米会計検査院が月着陸船開発契約をめぐるBlue Originの抗議を却下

数十億ドル(数千億円)もの月着陸船開発をSpaceXと契約するというNASA(米航空宇宙局)の判断をめぐるBlue Originの米政府への抗議は却下された。

米会計検査院(GAO)は米国時間7月30日、Blue Originの抗議、そして月着陸船開発案を提出した防衛関連企業Dyneticsによる訴えのいずれも却下する、と明らかにした。GAOは、NASAがSpaceX1社と契約した際、法律や規則に反しなかった、と結論づけた。

「結果として、SpaceXとだけの契約でNASAが不適切な行動を取ったという訴えをGAOは否定しました」と声明文で述べた。

抗議は、アポロ計画以来となる人間の月面着陸を目指している有人着陸船(Human Landing System)プログラムの契約を、当初意図していた2社ではなくSpaceXのみと結んだというNASAの判断についてのものだった。SpaceXの有人着陸船プログラムの提案は29億ドル(約3180億円)で、59億9000万ドル(約6570億円)というBlue Originの提示額のおおよそ半分だった。今週初め、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏はNASA長官のBill Nelson(ビル・ネルソン)氏に、NASAが契約で1社のみを選ぶことになった「短期的な予算の問題」を解決するために20億ドル(約2190億円)の値引きを提案する公開書簡を送った

関連記事:月着陸船開発を失注したベゾス氏がNASAに約2208億円の「インセンティブ」を打診

1社のみと契約するというNASAの判断はこれまでの習慣から方向転換することになったが、GAOは「複数企業との契約、1社との契約、あるいは契約しない権利が認められています」と記した。

Blue Originは、NASAが2社と契約するだけの十分な資金がないとの結論に至った後に、入札内容を修正する時間が与えられなかった、と主張した。「要件変更についてNASAが意思疎通を図らなかったことにより、Blue Originは明らかに先入観をもたれました」と同社は申し立てに書いている。「Blue Originは提案したアプローチを修正し、NASAの予算に見合う額に減額し、そして(あるいは)スケジュールの代替を提案する、いくつかのアクションを取ることができたはずです」。

Blue OriginとDyneticsは4月にそれぞれ異議を申し立てた。

会計検査院の判断について、Blue Originの広報担当は以下のようにTechCrunchに述べた。

「当社はNASAの決定に根本的な問題があったと強く確信しています。しかしGAOは限られた権限のためにそうした問題を解決することができませんでした。当社は引き続き、正しいソリューションだと信じているプロバイダー2社を主張します」。

広報担当は、上院議員が有人着陸船プログラムで2社を選ぶことをNASAに求める規定を法案に追加したことについてBlue Originは心強く思っている、とも述べた。

一方、Elon Musk(イーロン・マスク)氏は今回の判断について以下のように反応している。

TechCrunchはDyneticsにコメントを求めている。返事があればアップデートする。

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タグ:Blue Origin宇宙船NASA米会計検査院(GAO)有人宇宙飛行アルテミス計画

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

月着陸船開発を失注したベゾス氏がNASAに約2208億円の「インセンティブ」を打診

Blue Origin(ブルーオリジン)創業者である富豪のJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏は米航空宇宙局(NASA)に契約と引き換えに月着陸船の開発費用を最大20億ドル(約2208億円)拠出し、パスファインダーミッションを自己資金で実施することを提案している。

当該の契約は、有人着陸船(Human Landing System)プログラムの月着陸船の開発に関するものだ。このプログラムではアポロ以来となる人間の月面着陸を目指している。NASAは2020年4月、契約の第1段階でBlue Origin、SpaceX、Dyneticsが選ばれたと発表し、月着陸船を開発するために競争によって最終的に2社に絞られると考えられていた。TechCrunchのDarrell Etherington記者が指摘しているように、NASAが2社を選ぶのは珍しいことではなく、商業有人飛行プログラムではBoeing、SpaceXの両社と契約した。

関連記事:NASAがアポロ計画以来となる有人月面着陸システムの開発にSpaceXを指名

しかしそれから1年後、これまでの習慣から方向転換し、NASAは契約で1社のみ選んだと発表した。SpaceXだ。Elon Musk(イーロン・マスク)氏が率いる同社は月着陸船の開発費用として28億9000万ドル(約3190億円)を提案していた。これはBlue Originの59億9000万ドル(約6613億円)のおおよそ半分だった。ベゾス氏は現在、この価格から20億ドルの値引きを申し出ている。

ワシントンポスト紙が入手した、月着陸船の契約で1社を選んだ根拠を説明する書類の中で、NASAは「現会計年度の予算は1社との契約金すら満たさなかった」と認めている。これに対し、SpaceXは「NASAの現在の予算内」に収まるように支払いスケジュールをアップデートした。NASAに厳しい予算上の制約があることは皆が知っている。議会は2021年会計年度で有人着陸船プログラムにわずか8億5000万ドル(約938億円)の予算しか認めず、NASAが求めた34億ドル(約3753億円)には遠く及ばなかった。

ベゾス氏がNASA長官のBill Nelson(ビル・ネルソン)氏に宛てた公開書簡では、予算問題を直接解決している。ベゾス氏は、提案したインセンティブは、2社ではなく1社のみを選ぶことを余儀なくされた有人着陸船プログラムで「見受けられる短期的な予算の問題」を取り除く、と書いている。

「元々意図していたように月着陸船の開発を2社に競わせることに投資する代わりに、NASAは複数年、数十億ドル(数千億円)という有利なスタートをSpaceXに与えることを選びました」とベゾス氏は書簡で述べている。「その決定は、意義ある競争に今後何年にもわたって終止符を打つことでNASAの成功的な商業宇宙プログラムの型を壊しました」。

1社のみに絞るというNASAの決定をBlue Originが公然と疑問視するのは今回が初めてではない。Dyneticsとともに、Blue Originは契約が発表された1週間後に米会計検査院に抗議した。同社は契約要件が「有意義に競争する」能力を与えなかった、と主張した。会計検査院は8月4日までに抗議内容について裁定しなければならない。

2社契約を支持するのはBlue OriginとDyneticsだけではない。米上院はこのほど、NASAに月着陸船の開発で2社を選ぶことを求める法案と、そのための追加予算を可決した、とSpaceNewsは報じた。しかし追加予算を含めることについて、すべての議員が好意的ではない。上院議員Bernie Sanders(バーニー・サンダース)氏は追加予算を「ベゾス氏を救済する措置」と呼んだが、最終的に法案から追加の予算を除くことはできなかった。

