空調の改修不要、低コストで新型コロナの室内感染を防ぐCurran Biotechの新しいナノコーティング

Curran Biotechが開発した新しいナノコーティングは、新型コロナウイルスの室内への拡散を防ぐための空気ろ過を劇的に改善する可能性がある。

同社の「Capture Coating」技術は、家庭用または商業用のHVAC(空調)システムの補助的な役割を果たし、フィルターの繊維に結合して疎水性を高める。この複合的な効果により、ウイルスを運んできた飛沫がフィルター繊維を通過するのを防ぐことができるという。処理をしていない場合、防げるウイルス感染は一部にすぎない。

Curran Biotechの創業者でヒューストン大学の物理学教授であるShay Curran(シェイ・カラン)博士はメールでこう述べている。「『Capture Coating』は、従来のエアフィルターを通過して再循環する可能性のある、ウイルス粒子キャリアとして作用する水性呼吸器飛沫に対して、通気性、柔軟性、非浸出性、撥水性のあるバリアを形成することにより、特定のエアフィルター媒体を介した新型コロナウイルスの感染を緩和し、大幅に減少させるように設計されています」。コーティングの分子構造は複雑だが、製品自体はHVACシステムのフィルターにスプレーするだけでよい。

この飛沫をターゲットにした新しいコーティングは、乾いた分子だけをターゲットにする現在のろ過方法を改善するものだ。それらの方法では、少なくともいくらかウイルスの飛沫感染の可能性があるだけでなく、それを改善する既存のソリューションは、必ずしもエネルギー効率が良いとはいえない。

「昨今のエネルギー管理が非常に重要な世界では、クロスコンタミネーション(交叉汚染)のリスクをともなう建物内の同じ空気をリサイクルすることになります」とカラン博士は書いている。「外気を取り入れるのは空気を希釈する1つの方法ですが、それはエネルギー面でも大きな損失となり、人が集まる場所からウイルスを取り除くという問題も解決できません」。

屋内空気の換気は、学校や中小企業などの公共施設における新型コロナウイルスの蔓延を緩和するための重要な手段だが、古いHVACシステムをCDC(米国疾病予防管理センター)の推奨基準に合わせて改修するにはコストがかかる。カラン博士は、Capture Coatingがこの問題の解決に役立つことを期待している。「数ドルのコストで、標準的なMERV8のフィルターに使用するだけで、室内を強力に保護し、建物全体への拡散を防げるということです」と彼はいう。

ナノコーティングの性質上、Curran Biotechの技術は新型コロナウイルスのパンデミックが終わった後もウイルスの飛沫感染を防ぐことができる。コーティングの疎水性により、くしゃみや咳などの呼吸器系の飛沫がフィルターを通過するのを防ぎ、HVACシステム自体は通常の乾式分子ろ過の機能を維持する。Capture Coatingを使用することで、インフルエンザや風邪などの一般的な飛沫感染ウイルスも循環から排除されるという。

同様に、新型コロナウイルスの亜種もすべて飛沫感染するため、このナノコーティングはそれらの感染を防ぐのにも役立つ。カラン博士は「手洗いやマスクの着用などの予防措置が不要になるわけではありませんが、屋内での作業をより安全に行うことができるようになります」と書いている。

Curran BiotechのCapture Coating技術はこれまでに米国の11の州で使用されており、近々、コーティングされたフィルターを消費者に直接提供するために、流通業者やフィルター会社との提携を発表する予定だ。カラン博士は、ニューヨーク市でもこの技術の試験が成功しており、これから米国各地の企業や機関での使用をさらに拡大したいと考えていると述べた。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Curran Biotech新型コロナウイルス

画像クレジット:Courtesy of Curran Biotech

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(文:Sophie Burkholder、翻訳:Aya Nakazato)

大手バイオテクノロジー企業ElevateBioが細胞・遺伝子治療技術開発で約573億円を調達

遺伝子治療に特化した大手バイオテクノロジー企業のElevateBioは、シリーズCラウンドで5億2500万ドル(約573億円)という巨額の資金を調達し、2020年完了したシリーズBの1億9300万ドル(約211億円)の資金を倍増させた。今回の資金調達は既存の投資家であるMatrix Capital Managementからのもので、新たにSoftBank Vision FundとFidelity Management & Research Companyが加わり、ElevateBioの研究開発と製造能力の拡大を支援し、同社の研究に基づく新たな企業やパートナーシップのスピンアウトを継続するために使われる。

マサチューセッツ州ケンブリッジを拠点とするElevateBioは、細胞および遺伝子治療の学術的な研究開発の世界と、商業化や生産規模の製造の世界とを橋渡しするために設立された。同社は特に重度あるいは慢性疾患の治療において、細胞および遺伝子編集を活用した治療法の開発で行われている有望な科学治療を市場に投入するための、より効率的な手段の必要性を認識している。ElevateBioのビジネスモデルは自社の治療法を開発・商品化することに加え、学術研究機関や他のバイオ企業と長期的なパートナーシップを結び、自社の技術を市場に投入することにある。

この目的のためにElevateBioは、特定の治療法に特化したスピンアウト企業を頻繁に設立し、新しい事業ではそれぞれ特定の治療薬に焦点を当てている。同社はこれまでにAlloVir(ベイラー医科大学との提携)、HighPassBio(遺伝子編集会社Fred Hutchinsonとの合弁事業)、Life Edit Therapeutics(AgBiome社との提携)の3社を発表している。ElevateBioによると他にもスピンアウトされた企業があるが、まだ公表されていない。

予測されていたように、ElevateBioは世界的なパンデミックとその影響によってバイオテクノロジー投資に対する需要が高まったことから、恩恵を受けたようだ。同社のスピンアウト企業であるAlloVirは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応するT細胞療法の候補を研究しており、これは患者のSARS-CoV-2に感染した細胞を排除して疾患の拡大を遅らせ、その重症化を軽減するのに有効である可能性がある。

カテゴリー:バイオテック
タグ:ElevateBio資金調達遺伝子SoftBank Vision Fund

画像クレジット:Bloomberg / Getty Images

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(文:Darrell Etherington、翻訳:塚本直樹 / Twitter

規格外バナナでウエットティッシュ、循環型社会を目指すファーメンステーションが総額2億円調達

ファーメンステーションが構築する廃棄物ゼロの循環型モデル

ファーメンステーションが構築する廃棄物ゼロの循環型モデル

りんごの搾りかすからエタノールを生み出し、アロマ製品を開発する。これまで捨てられていた食品廃棄物が、新たに価値ある商品へと生まれ変わる。そんな循環型社会の実現を目指して、岩手県奥州市に拠点を構えるスタートアップが大きく動き出した。

独自の発酵技術で未利用資源を活用し、循環型社会を構築する研究開発型スタートアップFERMENSTATION(ファーメンステーション)は3月15日、第三者割当増資により総額2億円の資金調達を実施したと発表した。引受先はSXキャピタル、新生企業投資、JR東日本スタートアップとなる。今回の調達で累計調達額は約2億4000万円となった。

ファーメンステーションは独自の発酵技術でオリジナル原料を作り出し、化粧品や雑貨原料として提供する販売事業などを行っている。

今回の調達では、事業・技術強化や人材採用の促進だけでなく、海外進出の足がかりとする。ファーメンステーションは海外進出について「サステナブルな動きで先行し、消費者の購買行動も変化している欧州などと一部取引の準備が進んでおり、候補になっている」と展望を語った。

また、ファーメンステーションは同日、エムスリーの事業責任者やヘルスケアスタートアップでの経営経験を持つ北畠勝太氏がCOOとして経営チームに参画したことを明らかにした。ファーメンステーションの酒井里奈代表が中心となってこれまで事業のベースを築き上げてきたが、北畠氏を経営チームに迎え入れることで、スタートアップとしての経営体制を強化する。

ファーメンステーションの事業概要

ファーメンステーションの事業モデル

ファーメンステーションの事業モデル

2009年7月7日に設立したファーメンステーションは「発酵で楽しい社会を(Fermenting a Renewable Society)!」をミッションに掲げる。岩手県奥州市に研究開発拠点兼自社工場(奥州ラボ)を構えている。

ファーメンステーションは奥州ラボを拠点に、独自の発酵・蒸留技術でエタノールやサステナブルな化粧品原料などを開発・製造しており、また奥州の休耕田を活用した原料米の生産も行っている。主力の米エタノールはこの休耕田を耕して育てた無農薬・無化学肥料の米から生まれる。エタノールは、化粧品やアロマ製品などの原材料として幅広く使われているものだ。

ファーメンステーションにおける事業の柱は4つ。原料事業では同社のサステナブル原料を、化粧品などの原料として化粧品メーカー・原料卸に販売している。また、自社ブランドによるオーガニック化粧品事業と、原料提案から製品開発まで担うODM / OEM事業も行う。

4つ目の柱として、食品・飲料工場の製造過程で出るパンくずといった副産物や食品残渣(ざんさ)などの未利用資源をさまざまなアイデアや手法を用いて、企業らと新たな高付加価値の商品を開発する共創事業にも取り組んでいる。

