アマゾンが遠隔医療サービスを米国全域に展開

米国時間2月8日、Amazon(アマゾン)は同社のテレヘルス事業、Amazon Careが米国の全域で利用できるようになったと発表した。Amazon Careは、バーチャルケアと対面診療の両方を提供する。つまりAmazon Careのモデルはオンデマンドと対面の診療を組み合わせることによって、現在のヘルスケアサービスの足りない部分を補おうとしている。

同社の発表によると、対面診療は2022年に20ほどの都市で新たに展開される。Amazonによると、この拡張は同社が臨床診療チームとその診療サービスの成長に継続的に投資をしてきたことによって可能になったという。対面サービスが利用できる都市は、シアトル、ボルチモア、ボストン、ダラス、オースチン、ロサンゼルス、ワシントンD.C.、そしてアーリントンとなる。Amazonの計画では、2022年にはサンフランシスコやマイアミ、シカゴ、ニューヨークなどの大都市圏に対面診療を導入する。

Amazon Careは2019年に、Amazonの社員のためのパイロット事業としてローンチした。2021年3月にAmazonはそのサービスを、全米の他の企業も利用できるようにした。現在、社員にAmazon Careを提供している企業は Whole FoodsやSilicon Labsなどになるという。

このサービスは救急とプライマリーケアサービスを提供し、新型コロナウイルスやインフルエンザの検査、予防接種、病気や怪我の治療、予防医療、性の健康および処方箋の発行と継続再発行などを扱う。バーチャルで解決しない症状や心配については、患者の自宅にナースプラクティショナー(診療看護師)を派遣して、定期的な採血や肺活量測定などを行なう。

「患者は、患者ファーストではない現在のヘルスケアシステムにうんざりしています。私たちの患者中心のサービスは、往診は一度に1人のみというやり方でそれを変えようとしています。オンデマンドの救急とプライマリーケアサービスを全国に拡大しました。サービスの成長とともに、顧客との協働を続けて、そのニーズに応えていきます 」とAmazon CareのディレクターKristen Helton(クリステン・ヘルトン)氏は声明で述べている。

Amazonは数年前から、ヘルスケアに投資している。2018年にはオンラインの調剤薬局PillPackを買収し、薬種や量などを調剤済みの医薬を買えるようにしている。2020年には、オンラインとモバイルの調剤薬局Amazon Pharmacyをローンチした。そして最近Amazonは、ヘルスケアプロバイダーと高齢者居住施設のための新しいソリューションを展開した。そのソリューションはAlexa Smart Properties事業の一環として、大量のAlexaデバイスを展開し、施設の管理者が居住者や患者のためにカスタマイズされた体験を作り出せるようにする。

画像クレジット:David Becker/AFP/Getty Images

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(文:Aisha Malik、翻訳:Hiroshi Iwatani)

プレシジョン、東京都の新型コロナ患者向け宿泊療養施設にAI問診票「今日の問診票 コロナ宿泊療養者版」を提供開始

プレシジョン、東京都の新型コロナ患者向け宿泊療養施設にAI問診票「今日の問診票 コロナ宿泊療養者版」を提供開始

AIを用いた医療支援システムを開発提供するプレシジョンは2月7日、東京都の新型コロナウイルス患者向け宿泊療養施設に向けて、AI問診票『「今日の問診票」コロナ宿泊療養者版』の提供を開始した。宿泊療養施設の電子問診票の導入は、日本初となる。デモ問診のURLはhttps://u5000672.cl1.cds.ai/preMonshin/#/

これは、プレシジョンが展開しているAI問診票「今日の問診票」を、ホテルなどで宿泊療養する新型コロナウイルス感染者向けに特化させたもの。「今日の問診票」は、AIにより、聞き取った症状などに応じて質問内容が動的に変化する電子問診票。これに、同じくプレシジョンが展開している医療機関向けの医学情報データベース「Current Decision Support」(CDS)が組み合わされている。CDSは、日本の2000名の医師の協力で作られるデータベースで、現在3000疾患、700病状の所見、全処方薬の情報が掲載され、大学病院の8割、全国300以上の医療機関で使われているというものだ。

宿泊療養者の健康観察と説明は、現在は看護師が電話で行っているため、20分から40分という時間がかかり、看護師不足が深刻化する現場の負担は大きい。しかしこのAI問診票を使えば、健康状態の聞き取りや、その後の登録作業にかかる時間を半分以下に短縮できる。重症化のリスクもAIが判断してくれるなど医療機関の負担軽減となり、患者にとっても電話応答に比べ短時間で済み、自分のペースで回答できるため負担が減る。

プレシジョンでは、第6波の到来に備えて2021年10月から「『今日の問診票』コロナ宿泊療養者版」の準備を行ってきた。設計にあたっては、プレシジョン所属の医師や看護師が医療現場での業務フローの聞き取りを行ったり、実際に宿泊施設で働いたりなどして、「現場に即した運用フロー」が作り上げられている。2022年1月27日からテスト運用を行ったところ現場での評価は高く、2月7日から2つの宿泊療養施設で本格運用されることに決まった。

質問が終わると、患者の疑問に答える動画が閲覧できる。プレシジョンの社長であり医師でもある佐藤寿彦氏の監修による、よくある質問に答えたものだ。佐藤氏は、在宅療養をしている人にも役に立つと考え、酸素飽和度の測り方退所の時期に関する動画をYouTubeでも公開した。「今後も日々変わる状況に応じて更新をする」と佐藤氏は話している。

 

Dawn Healthは認知行動療法で快眠をサポートする不眠症治療アプリ

新年を迎えて全力で進む中、不安な状態が続くと誰もが眠れない夜を過ごすことになる。

不眠症治療のスタートアップDawn Health(ドーンヘルス)は、不眠症を抱える人たちが睡眠を再びコントロールできるようにしたいと考えている。同社は2021年に、Intercom(インターコム)とMicrosoft(マイクロソフト)で製品エンジニアとして働いたRahul Shivkumar(ラホール・シブクマール)氏、認知行動療法士のAndreas Meistad(アンドリアス・マイスタッド)氏、Yahoo(ヤフー)のソフトウェアエンジニアだったVarun Krishnamurthy(ヴァルン・クリシュナムルティ)氏によって設立された。

シブクマール氏は、不眠症について身をもって知っている。ひどい睡眠障害を抱え、効果があるとされていた薬が効かなくなり、依存症になった。

シブクマール氏だけではない。米国睡眠協会は、米国人の70%が何らかの睡眠障害を抱えていると推定している。米国睡眠医学会によると、職場においては、平均的な労働者が毎年2280ドル(約26万円)、合計で年632億ドル(約7兆2700億円)の生産性を失っていることになるという。

画像クレジット:Dawn Health

シブクマール氏の場合、睡眠薬をやめるのに6カ月かかった。その後、同氏は瞑想など、眠りにつくための常套手段をすべて試したが、世の中に出回っている一部の人気アプリは、たまに起こる睡眠の問題には良いが、病的な不眠症にはそれほど効果がないことがわかった。

そんなときに出会ったのが、不眠症のための認知行動療法(CBT)だった。これは、睡眠障害を引き起こしたり悪化させたりする思考や行動を特定し、睡眠につながり、眠り続けるための習慣に置き換えるよう導くケア方法だ。

「12週間のセッションを受け、1回につき300ドル(約3万5000円)の費用がかかりましたが、今はよく眠れるというROI(投資利益率)があるので、その価値はありました」と同氏は話した。「それが会社を始めるきっかけになりました」。

シブクマール氏と同氏のチームは2020年半ばに会社を設立し、不眠症のためのCBTを活用して「不眠症治療の新しいスタンダード」と呼ぶDawn Healthアプリを開発した。

月額60ドル(約6900円)のモバイルアプリは、マイスタッド氏の研究に基づく証拠に準拠するセラピーを、睡眠トラッカーと統合して提供する。ユーザーは、Dawn Healthのセラピストからトレーニングを受けた睡眠コーチとペアを組み、チャット機能やパーソナライズされた毎日のレッスンプランにアクセスすることができる。

Dawn Healthはこれまでに100人以上の患者を治療しており、その中にはOpenAI CEOのSam Atlman(サム・アトルマン)氏やTwitch共同創業者のKevin Lin(ケビン・リン)氏、Galaxy Digital共同創業者のSam Englebardt(サム・エングルバート)氏といったテック業界の著名人が含まれている。シブクマール氏によると、初期のデータでは、プログラムを受けた人の80%が不眠症で薬やアルコール、マリファナに頼ることがなくなったという。

Dawn HealthはiOSアプリを展開し、ユーザーを獲得している。成長モードに入り、治療のスタンダードを継続するために重要な研究調査による臨床的証拠を構築している。

そのために同社は、Kindred Venturesがリードし、OnDeckのRunway Fundと、リン氏やSegment共同創業者のIlya Volodarsky(イリヤ・ヴォルダルスキー)氏、Intercom共同創業者のEoghan McCabe(エオガン・マッケイブ)氏といった個人投資家が参加したプレシードラウンドで180万ドル(約2億円)を調達した。今後、チームを拡大し、新製品も展開する。

ウェアラブル(Oura RingZeitGoogleのNest Hub)、その他の睡眠トラッキングアプリ(Aura)、スマートマットレス(Eight Sleep)など、最近ベンチャーキャピタルが注目した製品の多くが人気を集めている中、Dawn Healthは2026年までに1370億ドル(約15兆7740億円)に達するとされる睡眠市場でシェアを獲得するために、競争が一層激しさを増している市場に参入する。

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「医療費の多くは、睡眠障害に起因しています」とシブクマール氏は話す。「特に、Ouraのような企業がデータを発表しているアルツハイマー病やその他の疾患を予防できれば、長期的に大きなメリットがあります。人生の早い段階で睡眠不足を解決したり、睡眠の問題を完全に予防できれば、健康とコストの大幅な節約になります」と述べた。

