埼玉工業大学が世界で初めて水陸両用船の無人運転技術を開発、八ッ場あがつま湖で実証実験

八ッ場ダム無人運航船の入水シーン

八ッ場ダム無人運航船の入水シーン

埼玉工業大学は3月22日、群馬県八ッ場あがつま湖にて、群馬県長野原町が所有する水陸両用船「八ッ場にゃがてん号」を使った自動航行の実証実験(3月14日実施)に参加したと発表した。陸上から入水し、障害物を避けながら水上を航行、再び上陸する一連の自動運航を成功させた。水陸両用船の無人航行の実証は世界初となる。

無人運航の実証実験を行った水陸両用船「八ッ場にゃがてん号」(全長11.83m、総トン数11トン)

無人運航の実証実験を行った水陸両用船「八ッ場にゃがてん号」(全長11.83m、総トン数11トン)

埼玉工業大学は、ITbookテクノロジーとの共同研究により、自動運転・自動運航が可能な水陸両用バスのためのソフトウェアとシステムを設計・開発。同実証実験は、長野原町所有の水陸両用船「八ッ場にゃがてん号」にその成果である自律航行システムを搭載して行われた。航行距離は約2km、所要時間は約30分だった。

入出水と水上航行での経路追従のための位置推定には、高精度GNSS(全球測位衛星システム)とジャイロを利用。自動運転には、自動運転システム用のオープンソースソフトウェア「Autoware」を使用し、そのモデル予測制御に船舶モデルを導入。水上と陸上の高精度な経路追従を実現した。障害物の自動検知と回避は、LiDAR、カメラ、ソナーとAutowareの深層学習アルゴリズムを組み合わせて行っている。車用と船用の制御装置を同時制御することで「船舶と車両の自動切り替えもスムーズに行えるシステム」を開発したとのことだ。

無人運航船の運転席

無人運航船の運転席

自動運転バスの研究を行っている埼玉工業大学は、すでに2台の自動運転バスを開発し、公道での営業運行を行っている。ITbookテクノロジーとの共同研究では、その経験を活かして水上の自動運航技術の開発に取り組んできた。2年間の共同研究の成果として、「離着水、離着桟における位置推定および自動運転技術」「水上障害物検知および回避のための技術」「ローカル5Gなどを用いた遠隔操作技術」をすでに構築している。

今回の実証実験は、日本財団が推進し、無人運航船の国際標準化の先導などを目指す無人運航船プロジェクト「METURI2040」の一環として行われた。このプロジェクトでは、国内で5つのコンソーシアムがそれぞれの取り組みを行っているが、これはその1つ「水陸両用無人運転技術の開発〜八ッ場スマートモビリティ〜」によるもの。現在は主に観光目的で利用されている水陸両用船だが、自動運航を実用化することで、将来的には災害時に役立つ技術転用や、「離島へのシームレスな物流インフラ」の構築を目指している。

画像クレジット:
日本財団

「水路を民主化」したいNavierの水中翼レジャーボートは約3480万円

正直、ボートが実際いくら程度するのかをググったほど見当もつかなかったのだが、30万ドル(約3480万円)もする製品でレクリエーションを「民主化」しようなどと宣伝しているのを見ると、ギロチンを磨きたくなるのは筆者だけだろうか。ロベスピエール的な冗談はさておき、Navier(ナビエール)には一目置いてしまった。同社の次世代ボートはかなりかっこいい。ハイドロフォイル(水中翼)によって水面を軽やかに移動することができ、大型のバッテリーパックと電気モーターを搭載しているため、電動船としては最長クラスの航続距離を誇っている。同社によると航続距離は75海里で、これは約690 ハロン(86マイル/139 km)に相当する。

