資金調達の新たなる「普通」

TechCrunchがスタートアップのことを書き始めたころ、地球規模の大志を持ったスモールビジネスというスタートアップの概念は、幻想のようなものだった。Twitterのような副業が、ヒーローや悪役の代弁者になり得るのだろうか? YouTubeのような動画投稿サイトが、どうしてメディア業界を破壊できるのだろうか? ブログ(完全に消耗しきった元弁護士が寝室で書いたような文章)が、起業、成長、売却のプロセスの考え方を根本的にひっくり返すことなど、どうしてできようか?

しかし、それは現実となった。2005年から2010年までの数年間で、世界は変わった。TechCrunchは野心的な読み物となった。無数の起業を夢見る者たちが、パーテションで囲まれた会社の席に座り、パソコンの画面をスクロールさせながら、笑ってしまうほど多額の小切手をベンチャー投資家が自分のフリースのポケットにねじ込んでくれる順番を待っている。2007年、スタートアップ設立を目指す2人のオランダ人と話したことを、今でもはっきり憶えている。彼らは、それまで続けてきた科学的な研究に基づく素晴らしいアイデアを聞かせてくれた。そして、率直にこう相談された。仕事を辞めるべきだろうかと。その3年前だったなら、馬鹿なことを考えるなと言っただろう。学術分野の楽な仕事を捨てて一発を狙う? 絶対に反対だ。

しかし、彼らと話したその午後は、スタートアップ革命から2年が経ち、資金調達はTechCrunchに投稿するのと同じぐらい簡単になっていた時期だ。一発は狙うべきものと考えられていた。

現在、私たちは新しい「普通」に直面している。この数年間の努力いよって進歩してきたものは、ひっくり返されようとしている。2014年、ベンチャー投資家がリスクを嫌って金を出し惜しみするようになり、エンジェル投資やシード投資が鈍化し、巨大なB2Bソリューションを超えようとするスタートアップの成長は失速した。そして、Creamery、会議、「情熱」、Allbirdsの退屈な文化も同様に失速した。私がセントルイスからスコピエまで、世界を旅して回ったとき、どの都市でも、TechCrunch風ではない次の起業家精神に移行しようとしていることを感じた。どの都市にも独自のカンファレンスがあり、メイソンジャーに入った小麦スムージーと、共同創設者たちが感情をエモーションハックできる快適な部屋で満ちていた。講演者たちは「キミならやれる!」か「それは間違ってる!」のいずれかの言葉を連発し、ピッチオフとハッカソンが葛のように世界中にはびこっていた。

しかし、こうした夢想家を支援するベンチャー投資家の現金は減り続けている。起業家のようなライフスタイルを実行するのは簡単だが、起業家としての生活を送るのはずっと難しい。4年前、私の友人は仕事を辞めたが、今は年金で暮らしている。その他の知人も、スタートアップから手を引いて、暖かく快適なデスクワークの勤め人に収まっている。バラは散ってしまった。

その同時期、私はICO(今はSTOだが)の市場の爆発的な成長を観察してきた。わずかな年月で巨大な富が再分配され、一部の勇敢な連中が大金持ちになり、彼らのスタートアップは自己資金で賄えるようになった。暗号通貨の平等主義のおかげで、ザグレブの15歳の子どもからも、モスクワのマフィアの帳簿係からも、2006年にシリコンバレーの投資家が集まっていたスタンドヒル・ロードと同じぐらい、簡単に金が手に入る。間違いなく、この新しい市場はリスクに満ちている。投資家は、その投資家がスペインに移住して姿をくらませたとしたら頼りになるものを失うが、それが今は普通だ。新しいスタートアップの方法論だ。ベンチャー投資家は価値を高めると大声で叫ぶが、彼らにはできない。価値を高めるのは金だ。そして金はICO市場から出てくる。

私は、ICO市場の企業を理解しようと頑張ってきたが、それはじつに困難であることがわかった。まずは、もしあなたが、ICOで資金調達をした、またはブロックチェーンをベースとしたというスタートアップの創設者なら、この入力フォームを使って私に自分たちのことを教えて欲しい。その中からいくつかを選んで、私は数カ月かけて記事にする。その後で、2005年に透明性が元で起きた火事の教訓をお教えしたいと思う。

第一に、以前にも書いたが、ICOの広報は最悪だ。数カ月前に私が書いた記事から引用したい。

残念なことだが、みなさんの広報担当者は無能だ。私が話を聞いたすべての広報担当者は、暗号通貨のことを何も知らなかった。この業界にはたくさんの企業があり、どこのことか明言は避けるが、もし知りたいなら、john@biggs.ccまでメールで質問して欲しい。その名前を教えよう。私が会ったあらゆる広報担当者は、内部のコミュニケーション責任者も含めて、最低だった。まったく新しい業界なので、かならずしも彼らの責任とは言えないが、それでも無能な人間が多い。

ありがたいことに、状況は好転している。ICOは本質的にクラウドセールだ。クラウドセールに人々の関心を集めることは、これまでほぼ不可能だった。Kickstarterが注目を集めるようになったのは、多くの人が出荷までこぎつけて成功してからだ。今これを書いている時点では、成果を出したICOは、まだほどんどない。つまりこの記事は、あなたがICOを行うかどうかという話ではない。頭のいい人たちが、巨大な難問の解決のために集まりつつあるという話だ。彼らが大勢のオタクやギャングから8000万ドル(約90億円)を調達したことは、この際、重要性としては二の次、三の次だ。もちろん、期限に間に合わなかったために彼らがストックホルムの地下牢で発見されたとなれば別だが。

第二に、コミュニケーションが鍵だ。私はトップ100のICO企業に話を聞いたが、彼らは、いじめが発覚した大学の社交クラブ以上に秘密主義だった。資金を調達し、そのことについて何かを話せばRedditでコインの悪口を書かれ、価格に影響すると彼らは考えているからだ。今こそ、その残念な輪から抜け出して決断するときだ。今後は、価格には噂や中傷に対する抵抗力を持たせるべきだと。

ICO業界のそのどちらの問題も、これまでに解決されている。一時はひどい広報をしていたスタートアップも、TechCrunchの創始者Michael Arringtonが話を聞き出せるのは、取り引きを見送って恨みを抱える人たちだけだったという状況もだ。この手の記事は、業界の発足初期のころで、怒れる投資家とクビにされた元従業員の憂さ晴らしには有効だった。しかし今では、スタートアップの広報はビジネスサイクルの一部に受け入れられている。ウォール・ストリート・ジャーナルでも、新しい資金調達法の情報を読むことができる。ゆくゆくは、同紙はICOを、IPOと同じように扱うことになるだろう。ブロックチェーン企業は、もう一段階、本気でステップアップする必要がある。

もうひとつある。世界とのコミュニケーションは、ICOで資金調達した人たちが思っているよりずっと重要だ。株主の関係は業界で確立されているが、トークンの所有者の関係も、すぐにそうなるだろう。しかし今の時点では、トークンのコミュニケーションの相手は、Telegramルームの不愉快な書き込みの削除を業務とする一人の人間に限られている。私が訪れたほぼすべてのサイトには、たとえばsupport@dingocoin.ioのようなメールアドレスがひとつだけ掲載されていて、それはZendeskの顧客管理システムにつながっている。そしてそこへ送ったメールは、ブラックホールに消える。もし、小口のエンジェル投資家が投資を持ちかけようとして連絡が取れなかったとしたら、信用は丸潰れだ。

頭のいい人たちの小さなグループが、資金調達のものすごい方法を無から生み出すという考えは、とても魅力的だ。今は新しい資金調達の時代の黎明期だ。すべてのファンドを一時的に停止すべきだ。多くの人がこの流行に乗って、まったくワケのわからない言葉を吐きまくる起業家に、律儀に会いに行っている。なぜなら、2005年にはスタートアップというものを誰も理解できなかったため、あらゆるものに成功する可能性があったからだ。今は暗号通貨を理解できる人間がいないため、あらゆるものに成功する可能性がある。すべての起業家の最大の興味は、スープをすすり、実績を上げて、驚異の自己啓発本『ゼロ・トゥ・ワン スタートアップ立ち上げのハード・シングス・ハンドブック』を閉じることだ。私たちは前に進む以外に道はない。今こそ出発のときだ。

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(翻訳:金井哲夫)

150万DL突破のコスメコミュニティ「LIPS」が10億円を調達、グリーや個人投資家から

コスメの口コミアプリ「LIPS(リップス)」を運営するAppBrew(アップブリュー)は10月18日、個人投資家およびグリーより総額10億円の資金調達を明らかにした。

同社は2月にもグリーのほかGunosyやANRI、個人投資家らから5億5000万円を調達。それ以前では2017年10月にANRI、Skyland Ventures、フリークアウト代表取締役社長の佐藤裕介氏、PKSHA Technology代表取締役の上野山勝也氏、ほか個人投資家から総額7600万円を集めている

以前LIPSを「SNSに近い使用感が特徴」と紹介したけれど、同サービスはコスメの口コミを軸に、コスメの特徴や使い勝手だけでなく、メイクアップの方法なども共有しあえるコミュニティだ。特に10代〜20代から支持を得ているようで、テキストだけでなく動画やイラスト、写真などをたっぷり使った投稿も多い。

サービスのリリースは2017年の1月。2018年6月には1年半で100万ダウンロードを超えたことを明かしていたが、そこから約4ヶ月でさらに成長し現在のダウンロード数は150万件を突破、クチコミ件数も50万件以上になっているという。

ユーザー数の増加に伴って広告出稿企業も増加し、これまで国内化粧品メーカーを中心に40ブランド以上の出稿実績があるようだ。

AppBrewではさらなるユーザー数の拡大を目指し、開発体制・組織体制の強化に向けた人材採用のほか、マーケティング活動などに調達した資金を用いるという。

AIアプリケーション開発プラットフォームのPaperspaceが1300万ドルを調達

Paperspaceは、GPUやその他の強力なチップに支えられた、ソフトウェア/ハードウェア開発プラットフォームを使って、人工知能ならびに機械学習アプリケーションの開発者たちを支援することを狙っている。本日(米国時間10月16日)、このY Combinatorの2015年冬クラス卒業生は、1300万ドルのシリーズAを発表した。

ラウンドを主導したのはBattery Venturesであり、参加したのはSineWave Ventures、Intel Capital、Sorenson Venturesである。これまでの投資家Initialized Capitalも参加した。本日の投資によって、投資総額は1900万ドルに達した。

Battery VenturesのゼネラルパートナーであるDharmesh Thakkerは、現在のPaperspaceの立ち位置を、有利なものとみている。AIや機械学習が始まると、開発者はそれを処理するために一連のツールやGPU搭載ハードウェアを必要とする。「主要な半導体やシステム、ウェブコンピューティングのプロバイダーたちは、深層学習を真にデータ駆動組織から利用可能なものにするために、クラウドベースのソリューションと連携ソフトウエアを必要としています。そしてPaperspaceはその提供を助けようとしているのです」とThakkerは声明の中で述べている。

Paperspaceはこの点に貢献するために、独自のGPU搭載サーバを提供するが、共同創業者でCEOのDillon Erbは、大きなクラウドベンダーと競争しようとはしていないと言う。彼らは、顧客に対してハードウェアソリューション以上のものを提供する。昨年の春同社は、AIや機械学習のワークロードの展開と管理を容易にする、サーバレスツールのGradientをリリースした

Gradientをサーバレス管理ツールにしたことで、顧客は基盤となるインフラストラクチャについて考える必要がなくなった。その代わりに、Paperspaceが全ての必要なリソースを顧客のために用意するからだ。「私たちは多くのGPUコンピューティングを行っていますが、現在私たちが注力し投資家の皆さんに今回の資金調達で買っていただいたのは、ソフトウェアレイヤーを構築し顧客のために多くのインフラストラクチャーを抽象化することのできる、とてもユニークなポジションに私たちがいるという点なのです」とErbはTechCrunchに対して語った。

彼は、インフラの一部を構築することは初期の重要なステップだったが、クラウドベンダーたちと競争しようとはしていないと語る。彼らは、開発者たちが複雑なAIならびに機械学習アプリケーションを構築することを助ける一連のツールを提供しようとしているが、それが実行されるのは彼ら自身のインフラストラクチャーの上であろうと、Amazon、Google、あるいはMicrosoftなどの主流クラウドプロバイダーの提供するインフラストラクチャーの上であろうとも構わないのだ。

さらには、GPUの利用に止まらず、AIや機械学習ワークロードをサポートするために開発された強力なチップの利用もサポートする。おそらくそれが、Intelがこのラウンドに投資家として参加した理由の1つだろう。

彼はこの資金調達が、彼らが2014年に着手し、Y Combinatorを卒業する際に立ち上げたこの仕事に対する、一種のお墨付きだと語った。その当時は、プレゼンテーションの中で、そもそもGPUは何かというところから説明する必要があったのだ。今ではもはや彼がそこから説明する必要はないが、この分野にはまだまだ大きな成長の余地が残されている。

「これは本当に、未着手のチャンスなのです、私たちは皆が、インテリジェントなアプリケーションの開発に、インフラストラクチャーを心配することなく着手できるような、頼りになるプラットホームになりたいと願っています」。1300万ドルを手にした彼らは、その道を進んでいると言っても間違いないだろう。

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(翻訳:sako)

画像クレジット: metamorworks / Getty Images

“義体”実現目指すサイボーグ技術のメルティンが総額20.2億円を資金調達

写真中央:メルティンMMI 代表取締役CEO 粕谷昌宏氏

サイボーグ技術の実用化を目指すメルティンMMIは10月17日、大日本住友製薬、SBIインベストメント、第一生命保険を引受先とした第三者割当増資を実施し、シリーズBラウンドとして総額20.2億円を調達したことを発表した。

彼らのコア技術であるサイボーグ技術は、生体信号を読み取り、人間の身体動作や意図を忠実に解析する「生体信号処理技術」と、それらを実空間で忠実に再現するための「ロボット機構制御技術」を融合させた技術だ。

これまでメルティンでは、サイボーグ技術を活用したアバターロボットのコンセプトモデル「MELTANT-α」および医療機器を開発してきた。

MELTANT-αは、人の手の動きを即座に模倣するリアルタイム性、小型・軽量ながら強力な動作が可能なパワー、「ジッパーを開ける」「ペットボトルのフタを開ける」「トランプを引く」といった繊細な動きの再現性を兼ね備える。また情報を送信するアルゴリズムを最適化することで、離れた場所にいても、遅延ストレスを感じさせず動作させることができる。

今回の調達資金をもとにメルティンでは、アバターロボットMELTANTの実用モデルや、医療機器の開発を加速させるとしている。

メルティンは、サイボーグ技術を活用したプロダクトの開発と実用化を進めることで、将来的にはこの技術を高度に発展させ、実用性の高い「Brain Machine Interface」や「義体」の実現を目指し、最終的には「人と機械を融合させ、身体の限界を突破することで、全ての人が何不自由なく幸せに生活できる世界を創る」ことを目標としている。義体化も脳直結の情報処理・機械制御も、近いうちに『攻殻機動隊』のようなフィクションではなくなっていくのかもしれない。

メルティンは2013年7月、CEOの粕谷昌宏氏とCTOの關達也氏、ほか数名のメンバーで創業した大学発のスタートアップだ。2016年1月にリアルテックファンド、グローカリンクより最初の資金調達を実施。2017年12月にはシリーズAラウンドで、リアルテックファンド、未来創世ファンド、日本医療機器開発機構を引受先とした第三者割当増資と助成金により、総額2.1億円を資金調達している。

サービス開始から7年、READYFORが初の外部調達で目指すのは“資金流通メカニズムのアップデート”

READYFORの経営陣および投資家陣。前列中央が代表取締役CEOの米良はるか氏

「今は変化するタイミングだと思っている。小規模な団体から国の機関まで、さまざまな資金調達のニーズが生まれていて、毎月何千件という相談が来るようになった。そこに対してどのようにお金を流していくのか。新たなチャレンジをするためにも資金調達をした」——そう話すのはクラウドファンディングサービス「Readyfor」を展開するREADYFOR代表取締役CEOの米良はるか氏だ。

これまでもCAMPFIREMakuakeといった日本発のクラウドファンディングサービスを紹介してきたけれど、Readyforのローンチはもっとも早い2011年の3月。今年で7周年を迎えた同サービスは、日本のクラウドファンディング領域におけるパイオニア的な存在とも言えるだろう。

そんなReadyforを運営するREADYFORは10月17日、同社にとって初となる外部からの資金調達を実施したことを明らかにした。調達先はグロービス・キャピタル・パートナーズ、Mistletoe、石川康晴氏(ストライプインターナショナル代表取締役社長兼CEO)、小泉文明氏(メルカリ取締役社長兼COO)。調達額は約5.3億円だ。

また今回の資金調達に伴い今年7月に参画した弁護士の草原敦夫氏が執行役員CLOに、グロービス・キャピタル・パートナーズの今野穣氏が社外取締役に就任。石川氏、小泉氏、Mistletoeの孫泰蔵氏、東京大学の松尾豊氏がアドバイザーとして、電通の菅野薫氏がクリエーティブアドバイザーとして加わったことも明かしている。

READYFORでは調達した資金も活用しながら、既存事業の強化に向けた人材採用やシステム強化を進める方針。また同社が取り組んできた「既存の金融サービスではお金が流れにくかった分野へ、お金を流通させるための仕組みづくり」をさらに加速させるべく、新規事業にも着手するという。

ここ数年で変わってきた日本のクラウドファンディング市場

Readyforはもともと東大発ベンチャーであるオーマの1事業として2011年3月にスタートしたサービスだ。

約3年後の2014年7月に会社化する形でREADYFORを創業。同年11月にオーマから事業を譲受し、それ以来READYFORが母体となって運営してきた。現在はサービスローンチから7年半が経過、会社としても5期目を迎えている。

初期のReadyfor

ローンチ当初は日本に同様のサービスがなかっただけでなく、そもそもクラウドファンディングという概念がほとんど知られていなかったこともあり「サービスのマーケティングというよりも、クラウドファンディング自体の世界観や認知を広げる感覚だった」(米良氏)という。

それから代表的なサービスが着々と実績を積み上げるとともに、国内で同種のサービスが次々と立ち上がったことも重なって、クラウドファンディングへの注目度も上昇。特に直近1〜2年ほどで状況が大きく変わってきたようだ。

「自社のデータではクラウドファングの認知率が60%くらいに上がってきている。実際、創業期の事業者や社会的な事業に取り組む団体など、“お金が必要だけど、金融機関から借り入れるのが簡単ではない人たち”にとっては、クラウドファンディングが1つの選択肢として検討されるようになってきた」(米良氏)

この仕組みが徐々に浸透してきたことは、いろいろなメディアで「クラウドファンディング」という言葉が詳しい説明書きもなく、さらっと使われるようになってきたことからも感じられるだろう。

また認知度の拡大と合わせて、クラウドファンディングを含むテクノロジーを使った資金調達手段の幅も広がった。たとえば国内のスタートアップが投資型クラウドファンディングを使って数千万規模の調達をするニュースも見かけるようになったし、賛否両論あるICOのような仕組みも生まれている。

そのような状況の中で、主要なクラウドファンディング事業者はそれぞれの強みや特色が際立つようになってきた。READYFORにとってのそれは、冒頭でも触れた「既存の金融サービスではお金が流れにくい領域」にお金を流すことだ。

「担保がなくてお金がなかなか借りられない創業期の事業者、ビジネスモデル的には難しいけれど社会にとって必要な事業に取り組む団体、あるいは公的な資金だけではサポートが十分ではない公共のニーズ。そこに対して民間のお金が直接流れるテクノロジーが生まれることで、しっかりお金が行き届いていく。Readyforではそういった世界観を作っていきたい」(米良氏)

ローンチから数年間がマーケット自体の認知を広げる期間だったとすれば、ここ2年ほどは今後作っていきたい世界の下地を作るための期間だったと言えるのかもしれない。

READYFORはNPOや医療機関、大学、自治体や地域の事業者など約200件のパートナーと連携し、お金を流通させる仕組みを広げてきた。

9000件超えの案件を掲載、約50万人から70億円以上が集まる

たとえば2016年12月には自治体向けの「Readyfor ふるさと納税」をローンチ。県や新聞社、地銀とタッグを組んだ「山形サポート」のような特定の地域にフォーカスした事業も始めた。

2017年1月に立ち上げた「Readyfor Colledge」は大学や研究室がプロジェクト実行者となる大学向けのサービスだ。筑波大学准教授の落合陽一氏のプロジェクトが話題になったが、同大学を含む国立6大学との包括提携を実施している。

これらに加えて、米良氏によると最近では国立がん研究センター国立成育医療研究センターのような国の研究機関からの問い合わせが増えているそう。イノベーションの種となる研究や、長期的に人々の生活を支えるような機関をバックアップするシステムとして、クラウドファンディングが使われるようになってきたというのは面白い流れだ。

このように少しずつ対象を広げていった結果、Readyforには7年で9000件を超えるプロジェクトが掲載。約50万人から70億円以上の資金が集まるプラットフォームへと成長した。

実行者と支援者双方に良いユーザー体験を提供するため、初期から重視していたという達成率は約75%ほど。全てのプロジェクトにキュレーターがついて伴走する仕組みを整えることで、規模が拡大しても高い達成率をキープしてきた。

それが良いサイクルに繋がったのか、支援金の約40%を既存支援者によるリピート支援が占める。個人的にもすごく驚いたのだけど、もっとも多い人は1人で800回以上もプロジェクトを支援しているそう。

支援回数が500回を超えるようなユーザーは他にも複数いるようで、一部の人にとってはクラウドファンディングサイトが日常的に訪れるコミュニティのような位置付けになってきているのかもしれない。

7月からは料金プランをリニューアルし、12%という手数料率の低さが特徴の「シンプルプラン」とキュレーターが伴走する「フルサポートプラン」の2タイプに分ける試みも実施した。

「これまで膨大なプロジェクトをサポートしてきた中で、どうやったら成功するかといったデータやノウハウが蓄積されてきた。その中には(ずっとキュレーターが伴走せずとも)サービスレベルでサポートできる部分もある。2つのプランを展開することで、より多くのチャレンジを支援していきたい」(米良氏)

これからREADYFORはどこへ向かうのか

1期目から4期目までは自己資金で経営を続けてきたREADYFOR。プロジェクトの数も規模も拡大してきているタイミングであえて資金調達を実施したのは、一層ギアを上げるためだ。

では具体的にはどこに力を入れていくのか。米良氏は「パートナーシッププログラムの強化を中心とした既存事業の強化と、これまで培ってきたリソースやナレッジを活用した法人向けの新規事業の2つが軸になる」という。

既存事業についてはシステム強化やプロモーション強化に加え、ローカルパートナーシップをさらに加速させる。

これまでもREADYFORは地域金融機関65行との提携を始め、自治体や新聞社といった地域を支えるプレイヤーとタッグを組んできた。この取り組みを進めることで、地域の活動に流れるお金の量を増加させるのが目標だ。

山形新聞社や山形銀行、山形県などと一緒に取り組む「山形サポート」

新規事業に関しては、現時点で2つの事業を見据えているそう。1つはプロジェクト実行者がより継続的に支援者を獲得できるSaaSの開発だ。こちらはまだ具体的な内容を明かせる段階ではないが、実行者と支援者が継続的な関係性を築けるような「ファンリレーションマネジメント」ツールを検討しているという。

そしてもう1つの新規事業としてSDGs(持続可能な開発のための2030アジェンダ)に関する事業も始める。READYFORではすでに社会性の高いプロジェクトを実施する団体と企業のCSR支援金をマッチングする「マッチングギフトプログラム」を整備。アサヒグループやJ-COMなどと連携を図ってきた。

今後社内で「ソーシャルインパクト事業部」を立ち上げ、企業とSDGs達成に寄与する活動を行う団体やビジネスとのマッチングなど、Readyforのデータを活用した事業に取り組む計画だ。

同社の言葉をそのまま借りると、READYFORのこれからのテーマは「社会を持続可能にする新たな資金流通メカニズム」を確立すること。既存の仕組みでは富が偏ってしまうがゆえに、本当に何かを実現したい人たちに対して十分なお金が流れていないので、その仕組みをアップデートしていこうというスタンスだ。

「今は自分たちのことを『本当に必要なところにお金が流れる仕組み』をいろいろな形で実装する会社と考えているので、クラウドファンディングというものを広義に捉えていきたい。お金を流すという役割を果たすべく、新しいやり方にもチャレンジしていく」(米良氏)

Dockerが新たに9200万ドルを調達

米証券取引委員会(SEC)への提出文書によれば、他のいかなる独立企業よりも現在のコンテナコンピューティング環境の創出に貢献してきたDockerが、目標1億9200万ドルのラウンドで9200万ドルを調達した。

この新しい資金調達ラウンドが示すものは、サンフランシスコを拠点とするDockerは、そのツールキットの普及度という意味では、GoogleのKubernetesとの競争に負けたかもしれないが、アプリケーション開発とプログラミングの情報技術運用モデルの、現代的なハイブリッドに移行したい企業たちのための援軍となったということだ。

現代のプログラミングにおけるコンテナの重要性を理解するためには、まずそれが何であるかを説明することが役立つだろう。簡単に言えば、それは動作のためにオペレーティングシステムを必要としない仮想アプリケーション環境である。かつては、この種の機能は、アプリケーションソフトウェアとオペレーティングシステムの両者を含む仮想マシンを使用して作成されていた。

対照的に、コンテナはより効率的だ。

それらは単にアプリケーションと、それが依存するライブラリやフレームワークなどだけを含むので、1つのホストオペレーティングシステム上に沢山のコンテナを置くことができる。サーバー上のオペレーティングシステムは、1つのホストオペレーティングシステムだけで、コンテナたちはそれと直接対話をすることができる。これによって、コンテナを小さく、オーバーヘッドも著しく低く保つことが可能になる。

関連記事:いまさら聞けないコンテナ入門

企業たちは、ソフトウェアの開発および管理方法を改善するために、急速にコンテナに移行しており、その動きはますます速くなっている。しかし、彼らは単独でそれを実現することはできず、そうした移行の手助けをするDockerのようなパートナーを必要としている。

多くの人たちが見逃している点は、Dockerは単なるコンテナオーケストレーションレイヤー(このレイヤーではKubernetes が覇権を握ったが)にとどまらず、コンテナを作成し管理するための完全なツールチェーンを提供するということである。

どんなオープンソースプロジェクトでも、テクノロジー企業たちはオープンソースプロジェクトを迅速に採用(そして適応)し、その使用方法に精通する。そうしたハイテクに精通していない大手の企業たちは、そうしたツールキットで開発されたプロジェクトを管理するために、Dockerのような企業の助けを借りることになる。

大企業顧客を相手にするテクノロジースタートアップが、より多くの利益を上げるにつれて退屈なものになるのは、自然な進化である。大企業が彼らを使い。彼らはお金を稼ぐ。誇大宣伝は終わる。もしある企業が大企業の顧客に売り込むことができれば、顧客はそのベンダーとずっと付き合ってくれるのだ。

Dockerの創業者で元最高経営責任者のSolomon Hykesは、今年初めに退社した際に、以下のように語った

…Dockerは、私たちのCEOである素晴らしいSteve Singhのリーダーシップの下、爆発的な収益性の増大と数百万人の開発者コミュニティに支えられた、エンタープライズビジネスへと静かに変容を遂げました。私たちの戦略は単純です。世界のすべての大企業は、アプリケーションとインフラストラクチャを、一気にクラウドに移行する準備をしています。高価なコードやプロセスの変更や、単一のオペレーティングシステムやクラウドへのロックインなしに、信頼性と安全性を確保しながら移行を行うソリューションが必要なのです。現在、これらの要件を満たす唯一のソリューションがDocker Enterprise Editionです。これはDockerを大きな成長の機会の中心に置くことになります。この機会を活用するには、Steveのそばに、世界最大の企業たち向けに、数十年に渡るソフトウェアの出荷とサポートをしてきた経験を持つCTOが必要です。そのため現在の私は、新しい役割を担っています:理想的なCTOを探すことを助けること、時々助言を行うこと、そして大きなビジネスの構築を続けるチームの邪魔をしないことです。株主として、私はこの役割を、この上なく嬉しく受け入れます。

今回調達した資金で、Dockerは、販売およびマーケティング担当者を増やし、2019年の公開に向けて必要な収益などの確保を始めることだろう。同社は、独立した指名取締役たちを選定した(公開に向けての窓を開こうとしている、また別の明確なサインだ)。

Dockerは既に10億ドル以上の価値を持つ「ユニコーン」である。前回Dockerが資金を調達したと言われているのは、同社が7500万ドルの目標に対して6000万ドルを調達したことを示すSECの文書を、ウォール・ストリート・ジャーナルが明らかにした2017年に遡る。その時の投資家には、AME Cloud Ventures、Benchmark、Coatue Management、Goldman Sachs、そしてGreylock Partnersが含まれていた。また当時、同社の評価額は13億ドルであった。

私たちは同社にコメントを求めている。何らかの回答が得られたときにはこの記事を更新する。

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(翻訳:sako)

画像クレジット: DOCKER WHALE LOGO (MODIFIED BY BRYCE DURBIN)

企業と人材エージェントをつなぐ「JoBins」が資金調達ーーエージェント間の“求人票シェア”機能も搭載

中途採用を行っている企業と人材エージェントをつなぐ求人プラットフォーム「JoBins」。同サービスを展開するJoBinsは10月16日、栖峰投資ワークスが運営するファンドを引受先とする第三者割当増資により4000万円を調達したことを明らかにした。

JoBinsは人材紹介業における課題解決に取り組むサービスなのだけど、いわゆる“転職サイト”ではなくB2Bのプラットフォームだ。つまり転職希望者が登録するタイプのものではなく、企業とエージェントの2者のみが使うシステムになっている。

人材を採用したい企業はJoBinsに求人票を掲載し、同サービスに登録しているエージェントからの推薦を待つだけ。エージェントを自ら開拓する負担がなく、料金も完全成果報酬のため「転職者を採用できないのに費用だけがかかる」ということがない。

一方のエージェントにとってはコストをかけずに新規求人企業を手に入れられる点が特徴。求人の閲覧や転職者の推薦は無料ででき、自社が保有する案件だけでは転職に至らなかった人材に適した求人を紹介するチャンスを得られる。転職希望者の視点で考えても、エージェントの取り扱う求人数が増えることはメリットだと言えるだろう。

当初からある通常プランは、上述した通り採用が決まった際に企業側が転職採用者の年収の約13%を支払うモデル。内訳は約10%がエージェントの収入、残りの約3%がJoBinsのサービス利用料となる(サービス利用料の最低金額は15万円)。

一般的にエージェントを利用して転職希望者を採用する場合、企業が負担する利用手数料は転職者の年収の30~35%にも及ぶ。JoBinsの場合はそのコストを1/3近くの約13%まで抑えている点が特徴だ。

またJoBinsでは7月より月額15万円からのプレミアムプランもスタートした。これはエージェント同士が自社の保有する求人票をサービス上でシェアできる仕組みで、全国のエージェントから転職希望者を集客できるのがウリ。他のエージェントがJoBinsにシェアした求人案件を取得して求人成約した場合には、エージェント同士で報酬を分配する。

JoBinsというプラットフォームを通じて、人材エージェント間で連携しながら求人成約を目指し、その利益をお互いでシェアするという新しい概念のサービスと言えそうだ。

2018年10月時点で同サービスの累計登録社数は1000社を突破。今後はエンジニア採用を強化して機能拡充に取り組むほか、マーケティングにも予算を投じる方針だという。JoBinsでは「2019年6月までにオンライン人材紹介プラットフォーム求人掲載数および登録企業数No.1を目指してまいります」としている。

日本人が米国で創業したAnyplaceがUber初期投資家らから資金調達、“ホテルに住める”サービス拡大へ

Anyplaceの創業者でCEOを務める内藤聡氏

「米国に来て約4年。ずっと僕と共同創業者の2人でやってきたけれど、最近ようやく人数が増えて、売上もできて会社っぽくなってきた。ただここまで来るのにすごく時間がかかって、最初の数年は闇歴史だった」——ホテルを賃貸できるサービス「Anyplace」を米国で運営するAnyplaceの内藤聡氏は、会社の現状についてそう話す。

同社は10月16日、シードラウンドで数億円規模の資金調達を実施したことを明らかにした。内藤氏によると今回のラウンドにはUberの初期投資家であるJason Calacanis(ジェイソン・カラカニス)氏をはじめ、日米のエンジェル投資家やVCが複数参加しているという。

以下は一部の投資家のリストだ(あまり馴染みがない名前もあると思うので、代表的な出資先も合わせて記載する)。

  • Jason Calacanis氏(LAUNCH Fund):  Uber、Robinhood、Thumbtack.
  • FundersClub :  Instacart、Coinbase、Flexport
  • UpHonest Capital : Zenreach、Checkr、Chariot
  • Jonathan Yaffe氏 :  Lyft、Getaround、Palantir
  • Bora Uygun氏 : Robinhood、HOOKED
  • Hugo Angelmar氏 : Postmates、Blue Bottle Coffee

今では毎日のように国内スタートアップの資金調達ニュースが出ているけれど、日本人起業家が米国で立ち上げたスタートアップのトピックはほとんどない。ましてや著名な投資家から資金を調達したとなると、かなりのレアケースと言えるだろう。

とはいえ冒頭の内藤氏の話が物語っているように、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかったようだ。

いくつものサービスを試しては閉じた数年間

スタートアップの情報通の人であれば、もしかすると「シリコンバレーによろしく」というブログメディアを知っているかもしれない。これはかつて、内藤氏が学生時代に運営していたシリコンバレーのテクノロジーに関する情報をまとめたブログだ。

Facebookの創業者であるマーク・ザッカーバーグの物語を描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』を見たことがきっかけで、スタートアップに興味を持ったという内藤氏。それ以降は当時「セカイカメラ」を開発していた頓智ドットでアルバイトをしたり、ブログでの情報発信を機にEast Venturesでアソシエイトとして働く機会を得たり、といった形でスタートアップ界隈に関わってきた。

TwitterとSquareを立ち上げたジャック・ドーシーを始めシリコンバレーの起業家への憧れが強かったこともあり、「やるなら(彼らがいる)メジャーリーグでやってみたい」という思いから大学卒業のタイミングで渡米。最初の1年間はサンフランシスコでスタートアップ向けのシェアハウスとインタビューメディアを運営した後、現地で会社を創業している。

ただ創業から2年間は内藤氏にとって苦しい時間が続いた。当時の状況からジェイソン氏より出資を受けるまでの詳細は彼のブログにも詳しい記載があるけれど、最初に立ち上げたのはAirbnbで売れ残った在庫を直前割引価格で販売するマーケットプレイスだ。

最初に立ち上げた「Instabed」はHotelTonightとAirbnbを掛け合わせたようなサービスだった

満を持してリリースしたものの、ホストの獲得コストの高さや他プラットフォームへの依存度の大きさなどがネックとなりクローズを決断。それ以来、中古家具のレンタルサービスなど複数の事業を試しては閉じるの繰り返しで、自信を失ってしまった時期もあったという。

「(自分が上手くいっていない一方で)日本では同世代の起業家が活躍している。焦りや悔しい気持ちも強かった」(内藤氏)

そんな内藤氏の支えとなっていたのが、松山太河氏(East Ventures)や小林清剛氏(ノボット創業者)を始めとした支援者たちの存在だった。彼らの応援も受けながら試行錯誤を続けた末に生まれたのが、現在も手がけているAnyplaceだ。

みんなが当たり前に受け入れている“痛み”は何か

「米国に来てから引っ越しが辛いし面倒だと改めて感じた。物を移動させないといけなくて、特に家具なんかは持っていくにしろ捨てるにしろ時間もお金もかかる。新居で新しい生活を始める際には水道や電気、ガス、Wi-Fiのセットアップも必要だ。しかも米国では1年契約が一般的で、早期の退去には違約金も発生する。(こうした状況に直面して)全然フレキシブルじゃないなと」(内藤氏)

Anyplaceはそんな内藤氏自身が抱えていた課題を解決するために開発された。1ヶ月単位でホテルの空き部屋を借りられるマーケットプレイスで、現在はサンフランシスコとロサンゼルスで展開。月あたりの料金は安いところだと約1300ドル、平均でもだいたい1600ドルだ。

家賃相場の高いサンフランシスコでは1ルームのアパートが3000ドルほどするそうなので、居住用のスペースとして考えてもお手頃な価格と言えるだろう。

UberやInstacartなど、世の中のいろいろなものがオンデマンド化されてフレキシブルになっている一方で、賃貸に関してはまだまだ変革の余地がある。そして何より「自分が欲しいが、まだ世の中にないもの」を突き詰めるということが、内藤氏が試行錯誤の中でたどり着いたプロダクトの見つけ方でもあった。

「(引っ越しにまつわる面倒臭さが)多くの人にとっては当たり前のことで、そこに対して疑問にすら思わない人さえいる。だからこそ、そこには凄い大きなチャンスがあるんじゃないかと思ってこの課題に取り組むことに決めた」(内藤氏)

通常の賃貸とは違い、家具やWi-Fiを含めた必要なインフラが一通り揃っているのもAnyplaceの特徴。月額の料金には光熱費のほか、部屋の清掃代も含まれる。現在は7割が引っ越しや出張、留学の際などに一時的に使うユーザー。残りの3割はまさに賃貸用途で継続的に活用しているそうだ。

一方のホテルにとっても、予約の埋まっていない空き部屋を運用して収益を得る新たな手段になり得るだろう。「ホテルはシーズナブルなビジネスなので、1年を通してみると閑散期もある。そういったホテルに対して安定した収益を提供するためのサービスだ」と話をすれば、興味を示すホテルも少なくないという。

ホテルにしてみれば「ちゃんとしたユーザーが使ってくれるのか」という不安も当然あるだろうが、それについてはAnyplace側で利用者のクレジットスコアや犯罪履歴などをチェックしてスクリーニングしたり、保険のようなシステムを整備することで対応している。

自社サイトなしでも顧客がつき、出資を受ける

内藤氏の話を聞く中で、個人的におもしろいなと感じたのがプロダクトの始め方だ。

Anyplaceのアイデアを思いついたのち、まず内藤氏が取り組んだのはホテル側のニーズを調べること。実際にサンフランシスコ市内のホテル全てに電話をかけてヒアリングをしてみたところ、いくつかのホテルでは月1600ドルで貸しても良いと返答があった。

初期のAnyplace。当初は「LiveHotel」というサービス名で運営していた

それならばと、今度は「Weebly(ウィーブリー)」というウェブサイト作成ツールを駆使して、ホテルのスクリーンショットと価格を掲載したシンプルなページを作成。これを今度はコミュニティサイト「craigslist」に載せて反応をみてみたところ、1人の男性の入居が決まったのだという。

実は内藤氏曰く「(投資家の)ジェイソンと会った時もまだサイトはなくて、ペライチのページだった」そう。その状態でもお金を払って使いたいという顧客がいて、シリコンバレーの著名な投資家からも出資を受けられるというのはすごく興味深いし、内藤氏にとっても自信に繋がったようだ。

ジェイソン氏にダメ元でメールにてピッチをした際の返信内容。内藤氏によると「neat!」とは「うまい!」という意味なのだそう

目指すはホテルを予約する感覚で部屋を借りられるサービス

そんなAnyplaceは2017年1月のローンチからもうすぐ2年を迎える。現在はサンフランシスコとロサンゼルスを合わせて約30件のホテルが掲載されていて、流通総額は年間ベースで1億円を超えた。

とはいえまだまだ改善点も多く、実現したいアイデアや機能もほとんど形にできていないという。たとえばホテル側が使うダッシュボードも現在開発を進めているところで、今はアナログなやりとりに頼っている部分も多いそうだ。

まずはメインとなるプロダクトの機能開発を進めながら、これから半年でニューヨークを皮切りに米国内の都市に広げていく計画。それ以降は英語圏を中心にグローバル展開を進めていきたいと話す。

「目指しているのは、ホテルを予約するような感覚で部屋を借りられるサービス。まずはホテルからスタートして、ユーザーをしっかりと集められれば自分達にも交渉力がつく。(通常の賃貸物件も含めて)ゆくゆくはバラエティに富んだ部屋を楽に借りられるサービスにしていきたい」(内藤氏)

“住”をもっとフレキシブルにするという観点では、他のオンデマンドサービスとの連携も進めていきたいそう。オンデマンドで洗濯してくれるサービスやフードデリバリー、移動など「Anyplaceを使うことで生活に関わるサービスのディスカウントを受けられるような仕組みができれば、サービスの魅力も高まり『賃貸を探すときはAnyplaceを使う』動機にもなる」と考えているからだ。

それを実現するには乗り越えるべき壁はいくつもあるが「こっちでやるからには次のUberやAirbnbになるような、世界中で使われるプロダクトを作りたい」という思いは以前から変わっていないという。

「(米国には)中国人や韓国人のファウンダーで成功している人は多いけれど、日本人はそこまで多くないし、悔しい思いもある。たとえばZoomのファウンダーは中国人で英語も上手くないけれど、米国でユニコーン企業を作って、Glassdoorで最も支持されるCEOに選ばれた。僕も英語はまだまだだし、いまだにコミュニケーションの壁を感じる時もあるが、(シリコンバレーで活躍する起業家の一角に)日本人が入ってもいいはず。そこを目指して良いプロダクトを作るチャレンジを続けていきたい」(内藤氏)

“俺の嫁”ロボ「Gatebox」のハード設計者が作った、自動衣類折りたたみ家具「INDONE」

自動で衣類を折りたたみ、収納する家具……というとTechCrunch Japanの愛読者なら「ああ、laundroid(ランドロイド)のこと?」という反応になるかもしれない。だが、今日紹介するのは、ロボットやIoTデバイス開発を手がけるASTINAが発表した「INDONE(インダン)」のコンセプトモデルだ。

INDONEは、本体に設置された衣類カゴ(上の製品写真右下部分)に乾燥済みの衣類を入れるだけで、自動で衣類をたたんで、引き出しにしまってくれる“タンス”だ。INDONEには、特許出願中の独自技術が実装されているという。

ASTINAは2017年、代表取締役の儀間匠氏により、ロボット・IoTデバイスに特化した開発企業として設立された。儀間氏はウィンクル(現:Gatebox)で、バーチャルホームロボット「Gatebox」のハードウェア部門の開発リーダーとして、ハード設計とマネジメントに携わっていた人物だ。

ASTINAでは創業以来、1年ほどで約20種類のロボット・制御機器を開発してきた。その中で培われたノウハウを、今度はコンシューマ向け製品の開発へ投入。「ふだん使いのロボティクスを」というコンセプトのもと、INDONE開発・販売に着手した。

ASTINAは、INDONE発表と同時に、プレシードラウンドでウォンテッドリーほしのかけらAS-ACCELERATORおよび複数の個人投資家を引受先とする、2000万円の第三者割当増資の実施を明らかにしている。これまでの累計調達金額は約3500万円になるという。

写真左より、ほしのかけら代表社員 竹内秀行氏、ASTINA代表取締役CEO 儀間匠氏、ウォンテッドリー取締役CFO 吉田祐輔氏

語学アプリ「abceed」運営が資金調達、AI開発に加え“学習空間”設計を目指す

あまたある語学学習アプリの中で、「abceed(エービーシード)」はTOEIC教材を中心に提供するものなのだが、出版社から刊行されている紙の教材と連動している点が大きな特徴だ。

abceedを運営するGlobeeは10月15日、日本ベンチャーキャピタルを引受先とする第三者割当増資の実施を発表した。2014年設立のGlobeeはこれまでにエンジェル投資家から出資を受けているが、VCからの資金調達は初めて。今回の第三者割当増資による調達額は数千万円規模と見られ、同ラウンドで融資も合わせて総額1億円を調達予定だという。

Globeeは2014年6月、当時大学4年生だった代表取締役の幾嶋研三郎氏により設立された。幾嶋氏は留学生とのコミュニケーションを密にすることで、1年間でTOEIC 955点を獲得できた経験から、語学学習をサービスとすることを着想。創業当初は、留学生バイトを講師とした英語学校の運営を行っていた。

しかし語学学校といえば、競合がひしめくレッドオーシャン。うまく成長できたとしても5年後、10年後の行く先が見えないと幾嶋氏は考えた。当時の語学学校ではまだまだ、紙やオフラインでの教材提供や学習進捗管理が中心だったことから、「IT化の流れがこれから来る。そのときに変革する側にいたい」と2015年初頭に事業のピボットを決意。その後一旦、ピボット先となる事業を探しながらソフトバンクへ入社し、シェアサイクリングや保育園向けアプリなどの新規事業開発に携わっていた。そして2017年1月にソフトバンクを退社。まずは無料アプリとしてabceedの提供をスタートし、その年の10月にアプリ内課金を行う有料版をリリースした。

abceedは、初めからアプリとして完結するように開発されたわけではなく、書店にも並ぶ紙の本の教材と連動した“文房具”アプリとして誕生した。幾嶋氏は「紙の教材ありきで、そこへITの便利さを取り入れるという発想で開発・公開したところ、既存の教材を使っていた人が利用して、一気にユーザーを集めることができた」と話す。

文房具、すなわち英語教材に対する「鉛筆・消しゴム・マークシート」と「音声再生プレイヤー」の代わりとして機能するabceed。その使い方を見てみよう。

まずは音声を聞きたい問題集を、アプリの中から探して選択。音声はダウンロードして、再生することができる。

マークシートも問題集ごとに表示でき、紙の教材を見て、音声を聞きながら問題を解くことも可能だ。マークシートを利用すると、問題を解いた後に自動で採点をしてくれる。

また一部の教材については、紙の本がなくてもアプリ内で学習が完結する、アプリ学習機能が利用できる。単語帳教材の一部を“お試し”で使ってみたが、各単語ごとに1画面でディクテーション、解説確認ができるし、その後の理解度のテストもサクッとできる。リーディング系の問題では、紙の本併用のほうが良いかもしれないが、リスニング系の問題については特に、アプリ学習は手軽に進められて良いのではないかと感じた。

現在の対応教材数は131タイトル。そのうちアプリ学習機能付きの教材は45タイトルだ。音声ダウンロードとマークシートの利用は無料。アプリ学習機能は有料で、各学習コンテンツを電子書籍のようにアプリ内で購入する形となる。また、有料のプレミアムプランにアップグレードすると、自分用の単語帳への登録やディクテーション機能、お気に入り教材のオフライン利用、教材をまたいだ総合学習分析機能などが利用できるようになる。

幾嶋氏は「紙の本というオフラインのコンテンツをツール化することで、結果として大量の学習データが取得できた。このデータは電子コンテンツ(アプリ学習機能)開発にも役立っている」と述べている。

これまでにabceedで蓄積した学習データはユーザー50万人分、億単位になるとのこと。Globeeでは調達資金で、これらの学習データと、深層学習や位相的データ解析といった技術を組み合わせ、ユーザーに最適な学習コンテンツをレコメンドする「abseed AI」の開発を進めていく考えだ。

幾嶋氏はまた「既存のTOEICメインとする学習領域から、語学全般へ領域を広げたい」とも話している。さらにこれまで、紙とデジタルを併用することで効果的な学習を促してきた経験を踏まえ、「オフラインも含めた新しい学習体験ができる“空間”を設計・デザインするためにも投資していく」とのことだ。具体的には、AR/VR、スマートスピーカーなどを取り入れた語学プラットフォームの開発を検討。建築家・山之内淡氏を顧問に迎え、オンラインとオフラインを融合した新しい学習体験の設計・デザインを進めるという。

「現在は日本国内をメインにサービスを提供しているが、世界展開も視野に入れている」という幾嶋氏。「日本のアプリストアで1位を獲得したとしても、MAU(月間アクティブユーザー)は20万〜30万程度。海外にも展開することでMAUは100倍以上になる。ユーザー数100万を超える、使われるサービスを目指して今後も開発を進めていきたい」(幾嶋氏)

写真左から、日本ベンチャーキャピタル 劉宇陽氏、Globee CTO 上赤一馬氏、代表取締役 幾嶋研三郎氏、建築家 山之内淡氏(撮影:宇田川俊之氏)

マンション売却2日後に即入金、すむたすが開発した驚速買取スキーム

services_thumb_01.png東京都内を中心に中古マンションの買い取り、販売を手がける「すむたす」は10月9日、500 Startups Japanから5000万円の資金調達を発表し、「すむたす買取」というサービスを同日に正式ローンチした。調達額は驚く額ではないが、注目したいのは同社が開発した最短2日での売却を実現するという買い取りスキーム。

一般的に中古マンションは、売り主が仲介会社に売却を委託して買い主を探してもらう媒介契約を結ぶ。そして売り主は、仲介会社が査定した売却金額を基に実際の売値を決めて売り出す。

物件や仲介会社にもよるが、短期間で売れる確率が高い最安値と売却可能と考えられる最高値の推定価格を提示してくれることが多い。実際に中古マンションの売却を経験したことがあるのだが、仲介会社が提示した最安値と最高値の差額は500万~600万円程度。このとき仲介会社は「REINS」と呼ばれる不動産の取引情報データベースや自社の売買実績、自社に登録している顧客(買い主)のステータスなどを勘案して推定価格を割り出す。

売り主が売却を依頼→仲介業者が査定額を提示→売り主が売却(販売価格)を決定→仲介業者が売り出す——という流れとなるため、売却を決意してから実際の売り出しまでは最短でも1週間程度かかってしまうのが通常だ。

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自らが買い主となって売主からマンションを買い取る仲介会社や専門の買い取り業者もある。すむたすも専門の買い取り業者の1社となるが、査定と支払いのスピード感がまったく異なるのだ。

一般的な仲介会社や買い取り会社であっても、2日もあれば査定を済ませて詳細な資料を渡してくれるところが多い。一方すむたすは、REINS上の売買情報に加えて独自のアルゴリズムを駆使して査定金額を最短1時間で算出。そして実際に売却を依頼されると、最短で2日後には指定した銀行口座に現金が振り込まれる。

スマホなどの買い取りとは異なり、マンションは多くの場合で住宅ローンが組まれており、銀行が抵当権を設定している。また、不動産は登記することで所有権を主張できる。そのため、すむたすと売り主の間で現金を受け渡すだけでは買い取りは完了しない。売却の意思が決まると、司法書士による抵当権の抹消や不動産登記の手続きが必要。さらに売り主が依頼したとおりの物件がどうかを現地で確認することも欠かせない。そのあとにようやく現金の受け渡しなどの買取契約が可能になる。すむたすはこれらの作業をたった2日でやってのけるのだ。

sumutasu04すむたす代表取締役を務める角 高広氏(写真左)によると「売却査定を受けた時点から、司法書士が必要な書類の作成などを同時並行で進めるため最短2日間というスピードでの売却を実現できた」とのこと。司法書士事務所とは特別な契約を結んでおり、実際に売却に至らなかった場合は全額ではなく進捗度合いによる歩合で事務所に作業料が支払われるという。

気になる売却価格については、買い主が見つかっていない時点で買い取るため、リスクをとって市場価格よりも数百万円低くなる。しかし、仲介会社ではないので通常は売却価格の3%程度に設定されている仲介手数料の支払いは不要。つまり、売却価格が高いマンションほど仲介手数料の額も上がるので、すむたすのスキームが生きてくる。

すむたす買取は、2018年7月にプレビュー版をリリースしてサービス事前登録を開始したところ、オンラインでの査定申し込みは150件、そのうちすでに買い取りの申し込みが5件来たことで手応えを感じていたそうだ。ターゲットとなるユーザー層は、海外転勤や離婚などでマンションを早急に手放したい人だが、実際には中古マンションを買い替える際にすむたす買取を利用した人もいたという。

今回の資金調達で「買い取り物件数の拡大と査定額算出のアルゴリズムにさらに磨きをかけたい」と角氏。また今後の展望としては、買い手側のニーズを汲み取れるシステムも開発したいとのこと。買い主を早急に見つけることができれば買い取りリスクは低下し、売り主はより高い価格でマンションを即売却できるようになる。

米国では、すむたすと同様のスキームで不動産を買い取る「Opendoor」(オープンドア)が未上場ながら時価総額が1000億円を超えたユニコーン企業に成長している。最近は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドから約450億円(4億ドル)の出資を受けるなど注目だ。日本でこのような不動産買い取りが根付くかどうか、すむたすの今後に期待したい。

ウェブUI/UX解析ツール「USERDIVE」提供元が6億円調達、分析自動化を目指しプロダクトをリニューアル

ウェブサイトのUI/UX解析ツール「USERDIVE」などを提供するUNCOVER TRUTH(アンカバートゥルース)は10月9日、三井物産、三井住友海上キャピタル、イノベーション・エンジン、楽天(楽天ベンチャーズ)、Draper Nexus Ventures、エボラブルアジア、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタルを引受先とする、総額約6億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。

UNCOVER TRUTHは2013年4月の設立。今回の資金調達は2016年9月の4億円の調達に続くもので、シリーズBラウンドにあたる。これまでの同社の累計調達金額は約10億円となる。

UNCOVER TRUTHが提供するUSERDIVEは、ウェブページ内のユーザー行動を動画やヒートマップとして可視化するツールだ。マウスの動きを可視化するマウスヒートマップや、入力フォームでユーザーが離脱する原因を分析する動線分析などの機能を備え、Google Analyticsなどのアクセス解析ツールとあわせて利用することで、UIやコンテンツ改善に役立てることができる。

またUNCOVER TRUTHでは、ツールによって得られたデータの分析により、ウェブサイト改善のための施策を提案するコンサルティングもサービスとして提供している。このサービスは、アクセス解析の実施からKPI設計、ヒートマップ分析、施策立案、ABテスト、効果検証までを一気通貫で支援するというものだ。

これまでにウェブサイトの改善を支援した企業は、JALや富士フイルム、三井住友カードなどの大手企業を中心に累計400社を超えるという。

調達資金によりUNCOVER TRUTHでは、より高度な分析をするためのプロダクトのアップデートや人材への投資、グローバル展開を進めるとしている。

プロダクトのUSERDIVEについては、今回フルリニューアルが行われ、実装機能にも大きな変化があったそうだ。UNCOVER TRUTH代表取締役の石川敬三氏は、以前のTechCrunch Japanの取材でも「ウェブサイト解析と改善でも自動化を進め、ツールだけで完結する世界を作る。そのために機械学習を取り入れていく」と答えていたが、今回のアップデートはその布石ともいえるものだ。

アップデートにより実装された機能はいくつかあるが、そのうちのひとつが「全量データの取得」。石川氏によれば、世にあるヒートマップツールのほとんどが、ユーザー行動データの全部を解析するわけではない。例えば1000万PV(ページビュー)のサイトであれば、そのうちの100万PV分のデータをサンプリングして取得し、傾向を分析するという。それを新バージョンでは、全データストックするように変更している。

これにより、例えば「新規会員登録を完了し、かつ『よくある質問』を見た」といったセグメントごとの分析が、より正確に行えるようになるという。

「UNCOVER TRUTHではこれまで、ツールとコンサルの両方を提供してきた。コンサルもやってきたことによって、アナリストの手作業によるウェブサイト改善の結果が蓄積された。EC、金融サービス、求人、メディアなどさまざまなジャンルのサイトで、『こういうサイトなら、こう改善するといい』『こう改善しても、あまり成果は上がらない』といった多くの情報を得ている。これらの情報を、機械学習の教師データとして取り込み、AIを活用して自動的にサジェスチョンしていきたい」(石川氏)

このほかにも、「イベント機能」「タイムヒートマップ」といった機能が追加されている。イベント機能は、これまでのヒートマップツールが苦手としていた、ページ遷移しない行動をイベントとして取得できるというもの。

「これまでは、例えばハンバーガーメニュー(スマートフォン向けサイトなどでよく利用される“≡”の形をしたアイコンを使ったナビゲーションメニュー。タップすると操作メニューが元の画面の上にかぶさって開く)の中の動きについては、『メニュー内をタップしたのか、元のコンテンツを触ったのか』を人が見て、想像で判断していた。こうしたメニュー内の動きを取得して、分析することができるようになる」(石川氏)

タイムヒートマップは、ウェブサイトをグリッド(格子)状に区切り、グリッドごとのヒートマップを時間単位で取得できるという機能だ。

タイムヒートマップ機能(クリックすると拡大)

「他社ツールやこれまでのバージョンでは、画面を上下に区切って、ユーザー行動を判断してきたが、左右も含めて細かく場所が分析できるようになった」と石川氏。特定コンテンツに対するユーザーの行動が「5秒間で終わっているのか、30秒間継続しているのか」といったデータを取得できるようになり、ユーザー行動と興味度合いをより正確に紐づけることが可能になるという。

UNCOVER TRUTHでは、分析機能の自動化を含むさらなる機能拡充により、ソリューション全体の質を高めていく、としている。石川氏は、出資元との協調により、新しいソリューションの検討も進めたい、とも述べていた。

東大発の無線通信技術で“IoTの足かせ”なくすーーソナスが3.5億円を調達

IoT向け無線通信プラットフォーム「UNISONet(ユニゾネット)」を展開するソナスは10月9日、シリーズAラウンドでグローバル・ブレインとANRIから総額3.5億円を調達したことを明らかにした。

同社は東京大学で省電力無線センサネットワークの研究開発を行ってきたメンバーを中心に立ち上げられたスタートアップ。橋梁や建造物のモニタリングなど、土木・建設業界の企業を中心に無線センサを軸としたソリューションを提供してきた。

ソナスでは資金調達と合わせて、これまで限定的に展開していた加速度モニタリングシステム「sonas xシリーズ」の一般販売を始めることを発表。調達した資金を基に組織基盤を強化するとともに、工場やプラントなど同プロダクトの適用領域の拡大を目指すという。

最新技術を採用し無線センシングの抱える課題を解決

ソナスが展開する「sonas xシリーズ」

“IoT”という言葉が広く使われるようになり、様々な業界の課題解決に活用できるのではないかと注目を集めるようになってから数年が経つ。現状ではそこまで本格的に普及しているとは言えないように思うが、その理由のひとつに「質の高いデータを集める仕組み」がまだ十分に整っていないことがありそうだ。

少なともソナスでは「IoTが真に社会の礎となるためには、無線での高品質センシングを実現することこそが必要である」という思いを持っていて、有線と同等のクオリティを持つ無線システムの研究開発を進めてきた。

同社が手がけているのは乾電池で動く省電力の無線通信規格だ。近年はIoTの要素技術としても使われているもので、ほかにもSIGFOXやLoRa、Dust、ZigBeeなど様々なタイプがある。

従来、この無線通信規格においては「省電力と通信範囲、通信速度」がトレードオフの関係となり、これらを同時に満たすものがないことがひとつの課題となってきた。

たとえばDustは消費電力効率が高い点が強みである一方で電波環境やトラフィックの変動には弱かったり、省電力かつ長距離の転送を実現するSIGFOXやLoRaにも速度面で課題があったり。これらを兼ね備えている無線通信規格はなかったため、「アプリケーションによって無線規格を選んでいる」(ソナス代表取締役CEOの大原壮太郎氏)のが現状だという。

一方ソナスのUNISONetではある技術を採用することで、省電力、マルチホップ、時刻同期、ロスレスデータ収集、高速収集、低遅延な双方向通信といった性能を同時に実現。温度や湿度など小容量のセンシングから、加速度・画像など大容量のセンシングまで無線のチューニングを行うことなく実用的なシステムを構築できるのがウリで、アプリケーションを問わず幅広い用途で使えるような仕組みを作った。

その“ある技術”というのが、無線通信の常識を変えた「同時送信フラッディング(同時送信によるマルチホップ)」だ。

UNISONetのコアとなる同時送信フラッディング

省電力で、かつ通信範囲を伸ばしながら速度も落とさない無線方式の手法は以前から研究されてきた。データをバケツリレーのように運ぶ「マルチホップ」もそのひとつだが、大原氏によると「ルーティング(バケツリレーの経路の決め方)が複雑で難しかったこと」がボトルネックとなり、なかなか流行らなかったのだという。

同時送信フラッディングが画期的なのは、このルーティングをせずにデータを効果的に届けられる点だ。

同時送信フラッディングでは、上の図のようにまず最初の一台が自分の通信範囲にデータを送信し、そのデータを受け取った各ノードがそれをそのまま即座に転送する。

大原氏によるとこの点がユニークなポイントで、「(これまでの無線の常識では)複数のノードから電波を受け取る場合、コリジョン(衝突)が起きて受信できないと考えられていた」けれど、「同一データを同一時刻に受信するとコリジョンが起きない」現象がわかってきたのだという。

この工程を繰り返すことで、データを高速にネットワーク全体へ伝搬できるのが同時送信フラッディングの特徴だ。UNISONetではこの同時送信フラッディングを上手くスケジューリングすることにより、簡単な制御で効率的かつ高性能なネットワークを組める環境を作っている。

少数のルートのみを選ぶルーティングベースの通信とは違い、同時送信フラッディングでは経路を定めないために電波環境の変動の影響を受けにくいほか、従来は難しかった“省エネと高速”の両立も可能。時刻情報をネットワーク内で容易に共有できるため、同一タイミングでセンサの値を取得できる(時刻同期)といったメリットもある。

また上りのトラフィック(散らばった各センサーからゲートウェイへデータを集める)だけでなく、下りのトラフィック(ゲートウェイ側から指示を出す)にも対応することで、データのロスが発生しても即座に再送制御し、漏れなくデータを収集できる。

これによって「有線から無線に変えた結果、データの抜けがあって解析できなくなってしまった」といった課題に直面することもない。

インフラのモニタリングや工場での予知保全が軸

現在ソナスでは、無線センサ・ゲートウェイ、現場で測定指示やノードの設置補助ができるWindowsのソフトウェア、遠隔からクラウドベースでデータの閲覧や分析ができるアプリケーションをひとつのソリューションとして提供することを軸としている。

製品ベースではsonas xシリーズ(加速度のセンシング)がすでに複数のゼネコンで利用実績があるそう。橋梁や建物のモニタリングなどインフラ領域の課題解決に使われていて、ワイヤレス振動センサによって軍艦島にある建築物の揺れを遠隔から常時モニタリングする取り組みなどを行なっている。

「取ってくるデータの品質が良いのは最低条件。(ゼネコンなどでは)自分たちの持つ分析技術を生かしたいというのが根底にある。データが抜けていればそれだけで分析できなくなってしまうし、同期が取れていなくても話にならない。そのニーズに応えられるものがずっと求められていた」(大原氏)

またソナスの共同創業者でCTOの鈴木誠氏によると、インフラ領域では省電力もかなり重要視されるそう。地震のモニタリングなどはまさにその典型で「ずっと現場に置いておいて地震が発生した時だけデータが欲しいという要望がある。これまでは同期のとれた橋全体の挙動を見ることができなかったので、それが見られるようになった点を評価してもらえている」という。

ソナスではインフラ領域に加えて、工場やプラントでの展開を2つめの柱として考えているそう。他社とも協業しながら「設備の予知保全」ニーズに応えていく計画だ。

無線の足かせ外し、いろんな人がIoTを使える世界に

写真左からANRI鮫島昌弘氏、ソナス代表取締役CEO大原壮太郎氏、同CTO鈴木誠氏、グローバルブレイン木塚健太氏

冒頭でも少し触れた通り、もともとソナスは東京大学での研究をベースにしたスタートアップだ。CEOの大原氏とCTOの鈴木氏は同じ研究室の先輩後輩の間柄(鈴木氏が先輩)。創業前、大原氏はソニーで半導体エンジニアの職に就き、鈴木氏は東大で省電力無線の研究を続けていたという。

「飲んでいる時に(起業をして)一緒に勝負をしてみないかという話になったのが創業のきっかけ。以前から鈴木がUNISONetの原型となるものを作っていることは知っていて、この技術なら世界でも勝負できるんじゃないかということで、挑戦することを決めた」(大原氏)

その話が出たのが2015年の秋頃。もう一人の共同創業者である神野響一氏も含めた3人でソナスを立ち上げ、1年ほど大学で技術を温めたのち、2017年4月から事業をスタートした。同年11月にはANRIから資金調達も実施。複数の領域で実績を積み上げてきた。

「現場に出て話をしてみると『無線なんていらない』と言われることもある。先端技術に積極的な人ほどまだ成熟しきる前の無線通信規格を試していて、『現場に入れたら全然飛ばなかった』『マルチホップと言ってるのに全然ホップしない』といった経験をしている。そういう人たちにこそ、使ってもらえるようにアプローチをしていきたい。ソナスでは(鈴木氏の研究を軸に)これまでの歴史的経緯や課題も踏まえて、UNISONetという規格を作り上げた」(大原氏)

今回の資金調達は同社にとって約1年ぶりとなるもの。調達した資金は組み込みエンジニアやビジネスサイドのメンバーを始め、組織体制の強化に用いる。また直近は同社のソリューションがフィットする領域を模索しながら、ゆくゆくは電機メーカーなど製品パートナーに対して無線単体での提供や、世界の人たちに無線通信規格として使ってもらえるように標準化やIP化にも取り組むという。

「IoTはバズワードになっていて『なんでもできる』と思われがちだけれど、実際に使ってみると使いづらかったり、可能性がすごく狭いところに止まっているのが現状だ。まずは無線の領域でIoTの足かせとなるものを外して、いろいろな人がIoTを使える世界を支えていきたい」(大原氏)

世界で戦えるセキュリティ企業目指しココンが28億円を調達、研究開発やM&Aに投資

ココン代表取締役社長の倉富佑也氏

サイバーセキュリティ事業を主力として、複数の領域でビジネスを展開するココン。同社は10月5日、YJキャピタルや住友電気工業などを引受先とした第三者割当増資により、約28億円を調達したことを明らかにした。創業以来の第三者割当増資による調達額は累計で41億円になるという。

ココンでは調達した資金を基にコネクテッドカーや産業制御システム、電力インフラなどの領域におけるセキュリティ診断技術の研究開発やプロダクト整備を進める計画。また引き続き、サイバーセキュリティを含むテクノロジーやデザインなど、同社のケイパビリティに関連したM&Aも推進していく。

M&Aで事業拡大、近年はセキュリティ領域が成長

ココンは早い段階から積極的にM&Aに取り組みながら事業を拡大してきたという意味で、珍しいタイプのスタートアップと言えるかもしれない。

2013年2月にPanda Graphicsという社名で創業。ゲームイラストに焦点を当てたクラウドソーシング事業からスタートした。翌年には資金調達を経て3DCGモーション制作を手掛けるモックス、UX設計・UIデザイン事業を手掛けるオハコとそれぞれ資本業務提携を結びグループ会社化。2015年5月には当時Groodが展開していた音声クラウドソーシングサービス「Voip!」を譲受している。

現在のココンへと商号を変えたのは2015年7月のこと。同年8月にはセキュリティ診断を行うイエラエセキュリティを、翌年7月にはセキュリティなどの情報技術における研究開発支援に取り組むレピダムを完全子会社化。2017年12月には動作拡大型スーツを開発するスケルトニクスにも出資をした。

これまでに実施したM&Aは5社。特にサイバーセキュリティ領域は同社にとって軸となるような事業に成長していて、倉富氏も「いろいろな偶然もあってM&Aの機会をいただき、結果的にはそれが会社を大きく伸ばすことにも繋がった」と話す。

セキュリティ事業ではWebアプリやモバイルアプリ、IoTデバイスなどにおけるセキュリティ診断やペネトレーションテストサービス(実際のハッカーによる攻撃を想定した擬似攻撃を通じて脆弱性を発見するテスト)を展開。ここ1年ほどで、車や制御系システムなど新たな領域における仕事も増えてきているという。

「Webやモバイルだけでなく、あらゆるものがネットに繋がる時代。そのような社会ではどのようなものが新たにセキュリティの脅威にさらされるか、未来を見据えた際に今後対策が必要になってくる分野へ先んじて事業を広げてきた」(倉富氏)

たとえば今回の調達先でもある住友電工は、車の電源や情報を伝送するワイヤーハーネスを始めとした自動車製品の開発に力を入れてきた企業だ。同社とは車のセキュリティ対策に関してシナジーが見込めるだろう。

これに限らず昨年11月には保険領域でSOMPOホールディングスと提携をしたりなど、さまざまな業界で大手企業との取り組みも加速させている。

セキュリティ事業の研究開発とM&Aを推進へ

そんなココンは28億円という資金をどこに投資していくのか。冒頭でも少し触れた通り、大きくは「セキュリティ事業の拡大に向けた研究開発やプロダクトアウト」と「その他の領域も含めた組織強化のためのM&A」の2つになるようだ。

セキュリティ事業についてはここまで紹介してきたような分野を中心に、診断技術の向上に資する環境整備や人工知能を活用した診断技術の研究開発などにも取り組む。

特に技術面ではロシア最大級のハッキングコンテストで準優勝、ラスベガスで開催された車載通信ネットワークに関するハッキングコンテストでは優勝するなど、海外のコンテストでも日本人中心のチームで戦えるようになってきているという。

「とはいえ、グローバルで世の中のためになる事業を作るという意味では、影響力も極めて段階的。現時点ではスタートラインにも立てていないような状況だ。これから中長期で研究開発を進め、グローバルで勝てるような技術的なバックグラウンドを持った、影響力のあるセキュリティカンパニーを目指していきたい」(倉富氏)

目下の軸はセキュリティに置きつつも、他の領域も含めてM&Aを推進するスタンスも崩さない方針。サイバーセキュリティや暗号技術、人工知能などのテクノロジーと、UI/UX設計などのデザインやブランディングといったココンの持つケイパビリティに関連するM&Aを実施し、“ひとつのチームとして”顧客や社会の課題解決に繋がる事業を展開していくという。

「自社ならではの独自性とは何かを考えていく中で、シナジーがある会社に入り込んで、一緒に汗をかきながら成長してきた。今後もテクノロジーに詳しいというのをひとつの軸に独自なポジションを築いていきたい。また国内初で大きくなっている会社を見ると、M&Aに向き合いながら成長している会社が多い。M&Aに関するノウハウを早期に蓄積しておくことも、将来を見据えた時に重要なことだと考えている」(倉富氏)

フリーランスのコラボを促進する“個の時代”のプロジェクトシェアサービス「TEAMKIT」が資金調達

フリーランスを中心とした個人が、自分で受けた仕事を周りの人とシェアしたり、コラボすることができるプロジェクトシェアプラットフォーム「TEAMKIT(チームキット)」。同サービスを運営するLboseは10月5日、ANRIと他1社を引受先とした第三者割当増資を実施したことを明らかにした。具体的な調達額は公表されていないが、数千万円前半になるという。

冒頭でも書いたように、TEAMKITは個人同士がプロジェクトをシェアするためのプラットフォームだ。数ヶ月間のベータ版期間を経て、2018年8月20日に正式版がリリースされている。

Lbose代表取締役社長の小谷草志氏によると「今の仕事が回せるようになってきたので、単価も上げてもっと大きな仕事にチャレンジしたいと思っているようなフリーランスや、仕事は来るけど1人で回すのが大変になってきたというフリーランス」を主な利用者層として想定。そのようなユーザーが持っている案件をシェアしたり、コラボして新しいチャレンジをできるような場所を目指している。

具体的にTEAMKITを通じてできることは「自分のプロフィールページを作ること」「Tent(プロジェクト)を立てて仲間を募ったり、他のユーザーが立てたTentに参加すること」「他ユーザーとWhoop(紹介文)を送り合うこと」の3つだ。

特に特徴的なのが他己紹介機能のWhoop。小谷氏はこの機能を通じて、SNSのフォロワー数などとはまた違った形で信頼性を可視化していきたいのだという。

「(クラウドソーシングなどで)全く知らない誰かといきなり仕事をするのはハードルが高い。それよりも、直接繋がっていなくても自分の知り合いが紹介してくれる人の方が信頼感がある。『あの人が紹介してくれるなら信頼できるかも』という感覚を大切にしていて、それを可視化する上では他己紹介の仕組みが重要になる」(小谷氏)

Whoopは一方のユーザーが書いただけでは表示されず、お互いが書いた場合に初めて相手方のプロフィールページに掲載される仕組みになっている。これは何となくFacebookで友達になっているといった薄い関係性ではなく、ある程度お互いのことを理解しているようなユーザーが書いた紹介文だからこそ信頼できるという思想があっての設計だ。

「普段フリーランスは『こんな人を探しているのだけど、知り合いにいい人いない?』といった形で個別に人を紹介し合っている。それをWhoopを軸に『この人紹介してくれない?』といったコミュニケーションが生まれたり、(TEAMKIT上で)直接繋がれるような世界観を実現していきたい」(小谷氏)

小谷氏を含めて、Lboseの創業メンバー3人は全員がフリーランスの経験者。自分たち自身がFBメッセンジャーなどを通じて人を探したり、紹介することの大変さを実感していたことも、Whoopを含めたTEAMKITのコンセプトに繋がっているのだという。

現在TEAMKITがフォーカスしているのは、個人のユーザー同士や、ユーザーとTentが出会うための場所になること。今後はその「出会い方の多様性やクオリティ」をさらに上げていくための機能開発などを重点的に進める計画だ。

また小谷氏は、オンライン上のみならず「オンラインとオフラインの境界をもっとなくしていきたい」のだそう。「例えばコワーキングスペースなどのように、リアルな場所があるからこそ発生する熱量やコミュニティみたいなものがある。オンラインとオフラインを上手く行き来できるような仕組みがあれば、プロジェクトのシェアももっと促進される」(小谷氏)

この取り組みについてはワークプレイス「co-ba(コーバ)」を展開するツクルバと連携して、地域を越えたプロジェクトのシェアやコミュニティ作りを進める方針。それに向けてLboseはツクルバが開始したスタートアップ支援プログラムの第一号に採択されている。

AR謎解きゲーム「サラと謎のハッカークラブ」運営のプレティアが資金調達ーー続編提供に向け加速

プレティア代表取締役CEO 牛尾湧氏

渋谷で開催中の新感覚AR謎解きゲーム「サラと謎のハッカークラブ」を提供するARスタートアップのプレティアは10月4日、インキュベイトファンド、Tokyo XR Startups、NHN CAPITALのほか、國光宏尚氏、佐藤裕介氏、塩田元規氏、吉田浩一郎氏ほか複数の個人投資家から資金調達したことを発表した。調達した額は非公開となっているが、資金をもとに同社は更なる高い顧客満足度を達成するため技術開発及びサービス改善に注力するという。

8月4日より開催されているサラと謎のハッカークラブはオリジナルアプリ「HACK PAD」を使って遊ぶAR謎解きゲームだ。プレイヤーたちは渋谷駅前の岡崎ビルに集合し、そこで注意事項などの説明を受けてから街へと繰り出し、90分間の制限時間内に数々の謎解きを攻略しクリアを目指す。

僕も一部体験させてもらったが、街中を歩くのは良い運動にもなるし、ヒントを使うことで初心者を含め誰でも気兼ねなくそのSFテーマの世界観を堪能することができる仕様となっている。1人で参加するも良し、友達や恋人と一緒にコミュニケーションを取りながら遊ぶのもきっと楽しいだろう。

ARゲームの開発に関してプレティア代表取締役CEOの牛尾湧氏は「なぜ僕たちがこの事業をやっているのか。ARの良いところは何もないところでも素敵なコンテンツを提供し人を集め、楽しんでもらうことができるからだ」と話した。「地方にはエンターテインメントが少なく、楽しめることがあまりない」が、ARゲームを使えば「今まで置けなかったところにも面白いコンテンツを置くことができる」(牛尾氏)

また、同氏は「1、2時間くらいの隙間時間で楽しむエンターテインメントとなると、映画、カフェ、飲み、などはあるが、あまりオルタナティブがない」とも説明。隙間時間で楽しむ娯楽は圧倒的に選択肢が少いため、同社のサラと謎のハッカークラブのようなARゲームは良いオルタナティブになり得るだろう。

「こういった隙間時間エンターテインメントを全国または世界中で開催することで、人と人との本質的に幸福なコミュニケーションを世界中に広げたい」(牛尾氏)

プレティアはARゲームと同時に独自のARバックエンド技術を「世界中のAR開発者に向けて開放」するため「ARクラウド」というプロダクトも開発している。これを使うことで「今までよりも更にAR、言い換えると面白い体験へのアクセスを多くの人に広めることができる」という。「コンテンツの民主化がしたいというのが僕たちの想いだ」(牛尾氏)

開催から約2ヵ月が経過したサラと謎のハッカークラブ。これまでにはNON STYLE井上裕介氏ら著名人もプライベートで参加するなど盛り上がりを見せている。開催は11月4日までと残りあと1ヵ月くらい。予約は公式サイトから可能で、料金は平日1290円、土日祝は1990円(それぞれ税込)。

調達した資金をゲーム・ARクラウドの開発とマーケティングチャンネルの開拓に使うという同社だが、「共に達成する喜びを世界中に届ける」というミッションのもと、今後、AR技術を更に進化させた謎解きゲーム第二弾(続編)の制作にも取り組んでいくという。牛尾氏は遠くない未来に海外進出することも既に視野にあると話していた。

「メルカリはアメリカで勝てないと世界では勝てないと言っている。僕も同じ思いだ」(牛尾氏)

作家の小説を声優が“音声化”して届ける「Writone」リリース、NOWらから資金調達も

スマートスピーカーの台頭などもあり、近年“音声”に関する市場やサービスが注目度を増してきている。

本日正式版がリリースとなった「Writone(ライトーン)」もまさに音声に関するプロダクト。少し大雑把な表現をすると、いわゆるオーディオブックに独自の工夫を加え、より民主化したものと言えるかもしれない。

Writoneは作家ユーザーが投稿したオリジナルの小説を、声優ユーザーが音声コンテンツに変えて配信するプラットフォームだ。リスナーは興味のある作品を読むのではなく、音声で聞くことができる。それも声優(声優の卵も含まれる)の声で、だ。

本の内容を音声化して提供するという点では上述した通りオーディオブックの概念にも近い。ただWritoneの場合は元となる作品を誰でも手軽に投稿できることに加え、ひとつの作品に対して複数の声優が参加できることがユニークな特徴となっている。

複数の声優が同じ作品を音声化している場合、リスナーは誰の声で聞くかを選ぶ楽しさも味わえる。もちろん作品から入るのではなく、声優をベースに「この人が配信しているなら買いたい」という理由で作品を発掘するような楽しみ方もできるだろう。

各声優ユーザーは音声化した作品の価格を自由に決めることが可能。現在は作品が売れた場合、価格がいくらであるにせよ売上の80%が声優に、20%が作家に分配される仕組みだ。

Writoneを開発するのは福岡に拠点を構えるLyact。同社は2018年4月の設立で、本日プロダクトの正式リリースとともにNOWとF Venturesを引受先とした第三者割当増資を実施したことも明らかにしている(具体的な調達額は非公開だが、数千万円前半になるという)。

代表取締役社長の古賀聖弥氏は高校生の頃から将来起業することを考えていたそう。卒業後に一度中国電力に就職するもすぐに都内のスタートアップへとキャリアチェンジをし、そこでプログラミングを学んだ。その後福岡でもスタートアップで働いた後、今年の4月にLyactを立ち上げた。

Writoneの着想は「もともと自身が本を読むのが好きだったものの、学生時代に比べて読書に使える時間が減ってしまった」こと。そして「小説家を目指し小説投稿サイトなどに作品を投稿するも、なかなか読んでもらえず課題感を感じている作家が多いと知った」ことからきているそうだ。

「実は当初小説の音声化にはグーグルのCloud Text-to-Speech(テキストを読み上げてくれるサービス)を使うことを検討していた。その段階で家入さんに相談する機会があり、声優や声優の卵がたくさんいて、専門学校を卒業したもののなかなか活躍の場がなくて困っている状況を知ったため、今のモデルにした」(古賀氏)

正式版のリリースに先立ち、作家と声優向けにベータ版を公開。すでに作家ユーザーが約300名、声優ユーザーが約200名登録していて、投稿された小説の数も800冊に及ぶという。

現時点のWritoneの機能はとてもシンプルで、「作家が小説を投稿できる」「声優が小説を音声化して配信できる」「リスナーが気になった音声小説を聞くことができる」といったことに限られる。

古賀氏の話では今回調達した資金も活用して開発体制を強化し、機能を拡充させる計画。たとえばテーマごとにコンテストのようなものを取り入れたり、ひとつの作品を複数の声優が分担して音声化したりできる機能(例えば複数のキャラクターが登場する小説において、キャラクターごとに別々の声優が担当するといたように)を追加したりといったことを検討していく。

「Writoneを通して小説を書くことが好きな作家や、声の仕事をしていきたい声優がより活躍できるような場所を提供していきたい」(古賀氏)

今年に入ってTechCrunchでもオトバンクのオーディオブック聴き放題サービス「audiobook.jp」や声のブログ「Voicy」、音声フィットネスガイドアプリ「BeatFit」といった音声に関するサービスを紹介してきた。

冒頭でも触れた通り、今後も音声に着目したプロダクトはまだまだ増えていきそうだ。

写真1番右がLyact代表取締役社長の古賀聖弥氏

地域のパン屋さんとパン好きをつなぐパンフォーユーがF Venturesなどから資金調達

パンフォーユー代表取締役の矢野健太氏

冷凍食品というと、手抜き、おいしくない、体に悪いといったイメージを持つ人も多いことだろう。だが、おいしいパンが大好きなパンマニア、パン通の間では「きちんと冷凍された冷凍パンなら、むしろ保存料要らずでおいしさが長持ちする」というのが既に常識らしい。

パンフォーユーはそんな冷凍パンを、独自の基準で選んだパン屋さんからオフィスまたは個人へ宅配するサービスを提供するスタートアップだ。同社は10月2日、F Venturesと複数の個人投資家からの資金調達実施を発表した。第三者割当増資の引受先は以下の通りだ。

  • F Ventures Fund 1号投資事業有限責任組合
  • 紀信邦氏(ゆめみ監査役)
  • 佐藤裕介氏(ヘイ代表取締役社長)
  • 正林真之氏(正林国際特許商標事務所所長)
  • 千葉久義氏(エンジェル投資家)
  • 山口豪志氏(54代表取締役社長)

調達金額は非公開だが、関係者の情報および登記情報から総額約1350万円とみられる。

パンフォーユーは2017年1月の創業。群馬県桐生市で、ホテルやレストランなどのプロ向けに冷凍パンを製造・販売する、スタイルブレッドとの合弁会社として設立された。当初はオーダーメイド生産したパンを個人向けにネット販売していたが、サービスを提供していく中で「パン好きの人は、オーダーメイドできる、というよりは、いろいろな種類のパンを食べたがっている」ということが分かってきたそうだ。

パンフォーユー代表取締役の矢野健太氏は、「そこで1社のみから供給していたパン製造を複数社からの供給に切り替え、セレクトした地域のパン屋さんとユーザーをつなぐプラットフォームへと事業を転換することにした」と振り返る。現在パンフォーユーでは、複数のパンを楽しめる「パンセット」を提供するスタイルとなっている。

また一部の顧客で、個人ではなく法人宛に定期的な購入があったことから、福利厚生の一環としてのオフィス向けサービスを2018年5月から試験的に開始。この9月には「パンフォーユー・オフィス」として正式にリリースした。商品補充から在庫管理までお任せの「冷凍庫貸出プラン」とオフィスに既にある冷蔵庫の冷凍スペースを使う「セルフプラン」の2種のプランがあり、従業員は「オフィスグリコ」などの置き菓子サービスと同様に料金を支払い、電子レンジでパンを温めて食べる。

矢野氏によれば、試験導入した企業の評価は高いとのこと。大手企業やスタートアップ、コワーキングスペースなど、10月からの導入企業も含めると15社が利用する予定になっている。

冒頭にも挙げたが、冷凍パンに対するネガティブなイメージは依然として強い。そうした中で「実際に食べてもらえば『おいしい』ということを実感してもらえる」と矢野氏。「まずは食べてもらうところがスタートだ。そのためにもユーザーが手を出しやすい、オフィス向けサービスにも注力していきたい」と話す。「ユーザーからの評判はよく、ポテンシャルはあると自信を持っている。ぜひ気軽に一度、食べてみてほしい」(矢野氏)

事業モデルの変更に伴い、パンフォーユーでは経営陣によるMBOにより、スタイルブレッドとの資本提携を解消。今回の調達資金であらためて、複数のベーカリーを供給元としたサービスの再構築、運営体制の強化を図る。

「現在は7軒、10月には関東圏を中心とした10軒以上のパン屋との取引がスタートする。世の中に知られていないパンは全国、全世界にあるが、今後はそれを開拓していきたい。同時にオフィス販路を開拓することで、法人以外にも利用が広がっていくことを目指していく」(矢野氏)

矢野氏はまた「パン購入者が増え、購入データが増えることで、消費者の好みや、どういうものを食べたときにおいしいと感じるのか、といったデータの蓄積もできれば」とも話している。

ロボアドバイザー「THEO」を提供するお金のデザインが7億円を追加調達——損保ジャパン、凸版印刷から

AIを活用した個人向け資産運用サービス、いわゆる“ロボアドバイザー”の「THEO(テオ)」を提供するお金のデザインは10月1日、損害保険ジャパン日本興亜凸版印刷を引受先とする総額7億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。

お金のデザインは2013年8月の創業。2018年6月のシリーズEラウンド・ファーストクローズでは、東海東京フィナンシャル・ホールディングスを引受先とする50億円の第三者割当増資を実施しており、今回の調達はこれに続く追加増資。創業からこれまでの累積資金調達額は109.6億円となる。

お金のデザインでは、損保ジャパンと金融サービス分野で協業を図るほか、「人生100年時代」を見据えた退職者世代の資産寿命延伸をテーマとした新サービス展開も検討していくという。また凸版印刷とも相互に技術・ノウハウを活用したサービス検討を進める意向だ。

同社の主力サービスであるロボアドバイザーTHEOは、ユーザーの年齢や金融資産額、投資傾向などの情報から、それぞれに合ったETF(上場投資信託)を組み合わせたポートフォリオを提案、運用するというもの。20代・30代を中心に、9月末現在で運用者は5万5000人を超えたという。

また、iDeCo(個人型確定拠出年金)サービスの「MYDC」や機関投資家向けチャネル「ARCA GLOBAL ASSET」といったサービスや、地銀各社との協業でロボアドバイザーサービスを提供する「THEO+(テオプラス)」、NTTドコモとの協業でdポイントを使った投資サービス「THEO+ docomo」なども展開している。

サイバーセキュリティのNozomi Networksが3000万ドル調達

Nozomi NetworksがシリーズCラウンドで3000万ドルを調達した。

カリフォルニア州サンフランシスコ拠点のこの会社は、自らを産業セキュリティ大手と呼び、製造業、エネルギー、鉱業、そして水力発電やガス配給の設備などさまざまな業界の工業用デバイス30万台以上にセキュリティソリューションを提供している。

今回は今年2回目の資金調達だ。1月に1500万ドルを調達し、これにより時価総額は1億5000万ドルとなった。

Planven Investments、GGV Capital、Lux Capital、Energize VenturesそしてTHI Investmentsによる今回の資金3000万ドルはサービス販売の強化と新規マーケット開拓にあてるとしている。

「我々はプロダクトとR&Dに投資を続けたいと考えている。というのも、投資をフォーカスしたい部門が現在うまくいっているからだ。より多くの顧客にアプローチできるようアウェアネス、セールス、テクニカルサポートに注力し、我々のテクノロジーをより多くの人に届けられるようよりたくさんのプロダクトを売りたい」とCEOのEdgard CapdevielleはTechCrunchに対し電話でこう語った。

今年だけでも同社はカナダや英国、ドイツといったメジャーな経済マーケットに進出した。

資金は絶妙のタイミングでやってくる。産業用制御システム(ICS)は発電網や交通機関といったインフラが危機に陥ったときに自動で制御するが、近年は多くのシステムがインターネットに接続しているため、ICSシステムへの脅威が高まっているー確認されたシステムへの攻撃の件数は少ないが。

産業用制御システムを扱う会社はほんの一握りしかないが、そのうちの一社であるNozomiは、攻撃を受ける前にその脅威を検知することでICSデバイスを保護する。Nozomiは、脅威や変則(行動ベースとシグネチャーベースのアプローチを組み合わせたもの)の受動検知に主にフォーカスしているが、オペレーターが特異な脅威を検知してモニターする能動検知のサービスも提供している。

Capdevielleは、今回の投資で今までになくICSセキュリティの高まるニーズによく応えることができる、と述べた。

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(翻訳:Mizoguchi)