画像クレジット:Dawn Health

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

採血がいらない非侵襲血糖値センサーのライトタッチテクノロジーが1億円の追加調達、量産化に向けた開発・薬事戦略を加速

採血がいらない非侵襲血糖値センサーのライトタッチテクノロジーがシリーズAファイナルとして1億円調達、薬事承認に向け展開加速赤外線レーザーを用い、採血をしなくても血糖値を測定可能な非侵襲血糖値センサーを開発するライトタッチテクノロジー(LTT)は2月4日、シリーズAファイナルラウンドとして、1億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、MPI-2号投資事業有限責任組合(MedVenture Partners)。2017年の創業以来の資金調達総額は、補助金などを含め累積調達額約5億円となった。

調達した資金により、量産化に向けた試作器の開発を用いて、臨床試験、薬事承認に向けた展開を加速させる。

世界で4億人ともいわれる糖尿病患者は、毎日指などに針を刺して採血し、血糖値の測定を行っている。そうした患者の痛みや精神的ストレスの他に、体に針を刺すことから感染症のリスクもあり、さらに測定に利用した針やチップは医療廃棄物となるという問題もある。そこでLTTは、従来光源(黒体放射)に比べて10億倍の明るさがある高輝度赤外線レーザーを開発し、高精度の非侵襲血糖測定技術を世界で初めて確立した。これにより、採血なしに約5秒で血中グルコース濃度の測定を可能にした。採血がいらない非侵襲血糖値センサーのライトタッチテクノロジーがシリーズAファイナルとして1億円調達、薬事承認に向け展開加速

瞑想アプリCalmが高齢者介護の負担軽減を目指すヘルスケアテック企業Ripple Health Groupを買収

瞑想アプリ「Calm(カーム)」は、サンフランシスコに拠点を置くヘルスケアテクノロジー企業「Ripple Health Group」を買収することを発表した。買収の条件は公表されていない。Calmはこの買収により、メンタルヘルスケアでの野望を加速させるとしている。買収後、Ripple Health GroupのCEOであるDavid Ko(デビッド・コー)氏は、Michael Acton Smith(マイケル・アクトン・スミス)氏とともにCalmの共同CEOを務める。Calmの共同創業者であるAlex Tew(アレックス・テュー)氏は、共同CEOを退任しエグゼクティブチェアマンとなる。

2019年に設立されたRippleは、ユーザーと適切なヘルスケアの選択肢を結びつけ、差し迫った健康上の問題を解決するソリューションを構築している。1月に登場されたRippleの最初の製品2つは、社会の高齢化に焦点を当て、プロおよび家族内の介護者による介護の負担を軽減することを目指している。

Rippleのチームは今後Calmに加わり、Calmの既存の雇用者向け製品であるCalm for Businessに代わるCalm Healthの構築に注力する。Calm Healthは、ケアの範囲を超えてメンタルヘルスをサポートすることを目的としており、近日中にリリースされる予定だ。Rippleのチームは、現在のヘルスケア技術と統合し、安全かつ簡単に使用できるCalm Healthのソリューションを構築することを目指す。Calmは、介護の負担軽減を目的とした製品の開発も進めていくという。

Calmの新共同CEOとなるデビッド・コー氏は声明でこう述べている。「2019年からCalmのアドバイザーとして、カテゴリーと流通チャネルの両方を再定義し、メンタルヘルスの未来を開拓するチームの能力を目の当たりにしてきました。Calmは、世界をより幸せに、より健康にすることをミッションとしています。Rippleのチームとテクノロジーにこれ以上ぴったりな会社はありません。同社に参加できることを信じられないほど光栄に思います。マイケル(・アクトン・スミス)と一緒にCalmをヘルスケアに導入することを楽しみにしています」。

Rippleに入社する前、コー氏はデジタルヘルス企業であるRally Healthの社長、COO、取締役を務め、消費者のケアへのアクセスを容易にすることを目的としたモバイルソリューションを開発した。

Calmの共同創業者で共同CEOであるマイケル・アクトン・スミス氏は、声明でこう述べた。「デイビッド(・コー)のビジネス感覚、卓越した運営能力、ヘルスケア企業のスケールアップの実績は、Calmが新たな事業に参入し、カテゴリーの未来を形成していく上で、非常に貴重なものとなるでしょう」。

Calmによる買収は、同社が新機能「Daily Move」を発表し、身体活動とビデオコンテンツに初めて進出してから数週間後に行われた。この機能は、ユーザーが体を動かすための簡単なエクササイズをガイドするものだ。Calmはこの新機能が、従来の瞑想を始めるのが難しいと感じている人々にとって、マインドフルコンテンツへのエントリポイントになると考えている。また、Calmは最近、最大6つのアカウントを含む「プレミアムファミリー」サブスクリプションプランを新たに導入した。この新しいサービスは全世界で年間99.99ドル(約1万1500)円で提供されており、個人向けのプレミアムプランは年間69.99ドル(国内価格6500円)だ。

Calmは、他の瞑想アプリとともに進行中のパンデミックの中で健闘し、ユーザー数が急増している。同社はこれまでに1億件以上のダウンロードを誇り、毎日平均10万人の新規ユーザーを獲得しているという。2020年12月、CalmはシリーズCラウンドで7500万ドル(約86億4000万円)を調達し、同社の評価額を20億ドル(約2304億円)に押し上げた。既存投資家のLightspeed Venture Partnersが同ラウンドをリードした。

画像クレジット:Calm

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(文:Aisha Malik、翻訳:Aya Nakazato)

大手メーカーがコンテンツ重視のアプローチを強化する中、ヘルスケアウェアラブルWithingsがワークアウトアプリ8fitを買収

現地時間2月2日、フランスのヘルスケアウェアラブル企業であるWithingsが、ワークアウトと食事プランアプリの8fitを買収したと発表した。AppleやSamsung、Peloton、Mirrorといったハードウェアメーカーがフィットネス分野でコンテンツ重視のアプローチを強化する中での今回の買収だ。

ベルリンを拠点とする8fitは2014年に創業し、HIITやボクシングなどのワークアウト、ヨガ、瞑想、そしてレシピに至るまで、フィットネスに関するあらゆることを提供するサービスにまで成長してきた。同社は2017年の700万ドル(約8億円)のシリーズAなど、これまでに合計1000万ドル(約11億4500万円)を調達した。シリーズAの際に我々が取材してお伝えした通り、その時点でサブスクリプションプランによってすでに毎月100万ドル(約1億1500万円)を超える収益を上げていた。

スマートウォッチ、体重計、フィットネストラッカーといったさまざまなヘルスケアハードウェアを開発してきたWithingsとしては、今回の買収はかなりわかりやすいものだ。8fitを買収することで、Withingsはコンテンツの重要なレイヤーを提供できるようになり、しかもこれまでのようにまずハードウェアを売り、その後でさらに収入を得ることにもつながる。

WithingsのCEOであるMathieu Letombe(マチュー・レトンベ)氏は発表の中で次のように述べている。「我々は現在、『プロダクト – サービス – データ』の時代へ進んでいくことが重要であると感じています。個人のヘルスケアデータとその人に合わせたウェルネスのプランを組み合わせて、誰もが長期的に見てもっと健康になれるように支援するという我々のミッションをさらに実行していきます。8fitの買収により、エレガントにデザインされたヘルスケアデバイス、幅広いヘルスケアのデータ、シンプルで受け入れやすく我々のお客様に特化した経験豊かなアドバイスを組み合わせた戦略をお届けできるようになります」。

この買収によってWithingsは同社の既存ソフトウェアに8fitのサービスを統合し、Withingsのデバイスから収集された豊富なデータに基づいて、実行に移せる知見を提供するものと見られる。Withingsはコネクテッドフィットネスのサービス構築にさらに3000万ドル(約34億3500万円)を投資する計画であるとしている。

8fitのCEOであるLisette Fabian(リゼット・ファビアン)氏は「我々が提供しているサービスからすると、ユーザーが健康のゴールを達成するための支援をするというWithingsと8fitの方向性は一致しています。正確で質の高いデータを収集するコネクテッドヘルスケアデバイスにおけるWithingsの専門性と、我々のフィットネスや食事プランを組み合わせることに期待しています。両社は協力してユーザーに対し包括的なヘルスケアサービスを提供し、ユーザーがさらに健康で幸せな生活を送れるよう支援します」と述べた。

近年、フィットネスウェアラブルメーカー各社はコンテンツ分野への投資を増やしている。コロナ禍のためジムに行かずにワークアウトをしたいユーザーが増える中、Appleは2021年にFitness+を開始した。Googleに買収されたFitbitは月額10ドル(約1150円)のプレミアムサービスを提供し、ワークアウトと詳しいデータを連携できるようにしている。8fitが現在提供しているサービスはそれよりも高価で、月額25ドル(約2860円)または年額80ドル(約9160円)だ。

価格について8fitは次のように説明している。

我々は無料のアプリではありません。無料のアプリなどというものは存在しないからです。アプリに登場する人は8fitで働いていますし、登場こそしませんがアプリの向こう側にはもっとたくさんの人がいます。そして我々はその人たちの働きに対して公正に報酬を支払うという信念を持っています。毎月20〜30種類の新しいワークアウトを作成し、20〜30本の新しい記事を公開し、これらをすべてアプリに組み込むプログラミングには、たいへんな労力がかかっています。

画像クレジット:Withings

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(文:Brian Heater、翻訳:Kaori Koyama)

Stogglesは仕事で使われる保護メガネもファッションの一部だと考えている

私たちがサングラスをかけるのは、目に太陽の日差しが入らないようにするためだが、それは常にファッションの一部でもあった。Stoggles(ストグルズ)の共同設立者であるMax Greenberg(マックス・グリーンバーグ)氏とRahul Khatri(ラフル・カトリ)氏は、保護メガネにもファッションのラベルが適用されるべきだと考えている。

世界的なパンデミックが起きたとき、2人は別のファッションメガネの会社で一緒に働いていた。市場がいかに飽和状態にあるかを目の当たりにした2人は、最初はヘルスケア業界をターゲットに、保護メガネを、これと類似したセクシーな空間にする機会を見出した。Stogglesのメガネは、ANSI-Z87認定の保護性能と、スタイリッシュで快適性を兼ね備え、度付きレンズのオプションもあり、ブルーライトカット技術や独自のくもり止めコーティングが施されている。

グリーンバーグ氏は「我々の最大の顧客は医療従事者で、これは非常にやりがいのあるビジネスでした。そして、彼らは、本当にかさばって、不快かつ不格好な保護メガネをかけることから、見せびらかしたい、Instagramにも投稿したい、機能的にも一般的な幸福度やウェルビーイングにおいても、日常生活に大きな影響を与えるものであることを友人に共有して話したいと思うようになったのです」。と語っている。

彼らは2020年8月にロサンゼルスを拠点とするStogglesをクラウドファンディングでキックオフし、2021年2月にeコマースサイトを立ち上げた。そこからグリーンバーグ氏は「2021年は信じられないような成長を遂げ、前月比で平均約30%の収益増を記録しました」と述べている。

世界の保護メガネ市場は、2026年までに31億ドル(約3540億円)規模の産業に達すると言われており、他にもPair Eyewear(ペア・アイウェア)Cheeterz Club(チーターズ・クラブ)、そしてその発端となったWarby Parker(ウォービー・パーカー)(9月に直接上場)など、より消費者側ではあるが、メガネをもっと流行らせようと取り組んでいる企業もある。

Stogglesの創業者たちは、すでに利益を上げており、同社のアイウェア製品もヘルスケア業界では好評だったにもかかわらず、会社を立ち上げた後、最初のベンチャーキャピタルのラウンドに参加することにしたのだ。グリーンバーグ氏によると、同社はすでに製品と市場の適合性を確立していたため、従来のシリーズAではなく、成長ラウンドに進み、The Chernin Group(ザ・チェルニン・グループ)から4000万ドル(約45億7200万円)を調達したとのことだ。

同社の目標の1つは、Stogglesの認知度を上げるために、コンテンツやメディアへの参入を増やすことであり、創業者たちは、コンテンツやメディア企業での経験を持つThe Chernin Groupがそのための良いパートナーになると考えたと、彼は付け加えた。

TCGのパートナーであるLuke Beatty(ルーク・ビーティー)氏は、Stogglesが保護メガネ市場の大きなギャップを発見し、それを証明しただけでなく、そのギャップを埋めたと書面で述べている。「この創業年数の企業としては、かなり驚くべき偉業だと思います」と付け加えた。「マックスとラフルは、卓越したビジネスモデルを巧みに構築しており、我々はこの次の成長段階におけるパートナーになれることをうれしく思っています」。と述べている。

同社は、今回の資金調達により、ゴーグルのラインアップを拡充するための製品開発への投資を行い、ヘルスケア市場でより多くの製品を提供し続ける予定だ。また、この市場を超えて、建設、実験科学、ホームセンター、日曜大工など、他の市場にも進出する構えだと、グリーンバーグ氏は述べている。さらに、Stogglesは経営陣を強化し、マーケティング・ディレクターを加えることも検討している。

現在、従業員は15名だが、2022年中に倍増させたい考えだ。

「私たちは、私たちの使命を理解し、その達成を手助けし、その一部となることを望む、偉大で本当に情熱的な人々の強い基盤を作りたいと思っています」と、グリーンバーグ氏は付け加えた。「私たちは、ヘルスケアのお客さまのおかげでここまで来ることができたので、お客さまのためにさらに良い製品を作り、改善を続け、製品ラインを拡大し、情報を発信し、体験をより良いものにしたいのです」と語っている。

画像クレジット:Stoggles

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(文:Christine Hall、翻訳:Akihito Mizukoshi)

プロトレーナーによるマンツーマンのダイエット指導をオンラインで提供するWITH Fitnessのウィズカンパニーが1億円調達

プロトレーナーによるマンツーマンのダイエット指導をオンラインで提供するWITH Fitnessのウィズカンパニーが1億円調達

プロトレーナー指導による、マンツーマンのオンライン・パーソナルトレーニングアプリ「WITH Fitness」(ウィズフィットネス)(iOS版)を提供するウィズカンパニーは2月1日、第三者割当増資により約1億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は千葉道場、デライト・ベンチャーズ。

調達した資金は、新たなトレーナーやエンジニアといった人材の獲得、健康経営を実施している企業との連携も見据えたプロダクト開発にあてる。今後は、個人だけでなくジムや健康経営に興味を持つ企業との連携も視野にサービスを拡大する予定とのこと。

WITH Fitnessでは、厳選されたプロトレーナーが、ユーザーの目的や体質に合ったダイエット指導をマンツーマンで提供するというアプリ。徹底管理型のパーソナルトレーニングとしており、ユーザーごとに「今」必要なトレーニングメニューと日々の食事方針を指導するという。

食事の記録については、写真を撮影してアプリにアップロードするだけ、また運動の記録ではトレーナーが組んだメニューを実行するだけで完結する方式を採用。このため、忙しい人でも手間なく簡単に記録を続けられるよう設計しており、さらにこれが報告とシームレスにつながるようにしている。

また、Apple Watchなどのウェアラブルデバイスと連携してアクティビティを自動的に同期する機能も備えており、ユーザーが自身の状況を管理しやすいという。これらアプリの機能をパーソナルトレーニングに特化させることによって、プロのトレーナーによる指導価値がオンラインにおいても目減りしないダイエット経験が得られる。

さらに、好きな時間にZoomを使ったリアルタイムのオンラインレッスンを受講することも可能で、レッスン後には専属トレーナーから専用の運動メニューと食事方針が届くという。

2020年7月設立のウィズカンパニーは、「望む人がずっと理想の身体で生きられる世界を創る」というビジョンを掲げるスタートアップ。オンラインでもプロトレーナーの指導価値が120%で届く体験を目指し、アプリ開発およびサービスの改善を進めているという。

家庭用性感染症検査キットを提供しSTI検査の敷居を下げる米TBD Health

性に関する健康問題は以前ほどタブーではないが、だからといって、STI(Sexual Transmitted Infection、性感染症)の検査における問題がすべて解決したというわけではない。TBD Health(TBDヘルス)は「Vagina-Haver(女性器所有者)」のために、自宅で検査ができるようにするという新しいアプローチをとっている。同社は、自宅で5種の検査ができる「Check Yourself Out(チェック・ユアセルフ・アウト)」キットを提供しているが、最近、ラスベガスに対面式のクリニックを開設した。なぜ家庭でできる性のヘルスケアサービスが求められているのか、共同設立者の2人に話を聞いた。

米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国のSTI感染率はここ数年上昇を続けており、2021年に報告されたデータでは6年連続で過去最高を記録している。米国では5人に1人がSTIに罹患しており、そのうち半数は15~24歳の若者で、直接的な医療費として160億ドル(約1兆8200億円)がかかっている。あえていうなら、TBDは縮小するはずの市場を狙っているのだが、そうではない。

「当社は、検診にかかることが重要であることに気づいた。現在、検診を受ける人は以前よりも少なくなっている。これは新型コロナウイルス感染症の影響もあるが、人々は病院に行きたがらないし、連邦政府の多くの資金援助が問題をより複雑にしている。当社は、家庭用キットから始めて、人々の日常生活で実際に有効なSTI検査を提供するために設立された。他の医療関連企業とはまったく異なるアプローチをとったので、臨床的とは感じないし、賭けに出ているとも感じていない。本当に受診者の身になって行うような検診をしたいと考えていた。そして、2022年の初めに、6つの州で試験的にクリニックを開設した」とTBD Healthの共同設立者であるStephanie Estey(ステファニー・エスティ)氏は語る。

TBD Healthの家庭用検査サービスは、ワシントン州、アリゾナ州、ネバダ州、マサチューセッツ州、フロリダ州、コネチカット州で提供されており、さらに多くの州への展開を計画しているが、全50州をカバーするには規制上の課題がある。

「もし陽性と診断された場合、当社でほとんどすべての治療を行うことができる。当社の臨床医は、罹患者の個別のケアプランについて話し合うための時間を設ける。それは『ここに一般的なケアプランがあるので、かかりつけの病院に相談してください』というような無責任なものではない。例えば、抗生物質が必要な感染症の大半は、当社が処方箋を発行して治療を行うことができる」とエスティ氏は説明する。もちろん、臨床医を必要とするということは、その臨床医らが活動するすべての州に拠点が必要だということでもある。「当社は各州に医療チームを置いており、臨床医がすべての結果を確認し、検査機関の依頼に署名し、結果を分析したり、処方を行ったりする。現在は6つの州で展開しているが、2022年には急ピッチで拡大していく予定だ」と同氏はいう。

同社は、通常の医師が検査できるのと同じSTIをすべて検査できるとしているが、検体の採取には自己採取のプロトコルを採用している。自分で採取するものには、膣スワブ、尿サンプル、血液サンプルがある。特に血液サンプルについては、静脈穿刺を自分で行うのかと興味をそそられたが、指先から採血カードに少量の血液を落とすタイプのもので、それを医療チームが分析し、治療が必要かどうか判断できるとのことだ。

「当社では、乾燥血液スポットカードと呼ばれるものを使用している。これは基本的に、いくつかの円が描かれた紙であり、指にランセットを刺して血液を垂らして使う。糖尿病患者が日常的に行っている検査と同じものだ。このカードによって、HIVや梅毒など、血液を用いた主なSTIの検査はすべて行うことができる。実際これは、すばらしいツールだ。乳児の採血をするのは難しいため、乳児の検査を目的として開発されたものだと思う。また、輸送中も安定しているので、自宅での検査に適している」とエスティ氏は説明する。

ラスベガスにオープンしたTBD Healthの対面式クリニック。壁には家庭用検査ボックスが飾られている(画像クレジット:TBD Health)

TBD Healthは、従来のSTI検査プロトコルの精度を維持しているという。

「検査機関での検査には、感度と特異度という2つの主要な精度指標がある。その確認のため、当社は多くの検査機関を精査した。当社のパートナー検査機関の感度と特異度は基準を満たしており、これは必要な精度を確保していることを意味している。また、自宅でプライバシーを守りながら検査ができる」とエスティ氏は述べる。そして「遠隔医療により、当社の臨床ケアチームのサポートを受けることもできる」と同氏は付け加える。

TBDは、対面式のケアも行うために、ラスベガスにケアハブを開設した。これは、顧客のニーズをより深く把握できる環境を整え、そこから得た知見を他の事業のサービス向上につなげることを目的としている。

今のところ、同社は女性器所有者に焦点を当てている。それは、STIの問題だけでなく、不妊症の問題にも取り組んでいるためであり、可能な限り最高のサービスを提供するため、同社は対象を絞ることにした。

「当社は今、女性と女性器所有者のためのサービスに集中している。男性器所有者へのサービスが当社のロードマップのどこに位置するのかは、まだいえない。男性器所有者は、伝染の面で大きな要因となっていることは確かだ。しかし、女性にとっては、コストや不名誉だけでなく、多くの場合、生殖機能の問題でもある。STIは、米国における不妊症の原因のうち、予防可能なものの1番目に挙げられている」とエスティ氏は説明し、そして次のように続けた。「当社が重点分野を拡大する場合、そうした人々に適切なサービスを提供できる体制を整えたいと考えている。企業が間違ったことをする例は数多くある。女性のために何かを作ることは、ピンク色にすればいいというようなことではない。TBDは、女性器所有者をよく理解していて、どうすれば最適なサービスを提供できるかわかっている。だからこのサービスに深く関わることに興奮を覚えるのだと思う。当社が男性器所有者にサービスを提供する時には、女性器所有者に対して行ってきたことと同様に、思慮深く、真剣に、公正を保ちたいと考えている」。

画像クレジット:TBD Health

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

がん患者のためのデジタルサポートと研究開発向けのSaaSを提供する英Vinehealth、米国でのローンチを目指して6.2億円調達

2018年にロンドンで設立されたデジタルヘルスのスタートアップVinehealth(ヴィネヘルス)は、がん患者のためのパーソナル化されたサポートを提供すると同時に、薬の開発や臨床試験を含む患者報告アウトカム(PRO:Patient Reported Outcome)データの収集を容易にするアプリを構築した。同社は米国進出の準備を進める中、550万ドル(約6億2000万円)のシードラウンドを完了した。

共同創業者でCTOのGeorgina Kirby(ジョージナ・カービー)氏が「後期シード」と呼ぶこのラウンドは「今後12〜18カ月の間に」予定されているシリーズAに先立って行われたもので、Talis Capital(タリス・キャピタル)がリードし、既存投資家のPlayfair Capital(プレイフェア・キャピタル)とAscension(アセンション)が参加した。

AXA PPP Healthcare(AXA PPPヘルスケア)の元CEOであるKeith Gibbs(キース・ギブズ)氏をはじめ、多くのエンジェル投資家もこのラウンドに参加している。Newhealth(ニューヘルス)のパートナーPam Garside(パム・ガーサイド氏)、Wired(ワイアード)の創刊者兼編集者David Rowan(デビッド・ローワン)氏が率いるVoyagers Health-Tech Fund(ボイジャーズ・ヘルス-テック・ファンド)、ヘルスケア起業家でPI Capital(PIキャピタル)の創業者David Giampaolo(デビッド・ジャンパオロ)氏、Speedinvest(スピードインベスト)とAtomico Angel(アトミコ・エンジェル)のベンチャーパートナーDeepali Nangia(ディーパリ・ナンジア氏)、Bristol Myers Squibb(ブリストル・マイヤーズ・スクイブ)のVP兼元医療ディレクターFaisal Mehmud(ファイサル・メフムード)氏、King’s College London(キングス・カレッジ・ロンドン)とKing’s College Hospital NHS Foundation Trust(キングスカレッジ病院NHS財団トラスト)およびGuy’s and St Thomas’ NHS Trust(ガイズ&聖トーマスNHS財団トラスト)のコラボレーションであるKHP MedTech Innovations(KHPメドテック・イノベーション)が名を連ねている。

このスタートアップは、2019年に創業者たちがEntrepreneur First(アントレプレナー・ファースト)のデモデーにピッチしたとき、私たちが「注目すべき」と評した企業だ。同社は、行動科学とAIを組み合わせて、患者にタイムリーなサポートとナッジ(薬の服用を促すリマインダーなど)を提供することで、患者が自分の治療をより簡単に自己管理できるようにしている。

Vinehealthのプラットフォームは、患者が症状に関するフィードバックを提供したり、治療の副作用を報告したりする際に、臨床医が患者をリモートで監視できるチャネルとしても機能する。

このアプリは2020年1月に公開されて以来、これまでに約1万5000回ダウンロードされている。カービー氏が確認したところによると、そのダウンロード数はこれまですべて利用に及んでおり、純粋な患者サポートと試験・研究の両方が含まれているという。

同社の患者支援アプリは、がん患者が自分でダウンロードできるように無料で提供されている。現在は英国とアイルランドで利用可能となっている。

製薬業界向けには、VinehealthはそのプラットフォームをSaaSとして提供しており、製薬会社が試験のために患者を募集したり、研究開発や医薬品開発のためにPROを集めたりするのを支援している。

「私たちは最初から製薬業界に注力してきました。トラクションを豊富に獲得しており、多くの機会を見出しています」とカービー氏は語る。「患者支援プログラムと臨床試験は極めて類似性が高い(プロダクト)です【略】製薬業界向けのものは、薬の開発プロセスの一部であるという点で異なりますが、ソフトウェアの提供という観点では、そのプロセスを通じて患者が必要とするものであり、非常に類似しています。そのため、こうしたライフサイエンスのオファリングに的を絞っています」。

同氏は、Vinehealthがヘルスケアサービスに直接売り込む調達ルートを進んではいないことを強調した。つまり基本的には、患者への支援ソフトウェアの無償提供にライフサイエンス研究が資金を提供する、という考え方だ(ただし、現時点では製薬業界の顧客名を公表することはできない)。

収益化に関しては、製薬会社のニーズに応えることに焦点が置かれている。Vinehealthは患者中心のアプリとして見られることも同様に切望しており、より良い患者アウトカムを促進する重要な臨床医サポートの役割を果たすことを目指している。

「どのブラウザからでもアクセス可能なウェブダッシュボードを用意しています。患者をリモートで追跡したいと考えている臨床医や医師は、調査研究の実施を通じて、あるいは臨床試験の中でも、それを行うことができます」とカービー氏。「こうした医師や看護師はデータをリアルタイムで見ることができる一方、それをケア経路の適切なポイントのいずれかに送り込むことも可能になっています。もちろん、彼らは1日中ダッシュボードの前に座っているということはありませんが、特定の危険信号を確認してどの患者を最初に診察すべきかを把握することや、そのようなリアルタイムのデータを使ってより良い臨床判断を下す方法を知ることは、通常(隔週や月ごとの患者追跡)よりも非常に有益な場合があります」。

「これまでに得たことのないコンテキストと豊富な長期的データを提供するものです」と同氏は付け加えた。

Vinehealthは従来の紙ベースの質問票をデジタル化した。がん患者が臨床チームを訪問する際、症状を報告し、より広範なフィードバックを提供するために記入するよう一般的に求められるものだ。

その前提は、レガシープロセスを専用のユーザーフレンドリーなデジタルインターフェイスに移行することで、より良い患者の自己管理、治療アウトカム、そしてがんとともに生きる人々の生活の質の向上をサポートすることにある。アプリ経由でデータを報告するのが相対的に簡単であることに加えて、同社はそこにより幅広いサポートパッケージを組み合わせている(アプリにサポートコンテンツを提供するために慈善団体Macmillan[マクミラン]およびBowel Cancer UK[バウエル・キャンサーUK]と協力している)。

例えば、A/BテストとAIを利用して、適切なリソースを抽出するためのパーソナライズされたタイムリーなレコメンデーションの設定、患者の薬の服用に対する注意喚起や動機づけの最善方法の決定、がん治療のための複雑な投薬レジームとなり得るものの管理などを行っている、とカービー氏は説明する。

Vinehealthのアプリラッパーは、患者にPROを提供するよう促すポジティブなフィードバックを施すこともできる。

カービー氏は、患者がPROのデータを効果的に追跡すれば、生存率が最大20%上昇する可能性があるというエビデンスを挙げている。「より良い自己管理は、生存に多大なインパクトを与える可能性があります」と同氏は話す。「私たちは生存率の改善だけではなく、生活の質の向上も提示したいのです」。

行動科学とデータ駆動型サポートを融合したVinehealthのアプローチは、共同創業者たちの専門知識を組み合わせたものだ。

「レイナ(Rayna Patel[レイナ・パテル]氏、共同創業者兼CEO)の経歴はまさに行動科学にあり、私の経歴はデータ科学にあります」とカービー氏は語る。「私たちが協働を始めたとき、ここで双方を有効に活用できると考えました。データを使用することで、人々がどのような状況に置かれているかを把握し、そのナッジが最も効果的なのはどこかを特定することができます。また、行動科学を利用して、適切なタイミングで重要なポイントを的確な言葉で提供することで、人々が習慣を身につけ、よりコントロールできるようになり、何が起こっているのかを実際に理解し、自分のケアのためにより良い決定を下せるようになります」。

「アプリにはいくつかのナッジがあります。大小さまざまです。実際に効果があり、患者に見過ごされてしまうことのない、特定の方法で提供される薬のナッジやリマインダーを開発しています。特定の症状や、それが何につながるのかを記録するためのナッジであり、特定の支援コンテンツを形成するものです。特定のレベルで懸念を記録していくことができます。ここには、具体的な症状や薬の副作用に対処するのに本当に役立つ支援コンテンツがあるのです」。

「時によって、タイミング、言葉の使い方、そしてそのナッジを届けることに関する要素に配慮します」と同氏は言い添えた。「一度にあまりにも多くのことを変えようとすると、何も変えられないという研究結果が出ています。ですから私たちは、どのように患者を少しずつ動かしていくか、どのように患者がより良い習慣を身につける手助けをするのか、またそれをどのくらいの頻度で行うのかについて、慎重に検討を重ねています」。

カービー氏によると、AIを利用して、将来的には予測症状のログ記録など、より高度な提案をプラットフォームに組み込むことも目標に据えているという。例えば「この特定の患者に対して、この特定の薬で何が起こり得るか」といったことだ。

現在のところ、Vinehealthは腫瘍学に特化し、患者に合わせてカスタマイズされたコンテンツレコメンドシステムを構築している。患者の診断に合わせて調整し、患者の継続的なインプットに適応し、他の同様の患者が閲覧し支持しているコンテンツを考慮に入れていくものである。

