 JPMorganやTargetの事件だ。これらは全てオンプレミスのデータセンターからの情報漏洩でクラウドからではなかった。

クラウドサービスの管理が行き届いているなら、自社のデータセンターよりクラウド上の情報の方が安全だと言えるだろう。なぜなら、Amazon、Google、SalesforceやBoxはセキュリティ対策に尽力している。セキュリティの穴はビジネス全体に大打撃を与えることを理解しているからだ。

クラウドサービスを提供する会社から、情報漏洩に関する大事件を聞かないのはそれが理由だろう。クラウドからの情報漏洩で思い当たるのはジェニファー・ローレンスの写真の漏洩やその他セレブに関するものだが、オンプレミスでのハッキング行為ほど注目を集め、大規模な問題に発展した情報漏洩をクラウドでは聞いたことがない。

管理する側の感覚の問題もあるだろう。オンプレミスのデーターセンターの方が安全なように感じるのだ。だが、本当にそうなのだろうか?

どちらの方が安全か

第一にクラウドサービスを提供する企業に比べ、いくつかの例外を除き、ほとんどの企業はセキリティ対策にリソースを費やしていない。

彼らの本業はセキュリティ対策とは関連が薄いのだ。少なくとも直接的には関係していない。CEOにとっても大抵の場合、セキュリティ対策が最優先事項ではない。注目を浴びるほど大規模にハッキングされることは恥ずかしく、経済的な損失も大きいが、彼らの本業はお客様にサービスや商品を提供することなのだ。

David Cowanは、Bessemer Venture Partnersで90年代からセキュリティ関連企業に投資を行っている。彼曰く、多くの企業はセキュリティについて考えておらず、Sonyも例外ではなかったと言う。

「Sonyも最新技術を活用したビジネスを行っていますが、SonyはGoogleやAmazonではないのです。彼らは、映画を作り、映画を作ることに卓越した人たちを採用しています。彼らの事業の根幹はそこにあるのです。データや認証やセキュリティについては考えていないのです。」

Cowanは、だからと言ってクラウドの方が安全だとは言い切れないが、GoogleやAmazonのようにクラウドサービスを提供してきた経験のある会社のサービスの方が既存のデータセンターより安全である可能性は高いと言う。多様なクラウドサービスがある今、それぞれのセキュリティへの対応レベルが異なっているのが問題であるとも話した。

「GoogleやAmazonに全ての情報を置いてはいません。複数のサイトに分散して置いています」と彼は言った。そして問題は、それぞれのサービスのセキュリティレベルが同じではないということを指摘した。

データの権限は誰にあるのか?

クラウドコンピューティングの問題の一つは、誰がデータの権限を持っているかということだ。もし行政がやってきて情報開示を求めたら、クラウドサービスを提供する企業は、ユーザーが開示してほしくない場合でも情報を提供しなければならないのだろうか。ここのルールはまだ明確ではない。いくつかのクラウドサービスのベンダーはこの問題に取り組んでいる。

数ヶ月前、BoxはEnterprise Key Managementというプロダクトをリリースした。これを利用する法人は情報の権限を全て掌握できるこようになる。Boxに置いた情報は、暗号化キーを保有しているオーナーにしか利用することができない。つまりBoxは、行政に情報開示を求められても、全て暗号化されているため、情報を提供することはできない。行政は直接ユーザーに情報開示を要請する必要がある。

Cowanがクラウドサービスのセキュリティについて指摘したように、全てのクラウドサービスがBoxのような機能を備えているわけではない。このような機能がない場合、事態は混迷する。Googleのようなクラウドサービスは、常にユーザーの情報開示を求められていて、Googleは会社としてどのように対応していくかを検討しなければならない。

Electronic Frontier Foundationは、オンラインベンダーが行政の要請を受けた場合のユーザーへのサポート体制についての年間報告書を公表した。全てではないが、ほとんどのサービスが情報を開示するには令状が必要だ。しかし残念ながら、過去の報告書を見ると全てに適応しているとは言えない。2013年の報告書でもこのことが確認できる。

EFFは、主なクラウドサービスの暗号化の状況を知ることのできる年間報告書も作成している。ユーザーのデータの保存時と送受信時にどれだけ守られているかを知ることができる。

データを分散させる

Sonyでの情報漏洩事件について考えてみよう。Sonyのシステムは一つに集約されていたため、ハッカーがSonyのセキュリティを突破して、Eメール、公開前の映画、さらにはパートナーシップ契約の内容まで何でも手にすることができた。ひどい話だ。もしデータが複数のクラウドサービス上に分散していたのなら、1つのサービスに侵入されたとしても、失うのはそのサービスに保管されている情報だけになる。

私は、昨年のTechCrunch Disrupt San FranciscoのStartup AlleyでCloudAlloyという会社と話をした。彼らはリスクを分散させるというアイディアを形にしている。CloudAlloyは、ファイルをパーツに分け、それぞれを複数の異なるサーバーに保存することを考えた。ファイルを開きたいときは、サーバーに分散されたファイルを呼び出す。この方法でもファイルを開くのに遅滞はなく、ハッカーが一つのサーバーに侵入したとしてもそこにあるのはファイルの一部分で、その情報には意味がないということになる。

データの保管場所を分散させておくことで、1つの保管場所がハックされたとしても、全てのデータが奪われる危険性が低くなる。このアプローチはとても理にかなっている。

しかし、どのアプローチにおいても人が介在している限り、抜け穴がないとは限らない。問題は必ず起きるのだ。ハッカーは、フィッシング詐欺組織を作ったり、強力な攻撃を行ったりすることで、個人のアカウントをハックできることがジェニファー・ローレンスの事件で証明された。

自社保有のデータセンターにも弱点があり、オンサイトでデータを保持していることが安全であるとは限らない。むしろ危険だと言える。クラウドは、今ある選択肢の中で最も希望のあるものだ。クラウドコンピューティングが誕生したその日から、クラウドに向けられた批判はセキュリティ面に関してだったことを考えると、皮肉な状況と言える。しかし今の所、クラウドが一番安全であり、ここに賭けるべきだということには変わりない。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

ポルノとセックスは別物。インターネットはもっと「セックス」を許容すべきだ

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「Meerkatの特殊機能を最大限活用しているのは、おそらくアマチュア・ポルノ写真家である」、とThe Economistは冷やかに観察してMeerkat対Periscopeの戦いの分析を終えた。「ポルノには新たなビデオテクノロジーを促進してきた長い歴史がある」。たしかに。ポルノは常にテクノロジーの先端にいる。しかし、セックスはどうか?

数ヵ月前、私はCindy Gallopと同席した。広告の達人からセックス・テクノロジー・スタートアップのファウンダーに転じ、数年前にTED史上最も記憶に残るトークを披露した女性だ(そして世界最高のTwitter bio欄を持つ)。Gallopは彼女以外に殆ど誰も信じていない破壊的概念を訴えようとした。「IT業界、およびインターネット全般は、もっとセックスを許容すべきである」。

おそらく殆ど矛盾語法のように感じるだろう。何しろ、インターネットにセックスが蔓延していることは誰もが知っている。”Rule 34″[あらゆる存在にはそのポルノが存在する]。Alexaのグローバルサイト・トップ500見て、ポルノを流布しているものがいくつあるか数えてみてほしい。

…しかしあれは〈ポルノ〉だ。Gallopは、インターネット ― そしてIT業界全体 ― がもっと〈セックス〉を扱うべきだと頑なに信じている。両者は決して同じではない。セックスは厄介で楽しくて衝動的で私的だ。ポルノはそのいずれでもない。セックスの前には、熱烈な同意と性病予防と避妊がある、あるいはあるべきだ。ポルノにはどれもない。セックスは人間に関わるものである。ポルノは概して体に関わる傾向にある。

そこに何か間違いがあるということではない。Gallopのスローガンの一つは、「ポルノ賛成。セックス賛成。違いを知ることに賛成」である。これは若い人々が混乱する違いだ。彼女はこう言う。「ポルノと性教育の間には埋められていない大きな隙間がある…今や子供たちは6~8歳でポルノに遭遇し始める[もっと早い場合もある]。だから彼女の『トーク』は、『セックスは本来そんなものではない』を強調する(このNew York Times同じテーマの記事も参照されたい)。

ポルノではない性的コンテンツ(およびセックス関連テクノロジー)を要求することが、そんなに過激だろうか? ある意味、イエスだ。インターネット ― およびIT業界全体 ― は事実上2つの孤立した領地に分極している:「ポルノ」対「非性的コンテンツ」だ。両者の中間には殆どあるいは全く入る隙がない。ごくわずかでも性的なものは(一般に)ポルノと考えられ、「信用ある」会社からは汚れた物として扱われる。The Daily Beastがこう論ぢている:「現在のIT環境は、スタートアップとアプリに推進加速され、あらゆる分野において破壊が奨励されている ― セックスを除いて」。

Gallopの設立したスタートアップ、Make Love Not Pornは、社会的に許容され共有可能な性的コンテンツのためのプラットフォームを意図している ― そこにはコミュニティーが作った露骨な内容のコンテンツが大量に置かれている。しかし、「小さな文字で書かれた注意書きには『アダルト向けコンテンツはない』と書かれている」。彼女がサイトを立ち上げ運営するために外部インフラを設定するだけでも巨大な苦闘だった。支払い処理業者は彼女を拒否した。ビデオホスティングサイトは彼女を拒否した。誰一人として、どんな形にせよ性的コンテンツに関わりたがらない。

この問題を、大いに有害で大いに誤解されているポルノ業界の責任にするのは簡単だ。簡単だが、おそらく間違っている。私がGallopに、セックスが殆ど触れてはならないビジネス分野になっているのは、ポルノが水を汚したからなのか、それともわれわれの社会における、セックスに対するしばしば歪曲され、偽善的で、混乱した姿勢の問題なのかを尋ねたところ、彼女は一瞬もためらうことなく「後者」だと答えた。

そしてIT業界の殆どが、セックスに触れようともしない。「Marry Meekerはインターネットでナンバーワンの利用について語ろうとしない」とGallopは非難する、「それが紛れもなく膨大な金を生む分野」であるという事実があるにも関わらず。

うそだと思うなら、映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」の世界的大ヒットを見てほしい ― ひどく問題を抱えた作品であるにもかかわらずだ。クラウドファンドされたEvaを見てほしい。社会的に許容されたセックスは巨大な市場だ。さらに興味深いことに、それは巨大な〈新〉市場である。

Gallopは、ファウンダーにふさわしい大きな野望を持っている。「セックスのカーンアカデミー」になり、次に「セックスのY Combinator」になることだ。しかし、これは単なる野望ではなく個人的使命であることが彼女の話からわかる。「私は何千人もの人からメールを受取り、そこには彼らの生活で最も私的な部分が描かれている…私はこれに対して個人的責任を感じている」と彼女は言う。「私たちは人類の幸福に関わるビジネスをしている。恥かしさの撲滅を加速させたい」。高潔な目標である。業界全体が早く追いつくことを私は願う。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

テクノロジーはトルコを未来へとつなぐ道

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編集部注:本稿のライター、Metehan Oguzは、トルコ遺産団体評議員で、Oguz ConsultingのCEO。

IT情報通でも知らない人が多いかもしれないが、テクノロジーのリーダーとして出現しつつある新たな国がある。トルコの急速な経済成長は、世界的経済不況の中でさえ、堅牢な銀行システムから医療改革まであらゆるものを作ろうとする世界の何十という国々のモデルとなっている。この成長も注目に値するが、同国はさらに楽しみな時期への準備を整えた。IT企業と国産イノベーションの急増だ。

若い、「つながっている」世代によって、トルコは発明の発信源、および投資の標的になりつつある。国民の半数が30歳以下というトルコの推定大学卒業率は、イタリアを上回っている。人口の84%がモバイル機器を所有し、1100万人以上のトルコ人が今年初めてスマートフォンを買うと予想されている。最新データによると、トルコのFacebookユーザー数は3000万人以上で、これはフランスやドイツよりも多い。

若い世代とテクノロジーの急成長は、トルコが旧テクノロジーを飛び越していることを意味しており、多くの人々がバンキングやショッピングに、デスクトップではなくモバイル端末を利用している。トルコのEコマースにおけるモバイル端末利用は世界第3位で、トルコ人の400万人以上がモバイルバンキングを利用している。

