12月7日から10日まで京都で開催されている招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2015 Fall Kyoto」。3日目となる12月9日の朝には、同イベント恒例のプレゼンバトル「Launch Pad」が開催された。
登壇した12社のスタートアップの中で見事優勝を勝ち取ったのは農業スタートアップの農業情報設計社。「AgriBus-NAVI」というAndroidタブレットを使ったトラクターによる農薬散布のためのソリューションで、もともと農林水産省で研究していた専門家による既存市場への切り込みという点で審査員からの評価が高かった。1位以下は、縫製マッチングプラットフォーム「nutte」(2位)、クラウド上で契約書類が作成できる「クラウドサイン(弁護士ドットコム)」(3位)、「乗ってみたい」に出会えるカーシェアアプリ「Anyca」(4位)、モバイルアプリの課題発見と解決ができる「Repro」(5位)となった。
以下、登壇企業についてご紹介する。
・wizpra NPS(wizpra)
「wizpra NPS」は顧客体験を向上させるサービス業向けクラウドサービス。多数の導入実績やNPS(ネット・プロモーター・スコア)活用事例をもとに、NPSの最適な活用方法からアクション提案までを行う。
NPSとはもともとベイン&カンパニーが開発した顧客満足度の指標。現在アップルやリッツカールトンをはじめとして大手企業も導入している。
サービスは月額20万円。リリース1年弱でインテリジェンス、西武鉄道、読売新聞、ピザーラなど約100社への導入実績がある。創業者である今西良光氏はユニクロでマネジメント職を務めた後に起業した。wizpraの製品を導入したある転職エージェントでは、採用決定率が37%向上したという実績もある。
チェーン店など複数店舗の接客改善のために利用する場合、多店舗で効果が上がった施策をレコメンドするといったこともできる。これによってベテラン店長でなくても、接客の改善施策を回すことができるという。またリアルタイムでの問題解決にも効果があるという。例えばトイレットペーパーが切れた、レジが混んでる、看板が倒れたといった事象のアラートを上げることも可能。
・クラウドサイン(弁護士ドットコム)
日本初となるウェブ完結型のクラウド契約サービス。融資の際など、1案件で100件の契約を結ぶこともあるのだという。契約に際してはそれらを全て印刷し、ホチキス止めして製本テープを貼り、署名と押印をして…これで初めて契約が成立する。しかし、契約成立までに2週間近い時間と印紙代や郵送代といったコストがかかる。また契約資料への印鑑は習慣であり、法的にはなくてもよいそうだ。これをクラウドに持っていくことで、より簡単に契約を結べる社会にすることがサービスの目的だ。
クラウドサインで契約書をクラウドに移行することのメリットは2つある。1つは、契約成立までのスピードが短縮することだ。契約書をクラウド上で送付し、パソコンやスマートフォンからでも、押印まで1分もかからない。もう1つは、大幅にコスト削減が実現できることだ。印紙代、郵送費を削減し、保管スペースも確保する必要はない。クラウドサインはローンチから7週間で上場企業含めて658社が利用しているという。この契約書の関連市場は市場は4450億円になる。
世界展開を視野に入れ、ベンチマークにしているのはアドビ・システムズだという。弁護士ドットコムの弁護士9000人、税理士ドットコムに登録している税理士2000人のネットワークがあることが強みだという。今後、指紋認証によるセキュリティー強化、必要項目を入力するだけで契約書が作成できる契約書の自動作成エンジン、そして国際取引にも対応できるマルチ翻訳機能を導入する予定だ。
・Repro(Repro)
アナリティクスツールを使うと、ユーザーがどこで離脱したのかは分かる。だが「なぜ離脱したのか」までは分からない。一方でプッシュ通知に代表されるマーケティングツールは、ターゲットの絞り込みが難しいという現状がある。これを解決するのがReproだ。
ユーザーの導線を設定することで、たとえばECサイトでは「カートへ入れたが購入に至らなかった」といったユーザーをドリルダウンで抽出するできるほか、「決済にたどり着くまでになにをやっているか」といった経緯も動画で見ることができる。ユーザーの画面遷移を再現することで、離脱要因を理解し、改善に繋げられるというわけだ。
またユーザーの定着率を図るリテンション分析なども可能。例えばダウンロードから7日後の定着率を上げるためには、7日目にユーザーに対してアクション(カスタマイズしたメッセージのプッシュなど)をとるということができる。
現在17カ国にユーザーがいる。フリーミアム形式で、課金割合は5.6%。1.8兆円のモバイルマーケティング市場を狙っている。2016年夏には米国に進出することを目指す。
・LiveConnect(Z-Works)
Z-WorksはIoTプラットフォーム「Life Engine」のクラウドサーバーを開発、運用するスタートアップ。このプラットフォームを使い、「頑張らない介護」を支援するのが自宅見守りサービスの「LiveConnect」だ。
要介護者が危険と判断したタイミングでスマホにアラートを通知するほか、温度やモーション、明るさなどの情報を取得、さらに施錠センサーでドアの開閉を取るといったセンサーデータの閲覧が可能。湿度や温度をもとに、ダニやカビ、風邪への注意といった環境ワーニングも表示できる。
さらに、事前にシナリオを登録していれば、カギの締め忘れの通知などを送ることができる。クラウドファンディングサービス「kibidango」にてプロジェクトを掲載。当初予定の2倍以上の額(200万円超)を集めることに成功した。
夜から朝まで空回りするドアノブなど、現在1万人以上いるとも言われる徘徊者の防止になども役立つデバイスも提供する。また家族等が自宅で死亡した際には現場検証が大変になる。このシステムを使ってログを貯めることで、確実に「介護をしていた」ことを証明するといった使い方もできる。
・AgriBus-NAVI(農業情報設計社)
世界中の農業機械の運転をアシストするトラクター運転支援アプリ。
例えば農薬散布など、農作業には作業の跡が残らないモノも多い。だがまっすぐ等間隔に農薬を散布するというのは、収益に直結する重要な作業…とは言っても重ならないよう、隙間なく散布するのは難しい。
これを解決すべく10年ほど前からはGPSガイダンスシステムが出てきた。しかし専用端末で価格は50〜60万円、ちょっとオプションつけるとすぐ100万円になってしまうため、国内トラクター200万台のうち5000台しか普及してないのが現状。これを同社は専用GPSとAndroidタブレットで実現する。
来月からは月額500円のサブスクリプションサービスを提供する。正式版は2月リリース予定。利用者数は1万7000以上、すでにシェアは世界1位。9割以上が海外からの引き合いで、「プアマンズGPSだ」と評する超えもあるという。
創業者の濱田安之氏は14年前、農林水産省に研究者として勤めていた。そこで研究していたロボットトラクターの技術が同社のプロダクトのベースになっている。今後は自動操舵オプションをリリースするほか、複数トラクターの同時操作機能なども提供予定だ。
・Anyca(ディー・エヌ・エー)
国内の自家用車は6000万台もあるが、平均稼働率は3%だという。それに加え、都心の駐車場は高額で年間50万円がかかることも良くあることだ。一方、車を借りたくても連休は予約が取れないこともある。
Anycaはそのような問題を解決するカーシェアリングサービスだ。Anycaは、体験を軸に車を探せるという。例えば、デートに行くのか、友だちとアウトドアに行くのかというシチュエーションで探すことができる。もちろんマップからも検索可能だ。
乗りたい車を見つけたら、車のシェア条件、空き状況、注意事項を確認し、日時を選択すると自動で料金が表示される。Anycaでは一日単位で自動者保険も提供している。また、自動車のオーナーのプロフィールや他のユーザーからの評価を見ることができるので安心感につながるという。クルマの受け渡しでは、電話やメッセージ、写真やGPS情報などを送れるなど、より受け渡しが簡単にできる工夫をしているという。カーシェアリングが終わった後には、オーナーとユーザーが相互にレビューを行う仕組みだ。
プラットフォーム手数料は10%で、9月9日にサービスをリリースしてから3カ月で1500回シェアが行われたそうだ。月1回以上貸しているオーナーの場合、月に平均2.5万円維持費の軽減になっているという。カーシェアリングのコミュニティーもサービスの付加価値になっているという。「おみやげありがとう」「今度飲みに行きましょう」といったコミュニケーションが発生し、それも価値になり始めているそうだ。来春には「クルマ版のAkerun」とも言えるスマートロックを発表する予定だという。ODB2にアタッチして、Bluetoothで連携する。そうすると車をアンロックできるのだそうだ。
・おくすり宅配(ミナカラ)
自宅に薬がやってくるサービスが「おくすり宅配」だ。夜間・休日に病院が開いていなくて、治療をがまんしている、いわば医療難民になっている人は少なくないのではないだろうか。
同サービスは、自宅やオフィスで待っているだけで医薬品を届けてくれるサービス。処方箋があれば、処方薬の提供を受けられる(アプリ上で写真撮影すればよい)ほか、処方箋がなくても、症状から市販薬を薬剤師がピックアップして届けてくれる。
アプリ上で届け先を入力すれば、最短30分で届く。現在はバイクで宅配のテストを提供している。現在は朝9時から夜24時まで、山手線内の中央線より下のエリアでテスト中だ。売上単価は平均5000円。これは原価や薬剤師の人件費をぬいても500円以上の利益になる。現在8万人、再来年には10万人にもなるという薬剤師。だが資格があるのに働いていないという人も少なくない。スポットで働ける人たちをネットワーク化することも検討している。
・Popcorn(Coubic)
サロンやマッサージの当日・事前予約サービス。
クレジットカードによる事前決済で店舗側のキャンセルリスクを防ぐことができる。Popcorn限定のサービスメニューも用意。当日予約限定で割安のメニューもある。予約が埋まっている場合は、空きが出るとプッシュ通知が送られる「あいたら教えて」機能も用意。
サービスは成果報酬モデル。ポップコーン経由だけでなく、予約システム「Coubic」の顧客管理のダッシュボードを通じて、誕生日メールを送ったり、プッシュ通知したりもできる。予約数はここ2〜3カ月で30〜40%増のペースで伸びている。
対象エリアは関東を中心に550以上のオーナー。福岡でもテスト的に展開。
海外へのエリア展開も視野に入れている。
・Spectee(Spectee)
「パリのテロ情報をどこで知りましたか?」とSpecteeは問う。日本テレビの人も、Specteeで事件を知り、驚いたという声があったという。私たちは目の前で起きていることを撮影して、リアルタイムで配信することができるようになった。これは新しい報道のカタチだ。しかし、既存のメディアは、何かが起きてから報道するまで通常90分ほど時間がかかるという。つまり、ソーシャルメディア上に写真も動画があるにも関わらず、報道があるまでは空白状態になっている。このとき、ほとんどの人はネット検索をしているという。報道関係者もネットを検索しているが、正しい情報を探すのには課題がある。「パリ テロ」で検索しても、正しい情報ばかりではないし、多数の異なるSNSを検索するのは不可能だ。
SpecteeはAIエンジンで365日24時間、様々なソーシャルメディアを解析し、映像を配信している。Specteeは事件発生からユーザーに情報が届くまでの空白を埋めるための映像配信プラットフォームを目指すという。Specteeのプッシュ通知後のアプリ起動率は96%だそうだ。これは一般的アプリの30〜40%より遥かに高いという。
Specteeは報道の現場にも彼らのサービスを訴求する予定だ。例えば、NHKは4人体制で24時間ソーシャルメディアを監視しているという。彼らにSpecteeのダッシュボードを提供する。ダッシュボードから現場の映像をリアルタイムで見ることができ、映像をソートしたり、再生したりすることもできる。地図で場所を指定して検索することも可能だ。すでにテレビ局を含む2社に提供が決まっていて、東京キー局でテスト配信を開始する予定だという。報道分野は5000億円規模だそうだ。
・FITTY(スカラインターナショナル)
下着のオンラインフィッティングサービス。
実は8割の女性がフィッティングした上でブラジャーを買いたいと考えているそうだが、その半数は「フィッティングしたいが、できていない」のだという。また7割の女性が、ブラジャーのサイズ選びを間違っているのだそう。
面倒なフィッティングを、24時間誰にも見られず、専門家からアドバイスを受けられる。というのがFITTYだ。店舗などでは通常、15分かけてサイズなどのデータを集めて、20〜50点からレコメンドするが、フィッティーではたった4問(サイズ、体型、バストのカタチ、悩み)の測定、30秒で診断するのだとか。取り扱いアイテムは約500点。専門家にチャットで無料相談する機能も用意。
FITTYはまた、フィット感(伸縮性、ワイヤー、安定感、パッドの厚さなど6項目)を数値化したことも特徴なのだとか。過去データーがあるので、将来的には服を脱がずに店舗フィッティングもできるようになる世界を期待する。
・Partee(g&h)
写真やデザインをTシャツやiPhoneケースにできるサービス。デザインを投稿し、別のユーザーが利用した際には報酬を得ることもできる。ミュージシャンが写真をファンと共有してiPhoneケースにする、友だちの写真を使うといったことができる。企業やブランドのオフィシャル利用も可能だ。
作成できるのはTシャツ、クッション、キャンバスアート、トートバッグ、フェイスタオル、パーカーなど10品目。写真のサイズ・位置、色をアプリ上で調整して、サイズや数量を指定して購入できる。工場と提携しており、1点から発注し、最短3日で届くのだという。
・monomy(モノミー)
8歳でもアクセサリーブランドが持てるのがmonomyだ。monomyのスマホアプリからブランドを開設し、ユーザーは自分でデザインしたアクセサリーを販売することができる。デザインは、スマホアプリから気に入ったアクセサリーパーツを組み合わせて制作する。パーツは3000種類以上から組み合わせることが可能で、その組み合わせにはゲームエンジンを使った物理演算を活用しているという。
他のユーザーが気に入った作品を購入すると、アクセサリーに必要なパーツが運営側に届いて、職人が作るという流れだ。monomyはアクセサリーの製造、決済、梱包、配送を担うため、ユーザーが製造販売のための手間やリスクを負うことはない。さらに、monomyは36の工場と提携しているという。「ユーザー、職人、パーツ製造業者の誰もリスクがない」という。
プレリリースから2ヶ月で、monomyに登録しているブランド数は1500以上になり、掲載作品数も4233点になったという。150人以上のインフルエンサーがいて、ユーザーの中には440作品以上を提供している人気ユーザーもいるそうだ。他のプラットフォームと比較すると、手作り作品のマーケットプレイスのminnneの利益率は10%だが、monomyの利益率は50%になるという。monomyは「誰でも売れる」コマースを目指すという。
・LaFabric(ライフスタイルデザイン)
カスタムオーダーのファッションサービス「LaFabric」はオーダーメード並の品質のスーツが量販店の手頃価格の2〜5万円のレンジでオーダーできるサービス。ライフスタイルデザイン創業者の森雄一郎氏は地元岡山で繊維産業に従事していた親類の仕事が海外に流出するのに心を痛めたことが起業の背景にあるという。アパレル業界に入って気付いたのは、中間業者が多く存在してい現場の工場が儲からないこと。そこで仕組みを変えて現場の職人に活躍できる場を提供するようにした。
LaFabricのサービスでは、イタリアのカノニコなど名門の生地メーカーを含むアイテムなどから自由にに選び、ボタンやポケット、裏地など選ぶ。体型のサイズは15箇所をカスタマイズできる。このデータはクラウド上に保存されるので、2度目以降のオーダーは非常に簡単だという。採寸については、出張採寸サービスもパートナー企業と協業することで提供している。サービスリリース3カ月の実績としては、利用者の3人に1人がリピーターになるほど、という。
これまではオーダーメードスーツのみで展開してきたLaFabricだが、最近オーダーコートもリリース。ジーンズなどほかのファッションアイテムも提供していく。また詳細なサイズデータを保有することから、今後はヘルスケア分野への応用も考えられるという。
・nutte(ステイト・オブ・マインド)
ファッションアイテムを1点から作れる縫製のマッチングプラットフォーム。
アパレルの展示やステージ衣装のための職人は数万人いるが、基本的には自宅で仕事しており、下請けの存在。そのため課題になるのは大きな案件が個人だと受けられないということ。nutteは縫製職人の見える化を実現する。
プロ職人のネットワークだけではなく、家庭用ミシンを使うのセミプロのネットワークも持っているのが特徴。2月のサービスリリースからこれまで1800事業者が登録。売上は前月の4倍になっており、「発注がガンガン入ってる」(代表の伊藤悠平氏)状態。国内縫製市場は3000億円。