ブロックチェーン技術による事業者向けサービスや暗号通貨ウォレットを提供するGincoは4月8日、DBJキャピタルを引受先とする第三者割当増資により、資金調達を実施したことを明らかにした。金額は非公開だが、関係者によれば「億単位」の調達とのこと。今回の調達はプレシリーズAラウンドに当たり、2018年1月発表の1.5億円の資金調達に続くものとなる。
ブロックチェーン事業者の規制・セキュリティの課題を埋める
Gincoは2017年12月の設立。創業当初はクライアント型のウォレットアプリ「Ginco」を個人向けに開発・提供しながら、非中央集権の分散型サービスへの入口としての役割を目指していた。Ginco代表取締役の森川夢佑斗氏は「ブロックチェーン技術の社会実装・普及は、仮想通貨から始まるという見立てだった」と個人向けウォレットサービスから事業をスタートした理由を説明する。
「この見立ては正しかった」と森川氏。ただ、ブロックチェーンの主軸がパブリックチェーンといわれるオープンなものから、エンタープライズユースへと移り、急激に伸びていく中で、「法人向けのシステム提供へと大きく事業の舵を切った」と語る。現在Gincoでは、暗号資産やセキュリティトークンの業務用管理システムを提供してブロックチェーン技術を活用したサービスを開発・提供する事業者を支援する、法人向けのサービスを主力事業としている。
個人向けウォレット開発を通して、ブロックチェーンサービスを提供するためのシステム基盤を構築してきたGincoでは2019年1月末より、ブロックチェーンの鍵管理やAPI、ノードなどの技術をモジュール化。他のサービス開発事業者でも利用できるようにした。
2019年2月には、仮想通貨取引所向けの暗号資産管理システム「Ginco Enterprise Wallet」の提供を開始。ブロックチェーンノードの導入・運用サービスや業務用ウォレット、事業者独自のユーザー用ウォレットの開発など、仮想通貨取引所を運営する事業者がサービスづくりに集中できるよう支援を行う。
また同月、日本マイクロソフトとの提携により、ブロックチェーンサービス事業者向けのクラウド型ブロックチェーン環境「Ginco Nodes(ギンコ ノーズ)」の共同開発も開始しており、インフラとしてのノード提供にも取り組んでいる。
他業種に比べて大きくブロックチェーン活用が進んでいるのは、仮想通貨取引所をはじめとする金融領域の事業者だ。「日本ではこの1年ほど、特に『規制』と『セキュリティ』が、金融領域でブロックチェーンサービスが社会に受け入れられるための課題としてあった。事業者の課題とのギャップを埋めるソリューションとして、我々はいろいろなプロダクトを提供するようになった」(森川氏)
革新的サービスと規制・セキュリティ対応は両取りできる
2019年6月に公布された改正資金決済法では、交換業者のユーザーの資産保護に加えて、暗号資産の管理のみを行うカストディ業務についても規制が強化された。森川氏は「規制強化により、システム面のほか、オペレーションのスタッフやエンジニア増といった体制面でも、事業者は対応を迫られ、ビジネス規模とは別の部分でコストが大きくかかるという問題に直面している。スタートアップなどの小規模なところでは撤退する事業者も現れているが、私たちは(革新的なサービスと規制・セキュリティへの対応は)両取りできると考えている」と述べている。
「でなければ、テクノロジーの発展の意味はない。ブロックチェーンはそもそも、安全性や信用をこれまでより安価で効率よく構築できる技術として現れたもので、我々もそこに期待してこの領域で取り組んでいる。イノベーションと安全・安心の両取りができるようなソリューションを事業者へしっかり提供していくことで、真にブロックチェーンの技術的な価値を社会に適用させたい」(森川氏)
森川氏は「元々は、仮想通貨のウォレットで秘密鍵を個人が持ち、非集権的な個人主導の経済・金融の実現を描いていた部分もある」としながら、直近の事業展開については「実際に社会適用の観点で見ると、仮想通貨、特にビットコインについては2018年ごろから規制がきちんとでき、そこから取引高が日本でも大きく伸びた経緯がある。規制準拠とマーケット拡大とは、なかなか切っても切り離せないところがある。となると、事業者を通じてブロックチェーンが利用されるケースが多いということになる」と述べている。
また「一般向けでブロックチェーンを使った新しい顧客体験を生み出すようなサービスが登場するには、まだ数年かかるのではないか」という森川氏。まずは法人向けソリューション提供にフォーカスするとして、次のように語った。
「ブロックチェーンのエンタープライズユースは増えているが、ほとんどは業務改善・業務効率化といった文脈で活用されているケースが多い。金融業でいえば、発行社債の効率化や不動産登記への活用などが日本では進んでいるところ。また海外では医療系で電子カルテへの活用といったユースケースが増えており、適用されるユースケースはある程度、決まってきている。その中でまずは、我々が培ってきた技術を適用して、ソリューションとして提供していく。実際に進む領域に合わせて、事業者にブロックチェーンを使ったしっかりしたソリューション、社会適用できる、ギャップを埋められるソリューションを提供していきたい」(森川氏)