研究面では、9つのNHSトラストと300人の患者が関与する進行中の研究がこれまでに同プラットフォームで利用された中で最大の研究であり、これはVinehealth自身が行っている研究の一部でもあるとカービー氏は述べている。

健康データはもちろん非常に機密性が高く、Vinehealthが医療情報を処理してサービスを提供し、個別化された治療サポートを行うためには、患者支援プロダクトのユーザーに求められる同意とは別に、第三者による研究目的のための同意が求められることをカービー氏は認めている。

「そのデータは誰とも共有されないものです。ただし、明示的に同意した場合を除きます。プラットフォームにサインアップするだけで、臨床試験の一環としてデータを共有することに同意することにはなりません。これはまったく別の同意です」と同氏はいう。

「私たちはそれを極めて明確にしており、いかなる形であっても共有を隠すことを望んではいません。それは患者にとって真に明白かつ明確でなければなりません。最終的には誰もが患者をサポートしたいと考えています。患者が臨床試験に参加する機会を増やし、そのデータを収集し、例えば自宅で関連する副作用に苦しんでいて、製薬会社に戻ることがないような状況でもそのデータをフィードバックできる方法を提供したいと思っているのです。だからこそ私たちは、自分たちが何をしているのか、なぜそれをしているのかを真に明確にし、患者に選択肢を提供していこうと努めています」。

将来的には、同スタートアップは、患者から提供され、純粋に集計されたインサイトに基づいて「適切に匿名化された」データセットを提供できるようになるかもしれないことをカービー氏は示唆した。例えば、特定の薬剤の特定の副作用を経験している人口統計学的グループをハイライトすることができるかもしれない。しかし現時点では「臨床試験と患者支援プログラムに重点を置いているため」それは行っていないと同氏は付け加えた。

短期的には、Vinehealthは米国でのローンチを通じた成長に向けて準備を進めており(「2022年の早い時期」に実現したいと考えている)、18人強のチームは今後6カ月ほどで倍増する見込みで、最初の米国人雇用者はすでに確定している。

「資金調達を行って以来の私たちの主要な焦点は、優秀なチームを採用して成長させ、チームを築き上げることに時間を投資すること、そして全員がミッションに整合し、この新規市場に参入できる拡張性の高いプロダクトを私たちが実際に構築しているのだと明確に認識することに置かれています」とカービー氏。「スタートアップを立ち上げるには優秀な人材が必要です。優れたテクノロジーを持つことはできますが、優秀な人材がいなければ意味がありません」。

Talis CapitalのプリンシパルであるBeatrice Aliprandi(ビアトリス・アリプランディ)氏は声明の中で次のように述べている。「レイナ(・パテル氏)やジョージナ(・カービー氏)と提携することを非常に楽しみにしています。私たちは、ヘルスケアのアウトカムが財務的なアウトカムと直接的な相関関係にあるという独自のバリュープロポジションを考慮して、投資を行う数カ月前からVinehealthの成長に注目していました。これは患者、病院、製薬会社にとってWin-Win-Winの関係であり、医療業界ではほとんど見られないものです」。

「最初のミーティングから、創業者たちのレジリエンスとミッション主導の姿勢はすぐに明らかになり、そのことがこのオポチュニティを非常に魅力的なものにしました。レイナもジョージナも、がん患者の生活と生存を改善することへの極めて強い動機を持っていることは間違いありません。チームとして、彼らはVinehealthを成功に導くための専門知識、スキル、動機の独自の組み合わせを備えています」。

画像クレジット:David Albatev / under a license

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

うつ病の自宅臨床試験の実施に乗り出すCerebralとAlto Neuroscience

パンデミックによって、リモートワーク、学校、研究を注目せざるを得ない状況になっている。実はそうなる前から、分散化臨床試験はおそらくその姿を現し始めていたのだが、今、それが本格的に登場してきた。

2021年12月、高精度の精神医学スタートアップAlto Neuroscience(アルトニューロサイエンス)とオンラインメンタルヘルスプロバイダーCerebral(セラブラル)が、アルトのうつ病薬候補ALTO-300の分散化フェーズ2臨床試験で協力すると発表した。この臨床試験の大半は患者の自宅で実施される。

具体的にいうと、このプロジェクトでは、セラブラルのプラットフォームから、現在うつ病で苦しんでいるが、既存の治療法では症状が改善されない約200人の患者を募集する。アルトは新薬を提供するだけでなく、患者の生体指標を使って患者に効果がある(または効果がない)薬品を予測するという同社独自の新薬開発アプローチを評価しようとしている。

「臨床試験に数十億ドル(数千億円)を使う羽目になる前に、患者グループに対して徹底した表現型検査を実施して、患者のどのサブグループが本当に新薬の恩恵を受けることができるのかを特定するという方法は、業界では至極道理に適っているものの、これまで誰も行おうとしなかったのです」とセラブラルの医務部長David Mou(デビッド・マオ)氏はTechCrunchに語った。

「ある意味、当社とアルトは相性抜群でした。当社はアルトが必要としているものを持っていましたし、アルトのビジョンは最も成功する可能性が高いものだと確信しています」。

分散化臨床試験の興味深い点

「分散化臨床試験」の定義はいろいろあり、それぞれ微妙に異なるものの、基本的には、バーチャルに、またはモバイル臨床医によって、何らかの形で患者に医療行為が施されるという意味だ。また、データも通常患者のいる場所で収集される。わざわざ、研究センターまで患者が足を運ぶ必要はない。

臨床試験を患者の自宅で実施することによって、患者から見た煩わしさが軽減されるため、現在の臨床試験が抱える大きな問題を解消できる可能性がある。例えば臨床試験を受ける患者の約7割が研究センターから2時間以上離れた場所に住んでいる。登録者数不足のため臨床試験が打ち切られることもよくある。およそ8割の臨床試験で、試験実施までに十分な数の患者を登録できていない。また、専門家によると、臨床試験を患者の自宅で実施することで、新薬研究の多様性とアクセス可能性が向上する可能性があるという。

今回の臨床試験は最初の分散化臨床試験というには程遠いものだが、業界の転換期に登場した手法であることは間違いない。

McKinsey(マッキンゼー)の調査によると、パンデミック前は、分散化臨床試験が主力サービスになると考えていたのは、製薬会社と開発業務受託機関(CRO:製薬会社と契約して開発をする組織)の38%ほどに過ぎなかったという。

マッキンゼーが同じ調査を2020年に実施したところ、回答した企業や機関すべてが、分散化臨床試験は今後大きな役割を果たすようになると考えていると回答した。

今回の臨床試験で判明すること

今回の臨床試験で、自宅で収集されたデータの強み、そうしたデータに対するFDAの考え方、そして現実世界で現場ベースの臨床試験が長年に渡って抱えてきた問題が分散化臨床試験によって解決されるのかどうかといった点について多くのことが明らかになる可能性がある。

詳細なデータを収集することは、アルトの医薬品開発戦略にとってとりわけ重要である。それは、同社が、EEG測定値から感情や気分に関するアンケートまで、さまざまなメンタルヘルス診断を使用した独自の生体指標(体の状態や病態を示す指標)駆動型の患者ポートレートを基盤としているからだ。

「当社はさまざまな精神疾患用の新薬を開発していますが、その際、脳のテストや脳の生体指標に基づいてその新薬の対象となる患者を特定することに重点を置いています」とアルトの創業者兼CEOのAmit Etkin(アミット・エトキン)氏はTechCrunchに語った。

「つまり、今回の臨床試験における当社の主眼点は、当社の収集した整体指標データによって、当社の新薬が効果を発揮する患者を、最も一般化可能な形で特定できることを確認することです」。

セラブラルが近く実施されるアルトの臨床試験において魅力的なパートナーとなる理由はいくつかある。まず、セラブラルは今回の臨床試験の具体的な内容に適合する患者グループを迅速に見つけることができたという点だ。「当社は今回の臨床試験の対象となる200人の患者を1時間以内に見つけ出しました」とマオ氏はいう。

しかし、最も重要なのは、セラブラルが患者や臨床医に関する膨大なデータをすでに収集蓄積しているという点だった。つまり、セラブラルはアルトが必要とする高品質のデータを収集する能力を備えているということだ。このデータには、重篤なうつ病(ウェルネス分野に属するアプリでは対象外となることが多い病状)を患っている患者に関するデータも含まれる。

例えばセラブラルの登録患者はすでに症状や心的状態についてのアンケートに定期的に回答している。またCerebralは臨床医の処方パターンに関するデータも持っており、どの薬が効果がある(または効果がない)のかを知ることができる。

「当社は高品質の医療を非常に重視してきたので、バックエンドにデータインフラを構築せざるを得ませんでした。結果として、患者と臨床医について、現存する他のどのメンタルヘルスプロバイダーよりも詳細に把握できるようになりました」とマオ氏はいう。

厄介なのは、分散化リモート方式で収集されたデータをFDAがどのように見るかという点だ。このプロセスは現在開発中だ。たとえば2021年4月に、FDAは、がんの分散化臨床試験において、対面で収集したデータとリモートで収集したデータを識別できるようにデータセットにラベル付けを行うことを義務付けた。

今回の臨床試験では2つの手法を比較対照できるという利点もある。実際、アルトは、ALTO-300について2の類似した臨床試験を併行して進めている。1つはCerebralと協力して行うものもう1つは従来のサイトベースで行うものだ。

ここでの狙いは、ALTO-300の有効性を検証することだけではない。分散化高精度精神科臨床試験というアイデアそのものをテストするという目的もある。

「当社が行おうとしているのは、FDAに代わって当社のアプローチの正当性を立証し、分散化アプローチで得られる結果が、従来のサイトベースのアプローチで得られる結果と比べて何の遜色もないことを示すことです」。

最後に、今回の臨床試験によって従来の臨床試験が抱えていたさまざまな障害(登録者数不足など)を克服できるという証拠もいくつかあがっている。とはいえ、この方法も完璧ではない。例えばセラブラルの臨床試験に登録されている患者は、ニューヨーク、ダラス、アトランタなどに在住しており、必ずしも主要な医療センターから何時間も離れているというわけではない。

「この方法で登録者数不足が解消されるかといえば、完全に解消されることはないでしょう」とマオ氏はいう。「しかし、今回の登録者たちは極めて精度の高いグループです。従来のように実際の病院経由で登録患者を集めるよりも、本当にうつ病を患っている可能性がずっと高いと思われます」。

試験から商品化へ

両創業者とも、分散化臨床試験は医薬品の商品化の下準備になることを指摘している。例えばセラブラルは承認後に処方すれば患者に効くと思われる薬を承認前に簡単に処方できるとマオ氏は指摘する。

アルトから見ると、セラブラルはメンタルヘルスの生体指標を臨床診断に持ち込むためのパイプ役になる。これはメンタルヘルスの症状を診断する際の長年の懸案だった(これまでメンタルヘルスの診断は、医療試験ではなく、行動に現れる症状を観察することによって行われていたが、一部の研究者やアルトなどの民間企業が生体指標の確認による診断へと変えるべく取り組みを進めてきた)。

「当社の投薬用生体指標データが承認されれば、セラブラルなどのパートナー企業は同データを臨床試験に持ち込むのに理想的な存在となります。彼らの臨床ケアは構造化が進んでおり、徹底して追跡されているからです」。

アルトとセラブラルの両社は、今回の臨床試験について、2022年末までに最初の結果を取得する考えだ。

画像クレジット:Evgeny Gromov / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

自宅でペットを観察しながら飼い主が医師と病状などを話し合えるプラットフォームThe Vetsが約46.1億調達

在宅医療を提供するテクノロジーを活用したペットヘルスケアプラットフォームThe Vets(ザ・ベッツ)が、Target Global(ターゲット・グローバル)、PICO Venture Partners(PICO・ベンチャー・パートナーズ)、Bolt Ventures(ボルト・ベンチャーズ)を中心としたシード資金として4000万ドル(約46億1900万円)を調達したことが明らかになった。共同創業者であるTarget Globalのベンチャー構築プログラムの一環として2021年設立された、CEOのDaniel Sagis(ダニエル・サギス)氏、COOのDori Fussmann(ドリ・フスマン)氏、Target Globalらによるチームは、技術革新と在宅ケアの融合によりペットケアを変革することを目指している。

同社は、ペットの飼い主と医師が、自宅の環境でペットを観察しながら病状や予防医療について話し合うことができる機能を提供する。訪問診療では、血液検査やバイタル測定など、完全な診断が行われる。このような訪問診療のデータを集約することで、より正確な診断や健康状態の予測、品種ごとの傾向の分析が可能になるという。

設立以来、マイアミ、タンパ、ダラス、オースティン、ヒューストン、ポートランド、シアトル、ラスベガス、デンバーの9都市で展開している。そして米国時間1月27日より、ニューヨークでもThe Vetsのサービスを利用できるようになった。同社は、年内に25都市でサービスを提供する予定だ。The Vetsは、これまでに7000匹以上のペットにサービスを提供してきた。

また、このスタートアップは、獣医師の間で深刻化している燃え尽き症候群の問題に対処することも目的としている。そのために、The Vetsは獣医師の週4日勤務制の推進と1日の予約数を制限し、獣医師が過労にならないように配慮している。

「獣医師はあまりにも長い間、過労と低賃金、そして低評価を受けてきました。私たちは、幸せで健康なペットは、幸せで健康な獣医師から生まれると信じています」と、CEO兼共同創設者であるダニエル・サギス氏は声明で述べている。「この資金調達ラウンドは、先制技術を活用した次世代のペット医療としてThe Vetsを位置づけ、当社の足跡を強化し、新しい市場にはるかに効率的かつ効果的に浸透させることを可能にします」と述べる。

このプラットフォームで顧客は、自宅訪問を依頼し、健康診断、自宅ラボ検査、マイクロチップ、予防接種、健康旅行証明書など、ペットのための多くのサービスを受けるためのスケジュールを立てることができる。また、医師は、顧客教育や栄養情報などを提供することができる。同社は、ペット医療を顧客の自宅で行うことで、獣医師がペットとより強い関係を築き、また快適でストレスのない環境でペットに医療を提供することができるという。

The Vetsの会長でTarget Globalの共同設立者であるShmuel Chafets(シュムエル・チャフェツ)氏は、TechCrunchに対し、このシード資金により、同社のチームを惹きつけ、訓練し、成長させる力が拡大されると語っている。また、この資金は、カスタマー・エクスペリエンスを構築し、2022年中に新しい市場に進出するためのイニシアチブをサポートするものだとも述べている。

「獣医師、ソフトウェア開発者、データサイエンティスト、アナリストで構成される研究開発部門が確立されています」とチャフェツ氏はいう。「私たちは、お客様とそのペットのためにパーソナライズされた医学的洞察を導き出すために、私たちのデータサイエンス能力を有効活用する計画です。これにより、当社の獣医師は、ケースバイケースで最適な治療を提供するだけでなく、病気の傾向や発生、発生原因も検出できるようになり、米国におけるペット予防医療の新しいスタンダードを作り上げることができるのです」と語っている。

画像クレジット:The Vets

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(文:Aisha Malik、翻訳:Akihito Mizukoshi)

精神疾患者向けカウンセリングAI実現のための大規模対話データベース構築に関する産官学共同研究プロジェクト

精神疾患者向けカウンセリングAI実現のための大規模対話データベース構築に関する産官学共同研究プロジェクト

精神障害者や発達障害者の教育・就労支援を行うフロンティアリンクは1月26日、日本初となる実際のカウンセリングの臨床データに基づいた大規模な対話データベースを構築し、「カウンセリングAI実現に向けたカウンセラーの効果的なコミュニケーションのパターン解析」を行うプロジェクトを開始すると発表した。これは、国立精神・神経医療研究センター東京工業大学との共同研究。また、国立精神・神経医療研究センター倫理審査の承認を得たものという(承認日:2021年11月15日、承認番号:B2021-084)。

日本では、100万人を超えるひきこもり者、400万人を超える精神障害者があり、その数は糖尿病やがんの患者数を上回るという。しかし、精神疾患の専門機関への相談は敷居が高いと感じる人が多く、カウンセリングを受けたことのない人が全体の94%に上っている(中小企業基盤整備機構。2019)。「潜在的には相談ニーズがあっても実際の相談行為に至らないというケースが多い」ということだ。

そうした潜在的相談ニーズをすくいあげるツールとして、AIがある。すでに音声アシスタントやホテルの受け付けなどで利用されている会話型AIを使うことで、相談の敷居が下げられる。場所や時間の制約も受けない。また、精神疾患者には外出が不安だったり、対人交流ができない人の場合、バーチャルのほうが自己開示しやすいという研究報告もある。

ただ、カウンセリングAIの開発には基盤となるデータベースが必要となる。研究の進んだ海外では、電子学術データベースを擁する出版社「Alexander Street Press」が体系的に整理された4000ものカウンセリングセッションの逐語データをオープンソース化するなど、対話型のAIカウンセリングシステムの発展に寄与しているが、日本では先行研究に使用できるデータが少なく、学生のロールプレイによる模擬データであったりするため、ユーザーの話を傾聴し、話を「深める」システムの発達について課題がある状況という。

そこでフロンティアリンクは、産官学共同で、実際のカウンセリングの臨床データに基づく大規模な対話データベースを構築し、このプロジェクトを開始した。ここでは、経験豊富なカウンセラーのカウンセリングデータを、600セッション収集することを目指す。また、自然言語処理、言語学、情報システム、精神医学、臨床心理学の専門家が、カウンセラーの効果的な発話の分析を行うとしている。

このプロジェクトで期待される効果には、精神疾患の重篤化を防ぐ早期発見、早期介入によるメンタルヘルスの増進のみならず、専門家の雇用促進、専門機関のネットワークの拡充、気軽に相談できる風土の促進が挙げられている。カウンセリングAIにより気軽に相談できる環境が整えば、それを通してユーザーを専門機関につなげるネットワーク作りも可能になるということだ。

画像クレジット:Volodymyr Hryshchenko on Unsplash

患者と医師、両方からデータを得てがん治療をよりパーソナライズする仏Resilience、約51.6億円調達

フランスのスタートアップであるResilience(レジリエンス)は、中央ヨーロッパ時間1月25日、Cathay Innovationが主導するシリーズAラウンドで4000万ユーロ(約51億6000万円)を調達したと発表した。同社は、がんと診断されたときの治療の道のりを改善し、より健康で長い人生を送れるように支援することを目指している。

このラウンドには、Cathay Innovationに加え、既存投資家であるSingularも参加した。Exor Seeds、Picus Capital、Seaya Venturesなどのファンドもこのラウンドに参加している。さらに、Fondation Santé Service、MACSF、Ramsay Santé、Vivalto Venturesといったヘルスケア分野の投資家も参加している。

Resilienceについては2021年3月にすでに紹介しているので、ぜひ前回の記事を読んで、この会社のことをもっと知っていただきたい。同社は、シリアルアントレプレナーであるCéline Lazorthes(セリーヌ・ラゾルテス)氏とJonathan Benhamou(ジョナサン・ベンハモウ)氏が共同設立した会社で、がん治療において患者と医療提供者の両方を支援したいと考えている。

関連記事:ITでがん治療を支援するフランスの意欲的なスタートアップ「Resilience」

患者側では、Resilienceはがんやがん治療の影響や副作用を測定し、理解し対処するのに役立つ。ユーザーはアプリ内でさまざまなデータポイントを追跡し、自分の病気に関するコンテンツや情報を見つけることができる。

だが、Resilienceは自宅で使用するアプリだけではない。病院が治療をよりパーソナライズするための、病院向けのSaaSソリューションでもあるのだ。Resilienceは、世界有数のがん研究機関であるGustave Roussy(ギュスターヴ・ルシー研究所)とのパートナーシップにより設立された。

医療関係者は、患者がアプリを使って集めたすべてのデータを活用できるようになる。これにより、がん治療施設は患者をよりよく理解し、より迅速にケアを適応させることができる。ResilienceはBetteriseを買収することで、データ駆動型のがん治療に関して先陣を切ることができた。

長期的なビジョンは、それよりもさらに野心的だ。がん治療施設で働く医療提供者に話を聞くと必ず、時間がいくらあっても足りない、という。

しかも、ますます専門化していく新しい治療法を把握するのはさらに困難だ。Resilienceは、医師に取って代わるものではない。しかし、医師が盲点を克服する手助けをしたいと考えている。