ファーメンステーションは米などのさまざまな糖質を含む農産物や食品から、高濃度のエタノールを発酵・蒸留・精製する独自技術を持つ。このエタノールは手肌への刺激や化学的なアルコール臭が強い通常のものと比べ、匂いを抑えて肌触りの良さなどを実現させているという。

また、事業展開で欠かせないエタノールの製造過程で生成される発酵粕は、化粧品原料だけでなく、地域の鶏や牛の飼料にも使われている。さらに鶏糞は水田や畑の肥料にするなど、ファーメンステーションはこれまで廃棄物ゼロの地域循環型モデルを構築してきた。

昨今、地域の未利用資源や食品残さなどを利用した循環型の取り組みは重要視されている。農林水産省によると、畜産業における飼料費は経営コストの約3~6割を占めているが、特に栄養価の高い濃厚飼料の大部分は輸入に依存しているという。そのためサステナブルな社会実現だけでなく、足元の飼料自給率向上の観点からも対応が急がれている。

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に向けて

これまでファーメンステーションは、アサヒグループとJR東日本と協業し、りんごの搾りカスから精製した「りんごエタノール」を使ったアロマ製品や除菌ウエットティッシュなどを製造している。いずれもアサヒグループとJR東日本グループが製造するりんご酒「シードル」の醸造工程から出る副産物を活用した商品となる。

また、ANAホールディングス傘下の全日空商事と協業し、天然由来成分99%となる「お米とバナナの除菌ウエットティッシュ」を開発した。同商品は、全日空商事グループがエクアドルから輸入・販売する「田辺農園バナナ」の規格外バナナと、ファーメンステーションが手がける休耕田のオーガニック米を原料に精製したエタノールを使ったものとなる。

これら2つのパートナーシップによる循環型の事業は、DXに次ぐ新たな概念となる「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」に対する取り組みだ。SXについては、経済産業省が2020年10月28日「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」の中間的なとりまとめの中で初めて提言したものだ。

経産省は長期的な視野に立って「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を同期化する経営などが重要だとし、この経営のあり方を「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ぶ。今後、SXの普及やSXを踏まえた具体的な経営のあり方などについて、検討を進めていく考えだ。

現在は多くの企業がDXを進めている中、ファーメンステーションはスタートアップにもいずれSXの流れが来るとみる。2009年の創業からサステナブルな事業を展開してきたファーメンステーションは、SXが当たり前になった社会でその推進に大きく貢献していくかもしれない。

資金調達の背景

昨今、SDGsやESG投資の推進、カーボンオフセット(二酸化炭素排出ゼロ)やサーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進など、環境問題への取り組みやサステナブルな事業創造が、多くの人から社会課題として認知されている。

認知は進むものの、技術革新やビジネスモデルなどのソリューションが確立されていないため、Cleantechやフードテックなど、テック系スタートアップにイノベーションの期待が集まる領域でもあるという。

海外に目を向けると、バイオ燃料などの「代替エネルギー」や植物由来の皮革製品などの「代替素材」、培養肉などの「代替食品」といった分野で多くのスタートアップが立ち上がり、時価総額10億ドル(約1000億円)以上のユニコーン企業も出てきた。

化粧品やライフスタイル製品の市場でも、オーガニック原料などを前提にした生活者ニーズの高まりや購買行動の変化が起きている。ファーメンステーションは「より本質的にサステナブルであることを前提とした製品・サービスの創出が課題になっている」と指摘する。

このような変化の中、実際にファーメンステーションでは自社ブランドの需要および化粧品・ライフスタイル製品などのOEMや原料提供の引き合いが急速に増えているという。

資金調達の目的

ファーメンステーションは今回の資金調達で、事業開発や技術力の強化を図り、事業成長に向けた人材採用を加速させていく。事業では1.原材料事業、2.自社ブランド事業、3.ODM / OEM事業、4.共創事業に注力していく。

同社は「研究開発型スタートアップとして、より幅広い未利用資源を元にしたエタノール開発や原料化にも研究開発投資を行う。また、サステナブルな製品開発・事業展開を目指す企業に向けた技術プラットフォームも構築していきたい」とコメントした。この他「独自性の高い技術とビジネスモデルを磨き、グローバル進出への準備も進めていく」と展望を語った。

原料料事業では、すでに展開するオーガニック認証のエタノールや米もろみ粕をはじめ、未利用資源を再生したオリジナル原料の開発と展開を促進する。直近の未利用資源の原料化事例では、岩手県産ヒエのヌカを世界で初めて化粧品原料化し、サステナブル原料「ヒエヌカオイル」「ヒエヌカエキス」を開発した。

自社ブランド事業では、天然由来100%でサステナブルであることを追求したオーガニック化粧品やライフスタイル製品を製造。自社オンラインサイトなどで販売していく。自社商品事例としては、オーガニック認証のある米エタノール原料を使った化粧品クオリティーのハンドスプレー や、オーガニック玄米を発酵させた原料を使用した洗顔石けん「奥州サボン」シリーズ などがある。

ODM / OEM事業においては、サステナブル・オーガニックにこだわったブランドの立ち上げなどを検討する企業に、自社原料やサステナブルな製品開発ノウハウを活かしたコラボレーション型のODM・OEMをより強化する。直近のコラボレーション型OEM事例では、AKOMEYA TOKYOとコラボレーションした米エタノールが原料のハンドリフレッシュスプレー がある。

そして共創事業では、独自の発酵技術など駆使して新たな事業を共創する未利用資源再生・循環パートナーシップ強化を進めていく。既存の未利用資源再生・循環パートナーシップの事例としては、アサヒグループ・JR東日本グループとシードル醸造副産物「りんごの搾り残さ」から「りんごエタノール」を精製し商品化した他、ANAグループと田辺農園の「規格外バナナ」から「バナナエタノール」を精製し商品化を行った。

これらの活動を通じ、社会課題の解決を行うソーシャルインパクトと、スタートアップとして事業・組織のスケールアップとを両立するカタチで企業成長を図っていく。

チームの強化(新経営チーム・採用)

(左から)酒井里奈代表、北畠勝太COO

(左から)酒井里奈代表、北畠勝太COO

ファーメンステーションは人材採用を強化していくため、コーポレート部門リーダー(コーポレート部門立ち上げ責任者)と事業開発(リーダー候補)などのポジションで募集を行っている。

コーポレート部門リーダーには、コーポレート部門専任1人目の責任者として、経理・財務・労務・総務・法務全般の仕組み化を中心に事業成長の基盤づくりを任せる。事業開発のポジションには、経営陣直下で、事業全般に関わる戦略立案から実行まで幅広く任せていくという。

カテゴリー:バイオテック
タグ:FERMENSTATION資金調達日本

Serimmuneが新型コロナ向けに新しい免疫反応マッピングサービスを開始

免疫情報のスタートアップであるSerimmune(シリミューン)は、抗体エピトープ(抗体に結合する抗原分子の一部分)と新型コロナウイルスとの関係を深く理解しようとしている。

もともとカリフォルニア大学サンタバーバラ校で開発された同社独自の技術は、少量の血液サンプルから個人の抗体の配列全体をマッピングする新しく特異的な方法を提供する。同社は、細菌ペプチドディスプレイ(サンプル中で抗体と結合した細菌からプラスミドDNAを分離する一種のスクリーニングメカニズム)を利用する。次にDNAの配列を決定し、エピトープを特定する。エピトープは、その人がさらされた可能性のある抗原、および免疫系が抗原にどのように反応したかについての情報を提供する。

「これは、検体中の抗体が見つけ出したエピトープを調べる非常に高度に多重化された、極めて特異的な方法です」とSerimmuneのCEOであるNoah Nasser(ノラ・ナッサー)氏は述べた。同氏はカリフォルニア大学サンディエゴ校で分子生物学の学位を取得した。Serimmune以前は複数の診断会社で働いていた。

Serimmuneは2021年3月第2週、新型コロナの症状を引き起こす新型コロナウイルスによる病状と免疫反応を理解するのに役立つ、同社のコアテクノロジーを新しく応用し始めることについて発表した

「私たちが行っているのは、弊社が開発した抗体プロファイルを約12のアミノ酸とともに特異的な新型コロナウイルスプロテオームにマッピングすることです」とナッサー氏は述べた。「そして私たちが見つけたのは、抗体の発現が病状と高度に相関していることです。そのため、検体に存在する抗体に基づき軽度、中等度、重度、無症候性の疾患を区別できます」。

Serimmuneが収集できる患者データが多いほど、同社のコアテクノロジーはさまざまな抗原曝露と疾患の重症度に関するパターンをうまく見つけることができる。このパターンに早く気づくと、医師や研究者は新型コロナウイルスがどのように働くのかを深く理解できるだけでなく、あらゆる抗原の診断、治療、ワクチンへの新しいアプローチを知ることができる。

Serimmuneによる新型コロナ抗体エピトープの新しいマッピングサービスの開始により、新型コロナウイルスに対する免疫反応の理解を深めることに関心を示すワクチン会社、政府機関、学術研究所などの顧客は、同社のデータにアクセスしやすくなる。

