先週木曜日の夜、世界最大のインキュベーション施設が正式にオープンした。これから約3000社のスタートアップがこの巨大な建物の中にオフィスを構えることになる。エマニュエル・マクロン仏大統領や政府関係者が参加した同施設の開所式にTechCrunchも参加した。
「この建物はStation Fと呼ばれ、Station FranceやStation Femmes(フランス語で女性の意)、Station Founder、Station Fressinetといった意味が込められている。Freyssinetは素晴らしい建築家であり、優秀な起業家でもあった」と億万長者で仏通信大手Iliadのファウンダーでもあるグザヴィエ・ニールはマクロン大統領に説明した。
Station Fはもともと1920年代にウジェーヌ・フレシネによって建設され、2011年には取り壊される予定だった。しかし、2013年にニールは奇想天外なアイディアを思いつく。彼らはこの建物を購入し、3万4000平方メートルもの広さをもつ巨大なスタートアップキャンパスへとリノベーションしようと考えたのだ。
その結果、数年が経った今も建物はそのまま残り、内部には何千個もの机や巨大なガラスの壁、明るい照明や地中海の木々が並んでいる。「リノベーション前とは見違えるほどだ。もともとは薄暗い、ただの廃駅だった」とニールは話す。
今週の月曜日から1100社のスタートアップがこの施設に入居しており、そのうちの多くはStation Fのパートナーたちが選んだ企業だ。VCも20社ほどが入居を予定しており、そのほかにも郵便局や大きなレストランが数か月のうちにできるとのこと。
海外人材や多様性へのフォーカス
簡単な施設の紹介が終わると、ニールとマクロン大統領はすぐに見学に訪れていたZenlyの共同ファウンダーをはじめとする起業家に話しかけ始めた。なお、開所式にはパリ市長のアンヌ・イダルゴやフランスのデジタル担当大臣ムニール・マジュビ、Station Fディレクターのロクサンヌ・ヴァルザ、ブリジット・マクロン大統領夫人も参加していた。
施設の見学中に、大統領はある起業家に英語で話しかけた。彼はFrench Tech Ticketを利用し、起業のためにフランスに移り住んだのだという。それに関連し、大統領は起業家やエンジニア、投資家向けに最近ローンチされた特別なビザ、French Tech Visaについても言及した。
「ひとつひとつの執務スペースはヴィレッジ(村)と呼ばれ、各ヴィレッジには60個程の机が置いてあり、コラボレーションを促すようにデザインされている」とヴァルザがオフィススペースについて説明する。
その後、別の起業家がマクロン大統領に英語で挨拶し、続けて完璧なフランス語で話し始めた。フランス人なのか外国人なのかを尋ねられた彼は「フランスには(ニールが運営するコーディングスクールの)42のために来た。もともと生物学を勉強していたが、大統領のビデオを見てフランスへの移住を決めた」のだと語った。
それを聞いて、42の卒業生の一部は現在大統領官邸で働いていると聞いたことがあるとジョークを言うニール。
その後、ヴァルザは新しくローンチされたFighters Programについても説明した。このプログラムは、マイノリティのファウンダーに対して無料のデスクスペースを提供するというものだ。「彼らはFounders Programの人たちと肩を並べることになる。私たちは両者の交流を図りたいと考えているのだ」と彼女は話す。
既に2億3000万ドル(2億ユーロ)をStation Fの建設に投じたニールだが、さらに5700万ドル(5000万ユーロ)を使ってイヴリー=シュル=セーヌに最大600人が住める居住施設を建設予定だという。「42のモデルと似たモデルを考えている。Station Fに入居したスタートアップのファウンダーたちは親からの援助を期待できず、住むところが問題になるというのもわかっている」と彼は話す。
引き続き施設を見学していると、あるStation Fのスタッフがマクロン大統領に近づき、10秒前後の動画を撮影してよいかと尋ねた。「私たちは今日パリのStation Fに来ています。自分のスタートアップを立ち上げ、投資し、成長させたいと思っている人にはピッタリの施設です」と携帯電話に向かって話し始めた大統領は、撮影を終えると動画が32秒になってしまったと謝りながら、スタッフに携帯電話を返した。
それから見学者グループはステージに戻り、ヴァルザやイダルゴ、マクロン大統領のスピーチを聞くことに。大統領は集まった2000人の聴衆の一部と握手したり、一緒にセルフィーを撮ったりしながらステージへと向かった。
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ファウンダーの代わりにStation Fについて語った参加者たち
個々のスピーチ内容は、全体の構成に比べるとそこまで興味をひくようなものではなかった。ヴァルザがまずStation Fのパートナー企業(Facebook、Zendesk、Vente-Privée、HEC、Microsoftなど)や協力者(アンヌ・イダルゴ、Jean-Louis Missika、Jean-Michel Wilmotte、Station Fのチームなど)を紹介し、起業とは白人男性だけのものではなく、Station Fは業界の多様化に向けて努力していくと語った。
彼女が話し終わってニールに謝辞を述べると、聴衆は大いに湧き上がり数分間拍手が続く。その様子はライブ会場でアンコールを待つ観客のようだった。
ニールが若い世代の起業家にとってのロールモデルになったということに疑いの余地はない。彼は通信企業を立ち上げて大金持ちになってから、コーディングスクールを設立し、さらにはKima Venturesと共にシードファンドを立ち上げ、これまで世界的にも有名なシリコンバレーのスタートアップ(Square、Nest、Snap、Airbnb、Uberなど)に投資してきた。その他にも、彼は新聞社を買収し、Station F設立のために何百億ドルという資金を投じている。
しかし、そのニールがステージ上で話すことはなかった。
ヴァルザに続いて市長のアンヌ・イダルゴは、パリにとってのStation Fの意義について「パリは芸術都市としての側面以外の何かを求めていた」と語った。
最後にステージを飾ったマクロン大統領は、彼の政治家としてのキャリアと起業家の人生を比較しながら、他の人は自分のやろうとしていることに共感しないかもしれないが、だからといってそれを諦める必要はないう旨のスピーチを行った。
「今日の私たちをつなぎ合わせているのは起業家精神だ。周りの人は、私がどんな人生を歩むべきかについて口を挟もうとしていたが、私は彼らとは違う道を選んだ。自分の人生を他人に決めさせてはならない」
その後大統領は、VivaTechでのスピーチに沿った形で格差問題に言及し、起業家は積極的に多様性を受け入れ、社会全体に貢献していかなければならず、もしもテック業界が国を分断してしまうようなことがあれば、それは業界全体の失敗ということになると語った。
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Station Fの本当のスタート
これから数日間のうちに何千人という人がStation Fにオフィスを構える予定だ。ここまでくるのには何年間もかかったが、これはStation Fにとってのスタート地点でしかない。
同施設がパリのテックエコシステムを根本から変えるられるかどうかはまだわからないが、フランスが国内外から人材や企業、投資を誘致する上で、Station Fが素晴らしいマーケティングツールとして機能するのは間違いない。
ニールは他の人もStation Fに投資できるよう、将来的には財団を設立しようとしており、彼はこの施設から利益を得ようとは思っていないと話していた。スタートアップコミュニティの人々は、きっとニールは彼らの味方なのだと感じることだろう。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)