その結果、患者はより良い治療を受けることができ、Resilienceアプリによって追加サポートを受けられるようになるはずだ。がんの治療は長く苦しいものなので、プロセスを改善することができれば、それは良いことに違いない。

画像クレジット:Resilience

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(文:Romain Dillet、翻訳:Aya Nakazato)

オンライン肌相談・医薬品EC「「東京美肌堂クリニック」提供のLATRICOが3億円のシリーズA調達

オンライン肌相談・医薬品EC「「東京美肌堂クリニック」提供のLATRICOが3億円のシリーズA調達、マーケ・システム開発・採用強化オンライン医薬品EC「東京美肌堂クリニック」のシステム開発・運営、およびマーケティングを行なうLATRICO(ラトリコ)は1月26日、シリーズAラウンドとして、第三者割当増資による総額約3億円の資金調達を発表した。引受先は、コロプラネクスト、HIRAC FUND。累計調達額は約5億5000万円となった。

調達した資金は、経営基盤のさらなる強化を目指してマーケティング、システム開発および人材採用に充当。東京美肌堂クリニックの事業展開をさらに加速させる。

2020年9月設立のLATRICOは、「医療にテクノロジーのチカラを」をビジョンとし、人々の医療へのアクセシビリティの向上を目指すヘルスケア領域スタートアップ。同社ユーザー調査によると「この症状で病院に行っていいのか」と受診をためらってしまうケースや、待ち時間の長さを理由とする受診控え、クオリティにバラつきのある民間療法に高い費用をかけてしまう人は少なくないという。LATRICOはそのような背景を踏まえ、オンライン診療の普及を推進し、ユーザーには利便性とクオリティを両立したソリューションの提供を、医師には隙間時間の活用・働き方の多様化の機会を提供することで、医療インフラの有効活用への貢献を目指している。

東京美肌堂クリニックは「美容に医薬のチカラを」をコンセプトに、オンラインで肌の相談・診療と医療用医薬品・漢方薬を提供するサービス。オンライン診療とECのスキームを組み合わせることによって、医師との相談・お薬の処方を便利に利用できるという(東京総合美容医療クリニックと提携し、プラットフォーム・システムの提供、マーケティング、医薬品の発送を実施している)。肌にトラブルや悩みがあるものの、心理的・物理的なハードルの高さで美容皮膚科にアクセスしづらかったユーザーに対し、有益な情報と利便性の高いサービスを届けることを目標としている。

米実業家マーク・キューバン氏、ジェネリック医薬品を低価格で提供するオンライン薬局を開設

Mark Cuban(マーク・キューバン)が先週末に発表した、100種類以上のジェネリック医薬品を原価に近い価格で販売するオンライン薬局は、まったく思いもよらないものだったが、薬を買うのに苦労している何百万人もの人々に歓迎されることだろう。この億万長者はTechCrunchの取材に対し、このビジネスモデルは清々しいほどシンプルだと語った。「低価格化が患者のストレスを減らし、それが顧客の増加につながるのです」。

このCost Plus Drug Company(コスト・プラス・ドラッグ・カンパニー)の目的は非常にシンプルで、できるだけ多くの一般的な医薬品を、ジェネリック医薬品として、できる限り低価格で提供することである。すべて現金で、IP取引も保険会社も使わず、製造コストに15%を加えた価格で薬を購入するだけだ。

ROI(投資収益率)について質問されたキューバン氏は、それほど高くないことを認め、これは意図的なものであると答えた。

「薬を買える人の数を最大限に増やしながら、損益分岐点を超えたい」と、キューバン氏は語った。「まあ、少しでも利益が出て、他で売られているジェネリック医薬品の価格を大幅に下げることができれば嬉しいね」。

「私たちの課題は、価格を下げ続けること」であり、誰かと競争することではないと、同氏は続けた。「私たちのKPI(重要業績評価指標)は、ジェネリック医薬品を購入する患者のストレスをどれだけ軽減できるかです。人々は薬代を大幅に節約できたら、同じ問題を抱えている知人に教えることがあるでしょう。 そのような口コミが、私たちの成長に最も影響を与えます」。

同社は現在、偏頭痛の薬からHIV、避妊薬まで、あらゆる薬のジェネリック医薬品を提供しているが、扱う薬には、より安く提供できる、あるいは提供すべきであるということ以外、特に優先順位はないと、キューバン氏は説明する。また、どのよう症状に対する薬を次に扱うかということを決める委員会のようなものもない。

「プロセスとしては、世の中に出回っているものよりも安い価格で提供できる薬を選ぶだけです」と、キューバン氏は簡単に答えた。「これはどんなビジネスでも同じです」。

中間業者を排除し、実績のある製品を誰よりも安く提供するという極めてわかりやすいビジネスプランは、今では古めかしく感じられるが、キューバン氏は自分のやっていることを、よく理解している。少なくとも全般的(ジェネリック)には。オンライン薬局に参入しようとしているスタートアップ企業へのアドバイスを求められたキューバン氏は、肩をすくめるように答えた。「私には何もありません。私はまだ学んでいる最中ですから」。

画像クレジット:BRENDAN SMIALOWSKI/AFP

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

AI問診・病名予測アプリのUbieが新型コロナ第6波を受け全国の病院・クリニックへ「ホームページAI相談窓口」を無償提供

AI問診・病名予測アプリ開発のUbieが新型コロナ第6波を受け全国の病院・クリニックへ「ホームページAI相談窓口」を無償提供

Ubieは1月25日、全国の病院・クリニックを対象に「ホームページAI相談窓口」の無償提供を開始したと発表した。来院前に各医療機関のウェブサイト上でAIを使用した事前問診が行えるサービスで、患者の症状に応じた適切な案内と問診時間削減による院内感染リスクの低減を実現する。導入・設置にかかる費用は無料。医療機関向けの問い合わせ先は、「【緊急提供】第6波を受け、全国の病院・クリニックへ「ホームページAI相談窓口」の無償提供を開始_医療機関さま向けお問い合わせフォーム」となっている。

ホームページAI相談窓口では、各医療機関のウェブサイト上において、患者が症状に応じた20問程度の質問に回答し、問診結果を受診前に医療機関へ送信できる。医療機関側は、医師語に翻訳された問診結果を受け取ることで、事前に患者の症状を把握可能。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関連症状がある場合は、「導線や診療時間を振り分ける」「発熱外来に対応している他医療機関を案内する」など適切な対応を取れる。また、受付での問診時間の短縮により、院内感染リスクの低減にもつながるとしている。AI問診・病名予測アプリ開発のUbieが新型コロナ第6波を受け全国の病院・クリニックへ「ホームページAI相談窓口」を無償提供

年始からコロナ禍の再拡大による第6波が全国に到来しており、より感染力の強いオミクロン株により病院・クリニックでは、来院患者がこれまでにない速さで急増している。また、新型コロナ関連症状患者の1次対応や振り分けを行う各自治体の保健所のリソースもひっぱくし、医療崩壊の危機を迎えている状態にある。

Ubieは、いまだ感染のピークが見えない状況でこの危機を乗り越えるためには、病院・クリニックがより多くの患者を受け入れられる体制の構築と従業員・患者の院内感染防止が必要不可欠と指摘。今回の第6波における医療現場の状況を踏まえ、持続可能な医療体制の構築のため、一部医療機関で試験的に導入していた「ホームページAI相談窓口」の正式リリースおよび無償提供開始を決定した。

Ubieは、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げ、医師とエンジニアが2017年5月に創業したヘルステック領域のスタートアップ。生活者の適切な医療へのかかり方をサポートするウェブ医療情報提供サービス「ユビーAI受診相談」、紙の問診票のかわりにタブレットやスマートフォンを活用した「ユビーAI問診」を提供している。ユビーAI受診相談は月間300万人以上(2021年9月現在)が利用し、ユビーAI問診は全国47都道府県・500以上(2022年1月現在)の医療機関が導入しているという。

患者は、ユビーAI受診相談を利用することで、気になる症状から関連する病名と適切な受診先をいつでもどこでも調べることができる。またユビーAI問診では、AIを活用したスムーズかつ詳細な事前問診を実現することで、医療現場の業務効率化や患者の滞在時間削減に寄与する新しい医療体験を生み出している。

IBMが医療データ管理「Watson Health」事業の大半をFrancisco Partnersに売却

拍子抜けするような結末だが、IBMは米国時間1月21日、Watson Health事業部門のデータ資産をプライベートエクイティ企業のFrancisco Partners(フランシスコ・パートナーズ)に売却した。両社は買収額を明らかにしていないが、以前の報道では約10億ドル(約1137億円)とされていた。

今回の取引でFranciscoは、Health Insights、MarketScan、Clinical Development、Social Program Management、Micromedex、イメージングソフトウェア製品など、Watson Health部門のさまざまな資産を取得する。これによりFrancisco Partnersは、幅広い医療データを傘下に収めることになる。

IBMは2015年にWatson Healthを立ち上げた際、データ駆動型の戦略に基づいてユニットを構築することで、この分野を支配することを望んでいた。そのために、PhytelやExplorysをはじめとする医療データ企業の買収を開始した。

その後、Merge Healthcareに10億ドル(約1137億円)を投じ、翌年にはTruven Health Analyticsを26億ドル(約2955億円)で買収した。同社はWatson Healthが人工知能(AI)の推進に役立つと期待していたが、この事業部門は見込まれていた成果を上げることができず、2019年にGinni Rometty(ジニー・ロメッティ)氏に代わってArvind Krishna(アルビンド・クリシュナ)氏がCEOに就任した際には、クリシュナ氏の優先順位は異なっていた

Francisco Partnersはこれらの資産をもとに、独立した新会社を設立することを計画している。この部門が期待通りの成果を上げられなかったことを考えるとやや意外な動きではあるが、少なくとも今のところは、同じ経営陣を維持する予定だという。

Francisco PartnersのプリンシパルであるJustin Chen(ジャスティン・チェン)氏は、新会社がその潜在能力を発揮できるよう、さらなるサポートを提供する予定だという。「Francisco Partnersは、企業と提携して部門のカーブアウトを実行することを重視しています。我々は、優秀な従業員と経営陣をサポートし、スタンドアロン企業がその潜在能力を最大限に発揮できるよう、成長機会に焦点を当てて支援し、顧客やパートナーに高い価値を提供することを楽しみにしています」と同氏は声明で述べている。

IBMがこの売却を行うのは、ヘルスケア分野が盛り上がっている中でのことだ。2021年、Oracle(オラクル)は280億ドル(約3兆1825億円)で電子カルテ企業のCernerを買収し、Microsoft(マイクロソフト)は200億ドル(約2兆2733億円)近くと見積もられる取引でNuance Communicationsを買収した。どちらの取引も規制当局の承認を得ていないが、大手企業がいかに医療分野を重視しているかを示している。

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そのため、この動きはMoor Insights & Strategyの主席アナリストであるPatrick Moorhead(パトリック・ムーアヘッド)氏を驚かせたという。「傾向としてはより垂直なソリューションに移行しているので、非常に驚いています。それを考えると、いかに同部門の成績が悪かったかを潜在的に示しているともいえるでしょう」。

いずれにしても、今回の買収は規制当局の承認を待って行われ、第2四半期中に完了する予定だ。この取引には機密性の高い医療データが含まれていることから、さらに精査される可能性もある。

画像クレジット:Carolyn Cole / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Dragonfly)

睡眠時無呼吸症候群(SAS)解決ソリューション開発のマリが3億円のシリーズA調達、開発中の治療機器の薬事承認化を加速

睡眠時無呼吸症候群(SAS)解決ソリューション開発のマリが3億円のシリーズA調達、開発中の治療機器の薬事承認化を加速

イビキや睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの睡眠障害を解決するソリューションを開発するマリは1月20日、シリーズAラウンドにおいて第三者割当増資による総額3億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は、既存投資家のMPI-2号投資事業有限責任組合(MedVenture Partners)のほか、イノベーション京都2021投資事業有限責任組合(京都大学イノベーションキャピタル)、KIRIN HEALTH INNOVATION FUND(グローバル・ブレイン)。

2017年11月設立のマリは、SAS患者の負担が少なく受け入れやすい完全非接触の診断・治療法の提供を目指す京都大学発のスタートアップ企業。調達した資金により、現在開発中のSAS治療機器の臨床研究を推進し、独自技術による治療ソリューションを確立させ、医療機器の薬事承認に向けた治験の準備を進める。

SASは、日本において治療が必要な患者が約500万人とされ、患者本人が気づかない間に高血圧・動脈硬化などをもたらし、重篤な場合は心不全や脳梗塞などの疾患につながる可能性もある。しかし自覚症状に乏しく、治療の第1選択肢である持続陽圧呼吸療法(CPAP)は受け入れや治療継続面での課題が顕在化しているという。このような課題に対してマリは、「Sleep Freely. 世界の睡眠障害をやさしく解決したい」を理念に掲げ、ミリ波レーダー計測・解析技術や音声解析技術を用いた非接触睡眠状態評価・生体情報センシング技術を開発している。

子ども向け健康ウェアラブルKiddoが約18.5億円調達、喘息・心臓病・自閉症・糖尿病といった慢性疾患にフォーカス

正式にはGood Parents Inc.(グッド・パートナーズ)として知られるKiddo(キドー)は、米国時間1月4日に1600万ドル(約18億5000万円)のシリーズAラウンドを発表した。ウェアラブル、ペアレンタルコーチング、テレヘルスの組み合わせを通じて、同社は慢性の健康障害を抱える子どもたちのケアの管理にしっかりと照準を定めている。

Kiddoは、子どもの健康のためのウェアラブルとソフトウェアの組み合わせの開発に、数年前から取り組んでいる。2016年に同社を設立したJaganath “CJ” Swamy(ジャガナス・“CJ”・スワミー)氏は当初、子どもたちが楽しく利用でき、親たちが健康状態をモニタリングできるような健康とウェルネス向けデバイスの開発に関心を持っていた。しかし同社は現在、慢性の健康障害の管理に全面的にフォーカスするように刷新されている。

スワミー氏がTechCrunchに語ったところによると、そのフォーカスは、同氏自身の経験から部分的に着想を得ているという。同氏がアーリーステージの投資家からの転換期にあるとき、息子の1人が喘息のような呼吸障害を抱えるようになった。

「息子に起きていることについて、日々管理と監視を行い、その情報を医師に伝えて治療手順の適切な修正につなげることに苦労していました」とスワミー氏はTechCrunchに語っている。「このような大変な課題を経験する中で、慢性疾患を持つ子どもたちを管理しなければならない親たちのために、こうした体験をより良いものにするにはどうすればよいかを考え始めました」。

その結果生まれたのが、2歳から15歳までの子どもを対象としたケアコーディネーションプラットフォームのKiddoである。子どもは専用のリストバンド(FitBitのようなもの)を受け取る。親がダウンロードするアプリは、そのウェアラブルからデータを収集して、その情報を子どもの主治医に伝える。同プラットフォームには、喘息、心臓病、自閉症、糖尿病の子どもをモニタリングするための特別な設計が施されている。

今回のラウンドは、Clearlake Capital(クリアレイク・キャピタル)の支援を受けるVive Collective(ヴァイヴ・コレクティブ)が主導した。これでKiddoの調達総額は2500万ドル(約28億9000万円)になる。その他の投資家には、Wavemaker 360(ウェーブメーカー360)、Wavemaker Asia Pacific(ウェーブメーカー・アジアパシフィック)、Mojo Partners(モジョ・パートナーズ)の他、Techstars(テックスターズ)と関連ファンドが名を連ねている。

概して、Kiddoは「遠隔患者モニタリング」のカテゴリーに分類される。患者が自宅でプライマリケア施設と同等の基本的なケアを受けられるように設計されている。

このウェアラブル端末は心拍数、温度、SpO2(血中酸素飽和度)、動作、発汗などの信号を送信する。一方、アプリはそのデータを、地域の大気環境(喘息患者にとって重要な指標)、天気、湿度などの他の指標と統合する。時間の経過に伴い、Kiddoはこれらの特質に基づいてそれぞれの子どもに対するプロファイルを生成していく。こうした指標が基準から大きく逸脱している場合、親は通知とともに、家庭での状況をコントロールするのに役立つヒントのリストを受信する。

例えば、子どもが喘息発作の切迫の徴候を示している場合、親は呼吸数と心拍数が規則的な範囲外であることを示唆する警告を受け取る。その後、アプリは状況を管理する方法について一般的な提案を行う。「『1時間ほど安静にさせる、冷たい水を飲ませるかエアコンの効いた環境に置く、医師のアドバイスに基づいてアルブテロールを服用させる』といったことです」とスワミー氏は説明する。

症状が続く場合は、親がこのアプリを使って医師の予約を取ることができる。

遠隔患者モニタリング自体のアイデアは新しいものではないが、近年そのアイデアに関する研究が数多く発表されている。例えば、学術誌「Telemedicine and e-Health」に掲載された2020年のあるシステマティックレビューでは、レビューされた272件の論文のうち43%が2015年から2018年の間に発表されていることが示された。これらの研究の約77%で、遠隔患者モニタリングが患者ケアに正のインパクトを与えている。

Kiddoは自社サービスの臨床的検証に投資しているが、スワミー氏によるとデータはまだ一般公開されていない(同氏はフォローアップメールで「データは機密であり、顧客と共有するためだけにある」と説明した)。一方で、学術機関やパートナー、民間団体の研究によって「Kiddoプラットフォームの多くの側面が実証」されていることに同氏は言及している。そのプロセスには、Children’s Hospital of Orange(オレンジ郡小児病院)のThompson Autism Center(トンプソン自閉症センター)で開発中の新たな研究が含まれる予定であるという。

同プラットフォームは、治療アドヒアランスを50%以上向上させ、不要な救急外来を「2倍」減少させることが自社独自のデータで示されているとスワミー氏はいう。ただし、このデータも公開されていない。

Kiddoは現在のところFDAからの承認は得られていないが、Class I(低リスク機器の分類クラス)の認定を目指している。

プレスリリースによると、同社はこれまでに7つの医療システム、福利厚生プロバイダー、財団と提携しており、その中にはUHC Optum(UHCオプタム)、PC Health(PCヘルス)、および「数カ所の小児病院」が含まれている(その他の提携先は明らかにされていない)。

重要な点として、同社はあくまでもB2Bプロバイダーとしての位置づけにあるとスワミー氏は語っている。直接消費者に販売する計画はなく、医療機関や医療システムとの提携に注力していく。

Kiddoの最新の資金調達ラウンドは、同社にとってユーザーに関する重大な1年を経て行われたものとなる。これまでのところ、同社は7万人の子どもたちと協力関係を築いており、今後数年間でその数を20万人に拡大する計画である。このトラクションは投資家の関心を引く要因の1つであるが、Kiddoに有利に働くトレンドはこれだけではない、とスワミー氏は指摘する。

遠隔患者モニタリングに好都合となり得る規制の動きもある。従来、遠隔モニタリング技術のためのCPTコード(償還コード)の数は限られていた。2018年以降、一部のコードが再目的化されており、医療提供者が患者の遠隔モニタリングに課金しやすくなるようなコードも追加されている。

そのトレンドは続いている。2022年、Centers for Medicare and Medicaid Services(メディケア・メディケイド・サービスセンター)は、遠隔患者モニタリングに適用される償還コードの範囲を拡大した。これにより、支払者はこれらのサービスをさらに多くの種類の遠隔患者モニタリングに請求できるようになった。

遠隔患者モニタリングの規制的展望はまだ流動的であるが、これらの規制はKiddoのような企業を支援する方向に進んでいる。スワミー氏によると、こうしたCPTコードの恩恵を受けて、Kiddoの技術は償還可能なものになっているという。「私たちが取り組んでいる医療システムには、財務的な成果があります」と同氏は付け加えた。

今回のラウンドを機に、Kiddoのセールスおよびプロダクト開発チームの規模を拡大したいとスワミー氏は考えている。同氏はまた、Kiddoが治療できる慢性疾患の種類を増やすという大望も抱いている。現時点で同社は、小児腫瘍学と整形外科に目を向けており、今後2年間でその方向に一層前進することを目指している。

画像クレジット:Kiddo

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)