「重要なのは、研究者が知りたいと思っていた情報に焦点を合わせ、それを標準化することでした」とナッサー氏は述べた。「実際には、サンプルを受け取ってからわずか2日で結果を得ることができます」。

この新しいサービスに加え、Serimmuneには新型コロナウイルスに対する免疫に関する横断的な臨床研究を開始する計画もある。研究への参加者は、痛みのない在宅収集キットを使用して、少量の血液サンプルをSerimmuneに送る。同社はそのコアテクノロジーによりその人の免疫マップの概要を示す。

「私たちは研究参加者に関する結果を、その人の新型コロナに対する免疫の全体像というかたちで返します」とナッサー氏はいう。「私たちがやろうとしていることは、その免疫反応がどのように変化するか、そして新型コロナウイルスに繰り返しさらされると免疫反応に何が起こるかを時間をかけて理解することです」。

マッピング技術は今や極めて特異的であるため、患者が保持する新型コロナウイルスへの抗体が自然曝露によるものか、ワクチンによるものなのかを知ることができる。

Serimmuneが主に注力しているのは、今のところ新型コロナパンデミックへの応用にとどまる。だがナッサー氏は、同社がパーソナライズされた医療に移行し、関心のある患者には直接マッピングサービスを提供する可能性があると述べた。

「これは、個々の患者の免疫の状態と、どの抗原にさらされているかを理解する上で価値があると信じています」と同氏はいう。Serimmuneはそれが達成されるまで、より多くの患者サンプルをによりデータベースを拡張し続ける計画だ。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Serimmune新型コロナウイルス免疫

画像クレジット:Serimmune

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(文:Sophie Burkholder、翻訳:Nariko Mizoguchi

NVIDIAとハーバード大がゲノム解析を短時間低コストでこなすAIツールキット「AtacWorks」開発

NVIDIAとハーバード大がゲノム解析を短時間低コストでこなすAIツールキット「AtacWorks」開発人の体内のほとんどの細胞は数十億の塩基対を核に押し込んだDNAの完全なコピーを持っています。そして身体の個々の細胞は、タンパク質の中に埋まっているDNAから必要な部分だけを外部からアクセスしやすくして、たとえば臓器、たとえば血液、たとえば皮膚など、異なる機能を持つ細胞になるための遺伝子を活性化します。

NVIDIAとハーバード大学の研究者らは、仮にサンプルデータにノイズが多く含まれていても(がんなどの遺伝性疾患の早期発見によくあるケース)、DNAのアクセス可能な部分を研究しやすくするためのAIツールキット「AtacWorks」を開発しました。

このツールは、健康な細胞と病気の細胞についてゲノム内の開かれたエリアを見つけるためのATAC-seq(Assay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput sequencing)法と呼ばれるスクリーニング的アプローチをNVIDIAのTensor Core GPUで実行し、32コアCPUのシステムなら15時間ほどかかるゲノム全体の推論をたったの30分で完了するとのこと。

またATAC-seqは通常なら数万個の細胞を分析する必要がありますが、AtacWorksをATAC-seqに適用すれば、ディープラーニングで鍛えたAIによって数十の細胞だけで同じ品質の分析結果を得ることができます。たとえば研究チームは、赤血球と白血球を作る幹細胞を、わずか50個のサンプルセットを分析するだけで、DNAのなかのそれぞれの産生に関連する個別の部分を識別できました。

ゲノムの解析にかかる時間とコストを削減できるようになる効果から、AtacWorksは特定の疾患につながる細胞の病変やバイオマーカーの特定に貢献することが考えられます。また細胞の数が少なくてもゲノム解析ができるとなれば、非常に稀な種類の細胞におけるDNAの違いを識別するといった研究も可能になり、データ集積のコストを削減し、診断分野だけでなく新薬の開発においても、開発機関の短縮など新たな可能性をもたらすことが期待されます。

(Source:Nature Communications、via:NVIDIAEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:バイオテック
タグ:医療(用語)AI / 人工知能(用語)NVIDIA(企業)NVIDIA Tensor Core(製品・サービス)オーダメイド医療がん / がん治療(用語)ゲノム医療ゲノム解析DNA / 遺伝子(用語)ハーバード大学(組織)Python(製品・サービス)

CRISPR-Cas3技術を応用したバクテリオファージを開発するLocus Biosciences

抗生物質耐性は、全世界の健康にとって今日最大の脅威である。しかし、Locus Biosciences(ローカス・バイオサイエンス)は同社のテクノロジーであるcrPhageが新たな解決策を提供すると期待している。

ノースカロライナ州のResearch Triangle(リサーチ・トライアングル)に拠点を置く同社は、CRISPR-Cas3-enhancedバクテリオファージの大腸菌に起因する尿路感染治療への利用に関する臨床試験がフェーズ1bで有望な結果を得られたことを発表した。元Patheon(パセオン)の幹部で現在LocusのCEOであるPaul Garofolo(ポール・ガロフォロ)氏らの指揮の下、同スタートアップは2015年、CRISPR技術のあまり知られていない応用による、増大する抗菌薬耐性への取り組みを目標に設立された。

CRISPR-Cas3技術は、よく知られているCRISPR-Cas9とは機序が大きく異なる。Cas9酵素にはDNAをはさみのようにきれいに切り離す能力があるのに対し、Cas3はどちらかというとパックマンのように、ストランドに沿って動きながらDNAを切り刻んでいく、とガロフォロ氏は説明する。

「これまで使われていたほとんどの編集プラットフォームでは、これを使うことができません」と彼は述べ、それはCas3を巡る競争があまりないという意味だと付け加えた。「だからしばらくの間保護されていて、秘密にしておくことができると知っていました」。

ガロフォロ氏率いるチームは、CRISPR-Cas3を人体内の有害バクテリアの編集に使うのではなく、破壊するために使いたいと思っている。そのために、Cas3のDNA破断機構に注目し、他の細菌を攻撃して破壊するウイルスであるバクテリオファージを強化するために使った。共同ファウンダーで最高科学責任者のDave Ousterout(デイブ・オウスターアウト)氏(デューク大学で生物医学の博士号を取得している)も、このテクノロジーがバクテリアを破壊する著しく直接的で目標を定めた方法をもたらすと考えている。

「大腸菌を攻撃するこのCas3システムと、その結果得られる二重の作用機序で強化することによって、私たちはバクテリオファージを、実質的に大腸菌のみを除去する極めて強力な手段に作り上げました」。

その特異性は、抗生物質に欠けているものの1つだ。抗生物質は体内の有害な細菌だけを標的とするのではなく、出会った細菌すべてを死滅させる。「私たちは抗生物質を服用する際、良い細菌の影響を受けている体の別の部分について考えていませんでした」とガロフォロ氏は語った。しかしLocus BioscienceのcrPhage技術の精度の高さは、標的となる細菌のみが消滅し、人体の正常機能に必要な細菌は影響を受けないことを意味している。

この特異性の高いアプローチが病原体やあらゆる細菌による疾患に有効であるばかりでなく、ガロフォロ氏らは自分たち方法が極めて安全なのではないかと感じている。細菌にとっては致命的だが通常バクテリオファージは人体には無害だ。体内でのCRISPRの安全性もすでに確立している。

「それが私たちの秘伝のソースです」とガロフォロ氏は述べた。「これで、置き換えようとしている抗生物質よりも強力な薬品を作ることが可能になり、しかもファージという人体に何かを投与する方法として世界一安全とも言えるものを使うのです」。

この新技術が病原体や感染症の治療に役立つことは間違いないが、ガロフォロ氏は、免疫学、腫瘍学、神経学なども恩恵を受けることを願っている。「 ある種の細菌が胃腸のがんや炎症を促進することがわかってきました」と彼は語った。もし、研究者が症状の根本原因である細菌を特定できれば、crPhage技術が効果的治療法になる可能性がある、とガロフォロ氏とオウスターアウト氏は考えている。

「もしこの件について私たちが正しければ、感染症や抗菌薬耐性だけでなく、がんの克服や認知症の発病遅延にも役立てることができます」とガロフォロ氏はいう。「私たちが生きるために細菌がどのように役立っているかという考えが変わろうとしています」。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Locus BiosciencesCRISPR医療

画像クレジット:KATERYNA KON/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Sophie Burkholder、翻訳:Nob Takahashi / facebook

Rani Therapeuticsのロボットカプセルは皮下注射治療をどう変えるか

新しい自動注射カプセルがまもなく皮下注射治療の代わりになるかもしれない。

このいわゆるロボットカプセル(ロボットピル)のアイデアは、ライフサイエンスラボであるInCube Labsの研究プロジェクトから生まれた。同ラボは約8年前にラトガーズ大学で電気・生物医学工学の学位を取得したRani Therapeuticsの会長兼CEOであるMir Imran(ミール・イムラン)氏が運営する。ライフサイエンス分野のイノベーションで有名なイムラン氏は、20以上の医療機器会社を設立し、世界初の植込み型除細動器の開発を支援してきた。

サンノゼを拠点とするRani Therapeuticsがその基盤となる技術に取り組んでいるとき、イムラン氏と同氏のチームは、皮下(または皮膚の下の)注射による痛みをともなう副作用を軽減すると同時に、治療の有効性を改善する方法を見つけたいと考えた。「技術自体は非常にシンプルな仮説から始まりました」とイムラン氏はインタビューで述べた。「患者が飲み込む生物学的薬剤を内包するカプセルを作れないのはなぜだろうと考えました。腸に到達するとカプセル自体が変形し、痛みなく注射を行います」。

Rani Therapeuticsのアプローチは、消化管固有の特性に基づいている。カプセルの注射メカニズムは、患者の胃から小腸に移動するときに溶けるpH感受性コーティングで覆われている。これにより、カプセルが適切な場所に適切なタイミングで確実に薬を注射することができる。目的地に到達すると、反応体が混ざり二酸化炭素を生成する。二酸化炭素が小さなバルーンを膨らませ、圧力差を生じさせて、薬物を充填した針を腸壁に入れる。「つまり、一連の出来事が本当にタイミング良く起こることにより針が目的地に届きます」とイムラン氏は話した。

機械的ともいえる手順にもかかわらず、カプセル自体には金属やバネは含まれていないため、体内の炎症反応の可能性が低くなる。代わりに、針やその他のコンポーネントは注射可能なグレードのポリマーでできており、イムラン氏によると他の医療機器にも使用されている。小腸の上部に注射を行う場合、胃酸と肝臓からの胆汁の広がりが細菌の繁殖を妨げるため、感染のリスクはほとんどない。

カプセルに関するイムラン氏の優先事項の1つは、皮下注射による痛みをともなう副作用を排除することだった。「それを痛みをともなう別の注射に置き換えても意味がありません」と同氏はいう。「しかし、生物学が私たちに味方しました。腸には皮膚にあるような痛みのセンサーがありません」。さらに、小腸の高度に血管新生された壁に注射を投与すると、通常は脂肪組織に薬を入れる皮下注射よりも効率的に働く。

イムラン氏と同氏のチームは、成長ホルモン障害先端巨大症、糖尿病、骨粗鬆症など、さまざまな適応症にカプセルを使用する計画を立てている。先端巨大症治療薬であるオクトレオチドは2020年1月、1次臨床試験で安全性と持続的なバイオアベイラビリティの両方を実証した。彼らは他の適応症について臨床試験を将来続けることを望んでいるが、最初は先端巨大症を優先することを選択した。先端巨大症に対し確立されている治療薬は「非常な痛みをともなう注射」が必要だとイムラン氏は述べた。

Rani Therapeuticsは2020年末、プラットフォームのさらなる開発とテストのために6900万ドル(約75億円)の新規資金を調達した。「これが今後数年間私たちに資金を提供してくれるでしょう」とイムラン氏はいう。「私たちのビジネスへのアプローチは、テクノロジーを非常に堅牢で製造可能なものにすることです」。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Rani Therapeutics医療

画像クレジット:Rani Therapeutics

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(文:Sophie Burkholder、翻訳:Nariko Mizoguchi

「次世代ゲノム解析サービス」を健康保険組合向けに提供するZeneが5000万円調達

「次世代ゲノム解析サービス」を開発するスタートアップであるZeneは3月8日、インキュベイトファンドを引受先とした第三者割当増資により5000万円の資金調達を発表した。

Zeneは個人の遺伝子解析を通じて「生涯不変の疾病リスク」を判定し、その対応策までサポートするスタートアップだ。前職でヤフーの遺伝子解析サービスを運営し、デジタルヘルス分野に10年以上従事している井上昌洋氏が2020年2月に設立した。

一生変わらないリスクを知る

「生涯不変の疾病リスク」とはなんだろうか。例えば、糖尿病は「生活習慣病」とも言われるように、食事や運動などの生活習慣がその発症の原因となりえる病気だ。しかし、ZeneのCEOである井上氏は「(2型)糖尿病の発症には、環境的な要因だけではなく、遺伝的要因が大きく関わっています。男性で約4割、女性では約9割が、遺伝的な要因で糖尿病にかかるという最新の研究結果もあるほどです」という。個人の遺伝子は一生変わらないものなので、それに起因する疾病リスクは一生変わらないというわけだ。

井上氏は遺伝子解析サービスのメリットとして「自分にとって不変の体質リスクを知るからこそ、継続して健康的な生活を送るためのモチベーションにつながります。また毎年行う健康診断とは違って、一度実施すればよいので経済的なメリットもあります」と語る。

同社の遺伝子解析サービスとこれまでの遺伝子検査との違いは、ゲノム情報全体を統合的に解析する「ポリジェニックリスクスコア手法」を採用した点だ。数個の遺伝子をタイプ別にわけて疾患者の割合を提供するという従来の手法ではなく、AIを活用してより多くの遺伝子情報を統合的に検査するため、その解析精度は高くなるという。

健康保険組合向けの新サービス

Zeneは今回の資金調達と同時に、企業や健康保険組合に向けたサービス「Zene360」を開始した。これは社員1人あたり6000円(目安)で、遺伝子解析サービスを導入できるというもの。検査の方法はシンプルで、自宅に送られてくる専用キットで唾液を使い実施する。キットを郵送すれば完了し、後日解析レポートが郵送もしくはウェブで閲覧できる。

Zene360の解析レポートには、糖尿病・乳がん・循環器・認知症・大腸癌などの生涯不変の疾病リスクが記載されている。また、これらの注意喚起だけで終わらず、その後の対応までトータルでサポートするのが特徴だ。例えば、糖尿病リスクが高いと判明したユーザーに対しては、食事改善メニューや運動メニューを提供したり、病院での受診を提案するという。井上氏によると「従来の遺伝子解析サービスは、レポートを提出してそこで終わってしまっていたんです。レポートの結果を受けて、ユーザーが具体的な行動に移るといったことは少なかった」と自身の過去の経験を語る。

画像クレジット:Zene

健康保険組合としても、効率性の観点からメリットは大きい。井上氏は「例えば脳ドックを挙げてみましょう。これまで健康保険組合は、社員全員に脳ドックを受診するように働きかけるのが通常でした。しかし、実際に受診するのは健康オタクのような人たちだけで、せいぜい1割程度です。Zene360を使えば、どの社員が脳梗塞のリスクが高いかがわかるので、ピンポイントでそのような社員に脳ドック受診を勧めることができますし、社員側としても遺伝的な根拠があれば、受診や健康管理へのモチベーションにつながるでしょう」と話す。単純に遺伝子解析のレポートを渡すだけではなく、その後の具体的な行動案を提示することで、他の遺伝子解析サービスとの差別化を図るというわけだ。

また、社員1人あたり6000円(目安)という価格も、他の遺伝子解析サービスと比較すると大幅に安いという。この価格設定の理由として、Zeneは解析した遺伝子データを個人を識別できない形に加工したうえで、将来プラットフォーム化することを狙いとしているからだ。

井上氏は「遺伝子情報は一度取得してしまうと、その後変化はないため再度検査する必要がありません。よって『勝者総取り』の構図になりやすい業界でもあります。だからこそ導入コストを下げて、まず企業や健康保険組合に利用してもらうことが大切だと考えています」と語る。

一方で課題は明確にある。遺伝子解析サービスは、あくまで集団における「相対的な危険度」を表すものだ。それゆえ母数の日本人ユーザーが増えない限りは、解析結果の正確性を担保することが難しい。だからこそZeneは、現段階では一般個人向けのサービスではなく、企業や健康保険組合に的を絞る。検査母数が増えることで解析精度が高くなり、それによってさらに導入が増えていくという好循環を狙っていく。

米国ではすでに3000万人を超える個人によって利用されているとされ、23andMeColorなどのユニコーン企業をも生み出す巨大市場である遺伝子解析サービス。今後、日本でも順調な拡大が期待できる分野といえるだろう。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Zene資金調達遺伝子日本

米国が1回の接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナワクチン緊急承認、通常の冷蔵庫で保管可能

FDAが1回の接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナワクチンを緊急承認、通常の冷蔵庫で保管可能

Leah Millis / reuters

米食品医薬品局(FDA)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発した1回の接種だけですむ新型コロナウイルス用ワクチンに緊急使用許可を出しました。これは米国ではモデルナ、ファイザーに続いて3番目に認可された新型コロナワクチンで、通常の冷蔵庫で保管できます。

先発のモデルナおよびファイザー製新型コロナワクチンは、いずれもmRNAと呼ばれる種類のワクチンで、ウイルスの一部の遺伝物質を体内に直接送達する仕組み。ただし、遺伝子の構造が破壊されやすく、保管温度がマイナス20℃(モデルナ)、または−75℃(ファイザー)と指定されています。そのため、医療施設には専用の保管用冷蔵庫が必要となり、運搬時の温度管理をどうするかといった課題があります。またどちらも2回の接種が必要とされます。

これに対し、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは英アストラゼネカのワクチンと似た種類を採用、不活性化した風邪ウイルス(26型アデノウイルス)に新型コロナの遺伝子を挿入したウイルスベクターワクチンで、1回の接種で完了するうえに、通常の冷蔵庫に保管が可能と手間と管理コスト両方にメリットがあるのが特徴です。米国、南アフリカ、ブラジルで行われた治験では、85%の重症化予防効果があり、中程度の症状も66%を予防できたとされます。FDAが出した緊急使用許可は、米国の18歳以上を対象とします。