同社は、Global Founders Capital(グローバル・ファウンダーズ・キャピタル)と、Comcast Ventures(コムキャスト・ベンチャーズ)の元MDであるDaniel Gulati(ダニエル・グラティ)氏が運営する新しいファンドTreble(トレブル)の共同主導により、720万ドル(約8億3000万円)のシード資金調達を完了したとを発表。今回の資金調達には、Next View Ventures(ネクストビュー・ベンチャーズ)、Liquid2 Ventures(リキッド2ベンチャーズ)、Soma Capital(ソーマ・キャピタル)、Precursor Ventures(プレカーサー・ベンチャーズ)に加え、複数のエンジェルも参加している。

「2020年にスタートして以来、船舶のランニングコストを90%削減した新タイプの水上船を作ることを目標として掲げています」。Navierの共同創業者兼CEOであるSampriti Bhattacharyya(サムプリティ・バッタカリヤ)博士は説明する。「水中翼の電動化、高度な複合材、インテリジェントなソフトウェアを組み合わせることで、船舶のランニングコストを桁違いに削減できると考えています。これによりまったく新しいスケーラブルな輸送システムや、これまで不可能だった水上輸送システムが可能になります。世界の46%が沿岸部の都市に住んでいるわけですから、かなり大きな潜在市場があると考えています」。

「民主化」の意味を尋ねてみると、それはボートの購入をという意味ではなく、運用コストに関してだと回答した同社。従来の化石燃料で動くボートはクルマの15倍近い運用コストがかかるため、それがボートが移動手段として普及しない原因だと同社は話している。燃料と労働力という2つの主要要因がコストを上げている原因であると言い、そのため電動水中翼船技術による燃料費の削減と、ボートの自律化による人件費の削減を実現しようとしているのである。

同社が最初に市場に投入する予定の製品は、レクリエーションボート市場に向けた「Navier 27」(通称N27)だ。

めちゃくちゃかっこよくないか?(画像クレジット:Navier)

「レクリエーショナルボートは、釣りやウォータースポーツ、友人とのクルージングなど、非常に幅広いアクティビティに活用してもらえます。つまり、ボートを使用して水上で楽しむあらゆるアクティビティのためです」。CTOのReo Baird(レオ・ベアード)氏は、私がボートの知識をまったく持っていないことを考慮して馬鹿丁寧に説明してくれた。レクリエーション用のボートというのは同社にとっては第一歩に過ぎず、将来的にはその効率性を生かして浮動式のロボタクシーを作りたいと考えている。「我々は高効率な水上船のプラットフォームを構築しているのです。このプラットフォームを利用して水上のロボタクシーとして機能させることが長期的な目標です。そのためには、燃料費や人件費などのコストを削減する必要があります」。

「コスト、スピード、利便性で勝負できるボートを作ることができれば、まったく新しい交通手段を切り開くことができます」とバッタカリヤ氏は説明する。「例えばサンフランシスコのベイエリアを考えてみてください。現在、10のターミナルと5つのルートがありますが、より小さなマリーナに行くことができるボートを作れば、ターミナルの数は10から65に増えるでしょう。すると一気に2000ものルートが使えるようになり、これですべてが解決します。イーストベイのリッチモンドからサンフランシスコまで、クルマで1時間ではなく、海を渡って15分で行けるようになるのです」。

効率化は3つの要素によって実現される。主な節約源は水中翼技術によるもので、船がスピードに乗っているときは船体が水から浮き上がり、小さな翼でクルージングしているような状態になる。これによりモーターが水を押し出す必要がなくなり、抵抗が減って効率が上がるという仕組みである。この技術は1950年代頃から旅客船に搭載されていたもので、紛れもなくクールな技術ではあるのだが、トレーラーに積むのが難しく、また浅い海には向いていない上に水中翼の効果を得るためにはかなりの速度で移動しなければならないため、レクリエーションボート向けにはあまり一般的でない技術なのである。

「発進時の正確な最低速度は公表していませんが、時速15〜18マイル(24〜29km)の範囲内です」とベアード氏は話している。

CTOのレオ・ベアード氏とCEOのサムプリティ・バッタカリヤ博士(画像クレジット:Navier)

その他にも、主に軽量の複合素材を使用することで効率性を上げている(フォイリング中にボートを水面から持ち上げるのが容易になる)。また、抵抗と重量をさらに減らすためのスマートなデザインも効率性に貢献している。

