マイクロソフトが顔認証スタートアップから撤退、海外の顔認証技術への投資を終了

Microsoft(マイクロソフト)は、顔認証を研究・開発するスタートアップの株式の一部保有を取り止めるという大きな方針転換の一環として、イスラエルの顔認証技術を開発する企業への投資を引き上げることにしたと先週発表した。

顔認証技術を開発するイスラエルの企業であるAnyVision(エニービジョン)から投資を引き上げるという決断は、AnyVisionの技術がイスラエル政府によるヨルダン側西岸地区住民の監視に使われているという報道を調査したうえでのことだ。

元米国検事総長のEric Holder(エリック・ホルダー)氏が、法律事務所Covington & Burling(コビントン&バーリング)のチームと行ったこの調査で、AnyVisionの技術は、ヨルダン側西岸とイスラエルの境界を超える人間の監視に使われたことを確認したが、「ヨルダン側西岸での大規模監視には使われていない」という。

マイクロソフトのベンチャー投資部門M12は、2019年6月にクローズした7400万ドル(約80億円)の資金調達ラウンドのひとつとして、AnyVivisonを支援していた。今もAnyVisionを支援している企業には、DFJ Growth、OG Technology Partners、LightSpeed Venture Partners、Robert Bosch GmbH、Qualcomm Ventures、Eldridgeなどがある。

同社は、2018年、顔認証技術への取り組みに関して最初に立場を明らかにし、Brad Smith(ブラッド・スミス)社長は米政府に対して顔認証技術の明確な規制を求める声明を発表している。

昨年末、同社が顔認証に対する独自の立場を示す声明を発表すると、規制と監視の強化を求めるスミス社長の声はさらに大きくなった。

スミス社長は以下のように書いている

私たちも他のハイテク企業も、顔認証技術に対処する安全措置を講じる必要があります。この技術は、私たちのお客様に重要な形で、また幅広く貢献でき、単に可能性を示すだけでなく、私たちのお客様が展開する数多くの顔認証技術の応用製品から、ますます刺激を受けるようになるものと確信しています。しかし、他の技術にも増して、この技術の開発と利用には慎重さが求められます。非常にたくさんの論議と調査の末、私たちは、この問題に対処するためのMicrosoftの6つの原則を打ち立てました。ここにその原則を公開し、2019年第1四半期の末までにこれを実践することを約束し、計画を示します。

同社のその6つの原則では、公正、透明、説明責任、無差別、通知と同意、合法的な監視を優先させることとなっている。批評家たちは、マイクロソフトがAnyVisionによる監視活動に加担していると非難した。イスラエル政府に協力して大規模な監視を行う企業を支援することは、自ら打ち立てた原則に反するというのだ。そして今、株式の一部取得では顔認証技術の使い方まで口出しするのは難しいと判断し、この技術を持つ海外企業への投資を凍結したというわけだ。

「マイクロソフトにとって危険性をはらむ技術を販売する企業の株式の一部保有は、その技術の利用に関して同社による一定程度の監視や管理が及ばないことが一般的です。内部監査の強化に伴って投資を続けるのが困難となりました」と、M12 Venturesのウェブサイトに掲示された声明で同社は述べている。マイクロソフトは、危険をはらむ技術の利用に関して同社の監視と管理が大きく及ぶ商業的関係に重点を移しました」。

画像クレジット:Getty Images

 

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(翻訳:金井哲夫)

DNAに倣った遺伝学的手法でマルウェアのコードを特定・追跡するIntezerが15億円を調達

サイバー犯罪の被害総額は数兆ドルの域に達し、さらに増え続けているが、DNAをマッピングする際に使われる配列システムに似た手法で、マルウェアの分析、特定、根絶を行うイスラエルのIntezer(インテザー)が、1500万ドル(約16億5000万円)を調達して成長の道筋をつけた。

この資金調達は、シリーズB投資として、業務用ソフトウェア企業の拡張投資に特化したベンチャー投資会社OpenView Partnersが主導し、前回投資したIntel Capital(2017年のシリーズA投資を主導)、Magma、Samsung NEXT、United Services Automobile Association(USAA:アメリカ軍人、軍属のための金融業者)、そして、CyberArkの創設者で前CEOであり、Intezerの共同創設者でもあるAlon Cohen(アラン・コーエン)氏が参加している。 同社は企業価値を公表していない。今日までに調達した総額は2500万ドル(約27億5000万円)と、比較的控えだ。

Intezerのもうひとりの共同創設者、CEOで以前はイスラエル国防軍のサイバー事故対応チーム(CIRT)の所長を務めていたItai Tevet(イータイ・テベット)氏は、このスタートアップの顧客には「Fortune 500に選ばれた企業、レイトステージのスタートアップ、精鋭政府機関」が含まれると話している(それら顧客の名前は明らかにしていないが、投資家としてUSAAが含まれていることは注目に値する)。

インタビューの中で、Intezerではこの投資を顧客リストの拡大に使う予定だとテベットは話した。それは、現在、同社が提供しているIntezer ProtectとIntezer Analyze(欠陥が見つかった)の2つの製品で行われるが、これまでマルウェアとは別物とされてきた悪意あるサイバー攻撃の脅威にさらされている他の分野にも、このモデルを適用させる方法を探るという。

「私たちの技術は、バイナリーコード全般に対応しているため、さまざまな方面に適用できます」とテベット氏は言う。「デジタルデバイス(ドローン、医療機器、スマートフォンなども含めて)はすべて、バイナリーコードを走らせているので、不正なコードや悪意あるコードを視覚化し、制御し、被害を防ぐ私たちの技術が、サイバーセキュリティーのいくつもの側面に大きなインパクトを与えることが期待できます」

Intezerでは、その手法を「遺伝学的マルウェア分析」と説明している。また「正当なものであれ悪意あるものであれ、あらゆるソフトウェアは、それ以前に書かれたコードで構成されている」という基本前提の上に成り立っているとテベット氏は話す(彼によれば、イスラエル国防軍で「世界中でもっとも強力なサイバーアタッカーと対峙していた」ときに最初の着想を得たという。後に、コーエン氏と3人目の共同創設者Roy Halvei(ロイ・ハルベイ)氏とともに、このアイデアを現実のものにした)。

そのためIntezerは、さまざまなマルウェアを「マッピング」するソフトウェアを開発した。つまり、再利用されたコードや類似性のあるコードを検出してその関連性を調べる。そうすることで、新たな脅威を特定して、攻撃を止めることができる。

サイバー犯罪者には、コードを再利用しなければならない理由がある。それは規模の経済と関係がある。つまり、再利用をすれば作業が早くなるということだ。逆の見方をすれば、「コードを完全に一から書き起こす必要があれば、大規模なサイバー攻撃の実行が飛躍的に困難になります」とテベット氏は指摘する。

現在、市場には文字通り数百社のスタートアップが、システムに入り込んだマルウェアの特定、弱体化、修正措置を行う方法を作り上げようとしているが、Intezerはそれらとは一線を隠していると主張する。

「現在、市場に出回っているセキュリティーシステムの大半は、アノマリーや痕跡情報を探して脅威を検出するというもの」であり、通常は機械学習やAIを用いている。しかし、テベット氏によれば、この方法は「通常の動作に紛れ込むことで回避される恐れがある」という。その方式の弊害の1つに、不確かな誤検出の警報でセキュリティーチームが疲弊してしまうことが挙げられると彼は話す。「それに対して、Intezerは、攻撃の症候には目を向けず、ほぼすべてのサーバー攻撃の元凶、つまりコードそのものの出所を突き止めるのです」

このスタートアップの主張は、いうなれば論より証拠。今日までにその方式によって注目すべき成功を複数収めている。Intezerは、北朝鮮から発せられたWannaCryを最初に特定した企業だ。同社が作成したコードマップは、米国民主党全国委員会の浸入事件とロシアのハッカーとのつながりの解明に寄与した。そして最近では、特にLinuxシステムを狙うHiddenWaspという新しいマルウェア・ファミリーも特定している。