先発2社のワクチンは予防効果が約95%と言われており、その点でジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの効果が低いとする声も一部にはあるようですが、CNNは専門家の意見としてジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは治験が伝染性が高いとされる変異種も含む状況で行われたためとの見方を示しました。そして米国でも春頃から変異種の感染が急増する可能性があると指摘。「今日ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンが打てて、明日モデルナのワクチンが打てるなら、待つ必要はありません。今日打つ方を選ぶべきです」との言葉を伝えています。

ちなみに、日本では2月17日から医療従事者を対象としてワクチンの先行接種が始まったばかり。3月1日にはファイザー製ワクチンの第3便が到着する予定で、第1便から数えると合計で68万人(x2回)分が到着するとのこと。今後は国内の医療従事者470万人に順次優先接種が行われ、高齢者も含めてそれぞれ2回接種可能な分のワクチンを全国に分配する見通しです。

また、アストラゼネカは日本政府との契約のもと厚生労働省にワクチンの日本国内生産を申請しており、承認され次第、最大9000万回分を国内から供給する予定です。一方で、他の製薬会社による日本独自の国産ワクチンの開発も進められてはいるものの、こちらは輸入(国内生産含む)ワクチンの接種が本格化すれば臨床試験の実施が難しくなる可能性も考えられ、いつ頃実用化できるのかはまだわかりません。

(Source:FDA。via:Ars Technica。Coverage:CNNBBCNikkeiEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:バイオテック
タグ:Johnson & Johnson(企業)新型コロナウイルス(用語)米食品医薬品局 / FDA(組織)ワクチン(用語)アメリカ(国・地域)

AIが「細胞を見分ける」新技術でがんの超早期発見などを目指すCYBO、6000万円調達

AIに細胞の高速解析・処理技術を開発するCYBOは3月1日、インキュベイトファンドを引受先とした第三者割当を実施し、6000万円を調達したと発表した。また、インキュベイトファンドのジェネラルパートナーである村田祐介氏が社外取締役に就任することも併せて発表した。

2018年に設立されたCYBOは、多数の細胞集団の中から特定の細胞を分離する「インテリジェント画像活性セルソーター(以下、画像活性セルソーター)」を基盤技術として、細胞解析に関する研究開発とサービス提供を行うスタートアップだ。

画像活性セルソーターは、細胞を超高速で画像化し、AIがその画像を選別、特定の細胞を分取するという技術だ。東京大学大学院の合田圭介教授が率いる研究グループが発表した新技術で、CYBO代表の新田尚氏は同グループのプログラムマネージャー補佐を務め2018年に同社を設立した。

既存の細胞識別技術には「蛍光活性セルソーター(FACS)」がある。これは、蛍光抗体で染色した細胞が発する「光の強度」を指標として、細胞を識別・分取するというものだ。国内ではソニーなどが製品化を行っている。このFACSに比べ、AIが画像を解析する画像活性セルソーターでは、光の強度に加えて、細胞の形、細胞内の分子の分布なども測ることができ、結果的に従来よりも精度の高い診断が可能となるという。

画像活性セルソーターの製品化プロジェクト「ENMA」のデザインイメージ

当たり前のように聞こえるだろうが、この領域では「精度」はとても重要だ。精度が高ければ、偽陰性のリスクも減らせるし、偽陽性によって患者に無駄な心理的・金銭的負担を強いることもなくなる。

また、例えばがんの早期発見のためには、患者への負担が低い(低侵襲)ために多くの人を高い頻度で検査でき、かつ精度も高いという2つの特徴を兼ね備えた検査方法が求められる。血液生検のみでがん等を診断できる低侵襲な検査技術「リキッドバイオプシー」に画像活性セルソーターの技術を応用すれば、低侵襲でかつ従来よりも精度が高いという、上記の2つの特徴を持った検査方法が確立できるということになる。

このような理由から、画像活性セルソーターはFACSに取って代わる可能性がある新技術として、開発と実用化が期待されており、米国ではAIベースの細胞識別技術をもつdeepcellがシリーズAで2000万ドル(約21億円)を調達するなどしている

CYBOは今回調達した資金をもとに、がん研有明病院と精度の高い子宮頸がん検診の実現を目指した共同研究を行うほか、オンコリスバイオファーマと共同で開発する「血中循環がん細胞検査(血液中を循環するがん細胞を検出する検査)」の実用化を推進していくという。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:医療

ファイザーとビオンテックの新型コロナワクチン管理温度が緩和へ、輸送管理が容易に

Pfizer(ファイザー)とBioNTech(ビオンテック)が共同開発した新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの輸送管理要件が当初よりも緩和される。もともとmRNAベースのワクチンは有効性を維持するために輸送中に摂氏マイナス60度〜マイナス80度という超低温を維持する必要があった。両社が集めた品質安定性に関する新たなデータが米食品医薬品局(FDA)に提出され、そこには大半のクリニックや医療施設にある標準の医療用冷凍庫で対応可能な摂氏マイナス15度〜マイナス25度で保存できる、とある。

この温度で最大2週間ワクチンを保管でき、これは輸送オプションのフレキシビリティ、接種会場でのラストマイル保管を大きく改善する。これまでワクチンは接種会場に届けられるまでの管理を主に既存の「コールドチェーン」インフラに頼ってきた。こうした制約はModerna(モデルナ)のワクチンにはなく、同社のワクチンは冷蔵庫の温度で最長1カ月品質を維持できる。

今回の管理温度の改善は、米国や世界各地の当局によって緊急承認されすでに使用されているワクチンに関する取り組みが継続していることを示す1つの例だ。PfizerとBioNTechは、そうした保管のための温度要件をさらに緩和できる方向で取り組んでいると話しており、Modernaワクチンの要件に近づく可能性がある。

加えて、PfizerとBioNTechのワクチンは2回接種することになっているが、1回の接種で最大85%の効果があるというイスラエルの研究者による調査結果があり、これは世界の接種プログラムにとって大きな前進だ。新しい保管温度要件は、配車サービスやオンデマンド配達を展開する潜在プレイヤーの参加に扉を開く。ここには、バイデン政権に協力を申し出たAmazonワクチン教育プログラムでModernaと提携したUberのような巨大ネットワークも含まれる。

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また、大規模対応能力がない、あるいは超低温のコールドチェーンストレージのための特殊装置がないロジスティックやケアデリバリー分野のさまざまなスタートアップや零細企業にも参加の扉を開く。アシストする方法を模索しながらも必要なハードウェアや効率的に行うための専門性を持たない業者にとって、テクニカルな問題が参入を阻んでいた。

カテゴリー:バイオテック
タグ:PfizerBioNTech新型コロナウイルスワクチン

画像クレジット:Dogukan Keskinkilic / Anadolu Agency / Getty Images

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Nariko Mizoguchi

免疫療法の改善からの新療法開拓のためバイオテックImmunaiが63億円を調達

創設からわずか3年で、バイオテックスタートアップImmunai(イミュナイ)はシリーズA投資6000万ドル(約63億円)を調達し、合計調達額は8000万ドル(約84億円)を超えた。若い会社ではあるが、Immunaiはすでに、単一細胞の免疫学的特質に関する世界最大のデータベースを確立し、既存の免疫療法の効果を高める機械学習を用いた同社の免疫解析プラットフォームを運用している。今回調達した資金で、同社はそのデータと機械学習の強みと幅を基盤に、まったく新しい治療法の開発へと業務を拡大する準備を整えた。

Immunaiでは「マルチオミクス」アプローチを採用し、ヒトの免疫システムに関連する新たな見識を獲得している。つまりそれは細胞のゲノム、微生物叢、エピゲノム(ゲノムの化学的命令セット)など、複数の異なる生物学的データの階層化分析だ。同スタートアップのユニークな点は、世界をリードする免疫学研究機関と提携して築き上げた、免疫に関する最大規模で奥深いデータセットと、独自の機械学習技術とを組み合わせて前代未聞のスケールで解析が行えるところだ。

「ありふれた表現かも知れませんが、私たちには、ゆっくり構えていられるだけの余裕がないのです」とImmunaiの共同創設者でCEOのNoam Solomon(ノーマン・サロモン)氏はインタビューで語った。「それは思うに、現在、私たちは最悪の状況にあるおかげで、機械学習やコンピューター処理技術が高度に発達し、そうした手段を活用して重要な見識を掘り出せるまでなったからです。周囲の人々と仕事ができる速度には上限があります。そこで私たちは、私たちのビジョンを活かし、そしてMITからケンブリッジ大学、スタンフォード大学、ベイエリアからテルアビブまで、非常に大きなネットワークの力を借りて、この問題を一緒に解決しましょうと人々に言ってもらえるよう、とにかく迅速に動きました」。

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サロモン氏とその共同創設者でCTOのLuis Voloch(ルイス・ボロシュ)氏は、どちらもコンピューター科学と機械学習における幅広い経験の持ち主だ。彼らはまず、そうしたテクノロジーと免疫学とを結びつけ、テクノロジーが応用できる免疫学上のニーズを特定した。その後、Scientific(サイエンティフィック)の共同創設者で戦略的研究担当上級副社長を務めるDanny Wells(ダニー・ウェルズ)氏が、がん性腫瘍の免疫療法の効率化に集中できるよう、彼らのアプローチの改善に力を貸した。