「弊社にはすばらしいチームがあります。MIT(マサチューセッツ工科大学)出身者が何人もいますし、弊社の主任造船技師のPaul Bieker(ポール・ビーカー)は、Larry Ellison(ラリー・エリソン)がアメリカズカップで優勝したときの船を担当した人物です」。バッタカリヤ氏は同社が伝説的な造船関係者と協力してN27を設計していると説明する。「Navierは単にアップグレードされた電気製品ではなく、私たちはこれまでのボートのあり方を根本的に見直しているのです。ハイドロフォイルが波の上をフォイルするので船酔いも起きませんし、圧倒的に優れた乗り心地を実現します」。

同社によると、約1カ月半前に予約を開始して以来、最初の15隻がすぐに完売したとのことだ。このクールなボートに興味を持つさまざまな顧客層から現在も数百件の問い合わせを受けているという。しかし、現在はメイン州の造船所で試作品を制作中で、最初の消費者向けの船は2023年頃に生産ラインから出荷される予定とされているため、手に入れるにはまだしばらくかかりそうだ。同社は米国での製造を計画している。

Navierは、ボートビルダーのLyman-Morse(ライマン・モース)と提携し、このNavier 27の生産を実現している。同モデルの最初の2隻の船体は、現在メイン州の施設で建設中だ。2024年までに400台以上の生産を計画しており、Navierのウェブサイトではその年のボートを予約するためのウェイティングリストに登録することが可能だ。

フランス人ネタを繰り返したい訳ではないが、ちなみに同社名は水中翼船の製造を可能にするための重要な数学である「ナビエ・ストークス方程式」を考え出したコンビの一方、Claude-Louis Navier(アンリ・ナビエ)に由来しているという。

画像クレジット:Navier

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

無人運航船プロジェクトMEGURI2040が世界最長距離の無人運航成功、北海道苫小牧-茨城県大洗の約750キロ・約18時間航行

日本財団は2月7日、大型カーフェリー「さんふらわぁ しれとこ」による無人運航の実証実験が成功したと発表した。2月6~7日にかけて、北海道苫小牧から茨城県大洗まで航行した。

同財団推進の無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」は、2020年2月より5つのコンソーシアムと共同で、無人運航船の開発に取り組んでいる。これまで開発を進めてきた様々な船種の無人運航船は、2022年1月から3月にかけて、5つすべてのコンソーシアムで実証実験を行ってきたという。

今回の実証実験はその一環となるもので、約750kmと約18時間という長距離・長時間での無人航行の運航実証は世界初となる。

実証実験に利用された「さんふらわあ しれとこ」(全長190m、総トン数1万1410トン)には、実験のため自律操船システムを搭載。従来のAIS(船舶自動識別装置)とレーダーに加え、可視光カメラと夜間対応の赤外線カメラで海上を航行する他船を検出している。これらのセンサーやカメラで得られた情報から、AI学習によって他船であることを認識しているという。

他船を避航する際には、衝突回避のために開発したアルゴリズムにより避航操船を実施。陸上からの監視には、AR技術を活用。船上からの映像へ各種情報を重畳表示するよう開発したARナビゲーションシステムを利用した。

これらMEGURI2040で開発した自動離着桟システムや陸上モニタリング用ARナビゲーションシステムは、船舶の安全航行や船員の労働負荷低減に寄与すると目されており、ICTやAI、画像解析技術を利用する「未来の産業」として研究・開発が続けられている。

さんふらわあのような大型カーフェリーは、モノと人を同時に運ぶことができるため、国内の物流において重要な役割を担っている。特に北海道と関東の物流では海運が8割以上を占めており、その重要度はより高い。しかし国土交通海事局によると、国内旅客船の船員は2000年以降は約1万人から約7000人へと20年間で3割減少しているうえ、1回の航行が長時間である大型カーフェリーでは船員の労務負担が課題になっている。長距離・長時間での無人運航船の実証実験が成功したことで、船員の労務・作業負担の低減や、安全性の向上、オペレーションコスト低減への貢献が期待されている。

