水素燃料電池車によるオフロードレース「Extreme H」、2024年より開催予定

2024年には、水素燃料電池自動車を使ったオフロードレースシリーズが始まる見込みだ。この「Extreme H(エクストリームH)」と呼ばれるシリーズは、2021年初開催された電気自動車によるオフロードモータースポーツ「Extreme E(エクストリームE)」の姉妹大会となる。これら2つのシリーズは、同じ場所で、同じ日に、同じフォーマットでレースを開催することになる。シリーズの創設者兼CEOで、Formula E(フォーミュラE)の創設者でもあるAlejandro Agag(アレハンドロ・アガグ)氏によると、主催者は水素の統合に関して、合同レースと完全移行という2つの選択肢を検討しているという。

Extreme Hの競技用車両の開発は現在進行中で、計画では2023年初頭までにプロトタイプが完成することになっている。この車両には、Extreme Eで使用されているものと同じパワートレインとシャシーが使用される予定だが、主な違いは、中心となる動力源が、バッテリーではなく水素燃料電池になることだ。

Extreme Hの主催者によると、この燃料電池には水と太陽光発電で電気分解して作られるグリーン水素が使用されるとのこと。Extreme Eでも同様のプロセスでバッテリーを充電し、レース開催場所のパドックでは、バッテリーとグリーン水素を組み合わせて電力を供給している。

編集部注:本記事の初出はEngadget。執筆者Kris HoltはEngadgetの寄稿ライター。

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(文:Kris Holt、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

GMが3.8兆円をEV開発へ投資、従来の計画に8850億円上乗せ

General Motors(ゼネラル・モーターズ)は米国時間6月16日、2025年までに電気・自動運転車に350億ドル(約3兆8722億円)を投資すると述べ、これまでに明らかにしていた額を引き上げた。2020年11月に発表した計画の額に80億ドル(約8850億円)を上乗せする。

同社は2025年までにグローバルマーケットでEV30種を展開し、2035年までに全ゼロエミッションに移行する目標を打ち出している。新たな投資で、GMは新しい電動商用トラックを北米の計画に追加し、米国での電動SUV組立能力を拡大すると述べた。

新たなEVモデルの充実したポートフォリオを構築するのに加えて、同社はEV革命をリードしようと多面的なアプローチを取って来た。同社はまた、LG Chem(LG化学)とのジョイントベンチャーUltium Cells LLCのもとに2つの新規バッテリー工場にも投資している。そしてGMは2016年に過半数の株式を購入した自動運転部門Cruise(クルーズ)にも投資した。

今回のニュースの前日には、Cruiseが電気自動運転車両Originの商業化に向け、GMの金融部門から50億ドル(約5531億円)の融資を受けたと明らかにした。Originの商業生産は2023年の開始が見込まれている。

GMはまたホンダとのジョイントベンチャーHYDROTECで水素燃料電池も製造している。GMは6月16日、第3世代のHYDROTEC電池を2020年代半ばまでに展開することも明らかにした。GMは大型トラックデベロッパーNavistar、そして航空機向けの水素燃料電池システムを開発しているLiebherr-Aerospaceとパートナーシップを結んでいる。

GMは6月15日に、燃料電池とEVバッテリーをWabtec Corporationに供給するとも述べた。Wabtec Corporationはピッツバーグ拠点の会社で、世界初のバッテリーlocomotiveを手がけている。

「GMはグローバルでの年間EV販売台数を2025年までに100万台超にすることを目指しています。そして当社は展開を促進するために投資額を増やします。というのも、米国で電動化のモメンタムがあり、当社のプロダクトポートフォリオに対する顧客の需要を目にしているからです」とCEOのMary Barra(メアリー・バーラ)氏は声明文で述べた。

Fordも同様にEV投資を増やすことを5月に発表した。それまで同社は2023年までに220億ドル(約2兆4337億円)としていたが、2025年までに300億ドル(約3兆3187億円)投資すると述べた。

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

パナソニックが世界で初めて純水素型燃料電池を活用したRE100化ソリューションの実証実験を開始

パナソニックは5月24日、純水素型燃料電池と太陽電池を組み合わせた自家発電によるRE100化ソリューションの実証に取り組むと発表した。工場の稼働電力のための自家発電燃料として水素を本格的に採り入れた実証実験としては、世界初の試みとなる。

RE100(Renewable Energy 100%)とは、事業活動の自然エネルギー100%化を推進する国際イニシアティブ。これに加盟するパナソニックは、滋賀県草津市で家庭用燃料電池エネファームを生産する同社工場に、500kWの純水素型燃料電池、約570kWの太陽電池を組み合わせた自家発電設備と、余剰電力を蓄える約1.1MWh(メガワット時)のリチウムイオン蓄電池を備えた大規模な実証施設を設置し、同工場の製造部門の全使用電力をこれでまかなうことにしている。また、これら3つの電池を連携させた最適な電力需給に関する技術開発と検証も行う。

一般に、RE100の実現方法には自家発電と外部調達の2つがあるが、外部調達の主力となるグリーン電力の購入も環境価格証明書の活用も価格が不安定などの短所がある。また自家発電の主力である太陽光発電も、事業に必要な電力を生み出すためには広大な敷地を必要とすることや、天候に左右されるという短所がある。そこでパナソニックは、3つの電池を組み合わせることで、工場の屋上などの限られたスペースでも、高効率で安定的に電力を供給できる方式を考案した。蓄電池を含めることで、需要に応じた適切なパワーマネージメントが可能になり、工場の非稼働日にも発電量を無駄にしないで済む。

この実証でパナソニックは、純水素型燃料電池の運用を含めたエネルギーマネージメントに関するノウハウの蓄積と実績構築、そして事業活動に必要な再生可能電力を自家発電でまかなう「RE100ソリューション」の事業化を目指す。

今回使用する水素は、再生可能エネルギー由来のグリーン水素ではないものの、ゆくゆくは環境価値証書の活用を含む再生可能エネルギーにて生成された水素を使用し、RE100に対応してゆく予定だ。

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ボルボとダイムラーが長距離トラック向け水素燃料電池生産で提携

ライバル同士であるVolvo AB(ボルボAB)とDaimler Truck(ダイムラートラック)が長距離トラック向けの水素燃料電池の生産でタッグを組む。共同生産は開発コストを下げて生産量を押し上げる、と両社は話している。Cellcentric(セルセントリック)という合弁会社は、2025年までに水素燃料電池の「ギガファクトリー」レベルの大規模生産を欧州で行うことを目指す。

両社は合弁会社を通じて燃料電池生産でチームを組むが、トラック生産の他の部分は別のままだ。今後建設されるギガファクトリーの立地場所は来年発表される。工場の生産能力についても明らかにしなかった。

Volvo ABとDaimler Trucksは「ギガファクトリー」という野心剥き出しの言葉を使ったが(工場の大規模な生産能力を表現する、Teslaによって普及した言葉だ)、幹部は目標にいくつかの注意事項を加えた。欧州の水素経済は、欧州連合が充電ステーションや他のインフラのコストをさらに削減したりインフラに投資したりすることにつながる政策的枠組みをつくるかどうかに少なからず左右される、と幹部は記者会見で述べた。言い換えると、水素に投資しようとしているDaimlerやVolvoのようなメーカーは「鶏と卵、どちらが先か」的な問題に直面している。燃料電池の生産をアップするのは、充電ステーション、水素を輸送するパイプライン、そして生産するための再生可能エネルギーリソースを含む水素ネットワークの構築と並行して進められた場合のみ理にかなう。

「長期的に、これは他の全てと同様、ビジネス主導の取り組みでなければなりません」とVolvoのCTO、Lars Stenqvist(ラース・ステンクヴィスト)氏はTechCrunchに語った。「しかしまず第1段階では、政治家からのサポートがなければなりません」

他の欧州トラックメーカーと共に2社は、欧州中に水素充電ステーションを2025年までに約300カ所、2030年までに約1000カ所展開することを求めている。

2社は炭素税や二酸化炭素ニュートラルテクノロジーに対するインセンティブ、あるいはエミッション取引システムのような政策が、化石燃料に対してコスト競争力を持てるようにするのに役立つかもしれない、と示唆した。大型トラックは水素需要においてはわずか10%を占めるにすぎず、残りは製鋼業や化学工業のような産業によって使用される、とも同氏は指摘した。これは、他の分野も水素支持の政策を推進することが大いにありえることを意味する。

新しい合弁会社にとって最大の課題の1つは、水素を電気に変える際の非効率性の低減だ。「それは車両のエネルギー効率を改善するための、トラックにおけるエンジニアリングの中核です」と同氏は話した。「我々の産業のエンジニアのDNAに常にあったものです。エネルギー効率は電動化の世界ではさらに重要になるでしょう」。費用対効果の良いディーゼル代替にするために、水素のコストは1キロあたり3〜4ドルの範囲に収まる必要がある、と同氏は推定した。

Volvoはまたバッテリー電動テクノロジーにも投資していて、再生可能なバイオ燃料で動く内燃エンジン(ICE)を潜在的ユースケースとみていると話した。同氏は、将来においてICEを有望視しているとこのほど語ったBosch(ボッシュ)の役員に賛成している。「私はまた、長期的には内燃エンジンにも可能性があると信じていて、内燃エンジンが終わりを迎える、あるいはなくなる日がくるとは思いません」と述べた。

「政治サイドからテクノロジーを禁止するのは完全に間違いだと私は思います。政治家は禁止すべきではなく、テクノロジーを承認すべきでもありません。彼らは方向性を示し、何を成し遂げたいかについて語るべきです。その後、テクニカルなソリューションを考え出すのは我々エンジニア次第です」。

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画像クレジット: Volvo

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

水素燃料電池飛行機へのZeroAviaの野望は技術的な課題が残るが大志は今なお空のように高い

2020年9月、ZeroAvia(ゼロアビア)の6人乗り航空機が英国クランフィールド空港から離陸して8分間の飛行を終えた時、同社は、商用サイズの航空機で史上初の水素燃料電池飛行を行うという「非常に大きな偉業」を成し遂げたと断言した。

この航空機はPiper Malibu(パイパーマリブ)プロペラ機を改造して作られており、同社によると、水素を燃料とする航空機の中では世界最大のものである。「水素燃料電池を使用して飛行する実験的な航空機はいくつかあったが、この機体の大きさからすると、完全にゼロエミッションの航空機に有償旅客を乗せる時代が目前に迫っている」と、ゼロアビアのCEOであるVal Miftakhov(ヴァル・ミフタコフ)氏は付け加えた。

しかし、水素を燃料としているといっても、実際にはどのような状況なのだろうか。乗客の搭乗はどの程度現実味を帯びているのだろうか。

ミフタコフ氏は飛行直後の記者会見で「今回の構成では、動力をすべて水素から供給しているわけではなく、バッテリーと水素燃料電池を組み合わせている。しかし、水素だけで飛行することも可能な組み合わせ方だ」と述べた。

ミフタコフ氏のコメントはすべてを物語っているわけではない。TechCrunchの調査では、今回の画期的なフライトに必要な動力の大半がバッテリーから供給されたこと、そしてゼロアビアの長距離飛行や新しい航空機で今後もバッテリーが大きな役割を果たすことがわかった。また、マリブは技術的には辛うじて旅客機と言えるかもしれないが、大型の水素タンクやその他の機器を収容するために、5つの座席のうち4席を撤去しなければならなかったのも事実だ。

ゼロアビアは、ピックアップトラックでの航空機部品のテストから始めたが、4年も経たないうちに英国政府の支援を得るまでになり、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏やBill Gates(ビル・ゲイツ)氏、そして先週にはBritish Airways(ブリティッシュエアウェイズ)などからも投資を呼び込んだ。現在の問題は、ゼロアビアが主張している軌道を進み続け、本当に航空業界を変革できるかどうかだ。