「当社は、NASAがテクニカルリスクを調整して予算上の制約を解決し、アルテミス計画をより自由競争があるものに、そして信頼でき、持続可能な道に戻すのをサポートする準備はいつでもできています」とベゾス氏は述べた。

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画像クレジット:Matthew Staver/Bloomberg / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

GPSのような月面ナビネットワークをマステン・スペース・システムズが開発中

2023年に月面に着陸機を送ることを目指しているスタートアップ企業のMasten Space Systems(マステン・スペース・システムズ)は、地球におけるGPSのような、月面でナビゲーションとポジショニングを行うシステムを開発する。

このシステムの試作機は、Air Force Research Laboratory(米空軍研究所)のAFWERXプログラムを通じてMastenが受注した契約の一環として開発されており、実用化されたら人類初の地球外ナビゲーションシステムとなる。

これまで月に向かう宇宙船には、危険を検知してナビゲーションを補助する機器が搭載されていた。共通のナビゲーションネットワークが確立されていないことも、ある程度は納得できる。人類が月面に着陸したことは数えるほどしかなく、無人探査機の着陸は何度も行われているものの、未だ月面ミッションが定期的に行われるようになったわけではないからだ。

しかし、SpaceX(スペースX)のような企業による打ち上げ技術の革新もあって、軌道やそれより先へ行くためのコストが劇的に減少しているため、宇宙はもっとにぎやかになりそうだ。多くの民間企業や国の宇宙部門が、特に月に狙いを定めている。Mastenもその1つであり、同社は月の南極にあるHaworth Crater(ハワース・クレーター)付近のサイトにペイロードを届ける業者としてNASAに選ばれた。当初2022年12月に予定されていたそのミッションは、2023年11月に延期されている。

関連記事:SpaceXが2022年にMasten製の月面着陸機「XL-1」を初打ち上げへ、月の南極点へペイロード運ぶ

他の組織も月へ行くことを目指している。その中で最大規模のものは、2024年に2人の宇宙飛行士を月面に送るNASAの「Artemis(アルテミス)」計画だ。このようなミッションは、今後数十年の間にさらに増えていくことが予想されるため、共通のナビゲーションネットワークが必要になってくる。

「地球と違って、月にはGPSが展開されていないため、月宇宙船や軌道上の機器は、基本的に暗闇の中で運用されています」と、Mastenの研究開発担当バイスプレジデントであるMatthew Kuhns(マシュー・クーンズ)氏は声明の中で説明している。

このシステムは次のような仕組みになっている。まず、宇宙船が月面にPNT(ポジショニング、ナビゲーティング、タイミング)ビーコンを展開する。PNTビーコンによって、無線信号を放送する地表ベースのネットワークが構築される。宇宙船や他の軌道上の機器は、このネットワークに無線で接続し、ナビゲーション、タイミング、位置追跡の情報を取得する。

画像クレジット:Masten Space Systems

Mastenはすでに、PNTビーコンのコンセプトデザインを完成させるというプロジェクトのフェーズIを終えている。しかし、技術的な課題の多くは、PNTビーコンを開発するフェーズIIで直面することが予想される。ビーコンは月の過酷な環境に耐えなければならないため、Mastenは防衛・技術会社のLeidos(レイドス)と提携し、衝撃に強いビーコンの筐体を作ることにした。フェーズIIは2023年の完了を目指している。

「月面における共有ナビゲーションネットワークを構築することで、宇宙船のコストを数百万ドル(数億円)削減し、ペイロードの容量を増やし、月面で最も資源の豊富な場所の近くに着陸する精度を向上させることができるようになります」とクーンズ氏は述べている。

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画像クレジット:Masten Space Systems

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

次世代の月面探査車をGMとロッキード・マーティンが共同で開発中

人類が前回(1972年)、月を訪れたときには、比較的シンプルなバッテリー駆動の乗り物で移動した。NASAは次の有人月探査に向けて、月面探査車のアップグレードを検討している。

Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)とGeneral Motors(ゼネラル・モーターズ)は米国時間5月26日、次世代の月面車を共同で開発していると発表した。これは以前の月面探査車よりも、より速いスピードで、より長い距離を走れるように設計されているという。このプロジェクトがNASAに採用されれば、この月面車は今後のアルテミス計画で使用されることになる。その最初のミッションは、無人で地球から月まで往来する飛行試験で、2021年11月に予定されている。

5月26日のメディア向け発表会で幹部が語ったところによると、提案申請書は2021年の第3四半期か第4四半期に発行されるだろうとのこと。NASAは提出された提案書を評価した後、契約を締結することになる。

前回のアポロ計画で使用された月面車は、着陸地点から約8キロメートル以内しか移動できなかったため、宇宙飛行士が月の北極や南極などの遠く離れた地点で重要なデータを収集することはできなかった。ちなみに月の円周は1万921キロメートルだ。2社はこれらの性能の大幅な向上を目指していると、ロッキードで月探査を担当するバイスプレジデントのKirk Shireman(カーク・シャイアマン)氏は語ったが、新型月面車に使用される素材や航続距離などの性能は、まだ正確に確定しているわけではないと言及した。

GMはこの月面車用の自律走行システムも開発する予定で、これにより安全性が向上し、宇宙飛行士がサンプルを収集したり、その他の科学的研究を行う能力が高まると、幹部は水曜日に語った。

GMは電気自動車や自律走行車の技術に、2025年までに270億ドル(約3兆円)以上を投資しており、その研究を月面車プロジェクトに活かすことを目指していると、GM Defense(GMディフェンス、GMの軍事製品部門)の成長戦略担当バイスプレジデントであるJeffrey Ryder(ジェフリー・ライダー)氏は語っている。「私たちは現在、これらの能力をどのようにアルテミス計画に関わる特定のミッションやオペレーションに適用するかについての調査を始めたところです」。

GMは地球上で行っているバッテリーや駆動システムの研究も、月面車の開発に活かしていくという。ライダー氏は、この月面車プログラムが他の市場機会につながることを期待している。

両社はこれまでにも、月面探査を含むNASAのミッションに技術を提供してきた。自動車メーカーのGMは、アポロ時代に使用された月面車のシャシーや車輪などの開発に協力。アポロ計画全般における誘導・航法システムの製造と統合も担当した。大手航空宇宙企業のロッキード・マーティンは、すべての火星探査を含むNASAのミッションで、宇宙船や動力システムの製造に携わっている。

両社は、今回の協業を「いくつかの取り組みの1つ」としており、今後も他のプロジェクトについて、さらなる発表が予定されているという。

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画像クレジット:Chris Jackson / Staff / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NASAがアポロ計画以来となる有人月面着陸システムの開発にSpaceXを指名

NASAの有人着陸システム(HLS)を受注する企業が、SpaceX(スペースエックス)に決定した。同社は、アポロ計画以来初めてNASAの宇宙飛行士が月面に降り立つ手段を開発する権利を、29億ドル(約3156億円)で落札した。SpaceXはBlue Origin(ブルーオリジン)や Dynetics(ダイネティックス)と並んで入札に参加していたが、The Washington Post(ワシントンポスト)によると、これらのサプライヤー候補を大幅に下回る価格で落札したという。

SpaceXは、現在開発中の宇宙船「Starship(スターシップ)」を、宇宙飛行士が月に到着した後の着陸手段として使用することを提案した。HLSは、NASAのArtemis(アルテミス)計画で重要な部分だ。このミッションは無人飛行から始まり、有人での月面接近を経て、最終的には2024年を目標に、月の南極に宇宙飛行士が着陸することを目指している。

NASAは2020年4月、HLSの入札に参加するベンダーとして、SpaceX、Blue Origin、Dyneticsの3社を承認したと発表。それ以来、Blue Origin(とそのパートナー企業であるLockheed Martin[ロッキード・マーチン]、Northrop Grumman[ノースロップ・グラマン]、Draper[ドレイパー]による「ナショナル・チーム」)とDyneticsは、各々のシステムの実物大モデルを製作し、機能的仕様の計画を詳細に記した提案書をNASAに提出して検討を受けていた。一方、SpaceXはテキサス州でStarship宇宙船の機能的なプロトタイプを積極的にテストしており、準備が整えば月に向けてStarshipを推進させるための「Super Heavy(スーパーヘビー)」ブースターの開発も進めている。

関連記事:NASAがSpaceX、Blue Origin、Dyneticsの3社を月面着陸船の開発に指名

この計画では、NASAは3社すべてを選んで契約の初期要件を満たす最初のバージョンを製造させ、最終的には、月面に到達する手段に柔軟性を持たせるために、3社の中から2社を選んで有人着陸機を製造させると一般的に考えられていた。これは基本的に、NASAが国際宇宙ステーションに向けてCommercial Crew Program(商用有人宇宙船計画)を実施した際に、SpaceXとBoeing(ボーイング)の2社に宇宙飛行士輸送用の宇宙船の製造を発注したのと同じやり方だ。SpaceXはすでに資格を取得して宇宙船の運用を開始しており、ボーイングは2021年の終わりか来年の初めには、SpaceXと並ぶ選択肢として稼働できるようにとたいと考えている。

SpaceXは信頼性が高くて再利用可能な有人宇宙船「Crew Dragon(クルー・ドラゴン)」で商用人員輸送を実現し、NASAから多くの信頼を得ている。魅力的な価格設定に加えて、NASAは人間だけでなく、大量の物資や材料を月へ、そして最終的には月より遠い場所にも飛ばせることを目指しているため、SpaceXの柔軟性と貨物容量に惹かれたと、ワシントンポストは書いている。

しかし、現時点において、SpaceXのStarshipはその目標からまだほど遠いところにある。SpaceXはラピッドプロトタイピングという手法を用いて、新たなテストを繰り返すことで迅速に開発を進めてきたが、直近のStarshipによる高高度飛行は、着陸前に爆発するという不運な結果に終わった。しかし、これまでのテストでは、空中で向きを変え、着陸に向けて減速を行うなど、他の要素では成功を収めている。とはいえ、これまでのテストでは地球の大気圏外に出たことはなく、有人飛行テストも行われていないため、ミッションに対応するためにはさらなる開発が必要だ。

SpaceXは、Lunar Gateway(月周回有人拠点)建設のための資材を搬送するロケット会社としても選ばれており、2024年に予定されている打ち上げに向けて、実際にPPE(Power and Propulsion Element、電力・推進モジュール)とHLO(Habitation and Logistics Outpost、居住・物流前哨基地モジュール)を製造するMaxar(マクサー)と協力している。だが、これらのモジュールは、すでに何度も打ち上げに成功している「Falcon Heavy(ファルコン・ヘビー)」で搬送される予定だ。

関連記事:NASAが月周回有人拠点「Gateway」のパーツを打ち上げる2024年のミッションにSpaceX Falcon Heavyを指名

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タグ:NASASpaceXアルテミス計画Starship

画像クレジット:SpaceX

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

月へNASAの水探索車を届けるためにスペースXがFalcon Heavyロケットの打ち上げを2023年に予定

SpaceX(スペースX)は、2023年に大型の(そしてあまり使われていない方の)ロケット「Falcon Heavy(ファルコン・ヘビー)」を使用して、月にペイロードを送り込むことを予定している。このミッションでは、宇宙ベンチャー企業のAstrobotic(アストロボティック)が製造した月面着陸船を打ち上げることになっており、それにはNASAのVIPER(Volatiles Investigating Polar Exploration Rover、揮発性物質調査極地探索車。この機関は、楽しい頭字語を付けるために言葉に無理させることを好む)が搭載される。

打ち上げは現在のところ2023年後半に予定されており、計画どおりに進めばFalcon Heavyにとって初の月ミッションとなる。しかし、それがSpaceXにとって初の月旅行になるというわけではない。同社はMasten Space Systems(マステン・スペース・システムズ)とIntuitive Machines(インテュイティブ・マシンズ)の委託を受けて、早ければ2022年に月面着陸機を打ち上げるミッションを予定しているからだ。これらのミッションでは、少なくとも現在の計画仕様のとおりであれば、どちらも「Falcon 9(ファルコン・ナイン)」ロケットが使用される。また、上記のスケジュールは今のところ、すべて書類上のものであり、宇宙ビジネスでは遅延やスケジュールの変更も珍しくはない。

しかし、このミッションは関係者にとって重要なものであるため、優先的に実行される可能性が高い。NASAにとっては、人類を再び月に送り込み、最終的には軌道上と地表の両方でより永続的な科学的プレゼンスの確立を目指す「Artemis(アルテミス)」プログラムの長期的な目標において、重要なミッションとなる。月面にステーションを設置するためには、その場にある資源を利用しなければならないが、中でも水は非常に重要な資源だ(VIPERは月の南極で氷結水を探索する)。

画像クレジット:Astrobotic

Astroboticは2020年、NASAから委託を受けてVIPERを月に届ける契約を獲得した。このミッションには、月の南極にペイロードを着陸させることが含まれているが、月の南極は有人宇宙飛行士が参加するNASAのArtemisミッションで目標着陸地点となる予定だ。Astroboticがこのミッションに投入する着陸船は「Peregrine(ペレグリン)」型よりも大型の「Griffin(グリフィン)」型で、VIPERを搭載するためのスペースが確保されている。そのため、SpaceXのロケットの中でも大型のFalcon Heavyを使用する必要があるというわけだ。

