【コラム】2人のFBI捜査官が私の家にきた、米国における法的要求と報道の自由について

2020年8月、予告なしに2人のFBI捜査官が私の家の玄関先にやってきて、前年に掲載したTechCrunchの記事について質問したいと言ってきた。

記事の内容は、あるハッカーがグアテマラのメキシコ大使館のサーバーから、ビザや外交官パスポートを含む数千件の書類を持ち出したというものだった。そのハッカーによると、脆弱なサーバーについてメキシコ当局に連絡したが無視されたため、大使館のファイルへのリンクをツイートしたという。「返事がない場合は公開する」とハッカーは言っていた。

関連記事:ハッカーがメキシコ大使館の文書を大量にネット公開

私は取材時の常套手段として、ニューヨークのメキシコ領事館にコメントを求めた。広報担当者によると、メキシコ政府はこの問題を「非常に深刻」に受け止めているとのことだった。私たちは記事を公開し、それで終わったように思えた。

1年後、FBIが私の家のドアをノックしてきた。終わったというのは間違いだったようだ。私は捜査官との会話を断り、ドアを閉めた。

私たちが記事を発表した後、メキシコ政府は外交ルートを通じて米国司法省にハッキングの調査あるいはハッカーの特定への協力を依頼した。私がそのハッカーと接触したことで、メキシコ政府は私を関係者としたに違いない。それで1年後に訪問してきたのだろう。

訪問の1カ月後、メキシコ政府はFBIに対し書面による質問リストを提出し、私たちに回答を求めてきたが、その多くはすでに記事の中で回答されているものだった。私たちの司法省への回答は、すでに発表した内容以上のものではなかった。

報道者に対する法的要求は珍しいことではない。メディア業界で働く上での職業病と考える人もいる。要求は脅しの形で行われることも多く、ほとんどの場合、ジャーナリストや報道機関に記事の撤回を迫り、場合によっては記事の公開前に中止させる。特にサイバーセキュリティを扱うジャーナリストは明るく元気な見出しではあまり知られておらず、企業や政府は自らのセキュリティ対策の不備を恥ずかしい見出しで報じられるのを避けようとするため、法的な脅迫を受ける傾向がある。

例えば、米国ミズーリ州のMike Parson(マイク・パーソン)知事とSt. Louis Post-Dispatch(セントルイス・ポスト・ディスパッチ)紙との間で最近起きた対立を見て欲しい。知事は、この新聞社の記者が州の教育局のウェブサイトに何千もの社会保障番号が掲載されているのを発見した後、違法なハッキングを行ったと訴えた。この記者は、社会保障番号が流出した3人に確認を取った上で、州にセキュリティの不備を速やかに報告し、データが削除されるまで記事の公開を保留していた。

パーソン知事は、この報道が州のハッキング法に違反しているとし、法執行機関と州検察官に同紙の調査を命じ「州に恥をかかせようとしている」と主張した。これに対し法律家や議員、さらにはパーソンの所属する政党のメンバーまでもが、倫理的にまったく問題のない行為であると認められた新聞社を非難した知事を嘲笑した。パーソンは、自身の政治活動委員会が費用を負担した動画の中でまたもや非難し、いくつかの誤った主張をした他、新聞社を「フェイクニュース」呼ばわりした。2021年11月初め、教育局は、最終的に62万人以上の州の教育者に影響を与えた過失について謝罪した。

違法性や不適切性の主張は、悪意のあるハッカーに悪用される前に流出した個人情報やセキュリティ上の欠陥を発見して公開するセキュリティ研究者に対して広く用いられる戦術だ。独立系ジャーナリストと同様に、セキュリティ研究者も単独で活動していることが多く、たとえ彼らの活動が完全に合法的であり、将来起こりうる最悪のセキュリティ事故を防ぐのに役立ったとしても、彼らは裁判の高額な訴訟費用を恐れて法的な脅しに応じるしかない。彼らに経験豊富で意欲的なメディア法務チームがついているとは限らない。

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これまでにも不当な法的要求を断ったことはあったが、仕事をしているだけで連邦捜査官が玄関先にやってくるというのは、私にとっては初めての経験だ。違法行為があったとは聞いていないが、もし私がメキシコの地を踏んだ場合、メキシコがどのような見解を示すかわからないのは不安だ。

しかし、最もダメージが大きいのは、紙面に載らない法的な脅しや要求だ。法的な要求には本来、口封じの効果がある。時には成功することもある。ジャーナリズムにはリスクがつきものであり、報道局が常に勝つとは限らない。法的な脅しは、放置すると仕事をすることが法的に有害となるため、セキュリティ研究とジャーナリズムの両方に対する萎縮効果がある。これは、世界の情報量の減少、そして時には安全性の低下にもつながる。

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Dragonfly)

混雑情報のバカンが初詣など分散参拝を支援、福岡県太宰府天満宮や三重県伊勢市主要観光地の混み具合を可視化

混雑情報プラットフォーム「バカン」が初詣など分散参拝を支援、福岡県太宰府天満宮や三重県伊勢市主要観光地の混み具合を可視化

AI×IoTを活用してあらゆる空き情報を配信するスタートアップ「バカン」は12月27日、福岡県太宰府市および三重県伊勢市観光協会との観光DXに関する取り組みを発表した。

福岡県太宰府市

太宰府天満宮は、日本屈指の人気観光スポットであるとともに初詣期間は参拝客が集中しやすく、三が日には毎年200万人が訪れるという。ただ昨今、国内外での新型コロナウイルスのオミクロン株感染拡大もあり、参拝者の快適性向上や感染拡大防止に向けて「分散参拝」の重要性が増しているという状況にある。

太宰府市との取り組みでは、太宰府天満宮参道のリアルタイム混雑情報の検知・配信(12月28日開始)を行う。太宰府市内の太宰府天満宮参道に定点カメラを設置し、リアルタイムの混雑情報を24時間自動で検知。またAIなどでそれら情報の映像解析を行うことで、混雑情報を可視化し配信する(カメラによる混雑の可視化は、個人が特定されない形で実施)。参拝者が、任意のタイミングでリアルタイムの混雑情報を把握できるなど、分散参拝しやすい環境の構築を支援する。また、同取り組みを推進し参道の混雑を抑制することで、観光客の満足度の向上や地域住民の理解につなげていくことも目指す。

混雑情報の可視化は、リアルタイム空き情報配信プラットフォーム「VACAN」を活用。VACANには混雑情報をマップ上に表示する機能「VACAN Maps」があり、今回参拝者は、専用ページとVACAN Mapsから混雑情報を確認できる。スマートフォンやPCを通し誰でも閲覧可能。

また今後、得られた混雑データを用いて混雑予測や人流解析といった新しい活用方法を含む観光DXの推進についても、太宰府市とともに検討するという。

三重県伊勢市観光協会

混雑情報プラットフォーム「バカン」が初詣など分散参拝を支援、福岡県太宰府天満宮や三重県伊勢市主要観光地の混み具合を可視化三重県・伊勢市観光協会との取り組みでは、同協会による非接触型デジタルサイネージを活用した混雑状況配信(12月27日開始)をサポートし、配信を実施する。非接触デジタルサイネージには、市内の主要観光地9カ所とそれらのリアルタイムの混雑状況が表示される。筐体に設置された赤外線センサーにより指の動きを検知することで、画面に触れることなく操作でき、各場所の詳細情報を閲覧可能。混雑状況などはすべて多言語対応しており、海外の方も利用できるそうだ。混雑情報プラットフォーム「バカン」が初詣など分散参拝を支援、福岡県太宰府天満宮や三重県伊勢市主要観光地の混み具合を可視化

伊勢神宮は、年間600万人以上が参拝し、三が日には毎年50万人の参拝客が集中するという(数値はコロナ禍前のもの)。やはり日本屈指の人気観光スポットだが、コロナ禍により分散参拝を重視するようになっている。2020年よりVACANは、伊勢市との観光DXの一環として、市内観光地の混雑情報を可視化する混雑状況配信サイト「空きです、伊勢♪」の配信・運営をサポートしてきた。

伊勢市の取り組む主要観光地の混雑データは、市内9カ所にカメラなどを設置し、リアルタイムに混雑状況を検知しAIなどを用いた画像解析により混雑状況を可視化したもの(カメラによる混雑の可視化は、個人が特定されない形で実施)。今回の取り組みでは、「VACAN Maps」および専用ページを介した混雑情報の提供に加えて、非接触型デジタルサイネージを通して混雑を確認できるようにしたという。これにより、スマートフォンやPCを持っていない方や、それらデバイスを使いにくい状況でも、利用者の利便性向上が期待できるとしている。従来以上に手軽に混雑情報を把握できるようにすることで混雑の抑制を促し、感染症などのリスクを抑えた安全な観光地の実現を目指す。

非接触型ディスプレイの設置場所

  • :JR伊勢市駅(三重県伊勢市吹上1-1-4 JR伊勢市駅構内)
  • 案内所
    ・宇治浦田観光案内所(三重県伊勢市宇治浦田1-10-25 内宮B2駐車場横)
    ・宇治山田駅観光案内所(三重県伊勢市岩渕2-1-43 近鉄宇治山田駅構内)
    ・二見浦観光案内所(三重県伊勢市二見町茶屋111-1 二見生涯学習センター内)
    ・伊勢市駅手荷物預かり所(三重県伊勢市吹上1-1-1 JR伊勢市駅正面右側)

 

【コラム】テック企業は採用の場で恵まれた学生が持つ魅力とその潜在能力を混同するのをやめるべきだ

大学に通う低所得の学生の数は増加している。Pew(ピュー)研究所からの2016年のレポートによれば、低所得の家庭出身の各部学生が占める割合は、1996年の12%から2016年には20%に増加している。ただし、6年以内に学位を取得できるのは、収入が上位4分の1の学生の場合は58%に達しているのに対し、下位4分の1の学生の場合はわずか11%にとどまっている。

この不一致に対して思いを馳せる必要がある。なぜ低所得層の学生の多くが大学に進学しても学位を取得できず、労働力としての潜在能力を十分に発揮できないのだろうか?この疑問への手短な回答は、個別のターゲットを絞り込んだサポートとリソースの不足である。そして、特にテクノロジーの分野では、このようなサポートの欠如が存在する原因は、採用のエコシステムが、学生や将来の従業員候補者に対して、ある種の「特典」や豊かさを持っていることを仮定している問題ある構造になっているからなのだ。

こうした仮定(無意識的であるか否かに関わらず)は、門戸を開いてくれるはずの教育やキャリアの機会から、低所得の学生を間違ってそして一貫して排除してしまい、結果的にテック業界が重要で実りある人材プールにアクセスできない状況を続けさせている。

こうした技術系の教育からキャリアへのパイプラインが、学位を取得して私たちの経済の中で最も給料の高いセクター(この部分についてはここでは触れない)の1つに入ろうとしている低所得の学生を、途中で挫折へ追い込んでいるのは明らかだ。社会経済的地位は「多様性」の議論の一部でなければならないが、それは過小報告され、十分に議論されていない。

「特典」の産物と潜在能力を混同するとはどういう意味だろうか?

多くの業界と同様に、技術者の採用(インターンシップからフルタイムの仕事に至る)は卒業のかなり前の段階で行われる。この採用構造は、実際の才能や潜在能力よりも、環境的に恵まれていることとリンクしがちな特徴を過大評価し採用する傾向がある。しかし潜在能力が高いにも関わらず低所得の学生は、この採用構造が求める「理想的な候補者」の型には適合しないことがよくある。それはどのように発生し、どうすればそれを止めることができるのだろう?

たとえば採用担当マネージャーにテクノロジー業界で成功するために必要なスキルを尋ねてみよう。彼らは以下のような新しい候補者を探していると口にするかもしれない。

  • 優れた問題解決能力を持っている
  • 時間管理スキルを持つことが示されている
  • 勤勉である
  • トリッキーな問題に対して弾力的に粘ることができる
  • 適応性がある

こうしたスキルは、たくさんの異なる経験から得られる。例えば技術系学位を目指しつつフルタイムまたはパートタイムの仕事をしている学生は、強い労働倫理、時間管理能力、そして弾力性を身につける。また家族の知識や社会的ネットワークに頼ることなく、大学での経験を自力で切り開いている移民二世の学生は、優れた問題解決能力を身につけている可能性が高い。主観的ではあるが、これらはテクノロジー業界で成功するための非常に貴重なスキルである。

しかし、採用活動では、こうした実証されたスキルが実際に考慮されることはほとんどなく、次のような基準によって不平等の影が落とされているのだ。

  • 一流大学への進学へつながる、恵まれた環境にある高校における経験(テストの準備、質の高いアドバイス、高レベルの数学コースへのアクセスを含む)とそれに付随する多くの機会と支援
  • 大学のクラブやネットワークに参加したり、ハッカソンに参加したり、週末や夕方に会議やネットワークイベントに参加したりするための資金と時間(すなわち、自活のために働く必要がない、またはより少ない時間の労働で済ますことができる)
  • 面接のために旅行を実行したり、インターンシップのために転居したりするために必要な現金や知識
  • 高価なテスト準備コースへのアクセス、大学入学前の高度な数学の準備、そして何よりも、自分自身と家族を養うために働く必要がない人に与えられた勉強だけに集中できる自由などの恵まれた環境によって、大きく影響されるテストの点数、GPA、その他の定量的な指標
  • 社会経済的地位だけでなく、上記の多くの要因に基づいた受賞や表彰歴

先のスキルセット(問題解決、時間管理、回復力etc……)とは異なり、これらの基準は採用活動の世界では「潜在能力」のマーカーと見なされている。しかし、これらのマーカーを取得するには、多くの学生が利用できないある程度の特典と豊かさが必要なのだ。こうした経験はいずれも時間とエネルギーを必要とするため、家族の世話をしたり、学費を払うために働いたり、その他学校以外での重要な責任を果たさなければならない人間にとっては得ることが難しい。これらの経験の多くは個別に支出を必要とするし、またこれらの経験のほとんどは、課外ネットワーク、事前知識、準備を行うことができる恵まれた環境を必要とする。

だがこれは、企業にとって大きな機会損失であり、悲惨な結果がもたらされているのだ。テクノロジー業界は、イベントへの参加、受賞歴、そして通った学校という特性を、業界で実際に成功するための能力から切り離さなければならない。それらは同じものではないからだ。このまま恵まれた環境の産物と潜在能力を混同し続けると、実際に潜在能力の高い学生のコミュニティにアクセスできなくなり、人材不足が続き、技術セクターの多様性が低下する。

では、どうすればよいだろうか?

