高純度間葉系幹細胞を開発する島根大学発バイオスタートアップPuRECが総額7億円調達、製品開発を加速

高純度間葉系幹細胞を開発する島根大学発バイオスタートアップPuRECが総額7億円調達、製品開発を加速

島根大学発の細胞医薬スタートアップ「PuREC」は3月29日、第三者割当増資による総額7億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は持田製薬、山陰合同銀行、ごうぎんキャピタル、中内啓光氏(スタンフォード大学教授)。累計調達額は13億7000万円となった。

調達した資金は、製品開発をより加速することにあてる。それによりこれまで十分な医療効果が得られなかった疾病に対し、少しでも早く高純度間葉系幹細胞RECを活用した再生医療を届けることを目指す。

2016年1月設立のPuRECは、島根大学発のバイオ領域スタートアップ。独自開発した手法で得られた高純度間葉系幹細胞「REC」(Rapidly Expanding Cells)の臨床応用を進めている。間葉系幹細胞が持つ細胞機能の増殖能と分化能、またその均一性や遊走能を利用して、安全かつ効果的な幹細胞治療を実現することを目指しているという。これまでに日本医療研究開発機構(AMED)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、富士フイルム、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング、持田製薬などと連携し、低ホスファターゼ症、関節疾患、脊椎関連疾患など様々な疾患を対象とした細胞医薬品開発を進めている。

サシの入った和牛肉など培養肉の「3Dバイオプリント技術の社会実装」に向け大阪大学・島津製作所・シグマクシスが提携

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉自動生産装置のイメージ大阪大学大学院工学研究科島津製作所シグマクシスは3月28日、「3Dバイオプリント技術の社会実装」に向けた協業に関する契約を締結した。またこれに先立ち、大阪大学大学院工学研究科と島津製作所は、「3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉の自動生産装置の開発」に関する共同研究契約も締結したと発表した。環境・食糧問題の解決、健康、創薬、医療の進化に貢献するという。

社会実装を目指す技術は、大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授が開発した筋肉組織構造を自由自在に製作できるというものだ。食糧分野では「筋・脂肪・血管の配置が制御された培養肉」、医療分野では「ヒトの細胞による運動器や内臓モデル」の3Dプリントを可能にする。現在、世界で研究されている培養肉の多くは、筋繊維のみのミンチ構造のものだが、この3Dプリント技術を使えば、美しい「サシ」の入った和牛肉を再現したり、脂肪や筋肉の比率を調整したりもできるようになる。またこれを再生医療に応用することも可能だ。

3者が協業して行うのは、「3Dバイオプリント技術の開発推進に向けた他企業との共同研究」「周辺技術・ノウハウを有する企業・団体との連携」「食肉サプライチェーンを構成する企業・団体との連携」「3Dバイオプリント技術に関する社会への情報発信」となっている。

その中で大阪大学大学院工学研究科は、3Dバイオプリントを含む組織工学技術の開発を担当する。具体的には、より複雑な組織や臓器構造の再構築、血管を通じた栄養や酸素の循環による臓器モデルの長期培養のための基礎技術の開発としている。

島津製作所は、3Dバイオプリント技術による培養肉生産の自動化と、培養肉開発に関わる分析計測技術の提供を行う。具体的には、筋肉、脂肪、血管の繊維を「ステーキ様に束ねる工程を自動化する専用装置の開発」であり、培養肉の味や食感・風味・かみ応えなど「おいしさ」に関わる項目、栄養分などの含有量といった「機能性」の分析を行うソリューション開発する。

ビジネスコンサルティング企業のシグマクシスは、この事業のマネージメントを担当する。具体的には、この技術の活躍テーマごとの取り組み方針の策定、テーマ別に必要となる周辺技術やノウハウを有する企業や団体との連携、各取り組みにおける体制作り、進捗管理、課題管理などだ。

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉自動生産装置のイメージ

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉自動生産装置のイメージ

食糧問題、環境問題の解決に加え、ヒトの細胞を使った再生医療や創薬への応用が期待されるこの技術を、「多様な企業とともに活用することで社会への実装を加速」させると、3者は話している。

アキュリスファーマが28億円のシリーズB調達、てんかん発作用経鼻投与スプレー製剤の臨床開発や上市に向けた諸活動推進

アキュリスファーマが28億円のシリーズB調達、てんかん発作に対する経鼻投与スプレー製剤の臨床開発や上市に向けた諸活動推進

神経・精神疾患領域における新薬の開発と商業化を推進するアキュリスファーマ(Aculys Pharma)は3月27日、シリーズBラウンドにおいて、総額28億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、新規投資家のJICベンチャー・グロース・インベストメンツ、三菱UFJキャピタル、Spiral Capital、既存投資家のVision Pacific LifeSciences Capital I, II (DE) LLC 1、HBM Healthcare Investments、Global Founders Capital、三井住友トラスト・インベストメント、ANRI。累計調達額は96億円となった。

調達した資金は、第2パイプラインであるてんかん発作に対する経鼻投与スプレー製剤(主成分ジアゼパム)の臨床開発や上市に向けた諸活動にあてる。

ジアゼパムは、注射剤などの剤形でてんかん発作時の治療薬として60年以上日本の医療現場で使用されているという。また、医療機関外においても患者や介護者などの医療関係者以外の方が坐剤として使用してきた薬剤となっているそうだ。経鼻投与スプレー製剤としては、2020年1月に米国において「6歳以上のてんかん患者における通常の発作パターンとは異なる間欠性の典型的な発作頻発(群発発作、急性群発発作)のエピソード」を効果・効能として米国Neurelisが米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ているという。

アキュリスファーマは、同薬剤が貢献しうる患者に新しい治療手段を早く届けられるよう、日本国内での臨床試験を実施し、開発を進める。同時に、てんかん発作が患者とその家族の日常生活に及ぼす影響を軽減するための包括的な取り組みとして、急な発作時に迅速に治療薬にアクセスできるコミュニティ構築、AIやデジタルを活用した発作の予測システムなどに関する研究を外部パートナーと連携し、進める。また、てんかんに関して正しい理解が広まるよう、啓発活動への貢献にも取り組むという。

2021年1月設立のアキュリスファーマは、「Catalyst to Access」(革新的な医療への橋渡しを担う)を理念とする日本発のバイオ領域スタートアップ。神経・精神疾患領域において革新的な医療手段への橋渡し役となり、患者とその家族、医療関係者、社会により良い医療を届けるため、欧米諸国から革新的で優れた医薬品を導入し、開発・販売を担い、さらに疾患を取り巻く様々な課題に対するソリューションを提供するとしている。

原子間力顕微鏡を用いて世界で初めて個別のDNA損傷を直接観察することに成功、がんや老化のメカニズム解明に期待

世界で初めて個別のDNA損傷を直接観察することに成功、がんや老化のメカニズム解明に期待

今回の技術を用いて撮像したさまざまなDNA損傷形態の原子間力顕微鏡(AFM)画像。糸状に見えるDNA鎖に、明るいドット(損傷に結合しているアビジン・卵白に含まれるタンパク質の一種)が確認できる。これを観察することで、DNA損傷の位置を可視化できた。観察の結果、通常の孤立した塩基損傷以外に、塩基損傷が集中して生じた領域であるクラスター損傷、DNAの末端に塩基損傷があるタイプの損傷、塩基損傷が複数個固まったような高複雑度クラスター損傷など、多彩なDNA損傷を見ることができ、損傷の「種類分け」に成功した

量子科学技術研究開発機構(QST)は3月22日、生きた細胞内の60億塩基対のDNA鎖上にある、たった1つの損傷を見つけ出して、直接観察できる技術を世界で初めて確立したと発表した。DNAの損傷を可視化し個別に観察することが可能になったことから、損傷が自然に修復される様子や修復されにくいタイプの損傷の構造が明らかになり、DNA損傷の修復エラーが原因とされるがんや細胞老化のメカニズムの解明、効率的ながん治療に貢献すると期待されている。

量子科学技術研究開発機構量子生命・医学部門量子生命科学研究所DNA損傷化学研究グループの中野敏彰氏、赤松憲氏、鹿園直哉氏らと、広島大学の井出博名誉教授からなる共同研究グループは、長いDNA鎖から損傷部分を取り出し、原子間力顕微鏡(AFM。Atomic Force Microscope)で直接観察することに成功した。細胞内のDNAは、放射線など様々な要因で傷つくが、その傷には細胞の働きで自然に修復されるものと、されないものとがある。その修復されない損傷が、細胞死やがんにつながるとされている。老化やがんのメカニズムを解明し、効果的な治療方法を確立するためには、DNA損傷を1つずつ詳しく観察する必要がある。ところが、従来用いられていた蛍光顕微鏡のマイクロメートルレベルの解像度では、その可視化は原理的に不可能だった。

そこで研究グループは、ナノメートルレベルの解像度を持つ原子間力顕微鏡を使った観察を目指した。まずは長いDNAを観察可能なサイズに切り分け、膨大な量のDNAの断片から、損傷を含むものだけを集める手法を開発。損傷部分のみを探し当てて直接観察できるようにした。実験では、放射線を照射したヒトリンパ芽球細胞からDNAを取り出し、塩基に生じた損傷を特殊な酵素で切り出した。そして、その切り出した部分の塩基欠損部位に特異的に化学結合する薬剤で標識を付けた。これを原子間力顕微鏡で観察可能な長さに切断すると、損傷を含むDNA断片と含まないDNA断片が作られるので、標識に結合する磁性粒子で損傷のあるDNA断片だけを集めた。

細胞中の長いDNAから損傷を含むDNA領域のみを集めてAFM観察する方法

細胞中の長いDNAから損傷を含むDNA領域のみを集めてAFM観察する方法

個々の損傷が可視化できたことから、DNA損傷を、周辺に損傷のない「孤立塩基損傷」や複数の損傷が集中して起きる「クラスター損傷」などと種類分けができるようになった。また、それぞれの修復の速度も解析できるようになった。たとえば、重粒子線を当てた細胞では、損傷が6時間で8割修復された。エックス線の場合は1時間で約半数、6時間で約8割が修復された。しかし、二本鎖切断と呼ばれる損傷はなかなか修復されないことがわかった。

こうして修復されにくい損傷の形態がわかり、重粒子線による損傷と修復されにくさを解析できるようになったことが、がんの放射線治療の効果向上に役立つと期待される。またこの技術を発展させることで、発がんメカニズム、老化の原因の解明なども可能になるという。今後は、DNA損傷の特徴に合わせて、どのような修復メカニズムが働きやすいか、または働きにくいかを明らかにしてゆくとのことだ。

全国に植えられたソメイヨシノをゲノム解析、ルーツは上野公園の4本

全国に植えられたソメイヨシノをゲノム解析、ルーツは上野公園の4本

上野恩賜公園の小松宮彰仁親王像の周囲に植栽されているサクラ。数字は管理番号を表す

かずさDNA研究所は、19都府県に植えられたソメイヨシノ46本の葉からゲノムDNAを抽出し、DNA配列を解析したところ、そのルーツが上野恩賜公園に植えられている4本である可能性を突き止めた。また、先祖型にもっとも近かったのは、現在原木候補とされている個体とは別の個体であることもわかった。

かずさDNA研究所は、全国16の大学、高校、研究機関と共同で、この研究を行った。東京の染井村(東京都豊島区)で生まれたとされるソメイヨシノは自家受粉ができないため、接ぎ木にで増やされ全国に植えられた、いわばクローンであるため、共通のゲノム配列を持つ。

しかしすべてがまったく同じではなく、繁殖の間の突然変異により塩基が1つだけ変異する一塩基変異が生じている。この変異を辿れば、ソメイヨシノの系譜がわかると考えた同研究所は、全国の46個体について調査を行った。それには、上野恩賜公園の小松宮彰仁親王像の周りに植えられた、ソメイヨシノの原木候補を含む4本をはじめ、そのほか、日本最長寿とされる弘前公園の個体、アメリカのワシントンD.C.から里帰りした個体なども含まれる。

ゲノム解析を行ったソメイヨシノの分布

解析の結果、684の一塩基変異が見つかり、そのうち71個の変異は複数の個体に共通していた。これをもとに遺伝子が類似する遺伝子クラスターに分類したところ、全国のソメイヨシノは大きく2つのグループ(グループIとグループII)に分けることができた。さらに、グループIは5つのクローン系統(Ia〜Ie)に分類された。上野恩賜公園の4本は、それぞれが異なるクローン系統に属していた。つまりこの4本が親木となり、接ぎ木されて全国に広がったと考えられる。ただし、もっとも先祖型に近かったのはグループIaで、これに属する個体は原木候補とされていた管理番号136の個体ではなく、管理番号133の個体であった。

ゲノム変異に基づいて分類した「ソメイヨシノ」のグループ

ゲノム変異に基づいて分類した「ソメイヨシノ」のグループ

ソメイヨシノは、エドヒガンとオオシマザクラの交配種だが、人工的に作られたのか、自然交配によるものなのかはわかっていない。ゲノムに残る痕跡をさらに検討することで、その誕生の歴史を探ることができるという。また、この体細胞変異を追跡する技術を使えば、果樹などの登録品種の流出問題に関して、流出経路の特定ができる可能性もあると、かずさDNA研究所では話している。

DNAナノチューブのレール上を命令どおりに走る分子輸送システムを開発、生物を模した情報処理システムの研究に革新

Y字型のDNAナノチューブ上で2種類のナノマシンが「荷物」を仕分けている様子を描いた模式図

Y字型のDNAナノチューブ上で2種類のナノマシンが「荷物」を仕分けている様子を描いた模式図

情報通信研究機構(NICT。指宿良太氏、古田健也氏)未来ICT研究所は3月11日、兵庫県立大学と共同で、DNAナノチューブのレール上をプログラムどおりに走るナノマシンを開発したと発表した。これにより、レールに命令を埋め込むことで、ナノメートル(1mmの100万分の1)サイズの「荷物」、つまり分子を仕分ける分子輸送システムが実現した。

分子を自在に制御するナノマシンの研究により、DNAを極小の建築材料として望みの構造物が作れるDNAテクノロジーが発展したものの、その構造物の上を自律的に動けるナノマシンの開発は遅れていた。生物の体内では、細胞内に張り巡らされた「細胞骨格繊維」をレールとして生命活動に必要な物質を輸送している。このシステムを制御可能な形で細胞から取り出すことができれば、生物由来の分子で構成された計算機や、生体内で働く分子ロボットといった画期的な応用につながるのだが、細胞骨格繊維の制御が難しく、実現には至っていない。

また、ナノサイズのマシンの制御にも課題があった。微小なマシンは分子の熱運動による激しいノイズにさらされるため、外部から命令を与えるには、逐一その熱ノイズを大きく超えるエネルギーを加える必要がある。

ただ、生物が本来備えているナノマシンの中には、熱ノイズの20倍ほどの小さなエネルギーで自律的に動ける「生物分子モーター」がある。

そこで同研究グループは、まず細胞骨格繊維の代わりに、制御しやすいDNAをレールとして、ナノマシンを自律的に走らせることを考えた。DNAなら、安定していて、一塩基単位で編集が可能であり、デジタル情報を埋め込むことができ、精緻な三次元構造体を構築できるという利点がある。そして研究グループは、生物分子モーターである「ダイニン」に「DNA結合タンパク質」をつなぎ合わせてDNAに結合して自走するナノマシンを作成。ガラス基板の上に敷設したレールに沿って「DNA塩基配列で書かれた命令」からなる方向や速度などのプログラムのとおりに、ナノマシンを動かすことに成功した。さらにこの技術を使い、DNAナノチューブの分岐点のどちらに進むかをナノマシンごとに制御して「荷物」を自動的に仕分けさせたり、反対に「荷物」を1カ所に集めたりする分子輸送システムを構築できた。

ヒト細胞質ダイニンの微小管結合ドメインをDNA結合タンパク質と取り替えることによる新規分子モーターの構築図

ヒト細胞質ダイニンの微小管結合ドメインをDNA結合タンパク質と取り替えることによる新規分子モーターの構築図

DNAの二重らせん構造(上)と、10本の二重らせん構造が束化したDNAナノチューブ(下)の模式図

DNAの二重らせん構造(上)と、10本の二重らせん構造が束化したDNAナノチューブ(下)の模式図

左:2種類の積み荷を持つトラックが1つの道路に合流または分岐する様子を描いた模式図。中央:Y字型のDNAレールを蛍光顕微鏡で撮影した画像と、2種類のナノマシンがそのレール上で1つのレールへと荷物を集める、または分岐する様子。右:荷物を持った2種類のナノマシンが、合流点または分岐点でどの程度効率よく仕事をしているかを示したグラフ