共同創設者でCEOのイータイ・テベット氏は、Linuxをターゲットにしたこの「一人勝ち」の脅威は、目下、最大の課題だと述べている。

「みんなはクラウドのセキュリティーが問題だと騒いでいますが、Linuxのマルウェアが危険だという論議はほとんどありません」と彼はインタビューで語った。「クラウドとIoTが誕生して以来、Linuxは最も一般的なオペレーティングシステムとなりましたが、それ引き換えにハッカーの最大の標的になったのです」。さらに彼は、昔ながらの企業の間でも「EmotetやTrickbotといったバンキング型トロイの木馬が最も一般的なマルウェアとして、いまだに広く見受けられる」と指摘していた。

「イータイ、ロイ、そしてIntezerのチームは事故対応、マルウェア分析、リバースエンジニアリングの稀少な専門知識を有し、これまで国家主導の脅威を数多く軽減してきました」と、OpenViewの創設者で業務執行社員のScott Maxwell(スコット・マックスウェル)氏は声明の中で述べている。「彼らが開発した遺伝学的マルウェア分析技術は、次世代のサイバー脅威検出、分類、修正措置を代表するものです。新分野を開拓する企業である彼らの成長を支援できることを、とてもうれしく思っています」

画像クレジット:Andrey Rudakov/ / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

イスラエルの闇は世界に通じる、倫理とテクノロジーの交差点

イスラエルで成長中のあるスタートアップ企業を想像して欲しい。それは、人工知能をベースにした完全に本物としか思えないディープフェイク動画を制作する企業だ。そのウェブサイトによると、同社の事業は、“企業のコンサルティング”と“政府と政治家のコンサルティング”という2つの部門で成り立っている。さらに、“敵の弱点の発掘と、その拡散を手助けする”とある。

もうひとつ、同社の従業員は「高度な経験を有する逸材であり、イスラエル国防軍諜報部の精鋭部隊および政府の諜報機関の出身者」だと説明されていると想像していただきたい。しかも、彼らのテクノロジーは、これら諜報機関が開発したものをベースにしている。そしてなにより、その取締役会にはモサドやイスラエル総保安庁(Shin Bet)の元長官、さらには元軍高官が参加している。

以上のことを思い描くことができたら、次は民間の情報企業Black Cubeのことを考えて欲しい。さまざまな調査報告が、イスラエルのみならず海外のメディアで報道され、困った実態が明らかになった。それは、この会社が法律に違反しているからではなく、倫理感と社内の道徳規範が欠如しているためだ。

それらの報道によると、Black Cubeは、競合他社が不利になる情報を掘り出したい大企業だけでなく、政敵を抑え込みたい海外の政府とも契約していることがわかった。それは、金融債務から逃れようとする人たちを探し出す政府の仕事を助けることもあるが、犯罪や性的暴力に抗議する女性に嫌がらせをすることもある。ライバル企業に汚名を着せたり、規制当局、監視団体、人権活動家、ジャーナリストに脅しをかけたりもする。

このような企業は、もちろんBlack Cubeだけではない。NSOをご存知だろうか。この会社を代表する製品Pegasusは、どんな携帯電話も携帯スパイ道具に変えてしまう。Glassboxとその製品はご存知か? この手の企業は枚挙にいとまがなく、そのほとんどは、あまり表に出ない。これらの企業はみな、イスラエルの治安当局から得たスキル、テクノロジー、職業文化に立脚している。

イスラエル国防省や治安当局が、武器や軍事的ノウハウを販売していることは周知の事実だ。しかしここ数年、これにテクノロジーによるひねりが加わった。元治安当局の高官や諜報部員たち、かの有名な8200部隊(イスラエル軍諜報部隊のひとつ)の出身者たちが独立して仕事を始めている。世界や社会をよりよくするための新境地を開拓した企業に就職する者もあれば、欲に溺れ、スパイウェアや攻撃的なサイバー兵器を、批判や反乱を蹴散らしたいアフリカの独裁者に販売する輩もいる。

こうした状況は、イスラエルに限ったことではない。西側諸国の治安当局出身者は、公務員としての職務を終えて引退し、新しい仕事に挑戦しようとするとき、同様のジレンマに直面する。しかしこのスタートアップ・ネイション、イスラエルという国は、大きな部分を、イスラエルの防衛機関で働いていたハイテク部隊出身者に依存している。たしかに、この協力関係は、名誉と名声と利益と仕事をイスラエル経済にもたらしているのだが、そのことが、熟慮すべき2つの問題点を生み出している。

ひとつは、倫理に関連する問題だ。テクノロジーの世界で、今、ひとつだけはっきりしているものがあるとすれば、テクノロジーの開発、普及、実装、利用の際に倫理的配慮を含める必要があるという点だ。イスラエルでは、犯罪防止、自律運転車の改良、医療の進歩に注力するべきだが、Facebookの過激派グループの支援、“ボットファーム”の立ち上げやフェイクニュースの拡散、武器やスパイウェアの販売、プライバシーの侵害、ディープフェイク動画の制作などはするべきではない。

もうひとつの問題は、透明性の欠如だ。治安機関のために働いていた、または現在も継続している個人と企業の共同事業は、厚いカーテンの影で頻繁に行われている。これらの事業体は、イスラエルの情報の自由法に基づく挑戦的な質問をはぐらかしたり、はてはイスラエル特有の政府機関である軍検閲局に掛け合い、逃げてしまうことが多い。

民間企業が開発しながら治安上重要なテクノロジーの販売を政府が許可したことを、また誰に売るのかを、私たちはどうやったら知ることができるのか? 民間企業が派遣したスパイをヨーロッパのどこかの国で逮捕されたとき誰が仲裁に入ったのかを、また、ペルシャ湾岸のある国がイスラエルのハイテク企業のターゲットになったとき、どうやったら知ることができるのか? 国益に貢献する企業のこと、そしてその純益のこと、そしてそもそも誰がそれを決めたのかを、どうやったらわかるのか? さらに、主要な人材が国から民間のハイテク企業に転職したときに、軍にどのような影響があるのだろうか? これが、どのテクノロジーに投資するか、それで誰をトレーニングするのか、それで何を購入するのかという国の意志決定過程に、どのような効果をもたらすのだろうか?

テクノロジーは世界をよりよい場所にする。または、うんと悪くする。両方が入り交じった結果もある。アプリ開発者が、私たちのプライバシーに立ち入ろうと、利用規約を故意にわかりづらいものにしているのは公然の秘密だ。しかし、みんながみんなスパイウェアやサイバー攻撃テクノロジーを開発しているわけではない。ソーシャルメディア・プラットフォームが生み出したいくつもの課題については誰もが認識しているが、みんながみんな、それを悪用して誰かを操作したり、“あらし”の軍団で特定の個人を脅迫しているわけではない。

イスラエルと、そのハイテク企業コミュニティは、道徳や倫理に関する問題を軽視すれば、テクノロジーに秀でることでネガティブな結果を招く可能性を真剣に考えなければならない。“スタートアップ・ネイション”ことイスラエルは、この新しい世界を渡り歩くために欠かせない強力な道徳の羅針盤を次の世代に渡すためにも、倫理とテクノロジーの交差点に立って徹底的に議論しなければならない。当面の解決すべき課題は、イスラエルが、または同様の西側の民主主義国が、製品やサービスからその道徳感が伺い知れることを一切考慮しない、利益一辺倒のハイテク企業が成長してしまう現象に、真剣に立ち向かうことだ。

【編集部注】著者のTehilla Shwartz Altshuler(テヒラ・シュワルツ・アルトシュラー)は法学博士。イスラエル民主主義研究所、情報時代の民主主義プロジェクト、シニアフェローおよび主任。

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(翻訳:金井哲夫)