低所得の学生がその技術の旅全体を通して個別にサポートされるようにするためには、技術コースをどのように修正していけば良いのだろうか?

低所得の採用候補者の競争の場を平準化する

大学生の半数以上が住宅不安を経験していることを口にしている。率直な話、家賃を払えなければコンピュータサイエンスの試験で優をとるのは難しく、高速のインターネット接続がなければ課題を完了するのはほぼ不可能だ。

こうした積年の障壁に対処するには、それらをまず理解してから、解決するためのリソースに投資する必要がある。

まず、低所得のバックグラウンドを持つ学生のために、こうしたギャップを埋めるために働く組織を支援し投資する。次に、すべての新規採用者のための公平な競争条件を整える。テック企業の意思決定者または人事担当者である場合は、すべてのインターンと新規採用者に対して転居と採用のための移動費用を支援する。

学生がこれらの費用を前もってまかなうためのクレジットや家族の支援を持っていると仮定して、支給まで数週間待つべきではない。これを解決することで、候補者はベストな状態で訪問することができる。

多様性に投資するために大学生に投資する

テック業界はテクノロジーパイプラインの開始部分に投資する傾向がある。その結果、企業がK-12(幼稚園から高校まで)プログラムに慈善基金の66%を集中させているのに対し、大学レベルのプログラムに投下されているのはわずか3%である

K-12への投資は重要だが、必要な人材を生み出すには、高等教育レベルでのフォローも必要だ。私たちは、学生が学位を取得できるように支援する必要がある(そうするための過程全般を通してサポートを行う)。これによって、技術革新に貢献する準備ができた技術者と、私たち全員に利便性をもたらすより多様なマインドの形でリターンが得られるのだ。

これは実際にはどういう形をとるのだろう?1つの例を次に示そう。現在まだ学部4年生の新入社員を雇用する場合は、その春学期の間支援を行うのだ。つまり将来の従業員に投資するということだ。最終的な高レベルのクラスに集中するための余裕を提供することで、最後の数カ月の重要な時期に授業料、家賃、その他の費用を支払うことを心配するのではなく、仕事へとより良く備えることができるようになる。

コンピューティングの学位を取得して卒業する現在の学生の人口、およびテクノロジーセクター全体は、人種や性別だけでなく、社会経済的地位の観点からも、私たちの多様な社会を反映していないそしてそれは、テクノロジー業界が恵まれた環境により産まれたものと潜在能力を混同し続けているからなのだ。

その結果、重要なテクノロジーを生み出す役目を負いながら、決してすべての人に平等に役立つとは限らない、多様性に欠けたテクノロジーセクターが生まれるのだ。技術パイプライン全体を通じて低所得の学生を個別にサポートし投資していこう。

編集部注:執筆者のDwana Franklin-Davis(ドワナ・フランクリン=デイビス)氏は生涯現役の技術者だ、現在Reboot Representation(リブート・レプリゼンテーション)のCEOを務めている。同組織は、慈善活動のリソースをプールして、2025年までにコンピューティングの学位を取得する黒人、ラテン系、ネイティブアメリカンの女性の数を2倍にすることを目指しているテクノロジー企業の連合体である。もう1人の執筆者のRuthe Farmer(ルース・ファーマー)氏は、Last Mile Education Fund(ラスト・マイル・エデュケーション・ファンド)の創業者でCEOであり、テクノロジーとエンジニアリングにおける公平性とインクルージョンの世界的な擁護者であり伝道者である。

画像クレジット:PM Images / Getty Images

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(文: Dwana Franklin-Davis、Ruthe Farmer、翻訳:sako)

テック企業のロビー活動を行ってきた米国のInternet Associationが解散

シリコンバレーの大手企業を代弁する業界団体が解散することになった。テクノロジー業界がワシントンで規制監視の新時代に突入する中でのことだ。

Internet Association(インターネット協会)は、過去9年間、ワシントンでテック企業の利益のために戦ってきたロビー活動グループだ。Facebook(フェイスブック)、Amazon(アマゾン)、Google(グーグル)、Airbnb(エアビーアンドビー)、Uber(ウーバー)、Twitter(ツイッター)、eBay(イーベイ)、Spotify(スポティファイ)、Zillow(ジロウ)など、特に知名度の高い大企業から下位の企業まで、合わせた利益を発展させるために議員に働きかけてきた。この団体が店仕舞することになったと、Politico(ポリティコ)が最初に報じた

「インターネット協会が10年近く前に設立されて以来、私たちの業界は驚異的な成長と変化を遂げてきました。この進化にともない理事会は2021年末に組織を閉鎖するという困難な決定を下しました」と、同グループが発表した声明文には記されている。「【略】インターネット協会は、自由でオープンなインターネットを通じて、イノベーションを育み、経済成長を促進し、人々に力を与えるという使命において、大きな進歩を遂げてきました」。

近年、インターネット協会のメンバーの中には、ポリシーに関する問題で直接対立している企業もある。この不和は、インターネット協会で最大の企業同士でさえ、特徴的な題目に関しては拡大しているようだ。インターネット協会は、通信品位法(Communications Decency Act)の第230条を現状のまま維持することを支持しているが、インターネット協会のメンバーで現在のFacebookの親会社あたるMeta(メタ)は最近「第230条の保護を得る」ために、法律を変えることに前向きであると議員に語っている。

この団体はAI、ブロードバンド、コンテンツ・モデレーション、プライバシーなどの問題についてメンバー企業を代理しているものの、業界の最近の歴史の中では最も関連性が高く、結果的に重要なポリシーを巡る対話になる独占禁止法についての議論に対しては、明らかに避けていた。

議員たちがテック企業に新たな規制を課そうとしている独占禁止法についての問題は、テクノロジー業界の大手企業と、市場支配に関する懸念を指摘する中小企業の両方に影響を与えるような、他のほとんどのポリシーに関する懸念を凌駕し続けることだろう。

2014年にインターネット協会に加盟したYelp(イェルプ)は、かつて意見の相違により同団体を脱退した。「この団体は、何年も前に時価総額が5億ドル(約5700億円)を超える企業(GAFA)を追い出すことで、自らを救うことができたはずです」と、Yelpのシニア・パブリック・ポリシー・バイスプレジデントであるLuther Lowe(ルーサー・ロウ)氏はツイートした。「数年前に協会の上層部にこの提案をしたのですが、却下されたので脱退しました」。

Yelpは、独占禁止の問題について議会で証言し、以前はインターネット協会で仲間だったGoogleが、不当に自社製品に検索結果を優遇させる独占的企業であると主張している。

2020年、インターネット協会の会長を長年務めてきたMichael Beckerman(マイケル・ベッカーマン)氏は、退任してTikTok(ティックトック)のパブリックポリシー責任者に就任した。先月にはMicrosoft(マイクロソフト)とUberが同協会を脱退している。これは現在のテクノロジー業界におけるポリシーの問題に関しては、インターネット協会の有用性が薄れていることを示している。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】バイデン大統領は本当に技術独占を取り締まることができるだろうか?

ジョー・バイデン大統領は2021年7月、米国経済における「競争促進」の行政命令を出した。この命令の中で、大統領は特に大手テクノロジー企業に対して「現在、少数の有力なインターネットプラットフォームがその力を利用して、市場新規参入者を排除し、独占的利益を引き出し、自分たちの利益のために利用できる個人の秘密情報を収集している」と述べている。

米上院は11月、ハイテク企業の反競争的買収を規制する法案を提出した。米国ではこの20年間、重大な独占禁止法事案はなかったが、最近の勢いは、現政権が運用の透明化を望んでいることを示唆している。

これまでのところ、独占禁止法違反を適用するためには、ルールや市民の間に曖昧な領域があまりにも多かったが、アプローチへのいくつかの変更で、大衆の意見が、新しい政策、罰則、さらには起訴につながる可能性がある。

この1世紀の間に、独占禁止法はその効力を失い「消費者福祉」という曖昧な基準の下に、より大きな目標は放棄されてきた。1980年代に確立された独占禁止法適用の判断基準はすべて、疑惑の独占行為が消費者物価の上昇をもたらしたかどうかだけに還元されていた。

だが独占禁止法の運用を、こうした1つの経済的影響テストに帰すこの手法は、過度に単純化されていることが証明されている。独占禁止法に対するこの特異な消費者価格ベースのアプローチの擁護者たちは、現在の技術の価格低下が公正な競争が支配的であることの明白な証拠だと主張している。

技術独占の解体は容易ではないが、それは以下の3つのアプローチで実現できる。すなわち、反競争的なM&Aを阻止すること、政策を書き換えてデータを市場の力として位置付けること、そして市民が独占禁止政策に関心のある政治家を選ぶことができるようにこのトピックへの公共の関心を駆り立てることだ。

キラーM&A

非常に緩い金融政策が長期化し、株価が非常に高騰しているこの金融緩和の時代にあっては、将来の競争相手を高値で買い取ることが現在のビジネス戦略の一部となっている。

テクノロジーの世界には例がたくさんあるが、たとえばFacebook(フェイスブック)によるInstagram(インスタグラム)とWhatsApp(ワッツアップ)の買収は議論の余地のない例だ。過度の規制はイノベーションを殺すが、自由市場が公正で自由なままでいるためには規制が必要だ。

現行法では、9200万ドル(約104億4000万円)以上の取引は、ほとんど例外なく、審査のために米連邦取引委員会(FTC)と司法省(DOJ)に報告しなければならないと定められている。

バイデン命令の意図の1つが、M&Aに対する監視の強化であることを考えると、この先消費者は「競争を大幅に減少させる」取引を阻止するための法的措置を目にすることになるかもしれない。

提案された、特定の買収を阻止する法案は、これまでその濫用があったことを両陣営が認識している証拠だが、データの独占が反競争的だと広く考えられていない場合は特に、違反認定の基準は依然として高いままだ。FTCとDOJは、ビッグテックに対して独占禁止法を適用する能力を発揮できるようになる必要があるが、これは、今回の新しい法律でより適切に行うことができるだろう。

データ=お金=市場支配力

一部のテック大企業にとって、無料の製品を提供することは、その他の資産を蓄積するための秘密裏の戦略であることが判明している。特にその中には、無意識のうちに「無料」で使う顧客の個人情報が含まれていて、それらの資産は数十億ドル(数千億円)規模の莫大な利益をもたらしただけでなく、そうした資産の独占も行われている。検索エンジンマーケティングとソーシャルメディア広告はまさにこの方法で構築された。このようなデジタル資産は現在、他のすべての企業にマーケティング予算に対する税金として貸し出されている。これは市場支配力の明白な例である。

私たちはほとんどの産業で前例のない集中に出会っている。集中が高まっている産業の企業は、市場支配力をより容易に行使できるため、実際には投資を減らしてさえいるのだ。

しかし、少し天候が悪くなると、自分で規則を変える都合の良いときだけの友たちはチームをすぐに変えて、連邦準備制度がパンデミックの最中に市場を支えるために臆面もなく行った、複数の異常な市場介入を支持するだろう。

バイデンの大統領命令で歓迎されたのは、オンライン監視とユーザーのデータの蓄積に関する新しい規則を確立するようFTCに促したことだ。独占的なテクノロジーの巨人たちは、このゲームのルールをあまりにも長い間作り続けていて、騙されやすい議員たちの目を、笑えるような自己規制の誓いでくらましている。

データの大量収集と管理が市場支配力として適切に分類されるまで、正義の手段は消費者ではなくビッグテックの手に握られ続ける。この場合、新しい政策と法律は、国民の抗議の声が立法者を動かしたときのみ実現するだろう。

大衆意識の変化を

緩い独占禁止法の執行と緩い政策の影響を最も受けているのは、消費者と市民だ。個人情報が取り込まれたり、サービス料を払い過ぎることになったり、商品を選択できなかったりするという形で、独占は消費者の福祉を侵害する。しかし、消費者にできることはあるだろうか?

