成長企業が陥りがちな人事・組織戦略の5つの罠——TechCrunch School #11:キーノートレポート

グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officerの高宮慎一氏

3月の「TechCrunch School #9」、7月の「TechCrunch School #10」(キーノートパネルディスカッション)に続き、HR Techをテーマとして9月28日に開催したイベント「TechCrunch School #11:HR Tech最前線(3) presented by エン・ジャパン」。第3弾となる今回は、スタートアップをはじめとする成長企業の人材戦略にフォーカスし、キーノート講演とパネルディスカッションが行われた。この記事では、キーノート講演の模様をお伝えする。

登壇したのは、グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officerの高宮慎一氏。ベンチャーキャピタリストとして、メルカリやランサーズなど、多くのスタートアップを支援してきた人物だ。キーノートスピーチでは、「成長企業の組織・人事戦略 5つのあるあると要諦」と題し、スタートアップが陥りがちな人事・組織戦略の「罠」と「対策」について、高宮氏に語ってもらった。

1. 傭兵による組織崩壊

成長企業では、事業拡大を急ぐために、スキルが高い“イケてる”人材を中途採用するケースも多いが、「全くワークしないどころか、社内をかき回して去っていった」ということがありがちだと高宮氏は言う。

「事業が組織よりも先に急拡大していくときや、スタートアップが急いで成長させようとしたときには、焦ってスキルだけで中途採用を行ってしまいがち。妥協せずに、スキルも高く、企業のビジョンやカルチャーとの適合度も高い人を採用すべき」(高宮氏)

とはいえ、スタートアップで知名度もない時期に、優秀でしかも自社に合う人が見つかることはなかなかないのも事実。その場合は「ちょっとスキルは弱いけれども教育可能で、ビジョン・カルチャー適合度は高いという人が2番目の優先度になる」と高宮氏。また急成長期を過ぎて、上場直前の準備などで、定型化されたテクニカルなスキルが必要なタイミングであれば、適合度が低くても「期間限定で、傭兵は傭兵と割り切って、スポットのコンサルタントのような役割で採るというのはあり」とのことだ。

2. 一貫性のない処遇で不平不満が蔓延

入社タイミングや前職の報酬などの違いにより、同じ職位でも報酬レベルがバラバラになり、しかも他の社員の報酬情報がなぜか互いに漏れていて、不平不満が続出することになる……というのが2つ目のスタートアップ“あるある”だ。

高宮氏は「ベンチャーや新規事業の場合、立ち上げから早い段階では、社長や責任者とのOne on Oneで処遇が決まることがあり、結果として処遇がバラバラになりやすい」と話す。「早いタイミングから、OKR(Objective and Key Result:目標と主な結果、Googleなどでも採用されている目標設定による評価制度)やMBO(Management by Objectives:目標管理)などの評価制度と報酬テーブルを用意して運用することが大事」(高宮氏)

またこうした人事制度は、単純にギャラを決める、という話だけではなく、人材育成のためのフィードバックツールにもなる、と高宮氏は言う。「人事制度は事業が小さければ小さいほど、なおざりになりがちだが、実際に各人材がどういう数字を伸ばして目標を達成し、どう事業を伸ばしていくかという、各人の目標と事業の目標との関連をクリアにするので、導入は早ければ早いほうがよい」(高宮氏)

3. ストックオプションの場当たり的な乱発

日本のスタートアップでは、証券会社や資本市場からの要請もあり、慣習として上場時のストックオプション(SO)の割合はだいたい多くて10〜15%と言われている。「その10〜15%をどう人事戦略の中で“実弾”として活用していくか。『採用したい人材が前の大企業で部長職だったこともあり、給与を下げて来てくれたからSOで払う』『今期ボーナスが少ないから、SOで払う』ということをやっていると、どんどんなくなっていってしまう。だけど、SOは経営レイヤーの人を採るときに、本当に実弾として活躍するので、戦略的に使わなければならないもの。いざ優秀なCXOクラスの人材が採れそうというタイミングで『足りない』となっても、あとの祭りになってしまう」(高宮氏)

では、どうするか。高宮氏は付与の目的やルールを明確にすべき、と言う。SOを出す目的はいくつかある。1つ目は新規事業やベンチャーの場合、採用力が低い、または報酬レベルが低い時にベースの給与の補填として出すケース。2つ目は、ベンチャーが上場までに5年10年かかったときに、功績に対する報奨として勤続年数や職位に基づいて出すパターン。3つめは、優秀な人材のリテンションのために、例えば「3年経たないとオプションを行使できない」などというかたちで出すパターン。

「自社はどういう目的でSOを使うのか。これは企業の方針になってくる。採用するとき、市場価格にマッチする報酬を現金で払うという方針もあれば、SOで払うという方針もある。また『今までありがとう(という功績)』に対して払うのか、それとも、これからもいて欲しい人に対して厚く割り当ててリテンションをかけていくのか、というのは会社の考え方・方針次第。会社の大方針として、どこにどう割り当てていくのかを設定することがまずは大事。それを運用可能な制度に落とし込んでいく」(高宮氏)

また付与のルールは、フェアにして一律に当てはめ、「万が一誰かが怒鳴り込んできても、説明ができるようにしておくのは極めて重要」と高宮氏は話す。

4. エースの突然の退職

「結果を出している人は、いろいろなところからヘッドハントもかかり、誘惑も多い。エースが『辞めたいのだけど』と言ってきたときには、既に清水の舞台から飛び降りるつもりで話していることが多く、その時点から引き留めても、もう遅い」と高宮氏。では、そういう人材を自社に引きつけておくためには、どうすればよいのか。

高宮氏は「これは結構大きな組織設計の話とリンクしていて、個人の話に留まらない」と言う。「そもそも事業の成長に合わせて、組織をどうするかを長期的な視点で考えなければならない。メルカリなどはその辺はすごくうまいと思う。1年後の事業の姿を想像して、その時にどういう組織が必要なのかを逆算して、今の組織を整えている。先読みすることが大事」(高宮氏)

1年後事業が拡大してきたら、人事部門が10人要る、と予測するのであれば、今から補充をかける必要があるし、あるいは今いるエースが1年後にはマネジャーになっていることを期待するのであれば、その人が自社で活躍するためのキャリアゴール、キャリアパスを描いて、うまくすり合わせることが本質的に大事、と高宮氏は説明する。

「その人が、自分の思い描くゴールをその会社で達成できると思う限りは、あまり辞めたいとは思わないし、それが本質的にベストなリテンションにもなる」(高宮氏)

一方で、若干テクニック的になるが、引き留め施策もある、と高宮氏は言う。「あらゆる人事評価を超えて、人事のトップや社長の頭の中で『こいつは抜けられたら困る』というリストってあると思う。抜けられたら困る人をリストアップして、その人たちだけはピンポイントでマークして、定期的に食事に行くなどをする、というのは(テクニックとして)ある」(高宮氏)

また、スタートアップなどは特に、3人ではじめた会社が10人になり、50人になり、100人になり、500人になり、とどんどん成長していくが、3人のフェーズで必要な人材と500人のフェーズで必要な人材は違ってくる。例えば、3人の時点では、全員がボランチ的になんでもやることになるが、規模が拡大すれば、それぞれの業務の専門家が必要になる。

そうした変化に応じて、「冷たいかもしれないが、経営判断として、事業の成長に追いつけない人が出てきた場合に入れ替えは仕方がない、という割り切りが必要だ」と高宮氏は話す。「昔からいる人だから温情で残す、要職に就ける、ということをすると、そこがボトルネックになる。もしくは組織の不和が生まれることになりかねない。事業を大きくして、世の中を変える大きな事を成すことを目的としている以上は、泣いて馬謖を斬る、ではないないけれども、経営者、人事のトップとしての冷たさも必要になるのではないか」(高宮氏)

さらに「エース級の人であっても、会社としてのキャリアゴールやキャリアパスがすり合わない、という人は一定数出てくると思うが、それはしょうがない。そういう人たちは快く送り出してあげるべき」と高宮氏は言う。「その代わり、そういうイケていて(企業のカルチャーなどとの)フィットネスがあることが確認されている人には、戻ってこられるような“リターンチケット”を渡しておくのが大事。『いつでも戻ってきてね、こういうことがやりたくなったらまた一緒にやろう』と言っておくことで、広義の応援団、広義の“自社”がエコシステム的に周囲ににできてくる。事業上の連携なども起こったりするので、よいことだと思う」(高宮氏)

5. 必要機能の未充足

最後の“あるある”は「ある業務ができる人材がいるから、それに合わせて組織を作る」ということを行った結果、イマイチ事業が伸びない、というケース。

「冷静に考えれば、事業を成功させようと思ったときに、その事業で勝つためには何をしなければならないか、それをブレイクダウンしていくと、組織としてどういう機能を備えるべきか、という話になるはず」と高宮氏。「事業として勝つために必要な機能を分解できれば、今度はそこに人を当てはめていけばよいという話。あくまでも、あるべき組織の姿をベースに、そこに必要な人材を求めていくべき」(高宮氏)

まずは必要な機能ありきで、理想とする組織を設計し、既存の人材をその機能に当てはめていって、空いた機能があれば当初は兼務してもらいながら、採用をかけるのが順序だと高宮氏は言う。「人がいるから組織を作る、ポジションを作るっていうのは逆だと思う」(高宮氏)

講演の締めくくりに高宮氏は「スケールしていく事業を支えるためには、組織も仕組み化することが重要。ルーティン化して定型化しなければならない」とまとめ、ただし、と付け加えた。「とはいえ組織には“人の心”が絡んでくるもの。デジタルにゼロイチで判断できるものでもないので、ブレーキやアクセルのように“遊び”の部分がいる。たとえば人事評価の仕組みにしても、杓子定規に公式に当てはめていきがちだが、最後に経営者と人事のトップが膝を突き合わせたときに、裁量で調整できる余地を残しておく。それが最終的に納得感を醸成し、経営者としての意思を込めて『この人に活躍してほしい、この人を引き上げたい』という部分を折り込むためにも大事だと思う」(高宮氏)

TechCrunch Schoolは9月28日開催、テーマは「人材戦略」——サイバー曽山氏、メルカリ石黒氏らが登壇

TechCrunch Japanが開催するイベント「TechCrunch  School」。今年はテーマを「HR Tech」に設定して、3月、7月の平日夕方から開催してきた。いずれも非常に好評で、また同時に主催する僕ら自身にも学びのあるセッションだった(過去のレポート記事はこちら「TechCrunch School #9」「TechCrunch School #10(キーノート)」「TechCrunch School #10(パネルディスカッション)」)。9月28日にその第3弾となるイベント「TechCrunch School #11:HR Tech最前線(3) presented by エン・ジャパン」を開催することとなったのでお知らせする。

これまでのイベントでは、国内HR Tech関連のスタートアップ経営者や、国内外のHR事情を知る識者らに登壇頂き、人事・労務関連業務でのテクノロジー活用、そして働き方やHR Techサービスのトレンドなどについて学んできたが、3回目となる今回のテーマはテック企業の人材戦略にフォーカスを当てたい。

今回のTechCrunch Schoolもイベントはキーノートスピーチとパネルディスカッションの二部構成となっている。キーノートスピーチでは、数多くのスタートアップを資金やノウハウの提供によって支援してきたベンチャーキャピタリスト、グロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一氏が登壇。実際の事例なども踏まえつつ、スタートアップが成長ステージごとに採るべき人材戦略について伺っていきたい。

またパネルディスカッションにはサイバーエージェント 取締役 人事管掌の曽山哲人氏、メルカリ HRグループの 石黒卓弥氏、エン・ジャパン 執行役員 寺田輝之氏の3人が登壇する。スタートアップに取材する中でも、「人材戦略を参考にしている」という話を聞くことも多いサイバーエージェント。曽山氏はその人事のトップとして10年以上にわたりその戦略の指揮を執り、また同時に人事関連の書籍なども出してきた人物。また、前々回のSchoolでも登壇頂いた石黒氏だが、メルカリと言えば、新しい人事制度を次々に発表し、スタートアップとしては攻めの人事戦略を採っている。今回もそんな同社のノウハウが聞ければいいと思っている。前回も登壇してくれた寺田氏にはエン・ジャパンの人材戦略に加えて、人材ビジネスを手がける立場から業界を俯瞰した話などもしてもらいたいと思っている。

イベント会場は、TechCrunch Japan編集部のある東京・外苑前のOath Japan株式会社オフィスのイベントスペース(通称「スタジアム」)。これまでにはTechCrunchの兄弟媒体であるEngadget日本版のイベントなどもここで開催してきた。今回は約80人の参加を予定しており、開場はこれまでより30分遅い19時(開演は19時半)に設定したので、仕事帰りにぜひとも遊びに来て欲しい。もちろん前回、前々回同様に参加は無料となっている。セッション後はドリンクと軽食を提供する懇親会も予定している。

これまで同様、パネルセッションでは質問ツールの「Sli.do」も利用する予定だ。スマートフォンからリアルタイムに質問を投稿したり、ほかの参加者が投稿した質問に対して「いいね」(私も聞きたい!という意思表示)ができるので、当日は参加者の声を聞きながらインタラクティブで熱量の高いセッションを展開してきたいと思う。人材戦略を考える起業家から、人事担当者、採用担当者の方々まで、是非会場に足を運んでいただければ幸いだ。

【開催日時】9月28日(木) 19時開場、19時半開始
【会場】Oath Japan株式会社(東京都港区南青山2-27-25 ヒューリック南青山ビル4階)
【定員】約80人
【参加費】無料(参加登録は必須)
【ハッシュタグ】#tcschool
【主催】Oath Japan株式会社
【協賛】エン・ジャパン株式会社
【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp
【当日イベントスケジュール】
19:00 開場・受付
19:30〜19:35 TechCrunch Japan挨拶
19:40〜20:10 キーノート講演(30分)
20:15〜21:00 パネルディスカッション(45分)
21:00〜21:10 ブレーク
21:10〜22:30 懇親会(アルコール、軽食)
【スピーカー】
グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officer 高宮慎一氏
サイバーエージェント 取締役 人事管掌 曽山哲人氏
メルカリ HRグループ 石黒卓弥氏
エン・ジャパン 執行役員 寺田輝之氏
TechCrunch Japan 副編集長 岩本有平(モデレーター)

「エンゲージメント」をキーワードに日本のHR Tech事情を考える——TechCrunch School #10 HR Tech最前線(2)

HR Techをテーマとしたイベント第2弾として7月21日夜に開催された「TechCrunch School #10:HR Tech最前線(2) presented by エン・ジャパン」。二部構成のうち、キーノートセッションで海外のHR Tech動向を概観した後は、日本のHR Tech事情を、サービス提供側と働くエンジニアの側の双方の視点で読み解くパネルディスカッションが行われた。

登壇したのは次の3人。1人目はエン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏。無料で採用ホームページや求人情報が作成できるクラウドサービス「engage(エンゲージ)」を提供するエン・ジャパンでは、採用のミスマッチを防ぐために「RJP(Realistic Jpb Preview)理論」、すなわち“ポジティブなこともネガティブなことも、すべての情報をゆがめることなく求職者に伝える採用のあり方”を提唱している。「伝統的なリクルーティングと違って、RJP理論に基づくリクルーティングでは、会社や仕事について良いこともネガティブなこともきちんと伝えることで、期待とのギャップが少なくなり、不満が生まれにくい」(寺田氏)

エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏

また寺田氏は、求職者が転職する際、コーポレートサイト、企業HP内の採用ページの他に、口コミサイトや口コミ検索で企業を調べることが多いと言う。「RJPを意識したら、企業の採用情報発信はどうあるべきか。求人サイトなどでは他社と横並びで比較されるため、情報発信は魅力的に行うべき。一方で求職者が口コミも見に行くことを考慮すると、企業口コミサイトには、日ごろから社員に本音を書いておいてもらうのがおすすめだ。そうした場として、エン・ジャパンでは口コミサイトの『カイシャの評判』を運営している。そして自社ホームページの採用情報には、会社や仕事のリアルな情報を掲載しておくとよいだろう」(寺田氏)

2人目の登壇者は、SCOUTER共同創業者兼代表取締役の中嶋汰朗氏。HR Techのスタートアップとして、2016年4月からCtoBの人材紹介サービス「SCOUTER」を運営する中嶋氏は「リファラル(社員紹介)採用の延長としてのソーシャルリクルーティングを、サービスとして提供している」と説明する。

SCOUTER共同創業者兼代表取締役の中嶋汰朗氏

「人材紹介市場の規模は6年連続で成長している。しかし“どんな企業でも欲しい人材”にとっては、面談の手間やエージェントを選べないことなどから、人材紹介サービスに登録するメリットがデメリットを上回る構造になっている。このため、良い人材ほど転職潜在層にいることが多い状況だ。SCOUTERは、身近な転職者を企業に紹介して報酬を得られる、副業型エージェントのサービスで、こうした潜在層を企業と結び付けている」(中嶋氏)

人材紹介会社やヘッドハンターが紹介の報酬を得るためには、厚生労働省が許認可する有料職業紹介免許が必要だが、SCOUTERでは紹介者であるスカウター(ヘッドハンター)と雇用契約を結んで、副業であっても、SCOUTERの従業員として紹介を行っている。詳しくは以前の記事でも紹介したが、採用が決まれば紹介者のスカウターには報酬が支払われ、企業は手数料をSCOUTERに支払う、というビジネスモデル。現在、登録企業が約700社、掲載求人数が約2400件、スカウター数は約2500名まで増えているそうだ。

そして働く側の視点も持つパネリストとして登壇したのは、プロダクト・エンジニアリングアドバイザー(フリーランスコンサルタント)の及川卓也氏。及川氏はMicrosoftでWindowsの開発、GoogleではWeb検索などのプロダクトマネジメントとChrome開発に携わった後、プログラマ向け技術情報共有サービス「Qiita」を運営するIncrementsへ転職。その後、今年6月に独立して、企業やNPOなどへの支援を行っている。

プロダクト・エンジニアリングアドバイザー(フリーランスコンサルタント)の及川卓也氏

「プロダクトマネジメントとエンジニアリングを両方経験したことを生かして、現在は、エンジニアの採用や採用後の育成、評価制度の導入、エンゲージメント確立といった『エンジニアの組織作り』、『プロダクトマネジメント』、そして『技術アドバイザー』の3本柱で、企業や団体の支援を行っています」(及川氏)

職務経歴書を書くのが苦手な日本人

TechCrunch Japan編集長の西村賢がモデレーターを務めたこのパネルディスカッションでは、HR Techを考える軸として「採用→教育→評価」の3つのフェーズを取り上げた。3つに共通して重要なのが「エンゲージメント」だ。

寺田氏は「採用も教育も評価もエンゲージメントを高めるためのやり方」だと話す。「(採用フェーズで)スキルマッチができていること、カルチャーフィットができる教育、エンゲージメントをキープするための評価のそれぞれが大切」とした上で、寺田氏はエン・ジャパンの「入社後活躍研究所」の調査結果を引用して「入口として重要なのは採用だ」と言う。

「日本の場合は“ミスマッチのない採用”が採用した人材が早期に活躍する、つまりエンゲージメントを高めるためには最も大切だと考える人が多い」(寺田氏)

一方で採用時のミスマッチをなくすために、採用される側にも求められる“表現力”の方はどうだろうか。

MicrosoftとGoogleにそれぞれ9年間在籍した経験を元に及川氏は、グローバル企業における日本人メンバーの特徴として「メンタリティ的にあまりアピールしない」点を挙げる。「グローバル企業は、世界のどのオフィスも同じシステムを使い、同じカルチャーを目指す企業が多い。そういう企業の場合は、日本法人にも、日本人以外や典型的な日本人じゃない人が多いこともあって、グローバルで採用されているHR系のツールもきちんと利用できていることがほとんど。だが、日本人の自己評価シートや360度評価でのアピールはどうしても控えめになってしまうこともあり、アメリカ人などと比較されると弱い。そのため『やったことは全部書く』ことを強く意識する必要がある。日本人的な謙虚さという美徳は通じない。さらに、メジャラブル(測定可能)なゴール設定・評価をやらないと埋没してしまうので、そこも気をつける必要がある」(及川氏)

「SCOUTERでは今、5000人の人材データが集められている」という中嶋氏は「優秀な人に限って、SNSでのアピールをしていない」と明かす。ではSNSを使った人材流動性が高まっていないのかと言えば、「『Wantedly』のプロフィールはちゃんと埋めている人が多い」のだと中嶋氏は言う。

及川氏は「日本人には転職に対してネガティブなイメージがある」と指摘する。「デザイナーなら、作品をまとめたポートフォリオを用意して、常にアップデートしているが、他の職種でも同じようにポートフォリオを持って、常にアップデートすることが大事だ。ただ、そういうことをしたり、LinkedInをアップデートしたりしていると、日本では『転職活動している』と思われがち(笑)。LinkedInは以前は英語ばかりだったこともあって、外資企業に行きたい人しか使わなかったし、日本にいる怪しい外資専門ヘッドハンターによるネガティブなイメージもあって避けられるようになったかも」(及川氏)

寺田氏も「日本では、レジュメ(職務経歴書)やジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を書くのが苦手なケースが多い」と言う。「管理部門やセールス部門などでは特に、スキルを一般化できない人が多い」(寺田氏)

日本企業での雇用のスタイルが、必要な職務に合わせて人材を確保するジョブ型ではなくメンバーシップ型で、人柄を重視する採用が行われることも、レジュメをデザインしようという発想を失わせる原因かもしれない。

採用側も成果が明確じゃない——日本の課題とHR Tech

では、海外のHR Techサービスはそのまま日本に持ち込めるのだろうか。それとも文化や雇用慣行の違いで、うまく当てはまらないのだろうか。

中嶋氏は、「そもそも日本の企業は、採用した後、その人がその会社にいる間に、何をやっているか、何を成し遂げているかを言語化できる仕事を与えているか、という考え方をしなければならない」と語った。「採用した人がいつまでいるのか、いつまでいるべきなのか、その期間を果たして採用する側が把握しているのか。その間に、何を(会社が)提供するのかをコミットメントしないと、(転職するにしても)外にも出づらくなる。採用側が『どこまで約束できるか』と意識を変えないとまずい」(中嶋氏)

Googleが使っていたHRツールは自社開発しているものも多く、外販さえ可能な使いやすいものも多かった、という及川氏は「日本企業に多いメンバーシップ型雇用の主な目的は安定雇用であるため、ジョブ型雇用を採用する企業向けの評価ツールを使うメリットはあまりない。ジョブ型の評価システムを採用している企業であるならば使うメリットはある」と言う。評価システムについて「外資はやはり厳しい評価制度を持つところも多いが、それはその企業とのミスマッチを見つけるためのもの。ミスマッチ、すなわちその企業内において評価が悪いということはそれが『エンジニアとしての能力が絶対的に低い』とは限らない。その会社が合わなければ出て、その後、他の企業で活躍できれば、それは本人はもちろん、その人が出た企業にとっても、入った企業にとっても、さらには業界にとっても、その人が開発したプロダクトなどを使えるお客さんにとってもいいこと。そういう意味では、本人も含めて活躍できる場と出会うための評価システムとも言える。ただ日本では、そのような評価システム、さらにはそのベースとなるジョブ型雇用が定着していないので、そのままではツールは使いこなすのは難しいだろう」(及川氏)

及川氏は「本来は、採用基準イコール評価基準であるべき。評価システムがまわっていない企業に採用はできない」とも付け加えた。

現在10カ国以上のメンバーをかかえるエン・ジャパンの寺田氏は、そうした日本の状況について「採用側も成果が明確じゃない、ということではないか。結果的にジョブ・ディスクリプションが書けない人が増えていき、人柄の話になっていくのではないか」と指摘する。

中嶋氏も「本質的なスキルと面接で評価されているところが、かけ離れている。求めているものがあいまいで、具体化されていないからだろう」と話す。

税務や会計など、テクノロジーを導入してしまうことで、仕事の進め方が変わる、というようにツールが企業に変化を促すケースもあるが、人材の分野でもこうしたことはあり得るのだろうか。

寺田氏は「よくあるのは、人事部が会社全体にひとつのツールを入れようとするパターン。そうではなく、エンジニア、セールスなど、それぞれの部門に合ったツールを入れていくやり方になっていけば、ツールは普及するのではないか」と言う。

日本で開発されているHR Techツールについて、中嶋氏は「小さなサービスはますます増えて、不足している機能の隙間は埋まっていくと思う。小さなところの方がプロダクトの立ち上げ方が早いですし」と話す。SCOUTERでのプロダクトの作り方については「海外の(ソーシャルリクルーティングの)モデルを、日本向けにかなりカスタマイズした」と中嶋氏。「中国のサービスは『登録すればカネになる』『紹介すればカネになる』と金銭重視だし、アメリカでは採用側が『こういう人をヘッドハンティングしてくれ』と求人が先に出てくるものが多い。だから日本では『人ありき』でプロダクトを作った」と言う。「日本でも、データを多く集められたところからプロダクトが大きくなっている。我々もプロダクト(の対応分野)を広げようとはしている。機能の穴はたくさんあるので、まだまだやれるところはあると考えている」(中嶋氏)

まだまだ発展途上、日本のHR Techは今後どうなるか

“日本らしい”HR Techとして、今後伸びそうなジャンルはどういったものになるのだろうか。

及川氏は「評価制度、評価システムだ」と言う。「いくつかの会社が評価制度導入を支援しているが、今あるもののは多くはスタートアップには重厚長大すぎる傾向がある。また評価制度の基礎となるのは、その会社のビジョンやミッション、そしてコアバリューなのだが、特にコアバリューはどの会社も似たようなものに成りがちである。このコアバリューもトップダウン的に創業者や経営陣が理想を掲げるというアプローチだけではなく、ボトムアップ型、リバースエンジニアリング的なアプローチがあってもよい。たとえば、エンジニアなら、スタックランキング(社員の格付け)を作ってもらうのも手だ。なぜかというと、スタックランキングとともに、なぜあるエンジニアの評価を高くしたかを説明してもらったときに、『あの人はコーディングが早い』『この人はコーディングが遅い』というように“コーディングの速さ”が頻繁に共通するキーワードとして出てくるなら、それはその企業のコアバリューの1つとしてプロダクティビティがあると考えられる。このようにいくつかの共通キーワードを抽出していくことでコアバリューを作り上げ、それを評価制度に取り入れればよい」(及川氏)