認知症リモート診断の米スタートアップがみずほ情報総研と提携、高齢者ケアを年内にも事業展開へ

高齢者の認知能力の低下を評価、分析するテクノロジーを開発してきたMyndYouみずほ情報総研と提携して日本国内で同社のプロダクトのテストを開始する。テストが成功すればみずほ情報総研は年内にも全国的なサービスとして事業化することを計画している。

MyndYouのテクノロジーは在宅のまま高齢者の認知能力をの変化は評価し、必要なリモートケアを提供できるという。実験は5月末までに日本の5都市でスタートする。

MyndYouはダウンロードして利用できるアプリを用意している。このアプリは高齢者の行動を受動的にモニターし、動作や発言から脳の機能の変調を発見できる。同社の共同創業者でCEOのRuth Poliakine氏はこう説明している。

現在我々が提供しているのは脳機能の異変全般を検知するテクノロジーだが、特定の異状を分析できるところまで行っていない。異状を詳しく特定し、認知能力の低下を早期発見できるよう実験と研究を重ねていきたい。当初、高齢者をサービスの対象とする計画だ。

MyndYouではアプリの利用に習熟した10人の専門セラピストを用意しており、必要と認められた場合にはヘルスケアを提供できる。同社によれば数百人がMyndYouのテクノロジーの実験的利用に参加しているという。

みずほ情報総研との提携により、MyndYouは社会の高齢化が進展し認知症対策に強いニーズを持つ市場での大規模な実験が可能となった。

最近の調査によれば、日本では世帯を支える働き手の4人に1人が2040年まで75歳以上となると予想されており、認知症も増加中だ。みずほ情報総研事業戦略部の森尾仁部長は声明で次のように述べている。

日本国内における認知症患者数は462万人にのぼり、2025年には約700万人まで増加、うち65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症に該当すると見込まれている。これは医療現場だけでなく社会全体の重要課題とされている。また認知症は進行してから受診する人が多く、早期診断・早期対応が求められるが、高齢単身世帯が増加し他者との接点が少なくなることにより、認知機能の変化を早期に発見する機会が減少している。

MyndYouのサービス料金はユースケースに応じて10ドルから50ドル程度が考えられている。みずほ情報総研との提携に先立って、Amplifyher Ventures、Female Founders Fund、エンジェル投資家のHoward L. Morganらが参加してMyndYouのシード・ラウンドが拡大されたと報じられている。現在までに同社は210万ドルの資金を調達している。CEOのPoliakine氏は次のように述べている。

MyndYouはイスラエルで開発された独自技術を活用しニューヨークに本拠を置くスタートアップだ。我々は日本のみずほ情報総研と提携し、MyndYouのメンタルヘルスケアを広く提供していく。日本の高齢者はAIを利用したデータ分析によるカスタマイズされたリモートケアにより、認知症の再発、悪化の防止だけでなく、自立した生活を長く続けることを助けるテクノロジーへのアクセスが広く可能になる。

画像:WitthayaP /Shutterstock

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【Japan編集部追記】みずほ情報総研のプレスリリースはこちら

(翻訳:滑川海彦@Facebook

Flying STARは地上を走り空を飛ぶ小さな変身ドローンだ

災害救助などの場面を考えると地上走行と飛行が同時にできるデバイスがあれば便利だということは明らかだ。しかし従来のドローンは走るか飛ぶかどちらかしかできないのが普通だった。そこでどちらもできるFlying STARが登場した。メカニズムは呆れるほど簡単なので「今までこれを誰も考えつかなかったのはなぜだ?」と思う読者もいるかもしれない。

イスラエルのベングリオン大学の研究者が考案したFlying STARは、飛行・折り畳み・自動走行ロボットだ。アイディアはローターも車輪も回転するという初歩的な事実に気づいた結果生まれたという。それなら両者を兼用させる手だてがあるのではないか?

実現までにはいくつもの困難があったが、David Zarroukが率いるチームは現代の軽量、強力なドローン部品の助けを借りて空陸ハイブリッドの実現に向けて努力を重ねた。その結果、必要なときには一般のドローンのように空を飛び、着陸した後、ローターを載せた4本のアームを下に曲げ、動力を車輪に伝えて地上を走り出すロボットが完成した。

もちろんドローンの下部に車輪を取り付けてもよかったわけだが、ベングリオン大学のチームのアイディアのほうがいくつも点で優れていた。まず第一に、ローターを駆動するモーターがそのまま車輪を駆動するのでメカニズムがはるかにシンプルで効率的だ。もちろん車輪駆動の場合にはローターの場合よりモーターの回転数を低くする必要があった。しかしアームを下向きに曲げる方式はホイールベースと地上最低高を大きくし、安定性と走破性をアップさせる。不整地を走行する場合に非常に有利になる。

下のビデオでFSTARが空を飛び、着陸し、トランスフォーマーのようにアームを動かして地上走行モードに変身するところを観察できる。これはモントリオールで開幕するIEEEのロボティクスとオーテメーションに関するコンベンション向けに用意された。

Flying STARはごくわずかのエネルギー消費量で毎秒2.43メートル走行し、障害物を乗り越えたり階段を上ったりできる。そしてもちろん空を飛べる。開発チームのリーダー、Zarroukはプレスリリースで以下のように述べている。

我々は地上を走り空を飛ぶこのタイプのロボットについて、利用範囲を広げるために大型版、ミニ版を開発する計画だ。またアルゴリズムの改善とスピード、コストの削減にも取り組んでいく。

見てのとおり、現在はプロトタイプでプロダクト化するまでには数多くの作業が必要だろう。しかし実用化されれば撮影やパッケージ配送などの一般的商業用途に加えて農業用、災害救援用、軍・警察用としても利用できるはずだ。

【Japan編集部追記】地上走行中もデバイスのローターは回転しているので車輪とローターで動力を切り替えることはしていないようだ。正面から見た映像ではローター下部にモーターが設置され、ギアトレーンで回転数を落として車輪に動力を伝えている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

イスラエルのBeresheetは月面への降下中に消息を絶つ

イスラエルのSpaceILは、あともう少しで歴史を作るところだったが、米国時間4月11日、Beresheet宇宙船は月面に着陸する寸前、下降中に失敗を喫することになってしまった。イスラエルは、制御された月面着陸を成功させた4番目の国になるチャンスを逃したことになる。しかし、全行程の99パーセントまで到達したことは、民間による宇宙飛行としては並外れた成果と言えるだろう。

Beresheet(Genesis)は、この2月にSpaceXのFalcon 9ロケットの第2ペイロードとして打ち上げられ、螺旋状に軌道を拡げながら1カ月半後に月の周回軌道に入った。これは先週のことだ。今回の最終的な操作は、エンジンの噴射によって月面に対する相対速度を落とし、さらにブレーキをかけて「晴れの海」に軟着陸するというものだった。

すべては最後の瞬間の直前まで完璧に動いていた。宇宙空間ではよくある状況だ。意図した降下開始点に寸分違わずに到達した宇宙船は、すべてのシステムの準備が整っていることを確認し、予定通りの着陸プロセスを開始した。

一瞬テレメトリを失ったので、宇宙船をリセットしてメインエンジンをオンラインに戻す必要が生じた。そして、月面からわずか数キロメートルの地点で、通信は途絶えてしまった。上の「自撮り」写真は、月面から22km上空で、そのわずか数分前に撮影されたもの。そのすぐ後で、宇宙船は消息を絶ったと発表された。

まったくがっかりな結末だが、ワクワクさせてくれるものだった。チームはすぐに落ち着きを取り戻し、「あそこまで到達できたということだけでも絶大な功績であり、誇ってよいことだと思います」と述べている。そして「1回目に失敗したら、何度も挑戦するだけです」と。

