TechCrunchの読者もご存知のように、現在のWebにはプライバシーと利便性のトリッキーなトレードオフがある。この「非常に私的な情報(プライバシー)の盗難」をうまく成功させるために登場したのが、オンライン追跡だ。インターネットユーザーが見ているものを大規模に監視することが、Google(グーグル)の圧倒的な検索エンジンとFacebook(フェイスブック)のソーシャル帝国を支えている。この2社は、広告から資金提供を受ける最も知名度の高いビジネスモデルだ。
TechCrunchの親会社であるVerizon(ベライゾン)もまた、モバイルデバイスやこのようなメディア資産など、さまざまなエンドポイントからデータを収集して、独自の広告ターゲティング事業を強化している。
他にも数え切れないほどの企業が、知覚価値を抽出するためにユーザーデータを取得している。これらの企業の中に、どのような種類の個人情報をどの程度集めているのか、あるいは実際にそれを使って何をしているのかを完全に開示している企業はほとんどない。しかし、Webはこんなことのために存在しているのではない、としたらどうだろう。
ベルリンを拠点とするXayn(ゼイン) はこのダイナミクスを変えたいと考え、パーソナライズとプライバシー保護を両立させるWeb検索を、まずスマートフォンで始めることにした。
本日同社は、(AndroidおよびiOS向けの)検索エンジンアプリをローンチする。このアプリでは、検索結果のパーソナライズによる利便性は確保されるが、通常のショルダーサーフィンは行われない。これが可能なのは、アプリが、ローカルで学習するオンデバイスAIモデルを搭載しているからだ。データがアップロードされることは決してない(ただしトレーニングされたAIモデル自体がアップロードされることはある)。
このアプリを開発したのは、博士号を持つメンバーが30%を占め、核となるプライバシーと利便性の問題に約6年前から取り組んでいるチームだ(同社は2017年に設立されたばかり)。当初は学術研究プロジェクトとしてスタートし、XayNet と呼ばれる、マスクされたフェデレーションラーニングのためのオープンソースフレームワークを提供するようになった。Xaynアプリは、このフレームワークをベースにしている。
同社はこれまでに、アーリーステージで950万ユーロ(約12億円)の資金を調達している。出資元は、ヨーロッパのVC企業Earlybird(アーリーバード)、Dominik Schiener(ドミニク・シーナー)氏(Iota(アイオータ) の共同創業者)、スウェーデンの認証および決済サービス会社Thales AB(タレスAB)だ。
同社は現在、XayNetテクノロジーをユーザー向け検索アプリに適用することによりXayNetを商品化しようとしている。CEOかつ共同創業者のLeif-Nissen Lundbæk(レイフニッセン・ルンドベーク)博士によると、無料・有料のユーザーを対象とするユビキタスなビデオ会議ツールである「Zoom」のようなビジネスモデルを目指しているとのことだ。
つまり、Xaynの検索エンジンは広告に頼らない。検索結果に広告が表示されないのだ。
その意図は、この消費者向けアプリを、広告を表示するためではなく、同じコアAIテクノロジーを搭載するB2B製品向けのショーケースとして機能させることにある。商用データのプライバシーを損なうことなく、企業・社内検索を高速化することが、企業・公共部門の顧客へのアピールポイントだ。
ルンドベーク氏は、企業は自社のデータに(安全に)適用するための優れた検索ツールを切実に必要としていると主張し、一般的な検索に掛かるコストは、世界的に見ると作業時間のおよそ18%になることが調査からわかったと述べている。同氏はまた、職員が勤務時間の37%を文書やその他のデジタルコンテンツの検索に費やしているとする調査にも言及した。
ルンドベーク氏はまた、「これはGoogleが試みたが成功しなかったビジネスモデルだ」と主張し、「当社は、普通の人々が抱えている問題だけでなく、企業が抱えている問題も解決する。人々や企業にとって、プライバシーはあると嬉しいオプションのようなものではなく、必須事項だ。プライバシーが確保されていなければ、なにも使うことできない」と付け加えた。
消費者側では、アプリ向けにいくつかの有料アドオンも提供されるため、フリーミアムのダウンロード版で提供される予定だ。
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スワイプしてアルゴリズムを微調整
注目すべき重要な点は、Xaynが新たにローンチしたウェブ検索アプリでは、閲覧しているコンテンツが自分にとって有用かどうかをユーザーが自分で決められることだ。
これは、ユーザーがパーソナライゼーションアルゴリズムを適切に調整できる、Tinder(ティンダー)スタイルの右スワイプ(または左スワイプ)の仕組みによって実装されている。ホーム画面にニュースコンテンツ(国別にローカライズされる)を表示することはもちろんのこと、検索結果ページも表示できる。
もう1つの注目すべき機能は、ニュースにフォーカスしたホーム画面だ。将来的に、有料ユーザーはホーム画面にさまざまなフィードを表示させることができるようになるかもしれない。
このアプリのもう1つの重要な機能は、検索結果のパーソナライズのオン・オフを完全に切り替えられることだ。右上にある脳の形のアイコンをタップするだけでAIをオフ(またはオン)に切り替えることができる。AIをオフにしていると、検索結果はスワイプできない。ただし検索結果のブックマーク・共有は可能だ。
他にも、このアプリはデフォルト設定で過去7日間の検索結果を一覧表示する履歴ページを備えている。設定を変えれば、「今日」の検索結果、「過去30日間」の検索結果、「すべての履歴」も表示でき、「ごみ箱」ボタンで検索結果を削除することもできる。
また、ブックマーク用のフォルダを作成してアクセスできる「コレクション」機能もある。
検索結果をスクロールしながら、右にスワイプしてブックマークアイコンを選択すると、追加先を選択するプロンプトが表示され、コレクションにアイテムを追加できる。
スワイプ式のインターフェイスは親しみやすく直感的だが、TechCrunchがローンチに先駆けて調査したTestFlightベータ版では、コンテンツの読み込みにわずかな遅れがあった。
コンテンツを左にスワイプすると、警告の 「x」 が付いた明るいピンクのカラーブロックが開く。続けるとスワイプする項目が消える。おそらく今後はそのような項目を目にする機会が少なくなるだろう。
一方、右にスワイプするとコンテンツが有用だと認めたことになる。つまり、そのコンテンツはフィードに残り、Xaynグリーンでアウトライン表示される(右にスワイプすると、ブックマークオプションと共有ボタンも表示される)。
米国のDuckDuckGo(ダックダックゴー)やフランスのQwant(クワント)など、プライバシー重視・非トラッキングの検索エンジンは既に市場に出回っているが、そのようなライバル企業の検索エンジンは、検索結果の関連性と検索にかかる時間という点で、Googleのようなトラッキング検索エンジンで得られるユーザー体験には遠く及ばない傾向にある、とXaynは主張する。
簡単に言うと、求めている具体的な結果を「DuckDuckGo検索」や「Qwant検索」 で得るには、おそらくGoogle検索より多くの時間がかかる、つまり、Web検索時のプライバシー保護に関連する便益コストが発生するということだ。
Xaynの主張によると、「仮想的な隠れみの」を被ったまま(身元を隠したまま)オンライン検索をする第三のスマートな方法がある。この方法では、デバイス上で学習し、プライバシーを保護しながら組み合わせることができるAIモデルを実装する。そうすることで、人々のデータを危険にさらすことなく、結果をパーソナライズできる。
ルンドベーク氏はXaynチームが取り組んでいる、AIを利用した分散型・エッジコンピューティングのアプローチについてこう説明する。 「最も重視するのはプライバシーだ。つまり他のプライバシー対策と同様に、当社は何も追跡せず、何もサーバーに送信しない。もちろん何も保存しないし、何があっても追跡はしない。また、これは言うまでもないが、検索時の接続はどんな場合も基本的に安全性が確保されており、トラッキングを一切許可しない設計になっている」。
オンデバイスでの再ランキング
ルンドベーク氏によると、Xaynは、Microsoft(マイクロソフト)のBing(ビング)を含む(ただしこれに限定されない)数々の検索インデックスソースを利用しており、(独自のウェブクロールボットを持つ)DuckDuckGo(DDG)に「比較的似ている」という。
大きな違いは、Xaynではプライバシーに配慮したパーソナライズされた検索結果を生成するために、独自の再ランキングアルゴリズムも適用していることだ。一方、DDGはコンテクスト広告ベースのビジネスモデルを採用している。このモデルでは、位置情報や検索キーワードなどの単純なシグナルを見て広告のターゲティングを行うため、ユーザーをプロファイリングする必要がない。