バイデンの大統領命令は、米国内の独占禁止法をめぐる世論の圧力の高まりを直接反映したものだ。同じことが新しい上院法案にも当てはまる。ますます民間企業たちは、選出された公務員が多くいる州裁判所で、独占に対して訴訟を起こすようになっている。

今はバカげているように聞こえるかもしれないが、独占禁止法は、政治家が挑戦しなければならない主要なトピックになる可能性がある。有意義な独占禁止政策改革は、政治団体によって選出された改革派によってもたらされる。そのため、独占禁止法の執行に対する意見に基づいて候補者を選出することは、現状を変えるために極めて重要である。

私たちは今、より強力な独占禁止法とプライバシー規制を必要としている。私たち市民のプライバシーと幸福が危機に瀕しているからだ。チャリティーのように、独占禁止法への取り組みは身近なところから始めなければならない(訳注「チャリティはまず身近なところから始めよ」という諺のもじり)。

関連記事:サードパーティーがユーザーデータを知らぬ間に収集する副次的監視の時代を終わらせよう

編集部注:著者のVijay Sundaram(ビジェイ・サンダラム)氏は、大手テクノロジー企業と競合しつつ、消費者のプライバシーをポリシーの最優先事項としているビジネスソフトウェア企業Zoho Corporation(ゾーホー・コーポレーション)の最高戦略責任者。

画像クレジット:Glowimages / Getty Images

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(文:Vijay Sundaram、翻訳:sako)

勢いを増すフェイスブックやDropboxの初期エンジニアが設立したアンチインキュベーター「SPC」

サンフランシスコのサウスパーク地区に数十人のエンジニアが集まるコミュニティ「サウスパークコモンズ(SPC)」ができたとき、結成から1年後の2017年にニューヨーク・タイムズ紙が紹介した以外は、ほとんど公に知られることはなかった。

SPCはFacebook(フェイスブック)初の女性エンジニアであるRuchi Sanghvi(ルチ・サングヴィ)氏が設立した。同氏は当時、SPCの野望はブルームズベリーセット(20世紀前半の英国の芸術家・学者グループ)やBenjamin Franklin(ベンジャミン・フランクリン)のジュントクラブ(フランクリンが創設した切磋琢磨のためのグループ)のようなものを、テック界にもつくることだと説明した。そこで人々は、個々人の、あるいは共通の経験を語り合い、その過程で新しいアイデアを形成するのだ。

早い話、SPCによると、この試みはうまくいっているという。2018年に5500万ドル(約62億円)のベンチャーファンドを立ち上げ、コミュニティのメンバーから生まれた複数のプロジェクトに投資した。現在、ベイエリアと世界各地に450人のメンバーがいる。テック界の著名人や機関投資家からの資金で、新たに1億5000万ドル(約170億円)のファンド組成を完了したばかりだ。

また、SPCは非常に価値の高いポートフォリオを有しているという。サングヴィ氏によれば、SPCのデビューファンドは、すでに投資家に対し、資本にいくらかの果実をつけて返還している。これは、分散型融資のためのオープンソースプラットフォームであるCompound Labsのおかげであり、そのトークンを初期の株主に一部分配した。同氏によると、SPCは他にも10~12社のいわゆるユニコーンをポートフォリオに抱えている。

TechCrunchは米国時間12月17日、サングヴィ氏とその夫でビジネスパートナーのAditya Agarwal(アディティア・アガーワル)氏と話した。アガーワル氏は、Facebookで初期のエンジニアとして活躍した後、サングヴィ氏と共同でスタートアップを設立した。同社は2012年にDropbox(ドロップボックス)に売却された。これは人材獲得を目的とした買収だったといわれている。(サングヴィ氏はDropboxにオペレーション担当VPとして2年勤めた。Dropboxのエンジニアリング担当VPとして入社したアガーワル氏は2016年にCTOに昇進し、2018年に退職、SPCのサングヴィ氏に合流した)。

ここまで、SPCのコミュニティの進化について少し長く触れた。元々は物理的な場所として始まり、パンデミック後は高度に構造化された仮想社会となった。だが、SPCは依然として、現実の世界で人々を結びつけることに重点を置く。

実際、サングヴィ氏とアガーワル氏はオフラインでの交流の力を強く信じている。そのため、サンフランシスコに加え、ニューヨークも拠点として現在計画中で、シアトルや東南アジアなど、他の拠点も続く可能性があると話す。

SPCのメンバーの約70%は「技術系」だが、残りの30%は「特定領域の専門家またはオペレーションの知見がある人、あるいは学者」だとサングヴィ氏はいう。この構成は意図的なものだ。「おもしろいのは、優秀な起業家と話すときに、他の起業家と知り合いになりたいかと尋ねると、答えはいつも『ノー』なんです」と同氏は笑いながら語る。「彼らは、AIアルゴリズムでスタンフォード大学のチームを打ち負かした専門家とは知り合いになりたいのです。だから、そうしたオペレーションの専門家がコミュニティに混ざっていることは、非常に価値があります」。

そうしたつながりは、友情と新鮮なアイデア以上のものをもたらしているようだ。アガーワル氏によると、この組織のメンバーの50%以上は、共同創業者や創業時の従業員をコミュニティ内で見つけたそうだ。SPCは、新進気鋭のチームと接触するY Combinatorや、大企業の経営幹部に目をつけているVCとは異なる。SPCが捕まえようとしているのは、明らかに才能があり、おそらく多くの需要があるにもかかわらず、最後の仕事を終えたあと、次に何をするかまだ決めておらず、それについて考えるために少し時間が欲しい、といった人だ。

ふわっとしているかもしれないが、SPCが見つけたいのは、次にしたいのは単にアイデアを自由に探ること、といった人たちだ。アガーワル氏は「私たちは『マイナス1からゼロの段階』にある人々が、会社を始めることを可能にするなるための学習コミュニティのようなものです」と言い「その過程でスタートアップが生まれれば、ファンドから投資します」。

その他に知っておくべき点として、メンバーは「卒業」するまでの9カ月間、コミュニティ内で密接に働く傾向があるということがある。卒業とはつまり、新しいスタートアップのコンセプトに対し100万ドル(約1億1300万円)以上の資金を調達するか、4人以上のフルタイム従業員を抱えるか、仕事を得るかである(アイデアの探求が、必ずしも起業につながるとは限らない)。

コミュニティメンバーが資金調達の段階に達した場合、早い段階で合意されるのが、SPCに投資の先買権を与えることである。各メンバーはSPCのファンドへの投資に招待され、多くのメンバーがこの申し出に応じる。サングヴィ氏によれば、SPCの1億5千万ドル(約170億円)の新ファンドには、100人の会員が投資家として名を連ねている。

投資の形態はといえば、ごく一般的なものである。アガーワル氏によれば、SPCは通常、70万〜200万ドル(約7900万〜2億2600万円)の範囲で、会社の7〜10%に投資する。また、SPCのネットワークが非常に貴重であるため、その後、投資に参加するベンチャーキャピタルは、自分たちの短期的な利益のためにSPCの持ち分を希薄化するのではなく、SPCが出資比率を維持できるようにするのが一般的であるという。

確かに、この方式は今、うまくいっているように見える。SPCの物理的および仮想的「廊下」を通過する企業には、Compound Labsに加え、ブロックチェーンのデータを整理するためのインデックスプロトコルであり、イーサリアム創設者のVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏から公に支持を得ているThe Graph、Sequoia CapitalとIndex Venturesが投資し、12億ドル(約1360億円)の評価額がついている会計ソフトウェアメーカーのPilot、法人向け不正行為監視ノーコードソフトウェアのスタートアップで、7月にTiger GlobalがリードしたシリーズBで3400万ドル(約38億円)を集めたUnit21などがある。

SPCは、サングヴィ氏とアガーワル氏の2人のゼネラルパートナーに加え、Dropboxで売上分析と国際展開を担当したMitra Lohrasbpour(ミトラ・ローラスブール)氏と、サングヴィ氏のチーフスタッフとして2年を過ごしたFinn Meeks(フィン・ミークス)氏を投資家に数える。

参考までに、SPCの新ファンドは前回の3倍の規模だが、アガーワル氏は、これ以上積極的に投資することはないと話す。

「私たちは量より質に重きを置いています」と同氏はいう。「質がすぐに向上するなら、それはそれですばらしいことですが、そうなるとは思っていません」。

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】非営利団体にはソーシャルメディアを改善する答えがあり、ビッグテックにはそれを実現するリソースがある

ソーシャルメディアがメンタルヘルスに与える影響についての議論は目新しいものとはいえないが、この秋、Facebook(フェイスブック)が自社プラットフォームの10代向けのメンタルヘルスに対する悪影響を十分に認識していたことを示唆していた報告が出されたことで、議論は再び世界の注目を取り戻した。

このデータ(およびFacebookがこれらの懸念を無視したという事実)は厄介な話だが、ソーシャルメディアがメンタルヘルスに与える影響を理解することはそれほど簡単ではない。実際、ソーシャルメディアは若者が自分自身や自分のアイデンティティを発見するための安全で肯定的な空間やつながりを提供できるとする強い主張も存在している。

ソーシャルメディアへの怒りがもたらす暗い結論の一方で、こうした利点はあまりにもしばしば片隅へと押しやられてしまう。事実、Instagram(インスタグラム)、Snapchat(スナップチャット)、Facebookといった現在の人気ソーシャルネットワーキングプラットフォームは、収益化を最優先事項としてデザインされている。これらのアプリは、アプリのユーザー時間が増えることで広告収入も増えるため、基本的に過度の使用を促すものなのだ。

最近の反発に応えて、Instagramのような場所は厳格に大人用とすべきだと主張する人もいるが、筆者は10代の若者にとって有益なソーシャルメディア環境を構築することは可能だと強く信じている。それは彼らが自己発見をできる場所であり、アイデンティティを自由に探求できる場所であり、暗闇の中で彼らを慰め、彼らが1人ではないことを知る手助けをする場所なのだ。

この未来が反応的な機能だけで育成できるかどうかはわからないが、ソーシャルメディアの巨人には、他の組織や非営利団体と協力して、ソーシャルメディアをすべての人々にとってより安全な場所にできる可能性がある。

広告型かつ非営利型のソーシャルメディアのためのスペースの創出

営利目的のソーシャルメディアが独占しない世界を想像するのは難しいが、独占は必然ではない。広告収入型のソーシャルメディアアプリを完全に排除するのは現実的ではないかもしれないが、テック業界には広告収入に依存しないプラットフォームのためのスペースを作る機会と責任がある。

もし閲覧数、クリック数、広告数が人々の欲求やニーズに対する二次的なものであれば、ソーシャルメディアプラットフォームの仕組みに革命を起こすことができるだろう。他のアプリからのプレッシャーから逃れたり、仲間と交流したり、自分自身が受け入れられる場所を見つけたり、目的はどうであれ私たちはユーザーが自由に参加できるコミュニティを構築することができる。

Ello(エロ)や、LGBTQ+の若者向けのTrevor Project(トレバーブレロジェクト)のソーシャルネットワーキングサイトであるTrevorSpace(トレバースペース)など、広告なしのソーシャルメディアスペースはすでにいくつか存在しているが、それらの規模は小さく機能も少ないため、 Instagramなどのソーシャルメディアアプリに備わる機能に慣れているユーザーを大量に引き付けることはできていない。

また、若者が匿名で自分のアイデンティティを探求できるオンラインスペースも必要だが、ソーシャルメディア企業がユーザーの精神的健康や健康よりも広告支援を優先する場合には、それはほぼ不可能だ。広告主は年齢、性別、行動、アイデンティティに基づいてユーザーをターゲットできるように、ソーシャルメディアに時間を費やしているのは誰かを正確に知りたいと考えているからだ。これは、ソーシャルメディアを自分が何者なのかを知るための手段として使いたいが、あまり慎重には行動できない若いユーザーにとって特に問題となる。

これを克服するためには、業界全体として利益を目的としないソーシャルメディアスペースへの投資を増やす必要がある。ここ数年、テック大手はプロダクトのイノベーションで驚異的な進歩を遂げており、これを、ユーザーが安心して自分を表現したり、協力的なコミュニティを見つけたりできるサイトにも応用できる可能性がある。

Facebook、Instagram、TikTok(ティックトック)、その他の広告付きアプリにはふさわしいタイミングと場所があるが、収益に左右されないオンラインスペースに対する明確なニーズと要望も存在している。どちらか一方である必要はなく、両方のためのスペースを確保するために私たちは協力することができる。

たとえばTrevorSpaceに対しては、私たちは特定の収益目標を達成するというプレッシャーを与えることなく、ユーザーの要望やニーズをよりよく理解するための研究に投資してきた。この調査を通じて、私たちはユーザーが自分のアイデンティティを探求し、自分を表現できる安全な空間を持つことに価値を見出そうとインターネットを利用していることを学んだ。

AIをずっと使用したらどうなるだろう?