GMが船舶用電動モーターメーカーPure Watercraftの株式25%を取得

General Motors(ゼネラルモーターズ、GM)は、シアトル拠点の電動ボート会社Pure Watercraft(ピュア・ウォータークラフト)の株式25%を取得した。GMの今回の動きは、2025年までに電気自律走行テクノロジーに350億ドル(約4兆200億円)を投資するというコミットメントの一環として、ボートやその他の車両を含むあらゆる電動の乗り物へ関心を広げていることを反映している。

Pure Watercraftは、25~50馬力のガソリンエンジンを搭載したボートのドロップイン代替として使用できる、Pure Outboardと呼ばれる全電動船外モーターシステムを製造している。また、大手ボートメーカーと提携し、はしけ、釣り用ボート、硬式ゴムボート2種など、電動ボートの完成品を販売している。

Pure Watercraftによると、ガソリンエンジンと比較して電気システムはメンテナンスが不要で、化石燃料による汚染もない。また、Pure Outboardでは15%の充電量で、20マイル(約32km)を航行する4時間近い釣りクルーズができる、と同社のウェブサイトにある。

同社は2020年9月、生産を本格化させるべくL37がリードしたシリーズAで2300万ドル(約26億円)を調達した。この9年前に、CEOのAndy Rebele(アンディ・レベレ)氏が会社を設立した。今回のGMの出資により、両社はバッテリー技術の共同開発と商業化を進め「GMの技術をさまざまな用途に統合していく」とGMは声明で述べた。

今回の出資は、道路交通車両や航空機を超えて、従来のガソリン駆動に支配され続けてきた輸送やモビリティの形態に電気技術が向かい始めていることを示す最新例だ。創業10カ月の電動船舶スタートアップArcは10月、複数の新しい投資家を迎え入れるなどし、総額700万ドル(約8億円)を調達した。また、シアトルのスタートアップZin Boatsは電動スピードボートの開発を進めている。

GMは、鉄道や航空宇宙など他のモビリティ産業での自社技術の利用をすでに検討していて、今回の動きは注目に値する。2021年初め、GMはWabtecと提携して水素燃料とバッテリーを使用した電気貨物機関車を開発した。また、Liebherr-Aerospaceとの提携で航空機用の水素燃料電池実証システムを共同開発することも発表した。

画像クレジット:Pure Watercraft

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

電動ボートのスタートアップ企業Arcにウィル・スミスやケビン・デュラント、ショーン・コムズが出資

10カ月前に設立されたArc(アーク)は、30万ドル(約3400万円)の限定版ボートを皮切りに、水上のあらゆるものを電動化するという野望を抱くスタートアップ企業だ。同社はエンターテインメント業界の大スターたちから、注目と資金を集めている。2月にVC会社のAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)が主導するシードラウンドを完了させたこのスタートアップは、Will Smith(ウィル・スミス)のDreamers VC(ドリーマーズVC)、Kevin Durant(ケビン・デュラント)とRich Kleiman(リッチ・クライマン)のThirty Five Ventures(サーティファイブ・ベンチャーズ)、Sean “Diddy” Combs(ショーン・”ディディ”・コムズ)の「Combs Enterprises(コムズ・エンタープライゼス)」など、複数の新しい投資家を迎え入れた。

共同創業者兼CEOのMitch Lee(ミッチ・リー)氏が戦略的なラウンドと表現するこの新たな投資により、Arcの資金調達額は700万ドル(約8億円)を超えた。同社のシードラウンドでは、Chris Sacca(クリス・サッカ)氏のLowercarbon Capital(ロアーカーボン・キャピタル)とRamtin Nami(ラムティン・ナミ)氏のAbstract Ventures(アブストラクト・ベンチャーズ)が出資した。

「これらの人々は、それぞれの分野で世界的に活躍しているだけでなく、ブランドの構築や製品のマーケティング、さらにはコミュニティの育成など、多くの経験をお持ちです」と、リー氏はTechCrunchによる最近のインタビューで語った。

要するに、コムズ、デュラント、スミスの3人は、Arcが目指す市場に影響を与える力を持っているということだ。しかし、リー氏によれば、最初に発売する30万ドルのボートが属するアッパーラグジュアリーセグメントは、Arcの最終目標ではないという。

リー氏は、SpaceX(スペースX)の元エンジニアであるRyan Cook(ライアン・クック)氏とともに、さまざまな価格帯やユースケースに向けた電動の水上の乗り物を開発・販売する計画を持ってArcを設立した。10人以上の従業員(その多くはSpaceXに長く勤務していた人たち)が働くこの会社は、まず船体から始めることにしたと、リー氏は説明する。

電動ボートは、より静かで、より速く、より信頼性が高く、メンテナンスコストも低いにもかかわらず、3つの課題のために普及していないとリー氏は語る。同氏によれば、これまでは、ボートに必要なバッテリーのサプライチェーン、適切な高電圧の電気システム、そして大きなバッテリーパックに必要な重量と容積を考慮して設計された船体が存在しなかったという。

リー氏は「私たちがこれに取り組んだとき、専用の船体と専用のバッテリーパックを用意するところから始めて、ゼロから作り上げても理に適ったレイアウトにしようと考えました」と語り、船体と高電圧電気システムの開発には、SpaceX出身の優秀なエンジニアたちが重要な役割を果たしたと述べた。

同社は現在「Arc One(アーク・ワン)」と呼ばれるボートのアルファ版プロトタイプを製作している。この24フィート(約7.3メートル)のアルミ製ボートは、475馬力の出力を発揮し、1回の充電で3〜5時間の走行が可能。Arc Oneの生産台数は25台以下になる予定だという。

リー氏によると、Arc Oneは美的に完成の域に達することよりも、船体、電気系統、バッテリーパックの設計に重点が置かれているという。しかし、このボートはちゃんと動く。最近、チームはこのボートで水上スキーをしたそうだ。Arc Oneの量産は来月から開始され、来年初めには最初の顧客に届けられる予定だ。

アークの計画では、今回の投資家から得た資金をもとに生産規模を拡大し、内燃機関のボートと競合できる価格のボートを開発することを目指している。つまり、Tesla(テスラ)が自動車でやっている戦略と同じだ。

「私たちはこのボートを大量に製造することは計画していませんが、これは市場における電動ボートのあり方を示すものとなり、私たちにとって新たな錨を降ろすものになります。まあ、これはしゃれのつもりですが」と、リー氏は語る。Arcはその後、2022年末までに大衆向けウォータースポーツ市場をターゲットにした新型ボートを発表し、販売を開始したいと考えている。次のボートの価格はまだ決まっていないが、内燃エンジンのボートに対抗するためには、15万ドル(約1700万円)から20万ドル(約2300万円)程度に抑えることが必要だろう。

次のボートを手がけるタイミングは、Arcが追加資金を調達する時期と金額によると、リー氏は語る。今のところ、同社はこの1号機のボートが将来の電動製品の需要を喚起することを期待している。

画像クレジット:Arc Boats

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

MITの研究者による自動運転の水上タクシーが、アムステルダムの運河で初航行

確かに、自動運転の水上タクシーが実用化されている都市は多くないが、アムステルダムはそのうちの1つになるかもしれない。先に、MITのCSAIL(コンピュータ科学・人工知能研究所)とSenseable City Laboratory(センサブル・シティ・ラボラトリー)の研究者たちは、自律的に航行する完全自動運転型のロボットボートを初めて進水させた。彼らはこのボートを「Roboats(ロボート)」と呼び、現地時間時間10月28日、運河で初航海を行った。

このボートは5人が十分に乗れるほどの大きさで、開発チームは廃棄物の回収や商品の配送などの、人間が操縦するボートで行っている作業にも使えると考えている。映画「Blade Runner(ブレードランナー)」から出てきたようなこの船は、バッテリーで駆動し、ドックに収まっている時にはワイヤレスで充電できる。チームの主張によれば、10時間の運行に十分な電力を搭載しているという。

