日本のテクノロジーコングロマリット、SoftBank(ソフトバンク)の創業者で会長、CEO(最高経営責任者)の孫正義氏は、この1、2年大波乱を経験した。しかし今回のDealBookでのインタビュー(The New York Times記事)で孫氏は「自分が復帰してからグループは黒字になった」という点を強く主張した。
米国時間11月17日、バーチャル開催されたDealBookカンファレンスが配信され、孫正義氏は東京から参加してTikTokの今後を含め、幅広い話題について語った。ソフトバンクはTikTokの親会社、ByteDanceの大口投資家であるため当然見通しは楽観的だ。一方、ソフトバンクが投資失敗で数十億ドル(数千億円)を失ったWeWorkの追放された共同ファウンダーであるAdam Newman(アダム・ニューマン)氏については「いつか彼は大成功するだろうと強く信じています」と述べている。一方、孫氏が大規模な資産売却を実行したことにより、ソフトバンクには「手持ちキャッシュが800億ドル(約8兆3200億円)ある」として臨機に大型投資する能力に不安がないことを強調している。
孫氏の発言をリアルタイムで見なかった読者も多いと思うので、ハイライトを紹介したい。孫氏は「楽観的だが短期的には悲観的事態も予測」しているらしい。
新型コロナウイルスパンデミックの影響
孫氏は去る2020年3月、新型コロナウイルス(COVID-19)に対する見解をツイートした後、日本の医療専門家からパニックを引き起こそうとしたと強く批判されたと語った。
その後ソフトバンクは、日本最大級の民間検査施設の運営をスタートした。日本は人口1億2650万人で、現在1日あたり約1300件の新規感染が確認されている(米国は人口3億2800万人に対して、1日あたり16万6000以上の新規感染)。
パンデミックとの戦いで日本がこれまで成功を収めている点について孫氏は「人々は自発的にマスクを着用しています。みんなマスクの重要性を強く意識している」と述べ市民を称賛した。しかしワクチンの大量生産と接種が実現には、時間がかかる。孫氏は「この2、3カ月であらゆる災害」が発生し得ると警告した。「大手企業が突然破綻してドミノ現象を引き起こす」可能性があるという。つまり2008年にリーマン・ブラザーズが突如倒産し、金融業界全体に激震が走ったのと似たような事態だ。
孫氏は「現在のような状況ではどんなことが起きるかわからない。ワクチン開発が進んでいるというのは良いニュースですが、まだ最悪のシナリオに備える必要があると考えています。いま私たちの手元には800億ドルのキャッシュがあります。この種の危機では万一の場合に備えたキャッシュの用意が非常に重要になると思います」と述べた。
巨額キャッシュの使いみち
インタビューを行ったAndrew Ross Sorkin(アンドルー・ロス・ソーキン)氏は、孫氏はElliott Managementについては特に言及しなかったと述べた。このヘッジファンドはソフトバンクグループの第2の大株主であり、同ファンドが孫氏に大規模な資産売却と株価テコ入れのための自社株買いを行うよう圧力をかけたと報道されている。
孫氏は、低迷したソフトバンク株を買い戻したのは自分で決めたことだと述べた。3月に株価が暴落したとき同氏は「時価総額が70%、いや75%も下がった。あ、これは最高のタイミングだと思って買い戻しを決断した」という。つまり以前の4分の1の価格で自社株を購入できたわけだ。「これは絶対に買いだ」と思ったという。
資産売却で得たキャッシュの使いみちについて、孫氏は「パンデミックのために業績が悪化している既存のポートフォリオ企業に資金を供給するためなのか、それとも株価が暴落した他の企業の株を割安に買えると期待したのか」という質問にも答えた。
当然のことながら孫氏は資金の使いみちとしてポートフォリ企業を挙げ、「こうしたトップ企業にすかさず投資することにはとても積極的です」と述べた。こうした追加資金によってユニコーンの株価は大きく改善したという。
WeWorkへの投資失敗の教訓
ソーキン氏はユニコーンでは、WeWorkの件について触れた。WeWorkは、ソフトバンクが少なくとも185億ドル(約1兆9240億円円)を投資したことで有名だが、孫氏は同社の事業不振で数十億ドルの損失を被った(The Japan Times記事)ことを認めた。
ソーキン氏は、WeWork事件からソフトバンクはどういう教訓を得たのかと尋ねた。孫氏はインタビューの後半で「間違った決定をしたと認めることが、失敗から教訓を得る方法です」と述べたものの、WeWorkに関しては必ずしもソフトバンク側の失敗だとは考えていないらしく、共同ファウンダーで1年前に会社を追われた元CEO、アダム・ニューマン氏に問題があったことを示唆した。
「これは、アダム・ニューマン氏が自分の間違いから教訓を汲み取っているところだと思います。ニューマン氏は非常に優秀な人間なので、いくつかの判断ミスをしたことを認めていると思います。彼は頭が良くアグレッシブで、多くの才能を持ち、自分のビジョンを売り込む高い能力がある。リーダーとして素晴らしいタイプだと思います。しかしニューマン氏がいくつかの間違いを犯したことも確かです。間違いを犯さない人間はいません」と孫氏は述べた。
「私(孫)にも間違った意思決定の責任の一部があります。いまでもニューマン氏が好きですし、尊敬しています。ニューマン氏はやがて復活して、素晴らしいことをしれくれるはずだと確信しています。いつか大成功を収めるでしょう。WeWork時代のあれこれから多くの教訓を学んだと思います」と孫氏は付け加えた。
米国政府とTikTokの米国事業
TikTok事業の成否にも孫氏は重大な関係がある。TikTokの親会社であるBytedanceの30億ドル(約3120億円)の資金調達ラウンドをリードしたのは約2年前だった。当時780億ドル(約8兆1100億円)の価値があったが、最近の報道によれば、未公開企業でありながら1800億ドルと(約18兆7200億円)いう途方もない会社評価額で新ラウンド(Reuters記事)を実施中だという(このアグレッシブさは極めてソフトバンク的スタイルの投資だ。ソフトバンクが次のラウンドを以前の評価額の2倍以上でリードできるかどうかは興味あるところ)。
この秋、TikTokの米国事業を売却するようBytedanceに強い圧力がかかりOracle、Walmartが共同で値付けした点についても触れ、「大勢が楽しんでいるサービスが、ありもしないことに対する懸念から政治的に中断されるなら残念なこと」と述べた。
実際、孫氏は親会社Bytedanceのトップと話し合った結果として、「TikTokは米国であれインド、日本、ヨーロッパであれ事業を展開している国々の国家安全保障やユーザーのプライバシーを損なう意図はまったくありません」と保証した。またTikTokに対する疑念が続く地域には、「国内にサーバーを設置するなど国家安全保障の保護について安心できるような解決策はあります。技術的な解決策は常にあるのです」と述べた。
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画像クレジット:Alessandro Di Ciommo/NurPhoto / Getty Images
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)