このプロジェクトは、10年以上前に発表されたGoogleのLunar Xprizeに応募するものとして始まったのだが、その後このチームが指定された期間内に挑むのは難しすぎることが判明していた。競技の継続とその賞金は諦めざるを得なかったが、イスラエルのSpaceILチームは仕事を続けていた。幸い、航空機産業を統括する国営のIsrael Aerospace Industriesによるサポートを受けることもできた。

Beresheetは、このように政府からかなりの支援を受けていたのは確かだが、一般的な政府主導の大規模なミッションに比べれば、どこからどう見ても「私的な」ミッションであると言って間違いない。チームのメンバーは50人以下で、予算も2億ドル(約220億円)というのは、月着陸に限らず、実際にどんな重大なミッションと比べても、一笑に付されるほどの規模でしかない。

私は、着陸動作に入る前に、Xprizeの創立者兼CEOのPeter Diamandis、Anousheh Ansariの両氏に話を聞いてみた。いずれも非常に興奮していて、このミッションはすでに大成功したものと考えられることを表明していた。

(参考記事日本語版:民間初の月面探査機が木曜夜に打ち上げへ

「ここにいるのは、この奇跡が起こるところをひと目見ようと集まってきた、科学、教育、そして政府関係者の錚々たる面々です」と、Diamandis氏は述べた。「私たちは、今から11年前にこの競技を始め、エンジニアを鼓舞し、教育しました。時間切れになったとは言え、このプロジェクトは目標の100%を達成しました。たとえ完全に無傷で着陸できなかったとしても、すでにかなりの熱狂と興奮を巻き起こしました。15年前のAnsari Xprizeを思い出させるものです」。

こう考えているのは彼だけではない。自身の名前を冠した有名な宇宙飛行Xprizeに資金を提供し、最初のツアーとしての国際宇宙ステーション上空の宇宙飛行を経験したAnsari氏も、共感を示している。

「これは驚くべき瞬間です。とてもたくさんのすばらしい思い出を蘇らせてくれます」と、彼女は私に語った。「私たちがみんなMojaveに赴いて、Spaceship Oneの打ち上げを待っていた時のことを思い出します」。

Ansari氏は、着陸が人類の進歩のように感じられるものであることを力説した。

「過去50年間で、全人類70億人のうちたった500人しか宇宙に行っていないのです。その数は近いうちに数千人にもなるでしょう」と、彼女は言う。「私たちは、この技術分野にはできることがもっとたくさんあると信じています。文明だけでなく人類にも利益をもたらす、本当のビジネスチャンスがまだまだあるのです」。

SpaceILチームが成し遂げたことを祝福したい。そして、次の挑戦では、きっとうまく着陸できることを願っている。

画像クレジット:SpaceIL

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

もうすぐ月面に着陸するイスラエルのBeresheet

Beresheetは、イスラエルの私的資金で開発され、打ち上げられたミッションで、月面着陸を目指している。今回、1ヶ月半におよぶ飛行の末、月の周回軌道に入ることに成功した。機体は現在、4月11日の着陸に備えて、軌道を調整しているところだ。

この宇宙船は、去る2月21日に、SpaceXのFalcon 9によって打ち上げられた。その後地球の軌道を回りながら、月に向けて加速した。この機体を制作したSpaceILのエンジニアは、その正確な仕事を証明して見せた。Beresheetが最後の噴射を終えて月の楕円軌道に入ったのは、打ち上げ前に予想されていた時刻と9分とずれていなかったのだ。これは、まさにロケットサイエンスのなせる技だ!

この計画の次のステップは、連続的にエンジンを噴射しながら、徐々に月の周回軌道を小さくしていくこと。それがある地点まで達したら、最終的なエンジンの噴射により、月面に向けて降下する。

「月に到達したことは、それ自体歴史的なイベントです。それと同時に、月の周回軌道に入ることのできた7カ国の仲間に、イスラエルも加わることを意味します」と、SpaceILのMorris Kahn氏は声明の中で述べている。「今日から1週間後に、月面着陸という、さらに大きな歴史を作ります。それは、これまでに3つの超大国しか成し得なかったことです」。

ここで言う超大国とは、もちろんアメリカ、ロシア、そして中国のこと。しかも中国は、今年のはじめに月の裏側(「影」の部分ではない)に着陸している。

しかしBeresheetは、月面に軟着陸する最初のプライベートな事業となるはずだ。さらに、単に私的に計画され、資金が集められただけでなく、その開発と打ち上げも、民間企業によって成し遂げられた。これは地球規模の宇宙開発コミュニティの威力を示すもの。費用も1億ドル(約110億円)未満で、非常に安価だ。

すべてがうまくいくと仮定すると、着陸船はMare Serenitatis、つまり「晴れの海」に着陸し、数日間、周辺を探査する。いくらかの実験装置を積んではいるが、着陸船はその後まもなく動作を停止する。着陸後の動作は、それほど重要ではなく、長期的なものでもない。

つまりこのミッションでは、科学は二次的な目標に過ぎないのだ。Beresheetの打ち上げは、まず第1に国家の威信と、イスラエルの宇宙開発コミュニティの発展のため。そしてその目的のためには、すでに成功を収めたことになる。着陸船は、もうすぐ月面に向かって降下を始める。お楽しみに。

画像クレジット:SpaceIL

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

サイバーセキュリティーと人権:イスラエルのサイバー法はビッグブラザーの序章か

[著者:Tehilla Shwartz Altshuler]
The Israel Democracy Institute(イスラエル民主主義研究所)による情報時代の民主主義プロジェクトのシニアフェローおよび代表。

サイバー攻撃には、移動体通信を麻痺させ、コンピューター化されたシステムの改変や消去を行い、コンピューターサーバーへのアクセスを不能にし、電力網や銀行システムを攻撃することで国家の経済や防衛に直接被害を与える力がある。

どの国にも必要なものであることは明らかだが、とくに国防上特殊な状況にあるイスラエルでは、サイバー防衛システムの維持管理が欠かせない。イスラエルでは、イスラエル・サイバー事象即応チーム(CERT-IL)を含む統合的なイスラエル国家サイバー総局(INCD)を設立し、首相官邸のイスラエル国家安全保障局やモサドなど、他のセキュリティー機関と密接に協力しつつ、問題に対処している。これは重要な機関であるため、立法権、目標、組織構造を明確に定義しておかなければならない。

しかし、おかしなことに、イスラエルはイノベーションと技術開発においては急成長を遂げた「スタートアップ・ネイション」でありながら、テクノロジーと人権と民主主義の価値の交差点で持ち上がっているジレンマに対処する法律では、恐ろしく立ち遅れている。セキュリティーとトラッキングに関する技術は、ほとんどが民間の目の届かない場所で開発されていて、統合されたINCDは、その活動を縛る法律が整備される前に設立された。

それに対して、イスラエルのサイバー防衛システムの活動の法的枠組みを定める目的で、サイバー法の最初の草案ができたのは、喜ばしいことだ。しかし、草案を見ると、国は国民をサイバー攻撃から守るのに必要な力以上のものを求めているように思える。未来のサイバー攻撃がどのようなものになるか、現時点では想定が難しいという理由もひとつにはある。しかし、市民活動の統制力を強めるためにテクノロジーを使うという政府の陰謀めいた部分もある。

この草案では、INCDは首相官邸に属することになり、インターネットや携帯電話からのデータを日常的に収集し、省庁、地方自治体、政府関連法人に提供することで、サイバー攻撃を特定しリアルタイムで対処できるようにするとある。それでも、「セキュリティー関連のデータ」の定義は曖昧なままで、2015年にアメリカのサイバーセキュリティ情報共有法(CISA)で定義された痕跡情報(サイバー脅威情報)よりもずっと範囲が広くなっている。

問題は、政府機関に公開されるネット上のあらゆる活動の記録や詳細な個人情報など、これらすべてが本当に必要なのかということだ。このような方法で収集された情報が、行動的特徴の割り出しに利用され、市民を縛る形で使われはしないだろうか。こうしたデータの収集と、広範囲で制限のない盗聴と、いったいどこが違うのだろう。そこまで深い情報を国が覗けるようになることは、国民のプライバシーと人権にとって、じつに重大な問題となる。

