細胞培養技術で“人工フォアグラ”実現も、インテグリカルチャーが3億円を調達

細胞培養技術を用いた食料生産に取り組むインテグリカルチャーは5月25日、リアルテックファンドなど複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により、総額で3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。同社にとってはシードラウンドとなる位置付けで、投資家は以下の通りだ。

  • リアルテックファンド(リード投資家)
  • Beyond Next Ventures
  • 農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)
  • MTG
  • ユーグレナ
  • 北野宏明氏(ソニーコンピューターサイエンス研究所代表取締役社長)
  • その他非公開の投資家

今後は同社の細胞培養システムの大規模化と価格低減の実現に取り組みながら、組織体制を強化し事業化(商品化)に向けて舵を切っていく方針。まずはコスメやサプリメント向けの原材料から始め、その後は人工フォアグラなどさまざまな細胞農業製品を売り出していく計画だ。

世界で注目浴びる“クリーンミート”

インテグリカルチャーが取り組んでいるのは、特定の細胞を培養することで食肉などを生産する「細胞農業」と言われる領域。特に細胞培養で作られた食肉「クリーンミート(純肉)」は、動物を殺さずに生産できる持続可能なタンパク源として期待されていて、世界的に関連のスタートアップが生まれてきている。たとえばビルゲイツ氏らが出資しているMemphis Meatsはその一例だ。

培養肉を作るには細胞を培養液の中で増やし、肉の塊へと固めていくことになる。ただインテグリカルチャー代表取締役の羽生雄毅氏によると、これまで培養液の価格がひとつの課題となっていたそう。同社では現行の培養液に含まれる牛胎児血清(FBS)を、一般食品を原料とする「FBS代替」で置換する技術を開発。動物由来成分を不使用にすることで、低価格の培養液を実現した。

同社のコアテクノロジーである汎用大規模細胞培養システム「Culnet System」とともに利用すれば、細胞培養に必要な培養液のコストを1リットルあたり10円以下、従来の1万分の1以下にまで抑えることができるのだという。

なおCulnet Systemは外部から成長因子を添加せずに、さまざまな細胞を大規模に培養できるのが特徴で特許も取得している。この技術を用いてすでに鶏肝臓細胞の大規模培養により「鶏フォアグラ」を試作するなど、コンセプト実証を実施済み。従来の方法では細胞質100gで数百万円のコストがかかっていたが、同社の技術により一部の種類の細胞については100gで1万円以下相当まで原価を下げることができ、複数の事業会社から引き合いを受けているという。

また同社の技術は何も食肉を作ることだけに限定したものではないため、再生医療に繋がる研究として人の細胞を試したりもできるそうだ。

数年後には細胞農業製品が続々と市場にならぶ?

冒頭でも触れた通り、同社では今後さらなる価格低減と生産システムの大規模化を段階的に実現し、2018年中にパイロットプラントを製作、2019年末から2020年初頭にかけて商業プラント1号機を建設する予定。

商品化については、2020年を目処に化粧品・健康食品向けの原材料からスタート。その後はフォアグラを含め化粧品・健康食品・一般食品など、さまざまな細胞農業製品を販売していく計画だ。

「(人工フォアグラについては)実際に市場に出すとなると、規制当局との話し合いや販路の獲得なども必要になるので2023年頃を目処に考えている。(現時点では)最初は既存の製品より2割ほど高い価格での販売を考えているが、2020年代半ばには同等の価格で提供したい」(羽生氏)

市場にだすタイミングでは「ものすごく硬い、苦い」といったようなことはなく、食品として成立している状態が前提。またアレルゲン物質を含まない肉など、成分をアレンジすることで安全面などに配慮したものが作れるのだという。

インテグリカルチャーのメンバー。写真右から4人目が代表取締役の羽生雄毅氏

インテグリカルチャーは代表取締役の羽生氏が東芝研究開発センターを経て2015年10月に創業したスタートアップ。オックスフォード大学出身の羽生氏を含め、理系の大学院で博士号を取得したメンバーも数名在籍する。

もともとは培養肉の実用化を目指し、研究者やバイオハッカー、学生らが集ってできた有志プロジェクト「Shojinmeat Project」が始まり。産業化を推進する目的でインテグリカルチャーの設立に至ったのだという。

今後はNPOなどとも協力し、細胞農業の分野を盛り上げるためのエコシステムを形成。その中でインテグリカルチャーでは同社の技術を製品化し「増加を続ける世界の食肉需要に対して、持続可能な供給手段」の実現を目指す。

 

紛失防止タグのMAMORIO、シール型の「FUDA(フューダ)」を6月1日に発売

eng-logo-2015紛失防止IoTタグMAMORIOの新製品「MAMORIO FUDA(フューダ)」が発表されました。6月1日発売で、価格は2759円(税抜)。

MAMORIOはスマートフォンと連携して利用する紛失防止タグ。万が一どこかに置き忘れた場合には、スマートフォン上でいつどこで最後に通信したのかを確認できるほか、他のMAMORIOユーザーが紛失したタグの通信圏内に入るとその場所を通知するクラウドトラッキング機能を備えます。ユーザーが増えれば増えるほど、発見率が上がる仕組みです。

従来のMAMORIOはキーホルダーなどに取り付けるタグ型でしたが、新しいFUDAは機器に直接貼り付けるシール型になりました。PCなどの電子機器や手帳などの文房具にも取り付けたいとの要望が多かったのだそうです。

ちなみにFUDA(フューダ)の名称は「お札」から。そしてもう一つ「FUture DAys」との意味も込められているそうです。

カラーはWhiteとBlackの2種類。表面にMAMORIOの文字が入っていますが、無地バージョンもあるとのこと。

材質はポリ塩化ビニルで、表面は柔らかくなっています

台紙には本体側とペアになる金属端子が付いていました。これにより、台紙に付けられている状態では電源が入らず、電池の消耗を抑えるようです。

両面テープでの貼り付けとなりますが、何度も貼り直したり、曲面には貼らないようにとのこと。粘着力は結構強いので、取り外す際に折り曲がらないよう、注意する必要がありそうです。

サイズは24×36.2×3.4mmで、通常のMAMORIOよりも一回り大きくなっています。ただし性能面は、有効距離60mに電池寿命は約1年と、仕様自体は上位モデルのMAMORIO S相当。

バッテリー交換がユーザーでは行えないのも従来どおりです。ただ、初回ペアリングから180日以上経過していれば、MAMORIOを半額で購入できる有償交換サービス「OTAKIAGE(お焚き上げ)」が利用できます。

3.4mmとそこそこの厚みがあります

正直なところ、コンパクトなMAMORIO Sを両面テープで貼り付けておいたほうがスマートなのではとも思いましたが、MAMORIO Sと同機能ながら1000円以上安いMAMORIO FUDAはなかなかお買い得なのかもしれません。

外に持ち出すことも多いコンパクトPCとの相性は良さそうです

なぜか外に持ちだしている人が多いOculus Goにも。コントローラには通常のMAMORIがよさそう

MAMORIOの管理はスマートフォンアプリから。管理と言っても初期設定以降は特にすることはありません。MAMORIOが手元から離れた(通信圏外になった)場合には、アラームを発報。画面上にクラウドトラッキング機能の「みんなでさがす」ボタンが表示されます。

左の画面は通信圏内にある状態、中央は通信圏外となった(なくしたと思われる)状態。「みんなで探す」機能はオン/オフ設定が可能です(右)

この種のIoTタグは数多くリリースされており、クラウドトラッキングと同じ機能を備えたものも珍しくありません。これの精度を上げるためには、ユーザー数の増加が欠かせない要素となります。

アプリや公式サイト上で確認できるすれ違い数や、見つかったMAMORIOの数。これが多いのか少ないのかは判断が難しいところ

この点、MAMORIOでは、先に書いた通り、駅や商業施設などにMAMORIOスポットを設置してるほか、花火大会などのイベント時にも積極的に臨時のMAMORIOスポットを開設しており、少なくとも国内では、比較的見つけやすい(見つかりやすい)状況にあるのではないかと思います。

もっとも、MAMORIOのお世話にならないことが一番ではありますけど。

Engadget 日本版からの転載。

1.5万施設が登録する民泊管理ツール提供のmatsuri technologies、数億円を調達

民泊管理ツール「m2m Systems」など、民泊事業者向けのサービスを複数展開するmatsuri technologies。同社は5月23日、DasCapital(連続起業家の木村新司氏が代表を務める投資会社)、ファンドクリエーション、リンキンオリエント・インベストメントが運営するファンドより、数億円規模の資金調達を実施したことを明らかにした。

なおファンドクリエーションとは資本業務提携を行い、共同で民泊マンスリーファンドを組成。資金面でも民泊事業者をサポートしていく方針だ。合わせて複数社と協業し、民泊借り上げ事業にも取り組む予定だという。

matsuri technologiesが提供しているm2m Systemsは、複数のAirbnbアカウントを登録・一元管理できる民泊管理システムだ。ゲストからのメッセージ対応を始め、事業者が民泊運営において抱える課題を解決する機能を複数搭載する。

メッセージの自動送信、清掃状況の確認と手配、複数アカウントの一元管理などを通じて、事業者の業務効率化に加えて物件の稼働率の向上もサポートするのが特徴。2018年5月には登録件数が1万5000施設を突破した。

また6月に施行される民泊新法(住宅宿泊事業法)では民泊営業の上限が年間180日とされ、事業者は残りの期間を住宅利用することが必要だ。業界内ではこの180日以外の期間を、短期の賃貸物件として運用する「二毛作民泊」が注目を浴びていて、matsuri technologiesでも民泊とマンスリー賃貸の併用管理システム「nimomin」を手がけている。

今回の資金調達を踏まえ、同社ではm2m Systemsをはじめとする民泊運営支援ツールの機能拡充を進めるとともに、ファンドクリエーションと共同で組成する民泊マンスリーファンドなどを通じて、民泊事業者を支援していく方針だ。

ミスマッチをなくし成果が上がる、エンジニアの採用・評価テクニック——TC School #13

TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型のイベント「TechCrunch School」で、2017年3月から5回にわたって人材領域をテーマに開催してきた「HR Tech最前線」。その第5弾となるイベント「TechCrunch School #13 HR Tech最前線(5) presented by エン・ジャパン」が3月22日に行われた。

イベントの前半部分をお伝えした前編に続き本稿では、昨年7月のイベントから2度目の登壇となる及川氏を中心に「エンジニア人材の採用、教育、評価」について話を聞く、パネルディスカッションの後半部分をレポートする。

登壇者は前半と同じく、プロダクト・エンジニアリングアドバイザー(フリーランスコンサルタント)の及川卓也氏とグロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー/Chief Strategy Officerの高宮慎一氏、そしてエン・ジャパン 執行役員の寺田輝之氏。

及川氏は米Microsoft、Googleを経て、Qiitaを運営するIncrementsで勤務した後、現在はフリーランスとしてスタートアップを中心とした企業の支援を行っている。高宮氏は、ベンチャーキャピタルとしてスタートアップに投資をしながら経営に参画する立場。そして「HR Tech最前線」シリーズの全イベントに登壇してきた寺田氏は今回、HR Techサービス提供者であり、スタートアップ成長期の経験者でもある立場から、半ばモデレーター的な役割で参加してもらっている。

ミスマッチをなくすための企業の基準作りと採用プロセス

イベント後半では、まず2017年7月に行われた「HR Tech最前線(2)」でも紹介された、エン・ジャパン調査による、エンゲージメントに関するアンケート結果が取り上げられた。

「中途採用した人材が早期に活躍する(エンゲージメントを高める)ために最も大切だと思われることは?」という設問に対し、圧倒的に多かった回答は「ミスマッチのない採用」だった。この結果について寺田氏は「結局はエントリーマネジメントが大事ということ」と述べる。

「入社後に、企業カルチャーを説明したり、評価で辞めそうな人材を引き留めようとしたりするのは、どのようにしても後の祭り。エントリーマネジメントをしっかりするというのが一番、社員の活躍につながるポイントだ」(寺田氏)

