新しいスマートホームデバイスが登場するたびに、新たな疑問が湧く。利便性を得るためにはプライバシー、セキュリティ、そして他には何を諦めればいいのかという疑問だ。新製品を自宅に導入し、こうした話題を持ち出して評価するのは、アンチテクノロジー派だからというわけではない。
筆者について言えば、自宅のスマートホームテクノロジーは大したことはない。大型のスマートスピーカーを2台と、もう1つ小型のスマートスピーカーを持っているが、主に、各部屋に音楽をストリーミング配信するのにネットワーク接続が便利なためだ。安心のために、インターネットに接続された煙感知器を使用していて、以前長期間家を離れていた頃は火事になっていないことを確認していた。それから、スマートライトもいくつか使用している。理由は言うまでもないだろう。
Google(グーグル)がファーストパーティーのスマートスクリーンであるGoogle Home Hub(現在のGoogle Nest Hub)を発表した時、カメラを搭載していないことは賢明な判断だと思った。もちろん、同社は大型のMaxモデルにカメラを搭載しているため、望めばカメラのオプションはある。こうした製品の大半にとって、ビデオカメラはあって当たり前の機能だ。そして当然のことながら、新しいEcho Show 10(エコーショー10)のようなスマートスクリーンは、仕事と家庭の境界がかなり曖昧になってきている多くの人のために、電話会議の機能も備えている。
画像クレジット:Brian Heater
その点、Amazon(アマゾン)はよくわかっているようだ。デバイスの上部に大きな物理的な目隠しのボタンを追加している。ボタンを右にスライドさせると、右上のカメラは白いレンズカバーで覆われる。黒いスクリーンフレームとはコントラストになるため、離れたところからでもカメラが隠されていることが簡単にわかる。カメラを覆うと「カメラオフ / モーション機能無効」といったポップアップ通知が表示される。
この「モーション」とは、アマゾンの最新Echo Showの代表的な機能である回転するスクリーンのことだ。同社は、この新しいテクノロジーをこのカテゴリーでのゲームチェンジャーとして位置づけている。正確で静かなモーション機能を実装したことは良い仕事と言えるが、一方でこの追加機能は、間違いなくプライバシーの問題を再燃させるだろう。
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周囲に溶け込むようなホームデバイスを作るというコンセプトは、この機能には当てはまらない。Echoは、人物追跡を使用して、ディスプレイが常にユーザーの方を向いているようにするとともに、ユーザーの意識をEcho自体にも向けさせる。デバイスが人物追跡に画像処理とAIを使用していることに薄々気づき、なんとなく理解していても、実際のところ大抵は気にならなくなってしまうだろう。どのみち、今ではほとんどすべてのものにカメラがついている。そういったデバイスはもはや、日常的に使用しているソーシャルメディアやサービスの一部だ。しかし、デバイスが部屋の中にいるユーザーの動きに物理的に追従すれば、ユーザーはこのデバイスを意識せざるを得ない。
数日間Echo Showを使用した限りでは、この機能を必要と感じたことはあまりなく、ギョっとさせられたことさえある。机の上で、この記事を執筆しているパソコンと並べてEcho Showを置いているが、この機能は普段無効にしている。そのうち慣れるものかもしれないが、この機能を使う時は比較的限られているし、必要ならば手でディスプレイをこちらに向けて、スクリーンの角度を調節すればいいので、固定した状態で使おうと思っている。スクリーンの調整はいつもしていることだ。何の問題もない。
アマゾンは、デフォルトでスクリーンをどの方向に向けておきたいか、左右にはそれぞれどの程度回転させたいかなど、セットアップの過程でこの機能についてひと通りの説明と設定の機会を提供している。留意すべきことは、Echo Showのシステムは、ユーザーが設定スライダーで調節するまで、実際に何が「真っすぐ」に相当するのか認識していないということだ。この設定は後からでも調節できる。「モーション設定」オプションもある。このオプションでは、ユーザーを追跡させて使うアプリケーションを制限したり、音声で確認しないとモーション機能を使用できないようにしたり、またはこの機能を完全に無効にしたりすることができる。
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もちろん、筆者は使用していない間はカメラのカバーを閉じておきたい性分なので、このカバーはなかなかいい具合だ。カメラが覆われた状態で、デバイスのモーション機能を作動させることはできない。デバイスは追いかけている対象を視認しておく必要があるからだ。スクリーンのモーション機能には、カメラを無効にし忘れたことを気づかせてくれるという、思いがけない副次的効果があることも付け加えておく。
アマゾンは当然のことながら、そしてありがたいことに、Echo Show 10の発表にともないプライバシーについても言及している。製品ページには「プライバシー」について8つの記載事項があるが、以下はそのキーメッセージだ。
マイク / カメラのオン / オフボタンや内蔵カメラを覆うためのカメラカバーなど、アマゾンは、何重ものプライバシー保護対策を用いてAlexa(アレクサ)およびEchoデバイスを設計しています。モーション機能は声やデバイス上、またはAlexaアプリからでも無効にできます。モーション機能を提供するための情報処理はすべてデバイス上でのみ行われるため、取得された画像や映像がクラウドに送信されることはありません。
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特筆すべきは、追跡機能は顔認識のような類ではなく、人の漠然とした輪郭を使用していることだ。処理に使われる画像は、個人としてはもちろん、通常では人の識別に使われるものではなく、まだらなヒートマップのように見える(ただし、ペットと人間の区別はできる)。特にこの点は、同社にとって政治的な論争を呼ぶ話題となっている。
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モーション機能は、主にユーザーのストレスを減らすためのものだ。アマゾンは、既存のEcho Showのユーザーが、例えば料理中にキッチンで使う時、デバイスの向きを変えなければならないことを例に挙げている。音声の指向性も、スクリーンの動きに連動する。これは、最近のEchoのモデルで360度オーディオから距離を置く同社の動きと一致している。モーション機能は、デバイスの用途や、どれだけデバイスの周りに人がいるかにより一長一短がある。また、ビデオ通話中のユーザーの動きに追従させるためにも使用できる(競合企業がズームとトリミングを組み合わせて実現している機能だ)。
アマゾンは、スマートスピーカーの「スピーカー」の部分を重視し、最近の世代のデバイスのオーディオを改善するために苦労していた。新しいEcho Showは確かにその恩恵を受けている。筆者はメインのサウンドシステムとしては使わないだろうが、机の上に鎮座するこのデバイスは、前面がスクリーンに覆い隠されていても、サイズのわりにはすばらしい豊潤なサウンドを提供してくれる。
10.1インチのスクリーンも手頃なサイズだ。筆者はテレビやラップトップの代わりとしてこのデバイスを使うことはないだろうが、動画を手早く観るにはちょうど良いサイズだ。YouTube(ユーチューブ)はこのフォームファクターに完璧にフィットする短尺動画で市場を独占しているので、アマゾンがグーグルとここで提携できないのは残念だ(その気になれば、内蔵ブラウザを介してYouTubeにアクセスすることもできるが、それでは到底エレガントなソリューションとは言えない)。
画像クレジット:Brian Heater
アマゾンのPrime Video(プライムビデオ)は確かに良い長編のコンテンツやシリーズ物のシェアを持っている(大量の駄作も含まれているが、時にはそれがおもしろかったりする)。しかし、アマゾンが最も得意とするところは、サードパーティーと提携し、自社の製品を強化することだ。そして、それはアマゾンがEchoでのエクスペリエンスを向上させてきたもう1つの手法でもある。動画の面ではNetflix(ネットフリックス)とHulu(フールー)がデバイス上で利用できるようになり、音楽の面ではApple Music(アップルミュージック)とSpotify(スポティファイ)が追加された。
追加されるとうれしいサードパーティー製のアプリはまだいくつかあるが、これらのラインナップはかなり堅実な出発点だ。いうまでもなく、スポティファイのようなサービスは音楽再生のデフォルトとして設定できる。スポティファイに対応していることで、かなり使い勝手が良くなる。正直なところ、Amazon Music(アマゾンミュージック)は、現時点ではプライムビデオほど魅力のあるサービスとは言えないからだ。そして、スポティファイのような使い勝手を良くしてくれる追加サービスは他にもある。
ソフトウェアの観点から見て間違いなく最も魅力的な追加サービスであるZoom(ズーム)は、後日サポートされる。今のところ、通話は他のAlexaデバイスとSkype(スカイプ)に限定されている。ズームや他のサードパーティー製の電話会議ソフトウェアには、特に、前述した家庭と仕事の境界の曖昧さも手伝って、ウェブ会議ツールの新境地を切り拓くチャンスがある。
実際のところ、現在筆者の机の上に陣取るEcho Showは、パソコンで仕事をしながら通話をするのに最適だ。Echo Showの導入については、用心すべき点もあるものの、楽観的に捉えている。少なくとも、13メガピクセルのカメラを定期的に活用するための妥当な理由ぐらいは思いつくだろう。
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差し当たって、カメラとスクリーンのモーション機能の両方を活かすのにふさわしい使用例は、簡易的な防犯カメラだろう。防犯カメラは「近日リリース予定」の機能の1つであり、実現するにはGuard Plus(ガードプラス)に加入する必要がある。ガードプラスを使用することでEcho Showにスマートセキュリティカメラの役目も果たさせ、外出時にジオフェンスを設定できる。つまり、留守中の家に誰かがいることが検出された場合、Echo Showはアラートを送信する。
2021年2月には、アマゾンが壁かけ型のスマートホームハブに取り組んでいるという噂が流れている。基本的に、さまざまなコネクテッドデバイスのためにAlexa対応のタッチスクリーンコントロールとして機能する、そのフォームファクターは確かに理に適っている。今のところ、Echo ShowとAlexaモバイルアプリの間に割って入る余地はほとんどないが、確かにまあ、壁かけ型のスマートホームハブのようなデバイスがあれば、空間によりプレミアムな雰囲気を醸し出すことができるだろう。
適切に配置されたEcho Showは、多くの人のニーズに応えてくれるだろう。実際、Echo Showは筆者のワンベッドルームのアパートで良い仕事をしている。音声やタッチで照明をコントロールすることができ、当然のことながらスクリーンでは、アマゾンが販売するRing(リング)などのセキュリティカメラからの映像を監視できる。リングのような付加的なサービスにより、スマートスクリーンのカテゴリーは極めて魅力的で機能性に優れたものとなってきた。
Echo Show 10は249ドル(日本では税込2万9980円)で、2018年のEcho Showよりも20ドル(約2200円)高い。新しい機械的な回転機構がこの増額にどの程度影響しているか推し量るのは難しい。しかし、アマゾンはモーション機能がない安いモデルも提供している。筆者なら上に概説した理由により、ほぼ確実にこのモデルを選ぶ。繰り返すが、誰もが筆者と同じ不安を抱くとは限らない。
全体的に見て、これはShowファミリーへのよく練られたすばらしい追加モデルだ。そして筆者について言えば、従来通り自分で向きを変えながらEcho Showを使っていこうと思う。
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(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)