Firewallaがギガビットの家庭用ファイアウォール「Purple」を発売

この数年で、Firewalla(ファイアウォーラ)のファイアウォール / ルーター兼用デバイスは、頼りになるハードウェアセキュリティツールとして、マニアや中小企業で有名になった。そのファイアウォーラがこの程、最新型デバイスFirewalla Purple(小型のギガビットファイアウォール兼ルーター、現行小売価格319ドル[約3万6000円])の出荷を開始した。

2015年創業のファイアウォーラが、Purple(パープル)で既存の製品ラインナップの穴を埋めようとしている。ファイアウォーラの現行ラインナップは、自宅および中小企業向けの100Mbpsおよび500Mbpsデバイス(価格帯は129~199ドル[約1万4000~2万2000円])、および大企業向けの3Gbps以上のデバイス(458ドル[約5万2000円])だ。しかし、多くの家庭でギガビットインターネット接続にアクセスできるようになったため、既存のラインナップの間にちょうどはまる機種としてパープルが登場した形だ。

画像クレジット:Firewalla

他の機種同様、パープルの中核機能もファイアウォールだが、デバイスにネットワーク監視機能があるため、当然もっとたくさんのことができる。インターネット使用状況の監視と管理に加えて、パープルでは、広告のフィルタリング、ペアレンタル・コントロールによるアダルトコンテンツへのアクセスのブロック、指定された時刻以降Xbox(エックスボックス)をオフラインにするなどの機能を用意している。また、VPNサーバーおよびクライアントとしても使用でき、ネットワークのあらゆる側面を詳細に管理する必要がある場合は、ファイアウォーラアプリを使用してネットワーク管理やトラフィックシェーピングなども行える。これを容易に実現するために、デバイスをネットワークと使用状況に合わせて分割またはグループ化して管理することもできる(筆者はすべてのデスクトップとIoTデバイスのグループを作成している)。

パープルのありがたい機能の1つに、Wi-Fiが内蔵されている点が挙げられる。これにより、トラベルルーターとして使える他、少し変則的だが、電話にテザリング接続することで、通常のインターネット接続がダウンしているときにもインターネット接続を維持することができる。

ファイアウォーラの共同創業者兼CEOであるJerry Chen(ジェリー・チェン)氏によると、このWi-Fi機能はもともと、同社のエンジニアたちが遊び感覚で試してみたかったものだという。そしてこれこそ、ファイアウォーラのデバイス開発に対する考え方を表す良い例だと思う。「すべて偶然の産物なのです」とチェン氏はいう。「トラベルルーター機能も本当に偶然に思いついたものです。[パープルに]フォールト・トレランス機能を組み込んでいたところ、エンジニアたちが『これも試してみたい』と言い出し、同じWi-Fiチップに別のチャネルを追加したのです」。

USB Cから電源を取るパープルは、ネットワークの設定に応じて、モデムとルーターの間に接続したり、他のイーサネット接続デバイスと同じように単純にルーターに接続することもできる。ファイアウォーラでは、これを非常に簡単に行うためのガイドを用意している。どちらの接続方法を選択しても、すべて稼働させるのに5分もかからない。

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ただし、1つ例外がある。Google Wifi(グーグルワイファイ)またはGoogle Nest(グーグルネスト)メッシュルーターでは、すべてのネットワークトラフィックを監視および管理するためにファイアウォーラで必要となる多数のネットワークモードがサポートされていない。そのため、これらのメッシュルーターを使用する場合は、設定が若干複雑になる。あるいは、メッシュネットワーク上のトラフィックについて一部の詳細情報を見ることができない場合もある。

チェン氏によると、ファイアウォーラはグーグルと話し合いの場を持とうとしたという。「グーグルワイファイの問題は、ユーザーフレンドリさが低いという点です」と同氏はいい、メッシュルーターは単純にブリッジモードやAPモードにすることができないため、少し面倒な回避策が必要となる理由について次のように説明した。「当社としてはグーグルワイファイを使わないで欲しいと思っています。グーグルワイファイはネットワークの王様になろうとしますが、そのようなデバイスは設定を複雑にするため、できれば避けたいのです」と率直な物言いのチェン氏は言った。

チェン氏によると、大半のファイアウォーラユーザーはプロ仕様の製品の購入者、すなわち、より高度なネットワーク機能を必要としている(必要だと思っている)ユーザーだという。こうしたユーザーは、これらのデバイスを中小企業でも使おうとすることが多い。Cisco(シスコ)などのベンダーのユーザーはいつでも複雑なネットワーク設定を好みがちだが、ファイアウォーラの利点は極めて簡単に設定できるところだ。

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「そうしたテック系の人たちからよく聞くのは『自宅で使えるものが欲しい。と言っても、職場で行うようなことを自宅でもやりたいというわけではない。それは複雑過ぎる。もっと使い勝手がシンプルで、なおかつ超簡単仕様ではないデバイスが欲しい』という声です」とチェン氏はいう。超簡単仕様とは「安全」と書いてあるボタンが用意されているようなデバイスだ。そんなボタンがあれば良いが、そもそもセキュリティはそんな風には実現できない。ファイアウォーラのユーザーが求めているのは、簡単にルールを作成でき、ニーズに応じてネットワークをチューニングできるような機能だ、と同氏はいう。「一番よいのはボタンなしのデザインです。ですがセキュリティに関してはそれは不可能です。セキュリティはボタンなしで実現できるようなものではありませんから」。

こうしたユーザーの要望を実現しているのは、慣れるのに少し時間はかかるものの、ほとんど直感的に操作できるデバイス管理用アプリだ。しかも、このアプリは、より詳細な設定が必要なら、カスタムのルートを設定したり、さらに掘り下げてネットワークの内部機能までカスタマイズできる。とはいっても、いつでも手取り足取り教えてくれるわけではない。すぐにわけが分からなくなってしまう可能性もある。最初の数日間は、大量のアラームが出る。これはあなたのネットワーク上で起こるトラフィックの何が正常で何が異常なのかをルータに教えてあげる必要があるからだ。

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ハードウェアに関しては、半導体不足と物流の危機的状況のためファイアウォーラとその生産ラインも影響を受けたものの、現在はパープルルーターを出荷できる状態にはなっている。だが、チェン氏によると、数年前はデバイスの製造に3週間、出荷に20日、関税の通過に数日程度だったが、今では数カ月を要することもある。その上、前金を支払ってチップの製造ラインを前もって確保しているものの、半導体製造業者の製造期間は以前より長くなることが多く、価格も上昇している。イーサネットMACチップは以前は数セント(数円)だったが、現在は数ドル(数百円)にまで上がっている、とチェン氏はいう。

チェン氏は、こうした状況がファイアウォーラにとってかなりのプレッシャーとなっていることを認めており、こうした遅延のため資金繰りも悪化しているという。パンデミックによって、自宅でもネットワークのセキュリティを確保したいという人が増え、同社は大きく成長できたが、その反面、さまざまな面で多くの課題にも直面することになった。しかし、その独創的な戦略で、この難局もうまく切り抜けることができた。例えば数台のパープルをベータテスター向けに確保したかったが生産ラインのフル稼働を開始できなかったため、100ユニットを少量生産することにした。少量生産はコストが高くなるが、サンプル生産として潜り込ませることができたため早く実施できた。

チェン氏が当座は実施しないだろうと思われるのは、外部資金の調達だ。ファイアウォーラはクラウドファンディングを早期に採用したスタートアップの1つだ。同社が創業当初、資金調達のためVCを回ったところ、VC各社は自宅でセキュリティツールを使う需要があることを理解していなかった。

「当社がVCから資金を調達しないのは、私がエンジニアだからです。テーブルに座ってVCと交渉し、何も分かっていない彼らに話を合わせることなど私にはできないのです」。

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Dragonfly)

