テック企業と政府の官民恊働プロジェクトの行く末


編集部記Nicole Cookは、Dwollaの戦略的パートナーシップ部門のディレクターであり、そこで同社の政府向けプログラムを率いている。

テック業界と政府は水と油のようだ。前者は、強引で、強気でリスクを恐れない。後者は、思慮深く、動きは遅いが慎重だ。しかし、スタンフォード大学で開催されたホワイトハウス主催のサイバーセキュリティーサミットを始め、この両者の協力関係は、公衆衛生の向上や金融の分野で見られ始めている。双方は、お互いから学ぶべきことがたくさんある。重要なのは、お互いを避けるのではなく、それぞれの違いを認識することだ。

協力すべき理由

テクノロジー業界に身を置いていると、私たちが世界を変えていると思いがちだが、テック企業が一年を通して人々に与える影響より、公的機関の方がより市民の毎日の生活に大きな影響を与えている。

彼らが大規模な政策を実行できるのはすごいことだ。(テクノロジー業界とは違い、間違うことは許されないが)なぜなら、難しい問題に対してもコンセンサスを築き上げる力があるからだ。最近行われたネットワーク中立性に関するディベートが良い事例だ。賛否両論あふれるこの議題に対し、公開討論の場を設けることで連邦通信委員会(FCC)は結論を探った。ここでFCCは、様々な立場からのそれぞれの意見を汲み取り、個人的にはアメリカにとって最も有益となる結論を出すことにつながったと考えている。

政府が素晴らしい仕事ができるのは事実だが、彼らには、フットワークの軽いテクノロジー企業のように、素早く、力強いイノベーションを起こすようには作られていない。政府が何か新しいことを開発するサイクルは何年もかかるものだが、例えばそれがシリコンバレーの企業だったら4週間ごとに見直すことができるのだ。

お互いの強みを活かす

政府が民間企業のようにテクノロジーをすぐに取り入れるのは現実的ではないが、政府は物事を俯瞰し、テクノロジーが解決すべき重要な課題を認識できる立ち位置にある。特に州や自治体レベルでは、予算が厳しく、イノベーションが必要だと感じる問題は多々ある。私が住むアイオワ州の例にとってみよう。ここでは、興味深いコラボレーションが行われている。

彼らが大規模な政策を実行できるのはすごいことだ。なぜなら、難しい問題に対してもコンセンサスを築き上げる力があるからだ。

例えばアイオワ州は、昨年から、運転免許証をデジタル化する試みを始めた。これは全米でも取り入れるのが早かった。この試みにより州は、プロセスを簡潔にすることでコストを削減できるといった有益な点とプライバシーやロジスティックスについての課題を検討し、納税者に提案する。これを実現させるためには、民間企業をパートナーとして迎える必要があることをアイオワ州議会は認識した。まだ、試みが始まってから日は浅いが、その努力は少なからず結果に結びついている。

アイオワ州は他にも電子決済の分野で先陣を切ってきた。市民は公的機関を利用する際の料金の支払い方法がもっと簡単になることを望んでいることに州は3年前から理解していた。今では、資産などの機密情報を守りながら、何千もの支払いを処理できるようになり、納税者の節約にもなった。更に、このような比較的小さい市場での成功事例を受けて、連邦政府も 全国規模でこのアプローチを取り入れることについて検討を始めた。

大きな計画を実現するためのコラボレーション

テクノロジーは、政治そのものを変えてしまう程の力を秘めている。機能レベルの話では、政府の情報を保管したり、アクセスしたりする作業を現代の用途に則するために MicrosoftのAzureが導入された。Azureは、安全なクラウドプラットフォームとして初めて自治体、州政府、連邦政府に採用された。

インフラにおいても、シアトルやニューヨークの自治体は、超高速ブロードバンドを街に導入するために、大手テクノロジー企業と組んでいる。このような取り組みには、公的機関と民間企業の双方の協力が必要不可欠だ。

連邦政府も官民協働に力を入れている。 Cooperative Research and Development Agreements、 通称CRADAsは、民間企業に投資し、イノベーションを加速させる取り組みだ。CRADAsは、公共において有益なものだが、ビジネスとして成り立つには長い期間を必要とするテクノロジーを開発する民間企業が、国立保健研究機構や国防省のサポートを得られるようにする。

CRADAsは現在、がん治療、衛星からのデータ解析、電気自動車を一日走行させる軽量で効率の高いバッテリーの開発を行っている。これもまた、両者の限界を知り、お互いの助けを求めたことで実現したことだ。

金融セクターで起きていること

金融セクターでのコラボレーションほど、象徴的な官民協働はないかもしれない。連邦準備銀行は、取引の処理のスピードを向上させようとしている。これを現実のものとするためには、今日のテクノロジーと、40年にも渡ってこの機関が信頼を得てきた保守的なアプローチを融合させ、適切に実行していくことが重要である。

今のこの金融ネットワークは、1970年代のテクノロジーを元にしている。悪意のある者を退ける対策も、現代のものより洗練されてはいないし、実際に使用している人から見ても手続きが不条理だと感じる。設立から何十年も経った今、初めて公的機関と民間企業のトップが今後どのように変えていくかについて話し合いをしているのだ。

テクノロジーは、政治そのものを変えてしまう程の力を秘めている。

これを実現するためには、真のリーダーシップとコラボレーションが必要だ。毎日何万人ものアメリカ国民がこの機関の滞りない運用を頼りにしているのだから。アメリカの金融ネットワークを簡潔にすることは、中小企業から多国籍企業まで、そしてそこに関わる、全ての人、全ての物に影響を及ぼす。直接的に影響がある人だけに関わらず、このことは、国内の最も優秀で賢い人の知見を必要とする。

公的機関、民間企業、有識者や、国際コミュニティーのパートナーと協力し、連邦政府は、それぞれの良いところを活かして最良の物を作ろうとしている。Dwollaもこのエコシステムを一部を担うことを目指している。政府が構造的な変革を起こすには、それぞれのヴィジョンやテクノロジーの専門知識、そしてスキルを統合し、このような大規模な実装を担う専門家と最低限のリスクで実行に移すことが求められる。

他のいかなる関係性と同様、テクノロジー業界と政府がこのような課題やその他の問題で上手く協力関係を築いて、取り組んでいけるかは、時間が教えてくれることだろう。しかし、このチャンスは大きい。お互いが価値を最大限発揮できる強みのある分野に集中するとともに、それぞれができないことに関しては、互いの協力が得られるのだ。とても良いことだとは思わないか?

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook


なぜ創造的職業の社会的地位は高くないのか?


Matt Burnsが書いた、先週彼の息子が学校で遭遇した状況は、米国内のほぼどこででも起き得ることだ。学校の職業体験の日、彼の7歳の息子は将来ゲームデザイナーになりたいと先生に言った。先生の反応は熱狂的どころか彼の夢を否定するものであり、それより本物の職業につくようにと息子に言った。

私はこの話が極めて稀なことだと思いたいが、そうではない。メーカー(作り手)は、クリエイターから科学者、プログラマーに至るまで、アメリカにおける社会的地位が他の専門職より依然として低い。誰もが起業家精神を賛えるが、自分の子供や家族がそれを目指すことを望む人は少ない ― べイエリアの中心地でさえも。

創造性は趣味か職業か

創造的経済は主流となるはずあり、専門家はわれわれに対して、子供たちの創造的才能を育み労働市場のオートメーション化と戦うべきだと説く。しかしこの国の高等学校を見ると、ことごとく焦点はものづくり以外に当てられている。工作の時間、アートスタジオ、エレクトロニクス実験室、そして学校新聞は消えつつあり、高いレベルのコンピューターサイエンスはもやは高学力生徒向けカリキュラムに含まれていない

こうした変化が起きている純粋な実施上の理由はいくらでもある。予算削減は国中の公立学校を襲い、教師はテストや説明責任に対する圧力の高まりによって、創造的科目以外に費す時間を増やすことを強いられている。

しかし、そうした理由だけでは「作ること」に対する敬意が未だに高まらないことを説明できない。作る人々に対する偏見を調べるために、文化をより深く堀り下げてみる必要がある。例えば、アメリカのテレビを見てみよう。医者や警察官や弁護士に関する番組はずっと前から数多くあるが、「メーカー」についてはどうか?シリコンバレーからは、パロディー番組2つと、コメディー番組のThe Big Bang Theoryが生まれたが、いずれもオタクに同情的でかなり面白いものの、最悪のステレオタイプがいじられているように思える。

アメリカのデレビ界は、趣味としての創造性と職業としての創造性を隔てる動かしがたい溝を表している。学校カリキュラムには創造性のための時間があり、教師や教育委員会も肯定的で協力的であるが、その協力は、ひとたび生徒が自分の好きなことを職業にしたいと言うと完全に萎えていく。

信じられないなら、高校の、いや大学のキャリア開発センターに立ち寄ってみるといい。オピニオンリーダーたちは長年にわたり、人々を職種でラベル付けすることを止め「自分の仕事をデザイン」するよう薦めてきた。しかし、それを現実にするための支援を求めると、投資銀行や経営コンサルタント等の職業リストを渡される。

創造性とリスク

未だにわれわれの社会は、何らかのリスクを伴う職業に対して強い偏見を持っている。急激な変化がもたらした経済不安は、職業を選ぶ際の保守性を助長する ― それはまさしく最も革新的になるべき時なのだが。製品を開発し、インターネットのツールを使って売り出すのに今ほど適した時期はないが、経済全般への恐怖が社会を麻痺させ、最も安全な選択肢を推奨させる。

教師が「本物の職業に就け」と言う時、彼らは正にこれを言っている。法曹、会計、そして医療は市場の変動に影響されないことから安全と考えられている。人々は経済の状態によらず病気になり、会社は常に貸借対照表を計算しなければならない。

公正を期して言うと、経済の変化があまりに速いため、インターネットがいかに一部の専門職を破壊したかが、社会的地位に反映されていない。例えば、法曹界は今も自信をもって推奨される職業だが、世界的経済不況以来この業界の労働市場は驚くべき破壊を受けている

物を作るためのツールはもはや高価でなくごく一部の富裕層の手を離れた。誰でも音楽を作り、小説や記事を出版し、ソフトウェアを書くことができる。3Dプリンティングは自分だけの物理的品物を作る障壁さえ下げ、今後さらに安くなることが期待されている。

しかし、われわれはツールを使いやすくはしたが、キャリア形成を簡単にはできていない。クリエイティブ市場のほぼすべては、労働経済学者が言うトーナメント・モデルであり、勝てるチャンスは小さいが、その業種のトップに登りつめれば取り分は膨大である。

国でトップの音楽アーティストは本物の大富豪であり、トップのデザイナーやプログラマーも同様だ。しかし、取り分は適切に分配されておらず、ミュージシャンやゲームデザイナーの中央値の人たちでさえ、自分たちの仕事を職業というより情熱プロジェクトとして受け入れざるを得ないことがある。

認識を変え、リスクを変える

われわれは2通りの方法でこれに取り組まなくてはならない。第一に、どうすれば「メーカー」になれるかを示し、その職種が十分現実的であり、さらには利益を生む可能性があるようなロールモデルを、もっと育成する必要がある。今の経済は変化が著しく古いルールは従来のように適用できない。そうした職業を選ぶことが、学生にとって、さらには親にとっても心地よく感じられる事例が必要だ。

第二に、そして最も重要なのは、そうした職業が直面するリスクへの取り組みだ。われわれはその一部をクラウドファンディングによって実現している。KickstarterやIndiegogo等のサイトを通じて資金を集める手段が提供されている。しかし、長期にわたるリスクを軽減するしくみはまだ作られていない。創造性のために市場の回復力を高めるにはどうすればよいのだろうか? PatreonやBandcampのような、定期購読サービスは理想的な一歩だが、できることはまだ山ほどある。

社会はまだリスクへのアプローチを変えようとしていないが、創造的職業に就くことに対する認識と実際のリスクを変えることはわれわれにもできる。メーカーが「本物の職業ではない」と言われる子供がいてはならない。われわれの経済は、創造性を支援することだけでなく、もっと多くの創造性を必要としている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


体験的イスラエル・スタートアップ論―国全体がスタートアップを盛り立てている

編集部:Omar Téllezは公共交通機関乗り換え案内アプリのMoovit のプレジデント。それ以前はSynchronoss Technlogiesの幹部。

最初にベングリオン国際空港に着いたときのことを私は決して忘れないだろう。

ニューヨークのJFK空港から12時間の長旅の後で入管の行列に並んだときだった。「MoovitのTシャツを着ている人、前へ出てください」と声をかけられた。一瞬私はやっかいごとに巻き込まれたのかと思った。しかし入管の係官は訛りの強い英語で「イスラエルへようこそ! われわれはスタートアップを誇りにしています。世界の人にイスラエルはハイテクのパワーハウスだと知ってもらいたいのです」と言った。係官はパスポートを返し、手を振って私を通らせた。

私は行列に並ぶ時間を1時間は節約できただろう。しかしそれより、入国管理局までもがスタートアップのエコシステムを盛り上げようと努力している国に来たことを知って興奮した。私はMovitのロゴ入りTシャツを着てきたことに感謝した。

