2020年に大規模な資金調達をした英国拠点の中古車販売ポータルCazoo(カズー)はSPAC経由でさらなる成長を追求する次の企業となる。同社は3月29日、ヘッジファンドの第一人者Dan Och(ダン・オック)氏がGlenn Fuhrman(グレン・ファーマン)氏らとの提携のもとに設立した特別買収目的会社AJAX Iとの事業合併を経てニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場すると発表した。
この取引によるCazooの価値は70億ドル(約7728億円)で、ここには追加の新規資金調達16億ドル(約1766億円)が含まれる。新規資金の内訳は、AJAX Iからの現金8億500万ドル(約888億円)と、AJAXのスポンサー並びにCazooの投資家D1 Capital Partnersがリードした8億ドル(約883億円)のPIPE(上場企業の私募増資)だ。PIPEにはAltimeter、BlackRock、Counterpoint Global (Morgan Stanley)、Fidelity Management、Marcho Partners、Mubadala Capital、Pelham Capital、Senator Investment Group、Spruce House Partnershipといった新規・既存投資家も参加する。取引はすでにCazooとAJAX Iの取締役会に承認された。
「今回の発表は、欧州でのクルマの買い方を変革し続ける当社の取り組みにおいて新しい主要マイルストーンです」とCazooの創業者でCEOのAlex Chesterman OBE(アレックス・チェスターマン)氏は声明で述べた。「当社は、デジタル化がかなり浸透していない最大の小売部門で最も包括的で完全に統合されたサービスを創造しました。この取引は、当社の成長を支える資金として約10億ドル(約1103億円)をもたらします。欧州中の消費者に最高の車購入エクスペリエンスを急速に拡大して提供するために、ダンそしてAJAXのチームと提携することをうれしく思います」。
Cazooを創業する前から有名だったチェスターマン氏はCazooのCEOとして残る(同氏はAmazonによって買収され、NetflixのライバルAmazon Prime Video構築に向けた最初のステップとして使われたLoveFilm、それから不動産販売サイトZooplaも創業した)。
「豊作の年」を経て、Cazooは今回の取引による資金を引き続き欧州でのサービス拡大に使う計画だ。2020年同社の売上高は300%成長し、2021年は年間売上高10億ドルに向けて順調だ。主に中古車販売をベースとするビジネスモデルで第一四半期の年間売上高ランレートは6億ドル(約662億円)だが、車サブスクサービスなど売上源を多様化させている。
Cazooの取引は、資本構成表にたっぷりと資金を持っている非公開企業にとって、従来のIPOよりも手っ取り早く次のステップを取るのにユビキタスなSPACが選択肢となることを示している。IPOは時間がかかり、これは企業の財務や時間の制約に合わないかもしれない。あるいは買収されることもあるかもしれない。また、Cazooの取引は米国外に拠点を置く企業が米国の証券取引所に上場するのに、どのようなルートを取っているかも示している。Cazooの場合、そうすることで英国で上場するよりも幅広い投資家にアクセスできるようになる。
SPACとの合併は、ただ資金支援者という以上に、投資家側のレバレッジが財務面、そして戦略面でのコントロールを企業にもやたらすことになる。実際、ダン・オック氏はCazooの役員会に加わる。
「Cazooでアレックス、そしてひと際優れたチームと提携する機会を得ることを非常に喜んでいます。アレックスは欧州で最も成功している連続起業家の1人であることを証明し、このワールドクラスのチーム、ブランド、そしてプラットフォームの成長をサポートすることを誇りに思います」とオック氏は声明で述べた。「Cazooのイノベーション、データ、顧客満足への絶え間ない注力で、同社がこの巨大で手つかずのマーケット機会において引き続き先頭を行くことは間違いなく、Cazooの役員会に加わってアレックス、そして彼のチームと働くことを楽しみにしています」。
しかし合併は、彼らに取って長期的に強固な事業になると思われるところに取り組む別の方法でもある。
「Cazooの長期投資家として、そして同社の経営陣を信じる者として、我々は引き続きCazooの公開企業としての成長をサポートし続けることをうれしく思っています」とD1 Capital Partnersの創業者Daniel Sundheim(ダニエル・サンドヘイム)氏は声明で述べた。「Cazooは戦略の資金を賄うのに多くの選択肢を持っていました。AJAXと合併してダン・オック氏やその他の有名なパートナーに加わるという決断は良いものであり、同社や同社の未来にとってポジティブな意味をもたらすでしょう」。
Cazooの場合、適切な時に適切な場所にいたようだ。
新型コロナウイルスパンデミックでは、英国の人々は店頭での買い物を控え、また他人との接触も減らし、そして移動するのに公共あるいは混み合う交通手段より自分の車を使うことを選んだ。Cazooはデジタルプラットフォームを通じて2万台超のクルマを販売・納車した。
同社は販売ポータルと、現在展開している車サブスクサービスのような他の事業ラインの両方を拡大する計画だ。サブスクは現在、英国、ドイツ、フランスに6000人超の利用者を抱える。同社は2018年に設立され、パンデミック真っ只中だった2020年、4億2700万ドル(約471億円)を調達した。まず2020年3月に1億1600万ドル(約128億円)、そして10月に3億1100万ドル(約343億円)を調達した。2回目のラウンドでは同社の評価額は25億ドル(約2759億円)超で、つまり今回のSPACとの合併では評価額が飛躍的に増加したことを意味する。
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プライベート投資家から多くの資金を調達したスタートアップの数が増え続ける中、SPACはあっという間に常道の選択肢となった。IPOを下調べして早く進められないことが明らかになったのちにSPACに走るいくつかのケースもあった。例えばWitness WeWorkは先週、90億ドル(約9933億円)のSPACを発表したが、2019年にはバリュエーション470億ドル(約5兆1875億円)でのIPOを試み、失敗に終わっていた。
他には何年も事業展開している企業にとってイグジットがオプションとなるが、従来のIPOよりぴったりくるものではないケースもある。実際、デジタル通貨と仮想通貨にかけてきた創業14年のイスラエルの取引プラットフォームeToroも2021年3月初めに評価額104億ドル(約1兆1481億円)でのSPACとの合併を発表した。
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他の企業は上場する手っとりばやい手段としてSPACを使い、スタンダードであるIPOの長期にわたり、かつ費用のかかるプロセスの一部を回避するためにそうしたチャンネルを通じて資金調達している(Cazooもこのカテゴリーに含まれるようだ)。東南アジアの大手オンデマンド乗車プロバイダーGrabもまた米国で上場する計画を加速させるためにSPACを検討していると報道されている。同社は「スーパーアプリ」としてサービスを拡大してきた。
究極的には、何十億ドル(何千億円)という評価額は、これから実行される、あるいはすでに実行された多くのSPACを通じて今後も生み出される一方で、SPACを選んだ企業がどのように長期に上場を維持し続けるのかは不透明だ。特にプライベート投資家は短期的な利益のために数億ドル(数百億円)を投入するとき、こうしたハイスケールだがおそらく(まだ?)黒字でないモデルを長期に支援することに興味があるが、果たして公開市場の投資家がそうなのかはわからない(もちろんSPAC合併した企業が上場会社としてどういいう方向に向かうのかも依然として不透明だ)。
画像クレジット:Cazoo
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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi)