パンデミックにより不確実性が増した2020年の経済状況から、消費者の債務不履行率は2021年も引き続き雲行きが怪しいと予測する人が増えている。返済が困難な消費者の状況を緩和するプラットフォームを構築したスタートアップが米国時間2月9日、サービスの需要の高まりを背景とした資金調達を発表する。
Symendが構築した行動アナリティクスは、カスタマーエンゲージメント製品に統合し、支払いに困窮する顧客を識別して、全額が債務不履行とならないよう代替の支払い手段を提案する。同社は4300万ドル(約45億3000万円)の資金調達に成功している。
この資金は2020年5月に完了したシリーズBに続いて調達されたもので、ラウンドの総額は9500万ドル(約100億1000万円)に達し、2016年の創設以来1億ドル(約105億4000万円)を突破した。
今回の資本注入はInovia Capitalが主導し、複数の氏名非公表の投資家が参加している。
Symendは時価総額を公表していないが、CMOのTiffany Kaminsky(ティファニー・カミンスキー)氏と共同で同社を創業したCEOのHanif Joshaghani(ハニフ・ジョシャハニ)氏によれば、今回の資金調達には、支払いに間に合わない顧客をサポートするソリューションに投資したい企業の間で「大幅な価値上昇」があったという。
同氏はインタビューで「顧客が支払いに不安を覚えているケースは非常に高く、サービス提供者は大量の問い合わせが殺到する中、顧客に効果的に寄り添い、安心させるような方法で対応できる余裕を持ち合わせていないのです」と語っている。
このスタートアップは主に電気通信、金融サービス、ユーティリティ、メディア業界のクライアントにサービスを提供しており、北米の大手電気通信サービス事業者の3分の2に加え、ある多国籍の銀行も顧客に名を連ねるとされている。
2020年、Symendは2020年末までに顧客数1億人(クライアントの顧客を含む)を目指すと発表した。この数字が達成されたかについては現在確認を求めているところである。
同社が目指すことは2つある。顧客が支払いに困窮しているときにそれを識別すること、さらにそうした顧客に対して、ほとんど問題の先送りにしかならないような単なる繰り延べ返済とは異なる代替の手段を提供することだ。
同時に、Symendのソリューションは支払いの遅延を防ぐだけではない。同社のソリューションは、カスタマーサービスの運用で圧倒的な量のトラフィックが発生している企業に対して支援と代替手段を提供することを目的としている。
それでも、返済の繰り延べはやはり重要な意味を持つ。2020年、債務不履行を回避するための最初のアプローチとして、多くのサービス提供者が返済繰り延べ期間の設定を申し出た。ただし、ジョシャハニ氏によればそのような返済繰り延べが「資金面での安定について、顧客に誤った感覚を与えかねない」のだという。
その理由の少なくとも一部に、こうした顧客が通常、複数の借り入れを延滞しているという事情がある。
同社が500名の利用者を対象として7月に実施した調査によれば、2020年の4月から7月までの期間に支払いが遅れた人は27%増加した。延滞者が遅延させている支払いの件数は平均3件で、うち55%は少なくとも1件のローンを、37%は住宅ローンまたは家賃を、21%は与信限度額相当を、52%がクレジットカードの支払いを延滞していた。
支払いができないことやお金にまつわる個人的なトラブルは、一般的に言ってお金がないことだけが原因ではない。失業、病気、家族の問題など、期日までに支払えなくなってしまう背後にはさまざまな事情がある。
このためSymendは、問題が生じていることを識別する作業とその対処の両方にきめ細やかアプローチを取ろうと努めている。
「Symendの最大の目標は顧客を不幸な結果から救い出すことであり、顧客がサポートされていると感じられるよう、そして行動できるよう手段を整え、返済期間の繰り延べで支払いが溜まっていくことを避けられるように力を貸すことを、当社の戦略としてクライアントと協働しながら展開したのです」とジョシャハニ氏は説明し、こう続けた。「共感的なコミュニケーションや、セルフサービスツール、柔軟な返済オプションを利用して顧客と関わることで、Symendはこれまで、ひどく不確実でストレスフルな状態にある顧客にポジティブな体験を提供できるよう、大手企業を支援してきました。デジタルツールを利用して行動する手段を顧客に提供したことで、Symendは目がくらむほどの業務量のプレッシャーからコールセンターを解放し、顧客満足度を高め、オペレーション費用を低減し、返済期限を超過した債権が回収会社に渡る前に顧客が支払いを解決できるようにしています」。
以前にも紹介したとおり、Symendのスタッフの約25%は行動科学のPh.Dであるが、そのことは同社の仕組み、あるいは顧客を評価する際のアプローチにあまり影響していない。スタッフは案件のデータそのものから得られるデータを使用し、それをサードパーティーが提供するリソース(AIを基盤とする多くのフィンテックが使用するような、ある人物がある金利のローンに対して適格かどうかを査定するといった目的に使用するデータの宝庫と似たようなもの)と組み合わせている。
カミンスキー氏によれば、同社は2020年度、アルゴリズムとアナリティクスへの投資を増やしたという。
「行動科学的な情報を与えられたアルゴリズムを使用することで、Symendは顧客の行動の主なバリエーションを弁別でき、個人が持つ独特の嗜好に基づいてインタラクションのパーソナライズと最適化を実行します」と同氏は語る。「SymendのAI・機械学習モデルでは、顧客インタラクションと取られたアクションの履歴から得られる洞察を組み合わせることで、これを一歩先へ進めています。こうした洞察は、当社が背後にある心理的、行動的傾向を発見し、どういったエンゲージメント戦略がポジティブな行動を形成するかを判断することに役立っています」。
顧客の感情を捉え、こうした戦略をさらに反復継続するために、同氏によればSymendはNLP処理モデルを使用し、コミュニケーションに対する反応とセルフサービスツールでの応答に基づいて自動的に感情を分類するという。「当社のメトリクスは、期日超過の債務をはるかに超えて、持続的にポジティブなブランド体験を構築することを最終ゴールとしてかたち作られています。当社のAI・機械学習モデルに感情分析とエンゲージメントスコアリングを使用するのはこうした理由によるものです」と同氏は語る。「これによって最終的には顧客の独自のニーズの変化に寄り添い、顧客を繋ぎとめる一貫したポジティブな体験を生み出すことが確実になるのです」。
同社はこの先、今回調達した資金を使って、特に国際的な人材採用をラテンアメリカ諸国とアジア太平洋地域に焦点を合わせて行っていくという。また、人々が債務不履行に陥るのを防ぐ製品の拡大にさらなる投資を行いつつ、カスタマーリテンションの導入とツールの買収をはじめとする製品の拡張にも投資を行う予定だ。
Inovia CapitalのパートナーであるDennis Kavelman(デニス・カベルマン)氏は声明で「私たちはSymendが掲げる、債権回収の回避に向けて顧客を助けることで企業に持続的な価値を与える、というミッションを強く信じています」と発言している。「行動科学とデータサイエンスを組み合わせ、それぞれの顧客向けにパーソナライズされたアプローチを推進する点に、彼らのアプローチの差別化要因と有効性があるのです。今回の新規投資で、Symendはグローバルな拡大に向けた戦略を実行し、多くの産業の大手企業とパートナーシップを締結するための十分な資金を獲得しています」。
画像クレジット:TechCrunch
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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)