米国時間11月30日午前、Adam Selipsky(アダム・セリプスキー)は2021年にAndy Jassy(アンディ・ジャシー)氏からCEOを引き継いで以来、初めてAWS re:Inventカンファレンスの基調講演を行った。重責をともなう任務だったが、それはセリプスキー氏がAWSチームをまったく知らなかったという意味ではない。事実、彼はごく初期からこの部門に関わり、ジャシー氏を助けてAWSを巨大ビジネスに育てた後、2016年に退社してTableau(タブロー)のCEOになった。
初日は歴史を学ぶことから始めたが、背景を知るために誰か頼る必要はなかった。なにしろかつてシアトルでウェブサービスを売るという得体のしれないアイデアの扉を開いた時、彼はそこにいたのだから。
セリプスキー氏が初期の潜在顧客にクラウドインフラストラクチャーのコンセプトのプレゼンテーションをした時、誰も理解できなかった。「これが本を売ること何の関係があるのですか?」と繰り返し聞かれた。
なんと答えたのかを同氏は明かさなかったが、私の予想は「何の関係もありません。すべてに関係があるのです」だ。数年前、Amazon CTOのWerner Vogels(ワーナー・ボーゲルズ)氏と一緒の講演で、セリプスキー氏は似たような話をした。当時同氏は、Amazonが何かを売ることを目的にしたことはないといった。目的は大規模なウェブビジネスを構築することだ。
現在のクラウドインフラストラクチャーベンダーのトップ3、Amazon、Microsoft(マイクロソフト)、Google(グーグル)を見てみると、いずれもビジネスを大規模に展開することが非常に得意であり、データセンターの運営が主要な位置を占めている。今振り返れば、ブックセラーがインフラストラクチャー・サービスを売るアイデアを思いつくことは、ほとんど論理的に思えるが、もちろん当時はそうではなかった。
2005年、クラウドとは何かを本当にわかっている人はいなかったし、いたとしてもそれは広く理解されているコンセプトではなかった。私が初めてこの用語を聞いたのは、ボストンでWeb 2.0カンファレンスが行われた2008年頃だった。そこでは、Amazon、GoogleとSalesforce(セールスフォース)の担当者が、クラウドは何であるか、なぜ重要なのかを話していた。
多くのIT関係者がマイクの前に並んで質問とコメントを浴びせ、反発を露にしていたことを覚えている。彼らに会社のデータを本屋に預けるつもりがなかったことは間違いない。そうするまでは。
セリプスキー氏自身でさえ、参加した当初は完全には理解していなかった。最近Bloomberg(ブルームバーグ)のEmily Chang(エミリー・チャン)氏のインタビューで彼はこう話した。「受けた電話はこんな風でした、『このプロジェクトはAmazonの根幹を引っ張り出して、世間にさらけ出すことです』。そしてそれは興味をそそりましたが、一体なんのことなのか完全にはわかっていなかったことを白状します」。
アンディ・ジャシー氏はアイデアの起源について2016年のTechCrunch記事で説明している。それは2003年の幹部たちによる社外でのブレインストームミーティングのときだった。
ジャシー氏はこう振り返る。仕事を進めていくつれ、チームは自分たちがコンピュート(計算)、ストレージ、データベースなどのインフラストラクチャーサービスの運用がかなり得意になっていることに気づいた。さらに重要なのは、信頼性の高い、スケール可能でコスト効果の高いデータセンターを運営することに関する高いスキルを、彼らが必要に迫られて身に着けていたことだった。Amazonのような薄利のビジネスでは、できる限り無駄を減らし効率を上げる必要があった。
その時だった。完全に言葉にすることさえなく、後にAWSとなるアイデアをみんなで練り始め、デベロッパーにインフラストラクチャー・サービスを提供する新ビジネスを始めたらどうだろうかと考え始めた。
そしてついに、彼らは2005年にセリプスキー氏を採用する時に説明したことを成し遂げた。書籍販売ウェブサイトの中心部をさらけ出し、顧客に販売した。それは本を売ることとはあまり関係なかったが、すべてに関係があった。そして今そのアイデアは600億ドル(約6兆7840億円)のビジネスになっている。
画像クレジット:Amazon
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(文:Ron Miller、翻訳:Nob Takahashi / facebook )