イスラエルが「スタートアップ・ネイション」と呼ばれるのは不思議はないと私はタクシーを拾いながら思った。

Uri Levineはシリコンバレーでの親しい友人で、ソーシャルカーナビのWazeのファウンダーだ。「Wazeの公共交通機関バージョンを作ったクレージーな2人組に会いにイスラエルに来ないか」と私を誘ったのがUriだった。UriはそのMoovitというスタートアップの取締役を務めており、国際展開を図ろうとしているところだった。

私もイスラエルがスタートアップの盛んな国だとは知っていたが、イスラエルのハイテク・ベンチャー・キャピタルの規模は人口当たりで世界最大であることは知らなかった。後で知ってさらに驚いたのだが、過去5年間のイスラエルのハイテク・スタートアップのエグジットは980%も成長し、2014年には総額92億ドルにも達していた(MobileyeViber、Wazeなどが大型エグジットの例だ)。

私もイスラエルがスタートアップの盛んな国だとは知っていたが、イスラエルのハイテク・ベンチャー・キャピタルの規模は人口当たりで世界最大であることは知らなかった。

イスラエルのスタートアップと仕事をするのは非常に面白いが、同時に学習曲線もかなり急だ。

仕事をやり遂げる執念、強烈な平等主義と実績主義、文化的民族的背景の多様性などはイスラエルのスタートアップ・エコシステムの大きな長所だろう。

しかしどのエコシステムにしてもそうだが、修整すべき課題も多々ある。たとえば直接的すぎるコミュニケーションのスタイル、他の主要市場と7時間から10時間の時差があること、国内市場の狭さとある種の「島国性」から来る資本調達の困難さなどだ。

一方で明るい発見もあった。イスラエル在住チームとのカンファレンス・コールを何回か繰り返した後、とうとうchutzpah(チュツパ=ずぶとさ、厚かましさ)というイディッシュ語の意味を理解できた。カンファレンス・コール中に外でロケット弾攻撃を警告するサイレンが鳴り、チームはそのつど防空壕に避難して会議を続けた。興味深いのは、イスラエル・チームはこのことを特に大きなリスクとは考えていないことだった。「しなければならないことはするだけだ。これについては以上」というのが彼らの態度のようだった。

私はその後、ニューヨークで数インチの雪が積もっただけで会議がキャンセルされることに我慢がならなくなってきた。なにがあろうとやりぬく精神こそ、NASDAQに70社ものイスラエルの企業が上場されている理由に違いない。ちなみに70社というのはEU、日本、韓国、中国の上場会社を合計したよりも多いのだ。

イスラエル国防軍はこの国に「ものごとをぼやかす」ことを恥とし、同時に権威に対して健全な冷笑を浴びせる精神を植えつけた。プロダクト検討会議で誰かが「こんな馬鹿げたアイディアは見たことも聞いたこともない。最低だ!」と叫ぶのを聞いて息を飲んだり顔を赤くしたりするようでは、彼らといっしょに働くにはチュツパがたりなすぎるというわけだ。

ニューヨークサンフランシスコの会議でプロダクト・マネージャーがそんなことを怒鳴ったらあたりは気まずい沈黙に包まれ、会議は早々にお開きになるだろう。しかしテルアビブでは、こうした反応は大いに歓迎され、ただちにエネルギッシュな議論のジュウジツ試合が始まる。

要はチーム全員が最後により優れたプロダクトを生み出そうとしているのだ。それと、正直に言えば、イスラエルでは単に議論する楽しみのために議論を吹きかけるという傾向もないではない。これはいわば国民的スポーツなのだ。

テルアビブのロスチャイルド通り―地中海沿岸でいちばんトレンディーな地区の一つ―のバーに入ると、この国の多様性を肌で感じることができる。私は半径2メーターで4、5種類の民族的背景の人々によって7ヶ国語が話されているのを聞いた。radius.

It’s no wonder that with over 4,000 startups in the Greater Tel Aviv area, Israel is ranked 1st in the world for innovative capacity in 2014 by the IMD Global Competitiveness Yearbook.

スペイン語、ポルトガル語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語のネーティブ・スピーカーで、頭がよく、勤勉で、テクノロジーに詳しい人々がここにはたくさんいる。たとえば2年以内に45ヵ国の500都市にサービスを拡大したいなどという試みを可能にする人的資源はイスラエル以外ではまず見つかるまい。

だからこそテルアビブ圏に4000社のスタートアップが存在し、2014版のIMD Global Competitiveness Yearbookでイスラエルがイノベーション能力で世界のナンバーワンに位置づけられたのだ。

もっともいくら慣れようとしてもイスラエルに飛んで取締役会に出ようとすると時差ボケだけは治らない。同様に、イスラエルのスタートアップと共同作業する上で時差の問題はコミュニケーションの障害として残る。テルアビブとサンフランシスコ、ニューヨーク、パリ、サンパウロ、マドリッドを結んでテレビ会議を始めようとすればどれかの都市は真夜中にならざるを得ない。議題を事前にきちんと整理しておくこと、Googleハングアウトの操作に慣れておくことが必須だ。

またベンチャーキャピタルについていえば、A、Bラウンドくらいの初期の資金調達は比較的容易だが、それ以後の大型資金調達となると、シリコンバレーを頼る必要が出てくる。

実際Dun & Bradstreetのレポートによれば、運用資産が10億ドル以上のイスラエルのベンチャーキャピタルはPitangoとStar Venturesの2社しかない。しかしSequoiaのようなシリコンバレーの名門ベンチャーキャピタルがイスラエルのHerzliyaにオフィスを構え、現地に積極的に投資していることを知って私は驚いた。 だがシリコンバレーには「われわれはイスラエルのスタートアップには投資しない」というポリシーのベンチャーキャピタルも存在する。

イスラエルへの投資で最大の困難は国内人口がニューヨーク市より少なく、世界展開をしなければ成功が確保できないことだろう。このことはイスラエル国民もよく認識している。いずれにせよイスラエルのスタートアップのやり方は強引で独断と偏見に満ちているかもしれないが、嘘や政治的駆け引きはなく、なにより物事を手早く進める能力では世界の追随を許さないのだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


私はこうしてパテント・トロル(特許ゴロ)を撃退した―みんな立ち上がれ!

編集部: Chris Hullsは家族向けSNSのLife360の共同ファウンダー、CEO

いじめと戦うのは中学でおしまいかと思っていた。大人しくおくてだった私は小さい頃、かっこうのいじめの的だった。しかしある日、敢然と反撃するともう誰からもいじめを受けることはなくなった。それがまた始まったのだ。私はテクノロジー起業家として新たないじめに直面した。パテント・トロル(特許ゴロ)だ。

これは法律の抜け穴を巧みに利用し、他人の成功にたかって生き血を吸おうとする貪欲非道なヒル的存在である。 こいつらは無用ないし無効な特許を盾にとって「ライセンス料」を取り立てようとする。

学校のいじめと同様、たいていの人はいじめを恐れて反撃しない。ほとんどの場合、連中に金を払う方が訴訟より安くつくからだ。

去年の5月、私の会社、Life360が5000万ドルの資金を調達すると同時にパテント・トロルに襲われた。

このケースでわれわれを特許権侵害で訴えてきたのはAdvanced Ground Information Systems Inc.(AGIS)という会社で、最初はパテント・トロルであるかどうかはきりしなかったが、その行動はパテント・トロルそっくりだった。この会社を調べてみるとまともな会社にしてはおかしな点がいろいろ浮かび上がった。LinkedInに登録した社員が一人もいない。本社がフロリダのビーチの家だ。

AGISの主張によれば、地図の上にユーザーの位置をマーカーで表示したり、スマートフォンの位置情報をSNSに利用したりすればすべて彼らの特許の侵害になるという。

給料日に強盗に襲われたようなものだ。それまでにトロルと示談したことはあったが、私はもう黙っていないぞと決意した。いじめに屈すれば、さらなるいじめの標的になるだけだ。背中に「私はカモ」ですというドル印をつけて歩き回るようなものだ。

そこで「金を払うかサービスを停止しろ」という要求に対して私はこう答えた。

クソ野郎どの:

われわれは弁護士と相談しながら問題を調査している。そちらのいう金曜日の最終期日までに金を払うことはできない。弁護士と相談した後で迅速に対応するつもりだ。

今晩のところはあなた方にカルマが報いる〔自業自得の目に遭う〕ことを願っておこう。

クリス

私の言葉づかいはだいぶ過激だったが、意味は明白に通じた。われわれはすぐに連邦裁判所で顔を合わせることになった。連中は和解を望んだが、私は「1ドルたりとも支払う気はない。すべての特許をすべてのスタートアップに対して無料で公開するか、そうでなければわれわれはそちらのすべての特許の無効を申し立てる」と答えた。

AGISはわれわれがブラフをかませているのだろうと思ったらしい。大間違いだ。先週、陪審員が決定を下した。特許権侵害の訴えはすべて退けられた。トロルは死んだ。

トロルとの対決で私は3つの非伝統的戦略を取った。トロルに襲われた会社は参考にしていただきたい。

それで必ず勝てるという保証はできないが、「いいなりに和解金を払うつもりはない」という強いメッセージを伝えることはできる。それがトロルどもにとっては痛いのだ。他のトロルにもあなたが従順な被害者ではいないということを伝えることができる。

情報の公開

パテント・トロルやその後押しをする法律事務所にとって、自分たちの存在や活動が公けにされるぐらい嫌なことはない。だまって金を払ってくれることを望んでいる。われわれはAGIS Inc.とKenyon and Kenyon LLP法律事務所の弁護士、Mark Hannemann、Thomas Makinが陰に隠れることを許さなかった。訴訟の継続中、われわれは有力メディアや業界で影響力のある人々に向けてトロルどもの役割を公表した。

情報と資源の共有

AGISに襲われている他の会社を助けるためにわれわれはAGISの主張を無効にするためにわれわれが収集した情報を公開し、いわば訴訟をオープンソース化した。さらに調達資金が2500万ドル以下で同様の問題でAGISに訴えられている会社に対しては無料で訴訟援助を申し出た。これはAGISの主張に根拠がないことに広く注目を集めさせると同時に、われわれを訴えればトロルの他の訴訟にも悪影響が及ぶことを知らせるのが目的だった。

腹を据えてやり通す

これは正と邪の戦いだ。それだからやりがいがある。正義のために戦っているのだということをしっかり腹に据えておかねばならない。いささかおもはゆい言い方のような気がするかもしれないが、状況が苦しくなってきたときにこの自覚は大きな差を生む。

「訴訟は金が掛かり過ぎる、それより少額で和解した方が得だ」と勧める人もいた。しかしそれはおそろしく近視眼的な見方だ。トロルのいいなりにならず、断固として戦って撃退したという記録は他のトロルに狙われる危険性を大きく下げるのだ。

たしかにコストのかかる対処法ではあるが、われわれの強硬策が正解だった有力な証拠がある。AGISが特許権侵害の訴訟を起こした後、われわれはさらに2件の特許権侵害の通告を受けたが、AGISが壊滅的な敗北を喫したのを見ると、どちらも取り下げられた。

起業家、ベンチャーキャピタリスト、その他テクノロジー・コミュニティーの皆さんにお願いする。どうか和解に逃げないで欲しい。NewEggのLee Cheng、Findthebestの Kevin O’Connor たちに加わり、断固としてノーと言って欲しい。多くの被害者が立って反撃すればいじめはなくなる。テクノロジー・コミュニティーの宿痾ともいうべきパテン・トロルといういじめも同じだ。

画像: EFF Photos/Flickr UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


ベンチャーキャピタルはメディア系スタートアップが嫌いなのか


編集部記: James Brooknerは、Station 12でメディアとエンターテイメント分野を担当するベンチャーキャピタリストだ。彼は、イギリスやヨーロッパのシリーズAやグロース段階の企業を注視している。

「コンテンツを作る人を雇っているなら、ベンチャーキャピタルと話すことはできない」。BuzzFeedのCEOであるJonah Perettiは、このような話とは無縁だろう。彼には、きっと多くのVCが投資したがっていた筈だ。しかし、彼は過去に多くの人からこの台詞を聞かされてきた。2006年にスタートアップの資金調達先を探していたころ、VCを怖じ気づかせるのに「コンテンツ」という単語一つで十分だということに彼は気がついた。

「私たちが事業を始めた頃の投資家は、ジャーナリストや報道、そしてその他のコンテンツを作るプロが関わる、いかなる事業にも投資したがりませんでした」。Perettiは昨年、そう話した。「皆、口を揃えて言うのです。コンテンツを作る人を雇っているなら、ベンチャーキャピタルと話すことはできない、と」。しかし10年近く経った今となっては、状況は大きく変わった。すでに、4回に渡るラウンドで累計4600万ドルを調達し、昨年の夏には、突然VCのAndreessen Horowitzから5000万ドルの出資を受けたことを発表した。

一体何が起きたのか?以前は、コンテンツを主軸としたビジネスにあんなにも消極的だったのに、何が彼らの考えを改めさせたのだろう?最初に彼らが懸念してことから掘り下げよう。Perettiが資金調達を開始してから間もなく理解した通り、当時VCは人をリスクだと捉えていた。コンテンツが主軸のビジネスは、安全な投資だと信じられてきたことへのアンチテーゼだった。一つのソフトウェアを作成し、それをスケールさせれば良いのではなく、コンテンツは人が継続して作らなければならない。一つ制作したら、また次を制作する繰り返しが求められる。