輸送ネットワークをサイバー攻撃から守るShift5が57.7億円を調達

普段はあまり意識することはないかもしれないが、移動に使う電車や飛行機などの交通機関の背後には、電子機器やデバイス、データなどの広大なネットワークが張り巡らされており、そのおかげで電車は線路を走り、飛行機は空を飛ぶことができる。

たとえば米国時間2月8日に、5000万ドル(約57億7000万円)のシリーズB資金調達を発表したShift5(シフトファイブ)のような企業が、今日の交通ネットワークに不可欠なシステムを守ろうとしているのだ。Shift5によると、この分野は十分な支援を受けてはいないものの、急速に成長しているという。

輸送ネットワークは、列車や航空機、さらには戦車などの軍事機器の運行に不可欠な車載部品などの運用技術(OT)システムに依存しているが、かつては他と隔離されていたこれらのシステムがインターネットと接点を持つネットワークに徐々に加えられるケースが増えているため、サイバー攻撃を受けやすくなっている。

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OTネットワークへの攻撃は稀だが、OTシステムの障害は、数百万ドル(数億円)の損失やダウンタイムにつながり、また、事態が悪化した場合には安全上のリスクも生じる。米国政府のサイバーセキュリティ機関であるCISAは、重要インフラに対する脅威が高まっていると警告している。

しかし、OTシステムはその用途に応じて固有のものであることが多く、例えば戦車から部品を取り外してセキュリティの脆弱性をテストすることは現実的ではなく、また戦車を容易に入手することもできない。

Shift5はこの問題を解決するために、交通機関の企業やリーダーたちのOTネットワークに監視機能を提供し、全体的な攻撃対象を減らそうとしている。この監視機能は、脅威を検知し、インターネットベースの攻撃からシステムを守ることを目的としている。

その努力が実を結んでいるようだ。今回の資金調達は、前回の2000万ドル(約23億1000万円)のシリーズA資金調達からわずか数カ月後に行われた。2021年数百万ドル(数億円)規模の取引を行い、従業員数を倍増させたこともそれを後押ししたのだ。今回のシリーズBラウンドはInsight Partnersが主導し、シニアアドバイザーのNick Sinai(ニック・シナイ)氏がShift5の取締役に就任した。

Shift5は、今回のラウンドで調達した資金を、需要に対応するための人材への投資や、製品開発の強化に充てるとしている。

Shift5の社長であるJoe Lea(ジョー・リー)氏は「このいたちごっこは重要なインフラにも影響が及んでいて、防御側はその守備範囲を運用技術にまで広げなければなりません。この1年で証明されたことは、鉄道、航空、国防の各分野の主要な防御者たちが、先見性のあるリスクを認識し、コストを強いられる損害を未然に防ぐために動いているということです」と語っている。

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画像クレジット:Shift5

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(文:Zack Whittaker、翻訳:sako)

ザンジバルの住民にブロックチェーンで構築されたモバイルネットワークを届けるWorld Mobile Group

インターネットの急激な普及により、世界が急速にグローバル・ヴィレッジ(地球村)へと移行する中、一部の人々は、遠隔地にいるために取り残されやすい状況に置かれている。例えば、東アフリカの自治島であるザンジバルの大半の地域では、地上ケーブルや衛星ネットワークによるサービスが不足しており、人口の大部分がカバーされていない。しかし、世界的な通信事業者であるWorld Mobile Group(ワールド・モバイル・グループ)の計画が具現化すれば、今後数カ月のうちにザンジバルの住民たちの多くが初めてインターネットに接続することになるだろう。

World Mobileは、自由空間光通信やその他の無線送信機などのスペクトルを使用して、ラストマイル接続のインフラストラクチャを構築している。こうしたスペクトルはライセンスを必要とせず、より低コストのインターネットアクセスを実現できる。

このスペクトルが複数のエアノードに接続してメッシュネットワークを形成し、遠く離れた村へのインターネットカバレッジにつながっていく。

「大陸全体に敷設された光ファイバーは数多くありますが、私たちは光ファイバーのラストワンマイルに着目し、自由空間光学やその他の無線帯域のような、ライセンス不要の代替スペクトルを使用しています」と、World Mobile GroupのCEOで創業者のMicky Watkins(ミッキー・ワトキンス)氏はTechCrunchに語った。

ワトキンス氏によると、ライセンスを必要としない代替スペクトルを利用することで、大幅な節税効果が得られ、ユーザーにとってより安価なインターネット環境を生み出すことができるという。

「これらの代替スペクトルを使用してバックホール(アクセスノードとコアネットワーク間の接続)を構築し、人々がそのバックホールから受信できるデバイス(ノード)を作成します」とワトキンス氏。

持続可能性に向けて、このエアノードは約7000ドル(約79万円)の一時費用で民間主体が所有することになる。人々がそのアクセスポイントを介してインターネットに接続することで、収入、あるいは同通信事業者の暗号資産であるWorld Mobile Token(WMT)の形で報酬を受け取り、その初期投資は経時的に回収されていく。またこのネットワーク事業者は小規模金融機関と協働しており、ノードを購入する起業家に資金の融資を提供する。

各エアノードは、500〜700人に信頼性の高いWi-Fiインターネットを供給する。また、統合された太陽電池式投光器による公共照明などの補助的なユーティリティも備えている。

シェアリングエコノミーの概念は、メンテナンス、セキュリティ、リースにかかる運用コストを削減すると同時に、自立したビジネスモデルを支えるものだとワトキンス氏は述べている。

「今では住民に選択の余地があります。家畜を所有するのか、それとも電気通信インフラの一部を所有して電気通信プラットフォームを運営する方が良いだろうか?この選択肢はかつてなかったものです。それゆえ私たちは、Uber(ウーバー)やAirbnb(エアビーアンドビー)と同じように、シェアリングエコノミーモデルの下で運用を進めています」。

World Mobileは現在、5つのパイロットサイトで約3000の顧客にサービスを提供しているが、コネクティビティへの取り組みを加速させるため、2022年1月までに30サイトに拡大する計画だ。

ワトキンス氏によれば、現在のユーザーがインターネットの利用に費やす金額は月に4ドルほどだという。同事業者は、ユーザーがインターネットに接続するためにフィアット通貨の現金を投入したり、あるいは同社のデジタル通貨であるWMTを購入したりするベンダーのネットワークを有している。

World Mobileは、ザンジバルを5年以内にカバーするという野心的な計画を抱いている。150万人の全人口がインターネットを利用できるようにし、Zanlink(ザンリンク)のような従来のネットワーク企業や、通信ネットワーク拠点および通信事業者として知られるGlobalTT(グローバルTT)などの衛星インターネット企業との競争に乗り込む。

「海岸線全域、そして本土(タンザニア)とザンジバル境界との間を含む、ザンジバル全体でのコネクティビティを可能にするパイプラインを通じて、IoTの実装や人々のためのコネクティビティを確保する複数の取引が進んでいます」とワトキンス氏。

同社は、すでに操業を開始しているケニアとタンザニアで、今後数カ月のうちにこのネットワークを本格展開する予定だ。

ワトキンス氏はこう語る。「これは1つのムーブメントであり、住民たちが運営する世界最大のモバイルネットワークになる可能性があります。これまで誰も行ったことがないものです。それこそが、私たちの目指していることです」。

ザンジバルは東アフリカの自治島で、人気の観光地だ。World Mobile Groupは、接続されていないユーザーをオンラインにするためのラストマイル接続インフラを構築している(画像クレジット:World Mobile Group)

コネクティビティを活用したデジタル経済構築へのザンジバルの取り組み

インターネットに接続する市民の増加にともない、ザンジバル政府はデジタル経済のフレームワークの導入を開始した。この計画は10年余り棚上げされていたものである。

同政府が構想し現在進行中の数多くのアイデアの中には、コネクティビティを活用してブルーエコノミーを成長させること、そしてザンジバルのブルーエコノミーを違法な漁労者から守るソリューションを開発することが含まれている。

