IBMが量子コンピュータQuantum System Oneを初めて民間の医療機関に導入

IBMは、近年、同社製のQuantum System One(クアンタム・システム・ワン)を世界各地に設置してきたが、米国時間3月30日、Cleveland Clinic(クリーブランド・クリニック)との新しい10年間パートナーシップ契約により、米国の民間セクターとしては初めてとなる設置を発表した。これは、IBMが自社施設以外で初めて設置される量子コンピュータというだけでなく、医療機関が購入し導入する初の量子コンピュータでもある。この契約により、クリーブランド・クリニックはIBMが間もなく運用を開始する次世代型1000量子ビットを超える量子コンピュータへのアクセスも可能になる。

今はまだ、商用量子コンピューティングはほんの初期段階であり、現在、ほとんどのユーザーは量子システムにクラウドを介してアクセスしている。実験としては、それで十分だ。しかし、量子コンピュータをオンプレミス(部内型)で設置し、システムをフルアクセスで使いたいと考える研究機関や商用ユーザーが次第に増えている。

今回の新しい契約は、IBMとクリーブランド・クリニックとの長期的なパートナーシップの一環だ。これには、IBMの高性能コンピューティングのためのハイブリッドクラウドのポートフォリオとAIツールも含まれる。またこのパートナーシップは、クリーブランド・クリニックが新しく開設するCenter for Pathogen Research & Human Health(病原体研究およびヒトの健康センター)の基礎ともなる。この施設は、オハイオ州、非営利経済開発団体JobsOhio(ジョブズオハイオ)、クリーブランド・クリニックによる5億ドル(約550億円)の資金援助に支えられている。

「今回紹介するのは、専用の完全なシステムを導入する初の【略】民間セクターまたは非営利団体と呼びたいところですが今はまだ【略】非政府機関ですが、本当に重要なのは、数十年間にわたる私たちの約束です」とIBM Research(IBM基礎研究所)の上級副所長でありディレクターのDario Gil(ダリオ・ギル)氏は私に話した。「ある意味、彼らは我々のロードマップ全体にわたるパートナーです。つまり、単に領収書をもらって、一連の量子コンピュータと、2022年には次世代量子コンピュータにアクセスできるようになるというだけの話ではありません。また彼らは、最初の1000量子ビット以上のシステムが欲しいと申し込んだ最初の人たちなのです」。

現在、量子コンピューティングに大きく投資できるのは、かなり先を見通せる団体だと彼は指摘する。国や州が、多岐にわたる広範な分野での可能性を有するこの生まれたばかりのテクノロジーに取り組み始めたのは、そのためでもある。だが、非営利団体も同様の賭けに出た。「彼らには、非常に高レベルの志があります。未来を見据えているからです」とギル氏は、クリーブランド・クリニックのリーダーシップについて語った。

契約の一部として、クリーブランド・クリニックの研究者たちは、IBMのクラウド内にある量子ポートフォリオ全体にアクセスできるようになるとギル氏はいう。IBMは、センターに内部設置された量子コンピュータの保守管理とサポートを行うものの、システム自体はIBMの所有となる。これはドイツや日本の政府系研究所との契約に似ていると彼は説明する。

「その保守管理とサポートは極めて重要です」とギル氏は、そうする理由について語った。「そのためには我々と、我々の専門性が必要です。しかもこれは、IBMの中でも最もセンシティブなテクノロジーでもあるため、私たちは、このマシンのセキュリティと安全の確保に、特に厳格に目を光らせる必要があるのです」。

契約の一環として、IBMとクリーブランド・クリニックは、同クリニックの研究者が量子コンピュータを、さらにAIと高性能コンピューティングを扱えるよう技能を構築することになっている。

「この革新的なコラボレーションを通じて、私たちは未来を現実にする特別なチャンスを得ました」と、クリーブランド・クリニック院長でCEOの医学博士Tom Mihaljevic(トム・ミハリェヴィッチ)氏は話す。「この新しいコンピュータ技術は、生命科学における発見に革命を起こし、結果的に人々の生活を向上させます。この発見加速装置によって、当院の名だたるチームは未来を見据えたデジタルインフラを構築し、医療の変革を推し進め、同時に未来の働き手を訓練し、経済を発展させます」。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:IBM量子コンピュータ

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:金井哲夫)

IBMが量子コンピュータの開発者認定を開始

IBMは米国時間3月29日、量子コンピュータのプログラミングに関する初の開発者認定を開始すると発表した

量子コンピュータはまだ初期段階にあるとはいえ、業界の識者の多くは、今こそ基本的なコンセプトを学ぶべきだというだろう。量子コンピュータのハードウェア面では、すぐに直感的に理解できるものはほとんどないが、実際に使われているソフトウェアツールは、現在業界で活躍している人々が開発したものがほとんどであり、ほぼすべての開発者にとって身近に感じられるはずだ。

正式名称「IBM Quantum Developer Certification(IBM量子開発者認定)」は、当然ながら、IBM自身のソフトウェアツール、特に量子コンピュータ用のSDK(ソフトウェア開発キット)である「Qiskit(キスキット)」に焦点を当てている。Qiskitはすでに60万回以上もインストールされており、非常に人気が高いことが証明されている。2020年、IBM Quantum(クァンタム)とQiskitのチームが量子サマースクールを開催した際には、約5000人の開発者が参加したという。

しかし、開発者はQiskitの基本(量子回路の定義と実行など)を知るだけでなく、量子コンピューティング自体の基本も学ぶ必要がある。ブロッホ球パウリ行列ベル状態などを理解すれば、Pearson VUE(ピアソンVUE)プラットフォームで実施される予定の認定試験を受けるのに十分な準備が整うだろう。

IBMでQuantum Education and Open Science(量子教育とオープンサイエンス)のグローバルリードを務めるAbe Asfaw(エイブ・アスファー)氏は、これが計画されている一連の量子開発者認証で最初の段階にすぎないことを明かした。

「私たちが構築しているのは、複数の階層からなる開発者認証です」と、同氏は筆者に語った。「今回発表したものはその最初の段階で、開発者に量子回路の扱い方を案内するものです。Qiskitを使ってどのように量子回路を構築し、それをどのように量子コンピュータ上で実行するのか。そして、量子コンピュータ上で実行した後、その結果をどのように見て、どのように解釈するのか。それが、私たちが開発している今後の一連の認証の段階となり、これらの認証は、最適化、化学、金融などの分野で検討されているユースケースに与えられます。その人が量子回路を扱えると示すことができれば、これらの仕事をすべて開発者のワークフローに統合することが可能になります」。

4つの量子ビットと4つの古典ビットで構成される量子回路を作成する文はどれか?(画像クレジット:IBM)

量子回路を構築するためのスキルや直感を身につけるには時間がかかることもあり、IBMはかなり前から開発者に向けた量子コンピューティングについての教育に力を入れてきたと、アスファー氏は強調した。また、オープンソースのQiskit SDKには、開発者が回路レベル(古典的なコンピューティングの世界でC言語やアセンブリで記述するのに近い)とアプリケーションレベル(こちらでは多くのことが抽象化されている)の両方において作業するために必要な多くのツールが統合されていることも、アスファー氏は言及した。

「これは、現在クラウドやPythonで開発している人が、これらのツールを実行することで、容易に量子コンピューティングをワークフローに組み込めるようにするためのものです」と、アスファー氏はいう。「正直なところ、最も難しいのは、量子コンピューティングが今日、現実のものであり、量子コンピュータを使って仕事ができるという安心感を与えることだと思います。それはJupyter Notebook(ジュピターノートブック)を開いてPythonでコードを書くのと同じくらい簡単なことなのです」。

アスファー氏は、IBMがすでに量子コンピューティングに興味を持つ(パートナー企業の)開発者のスキルアップを支援していることに言及した。だが、これまでは非常に場当たり的なプロセスに過ぎなかった。今回、新たに導入される認定プログラムによって、開発者は自分のスキルを正式に証明することができ、自分のワークフローの中で量子コンピューティングを活用できる立場にあると示すことが可能になる。

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カテゴリー:ソフトウェア
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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米国初の新型コロナワクチン接種デジタル証明をニューヨーク州が運用開始、IBMがブロックチェーン活用で協力

