【コラム】エネルギーエコシステムは不安定な未来に適応する「エネルギーインターネット」の実現に向かうべきだ

編集部注:本稿の著者Brian Ryan(ブライアン・ライアン)は、多国籍エネルギー企業National Gridのイノベーションおよび投資部門であるNational Grid Partnersのイノベーション担当バイスプレジデント。

ーーー

National Grid Partnersのイノベーション担当バイスプレジデントとして、私はNational Gridの現在の事業に有益なだけでなく、独立した事業になる可能性を秘めたイニシアティブの開発を担っている。だから私は、エネルギー産業の未来について確かな見解を持っている。

しかし、私は未来を映し出す水晶玉は持っていない。持つ人はいないだろう。イノベーションポートフォリオを適切に管理する職務において、私の仕事はすべてを挙げて1つに投じるというものではない。有限の資産を複数のバスケットに最適に配分し、最大の集合的アップサイドを実現するものだ。

別の言い方をすれば、世界や地域のトレンドは「次なる潮流(Next Big Thing)」が単一ではないことを明白に示している。それよりも、エネルギーサプライチェーン全体にわたるオープンイノベーションの推進と要素の統合が、未来に大きく関わっている。このようなオープンエネルギーエコシステムがあって初めて、エネルギー産業が直面する極めて不安定な(予測できないとさえいう人もいるかもしれない)市場状況に適応することができる。

このオープンでイノベーションを可能にするアプローチを「エネルギーインターネット」と捉え、それが今日のエネルギーセクターで最も重要なオポチュニティであると私は確信している。

インターネットアナロジー

エネルギーインターネットのコンセプトが有用だと思う理由はここにある。デジタルインターネット(ここで使用する用語にはその構成要素であるすべてのハードウェア、ソフトウェア、標準が含まれる)が登場する以前は、メインフレーム、PC、データベース、デスクトップアプリケーション、プライベートネットワークなど、複数のテクノロジーがサイロ化されていた。

しかし、デジタルインターネットの進化にともない、これらのサイロの壁は取り払われた。メインフレーム、コモディティハードウェア、クラウド内の仮想マシンなど、デジタルサービスのバックエンドにある任意のプラットフォームを利用できるようになった。

デジタルペイロードは、速度、セキュリティ、キャパシティ、コストの最適な組み合わせを選択して、世界中のあらゆる顧客、サプライヤー、パートナーと接続するネットワーク間で転送できる。ペイロードにはデータ、音声、動画があり、エンドポイントとしてデスクトップブラウザ、スマートフォン、IoTセンサ、セキュリティカメラ、小売店のキオスクなどが挙げられる。

この種々さまざまな物がうまく組み合わされた(mix-and-match)インターネットは、オープンなデジタルサプライチェーンを生み出し、オンラインイノベーションにおける画期的なブームを牽引した。起業家や投資家は、サプライチェーン全体のどこにいても特定のバリュープロポジションに集中することができ、サプライチェーン自体を継続的に見直す必要はない。

エネルギーセクターも同じ方向に向かうべきである。サーバープラットフォームのように、さまざまな世代のモダリティを扱えることが重要だ。データネットワークと同等にアクセス可能な送電網が必要であり、あらゆる消費エンドポイントに柔軟にエネルギーを供給できることが求められる。テクノロジー業界と同様に、こうしたエンドポイントでもイノベーションを促進する必要がある。

デジタルインターネットが、優れたアプリの構築や洗練されたスマートフォンの設計など市場に貢献するあらゆる場面でイノベーションに恩恵をもたらすように、エネルギーインターネットも、エネルギーサプライチェーン全体でより優れた機会を提供する。

5Dの未来

ではエネルギーインターネットとはどのようなものだろうか。まずデジタル化、分散化、脱炭素化という既存のモデルから始めて、さらに先を見据えた見解を示したいと思う。

デジタル化(Digitalization):イノベーションは需要、供給、効率、トレンド、イベントに関する情報に依存する。こうしたデータは正確性、完全性、適時性、共有性を備えていなければならない。IoE、オープンエネルギー、そしていわゆる「スマートグリッド」のようなデジタル化の取り組みは、エネルギー供給の物理、ロジスティクス、経済性を継続的に改善するために必要な洞察をイノベーターに提供する。

分散化(Decentralization):インターネットが世界を変えた理由の1つとして、集中管理された少数のデータセンターからコンピューティング力を取り出し、適切な場所に分散させたことが挙げられる。エネルギーインターネットも同じように機能するだろう。デジタル化は、オープンエネルギーサプライチェーンに資産を統合することで、分散化を促進する。しかし分散化は既存の資産の統合にとどまらず、必要な場所に新しい資産を広げることにもつながる。

脱炭素化(Decarbonization):脱炭素化はもちろんこの運用における核心だ。徹底したエネルギー活用を通じてあらゆる場所でエネルギー需要を満たす分散型インフラの上に構築される、よりグリーンなサプライチェーンを推進しなければならない。市場はそれを求めており、規制当局も要請している。したがって、エネルギーインターネットは単なる投資機会ではなく、実存的な必須事項である。

民主化(Democratization):インターネットに関連するイノベーションの多くは、テクノロジーを物理的に分散させることに加えて、テクノロジーを人口統計学的に民主化したという事実から生まれた。民主化とは、力(この場合は文字通り)を人々の手に委ねることである。エネルギー業界の課題に取り組む頭脳と手腕を大幅に拡充することは、イノベーションを加速し、市場のダイナミクスに対応する能力を高めるだろう。

多様性(Diversity):先に述べたように、未来を映す水晶玉を持つ人はいない。したがって、大規模なイノベーションに投資する際には、リスクを低減し、リターンを最適化するためだけでなく、可能性を高めるための戦略として多様化が必要となる。つまり、もしエネルギーインターネット(あるいは用語を選ぶならグリッド2.0)により、エネルギーサプライチェーンのすべての要素の協働が必要になると真に信じるのであれば、相互運用性と統合を促進するために、これらの要素にまたがるイノベーションイニシアティブを多様化しなければならない。

デジタルインターネットはまさにそのようにして構築された。標準化団体は重要な役割を果たしたが、標準化とその実装を主導したのはMicrosoftやCisco、さらにはトップVCたちであり、こうした業界プレイヤーがサプライチェーン全体の統合を推進することで、エコシステムの成功が実現した。

エネルギーインターネットでも同じアプローチを取る必要がある。そのための力と影響力を持つものは、個々の要素の改善とともに、エネルギーサプライチェーン全体にわたる統合の積極的な推進を支援すべきである。この目的を達成するために、National Gridは2020年、NextGrid Allianceという新しい業界団体を立ち上げた。この団体には、世界中の60を超える電力会社から上級幹部が参加している。

また、エネルギーエコシステムにおける思考の多様化も不可欠であると私たちは考えている。National Gridは、エネルギー産業に携わる女性とSTEMプログラムの学部に占める女性の割合が著しく低いことに警鐘を鳴らしてきた。その一方で、Deloitteの調査では、多様性に富むチームは革新性が20%高いことが示されている。NGPに在籍する私のチームの60%以上は女性であり、その視野の広さは、National Gridが全社的なイノベーションへの取り組みについて強力な洞察を得るのに大きく貢献している。

予測を超える多くの勝利

エネルギーインターネットのコンセプトは、抽象的な未来の理想というものではない。それがどのように市場を変えるのか、具体的な例を私たちはすでに目にしている。

グリーントランスナショナリズム:エネルギーインターネットは、デジタルインターネットと同じようにグローバルに展開しつつある。例えば英国は現在、ノルウェーとデンマークから風力発電による電力供給を受けている。国境を越えて分散化されたエネルギー供給を活用するこうした取り組みは、各国経済に大きな利益をもたらし、エネルギーのアービトラージに向けた新たな機会を創出するものだ。

EV充電モデル:電気を送り出すのはガソリンをくみ上げるようなものではないし、そうあるべきでもない。スマート計測および高速充電エンドポイント設計におけるイノベーションの適切な組み合わせにより、オフィスビルや住宅地などの自動車と利便性が同等の価値を持つ場所において、エネルギーインターネットが新たな機会を生み出すだろう。

災害緩和:テキサスで起きた最近の出来事は、エネルギーインターネットが存在しないことによる弊害を浮き彫りにした。責務を負う公益事業および政府機関は、インフラストラクチャのトラブルシューティングと地域社会の保護をより効果的に行うために、デジタル化と相互運用性を積極的に取り込む必要がある。

ここに挙げたものは、オープンでany-to-any型のエネルギーインターネットがイノベーションを促進し、競争を活性化し、大きな勝利を生み出すという、限りない進展のほんの一部にすぎない。その大きな勝利が何であるかを正確に予測することは誰にもできないが、確実に多く存在し、すべてに恩恵をもたらすだろう。

だからこそ、未来を映し出す水晶玉はなくても、私たちはデジタル化、分散化、脱炭素化、民主化、多様性にコミットすべきである。そうすることで、エネルギーインターネットを協働して構築し、公平で、経済的で、クリーンなエネルギーの未来を実現するのである。

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タグ:コラムエネルギー産業電力脱炭素自然災害電気自動車National Grid

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(文:Brian Ryan、翻訳:Dragonfly)

さくらインターネットが石狩データセンターの主要電力をLNG発電に変更、年間CO2排出量の約24%にあたる約4800トン削減

さくらインターネットが石狩データセンターの主要電力をLNG発電に変更、年間CO2排出量の約24%にあたる約4800トンを削減

クラウドコンピューティングサービスのさくらインターネットは6月21日、北海道石狩市・石狩データセンターの電力調達先について、LNG(液化天然ガス)火力発電を主体とする電力会社に6月より変更したと発表した。これにより、石狩データセンターの二酸化炭素(CO2)年間排出量を約4800トン削減できるという。

サーバー室面積5000平方m2以上、ラック単位の電力供給量が6kVA(キロボルトアンペア)以上の大規模データセンター、いわゆる「ハイパースケールデータセンター」は、IDC Japanが2021年5月に発表した調査報告によると、2021年から2025年までの日本国内での平均成長率は、床面積ベースで28.8%になると予測されている。またハイパースケールデータセンターは消費電力も大きく、「電力キャパシティベース」での年間平均成長率は面積ベースよりも高い37.2%と見積もられている。そのため、ハイパースケールデータセンターにはサステナブルな対応が求められている。

さくらインターネットの石狩データセンターは、2011年の開所以来、北海道の冷涼な気候を活かした外気による冷却や排熱利用など、サステナビリティーに積極的に取り組んできた。その影響で、都市型データセンターと比較して約6割まで電力量を削減しているという。今回、LNG火力発電に切り替えることで、二酸化炭素排出量は、従来の24%にあたる4800トンが削減可能となる。「『やりたいこと』を『できる』に変える」との企業理念の下、今後もサステナブルなデータセンター運営を通じて社会のDXを支えてゆくと、同社は話している。

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【コラム】核廃棄物のリサイクルはエネルギー革新の最重要手段だ

編集部注:本稿の著者Tristan Abbey(トリスタン・アビー)氏は、Comarus Analytics LLC社長。米国上院エネルギー天然資源委員会の上級政策アドバイザー、および国家安全保障会議の部長を務めた。

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米国のエネルギー・環境政策を語る上で、核廃棄物ほど悩ましいものはない。そう、気候変動は邪悪な問題かもしれないが、一方で膨大な数の苦悩を打ち消す話題が注目を浴びている。

この話題を正面から語るのは難しい。まず、物語の3つの要素から始めよう。

第1に、米国内の原子力発電所は年間約2000トンの核廃棄物(「使用済み燃料」とも)を生み出している。それらは生来の放射能ゆえに、国内のさまざまな場所に、注意深く保管されている。

第2に、これをどうすべきかの責任を負っているのは連邦政府である。実際、原子力発電事業者は核廃棄物基金に400億ドル(約4兆3900億円)以上をつぎ込んでおり、そのおかげで政府は対応が可能になっている。それは、ネバダ州ユッカマウンテンにある「地層処分処理場」に埋めるという考えだったが、政治的に不可能であることが証明された。にもかかわらず、事前調査やヒヤリングなどに 150億ドル(約1兆6470億円)が費やされた。

第3に、エネルギー省の廃棄物管理能力欠如のために、核廃棄物は蓄積される一方である。同省の最新公表データによると、およそ8万トンの使用済み燃料(数百万本の燃料棒を擁する数十万基の燃料集合体)が最終目的地を待っている。

そして、予想外の結末はこれだ。問題の原子力発電事業者らは政府を契約違反で訴え、2013年に勝訴した。毎年何億ドル(何百億円)という賠償金が、一連の和解と判決の一環として米国財務省から支払われている。支払総額は80億ドル(約8780億円)を超えている。

このストーリーが少々どうかしていることに私は気がついている。私は次のようなことを本当に言っているのだろうか?米国政府は核廃棄物を処理するために数十億ドル(数千億円)を集め、次に数億ドル(数百億円)を実現可能性調査に費やしながら埃をかぶらせ、今度はこの失敗のために数十億ドルの上を行く金額を支払っている。そのとおり、そう言っている。

幸い、集められた廃棄物のすべては比較的少ない場所を占めており、一時的保管場所は存在している。行動を起こす緊急な理由がなければ、政策立案者は動かないのが普通だ。

長期的保管場所を見つける試みを続ける一方で、政策立案者はこの「廃棄物」を使用可能な燃料にリサイクルすることを考えるべきだ。実はこれ古くからあるアイデアだ。発電のために消費されるのは核燃料のごく一部でしかない。

再利用推進者らは「再処理」使用済み燃料を使って燃焼後に残ったエネルギーの90%を抽出する原子炉を構想している。批判派たちさえも、リサイクルを支える化学、物理学、および工学は技術的な実現可能であることを認めており、批判の矛先は、経済性の疑問と安全性の潜在リスクに向けられている。