離陸

航空機が排出する炭素の量は、現在、人類の炭素排出量の2.5%を占めているが、2050年までには地球のカーボンバジェット(炭素予算)の4分の1にまで拡大する可能性がある。バイオ燃料は、その生産によって木や食用作物が消費し尽くされる可能性があり、バッテリーは重すぎるため短距離飛行にしか使用できない。それに対し、水素は太陽光や風力を使用して生成でき、大きな動力を生み出すことができる。

燃料電池は水素と空気中の酸素を効率的に反応させて結合させるもので、生成されるのは電気、熱、水だけである。ただし、既存の航空機に燃料電池をすぐに搭載できるかというと、話はそう単純ではない。燃料電池は重くて複雑であり、水素には大型の貯蔵庫が必要だ。このようにスタートアップが解決しなければならない技術的な課題は多い。

ロシア生まれのミフタコフ氏は、1997年に物理学博士号の取得を目指して勉強するために渡米した。いくつかの会社を設立して、Google(グーグル)で勤務した後、2012年に、BMW 3シリーズ用の電気変換キットを製造するeMotorWerks(EMW、eモーターワークス)を設立した。

しかし2013年、BMWは同社の商標を侵害しているとしてEMWを非難した。ミフタコフ氏はEMWのロゴとマーケティング資料を変更すること、そしてBMWとの提携を示唆しないことに同意した。ミフタコフ氏はまた、BMWオーナーからの需要が落ち込んでいることにも気づいていた。

EMWはその後、充電器とスマートエネルギー管理プラットフォームの提供にビジネスの軸を移した。この新しい方向性はうまくいき、2017年にはイタリアのエネルギー会社Enel(エネル)がEMWを推定1億5000万ドル(約162億円)で買収した。しかしミフタコフ氏はここでも法的問題に直面した。

EMWのVPであるGeorge Betak(ジョージ・ベタック)氏はミフタコフ氏に対して2件の民事訴訟を起こし、ミフタコフ氏が特許からベタック氏の名前を除外したり、報酬を渡さなかったり、さらにベタック氏が自分の知的財産権をEMWに譲渡したように見せかけるために文書を偽造したりした、などと主張した。後にベタック氏は請求を一部取り下げ、2020年夏にこの訴訟は穏便な和解に至った。

2017年にEMWを売却してから数週間後、ミフタコフ氏は「ゼロエミッション航空」という目標を掲げ、カリフォルニア州サンカルロスでゼロアビアを法人化した。ミフタコフ氏は、既存の航空機の電気化への関心がBMWのドライバーよりも高い航空業界に期待していた。

第1段階:バッテリー

ゼロアビアが初めて公の場に登場したのは、2018年10月、サンノゼの南西80キロメートルにあるホリスター空港だった。ミフタコフ氏は、1969年型エルカミーノの荷台にプロペラ、電気モーター、バッテリーを据え付け、電気を動力として75ノット(時速140キロメートル)まで加速させた。

12月にゼロアビアは6人乗りのプロペラ機であるPiper PA-46 Matrix(パイパーPA-64マトリックス)を購入した。このプロペラ機は後に英国で使用することになる航空機と非常によく似ている。ミフタコフ氏のチームは、モーターと約75キロワット時のリチウムイオンバッテリーをこれに搭載した。このバッテリーは、テスラのエントリーレベルのモデルYとほぼ同じ性能である。

2019年2月、FAAがゼロアビアに実験的耐空証明書を発行した2日後、電気だけを動力とするパイパーが初飛行に成功した。また、4月中旬には最高速度と最大出力で飛行していた。これで水素にアップグレードする準備は整った。

輸入記録によると、3月にゼロアビアは炭素繊維製水素タンクをドイツから取り寄せている。マトリックスの左翼にタンクを搭載した写真が1枚存在するが、ゼロアビアは飛行している動画を公開したことがない。何か不具合が起こっていたのだ。

ゼロアビアのR&Dディレクターが、パイパーオーナー向けのフォーラムに次のようなメッセージを投稿したのは7月のことだ。「大事に扱ってきたマトリックスの翼が破損しました。損傷が激しく、交換しなければなりません。すぐにでも部品取り用に販売される『適切な航空機』をご存知の方はいませんか」。

ミフタコフ氏は、今までこの損傷について明言してこなかったが、今回、ゼロアビアが航空機に手を加えている最中にこの損傷が発生したことを認めた。この損傷の後、その航空機は飛行しておらず、ゼロアビアはシリコンバレーにおけるスタートアップとしての活動を終えようとしていた。

英国に移る

ミフタコフ氏は、ゼロアビアの米国での飛行テストを中断し、英国に目を向けた。英国のBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)首相が「新たなグリーン産業革命」に期待しているからだ。

2019年9月、英国政府が支援する企業であるAerospace Technology Institute(航空宇宙技術研究所)(ATI)は、ゼロアビアが主導するプロジェクト「HyFlyer(ハイフライヤー)」に268万ポンド(約4億100万円)を出資した。ミフタコフ氏は、水素燃料電池を搭載し、飛行可能距離が450キロメートルを超えるパイパーを1年以内に完成させると約束した。出資金は、燃料電池メーカーのIntelligent Energy(インテリジェントエナジー)および水素燃料供給技術を提供するEuropean Marine Energy Centre(EMEC、ヨーロッパ海洋エネルギーセンター)との間で分配されることになっていた。

当時EMECの水素マネージャーだったRichard Ainsworth(リチャード・エインズワース)氏は「ゼロアビアは、電動パワートレインを航空機に組み込むというコンセプトをすでに実現しており、電力はバッテリーではなく水素で供給したいと考えていた。それがハイフライヤープロジェクトの中核となる目的だった」と述べている。

ATIのCEOであるGary Elliott(ゲイリー・エリオット)氏はTechCrunchに対し、ATIにとって「本当に重要」だったのは、ゼロアビアがバッテリーシステムではなく燃料電池を採用していたことだと述べ「成功の可能性を最大限に高めるには、投資を広く印象づける必要がある」と語った。

