レーザー核融合商用炉の実用化を目指す大阪大学発EX-Fusionが3100万円調達、装置開発・技術実証を推進

レーザー核融合商用炉の実用化を目指す大阪大学発EX-Fusionが3100万円調達、装置開発・技術実証を推進

レーザー核融合商用炉の実用化を目指すEX-Fusionは3月31日、第三者割当増資による3100万円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は、OUVC2号投資事業有限責任組合(大阪大学ベンチャーキャピタル。OUVC)。調達した資金を活用して、連続的に核融合反応を発生させるための装置開発および技術実証を進める。

EX-Fusionは、レーザーにより発生させた核融合反応によって発電する「核融合発電」の実現に挑戦する大阪大学発のスタートアップ企業。長年にわたりレーザー核融合を研究してきた大阪大学レーザー科学研究所や光産業創成大学院大学の研究者らによって設立されており、レーザー核融合発電の実現に向けた課題である、連続的・効率的に核融合反応を発生させる技術を活用した核融合商用炉の開発を進めている。

同社は、日本を拠点とするレーザー核融合エネルギーのスタートアップとして、実用化に必要な技術開発を加速していきながら、商用炉実現を目指す過程で得られる最先端の光制御技術・知見等を活用し、エネルギー分野にとどまらず、様々な産業分野の技術開発に貢献するとしている。

サシの入った和牛肉など培養肉の「3Dバイオプリント技術の社会実装」に向け大阪大学・島津製作所・シグマクシスが提携

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉自動生産装置のイメージ大阪大学大学院工学研究科島津製作所シグマクシスは3月28日、「3Dバイオプリント技術の社会実装」に向けた協業に関する契約を締結した。またこれに先立ち、大阪大学大学院工学研究科と島津製作所は、「3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉の自動生産装置の開発」に関する共同研究契約も締結したと発表した。環境・食糧問題の解決、健康、創薬、医療の進化に貢献するという。

社会実装を目指す技術は、大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授が開発した筋肉組織構造を自由自在に製作できるというものだ。食糧分野では「筋・脂肪・血管の配置が制御された培養肉」、医療分野では「ヒトの細胞による運動器や内臓モデル」の3Dプリントを可能にする。現在、世界で研究されている培養肉の多くは、筋繊維のみのミンチ構造のものだが、この3Dプリント技術を使えば、美しい「サシ」の入った和牛肉を再現したり、脂肪や筋肉の比率を調整したりもできるようになる。またこれを再生医療に応用することも可能だ。

3者が協業して行うのは、「3Dバイオプリント技術の開発推進に向けた他企業との共同研究」「周辺技術・ノウハウを有する企業・団体との連携」「食肉サプライチェーンを構成する企業・団体との連携」「3Dバイオプリント技術に関する社会への情報発信」となっている。

その中で大阪大学大学院工学研究科は、3Dバイオプリントを含む組織工学技術の開発を担当する。具体的には、より複雑な組織や臓器構造の再構築、血管を通じた栄養や酸素の循環による臓器モデルの長期培養のための基礎技術の開発としている。

島津製作所は、3Dバイオプリント技術による培養肉生産の自動化と、培養肉開発に関わる分析計測技術の提供を行う。具体的には、筋肉、脂肪、血管の繊維を「ステーキ様に束ねる工程を自動化する専用装置の開発」であり、培養肉の味や食感・風味・かみ応えなど「おいしさ」に関わる項目、栄養分などの含有量といった「機能性」の分析を行うソリューション開発する。

ビジネスコンサルティング企業のシグマクシスは、この事業のマネージメントを担当する。具体的には、この技術の活躍テーマごとの取り組み方針の策定、テーマ別に必要となる周辺技術やノウハウを有する企業や団体との連携、各取り組みにおける体制作り、進捗管理、課題管理などだ。

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉自動生産装置のイメージ

3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉自動生産装置のイメージ

食糧問題、環境問題の解決に加え、ヒトの細胞を使った再生医療や創薬への応用が期待されるこの技術を、「多様な企業とともに活用することで社会への実装を加速」させると、3者は話している。

大阪大学、薬剤耐性菌・非耐性菌を電子顕微鏡画像と深層学習により形で判別することに成功

薬剤耐性菌(左)と非耐性菌(右)の電子顕微鏡画像。耐性菌は外膜の形状が変化し、一部ブレブ構造(矢頭)も認められる。白矢印は異染顆粒

薬剤耐性菌(左)と非耐性菌(右)の電子顕微鏡画像。耐性菌は外膜の形状が変化し、一部ブレブ構造(矢頭)も認められる。白矢印は異染顆粒

大阪大学は3月16日、薬が効かない薬剤耐性菌を画像で判別できることを明らかにした。顕微鏡画像と深層学習により、耐性の獲得による形態の変化を検知し、さらにその特徴に寄与する遺伝子の紐付けにも成功した。薬剤耐性化の過程での細菌の形態変化、遺伝子や耐性化因子の変化が、機械学習によって複合的に理解できるようになるという。

抗菌薬に長い間さらされることで耐性を獲得した薬剤耐性菌による感染症が問題になっている。薬剤耐性菌が出現するメカニズムについては盛んに研究されているものの、耐性化の抑制に欠かせない総合的な理解は進んでいない。大阪大学産業科学研究所の西野美都子准教授、青木工太特任准教授、西野邦彦教授らによる研究グループは、複数の薬が効かなくなる多剤耐性に関する研究を行っており、その過程で、耐性を獲得した細胞は遺伝子だけでなく形も変化させていることを発見した。そこで細菌の顕微鏡画像と深層学習を用いて形態からの薬剤耐性菌・非耐性菌の判別を試みた。

電子顕微鏡解析の流れ

研究グループは、薬剤耐性菌であるエノキサシンを用いて、急速冷凍固定法で凍結して電子顕微鏡用のサンプルを作り、細菌の細胞内部構造が観察できるようにした。これを1万枚以上撮影し、深層学習で判別したところ、90%以上の正解率で耐性菌と非耐性菌の判別ができた。Grad-CAM(勾配加重クラス活性化マッピング)法で耐性菌の形態学的特徴を可視化すると、外膜領域に注目領域が集中していて、目視の所見と一致した。さらに、抽出された画像的特徴量と遺伝子発現データとの相関を計算すると、外膜を構成するリポタンパク質など、膜の構成に関わる遺伝子との高い相関が認められた。

Grad-CAMによる特徴の可視化。判別の根拠となった注目領域をヒートマップにて可視化。耐性菌(図左)の外膜に注目領域が集中している。非耐性菌(図右)は顆粒に集中している

顔認証など深層学習による画像判別技術は発展しているものの、微生物(肉眼では見ることのできない生物)、特に薬剤耐性菌を対象にした研究は、ほとんど例がないという。将来的には、細菌の形態から薬剤耐性能を自動的に予測する技術の開発につながることが期待されると研究グループは話している。

産総研・大阪大学・JST・日本電子、電子顕微鏡を使い同位体を原子1個から4個のレベルで識別・可視化することに成功

単色化電子源を搭載した透過電子顕微鏡(日本電子製TripleC二号機)

単色化電子源を搭載した透過電子顕微鏡(日本電子製TripleC二号機)

産業技術総合研究所(産総研)は、原子1個から4個というごく微量の同位体炭素を透過電子顕微鏡で検出する技術を開発した。これは、光やイオンを用いた既存の同位体検出技術よりも1桁から2桁以上高い空間分解能であり、原子レベルの同位体分析によって材料開発や創薬研究に貢献するという。

同位体とは、原子番号が同じで質量(中性子の数)だけが異なる原子のことを言う。生体反応や化学反応の追跡用標識(同位体標識)として利用されるほか、鉱物や化石の年代測定など、幅広い分野で使われている。しかし、貴重な美術品や微化石の分析や、同位体標識を使った化学反応、原子拡散、材料成長過程などの詳細な追跡といった用途では、原子数個分というレベルでの測定が求められる。既存の同位体検出技術の空間分解能は数十から数百ナノメートル程度が一般的であり、原子や分子ひとつだけを分析することは困難だった。

産総研ナノ材料研究部門電子顕微鏡グループ、大阪大学産業科学研究所科学技術振興機構日本電子からなる研究グループは、透過電子顕微鏡の高性能化に取り組んできたが、電子線のエネルギーをそろえる「単色化電子源」を開発し、電子線が試料を通過する際に失うエネルギーを計測して元素や電子の状態を調べる手法「電子エネルギー損失分光」のエネルギー分解能を大幅に向上させたことで、原子の振動エネルギーを直接検出できるようになった。そして今回、その原子の振動エネルギーから同位体を識別する技術の開発に成功した。

この研究では、単色化電子源を搭載した透過電子顕微鏡を使用している。従来の透過電子顕微鏡では、電荷をも持たない中性子の数が像に反映されず、同位体の区別ができなかった。研究グループは、単色化電子源を搭載した透過電子顕微鏡を使うことで、中性子ひとつ分の重さの違いを振動エネルギーの差として検出し、同位体の識別と原子レベルで可視化することができた。また、電子エネルギー損失分光の測定方法には「暗視野法」を用いた。電子が試料を通過したときに大きな角度で散乱した電子を分光する方式だ。これに対して小さな角度で散乱した電子を分光する方式を「明視野法」と呼ぶ。これまで電子エネルギー損失分光で同位体を検出できたという報告例では、すべて明視野法が使われていたが、空間分解能は数百ナノメートルであり、原子間の電荷の偏り(極性)を検出する方式であるため極性を持つ材料にしか使えない。一方、暗視野法には、ひとつの原子の中に生じる電荷の揺らぎを計測するため、電荷のない材料でも振動エネルギーを計測できるという利点がある。

電子線分光によるグラフェン中の炭素同位体識別のイメージ図

電子線分光によるグラフェン中の炭素同位体識別のイメージ図

研究グループは、原子ひとつ分の厚みの炭素原子のシート「グラフェン」の2つの安定同位体、12Cと13Cを測定した。これらは、中性子の数がそれぞれ6個と7個という違いがある。これらを測定した結果、エネルギー損失のピーク時に中性子ひとつ分の差が確認され、12Cと13Cの区別ができた。この計測の空中分解能は約0.3ナノメートル。グラフェンの炭素原子4個分に相当する。この4個のうちのいずれか、またはすべてが同位体で置き換わったときの振動エネルギーの差が検出できることから、測定感度は同位体1個から4個ということになる。

実験手法と実際に得られた12Cおよび13Cグラフェンの格子振動スペクトル

実験手法と実際に得られた12Cと13Cグラフェンの格子振動スペクトル

今後はこの手法を他の元素や材料に応用し、検出元素や適用材料の幅を広げると研究グループは話す。また、これまで実現し得なかったナノスケール以下での同位体標識法を確立するという。将来的に、エネルギー分解能と空間分解能、さらに検出効率を向上させることで、原子ひとつひとつの振動状態をより高い精度で高速な測定を可能にし、「化学反応や材料成長における単原子・単分子同位体標識のリアルタイム追跡を実現させ、同位体を標識に用いる創薬研究などでの応用」を目指すとしている。

日本人の赤ちゃんの顔の「かわいさ」には客観的な特徴があった―日本版かわいい乳児顔データセット公開

日本人の赤ちゃんの顔の「かわいさ」には客観的な特徴があった―日本版かわいい乳児顔データセット公開

かわいさを増やす・減らす方向に変形させた顔のペアから、よりかわいい方を選ぶ課題を587名の成人が行った

大阪大学大学院人間科学研究科教授の入戸野宏氏らによる研究グループは2月18日、日本人の乳児の顔の形状を分析し、その「かわいさ」には客観的な特徴が存在することを明らかにしたと発表した。日本人の赤ちゃんの顔をベースにした体系的な研究はこれが初めてとのこと。

赤ちゃんの顔のかわいさについては、1943年にオーストリアの動物行動学者コンラート・ローレンツが提唱した「ベビースキーマ」という概念がある。大人が赤ちゃんに対してかわいいという感情を抱かせる身体的特徴を分析したものだが、研究対象は白人の赤ちゃんに限られていた。そこで同研究グループは、同様の方法を使って日本人の赤ちゃんの顔に関する実験を行った。

実験には、保護者から提供してもらった生後6カ月の赤ちゃん80名の無表情な正面顔の写真を使用した。それを20歳から69歳の日本人の男女200名に見せ、「まったくかわいくない」から「非常にかわいい」までの7段階の評価を付けさせた。そして、平均得点の高いほうから10名、低い方から10名を選び、両グループの顔を平均化し、かわいさが高い顔と、低い顔とを合成した。

画像を合成して作られたかわいさが高い顔(左)と低い顔(右)のプロトタイプ(原型)。6カ月児80名の顔のかわいさを20~69歳の日本人200名が評定した。かわいさの得点が高い10名の平均顔と得点が低い10名の平均顔をそれぞれ求めた