Immunaiのプラットフォームは、既存の治療法の最適な標的を特定できることを、すでに実証済みだ。ベイラー医科大学と提携して行われた、神経芽細胞腫(副腎に見られることが多い免疫細胞から発生するがんの一種)の治療での細胞療法製品の使用試験もその1つだ。同社は現在、治療の新たな領域に進出し、その機械学習プラットフォームと業界をリードする細胞データベースを使った新しい治療法の発見、つまり既存の治療法の標的の特定と評価だけでなく、まったく新しい治療法の開発に進もうとしている。

「私たちは、ただ細胞を観察するだけの段階から脱して、細胞をかき混ぜて、何が起きるかを見るという段階に移行しつつあります」とボロシュ氏。「これは、コンピューター技術の面からすれば、やがて相関性評価から実際の因果関係の評価への移行が可能になり、私たちのモデルがずっとパワフルなものになることを意味します。コンピューター技術と研究室のどちらの面においても、これは極めて最先端のテクノロジーです。私たちは、あらゆる規模での実用化を最初に果たすことになるでしょう」。

「その次の段階は、『よしこれで免疫プロファイルがわかったから、新しい薬を作ろうか?』となることです」とサロモン氏はいう。「私たちはそれを、免疫システムのGoogleマップを数カ月以内に作るようなものだと考え、実際に、免疫システムのさまざまな道路や経路のマッピングを行っています。しかしある時点で、まだ作られていない道路や橋があることに気がつきました。私たちは、これから新しい道路の建設が支援できるようになります。現在の病気の状態、つまり病気の街を、健康の街に建て替える先導役になれたらと願っています」。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:Immunai免疫がん治療機械学習資金調達

画像クレジット:Immunai

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(文:Darrell Etherington、翻訳:金井哲夫)

患者の負担を軽減する液体生検を用いた白血病遺伝子検査提供のLiquid Mineが資金調達

患者の負担を軽減する液体生検を用いた白血病遺伝子検査提供のLiquid Mineが資金調達

Plug and Play Japanは2月3日、東京大学医科学研究所発のスタートアップLiquid Mineへの出資を発表した。

Liquid Mineは、「最先端の遺伝子解析により、より多くのがん患者一人ひとりに最適な治療環境を提供する。」をミッションに、リキッドバイオプシー(液体生検。Liquid Biopsy)を用いたゲノム検査「MyRD」を提供する東京大学医科学研究所発のスタートアップ。患者個人に合わせたテーラーメイド医療(オーダメイド医療)を通じて、白血病患者の長期生存率向上、がんの克服を目指している。

白血病の検査としては、骨髄生検という手法が一般的なものの、非常に強い痛みを伴うため患者の肉体的・精神的・経済的負担が大きいという課題がある。一方Liquid Mineの提供するソリューションは、患者モニタリング期の骨髄生検を侵襲性の低いリキッドバイオプシーに代替することで、これら患者の負担軽減に貢献するという。

市場展開として、日本のみならず海外でもがん検査の新たなスタンダードとなる可能性を持つことから、世界に事業展開できるスタートアップに投資しているPlug and Play Venturesは、同社が目指すがんゲノム医療のポテンシャルを感じ、出資を決定した。

Plug and Playの投資部門Plug and Play Venturesは、世界にビジネスを拡大していく可能性を持つ日本のスタートアップに対し、事業領域を問わず投資を行っている。投資件数において世界で最も活発なベンチャーキャピタルのひとつでもあり、DropboxやPaypal、Lending Clubなど多数のユニコーン企業を輩出してきた。

2020年は162社のスタートアップに投資を実施したほか、ポートフォリオ企業から12社がExitを果たし、新たに4社がユニコーンとなった。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:医療(用語)オーダメイド医療がん / がん治療(用語)ゲノム医療資金調達(用語)東京大学(用語)VC / ベンチャーキャピタル(用語)Liquid MinePlug and Play Japan(企業)日本(国・地域)

1回の接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナワクチンは米国で3月に配布開始の見込み

Johnson & Johnson(ジョンソン・エンド・ジョンソン)の子会社であるJanssen Pharmaceuticals(ヤンセン・ファーマシューティカルズ)が作った単回接種の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンを配布開始する準備がほぼ整った。同社は第Ⅲ相試験のデータに基づく有効性報告書を発表したばかりで、この新しいワクチンが新型コロナ感染症の中等度から重症化の予防には全体で66%、重症化の予防には85%の有効性があることを明らかにした。

これらの数字は、すでにFDA(米国食品医薬品局)の緊急使用承認を受けて配布が始まっているModerna(モデルナ)やPfizer(ファイザー) / BioNTech(ビオンテック)が開発したワクチンの報告されている数字(どちらも90%以上の有効性が報告されている)に比べると印象的ではない。しかし、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは、2回の接種が必要なく、1回の注射で済むため、はるかに簡単かつ早く配布することができるはずだ。このワクチンはまた、接種後28日目には、試験参加者の入院や死亡を100%防ぐ効果を示しており、これは新型コロナウイルスが保険資源に与える影響を考える上で重要な指標となる。有効性は地域によって異なるが、米国では中等度および重度の症例では72%の有効性が証明されたのに対し、世界全体では66%だった。

Johnson & Johnsonの第Ⅲ相試験が、英国や南アフリカで確認された変異種のように、より感染力の強い新種のウイルスが出現している中で行われていることも重要だ。ModernaやPfizer / BioNTechが試験データを発表した時点では、これらの変異種はまだ見つかっていなかった。

Johnson & Johnsonのワクチンは、改変した風邪ウイルスの一種(アデノウイルス)をベクター(運び手)として使用し、人の体に、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)が人の細胞に付着するために使用するスパイクタンパク質の複製を構築する指示を出す遺伝子情報を送達する。この改変されたアデノウイルスは、人間の細胞内で複製することはできず(病気にならないという意味)、免疫反応が起こるだけで、これが後に新型コロナウイルスの感染を抑える抗体を作り出す。このアデノウイルス法は、現在使用されている他のワクチンが採用するmRNA法と比べると、人での使用という点では、はるかに実績がある。

つまり、ModernaやPfizerのデータと比較すると、数字の上では物足りないように見えるものの、ジョJohnson & Johnsonの報告は、実際には非常に勇気づけられるものであるということだ。同社によると、2021年2月にはFDAに緊急使用承認(EUA)の要求を提出する見込みで、翌月2021年3月には配布が可能になると予想されるという。世界的な感染と戦うための武器が、また1つ加わることになりそうだ。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:Johnson & Johnson新型コロナウイルスワクチン

画像クレジット:Thiago Prudêncio/SOPA Images/LightRocket / Getty Images

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

臨床試験参加者を製薬会社に紹介しオーダーメイド医療研究を支援するSano Geneticsが3.5億円調達

臨床試験への参加を増やすことでオーダーメイド医療研究をサポートするという広範なミッションを持つスタートアップSano Genetics(サノジェネティクス)がシードラウンドで250万ポンド(約3億5000万円)を調達した。

本ラウンドはEpisode1 VenturesがリードしSeedcamp、Cambridge Enterprise、January Ventures、その他欧州と米国を拠点とするエンジェル投資家が参加した。

調達した資金の一部は、新型コロナウイルス感染症を長く患っている3000人を対象とした無料在宅DNAテストキットの費用に充てられる、とSano Geneticsは話す。またテックプラットフォームの開発に投資し、チームの規模も拡大する。

大学院生としてゲノム学を学んでいたケンブリッジ大学で知り合ったCharlotte Guzzo(シャーロッテ・グゾー)氏、Patrick Short(パトリック・ショート)氏、William Jones(ウィリアム・ジョーンズ)氏によって2017年に創業されたSano Geneticsは、患者が医学研究や臨床試験に参加できるようにする「プライベートデザイン」テックプラットフォームと呼ぶものを構築した。ここには、在宅遺伝子検査の機能が含まれ、またいくつかの硬化症、強直性脊椎炎、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、潰瘍性大腸炎の研究をサポートし、2021年後半のアジェンダにはパーキンソン病のための研究プログラムもある。

「医学研究に参加する人にとって、そのプロセスはユーザーフレンドリーではありません」とSano GeneticsのCEOであるショート氏は話す。「通常、利他的であること以外に参加者にとってメリットはほとんどなく、参加は難しく、また時間もかかります。そして取り扱いに注意が必要な自身の遺伝子や医療の情報のプライバシーを懸念しています」。

「そのためバイオテクノロジー、製薬、学術研究の研究者にとって研究参加者を引きつけて維持するのはとても困難で、かなりの費用と時間がかかります。特に正確な遺伝子治療に関する研究では、遺伝子テストはヘルスケアシステムでは日常的に行われるものではないために『適切な』患者を見つけるのはさらに難しくなります」。

これを解決すべく、Sano Geneticsはプラットフォーム経由で適切な患者を研究にマッチさせる。そして在宅遺伝子テストを受けられるようにし、プロセス全体を通して参加者を案内することで参加を簡単にしている。

