暗号通貨業界は、不正を働くテクノロジー狂が参入する分野だという誤解が広がっている。しかし現実は、フィンテック業界で最も野心的な起業家の多くが、制度化されたビットコイン採用に多大な投資をしている。
Volt Capital(ボルトキャピタル)のSoona Amhaz(スーナ・アマーズ)氏もその一人である。同氏は、フォーブス誌が最近、シリコンバレーで最も影響力のある人物の一人に挙げた、レバノン系アメリカ人のベンチャーキャピタリストである。彼女がReddit(レディット)でビットコインについて知ったのは、ミシガン大学工学部の学生だった頃だ。現在彼女の会社は11社の暗号通貨系スタートアップに投資しており、Chicago DeFi Alliance(シカゴDeFiアライアンス)(CDA)のメンバーであるTD Ameritrade(TDアメリトレード)、Cumberland(カンバーランド)、CMT Digital(CMTデジタル)などの機関投資家と協力して活動している。
「現在の機関投資家は、早い時期に優秀な起業家を支援しようとしています。彼らは、こうした多くの(暗号通貨)プロジェクトのマーケットメーカーになることを目指しており、分散型金融(DeFi)プロジェクトと社会に定着した金融会社との統合およびパートナーシップを支援したいと考えています」とアマーズ氏は述べた。また「機関投資家はプロジェクトの先を読むことができます。もっと賢明であれば先手を打つこともできます」とも語った。
アマーズ氏によると、「DeFi」という言葉は、必ずビットコインと、このパンデミック中にデイトレーダーの間で人気を集めたさまざまなブロックチェーンベースのシステムとともに使用される。
「現在ますます注目を集めているDeFiプロジェクトには、自動化されたマーケットメーカー(AMM)、分散型取引所(DEX)集約のためのステーブルコインとプラットフォーム、融資とデリバティブなどが取り入れられています」とアマーズ氏は述べ、「最近のDeFiプロジェクトは、ビットコインを準備資産ではなく生産的資産として使用するための手段を多く提供しているにすぎません」と語った。
これまでほとんどの機関投資家は、暗号通貨への間接エクスポージャーを好んでいた。2013年にデリバティブ取引を提供するLedgerX(レジャーX)を共同設立した、Goldman Sachs(ゴールドマンサックス)出身のJuthica Chou(ジュシカ・シュー)氏は、物理的に決済されるビットコイン先物取引の先駆者である。このビットコイン先物取引は、Bakkt(バックト)やCME Group(GMEグループ)などの企業で現在主流になっている。先物契約とビットコインのオプションにより、機関投資家は、ビットコインを直接所有しなくてもビットコインの価格に賭けることができる。現金決済の商品では、購入者は、ビットコインで支払いを受けるのではなく、たとえば1万ドル(約105万円)で購入するオプションの期限が切れたときに1万ドル(約105万円)を受け取るなど、ドルで支払いを受ける。噂では、資産運用大手企業BlackRock(ブラックロック)がビットコイン先物商品を提供する次の投資家になると言われている。
これまでのところ、多くの機関投資家は、リスクを低くするためなら利益の一部を諦めることもいとわない。機関投資家に最も人気のある商品プロバイダーの1つGrayscale’s Bitcoin Trust(グレースケール・ビットコイン・トラスト)(GBTC)は、伝えられるところによると、2021年1月に12億ドル(約1267億円)の新規投資家向け資金を見込んでいたようだ。
「依然としてオプションとデリバティブについては強気の見通しを持っています」とシュー氏は述べ、GBTCのような信託シェア、ビットコインオプション、さらには将来性のある上場投資信託(ETF)に対する機関投資家の需要は十分にあるため、2021年にはすべての投資家が莫大な富を生み出すことになる、と付け加えた。
また「現在の環境には、2013年当時よりもはるかに多くのインフラストラクチャが存在します」と話し、「証券保管機関のためのセキュリティインフラストラクチャやベストプラクティスもありますし、監査インフラストラクチャもあります。銀行業務も良い例です。2013年と比べると、私たちがいた場所と今いる場所は昼と夜ほどの違いがあります」と述べた。
特にGBTCに関しては、ビットコインを保管するよりもリスクが低い株式への需要はとどまることを知らないため、非常に高額なプレミアム価格が付き、暗号通貨を直接購入するよりも最大100%高くなることがある。Valkyrie(ワルキューレ)のCEO、Leah Wald(リア・ワルド)氏が2020年にテキサスを拠点とする資産運用会社を立ち上げたのはこのためだ。Crunchbase(クランチベース)によると、彼女は昨年資金を調達した女性創業者およそ800人のうちの一人である。
「パンデミックの間は、自分のネットワークを有機的に広げることができず、資金を調達するのが本当に困難でした」とワルド氏は述べ、「誰かと会いたくても会うことができませんでした。シード投資で必要なことの大半は、チームを信頼すること、質の高い対面での会話を通して信頼を築くことなのです」と付け加えた。
しかし2021年1月までに、彼女のスタートアップはCoinbase(コインベース)出身のCharlie Lee(チャーリー・リー)氏のようなエンジェル投資家から非公開のシードラウンドで資金を調達し、証券取引委員会にビットコインETFのローンチ承認を申請した。シュー氏によると、このようなビットコインETFは「すでにブローカーや証券サービスを利用している人々が自由に参入」できるため、エコシステム全体を後押しするだろう。
ETFの提案は、Winklevoss(ウィンクルボス)兄弟のTyler(タイラー)氏とCameron(キャメロン)氏が2013年に提出した提案を皮切りに、何度も却下されてきたが、ワルド氏は「ETFを承認してもらうのに今ほどよいタイミングはないと確信しています」と言う。先物、オプション、信託シェア、ETFなど多くの商品があるが、これらの商品はすべて異なる形で規制されるため、原資産であるビットコインよりも早く換金したり、さまざまな方法で取引したりでき、規模の拡大も可能である。一般に機関投資家は、大抵は収益性が高い新興の暗号市場に対するにエクスポージャーを獲得するための、間接的な方法を模索している。
「ビットコインの時価総額は十分に高くなり、規制当局にとって、ビットコインはついに重要な基準を超えたかもしれません」とワルド氏は述べ、「2017年に規制当局がビットコインETFを承認することをためらった最大の理由は、資産管理のソリューションとセキュリティに関する懸念だったと思います。これについては私も理解できます。今では企業レベルのオプションを使用して、より優れたセキュリティと管理を提供できます」と語っている。
ワルド氏は、ワルキューレのビットコイン信託シェアと今後のETFは、ボラティリティとプレミアムを低減するように構成されている、と付け加えた。
「私たちは透明性の高い商品を作りたかったのです。基準価格(NAV)に近いところで商品が取引されるようにしたかったのです」とワルド氏は言い、次のように続けた。「私たちは、普通の投資家がビットコインへのエクスポージャーを購入できるように、ETFファンドをローンチした唯一のビットコイン信託です」。
暗号通貨を利用する女性起業家の間で起きているこの傾向は、アメリカのテックバブルに限ったことではない。香港を拠点とする暗号通貨と先物取引の取引所AAXのマーケティング責任者であるToya Zhang(トーヤ・チャン)氏によると、ワルド氏のプラットフォームでは、ユーザーの25%、および主要ユーザーの3分の1を女性が占めているという。
「当社の最大市場はロシアです。ロシア以外では、香港、韓国、インドネシア、インドがあります」とチャン氏は述べ、「アジアの女性は男性よりも熱心に資金管理をしています。中国と香港の株式投資ユーザーグループを見ると、女性が半数以上を占めています」と語った。
高度に専門化した暗号通貨市場は、他の金融セクターに比べて急速に多様化している。インドの仮想通貨取引所CoinSwitch.co(コインスイッチ)では、地域にもよるが、ユーザー約2万5千人のうち50%を女性が占めていると報告されている。また暗号通貨取引所Gemini(ジェミニ)の調査によると、イギリスの暗号通貨ユーザーの40%以上は女性だということだ。
どこの国でも、男女間格差の要因は、関心の欠如ではなく自己資本かもしれない。2018年に世界銀行は、女性が資本資産の38%しか所有していないと推定した。さらにクランチベースの集計によると、2009年から2019年の間に資産を調達したスタートアップのうち、創業者を女性とする企業は、20%未満の1万5379社にすぎない。
スタートアップ企業以外にも、New York Digital Investments Group(ニューヨーク・デジタル・インベストメンツ・グループ)(NYDIG)のような、女性幹部がかじを取って、確立されている仲買業務モデルに革新をもたらした企業が数社ある。
2020年12月には、保険会社のMassachusetts Mutual Life Insurance Co.(マサチューセッツ・ミューチュアル生命保険会社)が1億ドル(約105億円)のビットコインを購入し、NYDIGの株式を取得したが、これは2021年におけるビットコインエクスポージャーへの機関投資家の需要に強気の見通しがあることを示す動きだった。その後、2021年2月8日に、Elon Musk(エロン・ムスク)氏の上場自動車会社Tesla(テスラ)が15億ドル(約1582億円)相当のビットコインを購入したことで、機関投資家の主張の正当性が立証された。
「2021年に、従来の投資家やアロケーターにビットコインが広く受け入れられるようになったことは、本当にうれしいことです」とNYDIGのYan Zhao(ヤン・チャオ)社長は述べている。「私たちは、銀行や資産管理者がビットコインの商品やエクスポージャーを提供できるようにサポートします。当社が後方支援します」。
チャオ氏によると、ビットコインに重点を置く同社はデリバティブを含めて約40億ドル(約4219億円)を運用しており、現在は民間銀行やさまざまな資産管理会社などの見込み客を獲得しようとしているという。同社はビットコインETFや信託シェアなどの考えを進んで取り入れようとしているが、イーサリアムベースのDeFi商品には興味がないようだ。
「当社はビットコインに注力するという意識的な決定を下しました」とチャオ氏は言う。
同様に、チャオ氏は現在取引できるイーサリアムベースのDeFiオプションの多くに懐疑的になっていたが、DeFiデリバティブオプションの将来については慎重ながらも楽観的な見方をしている。
「暗号通貨ネイティブの商品が重要なのは、この商品を利用すると、中央集権的な機関を関与させずに取引を促進できるためです」とチャオ氏は述べた。
つまり、今では従来のオプションで暗号通貨の利益を間接的に享受できることに加え、暗号通貨そのものが、同程度の価値を持つ利用しやすい金融商品を提供するために実験的に利用されている。これらのDeFi商品は、価格のエクスポージャーだけでなく、新たな機能性を実現するために設計されている。
一方、カリフォルニアでは、ネットワークスケーリングに携わるLightning Labs(ライトニングラボ)のCEOであるElizabeth Stark(エリザベス・スターク)氏からボルトキャピタルのアマーズ氏まで、次世代のビットコインのクジラ(大口投資家)は、シリコンバレーの過去のユニコーン企業と大きく異なって見えるかもしれない。
「私たちの業界は、90年代初頭のテック業界やずっと昔の金融業界とは様相が違っています」とアマーズ氏は述べ、「私たちは、より高度で、より確かな情報を活用したベースラインからスタートしています。ですから、やるべきことはまだありますが、先行きは明るいと考えています」と語った。
情報開示:リア・ワルド氏とLeigh Cuen(リー・クエン)氏は、有志団体Digital Salon Initiative(デジタル・サロン・イニシアティブ)の共同創設者である。
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(文:Leigh Cuen、翻訳:Dragonfly)