オンラインM&AマッチングのM&Aクラウドが2.2億円調達、マッチング後の成約サポート機能を強化

M&Aクラウド

オンラインM&Aマッチングプラットフォームを展開するM&Aクラウドは6月24日、シリーズBの投資ラウンドにおいて、総額約2.2億円の資金調達を実施したと発表した。

引受先は、トグル、野口哲也氏(アイモバイル 代表取締役社長)、岩田真吾氏(三星グループ 代表取締役社長)、文野直樹氏(イートアンド 代表取締役会長)、高谷康久氏(イー・ガーディアン 代表取締役社長)、柳橋仁機氏(株式会社カオナビ 代表取締役社長)、インキュベイトファンド、SMBCベンチャーキャピタルなど。

今回調達した資金は、同社プラットフォーム「M&Aクラウド」の新機能として、売り手企業の概要と買収メリットをまとめた企業概要書の自動生成機能、M&Aクラウド上以外の案件も含めて管理できる案件管理機能などの開発に利用。あわせて、M&A仲介の経験豊富なスタッフの知見を活用した売り手サポート体制を整備し、マッチングから成約までをトータルに支援するプラットフォームとして成長させる。

M&Aクラウドは、売り手が無料かつオンラインで、買い手の情報を閲覧し、直接打診できるM&Aおよび資金調達のマッチングプラットフォーム。2018年4月ローンチからの約2年間で、掲載買い手企業は約250社、登録売り手企業は2600社超に達した。また累計1000件超の面談を実現したという。

一方で同社は、マッチング後M&Aや資金調達の成約に至るプロセスに関しては、これまで積極的にサポートする仕組みを設けてこなかった。ファイナンス知識が不足しているユーザーの中には、プレゼンやデューデリジェンスにのぞむ際別途サポートを必要とするケースがあることから、これらを一貫してM&Aクラウド上で行うことで、マッチング成立した企業が成約まで至る率を高め、「希望のM&A/資金調達が成立する」プラットフォームに進化させることを目指すとしている。

小型衛星打上機の開発を手がけるSPACE WALKERが総額3.25億円を調達

SPACE WALKER

サブオービタルスペースプレーン(小型衛星の打ち上げ)の設計・開発、運航サービスの提供を目的とするSPACE WALKER(スペースウォーカー)は、2019年10月1日以降、2020年2月末までの間に、CE(コンバーチブル・エクイティ)型新株予約権により新たに1億5500万円の資金調達を実施し、プレシードラウンド総額として3億2500万円の資金調達を完了したと発表した。引受先は、新居佳英氏(アトラエ 代表取締役CEO)、QB第一号投資事業有限責任組合、髙木秀邦氏(髙木ビル 代表取締役社長)、有限責任事業組合ハンズインなど。今回の資金調達により、2018年10月15日に実施したエンジェルラウンドも含め、累計調達額は5億2500万円となった。

SPACE WALKERは、「誰もが飛行機に乗るように自由に宇宙へ行き来する未来の実現」を目指し、サブオービタルスペースプレーンの設計・開発、運航サービスの提供を目的に2017年12月に設立。現在は、アイネット、IHI、IHIエアロスペース、川崎重工業、東京理科大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)など技術パートナー企業とともに、2022年に打ち上げ予定の科学実験用サブオービタルスペースプレーンの開発に取り組んでいる。また実証技術を応用して、各パートナーと協働し、メイドインジャパンの小型衛星打上機を2024年、そしてサブオービタル宇宙旅行機を2027年に初飛行させることを目指している。

今回調達の資金は、主にサブオービタルスペースプレーンの技術実証機である有翼ロケット実験機「WIRES(WInged REusable Sounding rocket)#013」、「#015」の設計・開発および製造に活用する。

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スマホやEVなど電子機器の「熱問題」解決へ、名古屋大発素材ベンチャーのU-MAPが約3億円調達

自社で研究開発した独自素材を用いて電子機器の熱問題の解決に取り組むU-MAPは6月19日、リアルテックファンド、京都大学イノベーションキャピタル、OKBキャピタル、新生銀行、東海東京インベストメントの5社より総額約3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

普段スマホやPCを長時間使っていると、機器が熱くなってパフォーマンスが低下することがある。僕自身ビデオ会議が続いた時などにそういった状況によく陥るけれど、これも電子機器の熱問題の1つだ。他にもEVや通信システム(5G)、データセンターのサーバー、AI・IoT端末など個人向けのデバイスから産業機器まで熱問題が影響を及ぼす領域は幅広い。

機器の発熱はパフォーマンスの低下だけでなく、機器寿命の低下や安全性の低下にも繋がる。EVのバッテリーは適正温度より10度高くなるだけで性能や寿命が50%低下するケースもあると言われるほど。特に産業機器などでは発熱が大規模な障害や事故の原因になったりもする。

だからこそ電子機器を設計する際にはパソコンにおける冷却ファンのように、冷却設備を搭載することで機器の温度が上がりすぎないように工夫されるわけだ。

U-MAP代表取締役社長兼CEOの西谷健治の氏によると冷却設備は大きなエネルギーが必要になるだけでなく、デザインの自由度の低下やコストの増加などいくつか課題もあるそう。ただし今の所は「それでも冷却設備を入れざるを得ないのが現状」だという。

そこで「機器の内部に使われる材料を従来よりも高性能化(高熱伝導化)する」ことで現在課題となっている部分を解決するとともに、熱問題自体をなくしていこうというのがU-MAPのアプローチだ。

西谷氏の話では電子機器の多くは主要な材料としてセラミックスや樹脂が使われている。それらを高性能化するためのカギとなるのが「フィラー」と呼ばれる添加物であり、U-MAPでも独自のフィラーの研究開発に取り組んできた。

コアとなるのは名古屋大学の宇治原研究室の研究成果である繊維状窒化アルミニウム単結晶(Thermalnite : サーマルナイト)だ。U-MAPはThermalniteの社会実装を目指すべく2016年に設立された名古屋大学発のスタートアップで、西谷氏も同研究室の出身。一度別の企業で経験を積んだ後、U-MAPに入社して2018年に代表に就任した。

Thermalniteはセラミックスや樹脂に混ぜ込むことで、これまでにない「高熱伝導+α」の新機能材料を実現できるのが最大の特徴だ。

たとえばセラミックスにThermalniteを添加した「セラミックス複合材料」では、高い熱伝導性に加えて機械強度の向上が見込める。セラミックス複合材料は主に産業用のパワーモジュールや光モジュール、EVの基盤などに使用されるもので、尋常じゃない熱が発生するためそれをいかに逃していけるかが重要だ。

ここでポイントとなるのがセラミックスは特性上「強度が弱い」という弱点を持っていること。そのため基盤を分厚くしなければならないが、分厚くすればするほど熱の逃げ方は悪くなってしまう。要は「熱を逃がすために高い伝導性を持つセラミックスを使っているのに、分厚くするために熱が逃げづらくなっている状況」がこれまでの課題だった。

「Thermalniteを使えば高い熱伝導と同時に高い機械強度も両立できる。たとえばEVであれば放熱性能を高めつつモジュールサイズを小型化し、ボディのデザイン性を高めたり(冷却エネルギーを抑えることで)燃費を向上させたりする効果も見込める」(西谷氏)

樹脂にThermalniteを加えた「樹脂複合材料」の場合であれば、高熱伝導性を維持したまま樹脂の特性を十分に発揮できるようになる。樹脂複合材料はスマホやPC、EV、5G基地局など広い用途で使われるものだが、従来の高放熱樹脂材料は少しでも性能を高めるべく樹脂の中に放熱フィラーを70〜80%以上添加している。それによって生じる問題は樹脂の軽さや柔軟性といった特性が損なわれてしまうことだ。

「Thermalniteの強みは10〜20%の少ない添加量でも従来と同等以上の熱伝導性を実現できること。これまでは熱伝導性を担保するために樹脂の特性などは気にしていられなかったが、添加量を少なくできれば軽さや高い加工性など樹脂の特性も残せる」(西谷氏)

U-MAPの樹脂複合材料は従来とは異なる特性が要求される成形方法での部品製造や、機能性材料のニーズが強い5Gなどの次世代通信、EVなどへの展開が可能だ。

一例をあげると多様なメーカーが5G対応の材料開発に力を入れているが、そこでは電波の透過率(誘電率)が重要な指標になる。誘電率を低くするほど電波が通りやすくなるためメーカー側は誘電率の低い材料を望み、そのニーズに応えるにはフィラーの添加量を抑えることが効果的でU-MAPの素材の特性とマッチするのだという(フィラーを添加するほど誘電率が高くなるため)。

5Gは今後U-MAPがメインターゲットにしていく領域の1つになるが、同社ではそれ以外にも様々な産業での展開にチャレンジしていく方針。すでにThermalniteおよびThermalniteをセラミックスや樹脂に添加したマスターバッチのサンプル販売に取り組んでいて、延べ70社以上の企業に販売している。

今回の調達はThermalniteの量産化を見据えた研究開発体制の強化やアライアンスの強化などが主な目的だ。U-MAPでは今後も名古屋大学とも連携しながらThermalniteを社会に広げていくことで、熱問題の解決を目指すという。

名古屋大学発スタートアップのIcariaが資金調達と社名変更、尿検査による早期のがん発見目指す

Icaria(イカリア)は6月17日、シリーズAの資金調達を実施したと発表した。第三者割当増資による調達で、引受先は既存株主のANRIのほか、新規で大和企業投資、Aflac Ventures、森トラスト、FF APEC Scout(米ベンチャーキャピタルファンドFounders Fundのスカウトファンド)、国内大手企業1社、米投資ファンド1社。同時に、社名をIcariaからCraif(クライフ)に変更することも明らかにした。

同社は、尿検査を通じた早期のがん診断を目指す名古屋大学発のスタートアップ。酸化亜鉛ナノワイヤを用いた独自デバイスにより、核酸やタンパク質などの生体分子を含むエクソソームを尿中において捕捉。このエクソソームから、疾患の発症・悪性化に深く関与しているmiRNA(マイクロRNA)を1300種以上検出し、発現パターンをAI(機械学習)で解析することで、高精度のがん検出を成功させている。

Craif

さらに同社は、これら技術を基に1滴の尿から高精度でがんを早期発見する検査や、個別化医療を実現する治療選択プラットフォームを開発。今回の資金調達により、独自デバイスのさらなる開発や、臨床研究の推進に取り組むとしている。

新社名のCraifは、日本文化において長寿の象徴とされる「鶴」を意味する「Crane」(クレーン)と、人生を意味する「Life」(ライフ)を組み合わせたもの。同社は「人々が天寿を全うする社会の実現」というビジョンのもと、尿検査により、痛みを伴わず高精度にがんの早期発見を行える世界を目指している。がんの早期発見は健康寿命の延伸、医療費抑制に直結する重要課題であり、世界でも高い高齢化率である日本でこそ率先して取り組むべき課題であるという。日本発の同社がこの課題に取り組み、世界の手本となるような高齢化社会の実現に貢献したいという思いを込め「Craif」にしたとのこと。

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VTuber「ゲーム部」運営のUnlimitedがBrave groupへ社名変更、約8億円の調達と役員体制の刷新も発表

ゲーム部プロジェクト」など複数のVTuberチャンネルを展開するUnlimitedは6月16日、Brave groupへ社名を変更したことと共に、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により総額8億円を調達したことを明らかにした。同社では合わせてCI(コーポレートロゴやミッションなど)や役員体制も刷新している。

Brave groupは2017年10月に上⻄恒輔氏と野⼝圭登氏が共同で立ち上げた。これまでは2人が代表取締役を務めていたが新体制では上西氏が退任。代表取締役は野口氏1人(代表取締役CEOに就任)となる。またCSO/経営企画室室⻑を担っていた吉弘⽂昭氏が取締役 CSO、コーポレート本部⻑を担っていた舩橋純氏が執⾏役員 CFOに就任し体制面をアップデートしている。

加えて複数のVC・事業会社やエンジェル投資家から約8億円を調達し資金面も強化した。主な新規の株主は以下の通り。事業会社とはVTuberやバーチャル体験を絡めた事業上の連携も視野に入っているようだ。

  • アニヴェルセル HOLDINGS
  • AG キャピタル
  • セプテーニ・ホールディングス
  • みずほ成⻑⽀援第 3 号投資事業有限責任組合
  • efu Investment
  • gumi ventures3 号投資事業有限責任組合
  • マイナビ
  • ⽚⼭晃氏など複数の個人投資家

なおBrave groupではこれまでグリー子会社のWright Flyer Live Entertainmentや中国のBilibiliから資金調達を実施していて、累計の調達額は約10億円となった。

独自の制作フローで複数のVTuberチャンネルを運営

Brave groupの主力事業はVTuberを軸としたIP開発事業だ。30万人強がチャンネル登録しているゲーム部プロジェクトを始め、独自のキャラクターを活かしたチャンネルを複数展開する。

VTuberのプロデュースやマネジメントを手がけるスタートアップは複数存在するが、同社の特徴は漫画の原作を考えるような役割を担うプロデューサーを社内で抱え、最初の段階でストーリーやキャラクターといったチャンネルのキモとなる部分を入念に設計していること。それが固まった後にキャラクターを演じる“中の人”を探し、YouTube上だけでなく様々なメディアに展開できるIPを目指して一緒に作品を作っていくケースが多いという。

その観点からBrave groupではキャラクターユーチューバーの略で「CTuber」と表現している。

「VTuberでは中の人を務める声優さんの個性をそのままバーチャル化することが多いが、自分たちは別のやり方をしている。チャンネルやコンテンツの制作フローは漫画やアニメに近く、ビジネスモデルも(芸能事務所やYouTuberが所属する事務所などではなく)集英社などIPの会社をかなりベンチマークしながら取り組んできた」(野口氏)

今まではエクイティファイナンスで調達した資金などを用いてオリジナルのIPを100%権利保有する形で運営してきたが、直近ではナショナルクライアントや地方自治体からVTuberを起用したプロモーションの引き合いが強くなってきているそう。そこでチャンネルにスポンサードしてもらう形で資金提供を受け、IPを50%ずつ保有しながら共同でIPを育てつつ収益をシェアするモデルも始めている。

Brave groupが運営する主要チャンネル。数字は6月15日時点のもの

体制変更や業務フローの見直しを経て、次世代IPの創出目指す

VTuber関連の事業はここ1〜2年で急速に盛り上がってきた領域だ。複数のチャンネルが立ち上がり、キズナアイや輝夜⽉を始め人気のバーチャルタレントが生まれた。

関連するスタートアップも続々と立ち上げってきていて、直近でもBrave groupだけでなくActiv8(小学館やホリプロなどから約10億円調達)やカバー(複数VCなどから約7億円調達)、にじさんじ(伊藤忠商事などから約19億円調達)が億単位の資金調達を実施。大手企業がそれらのスタートアップに出資をしたり、オリジナルのVtuberを手がけたりする例も増えてきた。

その反面まだまだ未成熟な業界で、トラブルの話を耳にしたりすることもある。Brave groupのゲーム部プロジェクトに関しても昨年4月に声優との間で問題が発生し、業務辞退の申し入れがあったことが発覚。最終的には関係者で協議を行った末、4人の声優陣が交代したことも明らかになった。

同社からも発表されている通り声優スタッフとのコミュニケーションや業務マネジメント体制の部分に課題があったため、この1年ほどは冒頭で触れた社内体制の変更も含めて体制や業務フローの改善を進めてきたという。

「演者さんや(演者の)親御さんとの密なコミュニケーションや評価制度の見直しなどに加えて、月の動画制作本数の適正化も進めた。ゲーム部ではピーク時に月間で50〜60本の動画をアップしていたが、それが過度な業務負担の一因にもなってしまっていた」(野口氏)

また演者だけでなくチャンネルを応援しているユーザーとの間のコミュニケーションも見直すべき点があった。ゲーム部ではユーザー向けに適切な情報開示などを行わずに声優陣の変更を進めたことがわかったため、ファン離れにも繋がった。

昨年末には同じくBrave groupが手がける「ここあMusic(道明寺ここあ)」を担当していた声優がバンド活動へ専念することを理由に卒業。今年3月から新声優のもと「COCOA CHANNEL」に名称を変える形で再スタートを切ったが、その際には演者だけでなくユーザーに対しても情報共有をしっかり行うことで新チャンネルにも少しずつユーザーが戻ってきているという。

今回の資金調達は体制を変更し社名も新たにした上で、再度「世代を超えて親しまれるようなIPをスマホ・Youtubeから生み出す」ことを目指していくために実施したものだ。Bilibiliが既存株主に入っていることからもわかるように、ゆくゆくは日本だけでなくIPを世界で展開することも計画している。

調達資金はIPコンテンツ制作や採用・マーケティング活動へ投資をするほか、新規事業の開発にも用いる方針。具体的には芸能人のバーチャル化プロジェクト(バーチャルライバー)やクリエイターの人材紹介事業などを考えているという。

創業百数十年の老舗食堂から生まれた飲食向けデータ分析ツール開発のEBILABがパーソルから約1億円を調達

飲食や小売向けの店舗データ分析ツール「TOUCH POINT BI」を開発するEBILABは6月1日、パーソルグループのパーソルイノベーションから約1億円を調達したことを明らかにした。

EBILABでは同じくパーソルグループでクラウド型モバイルPOSレジ「POS+」を手がけるポスタスと2020年2月に業務提携を締結済み。今後はパーソルイノベーションやポスタスとの連携を通じて販売やマーケティング面を強化するほか、飲食・小売業のデジタル変革の支援に向けた新プロダクトの開発なども検討していくという。

TOUCH POINT BIは飲食店や小売店が保有する「店舗にまつわるあらゆるデータ」を一元的に収集し、可視化するプラットフォームだ。たとえばPOSレジサービスと連携することでユーザー自身が何も入力することなく売上データを自動で収集。期間別の売上や客数のほか、顧客の年齢層、入店時間別の来客比率、メニューごとの売上比率など店舗分析に不可欠な情報をダッシュボード上に表示する。

同サービスに繋げるデータはPOSレジに限らず幅広い。天候データと紐づけることで天気や気温が店舗の状況にどのような変化をもたらしたのかを数字で把握することもできるし、店舗に設置したネットワークカメラによる「画像解析AI」機能を活用してレジシステムだけではわからなかった顧客の属性や行動を掘り下げて分析することもできる。

また過去に蓄積してきたデータを用いた「来客予測AI」もTOUCH POINT BIの1つの特徴だ。未来の来客数が予測できることによってあらかじめ発注・仕入れを最適化し食品のロスを減らせるほか、オペレーションを効率化して料理の提供時間を短縮することも可能。「45日予測」機能は早い段階でシフトや休暇を調整する際にも役立つ。

「ユーザー側で画面設計の手間がないというのが大きな特徴。これまでためてきた知見やノウハウを元に最初からベストプラクティスを提供するという考え方で、飲食や小売の現場で必要とされる項目を最初の段階で揃えている。ユーザーは導入時にポスベンダーと連携さえしておけば自動でデータが収集されるので、業務の節目に自ら入力しなくてもデータを軸とした店舗運営ができる」(EBILABでCTO兼CSOを務める常盤木龍治氏)

TOUCH POINT BIがユニークなのは、なんと言ってもこのサービスが三重県伊勢市にある創業百数十年の老舗食堂「伊勢ゑびや大食堂」の“自社ツール”として生まれたものである点だろう。長い歴史を持つ同店舗ではデータ解析の力で勘に頼らない店舗経営への移行を目指すべく、TOUCH POINT BIの前身となるツールを自社で開発した。

これが1つのきっかけとなり2012年に1億円だった売り上げは2018年に5倍近くの4.8億円まで拡大し、利益ベースでは約10倍増加。現場では来客予測システムの効果によって米の廃棄を70%ほど削減することに成功したほか、人員の稼働をうまく調整することでスタッフが休暇を取りやすい体制を実現することにも繋がった。

「多くの飲食店ではそもそもデータを使った分析などをしていないか、やっていてもエクセルなどを使って特定の人に依存する形になっているところが多かった。後者の場合、担当者が変わってしまうとまたゼロから仕組みを構築しなければならない。結果的にデータではなく勘や経験頼りでしかビジネスが回らない状態に陥ってしまい、ロスも発生するし販促も成果に繋がらないという状況が様々な店舗で起きている。もし数字を基にして根拠を持って考えられるような仕組みが作れれば、もっと確度の高い形で経営ができるのではないか。そんな思想から生まれたプロダクトだ」(ゑびや代表取締役でEBILABの代表も務める小田島春樹氏)