ザンジバルの海洋ベースの活動は、労働力の33%に雇用を提供し、島のGDPの29%超に貢献している。しかし、より優れたテクノロジーの力で、海洋ベースの富からさらに多くのことを実現できる可能性がある。

コネクティビティはまた、すべての管理タスクとプロセスの自動化につながるインフラストラクチャの構築にも寄与する。政府と市民、企業、従業員、政府機関との相互作用を可能にする電子政府システムが確立されることになる。この投資により、サービスや情報を求めて物理的にオフィスを訪れる必要がなくなった市民にとって、政府がよりアクセスしやすいものになるだろう。

「新政権はデジタル変革に真剣に取り組んでいます。そこに到達する必要があるのです。ただし、まず第一に、誰もが手頃な料金でインターネットにアクセスできるようにしていく所存です」と、E-Government Agency of Zanzibar(eGaz、ザンジバル電子政府機関)の事務局長Said Seif Said(サイード・シーフ・サイード)氏は語っている。

同機関は、公的機構全体におけるICTの普及を強化する政策、基準、その他の慣行を推進するために設立された。

「統合されたブルーエコノミーマネジメントシステムのような、新たなソリューションを導入する可能性があります。衛星自動識別システム、船舶マネジメントシステム、ドローンなどが含まれるものです。いずれの要素も、違法な未報告漁業や未登録漁業の問題の解決を目的としています。これらすべてのテクノロジーに、適切なコネクティビティが必要です」。

デジタル化の緊急性は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより部分的に拍車がかかり、ザンジバルのデジタル政府とデジタル経済の計画を加速させた。ザンジバルは現在、こうした移行に向けてペースを速め、失った時間を埋め合わせようとしている。

「新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、あらゆることを行う上での方法に大きな変化が生じました。市民が必要なことを自宅で行えるよう、支援する体制を整えなければなりません。ICTを適切に活用し、手の届きやすい、効果的かつ効率的な方法で、国全体の行政サービスにアクセスできるようにする必要があります。そこで、World Mobile GroupとInput Output Global(IOG、インプット・アウトプット・グローバル)との連携が重要な役割を担っています」とサイード氏は続けた。

今回の提携では、Cardano(カルダノ)ブロックチェーンを支えるブロックチェーンおよびデジタルID企業のIOGが「追跡可能なデジタル識別」を提供する。レジストリシステムにブロックチェーンテクノロジーを実装し、ザンジバルのシステムの自動化を進めていく。また、バックエンドの政府システムを統合して、ビジネスプロセスの自動化を可能にし、政府機関内のコミュニケーションフローの促進を図る。

World Mobileの加入者は、教育、銀行、医療などのサービスに向けたIOGのデジタル識別ソリューションAtala PRISM(アタラ・プリズム)にアクセス可能となる。

一方、ザンジバルはブロックチェーンアカデミーを立ち上げ、2022年の初めには、ブロックチェーンの未来の中心地となる観光地として自らを位置づけ、カンファレンスを開催する予定である。

画像クレジット:World Mobile Group

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(文:Annie Njanja、翻訳:Dragonfly)

【コラム】屋上レンタル、米国の不動産所有者は5Gキャリアと手を結ぶべきだ

5Gインフラを敷設する動きが活発になり各社の競争が激しくなるに連れ、レストラン、ホテル、住居用建物、さらには病院や教会の屋上までもがインフラ敷設場所として注目されている。5Gテクノロジーを人口密度の高い地域に確立したいと考えるテレコミュニケーション会社にとって、こうした屋上は急速に重要な不動産ターゲットとなりつつある。

事実、次世代のワイヤレス展開から得られるリース収入は、今後5年間で、米国内のリース収入の大きな部分を占めると考えられており、不動産所有者や事業主にとって大きなチャンスとなる。

バイデン政権は、5Gインフラの拡大を国の主要課題として位置付けている。1.2兆ドル(約137兆円)のインフラ投資法では、農村部やサービスが十分行き届いていない地域でも高速回線を利用できるようにするための財源として650億ドル(約7兆4000億円) が確保されている。5Gは他のワイヤレステクノロジーと比べて高速で大容量のデータを処理できるが、カバーできる範囲は最大で 約1500フィート(約457メートル)と、ぐっと狭い。

5G テクノロジーは、次世代ワイヤレスネットワークとしてはアンテナが短いため、既存の建物の屋上に敷設するのに非常に適している。

大手ワイヤレス通信プロバイダーに加え、5Gの展開競争には新たにケーブル会社やビックテック企業も含まれている。これらの企業は、5Gマクロおよびスモールセルサイトを配備するために、合わせて2750億ドル(約31兆円)を投資すると予測されている。必要な量の配備を効果的かつ効率的に行う唯一の方法は、既存の建物を利用することである。言い換えれば、5G競争を乗り切るには、屋上配備戦略の採用が鍵になるのだ。

歴史的に言って、ワイヤレス通信市場は不動産所有者やその他の事業主にとっては厳しい市場だった。ワイヤレスキャリアとタワー企業が長期契約を結んでおり、不動産所有者にとって有利とはいえない状況になっていたのだ。

多くの地域では、新しいタワーを立てることに強い反対の声があり、さらに建設、ゾーニング、許可プロセスには時間がかかる。しかし、5G テクノロジーは、次世代ワイヤレスネットワークとしてはアンテナが短く、既存の建物の屋上に敷設するのに非常に適している。現在5Gキャリアにとって、ワイヤレスに関する不動産要件を満たすには、タワー企業より大手不動産業者のほうが、迅速に効率よくソリューションを提供してくれる相手となっている。

屋上配備戦略は、5Gキャリアにとっても不動産所有者にとっても互いにメリットがある。キャリアは使用量の多い地域でできる限り迅速にインフラを配備するという目的を達成することが可能であり、一方不動産所有者は、屋上からリース料を得、すでに所有する不動産を新たな方法で収益化するという経済的利益を得ることができる。

不動産所有者の経常利益に与える影響と、30年リースで生み出されるであろう利益は相当なものであり、不動産所有者は資本へアクセスしやすくなる。さらに不動産所有者は、5Gキャリアに屋上を貸すことで使用料を得ることができるだけでなく、高速回線への接続という意味で、テナントにより質の高いサービスを提供することもできる。

5G展開競争で問題になっている事柄

米国にとって、競争に遅れを取らず国際的な競争力を保つためにも5Gインフラの展開は非常に重要である。5Gは高速での接続、キャパシティの増加、ゼロ遅延をもたらすが、5Gにより期待されるのは、自動運転車や遠隔医療の拡大、製造や農業の効率化、サプライチェーン管理の改善まで、さまざまな事業サービスを可能にするイノベーションの推進である。

これらのイノベーションから生み出される利益すべてを考慮すると、5Gは2025年までに米国のGDPのうち、1兆5000億ドル(約170兆円)以上をもたらすと予測される。

またバイデン政権は、5Gテクノロジーとユニバーサルブロードバンドを、地方に暮らす人々に経済的な平等もたらす手段と考えている。政策声明によると、農村部では都市部と比較して信頼のおけるインターネットの利用が10分の1に限られているとのことである。

最近バイデン大統領が署名したインフラ投資法においては、大統領も国会も農村部におけるブロードバンドインフラへの投資を優先し、十分サービスが提供されていない地域でのインターネットへのアクセスを拡大し、デジタル上の分断を是正したい考えだ。このため、農村部の不動産所有者は5Gインフラの展開からより多くの利益を得ることができるだろう。

強力な5Gネットワークを米国内に確立するには時間がかかるだろう。5Gプロバイダーやワイヤレスキャリアと手を結ぶ不動産所有者は、5Gテクノロジーのサイバーセキュリティにまつわる考慮事項について、しっかり情報提供を受け、それを理解しなければならない(これらの考慮事項が、提携の足かせになると考える必要はない)。というのも不動産所有者は5Gインフラを自身の不動産に配備し、そこからのワイヤレスネットワークを入居者に提供することになるからである。

最近2,300人以上のリスク管理者および他の責任者を対象にAonが行った調査では、サイバーリスクは現在のそして将来予想される世界的リスクの第一位として位置付けられた。5Gが普及し接続性が高まることは確実である。つまり、サイバーセキュリティ業界は機械学習や人工知能を改善しそれを広く活用し防御を強化する必要があるのである。

また最近では、不動産業界におけるサイバーセキュリティ強化を促進するためのガイダンスやフレームワークを提供する Building Cyber Securityといった組織も立ち上げられている。

不動産所有者が効率よく屋上を収益化し5G競争に参画するには、政府や民間企業が5G敷設要件の審査をタイムリーに行うことも含め、引き続き迅速な5Gインフラの配備に向け協力して作業を進めていく必要がある。

これに加えて、州や地域レベルでも、5Gアンテナの敷設に関するゾーニングや認可プロセスを改善する作業をもっと進める必要がある。多くの州議会がすでに州民の利益になる5G戦略を策定するための法案を検討中であり、これにより、不動産所有者にも新たな機会が提供されることが見込まれる。

5Gの競争を促進するためは、より多くの政策や技術的な作業が必要だが、不動産所有者が利益を手にする機会は、目の前に手に取れる形で存在している。新型コロナウイルス感染症によって経済的打撃を受けたレストラン経営者やホテル業者が立ち直ろうとする中、屋上の収益化は、店を閉じるしか選択肢がなかった状態との違いを生み出すことになるだろう。

編集部注:本稿の執筆者James Trainor(ジェームズ・トレーナー)氏は、FBIのサイバー部門の元アシスタントディレクターで、Aonのシニアバイスプレジデント。Rick Varnell(リック・ヴァーネル)氏とMatt Davis(マット・デイビス)氏は、いずれも5G LLCの創設者であり、プリンシパル・パートナー。

画像クレジット:skaman306 / Getty Images

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(文:James Trainor、Rick Varnell、Matt Davis、翻訳:Dragonfly)

アマゾンが数日でプライベートモバイルネットワークの設置・拡張できるAWS Private 5Gのプレビュー版公開

米国時間11月30日午前、Amazon(アマゾン)のAWS re:Inventカンファレンスで、同社はAWS Private 5G(AWSプライベート5G)のプレビューを発表した。ユーザーが独自のプライベートネットワークを容易に展開、管理するサービスだ。新機能の狙いは、現在多くの企業が直面している5Gの活用という課題に対応することだ。AWSのCEOであるAdam Selipsky(アダム・セリプスキー)氏は、AWS Private 5Gを使えば、プライベートモバイルネットワークの設置と拡張が数カ月ではなく数日でできるようになる、と語った。

「モバイル・テクノロジーの利点を、長い計画サイクルや複雑な統合、高額の初期費用といった障壁なく享受することができます」とセリプスキー氏が基調講演で述べた。「ネットワークをどこに作りたいのか、ネットワーク容量をどうしたいのかを当社に知らせていただければ、必要なハードウェアとソフトウェアにSIMカードをお送りします」。

画像クレジット:AWS

セリプスキー氏は、AWS Private 5Gがネットワークの設定、展開を自動的に行い、デバイスの追加やネットワークトラフィックの増加に合わせて、容量をオンデマンドで拡張できることを説明した。初期費用やデバイス当たりのコストはかからず、顧客は要求したネットワーク容量とスループットに対してのみ料金を支払う。

「多くのお客様が、さまざまな制約に対応するために独自のプライベート5Gネットワーク構築を望んでいますが、プライベートモバイルネットワークの展開には、多くの時間と費用、予測されるピーク容量に合わせたネットワーク設計が必要になり、複数ベンダーのソフトウェアとハードウェアのコンポーネントを購入、統合しなくてはなりません。また、お客様自身でネットワークを構築できたとしても、現在のプライベートモバイルネットワーキングの価格モデルでは接続デバイスごとに課金されるため、数千台のデバイスを利用するケースでは価格的に利用が困難です」と新サービスを紹介するブログで会社は述べた。

Amazonは、AWS Private 5Gは展開を簡易化することで、顧客が独自の4G/LTEあるいは5Gのネットワークを迅速に展開し、接続デバイス数を容易に増減できること、使い慣れたオンデマンドクラウドの価格モデルを利用できることなどを説明している。

AWS Private 5Gのプレビュー版は米国で公開される。利用するためには、ここで申し込みができる。

画像クレジット:AWS

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(文:Aisha Malik、翻訳:Nob Takahashi / facebook

一般電話での国際衛星通信を実現するLynk、商用化に向けて準備中

Lynk(リンク)の衛星ネットワークの登場により「電波が届かない」という時代は終わるかもしれない。Lynkの衛星ネットワークでは、最新の携帯電話が、特別なアンテナやチップを必要とせず、頭上の衛星と直接データを交換することができるようになる。同社は今週、双方向データリンクのデモンストレーションを行い、アフリカとバハマでの最初のネットワークパートナーを発表したばかりだが、順調にいけば、世界のどこでも電波を受信できるようになる日もそう遠くないかもしれない。

かつてUbiquitilink(ユビキティリンク)と呼ばれていたLynkは、元Nanoracks(ナノラック)の創業者であるCharles Miller(チャールズ・ミラー)氏を中心に、何年も前からこの段階に向けて取り組んできた。彼らは2019年の初めにまったく知られていない状態から突如姿を現し、普通の電話機が地球低軌道の衛星に接続できるという理論を示すために、いくつかのテスト衛星を打ち上げたと説明してみせた。初期のテストでは、ノイズやドップラーシフトなど、一部の専門家から「不可能」と言われていた要素を打ち消すことができたことが実証され、2020年には、衛星から直接、普通の電話機に初めてSMSを送信した。

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それだけでも、政府やネットワーク事業者にとっては注目すべき便利な機能だったはずだ。自然災害や停電などの緊急時には、通常のモバイルネットワークでは重要なメッセージを被災地に届けることができないからだ。Lynkは、衛星を使って都市全体に避難メッセージを送ることができることを示し、この技術が実際に将来的に使われる1つの例になるかもしれない。

しかし、先週初めて、同社は携帯電話と衛星(同社の5番目の衛星[Shannon]との間の双方向接続を実演してみせた。これにより、特別な装置を持たない地上の人間でも、頭上にLynkの衛星があれば、データの受信と送信の両方が可能になる。もちろん大したデータ量ではないが、SMSやGPSの位置情報、天気予報などには十分すぎるほどのデータ量だ(後により多くの衛生が配置ができるようになると、より多くのデータ量に対応する)。

「私たちは、携帯電話が宇宙のセルタワーに接続するために必要な双方向通話フローを何度も実証してきました。この双方向通話フローには、機器がチャネルアクセスを要求し、それに対応する認証や位置情報の更新手続きを含む、アップリンクとダウンリンクの複数のシグナリングが含まれます。現在までに、英国、バハマ、米国で数百台の携帯電話でこれを実現しています。これまで衛星セルタワーでは実証されてきておらず、Lynkがそれを成し遂げたのです」。とミラー氏はプレスリリースの中で述べている。

これはゲームチェンジャーと言っても過言ではないだろう。同社がさらにいくつかの衛星を軌道に乗せれば、地球上のかなりの部分をカバーすることができる。確かに電波の幅は狭く、断続的ではあるが、ハイキング中に足首を骨折したり、ハリケーンで街が停電したときに家族に無事を知らせるためには、何もないよりははるかにマシだ。

