グーグルがFitbitの不整脈監視技術をFDAに認可申請、Apple Watchより高精度との研究結果

グーグルがFitbitの不整脈監視技術をFDAに認可申請、アメリカ心臓協会がApple Watchより高精度との研究結果

FitBit Charge 5 Engadget

Googleが、ユーザーの心拍を監視する技術のデータを米食品医薬品局(FDA)に提出、審査申請したことを明らかにしました。Googleによれば、この心拍モニタリング技術のアルゴリズムはユーザーの心房細動を98%の確率で発見できるとのこと。

この技術は、赤外線を照射して動脈や毛細血管の血流量変化を監視、心拍情報を得る光電式容積脈波記録法(PPG)を用い、受動的にユーザーの手首の血流を追跡することで不整脈などを検知します。

FItbitはGoogleに買収される前の2020年からこの技術に関する研究を開始しており、これまでに50万人近いユーザーが参加してデータを提供してきました。その結果、参加者の約1%となる5000人弱に不整脈が見つかったとのこと。そして、この技術の正確性を判断するため、不整脈が見つかった人々にパッチ型の心電図レコーダーを使用した遠隔診断を提案、約1000人がそれに応じて調査を実施したところ、その1/3の人たちの診断が確定。心房細動に関するこの技術の予測正確性が98%と算定されました。この研究調査結果は2021年にアメリカ心臓協会に発表されています。

ちなみに、Apple Watchの心房細動検出機能は、同様の規模で行われた研究によると84%だったとのことで、Fitbit社のリサーチサイエンティストTony Faranesh氏は「この結果は非常に有望であり、不整脈の早期発見と治療に実際に役立つものと考える」とコメントしています。

不整脈の一種である心房細動は、血流の停滞を引き起こすことで心房内に血栓を発生し、それが剥がれて末端の血管を詰まらせたり、はては心原性脳塞栓症と呼ばれる脳梗塞を引き起こす可能性があります。日常的に身につけるデバイスでより正確に不整脈の監視が可能になるということは、このような命に関わる症状を実際に予防するまではできなくとも、心構えや何らかの備えになることが期待されます。

なお、この研究で用いられたパッシブ心拍モニタリング技術はFDAに承認申請が出された段階であるため、Faranesh氏はこの機能がいつ頃Fitbitのデバイスで利用可能になるのかについては述べていません。しかし、同種の機能を用いたApple Watchでは、心電図アプリがユーザーの異常を早期に検知した結果重大な事態に至らずに済んだという話がよく伝えられており、より高精度に異常検出が可能なFitbitデバイスの発売が期待されるところです。

(Source:GoogleEngadget日本版より転載)

うつ病の自宅臨床試験の実施に乗り出すCerebralとAlto Neuroscience

パンデミックによって、リモートワーク、学校、研究を注目せざるを得ない状況になっている。実はそうなる前から、分散化臨床試験はおそらくその姿を現し始めていたのだが、今、それが本格的に登場してきた。

2021年12月、高精度の精神医学スタートアップAlto Neuroscience(アルトニューロサイエンス)とオンラインメンタルヘルスプロバイダーCerebral(セラブラル)が、アルトのうつ病薬候補ALTO-300の分散化フェーズ2臨床試験で協力すると発表した。この臨床試験の大半は患者の自宅で実施される。

具体的にいうと、このプロジェクトでは、セラブラルのプラットフォームから、現在うつ病で苦しんでいるが、既存の治療法では症状が改善されない約200人の患者を募集する。アルトは新薬を提供するだけでなく、患者の生体指標を使って患者に効果がある(または効果がない)薬品を予測するという同社独自の新薬開発アプローチを評価しようとしている。

「臨床試験に数十億ドル(数千億円)を使う羽目になる前に、患者グループに対して徹底した表現型検査を実施して、患者のどのサブグループが本当に新薬の恩恵を受けることができるのかを特定するという方法は、業界では至極道理に適っているものの、これまで誰も行おうとしなかったのです」とセラブラルの医務部長David Mou(デビッド・マオ)氏はTechCrunchに語った。

「ある意味、当社とアルトは相性抜群でした。当社はアルトが必要としているものを持っていましたし、アルトのビジョンは最も成功する可能性が高いものだと確信しています」。

分散化臨床試験の興味深い点

「分散化臨床試験」の定義はいろいろあり、それぞれ微妙に異なるものの、基本的には、バーチャルに、またはモバイル臨床医によって、何らかの形で患者に医療行為が施されるという意味だ。また、データも通常患者のいる場所で収集される。わざわざ、研究センターまで患者が足を運ぶ必要はない。

臨床試験を患者の自宅で実施することによって、患者から見た煩わしさが軽減されるため、現在の臨床試験が抱える大きな問題を解消できる可能性がある。例えば臨床試験を受ける患者の約7割が研究センターから2時間以上離れた場所に住んでいる。登録者数不足のため臨床試験が打ち切られることもよくある。およそ8割の臨床試験で、試験実施までに十分な数の患者を登録できていない。また、専門家によると、臨床試験を患者の自宅で実施することで、新薬研究の多様性とアクセス可能性が向上する可能性があるという。

今回の臨床試験は最初の分散化臨床試験というには程遠いものだが、業界の転換期に登場した手法であることは間違いない。

McKinsey(マッキンゼー)の調査によると、パンデミック前は、分散化臨床試験が主力サービスになると考えていたのは、製薬会社と開発業務受託機関(CRO:製薬会社と契約して開発をする組織)の38%ほどに過ぎなかったという。

マッキンゼーが同じ調査を2020年に実施したところ、回答した企業や機関すべてが、分散化臨床試験は今後大きな役割を果たすようになると考えていると回答した。

今回の臨床試験で判明すること

今回の臨床試験で、自宅で収集されたデータの強み、そうしたデータに対するFDAの考え方、そして現実世界で現場ベースの臨床試験が長年に渡って抱えてきた問題が分散化臨床試験によって解決されるのかどうかといった点について多くのことが明らかになる可能性がある。

詳細なデータを収集することは、アルトの医薬品開発戦略にとってとりわけ重要である。それは、同社が、EEG測定値から感情や気分に関するアンケートまで、さまざまなメンタルヘルス診断を使用した独自の生体指標(体の状態や病態を示す指標)駆動型の患者ポートレートを基盤としているからだ。

「当社はさまざまな精神疾患用の新薬を開発していますが、その際、脳のテストや脳の生体指標に基づいてその新薬の対象となる患者を特定することに重点を置いています」とアルトの創業者兼CEOのAmit Etkin(アミット・エトキン)氏はTechCrunchに語った。

「つまり、今回の臨床試験における当社の主眼点は、当社の収集した整体指標データによって、当社の新薬が効果を発揮する患者を、最も一般化可能な形で特定できることを確認することです」。

セラブラルが近く実施されるアルトの臨床試験において魅力的なパートナーとなる理由はいくつかある。まず、セラブラルは今回の臨床試験の具体的な内容に適合する患者グループを迅速に見つけることができたという点だ。「当社は今回の臨床試験の対象となる200人の患者を1時間以内に見つけ出しました」とマオ氏はいう。

しかし、最も重要なのは、セラブラルが患者や臨床医に関する膨大なデータをすでに収集蓄積しているという点だった。つまり、セラブラルはアルトが必要とする高品質のデータを収集する能力を備えているということだ。このデータには、重篤なうつ病(ウェルネス分野に属するアプリでは対象外となることが多い病状)を患っている患者に関するデータも含まれる。

例えばセラブラルの登録患者はすでに症状や心的状態についてのアンケートに定期的に回答している。またCerebralは臨床医の処方パターンに関するデータも持っており、どの薬が効果がある(または効果がない)のかを知ることができる。

「当社は高品質の医療を非常に重視してきたので、バックエンドにデータインフラを構築せざるを得ませんでした。結果として、患者と臨床医について、現存する他のどのメンタルヘルスプロバイダーよりも詳細に把握できるようになりました」とマオ氏はいう。

厄介なのは、分散化リモート方式で収集されたデータをFDAがどのように見るかという点だ。このプロセスは現在開発中だ。たとえば2021年4月に、FDAは、がんの分散化臨床試験において、対面で収集したデータとリモートで収集したデータを識別できるようにデータセットにラベル付けを行うことを義務付けた。

今回の臨床試験では2つの手法を比較対照できるという利点もある。実際、アルトは、ALTO-300について2の類似した臨床試験を併行して進めている。1つはCerebralと協力して行うものもう1つは従来のサイトベースで行うものだ。

ここでの狙いは、ALTO-300の有効性を検証することだけではない。分散化高精度精神科臨床試験というアイデアそのものをテストするという目的もある。

「当社が行おうとしているのは、FDAに代わって当社のアプローチの正当性を立証し、分散化アプローチで得られる結果が、従来のサイトベースのアプローチで得られる結果と比べて何の遜色もないことを示すことです」。

最後に、今回の臨床試験によって従来の臨床試験が抱えていたさまざまな障害(登録者数不足など)を克服できるという証拠もいくつかあがっている。とはいえ、この方法も完璧ではない。例えばセラブラルの臨床試験に登録されている患者は、ニューヨーク、ダラス、アトランタなどに在住しており、必ずしも主要な医療センターから何時間も離れているというわけではない。

「この方法で登録者数不足が解消されるかといえば、完全に解消されることはないでしょう」とマオ氏はいう。「しかし、今回の登録者たちは極めて精度の高いグループです。従来のように実際の病院経由で登録患者を集めるよりも、本当にうつ病を患っている可能性がずっと高いと思われます」。

試験から商品化へ

両創業者とも、分散化臨床試験は医薬品の商品化の下準備になることを指摘している。例えばセラブラルは承認後に処方すれば患者に効くと思われる薬を承認前に簡単に処方できるとマオ氏は指摘する。

アルトから見ると、セラブラルはメンタルヘルスの生体指標を臨床診断に持ち込むためのパイプ役になる。これはメンタルヘルスの症状を診断する際の長年の懸案だった(これまでメンタルヘルスの診断は、医療試験ではなく、行動に現れる症状を観察することによって行われていたが、一部の研究者やアルトなどの民間企業が生体指標の確認による診断へと変えるべく取り組みを進めてきた)。

「当社の投薬用生体指標データが承認されれば、セラブラルなどのパートナー企業は同データを臨床試験に持ち込むのに理想的な存在となります。彼らの臨床ケアは構造化が進んでおり、徹底して追跡されているからです」。

アルトとセラブラルの両社は、今回の臨床試験について、2022年末までに最初の結果を取得する考えだ。

画像クレジット:Evgeny Gromov / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

あなたの血はどれくらい甘い?Scanboは体を傷つずに血糖値を測定する

糖尿病の人やその疑いを持たれたことのある人なら、指に針を指し血を1滴とって棒に付ける作業を、指がしびれるまでやったことがあるだう。指先穿刺式血糖値検査は事実上の標準だが、AI企業の Scanbo(スカンボ)はこれを終わりにして、その1滴の血液を市販の診断ツールと強力なデータ分析で置き換えようとしている。

この会社が開発したプロトタイプは、3電極の心電計(ECG)とフォトプレチスモグラム (PPG)を組み合わせた装置だ。60秒間の測定結果を一連のアルゴリズムに送り込むことによって、非常に信頼できる測定値を得られる。装置は非侵襲的に血糖値のモニタリングを行うが、同社のファウンダーは、同時に血圧測定も行うことができると言っている。

私はTechCrunchのバーチャルCES特集取材の一環で、同社ファウンダーでCEOのAshissh Raichura(アシーシ・ライチュラ)氏からテクノロジーの詳細を聞いた。彼はデモンストレーションもしてくれて、まず自身の血液を市販の指先穿刺血糖値検査器で測定し、つぎに同社のプロトタイプを使った。測定値はそれぞれ6.2と6.3mmol/Lで、両者の差は数%以内だった。

「3本の電極はECGデータおよびPPGの追加測定に使用します。60秒間測定したら、原データを機械学習畳み込みニューラルネットワークとディープ・ニューラルネットワークで分析します。すべてのデータを合わせ、3種類の機械学習アルゴリズムを使った結果から血糖値を分析します」とライチュラ氏がデモの準備をしながら私に話した。「私たちの製品を商品化したいので、現在、FDA(米食品医薬品局)とカナダ保健省の認可を取得するつもりです」。

動作中のScanboプロトタイプ(画像クレジット:Scanbo)

血糖値の非侵襲測定が可能だと知って私は驚いた。いわゆる非侵襲的方法の多くは、体内埋め込みセンサーフィラメントセンサーワイヤーを使用して測定している。Scanboが使用している方法は、医学論文誌で研究結果が報告されている。この手法を使った製品をこれまでにFDAが認可したことはないようなので、製品を市場に出すためには時間のかかる医療承認プロセスに直面することは間違いない。

同社は、血圧測定も可能だという。通常は診療所や自宅でカフを巻いて測定するものだ。

「心電図データを取得した後、それをshort wave transmission lengthというものに変換します」と、ライチュラ氏は血圧データを取り出す方法を説明した。「それに基づいて、非侵襲的でカフ不要な方法で血圧を計算します。このアルゴリズムも特許出願中です」。

これらのテクノロジーを手にしている同社には、楽しみな選択肢がある。自身でハードウェア装置を製造するか、アルゴリズムとテクノロジーを、PPGやECG機能のあるデバイスをすでに販売している企業にライセンスするかだ。

「現在出願中の特許が2件あります。純粋なハードウェア、設計方法、電極の合金化方法、あらゆるパラメータを一度に取得できるセンサーなどに関するものです」とライチュラ氏は説明し、あらゆるデータを一度に測定しようとしていることをほのめかした。「従来の機器を見ると、1度に1つのものを測定していて全部まとめてではありません。私たちの場合、装置に指を4本置いてもらえれば、全データを取得して、アルゴリズムを使って患者の健康に関するさまざまな側面から結果を報告できます」。

Scanboはこのテクノロジーを、自宅で現在使われている医療に関する技術や技法のいくつかを置き換えるものになると期待している。

「私たちはAIとMedTechを組み合わせた会社です」とライチュラ氏は述べ、市場が注目し始めていることに言及した。「このプロダクトを手に、会社はまさにスタートを切ったところです。Medtronic(メドトロニック)、Samsung(サムスン)、LG(エルジー)などの企業がすでに当社との協業ができないか声をかけています。私たちは世界でさまざまな市場に進出するための戦略的提携をいくつか結ぶつもりてす。世界で4億人の2型糖尿病患者が「血糖値測定器」を必要としていますが、ほとんどの人たちは買うことができません。継続的な血糖値測定など考えられません。私たちのコスト削減効果は膨大です。価格は月額20ドルまで下げられます。生物学的廃棄物も使い捨て器具もありません、検査紙も何もいりません、純粋な機械学習アルゴリズムと充電式デバイスだけです」。

会社はまもなくこのプロトタイプと臨床試験結果を武器に、シードラウンドを実施して、認可を取得し最終的に商品を市場に出すためのスタートを切ろうとしている。

画像クレジット:Scanbo

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Nob Takahashi / facebook

心電図などさまざまなデータを測定するWithingsのスマート体重計

体重計は、しばらく前から体重以外のことも教えてくれるようになっている。Withings2009年以来、そうした体重計のリーディングカンパニーの1つだ。米国時間1月3日、同社は体のあらゆることを測定するブランドであることをこれからも目指して、Withings Body Scanを発表した。この299ドル(約3万5000円)のガラス面に乗れば、体重に加えて心電図やセグメント体組成が測定され、神経活動もモニターされる。

この体重計は家庭用心電計となるため、FDA(米食品医薬品局)の厳しい承認を得る必要がある。同社のScanWatchは手首で心電図を測定できる機能があるためFDAの承認に時間がかかり、ヨーロッパに比べて米国では発売がかなり遅れた。

関連記事:【レビュー】Withings ScanWatch、Apple Watchと正反対なスマート腕時計には乗り換えるべき価値がある

今回発表されたBody Scanには、Withingsの体重計でおなじみの機能に加えて新機能もいくつか追加されている。Body Scanには重量センサーが4つ搭載され、体重を50グラム以内の誤差で測定する(あるいは90キロの人なら誤差はわずか0.025%)。さらにITO(酸化インジウムスズ)電極14個が本体に、ステンレス電極4個が格納式ハンドルに内蔵されている。これらのセンサーを組み合わせて、6誘導心電図とセグメント体組成のデータを取得する。

Body Scanは心拍数、血管年齢、そして前述の心電図など、健康状態に関連するデータを日々分析する。多くの電極を備えているため、多周波BIA(生体電気インピーダンス測定)であらゆる体組成を知る面白さもある。従来からある標準的な体脂肪率以外に、体水分率、内臓脂肪、筋肉量と骨量も測定できる。さらに胴体、腕、足など部位別の結果もわかる。

Withingsは、マットレスの下にセットする睡眠トラッカー、スマート血圧計、体温計などを販売し、スマート健康フィットネスセンサーのラインナップも増やしている。こうした流れから考えると、Body Scanは明らかにブランド拡張だ。

Withingsはハードウェア製品に加えてアプリ内のヘルスコーチングも提供している。ユーザーは自分の健康上のゴールを達成するためにコーチング、臨床の専門家、自分に合った栄養指導、エクササイズのプランを利用できる。アプリから履歴も含めて健康に関するデータを書き出すこともでき、栄養士やトレーナー、医療従事者とともに積極的に自分の健康に関与したい人には特に有用だ。

画像クレジット:Withings

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Kaori Koyama)

メルクのコロナ飲み薬「モルヌピラビル」米FDAが緊急使用許可、抗ウイルス剤として2番目

Pfizer(ファイザー)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)抗ウイルス剤は、米国ではすでにいくつかの競争相手がいる。AP通信の報道によれば、米食品医薬品局(FDA)はMerck(メルク)の経口治療薬「Molnupiravir(モルヌピラビル)」について、緊急使用許可を出したという。この治療薬は、理想的には発症からすぐに投与し、ウイルスの遺伝コードに「エラー」を挿入することで、SARS-CoV-2ウイルスの複製を抑制し、リスクの高い患者の軽度または中等度の症例が重症化するのを防ぐというもの。

しかし、この薬は、PfizerのPaxlovid(パクスロビド)のようには広く使用されないかもしれない。若い患者の骨や軟骨の発達に影響を与える可能性があるため、Merckの薬は18歳以上の大人にしか使用できないが、Pfizerの製品は12歳以上の患者に使用できる。また、薬が胎児に影響するリスクがあるため、妊婦や妊活中の服用は推奨されていない。FDAは、治療中も治療後も避妊具を使用し、(妊娠を試みる前に)女性は数日、男性は3カ月待つべきだとしている。

さらに、MolnupiravirにPaxlovidほどの効果は期待できないようだ。Pfizerのソリューションが入院や死亡を90%減少させたのに対し、Merckの飲み薬は30%しか減少させることができなかった。この薬は、特にPaxlovidが使用できない場合の第二の選択肢となるかもしれない。両社の製品は変異したスパイクタンパク質をターゲットにしたものではないため、同ウイルスのオミクロン変異株にも引き続き有効だと考えられる。

それでも、新型コロナウイルスによる入院や死亡を最小限に抑えるためには、これも有効な手段の1つとなるかもしれない。米国が1000万人の患者に対応できるだけの量を発注した場合、Pfizerの薬が最も入手しやすくなるが、Merckの薬は310万人に対応できるだけの量があるという。たとえ効果が限定的であっても、それによって何十万人もの人々の命がこの病気の最悪の事態から救われるかもしれない。

編集部注:本稿の初出はEngadget。執筆者Jon FingasはEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Merck

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(文:Jon Fingas、翻訳:Aya Nakazato)