左:2種類の積み荷を持つトラックが1つの道路に合流または分岐する様子を描いた模式図。中央:Y字型のDNAレールを蛍光顕微鏡で撮影した画像と、2種類のナノマシンがそのレール上で1つのレールへと荷物を集める、または分岐する様子。右:荷物を持った2種類のナノマシンが、合流点または分岐点でどの程度効率よく仕事をしているかを示したグラフ

この技術は、電子機器にくらべて省エネであり、膨大な組み合わせを高速に処理できる生物の情報処理システムを応用した次世代情報処理システムの基盤となり得る。しかし、生物が持つ高機能で高効率な天然のナノマシンの動作メカニズムはわかっていない。研究グループは、人工的な分子モーターを数多く作り機能を比較することで、「設計原理に関する情報を帰納的に抽出する」という方法をとった。つまり「作って理解する」というアプローチだ。この研究成果により、「生物が使っている未知の情報処理システムを再構成して理解する研究や、生物分子モーターで一種のチューリングマシンを構成するような研究が可能になり、次世代の情報処理システムを目指した研究にブレークスルーをもたらす可能性がある」と研究グループは期待している。

トマトが熟れる際の遺伝子発現を深層学習で予測、遺伝子編集で果実のデザインも可能に

トマトが熟れる際の遺伝子発現を深層学習で予測、遺伝子編集で果実のデザインも可能に

岡山大学は3月8日、AIを使ってトマトが熟れるときに重要となる遺伝子の働きを予測する技術を開発したと発表した。また、「説明可能なAI」(XAI。Explainable AI)と呼ばれる技術を用いてAIの判断の根拠を探ることで、重要なDNA配列の特定も可能にした。その配列を編集すれば、果実の特徴に関する緻密なデザインも可能になると期待される。

果実の色や甘さや香りなどは、数万にもおよぶ遺伝子発現(遺伝子の働き)の組み合わせによって決まる。遺伝子発現は、プロモーターと呼ばれる領域に転写因子というタンパク質が結合して調整されているが、プロモーターのDNA配列には複数のパターンがあり、遺伝子発現は転写因子の複雑な組み合わせによって変化する。そのため、全ゲノム配列の情報がわかっていても、予測はきわめて難しいという。

そこで、岡山大学学術研究院環境生命科学学域(赤木剛士研究教授、増田佳苗氏、桒田恵理子氏)、農業・食品産業技術総合研究機構筑波大学大学院生命環境系九州大学大学院システム情報科学研究院からなる共同研究グループは、深層学習を用いた遺伝子発現の予測と、そこで重要となるDNA配列の特定を試みた。まずは、分子生物学で標準的に使われるモデル植物シロイヌナズナの、転写因子が結合するDNA配列情報のデータベースをAIに学習させ、3万4000以上あるトマトの全遺伝子のプロモーターの転写因子が結合するポイントを予測させた。次に、トマトが熟れる過程の全遺伝子発現パターンを学習させることで、遺伝子発現の増減を予測するAIモデルを構築することができた。

さらに、「説明可能なAI」を用いて、そのモデルで「AIが判断した理由を可視化」することで、予測した遺伝子発現の鍵となるDNA配列を「1塩基レベル」で明らかにする技術を開発した。このDNA配列を改変した遺伝子をトマトに導入すると、AIによる予測と同じ結果が得られた。つまり、トマトのゲノム情報の複雑な仕組みをAIが正確に読み解いたことになる。

この技術は、トマトの食べごろの予測に限らず、果実の色、形、おいしさ、香りなど、様々な特徴に関する遺伝子の発現予測にも応用できるという。また、予測した遺伝子の発現に重要なDNA配列を特定する技術を使えば、遺伝子編集により最適な遺伝子発現パターンを人工的に作り出して、自由に果実のデザインができるようになるとも研究グループは話している。

ビールの醸造かすを生分解性フィルムに変えるMi Terroが1.7億円調達

あるやり手の起業家が、ビール醸造大手AB Inbev(ABインベブ)と家庭用品の大手Unilever(ユニリーバ)が主催する100以上のアクセラレータープログラムに参加し、あるパターンを発見した。醸造所には大量の醸造かすがあり、家庭用消費財にはプラスチック問題がある。この2つの問題の架け橋となるべく登場したのが、農業廃棄物をタンパク質に加工し、プラスチック代替品や飼料などとして利用できるようにするMi Terro(ミテロ)だ。同社は、生産規模を拡大するために150万ドル(約1億7000万円)を調達した。

Mi Terroの創業者Robert Luo(ロバート・ルオ)氏は「洗濯洗剤ポッドTide Podsを思い浮かべてみてください」と話す。「私たちの製品は、Tide Podsで使われているポリビニルアルコールに似ています。唯一Tide Podsと違うのは、マイクロプラスチックが含まれていないことです。私たちの製品は水溶性で、室温で水に分解することができます。また、生分解性を有してもいます。当社のデータでは、自然分解には1年ほどかかるとされています。工業用堆肥化施設では、180日以内に分解できます」と説明する。

ルオ氏は2018年に、中国の叔父の酪農場を訪れたことがきっかけで、会社を立ち上げた。そこでは大量の牛乳が廃棄されていた。そして、腐った牛乳をただ捨てるのではなく、何か価値のあるものを作れないか、と興味を持った。最初に開発したのは、牛乳の搾りかすを使った繊維製品だ。この繊維は10万ドル(約1100万円)分ほど売れ、今でも日本に顧客がいる。しかし、この分野ではB2Cモデルは非常に難しいことが分かった。そこで、アクセラレータに参加し、同様のプロセスで産業用途があることを発見した。

「中国のBudweiser(バドワイザー)とつながりができ、価値の低い醸造かすを大量に抱えていることを知りました。彼らは、メタンや地球温暖化の間接的な原因となる牛の飼料として処理するよりも、もっと良い利用方法を考案したいと思っていました」とルオ氏は説明する。「そこで、私たちが以前開発した方法を用いることで、農業廃棄物を堆肥化できる包装材に変える新しい解決策を導き出すことができました。そして、これが当社が2020年からやっていることです」。

AstanorがMi Terroの150万ドルラウンドのリードインベスターで、同社の価値を1000万ドル(約11億円)と評価した。Astanorは少し前に食品と農業技術を専門者とするファンドを立ち上げ自律走行トラクターマイクロプラスチックの除去植物由来の食品気候リスクの脅威分析、そして今週初めには温室用のAI技術など、さまざまな企業への投資でこの分野において急速にその名を知られるようになってきている。

Mi Terroの従業員は現在5人で、この中には中国にいる製品専門家も含まれる。同社は中国に製造拠点を設け、また米国にオフィスを設置する計画だ。今回の投資は主に生産規模の拡大に使われる予定で、ラボでのやり方に若干の変更を加えることになる。

プラスチックに代わる生分解性フィルムに入っているMi Terroのプロトタイプの洗剤ポッド(画像クレジット:Mi Terro)

「生産規模を拡大するためには、加工の方法が変わり、設備も変わってきます。そしてもう1つ、ビール醸造所から当社の施設まで醸造かすを配送するための物流コストも考慮しなければなりません」とルオ氏はいう。「そのために最適な場所を探す必要があり、生産拡大に向けてはその点も考慮しなければなりません。輸送費がかさみ過ぎないように、慎重にならざるを得ないのです」。

Mi Terroのプロセスには2つのステップがある。農業廃棄物からタンパク質、繊維、デンプンなどのポリマーを抽出し、ポリマーを分離した後、モノマーを結合して他の製造工程で使用できるポリマーにするというグラフト化で改良を行う。このようにしてできた素材は、パスタを作るのと同じように、液体のような素材をスリットから押し出し、形成できるため、現在プラスチックが使われている多くの用途に使用することができる。ストローや容器、箱などを作ることが可能だ。同社が最初に作る製品は、ビールのラベルやTide Podsなどのパッケージのようなフレキシブルフィルムだ。

「現在、顧客向けに2つのソリューションを開発しています。1つは水溶性で、水溶性が必要な用途に適しています。もう1つは耐水性です」とルオ氏は話した。

画像クレジット:Mi Terro

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Nariko Mizoguchi

iPS細胞による免疫細胞臨床応用に向けた研究を進める京都大学発サイアスが21.3億円調達、研究開発体制拡充・米国展開へ

iPS細胞由来の免疫細胞の臨床応用に向けた研究を進めるサイアスは2月28日、シリーズBラウンドとして、第三者割当増資による総額21億3000万円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、新規投資家のEight Roads Ventures Japan、F-Prime Capital Partners、既存投資家のD3 LLC。調達した資金により、研究開発体制を大幅に拡充し、次世代の免疫細胞療法の開発を加速する。またEight RoadsとF-Primeの協力の下、本格的な米国展開の準備を開始する。