いわゆる第4世代原子炉と呼ばれるものが、あらゆる形とサイズで存在する。その設計は古くからあるが(ある部分は核エネルギーの夜明けにさかのぼる)、政治、経済、および戦略的理由によって軽水炉がこの分野を支配してきた。例えばSouthern Company(サザン・カンパニー)がジョージア州で建設中の2基の従来型加圧水型原子炉は、それぞれ1000MW(1GW)をわずかに超える能力を有しており、これはウェスティングハウスのAP1000設計の標準的な値である。

それに対し、次世代原子炉設計は大きさも容量も数分の一で、さまざまな冷却方法を利用可能だ。オレゴン拠点のNuScale Power(ニュースケール・パワー)の77MW小型モジュール式原子炉、カリフォルニア州サンディエゴ拠点のGeneral Atomics(ゼネラル・アトミックス)の50MWヘリウム冷却高速モジュール式原子炉、カリフォルニア州アラメダ拠点のKairos Power(カイロズ・パワー)の140MW溶融フッ化物塩冷却炉など、企業や政策の目的に合わせてさまざまな構成が可能だ。

多くの第4世代設計が、再生使用済み燃料専用あるいは使用する構成が可能になっている。米国時間6月3日、TerraPower(テラパワー、ビル・ゲイツ氏が出資)、GE Hitachi(日立GE)、ワイオミング州の3者は、ナトリウム冷却高速炉である345MW Natrium設計の実証炉建設に合意した。

Natrium設計は、再生燃料を発電に使用する技術的能力をもっている。すでにカリフォルニア州拠点のOklo(オクロ)は、Idaho National Laboratory(アイダホ国立研究所)とともに、使用済み燃料を使う1.5メガワット「マイクロ原子炉」の運用で合意している。ニューヨーク拠点のElysium Industries(エリシウム・インダストリーズ)による溶融塩炉設計は、自称「優先燃料」として、使用済み核燃料を使用しており、アラバマ州拠点のFlibe Energy(フライブ・エナジー)は、自社のトリウム原子炉設計の廃棄物燃焼能力を宣伝している。

次世代原子炉の成否は、行き詰まり状態にある核廃棄物問題の解決には依存してない。新たな原子炉は使用済み燃料を消費する能力をもってはいるが、必ずしも使わなくてはいけないわけではない。それでも、廃棄物リサイクルを奨励することで経済性を改善できるだろう。

ここでいう「奨励」は「金」を意味している。政策立案者は、再生燃料を使ったほうが、カナダやカザフスタン、オーストラリア、ロシアなどの諸外国から燃料を輸入するより発電所が儲かる仕組みを政府が作る方法を考えるべきだ。

リサイクルを含む次世代核技術に対する政治的支援は、想像以上に奥が深い。2019年、上院はRita Baranwal(リタ・バランワル)博士をエネルギー省(DOE)原子力エネルギー担当次官補に任命した。材料科学の教育を受けた同氏は、すぐリサイクル推進者なった

バイデン新政権は、新型原子炉に対する支援を広く超党派的に継続してきたことに加えて、会計2022年度予算要求ではエネルギー省原子エネルギー部の予算を3億5000万ドル(約384億2000万円)近く増額する提案を出した。提案には原子炉コンセプトの研究開発(3200万ドル[約35億1000万円]増)、燃料リサイクルの研究開発(5900万ドル[約64億8000万円])および新型原子炉実証実験(1200万ドル[約13億2000万円]増)、多目的試験炉の予算3倍増(前年の4500万ドル[約49億2000万円]から1億4500万ドル[約159億2000万円]へ)など具体的な予算増が盛り込まれている。

2021年5月、エネルギー省のエネルギー高度研究計画局(ARPA-E)は、高度原子炉の廃棄物処理「最適化」の研究を支援する4000万ドル(約43億9000万円)の新たなプログラムを発表した。重要なのはこの発表が、現在の核廃棄物ソリューションの欠如が、第4世代原子炉の未来に「難題を突きつけている」ことを明確に表明していることだ。

この議論は、一般にリサイクルが非常に厄介なプロセスであることのリマインダーである。それは化学、機械、エネルギーすべてが集約されたプロセスだ。希少鉱物からPETボトルまで、あらゆるリサイクルは新たな廃棄物も生み出す。現在、連邦および州政府はさまざまな廃棄物のリサイクルに極めて積極的だが、核廃棄物にも同じように関与すべきだ。

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カテゴリー:その他
タグ:原子力 / 核電力エネルギーアメリカコラム

画像クレジット:Micha Pawlitzki / Getty Images

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(文:Tristan Abbey、翻訳:Nob Takahashi / facebook

グーグルが米国とアルゼンチンを結ぶ新海底ケーブル「Firmina」発表、電力供給能力で前進

Google(グーグル)は米国時間6月9日、米国東海岸とアルゼンチンのラス・トニナスを結び、さらにブラジルとウルグアイにも陸揚げされる新しい海底ケーブルの建設計画を発表した。これは南米のユーザーに、Googleのコンシューマー向けサービスやクラウドサービスへの低遅延アクセスを提供することを狙いとしている。

この地域で最も近いGoogleのデータセンター(南米では唯一のデータセンター)はチリのサンティアゴ付近にあり、GoogleのCurie(キュリー)ケーブルで米国西海岸と結ばれている。

ブラジルの奴隷制度廃止運動家で作家のMaria Firmina dos Reis(マリア・フィルミナ・ドス・レイス)氏にちなんで名づけられた「Firmina(フィルミナ)」ケーブルは、この地域におけるGoogleの既存のケーブル投資を強化するものだ。例えば、ウルグアイ政府所有のテレコムAntel UruguayとGoogleのジョイントベンチャーであるTannatケーブルはすでに同じ場所を結んでおり、Monet(モネ)ケーブルは米国とブラジル、そして同社のJunior(ジュニア)ケーブルもすでにブラジル各地を結んでいる。

画像クレジット:Google

この新しいケーブルは、Googleの既存ネットワークに容量だけでなく耐障害性も加える。具体的には、12組の光ファイバーペアで構成されるこの新しいケーブルで特筆すべき技術面の偉業は、シングルエンドの電源からケーブルに電力を供給できるというシステムだ。

Googleは次のように説明している。「海底ケーブルでは、データは光ファイバの中で光のパルスとして伝わります。その光信号を、100kmごとに各国の陸揚げ局で供給される高圧電流で増幅します。短いケーブルシステムの場合、シングルエンドからの給電の可用性は高くなりますが、最近の光ファイバーペアの数が多い長いケーブルでは、これが難しくなっていました」。それを実現するために、Firminaケーブルには、これまでのケーブルよりも20%高い電圧のケーブルが供給されている。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:海底ケーブルGoogle電力アメリカアルゼンチンブラジル

画像クレジット:makasana / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Aya Nakazato)

水素貯蔵・発電システムをディーゼル発電機の代わりに、オーストラリア国立科学機関の技術をEnduaが実用化

水素を利用する発電機は、従来のディーゼル燃料発電機に代わる環境に優しい発電機だ。しかし、その多くは太陽光や水力、風力に頼っており、いつでも利用できるとは限らない。ブリスベンに拠点を置くEndua(エンドゥア)は、電気分解によってより多量の水素を生成し、それを長期貯蔵することで、水素を利用する発電機をもっと使いやすくしようとしている。Enduaの技術は、CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)によって開発されたもので、CSIROが設立したベンチャーファンドのMain Sequence(メイン・シーケンス)とオーストラリア最大の燃料会社であるAmpol(アンポル)によって商業化される。

Main Sequenceのベンチャーサイエンスモデルは、まず世界的な課題を特定し、次にその課題を解決できる技術、チーム、投資家を集めてスタートアップを起ち上げるというものだ。このプログラムを通じて設立されたEnduaの最高経営責任者には、電気自動車用充電器メーカーのTritium(トリチウム)の創業者であるPaul Sernia(ポール・セルニア)氏が就任し、Main SequenceのパートナーであるMartin Duursma(マーティン・ダースマ)氏とともに、CSIROで開発された水素発電・貯蔵技術の商業化に取り組んでいる。アンポルはEnduaの産業パートナーとしての役割を担うことになる。

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Enduaは、Main Sequence、CSIRO、アンポルから500万豪ドル(約4億2000万円)の出資を受けている。同社はまずオーストラリアで事業を展開し、それから他の国々へ拡大していく計画だ。

セルニア氏によれば、Enduaは「再生可能エネルギーへの移行が直面している最大の問題の1つである、再生可能エネルギーをいかにして大量に、長期間にわたって貯蔵するかという問題を解決するために設立された」という。

Enduaのモジュール式パワーバンクは、1パックあたり最大150キロワットの電気を出力できる。さまざまなユースケースに合わせて拡張することが可能で、ディーゼル燃料で稼働する発電機の代わりとして機能する。蓄電池は通常、停電時などに備えたバックアップとしての役割を果たすが、Enduaが目指しているのは、大量に貯蔵できる再生可能エネルギーを提供することで、送電網から切り離されたインフラや、電気が届いていない地域コミュニティが自立した電源を持てるようにすることだ。

「水素の電気分解技術はかなり前から存在していますが、商業市場の期待に応え、既存のエネルギー源と比較になるほどコスト効率を高めるには、まだ長い道のりがあります」と、セルニア氏は語る。「我々がCSIROと共同で開発した技術なら、化石燃料と比べてもコストを抑え、信頼性が高く、遠隔地でも容易に維持できるようになります」。

このスタートアップは、産業界の顧客に焦点を当てた後、小規模な企業や住宅にも手を広げていくことを計画している。「最大の好機の1つは、地域社会や鉱山、遠隔地のインフラなど、これまであまり取り組まれることがなかったディーゼル発電機のユーザーです」と、セルニア氏はいう。「農業分野では、Enduaのソリューションは、掘削機や灌漑用ポンプなどの機器の電源として使用できます」。また、同社のパワーバンクは、太陽光や風力などの既存の再生可能エネルギーシステムに接続することができ、ユーザーは経済的な切り替えが可能であると、同氏は付け加えた。電気分解のプロセスには水が欠かせないが、必要な量はわずかだ。

「電池は出力を調整しながら少しずつ電力を供給できる優れた方法であり、全体的なエネルギー移行計画を補完するものです。しかし私たちは、地域社会や遠隔地のインフラが、信頼できる再生可能エネルギーをいつでも利用できるように、大量かつ長期間にわたって貯蔵できる再生可能エネルギーの供給に注力しています」と、セルニア氏はTechCrunchの取材に語った。

アンポルは、同社のFuture Energy and Decarbonisation Strategy(未来のエネルギーと脱炭素化戦略)の一環として、Enduaと協力している。同社はEnduaの技術をテストして商品化し、その8万社にものぼるB2B顧客に提供する予定だ。ますば年間20万トンの二酸化炭素を排出しているオフグリッドのディーゼル発電機市場に焦点を当てている。

アンポルのマネージングディレクター兼CEOであるMatthew Halliday(マシュー・ハリデイ)氏は「Enduaと関わりを持てることに興奮しています。これは、エネルギー移行を後押しする新しいエネルギーソリューションを発見・開発することによって、顧客価値提案を拡大するという当社のコミットメントの一環です」と、プレスリリースで述べている。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:水素電力オーストラリアEnduaAmpolエネルギーエネルギー貯蔵

画像クレジット:Andrew Merry / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

テクノロジーと災害対応の未来3「接続性、地球が滅びてもインターネットは不滅」

インターネットは、神経系のように世界中で情報伝達を司っている。ストリーミングやショッピング、動画視聴や「いいね!」といった活動が絶えずオンラインで行われており、インターネットがない日常は考えられない。世界全体に広がるこの情報網は思考や感情の信号を絶え間なく送出しており、私たちの思考活動に不可欠なものとなっている。

では機械が停止したらどうなるだろうか。

この疑問は、1世紀以上前にE.M. Forster(E・M・フォースター)が短編小説で追求したテーマである。奇しくも「The Machine Stops(機械は止まる)」と題されたその小説は、すべて機械に繋がれた社会においてある日突然、機械が停止したときのことを描いている。

こうした停止の恐怖はもはやSFの中だけの話ではない。通信の途絶は単に人気のTikTok動画を見逃したというだけでは済まされない問題だ。接続性が保たれなければ、病院も警察も政府も民間企業も、文明を支える人間の組織は今やすべて機能しなくなっている。

災害対応においても世界は劇的に変化している。数十年前は災害時の対応といえば、人命救助と被害緩和がほぼすべてだった。被害を抑えながら、ただ救える人を救えばよかったとも言える。しかし現在は人命救助と被害緩和以外に、インターネットアクセスの確保が非常に重要視されるようになっているが、これにはもっともな理由がある。それは市民だけでなく、現場のファーストレスポンダー(初動対応要員)も、身の安全を確保したり、ミッション目的を随時把握したり、地上観測データをリアルタイムで取得して危険な地域や救援が必要な地域を割り出すため、インターネット接続を必要とすることが増えているからだ。

パート1で指摘したように、災害ビジネスの営業は骨が折れるものかもしれない。またパート2で見たように、この分野では従来細々と行われていたデータ活用がようやく本格化してきたばかりだ。しかし、そもそも接続が確保されない限り、どちらも現実的には意味をなさない。そこで「テクノロジーと災害対策の未来」シリーズ第3弾となる今回は、帯域幅と接続性の変遷ならびに災害対応との関係を分析し、気候変動対策と並行してネットワークのレジリエンス(災害復旧力)を向上させようとする通信事業者の取り組みや、接続の確保を活動内容に組み入れようとするファーストレスポンダーの試みを検証するとともに、5Gや衛星インターネット接続サービスなどの新たな技術がこうした重要な活動に与える影響を探ることとする。

