bitFlyerが全銀協ブロックチェーン実証実験でNTTデータら大手3社と競争へ

bitFlyerが、全国銀行協会(全銀協)が推進する実証実験プラットフォームを提供するベンダーの1社に選ばれた(発表資料)。同社のブロックチェーン製品「Miyabi」を、新たな決済・送金サービスや本人確認・取引時確認(KYC)、金融インフラの分野での実用化に向けた実証実験に投入していく。今回選ばれた選ばれた他のベンダーはNTTデータ、日立製作所、富士通の各社で、日本の最大手システムインテグレータとスタートアップ企業が並ぶ形となった。

全銀協は日本の銀行のほとんどが加盟する団体で、銀行間ネットワーク「全銀システム」や電子債権記録「でんさいネット」の運営主体としても知られている。全銀協は銀行間ネットワークを視野に入れた実証実験のための「ブロックチェーン連携プラットフォーム」をこの10月にも立ち上げようとしている(発表資料)。今回、このプラットフォームに実証実験環境を提供するパートナーベンダーのとしてbitFlyerが選ばれた。この分野の有力スタートアップとして米Rippleと米R3がある。全銀協に選ばれた時点で、彼らのプロダクトと同等以上の評価を受けたといってもいいだろう。

今後、複数の国内銀行がMiyabiを用いた新たな金融プラットフォームの実証実験に乗り出す見こみだ。それに伴い、銀行の開発パートナーとなる開発会社もMiyabiに基づく環境構築やアプリケーション構築の経験を積むことになる。実証実験でMiyabiが良い実績を出し続ければ、将来的な銀行間ネットワークの構築技術の候補となるかもしれない。

なお、今回選ばれたbitFlyer以外の3社はLinux Foundationが推進するHyperledgerプロジェクトに賛同する立場にある。特に富士通は、全銀協向けにHyperledger Fabricと同社クラウドを組み合わせた検証プラットフォームを提供する予定を明確に打ち出している(発表資料)。Hyperledger FabricとMiyabiが次世代金融プラットフォームの座を競うことになるかもしれない。

Miyabiと銀行といえば、2016年11月の3大メガバンクが参加したブロックチェーン実証実験が思い浮かぶ(関連記事)。全銀協がMiyabiを選んだ背景に、この実証実験の成果があったことは想像に難くない。

Miyabiは「ファイナリティを備えるブロックチェーン/DLT製品中で世界最速」

Miyabiとはどのようなプロダクトなのだろうか。詳細な資料は現時点では公開されていないが、Miyabiは、もともと金融機関での送金をターゲットに開発してきた経緯があるとのことだ。「ファイナリティを備える製品中では世界最速だ」とbitFlyer代表取締役社長の加納裕三氏は胸を張る。「もちろん、対改ざん性、ビザンチン障害耐性あり、単一故障点なしとブロックチェーンとしての特徴をすべて備えたうえでの話だ」。「日本以外の銀行にも、働きかけていきたい」と加納氏は話している。

bitFlyerが公開した資料を基に、ブロックチェーン/分散型台帳(DLT)技術としてのMiyabiの特徴について説明してこう。

まず、ブロックチェーン全体の特徴からだ。下の図は、ブロックチェーン技術、分散型台帳技術、分散データベースに関して、bitFlyerが整理した図である。

ここで改めてブロックチェーン技術の特徴を振り返ると、データをネットワーク上に分散させて保持できること(高可用性に結びつく)は当然として、(1) 改ざん不可能、(2)ビザンチン障害耐性、(3)単一障害点(SPOF)なし、という特徴を兼ね備えることが特色だ。Miyabiは、これらのブロックチェーン技術としての特徴を満たした上で、ファイナリティと処理性能を兼ね備える点で独自のポジションにいるとbitFlyerの加納氏は話す。

この特徴から導かれるメリットは、ハッキング行為でデータを不正に操作される可能性がきわめて小さく、また単一のノードがダウンしてシステムが止まる危険性がないことだ。ブロックチェーン技術とは、信頼できる共有台帳(あるいはデータ格納手段)として考えうる最も高度なスペックを備えている。ただし実績作りはこれからなので、ブロックチェーン技術全般に懐疑的な意見の専門家もまだいる段階ではある。

ブロックチェーンの特徴に加え、ファイナリティと性能を追求

ブロックチェーン技術に銀行が求める要件は先の高可用性、対改ざん性、ビザンチン障害耐性、単一障害点なしというブロックチェーン技術の特徴だけではない。(1)確定的な合意形成アルゴリズムと(2)処理性能が大きい。

(1)について少し説明する。ブロックチェーン技術の場合、ビットコイン、Ethereum、mijinで用いられているPoW(Proof of Work)やPoS(Proof of Stake)は「ナカモト・コンセンサス」、あるいは確率的ビザンチン合意と呼ばれている。合意形成が確率現象となり、取引がくつがえる確率が時間とともに0に収束する。ただし、厳密にゼロにはならない。メリットは巨大な分散型システムに適用できることだ。ビットコインやEthereumを見れば分かるように確率的な合意形成アルゴリズムにより実用上は問題なく取引できるのだが、銀行側は「ファイナリティ(決済の確定性)」を重視する立場から確率的な挙動は受け入れられないと考えている模様だ。

そこで銀行側が求めるファイナリティの要件を満たすのは、確定的な合意形成アルゴリズムに基づく製品ということになる。Miyabiの場合、BKF2と呼ぶ独自設計の確定的な合意形成アルゴリズムを採用する。

確定的な挙動の合意形成アルゴリズムのルーツは、分散システム研究から生まれたアルゴリズムであるPaxosかPBFT(Practical Byzantine Fault Tolerance)である。MiyabiのBKF2は「Paxosに近い」とbitFlyer CTOの小宮山峰史氏はコメントしている。

bitFlyerの説明では、Miyabiは、Hyperledger Fabric、R3やRippleの技術よりもビットコインの技術により近いとのことだ。「我々はビットコインの開発者サトシ・ナカモトを尊敬している。安全に資産を移転するため『通貨型』の概念も取り入れている。承認の仕組みも、単一障害点かつ単一信頼点となる認証局に頼るのではなくマルチシグを導入している」(加納氏)。ここで注釈を加えると、Hyperledger FabcirにはビットコインのUTXOやMiyabiの「通貨型」のように通貨特有の制約を持つデータ型の概念はない。またHyperledger Fabricでは認証局の存在が、単一障害点/単一信頼点となる懸念が指摘されている。

処理性能に関してだが、ブロックチェーン技術の単体の処理性能はブロック容量、取引記録の容量、ブロック生成間隔が基本的なパラメータとなる。またPaxosやPBFTのような確定的な合意形成アルゴリズムはプロトコルの負荷が大きく、ノード数が増えると合意形成の時間が増える形で性能に影響する。

Miyabiの場合は、1500〜2000件/秒の処理性能を確認しており、より高速なハードウェアを投入すれば4000件/秒以上の性能が得られるとしている。Hyperledger Fabric v1.0では合意形成をグループ分けして分散することでトータルの処理性能(スループット)を高めるアプローチも可能となっているが、「それでは処理を振り分ける部分(ディスパッチャ)が単一障害点になる」と加納氏は指摘する。Hyperledger FabricやCordaがオリジナルのビットコインを大幅にアレンジした技術であるのに対して、Miyabiはビットコインの技術を研究して得られた知見を追求した技術との立ち位置といえる。

Miyabiはまだ公開情報が乏しく、多くの読者からはベールに包まれた製品に見えているかもしれない。ただ、3大メガバンクが実証実験を実施し、全銀協が実証実験プラットフォームに選んだことで、銀行業界から高評価を得ていることは確かだ。今後の実績の蓄積を期待したい。

本日上場のウォンテッドリーに買い注文殺到、気配値上限の2300円のまま値段つかず

ビジネスSNS「Wantedly」を運営するウォンテッドリーは今日、東証マザーズに上場した。上場初日は買い注文が集中し値段がつかず、気配値段の上限である2300円の買い気配値のまま大引けを迎えた。

ウォンテッドリーといえば、同社のIPO内容を分析したブログ記事に対して米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA:Digital Millennium Copyright Act)申請を利用したことで、「悪評隠しのためにDMCA申請を悪用した」との批判が集中したことが記憶に新しい。

IPOが決まった直後の騒動とあって上場後の株価への影響を懸念する声もあったが、今日の株式市場を見る限り、その悪影響は少なかったようだ。もっとも、市場に売りだされる株数が少なく、投機家のあいだで人気化したことも買い注文が殺到した原因の1つとして考えられるだろう。

写真からカロリーや栄養素を自動測定——健康管理アプリ「カロミル」は食事画像認識AIを搭載

「続けたいけど、結局面倒になってやめてしまう」——ダイエットや家計簿、勉強などは継続して記録を残していくことが成果を出すための第一歩だ。けれど最初の数日は頑張るけど、次第に記録することが面倒になってやめてしまうという人も多いだろう。

ジャンルを問わずログを蓄積するアプリにおいては「投稿のハードルを下げる」ことが継続率を高めるポイントだ。その点ではダイエットアプリ「カロミル」に搭載された新機能は興味深い。

カロミルを運営するライフテクノロジーは9月14日、同アプリに自社開発の食事画像認識AIを搭載した。

カロミルではユーザーが食事や運動の記録を蓄積していき、そのデータをダイエットや健康管理に活用するアプリだ。これまでは毎回アプリを開いて食事の記録をする必要があったが、AIの搭載によってスマホで食事の写真を撮影しておくだけで、カメラロールから自動で食事の候補を取得。ユーザーはカロミル上で食事の選択をするだけで済むようになった。

食事の写真やカロリーを記録するダイエットアプリはいくつかあるが、カロミルの特徴はたんぱく質や脂質、炭水化物、糖質といったより細かい栄養素のデータを蓄積・分析できること。

「ダイエットアプリ自体は複数あるが、カロリーのデータしか保有していないものも多く本当の意味で基礎的な健康データをもっているところは少ない。カロミルでは栄養士のサポートも提供することで、取りこぼしを極力なくしている」(棚橋氏)

カロミルでは食事を記録する方法として、アプリに登録されているメニューから選択する方法、自分自身で栄養素を計算し入力する方法、栄養士に栄養素分析依頼を出す方法を提供している。時には栄養士のサポートを受けながら細かいデータ貯めていくことで、より正確に自分の健康状態を管理できる。そのため棚橋氏によると「ダイエット目的だけではなく、糖尿病患者などが疾病管理の目的で使っている」そうだ。

そして今回新たな食事記録の方法として、スマホの写真フォルダから自動で食事の写真を認識する機能がリリースされた。上述したように写真さえとっておけば自動でメニューと栄養素がカロミルに貯まるようになる。

これまでライフテクノロジーではユーザーから取得した食事画像と、同社が保有する食事画像を合わせた約20万件を用いて機械学習システムを開発してきた。テストとして画像認識AIに15000件の食事画像を判定させたところ、識別率は82%だったそう。この結果を受けて、今回正式に食事画像認識AIを搭載するに至った。

ダイエットアプリでは「あすけん」がソニーの食事画像解析技術を用いて同様の機能を提供している。またジャンルは違うが家計簿アプリでは「マネーフォワード」や「Zaim」など複数のアプリでレシート読み取り機能が搭載されている。精度の問題はもちろんあるが、記録するのが面倒なユーザーにとっては、写真を撮影するだけでいいのは大きなメリットだろう。

「今後は食事や運動以外だけでなくより広範な行動データを蓄積できるサービスにしていきたい。そのデータを元に、ゆくゆくは他サービスとも連携しながら個々にあった料理やサプリメント、運動を提案することを考えている」(棚橋氏)

ライフテクノロジーは栄養士免許を持つ代表取締役の棚橋繁行氏と、機械学習の研究を行ってきたCTOの阿万広大氏が2016年に共同で創業したスタートアップだ。棚橋氏は以前病気をきっかけに食事管理を意識するようになったことから、簡単に健康管理ができる仕組みを作るべく創業、カロミルのリリースに至った。

 

TC Tokyo 2017:Google Home搭載の会話型AIの未来―、ブラッド・エイブラムス氏が登壇

Google アシスタントプロダクトマネージャー ブラッド・エイブラムス氏

11月16日、17日の2日間にわたって渋谷・ヒカリエで開催予定のテック・イベント「TechCrunch Tokyo 2017」の登壇者がもうひとり決まったのでお知らせしたい。米GoogleでGoogle アシスタントのプロダクトマネージャーを務めるブラッド・エイブラムス(Brad Abrams)氏だ。Google アシスタントは、国内発売が間近とも言われるGoogle Homeに搭載される会話型AIの基盤そのもの。「モバイル・ファースト」から「AIファースト」へ比重を移すGoogleのビジョンと戦略、現在の取り組みについて語っていただこうと考えている。