ではエンジニア採用で、ミスマッチのない採用のための仕掛けづくりとは、どのようなものなのか。及川氏に尋ねたところ、企業の基準をきちんと作ることと、基準が候補者に合っているかどうかを確認するための場として採用プロセスを設計することが大事になる、ということだ。

プロダクト・エンジニアリングアドバイザー 及川氏

基準作りについては、エンジニアから企業を見たときの3つの視点で説明があった。1つめはほかの職種と同じく、給料や職場環境、福利厚生などの条件。ただし及川氏によれば、エンジニアの場合、これらの条件の良さへのこだわりは「ほかの2つに比べるとそれほど強くない」という。

2つめはその企業のビジョンに対する評価。エンジニアを採用するということは製品やサービスを提供する、ということになるが「それによって社会がどう変わるのか、人々の生活はどのように良くなるのか。それに候補者がどれだけ共感を覚えられるか」が大事だと及川氏は言う。

3つめは「技術者として面白いかどうか」。技術者として成長していきたいという人にとって、「自分が使いたい技術をその企業が使っている」あるいは「自分が既に持っているスキルをフル活用できる」などなど、人によって価値は違えど、そうした価値観をエンジニアは重視する、と及川氏は話す。

「この3つの部分を『我々の企業はこういうふうです』といかに企業が提示できて、ミスマッチがないようにしていくかが大事」と及川氏は続ける。

「実はこれを言語化できていないことが多い。言語化できていないと、そもそも募集要項にそういった“思い”が入ってこない。かつ、採用プロセスが始まって社員が書類選考し、面談していくときにも判断基準がバラバラになってしまう。結局よくわからない人が入社して、実はミスマッチだった、ということが起こる」(及川氏)

及川氏は「言語化といっても、きれいな言葉にしておかなくてもいい。『どういう人材を我々は迎え入れたいのか』ということを決めておくことが必要だ」と話す。そして「それができたら次に、採用プロセスの場でそれをきちんと確認していくことだ」と続けた。

「採用プロセスというのは、採用候補者が自分たちの仲間として社内に入ったときのシミュレーションをする場だと考えるといい。エンジニアの場合なら、ある機能を開発しようとするときの設計について議論をしてもらう。(その人が入社して)コードを書いたらコードレビューがあって、ほかのエンジニアがそのコードを見ることになる。それと同じことを面接の場でやる。技術的な内容を聞くということが大事」(及川氏)

具体的には次のように進めるとよいそうだ。「候補者の過去のプロジェクトの内容でもいいし、今その企業が抱えている課題を抽象化して伝えるのでもいい。例えば『こんな感じのシステムを作ろうと思っているが、このデータベースのところにアクセスがたくさん集まったときの負荷処理をどうすればいいと思いますか?』とか。入社したらやるかもしれない話を、30分なり1時間なりといった面接の場でしてみるといい」(及川氏)

採用時のコードチェックについて及川氏は「しない会社が多いようだが、Googleでは行っていた」とその内容を説明する。「ホワイトボードに擬似コードでもいいから書いてもらい、それに対してチェックをする。これはもちろん、コーディングスキルやアルゴリズム、システム設計に対する能力を見ているのだが、同時に、社内に入ったときにコードレビューでやるようなプロセスでもある」(及川氏)

コードチェック実施のメリットについて、及川氏は「(コードが)間違っていてもよいのだが、間違っていることを指摘したときにどう答えるかだとか、採用側が出した質問がわからなかったときに、どのように質問を返してくるかといったことを面談の場で見ることによって、求める人材とのミスマッチを面談、採用プロセスの時点で解消することができる」と話していた。

エン・ジャパン 寺田氏

ここで寺田氏から「エンジニアの採用基準を作る際、非エンジニアしかいない場合はどう基準を作ればよいのか」、また「今いるメンバーより良いエンジニアを採用したいときに、現メンバーで採用基準を作るのは難しいと思うがどうすればよいのか」という2つの質問があった。

及川氏は「非エンジニアがエンジニアの採用基準を作ってはいけない」と言う。「どうにかしてエンジニアのスキルを入れない限り、『社会人としては極めて立派だけど……(エンジニアとしてはいかがなものか)』という人が採用されかねない。もちろん仲間として迎え入れるときに技術的な能力以外のところを見る必要もあるので、そこに非エンジニアの方が入ってもらうのはいいと思う。ただ技術者として採用するためには技術軸が必要。自社にエンジニアのマネジャーがいなかったとしても(現場の)エンジニアの意見を入れるなり、外部の方にアドバイスをもらうなりして、技術的な軸を入れるべきだ」(及川氏)

また2つ目の質問に対しては「自分より上の人を入れることができない、その軸が作れない、ということは、採用とは別に、その組織が技術的に欠陥を抱えている可能性がある」と及川氏は答えている。

「今や、クラシックでレガシーな大企業以外であれば、多くの企業のエンジニアは自分の会社の狭いコミュニティだけでなく、外のコミュニティと触れ合っているし、触れ合っていなければ成長はない。首都圏に住んでいれば毎晩のようにどこかでIT系の勉強会もあるし、オープンソースのコミュニティもある。Slackなどでいろいろな意見交換もしているし、技術者の間で話題になるようないろいろなブログもある。外の世界との接点があれば、自分の周りだけでは『どんなエンジニアが優秀であり、どんな人と働きたいか』ということが見えなかったとしても、外を見てわかるものだ。それをある程度、基準として入れていくようにすればいい」(及川氏)

それができないのだとすれば、まず採用の前に自社のエンジニアに「もっと外の世界を見るようにさせてあげる」ことから始めるべき、と及川氏は言う。

評価基準づくりにはリバースエンジニアリング的手法が効く

採用に続いて、エンジニアの評価に関する話題に移った。MicrosoftやGoogleなどグローバルなエンパイア企業とスタートアップ、両方を経験した及川氏に、成長企業で評価制度をどのように設計していけばよいのか、事例も交えて聞いてみた。

及川氏がMicrosoftやGoogleに入社した頃は、現在に比べればまだ小さいが、それでも既に数千人規模の組織。「マネジメントもしっかりしていて、評価制度もかなりカッチリしていた」という。

「職種・職位のマトリックスがあり、それぞれの位置で期待されることがあって、それが何軸かに分かれていて、実際のエンジニアとその内容を比較することによって評価が行われる。360度評価や数階層のキャリブレーションもあって、かなり確立した立派な仕組みだった」(及川氏)

そうした「立派な」制度を、例えばエンジニアがまだ数十人しかいないようなところに導入しようとしても「ヘビーウェイト過ぎて全く機能しない」と及川氏は言う。「逆に評価のプロセスが多すぎて、(本来行うべきことに手が付かず)評価を行う月の生産性が悪くなる、ということになりかねない」

及川氏は、多くの企業での評価基準の作成方法について「企業のビジョン、ミッションからコアバリュー、そして評価基準へと、トップダウンで、コンセプチュアルなベースから落ちてきている」と話す。

そして「それは悪くはないんだけれども、(基準が)あまりにも立派で、技術者としては関係ないものだったり、(良いとされている基準について)全部が丸な人がいたとしたら逆に人間として気持ち悪い、というようなものになっている。そのため、できあがった評価基準を実際には使っていないことが多い」という。

そこで及川氏は「評価基準はせっかく作ったものなので、それはそれとして使えるようにしつつ、エンジニア向けにはボトムアップ型でリバースエンジニアリング的な評価のやり方を、自分が支援する企業には勧めている」ということだ。

その方法を、AIによる画像認識になぞらえて具体的に説明してもらった。「画像認識でネコかネコじゃないかを判定するには、特徴量を抽出していって機械が判定する。それと同じことを評価でやろうとしている。例えば10人のエンジニアがいたら、10人を1から10まで並べてもらう。そして『なぜそのような順位にしたのか』理由を書いてもらう。これを1人がやるのではなく、できれば2人か3人のリーダークラスが、またはドラスティックにやるならエンジニア全員が、自分も含めた周りのエンジニアを全部ランク付けする」(及川氏)

及川氏は「ほかの職種でもそうかもしれないが、エンジニアって『できるエンジニア』がわかる。また『できないエンジニア』もわかる」という。ただし単にランキングのためにこの評価方法を使うのではない。

「順位を並べて書いてもらうときに『なぜか』を書いてもらうと、『この人はコーディングがめちゃくちゃ早い』とか『この人はコードレビューのときに非常に丁寧に教えてくれる』とか『この人は誰も見ていないけれども、お客さんからバグ報告が上がったらすぐに再現テストをし、バグ登録をし、時間があったら直している』といったことが書かれている。全部ができればいいが、これらはだいたいトレードオフ。コーディングが速かったらクオリティーがちょっと落ちてしまうこともあるかもしれない。すると書かれた『なぜか』で、その組織において大事にしていることがわかってくる」(及川氏)

そこで書かれたことをピックアップすることによって、その会社がエンジニアリング組織において、どういうことを大事にしているかがわかる。「これぞまさしく(機械学習でいう)特徴量抽出。それを採用基準のほうにも混ぜていくとよい」と及川氏は語る。

評価するエンジニアの数が少ない場合は、今までに採用面接をしてきた人もランク付けの中に入れてみるとよいそうだ。採用しなかった人を「なぜ落としたか」、理由を見ていくと評価の価値基準に持ってこられるものもある、と及川氏は話す。「そういうのも含めて、コンセプチュアルな評価とリバースエンジニアリング的な評価を混ぜていけばいいんじゃないかな、と思う」(及川氏)

高宮氏は及川氏が紹介した手法を「エース営業マンの行動特性を分析して、それをロールモデルにしていくときと同じやり方だ」と言う。「しかも副次的なメリットとして、キャリアパスが見えるようになる。エースを師匠としたロールモデルにすることで、その先どういうところへ行き着けるか、組織の中で自分がどうキャリアを立てていくのか、先が見えてキャリアプランニングがしやすくなる」と人材の成長にも効果があると、高宮氏は話している。

OKRは個人の評価と連動させてはいけない

ここからは会場の質問に答える形でディスカッションが進められた。最初は及川氏への質問で「OKR(Objective and Key Result:目標と主な結果)を個人の評価に用いるべきか。GoogleではOKRを個人の評価・給与に活用していたか」というものだ。

四半期ごとに目標を設定し、各期末に100%(1.0)を最大値としてスコアを付ける目標設定・管理の手法、OKR。3月に刊行されたばかりのクリスティーナ・ウォドキー著『OKR シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法』の解説も担当している及川氏は、「私はOKRを個人の評価とは連動させるなと言っているし、Googleもそう表明している」と話す。

ただしGoogleでも「OKRを全然見ていないかというと、そういうわけではない。OKRのスコアを評価に直接連動させることをしていない、という意味だ」と及川氏は続ける。

「OKRについてGoogleで言っているのは『ストレッチで(背伸びした)ゴール設定をしろ』ということ。全部できても0.7ぐらいになるようなゴールがよいとされている。スコアが悪かったとしてもそれは個人やチームが悪いのではなく、次回のOKRのプランニングのときの材料にすればよい」(及川氏)

及川氏は「常にアグレッシブなゴール設定にしなさい、という方針なのに、OKRのスコアを評価に連動させるのは無意味」と言う。

また「仮にそういう方針がなかったとしても、もしスコアを成績に連動させようとしたら、人は保守的になる。1週間でできるものを『2週間かかる』という調子で目標設定していけばいいわけだから。で、それをやられてしまったら、事業はどんどんスピードダウンしてしまう」と警告。「そういうことのないように、アグレッシブなゴール設定をしてもらい、スコアを評価に直接連動させない、ということにしている」(及川氏)

もうひとつ、OKRを評価に用いない理由を及川氏は例を使って説明した。「例えばプロダクトのあるKPIを上げたいという話になって、そのために『この機能を入れればよい』と考えた企画側の人がいるとする。その企画にチーム全員が合意して実装し、世の中に出した。ところが機能としてはちゃんと動いているけれども、KPIは上がらない、ということがある。ここでKPIが上がらなかったからといって、エンジニアの成績を悪くするか、というと、そんなことはしてはいけないわけで」(及川氏)

及川氏は「ゴールが達成できたかどうかではなく、会社・チームとして設定したゴールに向かって『あなたは貢献していたか』というところを見なければいけない」と言う。「OKRの方向性に向かって仕事をしていたかということと、その質は見るんだけれども、単純にスコアだけを見て成績に連動させるようなことは、絶対にしてはいけない」(及川氏)

日本でもOKRの導入が進み、及川氏のところにも相談が来るが、OKRと成績・評価を連動させているところは多いそうだ。「連動させたくなる気持ちはとてもわかる。楽だから。でもそれをやっちゃったら、もはやOKRじゃない」(及川氏)

及川氏はOKRを「目標管理の設計であると同時に、むしろ、チームあるいは全社をひとつの方向に向かわせるためのエンパワーのツールだ」と語る。「実際に結果がどうだったかというのはもちろん大事なんだけれども、ダメだったら次にがんばればいいだけの話。みんなの進むベクトルが分散することなく、同じ方向に向かわせるための道具がOKRであって、それができているかどうかをしっかり見ることが一番大事」(及川氏)

グロービス・キャピタル・パートナーズ 高宮氏

ここで高宮氏から、OKRに限らず目標管理と評価との関係性について、人事の“アート”での見方の提示があった。

「OKRでもほかの目標管理でも、まず経営目標や部署の目標があって、個人にブレイクダウンされていく。個人のエンパワーと行動・結果の管理をどこまでやるかというのは、結局その会社のカルチャーや、事業戦略達成のための手段として(目標管理を)どう見ているかによって決まると思う」(高宮氏)

プロセスドリブンでマイクロ管理をするという戦略を持つ会社に向いている事業もたぶんある、と言う高宮氏。「営業ドリブンな会社が、営業の行動一つ一つを管理していて、『訪問数何件、成約何件、リピート何件を、半期で達成しなければ詰める!』というやり方も、戦略としてはあり得る。そういう会社ならば(目標管理と成績を)連動させてもいい」と話す。

一方で「個人の自由に任せて自発的・自主的にやったほうが結果が出る、というカルチャーの会社だったら、絶対連動させない方がいい」と高宮氏は言う。「どこまで個人のマイクロ管理をしていくか、企業の価値観、戦略と連動した部分だと思う

及川氏は「OKRでも個人管理の部分では考え方が分かれる」と述べ、「個人ではOKRを必ずしも作らなくていいと思う」と言う。「OKRを作るのは基本、チームまででいい。個人のOKRは、本人が作りたければ作る、という形で十分。各プロジェクトやチームのOKRには、私は担当者を書くように言っている。自分が担当者になっているものを集めれば、個人としてのOKRができあがる。だから重複するようなものを別に作る必要はない」(及川氏)

また及川氏は「会社の目標とは連動しないけれども自分のゴールを持ちたい」として個人の目標を持つことはよいことで、個人としてのパフォーマンス評価もあるべきだと話している。

「OKRなどの目標管理とは全く無縁に個人の評価というのもあるべき。GoogleでもOKRとは別に自己評価のシートがあり、達成したことを書く。それらは多くの場合は必然的に連動するが、必ずしも連動していなくていい。『OKRにはないけれど、実はこれだけでかいことをやった』というのは奨励されるべき。それを自分の成績、評価してほしい項目として書けばいいし、実際にそれが評価されるということもたくさんある」(及川氏)

それが高宮氏の話した「ボトムアップ的に、自由にやって成果が出る」というパターンにつながる、と及川氏は述べ、「そういう余地もきちんと残しておくということも大事だと思う」と言っている。

高宮氏も同意して「人事の仕組みを作るときには、“遊び”の部分も重要」と話す。

「定義しているものしかこなさなくていい、となってしまうと、組織としてはよくない。また遊びがないと、経営者が戦略的に『誰それを抜擢する』という話もやりにくくなる。遊びの部分が、1%なのか5%なのか10%なのか、というのは人事のアートの部分だけれども、半期先のやるべきことをガチガチに今定義して決めておくというのは、競争環境を100%読み切れば勝てると言っているようなもの。定義しきってしまうと不確実性に弱くなってしまう。管理型でグリグリやるとしても、遊びの部分は大事になる」(高宮氏)

最初のエンジニアはリファラルか、技術がわかる人を味方にして探す

続いて取り上げられた質問は「そもそもなかなかエンジニアを取れない組織が、何とかエンジニアのチームを作りあげるにはどのようにしたらよいでしょう?」というものだ。

「文系でチームを作ったときに、最初のエンジニアはどうやって採ればよいのか」「エンジニアが採用できないときに何をすればよいのか」という課題に対して、どのように取り組めばよいのか。

及川氏は「これは難しい問題。正直言うと、エンジニアとどうにかして知り合いになるしかない」と答えている。

「先ほども挙げたIT系の勉強会のようなところに『自分も勉強したい』といって入り、そこで知り合った人に声をかける、ということをやっている人は多い」と及川氏。ただし「勉強はした方がいいんだけれども、実際、これはすごくエンジニアに嫌われることもある」とも述べている。

「『こいつは明らかにエンジニアをスカウトしに来ているな』という人が最近多いので、勉強会への参加はお勧めするとは言いにくいところ。だが、何らかの形で知り合いにならない限りは誘えないので、誰かと知り合いになるか、知り合いから紹介してもらうなど、最初の一人はリファラルというか知り合い経由でたどっていった方がいい」(及川氏)

また採用エージェントなどの活用について及川氏は「もちろん、それでうまくいっているところもあるので、やったほうがいいと思うが、エージェントに声をかけたとしても、まわりに技術のことがわかる人が誰もいなかったら、たぶん採用の判断すらできない。だからどうにかして、技術がわかる人をまわりに付けないと、ことは始まらない」と話している。

「それこそ私みたいな技術アドバイザーをやっている人もいるので、何かの形でそういった人を見つけるのがいいと思う」(及川氏)

技術顧問については高宮氏からも「最近だと、元ミクシィ、元Viiber CTOの松岡さん(レクター代表の松岡剛志氏)が『CTOたちで作るCTOコンサル/組織構築コンサル』といったことをやっているし、元アトランティスCTOの加藤さん(イロドリ代表の加藤寛之氏)もいろいろなところでアドバイザーをしている」と、スタートアップの技術支援に携わる企業や人の紹介があった。

ここで寺田氏から「技術顧問を付ける、というのは一つの大きな選択だと思うが、その方にどう説明すればよいのか。エンジニアリング部門の方々にとっての『自社の魅力』をどう発見していくか、というのも悩みのポイントだと思うが、そのあたりはどうしていけばよいのか」との問いが投げかけれられた。

及川氏はこの問いに「先ほど話した、エンジニアを引きつけるのと全く一緒」と答えている。「技術的なところではなく、その組織、企業が作ろうとしているサービスや製品がどれだけ魅力的なものかということ、その魅力的なものを実現したいのでエンジニアリング組織を作ろうと思うが協力してもらいたいということを訴えていくしかない」(及川氏)

採用メッセージ発信は飾らず、一貫性を持たせること

最後の質問は、創業期スタートアップ代表の方からで「0から1を立ち上げるフェーズに面白さを感じるエンジニアやビジネスサイドの人に加わってもらいやすいように、事前にメディアやSNS上でコンテンツをためておいたほうがよいのか。発信するメッセージで工夫するべきことや、Tipsはあるか」というものだ。

「僕は酔っ払った次の日に泣きながらTwitterで前日のツイートを消している人なんで、僕に聞くのも間違っていると思うんですが」と答えて場内の笑いを誘った及川氏だが、質問に対しては「やっぱりそういうことは(わざわざ)やってもバレちゃう。人間性だと思うんですよね」と真剣に答えていた。

「普段から自分がどういう人間か、というところが大事。結局5人とか10人の創業期だとしたら、もちろん事業の方向性などもあるけれども、一方で創業メンバーにほれる(ことで人が集まる)。それってもう隠せないところがあるので、自分の思いとかを素直に出していくのがいいと思う。下手にデコレーションしてもダメ」(及川氏)

むしろメッセージを飾り立てておいて、入社してからミスマッチを感じさせることのほうが問題、と及川氏は続ける。「入った後に『SNSではこんなにカッコいいこと言っていたのに、社内に入ったら言ってることと違うじゃないか』となって、ミスマッチが発覚してエンゲージメントができないよりも、自分の本当の思いを生の言葉で出していくのがいいと私は思う」(及川氏)

高宮氏は「創業メンバーに近い4〜5人は、一本釣りで口説くしかない」と話す。「(事業成長に)必要な機能と候補者をリストアップして、営業のパイプライン管理と同じようにシステマチックに会って進捗管理していくことだ。あるスタートアップでは上場直後、毎週経営会議をやるたびに、役員全員が各機能でリストアップした人について『この間メシを食いに行って口説いたけれども、まああと1年はかかるね』というようなことを突き合わせて、パイプライン管理をしていたという話があるぐらい」(高宮氏)

及川氏も「自分たちで採用候補者をリストアップして、それぞれが今パイプラインのどのステージにいて、『この人はまだだ(入社してくれない)けれども3カ月後にはもう一度メシを食いに行こう』、『今度は誰々が行け』というのをローテーションを組んで決めたりするのは普通に行われている」と話している。

高宮氏はこの方法のポイントは「上場するような大企業になったところでも、一本釣りをしなきゃいけないような人は、役員クラスが気合いで口説きに行く、人と人との関係性」にあると言う。

また「最初の4人が集まった後は『4人が4人ずつ集めてこい』という世界になる。その時に一貫性を持たせた方がいい点がある」と高宮氏は言う。

まず高宮氏は「どんなステークスホルダーであっても、何かをコミュニケーションするときにはマーケティングの観点があると思うが、マーケティングの意味とは、大きく見せることではなく、価値あるものの価値を正しく伝えるということ」と述べている。

その上で採用候補者というステークスホルダーに関しては「プロダクトをターゲットユーザーに対して一生懸命マーケティングするのと同様、自分の会社というプロダクトを採用候補者にどう伝えれば、価値がちゃんと正しく伝わるのか。それは間違いなく『報酬が高い』とかいう話ではなくて、『こういうふうに世の中を変えていく』だとか、『こういう面白い事業でチャレンジングな楽しい旅ができる』という話。何を売りにしているのかということを発信し続けていくことが大事」と話す。

高宮氏はまた、発信するメッセージについて「顧客向け、投資家向けなど、どのステークスホルダーに向けるかで微妙に伝え方は変わる。だけどコアの部分はぶれないことが大切」と語っている。

「『顧客向けにはこう言っているのに、採用向けでは逆のことを言っている』となると破綻する。一貫した、会社としての価値を発信し続けるべき。カッコいいけど平易な言葉、というとコーポレートブランディングみたいだけれども、あまり小難しく考えすぎずに自分たちの価値を伝えきることだ」(高宮氏)

及川氏はさらに「高宮氏の言う、一緒に食事をして人を誘ったときに話した口説き文句を、SNS上にも書けばいい」とアドバイスする。

「ロック歌手がステージ上で『俺はお前たちを愛してるんだ!』と全員に愛を語るんだけど、実は目の前の女の子1人を口説いてる、ということってあるわけじゃないですか。それと同じことをやればいい。採用候補者とランチを食いに行ったときに、その人にいろいろと思いを込めて話をする。その後、ちょっと時間が経ってから、その人に向けて話したことをSNSに書いてもいいわけだ。誰に、ということは言わなくていい。『私たちの会社に興味がある人、全員にお伝えしたいのはこんなこと』と言えば、一貫性もあるし、いいかもしれない」(及川氏)

パネルディスカッションの終わりに、5回にわたって行われた「HR Tech最前線」シリーズの締めくくりとして、寺田氏からシリーズ全体を通しての感想を聞いた。

1年前は、HR Techのツールを使う手前の段階、例えば、『データをちゃんと整備しておくべき』といったところから話が始まった。だがその後、皆さんとセッションをしながら、だんだん『大きな課題は、採用のところにあるな』と感じるようになった」(寺田氏)