多くのVCにとって、これは馴染みのあるものではなかった。彼らの多くは、コンテンツ、エンターテイメント、メディアビジネスの経験が乏しかったのだ。IntelやPayPalといった巨大なテクノロジー企業を創業して得た利益を元にVCを始めたのなら、彼らの得意分野ではないコンテンツ中心のスタートアップに投資するのを躊躇うのは理解できる話だ。

今では、メディア分野の理解が深まった人が投資家としての機能を果たすようになってきた。これにより、コンテンツにフォーカスした事業の起業家が資金調達を行える良い環境が整ってきた。

世界規模でみると、事例はたくさんある。BuzzFeedのほかには、Vice Media、Contently、NowThis News、Upworthy、Business Insiderや、コンテンツベースのビジネスのホストを行うサービスなどが、近年VCによる大型投資を受けている。ポイントは、コンテンツを消費する人が増え、その影響力が強まったことだ。VCは、プロダクト、デザイン、ハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズムを展開する企業だけでなく、かつては投資を避けてきたコンテンツベースのビジネスの起業家に目を向けるようになった。

スマートフォン、タブレット、コンピューター、テレビがどこでも使えるようになった。それに伴い、動画、オーディオ、文章といったコンテンツがどこからでもアクセスできるようになった。それはスケールするのが簡単になり、それらの価値を高めることにつながった。この時代のコンシューマーは、好きな時に好きなコンテンツにアクセスできることを求めている。この流れに乗るメディア企業(とそれに投資するVC)が利益を生み出し始めている。

少し前までのVCは、コンテンツは既に飽和状態にあり、作るのは簡単だが、オーディエンスを作るのは難しいと考えていた。しかし彼らは気がついた。コンテンツをシェアすることがとても簡単になり、投資家の目に魅力的に映る。同時にそれはコンシューマーがコンテンツの品質の指標となることを意味している。核心となるアイディアが強く、それが正しい形で伝わった時、事業は成功する。

インターネットとデバイスの多様化と浸透により、コンテンツの消費がしやすくなった。これにより、新興メディア企業はニッチなアイディアを世界中にいる特定のターゲットに届けることができ、世界規模のビジネスに発展することができた。例えば、Complex Mediaは、スニーカーとトレーナーの収集、インディーズ音楽といった多様な内容をカバーしている。また、The Dodoは、動物の話だけを特集している。このように、以前までは訴求することが難しいと思われていた内容でも成立するということを示す事例はたくさんある。

VCは、コンテンツ企業の成功はヒット作が出るか否かにかかっていることを示すために、Rovio(Angry Birds)やKing(Candy Crush)といったゲーム開発企業の成功を引き合いに出す。投資家の為にも投資利益を上げるため、B2Bビジネスと比較すると、VCはコンテンツビジネスに対し、ウイナー・テイク・オールの立ち位置を確立できる事業内容を求めることが多い。コンテンツビジネスの成果がB2Bのビジネスより、当たるか当たらないかの賭けに見えるのは事実だが、コンテンツビジネスに投資をして育てることは、コンシューマー向けインターネットビジネスと共通している部分もある。

RovioやKingのような企業は、SnapchatやFacebookのように成長してきた。ヒット作を作り、そのロイヤリティで続ければ良いといった単純な話ではないのだ。製品は継続的なイノベーションと開発を必要とし、素晴らしい価値を提供するプロダクトを作るには、ユーザー視点で製品を作り込んでいかなければならない。そのように考えると、コンテンツビジネスもVCがかつて投資してきたB2C向けの企業とさほど変わらず、VCもその事実に気が付いてきた。

この変化は、VCに限らず大手テクノロジー企業にも見られる。例えば、Netflixだ。彼らは長い間、他の企業が開発したコンテンツを配信してきたが、2011年に、House of Cardsというコンテンツをプロデュース、開発するために資金を投じた。これは、動画配信市場に重要な意味を持つ出来事だ。

注目を集めるコンテンツを作ることは、プラットフォームにとって、ユーザーを獲得して離さず、利益を出すための秘訣として捉えられるようになった。だからAmazon PrimeやNetflixが、自社の番組の開発に乗り出しているのだ。私たちも、イギリスにはコンテンツのプロデュースの成功事例があることから、この分野に着目している。ただ、ここに投資して利益を得るには専門的な知識が必要不可欠だ。

Amazon Prime、Xiaomi、Yahooやその他大勢の企業も、先陣を切った企業に倣い、コンテンツへの開発投資を始めた。彼らにとってそれが有益なら、VCにとっても有益である。コンテンツの重要性は年々増し、コンテンツプロデューサーやアグリゲーターは、テック業界において重要なプレーヤーになった。彼らを追って、VCは知識を付け、流れに追いついてきている。このトレンドが後退する兆候はまだ見られないので、更に多くのVCが参戦することだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook


成功するスタートアップの陰にメンターあり


編集部記: Rhett Morrisは、Endeavorの調査研究を担うEndeavor Insightのディレクターである。Endeavorは強い影響力を持つ世界中の起業家を支援する非営利団体である。

「投資家向けのピッチは最低でも200回は見直しました」先日フォウンダーの一人が私にそう言った。彼女は先月、シードラウンドの資金調達を達成するまで、出資の可能性のありそうな投資家50人以上と面会していた。この話を大げさだと思う人もいるだろうが、このようなことは珍しいことではない。

起業家は、エンジェル投資家やベンチャーキャピタリストから資金調達を行うのに何百時間もかけている。このような活動が会社にとって重要であることは言うまでもないが、スタートアップに関する新しい研究データからすると、ファウンダーは今ままで見落とされていた活動についても時間をかけるべきだということが分かってきた。それは、素晴らしいメンターを探すということだ。このシンプルな戦略は他のどのような戦略よりも成功確率を高める可能性を秘めている。

成功したファウンダーの秘訣を探る

私たちのチームは昨年、テック業界の何千もの企業について研究した。その中でも特にニューヨークのテック企業に注目した。なぜなら今では世界で二番目に大きいテクノロジーのハブ都市になるほど、2003年から2013年におけるニューヨークのテック企業の成長が著しかったからだ。この調査の目的は、ローカルなテック企業が成功した理由を探ることである。

私たちの分析は、CrunchBase、 AngelListとLinkedInから得られた情報を集約し、更に700名近いファウンダーへのインタビューから得られた内容に基づいている。ニューヨークのファウンダーたちは累計で一ヶ月以上もの時間を私たちの調査に費やしてくれた。このようにして集められたデータは、一つの起業家コミュニティーを表す世界最大のデータベースとなった。

スタートアップの成功の秘訣と言われているようなこと、例えば大学に通っている頃から会社を始めるといったことは、その後に目立った違いを生み出してはいなかった。このようなスタートアップに関する迷信についての検証でも興味深い結果が得られた。しかし成功企業とそのファウンダーに見られた行動の検証では、それを上回る面白い発見があった。

起業家のアドバンテージを生むもの

ニューヨークのテック企業の膨大なデータ量で、今までにない分析方法が可能となった。同じ街の同じ分野で同じ年にローンチした企業を「類似グループ」としてまとめた。各グループの中から、下記の条件を一つ以上満たした企業を「トップパフォーフマンス」企業とした。

  • 売却に成功:1億ドル以上でのエグジットを達成
  • 投資家へのアピール:資金調達額が類似グループの上位10%内
  • 内部のスケール具合:従業員の数が類似グループで上位10%内

この条件を一つでも満たした企業は、研究対象となったニューヨークの全テック企業の13%だった。「トップパフォーフマンス」に分類された企業の中には、Gilt Groupe、Huffington Post、 MongoDB、 Shutterstock やTumblrなどがあった。

ニューヨークのテック業界内の成功している企業を分析すると面白いパターンがみつかった。このようなスタートアップを率いている起業家の多くは、他の成功している企業のファウンダーとの個人的なつながりを持っていたのだ。

中でも最も強い影響を持っていたのはメンターの存在だった。例えば高いパフォーマンスを出しているEtsyのChad DickersonやFlatiron HealthのNat Turnerは、成功している起業家であるFlickrのCaterina Fakeや、AppNexusのBrain O’Kelleyをメンターとしていた。

このようなつながりは強力だ。下の図を見てほしい。成功している起業家のメンターがいる場合、それらのテック企業の33%は「トップパフォーマンス」に分類されていた。他のニューヨークに拠点を置くテック企業のパフォーマンスと比べると、その成果は3倍以上だ。

このメンターシップのパターンはニューヨーク以外の起業家でも見られる。Steve Jobsが亡くなったとき、Mark Zuckerburgは、Appleのファウンダーは偉大なメンターであったと話している。DropboxのファウンダーのDrew HoustonとArash Ferdowsiのメンターは、シリコンバレーで成功を手にしたシリアルアントレプレナーのAliとHadi Partoviだ。

メンターの効果は何も起業だけに限らない。他の分野においても、良いメンターに師事した学徒のパフォーマンスが向上することが研究で分かっている。しかし、企業のパフォーマンスを比較すると、適切なメンターがいる場合とそうでない場合の差は歴然であり、スタートアップにとってメンターの価値は非常に高いと言える。

メンターとメンターシップを最大限活かす

Endeavorは、20以上の国で、急成長する企業を率いる1000人もの起業家をサポートしてきた。ファウンダーと投資家をつなぐこと、そして彼らに適切なトレーニングを提供することが主な活動である。それと共に、ファウンダーと経験豊富な起業家や重役を担ってきた人をつなぎ、メンターシップの場を提供してきた。このメンターシップにより、Endeavorネットワークの企業の平均成長率が、年60%以上も向上した。企業のいくつかは上場あるいは、1億ドル以上のエグジットに成功している。

ファウンダーがメンターとの関係を築くために覚えておきたいことが3つある。

ポイント1:メンターのクオリティーが大事。

メンターがいるだけでは充分ではない。あなたの企業を成功させたいなら、そのレベルに到達する方法を知っているメンターが必要だ。既にテック業界で成功を収めたメンターは、若いスタートアップが類似グループの企業より結果が残せる可能性を3倍高める。成功していない、クオリティーの低いメンターの影響は、ずっと低い。

ポイント2:メンターシップの効果は、継続的な関係を築くことで得られる。

私たちのニューヨークの研究では、成功している企業のファウンダーは、3回以上メンターと面会している。私たちの起業家をサポートする事業でも、定期的に会うことが重要なことが分かっている。Endeavorのネットワークに加入した新しいファウンダーには、複数のメンターからなるアドバイザリーボードを付ける。四半期に1度は必ず面会の機会を作るためだ。

ポイント3:素晴らしいメンターには、ビジネスにおける最重要な課題を相談する

メンターの才能を最大限活用することが重要だ。今回の研究でも、ファウンダーは自身の企業で起きている重大な問題についてメンターに相談していた。素晴らしいメンターは、同時に忙しい人でもある。ファウンダーは、メンターの時間と専門分野を最大限に活かし、問題の解決の糸口を探すべきだろう。

さらに詳しい情報については、こちらを見てほしい。ニューヨークのテクノロジーセクターの研究を助けてくれたMike Goodwin、そしてこのプロジェクトにアドバイスをくれたGlobal Entrepreneurship Research Networkのメンバーに感謝いたします。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook


アンチ テクノロジーの波があなたの街に押し寄せる日も近い


最近私は、クローン技術が暴走する内容のOrphan Black というテレビドラマを見ている。人道から外れた科学者たちと、テクノロジーを忌み嫌う信心深い人との対立を描いている番組だ。

テレビ番組やSF小説を真に受けるのは危険なことではあるが、凄まじい速さで進化するテクノロジーに不安を抱く人が増えるのは確実であり、その兆候も既に表れている。テクノロジーに対するスタンスは人それぞれだ。

テクノロジーに不安を抱くのは、それはいつも社会より一歩先を行く存在であること、そして全員が、既にあるテクノロジーを完全には把握できないことが関係している。スマートフォンのマナーや心の中までシェアする潮流に対し、社会的なルールもまだ確立されていない。

運転中にメッセージを送ったり、歩きながら夢中でスマホをいじったり、電車内にも関わらず大声で通話をする人もいる。ミーティングや映画館で着信音を消すことすらできない者もいる。

他には到底許されない行為もある。昨年、ボストンの地下鉄で女性のスカートの中を盗撮した 男が逮捕された。市民は憤ったが、裁判所は男の犯罪行為を裁くことができなかった。今まで起きたことがない問題だったために、この行為を罰する法令がなかったのだ。幸いにも、マサチューセッツ州議会のこの件について早急な対応を行い、新しいテクノロジーに関する条例を制定した。

テックの中心地サンフランシスコを揺らす

アメリカのテクノロジーの中心地、サンフランシスコでは既にテクノロジーへの強い反発が見られている。それはこの動きが他にも広がっていく兆候なのかもしれない。シリコンバレーの高給の仕事を求める知識労働者がこの地に流れ込むほど、家賃は上昇し、高級レストランが乱立した。それらの影響で追い出された人の怒りは募るばかりだ。ついには公共のバス停を使用しているとし、GoogleやFacebookのバスを攻撃する人まで現れた。

アンチテクノロジーという正義の名の元、私の同僚Kyle Russellは、付けていたGoogle Glassをはぎ取らる ということも起きた。

テクノロジーにより変革が起きた業界の人も良い顔をしない。Uberが営業している地域のタクシードライバーはUberに度々抗議 してきた。彼らがUberのドライバーに対し暴力的な行為を働いたこともある。Airbnbのレンタルサービスに関しても、他のテナントや近隣住民から抗議 を受けている。似たような抗議は後を絶たない。

私は先週オースチンでタクシーに乗った。私の仕事がテクノロジー関連のジャーナリストだと知ると、運転手はUberがいかに彼の生活にダメージを与えたかを記事で伝えるべきだと話した。目的地に着くまで彼はUberへの不満を述べていた。彼のコントロールできないテクノロジーの波は、彼の生活に深刻な影響を与えていた。

私たちは理解できないものに恐れを抱く

先週オースチンで行われたアンチロボットの集会をレポートした。この集会が行われた真意については疑義があり、調査した結果、アプリの宣伝を兼ねていたことが分かった。このグループのスポークスマンと話をしたところ、彼が制作したデートアプリに注目を集めるために行ったことは認めたが、同時にアンチロボットの流れがあるということも事実だと語った。

彼らは、テクノロジー、特に人工知能やロボットの分野が急速に発展していることを真剣に憂慮し、その考えを伝えたいとしている。オースチンで行われた人工知能への反発は、Elon Muskの発言に後押しされたとも考えられる。Elon Muskは、 1月に「Keep AI beneficial (人工知能を有益なものに留める)」という名の団体に1000万ドルを寄付している。団体の意図は分からないが、この団体名に触発された人もいるのだろう。

19世紀に織物の仕事が減少したことへの抗議活動として、工業用の機器を破壊していたラッダイトのように、テクノロジーが発展している分野でも同様の反対運動が生まれてくるのかもしれない。

ラッダイトも学んだ通り、私たちはテクノロジーは誰も待ってくれないことを知っている。私たちが何を言おうと、何をしようと、進化し続けるのだ。そして、テクノロジーは私たちの理解を超え、正しい扱い方を学ぶのが後手に回るかもしれない。そうなれば、様々なテクノロジーへの批判が噴出することになるだろう。

テクノロジーに対する反感は既に芽生えている。テクノロジーが私たちの生活に入り込み、私たちの仕事を取って代わり、優秀になればなる程、反対運動も大きくなるだろう。私たちは、テクノロジーの進化と同時に、法律の制定やマナーを浸透させていくことが必要になる。

社会が最終的にこの変化に適応することは間違いない。しかし、私たちがそれのもたらす変化を受け入れる余裕がないほどテクノロジーが冷徹に進化を続けるなら、どこかでそれを解決するまで、反対運動が止むことはないだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook


インターネットでフラット化した世界のこれから


編集部注記: Alec Oxenford は、アメリカでオンラインのグローバル広告掲示板を運営する OLXのファウンダーである。

インターネットは急速に世界をフラットにし、経済における役割も以前とは異なるものとなっている。新興国でのインターネットの普及が進み、それに伴いインターネット関連の起業も相次いでいる。インド、中国、南アメリカ、アフリカでは既に大きく成長したスタートアップが誕生している。Alibabaはその中でも突出している企業ではあるが、他にもこのような企業はたくさんある。

しかし、先進国がこのような企業とそれらが地盤とする新興市場に注意を向けることは少ない。(Alibabaの数ヶ月にも及ぶ大規模な広報活動を持ってしてもだ。)多くの起業家にとってこれは朗報ではあるが、先進国の人はこれを機に目を覚まさなければならない。

AlibabaのIPOで興味深かったのは、予想通りの成功を収めたということもあるが、2014年までアメリカや他の地域でもAlibabaを知る人があまりに少なかったことだ。周知の通り、Alibabaは巨大な企業だ。15年前からビジネスを続け、去年は1日の売上が90億ドルを記録 したこともある。

アメリカでほぼ注目されていない企業が、歴史上最も大きいIPOを行えたのにはどのような背景があったのか?これはきっとAlibabaに限ることではないだろう。Alibabaのような成功は世界のテクノロジーセクターの何を表しているのか?

この質問の根底には、これからこの議論をますます重要なものにする一つの事実がある。それは、モバイルの普及により何万もの人がインターネットを利用できる ようになってきたこと、そしてFacebookのInternet.org のように世界中にインターネットを普及させようとする活動が行われてることで、相対的にアメリカのインターネットにおける存在感が小さくなっているということだ。

国際連合の情報と通信技術の専門機関である国際電気通信連合によると、現在モバイルブロードバンドのサブスクリプション数における新興国が占める割合は55% であり、2008年の20%から激増した。このレポートでは、モバイル端末のサブスクリプション数は、全世界の人口数に迫りつつあるとも報告している。それは一人が複数の端末を所有しているという理由だけではない筈だ。

アメリカは何故これに注目すべきなのか。それは、Alibaba、Tencent、Flipkart、Snapdeal、Baidu、Justdial、Mercadolibreのような企業がアメリカ市場以外の所で誕生し、ここまで成長することができたのは、アメリカの企業が残した市場のチャンスを見逃さなかったからだ。

人口が2億人に迫りつつあるナイジェリアは、 アフリカ最大のテクノロジーの中心地になろうとしている。しかし、不可解なことに、今までを振り返ってもこの急成長中のテクノロジーセクターに投資しているのは10社しかいないという話も聞く。一方で、Uberを見てみると、30以上の投資家の支援を受けている。いかに偏っているかが分かるだろう。

特定の市場にフォーカスし、勢いのある企業は何故アメリカ市場に進出することには積極的でないのか?より良い質問は、何故、他の企業は時間とリソースを投資して、ナイジェリア、インド、ブラジルといった急成長する市場で事業を展開しないのか?このような市場には潜在的な成長の機会も多く、既に発展したアメリカや西ヨーロッパの市場より低い競争率の中で、高い利益が見込める場合が多いだろう。

自国の市場を、例えばバンガロールの市場より理解しているという考えがこのような状況を生んでいるのだろう。確かに、この考え方は自然であるし論理的である。しかし、私は新興市場におけるコンシューマーの動きを観察したり、実際に足を運んだりすることに多くの時間を費やして感じたことがある。それは、良く言われていることでもあるが、私たちコンシューマーの行動は驚くほど似通っているということだ。つまり皆基本的な要因に影響されて行動するのだ。ボストンの人とブエノスアイレスにいる私とでは物事の優先順位は異なるだろう。例えば、サッカーへの関心とかだ。しかし私たちは皆、生活の質を良くしたいという共通した思いがあるのは間違いないだろう。この思いは特にEコマースでのインターネット上の行動の誘因となる。

このような事実は、統一が進む世界の経済とテクノロジーセクターにとってどのような意味を持つのだろうか?インターネットの初期の段階では、AOLやYahooといったweb 1.0を代表するインターネット企業がアメリカ市場を席巻した。インターネットは次第に成熟し、現在はインターネットの第二段階であると言える。ここでは、Facebook、Google、YouTube、Appleが瞬く間に巨大企業へと発展し、初めて真のグローバルなインターネット企業となった。

では、第三段階ではどうなるのだろうか。Alibabaのような多国籍プレイヤーがアメリカのコンシューマーを獲得する為にアメリカ国内の企業と市場を争うようになる日は近いだろう。この動きはまだ進んではいないし、GoolgeやAmazonといったアメリカに地盤を築いている企業と張り合うのは難しいことではある。しかし、今後アメリカを席巻するインターネットプラットフォームが新興市場から生まれる可能性は多いにあるだろう。

インターネットはあなたが思うよりもずっとフラットにチャンスを与えるのだ。

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(翻訳:Nozomi Okuma / facebook


18金のApple Watchは理想的な大馬鹿者発見器

編集部: ケビン・ローズ(Kevin Rose)はDiggのファウンダー、 ベンチャーキャピタリスト、North TechnologiesのCEO であり、ニュース・アグレゲーターWatchvilleの開発者でもある。

私はアナログ腕時計のコレクターで、自他ともに認めるAppleファンだ。そこで私もApple Watch Edition(EditionというのはAppleが発明した「金」という意味のマーケティング用語)を好きになろうと努めた。しかし私にはApple Watch Editonに含有する金の価格(1トロイ・オンスの18金は900ドル程度)以上の価値があるとはどうにも思えないのだ。

テクノロジー愛好家としてもコレクターとしても魅力を感じない。少し詳しく説明してみよう。

テクノロジー愛好家として

テクノロジー愛好家の小切手帳は最新テクノロジーに飛びついたときに流した血で真っ赤だ。

Watch Editionがテクノロジー愛好家にとって魅力的であるためには、もっとハイテクである必要がある。これほど高価なモデルなら、安価なモデルにないセンサーが付加されているとか、ディスプレイがさらに高精細度だとか、コストの関係で大量生産モデルでは実現できなかった機能が採用されているべきだ。そういう付加価値があってこそテクノロジー愛好家は法外な出費を自分に納得させることができる。RetinaディスプレイがMacBookに採用されたとき、われわれがそれに飛びついたのは、画面の美しさそのものよりむしろそれが最新のハイテクだったからだ。

残念ながらWatch Editionにはそういう特長は一切見られない。金側であるという以外、内部は安いモデルと全く同一だ。それで値段は7000ドル高くなっている。

コレクターとして

腕時計のコレクターが求めるのは、語り伝える価値のある職人技のストーリーだ。われわれは何十年にもわたって時を刻む時計を作るために注がれた職人の技を愛する。

こういうストーリーを売る広告としてパテック・フィリップは「あなたはパテック・フィリップを所有するのではありません。あなたはパテック・フィリップを次の世代に伝えるためにその面倒を見るのです」と宣言している。

Apple Watch Editionは次世代まで残るのだろうか?

腕時計コレクターとして私がEdtionを欲しくなるためには、Appleは外部だけでなく内部にももっと洗練された高度な素材と製造技法を用いる必要がある。特に耐久性は重要だ。テクノロジーそのものとして時代遅れになっても、私の孫のために時計としてはきちんと機能してもらいたい。古いiPodのようにクローゼットの隅に放り出されて埃をかぶっているのでは困る。

たとえば、裏蓋も透明なサファイアガラスにして内部を見せるというのもよいだろう。FPJourne Eleganteのデジタル版だ。内部が見えるようにして、そこに特別な機能が組み込まれているのが見えればコレクション価値がアップする。

しかし現在のところ、349ドル版とまったく同じ内部機構の時計が金側になったとたんに1万ドル以上になる。コレクション価値をどこに見い出せばいいのか?

時計師のロジャー・スミスが偉大な時計師、故ジョージ・ダニエルズ博士(同軸エスケープメントの発明者)について語った言葉がコレクション価値について的確に述べている。

「コレクターがダニエルズの腕時計を買うのは、ダニエルズがその時計を完成させるまでに払った努力の歳月だけを買うのではない。コレクターはダニエルズがかくも偉大な時計を作り出す偉大な時計師になるまで払った自己犠牲の積み重ねを買うのだ」

中国で大量生産されたデバイスからそうした偉大な職人技、そのオーラを感じることはない。コレクターズアイテムにはこのオーラが必須だ。.

ゴールド愛好家に売る

Appleはファッションブランドになる必要はない。なるべくたくさんの腕時計が売れるようにすることを目的にすべきだろう。ゴールド(素材ではなく色)はファッション界ではトレンドのようんだ。それならゴールドの腕時計が多くの消費者の手にわたるようなテクノロジーの開発に努力すべきではなかったのか? たとえば「これまでよりも10倍丈夫なゴールド・コーティング」には大きな価値があるだろう。私ならそのアップグレードに500ドルから1000ドル出してもいい。しかし数年もすれば使い捨てになるようなデバイスに18金無垢のケースは要らない。

さて困った。私にはWatch Editionが誰をターゲットにしているのか想像がつかない。

最新のハイテクでもなければコレクターズアイテムとしての価値もないとすると、唯一残された価値は自分には金があると見せびらかすことだけになる。それなら中国の一部では十分な数が売れるのかもしれない( (ヒツジ年だということを忘れずに)。ドバイも市場として思いつく。

しかしそれ以外の地域では、Watch Editionは女優のアナ・ケンドリックがツイートしたような役割しか果たさないのではいかと思う。:

Appleがそういうイメージを喜ぶのかどうか私には謎だ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


Apple Watchイベント前夜。歴史はAppleに味方する


Appleは明日(米国時間3/9)小さな発表を行う。おそらくご存じだろう。それはApple Watchと呼ばれ、明日は大きな一日になる。当然のことながら、過去の製品デビューと同様発表前には様々な噂が飛び交い、どれほど成功するか失敗するかその中間なのかという声が聞こえてくる。。

実は、今の感覚は2010年にiPadが発表された前日とよく似ている。山ほどの憶測が溢れ、多くの人々が(私を含め、と言わねばなるまい)、ポケットの中にiPhoneがあるのに誰がタブレットを必要とするのか疑問を呈した。もちろんみんなが間違い、あのデバイスがコンピューティングを永遠に変えることになることを予言できなかった。

大きなタッチスクリーンからキーボードを取り除いた時、誰も予想しなかったことが起きた。消費者にとって、大きなタッチスクリーンはコンテンツと向き合う新しい方法を提供してくれた。ビジネスにおいては、顧客と話しながらタッチしたりスワイプしたできるので、デバイスは溶けてなくなり、それはノートパソコンではあり得ないことだった。

それはソフトウェアがどう動くかに対する期待さえ変え、消費者向け製品をITシステムで活用する、「コンシューマライゼーション」を促進した。2012年、私はCITEworldでiPadの与えるインパクトについての記事にこう書いた

「このデバイスのエレガンスと使いやすさ ― そして3年以内に1億台以上売れた驚きの人気 ― は、エンタープライズソフトウェアの設計者に、ソフトウェアとの向き合い方を再検討させるに至った」

TechCrunchのMatthew Panzarinoは、Apple Watchが人々の腕にはめられた時、同じ力学が働くと考えている。彼は、Apple Watchがモバイル端末とのつきあい方を変え、スマートフォンは多くの時間、ポケットの中に入れたままになると信じている。不器用にスマホの画面に見入る代わりに、さりげなく腕に一瞥をくれるだけになる。それは、iPadがわれわれの仕事のやり方を変え、iPhoneが携帯電話に対する考え方を変えたのとよく似ている。

NPDによると、Samsungは生まれたばかりのスマートウォッチ市場を支配し、78%の売上シェアを占めている。Pebbleが18%で大差の2位につけている。SmartWatch Groupの報告によると、これはSamsungが80万台、Pebbleが30万台売れた計算になる。

先週Mobile World Congressの会場を歩き回ったとき、多くの電話機メーカーや時計メーカーがスマートウォッチを出しているのを見たが、一般市場の心を把んだものは未だない。これらのテバイスが市場に大きな影響を与えていないのなら、どうしてAppleにそれ以上のことができるのかと言うのが世間一般の通念だ。

TechRadarはこれを、よくできた製品だが誰も必要としないとまで言っている。

たしかにそういう見方もあるだろうが、MP3プレーヤーであれ、スマートフォンであり、タブレットであれ、Appleが何かに注目した時、おそらくわれわれも注目すべきであることを歴史が示している。

Apple Watchがヒットするか外れるかを予測するのは不可能だ。しかし、疑わしきは会社の利益にの原則で考える価値はある。TechCrunchのJohn Biggsは、大胆にも、Appleは最初の1ヵ月で100台を売ると予測した。

私の予測はこうだ。Appleは前四半期だけでiPhoneを7500万台売った。その10%がApple Watchを買うとすれば ― 私はさほど大胆な予想だと考えていない ― Appleは今四半期に750万台のウォッチを売る。

これまで何年にもわたって、われわれは最新デバイスをいち早く手にしようと行列に(時には数日間)並ぶApple信者たちの不条理な行動を目の当たりにしてきた。好奇心だけからでも、あの連中の何パーセントかがこのデバイスを買っても不思議ではない。そしてiPhone市場のサイズを考えれば、それは数百万台に換算される。

Appleもいつかは失敗する、Apple Watchがその時だと嘲笑する人は、もちろんいるだろう。しかし私が思うに、市場におけるAppleの勢いはそれが起きるにはあまりにも大きく、たとえわずかなヒットでも大きな成功になる。今回もAppleの勝利を予想する。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


どうした、Google?

Googleよ、どうした?Androidの売上は落ちている。Chromeは肥大化した大食らいになった。アナリストは君たちのことを新たなMicrosoft、いやもっとひどく新たなYahoo!とまで呼んでいる。そして何にもまして、君たちは我々の信頼を裏切った。今までGoogleは特別な存在だった。少なくともそう信じていた。しかし、今は日々ただの巨大企業になりつつある。

厳しい言い方に聞こえるなら、Zoe Keatingの騒動を見て欲しい:

YouTubeはKeatingに対して、呑むか辞めるかの条件を提示し、そのいくつかを彼女は受け入れられなかった。いくつかの条件は、理解に苦しむものでもあった… 今ー Keatingのブログ記事に続いた公開ディベートの後 ーYouTubeはそれを、Keatingにとって比較的単純な選択だと説明している。… これらの回答は以前YouTubeからKeatingに提示された(そして彼女が書き起こした)契約内容と矛盾しており、契約条件の変更と解釈できる。

最大限好意的に見ても、Googleの著しく紛らわしく高圧的な対話姿勢は責められるべきだ。それは、長年(当然)指摘されてきたことでもある。しかし、Jamie Zawinskiは、こう説明する:

Googleは、Google Plusの時と同じ戦略をとっているように見える。新たなサーヒスを作って実力で競争するかわりに、恣意的に持ち上げて人々にサインアップを強要する。違うのは、今回のケースで強要されているのがエンドユーザーではなく著作権保有者だという点だ(今のところは!)。

企業が図書館の仕事をしても信用するな」という意見もある:

Googleがその過去を捨てるにつれ、インターネット・アーカイブ屋たちが我々の集合記憶の保存に参入してきた… Googleグループは、事実上終わっている … Google News Archivesは終わった … 公共の利益のために過去を保存するプロジェクトは、決して大きな収益事業ではない。かつてのGoogleはそれを知っていても気にする様子はなかった … 過去を保存することへの意欲は、20%自由時間、Google Labs、そして闇雲な実験の精神と共に死んだ。

あるいはVICEが言うように:「検索会社であるGoogleは、自らのインターネットアーカイブの検索を困難にした」。

Googleは2月16日にGTalkを閉鎖し、ユーザーにHangoutsへの切り替えを強制する」:

あの良き時代を覚えているだろうか、10年前、誰もがGoogleのやることすべてを賞賛した頃を。

… おそらく私は、その答えの一つか二つを知っている。

Googleは長年、風変わりな白鳥のような会社だ。外から見れば、10億台のAndroidフォンがYouTubeビデオを再生し、比類なき検索エンジン、さらにはGoogle Xの奇跡と不可能を可能にするプロジェクトの数々、 軍から救い出された,ロボット犬、そしてSpaceX資金調査つラウンドまで、すべてが苦もなく進んでいる。人はこれを最高のGoogleと呼ぶ。しかし、水面下を見ると、巨大な広告マシンが最高のGoogleを賞賛の的へと推し進めるために、水かきを必死にバタつかせてもがいている。これを、悪財のGoogleと呼ぼう。.

あの揚げ足取りのアナリスト連中にとって、悪財のGoogleは未だに巨大な金を生む機械であり、これと最高のGoogleの両方が、何千人もの賢い人々の生計を維持している(情報開示:複数の個人的友人を含む)。私はGoogleが今後直面するヒジネスチャレンジを克服していくことを心から期待してやまない。

しかし、もはや私はこれに関してあまり良い結果を期待していない。

われわれは最高のGoogleを見ることに慣れきってしまったが、最近になって悪財Googleを無視することが益々難しくなってきた。何故か?そんなもの必要なさそうに思えるのに。しかし悪財Googleは、今でも最高のGoogleに資金を送り込んでいるのだ。いったいあの黄金の最盛期のGoogle、われわれの知っている、われわれの愛したGoogleにいったい何が起きたのか。

StratecheryのBen Thompsonの言うことは真実だ:今のGoogleは、90年代のMicrosoftをまさに彷彿とさせる。どちらも、無限の難攻不落の金のなる木を持っていた。しかし、その金を月ロケットに使う代わりに、Microsoftは大いに嫌われる企業捕食者になり、内紛とMicrosoft BobやWindows VIstaといった恐怖のために膨大な時間と金を無駄にした」。なぜGoogleはあの甘い悪の誘惑に乗ってしまったのか?なぜ、マウンテンビューは新たなレドモンドになる危機に瀕しているのか。

Why indeed. It turns out that Google is literally the new Microsoft:
実際何故なのか?要するに、実はGoogleが〈まさしく〉新しいMicrosoftだからだ。

(ここで言っているのは下級エンジニアだけの話ではない。元Google Plus責任者のVic Gundotraが、元Microsoft幹部だったという事実で、大方説明できるだろう)

これは、Googleがなぜ、私が思うに、ゆっくりとしかし確実にわれわれの信頼を失いつつあるかも説明している。昨今、Googleと触れ合うとき、自分が話しているのは最高のGoogleなのか、悪財Googleなのか、それとも、その信念と価値はレドモンドで生まれ、その結果特徴の多くは ー そして内紛も ー 最高のGoogleよりも悪財Googleとよく似ている元Microsoft社員なのか、わからない。

Appleについて何が好きかを話しても、Appleの苦情を延々と述べても、返ってくる内容はいつも想像がつく(豪華なベルベットの手袋に包まれた、優美なチタン製の拳)。しかし最近のGoogleは、聞く耳を持たず、それぞれが個別の倫理観と個性を持つ百の頭のヒドラへと断片化しつつあるように見える。しかし、もし信頼と素晴らしさ ー 「邪悪になるな!」「不可能を可能に」ー がこれほどまでGoogleブランドに浸透していなければ、さほど大きな問題とは感じられなかっただろう ー そのブランドも、私には年々少しづつ色あせて感じるのだが。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


Appleは近々音楽ストリーミングに参入する―しかしSpotifyなどライバルにもチャンスはある

Appleが大規模な音楽ストリーミング事業を準備中であるのは間違いない。TechCrunchのJosh Constine記者も書いていたように、Appleはテイラー・スウィフトの所属するレコードレーベルBig Machineを買収することさえ検討しているようだ。Dr. DreとBeatsを傘下に収めたAppleがストリーミング・ビジネスに参入すればまさにモンスター級の存在となるだろう。それではSpotifyのような既存のプレイヤーは道端に掃き捨てられてしまうのだろうか?

AppleやFacebook、Googleなどの巨人が新しいテクノロジー分野に興味を示すと、既存の小規模な事業者は逃げるしかない―でなければ踏み潰されてしまう、というのがこれまでの常識だった。

今回もライバルはAppleの動きを慎重に見定める必要があることは確かだ。しかしAppleのストリーミング・サービスの市場制覇がすでに保証されているわけではない。Appleのやることだからといってすべてスラムダンクとなりはしない。

私自身、iPhone、iPad、MacBook Airを所有しているが、だからといって自動的にAppleのストリーミング・サービスに乗り換えようとは思わない。私はこの2年ほど毎日potifyを使っている。昨年は月額10ドルでCMなし、聞き放題のサービスを契約した。聞きたい曲がすべて入っているわけではないが、十分多数の楽曲が聞ける。

Appleがはるかに満足度の高いサービスを提供してくれるのでなければわざわざ乗り換える気にはならない。もしAppleがサービスのプラットフォームにiTunesのソフトウェアを使うのであれば、それは大きな足かせになるだろう。iTunesはAppleの音楽サービスのアキレスの踵ともいうべき弱点だ。私自身は避けられるものなら避けたい。

iTunesストアはまた別の話で、すでに私のクレジットカード情報を保管している。しかしiTunesはわれわれが音楽ファイルをいちいち買っていた時代に構築されたプラットフォームだ。Appleはまずこのプラットフォームを「定額制の聞き放題のストリーミング」に改めることを迫られている。Beatsを32億ドルで買収してからかなりの時間が経つが、この投資から最大の利益を上げるためには音楽ストリーミング・ビジネスへの参入を避けるわけにはいかないだろる。.

シェア獲得の筋道

Appleは一度の大胆なキャンペーンに賭けず、何度かにわけたキャンペーンでシェアを獲得しようとするだろう。傘下のBeats、そしてスーパースターのDr. Dreと音楽界の伝説的プロデューサー、ジミー・アイオヴィンの影響力を最大限に活かすだろう。

同時にAppleは膨大なキャッシュにものを言わせて、ミュージシャンに有利な契約を提示し、料金も低く抑えるかもしれない。Beatsのヘッドフォンをストリーミング・サービスと巧みに組み合わせることも考えられる。

当初から成功できなくても、Appleには無尽蔵の資金があるから、サービスを拡充、運営していくことには何の問題もないはずだ。

Pingという大失敗

ただし、Appleが触れるものは常に黄金に変わるというわけではない。数年前にAppleが音楽ソーシャルネットワーク事業を立ち上げたことを読者は記憶しているだろうか? 覚えていないとしてもやむを得ない。そのPingはごく短命で印象に残らない存在だった。Pingは2010年にスティーブ・ジョブズ自身の華々しいプレゼンと共に立ち上げられた

当時TechCrunchの記者だったM.G. Seiglerはこう書いている。

「(Pingは)FacebookとTwitterとiTunesを合わせたような存在だ。ただし、Facebookでもないし、Twitterでもない。Pingは音楽に特化したソーシャルネットワークだ」とジョブズは説明する。その規模は驚くべきものだ。すでに23ヵ国に1億6000万人のユーザーがいる―iPhoneとiPod touchのiTunesストアの一部としてすでにアプリはインストールずみだ。

だがほとんどのユーザーはPingを無視した。2012年9月にPingは死んだ

Appleの膨大なリソースをもってしてもPingは大失敗に終わった。もちろんAppleはこの失敗から多くの教訓を得ただろうし、ストリーミング・ビジネスの参入の際にそうした教訓が役立つことだろう。

Spotifyその他には依然として優位性がある

根本的な問題は、Appleがいかに努力しようと、それはAppleのサービスだという点にある。Spotify等はクロスプラットフォームのサービスだという点に重要な優位性がある。世界のスマートフォンの80%はAndroidなのだ。

Spotifyはレッドツェッペリンやメタリカなどの有力な独占コンテンツを持つ他に、エージェントを介さず直接契約するミュージシャンを最近、多数ひきつけるようになっている。当然ながらこうしたフリー・ミュージシャンは多数のサービスが競争することを望んでいる。

Spotifyは小規模なストリーミング・サービスを買収することで体質強化を図るだろうと私は予想している。Appleという巨人の参入は市場の集中化を進めることになるだろう。

もうひとつ重要なのは、音楽ストリーミング市場は巨大であり、複数のプレイヤーが存在する余地が十分あるという点だ。Appleが独自のストリーミング・サービスを開始したからといって、その分だけライバルのビジネスが奪われるというものではない。モバイル・サービスの市場全体と同様、ストリーミング・サービスも向こう数年にわたって急成長を続けるはずだ。それに忘れてはならないが、複数のサービスと契約する消費者も決して少なくないだろう。

Appleの参入に関連してひとつだけ確実なのは、プレイヤー間の競争が激しくなるということだ。これは消費者にとって大きな利益となる。消費者はコンテンツ、価格、プラットフォームなどさまざまな要素を考慮して好みのサービスを選ぶことができるようになる。

Appleはストリーミング・サービス参入にあたって、Beatsなど有力なリソースを傘下に持っているが、 Pingの失敗が教えるとおり、腕力だけでは成功できない。ユーザーから選ばれるためにはAppleも他のライバル同様、努力を積み重ねていく必要がある。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


これまでの検索は終り、モバイルで新たなスタートを切る

編集部注:本稿のライター、 David Seniorは、Lowdownappのファウンダー・CEO。

Yahooが始めたとき、それはウェブの新しいサイトの階層化されたディレクトリーにすぎなかった ― 「今日のクールなサイト!」というのが実際のところだった。しかし、ウェブの成長はそんなやり方で最新状態を保つことをたちまち不可能にした。数が指数関数的に増えるにつれ、〈今日〉のクールなサイトは、1時間、1分、あるいは1秒のサイトにならざるを得なくなった。

すぐにディレクトリーでは不足になり、検索がやってきた。AltaVista(若い読者は親に聞くこと)等のサイトは、ページに出現する重要なテキストの出現回数に応じてサイトをランクづけした。これはたちまち悪玉SEO第一波の餌食になった ― テキストを詰め込んだページが検索結果の上位に来た。

そしてGoogleは、科学論文における「引用の原則」 ― 多く引用されているものほど重要であるはず ― を採用した。そしてGoogleの質の高い検索結果は初期のウェブを席巻した。その後の歴史はご存じの通りだ。モバイル ― 特にモバイルの近代を迎えるまでは。

今われわれはスマートフォンで殆どの時間をブラウザーではなくアプリで過ごしている。ComScoreの2014年5月モバイルアプリレポートによると、米国ユーザーは60%の時間をモバイルに費し(2013年は50%)、その85%はアプリの中にいることがわかった。

人々はモバイルでも検索する ― しかしComScoreのデータを見ると、任意の月にモバイルでGoogle検索を利用しているのは米国ユーザーの約半分にすぎない。それはモバイルでGoogleが使いにくいからか? もちろん違う。それは、たとえ位置情報があったとしても、Googleの検索エンジンはわれわれが聞くような質問の答を知らないからだ。次の打ち合わせで会う人物の経歴は? 次の打ち合わせまでの時間は? どんなメモを書いてあったか? 最後に会ったのはいつか? 何時に出発しなければならないか? 近くに評判のいいレストランはあるか? あるいは、もしかしたら、このFacebookで集めたイベントには他に誰が来るのか? どうすればわかるのか?

これらは、狭くて奥の深い検索テーマだ。それぞれの答を得るためには山ほど検索しなければならない。しかしアプリはその情報を知っている。これから会う人のことを知りたい? LinkedInを見ればよい ― そしてその会社の詳細は、DueDil等のサイトで見つかる。打ち合わせの場所や所要時間? もちろんマップアプリだ。そこで話す内容は? もちろんあなたのDropboxアカウントに本管された書類の中だ。

現代のスマートフォンに基づく世界において、ウェブ検索をすることは、まるで〈今日のサイト〉を見ているように時代遅れなものに感じる。

代わりに大挙してやってくるのが、ソーシャルグラフ ― ビジネスであれパーソナルであれ ― を利用して、われわれが今まさに必要としている物事に合わせた検索結果をもたらしてくれるスマートアプリだ。

それは検索の新しい形態であり、その出現は遅すぎた。ウェブページのランキングを決める最良の方法が「引用」方式であることが、今になってみれば誰にでもわかるように、今ある山ほどのアプリへの答が、もっとアプリを増やすことではないことはすぐに明らかになるだろう。それは、すべてを取りまとめる単独のアプリ ― われわれの忙しい生活のゲシュタルト的ビューを与えてくれるアプリだ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


マイクロファクトリー:製造業へのインターネット適用は第三の産業革命を起こす

編集部: John B. Rogersはマイクロファクトリー方式で自動車を3Dプリントして製造販売するLocal Motorsの共同ファウンダー、CEO。同社はアリゾナ州チャンドラー、テネシー州 ノックスビル、ネバダ州ラスベガスに所在する。

アメリカの製造業に新たな未来を開く動きが始まっている。

MakerBotTechShopKickstarterのようや会社は、伝統的な産業化による製造業と雇用のモデルと、現在広まりつつあるフラットでネットワーク化した世界における製造と雇用モデルとの乖離を埋めるための重要な架け橋の役割を果たそうとしている。

先進国における製造業の未来を考えるにはその財務、資金調達と実際の製造プロセス、双方の新たなモデルを必要とする。その一つがマイクロファクトリーだ。

われわれの会社、Local Motorsでは、「ローカル企業がビッグになるにはそのローカルをビッグにしなければならない」と言い習わしている。世界でもっとも人口密度が高く、購買力も高い地域で大型のハードウェア製造(家電製品や自動車など)を開始すれば、意味のあるレベルの雇用を提供すると同時に、そのコミュニティーのニーズに迅速に反応しつつ、プロダクトの開発速度を大幅にアップできる。

私は中国で3年過ごし、Foxconnが作り上げた巨大工場について詳しくまなんだ。それ自体が都市であるFoxconn工場では靴箱に入る程度の大きさのものであれば、文字通りありとあらゆる電子製品を製造することができる。製造、保管、出荷のプロセスすべてが簡単だ。しかし、靴箱サイズよりずっと大きいプロダクトを大量生産しようとすると、Foxconnのような便利な施設は少ない。ましてそれに必要な資金を得るチャンネルはほとんどないといってよい。製造に必要なツールも部品も高価であり、流通も難しい。すべてが高いコストがかかり、一つのjミスが命取りとなりかねない。

しかし未来に向けて明るい展望も存在する。われわれは「第三の産業革命」ともいうべき新たなエコシステムの確立に向けて起業家の努力が実を結び始めている.

歴史を振り返る

ジェニー紡績機が蒸気機関と結びついて最初の産業革命が始まった。ジェームズ・ハーグリーブズが紡績機械を発明しなかったら衣類の大量生産は不可能だった。20世紀に入るとヘンリー・フォードが流れ作業による製造ラインを備えた巨大工場を完成させ、複雑な機械の大量生産に道を開いた。.蒸気機関はやがて石油を燃料とする内燃機関に置換えられた。この第二の産業革命はトヨタ自動車のカイゼン・プロセス、つまり組織的かつ絶え間ない品質改善の努力によって完成の域に達した。そしてリーン・マニュファクチャーやシックス・シグマなどの高度な品質管理手法を産みだしている。

われわれが第三の産業革命と呼ぶのは、最近登場し始めた「インターネットを適用されたプロダクト」を指している(いささか使い古された感のある「モノのインターネット」より広い概念だ)。ここで「インターネットの適用」と呼ぶのは、「リアルタイムでの情報へのアクセス」、「産業用製造ツールの低価格化」、「有効な法的保護の提供」の3つの側面を意味している。

ローカルの起業家がグルーバルな巨大企業と同じ土俵で戦えるフラットで分散的な経済が第三の産業革命の特長だ。これを可能にするのは、伝統、慣例にとらわれない柔軟な発想と、そうしたイディアを即時に世界的に共有できるプラットフォームの存在だ。

即時かつ広汎な情報へのアクセス

たとえば私がMakerbotのクラウドソース・ライブラリ、ThingiverseからドアのグロメットのSTLファイルをダウンロードすれば、数時間後には3Dプリンターからその実物が出力され、われわれの自動車のドアに組み付けることができる。われわれのコミュニティーでは常に誰かが新しいアイディアを出して、それが共有されている。GE AppliancesはFirstBuildというマイクロファクトリーを建設した。目的は世界中の才能ある人々のアイディアに対して開かれたハードウェア工場だ。

製造ツールの低価格化

マイクロファクトリー方式のメーカーは高価な産業用ツールを低コストで利用できるようになった。TechShopなどを通じて強力なコンピュータ・パワーと産業用3D プリンターを時間借りできる。Cathedral Leasingなどを通じてリースも可能だ。

またアメリカ・エネルギー省のオークリッジ国立研究所ではORNL Manufacturing Demonstration Facilityという野心的プロジェクトで、研究者と民間企業が共同してスーパーコンピュータにアクセスし、最先端の製造でくのロジーを開発、実証する試みが進んでいる。

製造プロセスのクラウドソース化、資金調達のクラウドファンディング化によって、ハードウェア、ソフトウェアを問わず、製造業にに必要な当初資金は大幅に低下しつつある。

有効な法的保護

現在、アメリカではユーザーが生んだ知的所有権に対するさまざまな保護と調整の仕組みが整備されている。Creative CommonsMITGNU のようなオープンソース・ライセンスはマイクロ・ファクトリーが安心して広汎な既存の知的財産を利用し、改良してさらに共有する道を開いた。

マイクロファクトリー

マイクロファクトリーは、その小さいサイズ、高いアクセス性、必要な資金の少なさという重要な意義を備えている。

靴箱より大きいハードウェアをマイクロファクトリー方式で製造するなら、その成功の可能性は高い。なぜならデザインのクラウドソースと3Dプリンターを駆使するマイクロファクトリーはアイディアを形にするスピードが伝統的メーカーより格段に速いからだ。

クラウドソースは、即座に世界中の能力ある人々の知恵を借りることを可能にする。クラウドソーシングを理由すればエンジニアリング上のどんな難問でもきわめて短時間で解決可能だ。3Dプリンターは製造過程を高速化するだけでなく素材の利用効率が高く、結果的に無駄を出さない。これよって製造に必要なスペース、原材料が大幅に削減され、事業立ち上げのための資金も少なくてすむ。

マイクロファクトリーは伝統的製造業に比べて効率的なので環境負荷も低く抑えられる。消費地に接近しているため輸送、流通のコストも小さく、消費者の反応を即座に感じとって製品改良に活かすことができる。.

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


デジタル配信が、インディーズ映画の観客を変える


編集部注:David Larkinは、映画の検索・キューサービスで映画マーケティング、分析のプラットフォームでもある、GoWatchit.comのファウンダー・CEO。The Sundance Instituteのパートナーも務める。

自己表現を奨励するカルチャー、低利息の余剰資産を大量に生みだす経済、ムーアの法則のように1ドル当たり性能が改善される生産技術、デジタルメディアのオンデマンド配信の普及、文系卒業生の慢性的就職難。以上を組み合わせると何が起きるか。映画の本数が増える

Sundance映画祭には、毎年約4000作品の応募があるが、上演枠は120ほどしかない。短編映画はさらに狭き門だ。2014年、短編の候補作品は2倍以上あったのに、選出されたのは半数だった。

その120本の中には、多くの注目を集める作品もある。今年のアカデミー賞候補、BoyhoodWhiplashはSundanceで初上映された。

初めて映画を作る者にとっては、上映される作品数の少なさだけでなく、“Sundance Kid”本人(ロバート・レッドフォード)がいる会場で、誰かに注目されることの難しさという意味でも、激しい競争に曝される。

よって、友達や家族に映画を作りたいと言って金を借りようとすれば、必然的にこう聞かれる。「そもそも誰があなたの作ったインディー映画を見に行くの?」

元気を出してほしい、勝算はある。Sundance Instituteは、映画と観衆をつなぐ手助けをしている。その一環として、昨年の長編映画全作品を追跡した、Sundance class of 2014を作った。

Liam Bolukは、デジタル技術の普及がいかに映画業界の経済をひっくり返したかを分析した。過渡期のどの産業とも同じように、新しいプレーヤーが出現しつつある。

RADiUS-TWCThe OrchardAmplify、およびBroadgreenといった会社は、伝統的コスト構造や組織図に縛られていない ― そしてデジタルツールを巧みに使って観衆を集めている。そしてSundance InstituteのJoseph Beyer、Chris Horton、およびMissy Laney率いるアーティストサービスプログラムは、映画製作者が配給計画を立て、実行するための強力な社内リソースを構成した。

より多くの映画が配給されるようになった ― ただし、それを喜ばない人々もいる。

映画製作は、芸術とビジネスの奇妙な融合であり、それぞれの映画は芸術作品になることを熱望するビジネスであると同時に、ビジネスになることを願う芸術作品である。

Sundanceでは、芸術性が強調され、それはあるべき姿である。

この精神に基づき、われわれの関心事は映画がどれだけ稼いだかではなく ― 大成功したものもあるが ― 作られた映画の何本が見られたかにある。

その答は? 殆どだ。

*データ提供元:GoWatchIt

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


ネット中立性問題、ショートメッセージ(SMS)も巻き込む


編集部注:Nic Denholmは、SMSマーケティング・プラットフォーム、FireTextのコンテンツ・コンサルタント。

インターネットの中立性は、昨年のIT業界で最大の話題の一つだった。ジョン・オリバーはこれを茶化して、FCCのコメント欄を二階層インターネットへの反対意見で埋め尽くすよう嘆願した(その結果サイトはクラッシュした)。