2018年6月にはゑびやのシステム部門をEBILABとして分社化。同時にTOUCH POINT BIという形で正式にプロダクト化し、飲食店を中心とした小売事業者へサービス提供を始めた。現在もEBILABはゑびやと同じく伊勢市に本社を置き、沖縄市に構える同社のInnovationLabのメンバー達とリモート環境でプロダクトの開発に取り組む。

飲食店向けのシステムを開発しているIT企業はいくつもあるが、実際に飲食店を運営しているところは稀だろう。TOUCH POINT BIにはドッグフーディングの形で「実際にゑびやで試してみてハマった機能」が散りばめられていて、もしかしたらこの開発体制こそがEBILAB最大の強みと言えるかもしれない。

同サービスの利用料金はデータを分析するための「店舗分析BI」が1店舗あたり月額1万9800円、そこに来客予測AIも加えた上位プランが月額2万9600円(導入費用は別途必要)。地方のSMBなどでも導入しやすいように「多くの店舗が毎月かけているWeb販促費などの範囲内で使えて、実際に効果が実感できるサービス」を目指したという。

現在は約160社が導入しているが今の所は大手デベロッパーの案件なども多いそう。今後は当初のターゲットとしていた全国のSMBへの展開を進めるべく、スマホベースで来店予測や日々の進捗管理ができるサービスの開発や販売・マーケティングの強化を進める。

冒頭でも触れた通り、パーソルイノベーションおよびポスタスともその方向で連携を強めていく計画。ポスタスと共同で2月より提供をスタートしている「POS+BI powered by EBILAB」を2022年までに1万店舗へ展開することを目指すほか、中長期的には双方のアセットを活用しながら新サービスや飲食・小売事業者のためのデジタルソリューションの企画開発などを共同で行なっていく計画だという。

プログラミングスクール「テックキャンプ」運営のdivが18.3億円調達、新型コロナ禍でオンライン授業強化へ

プログラミングスクール「テックキャンプ」を運営するdivは5月29日、総額約18.3億円を調達したことを明らかにした。第三者割当増資とデットファイナンス(借入)による調達となる。第三者割当増資のリード投資家はEight Roads Ventures Japan。そのほかの投資家、借入先金融機関は以下のとおり。

  • 森トラスト
  • 価値共創ベンチャー2号有限責任事業組合(NECキャピタルソリューション)
  • SMBCベンチャーキャピタル5号投資事業有限責任組合(SMBCベンチャーキャピタル)
  • ドリームインキュベータ
  • ナントCVC2号投資事業有限責任組合(南都銀行、ベンチャーラボインベストメント)
  • ウィーンの森-VLIベンチャー育成1号投資事業有限責任組合(ベンチャーラボインベストメント)
  • VLIベンチャー育成投資事業有限責任組合(ベンチャーラボインベストメント)
  • 森正文氏(ホテル・レストラン予約サービス「一休」の創業者)
  • 商工中金
  • きらぼし銀行

テックキャンプは、過去累計で2万人以上の受講実績があるプログラミングスクール。プログラミング未経験の初心者から学べるのが特徴で、エンジニアスキルを短期間で身につけることができる。具体的には、累計60時間でウェブサービス開発の基本カリキュラムを終えられるという。基本カリキュラムを終えて、サービスのプロトタイプを開発できるスキルを身につける目安は累計100時間。同社では週2回以上の教室への通学を推奨している。

そのほか同社は転職支援サービス「テックキャンプ エンジニア転職」「テックキャンプ デザイナー転職」も運営しており、テックキャンプの受講者を含めてすでに1000名以上の転職をサポートしたという。今回調達した資金は、コンテンツ開発の強化、人材の採用・育成、スクールの拡充、認知度向上のためのプロモーションなどに投下される。

新型コロナウイルスが蔓延する中、同社はオンライン授業(オンラインスタイル)にも力を入れている。オンライン受講者一人ひとりにパーソナルトレーナーやキャリアアドバイザーが付くほか、受講者同士で課題に取り組む時間も設けられているなど、挫折やサボりを回避する仕組みが考えられている。アンケートによると、オンラインスタイルの満足度は教室学習と遜色ないことがわかったそうだ。

中小企業へ「はやい・やすい・巧いAI」の提供目指すフツパーが数千万円調達

中小企業向けのエッジAIソリューションを手がけるフツパーは5月21日、ANRIから数千万円規模の資金調達を実施したことを明らかにした。

同社が現在取り組んでいるのは、中小企業の課題を解決するための画像認識AIサービスだ。主なユースケースは食品工場や部品工場における検品業務など、従来は人が目視で行なっていた作業の自動化。工場の現場にAIを組み込んだデバイスを設置し、そのデバイス上で画像認識処理を実行する。

これはエッジAI全般に言える話ではあるけれど、クラウド側ではなくエッジデバイス側で処理を行うことで通信コストを減らせるほか、高速なデータ処理を実現できる。またネットワークを整備するための初期工事なども必要ないため、導入までのスピードも早い。

フツパーでは既存のハードウェアやAIモデルなどを組み合わせ、こうしたエッジAIの恩恵を中小企業が享受できるような仕組みを開発している。たとえばハードウェアはNVIDIA製のもの、AIモデルについてはGoogleやFacebookが手がけるオープンソースのフレームワークを採用。すでに存在する高品質なものを取り入れながら顧客のニーズに合わせてカスタマイズしたモデルを生成し、それを自社の圧縮技術によって手の平サイズのデバイスに搭載して、すぐに使える形で顧客へ届ける。

コンセプトは“はやい・やすい・巧い”AIだ。

「通常、工場の現場などでAIを活用したプロジェクトを始めるとなると数ヶ月かかることも珍しくなかった。自分たちの場合は小型のデバイスを現場にポン付けで導入できるので、すぐにスタートできる。初期投資も少なく手軽に始められるほか、(全てをゼロから自分たちで開発するのではなく)質の高い技術を組み合わせることで安くてもいいものを実現できる」(フツパー代表取締役CEOの大西洋氏)

フツパーは2020年4月1日に広島大学出身の3人が立ち上げた。大西氏は大学卒業後に電子部品メーカーを経て、工場向けのSaaSを展開するAI/IoTベンチャーで営業やPMを経験。取締役兼COOの黒瀬康太氏は日本IBMで多数のAI導入案件に携わった。中小企業向けのAIソリューションをテーマに起業を決めたのは、前職時代に感じた課題感も大きく影響しているという。

「九州の拠点で働いていたので、現地の中小企業の課題を聞く機会が頻繁にあった。(人手不足などもあり)AIを用いた解決策に興味を示す人は多かったものの、大手企業向けのサービスではどうしても金額感がフィットせず、本当に必要としている人たちにサービスが届きづらい状況だった」(黒瀬氏)

特に地方の場合はAIの導入支援をサポートするパートナー企業が少ないため、実際に導入するまでの工程を伴走できるのは大手企業くらいしかいないそう。その結果「ミニマムで数千万円から」といったように料金がエンタープライズ向けの価格帯となってしまい、AIの導入を断念する中小企業も多い。

フツパーでは上述した通り既存のものを組み合わせることでデバイス、モデル作成、実装込みで数百万円前半から導入できる仕組みを構築。判定結果を通知するSaaS型のクラウドサービスも月額数万円から使えるようにした。

「モデルを作る技術などで勝負するというのではなく、導入までの手軽さで勝負をしていきたい。(判定結果を)見れる画面までを用意した上で、デバイスとセットでAIを1日程度で提供でき、なおかつ従来のものと比べて料金的にも安ければ十分にチャンスはあると考えている」(大西氏)

初期は食品系の製造業をメインターゲットとして事業を展開する計画。フツパーが大阪に本拠地を構えていることもあり、まずは関西エリアを中心に事業を広げていく予定で、現在は数社と現場への導入に向けた打ち合わせを進めている状況だ。

直近では新型コロナウイルスの影響も受けて、狭い空間に人員が密集するリスクを出来るだけ避けたいというニーズも工場では生まれているそう。そのような要望への対応策としてもAIソリューションの提供を進めていきたいとのことだった。

「置き社食」サービスに進化した「OFFICE DE YASAI」が総額4億円を調達

オフィス向けの置き野菜サービス「OFFICE DE YASAI」を運営するKOMPEITOは5月14日、第三者割当増資と融資を合わせて総額約4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。出資元はニッセイ・キャピタル、iSGSインベストメントワークス、静岡キャピタル、広島ベンチャーキャピタルと日本政策金融公庫の各社だ。今回の調達は、2017年3月発表の総額1.5億円の資金調達に続くものとなる。

KOMPEITOが2014年から提供するOFFICE DE YASAIは、冷蔵庫設置型のオフィスの置き野菜サービスだ。従業員への福利厚生や健康経営の一環として、2020年5月現在、累計1500拠点以上に導入されている。野菜中心の冷蔵庫設置型プラン「オフィスでやさい」に加え、2018年7月からは、冷凍庫設置型の置き惣菜プラン「オフィスでごはん」も提供する。

今回の資金調達により、KOMPEITOではサービスのCS機能、人員強化と商品・サービスの強化を行うとしている。また物流や商品など、これまで手がけてきた事業アセットを活用した新規事業も推進するという。

商品・サービス強化の一環としては、サラダやフルーツが中心だった冷蔵庫設置型のオフィスでやさいプランに惣菜を取り入れたリニューアルを行い、“置き野菜”から“置き社食”サービスに進化した。1日の中でも需要が高いランチ時間帯に、より昼食として利用しやすいよう、肉や魚を中心とした惣菜メニューをラインアップとして加える。

「オフィスでやさい」プランの惣菜メニュー例(盛り付けはイメージ)

食事になる惣菜やご飯に加え、サンドイッチなどもそろえる予定。オフィスに設置した冷蔵庫へ届ける。従業員は商品を1個100円からの価格で、昼食時だけでなく、朝や残業中などの好きな時間に購入することができる。

新型コロナウイルスの感染拡大で、在宅勤務を導入する企業も増える中、KOMPEITOでは4月23日から、個人宅向けにサラダのサブスクサービス「OUCHI DE YASAI(おうちでやさい)」もスタートした。

「OUCHI DE YASAI」のサラダごはんメニュー例

5種類のメニューが3カ月ごとに入れ替わるサラダごはん2個が毎週1回届く「サラダプラン」は通常価格6000円/月から、サラダごはんとカットフルーツ、味付きたまご各2個のセットが毎週1回届く「バランスプラン」は通常価格8000円/月からとなっている。現在は東京都と神奈川県の一部エリアへの配達に限られるが、牛乳宅配店などとの提携で物流シェアリングすることで、エリアを順次拡大していく予定だ。

また、KOMPEITOでは4月16日から、物流業界と病院、クリニック、介護施設を対象に、OFFICE DE YASAIの初期導入費用5万円を無料、月額利用料を導入初月から3カ月間半額とするキャンペーンも実施している。5月末の申し込み分までがキャンペーン適用となる。

KOMPEITO代表取締役CEOの渡邉瞬氏は今回の調達にあたり、「サービス開始から6年、前回の資金調達から約3年、紆余曲折あったが1500を超えるオフィスに導入させてもらい、約5倍の成長をすることができた。調達を通してOFFICE DE YASAI事業の更なる拡大のためにCS・サービス強化に注力していく。また地銀系VCに加わっていただき、地方進出や商品仕入れ面での連携を期待している」とコメント。「加えて『おうちでやさい』など、今まで築き上げて来たオフィスチャネル、ラストワンマイル物流、商品企画・仕入れのアセットを生かして事業開発にもチャレンジしていく」と述べている。

また、新型コロナウイルス感染症の影響については「オフィス向け食の福利厚生サービスなので、影響は受けているが、自分たちが社会に対して価値提供できることを考え、今できることを全力で取り組んでいきたい」と渡邉氏はコメントしている。

食事と楽しめるノンアル飲料のD2CブランドYOILABOが2500万円を調達

「世界からお酒の不公平をなくす」をミッションに掲げ、食中酒ならぬノンアルコールの“食中ドリンク”を開発する、福岡発・D2CブランドのYOILABO(ヨイラボ)。ファーストプロダクトとして飲食店向けに展開する「Pairing Tea(ペアリングティー)」は、食事とのペアリングを楽しんで飲めるように開発されたクラフトドリンクだ。

YOILABOは5月14日、福岡拠点のVC、ドーガン・ベータをリード投資家に、ほかエンジェル投資家3名を引受先とした、総額約2500万円の資金調達実施を発表した。投資には下戸のためのコミュニティ「ゲコノミスト」を発足した藤野英人氏(レオス・キャピタルワークス代表取締役社長)も加わっている。

YOILABO代表取締役CEOの播磨直希氏は、前職では釣り情報サイトやコミュニティアプリを提供するスタートアップのウミーベ(2018年8月にクックパッドが完全子会社化)に在籍。「起業を目指して全力で取り組める事業を探していた」という。

自身は「お酒が好きでめちゃくちゃ飲む」という播磨氏は、いろいろな事業領域を検討した結果、「人生をかけて取り組める」テーマとしてお酒の世界を選択し、2019年4月にYOILABOを立ち上げた。しかし、そこでストレートに酒類に関わるのではなく、なぜノンアルコールのブランドに取り組むことにしたのだろうか。

「この領域で一番課題を抱えているのは、お酒を飲めない人だ。お酒の不公平があることで、飲める人も飲めない人も、お互いに気を遣わなければならなくなっているのが今の状況。日本人の半分ぐらいはお酒が飲めなかったり、アルコールに弱かったり、お酒の味が好きでなかったりするのに、今あるノンアルコール事業のアプローチはビールや日本酒のイミテートばかり。これらは基本的にはクルマの運転などで飲めない状況にある『飲める人』向けのものでしかない」(播磨氏)

ソフトドリンクもあるとはいえ、ウーロン茶、コーラ、スパークリングウオーターなど、そのラインアップは限られる。「高級レストランの食事とでも合うような、飲まない人もおいしく楽しめる食中ドリンクとして、Pairing Teaを開発した」と播磨氏はいう。

「今回の投資にも加わっている藤野氏やゲコノミストコミュニティ周辺の人に聞くと、『飲めそうなのに』と言われて傷ついたり、アルコールを飲む人と同じ金額を割り勘で払わされて怒っていたりする人がたくさんいる。レストランの店員に『単価の低い客』と見られることも多いが、そもそも払う気があったって、食事にふさわしくて単価の高いドリンクが存在しないので、払えないのが現状なのに」(播磨氏)

Pairing Teaは、ワインや日本酒などでよく用いられる食事とのペアリングの概念を、ノンアルコールドリンクへと落とし込んだクラフトドリンクだ。ワインと同様にマリアージュを考慮し、科学的根拠に基づいて開発されている。茶葉をベースに複数種のスパイス、ハーブ、果汁などをブレンドし、タンニンの度合いや香りなどを食べ物に合わせて選んだ。

最初のラインアップでは、3種類のPairing Teaを用意。オードブルとのペアリングを想定した「FOR ANY DISH」、白身魚料理とのペアリングを想定した「FOR WHITE FISH」、赤身肉料理とのペアリングを想定した「FOR RED MEAT」の3種は、ラインで使うことでフレンチのコースに合うように作られているが、フレンチ以外のメニューでも食事に合わせて楽しむことができるという。

FOR RED MEATを例に取ると、赤ワインのような渋みを持つダージリンからタンニンとマスカットのような香気を引き出し、ハイビスカスの華やかで上品な酸味をプラス。ジンの原料にも使われるジュニパーベリー、カカオを香り付けに加えている。適度なタンニンと程よい酸味が脂をさっぱりさせ、ジューシーな肉料理を堪能できる一杯に仕上がっているそうだ。

価格は飲食店向けの卸売り価格となるため非公開だが、店での販売価格をワインと同じ程度に設定できるようにしているとのことだ。ソフトドリンクと比較すると高価に思えるが「茶葉やスパイス、果汁の配合などにこだわり、かなり手間をかけている」と播磨氏。「D2Cブランドとして、OEMで工場に製造を依頼しているが、本来、小ロットでは受け付けてもらえない量を生産してもらっている」とのことだった。

新型コロナウイルス感染拡大による営業自粛などもあって、飲食店の向けに開発したPairing Teaの出荷も遅れていたが、6月からの本格展開に向けて、現在、YOILABOでは特別価格での予約販売を開始している。また、今後はコロナ禍の影響も鑑みて、料飲店だけでなく一般向けにも商品を開発中だという。

播磨氏は「飲めない人がこの事業を手がけても良かったのかもしれないが、飲める側だから、飲める側としてできることがあると考えた」と話している。形態としては、サービスや場の提供など、いろいろ検討したそうだが、最も早くアプローチできそうなのが、プロダクトとしてのノンアルコールドリンクだったので、そこから着手したという。播磨氏はYOILABOをテクノロジースタートアップと位置付けており、「直販でデータ収集も行い、ナレッジを蓄積することで、新しい商品やサービスの開発に役立てる」と語る。

「ファーストプロダクトはPairing Teaと名付けたが、お茶だけにこだわっているわけではない。アルコール飲料市場はシュリンクする一方で、ノンアルコールドリンク市場は拡大している。ただし、今あるイミテートだけでは、飲み会など知らない世代が増える中で、拡大する市場をカバーしきれなくなる。飲まない人が食事と楽しめるドリンクとして、真っ先に浮かぶブランドになれるように、調達資金をもとに事業を強化していく。またドリンクだけでなく、サービスや場など、いろいろなアプローチで取り組んでいきたい」(播磨氏)

定型作業を自動化するクラウド型RPA「Robotic Crowd」が約5.5億円を調達

SaaS型のクラウドRPA「Robotic Crowd」を展開するチュートリアルは5月13日、シリーズAラウンドでDNX Ventures、Salesforce Ventures、Archetype Venturesより総額5億5200万円を調達したことを明らかにした。

クラウド型のRPA自体は国内でも複数の選択肢が存在するが、Robotic Crowdの特徴は高い汎用性だ。たとえばAPIを活用することで複数のサービスをまたいだ作業を自動化するIPaaSの仕組みを搭載しているほか、データの加工整形、文字認識(OCR)、ヒューマンインプット(自動化処理に人的操作を含めるもの)など幅広い機能を全て1つのサービス上で提供する。

チュートリアル代表取締役の福田志郎氏によると機能の数は100個以上。これらの機能はワークフローを自動化する際の「部品」の役割を担い、ユーザーはこの部品を活用することでさまざまな業務をロボットに任せらるようになる。汎用性の高さは顧客からの評価にも繋がっていて、他社製品では自動化できない業務に対応できることからRobotic Crowdを選ぶ企業も少なくないそうだ。

同サービスはクラウド型のためソフトウェアのインストールなども不要。ブラウザ上からドラッグ&ドロップやテキスト入力によってロボットを設定できる。ロボットは端末上で動作しないのでPCを占有することもないし、テレワーク環境でもロボットの設定やチューニングが可能だ。

利用料金は月額10万円から(初期設定費用などは別)。現在主流となっているデスクトップ型のRPAプロダクトと比べて価格や運用の面においても負荷が少なく、中小規模の企業でも取り入れやすい。

「従来のクラウド型RPAはWebスクレイピングをベースにしている製品が多かったが、自分たちの場合はAPIやデータの整形処理など、人手ではまかなえなかった処理も対応できる。またどれだけ高機能でも、そもそも何に使っていいのか想像できなければ利用されないのがRPA。CSチーム側でユースケースをたくさん用意することで、すぐに自動化を実現できるような環境を整えている」(福田氏)

現在はトライアルも含めると数百社が導入中で(有料顧客は60社ほど)、約1200ユーザーに活用されているとのこと。デジタル広告やポータルサイト運営企業が中心となっていて、従業員規模では100人〜500人の企業がボリュームゾーンだ。

今回調達した資金は主に人材採用やマーケティングの強化に投資をする計画。今後は顧客の特定課題にフォーカスした機能開発にを進めていく方針で、広告や人材など各領域においてRobotic Crowdをベースにした派生プロダクトを展開することを考えているそう。すでにダイレクトリクルーティングにおけるスカウト業務を自動化するプロダクトをテストしているという。

チュートリアルは2014年11月の設立。もともとは福田氏1人のコンサルティング会社としてスタートし、RPAの領域には2017年に参入した。「最初は大手企業向けにUiPathのインテグレーション事業をやっていたが、中小企業の中にもRPAに興味を示すところが増えてくる中で、クラウド型のプロダクトの方がより使いやすいのではないかと考えた」(福田氏)ことをきっかけに、自社でクラウド型のRPAを開発することを決めた。

同社では2018年9月にもディップから5000万円の資金調達を実施している。

癌などの新薬や治療法を研究開発するHummingbird Bioscienceが約6.4億円を調達

癌などの新しい治療法を開発しているHummingbird Bioscience(ハミングバード・バイオサイエンス)が、この前発表したシリーズBに加えて600万ドル(約6億4500万円)を調達し、このラウンドの総額が2500万ドル(約26億8800万円)になったことを発表した。

この拡張ラウンドはSK Holdingsがリードし、既存投資家であるHeritas CapitalとSEEDS Capitalらも参加した。後者は中小企業を支援する政府機関であるEnterprise Singaporeの投資部門だ。

Hummingbird Bioscienceのこれまでの調達総額はこれで6500万ドル(約69億9000万円)になる。同社によると、シリーズBラウンドの申し込みに投資家が殺到したため、ラウンドを拡張したという。今回の資金は、同社が開発中の治療薬をより迅速に臨床試験に適用し、初期段階の新薬候補の研究開発を進めるために使用される。

Heritas Capital Managementの常勤取締役でCEOのChik Wai Chiew(チク・ワイ・チウ氏)はHummingbirdへの投資について「シリーズAの拡張ラウンドのリードに次いでHummingbirdのチームへの支援を継続できることは、極めて喜ばしい。新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックで投資が鈍化していても、われわれが革新的なバイオテクノロジー企業の支援を忘れることはない。とくに患者が必要とする治療を開発しているHummingbirdのような企業が、弊社のプライオリティから去ることはない」と語る。

同社は今年初めに悪性腫瘍の治療に関連する2つの抗体のデータを発表し、今後の定期的な提出により今年後半にはフェーズ1の臨床試験を開始できると期待されている。

Hummingbird Bioscienceは、オフィスがシンガポールと米国のヒューストン、サウス・サンフランシスコにあり、Cancer Research United Kingdom(英国王立癌研究基金)およびバイオテクノロジー企業のAmgen(アムジェン)と戦略的業務提携を結んでいる。同社は以前、テキサス州の癌予防研究所から製品開発の助成金を支給された実績もある。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

社内のナレッジを一箇所に蓄積、累計1200社が導入する「Qast」が8000万円調達

社内ナレッジ共有ツール「Qast」を運営するanyは5月11日、HENNGEを引受先とする第三者割当増資を実施したことを明らかにした。同社は4月にグローバル・ブレインとGazelleCapitalから6500万円を調達済み。今回も含めてanyではプレシリーズAラウンドで総額8000万円を調達したことになる。

QastはQ&AとWikiの機能を備えた社内向けのストック型の情報共有サービスだ。属人化していてチーム内で蓄積されていないノウハウ、毎回同じような質問が繰り返されているナレッジなどをQ&Aやメモを通じて一箇所にまとめて整理できるのが大きな特徴となっている。

いわゆる社内Wiki的なサービスとしては「Qiita Team」や「esa.io」、「Kibela」など複数の選択肢が存在するが、any代表取締役の吉田和史氏によるとQastは特に非IT系の中小企業やエンタープライズ企業への導入が進んでいるそう。たとえばSlack上の投稿に絵文字をつけるだけでQastにメモとしてストックできる機能やテンプレートなど、簡単な操作でナレッジをためられる点が好評だという。

また投稿数や反応数に応じて投稿者にスコアが付与される機能を搭載。従来は見えづらかった「情報共有の面で、誰が、どれだけ貢献しているか」を見える化し、社内評価にも繋げていける仕組みを作った。この点は全社導入を考えている企業などには特に刺さっているそうだ。

蓄積した情報はいつでも検索して参照することが可能。Word、PowerPoint、Excel、PDFを添付した場合にはファイル内の文字列までが検索対象になる。

Qastは吉田氏が当事者として感じていた課題を解決するために作ったプロダクトだ。吉田氏自身、過去に「情報が上手く共有されておらず、新しいメンバーが入るたびに毎回同じような質問が飛び交う状況」に悩まされていた時期があったという。

「欲しい情報を誰が持っているかもわからない状態だったため、知っていそうな人を何人もリレー形式でたどっていくような状態だった。今やウェブ上で検索すればほとんどの情報にアクセスできる時代なのに、社内の情報は整理されていなくて検索できない。ヒアリングをしてみると自分たちだけでなく他の人たちも同じようなペインを抱えていることがわかったので、まだ本質的な解決策は生まれていないと考えてこの領域でチャレンジすることを決めた」(吉田氏)

直近では新型コロナウイルスの影響でリモートワークが進み、SlackやMicrosoft Teamsなどのチャットツールを導入する企業が増えている。Qastでもそれに伴って新規ユーザーの増加スピードが上がっているそうで、無料トライアルも含めた累計の導入企業数は1200社を突破した。4月30日にはTeams上のメッセージをQastに簡単に投稿できる機能を新たに実装するなど、チャットツールとの連携強化にも取り組む。

今後はエンタープライズ企業への導入加速に向けた機能拡充にも力を入れていく計画。エンタープライズ向けSaaSを展開する新規株主のHENNGEとも、営業基盤やセキュリティ面などにおいて連携を見据えているようだ。

現場の医師同士をつなぐ実名相談サービス「Antaa」が2.3億円を調達

医師同士の質問解決プラットフォーム「Antaa」を展開するアンターは5月11日、XTech Ventures、ニッセイ・キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、三井住友海上キャピタルおよび個人投資家を引受先とした第三者割当増資により総額約2.3億円を調達したことを明らかにした。

Antaaは現在1万人を超える医師が登録している医師向けのコミュニティプラットフォームだ。このプラットフォームには医師同士のQ&Aサービス「AntaaQA」のほか、ユーザー間でスライド資料を共有できる「Antaa Slide」、医師向けのオンライン情報サイト「Antaa Media」、動画によるオンライン勉強会やイベントなどを開催するコミュニティ「Antaa Members」、医師向けの経営塾「Antaa Academia」など複数のサービスが含まれる。

主な収益源は医療機関や自治体の広報支援、製薬企業や医療機器メーカーのマーケティング支援など法人向けのもの。医師にはAcademia以外のサービスはすべて無料で提供している。

軸となるAntaaQAは、医療現場で何か困ったことがあった際にその領域に精通した医師にオンライン上で質問できるのが特徴。質問を投稿する際に「何科の相談なのか」「緊急を要するのか」をタグで設定することで、該当するユーザーに通知が届く仕組みだ。

たとえば当直担当の内科の医師が深夜に「子宮筋腫で入院中の患者がお腹を痛がっている」状況に直面した場合、AntaaQAを使えば産婦人科の医師から対応方法をレクチャーしてもらえる可能性がある。

アンター代表取締役で整形外科医の中山俊氏によると、実際に以前同じようなケースでAntaaQAが問題解決に役立ったことがあったそう。従来であれば緊急時は病院内の他の医師や知り合いにかたっぱしから電話をするなどして対処するしかなかったが、Antaaはそれに代わる有力なオプションになりえるという。

もともと同サービスは中山氏が実際に医療現場に立つ中で「1人の医師の能力だけでは限界を感じる瞬間があった」ことから、医師同士が繋がって情報共有できる仕組みの必要性を感じて立ち上げた。

「医師が不足している地域の医療機関や、都心であっても夜間医療の対応時などは現場の医師がたった1人で医療を行わなければいけない場面がある。自分自身も奄美大島出身で、もし島に戻って医師として働くとしたら、1人で診療しないといけない時が必ずあるはず。そんな時に医者同士が繋がって、助け合うことができればいいのではと考えた」(中山氏)

当初はプロダクトのニーズを探るためにLINEのコミュニティを開設し、中山氏自身がLINE@を通じてオンライン上で医師の質問に答えることから始めた。すると約1年ほどで100人ほどの医師から質問を受けるようになり、その過半数は直接面識のないLINE上でしか繋がりのない医師だったという。

「相談を続けているうちに直接会ったことのない医師からも『もし中山先生が何か困ったことがあったら聞いてください』と言われることが増えた。双方向でお互いが相談しあえるサービスには一定のニーズがあると感じ、ベータ版の開発を決めた」(中山氏)

現在Antaaは学習意欲の高い若手医師が多く集まるコミュニティになっていて、ユーザーの80%近くが30代以下の医師たちだ。その中には地方の若い開業医など周りに相談できる同業者が少ないユーザーも一定数存在し、場所の制約を超えてオンライン上で相談やディスカッションができるAntaaが重宝されているという。

直近では新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受け、2ヶ月弱でユーザーが約2000人増加した。日々新しい情報や論文が出てくる中で「最新の情報を医師同士が共有し合う場所として使われることが増えてきている」(中山氏)そうだ。

今回調達した資金はAntaaQAの機能性を改善するための開発に用いるほか、動画などのコンテンツ拡充などにも投資をしながら、医師にとってさらに使い勝手の良いサービスを目指す。

現場の医師同士をつなぐ実名相談サービス「Antaa」が2.3億円を調達

医師同士の質問解決プラットフォーム「Antaa」を展開するアンターは5月11日、XTech Ventures、ニッセイ・キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、三井住友海上キャピタルおよび個人投資家を引受先とした第三者割当増資により総額約2.3億円を調達したことを明らかにした。

Antaaは現在1万人を超える医師が登録している医師向けのコミュニティプラットフォームだ。このプラットフォームには医師同士のQ&Aサービス「AntaaQA」のほか、ユーザー間でスライド資料を共有できる「Antaa Slide」、医師向けのオンライン情報サイト「Antaa Media」、動画によるオンライン勉強会やイベントなどを開催するコミュニティ「Antaa Members」、医師向けの経営塾「Antaa Academia」など複数のサービスが含まれる。

主な収益源は医療機関や自治体の広報支援、製薬企業や医療機器メーカーのマーケティング支援など法人向けのもの。医師にはAcademia以外のサービスはすべて無料で提供している。

軸となるAntaaQAは、医療現場で何か困ったことがあった際にその領域に精通した医師にオンライン上で質問できるのが特徴。質問を投稿する際に「何科の相談なのか」「緊急を要するのか」をタグで設定することで、該当するユーザーに通知が届く仕組みだ。

たとえば当直担当の内科の医師が深夜に「子宮筋腫で入院中の患者がお腹を痛がっている」状況に直面した場合、AntaaQAを使えば産婦人科の医師から対応方法をレクチャーしてもらえる可能性がある。

アンター代表取締役で整形外科医の中山俊氏によると、実際に以前同じようなケースでAntaaQAが問題解決に役立ったことがあったそう。従来であれば緊急時は病院内の他の医師や知り合いにかたっぱしから電話をするなどして対処するしかなかったが、Antaaはそれに代わる有力なオプションになりえるという。

もともと同サービスは中山氏が実際に医療現場に立つ中で「1人の医師の能力だけでは限界を感じる瞬間があった」ことから、医師同士が繋がって情報共有できる仕組みの必要性を感じて立ち上げた。

「医師が不足している地域の医療機関や、都心であっても夜間医療の対応時などは現場の医師がたった1人で医療を行わなければいけない場面がある。自分自身も奄美大島出身で、もし島に戻って医師として働くとしたら、1人で診療しないといけない時が必ずあるはず。そんな時に医者同士が繋がって、助け合うことができればいいのではと考えた」(中山氏)

当初はプロダクトのニーズを探るためにLINEのコミュニティを開設し、中山氏自身がLINE@を通じてオンライン上で医師の質問に答えることから始めた。すると約1年ほどで100人ほどの医師から質問を受けるようになり、その過半数は直接面識のないLINE上でしか繋がりのない医師だったという。

「相談を続けているうちに直接会ったことのない医師からも『もし中山先生が何か困ったことがあったら聞いてください』と言われることが増えた。双方向でお互いが相談しあえるサービスには一定のニーズがあると感じ、ベータ版の開発を決めた」(中山氏)

現在Antaaは学習意欲の高い若手医師が多く集まるコミュニティになっていて、ユーザーの80%近くが30代以下の医師たちだ。その中には地方の若い開業医など周りに相談できる同業者が少ないユーザーも一定数存在し、場所の制約を超えてオンライン上で相談やディスカッションができるAntaaが重宝されているという。

直近では新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受け、2ヶ月弱でユーザーが約2000人増加した。日々新しい情報や論文が出てくる中で「最新の情報を医師同士が共有し合う場所として使われることが増えてきている」(中山氏)そうだ。

今回調達した資金はAntaaQAの機能性を改善するための開発に用いるほか、動画などのコンテンツ拡充などにも投資をしながら、医師にとってさらに使い勝手の良いサービスを目指す。

副業プラットフォーム「Kasooku」が約1.9億円調達、マッチング件数は5000件突破

副業募集プラットフォーム「Kasooku(カソーク)」を運営するドゥーファは4月30日、複数の投資家を引受先とした第三者割当増資と日本政策金融公庫からの融資により総額で約1.9億円を調達したことを明らかにした。

本ラウンドではand factory元取締役の水谷亮氏と元執行役員の梅谷雄紀氏が立ち上げたスタートアップスタジオ・BeyondXがリード投資家を務め、その他に複数のエンジェル投資家が参加した。ドゥーファは2018年にLITALICO創業者の佐藤崇弘氏やVapes創業者の野口圭登氏などから約6000万円を調達済み。今回はそれに続くプレシリーズAラウンドとなる。本ラウンドの主な投資家は以下の通りだ。

  • BeyondX
  • 福嶋一郎氏
  • 那珂通雅氏
  • 森本千賀子氏
  • 坂本達夫氏
  • 佐藤崇弘氏(既存投資家)
  • 栄井トニー徹氏(既存投資家)
  • 野口圭登氏(既存投資家)

Kasookuは2019年5月にローンチされた副業マッチングプラットフォームだ。ローンチ時はセールスに特化する形でスタートしたが、現在はエンジニアやデザイナーなど対象職種を拡張し、総合的な副業プラットフォームへと進化している。

企業側がKasooku上に掲載した求人情報に対してユーザーが応募するというとてもシンプルな仕組みのサービスで、副業にフォーカスした「Wantedly」のようなものだとイメージするとわかりやすい。企業側は月額課金型の掲載プランか、無料から開始できる成果課金型のプラン(人材紹介に近いモデル)かを選んで利用する。副業の報酬にはオリジナルグッズなどのノベリティや自社サービスの利用特典など、金銭以外のものを設定することも可能だ。

ドゥーファ取締役社長の岡本葵氏によると職種が広がったことに伴いユーザー層も広がっているようで、副業ユーザーの登録数は7500人を突破し累計のマッチング件数も5000件を超えた。企業側ではスタートアップやITベンチャーに加えて、NHKや伊藤忠グループなど大手企業にも少しずつ利用されるようになってきたという。

「実際に1年近く運営してきた中でわかったのが『副業じゃないとカバーできない仕事』が生まれてきているということ。専門的なスキルや知識が必要なためアルバイトでは対応できないが、かといって正社員を何人も雇うのはコストが見合わなかったり採用が難しかったりする仕事を副業人材に任せたいというニーズが一定数ある」(岡本氏)

たとえば大企業における新規事業立ち上げプロジェクトがその一例とのこと。リーダーとしてプロジェクトを推進するのは社内のメンバーが担うとしても、最初から何人も専任のスタッフを抱えるのはコストの面などで難しい場合も多い。そこで実際に事業立ち上げ経験のある人材や関連する事業ドメインに詳しい人材に副業で参画してもらうわけだ。

今後Kasookuでは上述したような副業に適した仕事と、自分の培ってきた知見やスキルを活かして新しいチャレンジをしたい個人のマッチングを加速させていく計画。並行して、転職前のミスマッチをなくす手段として副業を活用する「副業転職」サービスや、企業内で使っているクラウドサービスの管理を簡単にする新事業などの準備も進めていく方針だ。

早ければ5月中旬頃にもローンチ予定だという副業転職サービスでは、ある程度転職意欲が高い個人に“転職前の副業”を案内する。実際に社内で働きながら認識をすり合わせたり、企業・個人間の相性を確かためたりすることで双方がリスクヘッジできるような仕組みだ。

「副業を始める際に最初から転職も視野に入れているという人と、あくまで自分のスキルを活かして新しいことをやりたいという考え方の人がいる。これまでKasookuを通じて副業から転職に至ったのも前者のケースがほとんど。(ミスマッチをなくす手段として)転職を考えている人に副業というルートを提案するサービスは社会的にも価値があると感じたので、Kasookuとは別で新サービスとして展開することを決めた」(岡本氏)

転職前に“おためし副業”ができるサービスについては先日「workhop」を紹介したばかり。一口に副業(複業)と言っても働く側、企業側の目的や動機はいくつかのパターンに分かれるので、今後はそれに合わせる形で副業関連のプラットフォームも細分化が進んでいくのかもしれない。

資金調達の契約条件はBeforeコロナ、Afterコロナでどう変わるか

スタートアップが資金を調達しようとするときは、間違っても公園を散歩するようにはいかない。良い時があり、悪い時がある。現在はと言えば、ほとんど誰も生涯で経験したことがないような不確実な時期だ。

新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックで世の中が混乱する前に難なく資金調達できたスタートアップでも、事業継続のためにさらに資金が必要になる可能性は十分ある。多くのセクターで売上が急減しているからだ。

バリュエーションはほぼ確実に下がるか横ばいだ。もう1つの切実な問題は、Zoom(ズーム)を使った電話会議で創業者がどういう取引条件に直面するかということだ。多くの業界関係者によると、投資家は自らの資金を守ろうとするため、契約条件は厳しいものになるという。

「現時点で企業には3種類ある」と、ワシントンDCに拠点を置くCooley(クーリー)でスタートアップを専門とする弁護士、Derek Colla(デレク・コラ)氏は述べる。「2カ月前を振り返ってみよう。まず、投資家に『金を持っていってくれ』を言わしめるような業績の良い会社があった。次に良くやっている会社があった。実績は計画に近いが大したことはない。最後に投資家のブリッジファイナンスで何とかしのいでいる会社があった」。

「今は」とコラ氏は言う、誰もがはしごから足をを滑らせたところだ。「良い会社は、次の資金調達でバリュエーションがわずかに上がるかもしれないが、たいていは直近のラウンドを再びオープンするにとどまっている。インサイダー(既存株主)が会社の失敗を望まないという理由もあるが、新しい投資家に入られ、良いディールを持っていかれ、自分たちが間抜けに見られるのをいやがるという理由もある」。

さて「そこそこの会社」は、より厳しい条件の受け入れを要求されている。低いバリュエーションに甘んじたり、会社がダウンラウンドを避けたいなら、多くのワラントを投資家に渡したりすることだ。後者はつまり、投資家に今日の低い株価で計算した持ち分を将来渡す契約上の権利だ。

コラ氏はまた「第2グループの会社が一時的に不利な条件をのむよう求められる例が増えている」と言う。例えば、将来のラウンドで会社のバリュエーションが下落した場合に投資家が保有する株の希薄化防止を保証するフルラチェット条項を付し、保証期間を1年にすることなどだ。

「第3グループはもう終わりだ」と同氏は言う。

これは逸話であって、今のところ全体の一部のそのまた一部の話にすぎない。Orrick(オリック)サンフランシスコ事務所のパートナーであり、法人グループの責任者であるMike Sullivan(マイク・サリバン)弁護士は次のように指摘する。「危機が起きた後に、この機に乗じようとする投資家を見たことはない。ただデータが取れているわけではない。ドットコムブーム後の2001年と2002年に訪れた『核の冬』で見られた契約条件が再び現れるか判断するには時期尚早だと思う」。

TechCrunchが話した、ニューヨークを拠点とするスタートアップ弁護士の1人は、最も厳しい契約条件は今のところ、ほとんどが東海岸のグロースステージをターゲットとする投資家が関わるタームシートで見られると述べた。彼らは創業者の「物語る」能力よりも常に数字に関心がある。

ベイエリアのスタートアップはまだ厳しい取引条件に直面していないようだ。たとえばFenwick & Westが今週初めに発行した今年第1四半期に関するレポートでは、パンデミックのため新規取引の動きが落ちていると指摘しているが、より高い優先順位や倍数を条件とする残余財産分配優先権(Senior or Multiple Liquidation Preference)、希薄化を防止するラチェット条項、Pay-to-Play(ペイ・トゥ・プレイ)条項など、深刻な景気後退時に現れる条項の増加はみられないという。(ペイ・トゥ・プレイ条項とは、会社が資金調達の際にインサイダーに頼る必要があるが、比例按分による資金負担ができないまたはしたくない株主がいる場合、その株主が保有する優先株式が普通株やその他の権利内容の面で劣後する株式に転換されてしまう条項)。