すべてのデバイスに共通するUI:会話的な音声

振り返ってみて歴史上のある時期に一気に起こったように見えるパラダイム変化も、実際には5年とか10年かかっていることが多い。パソコンのCUIからGUIへの変化は1980年代半ばのApple Macintoshに始まり、1995年のWindows 95で終了したと考えると、実に15年もかかっている。

いま現在、GUIからVUI(Graphical UIに対してVoice UIの意味)への変化の兆しが見えている。これは5年かかるかもしれないし、10年かかるかもしれないが、かなり大きなマン・マシン・インターフェイスの変革となりそうだ。

AmazonがAmazon Echoで切り開いたスマートスピーカーという製品ジャンルは、声で買い物ができたり家電がコントロールできる、ちょっと便利なツールというふうに見える。ただ、Googleアシスタントについて語るエイブラムス氏の説明によれば、Google Homeはもっと大きな変化の一部分ということが分かる。

Google アシスタントは、「Google Home」やGoogle謹製Android端末の「Pixel」、Googleのメッセアプリ「Allo」などのすべての背後にあるソフトウェア基盤だ。アシスタントが作り出そうとしているのは「会話的インターフェイス」で、いま現在ググるときに打ち込む「新宿 安い イタリアン」などという検索クエリではなく、「ぼくの今日の予定は?」とか「空港まで行くのにUberを手配して」といった、より自然で対話的なインターフェイスとなるようなものだという。これは現在スマホに搭載されている音声検索とは異なるもの。

これは何もGoogle Homeだけのためのものではない。オライリーメディアが行ったインタビューの中でエイブラムス氏は、スマホやメッセアプリなど、デバイスに依存しない形で使えるようにしていくと話している。Google Homeからスタートしているのは、家庭内のリビングという利用環境が限られていて、アプリ提供やユースケースの洗い出しに適しているから、という面もあるのだそうだ。

Googleはすでに「Surface」という概念によってアプリ起動の制御を行おうとしている。あるデバイスには画面がなく、音声だけかもしれない。だからアプリ開発者は今後、どういうSurfaceのときにアプリがどう振る舞うべきかを考えるようになるのかもしれない。

音声が入り口になると新しいビジネスが生まれるかも

エイブラムス氏が挙げる興味深い論点として、「瞑想したいんだけど、おすすめは何?」というような問いかけにGoogle アシスタントはなんと答えるべきだろうか、というものもある。

これまでのGoogle検索ように10個のリンクを提示するわけにはいかない。じゃあ、1つなのかというと、それも違う。2つか? 3つか? どうユーザーに対話的に提示するのか―、この辺もまだVUI揺籃期の興味深い論点だ。

もしユーザーの問いかけに対して1つか2つの選択肢が提示される未来が来るとしたら、これはECビジネスなど、従来のネットビジネスがガラッと書き換わる可能性すらあるのかもしれない。現在、Google アシスタントに対して回答となる「discovery phrase」とういうのはアプリ開発者が登録することになっているそうだ。discovery phraseは現在のネットで言うドメイン名ようなもので、スクワッティング(不正な占拠)が出て来る可能性もある。エイブラムス氏は、いずれレビュープロセスやランキングを使うことになるだろうとインタビューの中で示唆している。

ともあれ、すでにGoogle アシスタントはSDKとAPIが用意されていて、Web上のシミュレーターを使った開発が開始できるようになっている。エイブラムス氏によれば、自分の端末だけで動くものを作りたいという要望が個人開発者からあるといい、イノベーター層が関心をもって遊んでいる様子がうかがえる。

国内発売が間近との報道も一部にあったGoogle Homeだが、未来のコンピューティングと、それが可能にするライフスタイルやビジネスに関心のある人は、ぜひ東京・渋谷のTechCrunch Tokyo 2017に足を運んでみてほしい。

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社外の専属経理チームに業務を丸投げできる「バーチャル経理アシスタント」、メリービズがリリース

「担当者がなかなか定着しない」「担当者によってスキルのバラつきが大きい」「繁忙期と閑散期の差が大きく、適正な体制を整えることが難しい」――このような”経理業務の課題”は多くの企業に共通する。

この課題をオンライン上に専属の経理チームを持つことで解決できないか、そのようなアプローチをしているのが経理代行サービスを提供するメリービズだ。同社は9月14日、企業が経理・会計業務をリモートの経理アシスタントチームに依頼できる「バーチャル経理アシスタント」をリリースした。

オンライン上でアシスタントに仕事を依頼できるサービスには「CasterBiz」やクラウドワークスの「ビズアシスタント オンライン」もあるが、バーチャル経理アシスタントでは経理業務に特化。メリービズ代表取締役の工藤博樹氏は「単発のタスクを依頼するというよりは、専門スタッフに経理業務を任せるとイメージしてもらうとわかりやすい。個々の企業のルールに合わせ、業務のプロセスを作るところから一緒にやるのが特徴」だという。

バーチャル経理アシスタントには簿記2級以上、経理経験3年以上という条件をクリアしたスタッフのみが在籍しており、リモートで経費精算や売上集計、収支表の作成といった幅広い経理業務をカバーする。個別のニーズや社内独自のルールにも対応し、コスト削減や社内経理スタッフの負担削減、全体の作業スピード向上に活用できる。

専属のリモートチームが、経理業務を丸ごと請け負う

メリービズでは今まで経理書類の入力代行サービスを提供してきた。これはレシートなどの経理書類をメリービズに送れば、同社に登録するスタッフが仕訳入力を代行してくれるというもの。経理の知識があるスタッフという人力に、システムのチェックも組み合わせることで品質を担保。上場企業を含め400社以上が導入している。

このサービスはメリービズのルールに沿って機械的に仕訳入力をすることで、現場の負担を削減する仕組みだった。一方で今回リリースしたバーチャル経理アシスタントは、対応できる業務の幅が広がり要望に合わせてカスマイズできる点が特徴だ。

「導入企業からは仕訳入力以外の業務も任せられたらという要望をいただいていた。バーチャル経理アシスタントではリモートでやれる経理業務には全て対応する。質問や要望にもすぐ返答があるといったように、隣に専属の経理アシスタントがいるような体験を提供したい」(工藤氏)

左が以前から提供する入力代行サービス、右が新たにリリースしたバーチャル経理アシスタント。既存の入力代行サービスも今回「ロボット経理」へ名称の変更を行っている。

経理の現場では冒頭で触れたような課題が生じていて、企業の悩みの種になっている。工藤氏によるとその原因の1つが「経理と人のミスマッチ」だという。

「経理は製造業のように仕事を細かく分解できる。その中には日付入力など専門知識がいらないものもあれば、月次決算など経理の知識と事業への理解が必要なものもある。今問題となっているのは、スキルのある人が単純な入力作業に追われたり、経験の不足している人に高度な作業を要求してしまっていること。これがスタッフの負担となり担当者が定着しづらい原因にもなっているが、コストの問題で経理スタッフの定員を増やすことも難しいというのが現状だ」(工藤氏)

そこで人手が必要になった時に、経理スキルのあるスタッフへ入力代行以外の業務も依頼でき、採用コストも抑えられるバーチャル経理アシスタントのニーズを再確認したそうだ。構想自体は以前からあったもののオペレーションの構築が簡単ではなく、ようやく体制が整いリリースに至った。

「業界や企業ごとにルールが異なるのはもちろん、大企業だと部署やプロジェクトによってもやり方が違う場合がある。顧客のルールを把握した上で、各業務の判断基準をどのように標準化していくのか。人力とAIを組み合わせて成り立つ仕組みなので、システムの設計も含めて時間をかけて作りこんだ」(工藤氏)

バーチャル経理アシスタントでは契約前にカウンセリングと1ヶ月のトライアル期間を設けている。この期間内で顧客のルールを把握し、オペレーションに落としこむことが重要なのだそうだ。

約半年前からベータ版の提供を開始していて、約300店舗を展開する飲食店では翌月15営業日までかかっていた月次決算が5営業日でできるようになった。従来は社内の経理スタッフ4名で担当していが、現在は1名とバーチャル経理アシスタントのみ。他の3名は本来やりたかった経営企画の仕事に時間を使えているという。

ビジネスインフラを構築し経理の負担削減へ

今後メリービズではビジネスインフラを作り、企業内での経理業務の負担を削減することを目指していく。

「今はほとんどの企業が社内で経理業務を行っている。これは例えるなら日本全国の家が個々で発電をしているようなもの。インフラが整備されて個々で発電をせずに済んでいるように、経理機能をインフラとして提供することで、企業の経理スタッフが本来やりたかったことにもっと時間を注げるようにしていきたい」(工藤氏)

直近ではバーチャル経理アシスタントの基盤を整えることに注力しつつ、将来的には社労士と組んで労務業務のサポートするなどサービスの横展開や、社内に蓄積された会計データを活用した事業も検討していくという。

日本版Kickstarter正式ローンチ――「北斗の拳」全巻がまるごと楽しめる電子書籍も登場

クラウドファンディングプラットフォームのKickstarterは9月13日、日本版のKickstarterを正式ローンチしたと発表した。日本版のKickstarterは従来のKickstarterのウェブサイトから言語選択をすることでアクセスできる。URLは”https://www.kickstarter.com/japan”だ。

今回日本版が正式にローンチしたことで、日本の銀行口座、身分証明書を使ってプロジェクトを公開することが可能になる。資金の提供者は日本人に限らず、世界中から資金を集めることができるのも魅力の1つだ。

支援に利用される通貨は日本円で、現在はVisa、MasterCard、American Expressのクレジットカードを利用して決済することが可能だ。

なお、Kickstarterはプレスリリースの中で、運営はニューヨーク州にある米国本社が行い、別途日本オフィスを開設する予定はないとしている。カントリーマネージャーには元Facebookの児玉太郎氏が就任したことが5月に発表されている。

記事執筆現在、プラットフォーム上には647個のプロジェクトが公開されている。その中でも僕が面白いと思ったのが、マンガ「北斗の拳」全巻をまるごと楽しめる電子書籍「全巻一冊 北斗の拳」だ。

これはあくまでも電子書籍なのだけれど、外からの見た目は紙のマンガ本そのもの。A5サイズの単行本を開いた中に2つのスクリーン(7.8インチ)が搭載されていて、そこにマンガが表示される仕組みだ。スクリーンを囲む部分は紙でできている。

下の画像にある矢印ボタンを押すことでページのめくり、地球マークを押すことで作品中の言語を切り替えることが可能だ。日本語と英語の2か国語に対応している。画像で見る限り、マンガの描写も非常にくっきりしていて鮮明だ。

日本版Kickstarterがローンチしたことで、これから世界でも話題になる日本発プロジェクトがたくさん増えてくることに期待したい。TechCrunch Japanでも面白いプロジェクトを見つけ次第、読者のみなさんに紹介していきたいと思う。

ホンダ、理想的な都市型EVのコンセプトを発表――Urban EVは2019年にも欧州市場に投入

ホンダが発表した新しいコンセプトカー、Urban EVはあらゆる自動車メーカーが「都市の自動車は5年から10年後にはこうなる」として提示したがるような斬新なものだ。しかしホンダはこの電気自動車を2019年には欧州マーケットに投入するとしている。2019年といえばわずか2年後だ。

Urban EVの外観はややレトロで、70年代から80年代のハッチバックからヒントを得たものだろう。ホンダ自身のシビックにも多少似ているが、他の面ではこの車はレトロからは遠い。外観もフロントとリヤにディスプレイが埋め込まれ、充電率、ブランド名、路上の他のドライバーへの情報提供などあらゆるメッセージがここに表示される。

このホンダのEV Conceptカーのダッシュボードにはほとんどその全幅にタッチスクリーンが設けられる。 ホンダはこれを「パノラミック」呼んでいる。スクリーンは左右のドアにまで設置され、ウィングミラーに設けられたカメラからの映像が表示される。ドライバーはこの映像を見て車の全周の情報を得ることができる。

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    Honda Urban EV Concept unveiled at the Frankfurt Motor Show
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    Honda Urban EV Concept unveiled at the Frankfurt Motor Show

Urban EVはサイズからすれば2ドア・コンパクトカーに分類される。前後にベンチシートが設けられ乗車定員は4人だ。エクステリアのサイズを最小限に抑えながら車内スペースを最大限にするよう努力が払われている。

この車にはホンダのANA(Automated Network Assistant=自動ネットワーク・アシスタント)が搭載される。このシステムはドライバーの運転を学習し、それに応じて適切な情報を提供する。たとえばドライバーが特定の目的地を頻繁に訪れる場合、自動的に適切なルートを案内したり、他の有益な情報を提供する。