「今日の2人の話でもそうだったが、採用やHRを考えるときには、人と企業との距離をどう縮めていくのかが重要」と寺田氏は述べ、「エンゲージメントという言葉や採用の広報のあり方を取り上げてきたが、テクノロジーを使って、必要とする人材を惹きつけ、魅力づけし、活躍し続けてもらう事がHR Techの本質の1つだと思う」と語った。

寺田氏はエン・ジャパンが提供する「engage」の採用HP作成などのサービスにも触れ、「自社について、なかなか伝えられない、知ってもらいたいけれども、どう表現していいかわからないということも多いと思う。しかし、何も表現しなかったら存在しないと同じ。自分たちが何をやっているのか、しっかり言語化して発信していくことが、人材を魅力づけし、お互いの距離を縮めるために重要なことだ」と述べた。

「求職者として会社を見たとき、どういう情報が載っていれば自分が不安じゃないか、よりその会社に興味が持てるのか、といった目線で、ぜひ皆さんにも発信をしていってほしい。この1年でも、テクノロジーやツールがたくさん出てきている。いろいろなものをうまく使いながら、自分たちのことを表現していくこと、伝えていくことを意識していっていただければと思う」(寺田氏)

マネーフォワード、2018年内に仮想通貨取引所を開設

資産管理サービスなどを展開するマネーフォワード523日、金融機関とテクノロジーの融合をテーマにした「Fintech&マーケティングフォーラム2018」を開催。同社はそのクロージングセッションにおいて、ブロックチェーン領域のビジネスを行う新会社を設立したと発表した。

新会社名は「マネーフォワードフィナンシャル(以下、MFフィナンシャル)」。MFフィナンシャルでは、2018年よりブロックチェーン・関するメディアを開始するほか、2018年内に仮想通貨交換所の開設を目指すという。また、時期は未定であるものの、将来的に仮想通貨の送金・決済プラットフォームの構築も見据えている。新会社の代表取締役に就任するのは、「MFブロックチェーン・仮想通貨ラボ」の中心メンバーで、日本銀行出身の神田潤一氏だ。

マネーフォワードはこれまで、資産管理と確定申告に利用できるサービスを提供してきたが、仮想通貨に関して「知る(メディア)」、「交換する(交換所)」、「利用する(送金・決済)」を提供することで、仮想通貨の認知から確定申告まで一貫してマネーフォワードグループのサービスで解決できる世界を目指すという。

以上の発表に加え、マネーフォワードは資産管理サービス「マネーフォワード」が連携する仮想通貨取引所の数を現在の3社(bitFlyerCoincheckZaif)から約20社に拡大することも併せて発表。新しい連携先には、BTCBOXbitbankQUOINEXFISCOなど国内外の取引所が含まれる。また、今後はマネーフォワードで自動取得した仮想通貨の取引データをCryptactCryptoLinCG-taxなどの損益計算ツールとAPI連携を行うことで、計算結果をCSV形式でダウンロードできるようになる。そのファイルを確定申告用の「MFクラウド確定申告」にインポートすれば、申告書の自動作成も可能になる。

クロージンセッションに登壇した神田氏は、「世界中のユーザーにフリーでフェアなサービスを提供することが、MFフィナンシャルの使命。仮想通貨の取引をしないユーザーの47.3%がセキュリティに不安があるからと答えている結果(同社実施のアンケート結果)を受け、MFフィナンシャルの取引所ではセキュリティを最優先事項とする」と話した。

「これからはCurrency2.0の時代。場所・時間・手段からの自由、国境やイデオロギーからの自由、固定された価値からの自由を意味すると私たちは考えている」(神田氏)

MFフィナンシャルでは、3年後までに100名規模の採用と育成、ブロックチェーン技術の実用化に向けた研究開発、全国の金融機関との連携を進めていくという。

(アップデート:5月23日18:50)

以下、セッション後に開催された質疑応答の内容をまとめる。

MFフィナンシャルの仮想通貨取引所における取り扱い通貨について、神田氏は「比較的規模が大きく、ユースケースが明確な通貨をまずは取り扱う」とコメントした。セキュリティを最優先すると強調した同社だが、コールドウォレットとマルチシグによる運用は現在「検討中」(神田氏)。MFフィナンシャルはすでに仮想通貨交換業登録を申請中で、現在金融庁とビジネスモデルについての意見交換を行っている最中だという。

マネーフォワードの株主には、SBIやマネックスなど仮想通貨交換業への参入に興味を示す企業が名を連ねているが、神田氏は「各企業はそれぞれの考え方に基づいてビジネスを行っているが、そのなかで、連携できるところは連携を進め、ライバルとなる場合でも、お互いが切磋琢磨して業界全体のレベルを上げることが出来ればと考えている」と話した。

より安価にIoTを実現する「BLEルーター」開発のBraveridge、5億円を資金調達

無線技術を軸にIoTデバイスなどの開発・製造を行う福岡市のスタートアップBraveridgeは5月23日、BLE(Bluetooth Low Energy)端末をLPWAやLTEなどの広域通信網に中継できる「BLEルーター」シリーズを発表した。インターネット環境のない場所でも安価なBLE端末を設置して、BLEルーター経由でIoTサービスを使うことができるようになる。

IoT普及にあたっては、“あらゆる場所”に機器を用意するための費用やインターネットへの接続コスト、消費電力が課題となる。Braveridgeでは、最新のBT5.0-Long Rangeモジュールを開発。低コスト・低消費電力・1Kmまでの長距離通信を実現した。

最大20台まで接続可能なBLE端末が取得したデータは、BLEルーターに集約された後、LTE網(3G、LTE、Cat-M1/NB-IoTなど)や各種LPWA網(LoRa、Sigfoxなど)へと中継され、インターネットにダイレクトにつながる。OSではなく独自ファームウェアで制御するため、ハッキングや不正侵入の心配もないとのことだ。

利用料金は、LTEと接続する「BLE to LTEルーター」の場合で2年間のSIM通信費込の価格が1万5000円から(月額契約は不要)といったモデルを検討しているという。

BraveridgeではBLEルーターの導入で、ネット環境がない場所での高齢者や児童の安否確認、火災検知、開閉探知、牧場管理などが安価に実現できるとしている。たとえばオフィスビル内の複数(20カ所まで)のトイレの使用状況をスマートフォンから確認するといったことが数万円のハードウェア投資で可能になるという。

BLEルーターシリーズの発表と同時にBraveridgeでは、ジャフコが運営するファンドを引受先とする総額5億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにしている。

Braveridgeは資金調達により、各種デバイスやサービスの開発・提供を加速し、実証実験不要で「真のIoT」を容易に実現できるシステム提供を目指す。

出張や旅行時の面倒なビザ申請がオンラインでスムーズに、「one visa visit」のクローズドβ版公開へ

日本で働く外国人労働者のビザ取得をサポートする「one visa」を提供するone visa。同社は5月29 日より、海外出張や海外旅行時のビザ取得がオンライン上で完結する新サービス「one visa visit」のクローズドβ版を提供することを明らかにした。

それに先立って本日5月23日より、まずは先着100名を対象に同サービスの事前登録受け付けを開始する。

短期滞在ビザの取得手続きをオンライン上でスムーズに

one visa visitは商用や旅行目的での短期滞在ビザを、オンライン上でサクッと取得できるサービス。対象となるのは電子ビザ(e-Visa)に対応している国で、クローズドβ版ではインドやブラジル、ベトナムなど19カ国から始める。

これまでもオンライン上でビザを取得すること自体はできたが、そこにはいくつかの課題があった。まずは言語の壁。各国の電子ビザを取得する際には、日本語ではなく外国語の画面に沿って手続きを進めることになる。場合によっては部分的にしか英語に対応していないケースもあるそうで(他の部分はその国の言語)、そうなると一気に取得のハードルが上がる。

もちろん旅行代理店に頼むという手段もあるが、人件費がかかるのでその分費用がかかるのは仕方のないこと。one visa代表取締役CEOの岡村アルベルト氏によると、国によっても異なるが2〜3万円かかることも珍しくないという。

一方one visa visitは費用や言葉の課題を解決することに加え、取得するまでの期間が短いという点が大きな特徴だ。日本語の画面に沿って進めるだけで各国のビザ申請ができ、費用は数千円から。手配にかかる日数は数営業日だが、早ければ1日かからずに電子ビザが届くケースもあるそうだ。

「本人がビザ取得に必要な情報を入力するため、スタッフの人手を介さずコストを抑えれる。またこれまでは各国ごとにビザ取得のフローや必要な手続きがそれぞれ違い、毎回別のルールに沿って1からやる必要があった。one visa visitの場合、対応している国については全て同じフローでビザを取得できる」(岡村氏)

今回のクローズドβ版ではなくその次のフェーズにはなるが、過去に一度登録した情報を引き継ぐことで、2回目以降の申請時の負担を削減できるような機能も追加するそう。またそのタイミングでは海外出張の機会が多い法人の利用を見越して、従業員のビザの管理や代理取得ができる機能も検討していくという。

海外進出時のハードルを下げ、心理的な国境をなくす

そもそもone visa visitを開発した背景も、2017年6月にオープンβ版をリリースしたone visaの利用企業が増える中で、新たなニーズを見つけたからだ。

one visaは冒頭で触れたとおり、外国人を雇用する企業のビザ取得や管理を簡単にするサービスで、現在ITベンチャーを中心に約180社が利用する。one visaの導入企業では社員が海外出張にいく機会も多く、その際に国ごとにビザ取得のフローが異なるなど面倒な作業が発生していたため、一気通貫でスムーズに手続きができるサービスの必要性を感じたのだという。

「海外に行く際にハードルとなるのがビザの問題。このプロセスを可能な限り簡単にして負担をなくすことで“心理的な国境”を取り除き、人材が流動的に活躍できるようにしたい」(岡村氏)

外務省が発表している「海外進出日系企業実態調査」をみても、2016年の海外に進出している日系企業数(拠点数)が7万1820拠点で過去最多を記録するなど、日本以外の国でビジネスを展開しようとする企業も増えてきている。ビザ取得を簡単にしたいというニーズは今後も増えそうだ。

また岡村氏自身はアメリカで移民が多くのスタートアップを立ち上げたり、重要なポストについている現状を受け「異なる文化を持っているからこそ、自国と移住先の文化の違いがわかり、新しい視点から物事を考えたり価値を提供できるのではないか」と考えているそう。

そのため将来的には「まずはone visa visitで短期ビザを取得し、試しに冒険にいくような形で海外に行ってみて、定住して何か新しいチャレンジをしたい国が決まったらone visaを活用して必要なビザを取得する」といったように、短期と長期双方のビザ取得を簡単にする仕組みを構築していく方針。

それによって「異なる価値観を持っている人がいろいろな国に行き、新しい発見を得たり、それまでにない価値を提供しやすくなる環境を整えていきたい」(岡村氏)という。

“電子トレカ”がスポーツチームの収益源になる「whooop!」発表、1500万円の資金調達も

ここ数ヶ月の間に、個人や団体(企業)が資金やファンを集めることのできるプラットフォームが急速に増えてきている。

たとえば先日TechCrunchでも紹介した「SPOTSALE(スポットセール)」や「BASE」の取り組みは、店舗がサービス上で“独自のコイン”を発行し、初期のファンや資金を調達できるというもの。ほかにもコミュニティが“コミュニティコイン”を発行して支援者を募る「fever」や、少し方向性は違えど、設定した特典と交換可能な“ポイント”を無料配布しファンと交流できる「MINT」のようなサービスもある。

もちろんクラウドファンディングもそうだし、プラットフォームではないけどICOも同じような目的で活用される仕組みだ。

そして今回紹介する「whooop!」もこれらに近く、スポーツチームやアスリートがファンから資金を調達できるプラットフォーム。ただしwhooop!の場合は独自のコインでも、ポイントでもなく“電子トレーディングカード”を用いている点が最大の特徴だ。

開発しているのは現役東大生を中心とした若いメンバーが集まるventus。同社は5月23日よりwhooop!の事前登録を開始するとともに、谷家衛氏や高野真氏を含む個人投資家などから、総額1500万円を調達したことを明かした。

電子トレカが変える、チームとファンの関係性

whooop!はスポーツチームやアスリートがオンライン上でトレーディングカード(以下トレカ)を発行することで、ファンとの関係性を深めたり資金を集めたりできるサービスだ。

トレカにハマったことがある人にはイメージがつきやすいと思うが、スポーツチームは複数枚の選手カードをランダムに集めてパックにしたものをファンに販売。ファンはチームから直接購入するほか、オークションやトレード機能を使ってファン同士で取引することもでき、カードを集めながらお気に入りのチームを支援する。

各チームごとに「ファンランキング」が導入されているほか、チームの運営方針に関する投票など、カード保有量に応じた「特典」も設定が可能。ランキングによって自らの“ファン度”をアピールでき、特典を使うことでより一層深くチームに携わることができる。

一方で収入に悩むスポーツチームにとっては、電子トレカが新たな収益源にもなりうる。whooop!ではカードを販売した際に販売額の90%がチームの収益となるほか(10%がwhooop!の取り分となる)、ファンの間でカードを売買した際にも取引手数料として2.5%がチームに支払われる仕組みだ(同じくwhooop!にも2.5%が支払われる)。

ここまで読んで「カードを売買できる以外はクラウドファンディングとあまり違わないのでは」と思う人もいるかもしれない。

この点についてventus代表取締役CEOの小林泰氏に聞いてみたところ、「(単発的になりやすいクラウドファンディングとは異なり)カードはシーズンやイベントごとに発行できるので、継続的な支援を受けやすいのが特徴。グッズなど物のリターンだけではなくチームに関わる体験をファンに提供でき、ファンの視点ではカードを保持しておけば支援したことを証明することもできる」のがウリだという。

各カードのサンプル画面。

whooop!では琉球アスティーダ(卓球)、宇都宮ブリッツェン(自転車)のほかプロサッカーチームや個人アスリートと連携し、βテストを行っていく計画。6月中を目処にこれらのチームに関してカードの購入、特典の獲得ができるようになる予定だという。

また連携チームを増やしながら、2018年夏頃にwhooop!の正式版をリリースする方針だ。

スポーツチームが継続的に収益をあげられる仕組みを

ventusは2017年11月の設立。代表の小林氏と取締役COOの梅澤優太氏を中心としたチームで、2人は現役の東大生だ。

ventusのメンバー。写真左から1人目が取締役COOの梅澤優太氏、3人目が代表取締役CEOの小林泰氏

小林氏は学部生時代にアイスホッケー部に所属。その傍ら、アイスホッケーを広めるために大学リーグの全試合を生中継するメディア「Tokyo IceHockey Channel」を立ち上げ、3年以上運営してきた。

「生中継をしていて感じたのが、本質的な価値は現場体験にあるということ。その価値をあげるためにはどうすればいいか、その体験に参加してお金を払ってくれる人を増やすにはどうすればいいかを考えたのがひとつのきっかけ。またメディアを運営する過程で自分たちでクラウドファンディングをやるなど、多くの人から支援してもらった。その支援を何らかの形で可視化して、蓄積できると面白いと思っていた」(小林氏)

一方の梅澤氏も3歳の頃からサッカーに打ち込んできたスポーツ好き。スポーツベンチャーでのインターンも経験し、スポーツ業界で事業をやることを考えていたところ小林氏と会ったという。

「スポーツだけに限った話ではないが、ただ1つのことに打ち込み勝負をしている人たちと、その人たちを支えたいと思う人が繋がれる場所を作りたいと考えていた」(梅澤氏)

もともと2人が考えていたのは、ちょっとしたベッティング要素やゲーム性を取り入れること。たとえばwhooop!でとあるチームのカードを購入する。そのチームを応援し続けた結果、チームの価値が上がれば自分の保有するカードの価値も高まるといった具合だ。

これによって何となくカードを購入したことをきっかけにそのチームを熱狂的に応援する人がでてくるかもしれないし、その結果チームにきちんと資金が入る仕組みになっていればファンもチームもハッピーだろう。「もともとスポーツにはトレカという文化があるため、ファンだけでなくスポーツチーム側にとってもわかりやすい」(梅澤氏)こともあり、電子トレカを活用したwhooop!のアイデアに固まったそうだ。

今後whooop!では中長期的に様々な種目、レベルのチームをプラットフォーム上に展開することで、スポーツファンが集まる「スポーツ横断型のコミュニティ」を形成を目指す。収入源をチケット代やスポンサー料、放映権料に依存しがちなプロスポーツチームやアスリートにとって「電子トレカが継続的に資金を得られる収入源のひとつになること」を目標に事業を成長させていきたいという。

スタートアップの資金調達をお膳立てするエメラダ、投資型CFに続きレンディングサービスを開始

2017年11月にリリースした株式投資型クラウドファンディング(以下株式投資型CF)「エメラダ・エクイティ」を通じて、スタートアップの資金調達をサポートしてきたエメラダ。同社は5月23日、株式投資型CFに続く新たな資金調達プラットフォームとして、オンラインレンディングサービス「エメラダ・バンク」をリリースした。

エメラダ・バンクの初期運営には、城北信用金庫、第三銀行、東邦銀行、大和信用金庫といった地域金融機関、金融機関向けにシステムのコンサルティングなどを手掛ける電通国際情報サービスが参画。将来的に法人向け金融システムのマーケットプレイスを目指すという。

決算書からは見えないデータも活用、多くの企業に借入の選択肢を

エメラダ・バンクは、スタートアップや中小企業がオンライン上で500万円から5000万円までの借入ができるサービスだ。

決算書に加えて銀行口座の入出金情報やオンライン上の定性情報などを分析。決算書から見えない情報もしっかりと評価することで、新規借入をしやすい仕組みを作る。合わせて企業ごとの事業計画や資金繰り状況も踏まえて返済計画をパーソナライゼーションすることで、デットファイナンスという選択肢をより使いやすい形で提供するのが特徴だ。

「従来は決算書の内容で審査が通らなかった企業でも借入のチャンスが得られる。一方で借入できたものの返済の負担が大きく苦労する企業も多い。資金繰りが安定しているのでコツコツ返済する、大きな投資で一時的に収支が悪化するため初期の負担を減らすなど、企業ごとに柔軟な返済計画を提案していく」(エメラダ代表取締役社長兼CEOの澤村帝我氏)

借入までのフローは一部対面での面談が含まれるが、申請から一連のコミュニケーション、契約締結まで基本的にオンライン上で完結。借り手が何度もオフィスまで足を運ぶ必要もない。

またエメラダ・エクイティと連携し、会社の状況に合わせて借入と増資どちらが適しているのかを提案。実際に資金を調達するところまで、エメラダのサービス上でサポートする。

「情報を登録しておきさえすれば、借入ができるタイミングでお膳立てしたり、投資型CFの提案もできる。部分的にではあるが『オンライン上の外部CFO』のような形で、創業期や成長期の企業のファイナンス面をサポートしていきたい」(澤村氏)

主なユーザーとしているのは20〜40代のネットに精通している経営者や財務担当者。今すぐに資金が必要なわけではないが、少し先のタイミングで資金調達を検討しているスタートアップも、一度情報を登録しておけばエメラダ側で分析しサポートを受けることも可能だ。登録料は無料となっている。

銀行APIの開放でオンラインレンディングの可能性が広がる

近年、日本のFintech界隈で注目されているのが銀行のAPI公開だ。口座残高を調べるといった「参照系API」にしろ、外部サービスから銀行振込をするといった「更新系API」にしろ銀行APIの開放が進む。エメラダ・バンクもまさにそうだが、銀行口座の決済情報にアクセスして、入出金情報を取得・分析することもできるようになってきた。

もちろんどんな事業者でも自由にできるというわけではない。この点については「改正銀行法の中で企業の口座情報を取得する要件を金融庁が定義している。エメラダ・バンクについては金融庁とコミュニケーションを取りながら準備を進めてきた」(澤村氏)という。

もうひとつ、サービスを立ち上げるにあたって同社が取り組んでいたのが金融機関との連携だ。「既存の銀行が貸せていない企業に貸し出す」のがエメラダ・バンクの特徴でもあるが、基本的には銀行と連携して運営する必要があるというのが澤村氏の考え。

「法律面の議論もあるが、(サービスの特性上)コンプライアンス基準やセキュリティ基準を満たしているかどうかが重要。その点でリリースのタイミングで複数の金融機関と連携できていることは大きい」(澤村氏)

創業期から成長期まで、企業のファイナンスを支える

これまで約半年にわたって株式投資型クラウドファンディングを提供してきたエメラダだが、今後は2つのサービスを密に連携させ、各企業を長い期間に渡り継続して支援することを目指していくという。

「スタートアップを含め未上場企業ではビジネスを回すのにリソースが割かれ、財務があと回しになりやすい。この役割をエメラダが補完することで、手間をかけずとも上手くいくようにしたい。その意味でローンとエクイティはセット。創業期はエクイティ、少しずつ事業が軌道に乗り始めた移行期でデットも検討し、本格的な成長期にはよりいい条件でデットを提供する、など企業のフェーズやニーズに合わせて最適な資金調達手段を選べるプラットフォームを目指す」(澤村氏)

今後はそれぞれのフェーズに合わせた機能の拡充や、AIを使ったレコメンデーション機能などの開発にも取り組む予定だ。

エメラダは2016年10月の設立。野村證券、ゴールドマン・サックス証券を経て起業した澤村氏を中心に、金融機関出身のメンバーも多い。2017年4月にはD4Vなどから2億円を調達している。

400を超える縫製工場などと連携、衣服生産プラットフォームの「シタテル」が数億円規模の調達

衣服生産プラットフォーム「シタテル」を提供するシタテルは5月22日、既存株主やスパイラル・ベンチャーズ・ジャパンなど複数の投資家を引受先とする、第三者割当増資を実施したことを明らかにした。今回のラウンドはシリーズBに相当するもので、具体的な調達額は非公開だが数億円規模になるという。

シタテルへ出資した企業は以下の通りだ。

  • スパイラル・ベンチャーズ・ジャパン
  • FFGベンチャービジネスパートナーズ
  • 朝日メディアラボベンチャーズ
  • SMBCベンチャーキャピタル
  • オプトベンチャーズ(既存株主)
  • 三菱UFJキャピタル株式会社(既存株主)
  • その他非公開の投資家

同社は2016年6月にシリーズAでオプトベンチャーズと三菱UFJキャピタルから数億円を調達しているほか、2014年10月にも三菱UFJキャピタル、日本ベンチャーキャピタル、リブセンスから資金調達を実施している。

シタテルは2014年3月創業の熊本県発スタートアップだ。運営する衣料生産プラットフォームでは提携する400以上の縫製工場の技術や、サプライヤーのリソースをデータベース化。グッズを制作したいファッションブランドやセレクトショップの要望と工場の稼働状況などを考慮し、適切にマッチングすることで、「小ロット・高品質・短納期」で衣服を生産できる仕組みを構築してきた。現在は7000を超えるクライアントが登録する。

また直近では受注から生産までをワンストップで管理できるECシステム「SPEC」や、メンバー制のコミュニティプラットフォーム「Weare」を公開するなど、衣服に関する新しい取り組みも行っている。

シタテルでは今回調達した資金を用いて、同社の基盤システムである「SCS(シタテル・コントロール・システム)」の強化を進めるほか、SPECや工場・サプライヤー向けのオペレーションツールの開発、Weareのコミュニティ構築に取り組むという。

100通りの処方の中から1本ずつ手作り、“パーソナライズシャンプー”の「MEDULLA」登場

Spartyは5月22日、女性向けの定期通販ブランド「MEDULLA(メデュラ)」からユーザーの髪質に合せてカスタマイズしたパーソナライズシャンプーとコンディショナーの発売を開始すると発表した。

MEDULLAは、公式サイトで自分の髪質、なりたい髪、香りの好みなど7つの質問に答えるだけで、自分に合ったシャンプーを届けてくれるサービスだ。質問の答えによって100以上の処方の中から1つのブレンドを見つけ、専門のラボで1本づつ手作りでシャンプーを製造するという。シャンプーとコンディショナーは2本セット(約2ヶ月分)で6800円だ。

MEDUULAに似たサービスとして、アメリカでは2017年12月に520万ドルを調達したProseやY Combinator出身のFunction Of Beautyなどがある。

Sparty代表取締役の深山陽介氏は、「日本には1万点以上のシャンプーが存在する。その数が多すぎるがゆえに、髪に悩む生活者が“選べない”という問題がある」と話し、質問にタップで答えるだけのUX、サブスクリプションモデルならではの長期的なコミュニケーション、自分の処方をSNSに投稿するなどインフルエンサーを活用した認知手法などで従来の一般ブランドとの差別化を目指すという。

MEDULLAのような価格の高いシャンプー製品を広めるために有効なのが、美容院を利用した認知拡大と拡販だ。MEDULLAは現時点で美容院4店舗と提携を結ぶ。「2018年度中に、MEDULLAブランドの体験の場として全国100店舗に拡大していきたい」と深山氏は語る。具体的には、美容業界で強力な影響力をもつと言われる卸業者(ディーラー)との関わりの少ない、フリーランス美容師を中心に協力関係を深めていきたいという。

「第一弾のプロダクトとしてシャンプーを選んだのは、化粧品の中でもブランドスイッチが起こりやすい製品で、3年に1度は新ブランドが大きく市場シェアを伸ばすケースがあるからだ。その例として、ノンシリコンというバリューでシェアを伸ばしたジャパンゲートウェイや、ボタニカルというライフバリューをもつボタニストなどがある。どちらも100億円以上の売り上げを作ったブランドだ。MEDULLAは、パーソナライズというバリューを起点としたD2Cブランドとして市場を奪いたい」(深山氏)

Spartyは2017年7月の創業。これまでに、エンジェルラウンドとしてエウレカ創業者の赤坂優氏から金額非公開の資金調達を行っている。当面の目標として、深山氏は「MEDULLAで年商5億円を目指すとともに、将来的には誰でもシャンプーブランドを作って販売できるようなプラットフォームを作りたい」と話した。

駐車場シェアを超えたモビリティプラットフォーム目指す「akippa」、住商らから8.1億円を調達

駐車場シェアリングサービス「akippa」を運営するakippaは5月22日、既存株主の住友商事など7社を引受先とした第三者割当増資により、総額で8.1億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回の調達は既存事業の拡大とともに、同社が今後見据えるMaaS(Mobility-as-a-Service)を軸としたモビリティプラットフォームの構築に向けたもの。調達先7社および各社との業務連携の内容は以下の通りだ。

  • 住友商事 : 2016年9月に業務提携、2017年にakippaへ出資。モビリティ部門と連携しカーシェアの駐車スペースやEVの充電スポットなど、中長期的にakippaの駐車場を活用。海外展開のサポートも
  • 日本郵政キャピタル : 郵便局等の駐車場や遊休地の貸し出しを検討
  • JR東日本スタートアップ : 2018年3月より保有する駐車場をakippaで貸し出し開始。今後もJR東日本沿線の駐車場をakippaを通じて提供、鉄道と2次交通とのシームレスな連携へ
  • ニッポンレンタカーサービス : 2018年内を目標にID連携を進めレンタカーと駐車場をセットで予約できる仕組みを目指すほか、カーシェアステーションとしてakippaの駐車場を活用
  • FFGベンチャービジネスパートナーズ : 九州エリアでのakippaの展開支援
  • 中部日本放送 : 東海エリアでのakippaの展開支援とグループの各種事業との連携
  • 千島土地 :大阪中心に関西エリアでのakippaの展開支援

なおakippaはこれまでに約16億円を調達していて、今回のラウンドで累計の調達額は約24億円となる。

会員数70万人、累積の駐車場拠点数も2万箇所を突破

akippaは2014年4月にリリースされた、駐車場のシェアサービスだ。貸し手側は空いている駐車場を貸し出すことで駐車料金の50%を収入として得られる点が大きなメリット。導入時に精算機や車止めなど初期投資が不要で、時間帯や日数も柔軟に選択できる。

一方の借り手はアプリから15分単位で駐車場を予約することが可能だ。もともとが空きスペースなので料金がリーズナブルなことに加え、事前予約制・キャッシュレス方式を採用(クレジットカードもしくは携帯料金と合算で支払う)。当日現地でコインパーキングの空きが見つからず焦ることもないし、支払いの手間もない。

akippa代表取締役社長の金谷元気氏によると、2018年4月時点で会員数は70万人以上、累積の駐車場拠点数も2万箇所を超えているという。特に1年で倍以上になったという拠点数については、個人のものだけでなく大手企業が提供する駐車場が増加傾向にある。

1月には東京都内のタクシー会社の車庫を貸し出す実証実験も実施するなど、幅広い業界との繋がりを強化。またコインパーキングやSUUMO月極駐車場を提供するリクルートなど、同業他者との連携も積極的に行ってきた。

「前回のラウンド(2017年5月)以降はとにかく駐車場を増やすことにフォーカスしてきた。それまでは需要に対して供給が全く追いついていない状況で、キャンセル待ちが多発するスペースも少なくない。駐車場がなくて困っている人が確実にいるのに、その課題を解消しきれていなかった」(金谷氏)

そこで明確な供給不足の打開策としてakippaが着手したのが、これまで導入が難しかったゲート式駐車場の開拓だ。ゲート式駐車場はコインパーキングや商業施設などでよく見かける、入り口で駐車券を取り、出口で清算するタイプの駐車場のこと。

akippaでは先日、このゲート式駐車場をakippaに対応できるようにするIoT端末「シェアゲート」を発表した。ゲート式駐車場でも事前予約・スマホ決済ができるようになるということなのだけど、これが同社にとって大きな意味を持つのだという。

「akippaに登録されている拠点数は順調に伸びてきているものの、拠点あたりの台数は5台くらいの所が多くすぐに埋まってしまう。一方のゲート式の駐車場は通常の駐車場と比べて規模が違う。200〜300台規模の駐車スペースを持つ拠点も珍しくなく、ニーズのあるエリアで開拓できた場合のインパクトが大きい。今後はシェアゲートを通じて1施設あたりの駐車台数を増やしていくことにも取り組む」(金谷氏)

金谷氏いわく、ARPU(アープ / ユーザー1人あたりの平均売上高)を増やす1番の方法は駐車場を増やすこと。特に東京ドームなど「予約ニーズの多い場所に、いかにたくさんの駐車スペースを持っているか」が重要だという。

引き続き多方面での連携も進めながら、2020年に拠点数を10万箇所まで増やすことが目標。シェアゲートについても2019年末までに1000箇所での導入を目指すという。

駐車場シェアに留まらない、モビリティプラットフォーム構築へ

ここからは少しだけその先の話をしてみたい。冒頭でも触れたように、akippaが見据えているのはMaaSを軸としたモビリティプラットフォームだ。これは駐車場や車といった移動に関連するツールを「モノ」としてではなく「サービス」として提供するということ。カーシェアや駐車場シェアがまさにその一例だ。

「akippaが考えるMaaSの第1フェーズは、車を持っていなくてもカーシェアと駐車場シェアを使って家から目的地まで快適に移動できるもの。ここではカーシェアを提供するプロバイダーのサービスに加えて、自社でC2Cのカーシェアをやることも視野に入れつつ、一連のサービスがakippaIDで予約決済できるようにする」(金谷氏)

金谷氏によると70万人のakippa会員のうち約50万人が車を保有しているそう。ただし約8割の時間は車を使わず持て余しているとのことで、その時間を使って残りの20万人にC2Cで車を貸し出すというモデルが成り立つと考えているようだ。

とはいえ、それだけではプラットフォームとしては車が足りないので、プロバイダーのサービスもakippaから利用できるようにする。その第一弾が調達先である日本レンタカーであり、今後の住友商事だ(住友商事は2018年4月に北米のカーシェア事業者Turoに出資。日本を含むアジアでサービス展開を進めていく方針を明らかにしている)。

もちろん車だけでなく駐車場も各地で必要になる。この点についても「日本でたくさん土地を持っているJR東日本や日本郵政と連携をとっていきたい」(金谷氏)とのこと。今回の資金調達は金谷氏が何度も言及していたが、足元の駐車場シェア事業の拡大だけでなく、その先にあるモビリティプラットフォームを見据えたものになっている。

「2020年までは駐車場シェアを中心に事業を成長させていく方針。そこから徐々にMaaSの第1フェーズに取り組む。最終的にはカーシェアの車が自動運転車に変わり、akippaで呼び出すと現地まで迎えに来る。そして目的地で人を降ろした後は車だけが駐車場兼充電spotにいく、という世界観を実現したい。akippaは困りごと解決屋。2030年に世界最大のモビリティプラットフォーマーになるということをビジョンに、モビリティに関する課題を解決していきたい」(金谷氏)

まるで“お菓子版Netflix”、サブスク型スナックBOXのsnaq.meが本格的なパーソナライズに舵取り

映画クルマ家具オーディオブックなど、さまざまプロダクトを対象としたサブスクリプションビジネスがここ数年間で多く生まれている。大人から子どもまで、みんなが大好きなお菓子だって、その例外ではない。

スナックミーが提供するsnaq.meは、4週間または2週間に1回、8種類のお菓子を詰め込んだスナックBOXを自宅まで届けてくれるサービスだ。お菓子のバラエティは全170種類。組み合わせは1800億通り以上もあり、毎回少し違ったスナックBOXが届くので長期間サービスを利用し続けていても飽きることはないだろう。

1箱1580円ということなので、スナック1つあたりでは約200円。コンビニで買うよりも高いけれど、ちょっと良さげなスーパーで買うよりは安いという価格だろうか。

サブスクリプション型サービスの代表格といえばNetflixがある。今や1億人以上のユーザーから支持を集める同サービスは、月額料金を払えば映画が見放題であるだけでなく、ユーザーの好みにあった映画をリコメンドするというパーソナライズ機能が最大の特徴だ。“おやつ版Netflix”とも言えるsnaq.meにも、しっかりとそのパーソナライズの要素が組み入れられている。

snaq.meに登録する際、ユーザーには自分の間食習慣や好きなお菓子の種類などを答える“クイズ”が出題される。それに答えることでsnaq.meはお菓子に対する好みを判断。それに合わせてスナックBOXの中身を調整する。また、届いたお菓子を1〜4の星の数で評価することもできる。それらの追加的なデータによってパーソナライズを深め、新製品の開発にも活かしていくというわけだ。

そして、5月22日にスナックミーが発表した新機能の「snaq tasting box」も、このパーソナライズという要素をさらに進化させるための試みだ。snaq tasting boxは1箱1058円の試食用スナックBOXで、合計12種類のミニスナックが詰め込まれている。ユーザーはそれぞれのスナックを食べてみて、専用ページから味、食感、フレーバーについての評価を入力していく。

スナックミーはそれら12種類のスナックの甘みや苦さを定量化し、食感や風味をタグ付けしている。例えば、snaq tasting boxに入っている「黒糖くるみ」の甘さはレベル3、食感はカリカリしていて、黒糖風味がある。これに対して「甘すぎる」と答えたユーザーには、今後甘さが3以下のお菓子が送られ、黒糖くるみの食感が好きと答えたユーザーには、カリカリとした食感の別のスナックが送られるというわけだ。

スナックミー代表取締役の服部慎太郎氏は、「人の味覚をもとにリコメンドする場合、Netflixなどのように、あなたと似た特徴をもつユーザーがAというものが好きだから、あなたにもAを勧めますというようなアルゴリズムは使えない。そのため、ユーザーに実際にお菓子を食べてもらい、個人ごとのプロファイルを作る必要があった」とsnaq tasting boxnの開発背景について語る。

服部氏によれば、現在snaq.meは数千人の定期購買ユーザーを獲得しており、その約95%が女性だ。スナックミーの創業は2015年9月。これまでに「数千万円の資金調達を複数回」(服部氏)行っているという。

スナックミー代表取締役の服部慎太郎氏

スマホの下取りとデータ移行を同時に、TC Tokyo卒業生のあいりぺが新サービス開始

TechCrunch Japan読者のみなさんは、古くなったり故障したりしたスマホをどうしているだろうか。フリマアプリが一般化した今、スマホを他人に売るということはもう当たり前という人もいるだろう。でも、MM総研の調査を見てみると、スマホを下取りに出したり、売却したりした経験のある人は全体の9.4%ということなので、どうも“スマホを売る”という行為はまだまだ一般化していないようだ。

その理由の1つが、スマホに保存されたデータに関する問題だ。同調査によれば、スマホを売却しなかった理由として「(個人情報などの)セキュリティが心配」と答えた人は全体の21.2%で第2位、次に多かったのが「必要なデータが保存されているから」で16.3%という結果だった。

そんな中、TechCrunch Tokyo 2017スタートアップバトルにも出場したあいりぺ(旧社名 Life Support Lab)は5月21日、壊れた携帯端末の下取りと同時に、その端末に保存された写真や動画をインターネット上に保存できる「mireta(ミレタ)」をリリースした。

miretaの利用はとても簡単で、ユーザーは端末を下取りに出す日時を指定するだけでいい。あとは、あいりぺのスタッフが記入済み伝票と梱包材を持参して、指定された場所まで取りに来てくれる。あいりぺは端末を受け取ったあと、データ消去ソフトの「GreenT」で個人情報を完全に削除。端末に保存されたデータをクラウド上に保存する(ガラケー、iPhone、Androidすべて対象)。端末到着後から約3日でユーザーもそのデータをインターネット上で閲覧可能になるという。

データの移行作業と同時に、あいりぺは受け取った端末の下取り査定を開始。数日後にユーザーへ買取価格を提示し、それに同意した場合は指定の銀行口座に売却代金が支払われる。ユーザーが買取価格に納得しない場合、端末は返送される。ちなみに、買い取りなしでデータの取り出しだけを依頼することも可能だ。miretaの利用料金は、1台あたり3000円。データの移行手数料や受け取り費用が含まれている。

人間のスタッフが端末を受け取りに行くというモデルを採用した理由として、あいりぺ共同創業者兼COOの荒木賢二郎氏は、「私自身、先日引越しがあり、自宅の本を全て電子化して処分しようと思った。しかし、どの業者にしていいか分からないし、ググっても答えが出ず、結局めんどくさくなってしまった。今時、宅配伝票なんて持っていないし、手書きでそれを書くのもめんどくさい。自分が使いたいサービスの形が、このモデルだった」と話す。

でも、もちろん利益が出る水準で買い取り価格を提示しているとは言え、1台3000円で、かつスタッフが端末を受け取りに行くビジネスモデルの採算は合うのだろうか。

それについて、荒木氏は、「正直、採算がとれる価格ではない。しかし、埋蔵携帯は日本に2億台、市場規模にして1.7兆円あると言われている。 まずはこの巨大な市場に参入し、亡くなったおじいちゃんの写真など、端末に保存された大切なデータを助けることが第一歩目の目標だ。中古携帯業には、利益目的で最低限の仕様を満たした工業製品のようなサービスが多い中、『あなたの事を大切に想っています』というメッセージを込めてサービスを提供し続けることで、最終的に長期的な利益は得られると思う」と話す。

miretaは本日よりサービス開始。2020年3月までにサービス利用者数10万人を目指すという。あいりぺの将来的な目標は、スタッフが出張して新しい端末を届け、その場で機種変を行い、データを載せ替えて買い取るという“出張型の機種変更サービス”の実現だ。

テイクアウトの待ち時間を減らす事前注文・決済アプリ「PICKS」公開、数千万円の調達も

テイクアウトの事前注文・決済サービス「PICKS(ピックス)」を開発するDIRIGIOは5月21日、同アプリのリリースに加えて、エウレカ創業者である西川順氏とKLab Venture Partnersより数千万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

冒頭でも紹介した通り、PICKSはスマホから飲食店のテイクアウトメニューを事前に注文・決済することで、スムーズに料理を受け取ることができるサービスだ。

ユーザーはアプリから周辺エリアでPICKSに対応している飲食店を探し、メニューの選定から注文、決済までを事前に済ませておく。あとは注文時に指定した時間にお店にいくだけ。決済は完了しているので長い行列に待つ必要も、その場でお金を払う必要もない。

店舗にとっても、スマホひとつでテイクアウトに対応できることが魅力。何か複雑なシステムや大型の端末は不要だ。テイクアウトが人気でいつも行列ができてしまう店舗では、顧客の待ち時間を減らすことで満足度向上や離脱客を抑える効果も見込めるだろう。

店舗用のアプリではオーダー確認や売上管理のほか、休業日や売り切れの設定にも対応する。初期導入日や固定の月額利用料などはかからず、アプリを経由して注文があった際にのみ手数料が発生する仕組みだ。

アプリを通じたテイクアウトの事前注文・決済は、海外ではモバイルオーダー&ペイという名称で急速に拡大している領域。スターバックスやマクドナルド、宅配ピザチェーンなどを始めとした様々な外食チェーンが導入する。

飲食店でのアルバイトをきっかけに考案

PICKSを提供するDIRIGIOは2016年7月の設立。最初は別のグルメサービスをやっていたそうだが、2017年からPICKSの前身となる「Doggy Bag」をリリースした。モバイルオーダー&ペイ関連のサービスを立ち上げたきっかけは、DIRIGIO代表取締役CEOの本多祐樹氏が飲食店でアルバイトをしていた際に、店長がテイクアウトのオーダーを受けたことだという。

「電話でオーダーを受けため、メニューの説明などから始めて10分ほど時間がかかっていた。2日連続で1万円ほどの注文があり(テイクアウトが売上アップに繋がる)チャンスを感じた一方で、電話ではなくもっと効率的にできないかと考えたのがきっかけだ」(本多氏)

サービスの対象となる飲食店は大きく2つ、「すでにテイクアウトをやっていて、オペレーションをさらに効率化したい店舗」と「これから新たにテイクアウトを始めようとする店舗」に分かれるそう。PICKSではDoggy Bagより移行する形で約30店舗からスタートするが、その多くは以前からテイクアウトをやっている飲食店。中にはピークタイムに約20分ほど待ち時間が発生する店舗もあり、業務効率化だけでなく離脱客を減らす目的もあるようだ。

一方のユーザー側においても、Doggy Bag時代には約10%が月に4回以上のペースでサービスを活用。同アプリを通じて8ヶ月間で約50回テイクアウトの注文をしたユーザーもいるなど、「全体的に利用頻度が高かったことから可能性を感じた」と本多氏は話す。

約1年間サービスを提供する中で得た知見を基に、大きな改善を経てPICKSとして再度リリース。大手のチェーン店はもちろん、個人経営の飲食店でも手軽にモバイルオーダー&ペイに対応できるアプリを目指すという。

「(前身のアプリでは)店舗はiPadから操作をするようにしていたが、導入コストや使い勝手が課題となっていたため、PICKSでは使い慣れたスマホで全て操作できるように変えている。そのほか注文フローやメニューの写真の大きさなど、細かいデザインも含め以前より使いやすい仕様になった」(本多氏)

今回調達した資金で組織体制を強化し、プロダクト開発と店舗開拓を進める方針。まずは渋谷や六本木など都内の中心エリアで飲食店数の拡大を目指していく。

また中長期的には当日限定の割引など飲食向けのマーケティングツールのような機能のほか、「たとえば小売の事前注文・決済など、飲食以外のモバイルオーダー&ペイも検討していきたい」(本多氏)という。

独自コインを通じて資金とファンを獲得、「SPOTSALE」や「BASE」が新たな取り組み

近年クラウドファンディングを筆頭に、個人や企業が共感してくれたファンから資金を集められる仕組みが増えてきている。

5月17日にお店の“会員権”取引所「SPOTSALE(スポットセール)」が発表した「SPOT COIN」や、同月14日にネットショップ作成サービス「BASE」が公開した「ショップコイン」もまさにその手段のひとつ。

これらのサービスは店舗が“独自のコイン”を発行することで、初期の資金調達やファン獲得を実現できるものだ。

ユーザー間での売買も可能な「SPOT COIN」

イジゲンが2018年3月にリリースしたSPOTSALEは、飲食店や美容室などの店舗と顧客をつなぐ会員権の取引所だ。店舗は優待つき会員権を発行しユーザーに購入してもらうことで、資金と顧客を同時に獲得できる。またユーザーが購入した会員権を売買できる点がクラウドファンディングとの大きな違いだ。

今回イジゲンが発表したSPOT COIN(リリース日は6月15日)は、SPOTSALEに上場する企業や店舗が独自のコインを公募し、発行できるポイント機能のようなもの。コインはユーザー間で売買できるほか、実店舗やECサイトでの決済(SPOT Pay)、店舗がSPOTSALEで発行する会員券の購入にも使える。

ユーザーがサービスや会員権をディスカウント価格で購入できる仕組みを作ることで、店舗が資金集め・ファン集めをしやすい環境を構築。より良いサービスを早期から提供できるような経済システムの創造を目指しているという。

資金決済に関する法律(資金決済法)における「前払式支払手段」に該当するかが気になるところだが、SPOT COINでは有効期限を半年間としているため資金決済法の適用対象にはならないという(発行の日から6月内に限って使用できるものは適用対象外。前払式支払手段については日本資金決済業協会のサイトに詳しい記載がある)。

イジゲン代表取締役CEOの鶴岡英明氏によると「最初は第三者型で登録することを検討していたが、SPOTSALEの場合では(コイン価格が変動して大幅に上昇する可能性もあり)供託金が調達した金額を超えてしまうリスクがある」ため、リスクを避けるべく6ヶ月の期限を設けたそうだ。

そのためSPOT COINを購入したユーザーは半年以内に「SPOT Payで使う」「売却する」「会員権を購入する」のどれかを選択する必要がある。

今後イジゲンではSPOT COINの第1弾として、6月15日より自社の独自コイン「イジゲンコイン」の公募販売を開始する計画。同コインはイジゲンが提供するサービスの支払い手段として利用できるようにする予定だ。

BASE出店店舗が使える新たな資金調達手段「ショップコイン」

また先日ネットショップ作成サービスのBASEからも、ショップコインという新たなサービスがリリースされた。これはBASEに出店する店舗が独自のコインを販売することで資金を調達できる機能だ。

コインは作成元の店舗でのみ、1コイン1円として利用が可能。販売価格は100コインあたり50〜100円の範囲で選べるため、コインの価格を100円より安く設定すればユーザーが利用時に割引を受けられるようになる。店舗はコインの作成にあたって資金を集める目的を「公約」として明記する必要があり、この内容などをもとに運営側で審査を実施。通過した場合のみコインを販売できる仕組みだ。

ショップコインのサイトに「このサービスの本質的な目的は『ファンとの関係を継続すること』にあると私達は考えています」とあるように、資金調達の手段としてだけでなく、熱心なファンを獲得するきっかけにもなりそうだ。

まだ知名度が低い店舗でも割引価格でコインを発行すれば注目するユーザーがでてくる可能性もあるし、早くから応援してくれたファンにはサービスを他の顧客よりも安く提供することで期待に応えることができるだろう。

なお先に紹介したSPOT COINと似ている部分もあるが、ショップコインの場合は購入したコインをユーザー間で売買する二時流通の仕組みはない。資金決済法上の「自家型前払式支払手段」にあたるものの、各店舗が販売できる上限金額は1000万円以下となっているため「自家型発行者」には該当せず、資金決済法やこれに関係する金融庁のガイドライン等に基づく規制の対象にもならないという。

今回紹介した2つのサービスとは方向性の異なる部分もあるが、3人以上のコミュニティが「コミュニティコイン」を発行することで支援者を集めることのできる「fever」や、個人や店舗が特典を設定した無料の“ポイント”を配布できる「MINT」といったサービスもでてきている。

これらのサービスによって、店舗とファンの関係性の築き方もより広がっていきそうだ。

集団訴訟をプロジェクト化して支援する「enjin」公開、運営会社は6000万円を資金調達

士業の中ではIT活用がなかなか進まないイメージのある弁護士、法務の世界でも、このところ新しいサービスが増えてきた。契約書の作成・締結が行えるクラウドサービス「Holmes」や、AIを使った契約書レビューサービスの「LegalForce」、「AI-CON」などがそれだ。

5月21日にベータ版がリリースされた「enjin(円陣)」もそうしたリーガルテックサービスのひとつ。集団訴訟を起こしたい被害者を集めて弁護士とつなぐ、集団訴訟プラットフォームだ。プロジェクトに賛同する人を集めるという点ではクラウドファンディングのようでもあるし、事件に適した弁護士とつなぐという点ではマッチングプラットフォームのような仕組みでもある。

enjinを運営するのは、2017年11月に弁護士でもある伊澤文平氏が創業したクラスアクションだ。クラスアクションではサービスリリースと同時に、500 Startups Japanと個人投資家を引受先とする総額6000万円の資金調達をJ-KISS方式で実施したことを発表している。出資比率は500 Startups Japanが5000万円、個人投資家が1000万円で、今回の調達はシードラウンドにあたる。

代表取締役CEOの伊澤氏が弁護士となったのは20代前半のこと。弁護士として、いろいろな詐欺事件の相談を受けてきたという伊澤氏は「詐欺事件の多くに共通するのは、1件あたりの被害額はそう大きくないことだ」と話す。

「たとえば社会人サークルなどでネットワークビジネスに勧誘されて、払ったお金が何も返ってこない、というケースはよくあるが、1人あたりの被害額は10万円とか20万円。一方訴訟を起こすとなると、弁護士のほうもボランティアではないので弁護士費用がかかるが、その費用は1件あたり30万円を超える。そうなると、弁護士は被害者を救いたくても事件を受けることができない」(伊澤氏)

消費者庁による2016年の調査(PDF)では、消費者被害で年間約4.8兆円の被害が出ているが、30万円ぐらいまでの少額被害者の多くは泣き寝入りをしているのが現状だ。

伊澤氏は「少額被害者は多いが、それを助けられないのが歯がゆかった」という。そうした中で、法改正をきっかけに集団訴訟の手続きについて調べる機会があり、「集団訴訟にすることで被害者を救えるのではないか」と考えた。

水俣病訴訟に関わった弁護士とも話してみて、集団訴訟では被害者1人あたりの訴訟負担額を激減できることがわかった、という伊澤氏。「30万円の弁護士費用でも、30人集めれば1人あたり1万円にすることができる。被害者にとっても弁護士にとっても、双方にメリットがあるサービスが作れると思った」とenjin開発のいきさつについて語る。

enjinではまず、被害者が集団訴訟プロジェクトを立ち上げて、同様の被害に遭った人にプロジェクトへの参加を募る。一定数の被害者が集まったところで、enjinに登録した弁護士にプロジェクトが紹介され、弁護団を形成することができる。その後は弁護士主導で裁判外、裁判内での解決を目指していく。

6月には直接の被害者だけでなく、被害者以外からの支援が受けられる寄付機能も追加予定。集団訴訟プロジェクトに賛同する人をスポンサーとして、活動することができるようになるという。

また集団訴訟では、被害者が多数いることから事務手続きやコミュニケーションが煩雑になる。そうした事務やコミュニケーションを円滑にするようなシステムの提供も9月に検討しているそうだ。

現在、enjinでは無料でサービスを公開しているが、今後、登録した弁護士からシステム利用料や広告料の形で費用を受ける予定だという(弁護士法上、事件ごとの紹介料という形は取れないため)。

クラスアクションでは今回の資金調達により、集団訴訟に関する情報提供のためのコンテンツ制作や、サービス開発・運営体制の強化を図っていく。具体的にはエンジニアや編集者などの採用を強化していくという。

クラスアクションはenjinの利用が広まることで、これまで泣き寝入りしていた被害者を救い、表に出なかった事件を顕在化すること、さらに事件の顕在化により加害者への抑止力となることを目指している。

伊澤氏は「埋もれた被害にスポットライトを当てると同時に、弁護士に対する(世の中の)見方を魅力的にしていきたい」とも話している。「司法制度改革で弁護士は増加しているが、事件がそれに比例して増えているわけではなく、限られた事件のパイを取り合うのが今の状況。弁護士は儲からない、といったネガティブな見方をなくすためにも、弁護士の仕事を増やしたい」(伊澤氏)

そういう意味では、ニュースが取り上げる以前に、enjinを起点として問題を発信していきたい、という伊澤氏。詐欺事件のほかにも、労働問題、製造物責任、個人情報漏えい、環境問題、夫婦別姓、株主賠償や著作権侵害など広く社会問題を扱い、「何かあったらenjinに来る、というサービスになっていければ」と語った。

写真:前列左から2番目がクラスアクション代表取締役CEO 伊澤文平氏。後列左端は500 Startups Japan代表 James Riney氏。

ネイティブ広告プラットフォームのログリーがマザーズ上場へ

ネイティブ広告プラットフォーム「logly lift」などを運営するログリーは5月17日、東京証券取引所マザーズ市場に新規上場を申請し承認された。上場予定日は6月20日で証券コードは6579だ。

有価証券報告書によると同社の2016年3月期(第10期)の売上高は4億625万円、経常損失が5800万円、当期純損失が5830万円。2017年3月期(第11期)における売上高は9億1180万円、経常利益が4992万円、当期純利益が6352万円だ。なお第12期については第3四半期までの累計(2017年4月1日〜12月31日)で売上高が11億4093万円となっている。

ログリーは2006年5月の設立。現在は2012年にリリースしたlogly liftを主軸に、ネイティブ広告プラットフォーム事業を展開している。自然言語処理と機械学習を組み合わせた独自の文脈解析技術を強みに、レコメンドエンジンや広告配信を最適化。分析ツール「Loyalfarm」の開発や東南アジアにおけるlogly liftのOEM提供などにも取り組み、事業を拡大してきた。

株式の保有比率については、代表取締役の吉永浩和氏が30.79%を保有する筆頭株主。ついで取締役の岸本雅久氏が17.98%、VOYAGEGROUPが15.24%、アイティメディアが5.36%、VOYAGE VENTURESが5.24%、シーエー・モバイルが5.18%と続く。

イラストやマンガ制作のフーモアがJ:COMと資本業務提携、共同でコンテンツの原作開発へ

クラウドソーシングによるイラストやマンガなどのコンテンツ制作事業を展開するフーモア。同社は5月17日、ジュピターテレコム(以下J:COM)と資本業務提携を実施したことを明らかにした。

フーモアでは今後J:COMの100%子会社であるアスミック・エースと、映像化、ゲーム化、商品化などのメディア展開を前提としたコンテンツの原作開発を共同で進める。なお今回の資本業務提携による具体的な調達額は非公開だが、関係者の話では数千万円規模になるという。

フーモアは2011年11月の設立。クラウドソーシングの仕組みを活用したゲーム向けのイラストや企業のプロモーション用のマンガ制作などを行ってきた。国内外の登録クリエイター数は6000名を突破し、累計で4000〜5000本のコンテンツを制作。フーモア取締役COOの松田崇義氏によると、最近では大手企業などが社内コミュニケーションに活用する目的で、同社にマンガ制作を依頼するケースも増えているそうだ。

今回の資本業務提携では映像コンテンツの製作・販売・配信ノウハウを持つアスミック・エースと共同で、オリジナルコンテンツの制作に取り組む方針。アニメや映画などの映像化、ゲーム化、商品化などのメディア展開を前提に、電子コミックやライトノベル、ノベルアプリなどを作っていくという。

またJ:COMが手がける事業とも連携を深め、フーモアで制作したコンテンツとJ:COMのメディアを活用したプロモーションメニューの開発にも力を入れる。

「(エンタメ業界において)コンテンツの原作が不足しているという課題がある。フーモアのクリエイターネットワークと、アスミック・エースの持つ知見やノウハウを合わせることで、原作不足を解決していきたい」(松田氏)

LINE@の1:1トークを自動化、カスタマーサポートを加速させる「CScloud」が公開

近年、日々のやりとりにメールではなくLINEやSNSを活用する人が増えてきた。それに伴って、企業とユーザーのコミュニケーション手段にも変化が生まれてきている。

たとえばTwitterやFacebookで公式アカウントを開設してファンと積極的に交流をしたり、Web接客ツールを用いてプロダクトサイトを訪れたユーザーと対話をしたり。問い合わせ窓口やカスタマーサポートにおいては、LINE@を活用する企業も増えてきた。

ユーザーからするとLINEやSNSはなじみがある上、メールや電話よりも気軽に使いやすい。ただその一方で企業側としては従来に比べてはるかに多い問い合わせがきてしまい、対応が追いつかなくなるケースもあるようだ。

LINE@の使いやすさを維持しつつも、問い合わせ対応をより効率化することはできないか。本日スタークスが正式版を公開した「CScloud(シーエスクラウド)」は、そのような課題意識のもとに作られたLINE@の1:1トークを自動化・効率化するサービスだ。

自動シナリオとチームによる効果的な有人応対の組み合わせ

CScloudではLINEのMessaging APIを利用し、LINE@における個別のカスタマーサポート(CS)を自動シナリオと人による応対を組み合わせて効率化する。

主な特徴は「1対1のトークをチームで共有・管理できること」「自動シナリオでよくある質問への回答を自動化できること」「顧客情報や問い合わせ内容に応じてセグメント配信できること」の3点。問い合わせ窓口やCS部門が導入することで、問い合わせからの成約率向上や応対コストの削減が見込める。

スタークス取締役の大塚真吾氏は「今はすべての対応を人がやっている状況だが、そのうち7割くらいは人じゃなくても回答できると考えている。自動化できれば(担当者の)手間が削減されるだけでなく、即時対応できるようになるのでユーザーにもメリットがある」という。

たとえばECサイトにおいて顧客が注文した商品のキャンセルをしたい場合、どのような問い合わせか、どの商品のキャンセルかといった具合に一連のシナリオを設計。顧客が問い合わせをしてきた際に担当者が不在でも、シナリオに沿って進めればよくある質問への回答が自動で完結するという仕組みだ。もちろん全ての質問がシナリオで完結するわけではないので、途中から有人応対に切り替えることもできる。

重要度高まるCSをシステム面でサポート

これまでLINE@においては、各問い合わせをチームで共有し、担当者を設定したりステータスを見える化したりすることが難しかった。そのためCScloudでは当初LINE@のコミュニケーションをチームで対応できることを目的として、2017年12月にベータ版を開発。トライアルで美容品ECやブランド買い取りサービスなど数百社に利用してもらう中で、自動化の必要性を感じたのだという。

オペレーター画面のイメージ

「サブスクリプション型のビジネスが増えてきていることもあり、CSの重要度も高まってきている。LINE@はユーザーからすれば(メールなどよりも)圧倒的にコンタクトをしやすいが、人手不足などで対応が間に合わず導入できない企業や、大変でやめてしまった企業もある。そのような企業でもLINE@を活用したCSを実現できるように、システム面からサポートしていきたい」(大塚氏)

今後は顧客管理システム(CRM)との連携やチャットボットとの連携などを予定。LINE@での顧客応対を自動化してくための機能を順次リリースしていく。またスタークスではCScloudのリリースに合わせて、CS業界に特化したWebメディア「CSJournal」も公開。業界人へのインタビューなどを通じてナレッジの共有も進めていく方針だ。