今年に入ってバーチャルYouTuber(VTuber)の盛り上がりがすごい。
つい先日には大手芸能事務所のワタナベエンターテインメントにVTuberが所属するというニュースが話題になっていたけど、ユーザーローカルが公開しているランキング を見ていても、次々と新しいタレントが生まれ多くのファンを獲得していることがわかる。
IT業界界隈でもグリーがVTuber特化型のライブエンターテインメント事業を手がける新会社を、サイバーエージェントがVTuberに特化したプロダクションを設立するなど関連する動きが加速。以前紹介した「ホロライブ」を提供するカバーを始め、この領域で事業の拡大を目指すスタートアップも増えてきている。
VTuberが活気付いた背景には、テクノロジーの進化によって誰でもキャラクターになりきって動画やライブ配信ができるような環境が整ってきたこともあるだろう。自分の分身とも言えるアバターを使うことができれば、顔出しに抵抗がある人でも参加できるようになるし、普段の自分とは違ったキャラクターを演じやすくなる。
かなり前置きが長くなってしまったけれど、8月1日よりライブ配信プラットフォーム「Mirrativ 」に追加された新機能「エモモ 」はまさにそのような世界観のサービスだ。
スマホ1台でVTuberのように独自のアバターを作成し、生配信やゲーム実況ができることが特徴。まずはβ版として一部のユーザーから限定的に公開する。
アバターの作成からライブ配信やゲーム実況まで完結
Mirrativについてはこれまでも何度か紹介 している通り、自分のスマホ画面を共有しながらライブ配信ができるプラットフォームだ。特にゲーム実況で使われているケースが多く、スマホゲームの配信者数では日本一の規模(2018年7月時点、ミラティブ調べ)になるという。
今回リリースしたエモモ(現時点ではiOS版のみ)はこのMirrativ上で使えるアバター機能という位置付け。Mirrativで配信できるスマホ端末が1台あれば、作成したキャラクターを声に合わせて動かしながら生配信することが可能。アバターの目や口、輪郭、髪型、髪や肌の色、洋服は自由に着せ替えられ、設定した喜怒哀楽の感情に応じて表情や動きも変化する。
iPhoneXや外部ツール等の特殊機材は不要。カメラ機能も使用しないため、自分の姿を配信に映すことなくキャラクターになりきれる。
すでにインカメラ等を使ってVTuber風に自分をキャラクターとして表示するサービスは存在するが、カスタマイズの自由度があり生配信まで完結する点、そしてゲーム実況と融合する点がユニークなポイントだ。
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現段階でエモモを通じてできるのは、上述したことに加えてゲーム実況時に視聴者の画面上で配信者のキャラクターを表示すること。ミラティブ代表取締役社長の赤川隼一氏の話では、今後ユーザーの反応を見ながら「ボイスチェンジャー機能や、運営側で用意したモデルだけでなく自分で作ったものなどを持ち込めるような仕組みも検討していく」という。
同機能はまずMirrativのまいにち配信者(7日以上連続で15分以上配信している配信者)に向けて提供し、徐々に他のユーザーにも開放する予定だ。
独自の身体やアイデンティティを持つことで会話が豊かに
今回Mirrativにアバター機能を取り入れた背景には、多数の配信者が顔出しをせずゲーム実況をしていること、そして共通の好きなゲームを通じて繋がったユーザーの間で多くの雑談配信が生まれていることがある。
「海外のゲーム実況や韓国のMirrativユーザーの配信を見ていると顔出しをするのが多い一方、日本のユーザーは真逆で顔出しを好まない。エモモのイメージとしてはそこにTwitterのアイコンのようなサムネイルを提供するような感覚。ユーザーが独自の身体やアイデンティティを持つことで双方のことをもっと身近に感じ、コミュニケーションが豊かになるのではないかと考えた」(赤川氏)
赤川氏によると数ヶ月前からMirrativを使ってファンとコミュニケーションをとるVTuberが自然発生に出始めていたそう。実際にVTuberのゲーム実況を見てみると、実況中はキャラクターの顔が画面に写っていないにも関わらず配信が盛り上がっている様子を目の当たりにした。
「見ている人が配信者の声から顔や身体まで想像できるのであれば、仮に配信者が写っていなくてもその人のコンテンツとして消費される。これはバーチャルYouTuberに限った話ではなく、もっと普遍的なもの。Mirrativユーザーの体験をもっと良くできると腹落ちしたのでエモモの開発を決めた」(赤川氏)
ゲーム視聴時の様子。画面下にキャラクター(エモモ )が表示される
自分独自のキャラクターを作成できれば、顔出しをしないゲーム実況文化を豊かにするだけではなく、“なりたい自分”を表現しやすくもなる。赤川氏自身もディー・エヌ・エー(DeNA)で執行役員を務めていた際に「執行役員ぽく振る舞わないといけない、(SNSなどでも)うかつな発言ができない」といった考えが頭にあったそうだ。
もちろんそれも必要なことではあるけれど、現実のしがらみから解放されて好きなものを好きと言える空間もまた、個々人の人生を良くしていくためには必要だというのが赤川氏の考えであり、Mirrativを作っている理由でもある。エモモはこの空間をアップデートする上で重要な機能になるという。
ちなみにエモモという名前について見覚えがある人もいるだろう。もともとDeNA内で運営していたMirrativの事業を承継するため、赤川氏が設立していた会社の社名がエモモだった(現在はミラティブに変更)。
「Mirrativ自体がリアルタイムで人と人が話すことで熱量が伝わりどんどん仲良くなるサービスで、ユーザーの感情みたいなものを増幅させる装置として機能している。それを踏まえるとアバター機能によって身体を持つことはこの感情をさらに加速する行為であり、よくよく考えるとエモモという言葉にもハマるかもしれないと思った」(赤川氏)
社名を決めた当時からこのアバター機能を見据えていたわけではなく、メンバーからの提案で決まったそう。最初はないだろうと思っていたが、次第に「意外とエモモかもしれない」という思いが強くなっていったようだ(なおエモモはEmotional Modelingを略したものでもあるとのこと)。
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スマホゲーム実況とアバターで世界へ
このエモモをひとつのフックとして、ミラティブではさらなるグローバル展開も見据えている。
「ちょうど先日韓国で初めて韓国語のバーチャルYouTuberが出てきたが、本質的に自分以外の何かに変身したいという欲求は人類の根元の欲求であり、グローバルでもポテンシャルはあると考えている。正しいサービスを作って正しく展開すれば、日本人が大勝ちできるチャンスのある領域だ」(赤川氏)
赤川氏の話ではライブストリーミングに関して先進国と言える中国ではゲーム実況だけがぐんぐん伸び続けているそう。5月にはライブ配信サービス「YY」の子会社でテンセントも出資していた「Huya(虎牙)」がニューヨーク証券取引所に上場するなど、ゲーム実況はグローバルにおいてホットな市場になっている。
スマホにフォーカスしたゲーム実況に取り組むスタートアップは海外で出てきているものの、大きく成功するには至らずまだ空いている分野だというのが赤川氏の見解。日本で活発な「バーチャルキャラクター」という概念を組み合わせることで、ユニークな存在にもなりうるという。
「自分としてはDeNA時代にソーシャルゲームのグローバル展開を本気でやって惨敗した経験がある。Mirrativはもう1回グローバルで挑戦する価値とその可能性がある事業。世界で受け入れられるようなプロダクト、機能を作り込んでいきたい」(赤川氏)