地球温暖化とワイヤレスレジリエンス

気候変動は世界中で気象パターンの極端な変化を招いている。事業を行うために安定した環境を必要とする業界では、二次的・三次的影響も出ている。しかし、こうした状況の変化に関し、通信事業者ほどダイナミックな対応が求められる業界はほぼないだろう。通信事業者は、これまでも暴風雨によって何度も有線・無線インフラを破壊されている。こうしたネットワークのレジリエンスは顧客のために必要とされるだけではない。災害発生後の初期対応において被害を緩和し、ネットワークの復旧に努める者にとっても絶対的に必要なものである。

当然ながら、電力アクセスは通信事業者にとって最も頭を悩ませる問題だ。電気がなければ電波を届けることもできない。米国三大通信事業者のVerizon(ベライゾン、TechCrunchの親会社のVerizon Mediaを傘下に擁していたが、近く売却することを発表している)、AT&T、T-Mobile(Tモバイル)も近年、ワイヤレスニーズに応えるとともに、増え続ける気象災害の被害に対処するため、レジリエンス向上の取り組みを大幅に増強している。

Tモバイルにおいて国内テクノロジーサービス事業戦略を担当するJay Naillon(ジェイ・ナイロン)シニアディレクターによれば、同社は近年、レジリエンスをネットワーク構築の中心に据え、電力会社からの給電が停止した場合に備えて基地局に発電機を設置している。「ハリケーンの多い地域や電力供給が不安定な地域に設備投資を集中させている」という。

通信3社すべてに共通することだが、Tモバイルも災害の発生に備えて機器を事前に配備している。大西洋上でハリケーンが発生すると、停電の可能性に備えて戦略的に可搬型発電機や移動式基地局を運び入れている。「その年のストーム予報を見て、さまざまな予防計画を立てている」とナイロン氏は説明する。さらに、非常事態管理者と協力して「さまざまな訓練を一緒に行い、効果的に共同対応や連携」を図ることで、災害が発生した場合に被害を受ける可能性が最も高いネットワークを特定しているという。また、気象影響を正確に予測するため、2020年からStormGeo(ストームジオ)とも提携している。

災害予測AIはAT&Tでも重要となっている。公共部門と連携したAT&TのFirstNetファーストレスポンダーネットワークを指揮するJason Porter(ジェイソン・ポーター)氏によれば、AT&Tはアルゴンヌ国立研究所と提携し、今後30年にわたって基地局が「洪水、ハリケーン、干ばつ、森林火災」に対処するための方策と基地局の配置を評価する気候変動分析ツールを開発したという。「開発したアルゴリズムの予測に基づいて社内の開発計画を見直した」とポーター氏は述べ、少なくとも一定の気象条件に耐えられるよう「架台」に設置された1.2~2.4メートル高の脆弱な基地局を分析して補強していると語った。こうした取り組みによって「ある程度被害を緩和できるようになった」という。

またAT&Tは、気候変動によって不確実性が増す中で信頼性を高めるという、より複雑な問題にも対処している。近年の「設備展開の多くが気象関連現象に起因していることが判明するのにそれほど時間はかからなかった」とポーター氏は述べ、AT&Tが「この数年、発電機の設置範囲を拡大することに注力」していると説明した。また可搬式のインフラ構築も重点的に行っているという。「データセンターは実質すべて車両に搭載し、中央司令室を構築できるようにしている」とポーター氏は述べ、AT&T全国災害復旧チームが2020年、数千回出動したと付け加えた。

さらに、FirstNetサービスに関し、被災地の帯域幅を早急に確保する観点から、AT&Tは2種類の技術開発を進めている。1つは空から無線サービスを提供するドローンだ。2020年、記録的な風速を観測したハリケーン・ローラがルイジアナ州を通過した後、AT&Tの「基地局はリサイクルされたアルミ缶のように捻じ曲がってしまったため、持続可能なソリューションを展開することになった」とポーター氏は語る。そして導入されたのがFirstNet Oneと呼ばれる飛行船タイプの基地局だ。この「飛行船は車両タイプの基地局の2倍の範囲をカバーする。1時間弱の燃料補給で空に上がり、文字通り数週間空中に待機するため、長期的かつ持続可能なサービスエリアを提供できる」という。

ファーストレスポンダーのため空からインターネット通信サービスを提供するAT&TのFirstNet One(画像クレジット:AT&T/FirstNet)

AT&Tが開発を進めるもう1つの技術は、FirstNet MegaRangeと呼ばれるハイパワーワイヤレス機器である。2021年に入って発表されたこの機器は、沖合に停泊する船など、数キロメートル離れた場所からシグナルを発信でき、非常に被害の大きい被災地のファーストレスポンダーにも安定した接続を提供できる。

インターネットが日常生活に浸透していくにつれ、ネットワークレジリエンスの基準も非常に厳しくなっている。ちょっとした途絶であっても、ファーストレスポンダーだけでなく、オンライン授業を受ける子どもや遠隔手術を行う医師にとっては混乱の元となる。設置型・可搬型発電機から移動式基地局や空中基地局の即応配備に至るまで、通信事業者はネットワークの継続性を確保するために多額の資金を投資している。

さらに、こうした取り組みにかかる費用は、温暖化の進む世界に立ち向かう通信事業者が最終的に負担している。三大通信事業者の他、災害対応分野のサービスプロバイダーにインタビューしたところ、気候変動が進む世界において、ユーティリティ事業は自己完結型を目指さざるを得ない状況になっているという共通認識が見られた。例えば、先頃のテキサス大停電に示唆されるように、送配電網自体の信頼性が確保できなくなっていることから、基地局に独自の発電機を設置しなければならなくなっている。またインターネットアクセスの停止が必ずしも防げない以上、重要なソフトはオフラインでも機能するようにしておかなければならない。日頃動いている機械が停まることもあるのだ。

最前線のトレンドはデータライン

消費者である私たちはインターネットどっぷりの生活を送っているかもしれないが、災害対応要員はインターネットに接続されたサービスへの完全移行に対し、私たちよりもずっと慎重な姿勢を取っている。確かに、トルネードで基地局が倒れてしまったら、印刷版の地図を持っていればよかったと思うだろう。現場では、紙やペン、コンパスなど、サバイバル映画に出てくる昔ながらの道具が今も数十年前と変わらず重宝されている。

それでも、ソフトウェアやインターネットによって緊急対応に顕著な改善が見られる中、現場の通信の仕組みやテクノロジーの利用度合いの見直しが進んでいる。最前線からのデータは非常に有益だ。最前線からデータを伝達できれば、活動計画能力が向上し、安全かつ効率的な対応が可能となる。

AT&Tもベライゾンも、ファーストレスポンダー特有のニーズに直接対処するサービスに多額の投資を行っている。特にAT&Tに関してはFirstNetネットワークが注目に値する。これは商務省のファーストレスポンダーネットワーク局との官民連携を通して独自に運営されるもので、災害対応要員限定のネットワークを構築する代わりに政府から特別帯域免許(Band 14)を獲得している。これは、悲惨な同時多発テロの日、ファーストレスポンダーが互いに連絡を取れていなかったことが判明し、9.11委員会(同時多発テロに関する国家調査委員会)の重要提言としてまとめられた内容を踏まえた措置だ。AT&Tのポーター氏によれば、777万平方キロメートルをカバーするネットワークが「9割方完成」しているという。

なぜファーストレスポンダーばかり注目されるのだろうか。通信事業者の投資が集中する理由は、ファーストレスポンダーがいろいろな意味でテクノロジーの最前線にいるためだ。ファーストレスポンダーはエッジコンピューティング、AIや機械学習を活用した迅速な意思決定、5Gによる帯域幅やレイテンシー(遅延)の改善(後述)、高い信頼性を必要としており、利益性のかなり高い顧客なのだ。言い換えれば、ファーストレスポンダーが現在必要としていることは将来、一般の消費者も必要とすることなのだ。

ベライゾンで公共安全戦略・危機対応部長を務めるCory Davis(コリー・デイビス)氏は「ファーストレスポンダーによる災害出動・人命救助においてテクノロジーを利用する割合が高まっている」と説明する。同氏とともに働く公共部門向け製品管理責任者のNick Nilan(ニック・二ラン)氏も「社名がベライゾンに変わった当時、実際に重要だったのは音声通話だったが、この5年間でデータ通信の重要性が大きく変化した」と述べ、状況把握や地図作成など、現場で標準化しつつあるツールを例に挙げた。ファーストレスポンダーの活動はつまるところ「ネットワークに集約される。必要な場所でインターネットが使えるか、万一の時にネットワークにアクセスできるかが重要となっている」という。

通信事業者にとって頭の痛い問題は、災害発生時というネットワーク資源が最も枯渇する瞬間にすべての人がネットワークにアクセスしようとすることだ。ファーストレスポンダーが現場チームあるいは司令センターと連絡しようとしているとき、被災者も友人に無事を知らせようとしており(中には単に避難するクルマの中でテレビ番組の最新エピソードを見ているだけの者もいるかもしれない)、ネットワークが圧迫されることになる。

こうした接続の集中を考えれば、ファーストレスポンダーに専用帯域を割り当てるFirstNetのような完全分離型ネットワークの必要性も頷ける。「リモート授業やリモートワーク、日常的な回線の混雑」に対応する中で、通信事業者をはじめとするサービスプロバイダーは顧客の需要に圧倒されてきたとポーター氏はいう。そして「幸い、当社はFirstNetを通して、20MHzの帯域をファーストレスポンダーに確保している」と述べ、そのおかげで優先度の高い通信を確保しやすくなっていると指摘する。

FirstNetは専用帯域に重点を置いているが、これはファーストレスポンダーに常時かつ即時無線接続を確保する大きな戦略の1つに過ぎない。AT&Tとベライゾンは近年、優先順位付け機能と優先接続機能をネットワーク運営の中心に据えている。優先順位付け機能は公共安全部門の利用者に優先的にネットワークアクセスを提供する機能である。一方、優先接続機能には優先度の低い利用者を積極的にネットワークから排除することでファーストレスポンダーが即時アクセスできるようにする機能が含まれる。

ベライゾンのニラン氏は「ネットワークはすべての人のためのものだが、特定の状況においてネットワークアクセスが絶対に必要な人は誰かと考えるようになると、ファーストレスポンダーを優先することになる」と語る。ベライゾンは優先順位付け機能と優先接続機能に加え、現在はネットワークセグメント化機能も導入している。これは「一般利用者のトラフィックと分離する」ことで災害時に帯域が圧迫されてもファーストレスポンダーの通信が阻害されないようにするものだという。ニラン氏は、これら3つのアプローチが2018年以降すべて実用化されている上、2021年3月にはVerizon Frontline(ベライゾン・フロントライン)という新ブランドにおいてファーストレスポンダー専用の帯域とソフトウェアを組み合わせたパッケージが発売されていると話す。

帯域幅の信頼性が高まったことを受け、10年前には思いもよらなかった方法でインターネットを利用するファーストレスポンダーが増えている。タブレット、センサー、接続デバイスやツールなど、機材もマニュアルからデジタルへと移行している。

インフラも構築され、さまざまな可能性が広がっている。今回のインタビューで挙げられた例だけでも、対応チームの動きをGPSや5Gで分散制御するもの、最新のリスク分析によって災害の進展を予測し、リアルタイムで地図を更新するもの、随時変化する避難経路を探索するもの、復旧作業の開始前からAIを活用して被害評価を行うものなど、さまざまな用途が生まれている。実際、アイディアの熟成に関して言えば、これまで大げさな宣伝文句や技術的見込みでしかなかった可能性の多くが今後何年かのうちに実現することになるだろう。

5Gについて

5Gについては何年も前から話題になっている。ときには6Gの話が出てレポーターたちにショックを与えることさえある。では、災害対応の観点から見た場合、5Gはどんな意味を持つだろうか。何年もの憶測を経て、今ようやくその答えが見えてきている。

Tモバイルのナイロン氏は、5Gの最大の利点は標準規格で一部利用されている低周波数帯を利用することで「カバレッジエリアが拡大できること」だと力説する。とはいえ「緊急対応の観点からは、実用化のレベルはまだそこまで達していない」という。

一方、AT&Tのポーター氏は「5Gの特長に関し、私たちはスピードよりもレイテンシーに注目している」と語った。消費者向けのマーケティングでは帯域幅の大きさを喧伝することが多いが、ファーストレスポンダーの間ではレイテンシーやエッジコンピューティングといった特徴が歓迎される傾向にある。例えば、基幹ワイヤレスネットワークへのバックホールがなくとも、前線のデバイス同士で動画をリレーできるようになる。また、画像データのオンボード処理は、1秒を争う環境において迅速な意思決定を可能とする。

こうした柔軟性によって、災害対応分野における5Gの実用用途が大幅に広がっている。「AT&Tの5G展開の使用例は人々の度胆を抜くだろう。すでに(国防省と協力して)パイロットプログラムの一部をローンチしている」とポーター氏は述べ、一例として「爆弾解体や検査、復旧を行うロボット犬」を挙げた。

ベライゾンは、革新的応用を戦略的目標に掲げるとともに、5Gの登場という岐路において生まれる新世代のスタートアップを指導する5G First Responders Lab(5Gファーストレスポンダーラボ)をローンチした。ベライゾンのニラン氏によれば、育成プログラムには20社以上が参加し、4つの集団に分かれてVR(仮想現実)の教育環境や消防隊員のために「壁の透視」を可能とするAR(拡張現実)の適用など、さまざまな課題に取り組んでいるという。同社のデイビス氏も「AIはどんどん進化し続けている」と話す。

5Gファーストレスポンダーラボの第1集団に参加したBlueforce(ブルーフォース)は、最新のデータに基づき、できるかぎり適切な判断を下せるようファーストレスポンダーをサポートするため、5Gを利用してセンサーとデバイスを接続している。創業者であるMichael Helfrich(マイケル・ヘルフリッチ)CEOは「この新しいネットワークがあれば、指揮者は車を離れて現場に行っても、情報の信頼性を確保できる」と話す。従来、こうした信頼できる情報は司令センターでなければ受け取ることができなかった。ブルーフォースでは、従来のユーザーインターフェース以外にも、災害対応者に情報を提示する新たな方法を模索しているとヘルフリッチ氏は強調する。「もはやスクリーンを見る必要はない。音声、振動、ヘッドアップディスプレイといった認知手法を検討している」という。