サイアスは、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の金子新教授の研究成果を基に、iPS細胞由来の免疫細胞(T細胞やNK細胞等)の臨床応用に向けた研究開発を進める京都大学発のスタートアップ。

他家iPS細胞を原料として、固形がんをターゲットにT細胞受容体(TCR)を遺伝子導入するiPS細胞由来T細胞製品や、固形がんをターゲットとするキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子を導入したiPS細胞由来NK細胞製品など、各種免疫細胞治療の研究開発を行っている。また、この分化技術から製造される再生免疫細胞は、様々なTCRやCARを搭載しており、多様ながん種に対する治療法の開発を行えるプラットフォームとなりえるという。そのため、所望するターゲットを狙ったTCRやCARを搭載した免疫細胞製品を様々なパートナーと共同開発することも可能としている。

京都大学iPS細胞研究所を起源とするサイアスの免疫細胞分化方法は世界有数の技術としており、これを基に世界最先端の遺伝子・細胞療法市場、巨大な資本市場、さらに優秀な人材へのアクセスが可能なアメリカに踏み出すことで、グローバル企業への進化を目指す。

無花粉スギの苗をDNA抽出により選別し大量生産するマニュアル公開、DNA鑑定と組織培養で花粉症対策に貢献

無花粉スギの苗をDNA抽出により選別し大量生産するマニュアルを公開、DNA鑑定と組織培養で花粉症対策に貢献

森林研究・整備機構森林総合研究所新潟大学新潟県森林研究所ベルディによる研究グループは2月28日、無花粉スギの判別と量産法を確立し、マニュアルとして公開したと発表した。無花粉スギの苗を大量生産する技術をわかりやすく解説したもので、スギ花粉症の根本的な解決策に貢献するという。

日本国民の38.8%が悩まされているスギ花粉症の対策として、林業分野では花粉飛散量の多いスギを伐採し、少花粉スギや無花粉スギに植え替える試みが行われているが、無花粉スギの苗木の供給量には限界がある。無花粉スギの品種が少ないこと、そして、交配によって作られる苗の約半数は花粉を生産する正常なスギになるため、そこから無花粉スギを選別しなければならない。現在は、2〜3年育てた苗に植物ホルモンを散布して雄花を強制的に咲かせ、花粉の有無を確認して無花粉スギを選び出している。大量に無花粉スギの苗を生産するには、もっと効率的な方法が必要だ。

そこで研究グループは、成熟前の球果(松かさ、松ぼっくり)を使う方法を考えた。まずは、球果から未熟な種子を取り出して、未分化細胞の塊(カルス)に培養する。カルスには普通のスギと無花粉スギが1対1で含まれているため、DNA抽出試薬を使って遺伝子を取り出し、無花粉スギの特徴を持つものだけを培地に移して培養すると、不定胚という細胞が分化した組織に変化する。不定胚は、種と同じように発芽し、苗に成長する。こうして、無花粉スギの苗だけを作ることができるのだが、1gのカルスから1000本以上の苗を作ることが可能だという。また不定胚は冷蔵保存ができ、2年間は発芽能力を保つため、需要の変化に応じた工場での大量生産が可能になる。

(A)増殖したカルス、(B)無花粉スギの不定胚、(C)発芽した不定胚、(D)苗の育成

この研究で開発されたDNA鑑定法は、無花粉スギの原因となる遺伝子「MS1」の変異を直接検出している。この遺伝子を持つスギは日本全国に分布しているため、天然林や在来品種からも無花粉スギの変異を持つ個体を見つけ出すことが可能とのことだ。スギは環境への順応性が高く成長も早いため、林業だけでなく、都市の緑化用にも無花粉スギを活用できると、研究グループは期待している。

マニュアル
タイトル『スギの雄性不稔遺伝子MS1判別マニュアル』
著者:森林総合研究所樹木分子遺伝研究領域(編)
掲載誌:中長期計画成果番号:第5期中長期計画9(森林環境-3)(2022年2月)
ISBN:978-4-909941-28-2

タイトル『組織培養による無花粉スギ苗の増殖マニュアル』
著者:森林総合研究所樹木分子遺伝研究領域(編)
掲載誌:中長期計画成果番号:第5期中長期計画10(森林環境-4)(2022年2月)
ISBN:978-4-909941-29-9

バイオ分子に照準を合わせて新薬を生み出すGandeeva Therapeuticsが46億円調達

かつて冗談交じりに「ブロボグラフィー(抽象的な芸術作品の一種)」と呼ばれていた分野が大きく進展した。

低温電子顕微鏡法は、現在、生体の最小構成要素を最も忠実に観察できる手法の1つで、バイオ分子のアモルファス(非晶質=結晶ではない)画像を提供する。米国時間1月31日、4000万ドル(約46億円)のシリーズAラウンドを完了し、その存在を世に知らしめた新しいバイオテック企業Gandeeva Therapeutics(ガンディーバセラピューティクス)は、これを重要な柱として、低温電子顕微鏡法による高解像度画像と機械学習ツールを組み合わせて、創薬のプロセスを高速化することを計画している。

共同創業者でありCEOのSriram Subramaniam(シュリラーム・サブラマニアム)氏は、TechCrunchの取材に対して次のように話す。「『電子顕微鏡でタンパク質を原子レベルの分解能で可視化する』という創業時の夢を、約15年の歳月をかけて実現しました。誰かがこの夢を実現できれば、これこそが創薬を変え、革命を起こすために必要な重要なツールになるはずだと確信していました」。

「現在の低温電子顕微鏡法の進歩を採り入れて、実際に学習するプラットフォームを作ることがGandeevaの命題である」と同氏は続ける。高解像度の画像を利用すれは、これまで観ることのできなかった結合ポケットを発見することが可能で、それに合う薬剤を見つけることができる、というのだ。

「金鉱を採掘する道具は重要ですが、その金鉱をどうするか、つまりどのような製品に変換するかを知っている必要があります。私たちの場合は、それは患者さんのための薬です」。

現在では、Insilico Medicine(インシリコ・メディスン)Generate Biomedicines(ジェネレート・バイオメディシンズ)Pepper Bio(ペッパーバイオ)Eikon Therapeutics(エイコン・セラピューティクス)Isomorphic Labs(アイソモルフィックラボ)といった数多くの企業が創薬という大きなチャレンジに取り組んでいるが、Gandeevaのアプローチは、簡単にいえば、体内のドラッガブル(druggable、ターゲット分子における低分子化合物による機能調節の可能性を意味する)なターゲットを見つけるために「実際に観てみる」といったところだ。

周りをぐるっと見ただけでも、これまで数え切れないほどの科学的ブレークスルーがもたらされてきた。しかし、身体の構成要素に関しては、特殊な顕微鏡技術がなければブレークスルーは起こり得ない。この分野の代表的な技術はX線結晶構造解析で、タンパク質や分子を文字通り結晶に詰め込んでX線を照射し、その形や大きさ、向きを近似的に再現するものである。

X線結晶構造解析の問題は、結晶化という手間と時間のかかるプロセスにある。しかし、低温電子顕微鏡法では、結晶化が不要だ。この手法では、分子を瞬間冷凍して2次元のシートを作り、それを電子銃で照射する。2次元シートは生体分子を電子から保護し、詳細な画像の撮影や、結晶化構造では観ることのできないバイオ分子の動きの撮影を可能にする。

低温電子顕微鏡法では、2オングストローム(ナノメートルの10分の1)の構造体の画像が得られる(参考までに、人の髪の毛1本の太さは約100万オングストロームである)。

低温電子顕微鏡がブームになっていることを示す証拠もある。2024年までに、低温電子顕微鏡で決定されるタンパク質構造がX線結晶構造解析を上回る、と予測する科学者もいる(2020年2月のNatureのニュース)。顕微鏡や装置が高価であるにもかかわらず、分解能が飛躍的に向上したことで、低温電子顕微鏡は主要な科学的ツールキットとなりつつある。

左:オミクロンスパイクタンパク質の低温電子顕微鏡マップ(画像クレジット:Scienceに掲載)、右:X線結晶構造解析によるAAA ATPaseのp97の画像(画像クレジット:Gandeeva Therapeutics)

一方、構造生物学という点ではGandeevaに有利な動きが他にもある。1つは、機械学習が進歩してタンパク質がどのように折りたたまれるか(タンパク質フォールディング)を正確に予測できるようになったことだ。