企業は、国内外資を問わず、既にこの状況を利用している。昨年のトルコでトップ3の急成長企業は、モバイルあるいはネット支払いを柱にしている。国際的投資会社はトルコ企業の支援を始め、地元のエンジェル投資家やベンチャーキャピタル会社は既に新しいスタートアップを支援している

例えば、212 Cpital Partnersは最近3000万ドルの投資を行い、ドバイ拠点のAbraaj Groupは2007年以来トルコに8億ドル以上を投資して、現在5億ドルの同国専用ファンドを募集中だ。新しいスタートアップの多くは、日替りクーポン相乗りサービス食料品配達サービスのように、他で成功を収めたモデルを模倣している。一方、トルコ市場を賄うべく独自のアイデアを革新するスタートアップもいる。

例えば食品配送サービスのYemek Sepetiは、4400万ドルの資金を調達し、現在UAE、オマーン、カタール、サウジアラビア、レバノン、およびギリシャで運営している。トルコ版AirbnbのFlat4Dayは、71ヵ国に進出し、350万ドル以上の資金を調達した。Ininalもまた成功したスタートアップの一つで、クレジットカードを持たない若者に、国内20万箇所で利用できるプリペイドカードを提供した。2014年12月時点で、同社は2012年末の設立以来100万以上のカードを発行した。

スタートアップだけがトルコのつながっている社会の恩恵に浴しているのではない。多くの既存企業がこの国に大きなチャンスを見出している。最近Spotifyは、Vodafone Turkeyと提携してトルコでプレミアムサービスを提供することを発表した。他にも、GittiGidiyor.comに2億ドル以上で買収されたeBayやAmazon.com等の米国企業は、トルコのオンライン小売業の株を購入する形で、トルコ市場に参入している。また、南米拠点企業のNaspersは、トルコのオンラインファッション販売サイト、Markafoniを昨年買収した。

こうした投資は引き起こしたのが、オンライン小売分野の驚異的成長であり、Abraaj Groupによると、2007年以来店舗ベースの小売店よりも7倍速く成長している。

こうしたスタートアップやIT企業の成長は、政府による投資と奨励制度にも後押しされている。トルコ政府は一連の「テクノパーク」を構築し、企業の誘致と支援のために税額控除を施行して運用費用を削減することによって、ITセクターへの投資を促進している。この施設で開発されたソフトウェアは、所得税および法人税が免除され、あらゆる売上から付加価値税も免除される。

トルコの文化と歴史もこの成長を加速してきた。トルコ人は会社を起こして経営することの困難さをよく知っている。トルコ企業の97%は中小企業から成り、労働人口の80%がそこで働いている。

東西に挟まれた同国の地理的位置は、スタートアップや多国籍企業に格好の土壌を与える。世界中多くの大都市からわずかな飛行時間で来られることから、トルコで運営する企業はアジア、ヨーロッパ両市場に出入りし、ビジネスの英知に触れることかできる。

その地理的事情は多くの面で有利に働く一方、トルコ近隣国における不安定の増大は、投資家の間で懸念の材料となっている。しかし、安全保障問題は隣国国境の範囲内にとどまっており、地域に問題を抱えつつも、トルコ経済は順調に伸び続けている。

トルコ経済に対する評論は、エネルギーと基幹設備分野に大きく焦点を当てているが、抜け目のない投資家は、新たな成長分野としてITセクターに目を転じている。世界で最も革新的な企業の多くが既にトルコに投資しており、開花しつつあるスタートアップ経済は今後の投資を誘発するばかりだ。その起業家精神、既に成長中の経済、強力な通信基盤、そして魅力ある大きな市場と共に、トルコは地域および国際的イノベーションの中心地となろうとしている。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

人工知能の最前線―人間の脳を真似るコンピューター

編集部注:この原稿はNTTデータの樋口晋也氏による寄稿だ。樋口氏はこれまで音声認識、コールセンター関連技術、SDN/OpenFlowと呼ばれるネットワーク技術の研究開発に従事してきた。近年は、情報社会の近未来を展望するNTT DATA Technology Foresightの技術リサーチを統括する立場にあり、ITに限らない幅広い調査レポートを公開している。また、樋口氏は金融、流通、製造、通信、国防などさまざまな顧客に最新動向を伝えるエバンジェリストとして活躍している。

「人工知能は原子力より危険」
「10年以内に現在の職の半分を人工知能が奪う」
「人類を超える速度で人工知能が科学技術を進化させる」

最近、このような話を聞くことが多い。この背景には、人間の脳のメカニズムを真似することで高い性能を発揮する人工知能の存在があるのだが、実際に人工知能技術の最前線について知っている人はそれほど多くはないだろう。本稿では、人工知能に関する最新の研究事例について解説を行う。そして、ビジネスの現状や人工知能が将来に与える影響についても触れたいと思う。

意味を理解し、自ら考える力を持ち始めたコンピューター

人工知能の実現には様々な技術が利用されているが、特に最近注目を集めているのはディープラーニングと呼ばれる人間の脳のメカニズムを参考にした技術だ。ディープラーニングはコンピューターの顔認識性能を人間と同レベルにまで向上させるなどの成果をあげている。

なぜ、ディープラーニングは高い性能を発揮できるのだろうか。それは、コンピューターが概念や意味を理解する力を獲得したからだと言われている。人間は長い生活の中で「生物は生きている」「人間は2本足で歩く」というような概念を獲得していく。これと同じようにコンピューターが多くのデータから「画像に写る物体の見分け方」や「日本語と英語の違い」を学べるようになってきた。これまでは人間がコンピューターに物体の見分け方を教えていたが、それが完全に自動化され、最近では「日本語の良し悪し」のような感覚的なものまでコンピューターが扱えるようになってきている。

ディープラーニングにより研究の内容も質的に変化している。最近の研究では、人工知能にプログラムコードを与えるだけで「繰り返しなどの制御文」や「掛け算や足し算の意味」を自動で理解させることに成功している(論文PDF)。2014年には人工知能に人間の短期記憶をもたせるニューラルチューリングマシンと呼ばれる技術が登場し、人工知能が自分で考えた結論を脳内に記憶することができるようになった。この技術は将来、人工知能に論理的な思考能力を与える可能性があり、多くの研究者に注目されている。人工知能にゲームの画面映像と得点情報のみを与えるだけで、人工知能が自身の力でルールを理解し、人間に近い得点をたたきだす研究も存在する。この研究では人間が睡眠中に記憶を定着させる仕組みを人工知能に適用することで、人工知能がゲームのルールを理解するスピードを格段に向上させることに成功した点が注目されている。

Google、Facebook、TwitterなどがAI関連企業を次々と買収

ビジネスを根本から変革しかねない人工知能技術をめぐり、各社の主導権争いが激化している。Googleは2013年3月にディープラーニングの創始者であるヒントン教授が設立したDNNresearch社を買収し、2014年にもDeepMind社を買収している。TwitterやYahoo!も人工知能ベンチャーを買収しており、中国検索サービス大手の百度(Baidu)やFacebookはシリコンバレーに人工知能研究のラボを立ち上げたほか、直近では自社イベントでその成果をお披露目したりもしている。昨年は人材確保を目的とした買収が頻繁に行われていたが、最近は少々落ち着きつつある。

近年、人工知能を活用したさまざまなサービスが提供され始めている。ディープラーニングを実際のサービスに適用している例として有名なのはAppleやMicrosoftで、この2社は音声認識にディープラーニングを適用していると言われている。Googleも画像検索や音声認識にディープラーニングを活用している。

人工知能が料理の新レシピを生むなど、創造的仕事でも活躍

人工知能は単純作業を効率化するだけではなく、人間の創造性や感性を扱う領域でも利用が拡大している。人工知能に画像と文章を提供するだけで自動的にウェブサイトをデザインしてくれるサービスは2015年春にリリースされる予定だ。他にもロゴを自動でデザインする人工知能や作曲を行う人工知能が存在する。ただし、ビジネスにおいて人工知能という言葉はバズワード化しているため、必ずしもディープラーニングを利用しているとは限らないことには注意が必要だ。今後のビジネスではコンピューターが作成したコンテンツを人間が手直しすることで効率化を行い、創造的な仕事を多数並行して進めるのが当たり前になるだろう。

人工知能には、よい意味で人間の常識がない。既に料理の世界では人工知能により斬新なレシピが提案され、将棋では新しい定石が生み出されている。将棋の世界では、人工知能がプロ棋士を超えつつあるため、人工知能はプロの指し手を学ぶのではなく、自己対戦から新しい知識を得る方向に進化している。チェスではプロ選手と人工知能の対戦ではなく、プロ選手と人工知能が協力して戦うような新しい対戦スタイルが実現されている。このように、今後は人工知能が新しい流行を創りだしていくと考えられる。

人工知能は社会に良い影響を与えるのか?

人工知能は人間でいえば脳にあたる。つまり、人間が行うあらゆる行動の支援に人工知能技術を適用できると言える。人工知能により自動運転車が悪路走行などに柔軟に対応できるようになれば、社会のインフラとして根付いていくだろう。コスト削減圧力の高い物流の世界は、それほど遠くない将来に自動運転車により自動化されると思われる。現在の技術レベルでは、言葉の意味理解や感情把握などの人間的な分析については、まだまだ人間がコンピューターに勝っている。そこで、人工知能に言語や感情を分析させるのではなく、まずはモノが発するデータを分析させようとする潮流も生まれている。全てがインターネットにつながり、データ収集が可能になることをIoE(Internet of Everything)と呼ぶが、その世界では人工知能技術の適用に大きな期待が寄せられているのだ。

人工知能はビジネスだけではなく社会にも影響を与えていくだろう。これまで政治などの世界では少数意見が見逃される問題があったが、技術が進展していけば、人工知能がネット上の意見の類似点や相違点を可視化し、社会が見える化される可能性もでてくる。少数意見にきちんとスポットライトがあたれば、世論形成にも影響を与えると想定される。オセロの世界では、人工知能が人間の理解を超える手を指すことを「神の手」と呼んでいるが、これと同じことが政治の世界でも生じる可能性がある。人工知能が一般市民に理解できない「神の政策」を提示した場合に、社会がその意見に従うのかどうか、というのは興味深いテーマであろう。

人間の価値観が過去の経験から形作られるのであれば、人工知能が人間の創造性を超えるものを生み出す可能性もでてくる。ピカソの絵をみて素晴らしいと感じるにはある程度の絵画の知識が必要だと筆者は感じている。おふくろの味が懐かしく感じるのも過去の経験が価値観に影響を与えている例だろう。逆に言えば、過去のデータを分析することで新規性があり、かつ心に響くものを人工知能が生み出せる可能性がある。このように価値観の面でも人工知能は人間に影響を与えるようになると考えられる。大量の個人データを収集できれば、亡くなった人の人格を仮想的によみがえらせるサービスなど、技術の発展に合わせ現在では予想もつかないサービスが次々に生み出されていくだろう。そして、過去の経験からこれを許容できない人が現れ、新しいサービスの是非をめぐり、社会的な論争が行われると予測される。

人工知能がもたらす新たな課題

ビジネスで人工知能を利用する場合、いかにデータを集めるかという問題がある。人工知能を動かすには大量のデータが必要になり、たとえ多くのデータを持っていたとしても、それを使えるように整形するには多くのコストがかかる。データが個人情報であれば、取り扱いにも注意が必要だ。ディープラーニングには演算量の問題も存在する。この問題への対応としては、グラフィックボードを人工知能の処理に流用する方法や特定処理を高速に演算可能なFPGAプロセッサを利用する方法など、さまざまな高速化の工夫が行われている。

社会的な問題としては、やはり失業が注目されるだろう。ロボットに高度な人工知能が搭載されれば、工場のオートメーション化が今以上に進み、多くの失業者を生むことが懸念される。iPhoneなどの製造で有名なFoxconn社がGoogleと協力して組立用ロボットを開発するなど注目の動きもいくつか存在する。もう一つ心配な点はテロへの応用だ。例えば100台のドローンに人工知能と爆発物が搭載され、ターゲットの顔を認識し、自動で追尾する様子は恐怖以外のなにものでもない。人工知能の装置が小型化されれば、このような悪用も簡単になる。

技術の進化は基本的に人間の能力を高める方向に働く。人間が高度な技術を手にすれば、良いことも、悪いことも簡単に行える。筆者は、変にマイナスの部分だけをみて将来を恐れるのではなく、しっかりと現在の技術動向を理解していくことが重要だと考えている。そして、過渡期には人工知能が悪用される場合もあると思うが、最終的には格差の解消や相互理解に利用され、社会をよりよくしてくれると信じている。

誰も教えてくれないけれど、これを読めば分かるビットコインの仕組みと可能性

Bitcoin

編集部注この原稿は朝山貴生氏(@takaoasayama)による寄稿である。朝山氏はビットコインと国産暗号通貨のモナーコインを扱う国内向け取引所の「Zaif Exchange」(ザイフ)を2015年3月初旬にオープンしたテックビューロの創業者で代表取締役。暗号通貨関連サービスを開始、運用している立場から書かれた解説記事だという点は留意してほしいのだが、一方で、表層的な理解だけで「胡散臭い」と遠巻きに眺めているだけにするには、暗号通貨やブロックチェーンは、あまりにも重要な技術トレンドだ。以下の原稿を読めばその理由がわかるだろう。ネットに載せるには、かなり長い文章だが、ブックマークしておいて後でじっくり読んでほしい。現在の銀行間の送金システムから説き起こしているので、これまで技術用語の多さにビットコイン入門ができていなかった人でも分かりやすくなっている思う。意見や質問などがあれば、コメント欄に書くか、@jptechcrunch@takaoasayamaまでお知らせいただければと思う。

ビットコインは本当に怪しくて危険なのか?

2014年、日本のメディアでも華々しくデビューを果たしたビットコイン(Bitcoin)。しかしその登場シーンは、ビットコイン取引所Mt.Gox(マウントゴックス)の破綻という最悪のニュース。同社は日本に本社を置くにもかかわらず、当時は世界最大のビットコイン取引所だった。そのMt. Gox社が、約490億円相当ものビットコインを「盗まれた」と宣言し、その事がたちまちメディアを賑わせた。

Mt. Gox事件の真相は闇の中であり、いまだに各国の機関において調査が継続している。しかし、当初からはっきりしている事実はただ一つ。これは単に、ユーザーのビットコインを預かっていた取引所であるMt. Goxが破綻しただけであり、ビットコイン自体には何ら問題がないということだ。しかし、それから1年以上経った今でも、日本のメディアでは依然ビットコインにネガティブなイメージがつきまとう。

ところが、それら「怪しい」、「盗まれてしまう」、「消えてしまう」、「信用できない」といったイメージは全くの誤解だ。むしろビットコインは「取引は全て透明性が高く」、「盗むことは非常に困難」であり、「消したくとも消せない」もの。そしてある意味一般的な通貨や銀行よりも「信用できる」ものなのである。ただし法定通貨に対しての、金よりも激しいとされるその価格変動性(ボラティリティ)を除いては、という条件付きだが。

ビットコイン本来の素晴らしさを証明しようと、ビットコイン擁護派がイメージ回復のためにどれほど躍起しようとも、その利点を説明するためには常に技術的なボキャブラリーが欠かせず、それが更に印象を悪くするという悪循環を生んでいる。中でも、ビットコイン自体が生み出した「暗号通貨(Crypto Currency)」という言葉が示すとおり、その根幹となる「ブロックチェーン技術」を説明するためには「暗号」という言葉が避けて通れない。この、「暗号」という言葉が「怪しい空気」を醸しだし、一般人とビットコインとを隔てる溝をより深くする。

と、以上冒頭の4パラグラフだけでも「意味がわからん!タイトル詐欺ではないか!」と、続きを読むことをためらう方もおられるに違いない。

実際に私自身も、この何年間にも渡って、ビットコインをできるだけ簡単に説明する方法をずっと考えてきては諦めることを繰り返していた。そして今までにも日本語で、「これを読めばわかる」的な記事もいくつも出てきてはいるが、やはり一般的に理解されるようなレベルの内容ではなかった。

どうしても、難解な用語とその説明を避けて通れないのだ。

しかし何年も考え続けてみるもので、突如深夜の入浴時にその説明法に関するアイデアがわき出した。

ロールプレイで理解しやすくなる

その時、私がビットコインを説明する方法として思いついたのが「ロールプレイ」だった。

まずは、あえてビットコインの根幹となる暗号技術についての詳細を端折ることにより、その原理と仕組みを比喩的に理解してもらおうという作戦だ。要するに、一番売りである技術的セールスポイントをまずなかったことにして、概要を理解したあとでそこを埋めるという、ビットコイン推進派としては回り道な啓蒙戦術だ。

しかし技術用語を無視するとしても、「P2Pネットワーク」やら「Proof of Work」(後ほど説明)やらといった、ビットコインをビットコインたるものにする特徴の説明が非常に難しい。そこを架空の「役割」を持ったキャラクターが存在する世界で考えることによって、難しい技術用語が苦手な人にも想像しやすくしようと考えたのだ。

ここから続きを読んで頂ければ、あなたにもビットコインがどういうものなのかを理解して頂けるに違いない。そう願う。

では早速その「ロールプレイ」の世界に行ってみよう。

一般的な銀行とお金の仕組み

実は、全く知識のない人にビットコインを説明する際に、「銀行」や「日本円」といった法定通貨と比較することは逆効果である。

当然、それらの比較自体は有効な手段なのだが、原理を説明せずにそれらの違いを話そうすると「それ、電子マネーみたいなものやん?どこが違うの?」で片付けられてしまうのだ。最悪の場合は「中央管理者がいない? それって信用できるどころか逆に不安やん?」と気まずい雰囲気の中そこで話が終わる。

しかし、今日はあなたが遂にビットコインの原理を理解する日だ。従ってその比較は有効だ。まずは一般的なお金や銀行の世界を、それぞれの役割を担った「ロールプレイ」の世界で見てみよう。

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通常、お金は国=政府(Dくん政府)が発行している。Cくん銀行は、Dくん政府の許可をもらって銀行業を営んでいる。

AさんもBくんも、Cくん銀行に審査を受けて、それに合格した上で「銀行口座」を持っている。

AさんやBくんが預けた現金は、実際に元帳上にはその金額が残高として載ってるが、実はCくん銀行がEさんなどに貸し付けて利息を受け取っている。Cくんはその利息やその他の手数料で生計を立てているのだ。

ある日BくんがAさんに1,000円を振り込んだ(振り替え)。通帳の残高は振込手数料が取られて8,500円に減ったが、その実態は、単にCくんが元帳で「Bくんの残高が1,500円減った」ことと、「Aさんの残高が1,000円増えた」ことを書き込んだだけだ。その差分の500円は、元帳に書き込む手数料としてCくんのものになる。

これが一般的な銀行だが、もしあなたがBくんである場合、ここで起こっていることの全ては日々当たり前に行われている行為であり、一連のお金の流れは「信用するに足りる」話に聞こえるだろう。誰かに1,000円振り込んだら、相手にお金が入って、自分のお金が減る。そして手数料が取られる。引き出せば現金がATMから出てくる。なんて日常的な話なのだろうか。

その当たり前の話が通じるのは、財政が比較的安定した、日本を含む一部の近代国家における銀行の話。世の中には国民が銀行を信用しない国もある。以下では、そのような財政が破綻した国家とその銀行のような、預金リスクが最大である環境を想定して書いてみよう。

あなたの銀行残高は本当に存在するのか?

では、本当にあなた(Bくん)の残高8,500円は銀行に存在しているのか?もしそうでない場合は、誰かが保証してくれるのか?

事実として、銀行に預けられた現金のほとんどはそこにはない。銀行は、なんと預かっている合計金額よりも大きい金額を外に貸し出すことができるのだから。

実際、この銀行という仕組みはあなた(Bくん)が、お金を発行するDくん政府と、銀行を営むCくんを信用しているという前提において成り立っているのだ。

「銀行が信用できなくてどうする?」

そう思われる方も多いだろうが、日本でも1金融機関1預金者あたり、1,000万円までが保護される仕組み(ペイオフ)が導入されていることはご存知だろう。ペイオフ解禁で補償額が制限されてしまったものの、このような仕組みがあるだけでもまだ恵まれている。米国も同様のFRB制度が設けられているが、こんな制度さえない国家も山ほどある。

ようするに、お金を借りているEさん達が一斉にCくん銀行からの借金を踏み倒したり、Cくんがそもそも銀行の経営に失敗した場合、あなた(Bくん)のお金はなくなってしまう可能性があるということだ。

その場合、あなたの通帳に残高データはあっても、銀行にはもうそのお金さえもないのかも知れない。

銀行の残高データは消えてなくならないのか?

次に、違う切り口から極端な例を考えてみよう。

ある日誰かが、Cくんの管理する銀行の元帳に火をつけた。Cくんは念のため、バックアップとして常に3冊同じ記録をつけて、別々の場所に保管していた。しかしそれらもなぜか同時に火を付けられた。

その場合、あなた(Bくん)のお金(残高)はどうなる?

そう。消えてなくなる。記録、すなわち残高のデータが消えてなくなってしまうからだ。

現実世界にあてはめると、「もしあなたがお金を預ける銀行が管理する全サーバーが一斉に爆撃されたらどうなる?」と言ったところだろうか。

現実社会ではまずそんなことが起こる確率は低いし、先進的な銀行では当然のことながらサーバーも複数箇所に分散して管理してている。

ではこんな場合はどうだろう?

本当に銀行は信用できるのか?

Cくん銀行自体が私利私欲のために、あなた(Bくん)の知らないうちに、その残高である8,500円を元帳上でこっそり自分の名義に書き換えた。その場合、あなたの残高は当然消える。Cくんによる、いわゆる業務上横領である。

さすがに、現代の金融機関システムをそんな風にアクセス権限を飛び越えて違法に操作することは難しいが、今日でも銀行員が預金者の金を横領するなどいう古典的な事件はたびたび起こっている。

その場合、損失を銀行がカバーしてあなたの残高に戻すわけだが、人手を介する業務プロセスがゼロとならない限り、そう言った横領事件が世の中からなくなることがない。

あなたも、今までに友達と人生ゲームをプレイしたことがあるならこんな経験があるに違いない。銀行役をしていたプレイヤーが、ずるをして自分の手元のキャッシュをこっそり増やしたり、トイレに行っているプレイヤーのキャッシュを悪戯でくすねる。それを見つけた他のプレイヤーが怒る。あれが現実にも起こりうる言うことだ。

銀行は大丈夫だ。預金なんてなくならない。実は私も以前はそうだろうと考えていた。しかし、15年以上も前のことであるが、突然欧州の某国で、とある銀行に預けている残高をいきなり半分にされた。たった一通の通知を封書で送りつけられるだけで。銀行が破綻して、残高の半分を再建の原資に回すというのだ。当然、その国には日本のペイオフのような制度はなかった。

人が運営して経営している以上、銀行というシステムには必ずこのようなことが起こりうると言うことだ。

では、国なら信用できるのか?

もし、Dくん政府が国の財政政策で失敗したらどうなるだろう?Dくんがお金を発行しまくったらどうなるだろう?預金の消失を免れ、銀行の残高データは変わらずとも、あなた(Bくん)のお金はただの紙切れになるかも知れない。例えば、缶コーヒーが1本1万円になるかもしれない。

「そんなの、金の純度を下げてでもコインを作りまくった、古代ローマ帝国の話じゃあるまいし」と思われるかも知れない。しかしこの21世紀にも、現実として数多くの国が金融危機に陥っている。近年だけでも、ギリシャ、アルゼンチン、キプロス、その他多数。そんなとき、あなたがCくん銀行に詰め寄って残高を現金化しようとしてもシャッターを閉められ、もし一部を現金化できても日々その価値が下がり、紙くず同然になってしまう可能性だってある。

銀行を信用するしない以前に、国もしくはそれが発行する通貨が破綻してしまっては元も子もない。

ちなみに、皮肉なことにそんな財政破綻しているような国々で特にビットコインの利用が激増している。キプロスでは学費をビットコインで払えるし、アルゼンチンではコンビニでペソをビットコインに両替できる。

さて、以上までの、既存の国家やお金、銀行で起こりうる問題をざっとまとめ直すと以下の通りとなる。

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「中央集権」で、誰か人間が運営管理している限り、既存の法定通貨や銀行のシステムではこのような問題が発生する可能性があるというのが事実だ。

さて、私が今日したいのは、日本円や日本の銀行でこんな問題が起こりうるかどうかの議論ではない。繰り返すが、これは金融リスク、預金リスクが最大の環境で実際に起こりうる最悪の問題を「ロールプレイ」した結果のまとめである。

ここまでは、あくまでも既存金融システムに潜んだリスクを理解するための前置き。以上を踏まえた上で、ここからやっとビットコインの仕組みを見てみよう。

ビットコインは単なる電子マネーではなく決済システムだ

まずビットコインは、本当はいわゆる「通貨」ではなく、「電子マネー決済システム」だ。違うことを言う人もいるが、これはビットコインを発明したナカモトサトシの論文タイトルと序章にも書かれている事実だ(これは後ほど紹介)。

ビットコインというのは、何か物理的なものが誰かから誰かに渡っているわけではなく、誰にいくつ発行され、誰から誰にいくら支払われたかのデータを記録する仕組みだ。ところが、その名称だけではなく、単位自体もビットコイン(よくBTCと略される)と呼ばれるから話がややこしくなる。

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よくビットコインは「暗号通貨」と言われるが、それは実際に通貨のように使えるから便宜上そう呼んでいるに過ぎない。そして、お偉い学者さんの間でも、いまだにビットコインが通貨であるかどうかの議論が続いている。

実際あなたが日本で使う電子マネーも、同じ決済システムの一種である。その場合はあなたがチャージすると、現金と等価交換でその金額が残高としてどこかに記録され、コンビニで使えばコンビニにその残高が移行したとして記録される。どこかにEdyやSuicaなんていうコインが置いてあるわけではない。

繰り返しになるが、ビットコインも「Bitcoin」というコインが存在していて、誰かがそれを管理しているなんてわけではない。ビットコインはお金ではなく、決済システムだと言うことをまず覚えておこう。

「ビットコインも現金で買うんじゃないの?」という問いへの答えは「イエス」だが、それはあくまでも勝手に第三者が現在のバリューで売買するサービスを提供しているだけだ。だからビットコインは常時価格が変動する。それに対して一般的な電子マネーは、サービス運営者がその買い取り自体を手数料ビジネスとしている。上のコンビニの例で言えば、客から支払われた電子マネーを、手数料を差し引いて買い戻す訳である。

しかし、ビットコインはEdyやSuicaみたいな電子マネーとは「全く違う」。根本的な思想からして違うのだ。

ビットコインはオープンだ

実は、ビットコインはソフトウェアだ。そして、それは「オープンソース」という仕組みで、プログラムの中身(ソースコード)がそのまま一般公開されている。要するに、誰もが中身を見て、無料でインストールできる。

「さっき、ビットコインは決済システムって言ったやん?」

そう。ビットコインは中身が丸見えで、誰でもインストールできる決済システムのソフトウェアだ(インストールについての話は後ほど)。

中身が丸見え、ということは、プログラムが読める(書ける)世界中のエンジニアが、その中身に不正が潜んでいるかどうかも自由に精査できると言うこと。

では、そのプログラムは誰が作っているのか? というと、世界中の有志であるエンジニア達だ。しかも、世界でトップレベルの人材が集まっていると言っても過言ではない。

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かつて銀行システムの黎明期に、システム開発者が全ての計算を「切り捨て」にして、端数を全部自分の口座に入れていた不正が発生したことがあるとかないとか。そんな不正がビットコインでは不可能だと言うことだ。

銀行システムの場合、開発を請け負う業者が徹底的に不具合を精査して、運営に差し支えないようしらみつぶしにつぶす。ビットコインだと、世界中の有志であるスゴ腕エンジニア達がそれをつぶす。

あなたが使っている電子マネーや銀行のシステムが、その中身を「公開」しているなんて聞いたことがあるだろうか?そんなことはセキュリティー上絶対にあり得ない。

ビットコインは全てが公開されているから、世界中の誰にでも精査や監査ができて、「仕組み自体には不正がない」と言い切れる、「信用できる」決済システムなのである。これはOSやサーバー、セキュリティ関連のソフトウェアといったインターネットを支える基盤技術で、オープンソースのものが成功していることとも無関係ではない。不特定多数の人の目にさらされて、常時改訂を繰り返しているからこそ信用できるのだ。

発行量までオープン

一般的なお金では、その法定通貨という名が表すとおり、国が発行して流通をコントロールしているということだった。よって、国が財政に失敗したり、通貨を発行しすぎたりすると、お金の価値がどんどんと下がってしまう可能性もある。

しかし、ビットコインでは先ほど説明したとおり、全てのプログラムが無償で一般公開されている。その中には、なんとビットコイン自体が発行される量までが最初から組み込まれており、そのルールまでもが全てオープンに公開されている。

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ビットコインでは、公開された2009年から毎日ほぼ10分ごとに発行されているが、およそ4年ごとにその発行量が半減し、合計2,100万ビットコインを上限とすることが最初から決まっている。

2015年3月時点で既にもうその半数以上が発行されているが、また2年後である2017年に発行量が半減する。

次第にその発行量は少なくなり、ビットコイン自体の価値が陳腐化しないように計算されている。

日本円や米ドルのように、中央管理する誰かが発行量や流通量を決めて価値をコントロールしているわけではなく、ビットコインは最初からこの先どのように発行されていくかが明記されているという、極めて「透明性が高く」、健全な仕組みなのだ。

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では、誰がそのソフトウェアを何に入れて、何のための動かしてるのか?

その疑問は先送りにして、アカウント(口座)の概念をまず見てみよう。

ビットコインのアカウントは自分で勝手に開く

先述の通り、銀行で口座を開設するには、あなたは印鑑を押し、身分証明書を提出して開設を申し込まなければならない。

銀行はあなたが反社会的勢力でないかどうか、過去にその銀行で問題を起こしたことがないかどうかなどを調べた上で、あなたの口座を開くかどうかを決める。言い換えれば、「あんたなんかには口座を開いてやらない」と拒否されることがあるということ。全くの誤解で口座が開けない、なんてこともある。

実は、ビットコインには管理者がいない。その説明も後回しだが、ビットコインには「口座の開設」という概念がないのだ。当然管理者がいないので審査なんてあり得ない。「僕、ビットコインの口座開きたいんだけど、方法を教えてください」。そんな質問に、「勝手に自分でいつでも開けるでしょ?」と、ちょっと詳しい気取りの人からそんな冷たい答えが帰ってくる理由はここにある。

ビットコインではあなたの(口座番号にあたる)アドレスは、あなたがそれを勝手に自分のものと決めて使い始めることによってあなたのものになる。

言わば「今日からこれが俺のアドレスや!」と勝手に宣言するのだ。

ではどうやって?

ビットコインのアドレスは一人100万個でも持てる暗号鍵

世の中には「乱数」という言葉があるのをご存じだろうか?その名の通り、「ランダム」に発生させた数字である。ビットコインの暗証番号にあたる文字列は、その乱数を元にして作られる。

実際の乱数はプログラムが発生させるのだが、めちゃくちゃ乱暴に端折って例えると、ビットコインでは70回ほど10面サイコロを振った数字を出して、それを文字列に変換したものがまずあなたの「暗証番号」にあたるものになる。正式名称は「秘密鍵(Private Key)」。色んな形式があるが、使いやすい形式では最終的に「5」から始まる51文字の英数字に変換されている。

例えば、こんな感じ。「5Kb8kLf9zgWQnogidDA76MzPL6TsZZY36hWXMssSzNydYXYB9KF」
(残念ながら私の秘密鍵ではありませんのであしからず)

その秘密鍵を難しい暗号プログラムに通すと、それが「1」か「3」で始まる26文字から35文字の文字列になる。しかも、間違えられにくいように(??)見分けにくい小文字の「l(エル)」と大文字の「I」、数字の「0」と大文字の「O(オー)」は含まれない状態で。これは、飛行機の座席で「I」と「1」が見分けにくいから「I」席が存在しないのと同じ感じだ(笑)。こちらの文字列の正式名称が「公開鍵(Public Key)」。しかし通常は「ビットコイン・アドレス」(Bitcoin Address)と呼ばれる。これがあなたの「口座番号」にあたる。

例えば、こんな感じ。「1P95EfkCvo6HcPN21eVc3aPvzxqEjjGtQy」
(送金を是非お待ちしております(笑))

この「暗証番号」にあたる「秘密鍵」からは、そのプログラムを通せば誰でも「口座番号」にあたるまったく同じ「公開鍵」が作れる。しかし一方通行なのでその逆はできない。「公開鍵」から「秘密鍵」は推測できない。

ちょっと難しい説明になってしまったが、完全に理解する必要はない。ビットコインの根幹には、この「公開鍵暗号」という技術が使われていることだけ頭の片隅に置いておこう(後でもう一度簡単に説明する)。

ここで言いたかったのは、ビットコインの利用においてはこの「秘密鍵」が絶対的な存在だということ。もしこれが他人に渡れば、自動的に「公開鍵=アドレス」を教えることになるのは当然のこと、秘密鍵を持つ人物はそのアドレスにある残高を全て自由に送金することができてしまう。

冒頭でも触れたMt. Goxの破綻。それも、何万という客から預かっているビットコインを管理する秘密鍵が直接犯人の手に渡ったか、もしくはそれを操作する仕組みに違法にアクセスされたか、そのどちらかが起こったと言うことになる。
もともと個人情報を紐付けた「所有権」が存在しないので、「秘密鍵」が他人に知られた時点で、コントロールを失う。これについては自己責任だ。

そこが銀行口座とは違う。その残高や送金を誰も保証してくれない。

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もう一つ注目すべきポイントは、実は技術的な話を端折ってさらっと簡単に「10面サイコロを70回振る」と表現した部分。これは要するに、70桁以上の数字が無作為に作られて、変換されてあなたの「秘密鍵」になるということ。

アドレスとして使えるその数は、星の数ほどの組み合わせがあって、計算上あまりにもバリエーションが多すぎて他人のそれとダブることはない。そんな原理で、ビットコインのアドレスは作られる。

例えば、76桁の数字だとこんな感じ。
「5,738,109,574,369,060,248,638,013,835,744,990,135,867,462,664,001,844,289,011,300,385,771,209,384,756」

世界人口が72.5億人だといわれているが、その数字でもこれだけにしかならない。
「7,250,000,000」

どう見ても他人と数字がダブる桁数には見えない。

従って、このアドレスはプログラムを通したら誰でも簡単に作れてしまう。一人当たり、いくつでも作れてしまう。だから、もし必要ならばあなたは100万ビットコインアドレスだって持てる!

では、そのアカウント間の送金はどうやって動くのだろう?

ビットコインは元帳までオープン

送金の仕組みを見る前に、金融システムに必須な元帳の仕組みを覗いてみよう。冒頭で見た銀行の概念を、根底から覆す仕組みがここに登場する。

ビットコインでは、元帳の内容まで全てオープンなのだ。しかも、スタートした2009年から全ての支払い記録(トランザクション)が誰にでも入手できて閲覧することができてしまう。この部分だけでも、もう金融システムとしては非常識きわまりない。

ここで、先ほど後回しにした「ビットコインのインストール」についての話が登場する。

ソフトウェアとしてのビットコインは、そのルールに従って様々なバージョンが作られており、色んなハードウェアで動かせる。PCはもちろんのこと、専用機もあるし、やろうと思えばあなたが持っているスマートフォンで動かすことだって可能だ。

実際にソフトウェアとしてのビットコインを自分のPCにインストールすると、2009年から始まったその何十ギガバイトという元帳データをダウンロードして同期することから始まり、ひどい場合にはそのデータ同期には数日以上もかかる(ただし元帳データを同期しないようにもできる)。

「そんなことしたら、僕の支払いがみんなに丸見えで、プライバシーもくそもないやん!」

そう考えるのはごく自然だが、先ほど説明したとおり、ビットコインには個人情報は一切関係ない。存在するのは、ランダムに作られた無数の「アドレス」だけ。その元帳には、「どのアドレスからどのアドレスにいくらビットコインが送金されたか」だけしか書かれていない。

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よく、ビットコインは「違法なビジネスに使われやすい」とか「匿名で送金できる怪しいシステム」と言われる。実際にアドレス間のやりとりだけで成り立っているからそう言われるのは仕方ないのだが、アドレス間の送金は全て記録されていて、一般に公開されているのである。

もし、あなたがAさんとBくんの「アドレス(公開鍵)」を知っていて、BくんがAさんに送金した場合、その元帳を検索すれば、その支払いの時間と金額について知ることができる。

それが、冒頭に言った「ビットコインの透明性が高い」理由だ。

これって、よく聞くビットコインのイメージである「匿名性」と相反するように聞こえないだろうか?

ビットコインは、アドレスの所有者については「匿名性」が高く、アドレス同士のトランザクションについては「透明性」が高いのである。

よく「ビットコインがマネーロンダリングを容易にする」などと言われるのだが、アドレスを個人情報と結びつけることが困難なだけで、送金された内容を見るには、時間さえ掛ければ全てその記録から追いかけられるのである。その点では、既存の金融機関を駆使したマネーロンダリングに比べれば、よほどトレースしやすいと言える。銀行間のマネーローンダリングであれば、わざわざ経由した銀行全てに開示命令を持って、それぞれ個別に情報を取らなければならないのだから。

ビットコインで多額のマネーロンダリングを行っても、大金はどこかで現金にするしかない。アドレス間でぐるぐるたらい回しにしてから、デルのPCをビットコイン建てで大量に買い付けても(アメリカではデルもビットコインで払える)、売却と現金化が大変だしそこで足が付く。現行のマネーロンダリングでさえ、犯人の検挙には入り口と出口、中継地点となる口座での個人情報との紐付けが必須だ。知識と手順、手間の問題だけで、結局、ビットコインを使ったマネーロンダリングの検挙と、手間はそう変わらない。

一部のお偉い方達は、理解が難しいビットコインを怪しく思い、必要以上に危機感を感じているというわけだ。

ただしビットコインの場合も、複雑に送金を繰り返して追いかけにくくするようなサービスは存在している。ビットコインもあくまでもツールであり、実際の金融機関と同じく、そこに寄ってきて悪用する嗅覚の鋭い犯罪者がいるというだけの話。

いずれにせよ、銀行の仕組みではその元帳の公開など絶対にあり得ない。むしろセキュリティ上あってはならない。ビットコインでは、それが公開される前提で作られている仕組みだということだ。ビットコインはこのように、「極めて透明性が高い仕組み」であることを覚えていて欲しい。

中央管理者がいない?

ビットコイン推進派があなたにアピールしてくるとき、「中央管理者いないんだぞ!」や「非中央化されてるんだぞ!」、果てには「Decentralizedやで!」など謎めいた言葉を投げかけてくるだろう。必死なその言葉が宗教的に聞こえてしまうこともあるかもしれない。

実はビットコインの送金を理解するのに必須なのは「非中央化(Decentralization)」の理解。しかし、あなたの頭に浮かぶごく自然な疑問は「管理者がいなくて、金融サービスが動くわけないやん」ということ。

ここでは一旦その「Decentraなんとか」のことは忘れよう。

乱暴に言い換えれば、ビットコインは「ネットワーク参加者全員が管理」しているのだ。

冒頭の銀行の説明では、Cくんが銀行を管理運営していた。バックアップの元帳を別の複数箇所に管理していようが、これは「中央管理(Centralized)されている」と言う。法律や規制はあれど、Cくんの気持ち一つで不正や横領どころかサービス閉鎖も自由なのだから。

しかし、「ビットコインはオープンである」と説明したところで出てきたように、ビットコインは誰でも無料でダウンロード出来てしまう。すなわち、それを動かせば、誰でもビットコインの管理者(正しくは管理者ではないけれどその説明は後ほど)になることができるということ。

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では誰が、何の目的でわざわざそんなソフトウェアを入れて動かすのか?

ただのボランティアなのか?そしてそんな管理者もいない無秩序に聞こえる世界で、どうやって送金の仕組みが動くのか?それを解き明かすために、再びロールプレイの世界を見てみよう。しかも、前回よりは遥かにドラマティックな展開を見せるロールプレイを、さらにそのプレイヤー達に近い視点から。

ビットコインは少数点第何位まである?

今回は、BくんからAさんに1,000円ではなく、0.1BTC(ビットコインの略)を送金する場合で考えてみる。

「ん? ちょっと待った!0.1BTC? 少数点あるやん?」

そう。実はビットコインの最小単位は1ではない。日本円にも、かつては1/100円である「銭」という単位があった。

ビットコインの最小は0.00000001(=1億分の1)BTC。1ビットコインは2015年3月25日現在約3万円だから、最小単位を円に換算すると0.0003円ほどだ。この最小単位を、ビットコインの発明者のナカモトサトシに敬意を表してビットコイン業界(笑)では慣習的に1 Satoshiと呼ぶ。

しかし、実際にはビットコインで送金できる最小金額は仕様上5,460 Satoshiとなっており、この金額未満はDust(くず)と呼ばれる。日本円に換算すると約1.638円だ。この額以上であれば送金が可能なので、ビットコインは充分に魅力的な少額決済が可能なシステムとも言える。

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クレジットカードは送金(決済)のコストが高いので、10円なんて死んでも決済したくない。(元々クレジットカード決済事業を営んでいた私から見て、これはホンネの表現)。特に日本では大赤字になる。銀行は振込手数料さえ支払えば10円でも振り込んでくれるが、さすがに利用者の割に合わない。

さて、話がそれたが、BくんからAさんへの送金がどう処理されるかに視点を戻そう。ちなみに先ほどの円換算で言うと、約3,000円ほどの送金である。
「ビットコイン・ネットワーク」の参加者が送金処理を請け負う

ソフトウェアであるビットコインは誰でも無料で入手して、インストールすることができることは既に説明した。そのソフトウェアをインストールしていると、誰でもすぐに「ビットコイン・ネットワーク」に参加することができる。今日からあなたでもできる。

その参加者は、「ビットコイン・ネットワーク」上で他人の送金決済の承認を担うノード(node=接続ポイント)の一つとなるのだ(このノードと言う言葉もよく使われるので覚えてしまおう)。

では、そのネットワーク参加者(ノード)の間で何が起こっているのか。

ここでは、Oくん、Pくん、Qくんがソフトウェアであるビットコインを動かしていて、ネットワークに参加しているとしよう。わかりやすいように、PCではなくスマホ上でソフトウェアとしてのビットコインを動かしていることにする。3人ともスマホはインターネットにつながっている。この3人は立派な「ビットコイン・ネットワーク」上のノードだ。

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送金したい者は、インターネットにつながっている、いずれかのノードにその旨を伝えればよい。それだけで直ちに送金処理が始まる。
全ての送金依頼は「公開鍵暗号」で「電子署名」される

では、BくんがAさんに0.1BTCを送金したい場合はどうすればよいか?

Bくんは、先述の自分の(暗証番号にあたる)「秘密鍵」を使って、自分のアドレスからAさんのアドレスに対して0.1BTC送金したい、という情報をそのネットワークに流す。

ここでは、わかりやすくするために、Aさんのアドレスは「xxxxxxxx」、Bくんのアドレスは「yyyyyyyy」ということにしておこう

ややこしい暗号技術の話は端折る約束だが、簡単に説明すると「秘密鍵」を使った電子署名は、その「秘密鍵」を知っている人間にしかできない。これで作った「(Bくんのアドレス)yyyyyyyyから(Aさんのアドレス)xxxxxxxxに送金したい」という情報は、yyyyyyyyの「秘密鍵」を握るBくんにしか作れないのである。

しかし、他人からはBくんの「公開鍵」を使えば、これはBくんが作ったものだとちゃんと確認できる。しかも、この場合Bくんの「公開鍵」はBくんのビットコインアドレスそのものだから、それをそのまま使えば「これはちゃんとBくん本人が作った送金リクエストだ!」と本人確認できてしまう。

アドレスの作り方を説明したところから出てきたこの「公開鍵暗号」という仕組みは、「電子署名」という名の本人確認ができてしまう非常に便利な仕組みなのだ。

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通常の銀行送金の場合であれば、インターネット上でつながった銀行のウェブサイトにそのパスワードを入力せねばならない。だから、PCに怪しいマルウェアが仕込まれていたりすれば、パスワードが第三者に漏れて残高を盗まれる可能性も高まる。実は日本だけでも、一般預金者がそんな被害を年間何十億円も被っている

ところがビットコイン送金で必要なこの電子署名は、インターネットにつながっていない端末でも署名することができる。いったん署名した情報は他の誰にも改ざんできないから、安全に依頼ができるというわけだ。

それこそ、インターネット接続を切ったスマホでまず電子署名して、それからその署名したファイルを他の端末に移して送金リクエストを出すことだってできる。こんなにも安全な送金依頼方法は、既存の金融システムではまずありえない。

ビットコインはP2P電子マネー

さてBくんは、早速その送金リクエストの情報をOくんのノードに投げた。

「yyyyyyyy(Bくんのアドレス)からxxxxxxxx(Aさんのアドレス)に
0.1BTCを送金 by yyyyyyyy(電子署名済)」

そして、一つのノード(Oくん)に送り込んだ送金リクエストは、インターネットでつながった全部のノードに一気に広がる。

ここで初めて、ビットコイン好きな人からよく聞かされる言葉である「P2P(Peer to Peer)」が理解しやすくなる。

オンラインバンキングのように利用者が一斉に一カ所に用意された中央サーバーに接続する(「クライアント・サーバー方式」と呼ぶ)のではなく、それぞれのノードが蜘蛛の巣のようにインターネット上でつながって、個々のノード同士がが情報を交換するから、この仕組みを「P2P方式」と呼ぶ。

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図の右側では、BくんもGくんも両方同じCくん銀行のサーバーに接続している。しかし、図の左側のビットコインでは、手元で作った送金リクエストファイルを、好きなノードに投げるだけで良い。

よく知られているソフトウェアでは、インターネット電話のSkypeがこのP2P接続で成り立っている。音声を、無数にいる利用者の端末を都合良くつないで経由するのだ。

そこで見て欲しいのが、前の方で紹介を約束していた、ビットコインの発明者であるナカモトサトシの論文タイトルだ。

「Satoshi Nakamoto(中本 哲史)(2008)
Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System
(ビットコイン:P2P電子マネーシステム)」

タイトルに入れるほど、この「P2P」の仕組みがビットコインにとって大事だと言うこと。なのでこれは今のうちに頭に入れておこう。

ではBくんの送金に話を戻そう。

O君のスマホはそのBくんのリクエストを受け取った。すぐにO君が入れているソフトウェア版のビットコインは、そのリクエストが正しいものなのかを検証する。O君のスマホは過去全部の元帳データを持っている。だから、B君のアドレスが支払うに十分な残高を持っているかどうかもすぐに分かる。

これは正当な支払いリクエストだ。そのことが分かった瞬間、O君のスマホは「ビットコイン・ネットワーク」に参加している全員にも、先ほど出てきた「P2P接続」を利用してリクエストを配信する。当然PくんもQくんもそれを受け取ることになる。

これは、O君個人の意思ではなく、スマホに入っているソフトウェアとしてのビットコイン(覚えなくて良いが、通常デーモンと呼ばれる)に組み込まれている絶対ルールなのだ。ネットワーク参加者は、平等にそのリクエスト情報を受け取ることができる。

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では、ここでみんなに広がったB君の支払いリクエストについて、その情報を「ビットコイン・ネットワーク」上で「正式に支払い済」として採用するにはどうすれば良いのか?

それは、この新しいリクエストを新しいページに書き込み、そのページを元帳の最後のページにのり付けすればよいのだ。そうすれば、Bくんの送金は正規の元帳に記されたトランザクションデータの一つとなるはず。

Oくんは、早速新しいページを用意して、そこに書き込んだ。

「yyyyyyyy(Bくんのアドレス)からマイナス0.1BTC。xxxxxxxx(Aさんのアドレス)にプラス0.1BTC」

しかし、誰でも単にこのページを正規の元帳の最後にのり付けすれば良いというものではない。そんなのが有りなら、それこそ不正し放題の世界だ。

物事にはルールがある。ビットコインもしかり。のり付けする権利を得るのは、たった一人だ。

そしてバトルの火蓋が切って落とされる

そうだ。ここでついにビットコイン・ネットワークの真相を明かそうではないか。

この新しいページを既存の元帳に正式な1ページとして追加するには、実は参加者(ノード)全員が参加するバトルに勝たねばならないのだ!

よくみると、手元の元帳の最後のページには謎の暗号文字が書かれている。

「お題:00LhRlQs8A」
(実際にはもっと文字数が多いのだが、ここではわかりやすく短くしてある。)

Oくんはその文字列をスマホカメラで読み込んだ。スマホ画面には、その文字列が現れ、その下に「ノンス(nonce=使い捨てのランダムな値)」という空欄と送信ボタン、そしてさらにその下に「計算結果」という空欄の合計3行が表示された。

ちなみに「ノンス」は、ひたすらランダムな文字列を生成して放り込む。正解の計算結果を出すためだけに使われる、使い捨ての項目を意味する。

画面が表示されると、突然Oくんは画面の連打を始めた!ひたすら連打する度に「ノンス」の欄に意味不明な文字列が表示され、計算結果の欄にも意味不明な文字列が表示された。そして画面に大きな赤い「×」が「はずれ」の文字と共に表示されている。

その赤い「×」がでた瞬間に同じボタンを叩く、Oくんは気が狂ったように、ひたすらそれだけを繰り返す。

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Pくん、Qくんも同様だ。Oくんに負けずと、無心にスマホ画面上のボタンを連打している。その度に、3人の画面には赤い「×はずれ」が表示されるばかりだ。

そして10分後……。

Pくんの画面に、今までの赤い「×はずれ」とは違う青い「○正解」という文字が表示された。

「正解!勝者zzzzzzzz(Pくんのアドレス)!
おめでとうございます!
頭の『00』がそろいました!
賞金、25ビットコイン!
(30,000円換算でなんと750,000円)」

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勝者のPくんは休む暇もなく、自分が先ほど書いた新しいページの最後に、スマホ画面の「計算結果」という欄に表示された文字列を書き込んだ。

「お題:00ue7EGxpV」

さらに、自分のアドレス残高に賞金の25ビットコインを追加するよう自らページに書き込んだ。

「zzzzzzzz(Pくんのアドレス)にプラス25ビットコイン」

そして、糊でそのページを元帳の最後に貼り付け、新しいページの撮影をして、ビットコイン・ネットワークに送信した。

それと同時に、Oくん、Qくんの画面にもメッセージが表示された。

「Game Over!」
「残念、勝者はzzzzzzzz(Pくんのアドレス)でした」
「zzzzzzzzが導き出した正解を検証してから、新規ページに書き写してそれを元帳に足しなさい」

バトルの敗者となったOくんとQくんは、Pくんから送られてきた正式な新しいページをまず検証する。Pくんが不正をしていないか確認するためだ。

バトルに使うアプリはどれも、同じ「ノンス」を入力すると一方通行で同じ計算結果を算出するから、検証は簡単だ。Pくんがもし不正をしていれば、違う答えが出るからだ。

これは、参加者(ノード)全員が、その他の全員が不正しないよう勝者を360度監視するバトルなのだ。

Oくん、Qくんは、Pくんの答え=「ノンス」が正しいことを確認したので、自分たちが書いたページの下書きを破り捨てた。新しい用紙に勝者Pくんから送られてきたページの内容をそのまま書き写し、元帳の最後に貼り付けた。これでPくんの新規ページが正式に承認されたことになる。

当然その元帳の最新ページには「BくんからAさんへの送金」、「Pくんが勝ち取った賞金」、「新しいお題」の全てが記録されている。

これで、一連の送金手順がひと通り完結することになる。Bくんからは、Aさんに正式に0.1ビットコインが支払われたことになった。

そして、Pくんは何故か賞金25ビットコインも受け取った。

さて、いきなり賞金付きのパズルバトルなんて、ここでは一体何が起こってるというのだろうか?

新規発行ビットコインを賭けた欲望バトル、それが採掘

じつは、Oくん、Pくん、Qくんが参加していたのは、賞金を巡る果てしないパズルバトルだった。

そのルールというのは以下の通りだ。

  1. まず新しく「ビットコイン・ネットワーク」に投げられてきた送金リクエストの中から、好きな物を自分で選んで新しいページに書き込む。
    この場合、「(Bくんの)アドレスyyyyyyyyからマイナス0.1BTC。(Aさんの)アドレスxxxxxxxxにプラス0.1BTC」
  2. リクエストを新規ページに書き終わったら、手元にある元帳の最後のページにある「お題」という文字をスマホで読み込む。
    この場合、「00LhRlQs8A」がそれにあたる。
  3. すると、スマホでパズルバトルが始まる。元のお題の文字列に対して、「ノンス(nonce=使い捨てのランダムな値)」というランダムな文字列がボタン叩く度に表示され、その2つの文字列が暗号プログラムに通されて「計算結果」の欄が算出される。
  4. ボタンをひたすら叩き、約10分後に「計算結果」の欄に最初の2文字が「00」になる結果を一番最初に表示した者が勝者となる!
  5. 勝者には、賞金として25BTCものビットコインが新規に発行される!
  6. 勝者は、自分が書いた新しいページに算出された計算結果=新しいお題を書き込み、自分の残高にも25BTCを書き足してから元帳の最後に貼り付ける。この場合、「(Pくんの)アドレスzzzzzzzzにプラス25BTC」
  7. 勝者は、そのページを撮影し、ネットワークに流す。
  8. 他のプレイヤーは、勝者の「ノンス」を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する。ぶつけた「ノンス」の数(計算力)をもって投票権とし、51%以上のプレイヤーが正しいとすればよし。
  9. 検証の結果、敗者は失敗したページを破って捨て、プレイヤー全員は勝者が作った新しいページを、正式に採用(承認)する。
    これで1ページ分の送金が完了し、休みなく次のバトルへと進む!

すなわち、元帳の正規ページをのり付けするために開催される、この無謀な総当たり連打バトルに勝った者に、新規のビットコインが発行される仕組みになっていたのだ。

注目すべきはルールその8。

「他のプレイヤーは、勝者の『ノンス』を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する」

実はここにも、ビットコインのアドレス作成の箇所で学んだ、一方通行の暗号方式が使われている。Pくんがかなりの苦労を伴って算出した正解である「ノンス」。しかし一旦誰かがその正解を導き出せば、あとは誰がその「ノンス」を使っても、同じ計算結果が出る。

と言うことは、OくんとQくんがPくんの答えを検証するためには、その正解の「ノンス」を同じ暗号プログラムに放り込むだけ。それで一発で完了する。

これが冒頭でチラ見せした、ビットコインで重要な「Proof of Work(PoW)」という概念なのだが、詳しくはまた後ほど。

ここでもう一度、冒頭で説明した一般的な通貨を思い出して欲しい。それら法定通貨は、国=政府が勝手に発行量や流通量を決めてコントロールする。我々国民は、いくらどのように発行されているのかさえ気にしない。

しかしビットコインでは、決められた発行量がこのバトル勝者に発行される。ビットコインの発行量を説明した時に、「約4年ごとに発行量が半減される」と説明した。実はこれはわかりやすいようにい言い換えただけだった。これを正しく言い換えると、「10分ごとに勝者が発表されるバトルにおいて、21万バトル(ページ)ごとに支払われる賞金が半減される」となる。

すなわち、2015年現在25BTC支払われているものが、2017年には12.5BTCに半減されると言うことだ。そして2021年にはそれが6.25BTCになる。

この新規発行されるビットコインは、支払いリクエストの承認作業をするためにバトルに参加するプレイヤー(マイナー=採掘者)達への賞金としてのみ用意されている。

ビットコインを手に入れるには3つの方法しかない。買うか、もらうか、それとも自分で採掘するかだ。このバトルがその3つめにあたる。

あなたもよく、ビットコインに関してこの「発掘」や「採掘」、「mining(=採掘)」という言葉を聞いてきただろう。これは、「コイン=金」という発想から、連想される「採掘」という言葉を採用しただけの話で、本当は土を掘る行為でも何でもない。もうおわかりのように、それは新規発行される賞金のビットコインを賭けた、欲望によって成り立つ暗号パズルバトルだったのだ。それが「ビットコイン採掘行為」の実態である!

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ただし、ここまでの内容はわかりやすくするためにかなりデフォルメしてある。

実際には人が無心に画面を叩くわけでもなく、決まった暗号方式でひたすらコンピュータや専用機がノンスを総当たりでぶつけながら計算し続けているし、元帳のページも決まった方式でデータを整えて用意しなければならない。そして元帳1ページあたりにはかなりの量のトランザクション(送金リクエスト)が記載できる。

これら全ての行程はビットコインの仕様として詳細が決められており、人を介さず全自動で、かつ、とてつもない速さで処理されている。

さて、このバトルでは、ソフトウェアであるビットコインに組み込まれているルールが絶対だ。しかし、ここでもそれを逆手に取る者がいる。

実は、この採掘バトルでは、上記のルールさえ守れば「総当たり連打するための武器は問わない」のだ。
採算を賭け武器も場所も問わないバトル、それが採掘

Oくん、Pくん、Qくんは日本に住んでおり、かろうじて賞金総額(新規発行された獲得ビットコイン)が食費(消費電力の電気代)を上回って生活している。「腹が減っては戦はできぬ」のだ。

そこに、Sさん、Tさん、Uさんが参加してきた。しかも、Sさん、Tさん、Uさんは資金も潤沢で高級な「画面連打専用強化ギブス」を購入してバトルに備えてきた。

この「ギブス」は、ひたすらボタンを連打するマシーン。手でボタンを叩く何百倍もの速さで画面上のボタンをたたくことが可能だ。

ただ実は、この「ギブス」を使うと、使わないOくん達に比べて何倍も速く腹が減る(電力を消費する)。そこが唯一の難点だ。しかし、食費(電気代)が遥かに安い中国在住のSさん達には問題ない。電気代が馬鹿高い日本に住むOくん達よりも、高いコスト効率で賞金稼ぎに専念できるため、高いギブスのコストも十分に回収できるのだ。

この例えが、まさに近年のビットコイン採掘バトルを象徴している。電気代や土地代の安い中国では、部屋どころか工場を丸ごと専用採掘機(ASICと呼ぶ)専用のデータセンターに改造し、巨大な水冷装置でそのコンピュータを冷やしながら日々大量のビットコインを採掘している。

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ビットコイン採掘競争がグローバル規模で激しくなればなるほど、我々電気代の高い近代国家(当然日本は一番不利な方)に住む採掘者にとっては、参加するには採算の合わないバトルへと変貌している。

ここで、鋭い人には一つの疑念が浮かぶ。

採掘バトルの厳しさも自動で調節するビットコイン

「先ほど、ルールでは1バトルにおいて、約10分後に勝者が生まれると言っていた。これだけルール無用のバトラーが数多く参入してきたら、1バトルあたりの合計連打数がどんどん増えて、1バトルに要する時間も10分よりどんどん短くなっていくのでは?」

全くその通り、しかし、ソフトウェアであるビットコインはそれも自動的に制御している。

先ほどのルールに出てきたお題である「00LhRlQs8A」。計算結果はこのお題と同じく最初の2桁がゼロであれば勝利、となっていた。しかし、バトル参加者が増加して、合計の連打ペースがどんどん上がってくると、ソフトウェアであるビットコインはこのルールを自動的に変更する。

すなわち、1バトルあたりの時間がちょうど10分になるように、そろわなければならない頭のゼロの桁数を増減させるのである。バトル参加者の連打が増えれば、ゼロの桁数を増やす。連打が減れば桁数も減らす。これが、実に2,016バトル(ページ)ごとに自動的に調整される。

実際のビットコインでは、この例で出したものより遥かに文字数が多く、揃えなければならないゼロの桁数も現在は16桁前後である。これを総当たり戦で正しいノンスを割り出すには、とんでもない計算能力が必要になる。その計算力についての詳細は、また後ほど説明する。

「Bitcoinの決済には10分かかる」と耳にされたこともあるかもしれないが、その10分という数字はここに由来するというわけだ。

厳密に言うとすれば、ビットコインの採掘では、1バトルの時間制限が10分に設定されているのではなく、10分でバトルが終了して勝者が生まれるようにルール自体が自動的に調整されていたのだ。これにより、元帳のページは平均して10分に1ページずつ増えていくことになる。

ビットコインの決済手数料とは?

「ビットコインの送金手数料は銀行のそれに比べて遥かに安い」とよく言われる。しかし、「無料で送金できる」という者もいる。

一体何が正しいのだろう?