画像を合成して作られたかわいさが高い顔(左)と低い顔(右)のプロトタイプ(原型)。6カ月児80名の顔のかわいさを20~69歳の日本人200名が評定した。かわいさの得点が高い10名の平均顔と得点が低い10名の平均顔をそれぞれ求めた

そこから、かわいさが低い顔から高い顔にするには、どの部分を変形させればよいかというパターンを導き出したところ、「ベビースキーマ」の特徴と一致したという。さらにこの変形パターンを50枚の赤ちゃんの顔に適用して、かわいさを増した顔と減らした顔を作り、そのペアを20歳から69歳の日本人の男女587名に見せ、かわいいと思う方を選ばせた。すると、9割の人がかわいさを増した写真を選んだ。ただし、若い男性だけは、女性や中高年の男性にくらべて正答率が低かった。

ほとんどの人が赤ちゃん顔のかわいさの違いを識別し、よりかわいい方を選んだが、若い男性は正答率が低かった(587名のデータに基づく)

ほとんどの人が赤ちゃん顔のかわいさの違いを識別し、よりかわいい方を選んだが、若い男性は正答率が低かった(587名のデータに基づく)

このことから、赤ちゃんのかわいさには、個人の好みとは別に、多くの人が共通して感じる客観的な特徴が存在することが判明した。この研究で作成された「日本版かわいい乳児顔データセット」Japanese Cute Infant Face(JCIF) dataset)は、インターネット上で公開されている。

スピントロニクス素子で従来品の500倍という世界最高感度のフィルム型ひずみゲージを製作、仮想現実などでの応用に期待

スピントロニクス素子で従来品の500倍という世界最高感度のフィルム型ひずみゲージを製作、スポーツ科学・仮想現実での応用に期待

(a)引っ張り試験機でプラスチックフィルム(フレキシブル基板)上の磁気トンネル接合を引っ張っている様子(上)と、試料の模式図(下)。(b)磁気トンネル接合の素子抵抗の引っ張りひずみによる変化。挿入図は磁気トンネル接合の模式図。ひずみが0.2%~0.4%の範囲で、素子抵抗が200%近く減少していることがわかる(つまり、ゲージ率が約1000)。同研究では、抵抗が変化し始める閾(しきい)ひずみ(図では0.2%程度)をゼロにする方法も提案

大阪大学産業科学研究所の千葉大地教授ら研究グループは2月16日、磁気トンネル接合素子を使った世界最高感度のフィルム型ひずみゲージを製作したと発表した。

ひずみゲージとは、材料が外力に比例して変形するひずみを電気信号として検出するセンサーのこと。構造物のひずみや圧力検出、人体の活動から生まれるデータのセンシングデバイスなどにも活用されている。今回製作したフィルム型ひずみゲージは、金属箔ひずみゲージに比べて感度が約500倍と高く、まったく新しいスピントロニクスの社会実装の道を拓くという。

磁気トンネル接合素子は、ハードディスクの読み取りヘッドや固体磁気メモリーなどに利用されているスピントロニクスデバイス。絶縁体ナノ薄膜を磁性ナノ薄膜で挟んだ構造をしており、2つの磁性体の角度がずれることで電気抵抗が変化するというもの。研究グループは、柔らかいプラスチックフィルム(フレキシブル基板)上にこの素子を形成した。このひずみゲージは、ひずみ検出感度の指標であるゲージ率が1000という非常に大きな値を示した。これは、現在普及しているフィルム型の金属箔ひずみゲージの500倍の感度に相当する。

今回製作したひずみゲージは、1mm四方の1/6800という小さなものだが、固体磁気メモリーで使われている素子は、さらにその数十万分の1のサイズとなっている。そのため、もっとずっと小さなひずみゲージを作ることも可能であり、これをフレキシブル基板上に集積化すれば、「緻密なひずみのマッピング」も実現するという。また、柔らかい基材にこの機能を持たせることで、生体親和性の高いひずみゲージを作ることができ、生体の動きの精密測定が求められる医療、スポーツ科学、仮想現実などの分野での応用も期待できる。

この成果は、スピントロニクスに「力学情報のセンシング」という新しい応用の道を拓くものであり、より解像度の高い力学情報の提供が可能となり、「新たな産業を生み出すキラーデバイス」になると研究グループは話している。

大阪大学レーザー研究所、核融合に不可欠な固体トリチウムの新しい物性値を60年ぶりに解明

大阪大学レーザー研究所、核融合に不可欠な固体トリチウムの新しい物性値を60年ぶりに解明

大阪大学レーザー研究所(山ノ井航平助教ら研究グループ)は2月14日、固体状態の重水素トリチウム(D-T)混合体の屈折率の測定に、世界で初めて成功したと発表した。核融合発電の注入燃料として利用される予定の重水素とトリチウムの混合体だが、トリチウムが放射性物質であることから取り扱いが難しく、その物性値は60年にわたり測定されてこなかった。

固体の重水素とトリチウムの混合体は、効率的な核融合発電を行うためには、その形状と組成のコントロールが必要になる。光を用いて分析を行えば、形状と組成を一度に知ることができるのだが、もっとも基礎的なデータである屈折率の測定が困難だった。そのため、軽水素などの値から推測された経験式から得られるデータで代用するしかなかった。

レーザー研究所では、約4テラベクレル(TBq)のトリチウムと重水を1対1の割合で混合し、密封セル内でマイナス255度以下に冷やして固化し、その屈折率を測定した。さらに温度を下げることで、屈折率の温度依存性も明らかにした。これができたのは、同研究所が蓄積してきた高度なトリチウムの取り扱い技術と、レーザー測定の技術と知識のおかげだ。

この研究成果により、将来の核融合における固体重水素トリチウム燃料の検査手法が確立され、核融合炉の設計が進むことが期待されるという。また、高い安全性を確保した上での「大容量のトリチウムを取り扱った技術的知見が得られた」ことで、今後の放射性物質を使った研究開発に貢献できると研究所は話している。

ザトウクジラの尾びれ写真から個体を見分けるAI自動識別システム開発、Diagence・阪大・慶應・沖縄美ら海財団で実用化へ

ザトウクジラの尾びれ写真から個体を見分けるAI自動識別システムを開発、Diagence・阪大・慶應・沖縄美ら海財団で実用化へ

コンピューター技術をベースとした企画プロデュースを行うスタートアップ「Diagence」(ダイアジェンス)、大阪大学サイバーメディアセンター慶應義塾大学沖縄美ら海財団からなる研究グループは2月4日、ザトウクジラの尾びれの写真から個体を自動的に識別するAIシステムを開発した。ザトウクジラ研究者の個体識別に関する知見を取り込んだAIアルゴリズムシステムで、尾びれの写真を入力すると、登録されているクジラから特徴の近いものがリストアップされる。