米国初の新型コロナワクチン接種デジタルパスをニューヨーク州が運用開始、IBMがブロックチェーン活用で協力

New York State

米ニューヨーク州は3月26日(現地時間)、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種あるいは、陰性であることを証明するデジタルパスポート「Excelsior Pass」の運用を開始しました。Android、iOSアプリで提供されており、読み取り側も同じくスマートフォンで対応します。同種のデジタル証明書の運用は、米国では初だとしています。

新型コロナのワクチン接種が開始されている国々では、ワクチンを接種したことや陰性であることを証明することで、徐々に経済活動を再開する動きが始まっており、そのための証明アプリの開発も盛んです。ただ、怪しげなアプリを規制する意味でも、Appleは、証明アプリについては信頼できる機関からのみ申請を受け付けています。

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その点、Excelsior Passはニューヨーク州の公式ということで、信頼性が高いもの。開発にはIBMが協力しています。医療情報を含む個人情報はブロックチェーンや暗号化により保護されており、開発元のIBMはもちろん、それを読み取って利用する企業側でも把握できないとしています。また、利用時には、QRコードとともに名前と生年月日の分かる写真付きの身分証明書の提示が必要とのことです。なお、QRコードをスマートフォンで表示するのではなく、紙に印刷したQRコードを提示することでも利用出来ます。

ニューヨーク州ではExcelsior Passを利用することで、スタジアムやアリーナ、結婚披露宴などのイベントへの参加が可能になるとのこと。マディソンスクエアガーデンやダイムズユニオンセンターなどの主要な施設では今後数週間でExcelsior Passに対応するとしています。

ただし、Excelsior Passの利用は強制ではなく、個人あるいは企業側も任意です。利用しない場合には、従来通りに紙の証明書を利用できるとのことですが、今後、事実上必須になっていく可能性はありそうです。

(Source:New York State、Via:USA TodayEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:IBM(企業)IBM Digital Health Pass(用語)新型コロナウイルス(用語)ブロックチェーン(用語)ワクチン(用語)ニューヨーク(国・地域)

日本IBMが量子コンピューター「IBM Q」を神奈川県・かわさき新産業創造センターに設置、2021年中に稼働

日本IBMが量子コンピューター「IBM Q」を神奈川県・かわさき新産業創造センターに設置、2021年中に稼働

日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は3月23日、東京大学とIBMによる「Japan IBM Quantum Partnership」で表明していた「IBM Quantum System One」の国内設置拠点について、「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター」(KBIC)に決定したと発表した。稼働開始は本年中を予定。

ここに設置される量子コンピューターについては、東京大学とIBMの契約に基づき東京大学が占有権を有する。東京大学はこのシステムを活用し、企業、公的団体や大学等研究機関と量子コンピューターの利活用に関する協力を進める。

かわさき新産業創造センターは、「新川崎・創造のもり」地区に位置する産学交流によるインキュベーション施設。2012年よりIBM東京基礎研究所のサイエンス&テクノロジー・グループが東京大学と共同で社会連携講座を開設しており、次世代ITに関するハードウェア研究を続ける研究拠点でもある。

量子コンピューターの常時安定稼働には電気・冷却水・ガスなどのインフラの安定供給や耐振動環境が必要で、KBICは川崎市の全面的な支援により安定稼働に最適な環境を実現しているという。量子コンピューターを安定稼働させることで、同研究所が現在東京大学と進めている研究活動が加速することが期待されるとしている。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:IBM(企業)Q System東京大学(用語)量子コンピュータ(用語)日本(国・地域)

クラウドインフラ市場は2020年に13.6兆円に成長、リッチな企業はますますリッチに

2020年のクラウドインフラ市場は社会を反映した。世界で最もリッチな企業はますますリッチになり、マーケット最下層の企業はますます落ち込んだ。Synergy Research Groupのデータによると、クラウドインフラ市場は2019年の970億ドル(約10兆2400億円)から2020年は1290億ドル(約13兆6100億円)に成長した。

Synergyはまた、クラウドインフラ市場が第4四半期に370億ドル(約3兆9000円)に達し、第3四半期の330億ドル(約3兆4800億円)からアップし、前年同期比でも35%増だったと指摘した。

過去9カ月、筆者はあらゆる創業者たちからパンデミックがデジタルトランスフォーメーションを加速させており、その大部分はクラウドへのシフト促進だと耳にした。こうした数字は創業者たちの言葉を裏づけているようだ。

いつものように、ビッグ3はAmazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Google(グーグル)だ。Alibaba(アリババ)が第4位に定着し、IBMは5位に後退した。しかしMicrosoftはライバルのAmazonよりも急成長していて、2020年末に初めてマーケットシェアが20%に達した。レドモンド拠点のソフトウェア大企業Microsoftのマーケットシェアは2017年から倍になったことを心に留めておいてほしい。これは驚くべき成長スピードだ。一方でGoogleとAlibabaのシェアはそれぞれ9%と6%だった。

画像クレジット:Synergy Research

Amazonはその点で興味深く、Synergyのデータでは4年連続でマーケットシェア33%前後で横ばいを維持しているが、急速に成長しているマーケットにおける3分の1であり、これはこの部門の拡大にともなって同社もパブリッククラウドの売上高を成長させ続けていることを意味する。

AmazonはAWSの第4四半期売上高127億4000万ドル(約1兆3400億円)で2020年を締めくくった。これは前期の116億ドル(約1兆2200億円)から増え、ランレートは初めて500億ドル(約5兆2700億円)を超えた。一方でMicrosoftの数字は決算から解析するのはいつも難しく、370億ドル(約3兆9000億円)の20%を計算すると74億ドル(約7800億円)で、これは前期の59億ドル(約6200億円)から増えている。

Googleは第3四半期の29億8000万ドル(約3200億円)から第4四半期は33億ドル(約3500億円)に増え、Alibabaは同時期16億5000万ドル(約1700億円)から22億2000万ドル(約2300億円)に増えた。

SynergyのプリンシパルアナリストJohn Dinsdale(ジョン・ディンスデール)氏は、トップ企業は巨大で絶対的なマーケットシェア、それからクラウドプロバイダー間の大きなギャップで自社の周りをしっかりと固めていると話す。「AWSは過去10年大きなサクセスストーリーで、広範囲のIT部門企業との競争激化にかかわらずマーケットでかなり強固な地位をキープしています。これはAmazonとAWSの経営チームにとって、新体制になっても状況は変わらないと思わせるすばらしい証拠です」と同氏は筆者に語った。

ディンスデール氏は、Microsoftが相手としてAWSは相応しいライバルだが、いつかの時点で同社は成長の壁にぶつかる運命にあるとみている。「MicrosoftがAmazonとの差を縮め続けるのはもちろん可能ですが、MicrosoftのAzureが大きくなるにつれ、かなり高い成長率を維持するのは難しくなります。これは大数の法則です」。

一方、クラウドインフラ業界の下位のマーケットシェアは減少し続けている。「マーケットシェアで敗れた企業は小規模クラウドプロバイダーの集まりで、過去16四半期で13ポイントのマーケットシェアを失いました」とSynergyは声明で述べている。

しかし、こうしたプレイヤーにとってすべて負けではないとディンスデール氏は話す。「比較的小規模のプレイヤー(あるいは小さなマーケットシェアを持つ大企業)はニッチな特定マーケット(地理、サービスタイプ、顧客の部門に基づくもの)にフォーカスしたり、あるいは幅広い顧客に広範なクラウドサービスを提供しようと試みることができます。前者の企業は極めてうまく振る舞うことができ、後者の場合はかなり厳しいでしょう」と述べた。

Canalysの数字は少し異なり、クラウドインフラ市場が1420億ドル(約14兆9800億円)で、第4四半期は400億ドル(約4兆2200億円)としたが、各社のマーケットシェアはSynergyのものと同じだったことは記すに値する。

画像クレジット:Canalys

パブリッククラウドの売上高はある時点で意味を失うほどに大きくなったが、それでも世界中のIT支出に占める割合としては比較的小さいままだ。Gartnerの推計によると、世界の2020年のIT支出は3兆6000億ドル(約379兆8300億円)だった。つまり、そこでクラウドインフラマーケットが占める割合は3.85%にすぎないことを意味する。

次のことを少し考えてほしい。IT支出の4%以下が現在、クラウドインフラに向けられ、かなりの成長余地を残していて、数年のうちに何十億ドル(約何千億円)も成長する。

もちろん他のプレイヤーが参入してトップ企業を慌てさせればもっと興味深いものになるが、我々がコンピューティングについて想定している道中に予期せぬ何かやドラマティックなことが起こらない限り、差し当たってこのままトップ企業は猛烈な勢いで我が道を突き進んでいくだろう。

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タグ:クラウドコンピューティングAmazonAWSMicrosoftMicrosoft AzureGoogleGoogle CloudAlibabaAlibaba CloudIBM

画像クレジット:ViewStock / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

IBMはレガシーを捨てクラウドとAIに集中するも結果を出せず売上減

2020年11月に行われたCNBCのTransformカンファレンスで、IBMのCEOであるArvind Krishna(アルビンド・クリシュナ)氏は変革のまっただ中にある同社の現状を説明した。そのとき彼は、IBMが2018年に340億ドル(約3兆5200億円)で買収したRed Hatを利用して、顧客が成長するハイブリッドクラウドの世界を管理しながら、人工知能を使って効率性を高めたいと考えていると述べた。

それは健全そのもののアプローチに聞こえるが、しかし実際には、その新しい戦略は大きな成長エンジンとして機能せず、同社の決算報告は、クラウドとコグニティブソフトウェアの売上が4.5%減の68億ドル(約7000億円)を示した。一方、AIの収入を示すコグニティブアプリケーションは、横ばいだった。

クリシュナ氏が一筋の光明を求めていたのなら、Red Hatの好成績が慰めになっただろう。Red Hat単独では、売上が前年比で18%増加した。しかし全体としてのIBMの売上は4期連続で下降し、CEOは22期連続売上減を記録した前任者Ginni Rometty(ジニー・ロメッティ)氏と同じ立場になった。

クリシュナ氏は自身の戦略を2020年11月にCNBCに語り、「Red Hatの買収は、オープンソースをベースとしたハイブリッドクラウド技術プラットフォームを構築するための技術基盤を私たちに与えてくれた。また、旅路に出るときクライアントに選択肢を与えることをベースにしている」と語った。これまでのところ、クリシュナ氏が期待していたような成長を生み出すには至っていない。

クリシュナ氏が同じ11月のインタビューで述べたように、同社は従来のマネージドインフラサービス部門をスピンアウトしている最中にある。「この買収の成功が燃料となり、マネージドインフラストラクチャサービスを廃止するという次のステップ、より大きなステップに進むことができます。そのため、私たちIBMの他部門は、ハイブリッドクラウドと人工知能に完全に集中することができる」と、クリシュナ氏は語っている。

彼のトランスフォーメーション戦略が失敗したというには時期尚早だが、その結果はまだ出ておらず、同社売上の下落は、ロメッティ氏と同じくクリシュナ氏にとっても苛立たしいものであるに違いない。レガシーなテクノロジーを捨て、よりモダンなテクノロジーへと会社を導くのであれば、いつかは結果が見え始めるはずだが、いまのところどちらのリーダーにもその時期は訪れていない。

2020年末にもクリシュナ氏は、彼のビジョン構築の手を緩めることなくクラウドアプリケーションのパフォーマンスをモニターするInstanaや、ハイブリッドクラウドのコンサルタント企業Nordcloudを買収した。ハイブリッドクラウドサービスのポートフォリオを拡大して、IBMをそれらのサービスのワンストップショップにするためだ。

引退したNFLのコーチであるBill Parcells(ビル・パーセルズ)氏は、彼の弱いチームに対してよく「君たちは、君たちの記録がいうとおりのチームなんだ」といった。現在のところ、IBMの記録は一貫して悪い方向へと向かっている。Red Hatに引っ張られてやや成果を出してはいるが、それは損失を償うには十分でない。何かを変える必要があるのだ。

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タグ:IBM

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

IBMがマルチクラウドのコンサルティング充実のためNordcloudを買収

IBMは10月に、同社のレガシーであるインフラ管理ビジネスをスピンアウトする計画を発表し、ハイブリッドクラウドに総賭けすることになってから、すごく忙しくなった。今日(米国時間12/21)はその忙しさに輪をかけて、ヘルシンキのマルチクラウドコンサルティング企業Nordcloudを買収した。買収の価額は公表されていない。

IBMはすでに500社の公認コンサルタントをAWSとAzureとGoogle Cloud Platformに揃えており、Nordcloudもその一環だ。これによって同社は顧客をこれまでのIBM中心のソリューションから、各社に合ったクラウド戦略へ移行させていく。Nordcloudもそのための、教育訓練の行き届いたエキスパートスタッフの一員になる。

このようなハイブリッド方式は、2019年に同社が340億ドルを投じたRed Hatの買収にさかのぼる。それがまさに、このアプローチへの進路を決定した。先月のインタビューでCEOのArvind Krishna氏は、CNBCのJon Fortt氏にそう語っている。Krishna氏は今、彼の会社の全面的な変身努力の渦中にいて、今回のような買収がそのプロセスをスピードアップする、と考えている:

Red Hatの買収は私たちに、その上にオープンソースをベースとするハイブリッドクラウド技術を構築するための技術基盤を与えた。しかもそれは、顧客がこの船出に乗り出すときにさまざまな選択ができることが、ベースになる。その買収の成功が今の私たちに火をつけ、次の大きなステップに進むことができるようになり、マネージドインフラストラクチャサービスを外すことができる。そして会社に今後残るものは、ハイブリッドクラウドと人工知能への完全なフォーカスだけだ。

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IBM Global Business ServicesのCOOでクラウドアプリケーションイノベーション担当上級副社長、John Granger氏によると、IBMの顧客は最近ますます、複数のベンダーとオンプレミスの全域にまたがるリソースの管理でヘルプを求めている。

Granger氏は、声明でこう述べている: 「Nordcloudの買収で、私たちのクライアントのデジタルトランスフォーメーションを駆動し、IBMのハイブリッドクラウドプラットホームのさらに幅広い採用をサポートする、深い専門家技能を得られる。Nordcloudのクラウドネイティブツールと方法論の体系と人材が強い信号を送出し、IBMはそれを、クライアントのクラウドへの旅路の成功のためにお届けする」。

買収は当局の承認を得て、来年の四半期に完了する予定だが、NordcloudはIBM傘下の企業になり、IBMのハイブリッドクラウド戦略の継続を支援する。

なお、この買収の前には、いくつかの小さな契約が実現している。たとえば先週はExpertusを買収、そして先月はTruquaInstanaを買収している。これら三社は、デジタル決済とSAPコンサルティング、およびハイブリッドクラウドのアプリケーションのパフォーマンスモニタリングを、それぞれ提供する。

Nordcloudはヘルシンキに本社があり、アムステルダムにもオフィスがある。 PitchBookのデータによると、同社は2011年創業で、これまで2600万ドルあまりを調達している。

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[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

最優秀者は東大・長吉博成氏、日本IBMが量子コンピューターの競技プログラミングコンテストの結果発表

最優秀者は東大・長吉博成氏、日本IBMが量子コンピューターの競技プログラミングコンテスト結果を発表
日本IBMは、11月9日から11月30日までの3週間にわたり開催した、量子コンピューターの競技型プログラミング・コンテスト「IBM Quantum Challenge」(The Quantum Challenge Fall 2020)の結果を発表した。東京大学工学部物理工学科の長吉博成氏が、全問クリアに加えて、最後の問題を解く際に最も低い量子コストを達成し最優秀者となった。

最優秀者は東大・長吉博成氏、日本IBMが量子コンピューターの競技プログラミングコンテスト結果を発表

同コンテストは、参加枠2000名限定に対し、85ヵ国から3320人以上の応募があったという。最も申し込みが多かった国はインドで、日本は2番目だった。また男性は75%で、女性は25%という比率だった。

最優秀者は東大・長吉博成氏、日本IBMが量子コンピューターの競技プログラミングコンテスト結果を発表
コンテスト参加者は、毎週難易度が上がる形で新しい課題を与えられ、2000名の参加者のうち、第1週目の演習課題をすべて解けた者は1091名、第2週目が576名だった。最後の最も難しい本戦課題を含め、すべての演習課題を正解できた者は227名だった。

優勝者の長吉氏は、問題の制約条件のユニークな特徴を利用した戦略を適用することで、最も少ない量子コストで解を得ることに成功した。

最終週の本戦問題については、問題作成者のIBM Quantumの松尾篤史氏が執筆した解答例長吉氏の解法と解説のどちらも、Github上で公開されている。さらに、トップチームの解法解説も掲載されており、アプローチや駆使したテクニックを学べる

最優秀者は東大・長吉博成氏、日本IBMが量子コンピューターの競技プログラミングコンテスト結果を発表

コンテストの内容は、qRAM(量子ランダムアクセスメモリー)を使って近未来の量子データ構造を実装し、データベース探索を行うGrover(グローバー)のアルゴリズムを使って量子ゲームソルバーを設計する方法を学ぶというもの。qRAMとGroverのアルゴリズムの組み合わせは、将来の量子システムを使った量子機械学習や複雑な意思決定問題の分野で、実生活の問題を解決するために数多くの応用が見込まれている。

参加者のスコアは、「コスト=S+10C」という式に基づいて、回路の実装コストを測定することで決定。

(Sは1量子ビットゲートの数、CはCNOT(CX)ゲートの数で)任意の量子回路は、1量子ビットゲートと2量子ビットゲートに分解できる。現在の誤り(エラー)耐性のないNISQ(ニスク。Noisy Intermediate-Scale Quantum)デバイスでは、CNOTのエラーレートは、一般的に1量子ビットゲートのものと比較して10倍となる。そのため、回路の実装コストを評価するために、CNOTゲートを1量子ビットゲートの10倍に設定。今回のチャレンジでは少ないゲートコストで正解にたどり着くことがゴールとなっている。

日本IBMによると、今回のコンテストの大きな成果は、量子コンピューティングと、量子コンピューター向けPython用フレームワーク「Qiskit」に関する知識とスキルレベルの向上といった学習体験にあるという。参加者の事前と事後アンケートの結果を比較したところ、より高いレベルの経験とスキルを身につけた様子がうかがえるとした。

量子コンピューティング

量子コンピューティングに関する知識の変化

Qiskitに関する知識とスキルレベルの変化

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タグ:IBM(企業)IBM Quantum Challenge東京大学(用語)プログラミング(用語)量子コンピュータ(用語)

IBMはインフラサービスを独立させハイブリッドクラウドに専念、EUで1万人をレイオフ

IBMが大幅な戦略変更を行っているいま、米国時間11月25日にBloombergは、同社がヨーロッパでおよそ1万人におよぶ人員削減をすると報じた。IBMは先月、2020年に同社インフラストラクチャサービス事業を独立させると発表したばかりだ。IBMはこのレイオフを認めないが、広報担当者の口調では、今後全面的にハイブリッドクラウド方式に集中することにより、大規模な構造改革が行われるようだ。

「弊社の人事は、顧客がオープンなハイブリッドクラウドプラットフォームとAIを採用しようとする際、それに対して最善のサポートを提供できることを念頭に決められる。弊社はまた、IBM社員が顧客のニーズに対して最善の対応できるよう教育訓練とスキル開発にも大きな投資を継続する」と広報担当者は記事へのコメントを求めた際に話した。

残念ながらこの言葉が意味するのは、いま必要とされているスキルを持たない者は新バージョンのIBMに合わない、ということだ。CEOのArvind Krishna(アルビンド・クリシュナ)氏は、2020年11月初めのCNBC Evolve SummitでJon Fortt(ジョン・フォート)氏のインタビューに応じて、環境の変化に言及している(未訳記事)。

「Red Hatの買収によって得られた技術基盤は、その上に、オープンソースをベースにしたハイブリッドクラウドの技術的プラットフォームを構築するものであり、そしてそれはまた、クライアントがこの旅路に出るときに選択を与えることがベースとなっている。買収の成功は、弊社の活力源であり、マネージドインフラストラクチャサービスを切り離すという次のさらに大きなステップに乗り出すことができる。残りの全社が、ハイブリッドクラウドと人工知能に全力で集中していく」。

Constellation ResearchのアナリストであるHolger Mueller(ホルガー・ミューラー)氏によると、IBMのレイオフの話はいつも同じだ。新しいモデルに乗り換える。そしてその新しいビジョンに合わない職位を排除する。今回の記事もまったく同じだ。

「IBMはいま、同社の歴史の中で最も大きな変化を経験している。それは、サービスからソフトウェアへ、そしてIBM Quantumによる専用ハードウェアへの移行だ。それは社内に従来とはまったく異なるスキルミックスを必要とし、その反動がレイオフとして現れる。IBMは最近の5年ほど一貫して、それを秘かにやってきた」とミューラー氏はいう。

実際にその渦中にある人たちは大変だ。仕事を失っても良いタイミングなんかなかったにせよ、「いま」は最悪のタイミングだ。新型コロナウイルスがもたらした不況の最中に、ウイルスの第2波がヨーロッパを襲っている。特別に困難な時期だ。

過去5年間、本誌はIBMのレイオフを何度も報じてきた。5月にはレイオフが確認されたが、数は不明だった。2015年には、1万2000名のレイオフを本誌は報じた。

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タグ:IBMレイオフ

画像クレジット:James Leynse / Getty Images

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

AlibabaがIBMをクラウドインフラストラクチャ市場で追い抜き、売上2000億円超へ

Alibaba(アリババ)が2015年に本格的にクラウドインフラストラクチャ市場に参入したとき、同社には野心的な目標(未訳記事)があった。以来、着実な成長を重ねている。米国時間11月5日、中国のeコマース大手Alibabaは、前四半期ののクラウド売上が21億9400万ドル(約2270億円)だったと発表した。この数字とともに、同社はIBMの売上である16億5000万ドル(約1700億円)を抜き去った(数字はSynergy Researchの市場シェア報告によるもの)。これは重要なマイルストーンだ。

とはいえ20億ドル(約2070億円)超は大きな数字ではあるものの、その数字は公平な文脈の中でとらえる必要がある。例えばAmazon(アマゾン)は直近の四半期におけるクラウドインフラストラクチャの売上を116 億ドル(約1兆1990億円)と発表し(未訳記事)、 Microsoft(マイクロソフト)のAzure(アジュール) の売上は59億ドル(約6100億円)で第2位につけている。

またGoogle Cloud (未訳記事)は、クラウドインフラストラクチャ市場をみる限り、第3位の地位にいる。Syergy(シナジー)による最新の数字では、Google(グーグル)の市場シェアは9%、売上としては約29億ドル(約3000億円)を達成している。

Alibabaの数字はまだグーグルの後塵を拝しているが、それでも今回の数字はIBMを十分に上回り、しっかりと4位の地位を確保している。とはいえAlibabaが、CEOのThomas Kurian(トーマス・クーリアン)の下でより一層集中を始めたグーグルをすぐに追い抜けるかどうかは未知数だ。それでもエンタープライズ市場にとって新参者である同社が、長年にわたってエンタープライズの世界で生きてきたIBMを追い抜くことができたことは驚異的だ。

60%の成長は、前四半期の59%に比べるとわずかに増加しただけだが、要するに同社が安定した成長を続けていることを意味している。このことはある水準の売上レベルに到達してしまった企業にとっては容易なことではない。米国時間11月5日に行われた業績報告会でAlibaba Groupの会長でCEOであるDaniel Zhang(ダニエル・チャン)氏は、まだ同社の主要な市場である中国での、パンデミックによって推進されているデジタルトランスフォーメーションが、安定した成長の主要因であると述べた。

「クラウドは急速に成長しているビジネスです。売上の内訳を見ると、明らかに、クラウドは驚くべき速度で成長しています。そして、私たちが目にしているのは、すべての業界がデジタルトランスフォーメーションの最中にあるということです。そうした業界にとって、クラウドへの移行は、非常に重要なステップなのです」と、チャン氏は報告会で語った。

彼は、最終的にほとんどのビジネスはクラウドで行われ、多くの企業はまだトランスフォーメーションを済ませておらず、それを進める企業がまだ続くため、同社の成長は中期的に継続できると信じている。

Synergy Research(シナジー・リサーチ)のアナリストであるJohn Dinsdale(ジョン・ディンスデール)氏は、Alibabaの主要市場はまだ中国のままだが、同社は中国外でもその存在感を示しているという。そして米国と中国間の貿易緊張をともなう、現在の地政学的状況の観点から、長い勝負を続ける余裕があるとも述べている。

「Alibabaはすでに、中国と香港以外でもある程度の実績を残しています。中国内での事業に比べると規模は小さいのですが、Alibabaはアジア太平洋地域の6カ国、米国、英国、アラブ首長国連邦を含むさまざまな国にデータセンターやクラウドのプレゼンスを確立しているのです。中でもインドネシアとマレーシアではマーケットリーダーです」とディンスデール氏はTechCrunch氏に語った。

数週間前にリリースされた最新のデータでは、Synergyは市場の内訳を「近くのパーセントへ丸めた値は、Amazon 33%、Microsoft 18%、Google 9%、Alibaba 5%、IBM 5%、Salesforce 3%、Tencent 2%、Oracle 2%、NTT 1%、SAP 1%である」と報告している。

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(翻訳:sako)

IBMが量子コンピューターの競技型オンライン・プログラミング・コンテスト開催、慶応大とコラボ

IBMが量子コンピューターのオンライン・プログラミング・コンテスト開催、慶応大がコラボ

IBMは11月2日、慶應義塾大学量子コンピューティングセンターとのコラボレーションのもと、量子コンピューターの競技型オンライン・プログラミング・コンテスト「IBM Quantum Challenge」を開催すると発表した。期間は日本時間11月9日9時から3週間(11月30日午前8時59分59秒まで)。高校生以上なら誰でも応募可能だが、参加枠2000名限定となっているため早めの登録を呼びかけている。また事前にIBMアカウント(IBM id)へのアカウント登録(無料)が必要。

なお、参加登録を完了した人すべてに参加権が与えられるわけではなく、参加確定者には、本番開始前までに確定通知とともに本番サイトから参加方法を案内する。

  • IBM Quantum Challenge
  • 開始: 11月8日19時00分(米国東部標準時)、11月9日9時00分(日本時間)
  • 終了: 11月29日午後6時59分59秒(米国東部標準時)、11月30日午前8時59分59秒(日本時間)
  • 参加枠: 2000名限定
  • 応募方法: 「Hello, quantum world」または「IBM Quantum Experience」より応募。IBMアカウント(IBM id)へのアカウント登録(無料)が必要
  • 参加確定者には、本番開始前までに確定通知とともに本番サイトから参加方法を案内

IBM Quantum Challengeは、初心者から経験者までコンテスト形式チャレンジに参加することで、量子コンピューティングに関する基礎から応用まで学べるというもの。

今回のチャレンジは第3回にあたり、参加者には量子コンピューティングの可能性をさらに押し広げ、次の重要なハードウェアのマイルストーンを達成するために新たな課題に挑戦してもらうという。より大規模な量子システムを考えるときに不可欠な要素となる量子データ構造について学び、探求することになる。

2019年9月実施の「IBM Quantum Challenge 2019」では、世界中から初心者と経験者を問わず参加(量子アルゴリズム開発のスタートアップ「QunaSys」チームが準優勝)。2020年5月の第2回チャレンジでは、45ヵ国から1745人が参加し、1日で、18台のIBM Quantumシステム上で10億回路以上の実行に成功した。

IBM Quantum Challenge

IBM Quantum Challengeでは、オープンソースの量子コンピューター向けPython用フレームワーク「Qiskit」を用いて、毎週新しい演習問題に取り組むことで、量子コンピューティングの知識とスキルを向上させることができる。

Qiskitについては、「Qiskit 0.23.0 documentation」の日本語版が公開されている。

  • 1週目: 最初の週の演習セットは、初心者に向け量子計算の基礎を学べるよう設計。また、有名な量子アルゴリズムであるグローバーのアルゴリズムを学習し、その特性を探る。経験者にとっても、第1週目は第2週に備えるための良いウォーミングアップとなる
  • 2週目: 近未来の量子システムを想定した量子データ構造の実装を学習し、グローバーのアルゴリズムを使って解く量子ゲームソルバーを設計する方法を学ぶ。この演習は、第1週で学んだ知識を活かしながら、第3週(最終週)の準備にもつながる
  • 3週目: 参加者はより複雑なデータ構造を扱うことを求められ、前の週に学習したグローバーのアルゴリズムを使って問題を解くことが求められる。経験豊富な量子プログラマーにとっても、難しく感じるはず

なお、前回および今回のチャレンジは、慶應義塾大学量子コンピューティングセンターとのコラボレーションのもと、開催。出題問題の作成を中心とする、佐藤隆貴彦氏と西尾真氏の貢献も挙げられている。

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暗号資産・ブロックチェーン業界の最新1週間(2020.10.18~10.24)

暗号資産・ブロックチェーン業界の最新1週間(2020.10.18~10.24)

暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術に関連する国内外のニュースから、重要かつこれはという話題をピックアップし、最新情報としてまとめて1週間分を共有していく。今回は2020年10月18日~10月24日の情報をまとめた。

IBMと米R3、LinuxサーバーIBM LinuxONEにブロックチェーンプラットフォーム「Corda Enterprise」を導入

IBMとビジネス向けブロックチェーンソリューションを提供する米R3は10月22日、ハイブリッドクラウドにおけるブロックチェーン機能とサービスの拡張に関する、新たなコラボレーションの実施を発表した

コラボの一環として米R3は、エンタープライズブロックチェーンプラットフォーム 「Corda Enterprise」をLinuxサーバーIBM LinuxONEに導入。IBM Cloud Hyper Protect Servicesを介し、IBM Cloudとオンプレミスで利用可能なオープンβ「R3 on IBM LinuxONE βプログラム」を11月2日より公開する。一般提供(GA)は、2021年第1四半期を予定している。

プライベート型ブロックチェーンCorda

米R3が開発するCordaは、オープンソースのプライベート型ブロックチェーンプラットフォーム。Corda Enterpriseは、Cordaの備えるスケーラビリティ、相互運用性、取引における秘匿性と同じ仕組みを擁し、かつ専門的なサポートを組み合わせた商用バージョンとなる。

IBMと米R3、LinuxサーバーIBM LinuxONEにブロックチェーンプラットフォーム「Corda Enterprise」を導入

Cordaの特徴は、取引において、ネットワーク内の第三者に対する秘匿性の高さにある。元々は金融取引に特化し、商用利用可能なプラットフォーム構築を目指したコンソーシアムチェーンだが、現在は金融業界に限らず幅広い分野での利用を想定。世界で300社を超える金融機関、規制当局、中央銀行、業界団体、システム・インテグレーターやソフトウェアベンダーにより構成されるR3エコシステムにより、設計・開発を行っている。

前述の通りCordaは、エンドユーザーである金融機関が主導し開発を始めたことから、金融分野のニーズに応えるものとなっている。たとえば、秘匿性においては他のブロックチェーンのように取引を全ノードで共有することはなく、必要なノード間でのみ共有する。取引内容を他社に知られることがない。

また、Corda上で動くアプリケーション(CorDapps)では、異なるブロックチェーン間でのデータのやり取りを実現。スケーラビリティに関しては、トランザクションが発生するごとにファイナリティ(finality)を与える設計により、ブロック生成を待つことなくトランザクションごとの並行処理が可能。

CorDappsは、Androidアプリ開発ですでにおなじみのKotlin(コトリン)、またはJavaでの開発が可能なため、開発者の調達が容易となっている。

ハイブリッドクラウドにおけるサービス

今回のコラボによりIBM LinuxONEとIBM Cloud Hyper Protectサービスは、米国連邦標準規格FIPS 140-2レベル4認証(暗号モジュールに関するセキュリティ仕様を規定)に準拠するワークロード分離暗号化機能「Keep Your Own Key」(KYOK。自分の鍵の保持)、特権ユーザーによる改ざん防止、使用の有無にかかわらず全データの暗号化など、堅牢な機密コンピューティング機能を、顧客に対し選択肢のひとつとして提供する。同サービスにて、業界で最も安全でオープンなビジネス向けパブリッククラウドを目指す。

IBMと米R3、LinuxサーバーIBM LinuxONEにブロックチェーンプラットフォーム「Corda Enterprise」を導入

IBM ZのGMであるRoss Mauri氏は、「ハイブリッドクラウド時代にクライアントに選択肢をもたらすIBMの取り組みにより、ブロックチェーンプロバイダーのオープンエコシステムをサポートします。米R3のIBM LinuxONEへの導入は、ハイブリッドクラウド全体にわたって最も機密性の高いデータ保護をできるようにした、高度に安全な機密コンピューティング機能を活用した画期的な一例です」と、今回のコラボについて述べた。

「この発表は、ブロックチェーンや暗号資産の管理など新興分野におけるLinuxONEとIBM Cloud Hyper Protect Servicesの新しいワークロードを導入するためのエキサイティングな取り組みです。次のステップでは、スタートアップ企業から大手グローバル企業まで、あらゆる規模のクライアントとこの勢いを継続していくことを楽しみにしています」と語っている。

またR3のソリューション導入を検討するIBMの顧客向けに、Corda認定ソリューション・アーキテクトによる戦略・設計コンサルティング、ネットワークとソリューションを迅速に展開できるデリバリー・プール、その他支援センターを準備するという。

この取り組みの一環としてIBMは、IBM LinuxONEのオープン性とセキュリティに裏付けされたハイブリッド・エコシステムのもと、バイヤーとサプライヤーという両者の役割で、業界のエコシステム全体でクライアントと協力し、ネットワークをハイブリッドに進化させることを目標としている。

IBM Servicesは、R3のCorda Enterpriseプラットフォーム向けにIBM LinuxONEのインフラをサポートするとともに、IBMの既存ブロックチェーンサービスやその他サービスをもって、市場にさらなる選択肢を提供していく。

IBM Blockchain Servicesは、組織に価値ある新しいチャネル、戦略的パートナーシップ、成長を加速させるためのリソースにアクセスするためのさまざまな機会を提供していくという。

日本においてR3は、日本や東アジアにおけるCordaの商用導入を促進するために、SBIホールディングスと合併会社SBI R3 Japanを設立。商用化に向けた実証実験やビジネスへの導入の推進、Cordaのトレーニングプログラムなどを提供している。

ブロックチェーンロック、スマートロックによるシェアリング機能搭載の個室ブース「KEYVOX Solo」を販売開始

ブロックチェーン活用のスマートロックシステム「KEYVOX」を提供するブロックチェーンロックは10月21日、アフターコロナの新たなオフィス形態をうたう個室ブース「KEYVOX Solo」を発表した。スマートロックによるシェアリング機能を標準搭載した個室ブースとなっている。

同社は、プライベート型ブロックチェーン(Ethereumベース)を基盤とするアクセス権管理プラットフォーム「KEYVOX」とIoTを組み合わせた、スマートロック製品を展開。新たに個室ブースKEYVOX SoloをKEYVOXサービスのラインナップに加えた。

KEYVOX Soloは、同社スマートロック「BCL-XP1」を個室ブースの鍵として採用。スマホ向けKEYVOXアプリを使い、鍵の管理・予約・決済・チェックインが可能なシェアリング機能を標準搭載している。ブースは、高遮音によりウェブ会議も行える。

ブロックチェーンロック、スマートロックによるシェアリング機能搭載の個室ブース「KEYVOX Solo」を販売開始
KEYVOX Soloは、自社用の個室ブースとして利用時間をスケジュール管理できるほか、事業者向け機能として、時間貸し・一日定額・月間定額などサブスクリプションの設定を用意。オフィスやホテルなどオープンスペースに設置するだけで、すぐにレンタルビジネスが始められる。スマートロックのため、鍵の受け渡し・チェックインなどがアプリのみで対応できるため、ほぼ無人での運用も可能となる。

個室ブースへの入室方法としては、管理者の承認後KEYVOXアプリを使用しスマートロックを解錠するほかに、管理者発行の専用NFCカード(別売)による解錠、PIN番号のテンキー入力による解錠にも対応している。ブース電源は100V電源で稼働し、出力として100Vコンセント4口、USBポート2口を装備、天井に換気扇を2基搭載する。

ブロックチェーンロック、スマートロックによるシェアリング機能搭載の個室ブース「KEYVOX Solo」を販売開始

KEYVOX Solo導入時の料金体系は、コロナ関連補助金や助成金を使った低コスト導入可能な買取プラン(各自治体により助成内容が異なる)、自社利用しながら空き時間をレンタルするプラン、公共の場での貸し出し用途かつKEYVOXの予約アプリKEYVOX Goへの掲載を条件に収益化物件にするレベニューシェアープランの3タイプがある。

スマートロックシステムKEYVOXは、利用者がウォレットに有するトークンでスマートロックを開錠可能。スマートコントラクトにより、利用期間が過ぎれば自動的に鍵が失効するといった仕組みなどを備えている。

同社は、宿泊施設をはじめとする空間管理業務の効率化を推進すべくKEYVOXサービスの機能を強化。これまで宿泊施設のスマートロック化や、コワーキングスペース運用の無人化、ロッカープラットフォーム「KEYVOX locker」などを展開してきた。今後もKEYVOXサービスの機能強化および関連サービスとの連携強化を進めるという。

シミックとサスメド、デジタルセラピューティクス開発支援における業務提携に合意

医薬品開発支援(CRO)事業を展開するシミックと、疾患治療用スマホアプリの研究開発を行うサスメドは10月21日、デジタルセラピューティクス(DTx。Digital Therapeutics/デジタル治療)開発支援における業務提携の合意を発表した発表した。国内DTx市場における治療用アプリ開発から製品化までの包括的なサービス提供を目指す。

両社は、互いの臨床開発の知見とデジタル医療の開発技術を融合させ、国内DTx市場の発展に貢献していく。治療用アプリの開発を目指す国内外の製薬企業やIT企業などを対象に、ワンストップでの治療用アプリの開発支援および臨床試験の受託を開始する。

また、治療用アプリ提供後のサービスとして、患者や医療従事者へのサポート体制の構築、流通・品質管理に関するシステム提供、データセキュリティ対策、資金調達の支援などを含めた新しいビジネスプラットフォームの開発を推進していくことを明らかにした。

シミックとサスメド、デジタルセラピューティクス開発支援における業務提携に合意

医療分野で徐々に浸透しつつあるDTxは、デジタル技術を用いて病気の予防や診断および治療も含めた医療行為を支援するアプリケーションのこと。治療に対する科学的根拠(エビデンス)があり、規制当局による承認を視野に入れ開発されたソフトウェアを意味する用語となる。海外での事例としては、覚醒剤やコカイン、アルコールなどによる依存症患者を治療するためのアプリ、また日本では禁煙アプリや高血圧治療における食習慣コントロールアプリなどがDTxアプリとして開発が進んでいる。

シミックとサスメドは、DTx開発経験を有する希少な企業。両社は、業務提携により、開発戦略コンサル、システム構築および臨床試験のオペレーションなどを包括的に提供していく。プロジェクトのタスクを両社で一元化することで、開発期間短縮やリスクの低減を目指すという。

またその他の役割分担として、シミックグループは同グループが提供するコールセンターや医療機関へのニーズ調査などのサービスを、サスメドは同社が有するDTx開発に関する特許技術を活用し、DTx市場における開発から製品提供後まで、すべての段階で支援が可能な体制を構築していくとした。

シミックは、1992年に日本で初めて医薬品開発支援事業を開始した、医薬品に関する総合的な支援業務を提供する大手CRO企業。その他にも医薬品開発、SMO(治験施設支援)、臨床からGMPに準拠した医薬品製造、薬事コンサルティング、営業およびマーケティングソリューションなどにおける包括的なサービスを提供している。

サスメドは、デジタル医療を推進する研究開発型企業。不眠治療用アプリ開発のほか、医療用アプリ開発の汎用プラットフォーム、臨床開発支援システムおよびAI自動分析システムの提供を行っている。また、医療用アプリやブロックチェーンの医療応用についての各種特許を取得するなど、技術に立脚しデジタル医療を推進している。

2019年には厚生労働大臣、経済産業大臣の認定を受け「ブロックチェーン技術を用いた臨床研究モニタリングの実証」に関する新技術など実証計画(規制のサンドボックス制度)を国立がん研究センターと共同で実施。実証実験では、ブロックチェーンを活用することで、モニターが医療機関を訪問せずともデータの信頼性が保証されることの立証を目指した。

2020年7月に内閣府サンドボックス制度に関する論文「Data Validation and Verification Using Blockchain in a Clinical Trial for Breast Cancer: Regulatory Sandbox」を発表している。

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カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:IBMR3サスメドシミックデジタルセラピューティクスブロックチェーンロック

IBMがレガシーインフラ事業をスピンアウト、クラウド事業に全面的に舵を切る

米国時間10月8日朝、IBMがレガシーインフラサービス事業をスピンアウトすると発表したとき、4月に同社の新CEOに就任したArvind Krishna(アルヴィンド・クリシュナ)氏は、自社をクラウドに全面的にコミットする準備ができていることを明確に示した。

この動きは、同社が2018年にRedHat(レッドハット)を340億ドルという超高額で買収した際に着手した戦略に続くものだ。この買収は、インフラの一部をオンプレミスで、一部をクラウドで運用するハイブリッド・クラウドへの移行を示している。

IBMがハイブリッドクラウド戦略に舵を切っていく中でも、クリシュナ氏は他の誰もがそうであるように財務結果を見ており、そのアプローチにもっと鋭く焦点を当てる必要があることを認識していた。直近の決算報告(IBMプレスリリース)でのIBM全体の収益は181億ドル(約1兆9120億円)で、前年同期比5.4%減となった。しかし、IBMのクラウドとRed Hatの収益だけを見ると、より有望な結果が見えてくる。クラウドの収益は30%増の63億ドル(約6655億円)、Red Hat由来の収益は17%増だった。さらに、過去12カ月間のクラウド収益は20%増の235億ドル(約2兆4800億円)だ。

同社がどのような方向に向かっている知るには、財務の天才である必要はありません。クリシュナ氏は、たとえ短期的な苦痛が伴うとしても、IBMのビジネスのレガシーサイドからの移行を開始する時期に来ていることを明確に認識している。そのため、経営者はその行き先にリソースを投入したわけだ。本日のニュースは、その努力の結果といえるだろう。

IBMによると、同社のマネージドインフラサービスセグメントは、年間190億ドル(約2兆円)の収益を上げている実質的なビジネスだが、クリシュナ氏は、会社を整理してこのような難しい決断をするために、Ginni Rometti(ジニ・ロメッティ)氏の後を継いでCEOに昇格した。

同社のクラウド事業は成長しているが、Synergy Researchのデータによると、IBMのパブリッククラウドの市場シェアはおそらく4〜5%と1桁台で停滞している。実際、Alibaba(アリババ)はその市場シェアを追い抜いているが、どちらも市場リーダーのAmazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Google(グーグル)に比べれば小さい。

クラウドインフラビジネスへのシフトを進めているもう1つのレガシー企業であるOracle(オラクル)と同様に、IBMもクラウドの進化にはまだ道のりがある。

調査会社のSynergyでデータによると、市場リーダーのパブリック・クラウド収益シェアは、AWSが33%、マイクロソフトが18%、グーグルが9%で、IBMはオラクル同様に3社を追いかけてきたが、いまのところ市場シェアに大きな変化は見られない。さらに、IBMはマイクロソフトやグーグルと直接競合しており、これらの企業もハイブリッドクラウドビジネスをより成功させようと努力している。

IBMのクラウドの収益は伸びているが、市場シェアの針は止まっており、クリシュナ氏は集中する必要があることを理解している。そこで、IBMのレガシー事業にリソースを注ぎ続けるのではなく、その部分を分離してハイブリッドクラウド事業にもっと注目できるようにすることにしたのだ。

これは机上では健全な戦略だが、長期的にはIBMの成長プロファイルに重大な影響を与えるかどうかはまだわからない。クリシュナ氏はそうなるだろうと賭けているが、それでは同氏にはどんな選択肢があるのだろうか?

カテゴリー:ネットサービス
タグ:IBM、ハイブリッドクラウド

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(翻訳:TechCrunch Japan)

IBMがインフラサービス事業を2兆円規模の独立事業として分社化する計画を発表

IBMはその昔ありとあらゆる企業向けビジネスハードウェアのトップメーカーだった(実際その社名は「インターナショナル・ビジネス・マシン」の頭文字からきている)。しかし同社は、クラウド事業に主力を移すためにハードのメーカーというレガシィからさらに一歩距離を置く計画を発表した(PR Newswireリリース)。

米国時間10月8日、IBMは通年売上190億ドル(約2兆円)規模のマネージドインフラ事業部を分社化し、公開企業とする計画を発表した。これによりIBMはハイブリッドクラウドとAIアプリケーションという新分野にさらに注力することになる。

新会社は企業が運用するレガシーインフラをハイブリッドクラウド化するため、ハードウェアのテストと組み立て、プロダクト開発、高度なラボサービスなどの各種のマネージドサービスを行う(IBMリリース)。TechCrunchの取材に対して広報担当者は「新会社はインフラサービス事業を行い、サーバー事業は含まれない」と確認した。

IBMでは新会社のスピンオフの手続きを、2021年末までに完了させようと計画している(既存株主にとっては無税のプロセスとなる)。新会社は暫定的にNewCoと呼ばれるだけでまだ社名は決定していないが、発表によれば社員9万名、世界115カ国にクライアント企業4600社を抱え、受注残600億ドル(約6兆3380億円)の巨大ビジネスになるという。新会社は「インフラサービスの分野で直近ライバルの2倍以上の規模で首位となる」ということだ。

ライバルはBMC Software、Microsoft(マイクロソフト)などとなる。クラウドサービス分社後のIBMのビジネスは年間収入約590億ドル(約6兆2320億円)と新会社の3倍以上の規模だ。

同時にIBMは 第3四半期の財務ガイドラインのアップデートを発表した。このガイドラインが正式に発表されるのは2020年10月末とみられる。収入は176億ドル(約1兆8590億円)、GAAP基準による希薄後の1株当たり配当は1.89ドル、非GAAP基準による1株当たり収益は2.58ドルと予想している。なお前年同期(IBMリリース)の四半期収入は180億ドル(約1兆9000億円)1.9兆円だった。2020年第2四半期の収入は181億ドル(約1兆9120億円)と微増にとどまっている。これはインフラサービスを含む部門の売り上げが減少したことによる 。

新会社分離の計画は概ね市場に好感されているようだ。IBMの株価は発表直後の市場外取引で10%アップした。

しかし最も重要な点は、IBMがエンタープライズ ITの分野における根本的な革新に乗り出したことだろう。この分野は現在大きな変化を続けており、今後もこれは続くはずだ。

IBMは売上確保するために、企業が運用するレガシーインフラを重視しており、今後もサポートを続けていく。一方 この分野は、これまでのような急成長を見込めない。企業はIT部門の現代化(コンサルタントのいうデジタルトランスフォーメーション)を図っており、企業内および対顧客向けコンピューティングのインフラをクラウドなど外部へアウトソーシングする努力をしている。一方、IBMはマイクロソフト、Google(グーグル)のクラウドサービスに対抗しなければならない。そこで企業向けハイブリッドクラウドサービスに注力することは、ビジネスの拡大を目指す戦略の重要な柱となる。

IBMはしばしば「ビッグブルー」と呼ばれる巨大企業だが、今回のスピンオフ計画は利益を確保するためのダウンサイズの重要なステップとなるのだろう(今後はミッドブルーと呼ぶべきかもしれない)。

「IBMはハイブリッドクラウド事業で1兆ドル(約105兆6000億円)の収入を達成することに強くフォーカスしていきます。コンピューティングのインフラとアプリケーションを求めるクライアントのニーズは多様化を続けており、私たちのハイブリッドプラットフォームもこれに対応して拡大しています。(IBMと新会社の)2社がそれぞれ得意分野を活かすことによりにより市場のリーダーとなることができるでしょう。IBM本体は顧客向けハイブリッドプラットフォームの構築と運用、AI能力の拡充を重点とする一方、新会社は開発、運営、インフラの現代化などすべてにおいて活動の軽快さを強化し、世界的重要企業となることを目指します。両社とも成長カーブは押し上げられ、他社との連携能力も強化されます。これにより新たなビジネスチャンスをつかみ、顧客並びに株主に対してより大きな価値を提供できると信じています 」とIBMのCEOであるArvind Krishna(アービンド・クリシュナ)氏は声明で述べている。

同社による2019年に行われた340億ドル(約3兆5920億円)のRed Hat買収は、おそらくIBM自身の変革への最近の投資の中で最も注目すべきものだ。

IBM の組織再編では2019年にRed Hatを買収したことが目立っている。IBMのエグゼクティブチェアマンであるGinni Rometty(ジニ・ロメッティ)氏は声明で次のように述べている。「私たちは、IBMをハイブリッドクラウドという新しい時代の主役にしました。IBMの長年にわたる改革はオープンクラウドプラットフォームの基礎を作り上げました。これは Red Hat の買収によって大きく加速されました。同時に、マネージドインフラの各種サービスもこの分野のリーダーとなりました。ミッションクリティカルで複雑なタスクの実現にあたっては比較するもののないレベルの能力を実現しています。IBM と新会社の2社はそれぞれの強みを活かして収益化に貢献するでしょう。IBMは顧客企業の新しいデジタル化への改革を促進します。一方新会社は既存インフラの現代化を手助けします。こうした戦略はさらに高い企業価値とイノベーションの加速 さらに顧客ニーズへの対応の迅速化として実を結ぶでしょう」

現在、さらに取材中だ。

関連記事:巨額買収を完了したIBMはRed Hatの翼で飛翔する

カテゴリー:ネットサービス
タグ:IBMクラウドコンピューティングハイブリッドクラウド

画像クレジット:NurPhoto / Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

IBMが量子ロードマップを公開、2023年には1000量子ビットマシンを実現へ

IBMは本日、初めて同社の量子コンピューティングハードウェア開発に向けたロードマップを発表した。ここで把握すべきことはたくさんあるが、短期的に最も重要な情報は、同社が2023年末までに1000量子ビット(Qubit)以上(約10~50論理量子ビット)の量子プロセッサーを構築するということだ。

現在IBMの量子プロセッサーは65量子ビットで業界トップとなっている。同社は来年127量子ビットプロセッサーを、2022年には433量子ビットマシンを発売する計画だ。それに向けて、大容量チップを収容するまったく新しい希釈冷凍機を設計し、これらのユニットを複数接続してチップのマルチコアアーキテクチャーに似たシステムを構築する技術開発も進めている。

Image Credits: IBM

IBMのDario Gil(ダリオ・ギル)氏によると、同社はこのロードマップを発表するにあたり慎重に事を進めたという。そして同氏はそれを半導体産業の誕生になぞらえた。

「プロジェクトや科学的な実験を遂行して分野を前進させることとは対極にある、産業を確立するうえでの特異点に目を向けたとき、3つの文化を融合させたチームを築き上げることが必要であると私たちは認識しました。科学の文化、ロードマップの文化、アジャイルの文化です。当社はそのことを理念として持ち続けています」とギル氏は語る。

量子産業の究極の目標、すなわち大規模で耐障害性のある量子コンピューターを実現するために、同社は2つの異なる姿勢で臨んでいくとギル氏は唱える。1つは、アポロ計画のように10年単位で協働して問題に取り組み、様々な要素が結合することで突破口となる瞬間を迎えることだという。

「もう1つの方針は、 今できることは何かを問い、可能性を引き出すことです」と同氏は語る。「アジャイルの文化であるユーザー主導のフィードバックを確保して継続的にコミュニティへ還元するメカニズムを敷き、アジャイル文化を有するコミュニティを築きます。そして、進捗のロードマップを整備します。私たちはこの後者のモデルを固く信じています。科学の追究、ロードマップ、フィードバックを同時進行し、成果を創出していくのです」。

同氏はまた、我々は量子産業の新たな節目を迎えていると主張する。「私たちは、十分な総投資が行われているところまで来ています。このことは、調整メカニズムと信号メカニズムを通して、リソースの割り当てを大幅に誤ることなく誰もがその一端を担い貢献していくために、非常に重要です」。

量子産業の将来について、同氏は半導体産業の例を挙げて説明している。初期の半導体産業ではそれぞれがすべてのことを行っていたが、時を経てサードパーティーベンダーのエコシステムが誕生した。今日では、企業が極端紫外リソグラフィーのような新技術を導入するとき、IBMが量子産業に対して信念をもって現在展開しているような種類のロードマップが、各社の取り組みを調整するのに機能するのだ。

量子産業においても同様に、業界の複雑さの度合いが増し、個々のプレイヤーがすべてを自分で担うことは難しくなってきていると同氏は考えている。それは転じて、エコシステムに参加する各プレイヤーが、自分の得意分野を特化して追求していくことに注力できるということだ。

「必要なものは材料か、堆積技術か。その判断にはデバイスの専門知識が必要です。カップリング、包装、配線はどうするか。増幅器、低温工学、室温エレクトロニクス、そしてソフトウェアスタック全体をどのように配置するか。すべて自分たちで行う、というアプローチもとることはできます。いいでしょう。最初は、統合に向けあらゆることを自分たちで行う必要があります。しかし、時間の経過とともに、自分たちは同軸ケーブルの事業に参加すべきなのだろうか、というようなことになります」。

例えば同社はすでに、そうした状況に向けてQ-CTRLやQuantum Machinesとの協働を進めているという。

ギル氏は、2023年は業界の転換点となり、1121量子ビットマシンへの道はスタック全体の改善を推進していくと確信している。IBMが実施しようとしているパフォーマンス改善の中で最も重要であり、かつ野心的なのは、誤り率を現在の約1%から0.0001%近くに下げることだ。とはいえ、ほんの数年前に同社のマシンがどこにあったかの軌跡を見ると、その数字には説得力がある。

しかし、それは課題の一部にすぎない。「この技術がより豊かで洗練されたものになると、イノベーションスタックのあらゆる層が無限の広がりをみせます」とギル氏は指摘する。これは半導体業界に当てはまることであり、量子業界においてはさらにその様相を呈しているようだ。チップがより洗練されるにつれて、規模も大きくなる。つまり、IBMが現在開発中の10フィートの希釈冷蔵庫でも最大100万量子ビットの冷却を想定しており、将来的にはこれらのチャンバー間に相互接続を構築する必要があるという(1つのチャンバーを冷却するだけで14日近くかかると、適切な速度感をもった実験や反復がかなわない)。ギル氏のいう「量子イントラネット」を構築することは、決して簡単なことではないが、より大規模で相互接続されたマシンを構築するための鍵となるだろう。そして、それは発明が必要とされている多くの領域の1つにすぎず、これらのシステムが期待通りに機能するまでにはさらに10年の年月を要するかもしれない。

「私たちはこうした活動領域の追究を並行して推し進めています」とギル氏は続ける。「今から10年後にデバイスと機能が実現することを見据えて投資を行っています。問題を抱えたときに始めるのでは遅いのです」。

同社やその競合企業はハードウェアの構築に取り組んでいるが、量子コンピューティングのためのソフトウェアスタックの構築にも多くの課題がある。ギル氏がここで強調したのは、今こそ量子アルゴリズムや量子回路について考えるべき時だということだ。実際、同氏は開発者が量子ビットよりも回路に意識を向けることを望んでいる。

「開発者が関数を呼び出してクラウドに移行すると、水面下で何が起こるでしょうか。量子回路のライブラリができて、これらの回路には膨大な量のイノベーションと創造性、知的財産が生まれます」とギル氏は説明する。そして、それらの回路を適切な量子ハードウェアにマッピングする必要がある。実際、IBMのビジョンにおいて、量子プロセッサーは単一の種類のものではなく、様々なレイアウトとトポロジーを有しているようだ。

「私たちはすでに外部イニシアティブで1日あたり10億を超える量子回路を実行しています」とギル氏は語る。「将来的には、ソフトウェアアプリケーションに組み込まれたクラウド対応サービスを通じて、毎日何兆もの量子回路が量子ハードウェア上で稼働するようになるでしょう」。

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カテゴリー:ハードウェア

タグ:量子コンピューター IBM

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(翻訳:Dragonfly)