画像クレジット:Lynk

「いつでもどこでもテキストメッセージを送ることができるということは、すべての安全の基礎となります。友人や家族、隣人にメッセージを送ることができれば、それだけで命を救うことができます。あなたは必要ないかもしれませんが、あなたの奥さんや旦那さんは、心配しなくてすむためにも欲しいと思っているはずです。人々は安心を買っているのです」とミラー氏は教えてくれた。

まずは、より多くの人が緊急サービスを受けられるようにすることが先決だという。911コールはまだ無理でも、基本的な情報や座標を含むSOSメッセージは確実に可能であり、このサービスは、完全に彼ら次第というわけではないが、ゼロもしくは最小限のコストで提供されるようにしたいという。しかし、公式の緊急サービスに関連するものはすべて無料となるだろう。

通常のメッセージ機能は、通常の電波と同じように、衛星が頭上にあるときにリアルタイムで送信するか、送信ボックスや送信予約に入れておいて、宇宙ベースのネットワーク通信バーが表示されたときに送信するかのどちらかになる。

世界中のどこにいても、何があっても自分のいる場所の天気予報を配信できるデモアプリを無料で提供する予定で、ミラー氏は、ぜひ携帯電話メーカーやアプリメーカーと協力して、彼らのOSやサービスに統合したいと述べている。

驚くべきことに、アクセスにはユーザーはほとんど何も必要ない。軌道上にある電波塔なので、衛星が利用可能になると、他の通信事業者のセルタワーと同じように、あなたの携帯電話に通知してくれる。携帯電話というのは、あなたが使用しているネットワーク以外にも、周囲のさまざまなネットワークを常に認識している。異なるタワーに問い合わせ、信号を他のタワーに引き継いだり、何らかの理由でネットワークに再登録したりと、バックグラウンドでは常に相互作用が行われている。ユーザーは何らかの方法でそれを承認しなければならないが、それを手助けするアプリや、ネットワーク間の契約も用意される。

この点については、まずバハマのAliv(アリヴ)、中央アフリカ共和国のTelecel Centrafrique(テレセル・セントラフリック)と提携している。ミラー氏によると、米国を含む数十カ国のネットワーク事業者と交渉中とのことだが、これらの小規模な展開はその第一歩であり、現地の人々が本当に必要としているものだ。中央アフリカの農村部とバハマの離島には、あまり共通点がないかもしれないが、電波の届かない地域が広いという点では共通している。

通信事業者がどのような料金を設定しようとも、Lynkはその分け前を得ることができる。ミラー氏は、ネットワーク事業者の判断に委ねているという。「人々はメッセージごとに妥当な価格を支払うでしょう。最初のうちは1メッセージあたり5セント(約5円)、10セント(約10円)、20セント(約20円)としておけば、パートナーの判断に任せることができ、人々はそれにお金を払うでしょう」。時間の経過とともにサービスが普及し、Lynkが提供する費用が安くなれば、価格も下がることになるだろう(おそらく)。

常に接続されているという考えは、当然ながら、多くの人が持つプライバシーに関する考えとぶつかる可能性がある。しかし、ミラー氏は、自分たちは顧客データに興味がないことを強調した。「あなたは私たちの顧客であって、私たちの製品ではありません。私たちは興味がありません。それは非常に危険なことです」と述べている。911番通報やSOSメッセージが位置情報の提供を暗黙の了解としているという大きな例外を除いて、意図的にこの種の衝突を避けるよう構築しているという。

同社は現在、世界中の数十社のネットワーク事業者と交渉を進めているが、FCC(米国連邦通信委員会)の意見を聞く必要がある米国のように、規制や市場に関する問題が残っている地域も多い。しかし、ミラー氏は、自分たちが世界の通信インフラの主要な部分になるだろうと確信している。

「ポケットの中のスマートフォンは、人間としての能力を拡大してくれるスーパーパワーのようなものです。しかし、接続されていないと、その能力は失われてしまいます。私たちはその問題を解決しているのです」。とミラー氏は語った。

画像クレジット:Ubiquitilink

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Akihito Mizukoshi)

ソフトバンクが2030年代の「Beyond 5G」「6G」のコンセプトと12の挑戦を公開

ソフトバンクが次世代移動体通信規格「Beyond 5G」「6G」に向けた12の挑戦を公開ソフトバンクは、2030年代の商用化が期待されている、次世代移動体通信規格「Beyond 5G」および「6G」に向けた12の挑戦を公開しました。

内容としては、5Gの「ミリ波」よりもさらに高い周波数帯「テラヘルツ波」の利用や、無人の電気飛行機を使って成層圏に携帯基地局を浮かべる「HAPS」、LEO(低軌道通信衛星)を活用した、100%のエリアカバレッジなどが紹介されています。全文は下記の通りです。

(1)ベストエフォートからの脱却

これまでのモバイルネットワークでは、スマートフォンをインターネットに接続するベストエフォートなサービスを提供してきました。例えば、ネットショッピングや動画のストリーミング視聴といった、多少の遅延やパケットロスが発生しても生活に支障が生じにくいアプリケーションを提供してきました。6Gのモバイルネットワークでは、さまざまな産業を支える社会インフラの実装が期待されており、各産業が要求するサービスレベルに見合った、品質の高いモバイルネットワークを提供する必要があります。ソフトバンクは、日本全国を網羅するモバイルネットワークに、MEC(Mobile Edge Computing)やネットワークスライシングなどの機能を実装して、産業を支える社会インフラを実現していきます。

(2)モバイルのウェブ化

インターネットは、これまで多くのIT企業によってシステムやプロトコルの改善がなされ、進化を続けてきました。一方、モバイルネットワークは、クローズドなネットワークであるため、世界的に標準化される以上に進化を遂げることはありません。今後、モバイルネットワークのサービスの幅を広げるために、より柔軟なアーキテクチャーに生まれ変わることが期待されます。6Gでは、ウェブサービスのアーキテクチャーを取り込むことで、さらにお客さまに便利なサービスを提供できると考えて、研究開発を進めていきます。

(3)AIのネットワーク

AI技術は、画像認識による物体の検知や、音声認識・翻訳だけではなく、ネットワークの最適化や運用の自動化など、幅広く適用されるようなりました。同時に、無線基地局を含むモバイル通信を支えるネットワーク装置では、汎用コンピューターによる仮想化も進んできました。AI技術と、ネットワーク装置の仮想化は、いずれもGPU(Graphic Processing Unit)によって効率的に処理できるソフトウエアです。モバイルネットワーク上にGPUを搭載したコンピューターを分散配置することで、低コストで高品質なネットワークとサービスの提供が可能になります。ソフトバンクは、2019年からGPUを活用した仮想基地局の技術検証に取り組んでおり、AI技術とネットワークが融合したMEC環境を実現していきます。

(4)エリア 100%

6Gでは、居住エリアで圏外をなくすことや、地球すべてをエリア化することが求められます。ソフトバンクは、HAPSやLEO(低軌道)衛星、GEO(静止軌道)衛星を活用した非地上系ネットワークソリューションを提供することで、この問題を解決します。これにより、世界中で30億を超えるインターネットに接続できない人々に、インターネットを提供することが可能になります。また、これまで基地局を設置できなかった海上や山間部、さらには上空を含むエリアにモバイルネットワークを提供することが可能になり、自動運転や空飛ぶタクシー、ドローンなど新しい産業を支えるインフラとなります。

(5)エリアの拡張

ソフトバンクの子会社であるHAPSモバイルは、2017年から成層圏プラットフォームと通信システムの開発に取り組んでいます。2020年にはソーラーパネルを搭載した成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「Sunglider」(サングライダー)が、ニューメキシコで成層圏フライトおよび成層圏からのLTE通信に成功し、HAPSが実現可能であることを証明しました。このフライトテストで得た膨大なデータを基に、商用化に向けて機体や無線機の開発、レギュレーションの整備などを進めていきます。

(6)周波数の拡張

5Gでは、これまで移動体通信で利用されることがなかったミリ波が利用できるようにしました。6Gでは、5Gの10倍の通信速度を実現するため、ミリ波よりも高い周波数のテラヘルツ波の活用が期待されています。一般的に、100GHzから10THzまでがテラヘルツ帯とされ、2019年に開催された世界無線通信会議(WRC-19)では、これまで割り当てられたことがなかった275GHz以上の周波数の中で、合計137GHzが通信用途として特定されました。この広大な周波数を移動通信で活用することで、さらなる超高速・大容量の通信の実現を目指します。

(7)電波によるセンシング

ソフトバンクは、これまで電波を主に通信用途で活用してきましたが、6G時代では通信以外の用途でも活用することが可能になります。例えば、Wi-Fiの電波を使用して、屋内で人の位置を特定する技術はすでに実用化されている他、Bluetoothを位置情報のトラッキングに利用するケースもあります。6G時代では、電波を活用して、通信と同時にセンシングやトラッキングなどを行うサービスの提供を目指します。

(8)電波による充電・給電

スマートフォンなどのデバイスは、Qi規格による無接点充電技術が多く使用されていますが、距離が離れてしまうと充電・給電ができないという欠点があります。6G時代には、電池交換や日々の充電から解放される未来がやってくると期待しており、距離が離れても電波を活用した充電・給電を行える技術の研究開発を進めていきます。

(9)周波数

周波数は、これまで各事業者が占有して利用することを前提に割り当てられてきましたが、IP技術を無線区間に応用することで、時間的・空間的に空いている帯域を複数事業者で共有することも可能になると考えます。Massive MIMOやDSS(Dynamic Spectrum Sharing)などの多重化技術がすでに確立されていますが、これらを含めた技術をさらに発展させて周波数の有効活用を進めていきます。

(10)超安全

2030年には、量子コンピューターの実用化まで開発が進むと言われています。量子コンピューターが実用化されると、現在インターネットの暗号化に使われているRSA暗号の解読ができるようになり、通信の中身を盗まれる可能性があります。将来、通信インフラの上に成り立つ産業全体を守るために、耐量子計算機暗号(PQC)や量子暗号通信(QKD)などの技術検証に取り組み、発展させることで、超安全なネットワークの実現を目指します。

(11)耐障害性

モバイルネットワークは、5G以降により一層社会インフラとしての役割が強くなってくると考えており、通信障害が発生した場合でも社会インフラとして維持し続ける必要があります。そこで、従来のネットワークアーキテクチャーを見直すことで、障害が起こりにくいネットワークを構築するとともに、万が一、障害が発生した場合でもサービスを維持できるようなネットワークの技術の研究開発を進めていきます。

(12)ネットゼロ

大量のセンサーやデバイスからのデータ、あらゆる計算機によるデータ処理によって、CO2排出量を常時監視・観察ができるようになると、温室効果ガスの排出を実質ゼロにするネットゼロの達成に大きく寄与できると考えられます。しかし、常にセンサーなどで監視されることになるため、プライバシー情報の取り扱いや情報セキュリティーといった課題を解決することも必要になります。また、基地局自体もカーボンニュートラルな運用を目指しています。現在、災害時でもネットワークを稼働させるため、基地局の予備電源の設置が義務付けられていますが、電源を普段から活用することや、日中に充電した電気を夜間に使うことで、温室効果ガスの排出量を抑えることができます。さらに、通信量に応じてリアルタイムな基地局の稼働制御を行うことで、消費電力を最小化することも可能になります。カーボンフリーな基地局の実現に向けて研究開発を進めていきます。

(Source:ソフトバンクEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:衛星コンステレーション(用語)エッジコンピューティング(用語)カーボンニュートラル(用語)GEO / 静止軌道(用語)ソフトバンク / SoftBank(企業)耐量子計算機暗号 / PQC(用語)テラヘルツ波(用語)ドローン(用語)ネットワーク(用語)HAPS / 成層圏通信プラットフォーム(用語)HAPSモバイル(企業)Beyond 5G / 6G(用語)5G(用語)量子暗号(用語)量子暗号通信 / QKD(用語)量子コンピューター(用語)LEO / 地球低軌道(用語)日本(国・地域)

テクノロジーと災害対応の未来3「接続性、地球が滅びてもインターネットは不滅」

インターネットは、神経系のように世界中で情報伝達を司っている。ストリーミングやショッピング、動画視聴や「いいね!」といった活動が絶えずオンラインで行われており、インターネットがない日常は考えられない。世界全体に広がるこの情報網は思考や感情の信号を絶え間なく送出しており、私たちの思考活動に不可欠なものとなっている。

では機械が停止したらどうなるだろうか。

この疑問は、1世紀以上前にE.M. Forster(E・M・フォースター)が短編小説で追求したテーマである。奇しくも「The Machine Stops(機械は止まる)」と題されたその小説は、すべて機械に繋がれた社会においてある日突然、機械が停止したときのことを描いている。

こうした停止の恐怖はもはやSFの中だけの話ではない。通信の途絶は単に人気のTikTok動画を見逃したというだけでは済まされない問題だ。接続性が保たれなければ、病院も警察も政府も民間企業も、文明を支える人間の組織は今やすべて機能しなくなっている。

災害対応においても世界は劇的に変化している。数十年前は災害時の対応といえば、人命救助と被害緩和がほぼすべてだった。被害を抑えながら、ただ救える人を救えばよかったとも言える。しかし現在は人命救助と被害緩和以外に、インターネットアクセスの確保が非常に重要視されるようになっているが、これにはもっともな理由がある。それは市民だけでなく、現場のファーストレスポンダー(初動対応要員)も、身の安全を確保したり、ミッション目的を随時把握したり、地上観測データをリアルタイムで取得して危険な地域や救援が必要な地域を割り出すため、インターネット接続を必要とすることが増えているからだ。

パート1で指摘したように、災害ビジネスの営業は骨が折れるものかもしれない。またパート2で見たように、この分野では従来細々と行われていたデータ活用がようやく本格化してきたばかりだ。しかし、そもそも接続が確保されない限り、どちらも現実的には意味をなさない。そこで「テクノロジーと災害対策の未来」シリーズ第3弾となる今回は、帯域幅と接続性の変遷ならびに災害対応との関係を分析し、気候変動対策と並行してネットワークのレジリエンス(災害復旧力)を向上させようとする通信事業者の取り組みや、接続の確保を活動内容に組み入れようとするファーストレスポンダーの試みを検証するとともに、5Gや衛星インターネット接続サービスなどの新たな技術がこうした重要な活動に与える影響を探ることとする。

地球温暖化とワイヤレスレジリエンス

気候変動は世界中で気象パターンの極端な変化を招いている。事業を行うために安定した環境を必要とする業界では、二次的・三次的影響も出ている。しかし、こうした状況の変化に関し、通信事業者ほどダイナミックな対応が求められる業界はほぼないだろう。通信事業者は、これまでも暴風雨によって何度も有線・無線インフラを破壊されている。こうしたネットワークのレジリエンスは顧客のために必要とされるだけではない。災害発生後の初期対応において被害を緩和し、ネットワークの復旧に努める者にとっても絶対的に必要なものである。

当然ながら、電力アクセスは通信事業者にとって最も頭を悩ませる問題だ。電気がなければ電波を届けることもできない。米国三大通信事業者のVerizon(ベライゾン、TechCrunchの親会社のVerizon Mediaを傘下に擁していたが、近く売却することを発表している)、AT&T、T-Mobile(Tモバイル)も近年、ワイヤレスニーズに応えるとともに、増え続ける気象災害の被害に対処するため、レジリエンス向上の取り組みを大幅に増強している。

Tモバイルにおいて国内テクノロジーサービス事業戦略を担当するJay Naillon(ジェイ・ナイロン)シニアディレクターによれば、同社は近年、レジリエンスをネットワーク構築の中心に据え、電力会社からの給電が停止した場合に備えて基地局に発電機を設置している。「ハリケーンの多い地域や電力供給が不安定な地域に設備投資を集中させている」という。

通信3社すべてに共通することだが、Tモバイルも災害の発生に備えて機器を事前に配備している。大西洋上でハリケーンが発生すると、停電の可能性に備えて戦略的に可搬型発電機や移動式基地局を運び入れている。「その年のストーム予報を見て、さまざまな予防計画を立てている」とナイロン氏は説明する。さらに、非常事態管理者と協力して「さまざまな訓練を一緒に行い、効果的に共同対応や連携」を図ることで、災害が発生した場合に被害を受ける可能性が最も高いネットワークを特定しているという。また、気象影響を正確に予測するため、2020年からStormGeo(ストームジオ)とも提携している。

災害予測AIはAT&Tでも重要となっている。公共部門と連携したAT&TのFirstNetファーストレスポンダーネットワークを指揮するJason Porter(ジェイソン・ポーター)氏によれば、AT&Tはアルゴンヌ国立研究所と提携し、今後30年にわたって基地局が「洪水、ハリケーン、干ばつ、森林火災」に対処するための方策と基地局の配置を評価する気候変動分析ツールを開発したという。「開発したアルゴリズムの予測に基づいて社内の開発計画を見直した」とポーター氏は述べ、少なくとも一定の気象条件に耐えられるよう「架台」に設置された1.2~2.4メートル高の脆弱な基地局を分析して補強していると語った。こうした取り組みによって「ある程度被害を緩和できるようになった」という。

またAT&Tは、気候変動によって不確実性が増す中で信頼性を高めるという、より複雑な問題にも対処している。近年の「設備展開の多くが気象関連現象に起因していることが判明するのにそれほど時間はかからなかった」とポーター氏は述べ、AT&Tが「この数年、発電機の設置範囲を拡大することに注力」していると説明した。また可搬式のインフラ構築も重点的に行っているという。「データセンターは実質すべて車両に搭載し、中央司令室を構築できるようにしている」とポーター氏は述べ、AT&T全国災害復旧チームが2020年、数千回出動したと付け加えた。

さらに、FirstNetサービスに関し、被災地の帯域幅を早急に確保する観点から、AT&Tは2種類の技術開発を進めている。1つは空から無線サービスを提供するドローンだ。2020年、記録的な風速を観測したハリケーン・ローラがルイジアナ州を通過した後、AT&Tの「基地局はリサイクルされたアルミ缶のように捻じ曲がってしまったため、持続可能なソリューションを展開することになった」とポーター氏は語る。そして導入されたのがFirstNet Oneと呼ばれる飛行船タイプの基地局だ。この「飛行船は車両タイプの基地局の2倍の範囲をカバーする。1時間弱の燃料補給で空に上がり、文字通り数週間空中に待機するため、長期的かつ持続可能なサービスエリアを提供できる」という。

ファーストレスポンダーのため空からインターネット通信サービスを提供するAT&TのFirstNet One(画像クレジット:AT&T/FirstNet)

AT&Tが開発を進めるもう1つの技術は、FirstNet MegaRangeと呼ばれるハイパワーワイヤレス機器である。2021年に入って発表されたこの機器は、沖合に停泊する船など、数キロメートル離れた場所からシグナルを発信でき、非常に被害の大きい被災地のファーストレスポンダーにも安定した接続を提供できる。

インターネットが日常生活に浸透していくにつれ、ネットワークレジリエンスの基準も非常に厳しくなっている。ちょっとした途絶であっても、ファーストレスポンダーだけでなく、オンライン授業を受ける子どもや遠隔手術を行う医師にとっては混乱の元となる。設置型・可搬型発電機から移動式基地局や空中基地局の即応配備に至るまで、通信事業者はネットワークの継続性を確保するために多額の資金を投資している。

さらに、こうした取り組みにかかる費用は、温暖化の進む世界に立ち向かう通信事業者が最終的に負担している。三大通信事業者の他、災害対応分野のサービスプロバイダーにインタビューしたところ、気候変動が進む世界において、ユーティリティ事業は自己完結型を目指さざるを得ない状況になっているという共通認識が見られた。例えば、先頃のテキサス大停電に示唆されるように、送配電網自体の信頼性が確保できなくなっていることから、基地局に独自の発電機を設置しなければならなくなっている。またインターネットアクセスの停止が必ずしも防げない以上、重要なソフトはオフラインでも機能するようにしておかなければならない。日頃動いている機械が停まることもあるのだ。

最前線のトレンドはデータライン

消費者である私たちはインターネットどっぷりの生活を送っているかもしれないが、災害対応要員はインターネットに接続されたサービスへの完全移行に対し、私たちよりもずっと慎重な姿勢を取っている。確かに、トルネードで基地局が倒れてしまったら、印刷版の地図を持っていればよかったと思うだろう。現場では、紙やペン、コンパスなど、サバイバル映画に出てくる昔ながらの道具が今も数十年前と変わらず重宝されている。

それでも、ソフトウェアやインターネットによって緊急対応に顕著な改善が見られる中、現場の通信の仕組みやテクノロジーの利用度合いの見直しが進んでいる。最前線からのデータは非常に有益だ。最前線からデータを伝達できれば、活動計画能力が向上し、安全かつ効率的な対応が可能となる。

AT&Tもベライゾンも、ファーストレスポンダー特有のニーズに直接対処するサービスに多額の投資を行っている。特にAT&Tに関してはFirstNetネットワークが注目に値する。これは商務省のファーストレスポンダーネットワーク局との官民連携を通して独自に運営されるもので、災害対応要員限定のネットワークを構築する代わりに政府から特別帯域免許(Band 14)を獲得している。これは、悲惨な同時多発テロの日、ファーストレスポンダーが互いに連絡を取れていなかったことが判明し、9.11委員会(同時多発テロに関する国家調査委員会)の重要提言としてまとめられた内容を踏まえた措置だ。AT&Tのポーター氏によれば、777万平方キロメートルをカバーするネットワークが「9割方完成」しているという。

なぜファーストレスポンダーばかり注目されるのだろうか。通信事業者の投資が集中する理由は、ファーストレスポンダーがいろいろな意味でテクノロジーの最前線にいるためだ。ファーストレスポンダーはエッジコンピューティング、AIや機械学習を活用した迅速な意思決定、5Gによる帯域幅やレイテンシー(遅延)の改善(後述)、高い信頼性を必要としており、利益性のかなり高い顧客なのだ。言い換えれば、ファーストレスポンダーが現在必要としていることは将来、一般の消費者も必要とすることなのだ。

ベライゾンで公共安全戦略・危機対応部長を務めるCory Davis(コリー・デイビス)氏は「ファーストレスポンダーによる災害出動・人命救助においてテクノロジーを利用する割合が高まっている」と説明する。同氏とともに働く公共部門向け製品管理責任者のNick Nilan(ニック・二ラン)氏も「社名がベライゾンに変わった当時、実際に重要だったのは音声通話だったが、この5年間でデータ通信の重要性が大きく変化した」と述べ、状況把握や地図作成など、現場で標準化しつつあるツールを例に挙げた。ファーストレスポンダーの活動はつまるところ「ネットワークに集約される。必要な場所でインターネットが使えるか、万一の時にネットワークにアクセスできるかが重要となっている」という。

通信事業者にとって頭の痛い問題は、災害発生時というネットワーク資源が最も枯渇する瞬間にすべての人がネットワークにアクセスしようとすることだ。ファーストレスポンダーが現場チームあるいは司令センターと連絡しようとしているとき、被災者も友人に無事を知らせようとしており(中には単に避難するクルマの中でテレビ番組の最新エピソードを見ているだけの者もいるかもしれない)、ネットワークが圧迫されることになる。

こうした接続の集中を考えれば、ファーストレスポンダーに専用帯域を割り当てるFirstNetのような完全分離型ネットワークの必要性も頷ける。「リモート授業やリモートワーク、日常的な回線の混雑」に対応する中で、通信事業者をはじめとするサービスプロバイダーは顧客の需要に圧倒されてきたとポーター氏はいう。そして「幸い、当社はFirstNetを通して、20MHzの帯域をファーストレスポンダーに確保している」と述べ、そのおかげで優先度の高い通信を確保しやすくなっていると指摘する。

FirstNetは専用帯域に重点を置いているが、これはファーストレスポンダーに常時かつ即時無線接続を確保する大きな戦略の1つに過ぎない。AT&Tとベライゾンは近年、優先順位付け機能と優先接続機能をネットワーク運営の中心に据えている。優先順位付け機能は公共安全部門の利用者に優先的にネットワークアクセスを提供する機能である。一方、優先接続機能には優先度の低い利用者を積極的にネットワークから排除することでファーストレスポンダーが即時アクセスできるようにする機能が含まれる。

ベライゾンのニラン氏は「ネットワークはすべての人のためのものだが、特定の状況においてネットワークアクセスが絶対に必要な人は誰かと考えるようになると、ファーストレスポンダーを優先することになる」と語る。ベライゾンは優先順位付け機能と優先接続機能に加え、現在はネットワークセグメント化機能も導入している。これは「一般利用者のトラフィックと分離する」ことで災害時に帯域が圧迫されてもファーストレスポンダーの通信が阻害されないようにするものだという。ニラン氏は、これら3つのアプローチが2018年以降すべて実用化されている上、2021年3月にはVerizon Frontline(ベライゾン・フロントライン)という新ブランドにおいてファーストレスポンダー専用の帯域とソフトウェアを組み合わせたパッケージが発売されていると話す。

帯域幅の信頼性が高まったことを受け、10年前には思いもよらなかった方法でインターネットを利用するファーストレスポンダーが増えている。タブレット、センサー、接続デバイスやツールなど、機材もマニュアルからデジタルへと移行している。

インフラも構築され、さまざまな可能性が広がっている。今回のインタビューで挙げられた例だけでも、対応チームの動きをGPSや5Gで分散制御するもの、最新のリスク分析によって災害の進展を予測し、リアルタイムで地図を更新するもの、随時変化する避難経路を探索するもの、復旧作業の開始前からAIを活用して被害評価を行うものなど、さまざまな用途が生まれている。実際、アイディアの熟成に関して言えば、これまで大げさな宣伝文句や技術的見込みでしかなかった可能性の多くが今後何年かのうちに実現することになるだろう。

5Gについて

5Gについては何年も前から話題になっている。ときには6Gの話が出てレポーターたちにショックを与えることさえある。では、災害対応の観点から見た場合、5Gはどんな意味を持つだろうか。何年もの憶測を経て、今ようやくその答えが見えてきている。

Tモバイルのナイロン氏は、5Gの最大の利点は標準規格で一部利用されている低周波数帯を利用することで「カバレッジエリアが拡大できること」だと力説する。とはいえ「緊急対応の観点からは、実用化のレベルはまだそこまで達していない」という。

一方、AT&Tのポーター氏は「5Gの特長に関し、私たちはスピードよりもレイテンシーに注目している」と語った。消費者向けのマーケティングでは帯域幅の大きさを喧伝することが多いが、ファーストレスポンダーの間ではレイテンシーやエッジコンピューティングといった特徴が歓迎される傾向にある。例えば、基幹ワイヤレスネットワークへのバックホールがなくとも、前線のデバイス同士で動画をリレーできるようになる。また、画像データのオンボード処理は、1秒を争う環境において迅速な意思決定を可能とする。

こうした柔軟性によって、災害対応分野における5Gの実用用途が大幅に広がっている。「AT&Tの5G展開の使用例は人々の度胆を抜くだろう。すでに(国防省と協力して)パイロットプログラムの一部をローンチしている」とポーター氏は述べ、一例として「爆弾解体や検査、復旧を行うロボット犬」を挙げた。

ベライゾンは、革新的応用を戦略的目標に掲げるとともに、5Gの登場という岐路において生まれる新世代のスタートアップを指導する5G First Responders Lab(5Gファーストレスポンダーラボ)をローンチした。ベライゾンのニラン氏によれば、育成プログラムには20社以上が参加し、4つの集団に分かれてVR(仮想現実)の教育環境や消防隊員のために「壁の透視」を可能とするAR(拡張現実)の適用など、さまざまな課題に取り組んでいるという。同社のデイビス氏も「AIはどんどん進化し続けている」と話す。

5Gファーストレスポンダーラボの第1集団に参加したBlueforce(ブルーフォース)は、最新のデータに基づき、できるかぎり適切な判断を下せるようファーストレスポンダーをサポートするため、5Gを利用してセンサーとデバイスを接続している。創業者であるMichael Helfrich(マイケル・ヘルフリッチ)CEOは「この新しいネットワークがあれば、指揮者は車を離れて現場に行っても、情報の信頼性を確保できる」と話す。従来、こうした信頼できる情報は司令センターでなければ受け取ることができなかった。ブルーフォースでは、従来のユーザーインターフェース以外にも、災害対応者に情報を提示する新たな方法を模索しているとヘルフリッチ氏は強調する。「もはやスクリーンを見る必要はない。音声、振動、ヘッドアップディスプレイといった認知手法を検討している」という。

5Gは、災害対応を改善するための新たな手段を数多く提供してくれるだろう。そうはいっても、現在の4Gネットワークが消えてなくなるわけではない。デイビス氏によれば、現場のセンサーの大半は5Gのレイテンシーや帯域幅を必要とするわけではないという。同氏は、IoTデバイス向けのLTE-M規格を活用するハードやソフトは将来にわたってこの分野で重要な要素になると指摘し「LTEの利用はこのさき何年も続くだろう」と述べた。

イーロン・マスクよ、星につないでくれ

緊急対応データプラットフォームのRapidSOS(ラピッドSOS)社のMichael Martin(マイケル・マーティン)氏は、災害対応市場において「根本的な問題を解決する新たなうねりが起きていると感じる」といい、これを「イーロン・マスク効果」と呼んでいる。接続性に関しては、SpaceX(スペースX、正式名称はスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ)のブロードバンドコンステレーションプロジェクト「Starlink(スターリンク)」が稼働し始めていることからも、その効果は確かに存在することがわかる。

衛星通信はこれまでレイテンシーと帯域幅に大きな制約があり、災害対応で使用することは困難だった。また、災害の種類によっては、地上の状況から衛星通信接続が極めて困難だと判断せざるを得ないこともあった。しかし、こうした問題はスターリンクによって解決される可能性が高い。スターリンクの導入により、接続が容易になり、帯域幅とレイテンシーが改善され、全世界でサービスが利用できるようになるとされている。いずれも世界のファーストレスポンダーが切望していることだ。スターリンクのネットワークはいまだ鋭意構築中のため、災害対応市場にもたらす影響を現時点で正確に予測するのは難しい。しかし、スターリンクが期待通りに成功すれば、今世紀の災害対応の方法を根本的に変える可能性がある。今後数年の動きに注目していきたいと思う。

もっとも、スターリンクを抜きにしても、災害対応は今後10年で革命的に変化するだろう。接続性の高度化とレジリエンス強化が進み、旧式のツールに頼り切っていたファーストレスポンダーも今後はますます発展するデジタルコンピューティングを取り入れていくだろう。もはや機械が止まることはないのだ。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:気候テック自然災害気候変動アメリカ地球温暖化ネットワーク電力5Gイーロン・マスクStarlink衛星コンステレーション

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)