5Gは、災害対応を改善するための新たな手段を数多く提供してくれるだろう。そうはいっても、現在の4Gネットワークが消えてなくなるわけではない。デイビス氏によれば、現場のセンサーの大半は5Gのレイテンシーや帯域幅を必要とするわけではないという。同氏は、IoTデバイス向けのLTE-M規格を活用するハードやソフトは将来にわたってこの分野で重要な要素になると指摘し「LTEの利用はこのさき何年も続くだろう」と述べた。

イーロン・マスクよ、星につないでくれ

緊急対応データプラットフォームのRapidSOS(ラピッドSOS)社のMichael Martin(マイケル・マーティン)氏は、災害対応市場において「根本的な問題を解決する新たなうねりが起きていると感じる」といい、これを「イーロン・マスク効果」と呼んでいる。接続性に関しては、SpaceX(スペースX、正式名称はスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ)のブロードバンドコンステレーションプロジェクト「Starlink(スターリンク)」が稼働し始めていることからも、その効果は確かに存在することがわかる。

衛星通信はこれまでレイテンシーと帯域幅に大きな制約があり、災害対応で使用することは困難だった。また、災害の種類によっては、地上の状況から衛星通信接続が極めて困難だと判断せざるを得ないこともあった。しかし、こうした問題はスターリンクによって解決される可能性が高い。スターリンクの導入により、接続が容易になり、帯域幅とレイテンシーが改善され、全世界でサービスが利用できるようになるとされている。いずれも世界のファーストレスポンダーが切望していることだ。スターリンクのネットワークはいまだ鋭意構築中のため、災害対応市場にもたらす影響を現時点で正確に予測するのは難しい。しかし、スターリンクが期待通りに成功すれば、今世紀の災害対応の方法を根本的に変える可能性がある。今後数年の動きに注目していきたいと思う。

もっとも、スターリンクを抜きにしても、災害対応は今後10年で革命的に変化するだろう。接続性の高度化とレジリエンス強化が進み、旧式のツールに頼り切っていたファーストレスポンダーも今後はますます発展するデジタルコンピューティングを取り入れていくだろう。もはや機械が止まることはないのだ。

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

テスラが20万台目の家庭用蓄電池「Powerwall」設置完了を発表、この1年間で2倍に

Tesla(テスラ)は、同社の家庭用蓄電池製品である「Powerwall(パワーウォール)」の20万台目の設置が完了したことを、米国時間5月26日のツイートで発表した。テスラのCFO(最高財務責任者)を務めるZachary Kirkhorn(ザッカリー・カークホーン)氏は、2021年4月の第1四半期決算説明会で投資家に、テスラは「Powerwallの数四半期分の受注」の処理に追われていると語り、今後数カ月の間に設置台数が急増することを示唆していた。

テスラのElon Musk(イーロン・マスク)CEOは、この決算説明会で、今後はPowerwallなしで同社の「Solar Roof(ソーラールーフ)」パネル製品のみを販売することはしないと述べた。太陽光発電パネルと家庭用蓄電池(もちろん、テスラ製)の設置が広がれば、すべての家庭が分散型発電所になると、同氏はいう。

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「Powerwallが設置されている住宅やアパート、あるいはどんな建物でも、それ自体が電力会社になります。近所の照明がすべて消えてしまうような停電時でも、電力を確保できるのです。これは人々にエネルギーの安全性を提供します。また電力会社と協力し、Powerwallを使って地域全体の電力網を安定させることもできます」とマスク氏は語った。

2月にテキサス州で発生した未曾有の冬の嵐では、記録的な電力需要と相まって、何百万人もの人々が凍えるような寒さの中で電気を失ったことにマスク氏は言及。このような状況になった場合、電力会社はPowerwallを設置している顧客と協力して、蓄えた電力を送電網に戻し、需要を満たすことができると提案した。

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「電力網がより多くの電力を必要とする場合、もちろん同意が必要ですが、住宅所有者と電力会社が連携して、Powerwallに蓄えられた電力を電力網に開放し、ピーク時の電力需要に対応することができるのです」と、マスク氏は語った。

テスラが初代Powerwallを発売してから5年後の2020年4月に、Powerwallの設置台数は10万台を超えた。これはつまり、同社が5年をかけて達成した販売数が、この1年間で2倍になったことを意味する。

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タグ:TeslaPowerwall電力バッテリースマートバッテリー

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

価格を大幅に抑えた家庭用スマート分電盤の新製品をSpanが発表

エネルギー費が上昇し、多くの住宅所有者が太陽光発電などの実現可能性に注目している中、間違いなく消費者はエネルギーの使用を制御する方法を模索している。スマートホーム機器がこれほど普及した世界で、なぜエンドユーザーへのグリッドエネルギーの普及はなかなか進まないのか。元Tesla(テスラ)のエンジニアだったArch Rao(アーチ・ラオ)氏が設立したSpan(スパン)という会社は、こうした問題に応えようとしている。

3年前の今頃に設立されたSpanは、まだ若い会社だ。2020年の今頃はシリーズAラウンドで1010万ドル(約11億円)を調達し、年末までに全米の家庭に向けて製品を展開していった。そして2021年1月にはさらに2000万ドル(約21億8000万円)を調達した。

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実際の数字は公表していないものの、ラオ氏は、Spanが「米国のストレージ市場で、特に重要な市場であるカリフォルニアで、有意義なシェアを獲得し始めている」と筆者に語った。この言葉をどう受け取るかはともかく、しかし同社が特にターゲットとしているのは、太陽光発電と蓄電池システムを組み合わせているユーザーだ。

米国時間5月19日に発表されたSpanの第2弾の製品は、より小型で汎用性の高いユニットで、名称はシンプルに「Span Smart Panel(スパン・スマート・パネル)」という。希望小売価格は3500ドル(約38万円)と、第1世代の製品の5000ドル(約54万円)より大幅に安くなっている。もっとも、電力会社はこの技術を太陽光発電パネルなどの他の製品とセットで提供することが多いため、最終的な価格については顧客によって異なる可能性がある。

「これは、Nest(ネスト)で私たちが考えていた当初のビジョンの一部と重なります」と、Nestの共同設立者で、Spanの投資家であるMatt Rogers(マット・ロジャース)氏は、TechCrunchによるインタビューで語った。「自分の家できることはたくさんあります。NestとGoogleが目指す方向は異なるものの、家の中のエネルギーを理解し、それらをつなぎ合わせ、制御できる製品は、今も本当に求められています。特に、エネルギーコストが上昇し、太陽光発電や蓄電システムが普及していくこの世界では。Spanのようなものが存在しない未来の世界は想像できないでしょう」。

このシステムは、ほとんどの家庭用電気ブレーカーと連携でき、回路を細かく制御できる他、イーサネット、Wi-Fi、携帯電話通信網、Bluetooth接続にも対応している。同社が提供するモバイルアプリを使って簡単にコントロールすることもできる。

「私たちがやったことは、家庭の分電盤を根本的に再構築することです」と、ラオ氏はTechCrunchに語った。「私たちは単一のユースケースに縛られることなく、家庭内のあらゆるもののバックボーンとなります。サーモスタットがある家もあれば、ない家もあります。太陽光発電がある家もあれば、ない家もあります。しかし、ほぼすべての家庭には、100年前の技術を使った分電盤があります」。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:Spanスマートホーム電力

画像クレジット:Span

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(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

地球の電力需要を満たす大きな可能性を持つ地熱テクノロジーでリーダーを目指す「Fervo」

地表の下に蓄えられた地熱を再利用可能エネルギーの生成に使う方法は、環境問題専門家や石油、ガス技術者らの注目を引きつけている未来に向けた新たなビジョンだ。

それは、この技術が温室効果ガスを発生る炭化水素に依存しない発電方法であるからだけでなく、石油とガス産業が長年にわたって磨き続けてきたのと同じ技能と専門技術を使うからだ。

少なくともそれが、石油工学のコンプリーション・エンジニアだったTim Latimer(ティム・ラティマー)氏がこの業界に興味をもち、 Fervo Energy(ファーボ・エナジー)を立ち上げた理由だ。テキサス州ヒューストン拠点の地熱技術開発会社は、あのBill Gates(ビル・ゲイツ)のBreakthrough Energy Ventures(非常に忙しいファンドである)とeBay(イーベイ)の幹部であるJeff Skoll(ジェフ・スコール)氏のCapricorn Investment Groupから資金提供を受けている。

新たに2800万ドル(約30億6000万円)のキャッシュを手にしたFervoが計画、遂行しているプロジェクトの数々は「今後数年のうちに数百メガワットの電力を生み出す」とラティマー氏はいう。

ラティマー氏が発電の環境への影響を初めて肌で感じたのは、テキサス州ウェイコ郊外の小さな町で、米国で作られた最後の石炭による発電所であるSandy Creek石炭発電所の近くで少年時代を過ごしたときだった。

多くのテキサス・キッズと同じく、ラティマー氏は石油一家の出身で、彼が石油・ガス産業で最初の職を得たとき、世界が再生可能エネルギーへと切り替わり、石油産業が友達や家族ともども、取り残される運命になる可能性があることを知らなかった。

それが、Fervoを立ち上げた理由の1つだった、と起業家は語った。

「私にとって、石油・ガス産業で仕事を始めて以来一番大切にしてきたことは、エネルギー転換が起きる中で、化石燃料側にいる人達が将来クリーンエネルギーの仕事に就けるようにすることです」とラティマー氏は言った。「私は石油価格の暴落によって失業したり苦労を強いられている人たちを雇い、私たちの発電所で働いてもらうためのスタートを切ることができました」。

Fervo EnergyのCEOであるティム・ラティマー氏。同社の作業現場で保護帽を被っている同氏(画像クレジット:Fervo Energy)

バイデン政権がエネルギー転換政策の一環として、炭化水素業界の労働者のために職を探すことについて話している今、彼らはまさしくそのとおりのことをやっている。

そして地熱発電は以前ほど地理的制約を受けないため、世界には豊富な資源があり、すでに地質学的作業に依存している地域では高賃金職の可能性もある、とラティマー氏はいう(2020年10月にVoxはこの技術がもたらす歴史と可能性に関する優れた概観を出版した)。

「世界人口の大きなパーセンテージが、実は良質な地熱資源の近くに住んでいます」とラティマー氏はいう。「現在25か国に地熱発電所が設置・運用されており、他に地熱発電が生まれつつあるところが25か国あります」。

実際地熱発電は、米国西部およびアフリカの一部で長い歴史をもっている。自然に間欠泉が湧き、水蒸気噴流が地球から出ていることは、良い地熱資源の明白な指標だ。

「Fervoのテクノロジーは、大規模な展開が期待される新たなタイプの地熱資源の扉を開きます。Fervoの地熱システムは水平掘削、分散型光ファイバーセンシング、先進コンピューターモデリングなどの斬新な技術を使って、反復可能で費用効率の高い地熱電力の提供を可能にします」とラティマー氏がメールに書いた。「Fervoのテクノロジーは、有機ランキンサイクル発電システムの最新技術を組み合わせることで、柔軟な24時間運転カーボンフリー電力を供給します」。

当初、スタンフォード大学TomKat Centerの助成金とローレンス・バークレー国立研究所サイクロトロン・ロード・プロジェクトでActivate.orgから受けた奨学金によって設立されたFervoは、エネルギー省の地熱技術部門とARPA-E(エネルギー省高等研究計画局)から資金を調達するまでになり、Schlumberger(シュルンベルジェ)、ライス大学、バークレー研究所などと提携して業務を遂行している。

この新旧技術の融合は、同社が新たなプロジェクトを開発する可能性を地理的に膨大な地域へと拡大するものだ。

地熱を使って再生可能発電開発ビジネスを推進しようとしている会社は他にもある。エネルギーメジャーのBP Ventures、Chevron Technology Ventures、Temasek、BDC Capital、EversourceおよびVickers Venture Partnersらの支援を受けているEavornなどのスタートアップや、GreenFire EnergySage Geosystemsなどが参入している。

地熱プロジェクトの需要は止まるところを知らず、地熱開発のコスト問題を解決できるスタートアップには巨大な市場が開かれている。Latimer氏によると、2016~2019年には主要な地熱の契約はわずか1件だったが、2020年には業界内で新たに締結された大型電力購入契約が10件あった。

いずれのプロジェクトにとっても、コストは未だに課題だ。地熱発電契約における価格はメガワット当たり65~75ドル(約7100〜8200円)の範囲だとラティマー氏はいう。比較して、ソーラー発電はメガワット当たり35~55ドル(約3800〜6000円)だ。2020年のThe Vergeの報告による。

しかしラティマー氏は、地熱発電の安定性と予測可能性は、無停電電力供給の確保が必要な公共機関や企業にとってコスト差異を許容できるものだという。テキサス州ヒューストン住民として2021年の厳冬で5日間電気のない生活を強いられたラティマー氏にとって、これは身近な体験のある問題だ。

事実、常時利用可能なクリーン電力を供給する地熱の能力は、驚くほど魅力的な選択肢になりうる。エネルギー省の最近の研究によると、地熱は米国電力需要の最大16%を満たす可能性があり、別の推計によると地熱は完全脱炭素電力グリッドの20%近くに寄与する。

「私たちは長年の地熱エネルギー信奉者ですが、業界でイノベーションを起こす理想のテクノロジーとチームが見つかるのを待っていました」とCapricorn Investment GroupのIon Yadigarouglu(イオン・ヤディガロウグル)氏が声明で語った。「Fervoaはその技術力と彼らが先端研究組織と築いたパートナーシップによって、地熱の新たな波における明確なリーダーになるでしょう」。

Fervo Energyの掘削現場(画像クレジット:Fervo Energy)