米FDAがファイザーの新型コロナ経口薬を12歳以上に認可

米食品医薬品局(FDA)は、Pfizer(ファイザー)の抗ウイルス剤Paxlovid(パクスロビド)を緊急認可し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の軽度から中等度の症例を治療する最初の経口療法となった。この治療法は、重症化のおそれのある12歳以上のリスクの高い患者だ。FDAは数日以内に使用を認めているため、オミクロン株の襲来に対して有効かもしれない

Paxlovidは処方箋のみで入手可能で、新型コロナの症状に気づいてから5日以内に服用することになっている。Pfizerのテストによると、高リスクの患者でも入院や死亡を88%防ぐことができる。この治療薬は、ワクチン接種者と非接種者の両方に処方することが可能で、30錠を5日間かけて服用する。タンパク質阻害剤であるニルマトレルビルと、その阻害剤が体内で分解されないようにするリトナビルが含まれており、副作用として味覚障害、高血圧、下痢、筋肉痛などがある。

FDAの医薬評価調査センターのディレクターであるPatrizia Cavazzoni(パトリツィア・カヴァッツォーニ)博士は「この認可により、新たな変異種が登場したパンデミックの緊急事態において、新型コロナウイルスと戦う新しいツールを提供し、重症化のリスクの高い患者に抗ウイルス治療へのアクセス性を高めることができた」と述べている。

ニューヨーク・タイムズによると、これまで米国は1000万人分の薬を注文している。同社は、1週間以内に6万5000人の米国人をカバーするのに十分な錠剤を納入する予定だ。その後、2021年1月に15万個、2月に15万個と生産が拡大される予定となっている。この薬は唯一の抗ウイルス剤というわけではない。Merck(メルク)の対抗となる治療薬も間もなく承認される見込みで、Pfizerよりも容易に入手できるようになる可能性が高い。ただし同社の治療薬ははるかに効果が低く、入院や死亡を30%しか防ぐことができない(それでも、何も治療しないよりはましだ)。

編集部注:本記事の初出はEngadget。執筆者のDevindra HardawarはEngadgetのシニアエディター。

画像クレジット:Pfizer

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(文:Devindra Hardawar、翻訳:Hiroshi Iwatani)

RespiraのウェアラブルSylveeは肺の健康状態をモニター、COPDや肺機能低下を検知

この数年、身体のあらゆる側面を測定するウェアラブル製品が登場しているが、肺活量の測定はそれら他の側面よりも難解だ。Respira Labs(レスピラ・ラボ)が開発した「Sylvee」は、肺機能を継続的に測定するまったく新しいウェアラブルデバイスだ。COPD(慢性閉塞性肺疾患)や喘息患者をはじめ、一時的に肺機能が低下している人に最適だ。特に、肺機能に影響を与えるあのパンデミックが思い浮かびあがるだろう。

Sylveeは、胸郭の下部に装着する製品で、息を吹きかけなくても簡単に継続的に肺機能を評価できることを約束している。このパッチにはスピーカーとマイクが内蔵されており、音響的な共鳴の変化を測定する。同社によるとこれは、肺機能検査の基本である肺気量の変化をよく表しているとのことだ。

使われている技術は非常に巧妙だ。Sylveeは、スピーカーからノイズを発生させ、その発生した音をマイクで測定する。空洞があると音の質が変わるという理論で、ドラムセットのドラムヘッドを叩いた後に、綿や羊毛、液体を詰めて同じように叩いたときと同じだ。私は医者ではないが、肺の中には一般的に空気腔があるものと思われる。このウェアラブルは、収集したデータをもとに、肺の容積、容量、流量、そして空気の滞留を測定する。

「確立された科学では、低周波音を使って空気のとらえ込みを90%以上の精度で測定できることがわかっています。慢性閉塞性肺疾患患者と健常者では、音響共鳴スペクトルに明らかな違いがあります。慢性閉塞性肺疾患、新型コロナウイルス(COVID-19)、喘息の患者数は1億人を超え、高齢化も進んでいるため、肺機能を遠隔で正確にモニターし、問題を早期に発見して深刻な事態を回避することは、命を救うことにつながります。私たちの目標は、異常を早期に発見し、自宅での早期治療を可能にし、患者さんが自らの健康を管理できるようにすることです」。とRespira Labの創設者兼CEOであるMaria Artunduaga(マリア・アルトゥンドゥアガ)博士は説明してくれている。

Sylveeは、胸郭に装着して使用する。肺の健康状態を判断するために、音を出し、肺の共鳴をとらえる(画像クレジット:Respira Labs)

製品名のSylveeは、慢性閉塞性肺疾患を患い、発見できずに症状が悪化して亡くなったアルトゥンドゥアガ博士の祖母にちなんで名づけられている。

「このデバイスは、呼吸器系の患者が避けなければならない、急性の悪化の早期診断と管理を容易にしてくれます。私たちは、医師や患者に重要な情報を提供することで、より早い段階で治療法を切り替え、入院を防ぐことができます。これは私の祖母に起こったことです。彼女は慢性閉塞性肺疾患を患っていましたが、突然症状が悪化し、敢えなく亡くなってしまいました。私は、恐ろしくも、一般的なこの結果をきっかけに、医師としてのキャリアを捨て、このSylveeの開発に専念しました」とアルトゥンドゥアガ博士は述べている。

Respira Labsは、米国内外で500人以上の患者を対象とした大規模な試験を実施することで、空気のとらえ込み測定精度を90%にすることを目標としている。また、2022年後半には有名なジャーナルに論文を発表する予定だ。このデバイスは現在試作中で、今後18カ月以内にFDAの認可が下りる予定だ。

画像クレジット:Respira Labs

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Akihito Mizukoshi)

脊椎の成長を促すスマートインプラントを開発するIntelligent Implantsが約10億円を調達

気弱な人は、脊椎の手術など受けられたものではない。しかし、Intelligent Implants(インテリジェント・インプラント)が750万ユーロ(約9億9000万円)を調達し、脊椎手術の苦痛を軽減する。同社のスマートインプラントの最初の用途は、脊椎固定術だ。これは、2つ以上の椎骨を永久的に結合し、安定性向上、変形の矯正、痛みの軽減を図る。世界中で100万件以上の手術が行われているが、合併症のリスクや手術後の継続的な痛みのため、一般的には最後の手段とされる。

Intelligent Implantsは、ワイヤレスのインプラント用電子機器により、骨の成長を促進・誘導・監視する。現在の最先端の術後管理によったとしても、理学療法や鎮痛剤に長期間依存する可能性があると同社は指摘する。同社はこの市場に参入し、より技術的に優れたソリューションを提供する。

同社のスマートでアクティブなインプラントは、この領域で最初の機器ではない。ペースメーカーや人工内耳は、それぞれ1950年代と1970年代に発売されており、ご存知の方も多いだろう。同社の革新性は、ワイヤーやバッテリーを必要としないソリューションを生み出したことにある。この製品は、現在の非アクティブなインプラントと同じ標準的な手術方法で椎骨の間に設置する。

このインプラントは、携帯電話のワイヤレス充電パッドのように、誘導によって外部から電力を供給する。これにより電界が形成され、骨の成長が促進される。

Intelligent ImplantsのCEOであるJohn Zellmer(ジョン・ゼルマー)氏は「誰に対してもこの手術をすることは避けたいと思っていますが、しなければならないのであれば、結果はできるだけ良いものにしなければなりません」と話す。

刺激を与えるための電極は、センサーとしても使える。この機器は、標準的な整形外科用インプラントに、さらにいくつかの魔法を組み込んだものだ。この場合の魔法とは、骨の成長を助けるニューロモデュレーションのための多数の電極と、それを制御するためのアンテナや電子機器のことだ。脊椎固定術の後、患者はすべてを正しい場所に固定するためコルセットを装着するが、これが機器の電源と制御ユニットの格納に便利な場所となる。

Intelligent Implantsは、骨の成長を促すことの副次的効果として、センサー側の機能が使えるとゼルマー氏は説明する。このデバイスでは、インピーダンス測定ができるという。骨は導電性に乏しいため、移植材が体内で徐々に骨に置き換わると、電気信号が変化し、その過程で骨の成長を測定できる。

Intelligent Implantsの共同創業者であるErik Zellmer(エリック・ゼルマー)氏、John Zellmer(ジョン・ゼルマー)氏、Martin Larsson(マーティン・ラーソン)氏(画像クレジット:Intelligent Implants)

同社の製品「SmartFuse」は、FDA(米食品医薬品局)からBreakthrough Device(革新的機器)の指定を受けたばかりだ。この指定は「そのデバイスが、人間の生命を脅かす、または人間を不可逆的に衰弱させる病気や状態の、より効果的な治療または診断を提供する」とFDAが考えていることを意味する。同社は、このプログラムに参加するため、羊を使った大規模な動物実験を完了した。この実験で、骨の成長が3倍になり、固定までの時間が50%短縮されたという。

「前臨床試験のデータに基づいてBreakthrough Device Designation(BDD)を取得するのは非常に珍しいことです」とゼルマー氏は話す。BDDのほとんどがヒトでの試験に基づいているという。「このニュースを聞いて、私たちはオフィスで小躍りしました」。

同社は、これまでの臨床試験では羊を使用してきた。整形外科領域の臨床試験で使用される動物としては、羊またはヤギが一般的だ。同社は2023年に最初のヒト臨床試験を行うことを目指している。

「家族の1人の術後が悪く、私たちはこの難しい問題に取り組むことにしました。チームがこの領域に関する豊富な知識を持ち、長期的にコミットし、今日の外科医の実践(スタンダード・オブ・ケア)に私たちの技術を適合させることができなければ、私たちのソリューションが機能しないことはわかっていました」とゼルマー氏は語る。「当社は現在、半分以上の時間を、SmartFuseという製品を市場に投入するために費やしています。FDAの決定は当社のアプローチが健全であったことを裏付けるものです」。

同社は、SOSVHAX技術プログラムに参加した後、卒業し、10月22日にシードラウンド完了を発表した。EUのEIC AcceleratorとSOSVから合わせて450万ユーロ(約6億円)を、そしてスウェーデンのエンジェル投資家グループから300万ユーロ(約4億円)を調達した。

「SOSVのパートナーであるBill Liao(ビル・リャオ)氏とは2015年に出会い、それ以来ずっと支援を受けています。それからの時間は、ベンチャーキャピタルとしては長い期間です。彼らはオペレーション面での支援だけでなく、それ以降のすべてのラウンドでの支援など、本当にすばらしい仕事をしてくれています」とゼルマー氏は語る。「これはすばらしいことだと思います。私たちは本当に難しいことに取り組んでいます。これはクラス3の機器であり、刺激促進システムを備えたアクティブなインプラント機器です。私たちの試みはまったく新しいもので、それを整形外科分野に持ち込んだことは、先見性と勇気の証しだと思います」。

「移植可能な技術を開発することは非常に困難ですが、Intelligent Implantsは極めて着実に進歩しています。数百万人の患者さんを助け、数年後には90億ドル(約1兆円)に達すると言われている市場に貢献するため、彼らの旅を支え続けることを誇りに思います」とSOSVのゼネラルパートナーであるリャオ氏は述べた。

画像クレジット:Intelligent Implants

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Nariko Mizoguchi

米食品医薬品局が補聴器を医師の診断書なしでも購入可能にする提案発表、軽~中程度患者対象

米食品医薬品局が補聴器を医師の診断書なしでも購入可能にする提案発表、軽~中程度患者対象

AlexRaths via Getty Images

米食品医薬品局(FDA) が、米国内の軽~中程度の聴覚障害者が、医師の診断や業者によるフィッティング作業なしに手軽に穂著行きを購入できるようにするOTC(over the counter)化の提案を出しています。

この提案は「OTCおよび従来の診断を必要とよる補聴器の安全性と有効性を確保しつつ市場における教祖の促進を目的としている」とFDAは述べています。これによって補聴器の恩恵を受けられるにもかかわらず診断を受けることに抵抗を感じてそれを享受できない状況を改善し、手軽に補聴器を入手できるようになると考えられます。

米国政府は、2017年に人々がより安価に補聴器を入手できるようにするため「市販補聴器法(Over-the-Counter Hearing Aid Act)」を定めています。しかしこれまで、FDAによってClass I~IIの医療機器として分類される補聴器は、それを得るのに医師の診断を必要とするままでした。バイデン大統領は7月に大統領令に署名し、120日以内にOTC補聴器に関する新たな規則を発表するよう指示しました。

FDAの今回の提案は現在90日間のパブコメ募集期間となっています。最終的に採用となった場合は、連邦官報に掲載され、60日後に発効の運びとなります。

米国ではすでに複数の企業がOTC補聴器に参入の動きを見せており、Boseがそれに先駆けてFDA認定のSoundControlシリーズを発売、JabraもEnhance Plusと称するヒアリングエイド機能付きイヤホンを発表しています。日本ではシャープが完全ワイヤレスの軽度・中等度難聴者向け補聴器を発売。こちらも、音楽も聴ける便利な製品です。

またアップルは、先日AirPods Proのアップデートで周囲の騒音を低減して会話を聞き取りやすくする機能を搭載しており、将来的にAirPodsシリーズの守備範囲をヘルスケア用途に拡げることも検討中と言われています

(Source:FDAEngadget日本版より転載)

テレビを利用する弱視の治療法を開発するスタートアップLuminopia

子どもの頃に「弱視(lazy eye、amblyopia)」と診断された場合、選択肢は限られている。眼帯をつける、目薬をさす、矯正レンズをつけるなどだ。FDA (米食品医薬品局)の承認待ちではあるが、将来的にはテレビを見ることが加わるかもしれない。

それが、Scott Xiao(スコット・シャオ)氏とDean Travers(ディーン・トラバース)氏が率いる4人組のスタートアップであるLuminopia(ルミノピア)の構想の核だ。シャオ氏とトラバース氏は、6年前にハーバード大学の学部生としてLuminopiaを立ち上げた。彼らは、子どもの頃に弱視に悩まされていた同級生から、初めて弱視について聞いた。弱視は、小児期の視力低下の中で最も一般的なもので、子どもの100人に3人の割合で発症すると言われている。

弱視は人生の早い段階で起こることがある。何らかの原因で、片方の目の機能がもう片方の目に劣っている状態になる。片目の筋力が不足している場合や、片目がはるかに良く見える場合、白内障などで片目の視力が低下している場合などがある。時間が経つにつれ、脳は片方の視力に頼ることを覚え、もう片方の目が弱くなり、最終的には重度の視力低下につながる。

弱視の一般的な治療法は、弱い方の目を強化する点眼薬、矯正レンズ、眼帯などだ。Luminopiaのソリューションは異なる。子どもたちはVRヘッドセットでテレビを見る。その際、番組のパラメーターを少しだけ変える(同社はSesame Workshop、Nickelodeon、DreamWorks、NBCと契約し、100時間以上のコンテンツを提供している)。コントラストを強くしたり弱くしたり、弱い目が強い目に追いつくよう、画像の一部を削除したりする。

「我々は、画像のパラメーターをリアルタイムで変更しています。弱い方の目を多く使わせるように促し、患者の脳が両目からの情報入力を組み合わせるよう仕向けます」とシャオ氏はいう。

9月には、105人の子どもを対象とした無作為化比較試験の結果が発表された。子どもたちは全員、常時メガネをかけていた。そのうち51人が、Luminopiaのソフトウェアで修正されたテレビ番組を週6日、12週間にわたって1時間ずつ視聴した。

全体として、治療グループの子どもたちは、標準的な目のチャートで1.8段階改善された(12週間後の追跡調査では、2段階以上改善された子どももいた)のに対し、比較グループでは0.8段階だった。

この研究はOphthalmology誌に掲載された。

Luminopiaはまだ小さな企業で、従業員はわずか4人だ。しかし、Sesame Ventures(Sesame Workshopのベンチャーキャピタル部門)や、Moderna(モデルナ)の共同創業者で現在はLuminopiaの取締役を務めるRobert Langer(ロバート・ランガー)氏、Sesame Workshopの元社長兼CEOのJeffrey Dunn(ジェフリー・ダン)氏などのエンジェル投資家からの投資により、これまでに約1200万ドル(約13億1000万円)を調達した。

同社の特徴は、弱視や医療全般に共通する問題であるアドヒアランス(治療方針の順守)に対する独自のアプローチにある。

弱視の治療法が継続しにくいことを示す証拠がいくつかある。サウジアラビアの病院で行われたある研究では、弱視治療のためにアイパッチを使用している子を持つ37家庭を対象に調査が行われた。研究の対象となった子どもたちは、指示されたパッチの使用時間の約66%しか装着していなかった。子どもたちの家族は、アイパッチの推奨時間を守れなかった理由として、社会的な偏見、不快感、本人がパッチの装着をまったく受け付けなかったことなどを挙げた。

2013年にInvestigative Ophthalmology & Visual Science誌に掲載されたある研究では、152人の子どもたちがどれだけアイパッチの処方を守ったかを分析した。それによると、子どもたちが期間中の約42%の間、アイパッチをまったく着用していなかった。

Luminopiaの創業者らは弱視の治療法開発にあたり、最初にアドヒアランスの問題に取り組んだ。消費者向け製品の世界から借りてきた戦略だ。

「我々は、消費者向け製品の世界と医療の世界とでは、得られるエクスペリエンスに大きなギャップがあると考えてきました。消費者向けの世界で提供さえるモノは非常に考え抜かれ、喜びをもたらすものですが、医療の世界におけるエクスペリエンスは貧しく、アドヒアランスの低下につながることが多いのです」とトラバース氏は語る。

子どもにとってテレビを見ること以上に魅力的なことはないとシャオ氏は語る。今回の試みで、その仮説が証明されたようだ。研究に参加した子どもたちは、必要とされるテレビ視聴時間の88%を達成した。また、94%の親が、アイパッチよりもこの治療法を使う可能性が高い、または非常に高いと答えた。

だが重要なのは、データを入手し、FDAの承認を得て、そのような「喜びをもたらす」治療体験が実際に機能し、アドヒアランスの問題を克服できると証明することだ。Luminopiaは最近、9施設で84人の参加者を対象にしたパイロット・シングルアーム試験について発表した。その第1段階として、10人の子どもを対象に実施したところ、子どもたちは定められた時間の治療を78%完了したことがわかった。また、子どもたちの視力は、標準的な視力表の約3段階に相当する改善が見られた。この結果はScientific Reportsに掲載された

ゲームや遊びをベースにした病気の治療法を検討を始めたのは、Luminopiaが初めてではない。FDAはすでに、同じ系統の他からの提案を多少なりとも支持している。

Akili Interactiveは2020年6月、子どものADHDの治療に使用するビデオゲームについて、De Novo申請(過去に同様の医療機器が存在しない場合の申請)を通じてFDAの承認を得た。この承認は、病気の治療にビデオゲームを承認した初めての例となった。Crunchbaseによると、Akili Interactiveは合計で約3億110万ドル(約331億円)の資金を集めた。

Akiliのゲーム「EndeavorRx」は、Luminopiaが真似できるかもしれない承認への道筋を示している。LuminopiaはEndeavorRxと同様、処方箋のみの治療サービスで、前例はない。LuminopiaもDe Novo申請により、2021年中にFDAの承認を得る予定だとシャオ氏はいう。最新のピボタル試験のデータは、2020年3月にFDAに提出されている。

「年内には審査結果が出ると思います。良い結果であれば、2021年発売できると考えています」とシャオ氏は述べた。

画像クレジット:Luminopia

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

カリフォルニアの培養肉メーカーNew Age Meatsが約28億円調達、2022年にポークソーセージを生産開始

バークリーの培養肉メーカーNew Age Meatsは、米国時間9月27日に、シリーズAで2500万ドル(約28億円)を調達、2022年に同社初の製品であるポークソーセージの生産を開始できると発表した。

このラウンドは韓国のHanwha Solutionsがリードし、これまでの投資家であるSOSVのIndieBio、TechU Ventures、ff VCそしてSiddhi Capitalが参加している。

CEOのBrian Spears(ブライアン・スピアーズ)は化学工学のバックグラウンドを持ち、12年間にわたり研究室や産業界のオートメーションの開発に携わった後、2018年に動物の細胞から肉を作るNew Age Meatsを共同設立した。

「私たちは同じ味、香り、経験を手頃な価格で提供する、持続可能で人道的なプロセスを作りたいと思っています。Hanwha Solutionsと他の投資家の支援を得て、私たちは地球上で最も革新的な食肉企業になるという使命を達成することができます」とスピアーズ氏はいう。

Hello Tomorrow Singaporeで講演するブライアン・スピアーズ氏(画像クレジット:New Age Meats)

今回のシリーズAでは、従業員の倍増、研究開発の拡大、アラメダに2万平方フィート(約1860平方メートル)のパイロット製造施設の建設が可能になる。今回の投資は、RXBARの創業者であるPeter Rahal(ピーター・レイホール)氏を含むグループが過去に調達した700万ドル(約7億8000万円)のシードラウンドに続くものだ。

New Age Meatsは最も早く市場に出回る食品の1つであるため、ソーセージから始めているが、最終的には牛肉や鶏肉といった他の食肉カテゴリーにも進出する予定だ。

米食品医薬品局(FDA)の承認を経て、2022年の発売を目指している。また、アジアのように豚肉を多く食べる市場からも需要があると考えている。

培養肉の分野では、技術の進化にともない新たな参入者が増えている。スピアーズ氏によると、New Age Meatsの差別化要因は肉そっくりの食感と手頃な化ック、そして大量生産が可能なことだという。

Impossible FoodsやBeyond Meatは代替肉の先行企業だが、その他の企業も培養肉にフォーカスして市場に参入してきた。ベンチャーキャピタルの関心も高く、Animal AlternativeやEat JustのGood Meatといったスタートアップもあり、後者は先に9700万ドル(約108億円)の調達を発表した

電子メールでやりとりしたHanwha Solutionsは、同社のビジネスミッションはNew Age Meatsと一致しており、セルベースポーク市場で成長の可能性があるという。

また、世界的な気候変動への取り組みを背景に、Hanwha Solutionsは培養肉を中心としたフードテック産業の「急速な市場成長を期待している」という。

「健康的な食品や動物愛護への意識の高まりも、需要を後押しするでしょう。細胞技術を使って培養肉を製造する専門知識を持つNew Age Meatsは、私たちのビジネスの地平を広げる手助けをしてくれるでしょう」とHanwha Solutionsはいう。

画像クレジット:New Age Meats

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(文:Christine Hall、翻訳:Hiroshi Iwatani)

線維筋痛症のデジタル治療プログラムがFDAの画期的医療機器指定を取得

デジタル治療のスタートアップSwing Therapeuticsは、スマートフォンを利用した12週間の線維筋痛症管理プログラムで、FDA(米食品医薬品局)からBreakthrough Device Designation(画期的医療機器 / デバイス指定)を受けた。これは同社にとって初の画期的指定であり、2021年予定されている多数の臨床試験に先立つものとなる。

Swing Therapeuticsは2019年に設立され、JAZZ Venture Partnersが主導するシードラウンドで合計900万ドル(約9億8600万円)を調達している。同社は慢性疼痛、特に線維筋痛症の管理に注力している。

このFDAの画期的指定は、同社がUniversity of Manitoba(マニトバ大学)で最初に設計・試験を行ったアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)プログラムをスマートフォンに適用したことに与えらたものだ。Swing Therapeuticsはこのプログラムを独占的にライセンスし、独自の電話ベースバージョンを形成するのにそれを適応させた。

「私たちは基本的に、マニトバ大学のプログラムをプログラムの基礎として使用し、その上に実際的な構築を施しました。そしてそれを現代のスマートフォンのインターフェイスに最適なエクスペリエンスに適応させました」とSwing Therapeuticsの創業者でCEOのMike Rosenbluth(マイク・ローゼンブルース)氏は語る。

このFDAの指定により、Swing Therapeuticsはプロダクトの一連の臨床試験を実施する際に、FDAによる迅速な審査が可能になる。

現在のところ、線維筋痛症の治療法は確立されていないが、FDAは症状の管理に役立つ3種類の薬を承認している。Lyricaは、通常は神経損傷の治療に処方されるが、線維筋痛症の治療にも使用される。Cymbaltaは、元々はうつ病、不安症や糖尿病性神経障害の治療薬として開発された。Savellaは、うつ病の治療法に近いSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)である。

薬剤の世界の外では、ACTが慢性疼痛(線維筋痛症を含む)のある患者に有用であるというエビデンスがいくつか得られている。

例えば、ACTおよび慢性疼痛に関する25件の研究を対象としたメタレビューでは、ACT療法は疼痛強度にわずかな影響しか及ぼさないことが明らかにされた。しかし、痛みを受け入れるように(無視するのではなく)患者に教える治療プロセスは、抑うつ、不安、生活の質における中程度から長期の改善と関連していた。

「ACTが行っているのは、症状やコントロールできないことを患者が受け入れるのを支援することです。ACTは、自分にとって本当に重要な価値観について考えるのを助けてくれます」とローゼンブルース氏。「そして、患者はその価値観に合わせて行動ベースの変更を試みるのです」。

その一環として、Swing Therapeuticsのプラットフォームは、治療管理ツールとして医師によって処方されるように設計されている。処方されると、患者は41セッションの受け入れとコミットメントのセラピープログラムに入る。このプログラムは完全に携帯電話上で実行されるもので「毎日の服用」に分割されている。「毎日の服用」には、マインドフルネスセッションや短い文章を書くことを促すプロンプトが含まれることもある。

Swingのスマートフォンプログラムのベースとなっているマニトバ大学のプログラムには、その名の通りに行われる無作為化比較試験がある。これは当初、通常通りの治療を受けたか、通常の治療に加えて8週間のオンラインコースでACTを受けた参加者67人を対象とした研究で検証された。

コースの完了は、抑うつ症状の改善および睡眠、疼痛知覚、疲労または心理的苦痛に対する線維筋痛症の影響を測定する線維筋痛症影響質問票(FIQ-R)の患者スコアの改善と関連付けられた。このコースは患者の「痛みの受容」を改善し、そのメカニズムを通して線維筋痛症のエクスペリエンスを改善するのに役立つように見受けられた。

重要なのは、Swing Therapeuticsプログラムがマニトバ大学のプログラムとは少し異なる点だ。つまり、コンピューター上では8週間であるのに対し、スマートフォン上では12週間以上、ほぼ毎日の使用を想定して設計されている。このようなわずかな変化であっても、このアプローチが線維筋痛症患者にこの特異的なACT療法プログラムの恩恵をもたらすことを保証するために、独自の臨床試験が必要となる。

Swing Therapeuticsは、これらの臨床試験のいくつかを異なるステージで実施している。

この春、Swingは、線維筋痛症の適応治療に関する67人のパイロット試験の登録を完了した(患者は実薬対照群またはACTデジタル療法群に割り付けられた)。この研究は進行中である。Swingは先に、REACT-FMと呼ばれる大規模な研究も開始した。本研究は現在募集中で、ACTプロダクトを2週間使用する100人から150人程度の患者を登録することを目指している。

そして同社はまた、第Ⅲ相無作為化比較試験の開発フェーズにある。この研究の完了後、同社はFDAにプラットフォームの完全な承認を申請する。ローゼンブルース氏によると、この研究は2021年末にローンチされる予定だという。

FDAの画期的治療法指定は、すでにこれらの研究の形成に役立っている。臨床試験が続けば、このデバイスは迅速な審査を受け続けることになり、プラットフォームの臨床試験をスムーズに進めることができる。

「FDAとのチャネル対話が可能になったことは、非常に有益であることを実感しました。そうすることで、臨床試験のデザインと私たちのアプローチがFDAが期待するものと一致するように、協調していくことができます」とローゼンブルース氏は語った。

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

波紋を呼んだアルツハイマー病治療薬「Aduhelm」への承認を皮切りに、米FDAの迅速承認経路への保健福祉省による審査開始

米国保健福祉省の監察総監室(HHS-OIG)は米国時間8月4日、米食品医薬品局(FDA)の迅速承認プロセスについての調査を開始すると発表した。Biogen(バイオジェン)が開発したアルツハイマー病治療薬「Aduhelm(アデュヘルム)」に対する承認が物議を醸してから、わずか2カ月後のこの事態である。

この審査では、FDAの迅速承認経路(既存の治療法がない重篤な疾患の治療薬が、サロゲートエンドポイントと呼ばれる一定の中間ベンチマークを達成すれば承認される経路)に焦点が当てられる予定だ。こういった薬剤は臨床的に有用であると考えられていても、その有用性が実際に証明されていない状態での承認となり、承認後には第Ⅳ相試験で臨床効果を実証する必要がある。

アルツハイマー病治療薬として2003年以来初めて承認され、大きな議論を呼んだAduhelmは、この経路によって承認された。そしてこの承認に対するHHS-OIGの審査プロセスが動き出したことが、監察総監室の8月4日の発表で明らかになったというわけだ。

関連記事:大論争の末、2003年以来初のアルツハイマー病治療薬を米食品医薬品局が承認

発表文には次のように記されている。「FDA内での科学的論争、諮問委員会による承認反対票、FDAと業界間の不適切な密接関係への疑惑、FDAによる迅速承認経路の使用などの理由により、FDAによるAduhelmの承認に対する懸念が生じています」。

「こういった懸念に対応し、FDAが迅速承認経路をどのように実施しているのかについて評価を行なっていきます」。

FDAはこの経路によるAduhlemの承認決定について防衛的な構えを見せているが、この薬の有効性やそもそもどのようにして承認されたのかという経緯については大きな反感が持たれている。

「Aducanumab(アデュカヌマブ)」としても知られるAduhelmは、脳内のアミロイド斑(脳細胞間のコミュニケーションを阻害する粘着性化合物)を減少させることができると実証されている。しかし、アミロイド斑を減らすことでアルツハイマー病の最も悪質な症状である認知機能の低下を実際に遅らせることができるかどうかは不明であり、実際に患者がこれによるメリットをどの程度得ることができるのかについては疑問が残っている

2019年3月、この薬に対する2種の第Ⅲ相臨床試験が実施されたが、独立監査委員会がこの薬が患者の認知機能の低下率を改善していないと判断したため中断されている。しかし、Biogenが10月に行った別の分析では異なる結果が得られており、1つの第Ⅲ相臨床試験では認知機能の低下の改善が見られなかったが、もう1つの試験では最高用量を投与された患者にわずかな効果が見られている。

2020年11月、FDAの独立諮問委員会はこの薬への承認支持を拒否。しかし2021年6月、この薬はどういうわけだか承認されたのである。

Aduhelmが承認されたことで、製薬業界ではFDAがバイオマーカーに基づいた承認を拡大するのではないかという楽観的な見解が広がった。しかし、このような楽観的な見方は科学コミュニティの大方の意見とは違っていた。

承認に反対していた独立諮問委員会の3名の委員が、抗議のために辞任するという事態に発展。またデータに一貫性がないとして、マウントサイナイ医科大学やクリーブランド・クリニックなどの主要な病院システムが、この薬を処方しない意図を表明したのだ。

Aduhelmの承認を巡っては、承認に至るまでのFDAとBiogenの関係性が特に密接であったのではないかとの疑惑が議論の中心となっている。STATが最初に報じたところによると、Biogenは規制当局を説得するための「Project Onyx」と呼ばれる社内活動を開始し、最終的には一部のFDA職員が外部の専門家の前で同社との共同プレゼンテーションを行うなど、薬の承認に対して積極的な役割を果たしている。

FDA長官代理のJanet Woodcock(ジャネット・ウッドコック)氏は、7月9日の書簡でHHS-OIGに対し、BiogenとFDAの関係性を調査するための外部調査を行うよう求めた。

「メーカーと当局の審査担当者との間で生じたやりとりが、FDAの方針や手順と矛盾していなかったかどうかを判断するには、独立した機関による評価が最善の方法であると考えています」と同氏はTwitterに書き込んでいる。

HHS-OIGによる今回の調査は、Aduhlemの問題に端を発しているものの、今回のレビューはAduhlem(あるいは他の医薬品)の科学的根拠を検証することに重点を置いておらず、むしろFDAがどのようにして、いつ、製薬会社に迅速承認を行うのかを評価するための、迅速承認に関する全体的な監査を行うためのものである。

HHS-OIGは今度、FDAと外部関係者間のやりとり、方針や手続きを検討し、FDAがそれらの手続きを遵守しているかどうかを調査。またAduhelmのレビュープロセスを対象とするだけでなく、他の医薬品の承認に対しても、この経路がどのように使用されてきたかを調査する予定だ。

また、ウッドコック氏はTwitterでの声明内で、FDAはHHS-OIGのレビューに対して「完全に協力する」と伝えている。

「HHS OIGが実行可能な項目を特定して何らかの提言を行った場合、FDAはそれを迅速に検討し、最善策を決定します」と同氏。

また、アルツハイマーの治療薬を開発している他の企業にとっても、この経路は魅力的な選択肢となっているため、今後の動きは治療薬の行先に大きな影響を与える可能性がある。

例えばEli Lilly(イーライリリー)は「Donanemab(ドナネマブ)」というアルツハイマー病治療薬を開発しており、この薬がアミロイドなどのバイオマーカーを低下させ、患者の改善につながることを示す第II相試験の結果を発表している。しかしこの結果の大部分は個々の患者の治療結果ではなく、アルツハイマー病のバイオマーカーに対する薬の有効性を示すものとなっている。

Eli Lillyのシニアバイスプレジデント兼チーフ・サイエンティフィック・メディカル・オフィサーのDaniel M. Skovronsky(ダニエル・M・スコブロンスキー)氏は、先に行われた第2四半期の決算説明会で、FDAによるAduhelmの承認は「政策の転換を反映し、米国におけるアルツハイマー病治療薬の承認に新たな道筋をつけるものである」と述べ、同社が年内にはFDAの迅速承認経路を利用してDonanemabの承認を申請する意向であることを明らかにした。

これは、これから正にHHS-OIGが調査を行おうとしている経路そのものである。

しかしすぐに結果が出るわけではない。「政策の転換」を利用しようとする将来のアルツハイマー病治療薬メーカーに今回のニュースがどのような影響を与えるかは不明である。この報告書は2023年に発表される予定だ。

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画像クレジット:Grandbrothers / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

心不全の「デジタル治療」でFDAのブレークスルーデバイス指定をボストンのBiofourmisが取得

ボストンを拠点とするBiofourmis(バイオフォーミス)の創業者、Kuldeep Singh Rajput(カルディープ・シン・ラジプート)氏は、心不全患者が処方箋に加えてウェアラブルセンサーとアプリを持って退院するという未来を思い描いている。そして2021年7月下旬、FDAによる新たな指定により同社はその目標に一歩近づいた。

2015年に設立されたBiofourmisは、患者のケアを「拡張」するためのソフトウェアを開発するデジタルセラピューティクス企業である。これまでに約1億4500万ドル(約159 億円)の資金を調達し、約350人の従業員を抱えているとラジプート氏は説明する。

BiofourmisのBiovitalsHFは米国時間7月29日、心不全の投薬モニタリングのためのプラットフォームとして、FDAのブレークスルーデバイス指定を受けた。ブレークスルーデバイス指定が必ずしもFDAの認可を意味するわけではないが、これにより審査プロセスの迅速化を可能にし、開発中に連邦政府機関から専門知識を得ることができるようになる。

ラジプート氏によると、Biofourmisには大きく分けて2つの注力分野があるという。1つ目は製薬会社と共同でのデジタル治療法の開発(例えば、投薬のためのアプリや、健康状態をモニターできるセンサーなど)。2つ目は、急性疾患の患者に向けた、自宅でのフォローアップケアである。

前者への進出の一例がBiovialsHFだ。これまでに同社は、冠動脈疾患や心房細動などの疾患の「パイプライン」に対するデジタル治療法を開発しており、また化学療法を受ける患者や慢性的な痛みに対処するためのデジタル治療法も計画している。しかし、BiovitalsHFシステムはFDAのブレークスルー指定を受けた最初の製品であり、ラジプート氏はこれを同社の「主要デジタル治療」と呼んでいる。

BiovitalsHF製品は心不全患者の服薬管理を目的としたソフトウェアプラットフォームである。予め決まった処方箋をもらっていても、心不全患者が自宅に戻ってから薬の量を調整する必要が出てくることがあることから、この発想が誕生した。

心不全の治療では医師が複数の薬剤を使用することが多く、また時の経過とともに投与量を変更することも少なくない。特にACE阻害剤とβ遮断剤の2種類の薬の場合は、漸増、つまり患者が低用量で治療を開始し、時間をかけてゆっくりと用量を増やし、最適な「目標」用量を達成するプロセスが必要になることがある。

しかし、漸増は実生活では困難だ。2020年のある研究では、最適な投与量が達成されているのは心不全患者の25%以下だと示唆されている(他の研究では1%以下という結果になっているものもある)。2017年のCardiac Failure Reviewの解説によると、ACEの目標用量を守っている患者はわずか29%、β遮断剤の目標用量を守っている患者は18%と推定されている。

一方、臨床試験では、多くの患者が50〜60%の割合で最適な量を達成することができており、試験中での服用と実際の服用にギャップがあると考えられている。

BiovitalsHFは、ウェアラブルデバイスからデータを収集および分析することで、患者が退院した後の服薬調整プロセスを効率化したいと考えている。そのデータが、患者の健康状態に応じて薬を漸増させるために使われるというわけだ。

患者、ウェアラブルデバイス、外部の検査結果からの情報をもとに薬の投与量を調整するこのソフトウェア。ウェアラブルデバイスが心拍数、呼吸数、ストローク量、心拍出量などのデータを収集し、その一方で患者が自分の症状をアプリに報告、医師は検査結果を入力する。

「センサーを使って患者から収集したデータとモバイルプラットフォームに基づいて、自動的に増量や減量、薬の切り替えを行い、患者が適切で最適な量を服用できるようにします」とラジプート氏は話す。

すると患者には薬の調整が行われることを知らせる通知が届くという仕組みである。

BiovitalsHFプログラムはまだ概念実証試験が一度しか行われていないが(詳細は後述)、Biovitals患者モニタリングプラットフォームはこれまでに他の疾患でもテストされている。

例えば、香港のクイーン・メアリー病院では、バイオセンサーを1日23時間装着した、軽度の新型コロナウイルス(COVID-19)患者34人のモニタリングにBiovitalsシステムが採用されている。Scientific Reportsに掲載された論文によると、このプラットフォームは患者が悪化するかどうかを93%の精度で予測し、入院期間を78%の精度で予測することができたという。

BiovitalsHFシステムはこれとは少し異なる。患者をモニタリングすることを目的としてはいるものの、ラジプート氏が目指すのは、このテクノロジー自体を治療プログラムとして投与するということである。

つまり医師がBiovitalsHFプログラムを3カ月間「処方」し、ソフトウェア自体が患者の治療結果をモニターし、投与量を決定するということだ。

Biovials HFを単なる意思決定支援ソフトウェアとしてではなく、治療レジメンとして販売できるようにすることが目的なのである。わずかな違いのように感じるが、つまり同社は単なるデリバリーデバイスではなく、それ自体が医薬品のような存在になろうとしているわけである。

「デジタル治療用の製品ラベルには、臨床決定支援のための単なるモニタリングツールではなく、実際の治療効果が記載されています」とラジプート氏は話す。

当然、このような主張をするからにはしっかりとした結果が必要だ。同社は2021年3月に終了した概念実証臨床試験で、このコンセプトの初期テストをすでに行っているが、有効性を証明するためには今後さらに多くのテストを行う必要がある。

この試験では282名の患者を90日間モニターし、BiovitalsHFを使用している人と通常の標準治療を受けている人を比較。このプラットフォームが薬の投与量を最適化できるかどうか、つまり、この場合は最適な投与量の50%以内に収めることができるかどうかを判断するというのがこの試験の目的である。

同研究の結果はまだ公表されていない。しかし、ラジプート氏によるとこの研究はそのエンドポイントを満たしており、患者の生活の質や心臓の健康状態の改善にもつながっているようだ。

「3カ月以内に、患者のQOLや心機能が大きく改善され、血中バイオマーカーであるNT-proBNP(心不全のマーカー)も減少しました。これをもとにFDAにデータを提出したところ、ブレークスルー指定を受けることができました」と話している。

同社は査読付きジャーナルへの掲載に向けて、このデータを提出したという。

ブレークスルー指定を受けたことで、BiovitalsHFの開発が急速に進むかのように思えるが、実際はFDAの正式承認はおろか、市販承認に至るまでの道のりはまだ長いと言えるだろう。

「ピボタル試験はすぐにでも開始する予定です。そしてFDAへの正式な申請は、来年の6月か7月頃になると思います」とラジプート氏は話している。

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画像クレジット:Biofourmis

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

米食品医薬品局がファイザーとビオンテックの新型コロナワクチンを正式承認

米食品医薬品局(FDA)はPfizer(ファイザー)とBioNTech(ビオンテック)が共同開発した新型コロナウイルスワクチンを正式に承認した。新型コロナワクチンの正式承認は初となる。mRNAベースのワクチンは緊急使用許可(EUA)を通じて2020年後半から使えるようになっていた。別の承認プロセスが終わるまでは12〜15歳への接種はEUAの下に行われるが、16歳以上向けにはPfizerワクチンは正式承認されたものとなる。

承認の取得は、PfizerとBioNTechが正式に米国内でワクチンを販促できることを意味する。そしてFDAはワクチンが「Comirnarty(コミナルティ)」というトレードドレスのもとに提供されることを明らかにした。このトレードドレスはさほどキャッチーな印象はないが、少なくとも「PfizerとBioNTechの新型コロナワクチン」よりは呼びやすい短さだ。FDAの承認はまた、臨床前データ、臨床試験データ、製造に関する情報、EUA期間の使用から集められたデータを含め、ワクチンが安全性と有効性の基準をすべて満たしていることを意味する。

今回の正式承認は、利用できるにもかかわらずワクチンをまだ接種していないことの言い訳として「正式に承認されるまで待つ」と言ってきた日和見主義者に接種を促すものになるという期待がある。少なくとも、パンデミックに向き合う中で接種を躊躇している人にとって理性的ではない無責任なスタンスを正当化することは難しくなる。

ComirnartyはFDAによって「優先審査」対象となっていた。これは実質的に当局が審査を進めるためにそのプロセスに全力を注いだことを意味する。Moderna(モデルナ)の承認については言及がなかったが、こちらも優先的に審査されている。

TechCrunchはTC Disrupt 2021でBioNTechのCEOで共同創業者のUğur Şahin(ウール・シャヒン)氏に話を聞く。9月21〜23日に開催されるバーチャルイベントをお見逃しなく。

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画像クレジット:JUSTIN TALLIS/AFP / Getty Images

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Nariko Mizoguchi

米食品医薬品局がファイザーとビオンテックの新型コロナワクチンを正式承認

米食品医薬品局(FDA)はPfizer(ファイザー)とBioNTech(ビオンテック)が共同開発した新型コロナウイルスワクチンを正式に承認した。新型コロナワクチンの正式承認は初となる。mRNAベースのワクチンは緊急使用許可(EUA)を通じて2020年後半から使えるようになっていた。別の承認プロセスが終わるまでは12〜15歳への接種はEUAの下に行われるが、16歳以上向けにはPfizerワクチンは正式承認されたものとなる。

承認の取得は、PfizerとBioNTechが正式に米国内でワクチンを販促できることを意味する。そしてFDAはワクチンが「Comirnarty(コミナルティ)」というトレードドレスのもとに提供されることを明らかにした。このトレードドレスはさほどキャッチーな印象はないが、少なくとも「PfizerとBioNTechの新型コロナワクチン」よりは呼びやすい短さだ。FDAの承認はまた、臨床前データ、臨床試験データ、製造に関する情報、EUA期間の使用から集められたデータを含め、ワクチンが安全性と有効性の基準をすべて満たしていることを意味する。

今回の正式承認は、利用できるにもかかわらずワクチンをまだ接種していないことの言い訳として「正式に承認されるまで待つ」と言ってきた日和見主義者に接種を促すものになるという期待がある。少なくとも、パンデミックに向き合う中で接種を躊躇している人にとって理性的ではない無責任なスタンスを正当化することは難しくなる。

ComirnartyはFDAによって「優先審査」対象となっていた。これは実質的に当局が審査を進めるためにそのプロセスに全力を注いだことを意味する。Moderna(モデルナ)の承認については言及がなかったが、こちらも優先的に審査されている。

TechCrunchはTC Disrupt 2021でBioNTechのCEOで共同創業者のUğur Şahin(ウール・シャヒン)氏に話を聞く。9月21〜23日に開催されるバーチャルイベントをお見逃しなく。

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画像クレジット:JUSTIN TALLIS/AFP / Getty Images

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Nariko Mizoguchi

米FDAが脳血管内手術で利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

米食品医薬品局が脳梗塞の治療などに利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

Synchron

米食品医薬品局(FDA)が、埋込型の脳コンピューターインターフェース(BCI)の臨床試験に許可を出しました。

この脳コンピューターインターフェース”Stentrode”を開発するSynchron社は、今年後半にもニューヨークにあるマウントサイナイ病院で6人の被験者を対象として、早期実現可能性を確かめる試験をに開始する予定です。なお、Synchronは「重度の麻痺を持つ患者に対する安全性と有効性」を評価するとのこと。

脳コンピューターインターフェースというワードを見れば、Engadget読者の方々ならあのイーロン・マスクが設立したNeuralinkはどうしたと思うかもしれません。

Neuralinkは2020年に脳埋込デバイスLinkを発表し、今年春にはそれを埋め込んだサルがゲームをプレイする様子を動画で公開するなど、技術開発が着々と進んでいることをアピールしていました。

しかしBCIのような人体に作用する器具を米国で販売するには、FDAに対して機能と安全性を示し、認可を得なければなりません。米国で先に臨床試験にたどり着いたのはNeuralinkではなくSynchronでした。

Synchronはオーストラリアにおいては、米国に先駆けてStentrodeの臨床試験をすでに始めています。こちらでは4人の患者にこのデバイスをインプラントしており、「脳の運動野から電極を通じてデータを転送し、デジタル機器を制御する」ことができるのを確認しています。

そしてJournal of NeuroInterventional Surgery誌への報告によると、被験者のうち2人はStentrodeの機能を通じた体外への脳インパルスの伝達によって頭で考えるだけでコンピューターを操作し、テキストメッセージを送ったり、オンラインバンキングやネット通販で買い物をしたり、仕事関連のタスクをこなしたりできるようになったとのこと。

ちなみに、Stentrodeのインプラントには約2時間かかる手術をする必要があります。この手術は低侵襲ながら、デバイスを首にある血管に挿し入れ、そこから脳内にまで移動させると言う手順が必要です(脳動脈瘤の治療など脳血管内手術に用いられている網目状のチューブ「ステント」を応用しており、頭蓋骨を開く開頭手術に対して患者の肉体的な負担が比較的小さい)。

Synchronは、3~5年でStentrodeが医療現場で広く利用できるようになるだろうと述べています。

米食品医薬品局が脳梗塞の治療などに利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

Synchron

米食品医薬品局が脳梗塞の治療などに利用されるステントを応用した脳コンピューター接続デバイス「Stentrode」の臨床試験を許可

Synchron

(Source:SynchronEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:医療 / 治療(用語)Stentrode(製品)Synchron(企業)Neuralink(企業)脳(用語)BCI / 脳コンピューターインターフェイス(用語)米食品医薬品局 / FDA(組織)

初実験で致命的な脳腫瘍を30%縮小させた磁気ヘルメット

脳腫瘍を発見するヘルメットAIはこれまでにもあったが、実際に脳腫瘍を治療することもできる新しいヘルメットが登場した。

神経学上の最新ブレイクスルーの一環として、研究者たちは、磁場を発生させるヘルメットを使い、致命的な腫瘍を3分の1縮小した。この治療を受けた53歳の患者は、最終的には無関係の負傷で死亡したが、彼の脳を解剖したところ、短期間で腫瘍の31%を除去したことがわかった。この実験は、致命的な脳腫瘍である膠芽腫に対する初めての非侵襲的な治療法となる。

このヘルメットには3つの回転マグネットが搭載されており、それらはマイクロプロセッサーベースの電子コントローラーに接続され、充電式バッテリーで動作する。治療の一環として、患者はこの装置を5週間にわたってクリニックで装着し、その後、妻の助けを借りて自宅でも装着した。その結果、ヘルメットが作り出す磁場の治療は、最初は2時間、その後は1日最大6時間まで増やされた。この期間中、患者の腫瘍の質量と体積は約3分の1縮小し、縮小率は治療量と相関関係があることがわかったという。

この装置は、米国食品医薬品局(FDA)から例外的使用(Compassionate Use、CU)の承認を受けており、発明者たちは、放射線治療や化学療法を行わずに脳腫瘍を治療できる日が来ると主張している。

ヒューストンメソジスト神経研究所の脳神経外科ケネス・R・ピーク脳・下垂体腫瘍治療センター長であるDavid S. Baskin(デイビット・バスキン)医師は「今回の結果は、非侵襲的かつ無毒な治療法の新しい世界を開くものであり、将来的に多くのエキサイティングな可能性を秘めています」と述べている。この治療の詳細は、学術誌「Frontiers in Oncology」に掲載されている。

編集部注:本記事はEngadgetに最初に掲載された。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:治療ヘルメット腫瘍磁気米国食品医薬品局(FDA)

画像クレジット:Houston Methodist Neurological Institute

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(文:Saqib Shah、翻訳:Aya Nakazato)

大論争の末、2003年以来初のアルツハイマー病治療薬を米食品医薬品局が承認

米国時間6月7日月曜日、米食品医薬品局(FDA)は、医薬品メーカーのBiogen(バイオジェン)が開発した注目のアルツハイマー病治療薬「aducanumab(アデュカヌマブ)」を承認した。過去に失敗作として研究が中止されていたaducanumabの承認については、数カ月前から科学界や規制当局の間で議論が交わされていた。

FDAのプレスリリースによると、aducanumab(米国商品名:Aduhelm、アデュヘルム)は、2003年以来初の新しいアルツハイマー病治療薬の承認である。aducanumabは、アルツハイマー病の原因とされているいくつかの要因のうち、脳内に蓄積され、神経細胞の伝達を阻害するβアミロイドによるアミロイド斑を対象とした初めての治療薬でもある。

重要なのは、aducanumabが「迅速承認プログラム」と呼ばれる条件付きの承認を受けたことだ。迅速承認とは、重篤な疾患の治療薬かつ疾患の指標に作用するものであれば、臨床試験の全体的な結果にFDAが懸念を持っていても早期に利用できるように承認するプログラムで、Biogenは、承認後もaducanumabの再検証を行う必要がある。

FDAは声明で「意図したとおりの効果が得られなければ、市場から排除する措置を取ることができます。今後の臨床試験でさらに多くの人々がAduhelm(aducanumab)の治療を受けるようになり、効果が証明されることを期待しています」と述べる

TechCrunchはBiogenに今後の確認試験についてのコメントを求めている。回答があればこの記事を更新する。

今回の迅速承認プログラムの採用が、FDAの決定に至るまでの数カ月間、aducanumabを悩ませてきた長引く論争に対処するためのものであることは明らかだ。

aducanumabの初期段階の試験では、アルツハイマー病の主な症状である認知機能の低下を遅らせる可能性があるという有望な兆候が見られた。Natureに掲載された2016年の試験では、125名の軽度または中等度のアルツハイマー病患者に月1回の点滴を行ったところ、アミロイド斑のレベルが低下し、認知機能低下の症状が改善された。

Lancet Neurologyに掲載された論文では、脳内のアミロイド斑の減少は「強固で疑う余地のないもの」だったが、治療によって人々の認知機能がどの程度向上したのかという臨床的な知見は不明瞭だった。

このような初期の試験を経て、最終的にFDAは、薬の投与量を特定するための第II相臨床試験をスキップして、第III相臨床試験に進むことを許可したが、一部の医師からは批判されている

論争の的となったのは「ENGAGE(エンゲージ)」または「EMERGE(エマージ)」と呼ばれる、この第III相臨床試験だ。どちらも初期のアルツハイマー病患者約1600人を対象に、月1回の静脈注射を行う試験だったが、2019年、両試験とも中止された。試験の主要評価項目である、認知機能の低下を遅らせる効果が認められなかったからである。

EMERGE試験の追加データは2019年末に分析され、プラセボ(偽薬)との比較で、aducanumabが認知機能の低下を23%抑制することにつながったことを示した。試験参加者の約40%に副作用(脳の腫れや炎症)が見られたが、ほとんどが症状をともなわず、症状をともなうもの(頭痛、吐き気、視覚障害)であっても大部分が4~16週間後に解消された。

しかし、この新しいデータも、独立機関であるFDA諮問委員会を説得するには十分ではなく、2020年11月、委員会はaducanumabの承認を不支持とした。

FDAは米国時間6月7日の声明で、βアミロイド斑に対するaducanumabの効果は、リスクを上回る有益性を十分に示唆する、と主張している。ここで重要なのは、FDAは臨床試験の成果についてコメントしていないという点にある。要するに、この承認は、各患者の認知機能の反応ではなく、アミロイドβ斑に対する薬剤の効果に基づくものであり、今後の調査では、認知機能の改善という結果を出す必要がある。

しかし、米国のアルツハイマー病患者約600万人と患者団体は、aducanumabに期待を寄せ、アルツハイマー病協会は、この薬を「アルツハイマー病とともに生きる人々への勝利」と称賛している。

米国時間6月7日のFDAの決定を待たずとも、aducanumabが承認されれば、すぐに「ブロックバスター (従来の治療体系を覆す薬効を持ち、開発費を回収する以上の利益を生み出す新薬)」になることは明らかだった。この薬を取り巻く財務状況は、その考えを裏づけている。

発表直後に取引が停止されたBiogenの株式は、その後米国時間6月8日には40%上昇。Biogenと提携しているエーザイ株式会社の株価もFDAの承認後、3時間で46%以上も上昇した。

もちろんBiogenはこの承認を長期的な戦略として当てにしていただろう。同社は2021年4月の決算説明会で、承認後、すぐに治療を開始できる施設が600施設あると発表している。同社はさらに、ブラジル、カナダ、スイス、オーストラリアでもaducanumabの販売承認申請を行っていて、米国時間6月7日には、年間費用は5万6000ドル(約613万円)であると発表した。

アルツハイマー病治療薬の世界では、今回の承認が、βアミロイド斑を標的とする他の薬剤の概念実証とみなされる可能性がある。

Banner Alzheimer’s Institute(バナー・アルツハイマー研究所)のエグゼクティブディレクターであるEric Reiman(エリック・レイマン)氏は、aducanumabに関する2016年のNature論文を受けたエディトリアルで、βアミロイドを標的とした治療が認知機能の低下を遅らせると科学的に確認されたら「ゲームチェンジャー 」になるだろう、と述べている。aducanumabの臨床試験は、この考えを検証するためのテストに例えられる。Alzheimer’s Drug Discovery Foundation(アルツハイマーズドラッグディスカバリー財団)の創設者であるHoward Filit(ハワード・フィリット)氏は、フィナンシャル・タイムズの取材に対し、aducanumabを「βアミロイド仮説の最初の厳密なテスト」と称した

その意味で、今回の条件付き承認は、FDAがこの手法によるアルツハイマー病治療に好意的であるとも言える。

大手製薬会社の臨床試験では、少なくとももう1つ、Eli Lilly(イーライリリー)のβアミロイド標的薬がある。Biogenのaducanumabの確認試験でFDAが承認を取り消すようなことがなければ、近いうちにいくつかが承認されるかもしれない。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:米食品医薬品局 / FDAアルツハイマー病

画像クレジット:Nature

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(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

手術支援ロボットを手がけるMemicが約105億円の資金を調達

Memic(メミック)は、ロボット支援手術プラットフォームの開発を手がけ、最近、米国食品医薬品局から販売承認を取得したスタートアップ企業だ。同社は米国時間4月12日、9600万ドル(約105億円)を調達してシリーズD投資ラウンドを完了したと発表した。このラウンドはPeregrine Ventures(ペレグリン・ベンチャーズ)とCeros(セロス)が主導し、OurCrowd(アワークラウド)とAccelmed(アクセルメッド)が参加した。同社は今回の資金調達により、米国内でのプラットフォームの商業化と、米国外におけるマーケティングおよび販売活動の拡大を計画している。

Crunchbaseによると、同社は過去に総額3180万ドル(約34億8000万円)の資金を調達しており、そのうち約1250万ドル(約13億7000万円)はクラウドソーシングプラットフォームのOurCrowdを通じて調達している。

画像クレジット:Memic

同社が「Hominis(ホミニス)」と呼ぶプラットフォームは「良性子宮摘出術を含む単一部位の自然開口部経腟腹腔鏡下外科手術」への使用が認可されている。ただし、人間の介入なしにロボットが手術を行うわけではなく、外科医が中央のコンソールから装置とロボットアームを制御するということには留意しておくべきだろう。同社によると、この器具は外科医の腕の動きを再現するように設計されているという。現時点では、ある特定の種類の手術にしか認可されていないものの、このようなシステムが有益な他の手術にも幅広く使われることをMemicは目指している。

「Hominisシステムは、数十億ドル(数千億円)規模で成長を続けるロボット手術市場において、著しい進歩を象徴しています。今回の資金調達によって商業化への取り組みを加速させ、今後数カ月のうちに、Hominisを外科医と患者さんの両方のお役に立てていたくことができるようになります」と、Memicの共同設立者でCEOを務めるDvir Cohen(ドビル・コヘン)氏は述べている。

同じようなコンピュータ支援型の手術システムは、すでにさまざまな製品が販売されていることも記しておくべきだろう。例えば、2021年3月にはAsensus Surgical(アセンサス・サージカル)が、同社の腹腔鏡プラットフォームを一般外科手術に使用するためのFDA認可を取得した。一方、眼科手術用ロボットのスタートアップ企業であるForSight(フォーサイト)は最近、同社のプラットフォームのために1000万ドル(約11億円)のシード資金を調達している。

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しかし、MemicのHominisは、良性経膣手術に承認された最初のロボット機器であり、同社とその投資家は、これが将来的にさらなる使用例につながる最初の足がかりになると確信している。

「Hominisの幅広い可能性とMemicの強力な経営陣の組み合わせを考慮し、私たちは同社とその大胆なビジョンの実行を支援できることを誇りに思います」と、Peregrine VenturesのマネージングゼネラルパートナーであるEyal Lifschitz(エヤル・リフシッツ)氏は述べている。

カテゴリー:ロボティクス
タグ:Memic資金調達医療手術FDA

画像クレジット:Memic

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hirokazu Kusakabe)