すでにタンパク質フォールディングを予測できるAIエンジンが2つ開発されている。アルファベット傘下のAI企業、DeepMind(ディープマインド)が開発したAlphaFoldと、ワシントン大学が開発したRoseTTAFoldである。かつてはタンパク質の構造を決定するには何時間も実験室で作業する必要があったが、RoseTTAFoldは通常のゲーム用コンピューターを使って、10分でタンパク質の構造を予測できるという。

サブラマニアム氏は、これらのツールは、タンパク質の構造と機能に関する前例のないレベルの知見を提供するが、まだ対処すべきギャップがある(AIによる予測では、要素によっては他の手法より信頼度が低いなど)と主張し、低温電子顕微鏡法では、タンパク質のある領域にズームインしたり、タンパク質のさまざまなコンフォメーション(立体配座)を撮影したりすることができるので、こうしたギャップを埋めることができるだろう、と指摘する。

「AIには革命の真っただ中にありますが、誰もが『AIって結局何?』と疑問に思っているのではないでしょうか。AIと低温電子顕微鏡の組み合わせは、実験だけでも予測だけでもない、まさしく正攻法であり、Gandeevaの命題でもあります」とサブラマニアム氏。

「AIによる構造生物学や相互作用の理解を利用して、最速かつ適切なスループットで精密なイメージングを組み合わせることができます」。

Gandeevaは現在、政府や大学がスポンサーとなっていなくても、すばやく簡単に低温電子顕微鏡を利用できることを証明しようとしている。この分野におけるサブラマニアム氏の研究の多くはこうした環境で行われてきたので、これは重要なポイントだ。

サブラマニアム氏は、キャリアの大半を米国国立衛生研究所(NIH)で過ごした。国立がん研究所(NCI)の生物物理学セクションのチーフを務め、その後、政府が運営する国立低温電子顕微鏡研究所を設立。NIHでは、Gandeevaの低温電子顕微鏡を使った創薬プラットフォームの開発を進めたいと考えていたが、ラボの開発だけで数十億円の費用がかかることが判明した。

同氏によると、当時「VCはこのようなアプローチに関心を持たなかった」という。しかし、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)が興味を示したため、彼はNIHを退職し、UBCのCancer Drug Designのチェアマンに就任した。

「NIHで行っていたことが再現できると証明するために、UBCに来て数年間でこのプロジェクトの基本を立ち上げました。UBCで作成したプロトタイプは、この方面に迅速に進めることを投資家に確信してもらうきっかけとなりました」と同氏は話す。

この概念実証(PoC)では、短時間で作成されたオミクロン変異体のスパイクタンパク質の低温電子顕微鏡画像がScienceに掲載された。

しかしながら、Gandeevaの最終目標は、低温電子顕微鏡法をパッケージ化して生物学的に美しい写真を撮ることではなく、新薬の開発にかかる時間を短縮することを目的とした研究プラットフォームである。

サブラマニアム氏は「薬剤がどこに結合するか、タンパク質のどの表面をターゲットにしているのかを正確に観ることができるので、単純に、大幅に時間を短縮できると考えています。このような情報があれば行き止まりの経路を調べずに済むため、非常に有効です」と話す。

Gandeevaは、この技術を工業規模かつ速度で実行し、他では得られない情報を得られることを証明する必要がある。同社は、バンクーバー郊外の施設を6年間リースしており、サブラマニアム氏はここでプラットフォーム機能を構築する予定だ。

社内的には、いくつかのプログラムを進めて、潜在的な創薬ターゲットを特定できることを証明するのが目標である。サブラマニアム氏は、もしかしたらGandeevaのプラットフォームを腫瘍学に適用し始めるかもしれない、と話すが、これはまだ決まっていない。

今回のラウンドはLux Capital(ラックスキャピタル)とLEAPS by Bayer(リープスバイバイエル)が主導。Obvious Ventures(オブビアスベンチャーズ)、Amgen Ventures(アムジェンベンチャーズ)、Amplitude Ventures(アンプリチュードベンチャーズ)、Air Street Capital(エアストリートキャピタル)が参加した。

画像クレジット:Gandeeva Therapeutics

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

3Dプリントによる次世代小型バイオリアクターの開発でStämm Biotechが約20億円調達

この1年、細胞を使った食肉加工や微生物を使った医薬品製造など、バイオマニュファクチャリングが盛んに行われるようになっている。しかし、合成生物学は、バイオリアクターという重要な装置なしには成り立たない。生物学を利用した製造業の実現に向けて、世界中でさまざまな議論が行われているが、ある企業ではすでに最も重要な装置を再考に取り組んでいるしている。

2014年に創業されたStämm Biotechは、工業用やベンチトップのバイオリアクターにすら見られるタンクとチューブとつまみの集合体とはかなり異なっているデスクトップ型のバイオリアクターを開発している。ブエノスアイレスに拠点を置く同社はこのほど、1700万ドル(約20億円)のシリーズAを発表、これまでのシードとプレシードのラウンドを合わせると総調達額は2000万ドル(約23億円)になった。

Stämmが行っていることを理解するために、バイオリアクターは通常どのような形状で、その中で何をしているのかをまず知ろう。基本的には、工業用のバイオリアクターは、巨大な滅菌タンクだ。タンクの中に、特定のタイプの細胞や微生物を育てるための培地があり、それらが目的の製品を生産したり、あるいはそれ自体が製品そのものだ。

これらの細胞培養の工程はまず全体がモーターで撹拌され、冷却液を使って正しい温度を維持し、正しい量の酸素を供給、または無酸素状態を維持してその成長を促す。この工程はタンクではなく使い捨ての袋を使っても行うことができ、別のものを育てるときのタンクの滅菌作業を省略できる。

Stämmの方法は要するに、以上の工程からタンクと撹拌とチューブをなくしてしまう。その代わりに同社は、独自に開発した3Dプリントの基本装置を利用して、微小な流路の稠密なネットワークをプリントし、そこを細胞が通過する間に必要な栄養と酸素を供給される。そしてこの動きが、撹拌の役をする。

液体の流路が3Dプリントされる様子。細胞と酸素と栄養はさまざまな場所で加えられる。(画像クレジット:Stämm Biotech)

流路の設計はStämmのソフトウェアを使って行う。Stammの共同創業者でCEOのYuyo Llamazares(ユヨ・ラマザレス)氏によると、その工程全体を、クラウド上のCDMO(医薬品製造受託機関)と考えることができる。

「バイオ製品を開発する意志と、現在、市場に出回っているツールの能力との間に、大きなギャップがあることに気がつきました。そこで、それを自分の問題として解決しようと考えたのです」とラマザレス氏はいう。

バイオマニュファクチャリングは、製薬や化学、テキスタイル、香料、そして食肉に至るまで、多様な分野で、その細胞からものを作るという考え方が、次世代の生産技術として大きな関心を寄せられている。

たとえば150億ドル(約1兆7275億円)の評価額でIPOに至ったGinkgo Bioworks(時価総額は72億4000万ドル[約8338億円])は、製薬とそれ以外の分野の両方でバイオマニュファクチャリングの応用に積極的に取り組んでいる。しかしそんな、世界を変えるような製造技術も、エビデンスは少しずつ漏れてきている。

バイオマニュファクチャリングが約束していることはどれも、バイオリアクターがなければ実現しない。Stämmのアプローチは、マイクロ流体力学を利用してリアクターのサイズを小さくする。

3Dプリントされた部品の中を流れていく液体をCGで表現(画像クレジット:Stämm Biotech)

現在の同社の技術では、バイオマニュファクチャリングを行う設備の大きさを従来の数百分の一程度に縮小できる。しかしそれでも、これまでの大きなバイオリアクターに比べるとかなり小さい。Stämmのバイオリアクターの最大出力は約30リットルで、工業用に多い数千リットルではない。しかし、同社によると、そのプリントされた微小流路方式でも、理論的には約5000リットルまで可能だという。

技術のポテンシャルは大きいが、Stämmはまだ、その技術の商用化を始めたばかりだ。現在、同社はバイオシミラーの生産にフォーカスしているヨーロッパのバイオ製剤企業と協働しているが、他に検討しているパートナー候補は5社いる。計画では、同社が「パイロットスケール」に移行するのは2022年中となっている。

今は、パートナー企業が増えることがStämmの主な成功の証だとラマザレス氏はいう。「できるだけ多くのパートナーと直接の関係を持ちたいと考えています。それによって、私たちが開発した製品の有用性を確認したい」。