さらに、この法案が通れば、INCDは、サイバーセキュリティーを侵害する人物を絞り出すという名目で、さまざまなコンピューターへのアクセス権を持ち、情報の収集や処理ができるようになる。これには、すべての市民と企業のプライベートな情報が含まれる恐れがある。法案にはプライバシーを守る権利を尊重するようにも書かれているが、その権利を「必要以上に」侵害しない活動は認めている。つまり、恐ろしいほど曖昧な制限なのだ。しかも、収集した情報の使用の制限も不十分だ。どれだけの期間、情報を保管できるのか。INCDから警察や他の機関に提供してもよいのか。

同時に人権を守ってゆかなければ
サイバーでもテクノロジーでも
グローバルリーダーにはなれないと
自覚しておくべきだ

この法律は、INCDに、警察やプライバシー保護機関などを超える法的権限を与える。一般企業から営業許可を取り上げる権限すら持つ。その結果、他の機関との協力関係が崩れるのは明白だ。もちろん、最大の疑問は、この力がいつ行使されるかだ。その答えもまた、不安なものだ。「『重大な利益』を守る必要が生じたときはいつでも」とされている。

これは、国家の安全や人命を守るためのものかも知れない。しかし、草案には「大規模にサービスを提供する組織の適正な運営」という一文がある。これには、大手衣料品販売チェーンなども含まれるのだろうか。そうだとしたら、これは正当化されるのだろうか。

私たちが知っている、昔ながらのサイバーセキュリティーとは、おもに目に見えるインフラへの被害を想定したものだった。しかしこの草案では、首相の意思で、より多くの脅威をサイバーセキュリティーの対象リストに追加できるようになっている。そこでまた疑問がわく。「ソーシャルネットワークで議論を持ちかけ、市民の意識に悪い影響を与えること」や「フェイクニュースを広めること」などを首相が加えたとしたら、国家安全保障局に加えて、INCDにもこうした問題に対処する権限を与えることになるのだろうか。

さらに言えば、この草案では、こうした強大な力を持つ組織を監視する機関については、あまり触れられていない。しかも、INCDの長官には、サイバー攻撃が判明した際、秘密裏に活動できる権限が与えられている。たしかに、抑え込む前にサイバー攻撃の事実を公表してしまえば、さらなる被害を招きかねないため、それは理解できる。しかし、もし自分がかかっている病院にサイバー攻撃があり、医療の現場が混乱してしまったとき、いつまで真相を知らされずに我慢できるだろうか。銀行口座やデートサイトに登録したデータが漏洩した人たちはどうだろう。

この法案は、INCDに監視されない権力を与えるものであり、それは民主主義の常識から外れる。こうした力の乱用や、エドワード・スノーデンが暴露した米国家安全保障局の立ち入った監視プログラムPRISMは、とくにイスラエルにおいては警鐘と捉えるべきだ。EU一般データ保護規制(GDPR)が施行された今日、プライバシーの権利とは、もう自分の個人情報を自分で管理する権利ではないように思える。むしろ、プライバシーの権利とは、他人の人権の前提条件と考えるべきだ。この法律は重要だが、前代未聞の「ビッグブラザー」シナリオの第一段階だという印象を拭い去ることができない。

立法者は、ゆっくり時間をかけて、サイバー問題と、それがもたらす脅威と機会について学ぶべきだ。この法案の審議する人間は、デジタル世界におけるプライバシー権の意味を深く理解していなければならない。その知識は、よりバランスのとれた法案を作る上で役立ち、ひいてはイスラエルの人々を守ることにつながる。

この法案の趣旨には「イスラエルをサイバーセキュリティーの分野でグローバルリーダーにする」というものがあるが、創造性と独立心と奇抜な発想に支えられているイスラエルのような小さな国では、同時に人権を守ってゆかなければ、サイバーでもテクノロジーでもグローバルリーダーにはなれないと自覚しておくべきだ。

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(翻訳:金井哲夫)

Carbyneは緊急通報をUber化する――イスラエルのスタートアップがスマホ対応の新システム開発

イスラエルのスタートアップ、Carbyneがまったく新しい緊急通報処理システムを開発した。これは最近普及してきたインターネットによるライブ・ビデオストリーミングや位置情報サービスの機能を最大限利用するシステムだ。

ファウンダー、CEOのAmir Elichaiは2013年にテルアビブのビーチで泥棒にあい、警察に通報したが、必要な情報を伝えるために延々と会話しなければならなかったという(「あなたが現在いる場所を教えてください。何が起きたのですか?」等々)。このときに感じたフラストレーションがCarbyneを創立するきっかけになった。「Uberのドライバーもピザの配達係もワンクリックで私がどこにいるのか知る。それなら911でも同じことができるはずだ」とElichaiはいう。

Carbyneが現在最優先の課題としているのが「発出時間」だ。つまり通報電話をかけてから警察や消防が対処要員を派遣するまでにかかる時間を短縮することに集中している。これを実現するためには。現場の正確な位置と対処すべき事態の内容という2つの情報が必須だ。Carbyneではデバイスのロケーション機能を活用するのはもちろん、一歩進めて、屋内の位置検出テクノロジーを利用して指令員が通報者の位置をすばやく知ることができるようにしている。数秒以内に1メートル以内の精度で位置を特定できるという。

また、Carbyneシステムには状況把握のためにライブ・ビデオストリーミング機能が組み込まれている。通報者の許可を得れば指令員は通報者のデバイスのカメラにアクセスすることができる。「この2つのテクノロジーを組み合わせることで要員の派遣までに要する時間を60%から65%減らすことができる」とElichaiは説明する。

次のステージは医療情報のすばやい伝達

現在の緊急通報システムは基本的に固定回線のテクノロジーを前提としている。そのためカメラ、チャット、GPSなど今やスマートフォンで普通となった機能を活用することが難しい。現在のレガシーシステムに新機能を組み込もうとするのではなく、緊急通報システムをスマートフォン時代に適合した全く新しいプラットフォームに置き換えようというのがCarbyneの考えだ。同社では新しいシステムをイスラエルだけでなくアジア、ヨーロッパ、中南米に導入している。最近、アメリカについてもジョージア州ファイエット郡と契約を結んだという。

新システムのメリットは明らかだが、最大のハードルは各種の規制だ。これは郡や市などの自治体ごとに大きく異なる。Elichaiは「まず当局を納得させる必要がある。新しいテクノロジーを活用しようと意欲的な自治体もあるが、サイバーセキュリティーなどの面に不安を感じる自治体もある。またCarbyneシステム導入にともなって警察や消防の活動自体も変化するので十分な研修や再訓練が必要になる。このシステムによってどういうメリットが得られるのかよく分かるようにデモしなければならない」とと語った。

Carbyneが現在取り組んでいるのは対処時間の短縮だが、次の課題は救急医療サービスとの連携だ。対象者の状態、症状を写真やビデオを活用していち早く伝えれば救急車や受け入れ側の病院は器具、設備などを適切に準備できる。「こうした緊急通報ネットワークのエコシステムは非常に巨大で複雑なものになる。Carbyneを世界に普及させるためにわれわれがなすべきことは多い」とElichaiは結んだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Intel、Mobileyeを153億ドルで買収―自動運転テクノロジーの拠点をイスラエルに移す

Intelは自動運転のためのコンピューター・ビジョンのリーダー、Mobileyeを153億ドルで買収することを確認した。両社の関係は当初は提携だったが、最終的には買収に進んだ。これはテクノロジー関連のイスラエル企業の買収としてこれまでで最大となる。

Intelは声明で次のように述べている。 「合意された条件に基づき、Intelの子会社は、Mobileye社株式について1株当り63.54ドルのキャッシュで公開買付を開始する。すべての発行済株式が買付の対象となる。〔オプション実行などによる〕希薄化後の株式を含んだ買付総額は約153億ドルと見込まれる。会社評価額は147億ドル(…)」。買収手続きは9ヶ月程度で完了するものとIntelは見込んでいる。

現在Mobileyeは 広範囲なテクノロジーとサービスを保有している。センサーフュージョン、マッピング、フロントおよびリアカメラ関連のテクノロジーが含まれる。2018年には高精細度マップのためにデータ取得のクラウドソーシングを開始する。また自動運転の決断の基礎となるドライビング・ポリシーの実用化も導入するととしている。これらの新しいテクノロジーとサービスは今後すべてIntelブランドとなる。Intelはさまざまな自動運転テクノロジーを取得することになるだけでなく、自動車メーカー各社がMobileyeと結んでいる密接な関係もIntleの傘下に入ることを意味する。今日(米国時間3/13)の電話記者会見でMobileyeの共同ファウンダー、CTOのAmnon Shashuaは「われわれは現在自動車メーカー27社と提携している。20016年にはAudi、BMWその他のメーカーと10種類のプロダクション・モデルに関するプロジェクトを実行している」と述べた。【略】

Intelは当初のTechCrunch記事を確認し「Mobileyeの共同ファウンダー、CTOのAmnon Shashua教授がIntelの自動運転事業部の責任者となり、これはイスラエルを拠点する。Intelの上級副社長 Doug DavisがMobileyeとIntelの業務統合全般を指揮し、Shashua教授に直属する」と発表した。

イスラエルをベースとするコンピューター・ビジョン、機械学習に関連して、Googleは道路情報をクラウドソーシングするWazeを11億ドルで買収Appleは3DセンサーのPrimeSenseを3億ドルと報道される額で買収している。

Mobileyeが買収後もイスラエルにとどまることになったのはWazeの買収をめぐるドラマを想起させる。当初FacebookがWaze買収に動いたものの、Wazeのエンジニアはイスラエルにとどまりたいと希望し、FacebookはチームをシリコンバレーのFacebook本社に移したがった。この問題で交渉が中断している間にGoogleがWazeをさらってしまった。Googleはイスラエルに本拠を置きたいというWazeの条件を認めたために買収は即決されたという。

IntelとMobileyeは昨年から公式に提携していた。 今年に入って両社は、BMWの自動運転車40台にテクノロジーを供給している。Mobileyeは早期からTeslaの自動運転テクノロジーのパートナーだった。ただしMobileyeがTeslaの安全性に関する方針に反対したためこの提携は終了している

Mobileyeは2014年にNasdaqに上場し、現在の時価総額は105億ドル.だ。買収のニュースが流れると同時に、市場が開く前に、株価は33%以上アップした。【略】

自動運転テクノロジー関連の動きはIntelにとどまらない。同じく今日、自動車部品メーカー大手のValeoがドイツのスタートアップで、車載3D画像処理ソフトウェアのgestigonを買収したことを明らかにしている。同社のテクノロジーは車両内外のさまざまな情報をドライバーに伝えると同時に自動運転システムともコミュニケーションを取り、車両の動作を決定するのを助けるという。

金額など買収の詳細は明らかになっていない。Valeoは従来から自動運転テクノロジーに活発に投資しており、これまでにもフランスの自動運転シャトルバス、Navyaの株式の一部を取得したりカリフォルニア州で自動運転車のテストを行うライセンスを取得するなどしている。gestigonの買収はこの分野への関心が非常に強いものであることを意味するようだ。

Valeoはこの後、投資家向け電話会見を開く予定なので新しいニュースが判明すればアップデートする予定だ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ホンダが、イスラエルのテル・アビブに新しく開設されたスタートアップハブDRIVEと提携

2016 Honda Civic Sedan

ホンダはそのXceleratorプログラムを使ったスタートアップたちとのパートナーシップを、水曜日にイスラエルのテル・アビブに開設された新しいスタートアップハブであるDRIVEを通して、更に拡大しようとしている。DRIVEは、特に輸送と自動運転ソリューションを含む、スマート移動テクノロジーに注力する施設だ。今回のパートナーシップは、ホンダのシリコンバレー研究所の成果と直接つながっていて、「専門技術、資金提供、そして素早いプロトタイプ作成の機会」を参加企業に提供する。将来的にはそれらの関係が「更なるビジネス関係へと進化する」ことが期待されている。

Hondaは新しいDRIVEセンターの唯一のボードメンバーではない。更にHertzレンタカーやVolvoといったパートナーも加わっている。Mayer Groupによるこの施設の立ち上げは、テクノロジーセクターによる興味が、自動運転革命だけでなく、都市の交通や自動輸送一般に向けて成長しようとしている現在、そうした動きへ出資するという意味で、完璧なタイミングでなされたものだ。

ホンダは、スタートアップコミュニティとの協業に熱心であり、そうしたパートナーシップを実際の製品開発の駆動力として利用してきた。例えばスタートアップのVocalZoomとのタイアップで 、ホンダは今年のCESにおいて、より優れた音声認識を提供するための光学センサの利用のコンセプトを紹介した。これらのセンサーは話者の顔を認識し、マイクロフォンから集められたデータを補完する。

有望なスタートアップと提携し育成を行うことは、スマートな戦略だ。ホンダの国際研究開発活動の責任者である松本宜之が、1月のCESで筆者に対して語ったことは、それこそが、内部での開発や、外部との協力、あるいは買収といった手段を問わず、あらゆる問題に対して最善の解を見出すための、同社の基本アプローチの一部なのだということだ。

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(翻訳:Sako)

イスラエルのサイバーセキュリティ企業への投資に関するトレンド

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【編集部注】本記事はYL Venturesに勤めるYoav Leitersdorf(パートナー)、Ofer Schreiber(パートナー)、Iren Reznikov(アナリスト)によって共同執筆された。

世界全体で見ると、サイバーセキュリティ業界のスタートアップに対する投資は2016年に一段落したように感じる。しかし同分野でアメリカに続く市場規模を誇るイスラエルでは、投資額が急増した上、イノベーションの勢いも落ちておらず、2016年も素晴らしい結果に終わった。

伸び続けるイスラエル企業への投資

CB Insightsは、2016年のサイバーセキュリティ業界における投資案件数や投資金額が、2015年のピーク時に比べて減ったという調査結果を発表した。その背景には、同業界に対する投資が過剰なのではないかという投資家の考えがあったとされているが、私たちが調査したところ、イスラエルの特にスタートアップ投資については、喜ばしいことに逆の結果が出ている。

2016年には83社のサイバーセキュリティスタートアップが新たに設立された。これは2015年の81社から微増しているともに、起業活動やイノベーションが減退していないということを表している。

さらに新設されたスタートアップの多くは、大手企業の社員やスタートアップの幹部として数年間だけ経験を積んだ、若い実業家によって立ち上げられた企業だった。一方昨年以前は、経験豊富な人たちがサイバーセキュリティ界のスタートアップを率いていることがほとんどだった。

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成功の種まき

驚くことに、2016年に設立されたスタートアップの36%が、既にシードラウンドで資金を調達している。ちなみに昨年の数字はたった15%だった。

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そして平均調達額も、昨年の250万ドルから285万ドルへと増加した。

一方で経験の重要さも目立ち、シード投資を受けたスタートアップの67%は経験豊富な経営陣によって運営されている。

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そしてシード投資を受けたスタートアップの中には、2016年以前に設立された企業ももちろん存在する。設立年に関わらず、シード資金の調達を行った企業の平均調達額を算出すると、2015年の230万ドルに対し、2016年は270万ドルだった。