捕鯨によって数が激減したザトウクジラは、保全のための研究が行われているが、その生態を把握するためには個体の識別が重要となる。ザトウクジラの個体識別には、撮影した尾びれ尾びれ写真をもとに、尾びれ先端のギザギザした形状と、尾びれ裏の模様が使われる。この写真については毎年400〜500枚が新たに撮影・追加されており、人の手によって識別するのは何カ月も要する大変な作業となっている。コンピューターを使って自動化させたいニーズは世界中の研究者が持っており、有名なデータ分析コンペティションKaggleでも題材として取り上げられるほどであるが、これまで実際に用いられているものはなかったという。

現在、沖縄美ら海財団では、30年以上にわたり収集してきた1850頭・約1万枚にのぼるザトウクジラの尾びれの写真があるものの、全写真のうち79%は1頭あたりの写真が3枚と少なく、光の具合、距離、角度などによって条件が異なり、形状や模様の判別が難しい状態にあった。さらに35%のクジラには、尾びれ裏に模様がないなど、人の目で識別を行う上でも困難が多い。

そこで研究グループは、深層学習や図形処理を用いて尾びれの形状を正確に切り抜き、そのギザギザ形状の特徴をベクトル化して尾びれの特徴を抽出する方法を編み出した。これによって特徴が抽出された新しい写真は、既存のものと照合され、近いものがランキング形式でリストアップされる。2016年に撮影された写真中の、過去に登録されている323枚について処理を行ったところ、89%が、上位30位までに正しいクジラが入っていた。また76%は、1位に正しいクジラがランクされた。

Diagenceは、このシステムを、ザトウクジラの研究を行っている世界の研究機関に普及させて、「自然科学研究の進展に貢献する」ことを目指すという。また同様の手法を使い、他分野の専門家の知見をAIシステムに落とし込むことで、他分野への応用も目指したシステムやサービスの開発を進めるとしている。

Diagenceは、コンピュータサイエンス領域の国立大学教授2名および教員1名、代表取締役である菅真樹氏の計4名が2019年1月に設立。このうち大学教授と教員はコンピュータサイエンス領域や人工知能領域で国際会議などで多くの業績を上げている研究者という。菅氏は、大手コンピュータメーカー研究職でコンピュータサイエンス領域の研究に10年以上従事した後、スタートアップCTOを経て、研究開発スタートアップを創業。受託研究開発や国家研究プロジェクトに携わる現役研究者であり、先端技術の事業化に取り組んでいるという。

レーザー核融合商用炉の実現を目指すフルスタック核融合スタートアップEX-Fusionが1億円調達、研究・開発を始動

レーザー核融合商用炉の実現を目指すフルスタック核融合スタートアップEX-Fusionが1億円調達、研究・開発を始動

レーザー核融合商用炉の実用化を目指すEX-Fusion(エクスフュージョン)は1月26日、第三者割当増資による1億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、ANRIが運用する「ANRI-GREEN1号投資事業有限責任組合」。調達した資金は、将来のレーザー核融合商業炉の基盤技術の1つであるターゲット連続供給装置とレーザー照準装置の開発にあてる。ハイパワーパルスレーザーを用いたレーザープラズマ実験の高繰り返し化を実現する。

EX-Fusionは、レーザー核融合商用炉の実用化を目指す国内唯一のスタートアップ企業。2021年7月、レーザー核融合研究開発を遂行してきた大阪大学レーザー科学研究所、光産業創成大学院大学の研究者が設立した。

核融合エネルギーは、発電時に二酸化炭素の排出がなく供給可能なクリーンエネルギー源として、近年ますます注目を集めている。特にレーザー核融合は、負荷変動に対応できるため、既存のエネルギー源を代替し、2050年のカーボンニュートラル実現に大きく貢献できる可能性を秘めた技術とされる。

同社は、日本を拠点とするレーザー核融合エネルギーのスタートアップとしての地位を確立することで、民間資本を集め、高い開発リスクを受け入れながら、実用化に必要な技術開発を加速する。さらに、レーザー核融合商用炉実現を目指す過程で得られる最先端の光制御技術・知見などを活用し、エネルギー分野にとどまらず、様々な産業分野の技術開発に貢献するとしている。

レーザー核融合とEX-Fusion

レーザー核融合商用炉の実現を目指すフルスタック核融合スタートアップEX-Fusionが1億円調達、研究・開発を始動レーザー核融合は、高出力レーザーを用いて重水素と三重水素の混合物を高密度に圧縮するとともに、高温度に加熱することで核融合反応を起こし、エネルギーを得る手法。日本をはじめ、米国・仏国・英国・中国・ロシアを中心に研究が行われている。

米国では、2021年8月、ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)の実験において、レーザー投入エネルギーの7割を超える核融合出力1.35メガジュールが達成された。これは、レーザー方式で核融合燃料を点火燃焼させることが可能であることを実証したものという。

ただ商用炉の実現には、(1)核融合反応発生効率の向上、すなわちレーザー投入エネルギーを超える核融合出力の達成、(2)核融合反応を10Hz程度の繰り返しで定常的に発生させ、核融合エネルギーを回収して電気・水素などの社会が利用可能なエネルギーに変換することが必要となる。

国内では、(1)の核融合反応発生効率の向上について、高効率化が期待される高速点火方式とよばれる外部からレーザーで高密度核融合燃料を追加熱する方式に注力しており、大阪大学レーザー科学研究所に整備された激光XII号・LFEXレーザーを用いて実験が遂行されている。EX-Fusion CEOの松尾一輝氏が第一著者としてまとめた最近の成果(Petapascal Pressure Driven by Fast Isochoric Heating with a Multipicosecond Intense Laser Pulse)は、米国のエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)が出版した世界の核融合研究サマリーでも参照されているという。

(2)の高繰り返しレーザーによる核融合発生については、同社CTOの森芳孝氏が光産業創成大学院大学の中核メンバーとして、浜松ホトニクスが開発した半導体励起ハイパワーレーザーを用いてトヨタ自動車などの連携機関と共同研究を遂行してきた(2030年以降を見据えたレーザー核融合研究開発の中長期展望)。

EX-Fusionは、国内で培われてきたレーザー核融合に関する知見を集約し、レーザー核融合商用炉を実現するために設立された。現在、光産業創成大学院大学が所有する10Hz連続ターゲット供給レーザー照射技術を同社へ技術移管中という。同技術をコア技術として研究開発を始動するとしている。

大阪大学医学部付属病院とTXP Medical、治験や臨床研究のデータを標準化し効率化する電子ワークシートの共同開発を開始

大阪大学医学部付属病院とTXP Medical、治験や臨床研究のデータを標準化・効率化する電子ワークシートの共同研究を開始

大阪大学医学部附属病院とヘルステック企業TXP Medicalは1月11日、治験や臨床研究のデータ収集を標準化し効率化することを目的とした電子ワークシート(症例報告書)開発のための共同研究を開始すると発表した。治験や臨床研究の現場担当者の負担を軽減し、医薬品、医療機器開発の発展に貢献するという。

通常の診療とは異なり、治験では特別な臨床データの収集が必要となる。通常それら被験者情報は、紙媒体のワークシート(症例報告書)に記入され管理されている。臨床試験値など、病院内でデータ化され電子的に管理されている情報であっても、医師や臨床研究コーディネーターがそれをワークシートに転記して、さらに治験依頼者が用意したEDC(Electronic Data Capture System)に打ち込むという作業が求められることもある。

その結果、電子カルテ、ワークシート、EDCと3つの異なるデータソースの整合性を確認する必要が生じ、ワークシートに修正があれば、整合性確認をその都度行わなければならなくなる。担当者の負担は増大し、多くの時間も食われる。転記ミスやチェック漏れなどのヒューマンエラーが起きる恐れも少なくない。

大阪大学医学部付属病院とTXP Medical、治験や臨床研究のデータを標準化・効率化する電子ワークシートの共同研究を開始

そうした手作業を軽減しようと、電子ワークシートの開発が開始された。まずは、過去の治験のデータを使って電子ワークシートのシステムを開発し、実現可能性の評価を行う。ベースとなるシステム開発完了後に、実際の治験や臨床研究に適用し、さらに評価を行うとしている。

電子ワークシートによって、業務の流れは以下のようになる。

  1. 電子カルテ入力時にテキスト構造化システムを用いて患者基本情報や基礎疾患情報、有害事象と考えられる記載を自動抽出し構造化
  2. 治験特有の評価項目を電子ワークシートに入力
  3. 他院の服薬情報や臨床検査値はOCRで院内環境の電子カルテより抽出し構造化
  4. 院内ネットワークに構築された治験に必要な構造化データをQRコードに変換し、院外ネットワークの電子ワークシートに統合

電子ワークシートは、2022年3月末をめどに大阪大学病院所属のCRCグループと共同でブラッシュアップし、仕様を決定する。そして4月末をめどに効果推定を行い、大阪大学病院の新規治験で試験活用が開始される。実用性が確認された段階で、他の医療機関にも展開を開始する予定。

AIロボットが何をつかんだかを判別可能に―九州工業大学、マテリアルベースのリザバー演算素子を開発

AIロボットが何をつかんだかを判別可能に―九州工業大学、マテリアルベースのリザバー演算素子開発とロボティクスへの応用に成功

九州工業大学は1月6日、ロボットアームのハンド部分から得られる感触信号から、ロボットが何をつかんだかを判別(把持物体認識)することに成功したと発表した。把持物体認識には、人工ニューラルネットワークの一種であるリザバー演算(RC)が使われるが、九州工業大学は、そのリザバー演算を、「単層カーボンナノチューブとポルフィリン、ポリオキソメタレートの複合体」(SWNT/Por-POM)からなる素子で行わせるという、画期的なアプローチをとった。

人間の脳を人工的に模倣するには、ランダムに接続されたニューロンとシナプスの動的な貯蔵庫(リザバー)を模倣する必要があり、それを実現したのが人工ニューラルネットワーク(ANN)だ。その一種であるリザバー演算は、貯蔵庫内での信号のランダムなフィードバックを忠実に再現して時系列データの学習を可能にしており、深層ニューラルネットワークに比べて、効率的・高速・シンプルで、生物の脳の仕組みに近い機械学習アーキテクチャーとされている。

AIロボットが何をつかんだかを判別可能に―九州工業大学、マテリアルベースのリザバー演算素子開発とロボティクスへの応用に成功

ところが、リザバー演算を既存コンピューター上でソフトウェアだけで行うことは技術的に難しく、ハードウェアからアプローチするパラダイムシフトが不可欠とされる。そこで、ソフトウェアと並行して物理的な挙動を演算ツールとして用いる「物理リザバー」が研究されている。なかでも九州工業大学の手法は、物理的挙動を示すマテリアル自身に演算を担わせる「マテリオRC」という新しい試みだ。

研究では、SWNT/Por-POMによるリザバーからなるランダムネットワークを作り、トヨタ自動車の生活支援ロボット「ヒューマンサポートロボット」のロボットハンドから得られた物体把持のセンシングデータを入力信号として使用した。それにより、異なる物を正しく分類する「インマテリオRCタスク」に成功した。

現在、画像による物体認識は広く行われているが、光量が少ない暗い場所では誤判定が生じる。そのため、特に介護の現場などでは触覚センサーによる把持物体認識の併用が重要になってくる。九州工業大学では、「生物学的なインターフェースで効率的な計算を実現できる、マテリアルベースのRCが賢い選択だということが今回の結果で示されました」と話している。SWNT/Por-POMは近い将来、「脳と同等の情報処理能力を持つと期待され、時系列予測や音声認識など他の複雑なAI問題に応用すること」が可能になるということだ。

この研究は、九州工業大学ニューロモルフィックAIハードウェア研究センターの田中啓文教授、田向権教授らからなる研究グループと、大阪大学の小川琢治元教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のジムゼウスキー教授との共同によるもの。

大阪大学が昆虫用VRシステムを用いて生物が匂いの発生源を探る行動を解明、効率的な探索には複数感覚の情報統合が必要

大阪大学が昆虫用VRシステムを用いて生物が匂いの発生源を探る行動を解明、効率的な探索には複数感覚の情報統合が必要

大阪大学は12月15日、生物が匂いの発生源「匂い源」を効率的に探索するためには、複数の感覚の情報統合が必要であることを、世界で初めて解明したことを発表した。この行動解析は、ガス漏れ探索機や人命救助ロボットへの応用が期待されるという。