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Fervo Energy再生可能エネルギー電力地熱

画像クレジット:Universal Images Group / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nob Takahashi / facebook

エネルギー事業で余った天然ガスを利用し暗号資産のマイニングに電力供給するCrusoe Energy

Crusoe Energy(クルーソーエナジー)の2人の創業者が、今日の地球が直面している2つの大きな問題、すなわちハイテク産業のエネルギー使用量の増加と、天然ガス産業に関連した温室効果ガスの排出に対する解決策を見つけたかもしれない。

エネルギー事業で余った天然ガスを利用してデータセンターや暗号資産のマイニング事業に電力を供給するクルーソーは、事業の拡大に向けて、つい最近ベンチャーキャピタル業界のトップ企業から1億2800万ドル(約139億6396万円)の新規資金を調達したところであり、これはこれ以上なく良いタイミングだ。

温室効果ガスの排出量を削減し、地球温暖化をパリ協定で定められた1.5℃以内に抑えることを目指す研究者や政策立案者にとって、メタンガスの排出は新たな注目分野となっている。クルーソーエナジーはまさにこのメタンガス排出を使用してデータセンターやビットコインマイニングへの電力供給を行おうとしている。

メタンの排出量を削減することが短期的に非常に重要である理由は、メタンの温室効果ガスは二酸化炭素の温室効果ガスに比べてより多くの熱を閉じ込め、またより早く消散するからだ。そのため、メタンの排出量を劇的に削減できれば、人間の産業が環境に与えている地球温暖化の負荷を短期間で緩和することができる。

メタンを排出する最大の原因は、石油・ガス産業だ。クルーソーエナジーの共同設立者であるChase Lochmiller(チェース・ロックミラー)によると、米国だけでも毎日約3964万立方メートルの天然ガスが焼却されているという。焼却量のうち約3分の2はテキサス州で、さらに約1415万立方メートルはクルーソーがこれまで事業を展開してきたノースダコタ州で焼却されている。

米国の大手金融機関でクオンツトレーダーとして活躍していたロックミラーと、石油・ガス業界の3代目社長であるCully Cavness(カリー・カブネス)にとって、回収した天然ガスをコンピューターに利用することは、金融工学と環境保全という2人の関心が自然に結びついたものだった。

ノースダコタ州ニュータウン。2014年8月13日、ノースダコタ州ニュータウン近くのフォート・バートホールド・リザベーションにて、3つの油井と天然ガスのフレアリングの様子。1カ月に約1億ドル(約108億9600万円)相当の天然ガスが焼却されるのは、それを回収して安全に輸送するパイプラインシステムがまだ整備されていないからだという。フォート・バートホールドにある近親三部族は、マンダン族、ヒダーツァ族、アリカラ族から成る。ここは、フラッキングと、そこに住む多くのネイティブアメリカンに石油使用による収益をもたらしていた石油ブームの震源地でもある(画像クレジット:Linda Davidson / The Washington Post via Getty Images)

デンバー出身の2人は、予備校で出会い、その後も友人として付き合っていた。ロックミラーがマサチューセッツ工科大学に、キャブネスがミドルベリー大学に進学したときには、まさか一緒にビジネスを立ち上げることになるとは思ってもいなかった。しかし、ロックミラーは大規模なコンピュータや金融サービス業界に触れ、キャブネスは家業を継いだことで、天然ガスの大量廃棄に対処するためのより良い方法があるはずだという結論に達した。

クルーソーエナジーにまつわる会話は、2018年にロッキー山脈にロッキー・クライミングに行った際に、ロックミラーがエベレストに行った話をしたことから始まった。

2人がビジネスを構築し始めたとき、最初に注目したのは、ビットコインのマイニングで発生するエネルギー・フットプリントに対処するための環境に優しい方法を見つけることだった。この試みが、Olaf Carlson-Wee(オラフ・カールソン-ウィー、ロックミラーの元雇用主)が立ち上げた投資会社Polychain(ポリチェーン)や、Bain Capital Ventures(ベインキャピタル・ベンチャーズ)、新たな投資家であるValor Equity Partners(ヴェイラー・エクイティ・パートナーズ)などの目に留まった。

(この試みについては、私が同社のシードラウンドを取材する際にロックミラーが言及していた。当時、私はこの会社の前提に懐疑的で、この事業は炭化水素の使用を長引かせ、政府の崩壊に対する投機的なヘッジ目的以外には実用性が限られている暗号資産を支えているだけではないかと心配していた。しかし、少なくとも私の懐疑のうちの1つは間違っていたと言える)

ヴェイラー・エクイティの広報担当者はメールで以下のように述べている。「持続可能性についての質問ですが、クルーソーには、排出量を実質削減するプロジェクトのみを追求するという明確な基準があります。通常、クルーソーが担当する油井はすでにフレアリングしており、クルーソーのソリューションがなければフレアリングが続くでしょう。同社は、従来のパイプラインから低コストのガスを購入することになる数多くのプロジェクトを断ってきました。その需要と排出量の実質増加を望んでいないためです。さらに、マイニングは再生可能エネルギーへの移行が進んでおり、座礁資産であるエネルギーに対するクルーソーのアプローチは、座礁資産であり限界のある再生可能エネルギーの経済的価値を向上させ、最終的には再生可能エネルギーをより多く取り入れることができます。マイニングは、電力の需要が増加したときに削減できる中断可能なベースロード需要を提供することができるため、全体として、より多くの再生可能エネルギー源をグリッドに追加する動機付けとなる効果があります」。

その後、Lowercarbon Capital、DRW Ventures、Founders Fund、Coinbase Ventures、KCK Group、Upper90、Winklevoss Capital、Zigg Capital、Tesla(テスラ)の共同創業者であるJB Straubel(J.B.ストラウベル)といった投資家が加わっている。

同社は現在、ノースダコタ州、モンタナ州、ワイオミング州、コロラド州で、廃棄された天然ガスを動力源とする40のモジュール型データセンターを運営している。来年は、クルーソーがテキサス州やニューメキシコ州などの新しい市場に参入するため、その数は100ユニットに拡大する見込みだ。2018年の立ち上げ以来、クルーソーは、ビットコインマイニング、レンダリング、人工知能のモデルトレーニング、さらには新型コロナウイルス感染症の治療法研究のためのタンパク質のフォールディングシミュレーションなどのエネルギー集約型コンピューティングによってフレアを削減する、スケーラブルなソリューションとして登場した。

クルーソーは、メタンガスの燃焼効率が99.9%であることを誇っており、さらにデータセンターやマイニング現場でのネットワーク構築という新たなメリットももたらしている。将来的にはクルーソーの事業所周辺の農村地域の接続性向上にもつながる可能性がある。

現在、同社の業務の80%はビットコインマイニングに関するものだが、データセンター業務での使用の需要も高まっており、ロックミラーの母校であるMITをはじめとするいくつかの大学が、自校のコンピュータのニーズのために同社の製品を検討している。

ロックミラーはこう述べている。「今はまだ潜伏期の段階です。プライベート・アルファ版には、何人かのテストを行う顧客がいますが、2021年後半には一般のお客様にもご利用いただけるようになるでしょう」。

クルーソー・エナジー・システムズのデータセンターの運用コストは世界で最も低いはずだと、ロックミラーは述べている。同社は、データを顧客に届けるために必要なインフラ構築をサポートするために費用をかけるつもりだが、エネルギー消費量に比べれば、それらの費用は無視できるレベルだという。

これはビットコインマイニングにおいても同様で、中国で石炭を使ったマイニングを行う代わりに、(送電網の整備に使用されるのではない)再生可能エネルギーを使った新たな設備の建設という選択肢を提供できる。暗号資産業界は、その生成と流通にともなうエネルギー使用に対する批判をかわす方法を探しており、クルーソーはすばらしいソリューションとなる。

また、制度や規制面での追い風も同社を後押ししている。最近では、ニューメキシコ州が来年4月までにフレアリングとガス放散を事業者の生産量の2%以下に制限する新しい法律を可決した一方で、ノースダコタ州は現場でのフレアガス回収システムを支援するインセンティブを推進し、ワイオミング州はビットコインマイニングに適用されるフレアガス削減のインセンティブを設ける法律に署名した。世界最大の金融サービス企業もフレアガス対策に取り組んでおり、BlackRock(ブラックロック)は2025年までに日常的なフレアガスの発生をなくすよう呼びかけている。

ロックミラーは「電力消費量については、プロジェクトの評価段階で、石油・ガスプロジェクトの排出量を削減するための明確な線引きをしています」と語った。

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タグ:Crusoe Energy温室効果ガス暗号資産データセンター資金調達電力

画像クレジット:Spencer Platt / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

テスラはすべての家庭を分散型発電所にしようとしている

Tesla(テスラ)のCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏は、同社の製品だけを使ってすべての家庭を分散型発電所にし、エネルギーの生成、保存そして電力の電気会社への売り戻しさえできるようにしたい、と考えている。

同社はもう何年も前から太陽光発電や蓄電製品を販売しているが、太陽光発電と蓄電製品を組み合わせて販売するという新たな方針と米国時間4月26日のマスク氏の発言を電力会社にアピールすることで、Teslaによるこれらの事業の拡大戦略を明らかにしている。

マスク氏は投資家向けて「これはテスラにとっても、電力会社にとっても繁栄する未来だ。それができなければ、電力会社は顧客への奉仕に失敗するだろう」と述べた。その際、彼は2020年夏にカリフォルニア州で計画された停電や、最近、テキサス州で起きた停電を例に挙げ、電力網の信頼性に対する懸念が高まっていることを証拠として示している。

先週、同社はウェブサイトを変更し、顧客が太陽光発電と電力貯蔵製品である「Powerwall」のみを購入するのではなく、代わりにシステムとしての購入を勧めた。その変更を発表するツイートでマスク氏は「太陽光発電はPowerwallにのみ供給される。Powerwallは電力会社のメーターと家のメインブレーカーパネルの間にのみ接続され、設置が非常にシンプルなものとなり、停電時に家全体をシームレスにバックアップすることができる」と述べている。

マスク氏の主張は、電力会社自身が再生可能エネルギーとストレージを使って脱炭素しようと思ったら、今よりももっと多くの送電線と発電所と変電所が必要になるというものだ。それに対してテスラの製品を使う分散居住地区システムならもっと良い方法を提供できる、と彼は考えている。マスク氏の主張は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の最近の研究にも裏づけられている。MITの研究では、米国は送電容量を2倍以上増やすことでゼロ・カーボン・グリッドに到達できるとしており、プリンストン大学の研究では、ネット・ゼロ・エミッションを達成するには2050年までに送電システムを3倍にする必要があるという。

マスク氏は、現在のCalifornia Independent System OperatorやElectric Reliability Council of Texasといった独立した事業者により集中的に管理・運営されているものとは根本的に異なる電力網システムを思い描いている。これは官僚主義とロジスティクスな課題が多いビジョンだ。電力会社と規制当局は、住宅の屋根に設置されたソーラーパネルなど、いわゆる「分散型エネルギー資源」が大量に流入した場合に、どのように対処するかを解決する必要があるが、これは電力会社の長年のビジネスモデルとは相反するものだ。

さらに重要なのは、再生可能エネルギーとストレージの組み合わせでエネルギーグリッドの脱炭素化が可能かどうか、議論の余地があることだ。

多くの専門家は、自然エネルギーの土地利用の問題、貯蔵の必要性、断続性の問題などから、自然エネルギーが国の主要な電力供給源となることは夢物語だと考えている。しかし、マスク氏は以前から自然エネルギーと蓄電のモデルに強気で、2020年7月には「物理学的には電気輸送、定置用蓄電池、エネルギー生成には太陽光や風力が有利だ」とツイートしている。

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hiroshi Iwatani)

スタートアップにはバイデン大統領のインフラ計画を支持する110兆円分の理由がある

Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領が2021年3月末に提案した膨大なインフラ投資計画概算で2兆ドル(約220兆円)の規模となり、大幅な増税もともなう。スタートアップとテクノロジー業界全体にとって、この計画の価値は実に1兆ドル(約110兆円)ほどになる。

テクノロジー企業は過去10年以上、農業、建設、エネルギー、教育、製造、運輸、流通といった昔からの業界に適用できるイノベーションの開発に取り組んできた。こうした業界は、非常に強力なモバイルデバイスの出現により、ようやく最近テクノロジー適応における構造的な障害が取り除かれた業界だ。

これらの業界は現在、より強固な経済再建を目指す大統領の計画の核となっている。バイデン政権が期待する取り組みの大半を実現するのは、スタートアップや大手のテクノロジー企業が提供するハードウェアサービスやソフトウェアサービスだ。米国を再び偉大にすべく費やされる何千億ドルもの資金は、直接的であれ間接的であれ、こうした企業にとって大きな後押しとなるだろう。

投資会社Energy Impact Partners(エナジーインパクトパートナーズ)のパートナーを務めるShayle Kann(シェイル・カン)氏は「バイデン氏の新計画に織り込まれている環境重視の投資は、ARRA(American Recovery and Reinvestment Act、米国復興・再投資法)における投資額のおよそ10倍の規模となる。これは、クリーンな電気や炭素管理、車両の電気化など、環境テクノロジーを扱う幅広い部門にとって大きな機会となるはずだ」と話している。

この計画の感触は多くの面でグリーンニューディールに似ているが、目玉は米国が切実に必要とするインフラの最新化、そしてサービスの改善だ。事実、エネルギー効率化はもはや新時代の建設の一部となっているため、グリーンニューディールの核であるエネルギー効率や再生可能エネルギーの開発計画を無視してインフラに投資することは難しい。

関連記事:バイデン次期大統領の気候変動対策はグリーンニューディールに依存しない

予算案のうち7000億ドル(約77兆円)以上は自然災害への耐性強化に用いられる。例えば、水道、電気、インターネットといった重大なインフラの改修や、公営住宅、連邦ビル、老朽化した商業不動産や住宅不動産などの復旧・改善だ。

また、別途4000億ドル(約44兆円)ほどの資金が、半導体など国内の重要な製造業の強化、将来のパンデミック対応、そして地域のイノベーションハブの立ち上げに投じられる。地域ごとのイノベーションハブは、ベンチャー投資とスタートアップ育成の促進を目指したもので「有色人種のコミュニティやサービスが行き届いていないコミュニティにおける起業家精神の向上を後押しする」ものとなる。

気候への耐性

2020年に米国を襲った数々の災害(および合計で推定1000億ドル、約11兆円ほどの被害額)を鑑みると、バイデン計画の焦点がまず災害対策に向けられていることにも納得できる。

バイデン計画の概要としては、まず500億ドル(約5兆5000億円)を融資に投じ、Federal Emergency Management Agency(連邦緊急事態管理庁)とDepartment of Housing and Urban Development(住宅都市開発省)のプログラム、またDepartment of Transportation(運輸省)の新たな取り組みを通じて、サービスが不十分で災害リスクが最も高いコミュニティにおける強化・保護・投資を行う算段だ。スタートアップに最も関係する点として、大規模な山火事や海水位の上昇、ハリケーンなどを阻止してこれらに備え、農業の新たなリソース管理を実現し「気候に強い」テクノロジーの開発を促進するための取り組みやテクノロジーには、積極的に資金が提供される。

バイデン氏の大がかりなインフラ戦略の大部分と同様、これらの問題にも解決に向けて取り組んでいるスタートアップが存在する。例えば、Cornea(コルネア)Emergency Reporting(エマージェンシーレポーティング)Zonehaven(ゾーンハーヴェン)などの企業が山火事におけるさまざまな側面の解決に取り組んでいる他、洪水予測や気候監視を行うスタートアップもサービスを展開し始めている。また、ビッグデータ分析、監視・感知ツール、ロボティクスといった分野も農場に欠かせない存在となりつつある。大統領がてがける節水プログラムやリサイクルプログラムについては、Epic CleanTec(エピッククリーンテック)をはじめとする企業が住宅ビルや商業ビル向けに廃水のリサイクル技術を開発したところだ。

米国再建物語

バイデン氏のインフラ投資計画で圧倒的な額を占めているのが、エネルギー効率の向上と建物の改修だ。実に4000億ドル(約44兆円)もの資金が、丸ごと住宅やオフィス、学校、退役軍人病院や連邦ビルの改修に充てられる。

Greensoil Proptech Ventures(グリーンソイルプロップテックベンチャーズ)Fifth Wall Ventures(フィフスウォールベンチャーズ)が立ち上げた新たな気候重視の基金は、バイデン氏の計画によってさらにその理論の信頼度を高めることとなる。2億ドル(約220億円)の投資手段を確立し、エネルギー効率と気候テックのソリューション事業に力を入れている基金だ。

フィフスウォールに最近参加したパートナーであるGreg Smithies(グレッグ・スミシーズ)氏は2020年、エネルギー効率の分野で建物の改造とスタートアップのテクノロジーに大きなビジネスチャンスが広がっていると述べている。

「この分野では、実入りが良く、すぐに着手できる案件が数多くある。これらの建物の価値は260兆ドル(約2京9000兆円)にも上るが、ほとんど近代化されていない。こうした老朽化物件に注力すれば、ビジネスチャンスは格段に広がるだろう」。

不動産の脱炭素化もまた、住民の暮らしの質と満足度を高められるだけでなく、世界的な気候変動への取り組みを大きく変える分野だ。フィフスウォールの共同設立者、Brendan Wallace(ブレンダン・ワランス)氏は、声明の中で「エネルギー全体の40%を不動産が消費している。世界経済は屋内で動いているのだ。不動産は炭素問題に大きく関与しているため、気候関連のテクノロジーへの出資が特に多い分野となるだろう」と述べている。

手頃な価格での住宅建設が難しい現状を鑑み、バイデン計画では、この障壁を取り除くための具体的な方策を講じる地域に報酬として柔軟な財政支援を行うよう、新しい補助金計画の議会成立を求めている。その一部に含まれるのは、米国の公営住宅のインフラ改修に使われる400億ドル(約4兆4000億円)の資金だ。

このプロジェクトには、すでにBlocPower(ブロックパワー)などのスタートアップが深く関わっている。

ブロックパワーの最高責任者兼設立者、Donnel Baird(ドネル・ベールド)氏は次のように述べている。「まさにヒーローの登場だ。バイデン・ハリス政権が発表した気候対策は、まさに米国の経済と地球を救うプランで、 「Avengers: Endgame(アベンジャーズ / エンドゲーム)」の現実版を見ている気分だ。過去5年間はやり直せなくても、スマートで大がかりな投資をして未来の気候インフラを整備することならできる。200万軒もの米国の建物を電気化し、化石燃料から完全に切り離す取り組みは、まさに米国への投資だ。新しい業界を生み出し、外国に流出しない雇用を米国人のために創出し、将来的には建物が排出する温室効果ガスを30%削減することにもなるのだ」。

連邦政府によると、スタートアップに直接影響する投資計画の中には、Clean Energy and Sustainability Accelerator(クリーンエネルギーおよび持続可能性促進法)の取り組みとして、270億ドル(約3.0兆円)を投じて個人投資を集める提案書が含まれている。この取り組みで重視されるのは、分散型エネルギー資源、住宅・商業ビル・庁舎の改造、そしてクリーンな運輸だ。サービスが行き届いておらず、クリーンエネルギーへの投資機会がなかったコミュニティに重点が置かれる。

未来のスタートアップ国家への資金提供

連邦政府は次のように発表している。「半導体の発明からインターネットの誕生まで、経済成長の新たな原動力となっている分野は、研究や商品化、強力なサプライチェーンなどを支える公共投資によって成長してきた。バイデン大統領は議会に対し、研究開発、製造、地域単位での経済成長、さらにはグローバル市場での競争に勝つためのツールやトレーニングを従業員と企業に提供する人材育成といった分野について、スマートな投資を行うよう呼びかけている」。

これを実現すべく、バイデン氏は別途4800億ドル(約53兆円)を費やして研究開発を促進する予定だ。このうち500億ドル(約5兆5000億円)は半導体、高度通信技術、エネルギー技術、およびバイオ技術への投資として国立科学財団へ、300億ドル(約3兆3000億円)は農村開発、さらに400億ドル(約4兆4000億円)は研究基盤の強化に充てられる。

また、インターネットを生み出したDARPAプログラムをモデルに、Advanced Research Projects Agency(国防高等研究計画局)の一機関として、気候問題に主眼を置いたARPA-Cの設立を目指す動きもある。気候専門の研究・実証プロジェクトに対する資金としては、200億ドル(約2兆2000億円)が投じられる。こうしたプロジェクトに該当する分野は、エネルギー貯蔵をはじめ、炭素の回収・貯留、水素、高度な核燃料、および希土類元素の分離、浮体式洋上風力発電、バイオ燃料・バイオ製品、量子計算、電気自動車などである。

製造業に資金投入するバイデン氏の取り組みでは、さらに3000億ドル(約33兆円)の政府財政援助を行う用意がある。このうち300億ドル(約3兆3000億円)はバイオプリペアドネスとパンデミックへの準備、500億ドル(約5兆5000億円)は半導体の製造・研究、460億ドル(約5.0兆円)は連邦政府による新たな高度原子炉、核燃料、自動車、ポート、ポンプ、クリーン物質の購買力向上に使われる。

これらすべてで強調されているのは、国内全体で公平かつ均等に経済を発展させるという点だ。そこで、地域のイノベーションハブに加え、刷新的なコミュニティ主導の再開発事業を後押しするCommunity Revitalization Fund(コミュニティ再生基金)に200億ドル(約2兆2000億円)が割り当てられ、農村部の製造業およびクリーンエネルギーの促進を目標にして、国内の製造業投資に520億ドル(約5兆7000億円)が割り当てられる。

さらに、スタートアップ関連では、スモールビジネスがクレジットやベンチャーキャピタル、研究開発費用を獲得できるよう支援するプログラムに310億ドル(約3兆4000億円)が投じられる。予算案では特に、有色人種のコミュニティやサービスが行き届いていないコミュニティの発展を後押しすべく、コミュニティベースのスモールビジネスインキュベーターやイノベーションハブへの資金提供を呼びかけている。

水道と電力のインフラ

米国のC評価のインフラが抱える問題は国内のいたるところで見受けられ、その内容も、道路や橋の崩壊、きれいな飲料水の不足、下水設備の欠陥、不十分なリサイクル施設、発電・送配電設備の増加し続ける需要に対応しきれない送電網などさまざまだ。

連邦政府の声明によると「配管や処理施設が全国で老朽化しており、汚染された飲料水が公衆衛生を脅かしている。推定では、600~1000万軒の住宅への飲料水配給でいまだに鉛製給水管が使われている」とのことである。

この問題に対処するため、バイデン氏は450億ドル(約4兆9000億円)をEnvironmental Protection Agency’s Drinking Water State Revolving Fund(環境保護庁州水道整備基金)とWater Infrastructure Improvements for the Nation Act(水道インフラ改善法)を通じた助成に充てる計画だ。こうしたインフラ交換のプログラムはスタートアップに直接影響することはないかもしれないが、飲料水・廃水・雨水の処理設備や水に含まれる汚染物質の監視・管理システムの改善にさらに660億ドル(約7兆2000億円)が費やされれば、水質検査やフィルタリングなどを扱うさまざまなスタートアップがここ10年以上市場にあふれていることを考えると、恩恵は大きい(事実、水道技術に特化したインキュベーターもあるほどだ)。

悲しい事実ではあるが、米国内の水道インフラの大部分は維持が追いついておらず、こうした大規模な資金投入が必要となっているのである。

また、水道に関して言えることは、近年電力に関しても言えるようになってきている。連邦政府によると、停電による米国の経済損失は年間700億ドル(約7兆7000億円)以上にも上る。この経済損失と1000億ドル(約11兆円)の出費を比較すれば、どちらがいいかは一目瞭然だろう。スタートアップにとって、この計算式で浮く金額はそのまま会社の利益につながる。

より耐久性のある送電システムを構築することは、Veir(ヴェイル)をはじめとする企業にとっては実にうれしい話だろう。ヴェイルは、送電線容量の増加に向けた新しい技術の開発に取り組んでいる企業だ(このプロジェクトは、バイデン政権も計画内で明確に言及している)。

バイデン計画には資金提供だけでなく、Department of Energy(エネルギー省)内部に新しくGrid Deployment Authority(送電網配備局)を設置する案も盛り込まれている。連邦政府はこれを、同局の設置について、道路や鉄道沿線の敷設用地をより有意義に活用し、資金提供手段を通じて新たな高圧送電線を開発するためとしている。

同政権の取り組みはこれだけにとどまらない。エネルギー貯蔵技術と再生可能技術を後押しするため、これらの開発には税額控除が適用される。つまり、直接払いの投資税額控除と生産税控除が10年延長され、その後、徐々に控除が減額されるというわけだ。この計画では、クリーンエネルギーの包括的補助金を捻出する他、政府の連邦ビルについては再生可能エネルギーのみを購入することが盛り込まれている。

バイデン政権下では、クリーンエネルギーとエネルギー貯蔵に対するこの支援に加え、廃棄物の浄化と汚染除去の分野で予算を大きく拡大し、210億ドル(約2兆3000億円)が投じられる予定だ。

Renewell Energy(レネウェルエナジー)をはじめとする企業や、放置された油井を塞ぐ取り組むを続けるさまざまな非営利団体は、この分野に携わることができるはずだ。また、その他の鉱床の回復や、こうした油井から出る排水の再利用といった取り組みの可能性も考えられる他、ここでも投資家はビジネスチャンスを狙うアーリーステージの企業を見出だせるだろう。バイデン計画から出される資金の一部は、汚染されて利用できなくなった工業用地を再開発し、より持続可能なビジネスに変えるために用いられる。

屋内での農業をてがけるPlenty(プレンティ)、Bowery Farms(バワリーファームズ)、AppHarvest(アップハーヴェスト)などの企業は、利用されていない工場や倉庫を農場として再利用することで、大きな利益を上げられるかもしれない。送電網に関する需要を考えれば、閉鎖された工場をエネルギー貯蔵やコミュニティベースの発電に使うハブ、あるいは送電設備に生まれ変わらせることもできる。

連邦政府の声明によると「バイデン大統領の計画は、Appalachian Regional Commission(アパラチア地域委員会)のPOWER補助金プログラム、エネルギー省による(セクション132プログラムを通じた)閉鎖工場の改革プログラム、さらにはコミュニティ主導の環境正義活動を後押しする専用の資金を通して行われる、持続可能な経済開発の取り組みを促進するものである。コミュニティ向けの支援としては、旧世代の環境汚染や蓄積された環境への影響を最前線や工場に隣接する地域で経験してきたコミュニティがこうした問題に対応できるよう、能力構築助成金やプロジェクト助成金が給付される」。

こうした再開発事業の鍵は、スチール、セメント、および化学製品の大規模な製造施設向けに炭素の回収・修復の実証実験を行うパイオニア施設の設立だ。とはいえ、バイデン政権が望めば、さらに一歩先へ進んで低排出の製造技術開発に取り組む企業を支援することもできるだろう。例えば、Heliogen(ヘリオゲン)は大規模な採掘作業用に必要な電力を太陽光発電でまかなっている他、BMWと提携しているBoston Metal(ボストンメタル)は炭素排出量がより少ないスチール製造プロセスの開発を進めている。

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また、これらの資金を使うために不可欠な前提条件として、開発前の段階にある事業に投資する必要がある。これには250億ドル(約2兆7000億円)が割り当てられており、Forbes(フォーブス)誌のRob Day(ロブ・デイ)はこの資金について、比較的小規模のプロジェクトデベロッパーを後押しするだろうと述べている。