調達資金額の大幅な増加

サイバーセキュリティ業界全体の投資案件数も、2015年の62件から2016年は72件へと増加した。

そして企業の段階に関わらず、全てのサイバーセキュリティ企業への投資額を足し合わせると、2015年の5億6000万ドルから、2016年は6億8900万ドルと23%増加した。これは各企業がイノベーションを生み出し続け、成長のために巨額の資金を調達しているということを表している。

また2015年と2016年の、企業の段階に応じた調達額を比較してみると面白いことがわかる。いわゆるアーリーステージにある企業への2016年に行われたシードラウンド、シリーズAラウンドでの投資額は、それぞれ2015年から24%、91%増加した。一方シリーズBの調達額は52%も急落したのだ。

シリーズBの金額が大きく減少した背景には、スタートアップがそれよりも前のラウンドで十分な資金を調達し、うまくやりくりができているためだと私たちは考えている。シリーズAで巨額の資金を調達した企業の例としては、ClarotyFireGlassSafebreachTwistlockなどが挙げられる。

グロースステージにある企業への投資を見てみると、調達資金総額は2015年から2016年にかけて212%に急増しており、各スタートアップが将来的に大企業になるための資金をうまく調達できていることがわかる。ForeScoutSkybox Securityも2016年に数千万ドルを調達し、IPOが視野に入ってきた。

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アツい分野

企業の段階に関係なく、去年はニッチもしくは何かに特化したサービスに加えて、プラットフォーム型のソリューションが、サイバーセキュリティ業界では投資家に人気だった。具体的にはモバイルセキュリティ、脆弱性・リスクマネジメント、ネットワークセキュリティ、SCADAシステム、インシデントレスポンスなど従来からあるITの分野だ。

しかし一般的にスタートアップは、新しいタイプのリスクに対応するための新しいサービスの開発に力を入れていることが多い。例えば2016年に新設されたスタートアップに人気の分野は、IoTセキュリティ、ドローンセキュリティ、サイバー保険で、その他には前述のような脆弱性・リスクマネジメントやモバイルセキュリティなどを扱う企業も誕生した。IoTデバイスやドローンに搭載されているような新しいテクノロジーが誕生すると、いつも一緒にセキュリティ上の問題が生まれる。それをチャンスと感じた企業が、革新的なソリューションで問題解決にあたっているのだ。ドローンセキュリティのApolloshieldがその典型だ。

また、サイバー保険や脆弱性・リスクマネジメントへの投資額が増えていることから、企業はセキュリティブリーチのリスクをコントロールしたり、低減させたりするるのに役立つ管理ツールを求めているということがわかる。どこに脆弱性があるのかを理解(して対策をとる)ことで、サイバー保険の料金を下げることができ、これがサイバーアタックを受けたときにかかる大きなコストを打ち消している。この分野は2017年に投資家から特に注目されるようになると私たちは考えている。

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イグジットに関するトレンド

被買収企業の数は2016年よりも2015年の方が多かったが、イグジットに関しては興味深いトレンドが誕生した。ひとつめのトレンドには、CASB(Cloud Access Security Broker)という重要なカテゴリーに含まれるふたつの企業が関わっている。そのふたつの企業とは、昨年Ciscoに買収されたCloudlockと、Proofpointに買収されたFireLayersを指し、両社の買収は2015年のMicrosoftによるAdallomの買収とつながるところがある。Gartnerが発表した、2016年の情報セキュリティテクノロジートップ10にも含まれているCASBは、統合期を迎えつつあり、大手企業が実績のあるスタートアップを買収しようとしているのだ。

ふたつめのトレンドは、自動車セキュリティテクノロジー市場におけるものだ。自動運転車やコネクテッドカーの登場とともに、自動車を守るソリューションの必要性が高まってきた。というのも人間の命が関わってくる自動車に間違いは許されないからだ。2015年後半から2016年にかけて、イスラエルでは無数の自動車セキュリティスタートアップが立ち上げられ資金を調達していた。例えばKaramba Securityは2016年に投資を受け、Towersecはこの分野で初めて他の企業に買収された。私たちはまだこのトレンドがはじまったばかりだと考えている。

2016年中にイグジットを果たした企業の数は多くなかったが、これは必ずしも悪いわけではない。むしろ多くの企業(特にグロースステージにある企業)が十分な資金を調達できているため、評価額が低いまま急いでイグジットするよりも、スケールアップを目指そうとしているのだ。

最後のトレンドとして、2015年は若い起業家が率いるスタートアップのイグジットが多く見られた一方、昨年イグジットを果たしたサイバーセキュリティー企業のほとんどでベテランが経営層を占めていた。このトレンドについて、2016年は若い起業家がレーターステージでの資金調達に努め、イグジットを急ぐよりも、会社のスケールに注力していたのだと私たちは考えている。

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成熟しつつあるイスラエルのサイバーセキュリティ業界

世界的にはサイバーセキュリティ業界への投資が減速する一方、イスラエルの同業界は成長を続け、企業はこの厳しい時期にも巨額の資金調達に成功している。イスラエル企業が生み出すイノベーションは、新たなセキュリティの分野が次々と生まれる中での唯一の光だといえる。より多くの企業が追加の資金調達を行い、イグジットまで会社を成長させ続けている様子は、まさにサイバーセキュリティー業界の成熟を象徴している。

2017年もきっと好調が続いていくことだろう。私たちはイスラエルのサイバーセキュリティスタートアップが、海外に進出した後もイノベーションを生み出し続けることができると楽観視している。というのもデータ・プライバシー保護、年々レベルの上がるサイバー攻撃への対策に関する政府の厳しい規制に対応するために、効率的なソリューションを求める企業の数は増え続けている。そして私たちの統計から、今後何年にもわたって世界のサイバーセキュリティ市場を変える力をもった企業が、今後も活気あふれるイスラエル市場から誕生し続けるということがわかっているのだ。

記事の中で触れた新進気鋭の起業家やスタートアップの多くは、サイバーセキュリティ業界では(アメリカを除く)世界最大規模の展示会Cybertech Israelで紹介される予定だ。

編集部注:共同執筆者の3人が勤めるYL Venturesは、Karamba Security、Twistlock、FireLayersに投資している。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

Snapchatがイスラエルのスタートアップを3000万から4000万ドルで密かに買収

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Calcalist Newsによれば、Snapchatは今週イスラエルでの最初の買収を行った。買収したのは設立して4年のCimagineである、その拡張現実プラットフォームを使えば、消費者は買いたい製品を希望する場所で簡単に視覚化することができる。Catalistによれば買収金額は3000万から4000万ドルの間である。

そのLinkedInのページによると、Cimagineは現在、南カリフォルニアの家具フランチャイズのJerome’s;英国のデジタル小売店のShop Direct;そして世界企業であるコカコーラなどのブランドと協業している。そのモバイルプラットフォームはこれらの企業のサイトやモバイルアプリの拡張や、オンラインコンバージョン率の引き上げ、店内販売の向上などを目指している。

おそらく、Snapchatはこの技術を使ってキャンペーンを強化するつもりだ、私たちがこれまでに見た、例えばStarbucksと一緒に行ったものでは、昨年の夏にSnapchatはサマードリンクキャンペーンを行い、そこではStarbucksを飲む人たちがアイスフラペチーノの写真を合成して友人たちに送る機能を提供していた。

これはまた、Cimagineの4人の共同創業者である、Ozi Egri、Amiram Avraham、Nir Daube、そしてCEOのYoni Nevoという才能を獲得するための動きにも見える(全員がコンピュータビジョンと画像処理専門家である)。

この動きはまた、Snapchatに、必要に応じてイスラエルの開発センターを設立する手段を与えるようにも見える。

Crunchbaseでは、Cimagineが、iVentures Asia、OurCrowd、およびPLUS Venturesからの非公開のシード資金を調達したことが示されている。