ゼロアビアはクランフィールドを拠点とし、2020年2月に、損傷したマトリックスと似た6人乗りのPiper Malibu(パイパーマリブ)を購入した。同社は6月までにマリブにバッテリーを取り付けて飛行したが、政府は安心材料をさらに求めていた。TechCrunchが情報公開請求によって入手したメールに対し、ある政府関係者は「ATIの懸念を確認し、それに対して我々ができることを検討したいと考えている」と書いた。

インテリジェントエナジーのCTOであるChris Dudfield(クリス・ダッドフィールド)氏はTechCrunchに対し、ハイフライヤープログラムは順調に進んでいるが、同社の大型燃料電池が飛行機に搭載されるのは何年も先のことであり、同氏はゼロアビアの飛行機を見たことさえもないと語った。

ゼロアビアは、インテリジェントエナジーとの提携により、英国政府から資金を確保しやすくなったが、マリブの動力の確保は進まず、燃料電池の供給会社を早急に見つける必要があった。

第2段階:燃料電池

ゼロアビアは8月、政府関係者に「現在、水素燃料による初の飛行に向けて準備を進めている」と文書で伝え、国務長官を招待した。

ミフタコフ氏によると、ゼロアビアのデモ飛行では、航空機としては過去最大となる250キロワットの水素燃料電池パワートレインが使用された。これはパイパーが通常使用している内燃機関と匹敵する出力であり、飛行において出力を最も必要とする段階(離陸)においても十分な余力が残る数値である。

ゼロアビアは燃料電池の供給会社を明かしておらず、250キロワットのうちどの程度が燃料電池から供給されたのかも詳しく説明していない。

しかし、デモ飛行の翌日、PowerCell(パワーセル)というスウェーデンの企業が、プレスリリースで、同社のMS-100燃料電池が「パワートレインに不可欠な部品」だったことを発表した。

MS-100の最大出力はわずか100キロワットであり、残りの150キロワットの供給源は不明である。つまり、離陸に必要な電力の大部分は、パイパーのバッテリーから供給されたとしか考えられない。

ミフタコフ氏は、TechCrunchのインタビューにおいて、9月のフライトではパイパーが燃料電池だけで離陸できなかったことを認めた。同氏によると、飛行機のバッテリーはデモ飛行中ずっと使用されていた可能性が高く「航空機に予備的な余力」を供給した。

燃料電池車でも、バッテリーを使用して、出力変化を安定させたり一時的に出力を高めたりするものは多い。しかし、いくつかのメーカーは、動力源について高い透明性を持たせている。飛行機に関していうと、離陸時にバッテリーを利用する上での問題点の1つは、離陸時に使用したバッテリーを着陸まで積載し続けなければならないことだ。

Universal Hydrogen(ユニバーサルハイドロジェン)は、別の航空機向けに2000キロワットの燃料電池パワートレインを共同開発している企業である。同社のCEO、Paul Eremenko(ポール・エレメンコ)氏は「水素燃料電池航空機の基本的な課題は重量だ。バッテリーはフルスロットル時のみに使用されるものであり、これをいかに小さくするかが軽量化の鍵になる」と述べている。

2月、ゼロアビアのVPであるSergey Kiselev(セルゲイ・キセレフ)氏は、バッテリーを完全になくすことが同社の目標だと語った。また、Royal Aeronautical Society(王立航空協会)に対し「離陸時の余力を確保するためにバッテリーを利用することは可能だ。しかし、航空機に複数の種類の駆動力や動力貯蔵システムを使用するとなると、認証の取得が著しく困難になるだろう」と話した。

今回、ゼロアビアは、出力の大部分をバッテリーから供給することで、投資家や英国政府から注目を集めたデモ飛行を成功させることができた。しかし、これにより、有償顧客を乗せた初飛行が遅くなる可能性がある。

排熱の問題

熱を排出する装置がなければ、燃料電池は通常、過熱を防ぐために空冷または水冷の複雑なシステムが必要になる。

「これこそが鍵となる知的財産であり、単に燃料電池とモーターを購入して接続するだけではうまくいかない理由なのです」とエレメンコ氏はいう。

ケルンにあるGerman Aerospace Center(ドイツ航空宇宙センター)では、2012年から水素燃料電池航空機を飛ばしている。特注設計された現在の航空機HY4は、4人の乗客を載せて最大で720キロメートル飛行できる。65キロワットの燃料電池には、冷却用の通風を確保するために、空気力学的に最適化された大きな流路を利用した水冷システムが搭載されている(写真を参照)。

画像クレジット:DLR

100キロワットの同様のシステムでは、通常、HY4のものより長く、3割ほど大きい冷却用インテークが必要になるが、ゼロアビアのパイパーマリブには追加の冷却用インテークがまったくない。

「離陸時の対気速度や巡航速度に対して、開口部が小さすぎるように見えます」というのは、ゼロアビアと共通する取引企業があることを理由に匿名でコメントを述べた航空燃料電池エンジニアである。

「熱交換器の配置や設定を試す必要はありましたが、熱を処理するために航空機の形状を再設計する必要はありませんでした」とミフタコフ氏は反論した。また同氏は、飛行中に燃料電池は85〜100キロワットの出力を供給していたと主張した。

ゼロアビアは、TechCrunchのインタビューに答えた後、パイパーの燃料電池が地上試験中に最大70キロワットの出力を供給している様子を示すビデオを公開した。地上試験中の70キロワットは、飛行中であればさらに高出力になる。

もちろん長距離飛行での実証は必要だが、ゼロアビアは、他のエンジニアを何年も悩ませてきた排熱問題を解決したのかもしれない。

次の飛行機:規模と性能の拡大

9月には、Robert Courts(ロバート・コート)航空大臣がクランフィールドでデモ飛行を見学し、飛行後に「ここ数十年間の航空業界で最も歴史的な瞬間の1つであり、ゼロアビアの大きな成果だ」と語った。タイム誌は、2020年の最大の発明の1つとしてゼロアビアの技術を挙げた。

ハイフライヤーの長距離飛行はまだこれからだというのに、12月、英国政府はハイフライヤー2を発表した。これは1230万ポンド(約18億4000万円)のプロジェクトであり、ゼロアビアが大型の航空機に600キロワットの水素電気パワートレインを提供するというものだ。ゼロアビアは、19人乗りの飛行機を2023年に商業化することで合意している(現在は2024年に変更されている)。

同日、ゼロアビアは2130万ドル(約23億円)のシリーズAの投資家陣営を発表した。これには、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏のBreakthrough Ventures Fund(ブレイクスルーベンチャーズファンド)、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏のAmazon Climate Pledge Fund(アマゾン気候誓約基金)、Ecosystem Integrity Fund(エコシステムインテグリティファンド)、Horizon Ventures(ホライゾンベンチャーズ)、Shell Ventures(シェルベンチャーズ)、Summa Equity(スマエクイティ)が参加している。3月下旬には、これらの投資家からさらに2340万ドル(約25億3000万円)の資金を調達することを発表した。これにはAmazonは参加していないが、英国航空が参加している。

ミフタコフ氏によると、マリブはこれまで約10回のテスト飛行を終えているが、新型コロナウイルス感染症のため、英国での長距離飛行は2021年後半に延期されたという。また、ハイフライヤー2については、当初はバッテリーと燃料電池を半分ずつ使用する予定だが「認定取得可能な最終飛行形態では、600キロワットすべてを燃料電池でまかなう」とのことだ。

19人乗りの航空機から始まり、2026年には50人乗り、2030年には100人乗りと、約束した航空機を完成させることが、ゼロアビアにとって厳しい挑戦となることは間違いない。

水素燃料電池トラックの公開デモを誇張し、株価の暴落やSECによる調査を招いたスタートアップであるNikola(ニコラ)のせいで、水素燃料電池にはいまだに胡散臭いイメージがある。ゼロアビアのような野心的なスタートアップにとって最良の選択肢は、投資家や、持続可能な空の旅の可能性に期待している人たちの期待を弱めることになっても、現在の技術と今後の課題について透明性を高めることだ。

ポール・エレメンコ氏は「ゼロアビアの成功を切に願っている。我々のビジネスモデルは非常に相補的であり、力を合わせれば、水素航空機を実現するためのバリューチェーンを築くことができると考えている」と述べている。

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(文:Mark Harris、翻訳:Dragonfly)

航空業界の水素燃料電池普及を目指すUniversal HydrogenがシリーズAで約22億円調達

脱炭素化に向けた競争がアースデイ(4月22日)に加速した。ロサンゼルスに本拠を置き、民間航空機用の水素貯蔵ソリューションと変換キットの開発を目指すUniversal Hydrogen(ユニバーサル・ハイドロジェン)というスタートアップ企業が、シリーズA投資ラウンドで2050万ドル(約22億1200万円)を調達したと発表したのだ。

同社創業者でCEOを務めるPaul Eremenko(ポール・エレメンコ)氏は、TechCrunchによるインタビューに「水素は航空業界にとって、パリ協定の目標を達成し、地球温暖化防止に貢献するための唯一の手段です」と語った。「私たちは、航空用のエンド・ツー・エンドの水素バリューチェーンを、2025年までに構築するつもりです」。

今回の投資ラウンドは、Playground Global(プレイグランド・グローバル)が主導し、Fortescue Future Industries(フォーテスキュー・フューチャー・インダストリーズ)、Cootue(クートゥー)、Global Founders Capital(グローバル・ファウンダーズ・キャピタル)、Plug Power(プラグ・パワー)、Airbus Ventures(エアバス・ベンチャーズ)、Toyota AI Ventures(トヨタAIベンチャーズ)、双日株式会社、Future Shape(フューチャー・シェイプ)などの投資家シンジケートが参加した。

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    700マイルまでのリージョナルフライトが可能なターボプロップ機
  2. Universal-Hydrogen-Module

    「グリーン水素」を輸送するための軽量モジュール式カプセル
  3. Universal-Hydrogen-Conops

Universal Hydrogenの最初の製品は、水素燃料電池を搭載した航空機に、再生可能エネルギーで製造された「グリーン水素」を輸送する軽量なモジュール式カプセルになる。このカプセルは最終的に、VTOL(垂直離着陸機)エアタクシーから長距離用の単通路機まで、さまざまなサイズの航空機に対応する予定だ。

「現在の民生用電池のように、航空機のクラスごとに互換性を持たせたいと考えています」と、エレメンコ氏は語る。

このカプセルの市場を立ち上げるため、Universal Hydrogenは、40~60人乗りのターボプロップ機を改造して、700マイル(約1127キロメートル)までのリージョナルフライトが可能な飛行機を自身で開発している。この取り組みは、シード投資家で水素と燃料電池を供給するPlug Power(プラグ・パワー)と、電動航空機用モーターを開発するmagniX(マグニックス)との共同で行われている。

エレメンコ氏は、2025年までに50席以上の大型機で乗客を乗せて飛行させ、最終的にはリージョナル航空会社が自社の航空機を改造するためのキットを製造したいと考えている。

「Boeing(ボーイング)とAirbus(エアバス)が2030年代初頭に製造する航空機を決定する前に、水素の認証と乗客の受け入れにおけるリスクの顕在化を回避するため、2、3年はサービスを提供したいと考えています」と、エレメンコ氏はいう。「少なくとも両社のどちらかが水素航空機を作らなければ、航空業界は気候変動対策の目標を達成できないでしょう」。

水素に賭けているのはUniversal Hydrogenだけではない。英国のZeroAvia(ゼロアヴィア)は、より野心的なスケジュールで独自の燃料電池リージョナル航空機を開発しており、エアバスは水素航空機のコンセプトに取り組んでいる。