2024年までに宇宙飛行士を再び月に送り込むというNASAの野心的な目標は、新政権がスケジュールや予算を見直す中で流動的になっているものの、その達成のためには官民パートナーシップを活用して道を切り開くことが依然として約束されているようだ。このGriffinを使う最初のミッションは、先に予定されているPeregrineの着陸とともに、NASAの商業月面輸送サービス(CLPS)プログラムの一環である。このCLPSでは、NASAを1つの顧客として、月面着陸機を製造・提供する民間企業を求めている。

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タグ:NASASpaceXFalcon Heavyロケットアルテミス計画Astrobotic Technology

画像クレジット:SpaceX

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

NASAが自律型軌道離脱システムや金星でも使えるバッテリーの研究に補助金

NASA(米航空宇宙局)のSBIRプログラム(中小企業技術革新研究プログラム)は定期的に将来有望な中小企業や研究プログラムに補助金を出している。そしてその補助金が交付されたリストを調べるのは常に興味深い。今回のリストから、特に説得力のあるもの、あるいは宇宙業界のミッションと産業にとって新たな方向を示している1ダースほどの企業と提案を紹介しよう。

残念なことに、現在提供できるのは下記のような短い説明だけだ。補助金対象となった企業や提案は往々にしていくつかの方程式やナプキンの裏に描いた図の他に提示するものがないほど初期段階にある。しかしNASAは目にすると将来有望な取り組みがわかる(SBIR補助金の申し込み方法についてはこちらに案内がある)。

自律型軌道離脱システム

Martian Sky TechnologiesはDecluttering of Earth Orbit to Repurpose for Bespoke Innovative Technologies(DEORBIT)で補助金を獲得している。これは低軌道のための自律的クラッター除去システム構築する取り組みだ。ある決まった量をモニターしながら侵入してきたものを除去し、建設や他のクラフトの占有のためにエリアを開けておくためのものだ。

画像クレジット:Getty Images

超音波の積層造形

3Dプリント、溶接、そして「軌道上サービス、組み立て、製造(OSAM)の新興分野にとって重要なものについて、さまざまなかたちの提案が数多くある。筆者が興味深いと思ったものの1つは、超音波を使っていた。筆者にはそれが奇妙に思えた。というのも明らかに宇宙では超音波が作用するための大気がないからだ(彼らもそれを考えたと想像する)。しかしこの種の反直感的なアプローチは真に新たなアプローチにつながり得る。

ロボットが互いを見守る

OSAMにはおそらく複数のロボットプラットフォームの調整が含まれ、それは地上においても十分難しいものだ。TRAClabsは有用な他のロボットの視点を提供できるところでなくても自律的にロボットを動かすことで「知覚フィードバックを高め、オペレーターの認知負荷を減らす」ための方法に取り組んでいる。シンプルなアイデアで、人間が行う傾向にある方法に適する。もしあなたが実際のタスクを行う人でなければ、あなたは邪魔にならないよう何が起きているかを目にするのに最適の場所に自動的に移動する。

3Dプリントされたホール効果スラスター

ホール効果スラスターは、特定のタイプの宇宙での操作でかなり有用となり得る電気推進の高効率なフォームだ。しかしそれらは特にパワフルではなく、既存の製造テクニックで大きなものを作るのは難しいようだ。Elementum 3Dは新たな積層造形テクニックと、好きなだけ大きなものを作ることを可能にするコバルト鉄の原料を開発することでそれを達成しようとしている。

金星でも使えるバッテリー

金星は魅力的なところだ。しかしその表面は地球で作られた機械にとっては極めて敵対的だ。鍛えられたPerseveranceのような火星ローバーですら数分でダメになり、華氏800度(摂氏426度)では数秒しかもたない。ダメになる数多くの理由のうち1つは機械で使われるバッテリーがオーバーヒートを起こし、おそらく爆発するということだ。TalosTechとデラウェア大学は大気中二酸化炭素を反応材として使うことで高温でも作動する珍しいタイプのバッテリーを手がけている。

ニューロモーフィック低SWaP無線

あなたが宇宙に行くときは重量と体積が重要で、宇宙に行ってからは電力が重要となる。だからこそ、既存のシステムをコンパクトで軽量、電力(低SWaP)代替のものに切り替える動きが常にある。Intellisenseは着信信号を並べ替えて管理するという部分を簡素化・縮小するためにニューロモーフィック(たとえば空想科学的な方法ではなく頭脳のような)コンピューティングを使って無線に取り組んでいる。1グラムでも軽くすることは宇宙船の設計者がどこでも取り組めることであり、パフォーマンスの向上を図れるところでもある。

LiDARで宇宙を安全なものに

AstroboticはNASAの今後数年の惑星間ミッションにおいて頻繁に目にする社名となりつつある。同社の研究部門は、宇宙船とローバーのような車両をLiDARを使ってより賢く安全なものにすべく取り組んでいる。同社の提案の1つが、評価と修理の目的でスパースシーン(例えば広大な宇宙に対して1つの衛星を他の衛星からスキャンするなど)の1つの小さな物体の画像にピンポイントでフォーカスするLiDARシステムだ。もう1つの提案には、惑星の表面上の障害物を特定するのにLiDARと従来の画像手法の両方に適用する深層学習テクニックが含まれる。これに従事しているチームは現在、2023年の月面着陸を目指しているVIPERウォーターハンティングローバーにも取り組んでいる。

関連記事:NASAが月面の水源探査車VIPERの輸送に民間企業のAstroboticを指名

宇宙ファームのモニタリング

Bloomfieldは農業の自動モニタリングを行っているが、軌道上あるいは火星の表面での植物栽培は地上で行うものとやや異なる。同社は、微小重力といった特殊な状況で植物がどのように成長するのかを観察してきた小さな実験ファームのようなControlled Environment Agriculture(環境抑制農業)の拡大を願っている。植物の状態を絶えずモニターするのにマルチスペクトル画像と深層学習分析を使う計画で、宇宙飛行士は毎日ノートに「葉25が大きくなった」などと記録する必要はない。

レゴリスブロック

アルテミス計画(NASAの有人月探査)は月に「滞在する」ために行くというものだが、どうやって滞在するかはまだはっきりとわかっていない。研究者らは必要なものすべてを月に持ち込むことなしにロケットに燃料を補給して打ち上げる方法、そして月面ロケット打ち上げパッドを文字通りブロック1つ1つで建設するExploration Architectureを研究している。この研究は月の粉塵あるいはレゴリス(堆積物)を溶かし、必要なところに置けるよう焼いてブロックにする統合システムを提案している。これを実行するか、地球のブロックを持ち込むかになるが、後者の方はいい選択肢ではない。

その他いくつかの企業や研究機関もレゴリス関連の建設とハンドリングを提案した。これはいくつかあるテーマの1つで、テーマの一部は追求するにはあまりにも小さいものだ。

他にはエウロパ(木製の第2衛星)のような氷の世界を探検するためのテクノロジーというテーマもあった。金星のほぼ逆の氷の惑星は多くの点で「通常の」ローバーにとって致命的で、パワー、センシング、横断のためのアプローチで必要とされる条件が異なる。

NASAは新たなトレンドにオープンで、衛星や宇宙船においてもそうだ。こうした新たな技術の一群の管理は多くの作業を伴い、もしそうした新技術が1つの分散型マシンとして機能するとしたら(これは一般的な考えだ)、しっかりとしたコンピューティングアーキテクチャの支えが必要となる。多くの企業がこれを達成しようと取り組んでいる。

NASAの最新SBIR補助金リストの残り、そしてテクノロジートランスファープログラムのセレクションもこちらの専用サイトで閲覧できる。もし政府の補助金獲得に興味があるのなら、こちらの記事も読んで欲しい。

カテゴリー:宇宙
タグ:NASA補助金金星火星アルテミス計画バッテリーLiDAR

画像クレジット:Space Perspective

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

ブルーオリジンが月面重力をシミュレートする機能をNew Shepardロケットに追加へ

Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)が率いるBlue Origin(ブルーオリジン)は、月への帰還というNASAの目標に先駆けて、同宇宙期間に貴重な科学的ツールを提供する。それは月の重力をシミュレートした実験を、より身近なサブオービタルスペースで行うことができるというものだ。

NASAの発表によると、Blue Originは再使用可能なNew Shepardを改良し、宇宙船のカプセルを回転させることで月の重力を再現することを計画している。これにより、カプセルは実質的に1つの大きな遠心分離機となり、内部の物体には月面で見られる重力に非常に近い力がかかることになる。

月面の重力をシミュレートする方法は他にもあるが、New Shepardのシステムは既存の方法にはない2つの利点を提供する。1つは、2分間以上という長時間の連続した人工月面重力の体験を可能にする点で、もう1つは現在の宇宙空間では不可能な大きな積載量による実験的能力の拡大だ。

Blue Originは、New Shepardのこの新機能が2022年までに完成すると予想している。これは、NASAのアルテミス計画を支援するための重要なタイミングとなる。アルテミス計画とはでは月軌道と月面の両方でより恒常的な有人研究活動を確立することを含む、人類の月探査への復帰を目指す一連のミッションだ。

月面の重力は地球の約6分の1である。NASAは月面探査の準備だけでなく、重力が地球の3分の1強である火星への有人打ち上げをサポートするためにも、実験が必要であると指摘している。

またBlue Originは、Lockheed Martin(ロッキード・マーチン)、Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)、Draper(ドレイパー)などの宇宙産業チームと協力して、月面ミッションのための有人着陸機をNASAと共同開発している。

関連記事:Blue Originの宇宙産業オールスターチームが人類を月に運ぶ着陸システムを提案

カテゴリー:宇宙
タグ:Blue OriginNew Shepardアルテミス計画

画像クレジット:Blue Origin

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(文:Darrell Etherington、翻訳:塚本直樹 / Twitter

NASAが月周回有人拠点「Gateway」のパーツを打ち上げる2024年のミッションにSpaceX Falcon Heavyを指名

NASA(米航空宇宙局)は、将来の月探査ミッションの中継地として使用される月周回有人拠点であるGatewayの主要2モジュールをSpaceXが運ぶことを発表した。Power and Propulsion Element(PPE、電源・推進装置)とHabitation and Logistics Outpost(HALO、居住モジュール)が合わさって、初の月宇宙ステーションとして利用できるようになる。2024年にFalcon Heavyによって打ち上げられる予定で、推定金額は3億3200万ドル(約347億円)となる。

Falcon Heavyは、現在SpaceXがよく使用しているFalcon 9よりはるかに大きい積載能力があり、2018年初めのテスト打ち上げに成功(StarmanとTesla Roadsterを載せていたのを覚えているだろうか?)して以来、商業打ち上げを2回しか行っていない。Arabsat-6Aが2018年4月に、その数カ月後にSTP-2が打ち上げられたが、それ以来Falcon Heavyは行動を起こしていない(ただし、いくつかミッションが2022年に計画されている)。

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NASAが、これら2つの最重要モジュールを月軌道に運ぶ打ち上げ機材としてこの選択を行ったことは、Falcon Heavyにとってこの上ないお墨つきであり、NASAのSpace Launch Systemの遅れが続くようなら、今後さらに仕事が増えるかもしれない。

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通称PPEとHALOと呼ばれる2つの部分は、自立型月軌道居住にとって不可欠な機能を提供する。実質的には、加圧室と設備の運行と操縦に必要な電源装置の組み合わせだ。たしかにそれは基本といえる。

どちらも巨大であり、10個の部分に分けて小さなロケットで送ることはできない。しかし、極めて希少な重量級打ち上げ機は存在する。そしてどうやらNASAは、SpaceXが最善の選択だと決めたようだ。すでに3回のミッションに成功している。

このミッションの打ち上げと関連コストは3億3200万ドルで、SpaceX、NASA、Northrop Grumman(HALOを製造している)およびMaxar(PPEを製造)の多くの共同作業を必要とする大がかりな投資となっている。

月周回Gatewayに推進部分と最初の居住部分がつながったところ。必ずしも広くはないが景色は最高だ。CG画像(画像クレジット:NASA)

現在、予定されている打ち上げ時期は2024年以降だが、さまざまな遅れが生じることを考えると日付は変わる可能性がある(むしろ可能性は極めて高い)。Artemisプロジェクトは現実との調整に終われ、過去4年間に立てられた意欲的計画の目標日付は未だに決まらず、過去の計画はつい先日決めた計画を守っているものもほとんどない。再び月へ行く5~6年の計画さえ未だに曖昧で、それは「私たちはそこへいって滞在する」というNASAの決り文句も怪しくなってきた。

今後、数カ月間のうちに状況が見えてくれば、新しい計画について情報が入るだろう。

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画像クレジット:SpaceX

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nob Takahashi / facebook

宇宙スタートアップIntuitive Machinesが2回目の月面着陸機ミッションでスペースXと契約

最初の商業月着陸船は早ければ2021年にも月への飛行を開始する予定だが、今回は別の着陸船の契約が確認された。Intuitive MachinesはSpaceX(スペースX)のFalcon 9で2機目の着陸機を送り込む予定で、打ち上げ時期は早くて2022年頃になると予想されている。同社はスペースXと最初の着陸船ミッションをすでに予約している。スペースXはNASAの商業月輸送サービス(CLPS)プログラムの下で月面着陸を目指している、他の民間企業のペイロードもホストしている。

Intuitive MachinesのNova-C着陸機は、最大100kg(約222ポンド)の荷物を月面に運び、ミッションの結果を地球に送信することができる。内部および外部の両方にペイロードを積載でき、NASAの商業パートナーシッププログラムを通じて、さまざまな顧客の科学実験装置を月面に運ぶ予定で、有人月面着陸であるアルテミス計画を含む将来のNASAのミッションをサポートすることも計画に含まれている。

Intuitive Machinesの最初の月着陸機ミッションでもNova-Cが使用される予定で、現在のスケジュールによれば2021年の第4四半期(10月〜12月)中に実施される予定だ。これには「月の表面から天の川銀河の中心の最初の画像撮影」を目指す月面撮影ミッションが含まれ、第2のミッションでは他のペイロードに加えて、NASAに代わってドリルによる月極地の資源採掘と、スペクトロメーターの月南極への輸送が含まれる。

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画像クレジット:Intuitive Machines

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(翻訳:塚本直樹 / Twitter

民間による商用有人宇宙活動は思いのほか早く実現する

「宇宙で働く」という話を聞いたとき、SFの話をしているのだと感じたとしても無理はない。だが、地球の大気圏外で実際に働く人の数は、また人生の多くの時間を宇宙で過ごす人の数も、加速度的な割合で増え始めている。今はまだ人数がとても少ないので増加速度はゆっくりに感じられるが、間もなく目に見えてくるはずだ。人数を急速に増やすための計画も準備が整っている。

近々、これを中心的に牽引することになる企業は、宇宙ステーションでの民間向けサービスを提供し、ゆくゆくはステーションの運営も行おうというAxiom Space(アクシオム・スペース)だ。Axiomは、国際宇宙ステーション(ISS)での経験や専門知識を持つ人たちによって設立され、経営されている。同社はすでに、民間クライアントのためにISS上でNASAの宇宙飛行士の手を借りた研究開発ミッションを実施している。2021年からは、民間宇宙飛行士のISSへの送り迎え全般を取り仕切る計画を立てており、新しい商用宇宙ステーションの建造計画もある。これは、いずれISSが引退した後に、その役割を引き継ぐことになっている。

Axiomの最高ビジネス責任者Amir Blachman(アミア・ブラックマン)氏は、先週開催されたTC Sessions:Spaceのパネルディスカッションに登壇した。このディスカッションには、他にもNASAの探査およびミッション計画責任者のNujoud Merancy(ニュジャウド・メランシー)氏、Sierra Nevada Corporation(シエラネバダ・コーポレーション)上級副社長であり元宇宙飛行士のJanet Kavandi(ジャネット・カバンディ)氏、Space Exploration Architecture(スペース・エクスプロレーション・アーキテクチャー、SEArch+)共同創設者Melodie Yashar(メロディー・ヤシャー)氏も登場した。ここでは、公共と民間の団体が、地球の外で、または遠く離れて、過ごす時間が長くなる(比較的近い)将来の準備がどれだけ進んでいるかが集中的に議論された。

「今です。もう数年前から今です」とブラックマン氏は、実際に宇宙で暮らす人の数がNASAの宇宙飛行士を超えるのはいつかという質問に答えた。「Axiomは、独自のミッションでISSにクルーを送り込みます。同時に新しい商用宇宙ステーションを建造し、ISSが引退した後にその役割を引き継ぐ予定です。私たちの最初の有人ミッションは、今から12カ月後に予定している4人の宇宙飛行士の打ち上げです。この4人はすでに身体検査を行い、宇宙服の採寸を済ませています。またすでに、打ち上げを行う企業との医療とトレーニングのチームを統合を行いました。この4人は2021年に、別のクルーを2022年に、2023年に2人、2024年には4人を打ち上げ、その後は数を増やしていきます」。

バックマン氏とメランシー氏は、Axiomの将来の商用ステーションにも、NASAの将来の月面基地や月の軌道を巡り月ミッションの足場となるルナゲートウェイにも、自動化とロボットシステムが重要になると話していた。

「ISSは、人が常駐することを基本としています」とメランシー氏。「無人ステーションになることは想定していません。地上の管制官たちが実際にたくさんのオペレーションを行っていますが、ステーションの維持管理は人間が行う仕組みになっています。月の構造物やゲートウェイを計画する際には、そのような贅沢はいえません。ゲートウェイは、人がいるときだけ稼働します。月面基地に人が滞在するのも、次第に長くなりますが、最初は1週間程度です。しかしながら、人がいない間も、有用な科学調査や有用な探索が行える状態を維持しておかなければなりません。そこで、テレロボティクスや地上からのコマンドによる維持管理能力を持たせ、クルーが到着したときに、ハッチを開けて中に入ればすぐに仕事にかかれる環境になっているというのが理想です」。

「火星での、またそれ以前に月面での、そうした住居や重要インフラの建設においては、できる限り自立的に行うべきであり、またそのように考えで進めるべきだという想定の下で、私たちは作業を進めてきました」とヤシャー氏は続けた。「そのため私たちは基本的に、人を送り込む前の予備的ミッションの段階から、建設、材料、採掘、原料加工に至るほぼすべてのシステムと、私たちが目指している他のすべてのシステムが、多かれ少なかれ、できる限り自律的に行われることを期待してデザインしています」。

カバンディ氏も、現代の有人宇宙システムには大幅な自動化を導入すべきという点で、他のパネリストの考えに共鳴していた。それによって複雑性が増さないかとの私の質問に、彼女はむしろ反対の結果をもたらすと答えた。皮肉なようだが、宇宙の有人活動への道を拓くには、人の手をできるだけ減らすことが重要になるということだ。宇宙のインフラの運用と管理においてはなおさらだ。

「技術の進歩は、物事をより単純化する場合もあります」とカバンディ氏。「長年かけて私たちが能力を高めてきた過程で、たとえばコンピューターは、どんどん難しくなるのではなく、より簡単に使えるようになりました。目標は、クルーの拘束時間やクルーの維持管理の手間を削減して、どのようなミッションにおいても、研究やその他宇宙で本来行うべき仕事に専念できるようにすることです。インターフェイスを単純化するほど、自動化率は高まります。クルーは何か問題が起きたときだけ介入すればよくなります。しかし通常は物事が滞りなく進行し、クルーは何もしないで済むというのが理想のかたちです。そうなれば、本来宇宙で行うべき仕事に集中できる自由な時間が増えるのです」。

カテゴリー:宇宙
タグ:Axiom Space民間宇宙飛行ISS

画像クレジット:Axiom Space

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(翻訳:金井哲夫)

ロッキード・マーティンのリサ・キャラハン氏が語る月着陸船共同開発の今

NASAのアルテミス計画はやっと進み始めたところだが、民間パートナー企業たちは、月着陸システム開発の名誉を獲得しようと競い合っている。なかでもこの取り組みをリードしているのが、Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)とBlue Origin(ブルー・オリジン)だ。ロッキードの副社長であり商用民間宇宙担当ジェネラルマネージャーのLisa Callahan(リサ・キャラハン)氏は、共同作業は驚くほど円滑で成果も大きいと語る。

TC Sessions:Spaceに登壇したキャラハン氏は、そうした取り組みに最初から参加できることへの喜びを表していた。「やりたくない人なんて、いないでしょ?めちゃくちゃすごいことです」と彼女は話す。「私たちのスタッフには、アポロのときにはまだ生まれていなかった人が大勢います。なので、彼らは次世代の一員として、再び月に宇宙飛行士を送る計画に参加できることを、とても喜んでいます。私も個人的に、最初の女性を月に送ることになるという事実を誇らしく感じています」。

ロッキードは離陸モジュールの開発を行っており、その一方でNorthrup Grumman(ノースロップ・グラマン)とDraper(ドレイパー研究所)がその他のコンポーネントを、主契約者であるブルー・オリジンは着陸モジュールを担当していると、彼女は説明した。

「ブルー・オリジンの視点からすると、この企業の組み合わせは実におもしろいものです。ロッキードやノースロップ・グラマンやドレイパー研究所といったアポロの時代まで遡る老舗が、この国家的優先課題のために、ある意味、国民としての時間をともに過ごしているのですから」と彼女はいう。

昔からのライバルと新参企業との間に摩擦はないものかと案じるのは無理もないが、キャラハン氏によればその関係は非常に前向きだという。

「これは異なる文化の融合なのです。このチームのメンバー全員が、それによって成長していると私は考えています」と彼女はいう。「ブルー・オリジンは、元請け業者としてとてもよくやっています。みんなを大変に温かく迎え入れてくれます。私はその雰囲気を、社員章のない環境と呼んでいます。何らかの技術交流会議に出席しても、誰がどの会社の人間かはわからないでしょう。なぜなら全員が、取り組むべき仕事の担当者として適切な経歴を有する一流の人材だからです。なので、まったく境目がありません。その状態を、私たちはとても楽しんでいます」。

これはすべて、ほとんどの企業が業務方法の変更を余儀なくされたパンデミックの間のことだ。キャラハン氏は、計画を大転換するのではなく、まさしくこれまで続けてきた業務の近代化に重点を置いた賜物だと話した。

「おそらくこの5年間かそれ以上、私たちは、デジタルトランスフォーメーションと呼んでいるものに投資してきました。デジタルコラボレーションツールです。複数の人たちが同時にデザイン作業ができるよう、双子の宇宙船をデジタルで構築するものです」と彼女は説明する。「苦あれば楽ありといってもいいでしょうが、新型コロナウイルスのお陰でその取り組みが加速されました。このような仮想環境で、これまで思ってもみなかったかたちで、本当のコラボレーションができるのだと新型コロナは教えてくれています」。

ロッキードの次なる大きな節目は、Orion(オライオン)宇宙船を、ケープ・カナベラルのケネディー宇宙基地に届けることだ。

「本当にわくわくしてます。私たちがこのシステムをVBA(NASAの宇宙船組立棟)に届けると、その打ち上げ準備が完了します。2021年の予定です。そしてそれは、Space Launch System(スペース・ローンチ・システム)によって打ち上げられる最初のOrionとなります」とキャラハン氏は話していた。

ロッキード・マーティン、エアロスペース、アメリカ宇宙軍などがTC Sessions:Spaceに登場する。アクセス登録はこちらから

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タグ:Lockheed Martinアルテミス計画

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(翻訳:金井哲夫)

Blue Originの宇宙産業オールスターチームが人類を月に運ぶ着陸システムを提案

Blue Origin(ブルー・オリジン)が率いる「National Team」は、NASAのアルテミス計画の一環として次の宇宙飛行士を月面に運ぶために使用されるHuman Landing System(HLS)の提案書をNASAに提出(Blue Originリリース)した。ブルー・オリジンはNASAの有人月面着陸ミッションの契約入札に選ばれた3社のうちの1社で、Lockheed Martin(ロッキード・マーチン)やNorthrop Grumman(ノースロップ・グラマン)、Draper(ドレイパー)で構成されるチームを率いている。他の参加企業は、SpaceX(スペースX)とDynetics(ダイネティクス)で、NASAに印象づけるに十分な提案をしていた。

ブルー・オリジンが提出した提案は、NASAのHLS提案のうちOption Aの部分に関するもので、2024年を現在のターゲットとするアルテミス計画で初の有人着陸を行うための適切なタイミングを提供するために設定されている。また、2026年の飛行実証を含む後期ミッションを含んだOption Bの提案もある。NASAは地球から国際宇宙ステーション(ISS)への輸送のための商用輸送プログラムで行ったことと同様に、同宇宙局の顧客として役割を果たし、最終的には宇宙船を製造する着陸システムを構築するための民間のパートナーを求めている。

HLSは月を周回し、月面に到達するためのベースとなるNASAのLunar Gateway(月軌道プラットフォームゲートウェイ)宇宙ステーションとドッキングするように設計されている。NASAの宇宙飛行士は、現在開発中のOrion宇宙船を使って月へと飛行する。この宇宙船はNASAが所有し、契約業者(ロッキード・マーチン、Airbus、Boeing)によって製造されるSpace Launch System(SLS)ロケットに搭載され打ち上げられる。

NASAはLunar Gatewayと月が科学や研究だけでなく、商業活動の拠点として機能する未来を想定しており、HLSは同宇宙局だけでなく、民間企業の顧客にもサービスを提供できるような着陸システムの開発を促進するために設計されている。

関連記事:NASAがSpaceX、Blue Origin、Dyneticsの3社を月面着陸船の開発に指名

カテゴリー:宇宙
タグ:Blue OriginNASAアルテミス計画

画像クレジット:Blue Origin

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(翻訳:塚本直樹 / Twitter)

NASAが月試料収集プロジェクトに日本のiSpaceなど4社を選択、宇宙鉱業のパイオニア育成を目指す

NASAは、月の表土サンプルを収集し地球に持ち帰るプロジェクトへの参加企業を募集していた。多数の民間企業が応募した中からispace Japanなど4社が選択された。

選定された4社はNASAの月着陸ロケットへの機器の搭載をすでに予約している。NASAはペイロードに民間企業を加えることでプロジェクトのコストの大幅削減ができることを実証しようと考えている。またNASAは、月試料採集にあたって民間企業に支払いを行う。企業は取得した物質の一時的な所有権を持ち、独自の目的に使用した後でNASAに譲渡することとなる。今回のプロジェクトこうした方式の前例となるだろう。

選定は簡単な基準に基づいて評価された。つまり、まず技術的に実現可能かどうか、次にどれほどの費用がかかるかという2点だ。4社はそれぞれが異なる手法でNASAの要求条件を満たそうとしている。プロジェクトは50〜500g程度の月のレゴリス(要するに月の土だ)を採集して地球に持ち帰ることだ。地球での回収作業はNASA自身が実施する。2024年までにサンプルの取得を実現できるという点が要求仕様に含まれていた。これはNASAのアルテミスミッションに間に合うようにするためだ。NASAは実際にサンプルを購入する義務はないが、必要なら購入できるようオプションが設定されている。

選定された4社は以下のとおり。

Lunar Outpost:米国・コロラド州ゴールデン。契約金額はわずか1ドル(約104円)。2023年に完成予定のBlue Originの月着陸船を利用する。

ispace Japan:日本、東京。契約金額5000ドル(約52万円)。現在、2022年に設定されている最初のミッションでHakuto-R着陸船を利用して収集を行う。

ispace Europe:ルクセンブルグ。ispace Japanと同一のグローバル宇宙企業グループに属する。契約金額5000ドルで2023年の2回目のHakuto-Rミッションに参加予定。

Masten Space Systems:米国・カリフォルニア州モハベ。契約金額は1万5000ドル(約156万円)。2023年に自社開発のMastenXL着陸船を使用する予定。

NASAには16ないし17社から22の応募があった。このプロジェクトはNASAが官民パートナーシップという手法のメリットを実証することも重要な目的で、月のような地球外天体から試料を収集するための方式に1つの先例を作れるよう意図している。

NASAの国際関係・省庁間関係担当副長官代行のMike Gold(マイク・ゴールド)氏はこう述べている。

これが内部的にも外部的にも先例となり、民間企業とのパートナーシップというNASAのパラダイムを今後も前進させていくことと信じています。NASAはこれまでのようにシステム開発自体の資金を負担するのではなく、民間企業の事業に対して顧客として料金を支払う役割となります。

具体的にいえば、今回の契約は月試料の収集に関して民間企業が主導的役割を果たすこと、また試料の所有権を収集した企業が持つことについて重要な先例となるだろう。ゴールド氏はこう述べている。

宇宙開発においてロケット工学はむしろやさしい部分だと私は常々いっています。政府の政策、各種の法的規制、予算などの課題には対処することは非常に困難な課題です。こうした問題を事前に解決しておかないと公的部門と民間部門の協力によって生じる素晴らしい進歩がひどい遅延に見舞われかねません。民間セクターの能力を利用する先例を確立することは重要です。企業のリソースを使ってNASAがその成果物を購入利用できるようにすることはNASAの活動だけでなく、官民協力による宇宙開発、探査に新しいダイナミックな時代を開くでしょう。我々はまず月にやがて火星にたどり着くでしょう。

NASAは民間企業が月(将来は火星)に行き試料を収集し所有権を保持し後に、公的および民間の顧客に試料を売却することができるというビジネスモデルを確立することを望んでいる。

今回の選定にあたって入札価格が非常に低かったのはこれが理由の1つだ。ispaceやLunar Outpostのような企業は地球外天体の宇宙鉱業を含む未来的ビジネスモデルを持っていいる。さらに月着陸ミッションはすでに計画されており、NASAが今回の提案要項に明示したとおり、NASAは月着陸船の開発費を支払うことを考えていない点だ。 NASAは月に実際に収集された試料の料金だけを支払うというモデルとなっている。

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カテゴリー:宇宙
タグ:NASAispaceLunar OutpostMasten Space Systems

画像クレジット:ispace

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

中国の月着陸船「嫦娥5号」が月面着陸に成功、米国、旧ソ連に続く3カ国目の土壌採取に挑戦

中国の国営通信社は、月の岩石サンプルを地球に戻すことを目的とした月探査ロボット「嫦娥5号(Chang’e-5)」が着陸に成功したと報じた。打ち上げは11月23日に始まり、11月28日に月周回軌道に到達、11月30日に着陸機を打ち上げている。中国国家航天局(CNSA)の報告によると米国時間12月1日東部標準時午前10時(日本時間12月2日0時)すぎに無傷で月面に着陸するという目標を達成したという。

中国の嫦娥5号ミッションは月から土壌や岩石のサンプルを持ち帰るというもので、成功すれば中国は米国と旧ソ連に続く3カ国目となる。ミッションで月着陸船は、地球に最も近い月の側面(月の自転周期と公転周期は同じ約27日間のため、地球から見ると月は常に同じ面を向けていることになる)に着陸した。

今回の着陸は、ミッションにおける次のステップまで時間的な余裕がない。というのも、着陸機にはヒーターユニットが搭載されていないため、月の夜に耐えることができない。つまり今後、地球時間で14日間のうちにサンプルを採取しなければならず、12月16日か17日頃には戻ってくる可能性があることになる(すべて計画どおりに進めば、中国が月の石を持ち帰るのは私たちのTC Sessions: Space eventに偶然にも間に合うことになる)。

現在進行中の地球外のサンプルリターンミッションはこれだけではない。ロッキード・マーチンが設計した探査機は2020年11月に、地球近傍小惑星ベンヌのサンプル回収に成功したばかりで、2021年3月に再度出発する予定だ。NASAはまた、2020年7月に打ち上げた探査機「Perseverance」を使って、火星へのサンプル回収ミッションを開始している。

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タグ:嫦娥5号中国

画像クレジット:Jin Liwang/Xinhua / Getty Images

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(翻訳:TechCrunch Japan)