また伝えられるところによれば、Snapchatは、同社を200億〜250億ドルの価値にするであろうIPOを進めているらしく、早ければそれは3月に行われる予定だ。

最近Snap社として改名したSnapchatは、今年約半ダースのより小規模な買収を行ったことが知られている(他の案件がメディアのレーダーの下を飛んでいる可能性もあるが)。これらに含まれるのは、アドテック企業のFlite(この契約は雇用のための買収(acquihire)だったと言われている); Snapchatが1億1100万ドルを支払った言われているモバイル検索アプリのVurb;利用者に3次元のセルフィー写真を撮らせるコンピュータービジョンのスタートアップSeene(買収条件は非公表);そしてbitmojiという名で知られるパーソナライズド絵文字メーカーのBitstripsなどである。Snapは最後の会社に1億ドルを支払ったと言われている。

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(翻訳:Sako)

Genesis Partnersから5000万ドル規模のF2 Capitalがスピンアウト:イスラエルを拠点にアーリーステージ投資に特化

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イスラエルのVCであるGenesis Partnersのシニア・インベスティングチームに所属する3人が独立し、アーリステージの企業への投資に特化するF2 Capitalを設立した。

Genesis Partnersをご存じない方のために補足しておくと、同ファンドはこれまでに、AppleやIBM、Microsoft、Sapiensなどが買収した企業や、アメリカ株式市場のNasdaqへ上場を果たした企業を生み出してきた。

ポートフォリオ企業の中でも、Appleが3億6000万ドルで買収したと報じられた3DセンシングのPrimeSenseや、玩具メーカーなどの企業がインターネットに接続されたプロダクトを製作することを手助けする、比較的新しいスタートアップのSeeboなどの名前は聞いたことがあると言う人もいるだろう。

Genesis Partnersは6億ドル規模のグロースステージVCである一方で、Eddy Shalev、jonathan “Jonny” Saacks、Barak Rabinowitzが今回新しく設立したF2 Capitalは、今まさに5000万ドル規模のファンドを組成中のシードステージVCだ。

RabinowitzがTechCrunchに話してくれたところによれば、F2のリミテッド・パートナーは主に、イスラエルやアメリカ、オーストラリアに拠点構える関連ファンドだという。

またF2 Capitalは、同じくGenesis Partnersが創設したアクセラレーター・プログラムのThe Junctionの運営を引き継ぐことが決まっている。2011年に創設したThe Junctionは、起業家と大企業とのコネクションづくりを目的としたプログラムだ。HP Inc、SAP、MunichRe、Enel、Tesltraなどが同プログラムの戦略的パートナーとして参加している。

創設以降、The Junctionは進化を続けている。F2のプレスリリースによれば、同プログラムの選考方法は、イスラエル軍のエリート部隊「Gibbush」の候補者選考モデルを参考にしているという。合計で250社がピッチを行い、その内6ヶ月のブートキャンプに参加できるのはたったの5社だ。

F2はその5社が発行する転換社債を引き受け、各社に10万ドルを出資する仕組みだ。後のラウンドにおいて、それらの企業に追加資金を出資する可能性もある。

これまでに、Appsflyer、Honeybook、Simplee、ClarityRay(Yahoo!が買収済み)、KitLocate(Yandexが買収済み)、Moment.me(Wixが買収済み)などがThe Junctionに参加している。

直近のThe Junctionブートキャンプに参加している企業は以下の通りだ:

  • RegulusX:ドローンや小型ロボット向けのファイヤーウォールやアンチウイルス
  • Convexum:悪意のあるドローンに対する境界セキュリティ
  • PrintCB:サーキットボードを制作できる3Dプリンター
  • TestCraft:クラウドベースのQAテスト・システム
  • ClanPlay:ゲーム内のチャットと同期する、ゲーマー向けのメッセージング・アプリ

Rabinowitzによれば、The Junctionに参加する企業を除いて、F2 Capitalがコンシューマー・アプリや、コンテンツ系企業、バイオテック企業に投資をすることはないという。

その代わりにF2がフォーカスするのは、彼らが「フロンティア・テクノロジー」と呼ぶ分野、つまり、既存の産業を塗り替えたり、まったく新しい産業を生み出すようなテクノロジーだ。

Rabinowitzは、「フロンティア・テクノロジーと言えば、趣味の範囲で利用されるドローンやVRゲーム、コンシューマー向けのクールなプロダクトなどを思い浮かべる人もいます。しかし、私たちにとってのフロンティア・テクノロジーとは、ビッグデータ、AI、コネクティビティを横断的に活用した、多数のセグメントで活躍するプロダクトです」と語る。

より具体的な例として彼は、洗練された保険テクノロジー、VRとARの開発環境とそのユーザー・エクスペリエンスを向上させるテクノロジー、単に写真を撮るという機能以上のものを備えたドローン、コネクテッドカー、サイバーセキュリティなどを挙げている。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

イスラエルにイノベーションセンターが誕生、若手起業家の育成を目指す

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イスラエルは技術革新の国として既によく知られている。ここ数年だけを見ても、イスラエルからはWazeViberFiverrといった消費者向けの人気スタートアップが誕生している。さらに、イスラエルはUSBメモリや冠動脈ステントなど、多くのハードサイエンス分野の発明が誕生した場所でもある。

しかし、現在イスラエルはちょっとした岐路に立っている。前述のような技術的な「勝利」を見せびらかしたいと考えている一方、これからもイノベーションを生み出す続けることが出来なければ、過去にすがっていてもしょうがないとも考えているのだ。

その解決策とは、過去の成功体験を使って次世代の発明家や起業家を刺激することだった。

それを実現するための方法のひとつが、ヤッファ(Jaffa)のPeres Peace House内にある、イスラエル前大統領Shimon Peresが建てたIsraeli Innovation Centerだ。

本日発表されたこの施設は、既にイスラエルに存在する発明品や企業、さらには未だ開発されていない未来のイスラエルのテクノロジーにスポットをあてることとなる。

しかし、この施設の目的は、イスラエルについての自慢話をすることだけではない。実際のところ、Peres前大統領はその目的について、イスラエルがイノベーションを生み出しつづけることを促進することだと述べている。

Israeli Innovation Centerは、未来への道筋を一番重要視しており、私たちはイノベーションには制限や障壁がないことを証明しようとしています。イノベーションは、国家や民族を超えた対話を実現し、ユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒など宗教を問わず、イノベーションによって全ての若者が平等に科学やテクノロジーに携わることができるのです。この施設で私たちは、幼少期から平和を推進することができると強調すると共に、全ての少年少女の想像力を刺激しながら彼らの夢を育んでいきたいと考えています。

前イスラエル大統領 Shimon Peres

彼らはどのようにPeres前大統領の言う夢を実現していくのだろうか? まず、施設の一部は「主要なイスラエル企業の紹介」と、さまざまな業界にわたるイスラエルの発明品の紹介に割り当てられる。

しかしもっと重要なのが、コミュニティースペースとして利用される予定の残りのスペースだ。ここでは、起業家が顔合わせ、一緒に働き、学ぶことを目的としており、ハッカソンに参加することもできる。Peres前大統領は、この場所では旧来の学校や大学では行っていない、実践的な経験学習をすることができると強調した。

彼は、テクノロジーこそがより良い社会を作り、世界に平和をもたらす一番の方法だと考えており、次世代の発明家や起業家が刺激を受けつつ、そのような世界を作りだせるようにトレーニングが受けられるような環境を整えたいと考えている。

そして、開所式に出席していた主賓の顔ぶれを見ると、この施設がイスラエル全体にとって最も重要なテクノロジーセンターになろうとしているのがわかる。イベントには、イスラエルの3大重要人物である前大統領Shimon Peres、現大統領Reuven Rivlin、そして現在の首相のBenjamin Netanyahuが出席していたのだ。

実際に、3人はVRヘッドセットを式典中に試し、Peres前大統領はVR体験が「全く新しいもの」であり、「新しい現実世界を創るのに必要な夢を生み出すことに繋がるかもしれない」と語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter