人によるコントロールと機械学習を融合したスマート義手

義肢は年々良くなっているが、それらの強度と精度が使いやすさや能力(実際にできること)に貢献していないこともあり、とくに手足を切断手術した人たちがごく初歩的な動作しかできない場合が多い。

スイスの研究者たちが調べた有望と思われるやり方では、手動では制御できない部分をAIが引き受ける。

問題の具体的な例として、腕を切断した人が膝の上でスマート義手を制御する場合を考えてみよう。残存する筋肉に取り付けられたセンサーなどからの信号で、義手はかなり容易に腕を上げ、ある位置へ導き、テーブルの上の物をつかむ。

でも、その次はどうなる?指をコントロールするたくさんの筋肉と腱はない。そして義手の人工的な指を、ユーザーが望む曲げ方や伸ばし方ができるように解析する能力もない。ユーザーにできることが、単に総称的な「握る」や「放す」の指示だけなら、実際に手でできていたことを実行するのほぼ不可能だ。

そこが、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(École polytechnique fédérale de Lausanne、EPFL)の研究者の出番だった。義手に「握れ」と「放せ」と命令したあと、それから先の動作を特に指示しなくても最良の握り方を見つけられるなら問題はない。EPFLのロボット工学の研究者たちは長年、「握り方の自動的な見つけ方」を研究してきた。だから今の義手の問題を解決するには、彼らがうってつけなのだ。

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義手のユーザーは、本物の手がない状態でさまざまな動きや握りをできるだけうまく試みながら、そのときの筋肉信号を機械学習のモデルに解析・訓練させる。その基礎的な情報で、ロボットの手は自分が今どんなタイプの把握を試みているのかを知り、目的物との接触領域を監視して最大化することによって、手はリアルタイムで最良の握りをその場で作り出す。落下防止機構も備えており、滑落が始まったら0.5秒以内に握りを調節できる。

その結果、目的物はユーザーが基本的には自分の意思でそれを握ってる間、しっかりとやさしくその状態を維持する。目的物の相手をすることが終わってコーヒーを飲んだり、ひと切れのフルーツをボウルから皿に移したりするときは、その目的物を「離し」、システムはこの変化を筋肉の信号で感知して実際に離す行為を実行する。

関連記事:SmartArm’s AI-powered prosthesis takes the prize at Microsoft’s Imagine Cup【AIで動く義肢がMicrosoftのImagine Cupを勝ち取る、未訳)

MicrosoftImagine Cupを取った学生たちのやり方を思い出すが、それは手のひらにカメラを付けた義手の腕が目的物のフィードバックを与え、正しい握り方を教えていた。

一方こちらはまだまだ実験段階で、サードパーティ製のロボットアームと、特別に最適化していないソフトウェアを使っている。でもこの「人とAIとの共有コントロール」には将来性が感じられ、次世代のスマート義手の基盤になるかもしれない。チームの研究論文はNature Machine Intelligence誌に掲載されている。

画像クレジット:EPFL

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

このスマート「足首」は悪路にも順応する

人工装具は日々改善され、パーソナル化されているが、便利であるとはいえ本物には遠く及ばない。しかしこの新しい人工足首は、他と比べて本物に近い。ユーザーの歩き方や地面の状態に合わせて自ら動く。

人が歩くとき、足首は数多くの仕事をしている。地面に引きずらないように足先を上げ、着地の衝撃を緩和したり荷重を調節するために足の傾きを調整しながら、地上の凸凹や障害物を避ける。こうした動きを模倣しようとした義肢はほとんどなく、バネの曲がりや詰め物の圧縮など原始的な方法を用いている。

しかし、ヴァンダービルト大学機械工学教授のMichael Goldfarbが作ったこの足首のプロトタイプは、受動的な衝撃吸収のはるか先を行く。関節の中にはモーターとアクチュエーターがあり、内蔵のチップが動きを感知、分類して歩き方を制御する。

パラグアイのPoは3Dプリントされたカスタマイズ義肢を南米の貧しい人びと向けに開発

「この装置は何よりもまず周囲の状況に適応する」と、義肢を説明するビデオでGoldfarbは説明した。

「斜面の上り下り、階段の上り下りも可能で、装置が常に利用者の動きを認識し、それに合わせて機能する」と大学のニュースリリースで彼が述べた

歩き出そうとして足が地面を離れたことを感知すると、装置はつま先を上げてぶつからないようにすると同時に、足が下りるときにかかとをつけて次の一歩に備える。また、上から(人が足をどのように使っているか)と下から(斜面や地面の凹凸)の圧力を感知することで、歩き方を自然にすることができる。

数多くの義肢を使ってきたベテランのMike Sasserがこの装置を試して良い感想を述べた。「水圧式のマイクロプロセッサーをもたないタイプの足首を試したことがあるが、不格好で重く行動的な人間には制約が多かった。これは違う。」

現在の装置は、かなり実験室に縛られていて電源は有線で供給されている——外出には便利とは言えない。しかし、もしこの関節が設計通り動くのであれば、電源問題は二の次だ。課題が解決すれば数年のうちに商品化する計画だという。GolfarbのCenter for Intelligent Mechatronicsでの研究については、こちらで見ることができる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

3Dプリントで作ったソフトな人工心臓は本物そっくりに動く

人工装具の科学技術はここ数年飛躍的な進歩を遂げ、それを補完するソフトロボティクスの研究が特に際立っている。本物のように柔軟に曲がるロボットアームの技術を、もっと複雑な臓器 ―― 例えば心臓 ―― にも応用できることをスイスの研究者らが示した

人工心臓の問題の一つは、金属とプラスチックでできた機構を組織に同化させることが難しく、不自然な動きのために血液を損傷する恐れがあることだ。

スイス、チューリッヒ工科大学で博士課程の学生、Nicholas Cohrsが率いる少人数のチームが作ったのは、全体がソフトな初めての人工心臓と彼らが呼ぶもので、ポンプ機能はシリコン製の心室を本物の心臓と同じように動かすことで実現している。

いや、正確には本物と同じではない ―― 心室と心室の間は単なる壁ではなく部屋になっていて、膨らんだりしぼんだりすることでポンプ動作を実現している。それでも、かなり本物に近い。

この心臓を作るのに使用した3Dプリント方式では、ソフトでしなやかな材料を使って、複雑な内部構造を作ることができる。全体が一つの構造(「モノブロック」)からなるため、様々な内部構造がどう収まるかを心配する必要がない( 血液が入って出るための入出力ポートとの接続部分を除く)。

人工心臓のテストは順調で、血液に似た液体を、人体に似た圧力に対して押し返した。ただし、もちろん裏がある。

この心臓は概念実証であり、実際の移植のためのものではない ―― このため使用している材質は数千回の心拍にしか耐えられない。心拍数にもよるが、約30分に相当する(新品の慣らし運転での心拍数はかなり高いに違いない)。もちろん、チームの目標は材料と設計を工夫してもっと長く使えるようにすることだ。

「機械技術者として、柔らかな心臓をこの手でつかむことなど想像もしていなかった」と、テストの責任者で大学院生のAnastasios Petrouが大学のニュースリリースで言った。「この研究には大いに魅了されたので、是非これからも人工心臓の開発を進めていきたい」。

研究チームの成果は今週論文誌 “Artificial Organs”[人工臓器] (当然)に掲載された。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

スマート義肢の‘スマート’機能を靴下状のウェアラブルにして超低コストを実現

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義肢の未来が足早にやってくる。3Dプリント、新しい素材、そしてセンサーの内蔵が、古き日のそっけない木とプラスチックに代わりつつある。でも未来はどれも、平等には行き渡らない。そこで、高価な新しい義肢に手が届かない人たちのために、オーストリアの研究者たちが、センサーを取り付けた衣料品で無脳な義肢をスマート化(有脳化)する方法を提案している。

リンツの応用科学大学が開発したそのproCoverと呼ばれる製品は、ACMのUIST(User Interface Software and Technology)カンファレンスで紹介され、最優秀論文の一つに選ばれた。

その論文の序文には、こうある: “感覚をエミュレートできる義肢の開発は、昨今ますます多くの研究者たちが、関心を持ちつつある。しかしながら、この分野における優れたイノベーションの多くが、多くの人びとにとって手の届かないままでありがちである。われわれのビジョンは、既存の義肢に後付けできる、センサーを装備した安価なウェアラブルにより、この落差を填めることである”。

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彼らのソリューションは、義肢のユーザーの多くが、ふつうの手足のようにソックスやグラブを着用することから発想されている。だったら、そのソックスをスマートな素材で作ればよいではないか。そこから、彼らのproCoverは誕生した。伝導性素材の層が圧電抵抗の層をサンドイッチすれば、脚や足首全体をカバーする感圧性のグリッドが作られる。

それを、ユーザーが必要とするときに振動モーターのリングに接続する。脚のある部分が圧力を受けると、その部分のモーターが、それぞれ異なる周波数で振動する。別のバージョンとして、義肢の膝(ひざ)を曲げたときの角度を伝えるものもある。

それは多方向的な柔軟性があり、圧力や位置をローコストで感知できる。フィードバックの機構も非侵襲性(体内に入らない)なので、手術は不要だ。

プロトタイプの初期の実ユーザー実装テストでは、デバイスは構想どおりに機能し、有用性に富むフィードバックが得られたが、ユーザーの実態に応じてのカスタマイズの必要性が明らかとなった。センサーなどの配置位置や、フィードバックの強度などは、カスタマイズが容易だ。またフィードバックを、振動ではなく圧力の増加で表す方法も考えられる。

チームの次の課題は、ソックスの構造をもっと単純化することだ。そして義手のユーザーのためのグラブも、作らなければならない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

3Dプリント人工装具の未来

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【編集部注:本稿の執筆者、Jonathan Schwartz は、Voodoo Manufacturingの共同ファウンダー・最高製品責任者】

昨今の3Dプリンターの普及と人工装具のデザイン、製造、流通の革新は、世界中の四肢を失った数百万の人々ために実現可能な解をもたらすものだ。米国だけでも、毎年20万以上の四肢切断術が行われているが、5000~5万ドルという人工装具の価格から、それを持つことが贅沢とさえ考えられている。

従来、義肢の制作には数週間から数ヵ月を要した。人工装具は極めて個人的なものであり、装着者の形状や要件に合わせるために、一つひとつオーダーメイドで作る必要があるからだ。しかし、3Dプリンターが手頃な価格になり、200ドル以下の製品も出てくるようになったことで、誰もが自宅や地域コミュニティーで義肢を設計しプリントすることが、急速に現実味を帯びてきた。

義肢の価格を実感するために、それを必要としている子供のいる家族の経済を見てみよう。義肢の寿命は平均して約5年間だが、日々成長し、物を壊しがちな小さな子供であれば、交換の頻度はさらに高くなる。

義肢の購入およびその後の交換にかかる費用を計算すると、必要な生涯費用は家計に著しい負担となることがわかる。毎年の費用を保険会社に請求することもほぼ不可能だ ― CNNの最近の報道によると、新しいMedicareの提案では義肢の利用に制限が加わるという(現在保険対象者には15万人の四肢欠損者がいる)。

3Dプリンティングによる、人工装具の設計、制作の民主化によって、世界で何百万人もの人々が、新たに普及しつつある製造テクノロジーの恩恵を受けることができる。The Enable Community Foundationをはじめとするオープンソースのプロジェクトによって、3Dプリンターを持っていれば誰でも、義手のカスタマイズや制作が可能になった。意欲的なボランティアによる国際ネットワークであるEnableのチームでは、3Dプリンターを使って世界に救いの手を差し延べており、費用はわずか50ドルだ。

Enableの義手、 “Raptor Reloaded” 作動中。

3Dプリンティングのおかげで、子供たちは要件に応じて、例えば床にある物を楽に手を伸ばして拾える伸長可能な腕を作ることができる。文書をプリントするのと同じく、人工装具のプリント作業は、「プリント」ボタンを押すだけで、あとは3Dプリンターがレイヤーを次々と重ねていくのを見ているだけでよい。

近い将来、人工装具は人々の毎日の暮らしに、最小限の努力でスムーズに溶け込んでいくだろう。Body Labs等の会社による身体のスキャンやモデリングの最新テクノロジーによって、自分たちをスキャンして体に合わせた人工装具を作ることが可能になり、装着感も見た目もより自然なものになる。

3Dレーザースキャナーによって、デジタル3Dモデルの作成が可能になり、人工装具のデザインと3Dプリントに利用できる。

MITのHugh Herrをはじめとするイノベーターたちによって、駆動システム、内蔵センサー、関節の自然な動きを自動化する高度なアルゴリズム等を組み合わせた新しい技術が開発されている。人工装具の予測的動作によって、使用者は装置の制御について深く考える必要がなくなる。近いうちに、人工装具はさらに滑らかで自然な動きをするようになり、使用者は脳やタッチ入力システムによる直接操作によって装置を制御できるようになるだろう。

MITのHugh Herrが、自分の義足でその場駆け足をするデモを見せている。

さらに3Dプリンターは、様々な新しい材料にも対応するようになり、例えば軽量なチタンを使って耐久性や強度を高めることもできる。複数素材による3Dプリンティング技術を使い、関節部のへこみを自然にして体との結合を良くすることによって、人工装具はさらに使い心地がよくなる。義足をつけることが、クローゼットの奥にしまわれたあの恐ろしく履き心地の悪い靴を履くように感じられるところを想像してほしい。

Hugh Herrの研究式で作られたこのマシンは手足の「組織適合性」を測定する。これによってソフトさとハードさを兼ね備えた、より自然で心地よくフィットする人工関節の3Dプリントが可能になる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

子どもたちのために3Dプリントによる義手義足を広めるボランティア団体e-NABLE

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先週ロサンゼルスで行われた2015年スペシャルオリンピックス日本サイト)で、Ariという名前の5年生の女の子が、Googleのブースを訪れた。そのブースには、Googleの障害者サポート事業”インパクトチャレンジ“に関する情報がある。でもAriが知らなかったのは、この大会の前と後とでは自分の人生が変わることだった。

AIO Roboticsのボランティア数人がブースに立ち寄って、生まれつき指のない彼女の左手に、カラフルな義手を取り付けた。実はそれは、3Dプリントによる子どものための義手や義足を広めようとしているボランティアネットワーク“e-NABLE”のデモ行事で、事前の手配によりマスコミも大きく取り上げた。

明るいピンク色の義手をつけてもらったときの、Ariの大きなスマイルがすばらしい。何度でも、見たくなるね。

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もちろん、こんな例はもっともっとある。下のビデオでは、8歳のIsabellaが、やはりe-NABLEの努力で新しい義手をつけてもらっている:

テクノロジって、ときには、ほんとにすばらしいよね。

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アメリカ食品医薬品、筋電義手を初めて承認―生卵も掴めるDEKA Arm、市販可能に

Vergeの記事によると、DARPA(国防高等研究計画局)の資金援助で開発された装着者の意思で動かせる筋電義手にFDA(アメリカ食品医薬品局)の承認が得られたという。

これによって筋電義手の市販への道が大きく開かれた。次のステップは量産ができるメーカーを見つけることだ。

DEKA Armと呼ばれるこの義手の用いるテクノロジーはMYOアームバンドのものと似ている。切断部分より上に残った筋肉の発する微小な電気パルスを検知して義手の動作に変換する仕組みだ。MYOが腕の動きをコンピュータを操作する命令に変換するのに対して、DEKA-armは腕が切断されていなかったら神経の信号が筋肉を動かしたはずの動きを義手のモーターを動かすことによって代替する。DEKA Armの開発者はSegwayの発明者として知られるDean Kamenだという。

この義手は、ジッパーを開閉するなどの微妙な動作が可能だ。また掴んだ感触が振動によってフィードバックされるため、、上にエンベッドしたビデオのように、生卵を壊さずに掴むこともできる。これまでに開発されたどんな義手よりもの本物の手に近い。まだしばらくは実験段階が続くだろうが、こうしたバイオ・エンハンスメントが広く生活に入ってくる日は近いと私は思う。

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+