これまでのところ議論の焦点は、ISP[インターネットプロバイダー]が、配信するデータの種類によって扱いに差をつけることが許されるかどうかだ。ネット階層化への主な反対者は、Netflix、YouTubeといった、大量のリッチコンテンツをユーザーに配信している会社で、料金を値上げしたり(前者の場合)、広告を増やしたり(後者の場合)したくない。

当然のことながら視聴者は彼らの側につき、ブロードバンド業者や一部の自由主義政治家らを相手取って、この〈必然的〉負けいくさを戦っている。「必然的」と言ったのは、民衆の大多数が反対してもなお、ISPはすべてのトラフィックを平等に扱わなくてはならないとする以前の裁定を、上級裁判所がくつがえすには不足だからだ。

こうした注目にもかかわらず、アメリカ人の大部分は「ネット中立性」が何を意味するのか皆目見当がついていない。最近のPewの調査によると、アメリカ人の40%は、その概念を理解していないか、全く聞いたこともないという。

「中立性」と「SMS」の関係となると、理解している人はいっそう少ない。マサチューセッツ州ケンブリッジで企業向けテキストメッセージサービを提供するHeyWire Businessは、その関係を思いがけない形で知ることとなった。昨年の4月3日まで、HeyWireは企業がフリーダイアルでテキストメッセージを受け取るサービスを楽しく提供していた。そしてそのすべてが止まった。エラーメッセージも、警告もなく ― ただ何千というテキストが宛先に届かなかった。

Verizonに問い合わせたところ、テキストメッセージの配信を続けたければ、新たな料金体系と規則に従う必要があることを伝えられた。HeyWireは、Verizonが同社の運用形態に対して不公正な制御 ― 同社は「ネット中立性」に反すると考えている ― をしていると主張している

現時点で、ネット中立性に全く関心のない1億2500万人のアメリカ人たちは、それ以上関心を持ちそうにない。それは複雑である。複雑なものは退屈である。それを踏まえつつ、なぜSMSとブロードバンドの提供が、十把一からげになってしまったかを簡単に説明する。

基本的に、モバイルサービスは2つの要素にわけられる。音声通話とインターネットだ。音声部分は1934年の通信法によって保護されている。インターネット関係サービスはそうではない。ユーザーからより多くの金を引き出すために、サービスプロバイダーはSMSをインターネットの旗の下に置くことにした。可能だったからだ。

キャリアはテキストメッセージを、事実上思い通りの値段で売る権利を有している。これは法外な料金を課すことができるだけでなく、ユーザーが見るコンテンツを取り締ることもできることを意味している。これが中立性推進者を心配させている。

現在FCCは、ネット中立性規制を、家庭およびビジネスブロードバンドに適用することを考えている。民主党議員らは、付加料金を支払った者を優先的に扱う有料優先化を禁止する法案を推進している。決議は2月26日に行われる。公正でオープンなインターネットを擁護する人たちは、大型キャリアが顧客を踏みつけにすることを防ぐ結果を望んでいる。

HeyWire等の会社に経験を踏まえれば、テキストメッセージングも大義に加えられるべきだ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


デジタル時代の「記憶喪失」に備えよう

編集部注本稿執筆者のKevin SkobacはSS+KのDigital Strategy and Innovation部門のシニアバイスプレジデントであり、またインハウスでインキュベーションを担当するSS+K Labsの共同ファウンダーでもある。

私たちは、何年にもわたって「デジタルメディア革命」とでもいうべきものの波に乗っかって過ごしてきた。多くのイノベーションが生まれたし、かつてはできなかったことができるようになった。消費の楽しみや創造の楽しみも味わうことができた。面白いことが次々に生まれ、テック時代の楽しさがさまざまに提示されてきた。私たちは、こうした流れがいったいどういう現実に繋がるのかを考えることもなく、敢えて言えば流されつつ過ごしてきた。そして、いつの間にか思いもよらなかった現実を受け入れざるを得ないような時代になってしまいつつあるようなのだ。

たとえば「写真」が被った変化を考えてみよう。カメラがデジタル化することにより、私たちの撮る写真は十枚単位から百枚単位に増えることとなった。さらにスマートフォンに高性能カメラが搭載されるようになり、撮影枚数は年間で千枚単位にも増加した。

毎日写真を撮り続け、そしてGoogleに自動でバックアップしたり、あるいはInstagramやFacebookのタイムラインに投稿したりもする。但し投稿した写真を振り返るような機会は減りつつあるように思う。そして写真は千枚単位から万枚単位で溜まっていくこととなる。私についてみても、Google+には今日までに68000枚の写真がアーカイブされている。

自動でバックアップできることにより、写真を「整理」したり「印刷」しておくような必要性もなくなった。但し、昔に撮影した写真(お気に入りの家族スナップなど)を探しだすのが、とてもむずかしくなってしまったように思うのだ。デジタル時代になり、「干し草の山の中から針を探す」(look for a needle in a haystack)ことが一層難しくなったのではなかろうか。

確かに「どこか」に保存してあるはずなのだ。しかしそれを見つけ出すための手段がない。整理のためのメタデータを付しておいたにしても、そもそもどこにその情報を保管しているのかがわからなくなってしまうのだ。Google+や、その他のすばらしい自動バックアップサービスの便利さはあるにしても、あるいはそれがためにむしろ、自分の判断による、意図的な取り扱いというものが重要になってきているのではなかろうか。

写真以外のものについても、さらにひどい状況に陥りつつあるように思う。多くの人は日々の日記やメモをジオシティーズやLive Journal、あるいはブログないしTwitter/Facebookに移管した。そのおかげでより細かい事象を記録に残すようにもなった。ただ、そうした記録がいろいろな場所/記事に分割されることとなり、自らの情報であるにも関わらず、制御不能といった状況になっている面もあるようなのだ。

さらにFacebookやTwitterで、これまでに投稿した記事の全体的検索ができるようになったのもつい最近のことだ。それまではそこにあることがわかっていながらも探しだすことが難しかった。さらに、いろいろな情報を記録しておいたサイトが消滅したりすることも、「チャレンジ」を旨とするスタートアップカルチャーの中では日常茶飯事だ。

もちろんそうした状況をなんとかしようとするサービスも生まれてきている。たとえばInternet Archiveなどは非常に面白いサービスを提供していると言えるだろう。いったんウェブ上に公開されたものの、いつの間にか停止されてしまったようなサイトの情報などを、利益度外視でライブラリ化しようとするサービスだ。

あるいはTimehopなども、過去に投稿したコンテンツを掘り起こして、既に記憶のかなたに去ってしまった出来事を思い出させてくれるサービスとして人気を集めている。1年前から5年前までにソーシャルネットワークに投稿したコンテンツを、テキスト版のダイジェストとして通知っしてくれるのだ。

しかし、さまざまなサービスに投稿したコンテンツは、それぞれサービス運営企業の今後次第によってどうなるかはわからないわけで、特定のサービスにコンテンツ管理を任せるというのはあり得ない選択肢だ。自ら投稿したコンテンツについては自ら管理していくことが必要だ。それがすなわち自らのアイデンティティを守ることにつながる。

まず必要なのは、十分に信頼できるサービスにコンテンツをバックアップしておくというのが、最初の第一歩だ。そのためには、たとえばIFTTTが大いに役立つことだろう。ソーシャルネットワークに何か投稿するたびに、そのコンテンツをどこかにバックアップするというシステムを構築することができる。

MediumQuoraといったサービスが流行していて多くの人が使っているが、そうした場合も自らホスティングするサーバーにコンテンツをバックアップしておくというのが、商用サービスの運命に依存しないためのひとつの方法だろう。

デジタル革命は、私たちに多くのメリットをもたらしてくれた。過去とは比較にならないレベルで、さまざまなコンテンツを作成したり消費したりすることができるようになった。あるいは、そのコンテンツに対して双方向で働きかけることも容易になっている。さらに、デジタルなデータが「永遠」に残るような感じを持っている人も多いことと思う。しかし徐々に欠点も見えつつある。デジタルを信頼するあまり、大切なデータがあっという間に消え去ってしまうような悲劇にも遭遇するようになった。私たちは、私たちの記録を自身で管理するための、何らかの手法を確立すべきときにきていると思うのだ。

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(翻訳:Maeda, H


2015年、教師は生徒のスマホ中毒を受け入れる


編集部注:Joe Mathewsonは、学習プラットフォーム、Fireflyを14歳の時に設立した。

昨今の教育技術の躍進は目覚しい。EverspringUdemyといった企業への多額の投資もあった2014年は、教育テクノロジーにとって最大の年だったと言えるだろう。しかし、本当にすごいことが起きるのはこれからだ。2015年には、このめまぐるしい分野に何がおこるのだろう?

テクノロジーが教室の一部になる

もちろん教室には何十年も前からパソコンが導入されているが、2014年には、多くの学校が教育と学習の一部として、ごく自然に取り入れるようになった。多くの学校が様々な製品やサービスを試行するにつれ、教師や生徒たちはテクノロジーの可能性への関心を高めていった。

次の年は、各教育機関が意志を統一して、今後数年間の導入方針を固めるときだ。そうすれば、テクノロジーは学習プロセスを補足するものではなく、教育の本質的な部分になっていくだろう。

クラウドが真価を発揮する

クラウドベースのテクノロジーは急速に普及している。しかし、教育分野はこの機会を利用することに関して他の分野に遅れをとっている。今年は、教育関係者がようやくその潜在力を活用しはじめるだろう。文書の保管、ウェブメールの管理、その他クラウドベースの学習管理システムを始めとする教室に特化したサービスが利用され始める。学校自身が予算を管理するようになり、自治体が予算削減を図るようになれば、多くの学校がクラウドソリューションへと移行していくだろう。これによって大幅に出費が軽減され、学校はテクノロジーよりも教育に専念できるようになる。

高まる要求

多くの教育者が、つながった教室のためのテクノロジーを使うようになると、より一層洗練されたソリューションへの要求が高まってくる。

実際、多くの教師は日常生活で、極めて効果的だが容易に使えるウェブツールに慣れている。今後彼らは、学校でも同じ環境の導入を訴え、教育を既成の消費者向け製品に無理やりあてがうことを拒むようになる。

生徒の携帯電話は禁止ではなく受け入れる

スマートフォンは、人々の交流のしかたを根本的に変えた。最近の調査によると、多くの人々が1日に100回あまりメールをチェックしているという。教師たちは若者たちの行動様式を認識しているが、この波に逆らうことは不毛であり、生徒たちがこれほど感情移入している道具の使用を禁止することは、逆効果である。

英国で行われた教室内で生徒にモバイル端末を与える実験によると、彼らの学習意欲、集中度、成績は向上した。今後同様の結果が増えてくれば、より多くの教師が、モバイル機器を禁止するのではなく活用するようになるだろう。

キュレーションが重要になる

英国のニック・ギブ教育大臣は最近、学校における教科書の「ルネサンス」を提唱した。たしかにインターネットは、紙の書物に対して厳しい戦いを仕掛けており、動きの早い分野に関する最新情報を届けている。しかし私は、この結果何十年にもわたって書物が提供してきた編集や 情報収集の重要性が見直されるだろうと考えている。

優れた編集者の権威は、生徒がどのコンテンツを信じるべきかの判断を助ける。 溢れかえる情報が生徒たちを溺れさせようとする2015年には、一つの真実が決定的な意味を持つことを、多くの人々が認識するだろう。これは、印刷書物の復活を意味するのではなく、デジタルで提供される知識に対する新たな敬意の発見である。

親はテクノロジーで子供の情熱を補う

親は子供の学習や発達の進展を、オンラインで見ることを要求しつつある。2015年の熱心な親たちは、学習、研究、そして宿題に役立つあらゆる教育テクノロジーを知り、利用することに専心するだろう。。

しかしテクノロジーの導入は、子供たちが心から魅せられる方法でなされることが重要だ。このためには、子供たちが何に最も関心があるか ー プログラミングであれ詩であれ ー を見極め、その関心事を見るための新しいレンズを与え、想像をかきたてるコンテンツを探求させることが何よりの方法だろう。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


ディズニーやナイキに見る、大企業がアクセラレータで成功するためのキーワード

編集部注:この原稿はScrum Venturesの宮田拓弥氏による寄稿である。宮田氏は日本と米国でソフトウェア、モバイルなどのスタートアップを複数起業。2009年ミクシィのアライアンス担当役員に就任し、その後 mixi America CEO を務める。2013年にScrum Venturesを設立。サンフランシスコをベースに、シリコンバレーのスタートアップへの投資、アジア市場への参入支援を行っている。

Disney Acceleratorのデモデー(筆者撮影)

 
「部長、そろそろうちの会社もアクセラレータを始めた方がいいんじゃないでしょうか?」

こうした会話が世界中で行われているのではないかと思うくらい、さまざまな大企業がアクセラレータを始めた、もしくは計画しているという話を耳にする。事実、企業が主体となって行うベンチャーキャピタル、いわゆるCVC (Corporate Venture Capital)の規模は近年拡大を続けており、米国では2014年の3Qに過去最大の投資額(9億9360万ドル)となり、スタートアップへの投資額全体の10%にも達している。スタートアップが生み出すイノベーションを取り込もうと多くの大企業が必死に取り組んでいる様子が伺える。

私は、アーリーステージのベンチャーキャピタルとして、そのソーシング(投資先企業の発掘)の一環として、毎月1つか2つのアクセラレータのデモデー(支援企業の発表会)に参加をしている。その経験から、本稿では大企業が運営するアクセラレータの「トレンド」、そしてその「成功のキーワード」をご紹介したい。

ディズニーからナイキまで

日本では、携帯キャリアのKDDIが2011年からいち早くアクセラレータに取り組んでいるが、近年でもNTTドコモや学研、オムロンなど、新たにアクセラレータをスタートするというニュースも多い。

一方、米国では昨年くらいから大企業によるアクセラレータの動きが加速している。ディズニー、マイクロソフト、スプリント、ナイキ、クアルコム、カプラン、RGAなど様々な業種、業態の大企業が争うようにアクセラレータの運営を開始している。

「総花型」から「特化型」へ

2005年に設立され、DropboxやAirbnbなどを生み出したY-Combinatorに代表される「アクセラレータ」という業種であるが、元々は「テクノロジースタートアップ全般」を対象にするアクセラレータが多かった。その後、雨後のタケノコのようにアクセラレータそのものの数が増えたことと、テクノロジースタートアップがカバーする領域が非常に多様化したことなどを背景として、ここ数年は「特化型」のアクセラレータが増加している。具体的にはヘルスケアに特化したRockHealth 、教育に特化したImagine K-12、エンタープライズに特化したAlchemist、IoTに特化したLemnos Labsなどがある。総花的なアクセラレータはすでに淘汰が急速に始まっており、今後この「特化型」のトレンドはさらに進行していくものと考えている。

「アクセラレータ支援企業」の存在

冒頭にも述べたように多くの大企業でアクセラレータの展開が検討されている状況であるが、そこで問題となるのが「どうやって運営するのか?」という点だ。ディズニーやクアルコムにそう言う人材が最初からいたのか? それとも、新たに採用したのか?

そういうした大企業の悩みに答えているのが、「アクセラレータ支援企業」の存在だ。

米国で代表的な「アクセラレータ支援企業」は、コロラド州ボルダーに本拠を置くTechStarsだ。ナイキやディズニーなど、近年成功を収めている大企業アクセラレータの多くはTechStarsが仕掛けたものだ。TechStarsは2006年に、Y-Combinatorなどと同様に専業アクセラレータとしてスタートしたが、近年支援事業に力を入れている。

TechStarsの支援内容は非常に幅広く、基本的にアクセラレータ運営に必要な業務のすべてを担ってくれる。必要となる予算はかなり大きいと聞いているが、ウェブサイトの構築・運用、支援先企業の募集、審査、メンタリング、デモデー運営など通常3カ月の運営期間に必要な作業のほとんどがマニュアル化されている。ウン億円を支払ってTechStarsとパートナーシップを組めば、どんな大企業でもすぐにアクセラレータをスタートできるというわけだ。日本では、私がアドバイザーを務めるアーキタイプ社などが同様のサービスを提供している。

成功のための「3つのキーワード」

最後に、数多くの大企業によるアクセラレータを見て来た立場から、成功のためのキーワードを3つご紹介したい。

①「アセットへのアクセス」

数多くのアクセラレータがある中で、成功した先輩起業家が運営するアクセラレータでなく、なぜ大企業を選ぶのか?そのシンプルな答えは、スタートアップにはない、数多くの既存アセット(資産)が大企業にあるからだ。それは、販売チャネル、コンテンツ、ブランド、キャラクター、技術、特許、人材、設備など、企業によって様々だ。

今年、ディズニーがスタートしたアクセラレータ、「Disney Accelerator」は、ディズニーが持つ様々なキャラクターやコンテンツを、採択企業が自由に使ってよいと謳ったことで話題となった。実際に、デモデーでは、多くのキャラクターやディズニーランドなど、スタートアップであれば誰もが実現したいと思えるパートナーシップがすでに実現していた。

「自分たちがもつどんなアセットがスタートアップにとって魅力的か?」そこからアクセラレータの検討を始めてもいいのかもしれない。

②「トップのコミットメント」

アクセラレータやCVCなどは、新規事業の一環として一部の部署が主導して行われることも多いと思う。しかしながら、それでは会社全体でその重要性が理解されず、うまくいかないことも多い。一方で、最近はCEOや経営陣が自らアクセラレータにコミットし、積極的にスタートアップのイノベーションを取り込もうとする例を見かける。

例えば、昨年スタートした広告代理店、RGAによるIoT特化型のアクセラレータ、RGA Acceleratorでは、CEO自らがデモデーのオープニングに登場し、趣旨や意気込みを説明していた。「スタートアップのイノベーションを本気で取り込む」という外側に向けての強いメッセージになると同時に、前述の「アセットへのアクセス」という大企業としてはなかなか難しいテーマも、トップもコミットして進めることで実現が可能になるという側面もあるのかもしれない。

RGA Acceleratorのデモデー(筆者撮影)

③「レイターステージ」

通常、アクセラレータというと「創業間もないスタートアップ」を対象にすることが多い。だが最近は、Y-CombinatorがQ&A大手のQuaraをバッチに加えたり、Disney Accleratorでもすでに大きな実績のあるロボットの企業、Spheroなどがバッチに加わっていた。

アクセラレータの意義の一つは、まだ形になっていない新しいアイディアを3カ月という短期間でものにするというものであるが、当然うまくいかないことも多い。一方で、すでに実績のあるレイターステージの企業であれば、そうしたリスクもなく、大企業側のアセットを提供することで大きな成果も期待できる。つまり、最初からパートナーシップとしての成果を狙いながらバッチに加えるという訳だ。こうしたパートナーシップドリブンのアクセラレータというのも、大企業が主導する形としては今後増えて行く形態のような気がしている。

大企業のイノベーションにスタートアップとの連携は不可避

私はサンフランシスコを中心に投資活動を行っているが、ニューヨークやロスアンゼルスにも多くの投資先企業がおり、非常に重要視している。それはサンフランシスコに限らず、かつて大企業に行っていたような優秀な人材がこぞってスタートアップをスタートしているからであり、その流れは加速することはあっても逆戻りすることはないと感じているからである。

「うちの社内の技術の方が優れている」
「そんなの社内で同じことできるじゃないか」
「うちの事業と競合するかもしれない」

大企業の中でスタートアップとの取り組みにはまだまだ反対意見も多いかもしれない。ただ、今後の大企業のイノベーションにはスタートアップとの連携は不可避だ。ぜひ、御社でも経営陣を巻き込み、スタートアップのイノベーションを取り込む活動をスタートしてはいかがだろうか? 本稿が少しでも参考になれば幸いである。


エンタープライズ・インターネット、2015年のトレンド、トップ10

編集部:この記事の執筆者、Alison Wagonfeld はEmergence Capitalのオペレーティング・パートナー

われわれのEmergence Capitalは、ファウンダー、マーク・ベニオフ、デビッド・サックスといったビジョナリーを通じて、Salesforce.comやYammerのような画期的なエンタープライズ・クラウド・サービスに投資するチャンスを得てきた。こうしたサービスは世界中で次世代のビジネスのインフラを作っている。2015年が近づいてきたのを機会に、われわれが投資を考えているエンタープライズ・ソフトウェアの最新のトレンドのトップ10をご紹介しよう。

未来を予測するにあたって、Emergenceでは5人のパートナー、Gordon RitterJason GreenBrian JacobsKevin SpainSanti Subotovskyが長時間のディスカッションを行った。

1. 垂直に特化した特定業種向けクラウド・アプリケーション(インダストリー・クラウド)が普及する

この10年間、ソフトウェアが汎用化(水平化)を進めてきた。Salesforce,、Yammer、Boxなど、すべて業種を問わずに利用できる。これに対してわれわれは次の10年は特定の業種の特定の課題を解決することに特化する「垂直化」、あるいはインダストリー・クラウドが進むと考えている。

2. 企業は有料のエンタープライズ・モバイル・アプリを利用し始める

Appleが口火を切ったスマートフォン革命によって、モバイル・コンピューティングがビジネス分野にも広く利用されるようになった。しかし現在のモバイル・アプリにはまだビジネス・ユースのためには欠けている部分が多い。

われわれのゼネラル・パートナー、Kevin Spainは最近開催されたエンタープライズ・モバイル・フォーラムで次のように述べた。「世界に非デスクワークの労働者が25億人も存在する。これらの人々にモバイル・ビジネス・ネットワークを提供するのは巨大なチャンスだ。ユーザー1人あたり年40ドルの売上があれば新たな1000億ドル市場が誕生する。2015年にはモバイル・ビジネス・アプリケーション市場の売上が急速に伸びると予想する」。

3. コンシューマー向けテクノロジーが引き続きエンタープライズに越境してくる

われわれはコンシューマ向けサービスとエンタープライズ・サービスの融合を図るのを得意としている(たとえばFacebook -> Yammer)。ゼネラル・パートナーのJason Greenはこの傾向が2015には一層加速すると考えている。「エンタープライズ・テクノロジーはコンシューマ向け分野で起きているイノベーションに遅れを取らないよう努力しなければならない。Facebookも新しいビジネス向けプロダクト、Facebook@Workをテスト中だ。ウェアラブルデバイスの一部もビジネス利用が始まるだろう。私はiPadがタブレットのビジネス化に果たしたのと同じような役割をApple Watchがスマートウォッチの世界で果たすのではないかと考えている」。

4. IoT〔モノのインターネット〕は標準化が進み、コンシューマ、ビジネス両分野で実用化が本格化する

エンタープライズIoTの潜在市場は巨大だ。 ゼネラル・パートナーのBrian Jacobsはこの分野でも2015年に大きな進展があると見ている。「1年後には、納得性の高いユースケースが実現しているだろう。キラー・アプリの登場と共に普及は急速化する」。別のゼネラル・パートナー、Kevin Spainは「ドローンや各種の無人機(UAV)とセンサー・テクノロジーがエンタープライズ市場にも導入されるだろう。これによって農業、電力などの社会インフラ、不動産など、従来データ収集をきわめて高価で時間のかか航空機に頼っていた業界にイノベーションが起きる」。

Google Glassはまだコンシューマ製品としてはブレークしていないが、2015年には産業用途で数多くの有力な応用が生まれるだろう。特に医療分野が注目だ。患者を診察、処置中の医師はひんぱんに両手がふさがった状態でさまざまなデータにアクセスする必要がある。ゼネラル・パートナーのKevin Spainは「Google Glassでカルテを見られるAugmedixを利用した医師は口をそろえてこれなしではやっていけないと語っている。医師たちはカルテ処理の効率化で日に2時間も節約でき、その時間を患者の診察に向けられるようになった」

6. Bitcoinにも効果的なユースケースが現れ、アメリカ国外にも普及し始める

パートナーのSanti Subotovskyは「2015年はBitcoinにとって大きな転機となる。すでに基本的インフラは整備されている。2015年にはBitcoinをプラットフォームとして多くのアプリが開発されるだろう。アメリカ以外の国でも何百人もの起業家がBitcoinアプリの開発に取り組んでいる。2015年にはその中からキラー・アプリが登場するだろう」考えている。

7. 「UIなし」の生産性ツールへの第一歩

ゼネラル・パートナーのGordon Ritterは「伝統的な意味でのユーザー・インタフェースは次第に背景に消えていくだろう」と考えている。「われわれがデータを入力するためにキーを叩いたりタップしたりしている時間は無駄に使われている時間だ。生産性ツールが本当に生産性を高めるためには入力方法のイノベーションが必要だ。最小限の時間と労力で最大限のデータを正確に入力できるテクノロジーが必要だ。2015年にはそうした「UIなし」の生産性ツールへの第一歩が踏み出されるだろう」という。

8. 2015年にはベンチャーキャピタルの利益率が最高となるだろう

現在シリコンバレーはバブルであるのかという議論に決着はついていないが、われわれは2015年はベンチャーキャピタルにとって過去最高の年となるだろうと予測している。ゼネラル・パートナーのJason Greenは「マーケットの反応は良い。テクノロジー業界には基本的にまだ大きな発展の余地がある。リスクを取る余裕もここしばらく見られなかったほど拡大している」と言う。ゼネラル・パートナー、Brian Jacobsも「株式上場は好調だ。 来年は新分野のソフトウェア企業の成熟にともなって集中化が起き、M&A市場も活性化するだろう」と同意する。

9. 100億ドルが新たなスタンダード

スタートアップの会社評価額の水準が適正かどうかについては議論があるが、今や10億ドルの評価額は当たり前になっている。ゼネラル・パートナー、Jason Green: は「ちょっとクレージーだが、2015年にはユニコーン〔大成功したスタートアップ〕と呼ばれるためには10億ドルではなく、100億ドルの評価を受ける必要があるようになるのではないか」と述べた。

10. 描写的URL (.photography、 .wineなど)が普及する

2015年にはインターネットのドメイン名が拡大され、伝統的な.com、.net、.org、国名略号に加えて、さまざまな描写的ドメイン名が一般化するだろう。2014年に数百の新しいドメイン名がリリースされた。2015年にはGoogleやDonutsのサービスを通じて、こうした業種に特化した多様なURLを多くの企業が採用するだろう。

〔日本版:現在利用可能なTLDリスト。ちなみに地名TLDには.tokyo、.osaka .kyoto、.nagoyaが含まれる〕

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+