医師から患者への医療情報提供の支援ツールを開発するContrea(コントレア)は7月28日、East Venturesからシードラウンドでの資金調達を実施したことを明らかにした。調達金額は非公開だ。
診療説明を動画で“処方”するシステム
Contreaが開発するのは、患者が納得して治療を受けられるように医師が行う説明を、オーダーメイドの動画で支援するツール「MediOS(メディオス)」だ。
Contrea代表取締役の川端一広氏は、診療放射線技師でもある。4年半、病院で勤務する中で、レントゲンやCT、MRI、PETといった医療画像を提供し、医師が患者に画像を使って説明することを助けてきた。ただ、特にがんなどの高度な診療が必要な患者への説明では、たとえ画像を使ったとしても、説明が専門的になることは避けられず、患者にとっては分かりづらくなる。
川端氏は「医師・医療従事者から患者さんへ情報を届けたい」との思いから、まずは病院勤務を続けながら、VRを使って、医師からがん患者へ医療画像を説明するためのプロダクトを作った。これは、CTやMRIで撮影した画像から、機械学習を用いて病気の部分を抽出し、医師・患者の双方がVR空間上でそのデータを見ながら、説明が行える/受けられるというものだ。
ところが実際にがんに罹患した人たちの患者会などで川端氏が話を聞いていくと、患者にとっては「がんがどれくらいの大きさか」といった画像データで得られる情報だけでは断片的で、知りたいのは「このがんがどういう病気で、どんな検査・治療を行い、予後はどうなる可能性があるか」という一連の情報だと分かった。
これらの情報は専門性が高く、患者にとっては分かりづらい。「いろんな患者さんが『難しくて分からないが、分からなくてもしょうがない』という感じだったのを見て、何とかしたいと思った」と川端氏。そこで川端氏は、病気の状態から、検査・治療法、合併症や副作用などの一連の情報を患者に分かりやすく伝えるために、「説明動画の“処方”システム」としてMediOSを構想するようになった。
「withコロナ時代にも相性の良いサービスに」
Contrea設立に先立ち、川端氏はMediOSの構想を持って経済産業省主催の「ジャパン・ヘルケアビジネスコンテスト」などへ出場。「当初作っていたVRプロダクトと比べて、医師や製薬会社といった医療関係者からの反響がずっと良かった」と話す。コンテスト参加で自信を得た川端氏は、2020年1月にContreaを設立し、MediOSの開発を本格化させた。
がん患者への説明では、医師はおよそ1時間ほど説明に時間をかけるが、それだけの時間をかけても患者に伝わらないことも多いという。このギャップを動画コンテンツを使って解決したいというのがMediOSの発想だ。これは患者の診療への納得度や信頼度を上げると同時に、医師の勤務時間の短縮にもつながると川端氏は言う。
厚生労働省の調査(「平成29年度過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業報告書 (医療に関する調査)」)によれば、医師の時間外労働が発生する理由として、病院・医師が共通して第3位に挙げたのは「患者(家族)への説明対応」で、いずれも50%を超えている。
所定外労働が発生する理由(病院調査結果、複数回答)。医師調査結果でも第3位が51.8%で「患者(家族)への説明対応のため」となっている。
患者にとって納得して、満足のいく治療を受けるためにはインフォームドコンセント(十分な情報を元に医師と患者が合意するプロセス)が不可欠なため、信頼関係を構築するためにも十分な説明は不可欠だが、これまでは、医師の属人的なスキルに依存していたと言える。
だが、臓器の働き、画像から想定されるがんの特徴、今後の検査や治療法、可能性がある合併症や副作用といった土台となる基礎的な知識は、実はどの医師が話しても同じになる部分だ。ここを動画を見てもらうことでショートカットできれば、1から100まで医師が説明せずともよくなる。
一方で患者が抱える病気への不安や悩み、例えば治療費や期間、治療方法など、どのポイントがより気になるかは、患者の生活環境や経済状況などによってそれぞれ異なる。個々の患者に特化した相談に医師が集中できれば、時短を実現しながら、より患者にとって納得や満足のいく診療を行うことが可能になる。
MediOSの利用の流れは以下の通りだ。まず、医師が説明の対象となる臓器の部位と検査・治療方法、術式、再建法、合併症など、患者に説明したい項目を、医師向けのダッシュボード画面から選択して登録し、患者へのメッセージを入力する。すると説明したい内容に沿った動画ができあがる。
患者はできあがった動画を、スマホやタブレットでいつでも、どこでも確認することができる。また、MediOSにはコンテンツに応じた理解度の確認機能も搭載される。費用、治療期間など、患者が事前に知りたいことを登録しておくこともできるので、医師を初めとした医療関係者が次の診療の際、患者の理解度や不安な点に応じた対話を、問診時間を別途取らなくても行うことができる。患者も「何を聞けばいいか分からないので、お任せします」という状態ではなく、丁寧な説明を受けることが可能になる。
MediOSにより実現できるのは、医師と患者との信頼関係構築、医療者の時間短縮・業務効率化だけではないと川端氏は述べている。基礎的な説明部分を対面で行う必要がなく、スマホ、タブレットで見る時間・場所の自由ができることで、診察室を専有する時間を開放することが可能になるというのだ。
「インフォームドコンセントではプライバシーの確保なども重要で、どうしても密閉空間で長時間説明することになる。その時間の一部を“いつでもどこでも”に置き換えることで、診察室の空間を拡張できる。これはwithコロナ時代にも相性の良いサービスとなるはずだ」(川端氏)
収益については、医師1アカウント当たりで利用料金を設定していく予定だと川端氏は話している。
患者の医療体験改善にもつながるプロダクト目指す
問診プログラムなど、医師と患者とのコミュニケーション改善によって医療者の業務効率化を支援するSaaSはこれまでにも、Ubieやメルプといった企業からも提供されている。だが川端氏は「直接の競合は今のところない」と語っている。
「医療情報システムの市場規模は約4700億円と言われているが、そのうちSaaS化されているのは、まだ3%程度。残りの97%が代替可能だ。ライバルは多いが、その中で業務改善だけでなく、動画で患者の医療体験の改善にもつながるプロダクトとなっているのが、私たちの強みだと考えている」(川端氏)
市場への浸透のためには、患者に分かりやすい動画コンテンツの開発は必須となるだろう。川端氏は「医療的に正しいこと、医師が見ても信頼が置けることが重要。このため、著名な先生に監修を依頼しており、コンテンツ製作の仕組みづくりにも今、まさに取り組んでいる」と述べている。
今回の調達資金の使途も、そのコンテンツづくり、システムづくりに充てると川端氏。同時に間もなくクローズドで開始する、病院での実証実験にも投資すると話している。
「直近で来月から、3〜4カ所の病院でテストを開始し、11月にはサービスローンチを予定している。コンテンツについては、1疾患ごとに作成しながら、疾患の種類を増やして拡大していくつもりだ。1年後には3〜5疾患に対応し、10の病院への導入を目指す」(川端氏)
1年半でARR(年間経常収益)1億円達成を目指すという川端氏。「スローペースに見えるかもしれないが、病院に導入してもらうためには信頼関係の構築が大事。初めはゆっくり展開するが、それで高評価を得られるようにして、他院への口コミ紹介で拡大を狙いたい」とのことだ。その後、2024年にはARR10億円を目指すという。
対象となる疾患についても、がんから心疾患や脳疾患、高血圧などの慢性的疾患に広げていくつもりだという。また導入先については大病院からスタートするが、ゆくゆくは中小病院やクリニックにも導入できるようなものを用意していきたいと川端氏は語っていた。