自律的に進路を決定し、物体への衝突を避けるために、ロボートはLiDARと360度の視界を可能にする多数のカメラを使用している。ナビゲーションは、一般的な自動車のカーナビと同じように、GPSを使って現在地から目的地までの安全なルートを把握する。

アムステルダムの運河を順調に航行中のロボート(画像クレジット:Roboat)

「認識機能、ナビゲーション、制御システムの精度と信頼性が向上し、ラッチングも可能な近接接近モードなど新機能の導入や、 自動船位保持システムが改善されたことにより、今やこのボートは現実世界の水域を航行できるようになりました」と、MIT教授でCSAIL所長のDaniela Rus(ダニエラ・ルス)氏は語る。「ロボートの制御システムは、ボートに乗っている人の数に適応します」。

ロボートの設計で賢明な点の1つは、ユニバーサルプラットフォームを採用していることだ。これはバッテリーや推進システムの収容と併せて多目的に使用できる船体で、トップデッキを交換することによって、さまざまな用途に合わせて活用できる構造となっている。

「ロボートは24時間365日、船長がいなくても業務を遂行できるため、都市にとって大きな価値があります。しかし、安全上の理由から、レベルAの自動運転に到達することが望ましいかどうかは疑問です」と、プロジェクトの主任研究員であるFábio Duarte(ファビオ・ドゥアルテ)氏は語る。「陸にいるオペレーターが、コントロールセンターから遠隔操作でロボートを監視するシステムになるでしょう。1人のオペレーターが50台以上のロボートを監視することで、円滑な運用が可能になります」。

Roboat.orgでは、この技術が作動している様子を見ることができる。

画像クレジット:Roboat

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

透明性が高く持続可能なサプライチェーンを作るためにPortcastが約3.5億円調達

Portcastの創業者であるシャ・リンシャオ博士とニディ・グプタ氏(画像クレジット:Portcast)

多くの製造業者や運送業者にとって、物流管理は未だに手作業ばかりのプロセスである。電話やオンライン照会での出荷追跡に、エクセルのスプレッドシートへのデータ入力。自社を「次世代の物流運営システム」と称するPortcast(ポートキャスト)は、無数の情報源からデータを集め、リアルタイムで出荷物を追跡するだけでなく大きな天候の変化、潮流やパンデック関連の問題など何がその進行に影響を与えるか予測することにより、プロセスを効率化する。

同社は2021年9月上旬、Imperial Venture Fund(インペリアル・ベンチャー・ファンド)を通じたNewtown Partners(ニュートン・パートナーズ)率いるプレシリーズA 資金調達で320万ドル(約3億5000万円)を集めたと発表した。参加したのはWavemaker Partners(ウェーブメーカー・パートナーズ)、TMV、Innoport(イノポート)、SGInnovate(SGイノベート)。シンガポールに拠点を置くPortcastは、アジアとヨーロッパの顧客にサービスを提供し、調達資金の一部はさらなる市場への拡大に充てる。

共同創設者のNidhi Gupta(ニディ・グプタ)とLingxiao Xia(シャ・リンシャオ)博士は、シンガポールのEntrepreneur First(アントレプレナー・ファースト)で出会った。Portcastを立ち上げる前、最高経営責任者  のグプタ氏はDHLのアジア全域でリーダー職に就いてきた。その間に、彼女は物流部門の「非効率は実際にはこの分野において何かを作り出す機会である」ことに気づいた。機械学習の博士号を持ち、製品開発とクラウドコンピューティングの背景を有するシャ博士は「すばらしく補完的に合っていた」ことから、現在Portcastの最高技術責任者を務めている。

Portcastは、外洋貨物船を使用した世界の取引額の90%以上、航空貨物の35%を追跡し、3万本の通商路への需要を予測できるという。情報源は船の場所、進行速度と方向、向かっている港、風速、波高を示す衛星データなどの地理空間データなどがある。また、Portcastは経済様式(例えば、Brexit(ブレグジット)の英国中の港への影響、世界中のワクチン接種の開始により航空機や船の定員がどれくらい変わるか)、台風など気象事項、スエズ運河が航路をふさいだ時のような混乱にも目を向ける。

他には大規模な船会社や運送業者を含む顧客の独占的な取引データなどのデータ源がある。

「私達の挑戦は、いかにこのすべてのデータに同じ言語をしゃべらせるかです」。グプタ氏はTechCrunchに話した。「このデータはさまざまな頻度、詳細度で入ってくるため、いかにそれを組み合わせて機械がそれを理解、解釈し始めるようにするか」。

Portcastの主な解決策は、現在リアルタイムで輸送コンテナを追跡するIntelligent Container Visibility(インテリジェント・コンテナ・ビジビリティ)と、予約形態を追跡するForecasting and Demand Management(フォーキャスティング・アンド・デマンド・マネジメント)の2つである。Portcastはコンテナの追跡にIoTを利用しない。1つ1つに装置を取り付けると桁違いの費用がかかるからである。しかしハイブリッドな解決策のためにIoTプロバイダと連携している。例えば、追跡装置を1つのコンテナに設置し、その後そのデータを使用して残りの出荷物の管理に役立てているのである。

このスタートアップ企業の目標は、企業が運営効率を向上させるのに役立つ予測を行い、手作業のプロセスへの依存を減らすことである。「毎週何百個もの貨物が到着する物流業者がいます。そこでは毎日手作業でそれを確認しているのです。情報はエクセルシートに入力され、それに基づいて下流業務の計画を立てます」。と、グプタ氏はいう。

しかし新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは「緊急のデジタル化ニーズ」を生み出し「それはサプライチェーンを費用関数から時間通りに製品を入手することの中核へと形を変えました。そのため私達はいくつかの大規模な製造業者や運送業者と連携しています」。と、彼女は付け加えた。例えば、ヨーロッパのある食品および飲料会社は台北に輸送したが、通常は輸送に70日かかる。しかし到着まで3カ月以上もかかった。Portcastはさまざまな港や船を渡り歩く積荷を追跡し、顧客が遅延の原因を理解するのを助けた。

「中断が起きそうな時を予測するだけでなく、ピンポイントで、台風や積み替えが発生しそうだからX日遅れると伝えます。そうすればトラックや倉庫チームに何台のコンテナが到着するか知らせられるため力になれるのです」。と、グプタ氏はいう。「これにより港費、コンテナの延滞料金、手作業でさまざまな会社のウェブサイトを確認しサプライチェーンに何が起こったかを見つけ出そうとするのに要する時間を削減することができます」。

Portcastがサプライチェーンの可視性を正したい他の物流テックスタートアップ企業より勝る点は、船が通常複数の港を通り、熱帯暴風雨や台風などの気象事象を頻繁に回避しなければならないアジア太平洋地域で発売したことにある。シンガポールとマレーシア間(例えば)の航海を短くするためにPortcastが開発した技術は、アジアとヨーロッパ、またはアジアと米国などを結ぶ大陸間航路にも適用される。

「当社の技術は世界規模で、この市場の他のプレイヤーとの競争力を持ちます」。とグプタ氏は語った。「他に当社を差別化しているのは、製造業者とだけでなく、船会社、物流会社、貨物航空会社とも提携し、それによりネットワーク効果を作り出している点です。海上運送と航空運送で起きていることは非常に強い相乗効果があり、それを基に私達はその業界の型を理解することができ、当社のプラットフォームに移ってくる他社のためのレバレッジを生んでいる。

Portcastには予測型AIから処方型AIを含むよう移行する計画がある。現在、このプラットフォームは企業に遅延の原因を伝えることができているが、処方型AIは自動提案を行うこともできる。例えば、顧客にどの港が速いか、中断を回避するのに役立つ他の船や輸送方法、どうやって対応量を最適化するかを伝えることができる。

また、同社は年末までにOrder Visiblity(オーダー・ビジビリティ)を発売することも計画している。これは特定の品目を入れたコンテナを追跡する機能である。疲弊したサプライチェーンにより多くのさまざまな製品の消費者価格は上昇している。企業が特定のSKUをリアルタイムで追跡できるようにすることで、Portcastは物がもっと早く届くのを助けるだけでなく、各輸送で排出されるCO2量も可視化させることができる。

「カーボンオフセットやカーボントレードは、自分が実際にいくら支出しているか可視化できる場合にのみ生じます。そこに私達は関与することができます」とグプタ氏はいう。「例えば、早く到着すれば、船会社が船を減速させバンカー重油のような燃料費用を節約する機会となり、膨大な費用節約となるだけでなく、CO2排出量も削減することになります」。

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(文:Catherine Shu、翻訳:Dragonfly)

自律航行して海洋データを収集するロボットボート開発Saildroneが約114億円調達

海洋経済の重要性は増しており、それにともなって海洋そのものをマッピング、理解、追跡する必要性が高まっている。Saildrone(セールドローン)は、自律航行する科学実験船を使ってそうした活動を展開してきたが、ロボットボートの開発をさらに進めるために1億ドル(約114億円)という巨大なラウンドCを実施した。

Saildroneの船は何年も継続して使用されており、人間の乗組員には危険すぎたり、退屈すぎたりするようなあらゆる種類の興味深い航海を行っている。例えば、2021年10月初めには、ますます頻繁に発生するようになっている激しい嵐をより深く理解するためのNOAA(米海洋大気庁)のプロジェクトで、同社の船1隻がハリケーンの中を航行した。ロボットは50フィート(15メートル)の波と120MPH(時速193km)の風に耐えてデータを収集することができる。

Saildroneの船は、合計で50万マイル(約80万km)を旅した経験を持つ、最も経験豊富な自律型ボートだ。これにより、海洋情報の重要性が高まる中、魅力的な市場ポジションを得ることができた。ある場所の海の状態を知ることは、科学的に、そして嵐の際の船の操作など予想される目的のために役立つだけではない。体系的に収集された膨大な量のデータは、気候変動や持続可能な養殖への移行の際に、複雑な水生生態系の新たな基本的理解を構築するのに役立つ。

自律型の科学ボートといえばSaildroneが知られているが、他にも別の方向から新しいブルーエコノミーにアプローチしている企業がある。Sea Machinesの自律型タグボートや商業用ボート(このほど約1610kmの航行を実証した)があり、EcoDroneSea Provenはより小型でカスタマイズ可能な船で勝負しようとしている。また、Bedrockのもののように海底をマッピングする水中ドローンというまったく異なる世界もある。

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しかし、Saildroneは立ち止まっているわけではなく、むしろ深く掘り下げている。最新の船であるSurveyor(サーベイヤー)号は、1年間航海し、水深2マイル(約3.2km)以上の海底をマッピングすることができる。しかしこの船は安くはない。Saildroneが「海洋領域のインテリジェンス」分野でできるだけ多くのシェアを獲得したいのなら、迅速に規模を拡大する必要がある。そのために1億ドル調達したはずだ。

今回のCラウンドはBONDがリードし、XN、Standard Investments、Emerson Collective、Crowley Maritime Corporation、CapricornのTechnology Impact Fund、Lux Capital、Social Capital、Tribe Capitalが参加した。「データ・インサイト・チーム」が組まれ、その資金を「GTM戦略機能」に活用する。

プレスリリースの中で、SaildroneのCEO兼創業者であるRichard Jenkins(リチャード・ジェンキンス)氏は「最も試行錯誤された自律型海洋技術と、世界で最も経験豊富なベンチャーキャピタリストたちとの提携の組み合わせは、業界における当社のリーダーシップを強化し、顧客のニーズを満たすための急速な成長路線を可能にします」と述べた。今後、注目度が高まるにつれ、同社のミッションについてこれまでよりも耳にするようになるのは間違いない。

画像クレジット:Saildrone

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi