人工知能の最前線―人間の脳を真似るコンピューター

編集部注:この原稿はNTTデータの樋口晋也氏による寄稿だ。樋口氏はこれまで音声認識、コールセンター関連技術、SDN/OpenFlowと呼ばれるネットワーク技術の研究開発に従事してきた。近年は、情報社会の近未来を展望するNTT DATA Technology Foresightの技術リサーチを統括する立場にあり、ITに限らない幅広い調査レポートを公開している。また、樋口氏は金融、流通、製造、通信、国防などさまざまな顧客に最新動向を伝えるエバンジェリストとして活躍している。

「人工知能は原子力より危険」
「10年以内に現在の職の半分を人工知能が奪う」
「人類を超える速度で人工知能が科学技術を進化させる」

最近、このような話を聞くことが多い。この背景には、人間の脳のメカニズムを真似することで高い性能を発揮する人工知能の存在があるのだが、実際に人工知能技術の最前線について知っている人はそれほど多くはないだろう。本稿では、人工知能に関する最新の研究事例について解説を行う。そして、ビジネスの現状や人工知能が将来に与える影響についても触れたいと思う。

意味を理解し、自ら考える力を持ち始めたコンピューター

人工知能の実現には様々な技術が利用されているが、特に最近注目を集めているのはディープラーニングと呼ばれる人間の脳のメカニズムを参考にした技術だ。ディープラーニングはコンピューターの顔認識性能を人間と同レベルにまで向上させるなどの成果をあげている。

なぜ、ディープラーニングは高い性能を発揮できるのだろうか。それは、コンピューターが概念や意味を理解する力を獲得したからだと言われている。人間は長い生活の中で「生物は生きている」「人間は2本足で歩く」というような概念を獲得していく。これと同じようにコンピューターが多くのデータから「画像に写る物体の見分け方」や「日本語と英語の違い」を学べるようになってきた。これまでは人間がコンピューターに物体の見分け方を教えていたが、それが完全に自動化され、最近では「日本語の良し悪し」のような感覚的なものまでコンピューターが扱えるようになってきている。

ディープラーニングにより研究の内容も質的に変化している。最近の研究では、人工知能にプログラムコードを与えるだけで「繰り返しなどの制御文」や「掛け算や足し算の意味」を自動で理解させることに成功している(論文PDF)。2014年には人工知能に人間の短期記憶をもたせるニューラルチューリングマシンと呼ばれる技術が登場し、人工知能が自分で考えた結論を脳内に記憶することができるようになった。この技術は将来、人工知能に論理的な思考能力を与える可能性があり、多くの研究者に注目されている。人工知能にゲームの画面映像と得点情報のみを与えるだけで、人工知能が自身の力でルールを理解し、人間に近い得点をたたきだす研究も存在する。この研究では人間が睡眠中に記憶を定着させる仕組みを人工知能に適用することで、人工知能がゲームのルールを理解するスピードを格段に向上させることに成功した点が注目されている。

Google、Facebook、TwitterなどがAI関連企業を次々と買収

ビジネスを根本から変革しかねない人工知能技術をめぐり、各社の主導権争いが激化している。Googleは2013年3月にディープラーニングの創始者であるヒントン教授が設立したDNNresearch社を買収し、2014年にもDeepMind社を買収している。TwitterやYahoo!も人工知能ベンチャーを買収しており、中国検索サービス大手の百度(Baidu)やFacebookはシリコンバレーに人工知能研究のラボを立ち上げたほか、直近では自社イベントでその成果をお披露目したりもしている。昨年は人材確保を目的とした買収が頻繁に行われていたが、最近は少々落ち着きつつある。

近年、人工知能を活用したさまざまなサービスが提供され始めている。ディープラーニングを実際のサービスに適用している例として有名なのはAppleやMicrosoftで、この2社は音声認識にディープラーニングを適用していると言われている。Googleも画像検索や音声認識にディープラーニングを活用している。

人工知能が料理の新レシピを生むなど、創造的仕事でも活躍

人工知能は単純作業を効率化するだけではなく、人間の創造性や感性を扱う領域でも利用が拡大している。人工知能に画像と文章を提供するだけで自動的にウェブサイトをデザインしてくれるサービスは2015年春にリリースされる予定だ。他にもロゴを自動でデザインする人工知能や作曲を行う人工知能が存在する。ただし、ビジネスにおいて人工知能という言葉はバズワード化しているため、必ずしもディープラーニングを利用しているとは限らないことには注意が必要だ。今後のビジネスではコンピューターが作成したコンテンツを人間が手直しすることで効率化を行い、創造的な仕事を多数並行して進めるのが当たり前になるだろう。

人工知能には、よい意味で人間の常識がない。既に料理の世界では人工知能により斬新なレシピが提案され、将棋では新しい定石が生み出されている。将棋の世界では、人工知能がプロ棋士を超えつつあるため、人工知能はプロの指し手を学ぶのではなく、自己対戦から新しい知識を得る方向に進化している。チェスではプロ選手と人工知能の対戦ではなく、プロ選手と人工知能が協力して戦うような新しい対戦スタイルが実現されている。このように、今後は人工知能が新しい流行を創りだしていくと考えられる。

人工知能は社会に良い影響を与えるのか?

人工知能は人間でいえば脳にあたる。つまり、人間が行うあらゆる行動の支援に人工知能技術を適用できると言える。人工知能により自動運転車が悪路走行などに柔軟に対応できるようになれば、社会のインフラとして根付いていくだろう。コスト削減圧力の高い物流の世界は、それほど遠くない将来に自動運転車により自動化されると思われる。現在の技術レベルでは、言葉の意味理解や感情把握などの人間的な分析については、まだまだ人間がコンピューターに勝っている。そこで、人工知能に言語や感情を分析させるのではなく、まずはモノが発するデータを分析させようとする潮流も生まれている。全てがインターネットにつながり、データ収集が可能になることをIoE(Internet of Everything)と呼ぶが、その世界では人工知能技術の適用に大きな期待が寄せられているのだ。

人工知能はビジネスだけではなく社会にも影響を与えていくだろう。これまで政治などの世界では少数意見が見逃される問題があったが、技術が進展していけば、人工知能がネット上の意見の類似点や相違点を可視化し、社会が見える化される可能性もでてくる。少数意見にきちんとスポットライトがあたれば、世論形成にも影響を与えると想定される。オセロの世界では、人工知能が人間の理解を超える手を指すことを「神の手」と呼んでいるが、これと同じことが政治の世界でも生じる可能性がある。人工知能が一般市民に理解できない「神の政策」を提示した場合に、社会がその意見に従うのかどうか、というのは興味深いテーマであろう。

人間の価値観が過去の経験から形作られるのであれば、人工知能が人間の創造性を超えるものを生み出す可能性もでてくる。ピカソの絵をみて素晴らしいと感じるにはある程度の絵画の知識が必要だと筆者は感じている。おふくろの味が懐かしく感じるのも過去の経験が価値観に影響を与えている例だろう。逆に言えば、過去のデータを分析することで新規性があり、かつ心に響くものを人工知能が生み出せる可能性がある。このように価値観の面でも人工知能は人間に影響を与えるようになると考えられる。大量の個人データを収集できれば、亡くなった人の人格を仮想的によみがえらせるサービスなど、技術の発展に合わせ現在では予想もつかないサービスが次々に生み出されていくだろう。そして、過去の経験からこれを許容できない人が現れ、新しいサービスの是非をめぐり、社会的な論争が行われると予測される。

人工知能がもたらす新たな課題

ビジネスで人工知能を利用する場合、いかにデータを集めるかという問題がある。人工知能を動かすには大量のデータが必要になり、たとえ多くのデータを持っていたとしても、それを使えるように整形するには多くのコストがかかる。データが個人情報であれば、取り扱いにも注意が必要だ。ディープラーニングには演算量の問題も存在する。この問題への対応としては、グラフィックボードを人工知能の処理に流用する方法や特定処理を高速に演算可能なFPGAプロセッサを利用する方法など、さまざまな高速化の工夫が行われている。

社会的な問題としては、やはり失業が注目されるだろう。ロボットに高度な人工知能が搭載されれば、工場のオートメーション化が今以上に進み、多くの失業者を生むことが懸念される。iPhoneなどの製造で有名なFoxconn社がGoogleと協力して組立用ロボットを開発するなど注目の動きもいくつか存在する。もう一つ心配な点はテロへの応用だ。例えば100台のドローンに人工知能と爆発物が搭載され、ターゲットの顔を認識し、自動で追尾する様子は恐怖以外のなにものでもない。人工知能の装置が小型化されれば、このような悪用も簡単になる。

技術の進化は基本的に人間の能力を高める方向に働く。人間が高度な技術を手にすれば、良いことも、悪いことも簡単に行える。筆者は、変にマイナスの部分だけをみて将来を恐れるのではなく、しっかりと現在の技術動向を理解していくことが重要だと考えている。そして、過渡期には人工知能が悪用される場合もあると思うが、最終的には格差の解消や相互理解に利用され、社会をよりよくしてくれると信じている。

Google、ビデオゲームを自力で学習しプレイする人工知能の開発に成功

Googleは自力でコンピュータ・ゲームを学習し、驚くべき成績を上げる人工知能の開発に成功したことを発表した。Bloombergの記事によれば、このプロジェクトはGoogleが昨年買収したロンドンの人工知能スタートアップDeepMindが担当したという。人工知能に与えられたのはAtari 2600の49種類のゲームだというが、多くの読者が子供の頃、最初にプレイしゲームが含まれていることだろう。

この発表はいかなる点からみても驚くべきものだが、特に重要なのは49ゲーム中29ゲームでAIが人間のプロのゲームテスターを上回るパフォーマンスをみせたことだろう。 また43ゲームで既存のゲームをプレイする人口知能のすべてを上回った。.

GoogleとDeepMindは別にゲームのリーダーボードに名前を連ねようとしているわけではない。長期的な目標は、一定の基準を与えられただけで、それに従って問題を最適化し解決する能力を持つ人口知能の実用化だ。これは、たとえば自動運転車の制御にも必須の能力だろう。 Googleは「単一の学習システムが経験から直接学習して問題を解決できるようになった最初の例だ」と評価した。当然ながらこのようなシステムの応用範囲は無限に存在する。

とはいえ、実用化に向けて第一歩を踏み出したところであり、あらゆる問題解決に役立つ汎用人工知能の完成までには数十年かかるとGoogleは考えている。だが人工知能がいちいち細部まで指示を与えなくても自ら学習する能力を備えたことの意味は決して小さくない。ある意味ではIBMのスーパー人口知能、Watsonよりも画期的なイノベーションといえるかもしれない。

人工知能にとってAtariのゲームの攻略に続くステップはおそらくDoomを代表とするような3Dバーチャル世界を舞台にしたゲームだろう。これによって自動運転など人工知能が現実世界で直面する問題の解決にさらに近づけるに違いない。もう一つ興味ある点は、Googleが人工知能に目的を達成させるため、Atariゲームで高いスコアを出すことに対して「報酬」を与えるという手法を用いたことだ。いわば犬を訓練するように人工知能に「おやつ」を与えたわけだ。そういえばGoogleには 異常にリアルな犬ロボットもいた。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


最強AIが人間と切磋琢磨、将棋に続いてバックギャモンとチェスで世界に挑戦するHEROZ

モバイルゲームのアイテム課金といえば、ほかのプレイヤーより速く何かを達成したいとか、強くなる何かのためにお金を出して優越感や満足感を得るためのものという印象を持っていたのだけど、2009年創業のスタートアップ企業、HEROZ(ヒーローズ)が提供するオンライン将棋対戦「将棋ウォーズ」のちょっと変わった「アイテム」の話を聞いて、こんなマネタイズもあったのかと膝を叩いた。

「将棋って偶然性がない実力の世界なので、モバイルゲームのようにお金をかければ勝てるわけではないんです。羽生善治名人には勝てません。そこで人工知能(AI)を投入しているんです」

HEROZの共同創業者で代表取締役の高橋知裕氏によれば、同社が2012年から提供している「将棋ウォーズ」の課金アイテムは、世界最強の人工知能(AI)による「5手分の指し手」なのだという。ユーザーは1回100円で「棋神」と呼ばれるAI搭載の将棋の神キャラを召喚することができる。この棋神が、その局面に合った最良の5手をユーザーに代わって指してくれる。HEROZはゲーム含めた他のエンターテイメント系のアプリ開発経験もあるため、最近のゲームに見られる派手な演出でババーンと最強の手を指してくれる(上の右画面)

このAIはプロ棋士に勝利した世界最強レベルで、普通の人はもちろん、プロ棋士でも簡単に勝てるようなものではない。

上達の「お手本」を示す指導役としてのAI

こう説明すると、なんだ、やっぱり勝つためのチートのようなものかと思うかもしれないが、実は棋神を使うのは1局あたり1、2回というユーザーが多いという。実力勝負の世界なので、AIに代理で打ってもらって勝ったとしても何も嬉しくないからだ。では、なぜユーザーが棋神を呼ぶかというと、それは学びのためだ。

「勉強でもスポーツでもゲームでもお手本って必要じゃないですか。それと同じです。AIにリアルタイムで教えてもらえるんです。だから棋神が使える将棋ウォーズは、eラーニングも兼ねているんです。ユーザーの方には将棋で強くなりたいっていう人が多くて、ただ単に勝ちたいという人は、そんなにいません」

「実は初心者よりも上位の人同士のほうが棋神を使います。それは、より局面が難解だからです。上級者ほど感動するみたいですね。なるほど、こういう手があったのか、と」

ちなみに、棋神が指しているのか人間が指しているのかは対局相手には表面上は分からなくなっているそうだ。

将棋は1局が平均して100手ぐらいで、双方50手ずつ。終盤で明らかに勝ち目がない局面には棋神は使えないので、このアイテムが使えるのはせいぜい1000円分ぐらいまで。将棋に限らないが、一流のプロに個別指導を受けると1000円などでは済まない。だから、棋神を使うことは将棋ファンのユーザーにしてみれば「安い」のだそう。その局面で打つべき手を教えてもらえる上に、デジタル対局なので後から棋譜を振り返れるというメリットもある。

最強の将棋プログラムを作る人工知能研究者たち

「指導者としてのAI」という新たなマネタイズ手法を得た将棋ウォーズだが、これが可能になった背景には、アルゴリズムの改善とコンピューターの高速化があるという。

コンピューター将棋が初めて人間のプロ棋士に勝ったのは、2012年のこと。チェスで世界チャンピオンのカスパロフがIBMのディープブルーに負けて話題になったのが1997年というのを考えると、割と最近のことだ。

HEROZには人工知能の研究者として広く知られたプログラマ達がいる。当初インターンとしてHEROZに参画した山本一成氏はその一人で、東京大学将棋部の出身で、山本氏が開発している将棋プログラム「Ponanza」こそが、現役のプロ棋士に勝利した初めての将棋プログラムだ。HEROZ共同創業者の林隆弘氏もアマ将棋の世界選手権で優勝したり、朝日アマ名人戦他で多数全国優勝した経験もあるほどの将棋の指し手。

アイテム課金の理由が指導にあるとしたら、強くなければ意味がない。もともとオンラインで将棋AIを提供する競合サービスというのはほとんどないそうだが、HEROZがこの分野で「他社には真似ができない」(高橋氏)と胸を張るのは、AIエンジンの開発競争で先頭を走っているという自負があるからだそうだ。

HEROZの売上規模に占める対戦型ストラテジーゲームの割合は徐々に拡大しており、将棋ウォーズは2014年末に累計1億局の大台を突破。1日の将棋対局数は現在20万局以上という。同時期、AI分野での取り組みが評価されてRed Herring Globalのトップ100にも選出されている。HEROZ自体は、モバイルアプリの売上が大きく拡大し、過去3年間で売上規模が約20倍になったことから日本テクノロジー Fast50で1位を受賞している。

人間とAIによる切磋琢磨は始まったばかり

すでに将棋ではプロ棋士が負け始めている。チェスに至っては世界チャンピオンが負けてから10年近くが経過している。将棋もチェスも偶然性がなく、すべての情報がプレイヤーに見えている「完全情報ゲーム」だ。理論的には打つ前から最善手があって、対局前から勝ち負けが決まっている。「解明されてしまったゲーム」に人間は興味を失わないのだろうか?

そう思ったのは素人のぼくの勘違いで、現状は全く違うらしい。

人間のチャンピオンが負けてしまうほどAIが強くなることと、盤面の組み合わせ全てを解析しきる「完全解析」は全く意味が異なるという。ゲームとしての完全解析が終わるのは、チェスも将棋もはるか遠い未来のこと。盤面の組み合わせが将棋などよりはるかに少ないオセロでは1960年代にはAIが人間よりも強くなっているが、それでも完全解析にはほど遠い。探索空間が広すぎるのだ。

オセロは本当にAIが強くなりすぎてしまって、もう対局している人間が「指し手の意味が理解できない神のような手」に思えることが良くあるぐらいだそうだ。これに対してAI将棋では、ときどき人間が想定していない手が繰り出されるものの、そうした手こそが人間とコンピューターとが互いに切磋琢磨して将棋の未探索領域を開拓している現場という。

「1997年にディープブルーが出てどうなったか。チェスは成長しているんです。コンピューターは人間のプレイヤーが自己を高めるツールにもなっています。プロはコンピューターを使って研究しています。こういう局面だと何が良いかを指し示してくれる」

「チェスの元世界チャンピオンのカスパロフさんが来日して羽生善治名人とチェスで対戦したとき、両者とも同じことを言っていました。コンピューターが成長して、人間が考えなかった手筋を考えてきたんです。コンピューターと人間が一緒に成長しています。テクノロジーって人類の進化のためにあると思うんです。AIが出ることによって、気付かなかったことが発見できるようになる」

将棋の世界でも、あるとき森内俊之名人(当時)というトップ棋士が指した新手が、将棋AIが指した手だったと話題になったこともあるという。昔は良いと言われた手筋が、最近になってそうではなかったと分かるようになったのも膨大な棋譜がコンピューターに蓄積、解析できるようになってきたからだという。こうした事情もあってか、むしろ将棋人口は増加傾向にあるという。

将棋1270万人、バックギャモン3億人、チェス7億人

HEROZは将棋ウォーズでやってきた「AIを活用したボードゲームのオンライン対戦」を、2014年5月からバックギャモンでも「BackgammonAce」(バックギャモンエース)として提供している。「グローバル風のデザインにして、将棋ウォーズで培ってきたサービス性を入れていく」(高橋氏)といい、すでに世界150カ国以上でプレイされているそうだ。

将棋はあくまで日本のゲームだ。プレイヤー数は増加傾向にあるといっても1270万人にすぎない。これが囲碁となると5000万〜6000万人のプレイヤーがいる。そして世界最古のボードゲームと言われるバックギャモンは全世界で3億人のプレイヤー、チェスに至っては全世界で7億人がいると言われているそうだ。

「バックギャモンはトルコ発祥で、中東では地面に描いてやるぐらいだそうです。日本のバックギャモン人口は小さいですが、世界チャンピオンが日本から3人出てきています。チャンピオンはコンピューターが強いところ、先進国から出てくるんです」

日本から出てきたチャンピオンの1人、望月正行選手とHEROZは1月にスポンサー契約を締結した。この契約は世界展開を考える上でHEROZにとって大きな意味があるという。オンライン対戦はコミュニティでもあるため、強い人がいることが重要だからだ。望月氏は去年から今年の世界ナンバーワンランク。バックギャモン界でモチヅキという日本人を知らない人はいないというくらいに影響力があって、今後オフラインの大会で「グランド・マスター」を創設しようという動きが出てきている中でも望月氏の影響力が大きいのだとか。

望月氏はコンピューター利用によって強くなったバックギャモンプレイヤーの第1世代といい、その望月氏はブログの中で、面白いことを言っている。

「コンピューターが強くなると、人間のレベルはどんどん上がると思いますよ。(中略)BOTによって創造的なムーブが増えた。自分の引き出しが増えていった感じ。将棋でもそういうことが今後どんどん出てくるんじゃないか。BOTは創造しているわけじゃないんだけど、固定観念がないから人間にとっては面白い手を指すと思う」

振り返ってみると、バックギャモンでは2000年代前半には人間がBOTに負け始めていたというものの、人間のプレイヤーのレベルはまだ発展途上にあって、その歩みはコンピューターとともにあるということだ。

HEROZは強いAIを活用したという以外にも、ゲーミフィケーション的要素を多く取り入れている。

例えば、バックギャモンには定石のような動きがあって、それぞれに名前が付いているが、それぞれの指し手を初めてプレイヤーが使ったときに、派手な演出で指し手の名前を表示してカードを集めるようになっている。また、これまで良く研究されていなかった、指し手ごとの勝率も表示する。この解析は望月氏のような経験豊富なプレイヤーも驚かせたりもしているそう。

まだ、HEROZのバックギャモンのユーザー数は数万単位だそうだけど、バックギャモンは市場としても有望と見ているという。というのも、ヨーロッパでは装飾品の一種としてヴィトンやダンヒルがバックギャモンのボードを販売していて、富裕層が嗜んだりするという文化があるからという。

HEROZは1999年にNECに同期入社した高橋知裕氏と林隆弘氏が独立して2009年に創業。同年、ジャフコ、モバイル・インターネットキャピタル、ジェービィックベンチャーキャピタル、BIGLOBEキャピタルなどから総額1億円の資金を調達している。また、バックギャモンに続いて2014年12月には「CHESS HEROZ」(チェスヒーローズ)というチェスアプリも世界中に提供していて、こちらも今後注目だ。

以下にバックギャモンアプリのデモと高橋氏自身による説明動画、チェスアプリのデモを貼っておこう。


人は人工知能と恋することができるのか

編集部注:この原稿は経営共創基盤(IGPI) パートナー・マネージングディレクターでIGPIシンガポールCEOの塩野誠氏による寄稿だ。塩野氏はこれまで、ゴールドマン・サックス証券、ベイン&カンパニー、ライブドア、自身での起業を通じて、国内外の事業開発やM&Aアドバイザリー、資金調達、ベンチャー企業投資に従事。テクノロジーセクターを中心に企業への戦略アドバイスを実施してきた。そんな塩野氏に、遺伝子、人工知能、ロボットをテーマにした近未来予測をしてもらった。第2回目の本稿では、国内でも様々な分野で話題の人工知能について解説してもらう。なお塩野氏は東京大学の松尾豊准教授と共著で「東大准教授に教わる「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」を10月に上梓する予定だ。

ジョニー・デップの脳がサイバー空間にコピーされ人工知能として拡張していくという映画「トランセンデンス」、声だけの人工知能OSと恋に落ちる映画「her/世界でひとつの彼女」はご覧になっただろうか?どちらも日本では2014年に公開された映画だ。人工知能は古くからSFの定番だったが、あなたの周りを人工知能入りのロボットが掃除しているかも知れない今日では、人工知能も身近な存在となってきた。

たとえスカーレット・ヨハンソンが声だけの出演でも、スパイク・ジョーンズのアカデミー賞を受賞した脚本が素晴らしいherだが、日本はニンテンドーDS向けソフトの「ラブプラス」で先行していたし、ゲームの中の彼女と一緒に泊まれる旅館さえあった。スパイク・ジョーンズは日本の新しい風習を知って脚本を書いたのだろうか?

herのような対話型の人工知能はiPhoneのSiriを想像してもらえばいい。英語で「今夜、空いてる?」と聞けば「あなたのためなら、いつでも」と答えてくれるアルゴリズムだ。こうした対話型人工知能もどきの歴史は古く、実は1960年代からあった。「もどき」と言ったのは人工知能学者達の間に「何をもって真の人工知能か?」という争いが絶えないからだ。

今から約50年前に存在した人工知能もどきは「イライザ(ELIZA)」と言った。イライザは非常に短いプログラムだったが、現象としては恐るべき能力を発揮した。「あなたのことが好きです」と言うと、「私のことじゃなくて、私たちはあなたについて話しているのよ」と答え、もう一度「あなたのことが好きです」と言うと、「同じことを言って、他の答えを期待しているの?」と返してくるのだ。プログラムの基本設計はあなたの上司にも似た質問の単語を含んだ質問返しとなっていた。

当時の人はこの短いプログラムである人工無能を、コンピュータだと分からなかった人もいたようだ。それどころか、対話を続けることで癒される者さえ現れたのだ。興味のある人は今もネットのどこかにいるイライザに質問をささやいてみるといい。この現象は「イライザ効果」という言葉も生み出した。そう考えると、人間のコミュニケーションの本質とは何なのかを再考する気にもなってくる。2014年現在においては、ツイッターで友達だと思っていた人がbotだったというところだろうか。万が一、botに対して感情を感じ、相手にも感情があると思っていたら、自分の人間としての資質を問い直したくなるだろう。

人工知能の出したものを「人間がどう解釈するか?」は流行のニュースキュレーションサービスの世界でも重要な課題だ。人間が欲しいと思う情報は2つの相反するものだ。1 つは自分の属するコミュニティの7割程度の人が知っていて自分がまだ知らない情報。2つ目は普通だったら自分からは知ろうとしないセレンディピティのある情報。これらの情報は人間の期待値を前もってコントロールしておかないと、「そんなの知っている」または「そんなの自分に関係ない」となるものだ。どんなに複雑なフィードバックを持った人工知能だろうが、どんなに単純なプログラムだろうが、そのアウトプットの価値は人間の解釈次第だ。「ピタゴラスイッチ」を想像してもらえればいい、どんなに複雑な機構があっても、アウトプットは変わらないかも知れない。人間相手の設計では期待値コントロールが必要だ。人間は情報がインプットされると感情を持つからだ。

そう、「感情」は人工知能におけるみんなの深遠な疑問だ。ソフトバンクの発売したロボット、Pepper君も感情認識するという。創造主たる神は人間を神のかたちにお創りになられたというが、このつるりとした頭のロボットは人間のような感情を持っているのだろうか? 感情を語るには感情の定義から入らなければならない。ここではシンプルに感情を「気づき」の1つだと仮定してみよう。人間のように「あの人が大好き」や「助けてくれて有難う」といった気づきだ。

こうした気づきも人間の脳内の微弱な0と1の電気信号には違いないが、人工知能にとっては難題だ。「好き」と3回言われたら、バイブレーションして「私も大好き」と言い返すという原始的な設計は感情とは言い難いからだ。3回、好きと言われたら感情の閾(しきい)値を越えるというのは設計者の思想やエゴに過ぎないだろう。こうした設計はルールベースと呼ばれる。こうしたアルゴリズムは予期せぬイベントが起こると停止してしまう。一方で人工知能は予期せぬイベントが起きたらその結果を検証しフィードバックして、アルゴリズムを修正する。この学習プロセスが人工知能の特徴だ。人工知能による機械学習はデータからコンピュータ自身が特徴を見出してパターン化し、新しいインプットに対し予測を行うものだ。どんなに原始的なルールベースだろうがイライザのように人間側が人工知能に感情があると認識したら、感情があると言えるかも知れないし、高度な機械学習があっても人間っぽさは感じにくいかも知れない。これは外形的な判断によるものだ。

人工知能と人間の両方を見えなくしておき、第三者の人間にコミュニケーションさせ、どちらが機械かを当てるという実験、チューリングテストは実際に行われている。感情があるか否かの議論、これは演技法のようなものだ、女優が戦地にいく男性と別れを惜しんで涙を流しているシーンだとしても、その女優が本当は子供の頃に死んだ犬のことを思い出して泣いているかも知れず、それは外形からはわからない。「インターネット上では誰もあなたが犬かどうかわからない」ということだって言われるし、最近では(アニメ「攻殻機動隊」の)草薙素子も米軍情報部のエージェントが人工知能だとわからなかった。外形的に人工知能のような人間と、人間のような人工知能だったらあなたはどちらと付き合いたいだろうか?

現在の技術では無理があるが、何世代にもわたって人工知能に学習をさせることが出来れば、感情を持たせることが可能かも知れない。設計者がアルゴリズムに書くのは生き物のように「生存本能」や「種の保存の優先」という程度にしよう。複数の人工知能をシミュレーション世界の中に入れて群れを作ってみるのだ。危機に対して助け合うような相互依存や協調的行動が生存確率を高めるのであれば、自己生成的なパターンが現れ、インセンティブ設計として、「助け合うと生き残れる=うれしい」となるかも知れない。

ただ人間が初期設定を行わない「教師無し」の状態から人間のような進化をする可能性は低いだろう。なぜなら、人工知能が「死ぬこと」や「物理的な身体が傷つく」ことについて生身の人間と同じように考えるとは限らないからだ。人工知能が常に要求してくるのは「電源」かも知れないのだ。冒頭に挙げたトランセンデンスでもモーガン・フリーマンが人工知能に「自己認識があると証明出来るか?」と問うシーンがあったが、自己生成的に人工知能がここに到達するまでは限りなく遠いだろう。SFの世界だが、むしろトランセンデンスのような精神転送や” Whole Brain Emulation”の方がまだ可能性があるかも知れない。これは前回の遺伝子の寄稿の時にも登場した技術的特異点(Technological Singularity)のグルであるレイ・カーツワイルがその可能性を唱えている。デカルトの「Cogito ergo sum(我思う故に我在り)」はコピーされた脳に当てはまるのだろうか?

物理的身体を持たずにオンライン上にいる人工知能に人間と同じ身体性を求めるのは酷だ。映画のherでも人工知能の「彼女(her)」に「君は同時に何人と話をしているんだ?」と主人公の男性が憤るシーンがあった。彼女の答えは8000人を越えていた。好きな相手に対し、自分以外から学習して欲しくないと思うのは人間固有の感情だろう、ネットの海は広く、人工知能は学習し続ける。人工知能はそういう設計がなければ人間の独占欲は理解できない。夜のお店で横に座ってお酒を注いでくれる人間もタイムチャージベースで恋人をクラウド化したものかも知れないし、人工知能は人間とは違うことに慣れた方がいいだろう。論理的には人工知能は他の人工知能と記憶を共有、同期したり、過去の古いバージョンに戻ってコミュニケーションしたりと、一方向の時間の流れの中にいる人間とは次元の感覚が異なるはずだ。そのうちこの部分も「人間らしさ」を求める場合は論点となってくるだろう。

現在のビジネスの観点から言えば、人間とコミュニケーションする人工知能にとって情報収集は必須だ。データサイエンスがウェブの爆発的なデータ増加と共に飛躍したように、各家庭に入った人工知能も様々なセンサを使ってデータを集めてはクラウドにアップロードして解析を行い、学習していくだろう。Pepper君もデータベースと連携をすると言っているし、誰もが約3200億円という買収金額に驚いたグーグルのNest買収もデータ収集の為の布石だろう。Nestはサーモスタット(室内温度調節器)だが、昔からのサーモスタットではないのだ、かつてのiPodの設計者がつくったNestには通信用のZigBeeモジュールも内蔵されている。

大量に収集されたデータは何に使われるのだろう。人工知能が大規模なデータから新しい相関関係を見つけ出すかも知れない。人工知能の「気づき」について、現在の技術レベルでは、膨大なデータを与えて、これまた膨大なコンピューティングパワーを使って猫の顔を判別するところまでは来ている。冗長で膨大なデータから、自動的に特徴を抽出するアルゴリズムであり、ディープラーニングと呼ばれる。猫の件はグーグルが世界に先駆けて開発した。ディープラーニングが人工知能の発展に与える影響は極めて大きい。例えばサインインの時に出てくる、人間しか認識出来ないとされる歪んだアルファベットをVacarious社のアルゴリズムは90%の確率で認識することが出来る。このCAPTCHAと呼ばれる歪んだアルファベットの認識は人工知能が人間のように振る舞うための試金石の一つだ。サンフランシスコのスタートアップであるVacarious社はインターネット業界のスーパースター達のお気に入りだ、ジェフ・ベゾス、マーク・ベニオフ、ジェリー・ヤンらが同社に出資している。米国ではディープラーニングの専門家を巡って、Google、Facebook、Microsoftが争奪戦を繰り広げている。人材獲得のための買収、つまりAcqui-hiringが最も起こりやすい分野といえるだろう。

人間がコンピュータである人工知能より優れている点は、判断に必要な情報のみを瞬時に決定出来るところだ。これは「フレーム問題」と呼ばれ、人間だったら「コップを取る」というのは簡単だが、コンピュータはコップの材質、内容物の成分、部屋の温度まで検討してしまうかも知れない。また、人間はとても少ないサンプル数でパターン認識をして判断できる。もちろん人間特有の思い込みもあるだろうが、子供の言語爆発期のように、何千、何万という猫のパターンを見た経験がなくても、猫がいれば認識し、「猫」と声に出し指さすことができる。これをコンピュータに学習させるには数多くのサンプル数が必要となる。こうした特徴抽出は人間の得意とする「気づき」だが、将来的には人工知能も人間に追いついて来るかも知れない。それまでは人間がアルゴリズムの中で教師として目的設定をする方が容易である。パラメータ設定を人間がするということだが、実際のビジネスにおいてはここに大きな論点がある。

自動運転の車の前に、子供と老人が飛び出してきた、自動運転カーは子供の方に進めば老人が助かる、老人側に進めば子供が助かる。その時のアルゴリズムの設定は? 子供と老人ではどちらの重要度のウエイトを高くしておくのか? こうした“マイケル・サンデル的”な(正義を考える)状況において、パラメータ設定の果たす責任は極めて大きい。「好き」と3回言われたら「私も大好き」と返すパラメータとは深刻さが異なる。自動運転カーにとってはただの障害物も、それは人間なのだ。もしも自動運転カーに人間用ハンドルが無かったら、後ろでLINEに夢中だった乗客は結果回避義務が無いため無過失状態となり、車の製造者が製造物責任を問われるのだろうか? しかし、そもそも命の重さのようなパラメータは誰が決めることが出来るのか?アシモフのロボット3原則があったが、ビジネスにおいてメーカーがそういったことを考える時期が来ている。このアルゴリズムのパラメータ設定を行うのは神の役割を担うエンジニアで良いのか?

人工知能を考えることは人間自身について再考することであり、今まで可視化されずに見過ごしてきた社会の問いについて考えることだ。冒頭にあるように筆者は人工知能の権威である東大の松尾教授と共著を上梓する予定なので楽しみにしていただきたい。本文の内容も松尾豊氏との対話から大きな示唆を受けたものだ。本連載、最終回はロボットについて書かせていただく。

photo by
Saad Faruque


Google、カリフォルニア大サンタバーバラ校と協力して人工知能のための量子コンピュータ開発へ

今日(米国時間9/2)、Googleはカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)のJohn Martinisの率いる研究チームがGoogleの量子コンピュータ研究プロジェクトに参加したと発表した。Martinisのグループは量子コンピューティングの分野でトップクラスであり、超電導電量子コンピューティングを2008年に世界でもっとも早く実現したグループの一つだ。

Googleは以前から量子コンピューティングの研究を行ってきた。たとえば、D-Waveのコンピュータを、それが本当に量子コンピューティングであるのかどうかさえ不明な段階で、世界でもっとも早く購入したユーザーの1つだ。2013年の量子コンピュータの研究開始以来、GoogleはNASAやUniversities Space Research Associationの量子人工知能ラボと協力している。

今回の発表はGoogleが独自のハードウェア開発に乗り出したことを示すものだ。「Googleの量子人工知能チームは独自のハードウェア開発グループを擁することになった。これにより 最近の理論の進歩とD-Waveの量子アニーリング・アーキテクチャーの利用に基づく知見を利用した新しいデザインの量子最適化と推論プロセッサーの実現を目指すことができるようになった」とエンジニアリング担当ディレクターのHartmut Nevenは今日のブログに書いている

MartinisのグループはGoogleのサンタバーバラ・オフィスに本拠を移すが、UCSBの学生、大学院生が引き続き協力する。またUCSBの製造、測定施設の利用も続けられる。

Martinisは「Googleに参加したことにより、量子コンピューティングを機械学習アプリケーションに適用するチャンスが得られることに興奮している」と語った。ディープラーニング・ニューラルネットワークのパイオニアであるGeoff Hintonが2013年にGoogleに参加したことをMartinisはおそらく念頭に置いているのだろう。自ら設立したスタートアップ、DNNresearchがGoogleに買収されたのを機にトロント大学からGoogleに移った。

Nevenは「Googleは自ら量子コンピュータ・ハードウェアの開発に乗り出すが、今後もD-WaveとNASAと協力し、D-WaveのVesuviusマシンを利用していく」と述べた。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook <A


Googleは機械学習とニューラルネットワークを利用してデータセンターのパフォーマンスを最適化している

Googleは、機械学習(machine learning)によって、データセンターのパフォーマンスを最大化し、エネルギー消費を最小化している。同社はこのほど、その取り組みをまとめた研究報告書を公表した。その要点は: Googleが構築している高度にインテリジェントなサーバファームは、自分の過去のパフォーマンスから学び、未来の自己を改良する。

GoogleのAI化データセンターは、社員Jim Gaoの20%プロジェクトだ。彼は自分本来の仕事をしているときに、こいつはおもしろい!と目をつけたのだ。Googleには、拘束時間の20%は自分の好きなことをしてよい、という有名な勤務ルールがある。考えることと学習することのできるデータセンターは、たまたまGaoの、やってみたいことになったのだ。

Gaoは機械学習を勉強し、モデルの構築を開始した。そのために必要なデータとしては、Googleがデータセンターから毎日のように収集している膨大な量のパフォーマンスデータがすでにあり、そこには時間別・機器装置別・気温など気象条件別などに分類されているエネルギー消費に関するデータもあった。Gaoのコンピュータはそれらのデータをすべて分析して、さまざまな条件や要素とエネルギー消費量との相関関係をあぶりだした。そしてそれをもとに彼は、データセンターにおけるコンピューティングの効率を最大化するエネルギー(とくに電力)利用の方式を導き出した。報告書のその部分は、Power Usage Effectiveness(電力利用の実効性)というタイトルでまとめられている。

彼が作成したモデルは、以前Googleで実際にあったような、サーババンク全体を停止しなければならないほどの緊急事態でも、実は、冷房の設定温度など、ほかのパラメータを一時的に調整するだけで切り抜けられることを示している。その方が、高い出力レベルを維持しつつ、時間とエネルギーと経費を節約できるのだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


Vicariousに注目―人工知能のスタートアップにジェフ・ベゾス、マーク・ベニオフ、ジェリー・ヤンがそろって投資

まさにテクノロジー系ビリオネアのオールスター・キャストだ。

マーク・ザッカーバーグ、ピーター・ティール他のシリコンバレーの大物がVicariousというサンフランシスコのスタートアップの成長を加速するために4000万ドルを投じたことが話題になったが、驚いたことに、大物投資家がさらに4人も現れた。

Amazonのファウンダー、CEOのジェフ・ベゾス、Yahooの共同ファウンダー、ジェリー・ヤン、Skypeの共同ファウンダー、ヤーヌス・フリース、SalesforceのCEO、マーク・ベニオフが揃ってVicariousのシリーズBラウンドに参加した。

Vicariousは今回のラウンドでの調達金額を明らかにしていないが、少額ではなかっだだろう。私の取材に対してVicariousの共同ファウンダー、D.Scott Phoenixは「エンジェル投資という規模は確実に超えている」と語った。それにしてもこの4人のスーパースターがそろって一つのスタートアップに投資するとは想像もできなかった。

Vicariousは次世代の人工知能プラットフォームを開発中だ。Phoenixによれば、 現在のAI研究は依然として1980年代に開発された畳み込みニューラルネットワーク(convolutionalneural network)をベースにしているという。

しかしPhoenixと神経生理学者の共同ファウンダー、Dileep Georgeは脳の実際の活動をもっと精密に模倣することによって精度とパフォーマンスを画期的に改善できると主張する。Vicariousは昨年の秋、Captchaの読み取りに成功してこれを実証することに成功した。

Vicariousのテクノロジーから本当の意味での最初yの知能マシンが生まれることが期待されている。

同社はまだたった30人の会社なのに5600万ドル以上の資金を集めている。Phoenixは「劇的な人員増を図る計画だ」と述べた。

Vicariousへの投資にはさらにVinod Khosla、Ashton Kutcher、Aydin SenkutのFelicis Ventures、Garry TanとAlexis OhanianのInitialized Capital、BraintreeのBryan Johnston、Box.comのCEO、Aaron Levie、Y CombinatorのSam Altman、Open Field Capital、Zarco Investment Group、Metaplanet Holdingsといったスター投資家が加わっている。

〔日本版:Vicariousとは「代理の、代償性の」といった意味〕

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


インターネットに本物の人生の”新鮮な出会い”をもたらしたい–FuturefulがRandomに改名してAIエンジンをパワーアップ

Skypeの協同ファウンダJanus Friisが投資しているAIによる予測的発見エンジン(predictive discovery engine)Futurefulは、昨年8月にも本誌は取り上げたが、今回、名前とインタフェイスを一新することによって、同社の信条である意外性に富むWeb閲覧の基本的な側面、すなわちランダム性を、一層強調する方向に進化させることにした。

このiOSアプリの新しい名前は、文字通りRandomとなる(Androidアプリも準備中)。

FriisはMediumに投稿した記事で、デジタルの世界には意外性を注入することがきわめて重要だ、と力説している。彼が指摘する今のインターネットの問題点は、いわゆる’フィルターバブル‘と呼ばれる現象だ。ソーシャルネットワークや、ソーシャルに選択加工されたニューズフィードなどが、ますますコンテンツの提供形式を同心円的に閉じた、村社会的な手淫パーティーに頽落させ、自分たちの‘慣れ”や‘好み’に即さない意外なもの、思ってもみなかったもの、これまでとは違うもの、などなどを排斥し、オンライン時のわれわれの意識に風穴を開けることを、拒むようになっている。たとえば個人化(パーソナライゼーション)を行うフィルタは、その人を、これまでの彼/彼女が知らなかった新しい世界や新しい感覚に誘うことを、絶対にしないのである。だからこそRandomは、インターネットの日常的な利用に‘新しさ’というものを持ち込もうとするのだ。

Randomは必ずしも、その名のとおり完全にランダムではない。コンテンツを推薦するときに、ユーザの過去の行動を参考にする。しかしFuturefulはあまりにひどい名前だったから、それがなくなって惜しむ人はいない。

しかし、ユーザの過去を参考にしても、その学習アルゴリズムは提案の中にランダム性が注入されるよう、設計されている。そのことを強調したいからこそ、Randomという名前に変えたのだ。

FuturefulからRandomへの変化

Randomと、その前のFuturefulとでは、まずインタフェイスが相当違う。Futurefulの動的なブラウジングバブルは、iPadの発見表示器的なインタフェイスからの進化だった。しかし、名前を変えたことの意味を強調するためには、インタフェイスの刷新がどうしても必要だ。

“何がいちばん良いかを、確かめたいんだ。わかりやすくて、意外で新しいものを楽しく探求できる方法を探り当てたい”、と協同ファウンダのJarno Koponenは言う。

“AIによるWeb探検は、もっとわかりやすくて、親しみやすくて、楽しいものでなければならない”。

動的なブラウジングバブルはなくなり、複数のトピックを表すモザイクに代わった(上図/下図)。その個々の板をタップすると、複数のニュースソースからこのアプリが拾ったニュースの記事が出る。

トップバーをタップすると、その記事は消える。Randomは、同じ記事を二度は見せない。

さらに内部的には、AIとUIのフィードバックループが改良され、その粒度が細かくなった。

“UXはシンプルになり、AIがいつでも活動している状態になった。今のUXなら、ユーザの無意識…不合理な自己…から浮かび上がってくるものをマッピングできる。何と何が合うか合わないかを、ユーザが考えなくてもよい。ユーザは単純に、好きなもの、興味のあるものを指定していくだけでよい(一見互いに無関係なものでもよい)。それが、個人の関心を理解するための、うち独自のやり方だ”。

Futurefulのブラウジングバブルは、ユーザがセレクトするアイテムからトピックのクラスタを作り、そこから記事を選んだ。Randomはこの過程を取り去ったために、もっとランダムな感触が生まれている。トピックのモザイクがあらかじめ提供され、一回のタップでユーザをコンテンツへ連れていく。

“全体として、ユーザの認識負荷を下げることができた。ユーザは、複数の選択を組み合わせたり選んだりする必要がない。うちのAIがクラスタ化や組み合わせをユーザに代わってやる。だから複数の選択は、心の中にあるだけでよい。それを表現する必要は、なくなった。トピックを選んで探検していけば、以後の仕事はAIがする。ユーザの関心は長期(再起間隔が長いもの)と短期(事象や現象への関心)の両方を斟酌する”、とKoponenは述べる。

“ある意味でRandomは、ユーザの心の拡張になった、と言える。世界に関するユーザのマインドマップを複製して、ものごとの結びつきをとらえる。

Koponenは、Randomに既製品のカテゴリがないことを強調する。むしろ、ユーザが自分の個人的なカテゴリを生成するのだ。このアプリの中でタップして、いろんなものを選ぶこと、選ぶ順序によって。

と、ここまで読んでもピンとこない読者が多いと思われるが、とにかくこのアプリは、自分で使ってみないとよく分からないだろう。私がニューバージョンをダウンロードしてアプリを開くと、中国のAndroidOEM Xiaomiというトピックが提案された。

それをタップしたら、私が前に読んだことのある記事を取り出してくれたが、でもこのアルゴリズムが、私が関心を持つと思われるものを見つけたことは確かだ。

Randomが提案するトピックが気に入らなければ、モザイクの空欄をタップして、別の提案を出させるとよい。

こんどのインタフェイスはルックスは良いけど、言葉と言葉の結びつきなどはユーザが指定せずにAIが考えるから、ランダム性がより激しくなったような気がする。その処理はとても速いから、ユーザがそれに対し前のめりになることはない。でも今後アルゴリズムが徐々に賢くなり、提案がより適切になると、自分のアシスタントとして欠かせないもの、と感じるようになるかもしれない。

使いやすさの点でも、前のバブル(泡)よりは、今度のモザイクの方が大きくて見やすい。写真を入れることもできる。そうするとFlipboard的なルック&フィールになるが、わざとそうしたのかもしれない。ユーザに、発見のアルゴリズムよりは動的な雑誌としてRandomをイメージしてもらうために。

Randomはユーザ数をまだ公表しないが、Koponenは“伸びているけどまだ少ない。インタフェイスと名前を変えたのも、成長のペースを上げたいからだ”、という言い方をしている。

“ユーザが、自分の人生/生活に欠かせないもの、と感じるような体験を作り出したい。今のWebは、あらゆるものがソーシャルで動いているが、だからこそRandomのような新しいパラダイム…意外性、予期せぬ出会い、予想もしなかった新方面への自己の成長…が、これまでの行動のエコシステムに入り込むことが必要なのだ。

しかし、前述のフィルタバブル(フィルタの氾濫によるインターネットの矮小化)の危機は、ユーザ自身にもある。複数のトピックの中から選択を迫られたら、以前と同じ選択をして、自分のうさぎの穴に再び落ち込むかもしれない(私が前と同じXiaomiの記事に出くわしたように)。しかしこの問題も、Randomをもっと使い込めば、浮上してくるコンテンツの幅も拡大して、自然に解決していくのだろう。

収益化に関しては、Koponenは“今はそれどころじゃない”、と言う。目の前に、もっと重要な課題があるのだ。

“今われわれが全力を傾注しているのは、AIによるWeb探検を、誰もが楽しめるものにすることだ。毎日のように、改良を重ねている。まだ誰も、最終解には到達していない”。

“投資家たちは、われわれの大きなビジョンを信じている。人間を取り巻く情報やコンテンツへの、次世代的なインタフェイスを作りたいのだ。明日のデジタルデバイスを動かすUXとAIが、さらに、未来のオペレーティングシステムがそこから芽生えて育つ種子になるだろう”。

〔余計な訳注: 私は初期も今も、Facebookの友だち(friends)や、Twitterのフォロワー/~イーという概念が、すっごく嫌い!キモチワルイ!〕

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


GoogleがDeepMindを買ったのは人間の心を持つコンピュータを作るため

Googleは、かつてチェスの天才少年と呼ばれたイギリスのDemis Hassabisが創業したDeepMindの買収に、少なくとも5億ドルを投じたらしい。この、すでに多くの高名な投資家たちが支援している人工知能企業には、コンピュータが人間のプレイヤーとまったく同じようにビデオゲームをプレイするデモがある。Facebookも同社を買おうとしたらしいが、でも、それはなぜだろう?

コンピューティングが知能を持てば持つほど、より意味のあるデータの収集と分析が可能だ。これまでのコンピュータでも情報を集めたり、それらを互いに比較して、誰の目にも明らかと思えるような結論を導くことはできた。でも、データの中にもっと深い意味を見つけるためには人間のアナリストが必要で、毎日殺到する大量無差別な消費者情報の選り分けや解読は、今はまだ人間にしかできない。

しかしGoogleなどの企業は今すでに、AIと機械学習を利用してなるべく良いデータを効率的に集めることができる。Googleは今、その技術の延長として、物のインターネットをコンパニオン(人間的アシスタント)のインターネットに変えようとしている。Googleが注力しているのは、人間の生活の多くの部分をコンピュータが支えるようになることだ。車を運転手不要にし、荷物の配達のような機械的な仕事はヒューマノイド(人型ロボット)にやらせる。ただし、このような、生活の細部へのコンピュータの浸透は、良質なインタフェイスが実現のための最重要な鍵だ。

Googleはすでに、人間のニーズを先読みして身の回りの世話をする技術の開発に取り組んでいる。たとえばGoogle NowはユーザのGmailの情報や検索履歴を解析して、そのユーザが次に何を求めるかを予測し、必要な情報を前もって提供する。Nowは、そんなデータが溜まれば溜まるほど賢くなるが、まだまだ改良の余地は大きい。人間のニーズを先読みするのは、その人のことをよく知っている人間がいちばん得意だから、Googleとしてはコンピュータをそんな人の脳に近づけなければならない。

Googleの未来戦略には、ハードウェアへの関与も含まれている。今月の初めには、超大型の買収として、Nest Labsを32億ドルで買った。Nestの電脳温度計も、大量の機械学習アルゴリズムを動員して人間ユーザのスケジュールやニーズを先読みするが、DeepMindの技術は、そういうソフトウェアの技術基盤をより強力に、そして、深くする。より一般的には、物のインターネットは人間が介在すればより良質になり使いやすくなるのが当然だから、それを、人間ではなく人間に近いコンピュータで代替していくのが、Googleが考えている未来の戦略だ。

DeepMindもビデオゲームをプレイするコンピュータ以上のものをまだ見せてはいないが、しかしGoogleが同社から買ったのは、個別機能ではなく総合機能としての人工知能技術だ。Googleもこれまでに、さまざまなロボット関連の技術に投資しているが、人間の脳には個々の機能を必要に応じて適宜組み合わせる総合力がある。そしてGoogleがDeepMindに期待したのは、このような、総合化能力のあるAI、言い換えると、まるで人間のようなコンピュータだ。個々の、思わず感心してしまうような技術革新(イノベーション)と、人間の日常生活の中のさまざまな情報ニーズや用件ニーズとのあいだには、現状では大きな落差がある。DeepMindの技術は、その落差を填めるものとして期待されている。それを一言で言えば、テクノロジの人間化だ。未来のテクノロジは、非人間的で機械的な技術、人間が持つ細かい意味の差異やニュアンスを理解できない技術、という汚名を返上するものでなければならない。これまでの画一的で大刻みなAI技術では、自動運転車は非人間的どころか、往々にして反人間的に振る舞ったりもするだろう。自動運転カーを売りたいGoogleとしては、それでは困る。

噂ではGoogleは、DeepMindのAI技術を利用する際の社内規則を確立するために、倫理委員会を作ったと言われる。将来のGoogleでSkyNetのようなものが作られてしまうとは、Google自身も思っていないだろうが、コンピュータが人間に近くなれば当然、モラルの領域に入り込む。コンピュータがユーザである人間について知っていてもよいことは何々か。また、人間に近いコンピュータを使う人間の責任範囲はどこまでか。とくにこの二つが難問になるだろう。

Googleという企業をどう見るかによって、DeepMindの買収は心配であったり、エキサイティングであったりする。その両方、という人もいるだろう。AIや機械学習には元々、そんな二面性がある。でも、最近になってGoogleが次々と打ち出した未来志向の大きな戦略の中では、これがいちばん、ぼくらミーハーにとって魅惑的と言えるんじゃないか。子どものころ読みふけった人気SF小説の世界にいちばん近いし、また、それがもたらすかもしれないものの数々は、どれも、そそられるものばかりだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


Google、モノのインターネットの戦略的要衝を次々に占領中

昨年12月にロボット関連のスタートアップ7社を一気に買収する以前は、Googleのモノのインターネット戦略は箱を開けたばかりのジグソーパズル同様、まったく全容が見えないものだった。

しかしBoston DynamicsNest、そしてDeepMindの買収が発表された現在、Googleの狙いが人工知能とロボットを利用したリアルライフのインターネット化にあることが明らかになった。その影響は交通システム、製造業一般から消費者の日常生活のあらゆる側面にまで及ぶ可能性がある。

Googleのリアルライフ・インターネット戦略は、ウェブ検索やオンライン広告など枠組みをはるかに超えたものだ。Googleは来るべきモノのインターネット時代において、自らをハードウェア製造ではゼネラル・エレクトリック、人工知能分野ではIBMをしのぐ存在にしようとしているように見える。

ともかく現在Googleはハード、ソフトを問わず分析テクノロジーであれ人工知能であれロボットであれこの線に沿う会社を次々に飲み込みつつある。Boxのファウンダー、CEOのAaronLevieは

とジョークを飛ばしている。

Googleのこれまでの活動の歴史を振り返れば、Googleが伝統的なコンピューティングの枠をはるかに超えた領域を狙っていることはスマート・ホーム・デバイスのNestを買収したことでも推測がつく。2014年にも買収攻勢は続くだろう。

昨年のクリスマス以降、Googleは Boston Dynamicsなどロボット企業7社、モノのインターネットのNest、AIのDeepMindの買収に40億ドルを費やし、 Androidの父、Andy Rubinをロボット事業のトップに任命した。

しかしGoogleはIBMとGEでさえなし得えていないことをどうやって達成しようと考えているのだろう?

IBMは人工知能のWatsonプロジェクトに10億ドルをかけてきた。IBMはこのプロジェクトが今後数年で100億ドルの売上をもたらすと期待している。Facebookもまた人工知能チームを立ち上げ、The Informationの情報源によれば、ユーザーの感情を理解するアルゴリズムを開発中だという。情報源によればFacebookはDeepMindの買収競争に参加しており、4億5000万ドルを提示したという

老舗のGEも産業用機器のインターネット化に全力を挙げている。Googleの戦略と似ているが、GEの対象は産業設備であるところが違っている。

現在IBMは全面的に(あるいは頑固なまでに)AI戦略をWatsonに頼っている。Watsonが人気クイズ番組ジョパディで人間のチャンピオンを打ち破って華々しくデビューしてから3年間、IBM はWatsonのテクノロジーをヘルスケアやテレコム企業に売り込もうと努力してきた。しかしWall Street Journalの先月の記事によると、IBMは予期した成果を挙げられていないようだ。GEも同様に収益化に苦闘しているらしい。

一方、Andy Rubinは、New York Timesのインタビューで、Googleが作りたいものとして「雨が降り始めると自動的に動き出す車のワイパー」という例を挙げた。一見あまりにもささいな応用のように思えるが、GoogleがAIの実用化にあたって地に足の着いたレベルで素早いスタートを切っていることをうかがわせる。ことにGoogleには世界でも稀なユーザーデータの巨大な集積がある。これにはユーザーの行動の分析と予測に関して競争相手を大きく引き離す優位点となるだろう。

またGoogleの持つ世界最大級のサーバー・ネットワークがAI処理のために役立つのはもちろんだが、Google Xが研究している Loonプロジェクト (成層圏上層に多数の気球を飛ばして僻地にインターネットアクセスを提供する)が各種のロボットをインターネットにつなぐくとになるかもしれない。

モノのインターネットの到来はわれわれが考えていたより急速かもしれない。

映画「her/世界でひとつの彼女」の画像はIMDB, Warner Brosから

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


ついにテディ・ベアと友達になれる日がやってきた!

今回紹介するKickstarterプロジェクトは、80年代後半および90年代に育った子供たちの夢を実現するものだ。名前をSupertoy Teddyというぬいぐるみのクマだ。Teddy Ruxpinのように話すことができる。ただ、Supertoy Teddyは「返事」をすることができるのだ。カセットテープを内蔵して、いくつかのセリフを順番通りに話すだけではないのだ。AI並の会話能力を持つロボットであり、製造もウェールズのロボットカンパニーだ。

このSupertoy Teddy、出自も怪しからぬものだ。Supertoy Roboticsの共同クリエイターであるAshley ConlanおよびKarsten Flüggeは、Jeannie Rabbotというプロダクトも送り出している。こちらはSiri風のNuanceの技術を一部用いたバーチャルアシスタントで、iPhone、Mac、Androidなどの上で動作する。Teddyは、このJeannieから陽気な性格を受け継いでいる。そして人の感情を判断したり、その上で自律的に会話を組み立てたりする能力を持っているのだ。

Supertoy Teddyは、会話に応じたり、質問に答えたりするのに、スマートフォンとリモートサーバーの資源を活用するようになっている。iPhoneおよびAndroid上にインストールする、無料のアプリケーションを通じてさまざまな処理を行うようになっているのだ。クマの側には動作用デバイスと接続するために、スマートフォンを格納するためのスペースが用意されている。これまでに3バージョンのプロトタイプを作成しているのだそうだ。最新版は商用に耐えるものと判断され、Kickstarterでのキャンペーンがうまくいけば、12月の出荷開始を予定している。

ちなみにクマの口は動く。手足なども動くようにと考えてもいるようだ。また対話相手を把握して、相手に応じて自らの振る舞いを変えることもできる。すなわち、大人たちはクマにTedのような「仲間」意識を求めることもあり得るわけで、また子供たちはカワイイぬいぐるみとして接することができるわけだ。尚、実用的な機能ももっている。たとえば天気を知らせることができるし、目覚まし時計としての利用も可能だ。また眠るときに「お話」をしてくれたり、音楽を奏でてくれたりもする。電話やメールも、このクマ経由で行うことができる。

おどろくべきことに、このクマは30種類もの言語を操ることもできる。将来的には利用する言語に応じて声を変えたりすることもできるようになるかもしれないとのこと。ちなみに感情によって声のトーンを変える機能は既に実装されている。この機能により、クマが実際の「おともだち」のようにも感じられる。Kickstarterにて投資しようとする人は42ポンド(だいたい62米ドル)で1体入手することができる。

80年代は、ロボダッチ(ロボットのともだち)としてはTeddy Ruxpinが理想の存在だった。しかし、現代技術にサポートされたSupertoy Teddyこそ、あの頃の夢を実現してくれるものとなりそうだ。また、全年代を対象としたデザインで、少々年をとってしまったRuxpin世代であっても、このSupertoy Teddyを楽しむことができそうだ。大人になった人々も、クマに投資して、若いころの夢を味わうことができるかもしれない。

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(翻訳:Maeda, H)