より多くの非営利のソーシャルメディアプラットフォームに投資することに加えて、テック企業たちには、その最先端のAI開発を応用することで、ソーシャルメディア上のユーザー体験を改善し、オンラインに時間をかけすぎたことによる精神衛生上のストレスを軽減できる機会もある。

ソーシャルメディアサイトは現在、機械学習を使用して、人々がオンラインでより多くの時間を過ごすことを促すアルゴリズム生み出しているが、機械学習の可能性はそこに留まるものではない。テクノロジーには、人びとのメンタル不調を悪化させるのではなく、メンタルヘルスをサポートする力があることを私たちは知っている。ではAIを使用して、ユーザーにソーシャルメディアを制御できる新しい力を与えたらどうなるだろうか。

AIが、特定の瞬間に本当に必要としているものを見つけるのに役立てたらどうなるのかを想像してみて欲しい。例えばユーザーが笑いたいときには笑えるコンテンツへ、泣きたいときには泣けるコンテンツへとガイドしてくれたり、志を同じくするユーザー間の前向きな関係を築く手伝いをしてくれたり、または、彼らの生活にプラスの影響を与えるスキルや知識を彼らに与えてくれるリソースを提案したりということだ。

今日のソーシャルメディアアプリの大多数は、AIを使用して、私たち向けのフィード「あなたのための」ページ、そして私たちのためのタイムラインを決定している。しかし、もし私たちがAIを使って、ソーシャルメディア上での自分自身の旅をガイドできるようにすれば、根本的に異なる感情体験を育むことができる。それは、単に時間と注意を独占するのではなく、自分自身の欲求やニーズを支えるものなのだ。

これは簡単なことのように聞こえるし、すでに起きていることだと考える人さえいるかもしれない。しかし、最近Facebookの元プロダクトマネージャーFrances Haugen(フランセス・ハウゲン)氏の証言によって裏付けられたように、現在私たちが大手ソーシャルメディアで見ているコンテンツは、そのようにはキュレーションされていない。その状況は変わる必要がある。

ソーシャルメディアにおける前例のない革新と研究のおかげで、私たちは私たちの幸福に貢献するサイトを作成するために必要な技術は持っている、あとはその開発に時間とリソースを投資して、非営利アプリが主要な広告利用アプリと共存できるスペースを作ればいいだけなのだ。

将来的には、ユーザーが自身の見るコンテンツやそのコンテンツとのやり取りを制御できるようなAIを、ソーシャルメディア企業が非営利企業と提携して開発する可能性があるが、そのためには両者からの多大な時間投下、投資、協力が必要になるだろう。また、ソーシャルメディア大手は、この分野で切望されている代替アプリが入り込む余地を十分に確保する必要がある。

ソーシャルメディアをすべての人にとってより安全で健康的なものにすることは、The Trevor Projectを含む多くの非営利団体が実現に向けて取り組んでいる目標であり、ソーシャルメディア企業の支援によって私たちはその実現に大いなる助けを得ることになるだろう。

編集部注:著者のJohn Callery(ジョン・カレリー)氏はThe Trevor Project(トレバー・プロジェクト)の技術担当上級副社長。

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(文:John Callery、翻訳:sako)

フランスがClearview AIにデータ削除命令、EU他国でも同様の措置の可能性

インターネットから自撮り写真を収集し、約100億枚の画像データベースを構築して法執行機関にID照合サービスを販売する、物議を醸している顔認証企業Clearview AI(クリアビューAI)が、またしてもデータの削除命令を受けた。

フランスのプライバシー保護当局は現地時間12月16日、Clearviewが欧州の一般データ保護規則(GDPR)に違反したと発表した。

違反認定の発表の中で、CNIL(情報処理・自由委員会)はClearviewに対して「違法な処理」を停止するよう正式に通知し、2カ月以内にユーザーデータを削除しなければならない、としている。

当局は、2020年5月以降に寄せられたClearviewに対する苦情に対処している。

ClearviewはEUに拠点を置いていないため、同社の事業はEU全域で各国のデータ保護監督機関からも規制措置を受ける可能性があることを意味する。CNILの命令は、同社が保有するフランス領の人々に関するデータ(CNILは「数」千万人のインターネットユーザーが対象となると推定)にのみ適用されるが、EU各国の当局からもこのような命令が出される可能性が高い。

CNILは、調査結果を共有することで他の当局との協力を模索してきたと述べている。これは、Clearviewが、GDPRを国内法に移項した他のEU加盟国およびEEA諸国(合計で約30カ国)の当局からデータ処理の停止命令をさらに受けるかもしれないことを示唆している。

2021年、Clearviewのサービスはすでにカナダオーストラリア英国(EU離脱後も現在GDPRを国内法に残している)でプライバシー規則違反と認定され、罰金の可能性がある他、2021年11月ユーザーデータの削除を命じられた。

関連記事:Clearview AIの顔認識技術はカナダでもプライバシー侵害で違法

2つのGDPR違反

フランスのCNILは、Clearviewが2つのGDPR違反を犯したと認定した。法的根拠なく生体データを収集・使用したことによる第6条(処理の合法性)違反、そして第12条、第15条、第17条に規定されたさまざまなデータアクセス権の違反だ。

第6条の違反は、Clearviewが顔認証の使用について人々の同意を得ておらず、データの収集と使用について正当な利益の法的根拠にも依拠できないことによる。

「さまざまなウェブサイトやソーシャルネットワークで写真やビデオにアクセスできるこれらの人々は、国家が(警察などの)目的のために使用できる顔認証システムに供給するために、自身の画像がClearview AIによって処理されることは望まないでしょう」とCNILは書いている(フランス語からの翻訳)。

また、GDPRデータアクセス権を取得しようとした際に遭遇した多くの「困難」に関して、個人からの苦情も寄せられている。

CNILは、Clearviewが「正当な理由なく」個人のデータアクセス権を年2回に制限したり、過去12カ月間に収集されたデータに限定したり「同1人物からの過剰な数の要求」の後にのみ特定の要求に応じるなど、多くの点で規制に違反していることを明らかにした。

Clearviewは、人々のデータの削除要求に応じることを含め、データ主体の権利を適切に促進するよう命じられている。

同社がフランスの命令に従わない場合、さらなる規制措置(罰金の可能性も含む)に直面する可能性があるとCNILは警告している。

GDPRでは、DPAは2000万ユーロ(26億円)または企業の世界年間売上高の最大4%のいずれか高い方の制裁金を科すことができる。しかし、EUに拠点を持たない企業に対して罰金を科すことは、規制上の課題となっている。

TechCrunchはCNILの命令についてClearviewにコメントを求めている。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

米FTCが大手テックのアルゴリズムによる差別と商業的監視に対する規則を検討中

連邦取引委員会(FTC)が、ユーザーを侵害的に追跡したり他の者にそれをさせているデジタルプラットフォームを対象とする規則の検討に備えているようだ。「Trade Regulation Rule on Commercial Surveillance(商業的監視行為に対する規制規則)」は、まだ極めて初期的段階だが、FTCの新委員長Lina Khan(リナ・カーン)氏による最初の大手テクノロジー企業に対する大型規制になるかもしれない。

現在のところ、大統領府総務部の予算概要書に載っているだけだが、FTCが今後の規制の可能性について情報を伝えたことを意味している。リストによると、規則は「粗略なセキュリティ慣行を阻止し、プライバシーの濫用を制限し、アルゴリズムによる意思決定が不法な差別に結果しないようにする」とある。規則の一般公開された草案はまだないし、まだ構想段階の可能性もある。

FTCの広報担当者は「FTCには、その権能のすべてを駆使して有害な商業的監視行為と戦い、米国人のプライバシーを保護する用意がある」というコメントをくれたが、それ以上の話はない。

Brian Schatz(ブライアン・シャーツ)上院議員はこの文書への関心を示し、これに(尚早ながら)取り組んだ機関を褒め称えた。「カーン委員長とその機関が一歩を踏み出し、差別的なアルゴリズムを使っている企業を取り締まろうとしていることは喜ばしい。それは、私たちが絶対に取り組まなければならない課題だ」とシャーツ氏はいう。

本規則の策定はFTC基本法18条の「非公正または欺瞞的な行為や慣行の規制」に準じるものになるだろう。それは、FTCがいろいろな要件や禁忌を定めようとするときの、権限の拠り所となる条文だ。

規則は、ソーシャルメディア企業やインターネットプロバイダーといったあらゆるものの侵食から消費者を守ろうとするさまざまな試みの中でも、特に廃案になったBroadband Privacy Act(ブロードバンドプライバシー法)の系統になるのだろう。

もちろんFTCが規則を無から発明することは不可能であり、いくら規則を作っても、産業の新旧交替や現業界の変化によって、正しい理由で作られた規則が迂回されることも多い。

例えばヨーグルトのラベルに無脂肪とあるのに検査で脂肪が見つかったら、それは当然、虚偽の表示だ。しかし、ソーシャルメディア企業が例によって「あなたのデータはあなたに所有権があります」などといっても、それをダウンロードできなかったり、売ることも、プラットフォームから完全に削除することもできなかったら、それは虚偽の表示だろうか?FTCが規則とガイダンスを改訂して、そういう行為を含めないかぎり、虚偽にはならないだろう。

また「不法な差別」は、アルゴリズムに不正な構成のデータが供給されたことによって、宗教や人種や医療の状態などの保護を要する状況に基づいて、人びとの特定の集団が厚遇されたり非遇されたりする場合にも起きうる。現時点では、人を審査するアルゴリズムに公式の要件はほとんどないのに、データやそのソースは企業秘密であったり、公表や問い合わせから遮蔽されていることも少なくない。FTCの規則はこれを、任意ではなく要件にできるだろう。

そのような取り組みを議会や大統領府などが支えることもあり、カーン氏は、テクノロジー大手に介入する暗黙の権威をホワイトハウスから認められている。大統領府の法務アドバイザーに過ぎなかった彼女が急に国の行政機関のトップになったのも、このような規則制定に対する暗黙の支持があったからだ。

ただし現時点では、FTCのまばたきのようなサインにすぎないが、予算概要書に載っているため2022年に優先扱いになる可能性はある。中間選挙なので、現政権はその力を誇示しなければならない。ただしテクノロジー大手に対する攻撃は現存する数少ない超党派努力の1つであるため、かなりの数の政治プラットフォームがこの話題を取り上げるだろう。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

米政府がドローンメーカーDJIなど中国企業8社を投資ブラックリストに追加

米国政府は、イスラム教徒の少数民族ウイグル族の監視に関与した疑いがあるとして、ドローンメーカーDJIを含む中国企業8社を、米国からの投資を禁じるブラックリストに追加する方針だとFinancial Timesが報じた。これらの企業は、米国時間12月16日に財務局の「中国軍産複合体企業」リストに追加されると報じられており、米国市民はいかなる投資も禁止されることになる。

DJIはすでに米商務省のエンティティリスト(禁輸リスト)に登録されており、米国の企業はライセンスがない限り、同社に部品を販売することができない。当時、米国政府は同社が「不正な遺伝子収集や分析、ハイテクを駆使した監視によって、中国国内での広範な人権侵害を可能にした」企業に含まれていると述べていた。しかし、DJIのドローンはHuawei(ファーウェイ)などの製品とは異なり、米国での販売は禁止されていない。

今回の動きは、新疆ウイグル自治区でウイグル族やその他の少数民族を弾圧している中国を制裁しようとするJoe Biden(ジョー・バイデン)米国大統領の取り組みの一環である。その他、新疆ウイグル自治区で事業を行うクラウドコンピューティング企業や顔認識企業などがリストに加えられる予定だ。

米国時間12月14日、米国の上下両院は、企業が強制労働を使用していないことを証明しない限り、新疆からの輸入を禁止する法案を可決した。休日休会前の上院での投票が予定されている。

Xiaomi(シャオミ、小米科技)は2021年1月に同じ投資禁止対象リストに追加された。しかし、Xiaomiはこの決定に対して、同社のオーナーたちはいずれも中国軍と関係がなく、米国からの投資がなければ「即時かつ回復不能な損害」につながるとして、争った。2021年5月、米国政府は禁止令の解除に同意した。

2020年、DJIは消費者向けドローン市場の77%という大規模なシェアを獲得した。この2カ月間で、同社は大型センサードローン「Mavic 3」と、ジンバルとLiDARフォーカスシステムを内蔵したフルフレームのシネマカメラ「Ronin 4D」という2つの主要製品を発表した。1年前、DJIは「エンティティリストに載ることを正当化するようなことは何もしていない」「米国の顧客は引き続きDJI製品を普通に購入、使用できる」と述べていた。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Steve Dent(スティーブ・デント)氏は、Engadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:Matthew Burns / TechCrunch

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(文:Steve Dent、翻訳:Aya Nakazato)

監視委員会、Metaにエチオピアでの暴力を広める役割を検証するよう求める

Facebookが自社の方針決定を見直すために設立したグループである監視委員会は、現地時間12月14日、紛争地エチオピアで起きた誤報の事例を取り上げ、紛争地域でヘイトスピーチや検証されていない情報が自由に広がることを許容することの危険性について警告を発した。