ビジネスの面では、まださまざまな問題がある。装置のコストについてラマザレス氏に確認すると、彼はコメントしなかった。そして彼は、クライアントが従来のマシンではなくマイクロ流体力学方式のリアクターを使い慣れて欲しいという。マシンとサービスの価格は未定だ。

「今は勉強の段階です。いろいろなビジネスモデルを理解し、クライアントとの対話に努めたいと考えています」とラマザレス氏はいう。

Stämmは、今回得た資金で社員数を倍増して200名にし、国際的なプレゼンスを拡張、さらに同社のマイクロ流体力学によるバイオリアクターとその制御に必要なツールの改良や開発を進めたいという。

このラウンドの新たな投資家は、リード投資家がVaranaで、他にVista、New Abundance、Trillian、Serenity Traders、Teramips、Decarbonization Consortium。そして彼らが仲間に加わった既存の投資家は、Draper Associates、SOSV、Grid Exponential、VistaEnergy、Teramips、,Cygnus Draper、そしてDragones VCもこのラウンドに参加した。

画像クレジット:Stamm Biotech

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(文:Emma Betuel、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ファームノート、乳牛ごとの遺伝子解析情報をクラウドで提供し理想の牛群を追究できる酪農家向けサービスFarmnote Gene

ファームノート、乳牛個体ごとの遺伝子解析情報をクラウドで提供し理想の牛群を追究できる酪農家向けサービスFarmnote Gene

酪農・畜産特化IoTソリューションの開発・提供を行うファームノートは2月25日、乳牛の遺伝子情報(ゲノム)を採取し、その解析結果をクラウドで提供するサービス「Farmnote Gene」(ファームノート・ジーン)の提供を3月より開始すると発表した。個々の乳牛の特性を遺伝子レベルで確認し、「理想の牛群の追究」を実現させるというものだ。遺伝子情報を解析することで乳量や乳質、生産寿命、繁殖成績といった牛の各個体の遺伝由来の能力を把握しやすくなり、データに基づく飼養管理、意思決定を実現し、速やかな牛群改良を可能にするという。

Farmnote Geneでは、乳牛個体ごとの遺伝子情報を専用のインターフェイスでわかりやすく提示するため、酪農家は、専門知識がなくとも解析結果を直感的に理解し利用できる。具体的には、次の特徴がある。ファームノート、乳牛個体ごとの遺伝子解析情報をクラウドで提供し理想の牛群を追究できる酪農家向けサービスFarmnote Gene

  • わかりやすい画面と項目表示:気になる項目ごとのデータ表示などで、乳牛の個体特性を判断できる。良い牛かどうかの判別が容易になる
  • ひと目でわかる牛のランキング画面
    牛のランキング表示機能により、細かいデータ表を読み込んだりデータ加工を行うなどの手間をかけることなく、牛ごとの遺伝子データの全体像が把握できる
  • 牧場がすべき次のアクションを確認:データに基づく後継牛の提案を受けることができ、牧場の短期から長期の繁殖目標を確認できる

具体的な活用例としては、後継対象外となった母牛に和牛受精卵を種付けして子牛を育成し販売する、疫病リスクが少ない母牛を選んで種付けして病気が少ない子牛の誕生確率を上げる、搾乳ロボットに適した体型補正で搾乳作業を効率化するなどが挙げられている。

Farmnote Geneは、PCやタブレットで解析結果を見るための「Farmnote Gene Webサービス」(無料)と、実際のゲノム検査とで構成される。ゲノム検査の料金は応相談。また、解析結果をもとにしたアドバイスが受けられる「定期レビュー」サービスも提供が予定されている。

ソメイヨシノの遺伝子発現をPCR法で解析し正確な開花予測を実現、サクラと同じバラ科のナシやモモにも応用可能

ソメイヨシノの遺伝子発現をPCR法で解析し正確な開花予測を実現、サクラと同じバラ科のナシやモモにも応用可能

ソメイヨシノの萌芽から開花の時期に発現する遺伝子群とその発現量の変化(発表論文データより)。各グラフの縦軸は遺伝子の発現量に相当する。萌芽から開花までに働く様々な遺伝子の発現変動を全体像としてまとめたことで、正確な開花日予測が可能となった

かずさDNA研究所は2月18日、ソメイヨシノの遺伝子発現に基づく開花予測技術を開発したと発表した。ハンディータイプの解析装置を用いたリアルタイムPCR法により、開花前に特徴的に発現量が増加する遺伝子を捉え、正確に開花日を予測できる。これは、かずさDNA研究所(白澤健太氏)、島根大学(江角智也准教授)、京都府立大学(板井章浩教授)による共同研究。サクラと同じバラ科のナシやモモをはじめとする、様々な果樹の開花予測に応用できるという。

ソメイヨシノの開花予測は、現在は「温度変換日数法」によって行われている。冬に休眠した花芽が「休眠打破」により成長を開始した日から、特別な公式によって弾き出された日数を経過すると開花するという予測方法だが、それでは桜前線のように、大きな範囲での予測となる。そこで研究グループは、気温の上昇にともない発現する開花に関連した遺伝子を特定し、発現量をモニターできれば、各地のお花見スポットやソメイヨシノ1本1本の開花日予測が正確に行えるようになると考えた。

ソメイヨシノは、エドヒガンとオオシマザクラを掛け合わて作られた品種のため、2つのゲノム(2倍体)を持つなどゲノム構成が複雑で、これまで解析が難しかったのだが、同研究グループでは2019年にソメイヨシノのゲノム配列の解読を成功させ、新たな開花予測手法の開発に取り組んできた。

その結果、開花1カ月前までに器官発達に関わる遺伝子が働き、開花2〜3週間前までに細胞壁の構築・伸展または分解に関する遺伝子、糖の代謝や必要な物質の輸送に関する遺伝子が順番に働き始め、さらに、おしべやめしべの発達に関する遺伝子が働くことがわかった。どれもが、花器官の組織や細胞の劇的な肥大、花柄(かへい)の成長などの形態変化に関係するものだ。そこから、開花前10〜20日、また0〜10日前に特徴的に発現する遺伝子を選び出し、ハンディータイプの解析装置を用いたリアルタイムPCR(Polymerase Chain Reaction)法によりその発現量を測定し、開花日を予測できるようにした。リアルタイムPCR法とは、DNA断片を増幅するためのサーマルサイクラーと、DNA量をモニターするための分光蛍光光度計を一体化した専用の装置を用いて、DNA断片の増幅量をリアルタイムでモニターし解析する方法。新型コロナウイルスの陽性確認PCRにも用いられている。

今回発表の技術は、サクラと同じバラ科のナシやモモなどの果樹にも応用が可能とのこと。開花後の受粉の管理などを計画的に行う必要のあるこれらの果樹は、気候変動により難しくなっている開花予測の精度を高めることで、安定して高品質な果実を得られるようになると、研究グループは話している。

ヒトの幹細胞から培養し作った心筋細胞を利用、自動的に泳ぐロボット魚をハーバード大ウィス研究所が製作

ヒトの幹細胞から培養し作った心筋細胞を利用、自動的に泳ぐロボット魚をハーバード大ウィス研究所が製作

Michael Rosnach, Keel Yong Lee, Sung-Jin Park, Kevin Kit Parker

米ハーバード大学ウィス研究所の研究チームが、ヒトの心筋細胞の性質を利用し、自動的に泳ぐロボット魚を作り上げました。このロボット魚は、ヒトの幹細胞から培養して作り出した心筋細胞を、魚の形をしたゼラチン製模型の脇腹に埋め込んだもの。心筋細胞は糖分を動力源として、心臓が鼓動を打つように収縮をリズミカルに繰り返す性質を持っており、それがここでは魚の泳ぐ動作を生み出します。

筋肉はイオンの流入で収縮をする性質を持っています。これは通常、神経インパルスがトリガーとなって起こります。しかし、研究者はロボット魚に対して特定の波長の光に反応してイオン流入を起こす、光活性化イオンチャンネルのはたらきを持つタンパク質をいくつか発見し、ロボット魚の両脇の心筋細胞の一方が青い光で、もう一方が赤い光で収縮するように仕組みました。これにより、ロボット魚に青と赤の光を交互に当てることで、身体を左右にくねらせ、泳ぐ動作を誘発できました。

ヒトの幹細胞から培養し作った心筋細胞を利用、自動的に泳ぐロボット魚をハーバード大ウィス研究所が製作

Michael Rosnach, Keel Yong Lee, Sung-Jin Park, Kevin Kit Parker

また、研究者らは別の方法も作り出しました。それは心臓の構造から着想を得たもので、2つの脇腹の心筋細胞を中央で繋ぐ心筋細胞の球を作り、それが収縮を制御するペースメーカーの役割を果たすような仕組みです。この方法では、ペースメーカーとなる中央の細胞で始まったイオンの流入が両脇の心筋細胞に拡がり、収縮を引き起こすようになっています。