寺田氏は「関係性を作れるサービス」が伸びそうだと考える。そのわけを寺田氏は「今後労働人口が減っていく中で、関係性の維持は重要だ。転職した人の数は平成25年で484万人いて、そのうちの約30%は広告経由での転職だが、実は縁故も(約25%と)多い。だから効率化でなく、関係性を築くサービスにも注目している」と話している。

「社内でも社外でも、関係性を作れるということで言えば、SCOUTERも、キーノートで登壇した鈴木さんのところのアルムナイリレーションも面白い。関係性を作れるサービスには、コミュニケーションツールも含まれる。『CYDAS』の社員同士のエンパワーメントができて、お互いを知り、己を知るツールも伸びていくんじゃないだろうか」(寺田氏)

「エンゲージメントは、日本語にすれば“絆”と言ってもいい。愛社精神、というと前時代的でちょっとイヤな感じもするが(笑)、絆があることで、居場所を自分たちで作る意識が強くなっていくと思う」(寺田氏)

スタートアップ企業にも、HR Techは必要だろうか。この問いに及川氏は「絶対必要だ。採用では特に」と言い切る。「個人情報が絡むので、ちゃんとしたツールを入れるべき。スプレッドシートなんかでやると、アクセス権を設定するのが大変になる。また、多段階の採用面接などでは、バイアスがかかるので、前に面接した人は評価した内容を次に面接する人に伝えるべきではない。こういうときにATS(採用管理システム)なら、はじめから適切なアクセス権設定が行える」(及川氏)

中嶋氏も「最初にツールを入れておかないと後で大変になる」と、スタートアップである自身の経験から述べる。「ツールを入れていた部分もあるが、社員数が4倍になって、入れていなかった部分で大変になっている。ツールは成長のスピードに合わせて変えていくべきだ。『導入したけど使ってない』といった問題もよく見るが、ルールを設けなければ続かないもの。ツールは最初に入れる、運用は最初は(経営者が)細かく見る、習慣化されるまで続ける、ということが必要」(中嶋氏)

寺田氏は「起業しても小さいままでいいならツールは入れなくてもよいが」としながらも、やはり「スタートアップから発展させて成長したいなら、絶対に入れた方がいい」と言う。「スタートアップでは、投資できる期間や金額が限られている。どういうサービスになり、どうあるべき姿になりたいのかを考えて、今やれることを逆算して、適切なものを順番に入れていくことが大事だ」(寺田氏)

最後に日本のHR Techについて、中嶋氏は「日本のサービスはまだまだ発展途上だと考えている。一方、企業の方でも、今の組織の課題が本当にどこにあるのか、共通認識を企業として持たなければ、ツールが使いこなせない。人事権の持ち方、経営者の問題認識などは、会社によってさまざま。それを明確にすることが大切だ」とした。

また、寺田氏からは「どんなツールを使うかの前に、企業としてどうなりたいかが大事。採用は目的ではなく、その手段」とのコメント。「エンゲージメントを高める必要があるなら、様々なツールを駆使して必要なことをとことん、いろいろやっていくべきだ」(寺田氏)

海外人材コンサルのプロが語った海外HR Techトレンド、9つのポイント——TechCrunch School #10 HR Tech最前線(2)

3月の「TechCrunch School #9:HR Tech最前線」に続き、HR Techをテーマとしたイベント第2弾として7月21日に開催された「TechCrunch School #10:HR Tech最前線(2) presented by エン・ジャパン」。イベントは海外のHR Tech市場のトレンドを探るキーノート講演と、日本の現状やこれからのHR Tech動向を読み解くパネルディスカッションの二部構成で行われた。

海外HR Techの最前線を概観するキーノート講演では、ハッカズーク・グループ代表の鈴木仁志氏が登壇。北米のサービスを中心に、日本には入ってきていないサービスも含め、海外のHR Tech事情とトレンドを紹介した。

ハッカズーク・グループ代表の鈴木仁志氏

鈴木氏は人事・採用のコンサルティング・アウトソーシングのレジェンダ・グループのシンガポール法人で、最近まで代表取締役社長を務めていた。海外のHR Tech動向に明るく、TechCrunch Japanでも以前、HR Tech Conferenceのレポートを寄稿してくれたことがある。

レジェンダ時代には、顧客の採用・人事制度のコンサルティングを業務として行うほか、経営者として人事を見る経験もあり、候補者リレーションや従業員との人事エンゲージメントも手がけていたそうだ。2017年7月レジェンダを退職してハッカズークを設立し、「社員が辞めた後も含めた、会社と社員の絆を永続化させたい」との思いから、会社とアルムナイ(会社のOB/OG)をつなぐプロダクト「Official-Alumni.com」を開発中で、現在事前登録を受付ながらアルムナイに特化したメディア「アルムナビ」を運用している。自身がアルムナイとなったレジェンダには、フェローという立場で関わり続けている。

講演では、鈴木氏が海外HR Techのトレンドから9つのポイントをピックアップ。人事イベントの時系列を横軸に、企業規模を縦軸に取った「HR Tech『ゆりかごから墓場』マップ」を見ながら、それぞれのトレンドを解説した。

ポイント
1. Engagement is KINGだ。 エンゲージメント・ツールが来る
2. HR Techは「プロセス・ツール」から「エクスペリエンス/エンゲージメント」に
3 .「ヘルスケア」「Well-being」関連が来る

鈴木氏によると、海外HR Techで最もホットなキーワードは「エンゲージメント」だとのこと。「全てのHR Techはエンゲージメントに通じる。社員のエンゲージメント管理がツールとしては一般的だが、採用候補者のエンゲージメント、アルムナイのエンゲージメントを高めることも重要になっている」(鈴木氏)

「社員を対象としたエンゲージメント・ツールには、エンゲージメント向上とエンゲージメント測定を目的としたものがある」と鈴木氏。オーバーラップする部分もあるが、マップ上では「Recognition(レコグニション:社員の承認・表彰サービス)」「福利厚生」「Well-being(ヘルスケア/健康管理)」のエリアに配置されているツール群がエンゲージメント向上ツール、その下の「カルチャー・エンゲージメント測定/ワークフォース分析」のエリアに配置されているのが測定ツールに当たる。

エンゲージメント向上ツールとエンゲージメント測定ツール

「ソーシャルレコグニション・ツールには、ピア・ツー・ピアで『ありがとう』を伝えるもの(「Achievers」など)や、360度評価の中でボーナスポイントを相手に付けられるもの(「Bonusly」など)といったものがある。福利厚生サービスでは、「AnyPerk」(2017年4月に社名をFONDに変更)のカフェテリアプランはよく知られているだろう。ヘルスケア/Well-being関連の「Virgin Pulse」はVirginグループ傘下のサービスだ。ウェアラブル端末とアプリのセットというのが王道で、B2Cの個人向けで主流なFitbitなども、一時は株価低迷で苦戦していたが、市場でBtoBサービスに脚光が当たる中で、エンゲージメントを高める施策を提供していることが再評価されている。Well-being分野が盛り上がっている背景には、企業のヘルスケア部分のコストが下がる効果もあるが、社員のエンゲージメント向上がより注目されていることも理由となっている」(鈴木氏)

こうしてエンゲージメント向上に寄与するツールが多く導入されるようになったことで、「向上したかどうか、当然測定もしなければ、ということで、測定ツールの導入も増えている」と鈴木氏は説明する。

ポイント
4. 細分化されたスタンドアローンサービスが増える一方で、システムの統合が起きる

「日本のスタートアップで言えば、『freee』が会計だけでなく、給与計算から労務管理まで幅を広げてきたようなプラットフォーム統合が、海外のHR Techでも盛んに起きている」と鈴木氏は言う。「小規模でも大規模でも起こっているのが、これまでになかった機能の隙間を埋める新しい機能が提供されて、機能の細分化が起きた後に、それらが統合される動きだ」(鈴木氏)

再び「ゆりかごから墓場」マップを眺めてみよう。「実線は買収の動きで、例えば(マップ右上の)ORACLEは2004年に評価・育成システムのPeopleSoftを買収、そして2012年には採用管理システムの『Taleo』を買収して、採用から評価・育成まで対応する統合型人事管理システムを提供するようになっている。このような買収は、持っていなかった機能を追加して領域を拡大する場合だけでなく、すでにある機能をリプレイスして改善することもある。」(鈴木氏)

また買収に加えて、freeeのようにサービスを広げていくことで、システム統合を図る傾向もあると、鈴木氏は話す。「マップの破線は提供する機能を増やして領域を拡大したサービスのほんの一例。福利厚生サービスから始まったAnyPerkが現在は社名をFONDに変え、レコグニションサービスの「FOND」やカルチャー・エンゲージメント測定サービスの{EngagementIQ」も提供するようになった。これはある種、当たり前とも言える動きで、エンゲージメントを高めるサービスを提供する会社は、エンゲージメントを測定する機能も提供しよう、ということになるし、逆にエンゲージメント測定サービスの提供側は、エンゲージメント向上機能も提供するようになる、ということで、このような領域拡大はここでは表しきれないくらい頻繁に起きている」(鈴木氏)

「(ERPクラウドの)『Workday』も、2014年までは採用管理システムは扱っていなかったが、今ではリファラル採用(社員などによる紹介採用)まで扱うようになっている。リファラル採用やビデオ面接などスタンドアローンプレイヤーが多く存在する分野については、採用管理システムの『Jobvite』も対応を広げているほか、フリーランスなどの管理プラットフォームを提供するフランスの『PIXID』が今年、ソーシャル・リファラル採用ツールの『ZAO』を買収する動きもあった」(鈴木氏)

採用管理ツールについてはこのイベントが行われる数日前の18日に、Googleが新サービス「Hire」を公開したことも話題に上った。「GoogleがHireで採用管理システムの領域に進出したが、過去にもCRMやオフィスツールを提供している『Zoho』が採用管理システムに進出したように、人事系システムを提供していない会社が採用管理システムに進出することはあったとにかく、HR Tech分野では、歴史的にスタンドアローンサービスが機能の隙間を埋めるように生まれては、統合を繰り返している」(鈴木氏)

ポイント
5. Data-Drivenだ、 Big Dataだ、 Bigger Dataだ、 Real-time Dataだ、 Reliable Dataだ
6. ディスラプティブな評価ツールが来る

続いては、データドリブンへの潮流と、評価ツールについて。人事管理でも、クラウドツールを使うのは当たり前となった今となっては、ビッグデータ分析から、さらにリアルタイム性のあるデータが求められている、と鈴木氏は話し、評価ツールを一例にあげた。「パルスサーベイ(短いスパンで簡単な質問を繰り返し社員に行う意識調査)を実施することで、常にリアルタイムに把握し、評価・教育にタイムリーにつなげることが大切になっている」(鈴木氏)

一方、Reliable Data(信頼性の高いデータ)を収集することは、人事ではなかなか難しい、とも鈴木氏は言う。「社員が人事に提出する自己申告データはバイアスがかかりやすい。例えば『もう転職しよう』と思っている社員が『会社にどの程度不満がありますか?』と質問されたら、『すごく不満がある』という選択肢は選ばずに『まあまあ』ぐらいを選ぶ可能性が高いでしょう? 意図がバレればバイアスがかかる。単に頻度を高めてもバイアスがかかっては意味が無いので、どうするか。複数のデータを合わせることで信頼性を高められる。プライバシー問題もあるので簡単ではないが、評価データや自己申告データに加えて、ウェアラブルツールによる脈拍のデータとか、会話分析による感情分析とか、ビッグデータを増やしていく方法です」(鈴木氏)

鈴木氏は「できる人事は昔から情報通だった」と言う。「事業部門で厳しかったマネジャーが、人事部門に配属されたとたんに冗談を言うようになって、会社のあちこちに頻繁に顔を出して、無駄話をしていくようになった、なんていうことはよくあること。これは社員に警戒させないように接することで、社員の本音や人間関係などのデータがたくさん入ってきやすいようにしているわけです」(鈴木氏)

ポイント
7. 採用管理システムの大量乗り換えが来た
8. AIだ、 RPAだ

次のトピックは、採用管理システム分野の動向、およびAIやRPA(Robotic process automation:ロボットによる定型業務の自動化)と採用業務との関係について。

「リファラル採用もそうだが、採用手法が変化したことによって、採用管理システムのワークフローが変わり、リプレイスにつながっている。これは、候補者のエンゲージメントを高めるために、UI/UXを追求することが必要になってくるためで、その時その時に主流の採用方法に合わせて作ったツールの方が実際のプロセスとの相性が良いからだ」(鈴木氏)

例えば、TaleoやJobvite、「iCIMS」といった採用管理システムはいまだに大きなシェアを持ってはいるが、最新の採用手法に合わせるために新機能を常に追加している状況だと鈴木氏は言う。「プロセス中心だったシステムに新機能を追加していきながら、UXも高めるというのは難しいことだ」(鈴木氏)

そうした中、後発として現れた「Greenhouse」や「Lever」は、「Airbnb」や「Evernote」、「Shopify」といったジャイアントスタートアップと一緒に成長できたと鈴木氏は話す。「Taleoなどを使っているユーザー企業はデータが多く、マイグレーションが大変だった部分もあってリプレイスはなかなか進んでいなかったが、こうした新しいサービスへの乗り換えが始まってきている」のだという。

企業規模と、候補者集めや採用のためのツールとの関係については、鈴木氏はこう述べる。「コードベース採用は1名からでも使える手法だ。クラウドソーシングも企業規模と関係なく利用できる。だが、タレントアグリゲーション(候補者のリストアップサービス)はどうか。リクルーター業務がRPA的に自動化されていて、候補者からエンゲージメント高く返事をもらうにはよい仕組みだと思う。ただ、小さい会社が、タレントアグリゲーションサービスを使う必要はないかもしれない。とはいえ、タレントアグリゲーションなど大手向けのサービスについて、『どういう仕組みでこれをやっているのか』をひもといていって、例えば(SNSからの人材ピックアップなどRPAがやっていることを)手動でやるとか、分解していくと小さい企業にとっても参考になるだろう。こういった自動化されているサービスは、ベストプラクティスやプロリクルーターのナレッジの集積だ。」(鈴木氏)

ポイント
9. Contingent Workforceだ、 Agile Workforceだ、 Gig Economyだ

最後に取り上げられたのは、オンデマンド雇用や副業、クラウドソーシングも含んだ柔軟な雇用「Gigエコノミー」についてと、採用とアルムナイリレーションとの関係について。“採用活動における候補者リレーションに始まり、社員リレーションを経てできたつながりが、辞めたらなくなるのはもったいない”ということで、会社OB/OGとの関係を考えるのがアルムナイリレーションだが、このアルムナイリレーションは、採用とも関連するのだと鈴木氏は言う。

「『出戻り』とも言われる再雇用や採用候補者をOB/OGに紹介してもらうなど、アルムナイと採用が直接関係するケースも、もちろん増えている。さらに(正採用だけでなく)Gigエコノミーの中でもアルムナイとのつながりは大切だ」(鈴木氏)

「アメリカではフリーランスの割合が40%だが、日本では10%。Gigエコノミーの中心になっているのは、就業時間外に副業で業務を行う『ムーンライター(moon lighter)』だ。PIXIDなどは、そうしたムーンライターやフリーランスの管理ツールも作っていて、それが採用につながっている」(鈴木氏)

また鈴木氏は、クラウドソーシングやフリーランス活用により、人事のくくりが変化している、とも指摘する。「フリーランス支援ツールの『Bonsai』などを見ていると、人事の仕事が採用というよりも、購買やプロジェクトマネージメントと重なってきている。そういう動きの中でも、アルムナイとのつながりは重要になってくると考えている」(鈴木氏)

最後に、鈴木氏の講演資料をまとめ他Slideshareを紹介する。また後半のパネルディスカッションについては後日レポートする予定だ。

7月21日開催のTechCrunch School参加受付中、グローバル・日本双方のHR Tech最前線を知る

3月に開催した「TechCrunch School #9:HR Tech最前線」は多くの読者に来ていただいて大変好評だった。その第2弾として7月21日金曜日夕方に、さらにHR Techをテーマにしたイベント「TechCrunch School #10:HR Tech最前線(2) presented by エン・ジャパン」を開催することとなったのでお知らせしたい。

前回のTechCrunch Schoolでは国内HR Tech関連のスタートアップ経営者にお集まり頂いて、人事・労務関連業務でのテクノロジー活用についてお話いただいた(レポート記事)。2回目の開催となる今回は、いったんグッと海外に目を向けて、働き方やツール・サービスの進化のトレンドを探り、その後に日本の現状と今後のHR Techを見通すという2部構成を予定している。

前回のTechCrunch Schoolの様子

 

イベント会場は、東京・八重洲口にオープンしたばかりのコワーキングスペース「Diagonal Run Tokyo」をお借りする。サッカー用語の「ダイアゴナルラン」を冠したこの施設は、「地方と東京」「大企業とスタートアップ」を繋ぐハブとして誕生したばかりで、入居企業以外にもイベントスペースを貸し出している。今回は100人前後の参加規模を予定していて、夕方6時半に開場となる。参加は無料で、懇親会ではドリンクと軽食が出るので仕事帰りに気軽に参加してほしい。

PCやモバイル、小型デバイスの普及によってソフトウェアによる変革は多くの産業に及び始めているが、もともと情報処理と相性の良い金融などと違って、人材系サービスのイノベーションは、まだその端緒についたばかりのようにも見える。理由はいろいろあるが、人間というのがアナログで曖昧な存在であることや、そうしたモヤッとしたヒトや組織といった対象のデータ化が遅れているという側面があるのだろう。とはいえ、人材サービスはどんどん新しいものが国内外とも出てきているのはTechCrunch Japanでも日々お伝えしているとおり。

北米市場のHR Techには「トランザクションからデータドリブンへ」という流れがある―、そう指摘するのは、今回キーノートセッションをお願いしている鈴木仁志氏だ。鈴木氏は人事・採用のコンサルティング・アウトソーシングのレジェンダ・グループのシンガポール法人で代表取締役社長を務めていた人物だ。クラウド採用管理システム「ACCUUM」を提供するかたわら、海外のHR Techイベントに足を運ぶなど界隈の動向に明るい。鈴木氏には以前、HR Tech ConferenceのレポートをTechCrunch Japanに寄稿して頂いたことがあるが、今回も海外トレンドと事例を概観する講演をしていただける予定だ。また鈴木氏自身、レジェンダを退職して起業。自らHR Techの分野で「Official-Alumni.com」という、企業とアルムナイ(会社のOB/OG)を繋ぐプロダクトを準備中だそうなので、HR Techを語っていただくのに最適な人物だと思う。

さて、キーノートセッションで海外のHR Tech動向を概観した後に、じゃあ日本はどうなんだろうという話ができればと思う。「採用→教育→評価」という3つのフェーズに大きく分けて、どういうサービスが出てきていて、どういう領域が面白いかといったことをディスカッションする。このパネルセッションの登壇者は、日本有数の転職サービスに加えて採用支援ツール「engage」や、会社の口コミサイト「カイシャの評判」も提供するエン・ジャパン 執行役員の寺田輝之氏、それから「ソーシャルヘッドハンティング」と呼ばれる新たな領域を開拓しつつあるSCOUTERの創業者で若手起業家の中嶋汰朗氏。そして働く側から視点も持つパネラーとして及川卓也氏もご登壇いただく予定だ。及川氏はGoogleでChrome開発に携わっていたことで知られるシニア・エンジニアで、DEC、Microsoft、Goolgeとエンジニアチームをリードするという立ち位置で仕事をしてきている。さらにGoogleからスタートアップ企業への電撃移籍が話題になった。自身のキャリアデザインという面と、採用や評価といった両面でお話いただけるのではないかと期待している。特に外資系かつ独特なワークスタイルを持つGoogleでの経験など、ぼくも聞きたい話がたくさんある。

前回と同様にパネルセッション中はスマホから簡単に質問を投げることができるツール「Sli.do」を利用予定だ。ほかの参加者の質問に「いいね」(私も聞きたい!という意思表示)ができるので、皆さんが登壇者に聞きたい質問を会場でシェアしながら話を進めていく参加型のイベントにできればと考えている。当日の参加者にはHRやスタートアップ領域で仕事をしている人が多いことから懇親会も話に熱が入るので、ぜひセッション後も残って他の参加者と交流をお楽しみいただければと考えている。

HR Techでの起業や新規サービスを検討している人はもちろん、現場の人事担当者、採用担当者の方々にも是非会場に足を運んでいただければ幸いだ。

イベント参加登録はこちら!

 

【開催日時】7月21日(金) 18時半開場、19時開始
【会場】ダイアゴナルラン(東京都中央区八重洲2丁目8−7 福岡ビル4F)
【定員】80〜100人
【参加費】無料(参加登録は必須)
【ハッシュタグ】#tcschool
【主催】 AOLオンライン・ジャパン株式会社
【協賛】エン・ジャパン株式会社
【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp
【当日イベントスケジュール】
18:30 開場・受付
19:00〜19:05 TechCrunch Japan挨拶
19:10〜19:40 キーノート講演(30分)
19:45〜20:30 パネルディスカッション(45分)
20:30〜20:40 ブレーク
20:40〜22:00 懇親会(アルコール、軽食)
【スピーカー】
ハッカズーク・グループ代表 鈴木仁志氏
SCOUTER共同創業者兼代表取締役 中嶋汰朗氏
エン・ジャパン 執行役員 寺田輝之氏
プロダクト・エンジニアリングアドバイザー(フリーランスコンサルタント)及川卓也氏
TechCrunch Japan編集長 西村賢(モデレーター)

 

HR Techの現状と未来を語る──TechCrunch School #9 HR Tech最前線 イベントレポート

人材(ヒューマン・リソース)分野へのテクノロジー適用の現状と未来を語るイベント「TechCrunch School #9:HR Tech最前線 presented by エン・ジャパン」が3月14日夜、TechCrunch Japanの主催で東京・外苑前にて開催された。HR Techサービスの提供者や人事・採用担当者を中心に100名以上の方に来場いただき、4人の登壇者の熱いトークもあって、活気あふれるイベントとなった。そのパネルディスカッションの様子をお伝えする。

まずは登壇いただいたスピーカーの4名から、各社のHR Techへの取り組み、トピックスについて紹介してもらった。モデレーターはTechCrunch Japan編集長の西村賢。

サイダス代表取締役:松田晋氏

組織内の人材の見える化と最適配置を進められるプラットフォーム「CYDAS(サイダス)」を提供する松田氏からは、今後のサービス構想について踏み込んだ紹介があった。

「人材プロファイル管理のサービスをやっていて気づいたことがある。より使いやすくするためには、人の活動データや行動情報を集めなければならないということだ。そこでソーシャルアプリで得られたデータをAIに蓄積し、CYDAS HRへ反映する、という構成のサービスを6月にリリースする予定だ(下図)。外部アプリケーションも含め、いろいろなアプリとつなぐことで、いろんなことができると考えている」(松田氏)

 

エン・ジャパン執行役員:寺田輝之氏

無料で簡単に人材採用ホームページが作成できる「engage(エンゲージ)」を提供する、エン・ジャパンの寺田氏は、HR Techで実現したいこととして「入社後活躍」の推進を挙げている。

「採用された人が入社後、会社と合わずにすぐに転職すれば、採用サービス側からしたら儲かるが、それはやっちゃいけない。絶対やらない」という寺田氏は「海外も視野に入れながらHR Techを進めている。入社後活躍につながる取り組みとして、求職者側の情報収集先として最もニーズの高い“口コミ”“企業内の採用ページ”を、それぞれ口コミサイトの『カイシャの評判』とクラウド型の採用支援システム『engage』として提供している」と話す。engageの主な利用企業はスタートアップで、うち採用サイトを用意していなかったという企業が3割になるそうだ。

KUFU代表取締役:宮田昇始氏

労務関連手続きを自動化するクラウドサービス「SmartHR」を提供するのがKUFUだ。SmartHRは労務書類の作成と電子申請を機能としてスタートしている。そのSmartHRの現況をKUFUの宮田氏が説明する。

SmartHRは現在は労務を広くカバー(下図)し、利用企業は3700社超、社員数1600名規模の企業でも導入されているという。「労務の時間が3分の1になり、担当者がリモートワーク導入など新制度の導入に時間を割けるようになったことで、社員6割の生産性が向上した例もある。現在は、SmartHR APIによって、給与計算や勤怠管理、チャットツールなど、各社の既存システムとのつなぎこみや他社ベンダーとの連携も進めている」(宮田氏)

メルカリ HRグループ:石黒卓弥氏

そして今回、HR Techのユーザーサイドとして参加したメルカリの石黒氏。メルカリでは企業情報発信に力を入れていて「サイト『mercan(メルカン)』で毎日情報発信しているので、皆さんぜひ見てください」とのことだ。

「メルカリでは“新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る”をミッションに掲げ、『Go Bold』『All for One』『Be Professional』をバリューとしている。そこでHRグループとしては『当社にとって価値のある優秀なメンバーを集めること』『メンバーが思いきり働ける環境をつくること』『思い切りやったことに対して、適正に評価すること』をミッションとした」と石黒氏は言う。「ここ3四半期ほどは、入社社員の2〜3割はイングリッシュ・スピーカー。HR Techに関してはSmartHRなど、いろいろと取り入れている」ということだ。

HRツールの導入・運用コスト、どう考える?

HR領域の業務は求人・募集から入社後のタレントマネジメントまで幅広い。統合的にこれらを扱おうというパッケージもあれば、今回の登壇者企業が提供するような個々の業務に特化したサービスも存在する。HR領域の市場は、個別のサービスの長所を組み合わせた“ベスト・オブ・ブリード”モデルになるのか、それとも特定ブランド下に集約されるのだろうか?

SmartHRの宮田氏は「ユーザー側に立ったら、理想は1ブランド集約だが、いざベンダー側に立つとHRの全領域をカバーするのは無理」と話す。「確かに米国のWorkdayのように規模が大きく、扱う業務の幅も大きなサービスもある。だが、個別業務に必要な機能に対して“とがって”ちゃんと価値を提供しなければ、と思うと、網羅的なサービスにはなかなかできない。SmartHRにしても、やればやるほど奥が深く、下手に他に手を出すとどの機能も中途半端になってしまう」(宮田氏)

宮田氏が言うには「今取れるべき戦略は“とがったものをつないで使いこなす”のがいいのかな」とのこと。「労務データの入力と電子申請書類の提出だけなら単純かと言えばそうでもなく、日本の法律に沿った運用をしていると複雑な条件分岐があって、これは地道に開発を進めるしかない。SmartHRでは機能追加などについては、5社以上の要望がなければ検討に入れない。ただ、アウトプットが役所への手続きということで最終的には同じなので、同じような要望が挙がりやすい」(宮田氏)

サイダスの松田氏も「CYDASも全面展開に見えて実はそうじゃない。既存のソーシャルアプリがあるなら、それとつないでください」と言う。「CYDASが大事にしているのは情報。顧客には大手企業が多く、たいていは既にERPが導入されている状態だが、やりたいことができない、APIが提供されていない、ということでCYDASを使いたい、と言ってもらっている。使いやすいもの同士をつなげて、ちゃんと活用していけばいいんじゃないかと思うので、1社で完結していいということはない」(松田氏)

では、HRツールの存在そのものの意義についてはどうか。社員10人規模の企業でツールを入れる理由はあるのか。Excelで管理していればよいのでは?という問いに対し、宮田氏は「SmartHRについては10人未満の企業でもニーズがあると思う。導入が楽で、チャットサポートぐらいで、セルフサービスで使い始められるので、経営者の労務関連の学習コストを下げるために使われている。そういう意味ではExcel、手書き、郵送、メールが競合ツール」と答える。

労務自動化によるコストメリットについて宮田氏は「顧客にとっては金銭的なコスト削減より、時間コストの削減の影響が大きい。また経営側から人事部門に、労務事務よりも採用や働きやすい環境作りに時間をかけて欲しいという要望がある」と話す。

一方、松田氏は「CYDASは、イニシャルコストを考えれば10人規模だと必要ない」と言う。「目的に応じてつないでいく使い方ならいいと思う」(松田氏)

社員マスターをExcelで管理する企業も、特に小規模では多いが、これについてはどうだろう。

顧客企業の社員マスターを見てきた経験を、宮田氏はこう話す。「マスターとして使われてきたExcelが担当者を渡り歩くうちに“秘伝のたれ”みたいになっていって、もうその人でなければ触れないみたいなことも(笑)。データが正規化されていない状態が多い。SmartHRのユーザー企業は50名〜1000名弱の規模が多いが、導入時に半分はExcel管理で、2割は何も管理していない。うちでも3人でスタートした時には人事マスターなんてなかった」(宮田氏)

メルカリの石黒氏も、2015年に60人規模だったメルカリにジョインした際には、ツールはなく、Excelが社員マスターだった、と振り返る。「当初はExcelを使い続けていたが、ツールは一人目から入れた方がいい。これは間違いない。でも後回しにしちゃうんだよね、移行ができないから。ただ最初にフォーマットがあれば、後の人はそれに倣ってくれるので、そろえるなら早いほうがいい」(石黒氏)

顧客に大手企業も多いサイダスの松田氏は「大手でも社員マスターはけっこうみんなムチャクチャで、データの整理に時間がかかる。ツールを入れていても、実はマスターがまだまだできていないこともある。半角カナなどの影響で、元々あったERPがいたずらしていることもある」と打ち明ける。「データクレンジング専門の人事データマネジメントという仕事が出てくるかも」(松田氏)

応募・採用のミスマッチはテクノロジーで防げるのか?

続いての話題は、応募・採用について。求職者が企業の情報を検索して調べられる時代、企業はどのように情報を発信していけばよいのか。

エン・ジャパンの寺田氏は、応募と採用のミスマッチが起こる原因について「ミスマッチが起こる理由はさまざま。どう防ぐのかはアメリカでも研究が進んでいるが、採用側の企業は応募者の情報を確認することができるのに対し、求職者は意思決定するための情報を得られないという非対称がある」と話す。「企業の考え方にもよるが、engageを利用するスタートアップや中堅企業の場合、情報を出したくても出せなかったり、何を出せばいいのか分からないというケースが多い」(寺田氏)

ソーシャルリクルーティングにしてもリアルではない、と寺田氏は言う。「人事が“ココを(発信する情報として)使う”と決めて出されている採用情報は多い。ソーシャルでも自社の情報をどれだけ出せるか、どれだけ発信していくかが大事」(寺田氏)

メルカリの石黒氏は「キラキラした写真ばかりが出ている会社が多く、リアリティがない。いい社員のいいエピソードと写真を出した方が求職者も多く来るのは事実なんだけど」とミスマッチの理由について話す。「メルカリでは自社メディアmercanをつくって、10カ月運用してきた。執行役員の経歴のようなしっかりした記事もあれば、毎日のお茶目な日常の記事もあって、ありのままを伝える努力をしている。将来的にはHRソーシャル運用者を採用したい。グローバル採用が進む中で、口コミなどでイヤな体験もいい体験も表に出やすくなっているので、それをマネジメントする担当者がいればと思っている」(石黒氏)

口コミについては、寺田氏がこう話している。「口コミはどうしても評価が偏っていく。そんな中で、発信する情報全部がカッコいい必要はない。企業で、その人たちがいいと思っていることを発信すればいい。思ってもいないことを出すから合わない人が来る。自分たちの言葉で自分たちの情報を出すのが大事。ジョブディスクリプションの出し方については、海外だとglassdoorとかも参考になるかも」(寺田氏)

HR Techという観点からは、採用時に集めたデータの活用で、採用失敗の予測ができるのか、といったところも気になるところだ。API連携によって、採用後の予測ができる未来は来るのだろうか?

「入社前のデータと労務データが一緒になることで、どのメディアを経由して来た人が長続きしているかは一気通貫で見ることができるだろう」と言う宮田氏に、松田氏は「SmartHRのデータと採用適性検査などで、予測ができるようになっていくかもしれない」と期待を膨らませる。「海外ではAIと連携して分析するサービスも出ているので、そういう時代になると思う」(松田氏)

石黒氏からはHR担当の目線から「メルカリでは全員に履歴書情報があるわけではない。担当者目線では、エントリーシートの項目を増やして書かせることで情報はたまるが、書かせるATS(応募者管理ツール)は応募のハードルを上げてしまう。OCRを使った履歴書解析ツールとかがあるといいかもしれない」との希望が。

また、寺田氏は「エン・ジャパンには、知能テスト、性格価値観テストを受けた90万人のデータがあるが、テストはテスト。SmartHRなどとデータを連携して、入社後のパフォーマンスが出せれば」と話す。履歴書データと知能検査のデータを並べて管理することに関する倫理的な課題については「求職者の側にも結果の情報を提供していくのがよいと思っている。不採用の理由が性格の傾向や価値観のところで分かることは、求職者にとっても役に立つと思う。双方向に情報が見られるならフェアだし、お互いの不幸が減る」と寺田氏は言う。

採用後の人材活用とツールの使いこなし方、人事評価について

採用後の人材活用についても話を聞いてみた。ありがちなのは、採用担当と労務担当が別々で、システムも分断されているケースだ。

「確かにメルカリでも、SmartHRと採用管理システムの『Talentio』とのAPI連携は利用しているが、採用と労務とで人・システムとも現状では連携していない」と石黒氏は言う。「システム連携については、Facebookログイン機能みたいに、人事労務管理に関するキーとなるIDを扱うプレイヤーが勝てるのではないか。根っこのIDを取れば認証ができて、(役割やシステムの)分断を意識せずにやれればよいのだが」(石黒氏)

HR Techでは米国に対し、数年は遅れを取っているといわれる日本。ビッグデータを活用した組織や人材の最適化、AIの活用は今後進むのだろうか。

サイダスの松田氏は「AIを使う時代は来る。でも、人が見て何か判断しなければいけないので、システムからの通知が重要だ」と言う。「CYDASのデータとAIを重ねると、適材適所の配置とかいろいろ見えてくるものがある。でも(その配置を)決めるのは誰か。ツールを使いこなせる人だろう。自分自身は分析が好きでシステムを使い倒していると思うが、お客さんは違う。なので(お客さんがツールを使いこなしやすいように)システムを作り直している」(松田氏)

エン・ジャパンの寺田氏は「仕事は、どの会社でも異なるタスクの集合体になっていて、タスクとタスクは重なり合っている。人間の仕事をAIに置き換えられるとはいっても、実は兼任などの重複カバーを考えると置き換えは難しい」と採用の観点から、業務の切り分けの難しさとテクノロジーによる人材活用との関係について話す。「人材を活用するためには、タスクの可視化を、それぞれの企業や人事担当が分かっていなければならない。日本では難しいとされるジョブディスクリプションが発展していくと、AIの導入もしやすいかも」(寺田氏)

HR Techの遅れを取り戻すにしても、北米発祥のグローバル企業のツールは、日本企業の風土に合うのだろうか。

メルカリの石黒氏はこの点について「複雑な問題だ。日本企業の人事担当者に英語が得意な人がいないとか、『このボタンは右にあった方がいい』といったカスタマイズを要求する(がベンダーはカスタマイズを入れたがらない)とか、そういう課題もあるし、日本独特の労働法の問題もある」とした上で「だが、使えるものも多い。使わずにあれこれ言うのはいけないと思う」と話す。

また、ツールそのものをHR部門で使いこなすことにも課題がある。たとえば目標管理ツールの導入で、方法論まで一緒にインストールすることはできるのだろうか?

石黒氏は「ツールが使いやすければいいが、評価のためだけに四半期に1回しか使わないツールはいつまでも使いこなせないと思う。書かないと給料がもらえない、とか能動的でない理由で使っているのでは、結局“Excelが最強”ということになってしまう」と話す。また人事管理ツールでは、しばしば権限設定の複雑さに問題が出ると石黒氏は言う。「性善説に立って、評価される方が権限を設計できるようにしちゃえばいい。人事部がやろうとして複雑すぎるから“やめた”ということになる。もっとみんなが積極的に使いたくなるツールになればいい」(石黒氏)

松田氏も同様に「目標管理ツールは、毎日、毎週ログインするものと連携して、使える形の方がいい」と話す。「ただ、そうなってくると会社の(評価)制度の問題になってくる」(松田氏)

ツールの使いこなしについては、会場からも質問があったのだが、石黒氏は「ツールを使うのが好きであること、目的を見失わないことが大事。人事に携わって、いろいろないい経験やイヤな思いを持っている人が、システムのデザインをやるといい」と答えている。また宮田氏は「ツールの使い方で言えば、技術的な知識はいらないと思っている。API連携も簡単になっていく」と話していた。

日本のHR Techの未来を一緒につくりたい

ディスカッションの最後に、日本のHR Techの未来について、スピーカーから一言ずつコメントいただいたので紹介する。

「今後労働人口が半分になり、採用が激化して、人事の仕事のステータスは上がるだろう。そうした中で、なるべく業務を効率化し、付加価値の高い人事制度の設計や、採用設計に時間を使って欲しい」(SmartHR 宮田氏)

「HRのSNS運用や、HRデータサイエンティストの分野にはお金がまだ流れていない。ここにチャンスがある。人がまだやっていない逆説的なキャリアを歩むのもよいのではないかと思う」(メルカリ 石黒氏)

「中堅企業の採用が変われば日本は変わる。オフィシャルな情報をもっとオープンにしていってもらいたい。HR Techは人事本来の業務に集中できるのが利点。一緒に活用法をつくらせてもらえればと思う」(エン・ジャパン 寺田氏)

「一番大切なのは、システムって使う人も楽しくなければ、ということ。人事の人がいかに楽しく仕事ができるのか、ということを一緒に進めていければと思う」(サイダス 松田氏)

HR Techの最前線を知る―、3月14日にTechCrunch Schoolを開催、参加者募集開始!

TechCrunch Japan主催のミニイベントを3月14日火曜日の18時半から外苑前で開催するのでお知らせしたい。「TechCrunch School #9:HR Tech最前線 presented by エン・ジャパン」と題して、登壇者、参加者の皆さんとHR Techの現状と未来について語ろうと思う(これまでのTechCrunch School開催分はこちらを参照)。

ナントカTechといえば、最近はFintechという言葉を聞くことが多い。もともと金融は数字やデータの世界なので、ITと相性が良いからファイナンスとテクノロジーの融合は自然な流れだ。もっとも、この場合に「テクノロジー」が指すものはクラウドやスマホ、あるいはビッグデータやAIに代表される新しいソフトウェア開発手法や配布形態を指していると考えたほうがいいのだろうけど。

ともあれ、Fintechと同様に農業とテクノロジーの融合領域を「AgriTech」と呼んだり、広告分野を「AdTech」、教育へのテクノロジーの適用を「EdTech」などと呼ぶことがある。この流れでいま注目を集め始めているのが人材分野(ヒューマン・リソース)でのテクノロジーの適用、つまり「HR Tech」だ。

狭義には人材の採用、教育、評価、配置、福利厚生など人事関連の業務を、クラウドやデータを使って可視化もしくは効率化するものをHR Techと呼ぶ。広義には給与計算や面倒な労務関連の業務まで含めてHR Techと呼んでいいだろう。後者はバックオフィス系事務だが、これらはいずれつながっていくだろう。人材評価と給与計算は繋がっているべきだし、入社手続きと保険関連の労務手続きは地続きであるべきだろう。企業財務のFintechと重なる領域で成長するスタートアップも出てくるだろうし、B2B2Eモデルで社員の健康管理・増進のためのサービスやデバイスを提供するヘルステック系もHR Techと定義していいのかもしれない。

さまざまな切り込み方で立ち上がるHR Tech系スタートアップのニュースは日々お伝えしているが、その一方で、以前TechCrunch Japanに掲載した「HR Technology Conferenceに見る人材領域イノベーションと日米温度差」にある指摘のように、日本は米国に対してどうもHR Techでは数年から10年ほど遅れを取っているようにも思われる。

そこで今回、日本のHR Tech関連のスタートアップ企業の経営者らに自社プロダクトや業界動向、予測を語っていただくことで、HR Techの未来を占うような議論が深められればと思う。「お題目は美しいんだけどね、いや、現場で使えないんだわー」というような、生っぽい声も聞きたいので、HR Techを実際に使用する立場にある人事担当者からも導入例やニーズなどを聞ければと思う。

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写真左上から時計回りに石黒卓弥氏(メルカリ)、寺田輝之氏(エン・ジャパン)松田晋氏(サイダス)、宮田昇始氏(SmartHR)

スピーカーは、一昨年のTechCrunch Tokyoスタートアップバトルで優勝した「SmartHR」を提供するKUFU代表取締役の宮田昇始氏、組織内の人材の可視化と最適配置を実現する「サイダス」の代表取締役の松田晋氏、5分で採用ページが作成できて利用が無料という「Engage」を提供するエン・ジャパンのデジタルプロダクト開発本部本部長の寺田輝之氏、それから会社全体が急成長をしていて攻めの採用をしているスタートアップ企業、メルカリ HRグループの石黒卓弥氏にもご登壇いただく予定だ。

HR Techでの起業や新規サービスを検討している人はもちろん、現場の人事担当者、採用担当者の方々にも是非会場に足を運んでいただければと考えている。事前の参加登録は必須だが、参加自体は無料。軽食をご用意してTechCruch Japanスタッフもお待ちしているので遊びに来てほしい。参加申し込みはこちら


TechCrunch School #9 「HR Tech最前線」 presented by エン・ジャパン

【開催日時】3月14日(火) 18時半開場、19時開始
【会場】エウレカ セミナースペース(外苑前)
東京都港区南青山2-27-25オリックス南青山ビル6F(地図)
東京メトロ銀座線 外苑前駅 1a 出口 徒歩1分
【定員】100人程度
【参加費】無料
【ハッシュタグ】#tcschool
【主催】 AOLオンライン・ジャパン株式会社
【協賛】エン・ジャパン株式会社
【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp【当日イベントスケジュール】
18:30 開場・受付
19:00〜19:05 TechCrunch Japan挨拶
19:10〜20:30 パネルディスカッション
20:30〜20:40 転換
20:40〜22:00 懇親会(アルコール、軽食)【スピーカー】
KUFU 代表取締役 宮田昇始氏
サイダス 代表取締役 松田晋氏
エン・ジャパン デジタルプロダクト開発本部本部長 寺田輝之氏
メルカリ HRグループ 石黒卓弥氏
TechCrunch Japan編集長 西村賢(モデレーター)

「エンジニアの立場でスタートアップの成功確率を上げたい」―CTOという仕事を語り合う

2015年3月9日に開催したTechCrunch School第7回、「CTOというキャリアを考える」では、藤本真樹氏(グリー株式会社 取締役 執行役員常務 最高技術責任者)、舘野祐一氏(クックパッド株式会社 執行役 最高技術責任者)、増井雄一郎氏(株式会社トレタCTO)が集まり、CTO(最高技術責任者)にまつわる話題を語り合った。モデレーターを務めたのは西村賢(TechCrunch Japan編集長)である。

3人のCTOが語った「3つの数字」

3人のCTOに西村編集長から出されたのは「3つの数字」で自己紹介してほしいというお題。

グリー藤本氏が挙げた数字は、「3→1788」「10→ ?」「1→ >10」の3つ。最初の数字は従業員数だ。藤本氏が関わりはじめた10年前のグリーは3人の会社だったが、今の従業員数は4桁だ。2番目の数字はサーバ台数。藤本氏が参加した当時は10台だったが、今では「未公表ですが、5桁はいってます。だからバカスカ壊れます」。3番目の数字は利用しているプログラミング言語の種類だ。創業当時はPHPだけだったが、今や10以上の言語を使っている。西村編集長が「言語の割合は?」と聞くと、藤本氏は「PHPがやっぱり多い。C#、JavaScript、Objective-C、Javaとか。あとはRubyとか。C/C++もちょこちょこあったり」と返す。

クックパッド舘野氏が挙げた数字は、「3000→18992」「1→15」「1→5」の3つ。最初の数字は、同社のテスト数の推移だ。2010年、舘野氏が入社した時にはテスト数は約3000だったが、直近の数字は1万8992まで増えた。2番目の数字はサービス数、3番目の数字はサービスを提供する国の数の変化だ。サービス数はレシピサイト1種類だけではなくなり、サービスを提供する国も、アメリカ、スペイン、インドネシア、レバノンが加わった。

トレタの増井氏は「『IT芸人』か『フログラマー』で検索してください。私の記事が上位に出てきます」と笑いを取りつつ、「4社」「2000社」「3倍」と数字を挙げる。1番目の「4社」は増井氏が創業に関わった会社の数だ。大学時代に起業を経験。その後フリーランスになるが、米国に渡りBig Canvas社を立ち上げ、日本に戻ってmiilの創業に関わった。今のトレタは4社目ということになる。「さすがに少しずつ賢くなってきている」と話す。2番目は、飲食店の予約サービスを展開するトレタの顧客数だ。3番目は、増井氏のCTOとしてのミッションとして「エンジニアの数を3倍にする」目標があることから来ている。

CTOの役割とは結局なんなのか?

この「つかみ」の後で西村編集長が聞き出していったのは、3社3様のそれぞれの段階にあるスタートアップ企業にとって、CTOとはどのような役割なのかということだ。今や従業員数4桁の組織となったグリー藤本氏はこう話す。「300人のエンジニアがいるとする。普通にやると(組織を作ると)4レイヤーぐらいになる。これぐらいになると、信頼できる人にこのセクションを任した! となる」。直接コードを書く役割、エンジニアのマネジメントの役割は信頼できる人に任せる形となっていく。

一方、クックパッド舘野氏は、最近はJavaコードを集中的に書いているという。フロントエンドとなるAndroidアプリについて、もっと知るためだ。同社はもともとWebに強いエンジニアを抱えていたが、そのためネイティブアプリでは出遅れたとの反省があるという。今はモバイルアプリを重視する流れにある。

トレタ増井氏は、創業期のCTOの役割について「最初のエンジニアは、とても大事だ」と話す。会社の創業の時期には、CEOとCTOは密接な関わりを持つが、その人間関係が、そのままその後の会社とエンジニア達との関係に引き写されていく。起業家はエンジニアリングをどこまで理解しているべきか、という問いかけに対しては、「コードを書ける必要はないが、エンジニアリングへの理解、信頼は必要」と語る。

パネルディスカッションの終盤、グリー藤本氏は「日本のスタートアップの成功確率がもっと上がるようにやっていきたい」と語った。連続起業家や、CTOとしての参画経験が3社というような人が少なからずいるシリコンバレーに比べると、日本では起業経験を伝える人材の層が薄い。「起業の勝率、ふつうに負けるよなと」。藤本氏がTechCrunchのCTO関連イベントの登壇を引き受けたのも、そうした思いからだそうだ。

ところで、今回のTechCrunch Schoolが開催された会場は「Tech Lab PAAK」だった。アップルストア渋谷と同じビルにある、リクルートが運営する会員制コミュニティスペースだ。自由に使えるスペースで、卓球台もあれば、もちろんWiFiもある。このようなスペースの運営はリクルートの業務と直接の関係がある訳ではないが、麻生要一氏(Recruit Institute of Technology戦略統括室 室長)は「こういう場で世の中を変えるプロダクトが生まれることが、長期的にはリクルートの利益になると信じてやってます」と語る。現時点で40組100人ぐらいが登録しているが、まだ会員になれる余地はあるそうだ。

もう1件、リクルート関連の情報発信があった。リクルートが2012年に買収した求人情報検索サービス米Indeedの東京オフィスで働くエンジニアである濱田卓さんと西村編集長とのミニトークセッションだ。Indeedは、リクルート本体とは全く異なる米国のソフトウェア開発会社のカルチャーのまま、東京オフィスを運営している。濱田氏も、東京大学大学院修士課程で情報科学を学んだが、知名度が高い会社を蹴ってIndeedへの就職を決めた。「ミリ秒単位で性能を改善していこうという組織」である点が楽しいと話す。仕事中にビールを飲んでも、誰も文句を言わない素敵な職場だそうだ。

最後に、今回のイベントの印象をまとめておきたい。今回の「お題」はCTOだった。CTOはエンジニアのボスであるだけではなく、経営陣の一員でもある。エンジニアを理解して信頼する経営者が必要とトレタ増井氏が話すように、経営を理解して参加するエンジニアも求められているのだ。クックパッド舘野氏は最近は経営書を良く読んでいるそうだ。グリー藤本氏も、技術基盤やエンジニアのチームのことだけでなく、事業への関わりについて考えていると話す。エンジニア文化と経営の両方を理解するCTO経験者、CTO候補者がもっと大勢出てくることが、日本のスタートアップの「勝率」アップのためには必要だろうと感じたイベントだった。


シェアリングエコノミーの本質はコミュニティにあり–TechCrunchイベントで識者が語る

「シェアリングエコノミー」と呼ばれるタイプのビジネスが、シリコンバレーを起点に世界中で成長中だ。ゆるやかな信頼をベースに、今余っているモノや人、リソースを今必要としている人に提供する事業の総称で、余っている部屋を貸し出す宿泊サービス「Airbnb」やカーシェアリングサービスの「Zipcar」などが代表例だ。

この波は、いま日本にも及んでいる。Airbnbや、タクシー・ハイヤーの配車サービス「Uber」が日本に上陸してサービスを開始したほか、遊休設備を生かして安価なオンライン印刷サービスを提供する「ラクスル」、駐車場を貸したい人と借りたい人をマッチングする「akippa」のように、  日本発のシェアリングエコノミー型サービスも生まれてきた。

2月19日にリクルートホールディングスが手がける東京・渋谷の会員制スペース「TECH LAB PAAK」で開催された「TechCrunch School Vol.6」では、そのシェアリングエコノミーに注目。「日本でも成長をはじめたシェアリングエコノミー」というテーマのもと、Uber Japan執行役員社長の高橋正巳氏、ラクスル代表取締役の松本恭攝氏、akippa代表取締役社長の金谷元気氏の3人に、それぞれが手がけるシェアリングエコノミー型ビジネスについて聞いた

むしろ規則の中でしっかりやりたい——Uber Japan

米国等での報道も含めて、TechCrunchでもおなじみのUber。スマートフォンからたった2タップするだけで、オンデマンドでハイヤーやタクシーを配車してくれるサービスで、「全世界54カ国、282都市強でサービスを提供しているが、毎週変わっているくらいのスピードで成長している」と高橋氏は言う。最近も22億ドルという規模の資金調達に成功したばかりだ。

日本市場で正式にハイヤーの配車サービスを開始したのは2014年3月で、8月からはタクシーも呼べるようになった。
「日本市場への参入構想は初期の頃からあった。電車や地下鉄、バスなどいろいろな選択肢がある中で、どれだけ需要があるのか、どうサービスを提供するのか検討した上でローンチしてみたが、いざローンチすると、ロンドンやロサンゼルスといった大都市に比べ2〜3倍の需要があった。特に東京は、高品質なサービスへの感度が高い」(高橋氏)。

一方で、既存の枠組との整合性には苦労した面もあるそうだ。現在Uber Japanは、「“超オンデマンド”な旅行代理店という考え方もできる」(高橋氏)ことから旅行業者の登録をして事業を展開している。世界54カ国の中で旅行業として登録しているのは「日本だけ」だそうだ。「われわれのビジネスは5年前、10年前には考えられなかったもの。一方で、それにまつわる法律や規則ができたのは何十年も前。そうした既存の規則や枠組みの中に、われわれのビジネスをどう当てはめていくかが難しい。この問題は日本のみならず、いろんなところで起きている」と高橋氏。「よく、『Uberは好き勝手にやっている』と言われているけれど、全然違う。われわれの会社のスタンスとしては、きちんと規則の中でやりたいと考えている」という。

高橋氏は、この状況を、インターネットオークションサイトが生まれたころになぞらえる。「インターネットオークションサイトが生まれた当時、ちゃんと落札者がお金を払ってくれるかなどいろいろな不安があったけれど、使ってみると便利なことも分かってきた。そこで、『どうしたら安心して使ってもらえるようになるか』という議論が始まり、いろいろな規則ができてきた。Uberについても同じように、どうやったら安心して使ってもらえるかという議論がアメリカで先行して始まっている」(同氏)。

泥臭いところに踏み込んでサービスを拡大—ラクスル

つい先日、総額40億円の資金調達が報じられたラクスルは、需要と供給がマッチングしにくい「印刷」にフォーカスしたサービスを提供している。印刷設備の非稼働時間と、ネットで全国から集めた受注とを適切にマッチングさせることで、安価な印刷を実現しているラクスル。元々は価格比較サイトから始まったが、「クオリティをコントロールする」ために、印刷生産性、効率向上のための手だてにも踏み込んでいるそうだ。

松本氏によると、「スマホから2タップ」のUberとは異なり、「ラクスルは、スマホに一応対応はしているもののウェブがベースで、90%強の注文がウェブから」なのだという。デザインという要素が密接に絡んでくるためにスマホでは十分なUXを提供するのが難しいという理由に加え、「われわれの顧客はほとんどが中小企業だが、中小企業の購買活動がスマホにシフトしているかというと、まだしていない。むしろ最近ネット化が始まったところで、スマホ化は5年先じゃないか」(松本氏)。

ネットとリアルをつなぐ上で、非常に泥臭い苦労もしてきたという。「印刷会社とのコミュニケーションでは、新しいことを始めようとしたときに理解を得づらいところがある。経済合理性で考えれば絶対に利益が出ると分かっているような枠組みを提供しても、『これまでやってこなかったし……』で片付けられることもあった」(松本氏)。ただ中には、強い変革意識を持った経営者がいて、思いに共感してくれることで関係を形作れるケースもあった。

今回調達した資金は、マーケティングや海外事業展開といった方向への投資はもちろんだが、「Uber X(海外で展開するUberのサービス。個人が所有する車に他のユーザーを乗せるというもの)のように、ユーザーに全く異なる体験、インターフェイスを提供できるサービスを開発していく」ことに加えて、「紙を共同購買したり、物流の交渉をまとめて行ったり、資材や物流など効率化を図ることで生産性が上がる部分のファイナンシャルなサポートにも取り組む」そうだ。

営業の会社からインターネットの会社へ—akippa

akippaは、法人や個人が所有する空き駐車スペースを登録しておくと、その周辺で駐車したい人が検索し、希望する時間に使用できるというサービスだ。シェアリングエコノミーを体現しているかのようなサービスだが、金谷氏によると「会社を立ち上げて6年になるが、そのうち5年は営業の会社だった」のだそうだ。

転機が訪れたのは2013年6月のことだったという。「毎月目標の売り上げを決めて、ホームページを作って営業して……とやっていたが、そのうち『これをいつまで続けるんだろう、何のために会社をやっているんだろう』と考えた」(金谷氏)。そこで、電気やガス、水道といった「なくてはならぬもの」を作ろうと、会社のメンバー全員で、今悩んでいること、困っていることを書き出してディスカッションしていた中に、駐車場の問題があったという。

早速このサービスをネットで展開しようと作り始め、とあるイベントで発表したところ、「家の空きスペースを貸すサービスなら『Airbnb』があるよ、と教えてもらった。それまでAirbnb自体知らなかった」そうだ。

その後、順調にサービスが成長してきたことから、思い切って社名もそれまでのギャラクシーエージェンシーからakippaに変更し、営業だけでなくエンジニアの数も増やした。「これでやっとインターネットの企業になれたかな、と感じる。今は営業もスーツを着ていない」(金谷氏)。

ただ、そのマインドを変えていくのが大変だったそうだ。「もともと営業の会社なので、営業担当のマインドを変えることが大変でした。赤字でも、ユーザー数を増やし、サービスを伸ばしていくためだからいいんだ、と言っても『売り上げゼロなんですけど、いいんですか?』と不安を抱かれることもありました」(金谷氏)。サービスを伸ばすために最初はお金を取らずにユーザーを増やす、そしてユーザー数が伸びれば売り上げも増えてくるというアイデアを、Gunosyなどを引き合いに出しながら説明して説得したそうだ。

シェアリングエコノミーはコミュニティか、ただのバズワードか

最後にモデレーターのTechCrunch Japanの岩本有平が「そもそもシェアリングエコノミーとは何か?」と問いかけた。

金谷氏は「昔からやってきたことをスマートフォンでつなぎ合わせたことだと思う」と語る。「akippaも、『隣の人に空いている駐車場を貸す』という昔からやってきたことをスマートフォンでやっているだけ」。そういう意味では、ライバルは、Airbnbなんかではなく、リアルに空きスペースを駐車場としてサービスを展開している「タイムズ」や「三井のリパーク」になるという。

松本氏は、「AIやビッグデータと同じバズワードの1つなんじゃないか」とした上で、「使われていないアセットをユーティライズしたということ以上に、スマートフォンやPCとつながって、ユーザー経験そのものが変わったことに大きな意味があるのではないか。この部分を生かすことでビジネスを伸ばすことができるのでは」と語る。

これらに対して高橋氏は、「ひとことで言うとコミュニティだ」とする。「共有という概念は、コミュニティがあってはじめて成り立つ。そのとき重要になるのはクオリティ。安心して共有してもらえるか、透明性が高いかということが問われてくる。Uberではフィードバックシステムを導入して、今まで乗った人の評価が全部見えるようにしているが、そこまでやって初めて安心感あるコミュニティが生まれると思う」とした。


TechCrunch School第7回は3月9日開催-テーマは「CTOというキャリアを考える」

2014年1月から不定期で開催しているイベント「TechCrunch School」では、これまでに「学生の起業」、「スタートアップのマーケティング」、「大企業からのスピンアウト」、「IoT」、「シェアリングエコノミー」などのテーマでセッションを繰り広げてきた。7回目の開催となる次回は、3月9日月曜日午後7時から「CTOというキャリアを考える」というテーマで開催する。参加は無料で、本日よりこちらで参加登録を受け付けている。

会場となる「TECH LAB PAAK」

テック系のスタートアップに欠かせないエンジニアリングチーム。このエンジニア集団をリードし、ときにはゼロから1人でチームを作り上げるのがCTOだ。会社が成長した暁には、経営陣の1人として技術面から多くの経営判断に加わりつつ、同時にコードを書き続けることも珍しくない。

日本でスタートアップ企業が多く誕生しつつある今、CTOという役職が注目されつつある。今後、あらゆる業種においてソフトウェアの果たす役割が大きくなっていくだろうから、この傾向はますます加速するだろう。外部から「ソリューション」を調達したり、開発を外部へ委託する情報部門やCIOではなく、自らビジネスのコアになるシステムやアプリを作り出すチーム体制への移行が時代背景としてあると思う。

そう考えると、エンジニアとしてのキャリアを考える上で「CTO」というのは何もスタートアップ企業やネット企業だけに限った話ではなくなってくるのだろう。CTOとしてキャリアを積み、複数のスタートアップの立ち上げに携わる「シリアルCTO」というキャリア形成も増えつつあるように見える。

グリー、クックパッド、トレタのCTOが登壇

3月のTechCrunch Schoolでは、CTOというキャリアに焦点をあてて、経験豊富な注目CTOたちに、ざっくばらんにエンジニアリング、経営、スタートアップというテーマで語っていただこうと思っている。

登壇者となる3人のCTOは、グリーの藤本真樹氏、クックパッドの舘野祐一氏、トレタの増井雄一郎氏だ。3人ともエンジニアコミュニティでは、よく知られているが、改めて簡単にご紹介したい。

グリーの藤本CTOは、創業初期から同社プラットフォームを支えてきたCTOだ。マンションの1室からスタートして1000〜2000人規模の組織となる10年間を、CTOという立場で見てきた人は日本では多くないだろう。これまでを振り返りつつ、今後CTOとして取り組んでいきたい領域やチャレンジについて聞いてみたいと思う。クックパッドの舘野祐一CTOは、RubyやJavaScriptのコミュニティでも良く知られたエンジニアで、2010年クックパッドへ入社。技術基盤やビッグデータ基盤の開発、構築を行い、2012年に技術部長、2013年のエンジニア統括マネージャを経て、2014年2月からクックパッド執行役CTOとなった人物だ。経歴から分かる通り、1人のエンジニアからCTOへというキャリアを歩んでる。舘野氏にはエンジニアにとって、マネジメントやビジネスを理解することの意味ということをお聞きしようと思っている。トレタの増井雄一郎CTOは、料理写真共有サービスの「ミイル」の元CTOで、現在は店舗向け予約受け付けサービスのトレタのCTOとして活動している。立ち上げ期のスタートアップ企業に関わるエンジニアという視点から話を聞ければと思う。

今回の会場は東京・渋谷の「TECH LAB PAAK」

さて、これまでTechCrunch Schoolは基本的にTechCrunchのオフィスが入居している東京・末広町の3331 Arts Chiyodaで開催していたが、今回は前回同様にリクルートホールディングスが東京・渋谷に開設したばかりの会員制スペース「TECH LAB PAAK」で開催する。

TECH LAB PAAKは入会審査ありの会員制だが、施設自体は会員であれば無料で利用できる。会員になれるのは「スペースを通じてみずからの持つスキルを深めたり、情報共有したりしたい」「技術やアルゴリズムの研究・開発に取り組んでおり、コラボレーションして発展させたい」といった思いを持つ個人やチームで、同社が定期的に開催する審査に通過する必要がある。リクルートホールディングスいわく、「本気でテクノロジーで世界をよくしたいと思っている」「イノベーションを起こすスキルを持ちながら、リソースが不足している」という人の応募を待っているとのこと。当日はその辺り話もRecruit Institute of Technology戦略統括室 室長の麻生要一氏からお話いただける予定だ。

TechCrunch School #7
「CTOというキャリアを考える」

【開催日時】 3月9日(月曜日) 18時開場、19時開始
【会場】 東京・渋谷 TECH LAB PAAK (地図)
【定員】 80名程度
【参加費】 無料
【参加資格】 CTOもしくはCTOに準じるエンジニア、もしくは今後CTOを目指したいエンジニア
【ハッシュタグ】#tcschool
【主催】 AOLオンラインジャパン
【内容】
19:00〜19:05 TechCrunch Japan 挨拶
19:05〜20:05 パネルセッション「CTOというキャリアを考える」
パネリスト
藤本真樹氏(グリー株式会社 取締役 執行役員常務 最高技術責任者)
舘野祐一氏(クックパッド株式会社 執行役 最高技術責任者)
増井雄一郎氏(株式会社トレタCTO)
モデレーター
西村賢(TechCrunch Japan編集長)
20:05〜20:20 講演セッション「リクルートが考えるオープンイノベーションとその取り組みについて」
麻生要一氏(Recruit Institute of Technology戦略統括室 室長)
20:20〜20:30 ブレーク
20:30〜22:00 懇親会(アルコール、軽食も出ます)
【申し込み】イベントページから事前登録必須
【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp

TechCrunch School第6回は2月19日開催-テーマは「シェアリングエコノミー」

今回の会場となる東京・渋谷の「TECH LAB PAAK」

2014年1月から不定期開催しているイベント「TechCrunch School」。これまで学生の起業、スタートアップのマーケティング、大企業からのスピンアウト、IoTなどのテーマでセッションを繰り広げてきた。前回の開催が2014年9月末だったので、少し間が空いてしまったが、2月19日午後7時から第6回を開催する。参加は無料。本日よりこちらで参加登録を受け付けている。

今回のテーマは「日本でも成長をはじめたシェアリングエコノミー」。モノやリソースを共有したり交換したりすることで成り立つ、共有型経済を指すシェアリングエコノミー。米国で立ち上がった配車サービスのUberや宿泊サービスのAirbnb、カーシェアリングサービスのZipcarなどが代表的なサービスとして挙げられることが多い。UberやAirbnbはすでに日本にも上陸してサービスを展開している。

一方で日本のスタートアップを見ても、印刷所の空きリソースをシェアして低価格で印刷を行うラクスルや駐車場をシェアするakippa、空きスペースをシェアするスペースマーケット、家事代行のAny+Timesなど、続々とサービスが生まれている状況だ。

ただ日本と米国では個人のライフスタイルや価値観、さらにはビジネスのルールなども違ったりする。シェアリングエコノミー関連サービスは続々登場しているが、はたして日本どういった成長を見せるのか。日本でサービスを展開するプレーヤーに聞いてみたい。

Uber Japan、ラクスル、akippaが登壇

イベントに登壇してくれるのはUber Japan執行役員社長の高橋正巳氏、ラクスル代表取締役の松本恭攝氏、akippa(2015年2月にギャラクシーエージェンシーから社名変更、サービス名も「あきっぱ!」から「akippa」に変更している)代表取締役社長の金谷元気氏の3人。オフラインイベントということもあり、ここだけ話もいろいろしてもらえると思う。

Uber Japanは米国サンフランシスコでスタートしたUberの日本法人。Uberはスマートフォンアプリ1つでタクシー・ハイヤーを配車してくれるサービスだ。米国では合計4.9億ドル超の型資金調達自動運転タクシーの研究といった取り組みが発表される一方、破壊的なイノベーションの代償かいくつかの課題も抱えるに至っている。日本ではサービス開始から約1年となるが、Uber Japanの高橋氏にはこれまでの手応えや日米でのサービスの差などについて聞いてみたい。

印刷の価格比較サービスとしてスタートしたラクスル。同社では現在、ユーザーの注文に応じてネットワーク化した印刷会社から最適な会社を選択、その印刷機の非稼働時間に印刷をすることで、安価に高品質な印刷物を提供している。ラクスルの松本氏には、サービス提供の経緯から印刷会社をネットワーク化するための仕組みやその苦労、さらには以前から語っている海外展開などについて聞いてみたい。

akippaは、駐車場を貸したい人と借りたい人をマッチングするサービス。あらかじめ駐車場を貸したい人が駐車場の情報や空き時間を登録しておけば、駐車場を検索して予約した上で、希望する時間に使用できるというもの。また、バレーパーキング(海外のホテルなどで駐車係にキーを渡すと、車を所定の駐車場に保管してくれ、また車が必要なときは車を持ってきてくれるサービス)を実現する「akippa plus」も展開している。akippaの金谷氏にもやはりサービス提供の経緯、そしてその手応えなどを聞いてみたいと思っている。

今回の会場は東京・渋谷の「TECH LAB PAAK」

なおこれまでのTechCrunch SchoolはTechCrunchのオフィスがある東京・末広町の3331 Arts Chiyodaで開催していたが、今回はリクルートホールディングスが東京・渋谷に開設したばかりの会員制スペース「TECH LAB PAAK」にて開催する。

こちらのTECH LAB PAAK、会員制であれば座席からWi-Fi、ドリンクまですべての設備を無料で利用できる。ただし会員になれるのは、「スペースを通じてみずからの持つスキルを深めたり、情報共有したりしたい」「技術やアルゴリズムの研究・開発に取り組んでおり、コラボレーションして発展させたい」といった思いを持つ個人やチームのみで、同社が定期的に開催する審査に通過する必要がある。リクルートホールディングスいわく「本気でテクノロジーで世界をよくしたいと思っている」「イノベーションを起こすスキルをもちながら、リソースが不足している」という人の応募を待っているとのこと。当日はそのあたりの話もRecruit Institute of Technology戦略統括室 室長の麻生要一氏から聞ける予定だ。

TechCrunch School #6
「日本でも成長をはじめたシェアリングエコノミー」
【開催日時】 2月19日(木) 18時半開場、19時開始
【会場】 東京・渋谷 TECH LAB PAAK地図
【定員】 80名程度
【参加費】 無料
【参加資格】 起業を志す、もしくはスタートアップに興味のある大〜中小企業の社員および、学生の方。スタートアップへの参画を希望する人材と出会いたいスタートアップの起業家、CxO、人事担当者
【ハッシュタグ】#tcschool
【主催】 AOLオンラインジャパン
【内容】
19:00〜19:05 TechCrunch Japan 挨拶
19:05〜20:05 パネルセッション「日本でも成長をはじめたシェアリングエコノミー」
パネリスト
髙橋正巳氏(Uber Japan 執行役員社長)
松本恭攝氏(ラクスル代表取締役)
金谷元気氏(akippa代表取締役)※2015年2月よりギャラクシーエージェンシーから社名変更
モデレーター
岩本有平(TechCrunch Japan編集記者)
20:05〜20:30 講演セッション「リクルートが考えるオープンイノベーションとその取り組みについて」
麻生要一氏(Recruit Institute of Technology戦略統括室 室長)
20:30〜22:00 懇親会(アルコール、軽食も出ます)
【申し込み】イベントページから事前登録必須
【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp

5月29日開催 KAIZEN、freee、みんなのウェディングに起業の理由を聞く

以前に告知したとおり、いよいよTechCrunch School第4回が5月29日午後6時から東京・秋葉原(末広町)にて開催される。参加申し込みの受け付けは間もなく終了となるので、興味のある読者は是非とも遊びに来て頂きたい。

1月から開催中のイベントTechCrunch Schoolでは、これまで起業やグロースハック、PRをテーマにしたイベントを開催してきた。今回は「大企業を飛び出してスタートアップの世界に飛び込んだ理由」をテーマに、これまで勤めていた企業から飛び出してスタートアップした起業家たちにその思いや、チームの作り方、働き方について聞く。勤めている企業から飛び出してスタートアップを立ち上げたい人、スタートアップに参加したい人、またそんな人たちと出会いたいスタートアップの人事担当者などに是非とも参加してほしいと思っている。

ゲストスピーカーとして登壇頂くのは、KAIZEN Platformの共同創業者でCEOの須藤憲司氏、freee代表取締役の佐々木大輔氏、みんなのウェディング代表取締役社長の飯尾慶介氏の3人。

それぞれ、リクルート、Google、ディー・エヌ・エー出身の3人に、大企業とスタートアップの違いや、過去の経験の生かし方、信頼できる仲間の集め方などを聞いていきたい。須藤氏は起業から1年もたたずに大型調達を実現。海外進出を進めている。佐々木氏もサービス開始から約1年で7万字業者が利用するまでに成長した。飯尾氏は、DeNAのスピンオフから3年半でマザーズ上場を達成した。それぞれの成長の理由も聞いていきたい。

パネルディスカッションに関しては、会場でのみ聞ける「オフレコタイム」を設ける予定だ。プレゼンテーションの模様は記事や動画でも紹介する予定だが、会場に来て頂いた人たちに限定して、登壇頂く起業家の生の声を届けたい。

今回は1人3000円の有料イベントとなる。要望のあった当日券の販売も用意しているが、こちらは3500円となっている。19時半以降の交流会では食事とドリンクも用意するので、是非お申し込み頂ければと思う。

TechCrunch School #4
起業志望者注目!
「大企業から飛び出してスタートアップの世界に飛び込んだ理由」
【開催日時】 5月29日(木) 17時半開場、18時開始
【会場】 東京・末広町 3331 Arts Chiyoda 3331 Arts Chiyoda地図
【定員】 100名程度
【参加費】 3000円
【参加資格】 起業を志す、もしくはスタートアップに興味のある大〜中小企業の社員および、学生の方。スタートアップへの参画を希望する人材と出会いたいスタートアップの起業家、CxO、人事担当者
【ハッシュタグ】#tcschool
【主催】 AOLオンラインジャパン
【内容】
18:00〜18:05 TechCrunch Japan挨拶
18:05〜18:50 講演セッション
須藤憲司氏(KAIZEN Platform共同創業者・CEO)
佐々木大輔氏(freee 代表取締役)
飯尾慶介氏(みんなのウェディング 代表取締役社長)
18:50〜19:30 パネルセッション「僕らが大企業を飛び出してスタートアップの世界に飛び込んだ理由」
パネラー:
須藤憲司氏(KAIZEN Platform共同創業者・CEO)
佐々木大輔氏(freee 代表取締役)
飯尾慶介氏(みんなのウェディング 代表取締役社長)
西村賢(TechCrunch Japan編集長)
19:40〜21:00 懇親会(アルコール、軽食も出ます)
【申し込み】イベントページから事前登録必須
【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp

TechCrunch School第4回は5月29日開催–テーマは「大企業を飛び出してスタートアップの世界に飛び込んだ理由」

1月から開催しているイベント「TechCrunch School」。3月に開催した第3回「スタートアップ企業のマーケティング戦略」は、天候にこそ恵まれなかったが100人超に参加頂くことができた。

そして5月29日木曜日の夕方6時から、これまでと同じく東京・秋葉原(末広町)で第4回となるイベントを開催する。今日から参加申し込みの受け付けを開始したのでお知らせしたい。

今回のテーマは「大企業を飛び出してスタートアップの世界に飛び込んだ理由」。前回はスタートアップ企業のマーケティング担当者やCMO、起業家などを対象にしたが、今回は大企業から中小企業までに勤めつつ、スタートアップを立ち上げたい、スタートアップに参画したいと考えている人。大企業からの内定を得ているが、スタートアップに参加することを考えている学生、さらにはそういったスタートアップにに挑戦したい人たちと出会いたい、一緒に働きたいと考えているスタートアップの起業家や人事担当者らを対象にしたい。

今回はゲストスピーカーとして、KAIZEN Platformの共同創業者でCEOの須藤憲司氏、freee代表取締役の佐々木大輔氏、みんなのウェディング代表取締役社長の飯尾慶介氏の3人をお呼びしている。

須藤氏は、新卒でリクルートに入社。マーケティングや新規事業開発部門を経て、アドオプティマイゼーション推進室を立上げ。リクルートマーケティングパートナーズで最年少の執行役員として活躍したのちに退職し、KAIZEN platformを創業した

リクルート時代から広告の最適化に取り組んできた同氏だが、KAIZEN platformでは、A/Bテストの実行と、テスト向けのクリエイティブ制作のクラウドソーシングを組み合わせた「planBCD」を展開している。また最近では元グーグルで、広告営業部門の立ち上げ、業界営業部門の立ち上げと責任者、広告代理店事業の責任者を歴任した小川淳氏や、グリーおよびGREE Internationalで、ゲームやアドテクノロジー分野のプロダクトマネジメントを手がけた瀧野諭吾氏などの参画を発表。さらに500万ドルの大型調達を実施して米国を中心に展開を本格化するとのこと。イベントでは、大企業とスタートアップの違いから、優秀な人材の“口説き方”までを聞いていきたいと思う。

またfreee佐々木氏は、大学在学時よりインタースコープ(経営統合を経て、現:マクロミル)にてリサーチ集計システムや新しいマーケティングリサーチ手法を開発。卒業後は博報堂、CLSA キャピタルパートナーズを経て、ALBERTの執行役員に就任。その後2008年にGoogleに参画し、国内のマーケティング戦略立案やGoogle マップのパートナーシップ開発、日本およびアジア・パシフィック地域における中小企業向けのマーケティングの統括を担当したのちに退職。2012年7月にfreeeを創業した。

2013年3月にサービスを開始したfreeeだが、現在のユーザーはすでに7万事業者以上。Windows XPのサポート期間終了や消費税率の変更なども追い風となりその数はさらに増加中だという。また直近には8億円の資金調達も発表し、機能強化やアジア進出についても準備しているという。以前、佐々木氏に起業の経緯を聞いた際、前職で中小企業との接点があったことからその課題を知ったのがきっかけだと語っていたが、イベントでは、Googleを飛び出して起業した理由や、過去の経験がスタートアップにどう生きているかについて聞いていきたい。

飯尾氏は、1999年にトーハンに入社。子会社直営店舗の店長、スーパーバイザー職などを経て、2006年にディー・エヌ・エーに入社。ECアドバイザー職を経て、社長室の新規事業としてウェディング情報の口コミサイト「みんなのウェディング」の立ち上げに携わる。その後、Mobageのオープンプラットフォーム立ち上げなども経験したのち、2010年10月にスピンオフ。みんなのウェディングを設立。同社は2014年3月に東証マザーズ市場に上場した。

「大企業の新規事業を持ってスピンオフして、上場を目指す」というIT系スタートアップはそう多くない。例えばこれが社内の事業として展開していたのであれば、このスピードでの上場を実現できていなかったのかもしれない。飯尾氏には、大企業から出て自らのサービスに注力した意味やその成果、さらにはスピンオフで得た経験や知識について聞いていきたい。

前回に引き続き、今回のパネルディスカッションでは、会場でのみ聞ける「オフレコタイム」を設ける予定だ。プレゼンテーションの模様は記事や動画でも紹介する予定だが、会場に来て頂いた人たちに限定して、登壇頂く起業家の生の声を届けたい。

今回は1人3000円の有料イベントとなる。19時半以降の交流会では食事とドリンクも用意するので、是非早めにお申し込みをいただければと思う。

TechCrunch School #4
起業志望者注目!
「大企業から飛び出してスタートアップの世界に飛び込んだ理由」
【開催日時】 5月29日(木) 17時半開場、18時開始
【会場】 東京・末広町 3331 Arts Chiyoda 3331 Arts Chiyoda地図
【定員】 100名程度
【参加費】 3000円
【参加資格】 起業を志す、もしくはスタートアップに興味のある大〜中小企業の社員および、学生の方。スタートアップへの参画を希望する人材と出会いたいスタートアップの起業家、CxO、人事担当者
【ハッシュタグ】#tcschool
【主催】 AOLオンラインジャパン
【内容】
18:00〜18:05 TechCrunch Japan挨拶
18:05〜18:50 講演セッション
須藤憲司氏(KAIZEN Platform共同創業者・CEO)
佐々木大輔氏(freee 代表取締役)
飯尾慶介氏(みんなのウェディング 代表取締役社長)
18:50〜19:30 パネルセッション「僕らが大企業を飛び出してスタートアップの世界に飛び込んだ理由」
パネラー:
須藤憲司氏(KAIZEN Platform共同創業者・CEO)
佐々木大輔氏(freee 代表取締役)
飯尾慶介氏(みんなのウェディング 代表取締役社長)
西村賢(TechCrunch Japan編集長)
19:40〜21:00 懇親会(アルコール、軽食も出ます)
【申し込み】イベントページから事前登録必須
【事務局連絡先】tips@techcrunch.jp