「システムは、ユーザーが自分のデータで何が起こるのかを正確に知ることができるようデザインされていて、当社は参加者に自身のデータを管理する簡単な方法を提供します」とショート氏は説明する。「参加した研究についてのアップデート、そして遺伝子レポートを含むパーソナライズされた無料のコンテンツ、当社のブログ上で他の参加者の話しを提供することで、ユーザーが研究プロセスに関われるようにします」。

エンドユーザーは慢性あるいは稀な病気を抱えている人となり、自身の役に立つ研究に参加するため(たとえば臨床試験を通じた新しい治療へのアクセスなど)、または自身と同じような患者を助けるために同プラットフォームを使う。

一方、Sano Geneticsmは研究に適した患者を見つけるための料金をバイオテック会社や製薬会社に請求することで売上を上げる。「典型的な研究は、セットアップ料金、当社の在宅遺伝子テストと分析で発生する料金、研究に興味がある適した患者の紹介にかかる料金で構成されます」とショート氏はつけ加えた。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Sano Genetics資金調達

画像クレジット:Sano Genetics

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(翻訳:Mizoguchi

モデルナが既存の新型コロナワクチンも変異株に効果ありと発表

Moderna(モデルナ)が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異型に対しても、同社のワクチンが引き続き有効であるようにするために、行っているステップの詳細を説明した。そこで説明されている内容は、既存の新型コロナワクチンを使って、3回の接種でどのようにブースター効果を得るかの検証方法や、英国と南アフリカで初めて確認された新しい変異ウイルスの、スパイクタンパク質を標的とするようにデザインされた、系統特異的なワクチンの開発についてだ。

Modernaはプレスリリースの中で、こうした手段を「念には念を入れて」追求していると語っている。なぜなら初期の研究では、既存のワクチンがこうした新しい系統に対しても(南アフリカで確認されたB.1.351系統に対しては多少有効性は損なわれるものの)、変わらず有効であることが示されているからだ。とはいえ、同社がウイルスの変異に対して迅速に対応していることは心強い。なぜなら今後、現在のパンデミックが一度収束したとしても、新型コロナウイルスを長期的に制御下に置き続けるためには、すばやい対応を続けていくことが必要になるからだ。

さらにModernaは、同社の次のワクチン候補や既存のワクチンが、市場に出回っている「すべての主要なワクチン候補」と組み合わせて使用されることによって、追加の免疫導入能力を提供できるのではと述べている。つまり、同社は自社のワクチンを、オックスフォードやPfizer / BioNTech(ファイザー / ビオンテック)のワクチンと組み合わせて、免疫力を高めるために使用することができると考えているということだ。このことによって自社もしくは他社のワクチンが不足した際に、ブースター効果をタイミングよく与えるための緊急需要を満たすことができる。

もちろん、この中で最もすばらしいニュースは、Modernaが現在世界中の人々に提供しているmRNAベースのワクチンが、この先もSARS-CoV-2ひいては新型コロナウイルスに対する保護を、引き続き提供できることを示唆する証拠が出てきたことだ。特に英国の変異株に対しては、ワクチン接種を受けた患者の免疫力の低下は見られないという研究データが出されている。南アフリカの変異株については、その有効性の低下は、主に注射によって提供される免疫がより早く減衰していることに起因している可能性がある。つまり、単に追加の注射を、予定されていた期間よりも短い間隔で行えば良いだけなのかもしれない。とはいえ少なくとも初期段階では、これは世界的なワクチン接種アプローチに大きな変更を強いるものではないだろう。

カテゴリー:バイオテック
タグ:Moderna新型コロナウイルスワクチン

画像クレジット:ADEK MICA/AFP / Getty Images

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(翻訳:sako)

MITが植物を実験室で植物の組織を培養する方法を開発、最終的には林業や農業の代わりに木材や野菜を生産

企業や研究者が実験室で肉を育てることにアプローチしているように、MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者は、植物の組織を実験室で育てる新しい方法を開発した。このプロセスは実験室環境で木材や繊維を生産することが可能で、研究者たちはすでにジニアの葉から採取した細胞を使って単純な構造体を成長させることで、このプロセスがどのように機能するかを実証している。

この研究はまだ非常に初期の段階にあるが、実験室で栽培した植物材料の潜在的な応用は大きく、農業と建築材料の両方の可能性を含んでいる。伝統的な農業は畜産に比べれば生態系へのダメージは少ないが、それでも大きな影響とコストがかかり、維持するためには多くの資源を必要とする。もちろん、小さな環境の変化でも作物の収量に大きな影響を与えることはいうまでもない。

一方、林業は環境への悪影響がより顕著だ。今回の研究者たちの研究成果を利用して、最終的には拡張性と効率性を備えた方法で建設や製造に使用する実験用木材を生産する方法が開発できれば、林業が世界的に与える影響を減らすという点で大きな可能性がある。たとえば木製テーブルを直接成長させるように、最終的には植物由来の素材を特定の形状に成長させることで、研究室が製造の一部を担うこともできると、研究チームは考えている。

研究者たちの道のりは、まだ先が長い。彼らは非常に小規模な規模でしか材料を育てておらず、最終的に異なる特性を持つ植物由来の材料を育てる方法を見つけることが、課題の1つになると考えている。また、効率を上げるためには大きな壁を克服する必要があり、研究者たちはこれらの解決策に取り組んでいる。

研究室で栽培された肉はまだ黎明期にあるが、研究室で栽培された植物材料はさらに初期の段階にある。しかし、そこに到達するまでには長い時間がかかるとしても、非常に大きな可能性を秘めている。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:MIT植物農業林業

画像クレジット:Getty Images

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(翻訳:塚本直樹 / Twitter

遺伝子工学にブレイクスルーを起こす「遺伝子プログラム技術」のTessera Therapeuticsが238.4億円を調達

技術者たちはコーディング生物学にますます習熟していて、VCたちは新世代のスタートアップたちがその技術を遺伝子技術革新の次の波にのせることができるように、現金を注ぎ込んでいる。

このたびFlagship Pioneering(フラッグシップ・パイオニアリング)のスピンオフ企業であるボストン拠点のTessera Therapeutics(テセラ・セラピューティクス)が、より優れた生物学的プログラミングのためのプラットフォームを開発するために、2億3000万ドル(約238億4000万円)の新たな資金調達を行い、その競争に飛び込んだ。

このラウンドを主導したのはAlaska Permanent Fund Corp.、Altitude Life Science Ventures、SoftBank Vision Fund 2たちで、Qatari Investment Authorityやその他の非公開投資家たちが参加した。

同社は2020年、さまざまな遺伝子の編集技術、製造技術、合成技術を組み合わせて、遺伝子コードに対してよりオーダーメイドの治療指示を提供することのできる遺伝子ライティングサービスを公開した。

同社はその声明の中で、遺伝物質への指示をより多く提供することで、標的とできる病原体や突然変異の数を増やしながら、治療の精度を高めることを目指していると述べている。

この主張は、今月初めに1億500万ドル(約108億9000万円)を調達したアーリーステージバイオテック企業であるSenti Bio(センチ・バイオ)のような企業のアプローチに似ている。

Tessera Therapeuticsの共同創業者でCEOであると同時に、Flagship PioneeringのパートナーでもあるGeoffrey von Maltzahn(ジェフリー・フォン・マルツァーン)氏は「生命体のコードに書き込みを行うことができる能力は、今世紀における決定的技術となって、医療に根本的な変革を促すことになるでしょう。今回いただいた支援は、Tesseraの優れた科学者チームと、遺伝子ライティングの驚異的な可能性を患者さんにもたらすことに注力していることに対する信頼の証です」と語った。「この強力な技術を医療の新しいカテゴリーへと変えることができるのを楽しみにしています」。

Tessera Therapeuticsは、Flagship Pioneeringの傘下で開発されてきた遺伝子治療や遺伝子編集技術に特化した数多くの企業の一部である。Tesseraの共同創業者で会長でもある、Flagship Pioneeringの創業者で最高経営責任者のNoubar Afeyan(ヌーバー・アフェヤン)氏によると、Tessera TherapeuticsはmRNA、標的化膜融合ベクター、エピジェネティックコントローラーを利用した新しい治療法の開発に注力しているという。

Senti Bioは既存の遺伝物質にさらなるプログラミングを加えるものだが、Tesseraは体内に最も多く存在する遺伝物質である可動遺伝因子(mobile genetic elements)を利用して、ヒトゲノムを書いたり書き換えたりするための新たなベクターを生み出す。

同社はその技術を、より良い治療法を提供できる遺伝子工学のブレイクスルーだと主張している。なぜなら、この技術はゲノム内の特定の部位を標的にして、遺伝子コードに対して任意の置換、挿入、削除を行うことができるからだ。Tesseraはまた、その技術は、二本鎖切断を行わず、DNA修復経路にほとんど頼らないことで、より効率的に体細胞ゲノムのエンジニアリングを行うことができると述べている。

遺伝子ライティング技術は、自然界で最も豊富に存在する遺伝子のクラスである可動遺伝因子によって触発され、その上に構築されている。Tesseraの持つ計算ならびにハイスループット実験室プラットフォームのおかげで、チームは、ヒトゲノムの書き込みと書き換えのために、何千もの遺伝子操作され合成された可動遺伝因子を設計、構築、テストすることが可能になった。

また同社によれば、RNAのみを与えることで、まったく新しいシーケンスをゲノムに書き込むことも可能だという。

Tesseraは、新しいラウンドによって調達された資金を使って、技術をさらに発展させ、より多くのスタッフを雇用し、プラットフォームとプログラムに不可欠な、製造と自動化能力を確立することを目指すと述べている。

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(翻訳:sako)

米モデルナが季節性インフルエンザ、HIV、ニパウイルス向けに3種の新しいmRNAベースワクチンを開発中

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を止めるために、現在世界的に2種類のmRNAベースのワクチンが展開されている。そのうちの1つを開発しているバイオテクノロジー企業であるModerna(モデルナ)が、2021年には3種の新しいワクチン候補を中心に開発プログラムを進めることを発表した。それらはHIV、季節性インフルエンザ、ニパウイルスのためのワクチン候補だ。モデルナの新型コロナウイルスワクチンの開発と臨床試験は史上最速のペースで行われており、これまでのところ、その結果は非常に有望なものであり、初めてヒトの臨床への応用が行われるこの技術を用いた他の予防治療の有効性も大いに期待されている。

mRNAワクチンは従来の典型的なワクチンとは異なる。なぜならそれは体の自然な防御システムを起動するための特定のタンパク質を、どのように生産すればよいかという指示を人体に与えるものだからだ。そのmRNAによる指示は一時的なものであり、人体のDNAには影響を与えない。単に、ウイルスが細胞に取りついて感染する際に使うタンパク質の生産を、人体の細胞に対して促すだけだ。生み出されたタンパク質は、その後人体の自然免疫反応によって排除されるが、そのことによって、ウイルスが人間に取りついて感染するのを助けるタンパク質やその類似タンパク質を撃退する方法についての、永続的な教育が人体の防御系に対して行われることになる。

モデルナの新しいプログラムは、季節性インフルエンザだけでなく、通常のインフルエンザとCOVID-19を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の両者を対象とする複合ワクチンも目標とする予定だ。またAIDS Vaccine Initiative(AIDSワクチンイニシアチブ)ならびにBill and Melinda Gates Foundation(ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団)との協力のもとに開発されたHIVワクチン候補は、2021年中に第一相臨床試験が開始される予定だ。ニパウイルスは、呼吸器症状や神経症状を引き起こす致死性の高い病気で、特にインド、バングラデシュ、マレーシア、シンガポールで脅威となっている。

mRNAベースのワクチンは、その柔軟性とプログラミングが可能である点、また活性ウイルスや休眠ウイルスなどを使用しないために直接的な感染症を引き起こすリスクが低いという点から、未来のワクチン開発手段として可能性を長年期待されてきた。新型コロナウイルスのパンデミックが、この技術への多額の投資と、規制・健康・安全性への投資に拍車をかけ、モデルナ社による新しいワクチン候補試験を含む、他の分野での利用への道を切り拓いたのだ。

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タグ:ModernaワクチンmRNA新型コロナウイルス

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(翻訳:sako)

遺伝子回路テクノロジーでガン制圧を目指すSenti Bioがバイエルから109億円を調達

Senti Biosciencesは、ライフサイエンス分野の世界的企業であるBayer(バイエル)がリードした資金調達ラウンドで1億500万ドル(約109億円)を調達したことを発表した。同社はプログラム可能なバイオプラットフォームによって新しいガン治療法の開発を行っている。

同社は新しい計算生物学的手法を用いて人体の特定細胞を正確に標的とする細胞・遺伝子治療法を開発している。

ハーバード医学部の出身でMITで准教授を務めたSenti BiosciencesのCEOであるTim Lu(ティム・ルー)氏は、同社のテクノロジーを伝統的な手続き型プログラミングとオブジェクト指向プログラミングの違いにたとえてこう述べている。「『Helloworld』を表示するだけのプログラムでは意味がありません。オブジェクト指向ならifステートメントを駆使したプログラミングができます」という。

Senti Biosciencesでは複数の受容体を標的とする遺伝物質を合成することで体内の遺伝物質を識別し、病変部に正確に薬剤を到達させること目標としている。「細胞の単一受容体ではなく【略】我々は2つの受容体を対象にできます」とルー氏は述べた。

同社は当初、遺伝子回路テクノロジーのプラットフォーム上に体内のガン細胞を標的にしてそれらを駆逐する「キメラ抗原受容体ナチュラルキラー(CAR-NK)」細胞を合成する治療法を開発している。現在の細胞・遺伝子治療は、ナチュラルキラーT細胞を利用している。これは、体内の白血球内に存在し、人体に有害なウイルスや細菌などの異物を排除する免疫プロセスで重要な役割を果たす。

ところがT細胞を利用したの治療法は、患者に毒性をもたらす可能性がある。極めて危険な免疫暴走を誘発するをリスクだ。CAR-NK細胞を利用すれば同様の効果を得ながら免疫暴走という副作用を大きく低減できる。

ルー氏によれば「我々の治療法は遺伝子回路とは独立のものですす。遺伝子回路は個人に特異的です。【略】CAR-T細胞またはCAR-NK細胞を使った治療では【略】(ガン細胞という)標的を発見して薬剤を送り届け他の正常な細胞に影響を与えないようにします。我々は遺伝子回路にロジックを組み込み、CAR-NK細胞が1つではなく2つの標的を識別できるようにします」という。

Senti Bioがターゲティング能力を強化するのは、抗ガン剤が体内の病変細胞だけに作用し、変異していない健康な細胞が破壊されることを防ぐためだという。

共同ファウンダーのルー氏、MITの同僚であるJim Collins(ジム・コリンズ)教授、ボストン大学のWilson Wong(ウィルソン・ウォン)教授、また合成生物学の専門家であるPhillip Lee(フィリップ・リー)氏らの数十年にわたる研究の集大成がSenti Biosciencesに結実したという。

ルー氏は遺伝子回路テクノロジー開発の現状をこう解説する。

遺伝子治療の現状は、半導体素子開発の初期と比較できます。研究段階ではさまざまな要素技術が開発されていました。しかし世界に影響を与えるためには産業として成立する規模が実現される必要がありました。

そこでルー氏ら共同ファウンダーはMIT、ボストン大学、スタンフォード大学からのライセンスを受け、開発作業を研究室レベルから産業レベルにアップすべくスタートアップを設立した。

「(Seinti Bioを)創立したとき、我々が持っていたのはいくつかのツールとノウハウでした」とルー氏はいう。それはまだ完成したプラットフォームには遠かった。

バイエル他の投資家による資金投入により、同社は新しい制ガン療法の商業化に進む準備ができた。

同社は声明で「最初の製品は急性骨髄性白血病、肝細胞ガン、その他の詳細はまだ明かせないが、各種の固形腫瘍を対象とした治療法になる」と述べている。バイエルのベンチャーキャピタル、Leaps by Bayerの責任者Juergen Eckhardt(ユルゲン・エックハルト)医学博士はこう述べている。

Leaps by Bayerの使命は、何百万人もの人々の生活をより良い方向に変える可能性のある画期的なテクノロジーに投資することです。合成生物学は次世代の細胞・遺伝子治療の重要な柱になると信じています。遺伝子回路設計と最適化におけるSenti Bioのリーダーシップは、ガンの予防と治療、また失われた組織機能再生という我々の目標に理想的に適合します。

ルー氏ら共同ファウンダーは、同社のプラットフォームをガンだけでなく他の疾病治療その他の用途のための細胞療法を開発するために有効と考えている。これについては(バイエル以外の)製薬会社とも提携して製品化を進めるつもりだという。ルー氏は声明でこう述べている。

過去2年間、Senti Biosciencesのチームは信頼性の高い薬剤製造ラインを開発するために何千もの高度な遺伝子回路を設計、構築、テストしてきました。現在まで治療が困難な液状および固体腫瘍に適応するる同種異系CAR-NK細胞療法に焦点を当ててきました。今後、2021年にはIND(新薬臨床試験)申請の準備を開始するなど、プラットフォームテクノロジーと製造パイプラインのさらなる進歩が達成できるものと期待しています。

今回のラウンドによりSenti Biosciencesの資本は1億6000万ドル(約166億円)弱となった。ルー氏は「この資金は製造プロセスを強化し、大手製薬会社との提携作業を加速するために用いられます」と述べた。

現在のスケジュールでは2022年後半から2023年初頭に新薬臨床試験開始申請を行い、2023年中に実際の臨床試験を開始する計画だ。

遺伝子回路開発は急成長中の分野だ。Cell Design Labsは2017年にGilead Sciencesが5億6700万ドル(約588億円)で買収した。この分野に取り組んでいる他の企業にはCRISPRテクノロジーを利用したCRISPR Therapeutics、Intellius、Editasなどがある。

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タグ:Senti BiosciencesDNACRISPR資金調達

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(翻訳:滑川海彦@Facebook