デイ氏は次のように述べている。「他の記事でも書いたように、持続可能性に関するプロジェクトを最も有意義な形で、つまり現地の環境汚染や気候変動による打撃を最も受けたコミュニティで実施するには、地元のプロジェクトデベロッパーが鍵となる。比較的小規模のプロジェクトデベロッパーは、単に民間企業のインフラ整備投資を受けるだけでも、多額の出費が必要となる。持続可能性政策に携わる人は皆、起業家の支援について話すが、現状の支援対象の大半は技術開発者で、実際にこうした技術革新を展開する小規模のプロジェクトデベロッパーには支援が向けられていない。インフラの投資家も通常、プロジェクトの建設準備が整ってからでないと資金を提供したがらないものだ」。

より良いインターネットの構築

連邦政府は次のような声明を出している。「広帯域インターネットは、新時代の電気のようなものだ。米国人が仕事をして、平等に学校で学び、医療サービスを受け、人とつながるには広帯域インターネットが欠かせない。それにもかかわらず、ある調査によると、3000万人以上の米国人は最小限必要な速度の広帯域インフラがない場所で生活している。また、農村部や部族の所有地で暮らす米国人のインターネット環境はとりわけ貧弱だ。さらに、OECD諸国の中で米国の広帯域インターネット料金が特に高いこともあり、インフラが整っている地域に暮らしていながら実際には広帯域インターネットを利用できない人も多く存在する」。

バイデン政権は、広帯域インターネットのインフラ整備のために1000億ドル(約11兆円)を支出するにあたり、高速の広帯域インターネットのカバレッジを100%に引き上げる他、地方自治体、非営利団体、および共同組合が所有・運営・提携するネットワークを優先することを目標としている。

新たな資金投入にともない、規制政策にも変化が生じる。これにより、地方自治体が所有または提携するプロバイダーや農村部の電気協同組合が民間のプロバイダーと競合することになり、インターネットプロバイダーは料金形態をさらに透明化する必要が生じる。競争の激化はハードウェアベンダーにとってもメリットとなり、最終的には独自のISP立ち上げを目指す起業家の新事業も生まれる可能性がある。

そうしたサービスの1つが、ロサンゼルスで高速のワイヤレスインターネットを提供するWander(ワンダー)だ。

連邦政府の声明によると「米国人は他の国の人と比べてもインターネット料金を払いすぎている。そこで、大統領は議会に呼びかけて米国人全員のインターネット料金を引き下げ、農村部と都会の両方のインフラを強化し、プロバイダーに説明責任を課し、納税者のお金を守るためのソリューションを全力で探している」とのことだ。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:ジョー・バイデンインフラ環境問題災害農業炭素脱炭素電力持続可能性公共政策アメリカ

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

【コラム】暗号資産とエネルギー消費をめぐる議論

暗号資産(仮想通貨)に関して昨今、エネルギー消費が議論の的となっている。批評家たちは暗号資産がエネルギーを大量に消費していると主張し、推進派は現在の世界経済に比べ、エネルギー消費量は少ないと評価している。

そんな批評家の1人であるDigiEconomist(デジエコノミスト)創業者のAlex de Vries(アレックス・ド・フリース)氏は「Bitcoin(ビットコイン)ほど非効率的なものは見たことがない」と話す。

一方、ARK Investment Management(アークインベストメントマネジメント)の調査によると、Bitcoinのエコシステムが消費するエネルギーは、従来の銀行システムに必要なエネルギーの10%以下であることがわかった。銀行システムの方がはるかに多くの人々にサービスを提供しているのは事実である一方、暗号資産はまだ発展途上にあり、他の産業と同様、インフラの初期段階では特にエネルギー消費量が多くなる。

2021年2月だけで14億ドル(約1520億円)近くを稼いだ暗号資産マイニング業界は、工業化した現代社会におけるその他の問題と比較すれば、環境にとって特別にひどい影響はまだもたらしていない。ド・フリース氏もTechCrunchに対し、環境に配慮した規制当局が「Bitcoinに対してありとあらゆる行動をとったとしても、すべての政府がそういったマイニング規制に賛同するとは思えない」という。

「理想的なのは、内部から変化が起こることだ」とド・フリース氏は話し、Bitcoin Core(Bitcoinコア)の開発者が、コンピューティングの消費エネルギーが少ないソフトウェアに変更することを期待しているとして、こう付け加えた。「Bitcoinは現在、世界中にあるデータセンター半分に相当するエネルギーを消費していると思われる」。

ケンブリッジ大学のBitcoin電力消費指数によると、Bitcoinのマイナーは約130テラワット時のエネルギーを消費していると予想されており、世界の電力消費量の約0.6%に相当する。これは、Bitcoin経済がスリランカやヨルダンのような小さな発展途上国の二酸化炭素排出量と同等であることを意味する。とりわけ、ヨルダンの人口は約1000万人だ。毎月何人の人がBitcoinを使っているのかはわからないし、アンマンの住民がヨルダンディナールを使うよりも、Bitcoinを使う頻度の方が少ないのは確かだ。しかし、CoinMetrics(コインメトリックス)のデータによると、100万以上のBitcoinアドレスが日常的にアクティブであることが示されている。暗号資産取引所Crypto.com(クリプトドットコム)の記録では、過去10年間のアクティブアカウントは最大1億600万である。

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「当社は上場している取引所のアドレス総数を数え、同じユーザーが複数の取引所で所有しているアドレスを差し引いて、Bitcoin(BTC)とEthereum(ETH)のユニークユーザー総数を算出している。その後、ETHとBTCの両方を所有するユーザーを考慮して、この総数をさらに減らしている」とクリプトドットコムの広報担当者は話す。

これにより、多くの人々がこれらの金融ネットワークを利用していることがわかる。さらに、Bitcoinマイニング事業の多くは、水力発電や油田から漏れ出る天然ガスなど、環境に配慮したエネルギー源を利用している。マイニング業界で経験豊富なCompass Mining(コンパスマイニング)のCOO(最高執行責任者)、Thomas Heller(トーマス・ヘラー)氏は、四川省や雲南省にある中国の水力発電所では、雨季になると電気料金が安くなると話す。乾季には採算が取れなくなるが、水力発電を1年中使い続けているという。

「5月から10月『雨季』以外の電気料金はずっと高くなるが、雨季以外で水を供給している発電所もある」とヘラー氏はいう。

基本的に、コンピューターはあらゆる供給源からの電力を利用できるため、暗号資産マイニングは本来、余分な二酸化炭素を排出しない。2019年、デジタル資産運用会社のCoinShares(コインシェアーズ)は、Bitcoinマイナーの最大73%が、少なくとも何らかの再生可能エネルギーを電力供給の一部として使用しているとする調査結果を発表した。そこには中国の巨大ダムによる水力発電も含まれている。Bitcoinのマイニングプール(マイナーが協力して利益を上げるための共同体)の上位5社は、いずれも水力発電を多く利用している。ド・フリース氏がこの調査結果に驚くことはない。同氏は、マイナーが消費する全エネルギーの39%は再生可能エネルギーであることを、ケンブリッジ大学の研究者が確認していると指摘した。

「私の発電所にはソーラーパネルを1台設置していますし、再生可能エネルギーを組み合わせて利用しています」とド・フリース氏はいう。

地域別でみると、中国のBitcoinマイニング作業が、ハッシュレートと呼ばれるネットワーク計算能力の約65%を占めていることが、ケンブリッジ大学のデータから明らかになっている。中国の新疆ウイグル自治区のような一部の地域では、Bitcoinマイナーたちが石炭を燃やして電気を供給することもある。同自治区は、暗号資産マイニング以外にも、ウイグル人に対する人権侵害で知られている。中国はこの地域にある天然資源を利用しようとさまざまな攻撃を仕かけており、その一環として、ウイグル人を激しく弾圧している。批評家が暗号資産マイニングとエネルギー消費に警鐘を鳴らすとき、彼らが懸念しているのはこの点である場合が多い。

一方、世界のハッシュレートの約8%は北米のマイナーが占め、ロシア、カザフスタン、マレーシア、イランのマイナーが僅差でそれに続く。イランのHassan Rouhani(ハッサン・ローハニ)大統領は、2020年に国家的なBitcoinマイニング戦略を策定することを呼びかけた。米国による銀行を対象とした制裁の下においても、この金融システムにおけるイスラム国家の影響力を強めることが目的だ。

自分たちに最も有利になるようなマイニング規制を加えている国や組織では、Bitcoinマイニングが盛んになっていく。これまで中国が優位であったのは、少なくとも部分的には、政府によるマイニング事業への補助金に依るところがあった。中国やノルウェーなどでは、Bitcoinマイナーが地元の水力発電所を利用することを奨励する補助金を出している。

ノルウェーに本社を置く60億ドル(約6500億円)規模の上場企業Aker ASA(アケル)が設立したSeetee(シーティー)の調査報告書には、こう書かれている。「マイニング事業の財務管理者は、最も安価なエネルギーの利用にこだわるであろうから、当然、その電気の利用は経済的にそれほど大きな意味がないだろう」

暗号資産マイニングをより環境に配慮したものにするためには、エネルギー源がすでに十分に活用されていない地域でマイニングを推進しようとする政治家を支援するのが一番だ。

北米に関していえば、Blockstream(ブロックストリーム)のCEOであるAdam Back(アダム・バック)氏は、300メガワットのマイニング能力を持つ同社のマイニング施設は水力発電などの産業用電源を組み合わせて利用していると話す。また、ブロックストリームは、古くなったマシンの「リタイヤメントホーム」のようなものとして、太陽光発電によるBitcoinマイニングを検討しているという。

バック氏は「太陽光発電を利用する場合、もし50%の時間しか稼働しないのであれば、コストを分析して検討する必要がある。機器のコストをすでに回収した後であれば、これは古いマシンの良い利用方法となる」という。

暗号資産の価格高騰により、今、Bitcoinのマイニング機器が世界的に不足している。需要が供給を上回っており、マシンの製造には1台あたり最大6カ月を要しているとバック氏は付け加えた。コンサルタント会社MMH Blockchain Group(MMHブロックチェーングループ)の創設者であるEmma Todd(エマ・トッド)氏によれば、この不足によりマイニングマシンの価格が押し上げられているという。

「例えば、2020年7月に中古市場で35~55ドル(約3800〜6000円)だったマイニングマシンのBitmain Antminer S9(ビットメインアントマイナーS9)が、今や275~300ドル(約3万〜3万3000円)ほどになっている」とトッド氏は言い、こう付け加えた。「つまり、新品機器や中古機器の購入を検討しているマイニング企業は、すべてではないにせよ、多くが同じような課題を抱えているということだ。世界的なチップ不足で、今後数カ月のうちに発売予定だった新しいマイニング機器のほとんどが、ほぼ確実に発売延期となるであろう」。

ド・フリース氏のような批評家は、効率的な新しいマシンを使っても、市場原理により、マイ二ング業者は電力消費量を減らすことはできないだろうと指摘する。

「より効率的なマシンがあっても、稼ぎ出す額が同じであれば、1台だけでなく2台のマシンを動かすことになるだろう」とド・フリース氏はいう。

それでも、暗号資産の価格は新しいマイニング機器を製造するよりも早いスピードで上昇しているため、再生可能エネルギーを利用する「引退した」古いマシンを使う方が、単に新しいマシンと入れ替えるよりも利益が大きくなると、バック氏は述べている。また、Bitcoinの強固なマイニングインフラは、電力を使い果たすといったことはなく、むしろコミュニティを支えることができると同氏は話す。Bitcoinのマイニング機器は、エネルギーを蓄え、売買で利益を出すことに役立つからである。

「価格が高騰する状況になればマイニング機器をオンにしたりオフにしたりできるし、緊急性や収益性が高ければ、人々のために電力を使って家を暖めることもできる。Bitcoinは事実上、電力網を支えることができる」とバック氏はいう。

一方、カナダ国境のすぐ北にあるUpstream Data(アップストリームデータ)の代表取締役Steve Barbour(スティーブ・バーバー)氏によると、伝統的な石油・ガス会社の中には、独自のBitcoinマイニング事業を密かに強化しているところが増えているという。

これは、Bitcoin経済が、スリランカやヨルダンのような小さな発展途上国の二酸化炭素排出量と同等であることを意味する。

バーバー氏は「現在大規模なマイニング事業の大半を占めているのは水力と石炭である。しかし、世界規模でみれば、天然ガスのような安価な電力にどんどんシフトしていくだろう。油田には、排出されるフレアや廃ガスを利用した安価なエネルギーがすでに存在しており、2021年は約160ギガワット(の採掘電力)が得られる可能性がある」という。

アップストリームデータは、石油会社がこれまで売却することができなかった廃棄物や低品質のガスを回収するという方法でBitcoinのマイニング機器の設置・運用を支援しており、北米で合計100件の導入実績がある。これらの企業のほとんどは、Bitcoinの批評家から否定的な意見を受けることを懸念し、マイニング事業について公表していないとバーバー氏はいう。

「確かに彼らは自社の評判に傷がつくことを懸念している。しかし、Tesla(テスラ)のような信頼できる大企業がBitcoinに関わっているのだから、そうした考えは間もなく変わるであろう」と同氏は付け加えた。

暗号資産業界においても、Bitcoinマイニングによる電力の大量消費が懸念され、さまざまなマイニング方法があちこちで試されている。例えば、Ethereum(イーサリアム)のコミュニティは、Bitcoinのエネルギー集約型のPoW(プルーフ・オブ・ワーク)モデルではなく、保有コインの割合によってネットワークを動かすPoS(プルーフ・オブ・ステーク)のマイニングモデルに切り替えようとしている。

その名が示す通り、PoWは多くの計算「作業」を必要とする。それがマイナーの行う仕事だ。難しい数学の問題を大量に解くため、コンピューターは大量の電力を必要とする。Ethereumに関して言えば、現在はPoWで運用されており、数年後に原理的にはPoSで運用されることになるのだが、日常的にアクティブなアドレス数十万で、Bitcoinの半分ほどになることもある。Bitcoinと同様、中国に施設を持つ少数のマイニング事業のプロジェクトが、Ethereumネットワークの電力の半分以上を生み出している。Ethereumの1回の取引は、米国の家庭2軒が1日に使用するエネルギーとほぼ同量のエネルギーを必要とする。

ド・フリース氏は「Ethereumのコミュニティで気に入っているのは、少なくとも彼らが問題を解決する方法を考えているということだ。気に入らないのは、彼らが数年前からそのことについて語っているのに、実際には実行できていないことである」という。

Ethereumのエコシステムは、毎年、パナマの国全体に電力を供給できるほどのエネルギーを消費している。Bitcoinと同様、Ethereumの各取引にはおいしいランチを買えるほどの電気料金がかかる。Ethereumの1日の利用者数はBitcoinの利用者数100万人の半分以下だが、両ネットワークはいずれも小さな国を動かすのに十分な電力を必要とする。暗号資産の取引はVISA(ビザ)の取引よりも多くの電力を必要とすることは明らかだ。しかし、暗号資産は単なる決済会社ではない。それは、通貨システムそのものなのだ。

Bitcoinの時価総額を、通貨供給量の値を使い、1つの国としてランク付けした場合、Bitcoinは日本に次いで5位となる。これはEthereumのようなそれに次ぐエコシステムについては考慮すらされていない。つまり、世界のBitcoin経済における電力消費量は、他のいくつかの産業化された金融システムのそれに匹敵するものなのだ。新興経済国で使われている多くのシステムと同様、ド・フリース氏が指摘するように、これは非効率的である。何百万人ものユーザーがいる中、世界中何千人ものユーザーが収入源として暗号資産に依存しているが、彼らは暗号資産のエコシステムについて概して楽観的で、技術が成熟するにつれ今より効率的になると信じている。

カナダのビジネスコンサルタントの1人Magdalena Gronowska(マグダレーナ・グロノフスカ)氏は「クリーンで進歩的な、より分散化されたエネルギーシステムへの移行において、Bitcoinマイニングはますます重要な役割を果たすと考える。マイナーは、バランスのとれた電力網や柔軟なデマンドレスポンス(需要応答)サービスを提供し、再生可能エネルギーの統合を強化することができる」と話す。

カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:暗号資産BitcoinEthereum電力マイニング

画像クレジット:Visual China Group(Image has been modified)

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(文:Leigh Cuen、翻訳:Dragonfly)

二酸化炭素ゼロの再エネ100%電力を提供するCleenTechの「アスエネ」が3億円調達、脱炭素社会を目指す

(左から)グロ ラクマツーラ/VPoE、西和田浩平CEO、岩田圭弘COO、江森靖紘Sustainable Leader

(左から)グロ ラクマツーラ/VPoE、西和田浩平CEO、岩田圭弘COO、江森靖紘Sustainable Leader

再生可能エネルギーの電源を特定し、電力の地産地消を進めるCleenTechスターアップのアスエネ(旧リフューチャーズ)が事業展開を加速させている。地元産の再生可能エネルギーから電力をまかなえるサービスが企業に評判がいい。

クリーン電力サービス「アスエネ」を提供するアスエネは4月2日、シリーズAラウンドで第三者割当増資により3億円の資金調達を行ったと発表した。引受先はインキュベイトファンド、環境エネルギー投資、STRIVEとなる。2019年10月に創業したアスエネは、同年12月に行ったシードラウンドの資金調達と合わせ、今回で累計調達額が3億7500万円となった。なお、同社は2020年8月に会社名をアスエネに変更したことに合わせ、サービス名も「アスエネ」に統一している。

アスエネは二酸化炭素排出量ゼロとなる再生可能エネルギー100%の電力を、製造業の工場や企業の店舗・施設などに提供してコスト削減を図るサービスとなる。また、再生可能エネルギーの供給元となる地域・発電所を選べるようにして、地域貢献をするサステナブルな企業としてのブランディングに繋げている。

この他、アスエネは顧客施設の電力使用量や二酸化炭素削減量などを見える化し、パソコンやスマホ経由でブラウザからいつでもデータを確認できるようにしている。電力料金が高い月や時間帯を予測して事前に通知するアラート機能などもある。

サービスの特徴は、再生可能エネルギー100%の電力を地産地消できる仕組みだ。これまでは、発電所から工場に電気が流れる過程で電力が混ざってしまうため、再生可能エネルギーなどの電源特定は難しかった。つまり、企業は地域の再生可能エネルギーを使おうにも、どこの電気がどこで使われるかをトラッキングできていなかったのだ。

アスエネは、パブリックブロックチェーンを活用した非改ざん性の高い独自のトラッキングシステムを用いて、この課題を解決している。同システムにより、発電所側と顧客施設のスマートメーターで測定される電力使用量データを30分毎にマッチングさせることで、どこからどこに電力が流れたかをトラッキングし、電源を特定できるようにした。

二川工業製作所が持つ太陽光発電所

アスエネは2020年5月にサービスを始めてからの10カ月間、導入契約・受注数は毎月平均で約100%の成長率を記録し、20以上の業界で導入されるなど急成長している。サービスの対象エリアは東京電力エリア(関東地方)のみでスタートしたが、現在は東北電力エリアと中部電力エリア、関西電力エリア、中国電力エリア、九州電力エリアが加わり、全国6エリアにサービスを展開。今後は北陸電力エリア、四国電力エリアへの進出も視野に入れている。

直近では、アスエネは兵庫県の建設機械装置・部品メーカー二川工業製作所と連携し、同県にある二川工業製作所の全8工場の電力を、再生可能エネルギー100%の電力でまかなえるようにした。同県の二川工業製作所が持つ太陽光発電所2カ所からの電気をアスエネ独自のトラッキングシステムで電源特定することで、電力の地産地消を実現させている。二川工業製作所は約600万キロワットの電力をアスエネに切り替えたことで、年間の二酸化炭素排出削減量が約2900トンに上るという。

今回の調達資金は、人材採用や組織強化やシステム開発、販促・広告費などに充てる。アスエネの西和田浩平CEOは「次世代に向けた脱炭素社会の創造に挑戦していきます」と意気込みを語った。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:アスエネ二酸化炭素資金調達電力日本持続可能性

再生可能エネルギーSwell EnergyのNY新規プロジェクトは調達した490億円の用途を示す

2020年12月、Swell Energy3つの州における分散型電力プロジェクトの開発を支援するために、4億5000万ドル(約490億円)を調達すると発表した。そして今、ベンチャーにより支援された同社とニューヨーク市の電力会社ConEdとの契約が発表されたことで、これらのプロジェクトがどのようなものになるのか、業界関係者の目に触れることになった。

関連記事:住宅用再生エネルギー推進のSwell Energyが分散型電力プロジェクト建設に向け470億円調達

ロサンゼルスに本社を置くSwell EnergyはConEdと共同で、クイーンズの住宅所有者を対象に太陽光発電とエネルギー貯蔵を組み合わせた新しいプログラムを展開する予定だ。

これはConEdの顧客を対象に、太陽光発電を利用した家庭用バッテリーを設置するプロジェクトだ。

ニューヨーク州は2040年までに州全体の電力網をゼロエミッションにすることを目標に、2030年までに3GWのエネルギー貯蔵設備を導入することを目指している。

ConEdプロジェクトでは、ニューヨーク市はクイーンズの顧客がエネルギーグリッドのリソースから独立して利用できるバックアップ電力を利用できることを望んでおり、これはエネルギー貯蔵設備を持たない顧客の電力を確保することになる。

プロジェクトに参加する住宅所有者は、システムのコストを下げるためのインセンティブを受けることができる。システムは当初はフォレストパーク、グレンデール、ハンターズポイント、ロングアイランドシティ、マスペス、ミドル・ビレッジ、リッジウッド、サニーサイド、クイーンズの近隣地域の一部住民を対象としている。

Swellの広報担当者によると、ニューヨークのバーチャルパワープラントは同社の他の取り組みとは異なり、ネットワークの過負荷時に顧客の電力需要を減らすために、グリッド上の特定の配電回路に空き容量を提供するという。

バーチャルパワープラントの導入により、ConEdは新たな送配電インフラを構築する必要がなくなり、ネットワークの信頼性を確保することができる。Swellの広報担当者によると、これは需要の問題に対する「ノンワイヤーソリューション」と呼ばれるものだという。

対照的に、Swellのハワイでのプロジェクトはシステムレベルの容量と周波数調整を提供し、Southern California Edisonとのカリフォルニアでのプログラムは、ベースロード時のエネルギー管理と操業地域の全体的な負荷増加のための需要応答能力を提供する。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Swell Energy再生可能エネルギー太陽光発電エネルギー貯蔵電力網

画像クレジット:Don Emmert / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:塚本直樹 / Twitter

テキサス大寒波から学ぶ3つのエネルギー革新

本稿の著者Micah Kotch(ミカ・コッチ)氏はURBAN-Xのマネージング・ディレクターだ。

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気候変動の総合的危機に対する個別なソリューションがいくつも登場している。非常用ディーゼル発電機、Tesla(テスラ)のPowerwall、地下シェルターの「Prepper」などがある。しかし、現代文明が依存しているインフラストラクチャーは相互につながり、相互に依存している。エネルギー、輸送、食料、水、ごみのシステムは、気候による緊急時に対していずれも脆弱だ。私たちのエネルギーインフラ危機を救う唯一の孤立したソリューションは存在しない。

2005年のHurricane Catarina(ハリケーン・カタリナ)、2012年の巨大暴風雨SANDY(サンディ)、2020年のカリフォルニアの山火事、そして最近のテキサス大寒波以来、大多数の米国市民はいかにインフラが脆弱であるかを認識しただけでなく、それを適切に規制しその復旧に投資することがいかに重要であるかを思い知らされた。

今必要なのは、インフラを考える際の発想の転換だ。具体的には、リスクをどう評価するか、維持をどう考えるか、気候の現実に沿った政策をどう作るかだ。テキサスの大寒波は、異例の寒波に備えていなかった電気・ガスインフラを壊滅状態にした。もし私たちがインフラへの緊急な(超党派?)投資を、特に異常気象が当たり前になりつつある今行わなければ、この惨劇は今後も続くばかりだ(そして最前線の人たちは特に重荷を背負う)。

テキサスの記録的暴風から1カ月が過ぎ、焦点は生活を取り戻そうとしている数百万の住民を助けることに正しく向けられている。しかし、短期的未来に目を向けには電気自動車への転換点の兆しが見える現在、この国のエネルギーインフラと公共事業の大転換というツケを払うことを優先しなくてはならない。

エネルギー貯蔵の重要性

テキサス州の電気の75%が化石燃料とウランから生まれており、州内で起きた停電の約80%がこれらのシステムに起因していた。同州と国は、時代遅れの発電、通信、および配送技術に依存しすぎている。2030年までにエネルギー貯蔵のコストが75ドル/kWhまで下がると期待されていることから「需要管理」およびグリッドを「(排除しようとするのではなく)支える」分散エネルギー源に今以上に重点を置くことが必要だ。小規模なクリーンエネルギー発電と家庭内貯蔵電力を蓄積、集約することで、2021年は「バーチャル発電所」が全潜在能力を発揮する年になるかもしれない。政策立案者は、家庭のメーターの内側に設置する新たな分散エネルギーリソースを普及させるための刺激策と報奨金制度を施行させるべきであり、カリフォルニア州の自家発電奨励プログラムはその一例となる。

労働力開発への投資

エネルギー大転換が成功するためには、労働力開発が中心的要素になる必要がある。石炭、石油、ガスからクリーンエネルギー源へと移行するためには、企業と政府(国から市レベルまで)は、労働者がソーラー、電気自動車、バッテリーストレージなどの新興分野の高賃金職に就くための再教育に投資すべきだ。エネルギー効率(エネルギー大転換で最も手をつけやすいところ)に関して、都市は株価に基づく労働力開発プログラムを建物エネルギーベンチマーキング条件と結びつける機会を利用するべきだ。

これらのポリシーは、この国のエネルギーシステムの効率と老朽化する建物の利用率を高めてより生産的な経済を作るだけでなく、 21世紀の成長産業における雇用の拡大と労働の専門化にもつながる。 Rewiring Americaの分析によると、国の野心的な脱炭素宣言によって、今後15年の間に2500万の高賃金職が生まれるという。

信頼性のためにマイクログリッドをつくる

マイクログリッド(小規模発電網)は、主要グリッドと繋ぐことも切り離すこともできる。非常時だけでなく、日常の「青空」運用の日々にも運用することで、マイクログリッドは主要グリッドが停止した際に途切れなく電力を供給できる。そして、主要グリッドにつなげた場合、グリッドの制約とエネルギーコストを減らす。かつては軍事基地と大学だけの領域だったマイクログリッドは年間15%成長し2022年の米国市場は180億ドルに達する

グリッドの回復力と信頼性の高い電力源を確保のためには、重要インフラ施設を近隣の住宅と商業負荷と結びつけるコミュニティ規模のマイクログリッドに勝るソリューションはない。実現性調査と高度な設計に資金提供し、コミュニティがゼロコストで高品質な建設プロジェクト実施できるようにすることは、ニューヨーク州が NYプライズ・イニシアティブでやったように、コミュニティをエネルギー計画に参加させ、民間セクターを低炭素の回復力あるエネルギーシステムの構築に携わらせる有効な方法であることが実証されている。

予測不能性と複雑さが急速に高まり、テクノロジーは居場所を見つけたが、それは単なる個別の安全策や偽りの安心感としてではない。テクノロジーは、リスクを高精度で計算し、システムの回復力を高め、インフラの耐久性を改善し、コミュニティの人々同士のつながりを深めるために使われるべきだ。緊急時もそうでない時も。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:コラムテキサス自然災害電力網エネルギー貯蔵エネルギー

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(文:Micah Kotch、翻訳:Nob Takahashi / facebook