監視委員会は、エチオピア在住のFacebookユーザーがアムハラ語で投稿した、ラヤコボや同国アムハラ州の他の人口密集地での殺人、レイプ、略奪はティグライ人民解放戦線(TPLF)が行っており、ティグライ人の民間人がそれを助けていると主張した記事を検証した。

「このユーザーは、情報源がこれまでの無名の報告書や現場の人々であると主張しているが、その主張を裏付ける状況証拠すら提供していない」と、監視委員会はその評価の中で書いている。

「この投稿に見られるような、ある民族が集団残虐行為に加担していると主張する噂は危険であり、差し迫った暴力のリスクを著しく高めるものです」。

この投稿は当初、Facebookの自動コンテンツ修正ツールによって検出され、プラットフォームのアムハラ語コンテンツ審査チームがヘイトスピーチに対するプラットフォームの規則に違反していると判断し、削除された。この件は監視委員会にエスカレーションされた後、Facebookは自らの決定を覆し、コンテンツを復活させた。

監視委員会は、ヘイトスピーチに関する規則ではなく、暴力と扇動に関するFacebookの規則に違反するとして、投稿を復活させるというFacebookの決定を覆した。その決定の中で、エチオピアのような暴力に満ちた地域で検証不可能な噂が広まることは「ミャンマーで起こったような重大な残虐行為につながる 」と懸念を表明している。

同月には、米国のロヒンギャ難民のグループが、Facebookの参入がロヒンギャ民族の大量虐殺の「重要な変曲点」として機能したとして、Metaを相手に1500億ドル(約17兆円)の集団訴訟を起こしている。ミャンマーでは民族暴力を煽る誤った情報がFacebook上で広く拡散し、しばしば軍関係者によって蒔かれ、同国の少数イスラム教徒を標的とし、排除しようとする民族暴力がエスカレートしたと広く信じられている。

Facebookの内部告発者であるFrances Haugen(フランシス・ホーゲン)氏は、ミャンマーやエチオピアといった国々でアルゴリズムによって増幅された民族暴力と、それに適切に対処しなかったMetaの失敗を、このプラットフォームの最大の危険性の1つとして挙げている。「ミャンマーで見たこと、そして今エチオピアで見ていることは、とても恐ろしい物語の序章に過ぎず、誰もその結末を読みたくありません」と、ホーゲン氏は10月に議会で述べていた。

監視委員会はまた、エチオピアの民族暴力のリスクを悪化させるFacebookとInstagramの役割について、独立した人権評価をするよう命じ、同国の言語でのコンテンツをどの程度抑制できるかを評価するようMetaに指示した。

2021年11月、Metaは、誤報やヘイトスピーチに対するルールの一部の適用範囲を拡大したことを強調し、同国に対して行った同社の安全対策を擁護した。同社はまた、過去2年間に同国での行使能力を改善させ、現在では最も一般的な4言語であるアムハラ語、オロモ語、ソマリ語、ティグリニャ語のコンテンツを審査する能力を備えていると述べている。

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Akihito Mizukoshi)

さらに6人の女性がテスラを職場のセクハラで訴える

2021年11月のJessica Barraza(ジェシカ・バラザ)氏の訴訟に続き、さらに6人の現在および過去の女性従業員が立ち上がり、カリフォルニアのフリーモント工場での放恣なセクシャルハラスメントの文化を助長しているとしてTesla(テスラ)を非難した。米国時間12月14日にアラメダ郡の高等裁判所に個別に提出された訴状で女性たちは、仕事中に絶えず、冷やかしの口笛や迷惑なナンパ行為、体への接触そして差別があったと述べている。

Teslaを訴えた女性の1人であるJessica Brooks(ジェシカ・ブルックス)氏は、同社でのオリエンテーション初日にセクハラされたと申し立てている。彼女の主張によると、上司は彼の男の部下に「あの新しい女の子に気をつけろ」といったという。ブルックス氏によると、そのハラスメントはとても頻繁で最後に彼女は自分のワークステーションの周りに箱を積み上げて、同僚たちが彼女に口笛を鳴らさないようにした。ブルックス氏はまた、Tesla人事部に状況を訴えた、と述べている。会社側の申し立てによると、同社は状況に直接対応せず、ブルックス氏を別に移動させることで応じた。

Bブルックス氏は、ワシントン・ポストに対して次のように述べている。「私への望まない関心や私を見つめる男性たちにうんざりして、自分の周りにバリヤーを作り始めました。自分の仕事をするためにはそれが必要だと感じました」。

ジェシカ・ブルックス氏が11月にTeslaを訴えた際、彼女は同社のフリーモント工場で「悪夢」のような労働条件に置かれたと述べた。バラザ氏の訴えは「粗野で古臭い建築現場か男子寮」のような工場の床と述べ、米国の最も高度なEVメーカーの生産拠点とはとても思えないという。Teslaを訴えた7人の女性の多くは、彼女たちが経験した虐待を、CEOのElon Musk(イーロン・マスク)氏に結びつけている。原告の1人は「彼は性交の体位やマリファナをジョークのネタにしたため、技術者たちはさらにひどくなった」という。

訴状が提出されたその同じ日に、Space Xの元社員たちがマスク氏の他企業を、セクハラを止めさせるために何もしなかったとして告発した。TechCrunchはTeslaに、コメントを求めている。この自動車メーカーにはPR部門がない。同じくフリーモント工場で、人種差別に遭ったとする黒人労働者に、1億3700万ドル(約155億8000万円)の支払いが連邦裁判所より命じられたとき同社は「従業員の懸念に対する対応は、今後も継続的に充実させ改善していく。私たちはときどき間違えることもあるが、それが起きたときには説明責任を果たさなければならない」と述べている。

編集部注:本記事の初出はEngadget

画像クレジット:Bloomberg/Contributor/Getty Images

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(文:Igor Bonifacic、翻訳:Hiroshi Iwatani)

米政府機関が禁止措置をすり抜け中国の監視技術を購入、Lorexは人権侵害に関与するメーカーDahuaの子会社だ

軍を含む少なくとも3つの米国連邦機関が、連邦政府での使用が禁止されている中国製の映像監視機器を購入した。

TechCrunchと映像監視ニュースサイトのIPVMが得た購入履歴情報によると、これらの各機関は、Dahua Technologyの完全子会社であるLorexが製造した映像監視機器の購入に数千ドル(数十万円)を費やしていた。Dahuaとは、中国政府のスパイ活動に役立つ技術であるとの懸念から、2019年国防費法により連邦政府への販売が禁止されている中国系企業の1つである。

関連記事:米、政府内でのHuaweiやZTEの機器使用を新国防法で禁止

またDahuaは、イスラム教徒のウイグル人が多く住む新疆ウイグル自治区の少数民族を弾圧する中国の行為に関連しているとして、2019年に米国政府の経済貿易制限リストに追加されている。米国政府によると、中国はウイグル人を監視するための監視装置の供給に、Dahuaが一部製造した技術を用いたとしている。バイデン政権は新疆での人権侵害を「ジェノサイド」と呼び、中国によるウイグル人の監視、弾圧、大量拘束を通した「人権侵害と虐待に関与している」と同社を非難している

関連記事:ムスリム少数民族に対する人権侵犯に加担した8つの中国企業が米商務省の禁止リストに載る

この禁止令が発効した後に、連邦機関が連邦政府の請負業者からLorexの機器を購入したという記録が残っている。

記録によると麻薬取締局(DEA)は2021年5月、ワシントンD.C.を拠点とする技術サプライヤー、I. S. Enterprisesを通じて監視システム用のLorex製ハードディスクを9台購入している。DEAの広報担当者であるKatherine Pfaff(キャサリン・パフ)氏は、この購入は米国共通役務庁(GSA)が運営する政府のショッピングポータル(通称GSAアドバンテージ)を通じて行われたと述べ、GSAに関するコメントを留保したが、Lorexの機器の使用を停止したかどうかについては言及を拒否している。

回答を求めたところ、GSAの広報担当者であるChristina Wilkes(クリスティーナ・ウィルクス)氏はメールで次のように答えている。「GSAは連邦調達規則(Federal Acquisition Regulation:FAR)に基づいて、GSAアドバンテージで販売されているベンダーや製品を審査する手段を複数保持しています。請負業者は対象となる技術を販売しているかどうかを明記することを求めるFARの条項および規定に準拠しなければなりません。遵守していないことが確認された製品は、GSAアドバンテージから削除されます」。

GSAは、禁止された製品が禁止令発効後も購入可能であった理由について明かさなかったが、市販の既製品が2019年の禁止規定に準拠していることを明確化する、新たな検証済み製品ポータルを立ち上げるなどして改善を進めているという。

2019年の禁止規定は、国防権限法(National Defense Authorization Act、NDAA)の第889条という特定の条項として署名されたもので、連邦政府機関がHuawei(ファーウェイ)、Hikvision(ハイクビジョン)、Dahuaなどの特定の中国企業およびLorexなどのその子会社が製造した電子機器を調達および購入することを違法としている。また、889条は連邦政府の請負業者が禁止された電子機器を連邦政府機関に販売することも禁止している。国防総省は、第889条に基づき、食料品や衣料品などのリスクの低い物品を購入するための一部の例外を認める免除措置を受けているが、電子機器や監視装置は認められていない。

また購買記録によると、国防総省の財務管理と軍人への支払いを担当する、米国防総省国防予算経理局(Defense Finance and Accounting Service、DFAS)が2021年7月、ニューヨークのFocus Cameraという店を通じてLorex製のビデオ監視カメラを購入していた。

DFASの広報担当者であるSteve Lawson(スティーブ・ローソン)氏は、eメールで次のように述べている。「2021年7月、DFASの一拠点において建物内の孤立したエリアを監視するためのセキュリティカメラの必要性を確認しました。2019年ジョン・マケイン国防権限法(NDAA)の889条(a)(1)(A)と、特定の通信や映像監視サービスおよび機器に関連する制限を認識していたため、GSA契約を利用して調査を行いました。また、購入した製品や部品がFY19 NDAAで制限されていないことを証明する情報を提供するようサプライヤーに要求しています。今回のご連絡を受け、慎重を期してさらなる分析が行われるまでカメラとコントローラーを無効化いたしました。ご指摘をいただきありがとうございました」。

またこの記録によると、陸軍省が2019年から2021年にかけて、I.S.Enterprises、Focus Camera、そしてカリフォルニア州グレンデールを拠点とするJLogisticsという3つのベンダーからLorexの映像監視カメラと録画機器を購入している。

陸軍はメールによる声明で、これに関する責任は機器を提供した請負業者にあるとほのめかしている。

陸軍報道官のBrandon Kelley(ブランドン・ケリー)中佐によると「2020年8月13日、国防総省は2019年国防権限法889条およびPublic Law 115-232の禁止事項を実施しました。連邦契約でプロポーザルを行う企業は、Public Law 115-232で要求されるものを含む連邦調達規則および国防省の補足条項の遵守をSystem for Award Managementのウェブサイトで表明する必要があります。米国コードのタイトル18、または虚偽請求取締法に基づく民事責任は、企業が虚偽の表示をした場合に適用されます」とのことだ。

下院軍事委員会の民主党広報担当者であるMonica Matoush(モニカ・マトウシュ)氏は声明の中で、委員会は「国防総省がこれらの報告を調査し、立証された場合には被害を軽減し、将来の問題を防ぐために適切な行動をとることを期待する」と伝えている。

また、購入記録によると、禁止令が発効した後も他の連邦政府や軍の機関がLorexの機器を購入したとされている。TechCrunchはこれらの機関に問い合わせてみたが、返答してくれた機関の広報担当者は購入記録がいつ提供されたかについてすぐには確認できず、コメントも得られなかった。ある軍事機関は、回答には「数週間」かかると述べている。

上院情報委員会の委員長であるMark Warner(マーク・ワーナー)上院議員(D-VA)は、TechCrunchに対して次のように話している。「今回のケースの詳細は聞いていませんが、政府の省庁が購入する商用機器の出所をもっと正確に理解する必要があり、こうした購入の意思決定をする人がリスクを認識しているということを確認する必要があると考えています。議会が2019年の法案にこれらの条項を盛り込んだのはこのためなのです。簡単に言えば、安全保障上のリスクがある企業や、中国のウイグル人などの少数民族に対する弾圧キャンペーンを助長するなど、人権侵害に積極的に関与していると判断された企業を、連邦政府の購買により支援することは絶対にあってはなりません。この主張が事実であれば、このようなことが二度と起こらないようにしなければなりません」。

I.S.Enterprisesの共同設立者であるEddie Migues(エディ・ミゲス)氏に今回の購入について尋ねたところ、同社はこの問題を調査中であると回答。Focus CameraとJLogisticsはコメントを求めても応じてくれなかった。

禁止された機器を政府に提供した請負業者は契約を失う可能性もあるが、この禁止令が発効する前、連邦政府の請負業者には遵守するための準備期間がほとんど与えられなかったと業界団体は主張している。

2020年、米国情報技術工業協議会は「このような広範囲にわたる要求事項の規則の策定に時間がかかったため、請負業者は法の方針を一貫して満たすことができない可能性がある」と伝えている

コメントを求めたところ、Lorexの広報担当者はTechCrunchに次のように回答してくれた。「Lorexの製品は、一般消費者および企業向けに設計されており、NDAAの対象となる米国連邦政府機関、連邦政府出資のプロジェクトおよび請負業者向けではありません。LorexはNDAAの対象となるいかなる個人や組織にも直接販売しておらず、購入者にはこれらの規制を熟知し、遵守することを推奨しています」。

関連記事:本記事はビデオ監視ニュースサイトIPVMとの提携によるものとなる。

画像クレジット:R. Tsubin / Getty Images

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Dragonfly)

女性が起こしたソフトウェア企業へのベンチャー投資は全体のわずか1.9%:Work-Benchレポート

アーリーステージのベンチャーキャピタルファームWork-Bench(ワークベンチ)が発表した新しいレポートによると、みなさんがすでにご存知の通り、女性が創業したスタートアップは、資金調達のパイ全体の中でほんのひと握りしか得られていない。しかも、Work-Benchが投資を行うことが多い企業では、その割合ははるかに悪いものとなっている。

PitchBookやCrunchbaseのデータ、そしてWork-Benchの調査によると、資金提供を受けているスタートアップの25%以上に少なくとも1人の女性創業者が含まれていたが、法人向けソフトウェア企業に限ってみると、その数は1.9%にまで激減する。

実は、この数字がほとんど意味をなさないことは、調査によって証明されている。報告書の著者は「女性が率いるチームは、男性が率いるチームに比べて、35%高い投資利益率を生み出すことが研究で示されている」と述べている。

しかし、格差はまだ続いている。

Work-Benchの共同創業者でゼネラルパートナーのJessica Lin(ジェシカ・リン)氏は、会社を設立した動機の1つとして、企業レベル、スタートアップの創業者、そして特に財布の紐を握っているVC企業において、女性の代表が根強く不足していることを挙げている。

Work-Benchはまず、女性創業者のデータベースを構築することから始めた。4年かけて作成し、定期的に更新している。このデータベースは一般公開されている。「行動を変えるにはデータも必要だと私はいつも言っています」とリン氏は筆者に語った。

今回のレポートは、そのデータを活用して、投資家に問題の深刻さを示し、時系列で進捗状況を追跡することを目的としている。その中でも同氏は特にWork-Benchが事業を展開している企業にフォーカスしたかった。というのも、その分野のデータが明らかに不足していたからだ。

「私たちが『レポートにまとめよう』と言ったのは今回が初めてです。ですから、1年後には2%以下だった数字が3%になっていることをお伝えしたいですね。しかし、どこかに基準を設けなければなりませんでした」とリン氏は話す。

数字は小さいが、資金提供を受けたスタートアップ企業に女性がより多く参加している分野がいくつかある。圧倒的に多いのは「HR/未来の仕事」で35.1%、次いで「データ/AI/機械学習」が19.8%「営業・マーケティング」が12.2%となっている。

画像クレジット:Work-Bench

女性はさまざまな課題に直面している。まず第一に、大手テック企業でリーダーシップを発揮する女性がまだ少ないことだ。より多くの女性がより高い給料の仕事に就けば、メンターとしての役割を果たすだけでなく、エンジェルラウンドに参加して、女性主導のスタートアップを増やすことができるかもしれない。

Idit Levine(アイディット・レヴィーン)氏は、クラウドネイティブソフトウェアを提供するスタートアップSolo.ioを経営している。同社は最近、10億ドル(約1133億円)の評価額で1億3500万ドル(約153億円)のシリーズC資金を獲得した。資金調達の際にレヴィーン氏が筆者に語ったように、同氏はテック業界の形骸化に不満を抱いている。

私は女性だからといって、このような割引をして欲しいと頼んだことはありません。実際、それが苛立たしいこともありました。あなたが女性だから、話をしたい。むかつきました。私が優秀だからこそ、私に話をしたいのです。

しかし、多くの女性にはレヴィーン氏のような自信はない。New StackはKubeConで行われた最近のパネルについて報じていて、パネルでは女性グループがクラウドネイティブテクノロジーの分野で過小評価されているグループとして直面する障壁について語った。パネリストの多くは、明らかにスキルや能力を持っているにもかかわらず、自分の居場所がないように感じてしまう「インポスター症候群」という、過小評価されているグループに共通する感情を明らかにした。

コロンビア州ボゴタにあるADL Digital LabsのSREテクニカルプログラムマネージャーであるYury Roa(ユリー・ロア)氏は、6月にTechCrunchに掲載された4人の女性エンジニアの体験談の中で、インポスター症候群が技術分野の女性にとって真の障害になり得ると語っている。

部屋の中で唯一の女性であることに関連する私たちの障壁の1つは、インポスター症候群(につながる可能性があること)です。なぜなら、同症候群は唯一の女性や少数の女性の1人であるとよくあることで、私たちにとっては本当に難しいことです。このような場合には、女性を含むロールモデルやリーダーシップを持つことが非常に重要になります。

関連記事:職場でのハラスメントと孤立感、不屈の精神について4人の女性エンジニアに聞く

Work-Benchは、システムにおける不公平さを示すデータを提供することで、大きなインパクトを与えようとしている小さな会社だ。リン氏がいうように、データは変化をもたらすものだが、この数字を動かすためには、本格的なシステムの変革が必要だ。そのためには、より多くの女性が幹部として昇進し、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルとして投資を行う必要がある。

そうして初めて、真の意味で針を動かすことができる。なぜなら、1.9%では十分ではないからだ。まったく十分ではない。

画像クレジット:Klaus Vedfelt / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

新型コロナ「ワクチン接種証明書アプリ」は12月20日提供開始、申請にはマイナンバーカード必須

新型コロナ「ワクチン接種証明書アプリ」が12月20日提供開始、申請にはマイナンバーカード必須

岸田総理大臣は、新型コロナウイルスのワクチン接種証明書アプリを12月20日より提供すると明らかにしました。

また、厚生労働省によると、新型コロナワクチンの接種証明書(電子版)は、スマートフォンの専用アプリから申請・取得し、二次元コードで表示する方式。

上記申請時の本人確認にはマインナンバーカードが必要で、自治体によってはマイナンバーカードの申請から交付の準備までに1か月程度かかることから、アプリによる接種証明書の利用を検討している場合には、マイナンバーカードの申請を早めに済ませるよう呼びかけています。

(Source:厚生労働省Engadget日本版より転載)

【コラム】誕生から10年、ソーシャルメディアなども活用するデジタル外交は次のフェーズに

英国レバノン大使 Tom Fletcher(トム・フレッチャー)氏は、外交にデジタル技術を持ち込んだ最初の大使の1人だ。10年が経った今、同氏が「テクノ外交」の最初の波で、うまくいった点といかなかった点を振り返り、今後のデジタル外交について考える。

外交はかつては、外交儀礼、決まり文句、地図と男によって支配されていた世界であった。しかし、あらゆる産業や技能職がそうであるように、外交もデジタル技術によって大きく様変わりしている。

多くの専門職では、目立った効果の大半は道具に現れる。外交でも、外交キット、通信手段(外部と内部)、作業スピードなどがすべて向上した。しかし、これも他の専門職と同様、本当の効果は明白な形ではなく、文化面に現れる。力関係の変化を認識することでもたらされる謙虚さ、新しいツールによって実現される敏捷性、より包括的になることでもたらされる効率性、今まで閉じられていた世界に対する国民の理解が向上することによってもたらされる透明性などだ。

10年前の秋、私は英国のレバノン大使に任命された。私は当時36歳で、大使としては若かった。アラブの春で中東では若者がいきり立っており、私はテクノロジーの変化によって政治と人々の関係が様変わりするのだろうかと考えていた。私は、新しい試みを始めた(これはその後、Twiplomacy(ツイッター外交)などといういくらかのぎこちない呼ばれ方を経て、最終的に「digital diplomacy(デジタル外交)」と呼ばれることになる)。10年を経て、デジタル外交は3つのフェーズを経験し、今4つ目のフェーズの入り口に立っている。多くのことが達成された。しかし、さらに多くの庶民的なスキルを政治に活用しようとするなら、これまでの試みで何が成功し何が失敗したのかを考える必要がある。

第2フェーズはすばらしい新世界だった。Hillary Clinton(ヒラリー・クリントン)国務長官が進めた21世紀の国政術プログラムにより、このフェーズでは、米国国務省は、外交に通信および接続のための新しいツールを使う方法について、期待と楽観に満ちていた。そうしたツールを純粋に受け入れ適応していった当時の外交官にとって、それはワクワクするような時代だった。国によって定められたルールは緩いものだった。私はある大臣にこう言われたことがある。「君が何をやろうと私はまったく構わない。英国のメディアに漏れなければね」。我々の多くは、逮捕されるまで突き進むことが許された。たくさんの過ちを犯した。リスクも犯した。私が、頻繁にツイートしていたスマートフォンは、私の行動を追跡するためにテロリストに利用されていた。

しかし、この時期は、人々とつながり、かかわり、いくらかの謙虚さを見せたいという気持ちで人々を驚かせることができた時期でもあった。ソーシャルメディアによって社会が開かれ、本物のエージェンシーと自由が促進されることを想像するのは可能であるように思われた。ある英国の大使はLSDをやり過ぎて、中東で最も強力な武器はスマートフォンだと示唆したことさえある。これに関しては今のところ、間違っていたようだが。

第2フェーズは、デジタル外交の制度化、組織化だ。我々は古い皇帝と新しい皇帝の間の広範な対話が行える構造を作り始めた。テクノロジーのめまぐるしい変化のスピードが地政学に与える影響を懸念した私は、英国政府を去り、この取り組みが緊急を要することを論証しようと試みた。2017年の私の国連での報告の後、国連はテック大手と政府が互いにすれ違うのではなく話し合うための取り組みを始めた。国連のハイレベル委員会とグローバルテック委員会は、ザッカーバーグ氏を議会や議会の委員会に召喚する代わりに、世界の政治、経済、社会に変革をもたらそうとする者と名目上依然としてそれらを統括している者との間の意思疎通を図る純粋で効果的な試みだった。私は「The Naked Diplomat」で、各国が「テック大使」を任命することを提案した。デンマークは実際にこれに取り組み、テック企業に国と真の対話を進めるよう促して、成功している。

この間、各国の外務省は、他のどのテクノロジーよりもソーシャルメディアにいち早く適応した。2011年にTwitterのアカウントを開設していた英国大使は4人だけだったが、数年以内に、4人を除く全員がTwitterのアカウントを開設し、中にはエジプト大使John Casson(ジョン・キャッソン)氏のように100万人を超えるフォロワーを獲得した者もいた。大使たちには影響を評価する方法があまりないため、ソーシャルメディアを試してみたいという強い気持ちがあった。私は、大使が出席する20以上の会議でスピーチをして、同僚の大使たちにソーシャルメディアを試すことで、大使の人間的な面を見せて(単に情報を伝達するのではなく)市民と関わりを持つよう促した。彼らにはよく次のようにアドバイスした。「ソーシャルメディアというのは想像し得る最大の外交レセプションのようなものだ。部屋の隅で黙っていたり、部屋中に響くような声で怒鳴ってはならない」と。もちろん、さまざまなリスクはあった。だが、最大のリスクは市民と対話できる場に参加しないことだった。

多くの大使たちがこのアプローチを採用し始めたが、外務省は、コミュニケーションにおける敏捷さと機密保持という新たなトレードオフに直面していた。私は2016年の外務省のレビューで、機密保持より敏捷さを取ることを勧めた。おそらくKim Darroch(キム・ダロック)卿(優れた駐米大使だったが、Trump(トランプ)前大統領に関して本国に伝えた電文が漏洩し辞任に追い込まれた)は同意しなかっただろう。しかし、我々は今や、この敏捷なコミュニケーション機能に依存しているのだ。

この2年間の外交は、ZoomとWhatsAppなしでは考えられなかっただろう。首脳たちが直接会見するのをできる限り避けるためにあらゆる手段を尽くす立場である外交官は、ビデオ会議が真剣な選択肢となるや、いち早く導入を決めた。パンデミックによってサミットやコンファレンスのオンライン開催が推進され、大量のCO2が削減されると同時に、明らかな悪影響もほとんどなかった。

第3フェーズは第2フェーズと重なる部分もあるが、帝国の逆襲だ。独裁政権がデジタルテクノロジーを使って自由を抑圧する新しい方法を見出したのだ。トランプ氏はTwitterを利用して、外国嫌い、偏見、暴動に火を付ける一方で、国内ではよりクリエイティブにテクノロジーを活用して、潜在的な協力者の称賛を得ようとしたり、外交上の敵対勢力を抑え込んだりした。一方ロシアのVladimir Putin(ウラジミール・プーチン)はインターネットを民主主義に対抗する武器として利用し、荒らし行為を連発した。Twitterモブにより、複雑な外交上の立場の微妙なニュアンスを伝えることは難しくなった。ましてや、ソーシャルメディアを使って妥協をはかったり、合意に達するなど不可能だった。分裂を誘うクリックバイトが置かれ、中立的立場が維持されることはなかった。政府はサイバー空間が新しい戦場であることを認識し、防衛という立場からサイバー空間を考えるようになった。

一方テック大手は成長し、場合によっては、政府よりもパワフルで保守的な組織と化した。私は2013年に、半分冗談で、Googleに国家安全保障会議への加入を依頼すべきではという声を上げたことがある。今となってはGoogleはなぜわざわざそんな面倒なことをする必要があるのかと聞いてくるかもしれない。テック大手は成長し力を誇示しながら、密かに人材を確保し、政府から税金だけでなく人的資本も奪っていった。その象徴的な、そしておそらく不可避的な例として、デンマーク最初のテック大使はMicrosoftに、英国自由民主党の党首はFacebookに引き抜かれた。法律的な軍拡競争が激しくなる中、EUがデータや扇動的行為を巡ってテック大手と大きな衝突を繰り返したことで、テック大手といっしょにより多くの問題を解決していけると純粋に信じていたすばらしい新世界フェーズの理想とは程遠い状態となった。

現在はどのような段階にあるのだろうか。私は今、テクノロジーと外交に関してはどちらかというと現実主義者だが、楽観的な側面も失ってはいない。私たちはまだ、持続可能な開発目標を含め、いっしょに難題に立ち向かっていける。ただし、それには、政府が自分だけではできないことについて、もっと正直になる必要がある。テック企業は、動きが遅くぎこちないことが多い政府ともっと寛大な気持ちで付き合う必要がある。そして、どこでテクノロジー自体が問題の一部となってしまったのかを正直に見直す必要がある。

とはいえ、外交は引き続きテクノロジーを使って効率化を推進できる。ニューヨーク大学にある私の研究グループは、外交官が空気を読むためのウェアラブルテクノロジー、外交記録の保存作業を改善するDiplopedia、世論に対する理解を深めるための感情マイニングの合理的かつ透過的な利用などに取り組んでいる。私は、国民が戦争の問題を厳しく監視するほど、政府の政策は平和志向的になるという仮説を支持している。おそらく外交で最もワクワクする分野は、外交を集合心理学およびソーシャルメディアの最先端テクノロジーと組み合わせて、国家同士ではなく社会同士の和解、および国家とその過去との和解を実現できる可能性があることだろう。

デジタル外交の次のフェーズでは、大いなる和解プロセスにも取り組む必要がある。すなわち、地球、テック大手、若者と高齢者、移住者と受け入れ側コミュニティ、そして最終的にはテクノロジー自体との和解である。私は、これらすべての和解においてより良い結果をもたらすために、デジタル外交が役立つと考えている。

最後に、デジタル外交の次のフェーズでは、外交官は、専門技能職としての基本に立ち返ることになるだろう。共感と感情的知性などの必須の外交スキルを備えた市民外交官を育成するための取り組みをもっと強化していく必要がある。その意味で教育は外交の上流にあるものだ。これは私がいろいろな場所で提案してきたことだが、このオンラインの世界での自由を守るためのグローバルなルールを書き直すには、昔ながらの紙と鉛筆を使った取り組みが必要になる。大使館という閉鎖的な空間から抜け出して、つながるために派遣された使節団としての本来のミッションに立ち返る必要がある。Edward Murrow(エド・マロー)は、決して自動化されるのことのない何物にも替えがたい外交スキルとしての人間的なつながりを「究極の3フィート(last three feet)」と呼んだ。我々が必要としているのは、今でも究極の3フィートを実行できる外交官だ。

この課題はワクワクもするが、急を要する。外交が存在しないなら発明する必要がある。だが、今は外交を再発明する必要がある。それは外交官だけに任せておけない極めて重大な問題だ。

編集部注:本稿の執筆者、CMGのTom Fletcher(トム・フレッチャー)氏は、オックスフォード大学ハートフォード・カレッジの校長。元英国大使で、3人の首相の外交政策アドバイザーを務め、ニューヨーク大学の客員教授でもある。

画像クレジット:Achim Sass / Getty Images

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(文:Tom Fletcher、翻訳:Dragonfly)

【コラム】強力な商業プラットフォームに対する欧州のデジタル規制は、ウィキペディアのような非営利協働型サイトも縛る

2020年に新型コロナウイルス(COVID-19)が世界中に急速に広まる中で、世界中のみんなが信頼できる情報を渇望した。科学者、ジャーナリスト、医療関係者からの情報を集約して、一般の人々がアクセスできるようにするために、ボランティアのグローバルネットワークがこの課題に取り組んだ。

そのうちの2人は、お互いから3200km近く離れた場所に住んでいる。その1人Alaa Najjar(アラア・ナジャー)博士は、ウィキペディアのボランティアであり、医師でもある人物だ。彼は救急病院での勤務の合間を縫って、アラビア語版のサイトにおける新型コロナの誤報に取り組んでいる。もう1人、スウェーデン在住の臨床神経科学者で医師のNetha Hussain(ネサ・フセイン)博士は、オフの時間に新型コロナの記事を英語とマラヤーラム語(インド南西部の言語)で編集し、その後、新型コロナワクチンに関するウィキペディアの記事の改善に力を注いだ。

ナジャー博士とフセイン博士、そして28万人以上のボランティアのおかげで、ウィキペディアは 新型コロナに関する最新かつ包括的な知識を得ることができる最も信頼できる情報源の1つとなり、188の言語で約7000の記事が掲載されるまでになった。ウィキペディアがもつ、主要な病気についての情報提供から学生のテスト勉強の支援までをカバーする世界規模での到達性と知識共有の可能性は、ひとえにボランティア主導の協力的なモデルを可能にする法律があってこそ実現されている。

欧州議会は、デジタルサービス法(DSA)のようなパッケージを通じて、ビッグテックのプラットフォームのウェブサイトやアプリで増幅される違法コンテンツの責任を追及することを目的とした新しい規制を検討しているが、彼らは同時に公共の利益のために協力する市民の働きを保護しなければならない。

多くの国で違法とされているコンテンツを含め、身体的・心理的な被害をもたらすコンテンツの拡散を食い止めようとしている議員たちの姿勢は正しいものだ。彼らが包括的なDSAのためのさまざまな条項を検討している中で、私たちは、プラットフォームのコンテンツモデレーションがどのように機能すべきかについての透明性を高めるための要件などを含む、提案されているいくつかの要素は歓迎している。

しかし、現在の草案には、利用規約をどのように適用すべきかについての指示的要件も含まれている。一見すると、それらはソーシャルメディアの台頭を抑制し、違法コンテンツの拡散を防ぎ、オンライン空間の安全性を確保するために必要な措置のように思える。しかし、ウィキペディアのようなプロジェクトはどうなるのだろうか?提案されている要件の中には、人びとの力を取り上げてプラットフォーム提供者に移管させる可能性のあるものも存在している。これによって大規模な商業プラットフォームとは異なる運営をしているデジタルプラットフォームが阻害される可能性があるのだ。

ビッグテックのプラットフォームは、ウィキペディアのような非営利の協働型サイトとは根本的に異なる方法で機能されている。ウィキペディアのボランティアによって作成されたすべての記事は、無料で利用可能で広告はなく、読者の閲覧習慣を追跡することもない。商業プラットフォームのインセンティブ構造は、利益とサイト滞在時間を最大化することで、そのために詳細なユーザープロファイルを活用したアルゴリズムを使って、利用者に対して影響を与える可能性の高いコンテンツを提供する。彼らは、コンテンツを自動的に管理するために、より多くのアルゴリズムを導入しているが、その結果、過剰規制と過小規制のエラーが発生する。例えば、コンピュータープログラムは、芸術作品風刺を違法なコンテンツと混同することが多く、プラットフォームの実際のルールを適用するために必要な人間のニュアンスや文脈を理解することができない。

ウィキメディア財団と、ウィキメディア・ドイツのような特定の国に拠点を置く関連団体は、ウィキペディアのボランティアと、ウィキペディアに存在すべき情報とそうでない情報について決定を下す彼らの自律性を尊重している。オンライン百科事典ウィキペディアのオープン編集モデルは、どの情報をウィキペディアに載せるかは利用者が決めるべきだという信念に基づいており、中立性と信頼性の高い情報源に対して、ボランティアが開発して確立された規則を活用している。

このモデルでは、ウィキペディアのどんなテーマの記事でも、そのテーマについて知っている人や関心のある人が、そのページでどのようなコンテンツが許可されるかを決めるという規則が適用されるのだ。さらに、プラットフォーム上での編集者間の会話はすべて公開されているため、コンテンツ管理は透明性が高く説明責任が果たされている。これは完璧なシステムではないが、ウィキペディアを中立的で検証された情報の世界的な情報源とするためにはほぼ機能している

ウィキペディアを、読者や編集者への説明責任を欠いた、トップダウンの権力構造を持つ商業プラットフォームのように運営せよと強いることは、コンテンツに関する重要な決定からコミュニティを排除することであり、DSAの真の公益的意図を覆すことになるといっても間違いではない。

インターネットは変曲点を迎えている。民主主義と市民の空間は、ヨーロッパをはじめ世界中で攻撃を受けている。私たち全員が今まで以上に、新しい形の文化、科学、参加、知識を可能にするオンライン環境を、新しい規則が妨げるのではなく促進するにはどうすれば良いかを注意深く考える必要がある。

議員たちは、私たちのような公益団体と協力することで、より包括的で、より適用可能で、より効果的な基準や原則を策定することができるだろう。だが、最も強力な商業インターネットプラットフォームのみを対象としたルールを課すべきではない。

私たちは、より良い、より安全なインターネットを手にすることができるべきだ。私たちは議員に対して、ウィキメディアを含むさまざまな分野の協力者ともに、市民がともに改善できる力を与えるような規制を策定することを求めたい。

編集部注:著者のAmanda Keton(アマンダ・ケトン)氏はウィキメディア財団の顧問、
Christian Humborg(クリスチャン・ハンボルグ)氏は、ウィキメディア・ドイツのエグゼクティブ・ディレクターである。

画像クレジット:KTSDESIGN/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Getty Images

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(文: Amanda Keton、Christian Humborg、翻訳:sako)

全米労働関係委員会がアマゾン労働者による新しい組合投票を認可

全米労働関係委員会(NLRB)の第10地域のディレクターが、アラバマ州ベッセマーのアマゾンフルフィルメントセンターで働く労働者の新たな組合選挙を許可した。NLRBの代表者がTechCrunchにこの決定を確認したところによると、小売・卸売・百貨店労働組合(RWDSU)は2021年4月に敗北した後、同センターで働く労働者を組合に加入させる2度目のチャンスを得ることになる。

関連記事:アマゾンが労働組合結成をめぐる投票で勝利確定、RWDSUは結果に異議

その勝利はAmazon(アマゾン)の一方的なものだったが、RWDSUは、技術系ブルーカラー労働者の組合結成活動にとって大きな試練となることが予想されていた中、すぐにこの勝利はごまかしだと訴えた。当時、RWDSUはAmazonが「ひどく露骨な違法行為」によって従業員を「ガスライティング」していると非難した。

Amazonは当然ながらこの非難を否定し、次のように述べた「Amazonがこの選挙に勝ったのは、私たちが従業員を脅したからだと、組合がいうことは容易に予想できますが、それは事実ではありません。私たちの従業員は、私たちから聞いたことよりも、組合や政策立案者、メディアからはるかに多い反アマゾンのメッセージを聞いたのです」。

RWDSUの責任者であるStuart Appelbaum(スチュアート・アッペルバウム)氏は米国時間11月29日日の声明で、今回の判決がこれまでの主張を裏づけるものであると述べている。「本日の決定は、我々がずっと言っていたことを裏付づるものです。アマゾンの脅迫と妨害によって、労働者が自分の職場に組合を作るかどうかについて公正な発言をすることができなくなったということであり、地域局長が指摘したように、それは受け入れがたいことであり、違法なことです。アマゾンの労働者は職場で自分自身の声を持つべきであり、それは組合でなければできないことなのです」。

新たな選挙の日程はまだ決まっていない。しかし、パンデミックとそれに続く経済不況の中で勢いを増した組合活動にとって、新たな全国的な火薬庫となることは間違いない。

「NLRBは、単位従業員の間で2回目の無記名投票による選挙を行う」と判決で述べた。「従業員は、団体交渉のためにRWDSUによって代表されることを希望するかどうかを投票します。選挙の方法、日時、場所は、第二次選挙の通知に明記されます」。