生物は、生存に欠かせない匂い源の探索に風や視覚情報を使っていることは前から知られていたが、その情報が、どのような状況化でどのように行動に反映されているかは未解明だった。そこで、大阪大学大学院基礎工学研究科大学院生の山田真由氏らによる研究グループは、匂い、風、光を同時に連続的に提示できる昆虫用VRシステムを開発し、カイコガの雄が雌を探す様子を観察した。すると、匂い情報と風の情報は歩行と回転の速度調整に、視覚情報は姿勢制御に寄与していることがわかった。

さらに研究グループは、生物学的データからモデルを構築し、シミュレーションにより機能評価を行ったところ、これまでに提案されていた匂い源探索モデルよりも高い探索成功率が示された。また、生物と同様の探索軌跡が発現されることも認められた。

研究グループでは、このVRシステムを他の生物にも応用することで「生物の生存戦略についての知見が深まる」としている。同時に、ガス漏れ源探索ロボットや人命救助ロボットといった工学分野への応用も期待されるとのことだ。

同研究は、大阪大学大学院基礎工学研究科大学院生の山田真由氏、大橋ひろ乃特任研究員、細田耕教授、志垣俊介助教、東京工業大学工学院システム制御系の倉林大輔教授らによるもの。

大阪大学、磁気を使ったセンサーシステムによりコンクリートに埋蔵された鉄筋の透視に成功

大阪大学、コンクリートに埋蔵された鉄筋の磁気による透視に成功

大阪大学産業科学研究所は12月13日、磁気を使ったセンサーシステムにより、コンクリートに埋蔵された鉄筋の様子を透視することに成功した。また、2次元スキャンロボットによるコンクリート内部の鉄筋の状況を可視化する計測技術を確立。老朽化した建屋の検査、施工確認などが安価にスピーディーに行えるようになるという。

大阪大学産業科学研究所の千葉大地教授らによる研究グループは、2020年「永久磁石法」という手法を開発し、新たな鉄筋探査方法になり得ることを発表している。現在、鉄筋の探査方法として広く用いられている中でコンパクトなものに、電磁波レーダー法や電磁誘導法などがあるが、電磁波レーダーは深い鉄筋も検知できるものの精度が低く、コンクリートの湿り具合や空洞に影響を受けてしまう。電磁誘導法では深い場所にある鉄筋は探知できない。また、磁性のある鉄筋以外の金属の影響を受けてしまうといった欠点がある。

研究グループが開発した永久磁石法は、永久磁石と磁気センサーを組み合わせたシンプルなセンサーモジュールで、磁性を持たない金属には反応しないため、鉄筋のみを狙って検出できる。「磁気誘導法」により、深く埋まっている鉄筋も観測でき、コンクリートの湿潤状況に左右されない。

研究グループは、このセンサーモジュールを2次元スキャンロボットに搭載して、格子状鉄筋の配筋状況の可視化を行った。永久磁石法の場合、センサーモジュールからはコンクリートは完全に透明なものに見えるため、実験用にコンクリートに覆われた鉄筋のサンプルを用意する必要がなく、さまざまな太さの鉄筋や、深さ(距離)を変えて計測結果のデータベースを容易に蓄積できるというメリットがある。

この2次元ロボットの実験では、左上が右下に比べて壁面から数mm離れてしまうという事故があった。その計測結果、鉄筋との距離によってシグナル強度が変化したのだが、これを利用すれば、鉄筋の深さや太さの情報も得られるようになるとの期待が生まれた。

今後は、2次元スキャンロボットとは別に、タブレットやスマートフォンとワイヤレス接続できる小型のハンディーセンサーの開発を進めるという。プロトタイプ機は完成しており、さらなる軽量化と使い勝手の向上を目指すとのことだ。

産総研がミリ波電波を高効率で特定方向に反射する140GHz帯サーフェス反射板開発、基地局増設せずポスト5G・6Gエリア拡大

産総研がミリ波電波を高効率で特定方向に反射する140GHz帯サーフェス反射板開発、基地局増設せずポスト5G・6Gエリア拡大可能に

産総研は11月26日、大阪大学大学院基礎工学研究科と共同で、次世代通信規格となるいわゆる「ポスト5G/6G」時代に利用が予定されている140GHzというミリ波帯の電波を特定方向に高効率で反射させる「メタサーフェス」反射板を世界で初めて開発したと発表した。これを利用すれば、基地局を増設しなくとも反射板を設置するだけで通信エリアの拡大が期待される。

メタサーフェスとは、波長よりも小さな構造体を周期的に並べて、電磁波を任意の方向に反射させることができるメタマテリアル(人工媒質)のこと。不要な反射をなくし、特定の方向だけに反射させる(異常反射)が可能なため、電磁波を高効率に伝搬できる。これまで、100GHzを超えるミリ波に対応したメタサーフェス反射板は、その効果の計測が困難であったため世界的に開発や実証は行われてこなかったのだが、産総研はミリ波帯の高精度の材料計測技術を活かしてこれを克服した。産総研がミリ波電波を高効率で特定方向に反射する140GHz帯サーフェス反射板開発、基地局増設せずポスト5G・6Gエリア拡大可能に

ポスト5G/6Gで活用されるミリ波は、高速で大容量の電波帯域として期待されている反面、障害物によって簡単に遮蔽されてしまう問題がある。これを解決するには基地局を増やして高密度化するという方法があるが、それでは消費エネルギーやコストが増大してしまう。メタサーフェス反射板なら、電源を必要としない。設置免許もいらず、ビルの窓などに設置できるので、街の景観を損なうこともない。これで、障害物の影になる地域でも通信が可能になる。

産総研が開発したメタサーフェス反射板は、理論的な反射効率が99%以上に達した。また、反射板の素材損失を除いた実測値でも最大88%という高効率が実証された。今後は、300GHzまでの高周波化や反射方向の動的制御、マルチバンド動作などの高効率化を目指すという。

光を当て記憶を消去?京都大学、学習結果が長期記憶に移行する細胞活動を解明

京都大学は、光を当てることで記憶を起こしたシナプスのみを消す、つまり記憶を消すことに成功した。映画のように光を当てれば人の記憶を消せるというような単純な話ではないものの、この研究が重要な脳の働きを解明することにつながった。

京都大学大学院医学研究科後藤明弘助教、林康紀同教授らからなる研究グループは、海馬に保存された短期記憶が皮質に長期記憶される、いわゆる「記憶の固定化」がなされるときに起きるシナプス長期増強(LTP)という現象について調べている。このLTPが、いつどこで誘発されるかがわかれば、記憶がどの細胞に保持されるかがわかる。研究グループは、それを検出する技術の開発を目指した。

実は、この光によって記憶が消せる手法は、LPTがいつどこで起きるかを検出する手法として開発されたもの。LTPが起きるとシナプス後部のスパインという構造が拡大するのだが、これにはコフィリン(cofilin)という分子が関わっている。このコフィリンとイソギンチャク由来の光増感蛍光タンパク質SuperNovaを融合させ、特定の波長の光を当てると、SuperNovaから活性酵素が発生し、近隣のコフィリンだけが不活性化される。するとLPTが消去され、記憶が消える。

この手法を使うと、薬剤を使った場合と異なり、狙いどおりの場所と時間にLTPの消去が行える。これを利用して、学習直後と学習後の睡眠中の海馬に光を当てたところ、それぞれの記憶が消えた。このことから、学習直後と、その後の睡眠中の2段階でLTPが起き、短期記憶が形成されることがわかった。さらに、神経細胞の活性を調べたところ、細胞は学習により特異的に「発火」(スパイク信号を出力)し、学習後の睡眠中にはLTPによって細胞同士が同期して発火することが認められた。これにより、記憶を担う細胞が形成される過程が詳細に見られるようになった。また、記憶が皮質に移り固定化される時間を知るために、前帯状皮質でのLTP時間枠を調べたところ、学習翌日の睡眠中に前帯状皮質でのLTPが誘導されていることもわかった。

この研究により、LTPが誘発される時間枠を解析する技術が開発された。これは、記憶に関連する多くの脳機能を細胞レベルで解明できる可能性を示すものだ。LTPに関連するシナプスの異常は、発達障害、外傷性ストレス障害(PTSD)、認知症、アルツハイマーといった記憶・学習障害だけでなく、統合失調症やうつ病の発症にも関わることが示唆され、こうした病気の治療にもつながるという。

この研究は、京都大学大学院医学研究科後藤明弘助教、林康紀同教授、理化学研究所脳神経科学研究センター村山正宜チームリーダー、Thomas McHughチームリーダー、大阪大学産業科学研究所永井健治栄誉教授らの研究グループによるもの。

サイバーエージェントAI Lab・大阪大学・東急ハンズが操作者4名ロボット20体による自律・遠隔ハイブリット接客の実証実験

サイバーエージェントAI Lab・大阪大学・東急ハンズが操作者4名・ロボット20体による自律・遠隔ハイブリット接客の実証実験サイバーエージェントは11月4日、同社研究開発組織AI Lab、大阪大学大学院基礎工学研究科東急ハンズと共同で、東急ハンズ心斎橋店(大阪市中央区)にて、操作者4名が遠隔対話ロボット20体による接客を行い、店舗における顧客満足度を向上できるかを検証すると発表した。実証実験は、2021年11月18日から11月29日まで行われる。調査結果については、2022年2月以降に発表の場を設ける予定。

これは、内閣府が主導するムーンショット型研究開発事業の一環である「ロボットによる次世代サービスの実現」をテーマにした実証プロジェクトの第3弾。第1弾と第2弾では、市役所でのコミュニケーション活性や空港での顧客体験創出の検証を行っており、今回は東急ハンズ心斎橋店において、遠隔対話ロボットによる「多接点での迅速な質問対応」「きっかけの提供」が、顧客の満足度や新しい体験価値につながるかどうかが検証される。つまり、「商品の場所がわからない」とか「おすすめの商品を知りたい」といった顧客の「困った!」に迅速に対応できるかが調査される。

具体的な調査内容は次の4つ。

  1. 複数体のロボットを4人のオペレーターが操作することで、顧客に対し迅速な質問対応ときっかけの提供をどれだけ遂行できるか
  2. 複数体のロボットを4人のオペレーターが操作することで、顧客の満足度を高めることができるか
  3. 東急ハンズのスタッフではないオペレーター4人によるロボット接客が、東急ハンズの熟練スタッフに比べてどの程度パフォーマンスを発揮できるか
  4. 複数体のロボットを4人のオペレーターが操作する際に生じる利点や課題

レーザー核融合の効率化に向け前進、大阪大学が高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマ温度が上昇する現象を世界初観測

レーザー核融合の効率化に向け前進、大阪大学が高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマ温度が上昇する現象を世界で初めて観測

激光XII号レーザー室

大阪大学レーザー科学研究所は、10月14日、高温プラズマに強磁場を加えるとプラズマが変形するという現象を、世界で初めて実験により観測し、理論とシミュレーションでこの現象の詳細を明らかにしたと発表した。これは、レーザー核融合におけるエネルギー発生の効率化に資すると、同研究所は話している。

核融合では、1億度ほどの超高温でプラズマを閉じ込める必要がある。大阪大学レーザー科学研究所が研究しているレーザー核融合では、100テスラ程度の磁場をプラズマに加えることで核融合反応数が上昇することが、シミュレーションで予測されていた。同時に、磁場が強まるとプラズマの変形が大きくなり、均一な高密度プラズマコアの形成が難しくなるというという負の側面も予測されている。だがこれまで、十分に強力な磁場を実験室で作ることが難しかったため、実証されずにいた。

大阪大学レーザー科学研究所の松尾一輝氏を中心とした、佐野孝好助教、長友英夫准教授、藤岡慎介教授らによる研究チームは、同研究所が所有する国内最大のレーザー装置「激光XII号レーザー」を磁場発生装置「キャパシター・コイル・ターゲット」に当てて強磁場を発生させる手法を用い、実験室内で200テスラの磁場を発生させ、プラズマの挙動を調べた。その結果、周囲への熱エネルギーの損失が抑制され、プラズマの温度が上昇することがわかった。同時に、温度上昇にともないプラズマの変形が大きくなり、熱いプラズマと低温のプラズマが混ざり合う現象が起きることも確認できた。だが同研究所では、この実験結果をもとに、プラズマの保温ができて、それでいて低温高温のプラズマが混ざることのない最適な磁場強度が存在することを、理論モデルから予測している。

さらに、今回確認された磁場によってプラズマが混ざる現象は、宇宙での星雲の崩壊との関連性を示唆しており、宇宙の現象の理解にもつながると期待されている。この研究成果は、フランスの世界最大級のLMJ-PETALレーザー装置における学術枠の実験課題として、日本からの提案としては初めて採択された。またこの研究成果は、10月12日公開の米科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載された。

 

ロボット学者・石黒浩教授が大阪大学発スタートアップ「AVITA」を設立し5.2億円の資金調達

ロボット学者・石黒浩教授が大阪大学発スタートアップ「AVITA」を設立し5.2億円の資金調達

ロボット学者として知られる石黒浩教授は9月7日、大阪大学発スタートアップとして「AVITA株式会社」を設立するとともに、5.2億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、大阪ガス、サイバーエージェント、塩野義製薬、凸版印刷、フジキン。各社と事業連携を行いながら、アバターの社会実装に取り組む。ロボット学者・石黒浩教授が大阪大学発スタートアップ「AVITA」を設立し5.2億円の資金調達

大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒浩教授は、20年以上に渡り、人と関わるロボットやアバターを研究・開発してきた。今回、これまでの研究成果と、石黒教授がプロジェクトマネージャーを務めるムーンショット型研究開発制度、テーマ事業プロデューサーを務める大阪・関西万博などの様々なプロジェクト、また企業との連携によって新たに生み出す研究成果を社会に実装するための新会社としてAVITAを設立した。

AVITAは、「Virtualize the Real World」というビジョンのもと、アバター技術によって人々の可能性を拡張するという。人は、複数の自分(働く自分、家庭の自分、友達との自分など)で活動しており、アバターを用いれば、その自分を実世界でさらに多様に拡張し、状況や目的に応じた様々な自分として自由に活動できるとしている。このことを、アバターを用いた実世界の仮想化と多重化(virtualize the real world)と呼ぶという。

AVITAは、大学発スタートアップとして実世界の仮想化と多重化により、人々を解放する新たな世界を創造するとしている。

大阪大学生命工学科研究グループが3Dプリントで和牛のサシを再現できる「金太郎飴技術」を開発

大阪大学生命工学科研究グループが3Dプリントで「和牛のサシ」を再現できる「金太郎飴技術」を開発

大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授ら研究グループは8月24日、和牛肉の複雑な組織構造を自在に再現可能な「3Dプリント金太郎飴技術」を開発し、筋・脂肪・血管の繊維組織で構成された和牛培養肉の構築に世界で初めて成功したと発表した。

これは動物から採取した少量の細胞から人工培養した筋・脂肪・血管の繊維組織を3Dプリントしたあと、金太郎飴のように束ねてサシの入った培養牛肉を作るというもの。この研究では、筋繊維42本、脂肪組織28本、毛細血管2本の計72本の繊維をバイオプリンティングし、手で束ね合わせ、直径5mm、長さ10mmの肉の塊を作ることに成功した。

これまでに開発されてきた培養肉は、筋繊維のみのミンチ状のものが多かったが、各繊維組織の配合を変えることで、注文に応じて味や食感などを自在に変えることができる塊肉が作れるという。

牛を育てて食用肉を作る従来の畜産方式では、大量の餌や水を必要とし、人が食べるよりも多くの穀物を家畜に与えるなどの非効率性や、放牧地のための森林伐採や糞やゲップによる環境汚染も問題になっている。培養肉は、牛の成長に比較して短時間で効率的に食用肉を生産できることから、そうした問題の解決策として期待されている。

研究の詳しい内容は、8月24日公開の英科学誌Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)に掲載されている。

VRリハビリ機器を提供する「mediVR」が5億円のシリーズB調達、世界初の「成果報酬型自費リハ施設」開設を計画

VRリハビリ機器を提供する「mediVR」が5億円のシリーズB調達、「成果報酬型自費リハ施設」開設を計画

VRを活用したリハビリテーション用医療機器「mediVRカグラ」を販売するmediVR(メディブイアール)は7月8日、シリーズBにおいて5億円の資金調達を発表した。引受先は、リード投資家のMedVenture Partners、また日本政策投資銀行グループ DBJキャピタル、積水化学工業、TARO Ventures。累計調達額は約8.9億円となった。

調達した資金を活用し、mediVRは営業部門を強化するとともに世界初の「成果報酬型自費リハ施設」を2021年中に開設する。これは、慢性期で改善が困難と医師から匙を投げられてしまった患者に対し、「あらかじめ設定した目標の達成に応じた分だけ費用を受け取る」という方式の施設という。「自分らしいからだと暮らしを取り戻したい」と願う患者に、VRを活用した質の高いリハビリを提供できるよう、事業を拡大する。

mediVRは2016年に大阪大学発スタートアップとして設立。2019年3月よりリmediVRカグラを販売してきた。VRリハはエビデンスが弱いとされる中、mediVRでは医師が神経科学・行動科学の知見に基づいて機器を開発。大学との共同研究を行うなど、様々な方向からエビデンスを確認しているという。

医師や理学療法士からの信頼を得て、2021年7月現在、大学やリハビリテーション病院、介護付き有料老人ホーム、デイケアなど全国25の施設に導入されているそうだ。コロナ禍においては、「患者との接触時間の軽減につながる」という点からも期待されているとした。

VRリハビリ機器を提供する「mediVR」が5億円のシリーズB調達、「成果報酬型自費リハ施設」開設を計画

VRリハビリ機器を提供する「mediVR」が5億円のシリーズB調達、「成果報酬型自費リハ施設」開設を計画

mediVRカグラは、仮想現実空間上に表示される対象に向かって手を伸ばす動作(リーチング動作)を繰り返すことで、姿勢バランスや重心移動のコツを掴んでいただくリハビリテーション用医療機器。以下の特徴を備えているという。

mediVRカグラの特徴

  • 立位姿勢の保持や歩行が困難な方でも安全に取り組むことのできる座位トレーニング
  • 認知課題と運動課題に同時に応えることを必要とする二重課題トレーニング
  • これまで曖昧になりがちだったリハビリの指示・評価が的確に行える
  • 認知機能が落ちた患者の自発性を引き出せる設計
  • 視覚・聴覚・触覚と多方面からのフィードバックにより脳の報酬系を刺激しリハビリへのモチベーションを高められる

背景がシンプルで認知負荷が低い「水平ゲーム」「落下ゲーム」、注意障害を惹起するよう認知負荷を高めた「水戸黄門ゲーム」「野菜ゲーム」「果物ゲーム」があり、失調、歩行、上肢機能、認知機能、疼痛などに課題を持つ患者も楽しくリハビリを行えるとした。

VRリハビリ機器を提供する「mediVR」が5億円のシリーズB調達、「成果報酬型自費リハ施設」開設を計画

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:大阪大学(組織)仮想現実 / VR(用語)高齢者(用語)認知症mediVR(企業・サービス)資金調達(用語)日本(国・地域)