エレメンコ氏は、シンプルで安全な水素ロジスティックスのネットワークを構築すれば、新たに参入する企業を呼び込むことになるのではないかと期待している。

「Nespresso(ネスプレッソ)システムのようなものです。私たちがまず、最初にコーヒーメーカーを作らなければ、私たちのカプセル技術に誰も興味を持ちません。しかし、私たちはコーヒーメーカーの製造をビジネスにしたいと思っているわけではありません。私たちのカプセルを使って、他の人たちにコーヒーを作ってもらいたいのです」。

Universal Hydrogenは、今回のシリーズAラウンドで調達した資金を使って、現在12人のチームを40人程度まで拡大し、技術開発を加速させたいと考えている。

Plug Powerの水素燃料電池とMagniXのモーターを搭載したUniversal Hydrogenの航空用パワートレインの30kW縮小デモンストレーション。

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(文:Mark Harris、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

部品サプライヤーBoschが環境規制が強まる中、合成燃料と水素燃料電池に活路を見いだす

Bosch(ボッシュ)の経営幹部は米国時間4月22日、2025年までに内燃機関を禁止するというEUが提案した規制について、議員たちはそうした禁止が雇用にもたらす影響についての議論を「避けている」と批判した。

同社は新規事業、特に燃料電池事業で雇用を創出していると報告し、こうした雇用の90%超を内部でまかなっていると述べたが、電動輸送革命のすべてあるいは大半は雇用に影響するとも指摘した。格好の例として、ディーゼルのパワートレインシステムを作るのに従業員10人を要し、そしてガソリンのシステムでは3人を要するが、電動パワートレインの場合1人だけだと記者団に語った。

その代わり、Boschは電動化とともに再生可能な合成燃料と水素燃料電池に活路を見出している。水素から作られる再生可能な合成燃料は水素燃料電池とは異なるテクノロジーだ。燃料電池は電気を生み出すのに水素を使い、一方で水素由来の電池は改造された内燃機関(ICE)の中で燃焼する。

「もし再生可能な水素と二酸化炭素由来の合成燃料が道路交通で使用禁止のままであれば、機会は失われます」とBoschのCEOであるVolkmar Denner(フォルクマル・デナー)氏は述べた。

「気候変動に関する活動は内燃機関の終わりではありません。化石燃料の終わりなのです。電動モビリティと地球に優しい充電パワーが道路交通をカーボンニュートラルにし、再生可能燃料も同様です」。

電動ソリューションには、特に大型車を動かすという点で限界もある、とデナー氏は述べた。Boschは2021年4月初め、テストトラック70台の燃料電池パワートレインを作るために中国の自動車メーカーQingling Motors(慶鈴汽車)と合弁会社を設立した。

水素燃料電池と合成燃料に関するBoschの自信はバッテリー電動モビリティから除外されていない。自動車・産業部品の世界最大のサプライヤーの1社である同社は、社の電動モビリティ事業が約40%成長していると述べ、電動パワートレインの部品の年間売上高は2025年までに5倍の50億ユーロ(約6488億円)に増えると予想している。

しかしながらBoschは今後3年間で燃料電池パワートレインにも6億ユーロ(約778億円)投資するという「オプションを保留にしておく」と述べた。

「究極的には欧州は水素経済なしに気候中立を達成することはできないでしょう」とデナー氏は話した。

Boschは2021年も続いている世界的な半導体不足の影響を免れていない。取締役のStefan Asenkerschbaumer(シュテファン・アーセンケルシュバウマー)氏は、半導体不足が2021年「予測されていた回復を抑制する」リスクがあると警告した。台湾の半導体メーカーの幹部は2021年4月初めに、状況は2022年まで続くかもしれない、と投資家らに伝えた

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:Bosch気候変動電気自動車水素燃料電池

画像クレジット:Krisztian Bocsi/Bloomberg / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

Energy Impact Partnersが気候変動対策関連企業の指標を作成、NASDAQ総合を大幅に上回る

気候変動に焦点を当てた企業が公開市場に溢れている中、誰が何をしているのか、どこで取引されているのか、どのように業績を上げているのか、把握するのは難しくなっている。そこでEnergy Impact Partners(エナジー・インパクト・パートナーズ)は、持続可能性やエネルギー効率、温室効果ガス排出量の削減に注力しているハイテク企業を追跡するインデックスを設定した。

世界最大級のエネルギー消費者や電力会社を投資家に持つ同社は、過去数カ月間、公開市場で取引されている代表的な気候変動対策技術を対象としたインデックスの設定に取り組んできた。その結果、これらの企業が市場全体と比較して大きなリターンを上げていることが判明した。

2020年に入ってから、EIP Climate Index(EPI環境指標)はNASDAQ(NASDAQ総合指数)を約2.8倍上回っており、NASDAQ総合の45%に対し、127%の上昇となっている。リストに掲載されている企業27社のうち約20社が公開後1年未満の新規上場で、その間にNASDAQ総合を上回った。中でも約16社は、その間に100%以上の上昇を見せている。それは、この指数全体が1月のピーク時から約20%下がった状況になっても変わらない。

このインデックスは、実際には株式投資のためではなく、何よりも教育的なツールとして考えられたものだが、気候関連のソリューションに取り組んでいる企業の幅広さと、これらの企業を支援したいという公開市場の投資家の圧倒的な意欲がそこには示されている。

「SPACに限らず、公開市場における気候変動関連技術の動向は、本当に信じられないほど好調です」と、Energy Impact PartnersのパートナーであるShayle Kann(シャイル・カン)氏は述べている。「この気候変動技術インデックスを作成した動機の1つは、どれだけ多様な企業を集められるかを、確認することでした」。

EIPのインデックスには、持続可能性の観点から注目を集めるBeyond Meat(ビヨンド・ミート)のような企業や、水素燃料電池のBallard Power(バラード・パワー)やBloom Energy(ブルーム・エナジー)のように、やや歴史が長い企業も含まれている。このインデックスに含まれる企業は、電力貯蔵、再生可能エネルギーの生産、電気自動車の充電とインフラ、代替タンパク質の提供など多岐にわたる。