ルンドベーク氏によると、この種のアプローチの欠点は、広告がユーザーに押し寄せる可能性があることだ。ターゲティングをよりシンプルにした結果、企業はクリックの機会を増やそうと、より多くの広告を提供する。また、検索結果に大量の広告が表示されたからといって、優れた検索体験を得られないことは明らかだ。
「Xaynではデバイスレベルで多くの結果を得ることができるが、アドホックなインデックス作成も行っており、デバイスレベルとインデックスレベルで検索機能を構築している。このアドホックなインデックスを使用すると、検索アルゴリズムを適用して結果をフィルタリングし、関連性の高いものだけを表示し、それ以外はすべて除外できる。また、基本的に機能は少し落ちます。しかし、当社は最新の機能を常に探究し続けようと努めています。Xaynの検索結果は関連性が著しく高いものではないかもしれません。しかし、ユーザーがフィルターバブルにとらわれて何も見えない状態に陥ることを防止します」。
Xaynは、フェデレーションラーニング(FL)の分野にも取り組んでいる。Googleも近年 、FLに取り組んでおり、サードパーティーのトラッキングクッキーを置き換えるための「プライバシー保護」提案 を推進している。しかし、Googleがデータ事業に高い関心を示しており、たとえ検索にFLを適用したとしても、Google自体がユーザーデータパイプへのアクセスを単純に遮断するわけではない、とXaynは主張する。
一方、ドイツを拠点とするプライバシー重視の小規模なスタートアップとしてのXaynの関心はまったく異なるところにある。同社が長年にわたって構築してきたプライバシー保護テクノロジーErgoは、人々のデータの保護に重きを置いている、というのがXaynの主張である。
「Googleでは、実際にフェデレーションラーニングに取り組んでいる人の数が当社のチームよりも少ない」とルンドベーク氏は言う。そして「当社はTFF(Googleが設計したTensorFlow Federated )をさんざん批判してきた。TFFはフェデレーションラーニングだが、実際にはまったく暗号化されていない。しかもGoogleのTFFには多くのバックドアがある」と付け加えた。
ルンドベーク氏はさらに次のように説明する。「ユーザーは、GoogleがTFFで実際に何をしたいのかを理解する必要がある。Googleは、トラッキングクッキー、特にユーザーに同意を求めるというような煩わしい処理を置き換えたいと考えている。もちろんGoogleがユーザーのデータを求めていることに変わりはない。Googleは、ユーザーにこれ以上プライバシーを与えたくないのである。そして最終的にはユーザーのデータをもっと簡単に手に入れたいと考えている。純粋なフェデレーションラーニングでは、実際にプライバシーを保護するソリューションを構築することはできない」 。
「プライバシーを保護するには、やるべきことが多くある。純粋なTFFは、確かにプライバシーを保護するものではない。そのためGoogleは、基本的にユーザー体験に関するあらゆることに、例えばCookieなどのテクノロジーを使うことになる。しかし、もしGoogleがCookieを検索に直接使うとしたら、私は非常に驚くだろう。たとえそうなっても、Googleのシステムには多くのバックドアがあるため、実際にはTFFを使用して非常に簡単にデータを取得できる。そのため、TFFはGoogleにとって都合のいい回避策なのである」。
「データは基本的に、Googleの基盤となるビジネスモデルである。Googleが何をするにしても、もちろん正しい方向への良い一歩だと私は確信している。Googleは、度が過ぎない程度に行動するという、非常に賢明な動き方をしていると思う」。
ところで、Xaynの再ランキングアルゴリズムはどのように機能するのだろうか。
アプリはデバイスごとに4つのAIモデルを実行し、それぞれのデバイスの暗号化されたAIモデルを、準同型暗号を使用して非同期に集合モデルに結合する。2番目のステップでは、この集合モデルを個々のデバイスにフィードバックして、提供されたコンテンツをパーソナライズするようだ。
デバイス上で実行される4つのAIモデルはそれぞれ、自然言語処理、関心のグループ化、ドメイン設定の分析、コンテキストの計算を実行する。
「ナレッジは維持管理されるが、データは基本的にデバイスレベルで保持される」と、ルンドベーク氏は説明する。
「スマートフォン上で多種多様なAIモデルをトレーニングすることにより、例えば、このナレッジの一部を組み合わせるかどうか、ナレッジをデバイス上にも維持するかどうか、といった点をを決められるようになる」。
ルンドベーク氏は、「Xaynは4つの異なるAIモデルが連携して動作する非常に複雑なソリューションを開発た」と述べ、このAIモデルでは、各ユーザーの「興味の中心と嫌悪の中心」を、これもまた彼が言うところの「非常に効率的でなければならない」スワイプに基づいて設定できること、そしてAIモデルは基本的に長い時間をかけて、ユーザーの興味に基づいて機能すべきものであることに言及した。
ユーザーがXaynを使えば使うほど、デバイス上での学習の結果、パーソナライゼーションエンジンの精度が増す。さらに、スワイプして好き・嫌いのフィードバックを与えることで、積極的に関与できるユーザーの層が厚くなる。
Xaynのパーソナライゼーションは個人に高度に特化しており、ルンドベーク氏はこれを「ハイパーパーソナライゼーション」と呼んでいる。XaynのパーソナライゼーションはGoogleのような追跡検索エンジンよりも高度である。ルンドベーク氏によると、Googleはユーザー間のパターンを比較し、どの結果を提供するかを判断しているという。Xaynではこのようなことは絶対にない。
ビッグデータではなくスモールデータ
「Xaynは個々のユーザーに集中しなければならないため、ビッグデータの問題ではなく『スモールデータ』の問題を抱えている。そのため、非常に速いスピードで学習しなければならない。8から20のやりとりだけで、ユーザーの多くを理解する必要があるためだ。ここで重要なのは、このような迅速な学習を行う場合には、いつも以上にフィルターバブルに注意を払う必要があるということである。検索エンジンがある種の偏った方向に進むのを防がなければならない」とルンドベーク氏は説明する。
このエコーチャンバーまたはフィルターバブルの影響を避けるために、Xaynチームはエンジンを、切り替え可能な2つの異なるフェーズで機能するように設計した。「探索」と呼ばれるフェーズと「搾取」といういうフェーズだ(「搾取」というのは残念な言い方だが、「エンジンはユーザーに関する何らかの情報を既に持っているため、かなり関連性の高いものを提供できる」という意味である)。
「我々は、常に新しい情報を取り入れ、探求を続けなければならない」とルンドベーク氏は語る。それが4つのAIうちの1つ(コンテキストを計算するための動的コンテキスト多腕バンディット強化学習アルゴリズム)を開発した理由である。
Xaynは、このアプリのインフラストラクチャがユーザーのプライバシーをネイティブに保護するよう設計されていること以外にも、多くの利点があると主張している。たとえば個人から非常に明確な興味の兆候を引き出せたり、追跡サービスのせいでユーザーが委縮する効果(将来の結果に影響を与えることを避けるために、特定の検索を行わないようになる)を回避できることなどがある。
「ユーザーは、スワイプするだけで、もっと詳しい検索結果を表示させるかどうか、つまりアルゴリズムに学習させるかどうかを決めることができる。操作は非常に簡単で、システムを手軽にトレーニングできる」とルンドベーク氏は説明する。
しかし、アルゴリズムが(オンの場合に)デフォルトで何らかの学習を行うと仮定すると(すなわち、ユーザーが好き/嫌いのシグナルを発しない場合)、このアプローチには若干のマイナス面もあるかもしれない。
なぜなら、Xaynから最良の検索結果を得るために、(フィードバックをスワイプして)やりとりするという負荷がユーザーにかかることになるからだ。スワイプはユーザーに対する積極的な要求であり、Webユーザーが慣れ親しんでいる、Googleのようなテック大手が提供する一般的な受動的なバックグラウンドデータマイニングやプロファイリング(プライバシーに関しては恐ろしい機能)とは異なる。
つまり、Xaynアプリを使うため、少なくとも最も関連性の高い結果を引き出すためには「継続的な」 やり取りという形の「コスト」が発生するということだ。例えば、山ほどのオーガニック検索結果がまったく役に立たず、関連性も低い場合に、最後までスクロールしながら見ることはお勧めしない。
Xaynアプリがその利便性を最大化するには、最終的には各項目を慎重に重み付けし、有用性の判定をAIに提供する必要があるだろう(オンラインの利便性に関する競争においては、少しのデジタルフリクションでも足枷になる)。
この点について具体的にルンドベーク氏に尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。「スワイプしなければ、AIは、嫌いなものではなく非常に関心度の低い好みのみに基づいて学習する。そのため、(AIをオンにすると)学習は行われるが、学習量は非常にわずかで、大きな効果はない。これらの条件は非常に動的であるため、ウェブサイトにアクセスした後に何かを気に入ると、その経験からパターンが学習される。また、4つのAIモデルのうち1つだけ(ドメイン学習モデル)が純粋なクリックから学習する。残りの3つのモデルはこの学習は行わない」。
Xaynは、スワイプの仕組みがアプリの操作性を悪くしてしまうリスクを認識しているようだ。ルンドベーク氏によると、チームは将来的に「何らかのゲーミフィケーションの側面」を追加し、スワイプのメカニズムを単なるなフリクションから「何か楽しいこと」へと変えたいと考えている。Xaynが具体的にどんな方法でそれを実現するのかはまだ不明だ。
Xaynの使用には、Googleに比べて少しばかりのタイムラグが伴う。Xaynの場合は、オンデバイスAIのトレーニングを行わなければならないからだ(一方Googleは、ユーザーのデータをクラウドに集め、特注のチップセットを搭載した専用のコンピューティングハードウェアを使って超高速で処理する)。
「当社はこのプロジェクトに1年以上取り組んできました。最も優先してきたのは、Xaynを市場に出すこと、Xaynがユーザーの役に立つことを示すことだった。もちろん、XaynはGoogleよりも遅い」とルンドベーク氏は認めている。
「Googleは、デバイス上の処理を行う必要はない。そればかりか独自のハードウェアまで開発し、さらにこの種のモデルを処理するためにTPUを開発した。この種のハードウェアと比較して考えると、当社がスマートフォンでもXaynのオンデバイスAI処理を提供できたのは素晴らしいことだと思う。もちろんGoogleよりも遅いですが」とルンドベーク氏は続けた。
ルンドベーク氏によると、チームはXaynのスピードアップに取り組んでおり、この種の最適化にさらに注力することで、現在のバージョンよりも40倍高速になり、ユーザーにさらなるメリットがもたらされることを期待しているという。
ルンドベーク氏は次のように説明する。「Xaynが最終的に40倍高速になるわけではない。なぜなら、より広い視野を提供するために、分析するコンテンツが今後さらに増えるためだ。しかし時間の経過とともに速度は向上する」。
検索結果の精度についてGoogleと比較した場合、エッジAIが「スモールデータ」を適切に操作して獲得できる検索結果を考えると、Xaynが、Googleのネットワーク効果の競争上の優位性(より多くのユーザーを擁していることで得られる検索結果の再ランキングのメリット)に太刀打ちできないわけではない。
しかし、繰り返しになるが、今のところは検索のスタンダードであるGoogleの背中を追いかけている状況であることに変わりはない。
他の検索エンジンとのベンチマークの結果について尋ねると、ルンドベーク氏は次のように答えた。「現在当社は、XaynをBingやDuckDuckGoなどと比較しており、明らかに、Googleと比較した場合よりもかなり良い結果を得ている。しかし言うまでもなく、Googleはマーケットリーダーであり、非常に強力なパーソナライゼーションを使用してる」。
「しかし興味深いのは、Googleはパーソナライゼーションだけでなく、ネットワーク効果の一種も利用していることだ。PageRank(ページランク)は正真正銘のネットワーク効果である。PageRankはユーザーが何かをクリックする頻度を追跡し、ユーザーが多ければ結果の精度が向上する」。
「現在、例えば当社が使っているようなAIテクノロジーによって、ネットワーク効果が徐々に重要性を失っている、という興味深い現象が生じている。つまり、純粋なAIテクノロジーと本当に勝負したいのであれば、ネットワーク効果はもはや実質的に存在しないと言える。そのため、当社は今でも、Googleと同程度に関連性の高い結果を得られる。また、やがてはさらに優れた結果や、Googleと競り合える結果を、Googleとは違う方法で得ることができるようになるはずだ」。
ベータ版アプリを(簡単に)テストした際、シンプルな検索では、Xaynの検索結果は大きく期待を裏切るものではなかった(おそらく使用しているうちに改善されるだろう)。ただしこの場合も、通常の検索では、わずかな読み込みの遅れで多少のフリクションが発生することがすぐに明らかになった。
これもアリだろう。検索で期待されるパフォーマンスを実現するのは簡単ではないことに改めて気づくきっかけになる(たとえCookieを使用しないと断言できたとしても)。
競争のチャンスはあるか
「Googleにはこれまで、ネットワーク効果という強みがあったが、このネットワーク効果の優位性が徐々に弱まっており。Googleに代わるものがすでに次々と現れている」とルンドベーク氏は主張し、プライバシーへの懸念が、検索分野における競争を活発化させていることを示唆した。
「Facebookなどのように、誰もが1つのネットワークに所属しなければならないという考え方はもう通用しない。競争は技術革新にとっても、さまざまな顧客のニーズを満たすためにも有益なので、現在の状況は実にすばらしいと思う」とルンドベーク氏は語る。
もちろん、(欧州では90%を超える市場シェアを獲得している)Google検索に対抗しようとする企業の最大の課題は、Googleユーザー(の一部)をいかにして引き抜くかということだ。
ルンドベーク氏は、現時点ではマーケティングに数百万ドル(数億円)を投入する計画はないと言っている。実際、早期利用者の「緊密なコミュニティ」とともに製品を「一歩一歩」進化させていくことを目指しており、プライバシー保護技術分野の他者によるクロスプロモーションや、関連するインフルエンサーへの働きかけにより、持続的に利用を拡大させていきたい、と同氏は述べている。
ルンドベーク氏はまた、主流メディアはプライバシーの話題に興味があるため、ある程度はXaynの製品を後押ししてくれるのではないかと考えている。
「特に今の時代、当社にはとても重要な使命があると思っている。当社は、検索でプライバシー保護を実現できることを自身のためだけに示したいのではなく、どんな場合でもプライバシー保護を実現できるという優れた実例を示したいと考えている」とルンドベーク氏は言う。
「ユーザーのデータを当然のようにすべて取得してプロファイルを作成する、米国のいわゆる『最大手』企業は、ユーザーから必ずしも必要とされているわけではない。一方でユーザーは、小規模で魅力的なプライバシー保護ソリューションを利用できるが、そのようなソリューションはユーザーのデータを使用しない代わりに、ユーザー体験は良くない。だからこそ当社は現状で満足することなく、欧州の価値観に基づいた代替手段の構築を開始すべきだということを示したい」とルンドベーク氏は語る。
確かに最近、EUの議員たちがテクノロジーの主権について熱心に議論している が、欧州の消費者のほとんどが大規模な(米国の)テクノロジーを受け入れ続けている。
もっと具体的に言えば、欧州地域のデータ保護要件により、米国ベースのサービスを利用してデータの処理を行うことがますます困難になっている 。企業が考慮すべきもう1つの要素には、GDPRというデータ保護の枠組みへの準拠がある。そのため「プライバシー保護」テクノロジーに注目が集まっている。
ルンドベーク氏によると、Xaynのチームは、B2B側のビジネスを成長させることで、プライバシー保護の信条を一般ユーザーにも広めたいと考えている。そのため、最新のスマートフォン(および自分のデバイスを職場に持ち込む人々)を原動力としていた企業のコンシューマライゼーションの傾向を少し逆行させる形で、従業員が職場を通して便利なプライベート検索に慣れてくれれば、ある程度、家庭での利用が増えるのではないかと期待している。
「Xaynはこうした戦略をコミュニティ内で着実に実践して、評判を広げることができると思う。そのため、より多くのユーザーを獲得するために、マーケティングキャンペーンに何百万ユーロ(数億円)も費やす必要はない」とルンドベーク氏は付け加えた。
Xaynの市場投入第一弾としてモバイルアプリのリリースを目指してきたが、来年の第1四半期にはデスクトップ版をリリースすることも計画中だ。
課題は、このアプリをブラウザーの拡張機能として使用できるようにすることだ。チームは明らかに、Xaynを動作させる独自のブラウザーを構築することは避けたいと思っている。Google検索との競争は登り甲斐のある山である。Chrome(やFireFoxなど)を目指そうとする必要はない。
「当社は、安全な言語であるRustでAI全体を開発した。そしてセキュリティと安全性を非常に重視している。素晴らしい点は、Xaynは組み込みシステムからモバイルシステムまでどこでも動作することだ。またWebアセンブリにコンパイルできるため、あらゆる種類のブラウザのブラウザ拡張子としても動作する」とルンドベーク氏は語り、「もちろんInternet Explorerは除きますがね」と付け加えた。
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