この方法の場合、普通に考えれば両脇の筋肉が同時に収縮するかとも思われますが、実際にはどういうわけか両側の細胞が互いに収縮するタイミングを調整するようになりました。心筋細胞は筋肉が収縮をした時、伸長を促すための受容体が活性化されることで、伸ばす動作に転じる性質があります。この性質によって、右側の筋肉が収縮をした際に反対、つまり左側の細胞が伸び、次のサイクルでは左が収縮した際に、右側の細胞が伸びるようになりました。この動作は、それぞれが勝手に動いていれば周期のズレからだんだん同期が取れなくなっていきますが、中央のペースメーカーとして機能する細胞が、左右それぞれの動きの同期を保つ役割を果たしました。

このロボット魚は、上のようなやり方で3か月にわたって壊れることなく泳ぐ動作を続けることができました。しかも、製作から1か月の時点までは心筋細胞の成長により筋肉が増強して性能的な向上がみられ、1秒間にその体長よりも長い距離を泳げるようになったとのこと。

この研究で生み出されたバイオロボット魚は、鑑賞するぶんには多少面白いかもしれませんが、将来的に何らかの用途に使うことを想定したものではありません。それでも、ヒトの心臓は死ぬまでに数十億回拍動を繰り返すことから、非常に高い耐久性を必要とする用途に応用するための可能性が、この研究によって少しは拡がったと言えるかもしれません。

(Source:Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering at Harvard UniversityEngadget日本版より転載)

環境に応じ植物の根の長さを変化させる遺伝子制御因子を特定、植物工場や都市型農業の生産性向上への貢献に期待

環境ストレスに応じ植物の根の長さを変化させる遺伝子制御因子を特定、植物工場や都市型農業の生産性向上への貢献に期待

根の伸長が阻害されたbz1728株とそれを回復したnobiro6株、野生株の表現型。転写因子bZIP17とbZIP28を同時に機能欠損させた変異株bz1728(中央)では著しく根の伸長が阻害されるが、bz1728株の変異株の1つnobiro6(右)は、根の伸長成長が回復している

理化学研究所(理研)は2月9日、環境ストレスに応じて根の長さを調節する植物の遺伝子制御因子を発見したと発表した。この成果は、根菜類の品種改良、植物工場や都市型農業に向けた作物の生産性向上への貢献が期待される。

地中に根を張る植物は、高温、乾燥、病害などの環境ストレスに対処する応答機構を発達させてきた。だがストレスへの耐性を高めると、植物の成長が抑制されてしまうという反面がある。その成長抑制の分子メカニズムは明らかにされていない。

そこで、理化学研究所(キム・ジュンシク氏、篠崎一雄氏)、大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻(坂本勇貴助教)、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻(松永幸大教授)、東京農業大学農生命科学研究所(篠崎和子教授)らによる共同研究グループは、植物の根の成長を抑制する現象を分子遺伝学的に解明する研究を行ってきた。研究グループが目を付けたのは、細胞の工場とも呼ばれる小胞体のストレスを受けたときの応答「小胞体ストレス応答」(UPR。Unfolded Protein Response)だった。これは、外部ストレスを細胞内シグナルに変えて、遺伝子発現抑制を伝える細胞内ストレスセンサーとして働いている。

研究グループは、分子遺伝学のモデル種であるシロイヌナズナの、UPRの制御に関わる3つの転写因子(遺伝子の発現を制御するDNAタンパク質)のうちの2つに機能欠損させた変異株「bz1728」では、野生種に比べて根の伸びが10%程度阻害されることを解明していたが、根の伸長阻害のある他の変異株との関連性が乏しいことなどから、このbz1728株の伸長阻害の原因は、新しい遺伝因子にあると考えた。

そこで、bz1728株のゲノム上にランダムな突然変異を誘導した集団を作り、そこから再び根が伸びるようになった変異株を選び出し「nobiro」(ノビロー)と名付けた。そして、そのうちの1つ「nobiro6」株の分子メカニズムを解明するための分子遺伝学解析を行った。そこから浮かび上がったのが、基本転写因子複合体の構成因子の1つである「TAF12b」という遺伝子だ。TAF12bを含む3つの遺伝子(bzip17、bzip28、taf12b)の機能をゲノム編集で欠損させた変異株を作ったところ、根の伸びがnobiro6と同程度に回復した。また、TAF12bのみを欠損させた変異株では、人為的誘導された小胞体ストレスによる根の伸長抑制応答が鈍くなり、UPRの活性も低下した。これらのことから、TAF12bがUPRによる根の伸長抑制に影響していることが明らかになった。

研究グループは「回復した遺伝子群の多くがストレス耐性獲得に機能することから、TAF12bは植物が感知した外部ストレスのシグナルを根の細胞の成長応答に結び付ける重要な遺伝子制御因子であると考えられます」という。また、SDGsの「2.飢餓をゼロに」や「13.気候変動に具体的な対策を」に貢献することが期待されるとも話している。

理研ら国際共同研究チーム、医療ビッグデータとコンピューター科学を活用し卵巣がんの新しい治療標的を特定

理研ら国際共同研究チーム、医療ビッグデータとコンピューター科学を活用し卵巣がんの新しい治療標的を特定

高異型度漿液性卵巣がんにおけるLKB1-MARK3経路の機能異常

理化学研究所(理研)は2月7日、医療ビッグデータとコンピューター科学の活用により、卵巣がんの新しい治療標的「LKB1-MARK3経路」を特定したと発表した。卵巣がんの中でもっとも死亡者数の70から80%を占める「高異型度漿液性卵巣がん」の新しい治療法の開発につながると期待されている。

これは、理研、国立がん研究センター研究所国立がん研究センター中央病院東京大学米メモリアルスローンケタリングがんセンター米国立がん研究所の国際共同研究によるもの。

高異型度漿液性卵巣がんの研究では、ゲノム解析の結果、ほぼ全例にがん抑制遺伝子TP53の不活性化型変異が認められている。その症例の半数にはPARP阻害剤が有効な治療法とされるが、残りの半数の症例への治療標的が十分には確立されていなかった。しかし、個別の遺伝子変異に注目した従来型の研究手法では、これ以上新しい治療標的を発見できない可能性がある。そう感じた研究グループは、様々なアルゴリズムを用いてコンピューター解析を行う「ビッグデータ解析」による、遺伝子発現量の変化を定量的に評価する必要があると考えた。

研究グループは、高異型度漿液性卵巣がんのがん組織と正常卵巣組織の遺伝子発現量を比較解析するために、大規模なマイクロアレイデータ、RNA-seqデータ、臨床情報などが含まれる複数データベースの統合解析を行い、遺伝子発現変化が臨床予後に影響する遺伝子を抽出するために、新しい解析プラットフォームを構築。これにより、「LKB1-MARK3経路」のMARK3遺伝子が高異型度漿液性卵巣がんで発現抑制されており、その遺伝子発現量の低下が臨床予後の悪化に関わることがわかったという。

医療ビックデータ解析による新規治療標的の探索パイプラインと解析結果

医療ビックデータ解析による新規治療標的の探索パイプラインと解析結果

次に、ビックデータ解析の結果を臨床医学的に検証するために、高異型度漿液性卵巣がんの正常組織(卵管上皮細胞)と前がん病変(上皮内がん)、浸潤がんの患者由来検体を用いて、「セリンスレオニンキナーゼ(serine-threonine kinase)をコードするがん抑制遺伝子」であるLKB1と、「LKB1によって直接的にリン酸化修飾を受けるセリンスレオニンキナーゼ」であるMARK3のタンパク質発現量を評価した。

その結果、LKB1とMARK3からなる「LKB1-MARK3経路」のMARK3遺伝子が高異型度漿液性卵巣がんで発現抑制されており、その遺伝子発現量の低下が病状の悪化に関わっていることがわかった。さらにその後の解析により、MARK3は卵巣がん細胞株において抗腫瘍効果を発揮することもわかった。これは、マウスの皮下組織にMARK3を強制発現させた卵巣がん細胞株を移植する実験でも、明らかとなった。

卵巣がん組織におけるLKB1とMARK3のタンパク質発現プロファイル

卵巣がん組織におけるLKB1とMARK3のタンパク質発現プロファイル

今回の研究は、理化学研究所革新知能統合研究センターの情報科学技術を用いて、「医療ビッグデータを解析し、従来の医学研究手法でその結果を検証した」ものであり、その成果は「がん研究においても情報科学と医学が融合した学際的な研究手法が重要であることを示しています」と研究グループは話している。このビッグデータ解析手法は、異なるがん種や疾患の原因探索にも応用できる可能性があるとのことだ。

遺伝子治療による視覚再生の早期実用化を目指すレストアビジョンが3億円調達、網膜色素変性症治療薬の臨床試験目指す

遺伝子治療による視覚再生の早期実用化を目指すレストアビジョンが3億円のシード調達、網膜色素変性症治療薬の臨床試験目指す

遺伝子治療による視覚再生の早期実用化を目指すレストアビジョンは2月4日、シードラウンドにおいて、第三者割当増資による総額3億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、リアルテックファンド、ANRIおよびRemiges Venturesがそれぞれ運営するファンド。

調達した資金は、慶應義塾大学とともに採択された日本医療研究開発機構(AMED)などの補助金計3億円とあわせて、6億円の資金をもって、同社リードパイプラインである網膜色素変性症の遺伝子治療薬RV-001の製剤開発、非臨床試験などを推進し、RV-001の臨床試験の早期実現を目指す。

レストアビジョンは、慶應義塾大学医学部と名古屋工業大学の共同研究成果をもとに、オプトジェネティクス技術の臨床応用による、遺伝性網膜疾患に起因する失明患者の視覚再生の実現を目指して、2016年11月に設立。いまだ有効な治療法のない遺伝性網膜疾患に対し、同社の治療を提供していくことを第1のミッションに掲げて開発に取り組み、日本発・大学発の遺伝子治療技術の産業化による日本経済への貢献を目指している。

RV-001は、AAV(Adeno Associated Virus)ベクターに独自の光センサータンパク質である「キメラロドプシン」を目的遺伝子として搭載した遺伝子治療薬。ヒトの網膜において光センサーの役割を担う視細胞が、遺伝的要因で変性消失してしまう網膜疾患を主な対象として、簡便かつ低侵襲な投与方法である硝子体内注射によりRV-001を投与し、残存する介在神経細胞内でキメラロドプシンを発現させることで、視覚再生を実現する治療法という。

再生医療スタートアップU-Factorと慶應義塾大学医学部、幹細胞培養上清液によるドライアイ治療の共同研究開始

再生医療スタートアップU-Factorと慶應義塾大学医学部、幹細胞培養上清液によるドライアイ治療の共同研究開始

再生医療スタートアップU-Factor(ユーファクター)と慶應義塾大学医学部眼科学教室は2月2日、乳歯由来の歯髄幹細胞培養上清液を用いたドライアイ治療の共同研究を開始したと発表した。

U-Factorは、アルツハイマー病をはじめ、有効な治療法のない疾患に対する要望、いわゆる「アンメットメディカルニーズ」に対処する薬の開発を進めており、乳歯由来の歯髄幹細胞培養上清液の基礎研究も行っている。幹細胞培養上清液とは、幹細胞を培養する過程で得られる上澄み液のこと。これまでの再生医療では、幹細胞そのものを体内に移植する方式が有効とされているが、近年、幹細胞培養上清液にも幹細胞移植と同等の利用効果があることがわかった。

幹細胞培養上清液には数千種類の成長因子が含まれており、体内の細胞組織の再生を促す。なかでも、U-Factorが開発している乳歯由来の幹細胞培養上清液は、骨髄や脂肪から得られる間葉系由来のものに比べて成長因子がより豊富に含まれているという。

この共同研究では、日本で2200万人が悩まされているドライアイ(Uchino M, et al. Am J Ophthalmol, 2013)への幹細胞培養上清液の有効性を確認することにしている。U-Factorは研究費用と幹細胞培養上清液を提供し、慶応義塾大学医学部眼科学教室が研究の実務を行う。数年後には幹細胞培養上清液の産業化を目指すとのことだ。

沖縄科学技術大学院大学がDNAの作用で自己組織化・分解するゲルブロックを作製、組織工学・再生医療への応用の可能性も

塩基対形成は非常に特異的なプロセスであるため、対合するDNA鎖の設計に利用できる

塩基対形成は非常に特異的なプロセスであるため、対合するDNA鎖の設計に利用できる

沖縄科学技術大学院大学の研究グループは、短いDNAの鎖を接着剤のように使い、2mmほどのハイドロゲル(水を含む高分子物質)ブロックを、プログラムどおりに結合させることに成功したと発表した

研究グループは、ハイドロゲルブロックの表面にDNA鎖を固定し、それが別のブロックに固定したDNA鎖との対合(「たいごう」または「ついごう」。同じ起源の染色体同士が結合すること)により、プログラムによって指定されたブロック同士をつなぎ合わせる実験を行った。DNAは、2本のDNA鎖がらせん状に結合して成り立っているが、塩基の緻密な組み合わせによって対合されている。この対となるDNA鎖を設計することで、目的の相手と対合させることが可能となる。この原理をハイドロゲルブロックという肉眼で見える素材を使って実証したのが、この実験だ。

表面にDNA鎖を固定したハイドロゲルブロックを溶液に混ぜると、10〜15分でハイドロゲルブロックは自分たちで相手を選んで対合し、自己組織化した。1つの実験では、赤と緑に色分けされたハイドロゲルブロックの表面に一本鎖(いっぽんさ)のDNAを付着させて、赤いブロックと緑のブロックが対合するようにした。これらを溶液に入れて振ると、10分後には緑のブロックと赤のブロックが対になった。同じDNA鎖とは相互作用をしなかったため、同じ色同士が結合することはなかった。

赤と緑のハイドロゲルブロックは、表面に付着した対合するDNA鎖同士で塩基対を形成することにより、結合することができた

赤と緑のハイドロゲルブロックは、表面に付着した対合するDNA鎖同士で塩基対を形成することにより、結合することができた

さらに、特定の配列のみを認識するDNAの能力の検証も行った。4対のDNA鎖を設計し、それぞれを赤、緑、青、黄のハイドロゲルブロックに付着させた。これを溶液に入れると、いろいろなDNA配列が存在するにも関わらず、対合するDNA鎖同士でしか結合が起きなかった。「これは、自己組織化が非常に特異的におこるプロセスであり、プログラムがしやすいことを示しています。DNA配列を変えるだけで、ブロック同士がさまざまな方法で相互作用するように誘導することができるのです」と、核酸化学・工学ユニットの横林洋平教授は話す。

ハイドロゲルブロックは、その表面にあるDNA鎖が対合しているため、自ら色別のグループに分かれることができた

ハイドロゲルブロックは、その表面にあるDNA鎖が対合しているため、自ら色別のグループに分かれることができた

そして、構造体の分解もプログラムできるかどうかも検証した。対合する2本の1本鎖DNAを設計し、1本目の一本鎖DNAの一部と対合する短い一本鎖DNAも作った。この長短のDNA鎖をハイドロゲルブロックに付着させたところ、これらは対合した。その後、長いほうのDNA鎖と同じ長さの対合するDNA鎖を加えると、1時間後には短いDNA鎖は長いDNA鎖に置き換わり、ハイドロゲルブロックの集合体は分解した。

「これは、DNAを『接着剤』としてハイドロゲルブロックをくっつけると、このプロセスを完全に元に戻すことができるということを意味し、非常に驚くべきことです。また、個々の構成要素も再利用できるということです」と、核酸化学・工学ユニットのポストドクトラルスカラー、ヴェンカット・ソンタケ博士は言う。

ハイドロゲルブロックは、より強く対合する2本目のDNA鎖を加えると分解したため、2本目のDNA鎖は、ブロック同士を接合する2本のDNA鎖間の結合を阻害したといえる

ハイドロゲルブロックは、より強く対合する2本目のDNA鎖を加えると分解したため、2本目のDNA鎖は、ブロック同士を接合する2本のDNA鎖間の結合を阻害したといえる

この研究の意味について、横林洋平教授はこう話している。「これはまだ基礎研究ですが、将来的には、この技術を組織工学(ティッシュエンジニアリング。Tissue engineering)や再生医療に応用できる可能性があります。ハイドロゲルブロックの中にさまざまな種類の細胞を入れて、新しい組織や臓器を作るために必要な複雑な3次元構造を組み立てることができるようになるかもしれません」。

また、「応用の可能性はともかく、相互作用するDNA鎖といった微小な化学変化を目の当たりにできるのは素晴らしいことです。これが科学の面白いところです」と明かしている。