ホンダUrban EVはたいへんクールな自動車だ。当初ヨーロッパ市場が対象ということだが、ぜひ他の地域でも販売してもらいたい。また、ホンダはEV戦略を進めるにあたって完全に新しい電気自動車に特化したプラットフォームを開発している。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

インフォステラが8億円を調達、衛星通信アンテナ共有事業を2018年にローンチへ

人工衛星の運用に欠かせない要素の一つがアンテナだ。資金を投入しリスクを背負って打ち上げた人工衛星も、地上で電波を送受信するアンテナを確保できなければ運用できない。この衛星用アンテナのシェアリング事業を手がけるインフォステラが、シリーズAラウンドで8億円を調達した。航空宇宙分野のスタートアップを中心に投資活動を展開するAirbus Venturesがリードインベスターとなり、早稲田大学発のベンチャーキャピタルであるウエルインベストメントD4VSony Innovation Fund、そして既存投資家であるフリークアウト・ホールディングス500 Startups Japanの6社を引受先とする第三者割当増資を実施した。出資比率は非開示。

調達した資金の使途は事業開発と人員拡充である。同社は自社開発の通信機器の開発と生産を予定しており、そのための資金に使う。同社CEOの倉原直美氏は「ソフトウェアエンジニアはすぐにでも増やしたい」と語る。例えばアドテクやゲームインフラ分野のスキルは宇宙分野でも活用できるそうだ。

同社はアンテナシェアリングプラットフォーム「StellarStation」のプロトタイプを完成させ、事業化直前の段階にある。倉原CEOは次のように話す。「宇宙ビジネスには、ロケット、衛星、地上設備の3つが欠かせない。ロケットや衛星ではスタートアップがいくつか出ているが、地上設備は参入が少ない」。同社はおそらく世界初となるクラウド型のアンテナシェアリング事業を目指す。その概要を把握するには以下の動画をどうぞ。

 

倉原氏は、もともとロケットを作りたくて宇宙開発の道を志したが、東京大学で超小型人工衛星「ほどよし」のプロジェクトで地上システムの開発マネージャーを体験した。起業した背景として、やはり東京大学発の超小型人工衛星スタートアップであるアクセルスペースなどの先行するこの分野のスタートアップの存在が刺激になった。「起業した時点では、アンテナシェアリングは必要だという確信があった」。宇宙開発分野を経験した起業家ならではの着眼点といえる。

今回の増資とともに社外取締役に加わったLewis Pinault氏(Airbus VenturesのManaging Investment Partner)が発表資料に寄せたコメントは、同社のビジネスの可能性をうまく要約しているので一部引用したい。「周回衛星打ち上げ数の増加や宇宙から得られるデータの重要性が増している現状において、それを支える地上側のアンテナが需要の急増に間に合っていない。一方、他社の衛星が上を飛ぶ間、ほとんどの時間その地上アンテナは待機状態となっている。インフォステラはこの状況を劇的に変える。彼らは世界中の何百ものアンテナを何千機もの衛星の運用のために活用することができる。アンテナの所有者の待機時間を減少させ、利益を向上させる。そしてリアルタイムのネットワークコントロールを得ることで、誰もが衛星運用者になり得る」。

人工衛星を運用するためのアンテナをシェアリングプラットフォームの枠組みにより使いやすくし、人工衛星運用者、アンテナ所有者、インフォステラと当事者全員が得をするビジネスモデルを目指す形といえる。

2018年にプラットフォームをリリース、事業展開へ

同社が目指すビジネスについては2016年10月のシードラウンド資金調達の記事でも説明した。当時はハードウェア(同社仕様の専用通信機を開発)とソフトウェアの開発が進行中の段階だったが、1年近くが経過し、同社の衛星アンテナシェアリングプラットフォームのプロトタイプは完成した。間もなくクローズ試験を開始する。クローズ試験では大学発のCubeSat(超小型人工衛星)プロジェクトのように密にコミュニケーションを取ってフィードバックをもえらえる顧客を対象とする方向とのことだ。同社のサービスプラットフォームは、2018年早々に正式リリースする予定だ。

その後の事業展開にあたり、倉原CEOが有望なユースケースとして挙げるのは、(1)地球観測(Earth Observation)、(2) 船舶自動識別システム(S-AIS)、(3)航空機の放送型自動従属監視(ADS-B)である。超小型人工衛星は気象情報や農業などの目的で地球観測に用いられる例が多く、最も初期のユースケースはこの分野となる。船舶と航空機は無線通信による自動識別が義務付けられているが、この分野でも大幅な通信需要の増加が見込まれているとのことだ。

インフォステラの事業は、クラウドサービスにより衛星との通信機会をシェアし、急増する超小型人工衛星の通信需要への対応を図る。宇宙ビジネスに注目する人は増えているが、宇宙開発は地上設備なしには進まない。地上設備のリソースの中でボトルネックとなるアンテナに注目した同社の挑戦に期待したい。

チャットフィクションアプリの「TELLER」が30万ダウンロード、今後はユーザー投稿作品の公開も

チャット型のUIで友人とメッセンジャーをやり取りするかのごとく展開するストーリーを読んで楽しむ、スマホ版のケータイ小説とも呼べる「チャットフィクション」。すでに海外では「Hooked」や「Yarn」といったアプリが、ティーンを中心に人気を集めている。

国内でもこのチャットフィクションを体験できるアプリはいくつか登場している。TechCrunchでも、7月には元ベンチャーキャピタリストの久保田涼矢氏率いるFOWDがリリースした「Balloon」のリリースを紹介している。

このBalloonに(10日ほど)先駆けてサービスをリリースしたのが、1月にDMM傘下となったピックアップが提供する「TELLER」だ。ピックアップによると、9月にTELLERのダウンロード数は30万件を突破。順調な滑り出しを見せているという。

TELLERは、7月にリリースされたチャットフィクションアプリ。ユーザーはあらかじめ運営サイドが投稿されているストーリーを読んだり、自身でストーリーを作成して投稿したりできる(投稿作品の閲覧機能は今後提供)。ユーザーの年齢層は13〜18歳のティーンが50.3%、19〜22歳が20%以上と非常に若いサービスになっている。

「若い人が活字離れしているという話は良くあるが、実際は活字を読むフォーマットが変わってきたのではないか。海外でHookedなどが出てきてそう考えるようになった。『恋空』(2000年代にヒットしたケータイ小説)のようなヒット作もこのフォーマットで出していきたい」——ピックアップ代表取締役社長の宮本拓氏はTELLERをリリースした背景についてこう語る。

まだマネタイズについても広告モデルや課金モデルなど検討中だが、当面はコンテンツ拡大に注力する。すでにユーザーから投稿されたストーリーは3500件を越えており、社内でのチェック体制を整え、審査の上で公開していくという。また同時に、運営が提供するストーリーのジャンルも拡大していく。現在公開されているストーリーはホラーが中心だが、恋愛やサスペンスといったジャンルのストーリーを提供していく。7月には、フリマアプリ「FRIL」を手がけるFablicの共同創業者の荒井達哉氏が同社に技術顧問として参画。今後エンジニアチームを拡大していくとしている。

ピックアップは2014年7月の設立。TELLERのほかに第1弾のプロダクトである写真ストレージアプリ「POOL」、ライブコマースアプリの「CHIPS」(こちらはアプリこそ公開しているが、「方向性も含めてまだテスト中」(ピックアップ)とのこと)などを開発している。

ピックアップの荒井達哉氏(左)と宮本拓氏(右)

オフィス訪問:グルメサービス「Retty」の会議室名は料理、、、と思ったら違った

起業を目指す学生、事業を始めたばかりの起業家にとって、自分たちの将来像を描くことは重要なことだと思う。それと同じく、一足先にスタートを切った先輩企業たちの今の姿を見ることも参考になるかも知れない。

僕は先日、実名制グルメサービスを運営するRettyのオフィスに行ってきた。2010年11月に創業した同社のサービスは、今や月間3000万人が利用するまでに成長。2016年7月には総額11億円の資金調達も発表している。

そんな同社は、2017年7月にそれまでの五反田から麻布十番へとオフィスを移転したばかりだ。今回僕がおじゃましたRettyの新オフィスはこんな感じだった。

オフィスの全体像が分かる写真は下のフォトギャラリーに載せておくけれど、なかでも注目していただきたいのは、企業ごとの個性がでる会議室の名前だ。

会議室「タコス」改め、「9番」

Rettyの会議室の入口には、社員が撮影した料理の写真が飾ってある。

そして、それらの会議室は料理の名前がつけられている、、、と思ったら違った。正確に言えば、そういう試み自体はあったそうなのだが、結局浸透せずに実際には番号で呼んでいるのだとか。オフィスあるあるだ。

ちなみに、TechCrunch Japanを運営するOath Japanの会議室名は花の名前で統一されている。僕はただの1つも覚ていない。

  1. オフィスに入ってすぐの受付
  2. 社員の皆さんが集う共同スペース
  3. 共同スペースには大きな本棚も
  4. 本棚の裏に設けられたメイン会議室
  5. 各会議室には、社員が撮影したグルメ写真が飾られている
  6. 創業メンバーや社員たちの写真
  7. Rettyユーザーとの写真も
  8. 社内ミーティングやユーザーとの交流イベントに使われるイベントスペース

“フリーランス営業マン”は生まれるか――企業と営業マンをつなぐ「Saleshub」が8000万円調達

営業スキルをもつ個人と企業をつなぐプラットフォーム「Saleshub」を運営するSaleshubは9月12日、インキュベイトファンドを引受先とする第三者割当増資を実施した。調達金額は8000万円だ。

Saleshubは、クライアントを紹介して欲しい企業と個人の営業マンをつなぐマッチングプラットフォーム。企業がSaleshubを利用して案件を掲載すれば、外部の営業リソースを幅広くあつめることが可能だ。

営業マンはまず、その案件に応募をし、企業との面接をクリアすることで「サポーター」となることができる。その後、企業が求めるクライアントを紹介することができたサポーターは、それに見合う報酬を企業から受け取れるという仕組みだ。

案件のなかには、アポをセッティングするだけで数千円の報酬を受け取れるものもあれば、成功報酬として数百万円を受け取れるものもある。Saleshubが受け取る手数料は報酬金額の35%で、その手数料を別途企業側から受け取る。

2017年6月にリリースしたSaleshubだが、今のところプラットフォームに掲載されている案件はBtoBのものがほとんどだという。Saleshubがこれまでに獲得した企業アカウントは約330件、営業マン側の登録アカウントは約1230件だ。

営業マンでも副業しやすい環境を

最近では、クラウドワークスなどのクラウドソーシングサービスも身近になり、なんらかのスキルをもつ個人が副業しやすい環境が整いつつある。先日TechCrunch Japanでも紹介した「副業サービスマップ」を見ていただくと分かるように、副業系サービスの数はかなり多い。

しかし、そういったサービスで副業をしやすいのは、エンジニアやカメラマンなど特定の専門スキルをもつ人たちだ。

Saleshub代表取締役の江田学氏は「専門スキルをもつ人たちよりも、いわゆる営業マンと呼ばれている人たちの方が人口的には多い。にもかかわらず、営業マンが副業しやすい環境はまだまだ整っていないと感じていた」と話す。これがSaleshub創業のきっかけだ。

聞いてみると確かにその通りで、「フリーランス・カメラマン」だとか「フリーランス・エンジニア」という言葉はよく聞くが、「フリーランス営業マン」という言葉はあまり耳にしない。このようなサービスが増えてこれば、そんな新しいカテゴリーが生まれる可能性もあるだろう。

Saleshubは2014年8月の創業。当時、同社はエンジェル資金として元ペロリの中川綾太郎氏から300万円を調達し、遊びにでかける場所の口コミサイトを運営していた。

同サービスは月間50〜60万人のユーザーが利用するまでに成長したが、「そのような口コミサービスでは月間1000万人くらいまで獲得しないとビジネスがワークしない」と判断した江田氏は、同サービスを停止してSaleshubへとピボットすることを決意した。

その方向転換を行うのと同時期に、Saleshubはマイナースタジオ代表取締役の石田健氏とEast Venturesから1300万円を調達している。今回の調達資金を含むSaleshubの累計調達金額は9600万円となる。

Slackだと蓄積できず、Dropboxだと面倒 ―― 「Stock」は価値ある情報をチームで楽にストックできるツール

「この前Slackでやりとりした新しいアイデアのディスカッション、きちんとログを残しておけばよかった」

Slackチャットワークといったビジネスチャットツールをチームで使うようになってから、日々のコミュニケーションが格段に便利になった一方で、このように思うことも増えた。

ビジネスチャット上での何気ない雑談から面白いアイデアがでてきたり、深い議論へと発展することはよくあるが、時間がたってから振り返りたいと思った時に壁にぶち当たる。検索機能を使って探せないことはないが、議論が散らばっていてすぐにアクセスできないことも多い。かといって毎回のようにGoogleドキュメントやWordなどでログを作って共有するのは面倒だ。

思えばビジネスチャットのように「フロー」情報をやりとりするサービスはどんどん新しいものがでてきているが、「ストック」情報を気軽に貯めて共有できるサービスはここ最近あまり増えていない。

社内で価値のある情報を、ビジネスチャットのような感覚でサクサク残していけるような場所があれば便利なのではないか。まさにそのようなコンセプトで生まれたのが、本日9月12日にベータ版がローンチされた「Stock」だ。

Stockはその名の通り、チームで価値のある情報をストックできる情報共通ツール。機能やコンセプトの違いはあれど、チームで使う「Evernote」のようなものをイメージしてもらうとわかりやすい。Evernoteの機能をよりシンプルに、そしてITに詳しくないスモールチームでも利用できるようにしたものがStockだ。

「情報ストック」と「タスク管理」に絞ったシンプルなツール

Stockでできることはチームの「情報ストック」と「タスク管理」の2つ。情報ストックについては、ノート形式で情報をまとめて残せるというシンプルなものだ。テキストに加え画像も投稿でき、気軽に情報のストック、アップデートができる。ノートの内容は自動保存されるほか、情報を整理する際に便利なフォルダ機能も備える。

そしてノートに紐づいたチャット機能がStockの特徴の1つ。ノート右下のメッセンジャーアイコンから、すぐにチャットを始められる。ノートへのフィードバックもここで行えば、他のやりとりと混同することもないし、情報が散らばることもない。

また社内の定例ミーティングや企画ブレストにはたいてい「タスク」がつきまとうため、Stockではノートごとにタスク管理機能も備える。自分に関連するタスクはサイドバーのタスク一覧から確認でき、Stock上でタスクを設定しておけばToDo管理用のツールを使わなくても済む。

中途半端に機能を組み合わせても、価値を感じない

非常にシンプル。これといって目新しい何かを感じるわけではないが、確かにありそうでなかったかも。それがStockについて話を聞いた時の最初の印象だった。

Stockを開発するリンクライブ創業者の澤村大輔氏によれば「今以上に簡素な機能しかなかった状態で何社かに話をした際、反応が薄い企業もあったが、その機能だけでもいいから是非使いたいという企業があった」そうだ。

その時にニーズとして出てきたのが「情報をサクサク保存でき、その情報に簡単にアクセスできる」こと。たとえば2017年初にクローズドでテストを始めた当初からStockを導入する税理士事務所では、顧客との打ち合わせの記録をWordに残しDropboxで共有していた。だがそれでは情報までの距離が遠くアクセス性が悪いため、面倒で情報を確認しなくなるという問題が起こっていたそうだ。

現在Stockを毎日アクティブに使っている企業は約15社あり、「従来のファイル管理ツールでは情報へのアクセス性が悪い」「チャットツールでは貴重な情報が流れてしまい蓄積できない」という課題は多くの企業に共通しているという。その声を元にシンプルな作りにしたところ、導入先の学習塾では60歳を超えるスタッフが使い方の説明をしなくても普通に使いこなしている、という事例も生まれているそうだ。

ただシンプルな機能に行き着いた背景には、ちょっとした面白いエピソードがある。澤村氏によると、実は本格的なチャット機能など多機能化を検討していた時期があったのだそう。ところが実際にテストをするとユーザーから総ツッコミをくらったという。

「Stockだけで何でもできるようになれば喜ばれると思ったが、結果的には実装後にアクティブ率が下がり『中途半端に機能を組み合わせても価値を感じない。チャット機能なら他のチャットツールに勝てない』とフィードバックを受けた。ノートを使った共同作業を徹底的にシャープにしているからこそStockを使っていると言ってもらえたことで、必要な機能だけに絞ることを決めた」(澤村氏)

Stockと似たような使い方ができるものとしてEvernoteのビジネスプランQiita:Teamなどがある。ただITに詳しくない人をメインターゲットに、とことん機能を絞りこんで使いやすくしたツールにはまだチャンスがありそうだ。

「Slackなどチームのコミュニケーションを簡単にするツールは増えてきているが、誰でも情報を簡単にストックできるツールというのは、Dropbox以降これといったサービスがまだ生まれていない。Dropboxや他のツールほど機能は多くないが、その分わかりやすく簡単に情報を残せる。そこは勝負できる余地があると考えている」(澤村氏)

今回リリースするStockのベータ版は招待制で、正式リリースまでは無料で提供する。正式リリースは年内を予定していて、フリーミアムモデルでの提供を検討中だ。また今後はオフラインで使えるようにデスクトップアプリを開発したり、APIを使って他サービスと連携させたり(たとえばStockで設定したタスクがGoogleカレンダーにも反映されるなど)といった形で、より使いやすいサービスを目指すという。

リンクライブ代表取締役社長の澤村大輔氏。以前Techcrunchで紹介した同社の「ONI Tsukkomi(鬼ツッコミ)」は知っている人も多いかもしれない。ONI Tsukkomiも引き続き継続中だ。

見積もりは最短30分、弁護士などトラブル解決の専門家マッチング「カケコム」ベータ版

男女問題やお金のトラブルなどを解決するために専門家の知識が欲しいと思っても、いざ弁護士に相談するとなると、心理的なハードルが高く時間も取れないのでなかなか気軽には相談できない——そんな人も多いのではないだろうか。9月11日にST Bookingがベータ版の提供を開始した「カケコム」は、そうしたトラブルを解決する、弁護士を中心とした専門家と相談者をマッチングするサービスだ。

ST Bookingは元々、日本への留学を望むインバウンド留学生やそのエージェントに向け、学校紹介や海外生活支援、翻訳サービスなどのマッチングを行う留学支援プラットフォーム「ST Booking」を提供してきたスタートアップだ。2016年5月には、総額20万ドルのシード資金調達も行っている。それがなぜ、弁護士のマッチングに主力事業をピボットしたのか。

ST Bookingの創業者で代表取締役社長の森川照太氏は、こう説明する。「留学支援サービスも今でもニーズがあり、意義のあるサービスで、やめるつもりはない。ただ、留学にまつわるサービスで、スタートアップ的な成長を目指すのは難しいと感じた。留学には年に2回のシーズンがあって、それ以外の時期に継続的な盛り上がりがないことや、ユーザーも『2、3年後の留学のために』といった時間軸で情報を探す人が多いからだ」(森川氏)

ST Bookingでは、2016年末からメイン事業をシフトして、カケコムの前身となる、トラブル解決に関する情報を提供するメディア「ジコナラ」をスタート。今回、名称をカケコムに変更するとともに、認定弁護士による見積もりサービスを追加し、トラブル解決の専門家マッチングサービスとしてリニューアルを行った。現在の見積もりサービスは、離婚案件に詳しい弁護士から最短30分で見積りをもらえるという内容になっている。サービスに登録する弁護士はカケコムスタッフが1人ずつ面談し、「累計取り扱い離婚案件50件以上」という基準を満たす場合のみ認定を行っているという。

「弁護士法では、送客ごとに報酬を得ることは禁止されているので、サービスの利用料を月定額で専門家から課金するモデルを採っている。有料会員数を増やして、2019年に2000人登録が目標だ。現在の相談数は月に数十件だが、年内に月100件を目指したい」(森川氏)

弁護士紹介でいえば、有名どころで「弁護士ドットコム」が既に無料の法律相談や弁護士の検索ができるポータルを提供している。また、探偵事務所や興信所探しなら「探偵ドットコム」といったサービスもある。

森川氏は「今までのサービスはディレクトリ検索的で、問題ベースで最適なソリューションが見つけにくいという問題があった。また、結果として条件に合う専門家のリストが表示されても、結局はそのホームページを自分で調べて確認して選択しなければならなかったり、電話やメールでこちらから問い合わせをする必要があったりして、気軽に相談できる状況ではない」と言う。

「そこで、新サービスでは、トラブルの種類別に最適なソリューションをスマホの画面上で手軽に選べて、短時間で専門家とコンタクトできるようにした」(森川氏)

提供中の離婚弁護士の見積もりサービスでは、離婚の原因や弁護士とのやり取りの方法など、相談者が簡単な質問に選択肢で答えて送信すると、適任の弁護士に通知され、弁護士から見積もりが届く。見積もりは無料で、専門家の側からアプローチがあるので、相談者から電話などで連絡するという心理的なハードルもなく、気軽に利用できるという。

今後のベータ版から正式版へのアップグレードに当たっては「サイト上で、専門家とのメッセージのやり取りなどのトランザクションが完結するサービスにしたい」と森川氏は話している。「また、離婚問題に加え、相続や労働問題、交通事故や金銭問題など、いわゆる“一般民事”に関わる専門家のマッチングにジャンルを広げていくつもりだ」(森川氏)

スマートスピーカー「Google Home」10月上旬に日本でも販売開始へ——NHKが報じる

昨年秋に米国で発売された、Googleのスマートスピーカー「Google Home」。5月にマウンテンビューで開かれた開発者向けのイベント「Google I/O 2017」で、CEOのSundar Pichai氏が「2017年内にも日本で発売する」と発表していたが、その発売日が10月上旬に決まったようだ。

NHKが9月11日、関係者からの情報として「Google Homeを日本語に対応させた製品を来月上旬、日本で発売する方針を固めた」と報じた。なお現時点でグーグルからの正式発表は行われていない。

Google Homeは、“OK Google”でおなじみのAI「Googleアシスタント」を搭載した家庭用のスマートスピーカー。スマホと同じように、スピーカーに話しかけることで、検索や翻訳などの結果を答えてくれるほか、Google PlayやYouTube、Spotifyなどの音楽をかけたり、Chromecast経由でテレビに映画や音楽などのストリーミング動画を映す機能が備わっている。米国で発売されているHomeには、無料通話ができる機能が追加されたが、日本版Homeで無料通話機能に対応することになるかどうかは分からない。

日本版Homeの価格は今のところ明らかになっていないが、米国での販売価格は129ドル。スマートスピーカーについては、米国でAmazonが提供するAI、Alexaを搭載した「Echo」と、Google提供のHomeが市場の覇権を争う形になってきている。また日本ではLINEが「WAVE」を発表、今秋発売の正式版(1万5000円・税別)に先駆けて、先行体験版を販売したばかりだ。

GMOに続きDMMも仮想通貨マイニング事業に参入、「DMMマイニングファーム」を10月開始

昨日GMOが仮想通貨の採掘(マイニング)事業に参入すると発表し話題となったが、DMMもこのビジネスに取り組むようだ。DMMは9月7日、仮想通貨のマイニング事業「DMMマイニングファーム」の運営を10月より開始すると明らかにした。

DMMは9月8日に仮想通貨事業部を発足。10月よりマイニングファームのトライアルを実施し、年内には「DMM POOL」を全世界に公開する予定だ。2018年度中にはトップ10に入る規模の、そして将来的には世界のトップ3に入る規模での運営を計画しているという。

現在DMMが準備をしている「DMMクラウドマイニング」は、一般人がマイニングに参加できるサービス。冒頭でも触れたとおり、昨日GMOもマイニングを行うための設備投資や運用が難しい人向けのクラウドマイニング事業へ参入することを明かしている。

GMOの場合はマイニングを行うために必要となる高性能コンピューター(マイニングボード)を実現するチップの研究開発と、電力供給のため次世代マイニングセンターの設置を行うことを発表。クラウドマイニング事業に加えてマイニングボードの販売や、関連会社であるGMOコインへの仮想通貨共有も予定している。

シェアサイクル参入ラッシュ――メルカリに続いてDMMも検討開始と発表

つい昨日のこと、メルカリの子会社ソウゾウは2018年初頭を目処に、自転車シェアリング事業「メルチャリ」の検討を開始したと発表した。それに続いて本日、DMMもシェアサイクル事業「DMM sharebike(仮)」の検討を開始すると発表した。サービス開始は、2017年末から2018年初頭を目指すという。

DMM.comはシェアサイクル事業の参入について、プレスリリースで以下のようにコメントしている。

DMM.comは近年、格安SIMやVR THEATERといったリアルの場でも新たなビジネスの開拓を続けており、会員数は2700万人を突破いたしました。(2017年6月現在)更なるリアルの場でのビジネスを展開すべく、この度シェアサイクル事業への参入検討を開始いたしました。

日本では、2017年8月に札幌でサービスを開始した「Mobike」やNTTドコモが展開しているコミュニティーサイクルが、すでにシェアサイクルを提供している。今後、「ofo」もソフトバンク コマース&サービスと手を組み、9月以降に東京と大阪からサービスを開始する予定だ。

余談だが私は最近、NTTドコモのコミュニティーサイクルで電動自転車を借りたことがある。ウェブでの会員登録や自転車の予約といった操作方法が分かりづらい部分はあるものの、自転車を借りたり、返せたりするポートがすでに都内各地に多く整備されていることには驚いた。コミュニティーサイクルのポートマップを見ると、300箇所以上のポートがある。この点は、他の新規参入企業との大きな差別化になりそうだ。DMM.comはプレスリリースで駐輪場用地の提供・シェアサイクル事業で協業できる事業者を募集しているが、今後各社のポート設置合戦が始まるのかもしれない。

フレキ基板でイノベーション、エレファンテック(旧AgIC)が産革や大和から総額5億円を資金調達

家庭用プリンターで電子回路を「印字」するプロダクトを引っさげてTechCrunch Tokyo 2014のスタートアップバトルで優勝したエレファンテック(旧AgIC)が、より産業用へと軸足をずらして「フレキシブル基板」と呼ばれる領域で勝負をかけている。数日前にAgICからエレファンテックに社名を変更したばかりの同社は今日、産業革新機構をリードインベスターとし、大和企業投資、Beyond Next Venturesの3社から総額5億円の資金調達を行ったと発表した。VCからの調達ラウンドは2016年2月に続いて2度めで、これまで累計8億4000万円(うち国からの助成金や借入が約1億円)の資金を調達している。

エレファンテックが3年にわたって取り組んできたのは、電子回路を印刷により製造する「プリンテッド・エレクトロニクス」という分野。ハードウェア分解癖のある女子なら良く知っているだろうが、パソコンやデジカメを分解すると、必ずフィルム状のペナペナの基板が使われているのを発見することになる。固い樹脂製の基板に比べて厚さが10分の1程度と薄く、曲面にするなど取り回しがしやすいメリットがある。

エレファンテック創業者で代表取締役の清水信哉氏によれば、これまでフレキシブル基板は、特殊な部品だった。「従来はケータイのヒンジなど曲る部分にしか使わないというのが一般的でした。ところが今は軽量化のためにフレキシブル基板を使うケースが増えています」(清水氏)。軽量化のために最近のデジカメ製品などは中はほとんどフレキシブル基板がベースになっているそうだ。

コスト削減のためにフレキシブル基板を使うシーンも増えているという。部品点数の削減により、むしろコスト削減に繋がるからだ。たとえば自動車の方向指示器ではLEDに対して制御回路を搭載する基板とコネクターやケーブルが接続されているが、これをフレキシブル基板でやると、数点必要だった部品を「基板兼ケーブル」として1点で設計することができる。

エレファンテックが対象とする産業機器で多いのは、1つは1000〜3000台程度の専門性の高い機器類。例えば医療機器や食品の加工機などがエレファンテック顧客の製品だ。ロット数が少なく、多品種少量生産。後から機能追加のあるような機器でフレキシブル基板は生きてくるという。

開発の設計変更が多く発生するケースでも、短納期であるメリットが生きるため、PoCなど試作段階で使われることも増えているそう。「自動車メーカーなんかだと、PoCの段階で使っていただいています。新しく機能を付けたいというときに、いちいち型を作ると大変なんです。フレキシブル基板なら非常に安く、多くの試作ができます」(清水氏)

エレファンテックのイノベーションは「ピュアアディティブ法」と呼ぶ無電解銅メッキの新手法「P-Flex」にあるという。P-Flexの回路はフィルム上に吹き付けたナノ銀によるパターンに対して、銅メッキを成長させることで作る。回路というのは閉じたループもあるので、電気を流す「電気メッキ技術」は使えない。そこで電気を流さない無電解メッキという方法を使う。問題は無電解メッキはメッキ層の成長に時間がかかること。

銅メッキの溶液には銅イオンのほかに還元剤が入っていて、その濃度などで速度を調整するそうだが、成長を速めようとすると、ナノ銀がない場所(回路じゃないところ)にまで銅が析出してしまって精度が落ちるというトレードオフがある。これまではメッキ職人がこのプロセスの最適化を行っていたが、エレファンテックではここを現代的なフィードバック機構がある制御システムで最適化。反応速度が速くなりすぎたら妨害物質を入れたすることで、既存の10倍速のメッキシステムを開発したという。

「獺祭(だっさい)という日本酒と似ています。清酒づくりというのは昔は杜氏がいて職人が作っていた。それを科学的に分析してやったのが獺祭ですよね。メッキも同じで職人さんがいるのですが、われわれは現代の技術を使って、これまであり得なかった速度に速めたのです」(清水氏)

P-Flexは、印刷、インク、フィルム表面、メッキの制御などの複合的な技術によって成り立っていて、ナノ銀を密着させるためのフィルムで特許を取っているほかは独自技術。ここはブラックボックスのまま自分たちで持ち続けるという。

今後は両面基板や高精細化に取り組む。現在P-Flexでは最小線幅は200ミクロンだが、一般的な回路工場の100ミクロン程度にまで縮める。エレファンテックは製造技術周りのエンジニアを中心に、現在16人のチームとなっていて、新たに営業組織を立ち上げる。また東京・蔵前に自社工場を建設する。フレキシブル基板市場は年率10%以上で成長を続け、2022年にはグローバルで3.1兆円市場になると見ているという。

自動ネイルアート機、アパレル法人向けフリマなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(後編)

国内の有力VCと起業家たちが集まる1泊2日のシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp 10th」が、8月25、26日の2日間にわたって千葉県のオークラアカデミーパークホテルで開催された。イベント概要については、こちらの概要レポート記事をご覧いただきたい。

ここでは18社中9社を紹介する。ほかの9社については前編記事「盛り上がるARスポーツ、内視鏡+AIスタートアップなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(前編)」をみてほしい

Garage:カーパーツ専門ECのプラットフォーム

2011年の大学卒業後にトヨタ系列でモータースポーツやパーツ関連ビジネスを行うサード(LEXUS TEAM SaRD)に5年間勤務した中山祥太氏が2015年12月に創業したMiddleFieldは、クルマ・カーパーツ専門のオンラインEC「Garage」を運営している。

TechCrunch読者は東京都心部が多いのでピンと来ないかもしれないが(東京のクルマ保有率は40%と低い)、世界的に見ると自動車販売台数は伸びている。保有台数は12億台を突破し、特にアジア新興市場などでは伸びている。そしてその自動車を自分好みに飾りつけるアフターマーケットは日本だけでも1.2兆円、流通しているカーパーツは300万点以上にのぼるのだそうだ。

「これは自動運転の時代になっても変わらない。見落とされている最後のブルーオーシャンだ」(中山CEO)。日本のカーパーツ産業は注目されていて、日本国内だけでなく、将来はアジアにも市場展開できるという。

カーパーツ購入で問題となるのは「ネット上で探せない」ことと「オフラインで買えない」ことの2つ。たとえば、気になるパーツがあったとき、近所のオートバックスに行っても実際の商品が見つからない可能性が高い。一方、楽天やアマゾンといったECサイトは専門のデータベースではないので商品の検索性が悪いという問題がある。網羅的に情報を扱っているのは、いまも紙媒体だ。ネット上のECサイトについても、Web 1.0的なところがほとんどだという。例えばGarageでは自分が乗っているクルマの車種からパーツを検索するといった(2017年のネットユーザーなら当たり前に期待すること)ことができるという。

そこで紙媒体のページを大量に繰りながら作り上げたオンラインの専門ECサイトがGarageというわけだ。現在、1万2000点の商品を扱っている。カーパーツ購入体験のもう1つのペインポイントは、取り付け店舗を自分で探せないこと。そこでGarageでは1500のメーカーと全国9万店の整備工場を結ぶプラットフォームを目指しているそう。現在契約社数は160社で販売手数料は20〜30%。1.2兆円の国内マーケットに続けて、20兆円規模と見込まれる「アジアを制覇したい」(中山CEO)という。例えば、インドネシアの自動車の9割は日本車なので、データベースを英語化するだけで市場を拡大できるのではないかという。中国市場ではGarageと同じビジネスモデルでユニコーンとなったスタートアップ企業があるそうだ。

スマセル:法人間で在庫売買を可能にする繊維・ファッションのフリマサイト

アパレル業界で10年以上の経験を持つ福屋剛氏が2015年3月に創業したウィファブリックが運営するのは、法人間で在庫売買を可能にする繊維・ファッションのフリマサイト「スマセル」だ。福屋CEOによれば、世界中で廃棄されている繊維商品の量は年間8000万トンになるという。

売れ残りの不動在庫は、従来は二束三文で叩き売るか、産廃業者に出して廃棄処分にするしか選択肢がなかった。これを通常流通価格の30〜99%オフという価格で売買するのがスマセル。スマセルではサンプルの取り寄せや条件交渉といった業界の商習慣にしたがったUIでやり取りができるほか、エスクローサービスも利用できるそうだ。

これまで出張と電話・ファックスでやり取りしている業界に対して効率的な素材調達となる手段となる。20世紀の通信手段に依存していたため、売買成立まで2カ月、経費15万円という世界だった。商圏が狭くなりがちで、取扱商品点数が少ない、というのも課題だったという。しかし、「いまやアパレル業界でも誰もがスマホを使っている」(福屋CEO)とスマセルのようなサービスが受け入れられる素地が整いつつあるという。

世界のファッション市場は206兆円規模で、このうち約5%が在庫市場だとすると、約10兆円。10兆円を廃棄処分とせずに再生することができれば、90兆円程度に市場を拡大できるだろうと福屋CEOはそろばんを弾く。いきなりグローバル市場全体の話をするのはやや話が大きい気もするが、国境を超えたほうがいいケースもあるようだ。というのも中古品として流通させることはブランド毀損ともなるので、嫌うメーカーもある。スマセルでは販売条件を「海外のみ」とするなど販路制限ができる機能もあるそうだ。

例えば、あるファッションブランドが在庫アソートを5000枚出したところ、小売店舗も多数抱える大手流通グループが400万円(単価800円)で購入した事例や、大手デパートが高級タオルを単価200円で3000枚買うといった事例が出てきているそうだ。いずれも手数料は20%で、それぞれ80万円、12万円がスマセルの取り分となっている。

スマセルはサービス開始後に登録が150社と拡大していて、出品総額30億円程度まで膨らんでいる。今後は運輸関連企業と提携してグローバルロジスティクスのスキーム構築をしていくという。

INAIL:店舗設置ハードウェアで、15秒でネイルアートを実現

上海でネイルサロン、ヘアサロンを経営していた経験もある木下靖堂氏が創業したBITが提供する「INAIL」は凝ったネイルアートを描くハードウェアを使ったサービス事業だ。大きな血圧計のような箱型のデバイスに手を突っ込むと、ツメの位置や形を3次元的に認識してインクジェットプリンターに近いような方式でアートを描く。INAILによるネイルは人間が15分かかる作業を15秒で終わらせる。フリーハンドで描くよりも再現性が高いビジュアルを実現できる、としている。

過去20年で急成長したネイル市場は2500億円規模になるが、日本人女性のうち3割程度しかネイルしていないという。

顧客から見た問題は、所要時間が2時間半と時間がかかるとこと。8000円程度というコストも普及の足かせになっている、というのが木下CEOの見立てだ。INAILだと時間は8分の1、価格を3分の1で利用できる。一方、サービス提供側からすると、これまでネイルアーティストが持つ技術の伝授が難しいためにサービスを大きくしづらいという課題ががあった。

INAILのビジネスモデルはハードウェア販売の初期導入50万円と月額2万円でデータ配信、1回利用あたり900円など。現在INAILは自己資金で展開しているサービスだが、資金調達を行って初期導入費用ゼロのモデルを構築する予定。すでに東京の二子玉川や大阪の梅田で導入済みで、月商500万円程度のサロン(座席数10席、客数700名/月、客単価7500円)に設置することで40万円の売上貢献となる実績が出ているという。来客者の14%がネイルオーダーをしたという。

2017年4月から営業を開始し、8月には15台を販売。これまで計40台を出荷しているという。ネイル・ヘアサロンなどは全国に30万店舗あって、当面の目標は3000カ所に設置すること。ネイル市場の7%に相当する150億円を抑えて、その20%をレベニューシェアとして30億円の売上を作る。将来的にはネイルアートのコンテンツのマーケットを作ることや、キャラクターやアパレルブランドとの協業も考えているという。

Cansell:キャンセル料のかかる宿泊予約を個人間売買

TechCrunch Japanでも紹介したことがあるが、予約済みホテルの宿泊権を個人間で売買できるプラットフォームが「Cansell」だ。ホテルから届く予約完了メールを専用アドレスに転送するだけで手軽に出品できるのが特長で、ユーザー登録から始めても最短10分で出品できるという。手数料は売買成立に対して15%を売り手から取る。

2016年9月にリリースした当初は月間出品件数は10件程度だったのが、直近では80件程度に伸び、これまで累計366件の出品があったという。昨今のホテル予約のトレンドとして早期割引率が高く、そのぶんキャンセル料が100%となる宿泊サービスが増えているそう。このため、Cansellに出品される宿泊は高単価の予約が多くなっているという。出品されるアイテムのチェックイン日までの日数の平均は26日。少し意外な感じもするが、直前にドタキャンして売られる宿泊権というわけではないという。

これまでは出品しても売れ残った場合は、売り手としては単にゼロになってしまうだけだった。そのため最近新しい取り組みとして「出品」のほかにCansellによる即時の「買取」を選べるようにしたそうだ。すると、7割のユーザーが買取を選んでいて、元値の26%程度で買い取ることができているそうだ。

宿泊サービスの市場規模は4.4兆円。このうち800億円程度がキャンセルに相当すると見ているという。来月にはサービスの正式リリースを予定している。今後は、対象となるアイテムを国内ホテルから、飛行機の航空券、結婚式場予約、レストラン予約など、一定割合でキャンセルが発生している領域に展開することも検討しているという。

uuuo:卸売市場も仲買市場もバイパスしてスマホで繋がる水産市場

祖父も曽祖父も漁業従事者だったという鳥取県出身の板倉一智氏が創業を準備中の「Portable」は、スマホで繋がる水産市場を銘打つ「uuuo」(ウーオ)を11月にリリース予定だ。

水産業・流通では従来から漁港に近いところから始まり、消費地である都市部に向かって、「地方卸売市場」→「地方仲買市場」→「中央卸売市場」→「中央仲買市場」と流通経路があり、このプレイヤー数の多いバリューチェーンの中で最終価格がコスト高になる構造があった。

板倉CEOは「産地にとって安すぎる。中央市場にとっては高すぎる」と問題を指摘。単価3070円で出荷された魚が、小売では7920円となって売られているのが現状という。日本でも有数の漁港である境港を抱える鳥取県出身らしく、板倉CEOは「生産者が不利益を被る構造になっている。これは流通の問題」という。「どこにでも売れる、どこからでも買える」という水産流通の実現を目指していて、uuuoでは15%の手数料を引いても安く仕入れることができるようになるという。

この構造を変えられる2つの時代背景があるという。1つは2008年の卸売市場法の改正で自由化されたこと、もう1つは市場関係者はすでにネットやスマホを活用していること。Facebookなどでグループを作って魚の情報交換などを活発に行っているほか、LINEでグループを使って漁港と魚種、漁獲高からセリの価格を事前に決めるなどのコミュニケーションを行っているそうだ。

uuuoは出品も購入もスマホでできるという。さらに、関連データである市況や漁獲量の相場を見ながら取り引きできるようにするという。すでに漁業関係者がまとめた表データはネット上にあるが、これをグラフで可視化する。

uuuoが既存の水産スタートアップと違う点数はB2Bにフォーカスすること。まずは中国地方を中心に漁業関連者と連携する。国内水産業は2.87兆円市場で、このうち地方の1.7兆円を狙う。今後は産地仲卸免許を取得してオンライン取引所のプラットフォームにしていく。ゆくゆくは水産市場関係者間の取り引きだけではなく、東京の飲食店が直接地方から仕入れできるようにするという。

みんチャレ:習慣化率8倍、三日坊主防止アプリ

三日坊主防止アプリの「みんチャレ」を提供するエーテンラボは、2017年にソニーの新規事業創出部「A10 Project」から独立した、2017年設立のスタートアップ企業だ。2006年の入社以来、ソニーで放送業務用機器の法人営業やプレステのネットワークサービス立ち上げに従事していた長坂剛氏はイントレプレナーからアントレプレナーになった起業家だ。エーテンラボは2017年2月に6600万円の資金調達を実施している。

人生の9割は習慣でできている。それは分かっていても、何か新しい取り組みを始めても三日坊主になるのが人間の性。長坂氏によれば、習慣の定着にはコーチングが最も効果があると言われてるそうだが、人間の介在が必要だとスケールしない。そこでアプリ上で匿名の5人がチームを作って同じゴールを目指して日々進捗を報告し合うのが「みんチャレ」というアプリだ。

チャレンジのテーマは、英語、ダイエット、投資、ゲーム、早起き、朝活(勉強)、運動(ウォーキング)などがある。1人の利用者が複数チームに参加することが多く、ユーザーごとの平均参加チーム数は3チーム。

チームチャットで証拠写真を送り合って、励まし合って習慣化する。ダイエットであれば、食べたものの写真、語学学習であれば覚えた単語の一覧の写真などだ。写真報告を見たほかのチームメンバーは「OK」ボタンを押す。次々と承認されると、コインが増えてやる気がでるし、報告したいがために「少しだけやろう」という気になる。早速ぼくも10年ほどくじけ続けている「中国語」でみんチャレを使い始めたのだけど、「せめて1ページだけでも読んで写真を撮ろう」という感じで無理なく続いている。自分が撮影した写真はカレンダー上に表示されるので、30日表示のカレンダーで「欠けているところ」がないように毎日やろうという心理が働くのも良い感じだ。今日誰がアクションを起こして誰がサボったかが「3/5」のようにチーム成績として表示されるのも、ほどよいプレッシャーになる。全員が達成した日には「全員達成ボーナス」が出たりもする。

みんチャレを使って21日間なにかを継続した場合の習慣化の成功率は69%にもなるのだとか。これはアプリやコーチの助けなしに自分1人で習慣化をやろうとした場合の8%に比べて約8倍だ。7日継続だけでも50%の人が、90日間の継続だと90%の人が習慣化に成功してその後もやり続けるようになるそうだ。

匿名でチームに入れるのがポイントで、長坂CEOは「人は必死な様子をLINEやFacebookで見せたくないもの。毎日楽しく続けられて、自己肯定感が向上する」と話す。

みんチャレはGoogle Playの2016のベストアプリに選ばれたことがあり、現在DAUは1万。アプリは無料だが、企業向けに「公式チャレンジ」を月額98万円で販売売していく。企業は継続してもらうことで売上増や顧客満足度を上げられるほか、インサイトの取得やユーザーとのチャットにる接点を持てることなどがメリット。この9月からは高校受験参考書で学研プラスとの取り組みを始めるという。

nacodo(なこうど):マッチングアプリに欠けているのはお節介

フィーリングを定量化して相性の良い異性との出会いをサポートするという「nacode(なこうど)」を2017年7月にリリースしたのは、株式会社いろものの山田陵氏だ。これまでマッチングアプリなどの課題は、プロフィールが盛りすぎになる傾向があって、そのことで「ちょっと雰囲気が違ったな」という失望から交際に発展しないケースがあることと、という。

「なかなかメッセージをもらえないとということで、実物より良いものを掲載しがち。これは日本でもアメリカでも同じ問題です。それで交際に発展しているかというと、そうなっていない」(山田CEO)

山田CEOが調べたデータによれば、日本では生涯未婚率があがっているものの「お見合いと職場結婚が減っている」だけ。実は自由恋愛による結婚の数は減っていない。つまり、「おせっかいをしてくれる(人)ところが減っている」というのが仮説だ。nacodeは「世話焼きエンジン」と呼ぶアルゴリズムで、ここをサポートするという。交際率をKPIとし、人力とボットでデートのサポートサービスを展開する。

マッチング系サービスは、米国では「サードウェーブ」と呼ばれる世代交代が起こりつつあって、いまの日本でも次世代のマッチングサービスが台頭するタイミングだと山田CEOは話している。

Matcher:大学に関係なくワンクリックでOB訪問ができるサービス

2015年にアドウェイズに入社するも2週間で退職して起業した西川晃平氏が取り組むのは、大学に関係なくワンクリックでOB訪問ができるサービス「Matcher」だ。これまでのOB訪問には大きく2つの問題があったという。「出身大学のOBしか訪問できないこと」「手続きが面倒なこと」(名簿が紙)だ。

現在Matcherは学生1万2000人が利用中。「毎年ユーザーが入れ替わるので集客が難しいと言われてるが、年率300%で伸ばし続けていて、総マッチング数は4万件となっている」(西川氏)という。登録社会人ユーザー数は5000人(2500社)で、スタートアップ企業はもちろん、大企業や経産省といったところも利用しているそうだ。これまでに新卒30人の採用実績がある。

学生ユーザーからみればOB訪問のサービスだが、企業側からみれば、社内外からの紹介による採用ツールとなる。今後は社内紹介、社外の外部エージェントによる紹介、スカウト(企業から学生に声がけする)の3つでビジネスモデルでマネタイズを進め、新卒市場だけでなく、中途採用市場にもサービスの幅を広げたい考えだ。

Matchapp:恋愛板のGameWith、マッチングアプリと攻略情報を提供

「傘(からかさ)」という、ちょっと変わった自分の名字からパラソルという社名のスタートアップを2017年に創業した傘勇一郎氏が作るのは、男女のマッチングアプリと恋愛攻略情報を提供するサイト「Matchapp」だ。これは「恋愛板のGameWith」のようなもので、近年登録者数が増えているマッチングアプリについて、第三者の立場から使い方や、攻略法といった情報提供を利用者に対して行う。

傘CEOが指摘するのは「情報格差が発生している」ということ。出会いを求めるユーザーは、そもそもどのアプリを使うべきも分からない状況だという。

すでにマッチングアプリ各社はオウンドメディアなどで情報提供も行っているが、あくまでも自社の宣伝。一方、Matchappは中立的な紹介とすることで「本家より上に来るようにSEOをやる」(傘CEO)という。各社サービスをクロールしてアプリごとのマッチ傾向について定量情報を提供。またリアルなユーザーによる体験情報も掲載し、マッチングアプリ各社への送客ビジネスを構築する。

メディア基盤を固めた後には、有料の恋愛Q&Aアプリと、マンツーマンの3カ月交際コミット制とする恋愛指導のオンラインサロンという2つの課金サービスを展開することを考えているそうだ。いま関係者の間では2017年の秋にはマッチングアプリのテレビCM解禁が噂されていて、傘CEOは「2003年のゲーム解禁と似ている」と話している。

盛り上がるARスポーツ、内視鏡+AIスタートアップなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(前編)

国内の有力VCと起業家たちが集まる1泊2日のシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp 10th」が、8月25、26日の2日間にわたって千葉県のオークラアカデミーパークホテルで開催された。イベント概要については、こちらの概要レポート記事をご覧いただきたい。

ここでは18社中9社を紹介する。残り9社については後編記事「自動アートネイル機、アパレル法人向けフリマなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(後編)」をみてほしい。

総合1位●HADO:AR活用で身体を動かす「テクノスポーツ」を開拓中

TechCrunch Japan読者なら、ARを使って「波動拳」を打ち出すような動画をすでに見たことがあるだろう。2014年創業のmeleapが提供する「HADO」は、スマホ挿入型のヘッドマウントディスプレイによるARを使い、目の前の現実世界の上に「エナジーボール」や「バリア」などのエフェクトを表示する体感型ゲームだ。モーションセンサーを腕に付け、腕を振って技を放ったりバリアを張ったりする。

meleap創業者の福田浩士氏のビジョンは明確だ。サッカー、野球、テニスとアナログスポーツが生まれた後、工業社会になって「モータースポーツ」が生まれた。そして、いま生まれつつあるのはIT技術を活かした「テクノスポーツ」だ。スポーツ市場は大きくて、例えば米国のアメフト「NFL」は1.4兆円規模、英国サッカー「プレミアリーグ」は5000億円。そして勃興中のe-sportsは1000億円規模になっている。

meleap創業者の福田浩士氏

 

AR/VRでは商業施設での体験型アトラクションの波が来ているが、meleapが作りつつあるのは、e-sportsが現実世界ににじみ出してきたような世界観かもしれない。HADOのプレイヤー数は40万人を突破し、常設店舗数も国内13店舗、海外30店舗の合計43店舗にまで広がっている。2017年11月期では売上1億円を突破していて、海外比率は6割にのぼっているという。

2016年11月には世界大会「HADO WORLD CUP 2016」も開催。第2回は12月3日を予定していて優勝賞金は300万円だという。今後はローカルで練習会や店舗別大会をやり、プロ・アマの大会開催によって店舗ビジネスを加速させ、常設施設でのプレイヤー数を増やすことで収益を上げていくといのが構想だ。HADO以外にもARによる球技系、陣取り系などゲームの種類も増やし、2020年までに5種競技一体型施設をプロデュースするのが目標。

いわゆる「やりこみ要素」のある戦略性の高い対人でのチーム競技としていくことで、サッカー同様に「消費されないコンテンツ、何度もリピートして100年愛されるものを作る」と福田CEOは話している。

総合2位●One Visa:ビザ申請のSaaSサービス

ペルー生まれで日本人とのハーフである岡村アルベルト氏が2015年に創業したResidenceは、ビザ申請・管理サービス「One Visa」を2017年6月から提供している。過去に友人が強制送還されるのを目の当たりにした体験から「世界から国境をなくす」ということをミッションとして、個人や法人向けに外国人労働者のビザ取得のSaaSサービスを展開している。

岡村CEOは品川の入国管理局で受付窓口現場責任者として年間2万件のビザに携わった経験がある。このため、どういう書類の作り方をすると申請が通りやすいか、といった深いノウハウまで持っているのが強みという。ビザの審査で大切なのは就労の場合であれば、会社規模、学歴、仕事内容、本人の経歴。これを「理由書」と言われる書類にまとめる。この理由書いかんで許可率が変わってくるそうだ。One Visaでは複数あるテンプレートのうち許可率が高くなるものを選べるという。

従来の手続きでは準備期間に1週間から1カ月、代理申請に10万円の費用がかかる。これをOne Visaは効率化。18種類必要な書類のうち、何が必要かを自動診断して雛形を作成。代理申請を4万円で行えるようにしている。1〜3日で申請ができて、入国管理局に出向いたときの平均4時間という待ち時間もなくなる。

法人導入の実績は68社で、大手コンビニなども導入を検討しているという。対象市場は成長していて、例えば昨年実績でビザ発給数は165万件で前年比6%で伸びているという。外国人を雇用している会社の数も17万3000社と前年比13%増となっている。より多くの日本企業が外国人を雇用しているということだ。2020年までにはビザ申請数は191万件とみていて、市場規模として2000億円規模になるという。

今後Residenceではビザ管理サービスを足がかりにして、アルバイト管理サービスや外国人居住者向けの与信情報提供サービス「One Trust」まで展開することを目指しているという。

総合3位●AIメディカルサービス:AIによる内視鏡画像診断で胃がんを発見

20年におよぶ内視鏡医師の経験と知識を生かすべく「AIメディカルサービス」の立ち上げ準備中なのは医療法人「ただともひろ胃腸科肛門科」を運営する多田智裕氏だ。医療画像をAIで診断というと、IBM Watsonの事例などが広く知られているが、内視鏡検査では日本に地の利があるのだという。

本格的な内視鏡はオリンパスによって1950年代に日本で開発され、いまもグローバルでの日本のシェアが大きい。少し古いが特許庁がまとめた2012年のデータだと、日米欧市場のすべてでオリンパスが約半分という高いシェアを取っている。医療画像データといっても、MRIやCTスキャン、X線写真などもある。これに対して内視鏡は直接臓器を中から見ているので情報量的に有利だそうだ。

内視鏡検査による画像データの蓄積と、診断経験をもつ専門医の数では日本がリードしている。「10年くらい、1万症例くらい見れば(早期の胃がんなどが)分かるようになります。でも、そういう話をするとアメリカでも中国でもクレイジーだと感嘆されるのです」(多田医師)という。

画像情報として有利とはいえ、診断が難しいことに変わりはない。たとえ医師であっても、専門医でなければ内視鏡画像を見ただけで早期がんを見つける「正解率」は31%程度にとどまるのだという。「たとえ内視鏡の専門医がやっても6〜7割程度。人工知能と専門医でダブルチェックとすることで見落としのない医療が実現できる」(多田医師)。

診断が難しいため、現在でも胃がん診断はダブルチェック体制を敷いているそうだが、人間の医師による診断に加えてAIの診断を組み合わせることで高い精度で診断が可能になるという。世界で初めてというピロリ菌胃炎の診断では、すでにディープラーニングで医師を超える診断精度がでているそうだ。「人間の医者を超える実績が出始めているので会社を立ち上げようと思った」(多田医師)。

すでに内視鏡画像を、その後の患者の病理データと結びつけるという地道な作業をすることで50万枚規模で有効なデータを収集済み。各地の医療機関と連携することで年間100万枚体制の確立を目指すという。

AIが医師を置き換えるのではないか。そんな疑問に対して多田医師は、そうではないという。見落としがないことが重要な検査であることから、ダブルチェックにAIを用いるのがポイントで、そのことで医師の検査負荷が減るという。精度があがれば、医療機関にとっては集客力アップにつながる。

胃がん検査で実用化ができれば、大腸がん、食道がん、潰瘍性大腸炎に対象を広げる。また、動画によるリアルタイム診断も可能といい、いずれそうした診断は全世界で必須の検査になるだろうという。診断に用いるAIとしてはディープラーニングのほかに、産総研がもつ「高次局所自己相関関数」という技術も利用するそうだ。医療大手と提携して世界に広めることで、年商300〜400億円を目指す。

DroneAgent:地方のラジコンショップもドローン専門店に

リクルートで「調整さんカレンダー」の立ち上げに携わったという峠下周平氏が立ち上げたドローンEC「DroneAgent」は、ドローン販売で課題となっていた実運用の情報不足やサポート不足を解決するサービス。建設・土木現場の測量目的での空撮やインフラ点検などで徐々に立ち上がりつつあるドローン市場は、2020年には1400億円市場に成長すると言われている。これに先立って、すでに「ドローンEC」という市場自体は150億円規模になっていると峠下CEOは指摘する。

DroneAgentの峠下周平氏

このドローンEC市場の課題は導入サポート能力。今のところドローンはラジコンショップや家電量販店が販売しているため、十分な情報提供ができていない。

そこでDroneAgentでは購入検討時のサポートをチャット、電話で行なったり、購入時の大型機のセッティングやメンテンスサービスを提供している。月間10万PVのドローン専門メディアで集客や啓蒙も行っている。例えば、栃木県にある販売店にノウハウを提供し、ラジコンショップだったものを月商100〜400万円のドローンショップに転身させた事例があるそうだ。ほかにも、映像制作会社からの「シネマカメラが搭載できるドローンがほしい」という問い合わせをサポートするなど500社以上の取引実績があるという。ドローン活用の法人需要では、ただ飛ばすのではなく、達成したい目的がある。だから、何ができて何ができないかといった相談が多いという。

現在DroneAgentのメンバーは9名。ドローン講師や元カメラマンなど平均31歳のチームで月商1000万円の黒字経営を達成していて、ドローン販売の商社を目指しているそうだ。

Co-LABO MAKER:実験機器のAirbnb

「研究大好き」という古谷優貴氏は根っからの研究者だ。東北大学や大手企業で、放射線検出用結晶材料とか、電力制御などに使われる「パワー半導体」の結晶の研究開発・事業立ち上げに携わってきた。そんな古谷氏が2017年4月に立ち上げたのが「実験機器のAirbnb」というCo-LABO MAKERだ。大学や企業で使われておらず遊休資産となっている高価な実験機器を、それを使いたい研究者とマッチングするプラットフォームだ。

例えば古谷CEO自身が院生時代に使っていた「フッ化物結晶成長装置」。もちろん古谷CEOが研究をしていたときには稼働率100%だったが、それが今や稼働率ゼロ。大学や企業にはそうした実験器具が多いのだという。その一方、研究したいネタがあるのに設備がないという研究者やベンチャー企業がある。実験器具は数百万円から数億円と高額であるのに対して個人や小さなチームが持つ研究費は100万円以下ということが多いからだ。

日本国内の研究開発費は18.9兆円規模にのぼり、外部委託研究費だけで3.2兆円あるという。そこにあるミスマッチにより、「価値のある人材や機器が生かされていない」(古谷CEO)というのがCo-LABO MAKERが解こうとしている社会課題だ。

「実験機器のAirbnb」とはいっても、Co-LABO MAKERはAirbnbとは大きく異る。というのも、Airbnbで扱うアイテムは「宿泊」という、ほかの出品アイテムと交換可能なコモディティーであるのに対して、実験機器というのは専門性が高いからだ。フッ化物結晶成長装置を必要としている人に、有機合成装置は無用なのだ。

現在Co-LABO MAKERはα版で、実験機器の登録を集めているところ。年内に3000台以上の登録を見込んでいるという。実験機器のシェアリングやマーケットプレイスの市場で先行するスタートアップ企業としては、「研究開発版のebay」と言われ、すでに約68億円の資金調達している「Science Exchange」があるが、国内は市場が未成熟なのだとか。Science Exchangeでは平均単価は30〜50万円、提供機関数は2500、手数料は3〜9%といったところだという。

効率化やお金を稼ぐことに関心の薄い大学や研究機関にとっては機会損失をなくすというのは大きなインセンティブになるかどうか分からない。ただ、実験器具を開放して門戸を開くことで人的な交流が生まれてオープンイノベーションが促進されるという面に期待する企業などは多いだろう、という。「企業が自社のリソースのみでイノベーションを起こすのは難しくなってきている」(古谷CEO)からだ。

Co-LABO MAKERはマッチングプラットフォームとして立ち上げてスケールさせ、その後には研究や、研究者に関するデータを蓄積していくことで、R&Dの総合プラットフォームを目指すという。

Comiru:学習塾の紙ベースの業務をデジタルで効率化

住友3M、オプトを経て2011年からは学習塾の共同経営者として塾運営に5年ほど関わってきたという栗原慎吾氏は2015年月にPOPER創業した。POPERは学習塾向けの経営支援プラットフォーム「Comiru」(コミル)を運営している。

栗原CEOは、学習塾の業務のうち授業が占めるのは3割にすぎないという。残り7割は保護者連絡、成績管理、授業準備といったことで、こうした業務が先生たちの負荷となっているという。例えば、生徒の指導報告は紙ベース。手書きで1000文字も書いていて、これだけで月間30時間の業務量になっている。

一方、学習塾の先生の80%はデジタルネイティブの大学生だ。保護者の80%もスマホを所有している。今こそ教室運営のSNSが求められている、というわけだ。栗原CEOがデモで見せたのは指導報告のWebフォームの入力画面。登録済みの教材をドロップダウンで選び、評価点を5つ星から付けるネット系サービスでは常識的なUIを使ってサクサクと入力できる。今のところ保護者コミュニケーションの業務課題に絞っていて、「業界経験者だから効率化ができる。保護者が納得しないとビジネスとして成立しない」と栗原CEOは話している。既存競合サービスに比べて、保護者向けアプリやクレジット決済の提供、講師同士の成功事例共有コミュニティーといった機能で差別化をしているという。

Comiruは2016年7月のローンチで、現在契約社数は80社、生徒アカウントは6500。10万件以上のコメントが生まれているという。ビジネスモデルとしては学習塾からIDあたり月額200円をチャージする。ただ、保護者の利用のスティッキネスは高く、MAUが98.6%、解約率が0%というのはサービスの特質を物語っている。業界最安値で競争優位を保ちつつ、API公開を進めてエンプラ向けの展開も視野に入れているという。

Comir運営のPOPER創業者 栗原慎吾氏

プランテックス:植物工場のプラットフォームを作る

モヤシやカイワレは農作物というよりも、もはや工業製品。自然のなかの土壌で育てるのではなく、実は工場で「生産」しているケースも増えている。ということは、TechCrunchの読者ならご存じだろう。植物の成長に必要な光、二酸化炭素、養分を調整した環境を用意して屋内で栽培する「植物工場」だ。太陽光ではなく白色LEDを利用する完全制御型の植物工場の産業化に取り組んでいるのが山田耕資氏が2013年に創業したプランテックスだ。

山田CEOによると「植物工場産業は始まったばかり」で、日本がいちばん進んでいる分野なのだそう。世界に約400社ある植物工場のうち半分の200社は日本にある。米国などでは広大な土地があるために農業の近代化自体は進んでいるものの、室内でチマチマ葉っぱを育てるという「都市農業」は日本のほうが先を歩んでいるということらしい。

工場出荷の野菜はメリットが多い。苦味が少ない上に無農薬で細菌が少ないため、出荷後に日持ちする。洗わずに食べられる。こうした特長によりコンビニでレタスの入ったサンドイッチの賞味期限が3日から4日に伸びた、というようなことがあるという。工場野菜は形や色、栄養価が均一にしやすく、天候に左右されずに生産量が安定するというメリットもある。

課題は植物工場の野菜は利益が出しづらいこと。上記200社のうち40%以上がいまだ赤字なのだとか。

プランテックスでは、環境制御ができるハードウェアと、それを管理・分析するクラウドプラットフォームの「SAIBAIX」を組み合わせて、植物生長の原理を数式で解明。これまで農業といえば、温度や湿度を計測して灌水タイミングを制御するというようなことはあったものの、そこがポイントではないのだそう。植物の成長は重さの変化で計測して成長速度の指標としたり、植物から水分が抜ける蒸散速度や逆に吸収速度を可視化することが大事だという。

面白いのは植物工場では根っこを「不良品」と見るような発想の転換が起こっていること。根っこは食べられない余計な生産物だからだ。

従来の畑の土での栽培では作物が根を張り巡らせるのは生存本能として自然なこと。しかし、水耕栽培の工場野菜では根っこは水を直接吸い上げることができる。根っこは浅い水にちょこっと浸している程度で十分。植物工場では非可食部の根っこの量を減らして、従来全体の重量のうち20%あった根っこを、5%程度に抑えることに成功しているという。根っこからの養分の吸収は浸透圧によるものなので、実は境界面の圧を一定に保つことが重要だそうだ。そのために流水を使う。これにより成長速度は上がる。

植物というのは成長して体が大きくなると、そのぶん光合成の速度も上がる。一種の複利効果が働く。だから上記のような数%の改善の積み重ね効果は大きく、同じ栽培日数でもレタスやバジルで平均収穫重量を2倍にするなど実績が出始めているという。

これはすごいことで、例えば年商2億円の農作物生産が薄利のビジネスだったとしても、それが利益率50%超の売上4億円のビジネスになるということだ。そして山田CEOは「生産性は2倍ではなく、3倍、4倍と上げていける」と話している。

SAIBAIXでは水耕栽培するための桶のような容れ物を利用しているが、現在は専用ハードウェア「PLANTORY 01」の開発に着手している。まるでデータセンターで19インチラックのサーバーを積み上げるかのように棚に積み上げて、部屋を満たす。温度分布が一定になるようなど精密に制御するシステムをテストし始めているそうだ。

プランテックスは、こうした人工光型植物工場の生産性向上の各種サービスを提供していて、創業2期目にして黒字化しているという。

日本の代表的な野菜であるトマト、いちご、きゅうり、ネギ、レタス、ほうれん草だけでも市場規模は2.8兆円。レタス市場をみると、米国だけで日本の7倍と農作物の市場は大きい。今後は葉物以外にも根菜類、花卉類、果物も植物工場で生産できるようになる可能性がある。そこのプラットフォームを狙うプランテックスの山田CEOは「工場と名が付く分野は日本がプラットフォームを握れる」と話している。

教育図鑑:「受験生や保護者」と「学校・塾」を圧倒的情報量でつなぐ

NTT本社企画部でロボット型検索エンジンgoo立ち上げた3人の1人という矢野一輝氏が2017年に入って本格運用を始めた「教育図鑑」は、旧態依然とした「学校・塾」の情報を網羅して整理したサービスだ。「教育は高額商品であり取替リスクも高い。それなのに購買決定のための十分な情報がない。慎重に、細かく見比べて選びたくないですか?」と矢野CEOは現状の課題を指摘する。

業界で定番となっている紙媒体だと学校名や住所を含めて27項目しか載っていないが、教育図鑑では各校共通の400項目の質問・回答でデータを構成。例えば、費用、進学実績、いじめ対応、ノート比較、父母・OBの評判、学校の雰囲気、在校生・先生に聞いた自校の好き・嫌い、入試問題分析などがあるという。項目ごとの比較ができるUIを用意しているのも特徴だそうだ。「こうしたコンテンツは読者、学校、塾からの評判が良い」(矢野CEO)

学校コンテンツはインタビュー記事も含むが、制作費は1校あたり3万円程度に抑えていて、すでに384校分のデータを用意する(取材済み40校)。掲載塾数は約8000教室、小学生会員は4万8000人となっているそうだ。

ビジネスモデルは学校・塾からのCMS利用料と資料請求報酬。例えば学校向けプランではCMS利用が40万円、資料請求1件あたり3000円といった料金。塾などは売上の7%程度を広告費に割いているが、このCMS利用料などは、塾がチラシを作って配布するときにカラーチラシを安いモノクロに切り替える程度で浮かせられる予算だという。

ネット上の競合にはイトクロの「塾ナビ」があるが、そうした最大手ですら年間3700億円あると見られる広告費や、2万5000校ある全国の塾全体の数%程度しか獲得できておらず、「ネットはまだこれから」(矢野CEO)という市場。まず首都圏の中学校からスタートし、高校・大学、専門学校へと縦に広げ、続いて近畿、政令指定都市と地理的な横展開を2018年夏以降に進めていくという。

教育図鑑は「実名」を基軸とした新世代だと説明する矢野一輝氏

 

ちなにみ、矢野CEOは「大学教授でありながら、前回起業時には(資金ショートで社員に給料を払えなくなったことから)コンビニでバイトすることにまでなった」というほどの辛酸をなめた経験がある「2度目」の起業家だ。1度目の起業では大型資金調達もしたが、結果は実らなかった。Incubate Campの会場には、1度目の起業で矢野氏に投資していたベンチャーキャピタリストも審査員として来場していた。その1度目の起業で矢野氏を支援したベンチャーキャピタリストから「前回の失敗から学んだことは?」という質問が投げられた。恐縮しきっていた矢野CEOが「あのときは大変なご迷惑をおかけしました」と述べ、手短に冷静な分析を訥々と語り終わると、会場からは温かい拍手が自然と沸き起こった。「失敗に寛容な文化」というのはお題目ではない。挑戦するべきことに挑戦して善戦したのであれば、また支援してくれる人たちがいるということだと思う。

GIFTED AGENT:発達障害者に特化したプログラミング教育

母がアスペルガー症候群の診断を受け、障害者だからという理由で才能を生かせない社会に問題意識を持ったという河崎純真氏が創業した「GIFTED AGENT」は、発達障害者に特化したプログラミング・デザイン教育を行う教育・人材事業の会社だ。

渋谷で開校したGIFTED AGENTの利用者は現在40人。未踏エンジニアなど3名が講師を務めていて、すでにセキュリティーやVR、データサイエンスといった専門性の高い領域でエンジニア4人を輩出したという。ビジネスモデルは福祉施設として国から助成金を受けることと、就職時に企業から受け取る紹介料。現在、月間売上400万円で単月黒字を達成している。

今後は渋谷に加えて東大前や早稲田にも拠点を作り、生徒数100名を目指す。対象となる発達障害の若年層は日本全国に約100万人いると言われている。2013年に改正された「障害者雇用促進法」(障害者の雇用の促進等に関する法律)において、身体の障害に加えて「発達障害」が明記されたことを受けて、事業として追い風も吹いているという。

そういう教育事業を運営しながらも、現在25歳の河崎CEOが実現したいのは、能力に偏りがあって社会適応がうまくいかない人たちでも生きやすく、適切な富の配分が行われる社会を作ることだという。現在の資本主義とそれに根ざした国家や金融システムは、資本家と、その奴隷という分離を生んでいて、そうした社会システムを新しいモノで書き換えたいという。

既存社会システムを変革するのはきわめて困難なので、それとは別に新しく国家や経済システムが回る仕組み作る。そのためにコミュニティーのための暗号通貨の交換所と、国家を作るための枠組みとして「Comons OS」というプロジェクトに取り組む。国家というのは今は地理的境界線を輪郭として言語や軍隊、文化、法や通貨を共有しているが、その一方で華僑ネットワークのように何かのアイデンティティーを共有したコミュニティーというのもある。近い将来、物理的制約と離れて、いまの10倍とか100倍程度の数の国家が生まれるのではないかと、と河崎CEOは話す。彼は試みとして南富良野で新しい社会を作るという実験をやり、70人の小さな経済圏を独自通貨を使ってみたりしたそうだ。ブロックチェーンによって税金や条例、住民の管理ができるという。

Common OSについて説明する河崎純真氏

 

残り9社については、こちら:自動アートネイル機、アパレル法人向けフリマなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(後編)

日本のシード期スタートアップの多様化とレベル向上は顕著だ―、10回目のIncubate Campが開催

国内の有力VCと起業家たちが集まる1泊2日のシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp 10th」が、8月25、26日の2日間にわたって千葉県のオークラアカデミーパークホテルで開催された。Incubate Campは2010年から始まったイベントで、今回が10回目だ(初期には年2回開催)。日本のシードアクセラレーターの中では草分け的存在の1つだ。これまでにラクスルやGameWith、airCloset、シナプスなどを輩出している。

参加したのは18人のベンチャーキャピタリストと、18人の起業家、それにVCや経営者、スタートアップ支援関係者ら10人の審査員だ。

集まった審査員やベンチャーキャピタリストたち

イベントを主催しているのは独立系VCのインキュベイトファンドだが、参加ベンチャーキャピタリスト18人のうち14人はグロービス・キャピタル・パートナーズ、インフィニティ・ベンチャーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、ANRI、YJキャピタルなど外部の「ゲストベンチャーキャピタリスト」。Incubate Campは、国内で有力なスタートアップ・VC業界の主要な顔ぶれが集まる招待制イベントの1つとなっている。

今回で10回目となったIncubate Camp 10thでは250人以上の起業家から申し込みがあり、この中から18人が選出されて参加。初日午前にベンチャーキャピタリストたちに向かってピッチを行い、その後は、こちらの記事にあるように起業家とベンチャーキャピタリストが1対1でペアを組んで事業プランやピッチをブラッシュアップ。2日目には審査員たちの前で、説得力と事業フォーカスを研ぎ澄ませたピッチを行った。

18人のベンチャーキャピタリストと18人の起業家は半日かけた「総当り」で、事業計画やブロダクトについて話し合った

シード資金ではなく、シリーズA調達の場に

Incubate Campのポイントは、駆け出したばかりのシード期の起業家に対してベンチャーキャピタリストらが資金のみならず事業のアドバイスを積極的に与えて議論するというところにある。ただ、18社のピッチを見終わったときに少なからぬベンチャーキャピタリストたちが苦笑いとともに、こぼしていた感想は「足りないものは資金ですか? という感じですよね」というものだった。

すでに事業シーズとして十分に投資検討に値するスタートアップが多く、半日程度の短時間のハンズオンでは付加価値を出しづらいという意味だ。あるベンチャーキャピタリストは18社のうちほとんどが採点結果が5点満点中4点だったとも言っていた。5点は「投資しても良い」で、4点は「問題点は残っているが克服可能。議論を通して投資を検討したい」という採点基準。

かつては数百万円のシード資金獲得を目指すのがIncubate Campという場だった。それが今はエンジェル投資家やアクセラレーターの増加などシードマネーが増えた結果、MVPを作ってトラクションも出始めたサービスの起業家がシリーズA調達を求めて参加する場になっているようにみえる。実際、昨年の第9回参加スタートアップ企業のその後をみると、12社中9社が資金調達を実施して、その総額は約7.2億円となっているという。

Incubate Campスタート時の2010年と今とでは資金調達環境の違いがある。だから単純な比較はできない。それでも、ここ数年での日本のスタートアップのレベル向上には著しいものがあるとは言えるだろう。

ベンチャーキャピタリストに向かってプレゼンする起業家

植物工場や、がん早期検知のスタートアップまで

参加する起業家の多様性も増している。

例えば植物工場のIoTスタートアップだとか、現役医師たちによる「内視鏡検査+AI」、アパレル業界のベテランによるファブリックのB2Bマーケットプレイスのスタートアップというように、各業界のベテランや専門家が起業しているケースが増えている。

これまで主にネット上で完結していたソフトウェアやネットワークによるイノベーションだが、その波がいよいよ現実社会の深いところへ波及する段階となってきている。あるベンチャーキャピタリストは、「インターネットを持ってきてマーケットプレイスを作るだけで大きな利益を生み出す業界というのは、まだまだあるということを思い出した」とコメントしていた。

さて、イベント全体のレポートはここまでにして、さっそくIncubate Camp 10thに参加した18社を一挙に紹介しよう。総合順位とベストグロース賞の順位は以下の通り。

【総合順位】
1位 HADO(meleap):AR活用で身体を動かす「テクノスポーツ」
2位 One Visa(Residence):ビザ申請・管理のSaaSサービス
3位 AIメディカルサービス:AIによる内視鏡画像診断で胃がんを発見

【ベストグロース賞】
1位 AIメディカルサービス:AIによる内視鏡画像診断で胃がんを発見
2位 DroneAgent:ドローン販売サービス
2位 Co-LABO MAKER:実験機器のAirbnb
※「ベストグロース賞」とは起業家が持ってきた事業プランや初日のピッチに対して、ペアを汲んだベンチャーキャピタリストが助言をした結果として、2日目の最終ピッチで「差分」が大きかったチームに送られる賞だ。

優勝したmeleapの福田浩士氏と握手をして投資を約束するインキュベイトファンドの和田圭祐氏

 

すでに記事がだいぶ長くなっているので、18のスタートアップ企業については、別記事2本に分けて掲載する。

盛り上がるARスポーツ、内視鏡+AIスタートアップなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(前編)

自動アートネイル機、アパレル法人向けフリマなど:Incubate Camp 10th登壇企業紹介(後編)