「考え方としては、このような企業をすべて含めた場合、全体のパフォーマンスはどうかということでした。私たちはこのインデックスを作成し、包括的なものにしようとしました。その結果、市場全体を劇的に上回ることになったのです」。

EIPのリストは情報提供を目的としているが、誰かがこのインデックスを利用して、この業界のETF(上場投資信託)を作らない理由はない。現在市場にあるETFのほとんどは、エネルギー生産やインフラに焦点を絞ったものだが、EIPのインデックスは、気候変動の影響を緩和し、温室効果ガスの排出を削減することに焦点を当てた企業の幅広い多様性を追う初めての指標となる可能性が高い。

Desktop Metal(デスクトップ・メタル)のような3Dプリント(積層造形)の会社もあるが、カン氏によると、同社の技術には多大な気候変動要素が含まれているという。

「積層造形技術は、廃棄物の削減、輸送の削減、製造工程の電化など、かなり強力な気候変動対策になります」と、カン氏は語った。

また、この指標は、初期段階の個人投資家が注目するためのシグナルでもあるとカン氏はいう。

「公開市場への道筋が広がります。ここで株価が上昇する企業がわかります。これが我々やベンチャーキャピタルの世界にいるすべての人に示唆するのは、この指標が好調なときには、イグジットまでの道筋が好転するということです」と、同氏は述べている。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Energy Impact Partners気候変動持続可能性二酸化炭素燃料電池3Dプリント

画像クレジット:Energy Impact Partners

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Hyzon Motorsは水素燃料電池車への意欲に米国の2つの工場を追加

水素自動車の動力源として極めて重要な部品とともに燃料電池の生産を予定しているHyzon Motors(ハイゾン・モーターズ)は、米国の2つの工場で商用規模の国内生産を開始する。

水素を動力源とするトラックとバスのメーカーであるHyzon Motorsは、すでにシカゴのボーリングブルック郊外に2万8000平方フィート(約2600平方メートル)の施設を借り受けており、さらに8万平方フィート(約7400平方メートル)を追加して拡張する予定だ。シカゴ工場では、2021年第4四半期からの生産開始が期待されている。この発表が行われたのは、Decarbonization Plus Acquisition Corporation (ディカーボナイゼーション・プラス・アクイジション・コーポレーション)と評価額21億ドル(約2240億円)で合併し公開企業になるという発表から、ちょうど3週間後のことであり、ニューヨーク州モンロー郡の7万8000平方フィート(約7250平方メートル)の工場を改修する計画の発表から1週間と少しのことだった。

Hyzonは、20年近い経験を持つが新しい会社だ。2020年3月に、2003年から燃料電池の商用製品を開発しているシンガポールのHorizon Fuel Cell Technologies(ホライゾン・フュエル・セル・テクノロジーズ)から独立する形で創設された。2021年2月には、2026年までに1500台の燃料電池トラックをニュージーランドに走らせることを目標に、ニュージーランド企業Hiringa Energy(ハイリンガ・エナジー)と提携。現在は、北米の燃料電池自動車市場に視点を定めている。ただし米国内では水素燃料ネットワークが未整備なため、同社は「基地に帰る」ビジネスモデルで運用できる大型車両をターゲットにしている。

米国内に工場を設けるHyzonの決断は、注目に値する。なぜなら、米国での燃料電池素材の生産はヨーロッパやアジアに大きく引き離されているからだ。また米国では全国的に、海外で見られるような水素の補給所や基盤ネットワークが欠落している。

「水素は、ドイツやオランダなどの地域ではずっと身近です」とHyzonのCEOであるCraig Knight(クレイグ・ナイト)氏はTechCrunchのインタビューに答えた。「現代の米国でガソリンを補給するのと同じように、クルマを停めて補給できる民間の水素ステーションがいくつもあります。(米国が)そうなるまで、それほど時間はかからないでしょうが、それまでは、基地に戻る運用モデルを採用している顧客に的を絞ることで、水素ステーションネットワークの依存度を限定できます。それなら、水素インフラ1つで、特定地域の数十台から、さらには数百台の車両に対応できます」。

米国で生産されている水素は、天然ガスから作られる、いわゆる「グレー水素」だ。現在は、再生可能エネルギーによる電気分解で作られる「グリーン水素」を目指す企業が増えているが、Hyzonはその両方を使う予定だ。燃料電池の生産をどれほど拡大するかの判断は、水素の生産量にかかっている。

シカゴの工場では、膜 / 電極接合体(MEA)の設計、開発、生産が行われる。これは、電力を生み出すために欠かせない、電気化学反応を起こすための燃料電池の部品だ。同社ではこの新工場で、年間1万2000台の燃料電池トラック生産に十分な量のMEAを作ることにしている。

完成したMEAは、先日発表された燃料電池スタックとシステムを組み立てるモンロー郡の工場に送られ、部品が燃料電池の完成品に組み上げられる。そこから燃料電池は、提携トラックメーカーに送られ、商用大型車両に組み込まれることになる。同社の米国での主な提携先には、Berkshire Hathaway(バークシャー・ハザウェイ)の子会社Fontaine Modification(フォンティーン・モディフィケーション)がある。

水素燃料電池技術は、大型車両に使用事例を見いだしている。トラック輸送会社は、どれだけの重量を運べるか、どれだけの頻度で運べるかによって収益が変わることが多い。そのため、充電に時間がかかったり、バッテリーで積載量が減らされるといった心配のない燃料電池が、フリートの脱炭素化を目指す企業には魅力的な選択視となるのだ。

Hyzonは、水素燃料電池の導入によるプラスのネットワーク効果と規模の経済と、充電池導入の限界費用の増加を見据えている。小型車向けの燃料電池市場への参入計画について同社は何も発表していないが、水素燃料電池の価値提案に関しては強気を保っている。

「私たちは、ある時点で、充電式電気自動車の限界費用が増加し始めると考えています。なぜなら、送電網、貯蔵所の規模、充電インフラの建設能力などに関連するインフラの制限にぶち当たるからです」とナイト氏。「使用率が非常に高くなった場合、充電式電気自動車には規模の不経済が付きまとうことになりますと、私たちは信じます。小型車もいずれは水素で走るようになるでしょう。私たちのモデルでは、そこに完全に依存しているわけではありませんが、そう私たちは信じています」

Hyzonは、2021年5月末か6月の頭にNASDAQでの上場を予定している。ティカーシンボルはHYZNとなる予定。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:Hyzon Motors燃料電池水素

画像クレジット:Hyzon Motors

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:金井哲夫)

サーゲイ・ブリン氏が開発中の災害救助用大型飛行船は水素燃料電池動力

Googleの共同ファウンダー、サーゲイ・ブリン(Sergey Brin)氏が開発している飛行船は世界最大の移動体用水素燃料電池を動力とする計画だ。渡洋飛行が可能で、各地に援助物資を運ぶことができるという。

ブリン氏のステルスモードの飛行船メーカー、LTA Research and Explorationは災害救援を当面の目的とする記録破りの巨大飛行船を建造中だ。動力はこれも記録破りの規模の水素燃料電池だ。

同社はカリフォルニア州マウンテンビューとオハイオ州アクロンに拠点を置き、公表している求人情報によれば、LTAは1.5メガワットの水素推進システムを搭載した飛行船によって人道的支援を行うと同時に、ロジスティクスに革命を起こしたいと考えているという。求人のための職務記述には飛行船の詳しいスペックはないが、太平洋、大西洋を横断するのに十分な能力を必要とするだろう。飛行船のスピードはジェット機よりもはるかに遅いがほとんどあらゆる場所に着陸できる。人道的支援のための物資を運ぶためには理想的だ。

水素燃料電池はリチウムイオン電池よりも軽量でコスト面でも有利となる可能性があるので電気飛行機の同僚として魅力的だ。 ただしこれまでに飛行した最大の水素燃料電池は、昨年9月、ZeroAviaの小型旅客機に搭載された0.25MW(250kW)のシステムだった。 Pathfinder 1(パスファインダー1号)と呼ばれるLTAのバッテリー駆動飛行船の最初の有人プロトタイプは今年中に進空できるものと見られている。FAAの記録によると、Pathfinder 1には12個の電動モーターがあり、定員は14人だ。

現在運航している唯一の旅客飛行船はドイツとスイスで観光ツアーを行っているZeppelin(ツェッペリン)NTだが、Pathfinder 1もこれとほぼ同じサイズになるとみられる。Pathfinder 1は乗客用ゴンドラにZepplein NTに利用されているコンポーネントも使用する。

 
LTA Research and Exploration airship patent
画像: LTA 特許 US 2019/0112023 A1

1937年の悲劇的なHindenburg(ヒンデンブルク)号の事故以来、LTAを含め、ほとんどすべての飛行船は不燃性ヘリウムを揚力ガスとして使用してきた。 60人乗りの地域電気航空機の電源として1.5 MWの燃料電池を開発中のドイツ航空宇宙センターのヨーゼフ・カロ教授によれば、燃料に水素を利用することは適切だという。

Kallo氏は「リチウム電池で200キロの距離を移動できるなら水素を使えば1600キロ近く移動できるはず。飛行船は燃料電池のとって理想的な応用はです」と述べている。

燃料電池は水素と酸素を化合させて水と電気を生成するものだが、従来は重く複雑なシステムだった。さらに航空機に搭載する場合、燃料タンク内の液体水素の安全の確保、生成された水や大量の廃熱の処理などさらに複雑な要素が加わる。

求人の職務記述によれば、LTAの最初の燃料電池はサードパーティ製の0.75MWのシステムで、既存のプロトタイプに後付けされるという。しかし今年中にそこまで実現する可能性は低いようだ。バッテリー駆動の飛行船Pathfinder 3は、まだFAA(連邦航空局)に登録されていない。

 
LTA Research and Exploration airship patent
Image Credits: LTA Research Patent US 2019/0112023 A1

Kallo氏は「機能面でいえば水素燃料電池の利用自体は特に革命的とはいえません。ビジネス的な合理性を無視できる余裕がある人間を見つけるのが最大のチャレンジです。経済的にはたぶんペイしません。サーゲイ・ブリン氏なら十分余裕があるでしょう」と述べた。

ブリン氏は現在、世界第9位の富豪で、純資産額は860億ドル(9兆円)を超えている。LTAのウェブサイトによれば、同社の航空機の当初のユースケースはの使用例は、「災害対応や救援などの人道的活動、特にインフラが未整備ないし破壊されてるなどして飛行機や船によるアクセスが困難な遠隔地での活動」を想定しているという。さらに最終的には、グローバルな貨物・旅客輸送のためのゼロエミッションの新たな航空機分野を切り開くことを目指しすとしている。

LTAは現在すでにチャリティ活動を実施しており、COVID-19パンデミックに対しては緊急対応要員向けに500万枚以上のマスクを生産している。昨年は国連難民高等弁務官事務所に300万ドル近くを寄付している。

LTAはブリン氏の災害救援のための非営利団体、GSD(グローバル・サポート・アンド・ディベロップメント)と密接に連携して活動するものとみられる。GSDの本拠はLTAと同様マウンテンビューにあり、数キロしか離れていない。の過去5年間、多数の自然災害に元軍人を始めとするパラメディックを派遣してきた。GSDは他のNGOに先駆けて現地入りすることを誇りとしており、ブリン氏所有のスーパーヨットを使用することもあった。税務記録によると、ブリン氏はGSDの最大の出資者であり、2019年には少なくとも750万ドル(8.8億円)の寄付をしている。

画像:C Flanigan / Contributor / Getty Images

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(文:Mark Harris  翻訳:滑川海彦@Facebook