レポートの著者は、「そのような契約条件は今後数カ月で注目されるようになるだろう」と述べている。だが、匿名を希望した経験の長い投資家は、そうした条件が再び現れることは決してないと主張する。「スタートアップエコシステムにおける非常に自由な情報の流れと投資家の評判の重要性を考えると、選択肢が減っている創業者に圧力をかけることは合理的ではない。このビジネスに今後20年は関わる必要のある人々が嬉々として襲い掛かるという考えは、ほとんどフィクションだ」。

起業家でエンジェル投資家のJason Calacanis(ジェイソン・カラカニス)氏も概ね同意し、次のように語った。「ワラントやフラットラウンドを望む声を聞いたことはあるが、ドットコムバブル崩壊後のように残余財産分配優先権を2倍や3倍にというのは聞いたことがない。創業者が出会うとしてもそうしたナンセンスを求めるのは略奪的なVCだけだ。ただそういうクレイジーな条件に合意してしまうと、問題は会社が死のスパイラルに陥る可能性があるということだ」。

価格以外の条件について、これまで紹介してきた見方が正しいかは時間が経たなければわからない。多くはこの不況がどれだけ長く続くかにかかっている。

とはいえ「創設者はゲームが変わったことを理解すべきだ」とシードステージ向けのVCであるHaystackの創業者であるSemil Shah(セミル・シャー)氏は示唆した。

資金調達ラウンドの「最適化」は少し前まで、経営陣にとって可能なことだったが、今は確実にクロージングすることが重要だ。誰かがフェアで合理的な条件を提示してきたら、ぐずぐずしたり、もっと良い条件を得ようといろんな人に働きかけるのはやめたほうが良いかもしれない。

画像クレジットpryzmat / Shutterstock

“新型コロナウイルス

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(翻訳:Mizoguchi

2万種類以上のオフライン広告商品を検索・発注できる「Bizpa」が5000万円を調達

様々な広告媒体の中でも、インターネット広告はここ十数年で大きな進化を遂げながらその勢力を拡大してきた。ユーザーの属性や興味関心、ネット上での行動を軸に細かくターゲティングができ、データを見ながらの効果検証もしやすい。加えて小ロットから注文でき、出稿までの作業もオンライン上でスピーディーに完結するものが多い。

一方で屋外看板やフリーペーパー、店舗内といったオフライン広告はどうだろうか。情報がいくつもの場所に散らばっていたり、価格相場が可視化されていなかったりと広告主側にとっては非効率かつ不透明な側面が多いのが現状だ。要はネット広告に比べるとレガシーな市場であると同時に、まだまだ改善できる余地が残されている領域だと考えることもできる。

そんな「オフライン広告市場のアップデート」に取り組むのが、2018年12月創業のビズパだ。同社では2019年11月より、オフライン広告商品の比較・検討から掲載までの工程を一元管理できる「Bizpa」のベータ版を運営している。こ

今後は夏に正式版のローンチを予定しているほか、最適な広告商品をマッチングする機能の導入などプロダクトのさらなる進化を目指し事業を加速させる計画。そのための軍資金として、ビズパでは本日4月24日にCoral Capitalとラクーンホールディングス代表取締役社長の小方功氏からシードラウンドで5000万円を調達したことを明らかにした。

きっかけは前職時代に感じた「オフライン広告の課題」

Bizpaのアイデアは、石井氏自身が前職のラクーンホールディングス時代に感じたオフライン広告の課題から生まれたものだ。

石井氏は2000年に同社の創業メンバーとして入社し、取締役副社長として執行部門を統括。B2Bマーケットプレイス「スーパーデリバリー」やB2B決済サービス「Paid」などの立ち上げに携わるなど、同社の事業拡大や上場に貢献してきた。

石井氏によると前職時代にネット広告の限界を感じ、オフライン広告に取り組むために予算を準備していたそう。ただ、結果的にオフライン広告を出稿するには至らなかったという。

「ネット広告では同じ人に同じ広告が何度も表示され、ブランドイメージの毀損や費用対効果の観点で課題がある。そこでオフライン広告にもチャレンジしようと考えたが、そもそも自分たちにあった広告媒体を探すのが難しく、一方で代理店に頼んでも価格設定が高めでスモールスタートがしづらかった。出稿までの工程も非効率で、結果的に断念してしまった」

「代理店を中心にマーケットが構成されているため労働集約型の側面も多く、どうしても利益率の高い高価格の広告媒体や注文金額が大きい大企業がメインのターゲットになる。もちろんそれも必要な仕組みではあるが、そのレガシーな部分を取り除くことで、中小企業を始め誰でも簡単にオフライン広告を出稿できる環境を作れるのではないかと考えたのがBizpaを作ったきっかけだ」(石井氏)

そこでBizpaではプラットフォーム上にさまざまなオフライン広告商品を取り揃え、広告主が自分に合ったものを探して発注できる仕組みを作った。

現在は東京を軸とした関東エリアを中心に300媒体・2万4000種類以上の広告商品を掲載。街中の看板やデジタルサイネージから、フリーペーパーなどの紙媒体、大型書店の店内、漫画喫茶のブースなどその種類は多岐にわたる。

これまではWeb上に載っていなかったものや、Web上では埋もれてしまっていてたどり着くのが困難だった広告商品へアクセスできるようにしたのがBizpaの大きな特徴だ。

葛飾にあるプログラミング教室が地域限定のフリーペーパーに広告を出すことで効果的な宣伝に繋がった事例や、トラックドライバーの集客や求人を手がける会社がドライバーの利用者が多いサービスエリアのシャワーブースに広告を出稿した事例など、ユニークなマッチングが生まれてきているという。

小ロットから注文可能、広告掲載までの作業を一元管理

BizpaではECのような感覚で広告商品を物色しながら気になるものをカートに入れて購入し、その後のクリエイティブの入稿までをサービス上で行う。オフライン広告の発注に関する仕組みをワンストップで提供しているため、広告主にとっては一箇所で作業が済み効率が良い。

またそれらの広告を小ロットから試せるのもポイント。全体の約90%が20万円以下の商品となっているため、限られた予算の中で複数の媒体やクリエイティブをテストすることも可能だ。

「ネット広告の場合、まずは軽く試して、ABテストなどもしながら最適な形を検証できる。でもこれまでのオフライン広告は1回100万のように、一発勝負になりがちなものが多かった。それが仮に10万円から試せるようになると、予算の限られた企業でもスモールスタートすることができるし、複数パターンをテストすることもできる」(石井氏)

Bizpaを使うメリットがあるのは媒体側も同様だ。単価が安い商品の場合などは代理店が積極的に販売してくれないケースも多く、自ら集客チャネルを開拓しなければならなくなる。ただ自分たちにあったチャネルを見つけてくるのも簡単ではなく、結果的に埋もれしまって本来の価値を発揮できないでいる広告媒体も少ないないという。

そういった媒体にとってはBizpaは新しい集客チャネルとして機能する。しかも営業マンを増やさずとも使えるチャネルだ。

データ活用で最適なオフライン広告媒体が発見できるサービスへ

ベータ版ローンチから約5ヶ月、現在Bizpaには300媒体・2万4000種類以上の広告が集まり、広告掲載に関心を持つ数百の事業者が登録している。今後はベータ版期間に得られたフィードバックなどを基にプロダクトを改善しながら、今夏を目処に正式版をローンチする計画だ。

石井氏の話を聞く限り、これからのBizpaにおいては「ワンストップ」と「最適なマッチング」がキーワードになるだろう。

現在も注文から掲載までの作業をサービス上で完結できる仕様にはなっているものの、広告デザイン自体は広告主が自分たちで用意する必要がある。これが「オフライン広告をやったことのない人にとってはボトルネックになりうる」ため、デザイナーや制作会社とタッグを組み、クリエイティブの制作も含めてBizpa上でワンストップできる仕組みを検討しているという。

そしてもう1つのポイントが最適なマッチングだ。たくさんの広告商品が掲載されていたとしても、自分に合ったものが見つからなければ広告主にとって価値のあるサービスとは言えない。またBizpaの収益源はマッチング時の手数料のため、マッチング件数が増えていかなければ同社のビジネスもスケールしないことになる。

これについては各広告媒体・商品に対して「いかに属性データを持たせるか」が鍵になってくるとのこと。たとえば屋外の看板の場合、どんな人がそこを通るのか、近くには何があるのか、通行量はどのくらいかといったデータがわかれば、それを基に今まで起きなかったマッチングを実現できるという。

上述したトラックドライバーに訴求したい会社とドライバーがよく使うサービスエリアのシャワーブース広告をマッチングした事例のように、今まではその価値が埋もれがちだった広告媒体がどんどん発掘されていく可能性もあるだろう。

「近接データはGoogleマップなど見ればわかるし、地域ごとの世帯のデータや携帯の位置空間情報なども販売されている。昔に比べると属性データも取りやすくなっていて、今までわからなかったものがわかるようになってきた。それらのデータを活用した上で企業のニーズと最適にマッチングする仕組み作りに力を入れていく」

「テクノロジーやプラットフォームの思想を取り入れることで、オフライン広告をもっと良くしていける感覚がある。そういった意味ではディスラプトやリプレイスというよりは、アップデートというイメージだ。業界を前進させられるようなチャレンジをしていきたい」(石井氏)

AI OCRや特化型音声認識技術開発のシナモンが約13億円を調達

AIソリューションを開発・提供するシナモンは4月23日、シリーズCラウンドで総額約13億円の資金調達を発表した。調達方法は、既存投資家であるD4Vが運用するファンド(D4V1号投資事業有限責任組合)と米ペガサス・テック・ベンチャーズが運用するファンドを主要株主とする第三者割当増資のほか、三井住友銀行と日本政策金融公庫、商工組合中央金庫からの融資デットファイナンス)となる。

今回の資金調達の目的は、海外展開を見据えた人材採用、株主体制の強化、基盤技術・ユーザーインターフェースの強化、日本とベトナム、台湾での組織体制強化、人工知能プロダクトの新領域開発へのR&D投資など。なお新規株主には、ギークピクチュアズと夏野剛氏も加わっている。具体的な人工知能プロダクトの新規領域としては、音声認識や自然言語処理などを予定している。

同社は人工知能研究所をベトナムのハノイとホーチミン、台湾に設立し、現地で多くのAI技術者が開発業務に従事している。主力サービスは、AIを活用したOCR「Flax Scanner」。PDFやWordなどのデジタルデータはもちろん、印字や手書きなどの紙文書などをAIによってテキストデータ化できるサービス。現在は、金融・保険業界や、製造業、物流業をはじめとした、多数の大手企業へエンジン提供している。

また、特化型音声認識技術「Rossa Voice」(ロッサ・ボイス)も大手企業を中心に販売に販売を開始している。これは各社特有の録音環境や専門用語、文脈をチューニングすることで、高精度な音声認識を実現する技術。自然言語処理技術を組み合わせることで、情報抽出や要約、分析などの後工程の処理までを提供しており、社内システムとの連携も可能だ。

シナモンはこれまで「ホワイトカラーの生産性向上」をミッションに、AIプラットフォームを開発・提供してきた。新型コロナウイルスによる外出自粛要請が続く中での企業のさらなる業務効率化、AIプロダクトの提供を通じた企業の競争力を支援・強化する取り組みを推進していきたいとしている。

東南アジアでオンライン学習サービスを手がけるManabieが約5.2億円調達、今後は「学校のオンライン化」支援も

「東南アジアではスマホの普及に伴って、これまで質の高い学習へアクセスできなかった子どもたちに良質な学習コンテンツを届けるスタートアップが台頭し始めている。今後求められるようになるのは単に学習機会を提供するだけでなく、オンライン上でもしっかりと学習を継続できる仕組み。その仕組み作りに向けて、もう一度起業をして本気チャレンジしたいという思いが強かった」

そう話すのは教育系スタートアップManabieの代表取締役を務める本間拓也氏だ。

本間氏はイギリス発のEdTechスタートアップ「Quipper」の共同創業メンバーの1人で、同社が2015年にリクルートに買収されて以降も含めて約9年間に渡ってオンライン教育に携わってきた人物。現在は2019年4月にシンガポールで創業したManabieを通じて、ベトナムを中心にオンライン学習アプリやオフラインの学習塾を展開している。

そのManabieは4月22日、さらなる事業拡大に向けて総額約5.2億円(480万ドル)の資金調達を実施したことを明らかにした。

同社によると今回の資金調達額はエンジェルラウンドとシードラウンドを合わせたものとのこと。日本のエンジェル投資家やベンチャーキャピタルを中心に、国内外の投資家から出資を受けているという。主な投資家リストは以下の通りだ。

  • 本田圭佑氏
  • 梅田望夫氏
  • 有安伸宏氏
  • 松本恭攝氏
  • 福島良典氏
  • 渡辺雅之氏
  • 大湯俊介氏
  • ジェネシア・ベンチャーズ
  • そのほか東南アジアのVCや個人投資家など

Manabieでは今回調達した資金を活用し既存サービスの開発体制の強化を進めるほか、コロナウイルスの影響で「学校のオンライン化」が迫られる教育機関の支援にも取り組む計画だ。

動画レッスン+人によるサポートで継続的な学習を支援

Manabieが手がける「Manabie Basic」や「Manabie Prime」は動画授業をベースとした学習アプリだ。ユーザーはスマホなどを使って動画レッスンを見ながらインプットをし、クイズ形式の演習問題を解くことで知識を定着させていく。人間の先生ではなくバーチャル(アニメーション)のキャラクターによるレッスンという違いはあるものの、仕組み自体は「スタディサプリ」などに近いイメージだ。

今は高校生向けの数学/化学/物理/生物/英語に対応していて、約1000種類の動画レッスンコンテンツ、2万問の問題を提供。今後は中学生向けのコンテンツへの拡張やベトナム以外の東南アジアへの展開も見据えている。

年間50ドル(約5000円)で使えるManabie Basicが質の高い教育コンテンツをリーズナブルな価格で多くの子どもに届けることを目指したものだとすれば、年間250ドルのManabie Primeはそこに人力のサポートを加えることで、オンライン上での継続的な学習を強力に後押しするものだと言えるだろう。

このプランではManabie Basicのコンテンツにプラスして、オンラインコーチとメンターによる支援がついてくる。コーチはユーザーの心のケアや個々に合わせた学習計画の作成などが主な役割で、各生徒が途中で離脱してしまわないようにオンライン上で声かけをしたり相談に乗ったりする。一方のメンターはユーザーがわからない問題に直面した際に家庭教師のような形で質問に答えるのがミッションだ。

「現地の子どもたちは学ぶ意欲が高く学習塾などに通っている子も増えているが、そこに教材や塾のクオリティが追いついておらず、いろいろな負があるのが現状。まずはオンライン上で質の高いコンテンツにアクセスできるようになるだけでも、その状況を大きく変えられる」

「一方でオンライン学習サービスに共通するのが、全体の8割ほどのユーザーは学習が続かないということ。そのユーザーをいかにサポートしていくかが鍵になる。Manabie Primeではコーチやメンターによるサポートを取り入れ『教育版のライザップ』のような形で支援する仕組みを作った。各ユーザーにはコーチから自分用に設定された今日のToDoが送られてきて、コーチやメンターのサポートも受けながら課題に取り組む」(本間氏)

Manabie Primeでは裏側のオペレーションなどにもかなりこだわっているそう。コーチングカリキュラムはスタンフォード大学でコーチング領域を学んだメンバーが開発。それに加えてコーチ用に生徒ごとの進捗状況などが見れるシステムを開発し、どの生徒にどのタイミングで声かけをするのがいいか、サジェストするような仕組みも入れている。

学習アプリを使ったオフラインの学習塾も展開

また同社では学習を継続する仕組みとして、学習アプリだけでなくリアルな学習塾「Manabie Hub」も手がける。ここでは集団学習塾のような形で講師が授業をするのではなく、各生徒がスマホやタブレットからManabieの学習アプリを開き、自分に最適化された課題を自分のペースで黙々と進めていく。

最近は日本でもタブレット学習アプリを取り入れた学習塾が増えてきているが、まさにそれと同じ仕組みだ。教室では1人の講師の代わりにコーチがいるので、何か課題にぶつかった際は彼ら彼女らにサポートを求めることができる。

本間氏によるとベトナムではまだまだ集団型の学習塾が主流で、授業についていけない生徒が学習を継続するのが難しいという課題が残っているそう。Manabie Hubはその解決策として機能していて、昨年12月以降でホーチミンに5つの教室を開いたところ、200人ほどの生徒が集まった(現在はコロナウイルスの影響で開校していない)。

冒頭でも触れた通り、近年はスマホの普及もあって中国や東南アジアでオンライン教育サービスが広がり始めている段階。本間氏の前職であるQuipperも東南アジアで事業を拡大しているほか、現地発のスタートアップも生まれ業界の変革が進む。

とはいえManabieが取り組むベトナムなどの国では強力なEdTechプレイヤーは生まれていない状況で、テクノロジーに強みを持つスタートアップには大きなチャンスがあるというのが本間氏の見解だ。

かつて本間氏がQuipperを創業したのもそういった未来を見据えてのこと。東京大学を中退後、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンに通っていた際にDeNAの創業メンバーでもある渡辺雅之氏らと出会い、「全く同じようなことを考えていた」ため共に会社を作った。

それからは約9年間に渡ってQuipperの商品開発やグローバル展開、事業開発などを幅広く担当。 フィリピンやインドネシアなどにも滞在し、カントリーマネージャーとして現地チームの立ち上げや東南アジアでのサービス拡大にも取り組んできた。

東南アジアの教育市場が新たなフェーズに差し掛かるタイミングを迎える中で、自らもう一度大きなチャレンジをするなら今やるべきだと考えManabieの創業を決断したという。

コロナの影響受け「学校のオンライン化」支援強化も

本間氏によると既存事業が軌道に乗りつつあり、事業拡大のスピードを上げるべく今回の資金調達を実施したそう。当初は中学生向けなど対象を拡大するほか、ベトナム以外の国への事業展開を予定していたが、コロナウイルスの影響を受けて方向性を少しシフトすることになるようだ。

「ベトナムでも1月後半から学校が休校し、いつから再開できるかわからない状態。日本も含めて学校継続のために『学校のオンライン化』が大きな課題になっている。現場がかなり混乱している上に、このような状況は今まで誰も経験していないため解決策を手探りで探していかなければならない状態。自分たちとしてもこの課題解決に取り組んでいきたい」(本間氏)

それこそスタディサプリやQuipperも含めて学校向けに展開しているサービスもあるが、今まではあくまで授業の補助教材として使われるケースが一般的だった。学校が休校になるとそもそも従来のやり方では授業ができなくなり、前提条件自体も変わる。当然新しい課題も生まれてくるだろう。

「今はZoomなどを使ってオンラインの授業をしたり、宿題などの課題を配信したりすることで対応を始めている学校も出てきている。ただZoomで複数人を相手に授業をするとなると、どうしてもリアルな授業に比べてインタラクティブ性にかけてしまうし、生徒の反応も見えづらく、先生にとっては悩ましい問題になっている」(本間氏)

Manabieでは学校のオンライン移行をサポートするべく自社でガイドブックを公開したところ、様々な教育機関から問い合わせがきているそう。今後はそういった現場の声も踏まえながら、学校向けのラーニングマネジメントシステムの開発にも取り組む方針だ。

これについてはまだ詳細は明かせないとのことだが、もともと同社ではtoC向けのプロダクトと並行して教育機関向けのプロダクトの開発にも着手していたとのこと。まずは自社で展開する塾などでの活用を考えたいたそうだが、今の教育現場の状況を受け、現場で使えるような形で機能面をブラッシュアップしてリリースする計画だという。

「toC向けの事業は、まずは良質な学習環境にオンライン上でアクセスできる仕組みと学習がしっかり継続できるシステムを作り込むフェーズ。ただ本来は受験勉強以外にも学ぶべき大切なことがあると考えているので、中長期的には受験に限らず、今の時代を生きるにあたって必要なことが学べるようなサービスにしていきたいと考えている」

「その一方で足元ではコロナウイルスの影響で学校のあり方自体が変わり始めている。withコロナ時代の学校のあり方とはどんなものなのか、自分たちでもそれを考えながら学校現場をサポートするためにできることをやっていく」(本間氏)