ディズニーがLucasfilmを買収すると発表されて以来、すべてのファンが思い続けてきた。「いつ『スター・ウォーズ』の実物版ができるのか」と。
いつか作られるのだろうと多くの人は想像していたが、2013年当時、映画スター・ウォーズの最後の3部作の第1話目の制作が開始されたときでも、まだ「Star Wars: Galaxy’s Edge」(スター・ウォーズ:銀河の果て)の計画がスタートしてたことに気づく者はいなかった。最初は10名程度だったチームは、最終的に4000名以上に膨らむと考えられている。
この5年間、Walt Disney Imagineering(以降Imagineering)は、リアルなスター・ウォーズの世界をこの地球上に作ろうと懸命に努力してきた。場所は、カリフォルニアとフロリダ。惑星バトゥーのブラック・スパイア・アウトポストが、現在建設されている。何十年間も映画のスクリーンで親しんできた街とそっくりな場所に人々が来てくれるかどうか、これは数十億ドルをかけた壮大な賭けだ。
見方によれば、このプロジェクトは、これまでになくきわめて安全な賭だとも言える。『スター・ウォーズ』の熱烈なファンと、ディズニーの特定の味付けによるテーマパークの信者が合体すれば、それだけでも、この新しい2つのテーマパークへの熱い期待に、長年にわたって油を注ぎ続けることは可能だっただろう。しかし、これはアメリカ国内のパークを単独のテーマで拡張する計画としては最大規模となるため、Imagineeringのスタッフとパーク経営側の野心の高さは成層圏にも届くほどだと言える。また、その拡張から好ましい収支結果を引き出すためには、ディズニーは忠実なファンだけでなく、幅広く層の厚い来場者に、遠い銀河の架空の世界を徹底的に忠実に再現したその場所で、1日を過ごしてもらわなければならない。
それを実現するために、Imagineeringは、アメリカに今年オープンされる2つのパークの構想を5年かけて練り上げ、2年をかけて建設する。
先週、Imagineering、パートナーのLucasfilm、経営陣に会い、3日間にわたって、もともとの発想、計画、ツール、デザイン、建設に関する苦労話を聞いてきた。さらに、カリフォルニアのディズニーランド内に建設中の「スター・ウォーズ・ランド」を見学し、その広さ、規模、バトゥーの雰囲気、そして2つの主要なアトラクションを確かめてきた。
「私たちは、『スタ−・ウォーズ』を手がけることには大変に野心的です」と、Imagineeringのポートフォリオ・エグゼクティブScott Trowbridgeは話す。「敷地は14エーカー(約5万6700平方メートル)以上あります。パーク内の小さな街と言ったところです。目を見張る建造物……、宇宙船、エイリアン、ドロイド、クリーチャーなどが、スター・ウォーズをスター・ウォーズらしくしています。それらが一体となって、スター・ウォーズの世界に暮らしたいと夢見ていた来場者の夢をかなえるのです」
マーケティングに関して懐疑的になり過ぎないよう、私はそのコメントに同意せざるを得なかった。ここに建てられているものは、ディズニーランドの中だろうが外だろうが、没入感と野心という点において匹敵するものがない。ここに来れば、スター・ウォーズのお気軽なファンも熱烈なファンも、同時にぶっ飛ぶことだろう。
地道な作業
これまで、ディズニーが発表した「スター・ウォーズ・ランド」に関する話を聞いたことがある人でも、これからお伝えする内容は、かなり新鮮に感じられるはずだ。だが、まずは重要度の順序として、彼らが何を作ろうとしているのかをお伝えしよう。その後に、どうやって作っているかをお伝えする。
カリフォルニア州アナハイムのディズニーランドと、フロリダのディズニー・ハリウッド・スタジオには、それぞれ14エーカーの敷地内に惑星バトゥーの一部が再現され、辺境の村ブラック・スパイア・アウトポストが建設された。その中にはショップや飲食店があり、村人が暮らし、ファースト・オーダーの前哨基地もある。村の外にはレジスタンスのキャンプがあり、にわか作りの生活基盤や、宇宙戦闘機や機材が散乱している。ここには2つの柱となるアトラクションがある。「Star Wars: Rise of the Resistance」(スター・ウォーズ:レジスタンスの蜂起)と「Millennium Falcon Smuggler’s Run」(ミレニアムファルコン密輸逃避行)だ。
ゲストがその世界に溶け込めるように、ランド全体が、一からデザインされている。キャストはバトゥーの伝統的な衣装をまとい、用意された中から衣服やアクセサリーなどを選んで自分でアレンジできる。またキャストは、ファースト・オーダーに対抗するレジスタンスや、コソコソと活動する密輸業者など、村の情勢に理解を深めるように指導される。食べ物もまったく新しくした。それぞれに背景の物語がある。ポークリブはない。そのかわり、カドゥのリブがある。カドゥは、あの不人気で有名なジャー・ジャー・ビンクスが乗っていた、あまり有名でない生物だ。怪しい酒場では、青い(または緑の)ミルクやカクテル(そう、アルコール入り)が飲める。看板はどれも、できる限り宇宙っぽくしてある。販売されているグッズは、すべてがバドゥーのために作られた特製品で、ここ以外の場所では買えない。どんなに小さなものでも、「拾ってきた」または「手作り」な雰囲気を持たせてある。
何より重要なのは、移動の感覚だ。
バドゥーへの移動
数日間、話を聞いてきた中で一貫していた大きな問題に、移動をどうするかというものがあった。ディズニーランド、つまり地球からスター・ウォーズの世界へ移動した感覚をどう持たせるかだ。
この問題は、ランドの位置を新しい惑星にすると決めたときに発生した。
「なぜ、タトウィーンやホスといった、昔からお馴染みのスター・ウォーズの惑星にしなかったのか? その本当の理由は、その場所をみんながよく知っていて、そこで起きた事件のことも知っていて、そのとき、だれもそこに居あわせていなかったからです」と、Trowbridgeは言う。「ここ、ブラック・スパイア・アウトポストには、まだチャンスがあります。そこは、冒険を招き、発見がある場所として最初から作られています。私たちも、スター・ウォーズのキャラクターになれる場所なのです。そして私たちは、そこで思いつく限り、スター・ウォーズの物語に参加できる場所にしたいのです」
大きな格納庫(左)の屋上に停泊している多目的シャトル。ドッキングベイ7・フード・アンド・カードの目印になっている。
その決断のいちばんの後押しになったのは、やはり、ハードコアなファンとお気軽なファンとが同じように楽しめる感覚を作るという考えだった。
「その中を歩くときは、本当にハードコアなスター・ウォーズのファンからスター・ウォーズをまったく知らない人まで含めて、他のみんなと同じレベルになりたいと私は思います」と、Imagineeringのマネージング・ストーリー編集者Margaret Kerrisonは、スター・ウォーズ・ランドの最初の計画説明会議に参加したときのことを振り返って話した。「私は、探検し、発見し、隅から隅まで走り回って、すべてのドロイドやエイリアンを見つけたくなる強い動機が欲しかったのです。筋金入りのスター・ウォーズ・マニアのように細かい知識を持たないからと、引け目を感じないようにしたいのです」
バトゥーにいくつかある入口に入ると、ゲストの周囲の気圧が少し高くなり、やがて解放されるのだと、Walt Disney Imagineeringのエグゼクティブ・クリエイティング・ディレクターChris Beattyは話してくれた。Frontierland(ウエスタンランド)、Critter Country(クリッターカントリー)、 Fantasyland(ファンタジーランド)のすぐ近くに入口があり、岩を「レーザーカット」した黒い石版のトンネルが現れる。そこに入ると、トンネルによって内容は異なるが、映画で有名な光景が広がる。たとえば中央のトンネルでは、いくつかの建造物が見える。すると突然、前方に何隻かの宇宙船、高くそびえる古代の尖塔、建物の上に停泊する宇宙船、風のそよぐ天蓋が見える。その光景から、ブラック・スパイア・アウトポストに来たと感じる。
このランドには、こうした「何かがわかる」瞬間がちりばめられている。レジスタンスのキャンプを初めて見たときは、まずはミレニアム・ファルコンが目に付くだろう。写真を撮る絶好のチャンスだが、同時にそれは、ゲストをその場所に結びつける瞬間でもある。
まだ周囲は建設中だが、この見晴らしのよい場所に建つと、それが驚くほど効果的に作られていることがわかる。ここにはディズニーランドの他の場所の痕跡が一切見られない。植物、細部までこだわったウェザリング、岩に囲まれた風景、お馴染みではあるが新しい部分もあるスター・ウォーズでお馴染みの形をした建物や装飾が、別世界にいる気持ちにさせてくれる。
建設は、従来の手法と新しく生み出された手法のミックスで行われている。ある意味、「ディズニーワールドにある「Pandora – The World of Avatar」(パンドラ・ザ・ワールド・オブ・アバター)のテーマレストラン、オープンスペース、ライドは、そうしたひとつのテーマに徹底した世界をどこまで追求できるかを実験するためのもののようにも思える。「Star Wars: Galaxy Edge」は、そこだけの「土着の」グッズや食べ物を提供し、できる限り「物語」の世界観を表現している他のランドからの教訓を加算して生まれた結果だと言える。
だが建設を始める前に、Imagineeringは、まずツールを作る必要があった。
スター・ウォーズを作る
カリフォルニア州グレンデールのグランドセントラル・ビジネスパークに並ぶサーモンピンクの低層ビル群の中に、Walt Disney Imagineeringの本社がある。そこは、機械いじり、コスチューム、ロボット工学、シミュレーション工学、歴史などを偏愛する専門家たちの楽園だ。ウォルト・ディズニー自身がWED Enterprizesとして創設したディズニーの唯一のデザイン開発組織だ(後に、当時は少し怪しい形でThe Walt Disney Companyに買収された)。それ以来、同社は、テーマの応用技術とロボット工学技術で世界に多大な影響を及ぼすことになり、Imagineering(イマジニアリング:イメージとエンジニアリングを合わせた造語)という言葉が、世界構築の基本コンセプトを同義語であることを世に知らしめた。
Dok-Ondar’s Den骨董品展。銀河中から集められた珍しい品を売っている。
Imagineeringの仕事のやり方で、ひとつ知っておくべきは、彼らは、努力の無駄を最低限に抑えるということだ。彼らのイマジネーションは、創造性、複雑性、野心の点で、常に現実を100倍超えている。そのほんの一部をゲストに提供する場合でも、Imagineeringは限られた時間、空間、予算、そしてそう、物理法則の中で常にその方法を探らなければならない。
仕事を遂行するために、彼らは独自のツールを作ることがある。つまり、市販の道具と自分たちで開発した部品を組み合わせて、問題の解決法をなんとか導き出す。ここはプライドに関わる部分なので、こう話すと、ちょっと変に感じられるかもしれない。しかし、Imagineeringで何かを作るときには、完全にエゴは忘れ去られているのだ。「何がなんでも自分たちのやり方を貫く」のではなく、「使えるものはなんでも使う」ということだ。ゲストのための夢を完成させるためには、その問題解決策の出所にこだわらないという姿勢によって、ディズニーの研究開発とImagineeringは、本当に魅力的な方向に前進できている。
物語を見せる上での問題に技術を適用して少しずつ解決してゆくImagineeringの方法を見たければ、サーボに取り付けた金属片から人型のスタントマン・ロボット へ発展するまでの推移を見ればわかる。
Galaxy’s Edgeプロジェクトでは、これほど大きな仕事をImagineering内部でどう管理するか、またLucasfilmとのパートナー関係をどうするかが、まず最初に解決しなければならない問題としてあった。
なぜ問題なのかと言えば、このプロジェクトが、ディズニーが過去に手がけてきたどの仕事とも大きく異なっているからだ。今回は、最初からすべての部門が密接に関与している。小道具、衣装、建築、商品、食事、ライドシステム、技術部門のすべての人間が、構想を練る段階から協働しているのだ。通常は、それぞれの部門は段階ごとに関わることが多い。しかしバトゥーでは、最初の最初から、すべての人間が同じページにいなければならなかった。
もし、みんなが心から浸れる世界を作りたいと思えば、ディズニーは、有機的に統合された感覚が必要になる。セットのデザインがグッズ販売に寄与し、グッズが物語に寄与し、物語がライドシステムやエンジニアリングに寄与するよう、長くて継続的な対話が必要になる。すべてが足並みを揃えなければならないのだ。
すべての人間をプロジェクトの同じページに集めるためのツールとしてImagineeringが使用したものの中に、BIM(Building Information Modeling:建築情報モデリング)がある。このツールは、2Dの設計図、3Dモデル、インフラ、小道具の配置情報を組み合わせたもので、膨大な情報すべてが連動した原本であり、あらゆる部門が参照できる。スタッフは、ランドの概要を3Dで確かめることから、特定の場所の入口のコントロールパネルのデザインまで掘り下げて見ることもできる。
そもそもこれは、プロジェクト全体を通して使用される基本的な形状や構造に関する情報で、ゲームエンジンUnreal Engineにフィードされる。ゲームの中の3D世界を構築するときと同じだ。ただしこれは、本物の水道配管や建築や技術が基礎に埋め込まれた現実の世界だ。
「このプロジェクトを開始したとき、あまりの複雑さを目の前にして、あらゆるツールを簡単に使えるようにする必要があると理解しました。最初の計画は、プロジェクト全体をデジタル環境で複製するというものでした。実際に建築に取りかかる前に、その惑星を作っておこうという考えです」と、ImagineeringのBIMおよびVDC(仮想デバイスコンテキスト)技術マネージャーのSanne Worthingは話してくれた。「これがあれば、クリエイティブなデザインを行う人間は判断がしやすくなります。工事を行う人間は、現場で作業を始めてから検討するのではなく、事前に判断が下せます。計画を立てる時間に余裕が生まれます。現場での難解で費用のかかる問題を回避できます」
BIMは、すべてを3Dで統合する方法をテストしたり、工事中はどこにクレーンを立てたらよいかを決めるなど、あらゆることが可能になる。BIMの中に作られた世界は、Imagineeringがパークをシミュレーションするための仮想現実にも利用される。
「Unrealを使うことで、私たちのアトラクションのいろいろなパーツを引き出して、動くパーツを組み立てることができました。そのため、このプロジェクトのパートナーであるILMから提供されたメディアを採り入れたり、動くフィギュアのためにアニメーションを取り出したりできます。このアトラクションを構成するパズルのすべてのピースを、仮想現実シミュレーションに組み入れることができるのです」と、Imagineeringのショー・プログラマーApril Warrenは話す。「それを見ながらクリエイティブチームと何度も繰り返し検討することで、普通なら現場に出なければわからない問題を先に発見して、早期に解決できます。また、私たちの創造性をうまく実現できない部分を発見して、改善ができます」
Imagineeringは、ここしばらく独自のVRシミュレーション・システムを使っている。私がそれを見たのは2年ほど前、完成したばかりのころだった。シミュレーターの中を自由に飛び回ることができるので、スタッフはランドをあらゆる方向から見たり、インフラから小道具まで、プロジェクト全体から特定の要素までを、高速で滑るように移動しながら確認できる。しかし、なかでも重要な機能は、ゲストが地面に立ったときに見える光景をできるだけ忠実に再現してくれることだ。それを使うことで、空調機や配管やダクトといった日常的で地球的な設備をどこに隠せばよいか、一貫した風景が味わえるようにゲストの視点をどこに固定するかなど、最大の効果を得るための要素がわかる。
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テーマパークのデザインはワイルドだ。モデリングやVRを使い、視線効果を決定する風景要素を配置できる。だが上から眺めると、ビデオゲームの世界の地面を突き抜けてしまったような光景になる。
「視線については、ランド内に立ったときに、歩き回ったとき、私たちが想定したとおりの体験ができるように、入念に組み立てています。みっともないエアコンが見えてしまわないようにね」と、Worthing。「没入感と、人々がこの世界に完全に浸れる感覚が、ものすごく重要なのです。BIMは、それを可能にする手段のひとつです」
「BIMには、ものすごいもの(能力)がいくつかあります」とWarrenは話す。「いろいろな調整ができるのです。たとえばある地域に車両を走らせたいと私が考えたとき、『あ、こんなところに配管が出てる。BIMを見たときには気がつかなかった』となっても、『ねえ、この配管を移動できない?』と頼めるのです」
「もし、その工程を経ずに現場に出ていたら、問題が起きていたでしょう。その配管に車がぶつかってしまいますから」
Imagineeringのテクノロジー・スタジオ責任者Bei Yangは、Imagineeringにはこんな格言があると言う。「アトムを動かすよりビットを動かした方が楽だ」
毎日、パッケージの評価がBIMに追加される。それにより、ライドとアニマトロニクスのチームはアトラクションの中を、それが建設される前に、いつでも「歩く」ことができるのだ。
「私たちは単にひとつの建物を建てているだけなのですが、誰も決して見ることがないデザインが100ほどあります」と話すのは、「Millennium Falcon Smuggler’s Run」のプロデューサーJacqueline Kingだ。「私たちはその建物の中に入り、実際の現場で鉄筋を組む段になって、正しい位置に配置できるよう、最良の判断をするのです。現場で実際に見てから間違った位置に壁があるという話はよく聞きますが、私たちは大抵の場合、問題の大半を事前に処理し、完全に正しい設計に修正することで、最良の結果を出しています」
BIMをVRシミュレーションに使う以外に、Imagineeringではそれをライドのシミュレーションにも使うようになった。しかしその後、さらなる応用方法が現れた。
建設の工程が決まると、バトゥーの世界の実体化が始まった。それには、建物、装飾、小道具、グッズ、食べ物、そして住人が含まれる。
Galaxy’s Edgeのデザイン
バトゥーのデザインでは、ディズニーランドのすべての食品グループが展開されるが、今回は、それぞれ個別にランドに合わせたデザインが施されている。建物、小道具、衣装から音楽、食べ物、グッズにいたるまで、すべてが徹底的にスター・ウォーズ化されている。
ディズニーには独自の建設スタッフがいない。3000人規模の人員となればなおさらだ。そこで、建設を請け負う人たちが、彼らのデザインを確実に実体化できるよう、工程とランドの目的を徹底的に教育した。とくに力を入れたのは、彼らの話をよく聞き、ビジョンを実現する方法をいっしょに考え、深く関ってもらえるよう彼らに依頼することだった。
Imagineeringのポートフォリオ・エグゼクティブ・プロデューサーRobin Reardonは冗談めかしてこう言った。「スター・ウォーズには、パイプがたくさん登場することがわかりました。私たちはたくさんのパイプを描き、たくさんのパイプをモデリングし、パイプだらけでピーピーです。私たちは設備業者に会って、こう話しました。『私たちが一から作ってもいいのですが、でも、ほら、パイプはあなたの専門だ』とね。彼はとても喜んでくれました。ビル設備の仕事は、普段は天井の裏や壁の中などに隠れて人目につきません。見えるのは通風口ぐらいなものですからね。彼らの仕事が表舞台に出るので、家族を連れていって『あれは私が作ったんだ。この世界の一部だよ。みんなが見るあの部分をね』と言えると興奮していました。楽しかった。それは今でも続いています。彼のチームはずっと、ここでの仕事に心底熱中しています」
「Star Wars:Rise of the Resistance」の建設作業中に実物大のタイファイターを確認するWalt Disney Imagineeringのスタッフ。
バトゥーを歩くときの地面にも、クリエイティブな努力の跡が見られる。Imagineeringのショーシステム・エンジニアPaul Baileyは、人が歩く地面の「土」や石の細部にもこだわったと説明している。
「この世界では、ゲストが物を間近に見るので、ひとつ上のレベルが要求されます。そのいい例として、このランドを歩き回るドロイドがあります。それは、私たちが伝えたい物語の一部にもなっています。1976年から1977年の『スター・ウォーズ:新たなる希望』(エピソード4)の時代、最初に登場したケニー・ベイカー演じるドロイドを研究しました。そこからドロイドの足の裏の車輪の跡を採取して、それを3つで1セットのファイルに変換し、そこから立体の車輪を1セット作りました。私たちは、小さなドロイド台車を作り、それをKristine(アートディレクターMakela Kristine)とそのチームに使わせました」
「具体的には、こういうことです」とMakela。「ここは大勢の人が働いている慌ただしい建築現場です。造形用のコンクリートを流し込んでいる人がいます。周囲はすべて汚れていて、工具もあり、押し型も置かれています。そこで、一人がその小さな台車に飛び乗り、もう一人がそれをコンクリートの上を引っ張る。すると、ドロイドが通った跡ができます」
「めちゃくちゃ正確に」とBailey。
ランド中に付けられたその車輪の跡を私も見たが、いかしていた。
装飾や小道具の正確さのレベルも「ひとつ上」だ。
「まず、この仕事を開始したその日、私はイギリスに飛ばされ、スター・ウォーズのセットを作った映画クルーを訪ねるように言われました。私は美術部門の大勢の人たち、小道具担当、アートディレクターたちと知り合うことができ、映画の小道具をどうやって作ったかを学びました」と、Imagineeringのクリエイティブ・ディレクターEric Bakerは話してくれた。「彼らの哲学の中には『オリジナルの映画は1980年より前に制作されているので、1980年以降でなければ買えないものは一切使わない』というものがありました。私たちは大変な時間をかけました。私たちが作ったものの材料の多くは、リサイクルしたものです。たとえば、ゼロックスのマシンには、使える材料が無数に詰まっています。私たちは常に、1980年以前のものを探し歩いていました」
「そうやって始めたのです。あの映画に関わっていた大道具担当者と協力して、彼らが映画制作でどのように物を作ったのかをみんなに見せて、作り方を学ぶスタイルを構築しました。私たちの仕事は、彼らが作り上げたこの驚きの村、彼らがデザインした素晴らしい建物に、そこに住む人たちの物語を通して命を吹き込むことです」
彼らは、映画制作チームが部品取りに使ったものと同じジャンボジェット機から、長い時間をかけて部品を引き剥がしたという。だが、すべての部品が1980年以前のものではない。主要な部品はそうだが、そうでないものは、映画の見た目や雰囲気にできるだけ近づけるよう、それを原型にして部品を作った。
バトゥーに住む人たちの衣装も、ディズニーランドの別の場所のものとは大きく異なっている。まず、ブラック・スパイア・アウトポストの住人は、あらかじめ揃えられた服、帽子、アクセサリーなどを、毎日自分で組み合わせて着ることができる。こうすることでキャラクターは特徴を出せて、ゲストにさらなる現実味を与えようという意欲が増す。
衣装は、ポンチョ、日よけ帽、風通しのよいジャケットやパンツなど幅広い。衣服はパーク内で風合いが増すように軽量に出来ていて、暑さ対策と色あせを予防するために、綿とナイロンの混紡になっている。スタイリングは新鮮で、色は自然な繊維を思わせ、重ね着の雰囲気も出している。日差しの強いカリフォルニアや蒸し暑いフロリダでも着られるよう、実際には一重なのだが、パーツを縫い合わせることで重ね着をしているように見せているものもある。
「衣装デザインの大きな喜びとして、私たちがデザインして作る衣装や装飾品が、文字通り、キャストの人生に触れるという点があります」と、衣装デザイナーJoe Kucharskiは話す。「キャストが個性を作る手助けをするだけでなく、自分の体によく合って、着心地がいいものが選べるようにしたいと考えています。織物のトップス、ニットのトップス、とても通
気性のいいものなど、本当に喜んでもらえるものを選べるよう、用意しています」
レジスタンス、ファースト・オーダー、そして「Rise of the Resistance」のキャストには、テーマに沿った制服がある。
アニマ・レクトリック
ディズニーのパークで注目を浴びる出し物がそうであるように、お察しのとおり、バトゥーにも、Imagineeringが得意とする動くロボットやアニマトロニクスがひしめく。売店を経営するドロイドから、ライドの順番待ちの相手をしてくれるキャラクターなど、Star Wars: Galaxy’s Edgeには動くフィギュアは山ほどある。
80年代から、ディズニーの各パークでは、A-100シャーシをベースにした油圧式のアニアトロニクスが使われてきた。これは、ヒューマノイドの基本型となるものだ。バトゥーのアニマトロニクスは、すべてが新しいA-1000シリーズのシャーシをベースにしている。これは、いろいろなサイズに、いろいろな方法で設定を変えることができる。なかでもいちばんの違いは、電動モーター式になったことだ。
電動モーターは、2009年にリンカーン大統領の頭部に使われたのが最初だ。その後は、 「Enchanted Tales with Belle」、「Frozen Ever After」、「Na’vi River Journey」といったアトラクションに使われている。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー – ミッション:ブレイクアウト!』のロケット・ラクーンも電気式だ。
「Savi’s Workshop Ð Handbuilt Lightsabers」では、自分だけのライトセイバーをカスタマイズできる。
油圧式と異なり、電動式は、よりずっと正確に動くことができる。動いたり止まったりがほぼ瞬間的に行え、動き出しと止まった後の予備時間が少ないため、次の動作に滑らかに移行できる。しかも、フィギュアに接続される配線の本数も油圧式の約半分と大幅に減る。そのため、フィギュアを配置するスペースも制御盤のサイズも小さくでき、結果として、シーンの中のより面白い場所に設置でき、配線を隠したり、メンテナンスの利便性に頭を悩ませる必要も少なくなる。
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新しいフィギュアは動きが滑らかで、いろいろなことができ、見ていて本当に面白い。
このスター・ウォーズの惑星に住む特級クラスのキャラクターを、いくつか紹介しよう。
ホンドー・オナカー – 『クローン大戦』に登場するウィークェイの海賊。現在は、オナカー・トランスポート・ソリューションズの経営者として、ある「配達」業務のためにチューイからミレニアム・ファルコンを借りている。アニマトロニクスのフィギュアは身長約210センチ。油圧ではなく最新の電動モーターで駆動する。ホンドーのフィギュアには合計約50の駆動箇所があり、ディズニーの全パークの中で2番目に複雑なアニマトロニクスだ。ちなみに、もっとも複雑なものは、上述のNa’vi Shaman(ナヴィ・シャーマン)だ。顔だけで40の駆動箇所があり、体全体では言うに及ばず。私たちは、2年前のロボット工学イベントでシャーマンに登場してもらったことがある。じつに見事な動きを見せる。しかし、ホンドーも負けてはいない。滑らかな動きと、自然な表情の変化、それに、彼が所有するR5ドロイドとの掛け合いがじつにリアルだ。
DJ R-3X – 以前はRX-24という形式だった。スター・ツアーズのパイロット、キャプテン・レックスとしてお馴染みだ。現在は、バトゥーのOga’s Cantina(オーガのカンティーナ)でDJを務めている。彼は、Imagineeringのチームや世界中のいろいろなアーティストが作曲した曲を演奏する。どの曲もポップな電子音楽風じで80年代っぽい。カンティーナの懐メロミックスも流れる。彼は胴体と腕を動かして機器を操作したり踊ったりする。曲は3時間で一巡し、音楽と会話で客を楽しませてくれる。面白情報として、Lucasfilmのクリエイティブ・エグゼクティブMatt Martinが教えてくれたところによると、レックスがバトゥーに流れ着くまでには、何ページにもわたる半生の物語があるとのことだ。
ドク=オンダー – アイソリアンの貿易商。ジェダイとシスの工芸品のコレクターとして名高い。私は、Imagineeringのアニメーション施設でドクが完璧に作動する様子を見てきたが、すごかった。身長はゲストの頭上数フィートの位置にそびえ、カウンターの後ろに座って従業員に指示を出す。ここでも、手や首の動きは大変に豊かで滑らかで、細かい部分がよくできている。彼は体全体を上下させることもできる。2つの口の唇は、よく響くステレオの声で話すとき、波打つように動く。
ニエン・ナン – 『ジェダイの逆襲』で、2つめのデススターを破壊する任務でミレニアム・ファルコンの副操縦士を務めたことで知られるサラスタン人パイロット。バトゥーでは、「Rise of the Resistance」アトラクションでゲストが乗船する輸送船の操縦士になる予定。
マイナーだがなかなか魅力的なキャラクターとして、噴水の中にカメオ出演するディアノーガがいる。かなり濁った水(演出だが)の中にときどき姿を現してゲストを驚かす。Creature Stall(クリーチャー房)の中にも、動くクリーチャーが大勢いる。ファンに人気のロズ=キャット やウォート などだ。Droid Shop(ドロイド・ショップ)にも、いろいろな種類の動くドロイドがいる。店の外には、「Play Disney Parks」アプリでゲストと遊んでくれたり、潤滑油の風呂でリフレッシュしているドロイドもいる。
興味深いのは、まだディズニーが公表していない、製作中のドロイドがいくつかあるらしいことだ。インタラクティブなフィギュアを作る部門には、まだたくさんのフィギュアがあり、新しい出し物でバトゥーを拡張する計画を、すでにImagineeringは考えている。また、ここに登場するロズ=キャットなどの小さなクリーチャーが、以前私が伝えた半自動のTiny Lifeプロジェクト に登場するのか否かは確認できなかった。
ブラック・スパイア・アウトポスト。
フィギュアをアニメーションさせる方法も、シャーシが新しくなったことにともない、アップデートされた。
「このプロジェクトで、とてもうまくいったことのひとつに、デザイン・ソフトウエアと、モデリングとアニメーションのソフトウエアとの間でデータの書き出しと読み込みを可能にするツールを、ソフトウエアのパートナー数社が開発してくれた点があります」と、ショー・メカニカル副エンジニアVictoria Thomasは話す。「そのフィギュアが何であり、ピボットがどこにあるかを3Dで正確に示したデータを彼らに送ることが可能になりました。彼らはそれを使って、彼らが動かしたい速度で正確にそれぞれの関節をアニメートできます。そこで、『おっと、肩のピボットが動かない。調整できるか?』みたいな貴重なフィードバックが大量に得られます」
「工程の初期にそうしたフィードバックを受け取ることで、フィギュアに生じるあらゆる問題の変更、その場での対処、修正、克服が可能になります」
アニメーションは、このランドを構成する他のすべてのデータと同じく、BIMの中で処理される。プレビズを作ることで、最終段階での頭痛や物理的な面倒を大幅に削減できる。
「早めに手を打てば、深刻な問題になる前に、問題に対処できます。とくにホンドーのフィギュアでは、『おや、彼の舞台ショーセットと位置からすると、彼のシーンでのオーディオに十分な余裕がないな。オンボードのスピーカーを付けよう』といった判断ができました」とThomasは話していた。
「他の場面では、『おい、大きなスピーカーがメンテナンスの人間がフィギュアにアクセスできるよう設けて置いた場所を塞いでる。このままではベースフレームのメンテができない』といった発見もありました」
「BIMとプレビズのお陰で、そうしたことが大幅に可能になったのです。もうひとつクールだったことは、フィギュアのモーションキャプチャー・データを最初に取得して、人間ならどう動くだろう? この動きは自然に見えるか? ゲストに喜んでもらうために、できるだけ有機的な動きにするにはどうしたらいい? といった要素を確認できた点です」
そうして出来上がったフィギュアは、現在のディズニーの技術では最高に見栄えのよいものとなった。そして彼らは、電気駆動のフィギュアのプレビズ制作においても最先端となった。それは、私たちが出会うことができるスター・ウォーズのエイリアンとしては、ほぼ本物に近い。
しかし、クールではあるものの、そうした住人はStar Wars: Galaxy’s Edgeの最大の呼び物ではない。
ライド
このランドには、2つのアトラクションがある。「Millennium Falcon Smuggler’s Run」(以降ファルコン)と「Star Wars: Rise of the Resistance」(以降ライズ)だ。「ファルコン」は、シミュレーションタイプのライドで、スター・ツアーズの超超進化版と言える。6人のクルーで、リアルタイムでコントロールができるのだ。「ライズ」は、簡単には説明できない。複数のステージのライドで構成されていて、全体として「実験的」アトラクションと言うのがもっとも相応しい。
これらのライドの開発には、ワイルドな新技術が使われている。既知の技術を新しい形で応用したものもあれば、正確に説明するにはレベルが雲の上過ぎて難しいものまである。
「ライズ」とシミュレーション
ディズニーは長い間、ライドのデザインとテストに、VRと拡張現実をいろいろな形で使ってきた。以前訪問したときの私の記事から引用すれば、カリフォルニア州グレンデールのImagineering本社には「The Dish」と呼ばれる大きなシミュレータールーム があり、そこは丸みをおびた部屋で、複数の高解像度プロジェクターが備えられている。そこは、簡単に言えば、「ホロデッキ」の役割を果たす。複数の人間がそこでライドやアトラクションを「見る」ことで、見た目や雰囲気に関する判断を下している。
建設中に撮影したミレニアム・ファルコン。
ユーザーは「Bowler Hat」(山高帽)と呼ばれるものをかぶる。それはその人の動きを追跡して、歩いて移動するごとに、それに合わせて視点を調整する。私たちはバトゥーの中や周囲を飛び回ることができ、翌日、現地に実際に行ったときに見ることになっていた光景を、仮想的に見ることができた。
しかしディズニーは、ライドのシミュレーションに、VRをもっと過激な形で使ってきた。とくに、Imagineeringの敷地の倉庫の中に作られた完全な乗用車両だ。それは、幅広の長さ30メートルのリングの中で車用の仕切りに囲まれていて、「ライズ」の線路のない車両と同じに動く。
「私たちは、あらゆる車両の動きを、VRを使って早期にテストできます」とApril Warren。「車両に乗ってVRヘッドセットをかぶれば、このアトラクションが将来どんなものになる、かわかるでしょう。私たちはこれを、すべてリアルタイムで行いました。本当にエキサイティングでした。このワークフローなくして、このアトラクションは作れなかったと思います。私たちはアトラクションを細かく分解して、社内で乗れるようにしました。私たちの車両で得られると私たちが考えていた体験が、このアトラクションの中で得られるものと同じかどうかを現実に確認できるようにしたのです」
「驚いたのは、実際の建物の中に入ったときに、すでに設備が設置されていたときです。私たちは、そこに行ったことがありませんでした。少なくとも私は。中を歩くと、VRで見たとおりだとわかり、こう言いました。『なんてことだ、自分がどこにいるかわかるぞ。すべて見たことがあるから、ここをどう歩けばいいかわかる。ここは、こうなるだろうと想像していたのとまったく同じだ』とね。めちゃくちゃエキサイティングでしたよ」
その装置そのものも、かなりワイルドだ。席の配置も、「ライズ」の車両とまったく同じに作られている。乗車すると、有り余るパワーのコンピューターが乗っているすべての人のヘッドセットに映像を送り、モーターを回転させて、映像と完璧に同期するように床の上で車両を動かす。これにより乗っている人は、宇宙を飛行する映像と引力がミックスされた幻影を感じる。この装置を見せてくれたImagineeringでは、この効果を「Visceralization」(ビセラライゼーション:心の底から感じさせること)と呼んでいる。史上最高にヤバいVRシミュレーターだ。
我々がシミュレーション・センターを訪問している間、そこではVRライドを開発しているのではないと、ディズニーは明言していた。そうではなく、彼らはVRを使った体感的なライドを開発しているのだという。方々の遊園地でVRが普及し始めている今、この違いは重要だ。
「ライズ」の「体験」そのものの分類は、さらに困難だ。私たちが現地で見学させてもらったものは、後で聞いたことによると全体の1/3だという(その数字に衝撃を受けた)。そこへは、バトゥーの村の門の外にあるレジスタンス区域を通って行く。レジスタンス区域にはスターファイター(XウィングファイターとAウィングファイターが映画のままに再現されている)があり、レジスタンスのメンバーが、1日中、決められた間隔で忙しく戦闘準備を行う様子が見られる。ゲストが並ぶ通路沿いにはいくつかの部屋がある。スター・ウォーズではいたるところに登場するケーブル類で柵をされた植木の脇を通り、けんかっ早い反乱軍が占拠していた昔の名残りの部屋などを抜けて行く。
ゲストはスター・デストロイヤーの通路を通る。
いくつかの部屋を抜けると、岩を「レーザーカット」でくり抜いた区域に出る。そこは、天然または人工の洞窟を掘ったかのように見せかけてある。部屋には、衣料品、日用品、軍用品が山積みされている。ブラスターやパイロットの制服が金網の戸棚にしまわれている兵器庫もある。ファストパスの人と並んでいる人の列をひとつにするコミュニケーション・ハブの部屋もある。全体的に効果は抜群だ。映画から抜け出たような窮屈な基地の中を歩いている感覚がする。
ところで、この通路には、家族連れや子どもたちが休めるように、大きな岩を削って作ったような座面の低いベンチがある。子どもと長い行列で待つのがどんなものかをよく知る父親のひとりであるエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターJohn Larenaは、冗談めかして、個人的な勝利だと話していた。
そこから、ゲストはブリーフィングルームに通される。そこでは高い戸棚の上に置かれたアニマとロニックのBB-8が、ミッションの護衛役となるポー・ダメロンのビデオ映像と会話している。その他にも、レイやフィンのフォログラム映像も見られる。
そこから、ポーのXウィングファイターが出撃準備をしている着陸パッドを右に見て進む。そしてUウィング輸送船に、仲間の乗客と乗り込む。ニエン・ナンとポーが操縦する輸送船が離陸し飛行する様子をシミュレーターが体験させてくれる。ここでは、兵員輸送の際の立ったままの乗船が求められる。するとすぐに、スター・デストロイヤーに拿捕され、船内に牽引されてしまう。
それから、ここではまだ言えないライドの魔法を体験すると、ドアが開き、私の記憶の限りではいちばん驚いたライドが登場する。実物大のスター・デストロイヤーのハンガーベイだ。黒い床も広々としている。タイファイターは搭乗ラックに整列し、そしてそう、巨大な窓からは外の宇宙が見渡せる。当然のことながら、ファーストオーダーの艦隊も浮かんでいる。
ゲストはスター・デストロイヤーの通路を抜けて行く。
仰天していると、ファーストオーダーの士官によって、ゲストはグループ分けされる。ちなみに、士官は制服を着た本物のキャストだ。そして完璧に作り込まれた通路を通って、ポー・ダメロンが捕らえられていた監獄とそっくりな部屋に入れられる。ここで、ゲストはカイロ・レンと遭遇し、冒険はさらに続く。
見学ツアーはここまでだった。車両に乗るところまでは、まだ行けない。そこでは、さらに多くのファースト・オーダーの兵士やAT-ATなど、未公表のキャラクターが登場する予定だ。
かなり大規模なアトラクションだ。ディズニーのパークでは、これほど大きなものは見たことがない。しかもこれは、2つあるアトラクションのうちの1つに過ぎないのだ。
ファルコンを飛ばす
もうひとつは、もちろん、「ファルコン」ライドだ。これには山ほど質問がある。この飢餓感を満たすために頑張ってみた。
バトゥーのひとつの入口から、初めて「ファルコン」に向かうと、超現実的な感覚に包まれる。映画で見たのと同じ、全長33.5メートルの実物大のファルコンがそこにある。細部にまでこだわって作り込まれていて、この区域の中心的存在として活躍することになっている。船からは定期的にガスが放出され、ホンドーの手下の技術者たちが常にエンジンを整備している。これはランドの中で生きているキャラクターだ。
「Millennium Falcon: Smugglers Run」の内部。
整備ベイに入り、オーナカのトランスポート・ソリューションズの店内に通じる道を歩く。構台にのぼり、配送場や機械工房を通ることで、ファルコンをあらゆる角度から眺めることができる。そしてついに、あのなじみ深い、チクレットガムのような壁のファルコンの通路に入る。待機場所は、みんながよく知る、チェスボード(現在はホログラムは見られない)や通信コンソールが置かれた船内の部屋だ。この部屋のあらゆるものが、ボルト1本にいたるまで、映画に忠実に作られている。虫眼鏡を取り出してよく見れば、それがミレニアム・ファルコンそのものであることがわかるだろう。
そこから、搭乗カードを手渡されて6人のグループに分けられ、コックピットに案内されるのを待つ。
かの有名なチェスの部屋。
「ファルコン」は、前述のとおり、銀河系でもっとも有名な宇宙船のコックピットに乗れるシミュレーターライドだ。コックピット(大勢のゲストをさばけるように複数あるが、いくつあるかは明かされていない)には6人が乗れる。2人がパイロットで、2人が砲撃手、2人が航海士だ。ファルコンでミッションをうまく遂行するには、全員の協力が必要になる。だが、どうにかこうにか、遂行されることになっている。
シミュレーションはUnreal Engineで駆動され、メカニズムには、スター・ツアーズに使われていたシステムをうんとアップグレードしたものが使われている。各コックピットにはリアルタイム・レンダリング・システムが割り当てられていて、コックピットを取り囲む5つのスクリーンに複数のプロジェクターから投影される映像が、フィードバックハブにより、つなぎ目なく合成される。クルーの一員として誰かが下した決断は、すべてが画面上にアクションとして反映される。すべてリアルタイムで処理されるため、あらかじめ映像がレンダリングされることはない。ディズニーは、このシステムを支える「魔法」のパワーについては話したがらないが、去年、Nviriaが少し話している。
村の名前はブラック・スパイア・アウトポスト。
Walt Disney Imagineeringは、アトラクションを駆動する新技術を開発するため、NVIDIA とEpic Gamesと手を組んだ。これが始動すれば、ライドのコックピットは、Quadro SLIで接続された8基のNVIDIA Quadro P6000 GPUを搭載した1基のBOXXシャーシで駆動できるようになる。
Quadro Syncは、5基のプロジェクターの映像を同期させて、まばゆいばかりの高解像度映像を映し出す。完璧に同期された映像により、惑星バトゥーの世界にいる搭乗員たちは、完全な没入感を味わえる。
NVIDIAとEpic Gamesとの協働により、Imagineeringチームは、Unreal Engineのための、独自のマルチGPU実装プログラムを開発した。この新しいコードは、Epic Gamesチームに戻され、そのエンジンにマルチGPUの機能がどう影響するかを検証してもらう。
「私たちはNVIDIAのエンジニアと協力して、MosaicやGPU間の読み取りなどのQuadro固有の機能を使い、私たちが求める性能特性を発揮できるレンダラーを開発しました」と、Disney Imagineeringテクノロジースタジオ・エグゼクティブのBei Yangは話す。「8基のGPUを接続することで、これまでにない性能に達することができました」
私個人にとって、その効果は非常に大きかったが、見たのはハンガーベイのほぼ静止した映像だけだ。
コックピットに入ると、それはまさに幽体離脱状態だった。これは恥ずかしげもなく認める。どんだけ「しっくり」きたか、その感覚は半端じゃない。6つの座席にはすべてシートベルトがあり、どれも見慣れた感じに使い古されている。さらにすごいのは、パイロット席には、それぞれ脇や前方に大量のボタンが並んでいることだ。正方形や長方形をしたボタンは、それぞれが光るリングで囲まれていて、ミッションの間、その人の「出番」になると、最良の結果につながるボタンが点滅して、それを押すように促される。トグルスイッチにも、先端に小さなLEDが仕込まれていて、同じ働きをする。このことは、ぜひお伝えしたかったのだが、大きくてごっついトグルスイッチは見た目が心地よく、押しボタンもよく吟味されている。きちんと押すにはある程度の力がいるが、それがまた心地いい。どれも「しっくり」くるスイッチだ。
それから、右側に座ったパイロットには、ハイパースペース航法のレバーを引く役割が与えられる。その引き心地がまたいい。
ファルコンの「操縦」方法を説明しよう。パイロットは左右の舵とスロットルを担当する。座る席によって、タイファイターを撃ち落とすためのボタンや、撃ち損じたときに砲撃を止めるボタンがある。
フライトごとに内容は変わるが、「ファルコン」でフライトに「失敗」することはない。初心者でも上級者でも、その人の能力に応じて成功できることになっている。しかも、ブラック・スパイア・アウトポストの人々は、ファルコンを操ったチームを讃えてくれる。うまくやっても、うまくいかなくてもだ。
「ゲストが望むならば、彼らに対するリアクションをある程度変化させることができます。経験を積んだときだけでなく、アトラクションや、特定のキャラクターに会ったときなどでもです」と、Disney Parks, Experiences and Productsの会長Bob Chapekは言う。「ゲストのことを記憶しておいて、それなりに反応するという以外に、何回か来園すると、前にも来てくれたことを思い出します。その結果、よりずっと親密な対応ができるのです」
いろいろ聞いてみたが、まだ大きな疑問符が私の中に残っている。それは、店主やキャラクターが、どうやってゲストを記憶するかだ。Play Disney Parksアプリで行いそうだが、彼らの態度から察するに、そうではないようだ。つまり、まだ公開されない何かがある。フロリダのパークで使われているMagic Bandsのようなシステムだろうか。それは、これからわかることだ。
ランドはライドだ
Imagineeringは、Star Wars: Galaxy’s Edgeは3つのメインのアトラクションで構成されると考えている。2つのライドと、ランドそのものだ。5つのレストランと5つの売店に加えて、ランドには2つの異なる生態系があり、Play Disney Parksアプリで遊べるアクティビティーが備えられている。ランドに入ると、アプリはスター・ウォーズ・モードに切り替わり、スキャン、翻訳、音楽、仕事といったツールが使えるようになる。このツールを、バトゥーで発せられるに数十基のBluetoothビーコンにつなげることで、ドロイドを動かしたり、船をハックして配線図をダウンロードしたり、ドアパネルから秘密のメッセージを受け取ったり、ファースト・オーダー、レジスタンス、密輸業者に所属する3つの派閥の通信を聞いたりできる。また、ランド内で話されたり書かれたりしているエイリアンの言葉の通訳もしてくれる。
これらの派閥に仕事で挑むこともできる。なかには、ランドに滞在中に、スキャンを使って、レジスタンスとファースト・オーダーの力のバランスをレジスタンス有利に傾ける壮大なゲームもある。このゲームでは、デジタルのコレクションアイテムがもらえる。ライドを待つ間にミッションを遂行するゲームもある。ひとつは「ファルコン」用で、もうひとつは「ライズ」用だ。どちらの側も楽しめる。
こんな感じになる。たとえば、密輸業者の派閥に入ったとしよう。すると、ライドの列に並んでいるとき、ホンドーから「おい、マシューじゃないか?」と名前で呼ばれたりする。
これは、どう考えても壮大な仕事だ。ブラック・スパイアの村やその周辺の領域を歩いて回ると、まだまだ建設半ばであることがわかる。ディズニーは昼夜を問わず、物語性や没入感という面で大きなリスクになりかねない仕事を懸命に推し進めている。スター・ウォーズの世界は、ファンの観点からすれば「おいしい」出し物に思えるが、その注目度の高さは、ディズニーにとって、すべてを最初から「正しく」やらなければならないという圧力にもなっている。私たちが見学した段階で、まだ作業員たちは切ったり塗ったり盛ったりしていた。夏はもうすぐだ。そして、バトゥーまでの道はまだ遠い。
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(翻訳:金井哲夫)