正解は、「両方とも正しい」である。

例えば、BくんとAさんに加えてもう一組、GくんとFさんが同時に0.1BTCを送金したい、とリクエストしたとしよう。

Bくんはケチで、手数料を払いたくない。そこで、送金時に「手数料0」としてリクエストに署名して「ビットコイン・ネットワーク」に送信した。

ところが、GくんはFさんに同じ0.1BTCを送金する際、0.001BTC(約30円)を手数料として含めて署名し、「ビットコイン・ネットワーク」に送信した。

そう、ビットコインでは、送金リクエスト時に好きな分だけ送金手数料を上乗せしてリクエストできる。例えば、1BTCを送金するために100BTCの手数料を支払うことも可能だ。もったいないけど。

カード決済のように受け側(商店側)が手数料を負担するのではなく、日本の銀行振り込みのように支払側が手数料を設定する。

ここで、採掘バトルのルールをもう一度見てみよう。ルールその1にこうある。

「新しく『ビットコイン・ネットワーク』に投げられてきた送金リクエストの中から、《好きな物を自分で選んで》新しいページに書き込む。」

実は、ビットコイン・ネットワークに投げられた送金リクエストは、各ノードにある「プール」と呼ばれる場所に一旦保留される。新規ページに自分が承認したいリクエストを書き込む際に、採掘者は自分が「好きなものをプールから自由に選べる」というわけだ。

ではもし、BくんGくん両方の送金リクエストが届いた時点で、採掘バトラーPくんのページには、もう既に最後の1リクエスト分しか書き込むスペースが残っていない場合はどうするだろうか?

答えは簡単である。Pくんは、手数料ゼロのBくんの送金リクエストを蹴って、手数料0.001BTCのG君の送金リクエストを書き込んでからバトルに参加する。

その結果Bくんのリクエストは、今回のバトルでは無視されてプールに放置されてしまった。次のバトルでページにとり上げられるのを待つしかない。

こんなことが起こる理由は明白だ。自分が採掘バトルに勝って元帳の正規新ページに採用された場合、そこに載せた送金リクエストの手数料全てが合算されて自分のものとなるという取り決めがあるからだ。

Pくんにとって、タダよりも0.001BTCの手数料の方が貴重だ。ちりも積もれば山となる。それに、時々送金の設定をミスって手数料1BTCなんてのも送られてくる。この話、実際に起こりがちだから手数料収入も馬鹿にならない。

勝者には、賞金である実に25BTCという大金が与えられるが、それ意外にも、この手数料収入が上乗せされて発生する仕組みになっているというわけだ。

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ちょっとビットコインを勉強した人から、こんなことを聞かれることが多い。とくにビットコインのあらを探す反対派の人達から。

「ビットコインの発行量、すなわち採掘者の報酬が4年ごとに半減するなら、採掘のインセンティブと魅力が下がっていって、どうせ将来はビットコインの仕組み自体が機能しなくなって破綻するんだろ?」

確かに先述の通り、2017年には報酬が25BTCから12.5BTCへと半減し、2021年には6.25BTC、2025年には3.125BTCとなる。しかし「ビットコイン・ネットワーク」は、年を増すごとに「採掘インセンティブ重視」から「送金手数料(トランザクション・フィー)インセンティブ重視」の、より純粋な決済ネットワークへとシフトしていくだけである。

ナカモトサトシ先生は、そんな誰もが思いつくような懸念について、最初から思いつかないほどの馬鹿ではない。

ちなみに、ビットコインの「送金手数料が安い」というのも事実だ。上記の0.001(約30円)でなくとも、0.0001BTC(約3円)も支払えば、充分に短い時間で送金が承認される。

現在の一般的な海外送金を考えてみて欲しい。数万円を送金するだけでも何千円もの手数料を支払い、長い場合には送金先に着金するまで2日3日かかる。大企業がどれだけ交渉しても、その料金は800円程までにしか下がらない。

さらには送金金額が非常に多い場合、銀行は1日2日分の金利を稼ぐためにわざと外部への送金を遅らせるということまで平気でやってのける(日本の銀行は知らないが、私は欧米の銀行で過去よくやられた)。最近では一般消費者向けの海外送金手数料も下がってきたが、ビットコインとは桁がまだ3つくらい違う。

そんなしがらみや無駄なコストが一切なしに、10分もあれば少額でも世界のどこにでも送金できてしまうのがビットコインである。

いや、実際にはビットコインが海外に送金されるわけではないので、厳密に言えば世界中どこにいる相手にでも、10分もあれば残高の権利を移行できる、としておこう。

手数料ゼロで送金できるのも真実

「では、手数料ゼロの送金リクエストは採掘者に損なので、永遠に無視し続けられるのでは?」

ビットコインでは、そんなことも想定してルールが作られていた。さすがナカモトサトシ師匠。

実は、先ほどのバトルのルールその2では、とある詳細を割愛していた。それがこれだ。

「なお、新規ページ上には決まった分だけの特別スペースを確保しておき、その分を『手数料が極めて小さくても承認されずに一定時間以上が経過しているなど、陳腐化しそうな送金リクエスト』で必ず埋めること」

儲かるトランザクションを優先することは自由だが、儲からないが時間が経過しているトランザクションも一定量は優先して載せねばならないという特別ルール。

これにより、時間がかかっても原理的には漏れなく送金リクエストは処理される。

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手数料をゼロとしてリクエストしたビットコインの送金が、当日には全く完了しないのにもかかわらず、数日後の忘れた頃に承認される現象はこれに起因している。

従って、「ビットコインは手数料ゼロで送金できる」というのも正しいと言うわけだ。

純粋な、採掘者の欲望の優先順位で成り立っている「ビットコイン・ネットワーク」。ここは「早く送金の処理をされたければ、手数料は高く払え」という現金な資本主義の世界なのである。

不正や破綻が困難なビットコイン

もう一度、「ロールプレイ」における銀行とお金の仕組みを思い出そう。あの金融リスクや預金リスクが高いことを想定した世界では、不正や破綻を起こすのは簡単だった。

そもそもお金の流通量をコントロールするDくん政府が財政でミスを犯すか、Cくん銀行が同様に経営でミスを犯す、もしくは故意に客の残高を操作するだけで、あなた(Bくん)の持っているお金の価値が紙くず同然になったり、銀行残高がいきなり半減したりする可能性があるという話だった(そう言えば実際に現実社会で半減された経験者は私だった)。

では、ビットコインではどうなのか?

採掘バトルのルールその8を見るとこうある。

「他のプレイヤーは、勝者の『ノンス』を使って、勝者の計算が本当に正しいかを検証する。ぶつけた『ノンス』の数(計算力)をもって投票権とし、51%以上のプレイヤーが正しいとすればよし」

すなわち、誰かが全く嘘の「ノンス」でバトルに勝ったふりをしても、ビットコインの360度監視多数決ネットワークでは他の採掘者には一切誤魔化しは認められない。

ではどうすれば不正ができるのか?原理は簡単で、51%以上の投票権を掌握した上で嘘のページを正式に元帳に採用すれば良いのだ。

これを、ビットコインの世界では「51%アタック」と呼ぶ。

ちなみに、この「ノンス」は暗号の関数を通って算出された文字列であるため、多くの場合は「ハッシュ(Hash)」と呼ばれる。したがって、元帳最後のページに載ってる「お題」もハッシュと呼ばれる。なのでここからは「ハッシュ」という言葉を覚えて使おう。

実際には今この瞬間も、恐ろしい数の採掘者達によって、恐ろしい数のハッシュが総当たり採掘バトルにぶつけられている。

このハッシュがぶつけられている(バトルの喩え話で言えば連打されている)単位を、1秒間あたりのハッシュ数を使って、「GH/s(Giga Hash per Second=1秒辺りのハッシュ数/1,000)」で表す。まるでドラクエの呪文のような言葉だ。「ギガハッシュ!」

2013年3月半ば現在で言うと、この数字はおよそ35万GH/sである。それをちゃんとした数字で表すとこうなる:

350,000,000,000GH/s = 1秒間あたり3,500億ハッシュ

この数値を、ビットコインの世界では「ハッシュ・レート」と呼ぶ。

新規発行されるビットコインを巡って、これだけのハッシュが総当りで毎秒試されているのだ。

もしあなたがビットコインで不正をしたい場合は、ルールその8に従って、51%以上となる秒間1,785億以上ものハッシュ・レートをぶつける環境を用意せねばならない。

しかもそれは、現在動いている採掘ノードを乗っ取った場合の話。新規で参入して不正を働くには、既存の秒間3,500億ハッシュを49%以下に抑えるために、実に秒間3,643億ハッシュもの計算能力が必要となる。

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そうすれば、嘘の送金を承認することが可能になり、自分で勝手に大量の採掘報酬を受け取ることもできる。

しかし、そんなことは現実問題として到底不可能だ。

ビットコイン・ネットワークは、すでにそれぐらい巨大なサイズにまで成長している。現実的に、ビットコインの元帳を意図的に書き換えることはもう不可能であることをおわかり頂けたはずだ。

さて、これを聞いて、データやサービスの信頼性が高いのはこの時点でどちらと思われるだろうか?あなたが知ってるお金や銀行?それともビットコイン?

完全破壊が不可能なビットコイン

もう一度しつこく、「ロールプレイ」の世界の銀行とお金の仕組みを振り返ろう。

Cくん銀行で、あなたの銀行残高データを破壊するのには、その銀行が管理している元帳(実際にはデータを記録してるサーバー)を全て破壊すれば良い。

いくらバックアップとして冗長化され、複数箇所に分散してデータが保存されているとは言え、これは中央管理者によって中央管理されている「Centralizedな環境」と表現される。

それに対してビットコインはどうだろう?

ビットコインでは、採掘バトルに参加しているコンピュータに加え、ソフトウェアであるビットコインを稼働させている全てのコンピュータ内の全てに元帳データが保存されている(実際には、元帳データを持たないものもあるが、ここではいったん無視)。

すなわち、ビットコインであなたの残高データを破壊するには、それらネットワークに参加する全てのコンピュータをほぼ同時に破壊するしかない。でなければまた新たに生まれたノードに元帳がコピーされる。

「ビットコイン・ネットワーク」に参加しているコンピュータは、それこそ世界中に無数に散在している。中国の田舎にある巨大な採掘工場から、日本のとある会社員宅の押し入れの中まで。それを全て、しかもほぼ同時に破壊するなんてことはもう到底不可能な話だ。

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前項のとおり「データを改ざんできない」どころか、「データを破壊したくともできない」。それが、ビットコインの実態だ。

ここでもう一度同じ質問を投げかけよう。データの信頼性が高いのはどちらだろう?あなたが知ってる銀行?それともビットコイン?

ビットコインだけに起こるデータの不整合と解決法

では、ビットコイン・ネットワークに参加するコンピュータの全ては、ずれもなく常に完璧に同じ元帳データを保有しているのか?

実は、それがそうではないことが時々発生する。

とある勝者が勝利を宣言したと同時に、他の採掘者もほぼ同時に勝利を宣言したらどうなるか。そのデータはほぼ同時に無数のコンピュータに伝搬を始める。

そして、それぞれが一部のノードに承認されてしまうことがある。ノードたちが正解を検証する前に二人共が勝者としてデータが出回っている状態だ。

その場合はどうなるのか?ひどい場合は、複数ページにわたって、「ビットコイン・ネットワーク」が分裂して、それぞれを正しいものとして扱ってしまうことがある。

これを、元帳のFork(分岐)と呼ぶ。

分岐といえども、元帳に複数枚ずつページがぶら下がる訳ではない。ネットワーク内で、2種類の中身が異なった元帳が正しいとされて、同時期に二重に存在してしまう感じだ。

実際、1年に数度は、実に40分間ほど(4ページ)にもわたってこのForkが発生することがある。

ではそうなってしまったあと、どちらの元帳が正しいと判断すればよいのだろうか?

実は、そのルールもビットコイン自体に組み込まれている。さすがナカモトサトシはんやで。それは……

「元帳は長い(分厚い)ほうが常に正しい」である。

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きわめてシンプルで潔いルールだ!すなわち、ページ数が長く伸びている方が正しいとされ、短いほうが破棄されるのである。

よく、ビットコイン関連のサービスで、「あなたの入金を確定するには最低6認証必要です」と言ったような表現を見かける。これは、6認証すなわち6ページも元帳が進めば、もうFork(分岐)してその支払いが取消になることはなく、それ以降は改ざんの恐れもなく、支払いが100%確定するだろうということである。

ビットコインの世界では、これが最も確実な回収リスクの回避方法である。

Decentralized(非中央化)された世界

もうこれであなたにも、ビットコインには銀行や国と言ったような、中央管理のための管理者自体が存在しないどころか、全くその必要さえないこと、そしてそれらが存在せずともトランザクションの信用性とデータの冗長性が客観的に保てることも理解して頂いたはずだ。

破ることができない絶対ルールは、最初からソフトウェアとしてのビットコインに組み込まれており、全ての送金承認プロセスは、ネットワーク上に無数に存在するノードが賞金のためにその役割を担う。

この「Decentralized」なビットコイン・ネットワークは、詳しい仕様を見れば見るほど、なぜか「生物の仕様」や「宇宙の仕様」を見ているかのように思えてくる。

各ノードが知性を持ってルールに則った自律活動をし、それら無数のノードが互いにP2P接続し、「新規発行されるビットコインを得る」という共通の欲望をエネルギー源として活動している。

ノードが得たインセンティブが活動コスト(電気代)を上回ればその活動は拡大し、下回れば活動を止める。

世界のどこかでノードが消滅していく傍ら、どこか別の場所でさらにノードが生まれる。

採掘者である個々のノードは、経済的な(採掘能力的な)格差は別として、数学的に平等にその労働に対して報酬獲得のチャンスを得る。

この「ビットコイン・ネットワーク」はとても有機的というか、生物的な集合体(コレクティブ)であるかのようにも感じられる。

この自由で誰にも縛られない「Decentralized(非中央化)」された世界が、世界中のリバタリアン達の支持を得て、ギーク以外のもう一つの文化圏としてビットコインが普及するきっかけとなった。

その証拠に、ビットコインはシリコンバレーなどの活動値が盛んな地域だけではなく、片田舎で開催される小規模なリバタリアンのお祭りなどでも使える。まさに、ビットコインは21世紀仕様のデジタル・ヒッピー・マネーだ。

そしてこの「Decentralized」という言葉は、今やビットコインを語るに欠かせない重要なキーワードの一つとなっている。

ブロックチェーンとはなんぞや?

「ちょっと待った」

ビットコインを勉強したことのある方であれば、冒頭でちょこっと触れただけのあのフレーズが気になっているに違いない。

それが、ビットコインにまつわるキーワードの中で最も重要な「ブロックチェーン」である。

「Decentralized」が理念であれば、「ブロックチェーン」は設計や規律と言ったところだろうか。

しかし、ここまで読んだあなたには、一発で「ブロックチェーン」の意味が理解できる。次の2文を読めば、もう「ブロックチェーン」の全貌を知ることになる。

ここまでに散々登場した「元帳の1ページ」単位が、ビットコインでは「ブロック」と呼ばれる。そして、そのブロックがつながった状態の「元帳」を、「ブロックチェーン」と呼ぶ。

それだけである。

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ここまでの文章において、「ページ」を「ブロック」に、「元帳」を「ブロックチェーン」に置き換えても、全て話が通る(銀行の部分を除く)。

図解ではあたかも直方体の「ブロック」として表現したが、本来は単なる容量と書式が決まったデータの塊である。その名前が「ブロック」であるから、わかりやすくこのようなブロックのつながりや、単なる正方形のつながりとして表現される事が多い。

よく聞く「ブロックチェーン」が、こんなにも理解が簡単だったのかと驚かれることだろう。当然、技術的な仕様は難解であるが、コンセプトが「元帳」であることが分かっていれば理解しやすいはずだ。名前というものは、知らないフレーズが使われているだけで、敬遠しがちになり、全く意味がわからないものになるのだ。

なお、この「ブロックチェーン」は、単にこの元帳の仕組みを指すだけではなく、先ほどの暗号ハッシュを用いた採掘バトルの仕組みや、トランザクション承認の仕組み、「Decentralized」されて、P2Pネットワークとして稼働している仕組みも含めてそう呼ぶことが多い。

ブロックチェーンの「Proof of Work」

そして、そこでの採掘バトルに採用されている評価概念が、冒頭に出てきた「Proof of Work(PoW)」と呼ばれるものだ。「回り道ができずコストがかかる単純行為」をしたという事実を使って、仕事をしたということを証明する仕組みを指す。

変な例かも知れないが、例えば広大な野原で四つ葉のクローバーを見つけた人に対して、10分に一つ完成するおにぎりを渡すとしよう。

おにぎりを得るには、ひたすら野原を這いずり回るという行為でクローバーを見つけるしかない。しかしおにぎりを渡す側は、その仕事を評価するには参加者が取ってきた四つ葉のクローバーを見て確認するだけで良い。参加者がより数多くのおにぎりを得るには、仲間を連れてきて人数を増やすしかない。

すでに学んだように、参加人数が増えても10分に一回おにぎりを渡すには、ゲームのルール(難易度)を調整すれば良い。「よし、今からおにぎりは四つ葉ではなく五つ葉のクローバーに与えられる」と。

「ブロックチェーン」では、暗号技術を使ってこの「Proof of Work」を実装している。ランダムな「ノンス」を一つ前のブロックにあるハッシュと併せて、一方通行の暗号アルゴリズムに放り込めば出てくる計算結果の頭のゼロがそろっていれば当たり。評価するには当たったノンスをもう一度そのアルゴリズムに通すだけ。

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ビットコインでは、その正解となったハッシュが、次のブロックで採掘する際の問いのハッシュとして使われる。これが永久に続き、ブロックが鎖(チェーン)のようにつながって伸びていく。

この仕組みでは、ハッシュが一定の計算コストを持って仕事の証明になることから、「Hashcash」と呼ばれていて、メールのスパムを防止する仕組みなどにも使われている。スパマーは、メールを送るたびに一定の計算で仕事したことを証明せねばならないから、何億通もメールを送るのに計算能力をかなり消費してコストがかかってしまう。しかしメールを受けた側は一発で検証できる、という仕組み。

それを、金融システムにおけるトランザクション承認プロセスに応用したナカモトサトシさんかっこいい。

将来有望なブロックチェーン

これらを含めた全ての仕組みがあまりにも画期的であり、信頼性が高いため、様々な分野で「ブロックチェーン」の仕組が採用され始めている。

実際、IBMが「ブロックチェーン技術」をIoT(物のインターネット)や主要通貨の決済システムに採用を進めており、あのIntelまでもがついに暗号通貨関連の研究者を募集している。

本当にこのビットコインの「ブロックチェーン技術」が、一般的に思われているように「怪しい」、「信用出来ない」、「データが改ざんされてしまう」ような技術であれば、先進的なテクノロジー企業がそれを参考に、採用して新しいプラットフォームをつくろうとするはずがないだろう。

「ブロックチェーン」を用いれば、改ざんできない透明性の高いプラットフォームができあがる。それを世界で初めて、決済プラットフォームとして実働させ、証明したのが「ビットコイン」なのである。

そして様々な大小の問題を乗り越えながら、ビットコインは2009年から止まらずに立派に稼働している。

ビットコインの真の姿

もう、まとめる必要さえないかも知れない。

しかし最後にもう一度、冒頭で私が宣言したビットコインの真の特性を思い出してほしい。私は、ビットコインは「消したくとも消せない」と書いた。

2008年11月7日午前9時30分36秒(PST)。実際にビットコインが稼働するよりも前の日付だ。この日、とある暗号関係のメーリングリストに送られて来た質問に対して、ビットコインの未来の姿を予言する返答を返した人物がいた。

「Yes, (you will not find a solution to political problems in cryptography) but we can win a major battle in the arms race and gain a new territory of freedom for several years.
そうだ。(我々は暗号技術における政治的な問題の解決法は見いだせないだろう。)しかし、我々は激しい戦いにおいて大勝利を収め、数年間は新しい自由の領地を得るだろう。

Governments are good at cutting off the heads of a centrally controlled
networks like Napster, but pure P2P networks like Gnutella and Tor seem to be holding their own.
各国政府は、中央管理されたNapsterのようなネットワークを遮断することは得意だが、GnutellaやTorのような純粋なP2Pネットワークはまだそれに屈していないようだ。

Satoshi
哲史

Satoshi Nakamoto Fri, 07 Nov 2008 09:30:36 -0800
The Cryptography Mailing List
Re: Bitcoin P2P e-cash paperより」

そう。発明者ナカモトサトシは、「Decentralized」なP2P方式で、「力を持った第三者にも首が落とせない」前提でビットコインを作った。そしてそれは今も独自の経済圏、すなわち彼のいう「自由の領地」を拡大し続けている。

ここでは最低「数年間は」と謙遜気味に書いているものの、すでに6年間以上に渡って、「ブロックチェーン」はあらゆる圧力や問題に屈さず、人々の経済活動を刻み続けているのだ。

「ビットコインは『取引は全て透明性が高く』、『盗むことは非常に困難』であり、『消したくとも消せない』もの。そしてある意味一般的な通貨よりも『信用できる』ものなのである」

ビットコインの原理を理解した今、冒頭で宣言したこの言葉に偽りはあっただろうか?

念のため、ここで最後にビットコインの特徴をもう一度まとめておこう。

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『不正』、『破綻』、『盗難』、『消失』

そんな言葉は、ビットコイン自身にではなく、Mt. Goxなどの、盗難や破綻による被害を発生させた取引所やサービスに向けるべきものである。ビットコインは消えていないし、消せない。

『怪しい』『不正送金』『マネーロンダリング』

そんな言葉は、ビットコイン自身にではなく、それを時代に先駆けて活用している犯罪者に向けるべきものである。まさに殺人事件における、罪のない鋭い包丁。ビットコインも同様に、あくまでも単に鋭すぎる決済ツールなのである。

最後に

ついにビットコインの原理を知って、あなたはどう感じられただろうか?

もし、あなたがテクノロジー産業に従事しているにもかかわらず、今日これを読んでもビットコインの原理について理解ができなかった場合は、あなたと暗号通貨やブロックチェーン技術とは相当相性が悪いのかもしれない。

と言っても、この先一切ビットコインを使わなくとも、あなたに何か問題が起こるわけでもない。ただ、大きな可能性を秘めた新しい分野を一つ見逃すことになる。

しかし、まったく無の状態からこれを読んでビットコインに興味を持った方や、今日まで抱いていたビットコインのネガティブなイメージを払拭できた方、そしてビットコインの革命性に感銘を覚えた方には、この先に広がるさらに大きな世界の可能性について何かを感じて頂けたはずだ。

2008年に謎の人物ナカモトサトシの論文として発表されたこのビットコインは、実にこれほどまでに、世界のトップエンジニアや研究者たちが熱狂するに値する斬新な仕組みなのである。

そしてこの「ブロックチェーン」技術の利用は、単なる決済システムにとどまらない。また、何百ものビットコインクローンである他の暗号通貨(Altcoinと呼ばれる)の根幹技術としてのみ使われている訳でもない。

その他にも、全ての電子契約やプログラムをブロックチェーン上に乗せるという壮大な「Etherium」というプラットフォームや、オープンな電子トークン株式市場を実現している「CounterParty」、現実に存在する金融資産を同価で取引できる「BitShares」、消せない特性を利用してデータ記録に特化した「Factom」など、Bitcoin 2.0と呼ばれる分野がこの「ブロックチェーン技術」を応用し、既に国境を越えて世界中に広がり始めているのだ。

日本が、世界各国に比べ、ビットコイン自体への理解と受容に数年以上も出遅れる中、そこから派生した理念と技術は、国境を超えて既存の仕組みを着実に侵食している。

ここで、今までのものと大きく状況が違うのは、この「ブロックチェーン」技術を用いたプラットフォームは、ナカモトサトシが予言したように、一政府の圧力や法律、一個人の思惑では原理的に潰すことができないということだ。

そして、それらが日本に攻め入る日も近い。我々も、否が応でもそれを受け入れなければならない日を想定して、日本からもイニシアティブを取るべく準備を進めねばならないだろう。

なぜなら、そのパイオニアであるビットコインでさえも、止めたくても、もう誰にも止められないのだから。