Amazonは、本日の判決に不快感を示しめしている。広報担当のKelly Nantel(ケリー・ナンテル)氏は声明の中で次のように指摘している。

当社の従業員は常に組合に加入するかどうかの選択権を持っており、2021年初めにはRWDSUに加入しないことを圧倒的多数で選択しました。今回、NLRBがこれらの票を数えるべきではないと判断したことは残念です。会社としては、組合が従業員にとって最良の答えであるとは考えていません。私たちは日々、従業員が自分の仕事を改善する方法を見つけられるようサポートし、それが見つかった時には、その変化を早く起こしています。このような継続的な改善は、労働組合が介在すると迅速かつ軽快に行うことができません。マネージャーと従業員が直接関係を持つことのメリットは、いくら強調してもし過ぎることはありません。この関係によって、一部の人の声だけでなく、すべての従業員の声を聞くことができます。賃金や安全性などの重要な分野では大きな進歩を遂げていますが、フルフィルメントセンターでもコーポレートオフィスでも、毎日をよくするために従業員と直接協力し、より良い方法を続けることができるものがたくさんあることを知っています。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Brian Heater、翻訳:Yuta Kaminishi)

Safariのプライバシー保護を迂回したトラッキングに対する損害補償を求める英国の集団訴訟上訴審でグーグルが勝訴

Google(グーグル)は英国最高裁で集団訴訟形式のプライバシー訴訟上訴審で勝訴した。もし敗訴していたら、最大30億ポンド(約4602億円)の罰金が課せられるところだった。

この長期に渡る訴訟は老練の消費者権限活動家Richard Lloyd(リチャード・ロイド)氏が起こしたものだ。同氏は2017年以来、グーグルがApple(アップル)のSafariのプライバシー保護設定を回避して、2011~2012年の間にSafariブラウザーのiPhoneユーザーのプイバシー設定を上書きしていたとして、400万人を超えると推定される英国のiPhoneユーザーのプライバシー侵害に対する補償を求めて集団訴訟裁判を戦ってきた。

ロイド氏の訴訟はプライバシー被害の損害賠償を求めて起こされたものだが、より広い意味では、データ保護違反の損害賠償を求めて英国で代表訴訟を起こせるようにしたいと考えてのことだ。英国の法律では一般に集団訴訟を起こすための体制が確立されていない。

2018年、高等法院はこの訴訟の審理停止を言い渡したが、翌2019年、控訴院はその判決を覆し、審理の継続を許可した。

しかし、今回、最高裁判決では、全会一致で、高等法院の見解は基本的に覆され、集団訴訟は停止された。

最高裁判事は、賠償を請求するには損害 / 損失を被っている必要があり、個人ベースでの損害 / 損失を証明する必要性を省略することはできないという考え方を示した。つまり、代表集団の個々人の個人データの「コントロールの喪失」について、ロイド氏の訴訟で要求されてきたように一律に補償を行うことはできないということだ。

「こうした事項を証明できなければ、損害請求によって賠償金を獲得することはできない」と最高裁は自身の判決について記述している。

この判決はトラッキング業界に対する集団訴訟を起こすことができるようにしたいという英国運動家の望みに大きな打撃を与えた。

グーグルがこの訴訟に負けていたら、プライバシー違反に対するより多くの代表訴訟への門戸が開いていたことだろう。しかし、グーグル勝訴したことで、近年、商業訴訟資金提供者を惹き付けてきた、データマイニングテック大手を相手取った英国の集団訴訟の動きに水を差すことになるだろう。

関連記事:オラクルとセールスフォースのCookie追跡がGDPR違反の集団訴訟に発展

今回の判決を受けてBLMという法律事務所は次のように書いている。「今回の結果は、大量のデータを処理したり、個人データの利用にビジネスモデルの基盤を置いているグーグルやその他の企業(およびそうした企業の株主や保険業者)にとってうれしい知らせとなるでしょう」。

別のLinklaters LLPという法律事務所は、この判決を「データ漏洩領域における損害で新しいオプトアウト体制を作り上げようとしてきた原告の法律事務所や資金提供者には大きな痛手」と評している。

「判決後にたくさんの似たような訴訟が起こると期待していましたが、それも消えてなくなりました」とLinklatersの紛争解決パートナーHarriet Ellis(ハリエット・エリス)氏は付け加えた。「原告の法律事務所は今回の判決を慎重に見直して、それでもまだオプトアウト集団訴訟を戦える可能性が残されていないか調べていますが、かなり難しいようです」。

TechCrunchは前回ロイド氏の代理人を引き受けた法律事務所Mishcon de Reya(ミシュコンデレイヤ)に連絡し、コメントを求めた。同事務所によると、この件に関しては前回ロイド氏の代理人を務めたものの、最高裁訴訟では代理人の務めを果たしていなかったという。

同事務所のデータ実務責任者Adam Rose(アダム・ローズ)氏は次のように付け加えた。「被告が勝訴したものの、今回の判決でデータ保護違反の補償請求が終わりを告げると判断するのは時期尚早だと思います」。

「最高裁はグーグル側の主張を支持したものの、この判決は主に、現在は廃止された1998年データ保護法のもとでこうした訴訟を起こす法的メカニズムに関して判断を下したもので、データ保護法の包括的な権利と原則を否定するものではありません。つまり、まだ説得力ある議論を行う余地は間違いなく残されています。とりわけ、新しい英国GDPRの枠組みのもとでは、特定の集団訴訟の審理が認められていますし、データ保護法違反で補償が適切と認められるケースはあると思います」とローズ氏はいい、次のように付け加えた。「今回の判決でバトンは議会と情報コミッショナーに渡された形になります」。

「議会では、データ保護法のもとでオプトアウト訴訟をより簡単に起こせるようにするには法律が必要だということになるかもしれません。情報コミッショナーの立場からすると、故意かつ大規模なデータ保護法違反に対する断固たる強制行動と、データ主体に対して効果的な司法救済を与えることが早急に必要とされています。これは英国GDPRと現行のデータ保護フレームワークで約束されていることです」。

グーグルは今回の最高裁判決を受けて、裁判の詳細に関する考察は避け、次のようにコメントするだけに留めている。

この訴訟は、10年前に起こり当時当社が対処した出来事に関連するものです。人々はオンライン上でも安全かつセキュアでいたいと思っています。我々が人々のプライバシーを尊重し保護する製品とインフラストラクチャを構築することを長年重視してきたのもそうした理由からです。

グーグルの広報担当はtechUK事業者団体によって出された声明も提示した。同団体は、今回の訴訟でグーグル支持の立場で仲裁に入り、今回の判決について次のようにコメントしている。「今回の上訴が棄却されていたら、膨大なデータを操作するデータコントローラー企業に対して思惑的にいやがらせで訴訟を起こす扉が開かれることになり、民間企業、公的機関の双方に広範な影響が出ていたでしょう」。

techUKはさらに次のように続ける。「我々は代表訴訟に反対するものではありませんが、訴訟を起こすのであれば、まず、データ侵害の結果として個人に損害がもたらされたかどうかを明確にする必要があります。補償請求はその後です」。

ただし、最高裁の判事は「オプトイン」(オプトアウトではない)訴訟の裁判費用について、1人当たりの補償額が数百ポンド(数万円)にしかならない場合、裁判に持ち込むメリットがまったくなくなってしまう(ロイド訴訟では提示額は1人あたり750ポンドだった)と指摘している。というのは、原告1人あたりの裁判費用が補償額を容易に上回ってしまう可能性があるからだ、と指摘している。

はっきりいうと、techUKは、ほぼすべてのデータ侵害に対して代表訴訟を起こすことに反対の立場をとっている。

一方、英国のデータ保護監視機関は、データマイニングアドテック産業に対する法執行についてはまったく消極的だ。2019年以来、ICO(プライバシー監視機関)が違法トラッキングのまん延について警告しているにもかかわらずだ。

英国政府は現在、国内のデータ保護体制の弱体化対策に取り組んでいる

このように、英国の法律に記載されている平均的な英国市民のプライバシーの権利は、今かなりあいまいになっている。

米国では、グーグルは10年前、SafariのCookieトラッキング問題についてFTCと同意し、Safariのプライバシー設定を迂回して消費者にターゲット広告を配信したことについて、2012年に2250万ドルの罰金を支払うことに合意した(ただし、不正行為については認めなかった)。

人権グループも、今回の最高裁判決を受けて、政府に集団的回復の法制化求めた。

Open Rights Groupの事務局長Jim Killock(ジム・キロック)氏は次のように語った。「市民が大規模なデータ侵害に対して、家を手放すリスクを負うことも、情報保護監督機関のみに依存することもなく、回復を求める手段があってしかるべきです」。

ICOはすべてのケースに対応できるわけではなく、ときには、対応を渋ることもあります。我々は2年間にわたって、ICOが違法行為を認めているアドテック業界に対する対策を待ち続けてきました。しかし、対策が実施される様子はありません」。

「このようなケースで法廷費用を支払うために家を手放すリスクを負うのはまったく不合理です。しかし、集団訴訟ができなければ、残された道はそれしかありません。多くの場合、テック大手相手にデータ保護を実施するのは極めて困難です」。

「政府は約束を守り、GDPRのもとでの集団訴訟の実施を検討すべきです。しかし、政府は2月に、ロイドvs.グーグル訴訟で既存のルールのもとでも回復は可能であることが示されたという理由で、集団訴訟の実施を明確に拒否しました」。

画像クレジット:Chesnot/Getty Images / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

イタリア、アップルとグーグルに対して「強引」なデータ処理で各13億円の罰金

イタリアの競争・市場当局(AGCM)は、Apple(アップル)とGoogle(グーグル)が、ユーザーのデータを商業的に利用する際にユーザーに十分な情報を提供せず、同国の消費者規則に違反したとして、両社にそれぞれ1000万ユーロ(約13億円)の罰金を科した。

また、AGCMは、両社がユーザーに商業利用を承諾させるために「強引」な商業慣行を展開していたと非難している。

AppleとGoogleにACGMの制裁への対応を尋ねたところ、両社とも控訴すると述べた。

Googleは、アカウント作成時やユーザーのサービス利用時に関連情報を省略していたと非難されている。これらの情報は、商業目的でのデータ利用に同意するかどうかをユーザーが判断するために提供されるべきものだと規制当局は指摘する。

AGCMはまた、ユーザーがApple IDを作成したり、App Storeなどのデジタルストアにアクセスしたりする際に、情報を商業目的でどのように使用するかについての明確な情報をユーザーに即座に提供していないとして、Appleを非難している。

これは、消費者のプライバシー擁護者としてのAppleのイメージを考えると、かなり驚くべき制裁だ(もちろん、同社のデバイスやサービスは、Google製のような広告付きの安価な代替品と比較して、プレミアムが付く傾向にあることはいうまでもない)。

イタリアの規制当局は、今回の制裁を発表したプレスリリースの中で、両社の慣行をひとまとめにし、特にアカウント作成の段階で、それぞれのユーザーに利己的な商業条件を強引に押し付けていると非難している。

Googleについては、ユーザーが商業的処理を受け入れることを前もって決めている点をACGMは指摘している。また、アドテック大企業である同社は、アカウント作成のステップが完了した後、ユーザーがこれらのデータ転送への同意を後で撤回したり、選択を変更したりするための明確な方法を提供していないことも指摘している。

そして、Appleのアプローチについては、ユーザーが自分のデータの商業利用について適切に選択する能力を否定しているという見解を示している。規制当局は、Appleのデータ取得慣行とアーキテクチャは、本質的に消費者が商取引条件を受け入れることを「条件」としていると主張している。

かなりのマーケティング費用を投じて、自社のデバイスやソフトウェアが他の製品(Googleのものなど)よりも優れていることを示唆しているAppleにとっては、ユーザーのプライバシーを重視していると主張しているだけに、厄介な指摘だ。

Appleは声明の中で、ACGMの指摘を否定し、次のように述べている。

「我々は、当局の見解が間違っていると確信しており、この決定については不服として控訴します。Appleは、ユーザーのプライバシーを尊重することに長年にわたって取り組んでおり、顧客のデータを保護する製品や機能を設計するために、非常に努力しています。当社は、すべてのユーザーに業界最高レベルの透明性とコントロールを提供し、共有する情報、共有しない情報、およびその使用方法を選択できるようにしています」

Googleの広報担当者もこの調査結果に同意せず、次のような声明を出した。

「Googleは、ユーザーに便利なツールと使用状況に関する明確な情報を提供するために、透明で公正な慣行を行っています。ユーザーには、自分の情報を管理し、個人データの使用を制限するための簡単なコントロールを提供しており、消費者保護規則に完全に準拠するよう努めています。当局の決定には同意できず、控訴する予定です」

ACGMの決定内容の全文はこちら(AppleGoogle)で閲覧できる。

イタリアの規制当局はここ数日、大手テック企業の非難で忙しかった。今週初め、当局はAmazon(アマゾン)のイタリア市場でのApple製品販売をめぐる談合の疑いで、AppleとAmazonに総額2億3000万ドル(約260億円)の罰金を科した。

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また、ACGMはここ数年、ハイテク企業に対する調査を強化しており、2021年初めには、ユーザーのデータを商業的に利用した同様の問題でFacebook(フェイスブック)に罰金を科し、今夏には、Android Autoに関連してGoogleに1億2300万ドル(約139億円)の罰金を科した。また、Googleの広告表示事業についても公開調査を行っている

近年、ACGMが科した罰金には、iPhoneの防水性についてユーザーに誤解を与えたとしてAppleに対するものや、デバイスの速度低下についてAppleとSamsung(サムスン)に科したものなどがある

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi