カナダ発:カーボンフレームで軽量な折りたたみ式電動自転車「CARBO」日本向けも

現在IndieGoGoでクラウドファンディングを実施している電動自転車「CARBO」。開発したカナダのモントリオールに拠点を置くCARBO Electric BikeはCARBOを「世界一軽量な折りたたみ式電動自転車」だと説明しているので、スペックが気になった。

CARBOはフレームにカーボンを採用しており、重さは一番軽いモデルで12.9kg。一目見ただけだと電動自転車っぽくはないかもしれないが、シートポストにはバッテリーが内蔵されている。このバッテリーからスマホなどを充電することも可能だ。

最高時速はU.S.向けは32km、ヨーロッパ向けは25km。距離はペダルアシストで60km、電動のみで45kmまで走行可能。モデルは三種類あって、「model C」はチェーン、「model S」は変速機付き、「model X」はベルトドライブ。

ハンドルに搭載されているLEDスクリーンではスピードやバッテリーの残量などを確認でき、Bluetooth接続でスマホのSMSなども見られる。

CARBO Electric Bike共同創業者のLyne Berro氏いわく、クラウドファンディングの支援者の多くは日本人。日本向けに最大時速24kmでモーターのみでは走行できない仕様のものもある。

同プロジェクトはすでに目標金額の5万ドルに到達しており、2019年4月に発送される予定だ。今後は日本でのビジネス展開も期待できるのではないか。

元サイバー西條氏が率いるXTech、株式投資型クラウドファンディングへ参入

元サイバーエージェント役員の西條晋一氏が代表を務めるスタートアップ支援企業のXTech(クロステック)は11月21日、株式投資型クラウドファンディングへの参入を目的に新会社イークラウドを設立したと発表した。また、同社は大和証券グループ本社の100%子会社であるFintertechからの資金調達も発表。これによりイークラウドの株主構成は、XTechが58%、Fintertechが42%となる。資本金は4億4200万円。

イークラウドが手がける株式投資型クラウドファンディングは、資金的な支援の代わりに開発中のプロダクトなどを受け取る通常のクラウドファンディングとは異なり、投資家から得た資金の見返りに非上場株式を発行し、多くの人たちから少しずつ資金を集める仕組みだ。

株式型クラウドファンディングへ参入する理由として、XTech代表取締役の西條氏は「金融商品は均質化しやすく、どこでも扱っているものは同じということがほとんど。しかし、株式投資型クラウドファンディングでは、有望な会社を目利きして、プラットフォームに並べることで、独自の魅力的な金融商品を投資家にご提案することができます」と説明する。

株式型クラウドファンディングはまだ国内でも始まったばかりの仕組みだが、海外ではすでに同様のサービスを経由して資金を集めたスタートアップがユニコーンとなるなどの実績がある。イギリス発フィンテック企業のMonzoなどがその例だ。

XTechはこれまでベンチャーキャピタルとしての活動で培ったノウハウを活用し、クラウドファンディングのプラットフォームに並べる未上場企業を選定する。また、大和証券グループと手を組むことで、同グループが培った証券・金融サービス運営のノウハウを活用する。すでに大和証券からの人材の供給もあり、スタートアップでは遅れがちなコンプライアンス、ガバナンス体制を整えた上で事業を展開していくという。

新興サービスのリスクを支えるGardiaが食べログで無断キャンセル保証を開始

これまでにTechCrunch Japanで取り上げたことがある以下のサービスには、ある共通点がある。何だかお分かりになるだろうか?

アイテム買い取り「CASH」、宿泊権利売買の「Cansell」、チャージ式Visaプリペイドカード「バンドルカード」、後払い専用旅行アプリ「TRAVEL Now」、LINEで旅行予約ができる「ズボラ旅」、オンラインプログラミング教室「TechAcademy」……。

これらのサービスはいずれも、リスク保証会社Gardiaのサービスを利用しているのだ。

11月20日、新たにGardiaと提携したのは、レストラン検索・予約サイト「食べログ」のカカクコム。Gardiaが展開する「No Show(無断キャンセル)保証サービス」の提供を受け、食べログでは「食べログ店舗会員サービス」を利用する飲食店を対象に、「ネット予約無断キャンセル保証サービス」をスタートした。対象店舗は、予約客の無断キャンセル時に受けた金銭的被害を保証されるようになる。保証に関する手続きについては、Gardiaと食べログが飲食店を共同でフォローする体制を組むという。

No Show保証サービスはGardia設立当初の2017年10月から提供されているサービスだ。飲食店のほか、ホテルなどの宿泊施設や美容院など、予約が発生するすべてのサービスに対して、保証サービスを提供。予約客の無断キャンセルによるNo Show被害に対して、店舗へ原則として100%の被害金額を保証する。

食べログのほかに、前述したCansellや、グルメ情報&予約サイト「favy」、飲食店向け予約台帳システム「ebica」などもGardiaと提携し、No Show保証サービスを利用。11月15日には導入事業者数が5000店舗を突破したことを発表している。

飲食店向けのNo Show対策サービスは、Gardiaの保証サービスだけではない。予約台帳システムのトレタは無断キャンセルに対する「お見舞金サービス」を提供するほか、11月1日に予約トラブル防止アプリ「トレテル」をローンチ。電話での予約客にもキャンセルポリシーを明示する仕組みを提供する。また予約顧客管理システム「TableSolution」を提供するTableCheck(旧ベスパー)も「キャンセルプロテクション」を提供。11月2日にはトレタと同様に、電話予約向けのサービスを発表している。

こうしたNo Show対策の動きは、経済産業省の音頭で「No Show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」がまとめられたこともあり、活発になっている。この対策レポート発表を受けて、11月1日には「無断キャンセル対策推進協議会」が設立され、トレタ、favy、ブライトテーブル、ポケットコンシェルジュ、USEN Mediaの5社が賛同企業として参画している。

こうした動きの中で、Gardia代表取締役社長の小山裕氏は「飲食・宿泊での無断キャンセル、No Showへの対策として、保証、つまり被害をお金で解決するというNo Show保証は、世界的にもないのではないか」と自社サービスの特性について述べている。

「民法上の“保証”の概念は新しくはない。これをオンライン予約やサブスクリプションなどの新しく現れたサービスに当てはめて、適用できるようにしようというのが、No Show保証をはじめとしたGardiaのリスク保証サービスだ」(小山氏)

小山氏は「Gardiaの思想の根本は、キャンセルや持ち逃げ、踏み倒しなどの不正による被害を是正したい、ということ」と語る。そこで、Gardiaでは「被害が起きてからの保証もそうだが、被害が起きる前の時点での与信や不正検知などの機能、判断軸もパートナーにリアルタイムに提供している」という。

「どんな与信や不正検知も、100%を保証することはできない。そこで判断から漏れて起こった不正に対しては、Gardiaで保証しますよ、という形を取っている。つまり不正が起こる入口と起こった事後の2面で、防止と保証という形で被害に対する課題解決を行っている」(小山氏)

「リスク保証は必要なサービス。誰かがやらなければ」

クレジットカードの不正利用では、カード会員である個人は手厚く保護されているのに対し、EC店舗などの加盟店への手当ては、以前は不十分だった。店がいったん商品を発送した後で不正が発覚した場合、商品は戻ってこないが、カード会社から売上は取り消される(チャージバック)。

小山氏は2012年、決済に特化した保証事業会社に創業メンバーとして参画。そこで、チャージバックで加盟店が被る損害を解決したいと、チャージバック保証サービスを開発・ローンチした。そして5年間、このチャージバック保証に携わった後、2017年10月にGardiaを設立している。

「当時、決済以外の分野で第2・第3の事業として考えていたリスク保証を今、Gardiaでサービス化している。リスク保証は必要なサービス。誰かがやらなければならない。そう考えていたところに、フリークアウトの佐藤(裕介)氏との出会いもあって、会社を設立することになった」(小山氏)

Gardia代表取締役社長の小山裕氏

Gardiaは、No Show以外でも、冒頭に上げたようなサブスクリプションや即現金化サービス、後払いサービスなどにも対応。こう言っては失礼だが、ぱっと見た感じ“ビジネスとして成り立つのかな”と思うような、大胆で新規性の高いビジネスにまつわるリスクを中心に、保証を提供している。

小山氏は「世の中がUXを重視するようになってきている。ネットサービスやSNSの発達によるユーザーの変化もあって、“かんたん”に“今すぐ”使いたい、予約したいというニーズが強くなっている」とこうした新サービスの傾向を分析する。

そして「UXを重視し、サービスをかんたんにすることは、企業にとってはリスクが相対的に上がるということ。こうしたビジネスのトレンドに内在するリスクを何とかしたい」と語っていた。

即時買い取りアプリ「CASH」のバンク、買い取ったアイテムを100円から販売するオークションサービス開始

即時買い取りアプリ「CASH」などを提供するバンクは11月20日、同社がCASHを通して買い取ったアイテムを購入できる法人限定のオークションサイト「CASH Mall(キャッシュモール)」を開始すると発表した。

CASH Mallでは、毎日0時から翌日23時までインターネットオークションが開催され、すべてのアイテムが100円からスタートする。オークションには常時300のアイテムが出品され、毎日そのアイテムリストは更新。翌日のアイテムリストは前日までに公開されるという仕組みだ。登録料、手数料、配送料などは無料。ユーザーとなるリユース事業者は、事業者アカウントの登録を済ませるだけですぐに利用できる。

新サービスCASH Mallについて、バンク代表取締役の光本勇介氏は、「約1兆6000億円の市場規模があると言われるリユース市場ですが、事業者が希望するほどリユース品を買い取れないという現状があります。だからこそ、多くのリユース企業ではプロモーションに多額の資金を使い『買い取ります!』と訴求しています。私たちのマーケットにくれば、確実に、買取りたい商材が買取りたい価格で買い取れるということを実現していく」と話す。

ただ、僕が最初この話を聞いたとき、バンクはCASHを通してアイテムを買い取ったものはいいものの、それらを上手く再販売できずに在庫が溜まってしまっているのではないかと思った。バンクにとってはアイテムの再販売がマネタイズポイントであり、アイテムを再販売できずに在庫として溜まればキャッシュフローが滞る。だから、買い取った品を大量に“処分”できる低価格なオークションマーケットプレイスを作らざるを得なかったのではないかという疑問だ。

それについて光本氏は、「大口のアイテムは今でも、そしてこれからも私たちが特定の大手事業者と取引します。しかし、CASH Mallでは私たちがカバーしきれない、大量にいる小規模事業者や個人のセドラーなどにもリーチして再販売するためのマーケットプレイスになる」と話した。それに加えて、光本氏は“ある光景”を変えたいからこそCASH Mallを作ったのだと強調した。

今回取材で、光本氏はリユース事業者がアイテムを競り落とすオークションの様子を映した動画を観せてくれた。小さな会議室ほどのスペースに所狭しと並べられたイスと机に事業者が座り、前方にはオークション主催者が立っている。部屋の壁には10個ほどのモニターが設置され、オークション主催者の手元にあるアイテムが映し出される。主催者が競りを開始すると、事業者が一斉に手のひらを使った合図で競りに参加する。そんな光景がその動画には映し出されていた。

僕は実際にオークションには参加したことがないので、アナログのやり方にはそれなりの良さがあるのかもしれないが、その動画を観て2008年くらいにタイムスリップした気持ちになったのは確かだ。取材の中で光本氏がベンチマーク先としてあげていたのが、自動車業界で近代的なオークションシステムを運営するUSS。つまり”今の時代の当たり前”をモノのリユース市場にも持ち込みたいと考えたのだ。

「いまの時代に合わせた、2次流通業界の企業がネットでモノを簡単に仕入れられるサービスを作り、CASH Mallを「モノ版USS」と呼ばれるようなマーケットプレイスにするのが一番の理想です」(光本氏)

SoftBankのDeepcoreと香港のZerothが提携――アジアのAIスタートアップの育成へ

アーリーステージのAIスタートアップを支援する2のプログラムが力をあわせることになった。AIの世界でも一人より二人のほうが心強いらしい。

有力デジタルメディアのAnimoca Brandsから投資を受けることに成功した香港のアクセラレータ、Zerothは、SoftBankグループのアクセラレータ、ファンドDeepcoreとリソースやディールの共有など密接な提携関係に入った。

DeepcoreはAI全般のスタートアップの支援、育成に力を入れている一方、ZerothAIと機械学習に特化したアジア初のアクセラレータだ。後者はAnimoca Brandsから300万ドルのベンチャー資金を調達しており、同時にZerothの運営会社の株式の67%を取得している。

一方、SoftBankは今年に入ってDeepcoreを設立し、AIスタートアップ支援事業に足場を築いた。DeepcoreはWeWorkと協力してコワーキング・スペース、インキュベータ、R&D施設を兼ねるKernel Hongoを運営している。 また投資部門としてDeepcore Tokyoを有している。

Zerothは2年前に設立され、3回のバッチですでに33社を育成している。参加スタートアップの株式を平均6%取得するビジネスモデルだ。卒業後サードパーティからの追加投資を受けるスタートアップもある。たとえば、Fano Labs(現在のAccosys)は香港最大の富豪と考えられている李嘉誠(Li Ka-Shing)のHorizons Venturesや日本のLaboratikから投資を受け入れている。

Zerothのファウンダー、CEOのTak Lo はTechCrunchに対して、「われわれのエコシステムが成長するのを見ることができて嬉しい。このエコシステムが目指すところは偉大な会社を築こうとするファウンダーによりよいチャンスを提供していくことだ」と述べている。

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滑川海彦@Facebook Google+

【以上】

フリマアプリ「Fril」創業者がエンジェル投資の課題解決へ「ANGEL PORT」ローンチ

ANGEL PORTの開発チーム。写真左からtakejune氏、堀井翔太氏、堀井雄太氏。3人は「Fril」を立ち上げたFablicの創業メンバーだ。

近年、国内スタートアップの資金調達ニュースに“エンジェル投資家(個人投資家)”の名前を見かけることがグッと増えてきた。それこそ数千万円規模であれば、VCや事業会社ではなくエンジェル投資家のみから資金を調達するようなケースも珍しくなくなってきている。

特に最近はここ数年でエグジットを経験した20〜30代のエンジェル投資家が目立つ一例をあげるとフリークアウトの創業に参画し現在はヘイの代表取締役を務める佐藤裕介氏、エウレカ(Pairs)創業者の赤坂優氏、コーチ・ユナイテッド(サイタ)創業者の有安伸宏氏、ペロリ(MERY)創業者の中川綾太郎氏など(カッコ内は代表的なサービス名)。

起業家側からすれば、資金だけではなくリアルな起業経験を踏まえた知見や独自のネットワークを持つ投資家に応援してもらえるのであれば、かなり心強いだろう。

前置きが少し長くなってしまったけれど、今回紹介するのはこの“エンジェル投資”に関するミスマッチや情報の非対称性を解消することを目指して立ち上げられた「ANGEL PORT」だ。

運営するのは2016年に楽天へと会社を売却したFablicの創業メンバー(当時フリマアプリ「Fril(フリル)」を開発)。特に同社で代表取締役を務めていた堀井氏は現在個人で複数のスタートアップに投資をしていて、冒頭で紹介した面々と同様にTechCrunchでも“投資家”として紹介したことがある。

本日正式ローンチとなったANGEL PORTは、いわば現役のエンジェル投資家であり起業家でもある堀井氏自身が感じた課題から生まれたサービスだ。2018年5月に先行登録を開始して以来、現在までに150社以上のスタートアップが登録。30名以上のエンジェル投資家が自らの投資先を公開している。

エンジェル投資家と起業家を繋ぐコミュニティ

ANGEL PORTはエンジェル投資家と起業家を結びつけるコミュニティだ。良質なマッチングを実現する仕掛けとして、大きく3つの特徴を備える。

  • エンジェル投資家が自身のプロフィールとポートフォリオを公開できる機能
  • 起業家が自身のアイデアをまとめられるピッチブックとメッセージ機能
  • エンジェル投資家の思考や原体験を掘り下げた長文インタビュー

機能自体は非常にシンプル。まずエンジェル投資家は、自身のプロフィールと投資先のポートフォリオを公開できる。これまでどんなスタートアップに投資をしてきたのか、どんな経歴を歩んできたのか、どんな領域の事業に関心があって、年間でどのくらいの会社に、どのくらいの金額投資をしているのか。

起業家はここに書かれた情報を基に自社にマッチしそうなエンジェル投資家を探し出す。とはいえ、プロフィールだけでは各投資家の個性や考え方まで把握するのは難しいこともあるだろう。それを“補完”する役割を担うのが、エンジェル投資家のインタビューコンテンツだ。

なんでもこのインタビューには堀井氏がどっぷりと関わっているそうで、人生の生い立ちから起業の原体験、投資をする際の基準までかなり細かく掘り下げている。堀井氏曰く「エンジェル投資家の人となりがわかること」が目的だ。

ここまでは起業家がエンジェル投資家の情報を得るための機能。一方でエンジェル投資家が起業家のことを理解するための機能として搭載されているのがピッチブックになる。

これは起業家向けのプロフィール作成機能に近い。「サービスのカテゴリ」「進捗状況」「(ユーザーの)課題/解決策」などあらかじめ用意された項目を埋めていくと、投資家が最低限知りたい内容を網羅したコンパクトなピッチ資料を作成できるというもの。中身は一度作ってしまえば何度でも使える。

ANGEL PORT上で気になる投資家を見つけた起業家は、作成したピッチブックとともにメッセージを送れば後は投資家から返事を待つだけだ。

エンジェル投資に関する機会損失や情報の非対称性なくす

さて、少し話は変わるのだけれど堀井氏はANGEL PORTのインタビューで「人が本当に欲しがるプロダクトを作れているか、をすごく重視する」とした上で、「ユーザーがどんな課題でそのプロダクトを使うのかや、誰に、何を提供しているのかがはっきり分かるプロダクトが良いなと思っています」と話している。

ではANGEL PORT自体は一体誰のどんな課題を解決するべく生まれたプロダクトなのだろうか。そんな質問をしてみたところ、最初のきっかけは自身や周りのエンジェル投資家が抱えていた課題にあったという答えが返ってきた。

「周りのエンジェルに話を聞いても、基本的にはTwitterやFacebookのDMで投資依頼のメッセージがたくさん来ている。ただその中には投資を検討する上で知りたい情報が極端に足りないもの、反対に必要以上に情報量が多かったり構造化されていなかったりして読むのが大変なものも少なくない。これを解決できないかと考えた」(堀井氏)

堀井氏自身も少ない時でさえ週に3〜4件はSNS経由で出資の相談が来るそう。エンジェル投資を始めた頃は多少情報が足りなくてもメッセージのやりとりを通じて細かくフォローするようにしていたそうだけれど、何往復もしているとそれだけでかなりの時間を要する。案件が集中したり忙しい時期と重なると、1件1件時間をかけて対応するのには限界がある。

他の投資家も同じような状況にあるので「事業内容などの前に『そもそも相手のことも考えながら容量を得たメッセージを送れているか』を見て、出資の判断をする」投資家もいるそう。「とはいえ送り方一つで決まってしまうのは業界としてはもったいないし、機会損失でもある」(堀井氏)と思ったことが、ANGEL PORTを作るひとつのきっかけになった。

また堀井氏は起業家側にとって「誰がエンジェル投資家なの知れる場所」がなく、エンジェル投資家側としても「自分がエンジェル投資をやっていることをオープンに表明する場」がないといった“情報の非対称性”にも課題を感じていたという。

だからこそANGEL PORTではエンジェル投資家が実名でポートフォリオを掲載。加えてピッチブックを通じて出資の判断に必要な情報をどんな起業家でも整理できる仕組みを整えた。

「ANGEL PORT」では実名で各エンジェル投資家の投資先や経歴などが公開されている

日本におけるAngelListのようなプラットフォームを

冒頭でも少し触れた通り、ここ数年でM&Aによるエグジットを果たした起業家がエンジェル投資家として活動するケースが増え、従来は少なかった若い年代のエンジェルも生まれてきている。堀井氏によると「数十万円単位でもエンジェル投資をしてみたいというニーズがあることにも気づいた」そうで、今後さらにエンジェル投資のマーケットが広がっていくと考えているようだ。

これは国内スタートアップにおける環境の変化も関係する。近年AWSなどのクラウドサービスや起業のノウハウ、資金調達環境など起業する際に必要となるインフラが整い始め、プロダクトを立ち上げるハードルも下がってきた。

だからこそ「グロースのスピードを重視するケースが増え、いかにノウハウを持っているチームを作れるか、強い応援団を巻き込めるかが重要になってきた」(堀井氏)と感じる機会が増えたという。ある程度資金を集めやすいからこそ、より事業を加速させるスキルや経験を持つ起業家の“先輩”的なエンジェル投資家の需要が高まってきているわけだ。

現在のANGEL PORTはミニマムの機能しか実装されていないけれど、今後アップデートが予定されている。今回の話の中では方向性として「日本におけるAngelListのような位置付けのサービス」を意識しているという話もあった(AngelListは2010年にローンチのスタートアップと投資家をマッチングするサービス)。

あくまで検討段階とのことだけど、たとえば「テレビCMを実施したことがある」「C2Cのプロダクトが得意」など投資家の強みに応じて検索をかけられるような仕組みや、少額からでもエンジェル投資ができるシンジケート(共同出資)のような概念、AngelListと同様にスタートアップの求人を支援する機能なども考えているそう。

ゆくゆくはVCが参加したり、スタートアップの従業員メンバーを登録できるようになったりする可能性もあるという。

「まずは自分自身にとっても手触り感のある課題から解決していきたい。今後も広がっていくエンジェル投資を支えるようなサービスを通じて、日本のスタートアップエコシステムの発展に貢献していきたい」(堀井氏)

最短1時間で届く買い物代行サービス「Twidy」が7000万円を調達

地域密着型の買い物代行サービス「Twidy(ツイディ)」を展開するダブルフロンティアは11月20日、東京電力フロンティアパートナーズと澤田ホールディングス(エイチ・アイ・エス創業者の澤田秀雄氏が代表取締役会長を務める持株会社)を引受先とした第三者割当増資により総額7000万円を調達したことを明らかにした。

今回は6月に実施したシードラウンドの追加調達という位置付け。前回プラネットより調達した5000万円と合わせ、同ラウンドでトータル1億2000万円を集めたことになる。

Twidyは“近所のスーパーでのちょっとした買い物”をクルーに依頼できる買い物代行サービスだ。ユーザーはアプリ上から欲しい商品と届けてもらいたい日時を選んで決済するだけ。リクエストを受けたクルーは商品をピックし、指定の場所まで配送する。

ローンチ時に「日本版のインスタカート」と紹介したように、インスタカートを知っている人にとってはイメージがつきやすいサービスかもしれない。

特徴は注文してから商品が届くまでのスピード感だ。配送エリアを近隣に絞って地域密着型にしていることもあり、最短1時間で自宅まで配送する。

たとえば9月6日にスタートしたライフ渋谷東店の場合は、11時から20時が目安の配達時間。この時間内であれば1時間単位で指定が可能だ。お昼すぎに注文すれば夕飯を作る時間には十分間に合うし、夕方になって急に足りない物が出てきても夜には届けてもらえる。

現在はライフ渋谷東店のみが対象のためサービスを利用できる人も限られているけれど、子育て中のお母さん達を中心に利用が進んでいるそう。ダブルフロンティア代表取締役の八木橋裕氏によると「頼んだらすぐに持ってきてもらえる点が1番好評」とのことで、利用者の半分以上が再度利用しているという。

商品を届けるクルーについてはピック担当のピッキングクルーと配達担当のドライビングクルーの分業制。ピッキングはダブルフロンティアのパートスタッフが、配達に関しては日経新聞の配達員が担う。

これは前回も紹介した通り、実証実験時に配送スタッフがピッキングも含めて担当した結果、商品を間違えてしまうことなどの課題があったため。分業することでオペレーションは複雑化するものの「結果的にはユーザーの満足度向上に繋がり、それがリピート率の高さなどにも影響を与えている」(八木橋氏)そうだ。

11月からは試験的にピッキングの一部を“近所に住む個人ピッカー”が担当する取り組みも始めた。個人ピッカーには対応した件数に応じて報酬が支払われる仕組み。最終的にはこの層を増やして、ユーザー同士が協力し合う地域密着型の小さな経済圏を作り、各地に広げていくのが狙いだ。

今後ライフの別店舗や別のスーパーへの対応も計画していて、3月末までに5店舗くらいまで広げていきたいとのこと。ただし今は店舗数ではなく「ライフ渋谷東店できちんと成功事例を作ること」を重要視している段階。

「まずは勝利の方程式を確立した上で、拡大に向けて本格的に動き出したい」(八木橋氏)という。

生体認証Liquid関連会社で3Dスキャニングサービス提供のSYMBOLが1億円調達

生体認証・空間認識エンジン「Liquid」の研究・開発などで知られるLiquidの関連会社で、アパレルおよびフィットネス産業に3Dスキャンニング及びSizeCloudシステムを開発・提供するSYMBOLは10月5日、シードラウンドで日鉄住金物産ならびに三菱商事ファッションより約1億円を調達したと発表した。調達した資金をもとにSYMBOLは開発態勢を強化する予定だ。

SYMBOLは2016年12月、LiquidとDEFIANT代表取締役の今井賢一氏が合弁で設立。Liquidはこれまでに生体認証に関わる技術開発の過程で3Dスキャニングの画像解析の技術を蓄積してきている。一方、SYMBOLの代表取締役を務める今井氏は2012年からアパレルとフィットネス・ボディメイクの相関関係をソリューション化して提供するべく人体の3Dスキャニングシステムの研究を開始し、アメリカ最先端の3DスキャニングベンチャーにR&D資金を投じてきた。

SYMBOLの「3D Body Scanning System」は現時点のスペックでは20基のデプスセンサーで150万点群を5秒で取得、約40秒で3Dアバター生成から全身170ヵ所の計測値抽出が可能だ。マネキンを用いたスキャンデータ比較テストでは2000年代まで浜松ホトニクス社が製造していた高性能Body Line Scanner(光学式3次元計測装置)との計測値比較では+/-5mm未満までを実現し、なおかつアテンドスタッフ不用のセルフスキャニングを実現した。

前置きが長くなったが、ここでSYMBOLが何をやっている会社なのかを説明したい。

2017年には長年神戸のスポーツ科学研究所にて人体の3Dスキャンの研究をしていたASICSがSYMBOLのシステムを旗艦店で展開する「ASICS FITNESS LAB」に導入することを決定。このASICS FITNESS LABでは3Dスキャンを用いて体形や姿勢を分析・採寸した上で専門スタッフがランニングフォームなども測定し、その結果をもとにカスタムランニングタイツをオーダーすることができる。ASICSと同様に1980年代から自社の研究所にて3Dスキャニングを駆使し女性の体形を研究してきたワコールも今後国内100拠点にてSYMBOLのシステムを導入し、サービスの中核とする次世代型店舗を開発すると発表。また、パーソナルフィットネス大手のRIZAPの一部店舗でもSYMBOLのシステムで3Dスキャンから顧客の体形のビフォーアフターおよびトレーニングメニューを分析するサービスが提供されている。

2018年はZOZOがリリースした水玉模様の身体計測スーツ「ZOZOSUIT」が大きな話題となった。なので今年は「計測したデータをもとに顧客にカスタマイズした衣類」を提供する受注生産型アパレルの“元年”とも言えるのではないか。

そんななか、SYMBOLは「アパレルの設計から生産までの『モノづくり』にも、寸法だけではなく形状を伴う精緻な人体の三次元データが必要であり、スマホカメラでの撮影や既に所有しているアパレル製品を顧客自らが採寸した情報を基にアプリ等でサイズレコメンドを行うという、導入コストの低い簡易なシステムからは一貫して距離を置き、研究・開発を続けてきた」という。

SYMBOLの共同創業者でLiquid代表取締役の久田康弘氏は、徹底的に指紋データを収集検証し生体認証によるATMシステムまで開発してきた経験則から、縮む国内アパレル市場の中で大量生産大量在庫に身動きが取れなくなっているアパレル業界に関して「最初から低コストで中途半端な精度の体形データをアプリ等で収集しても、その先の機械学習やAIの活用に向けては結局回り道をする事になる」と話した。

一方、SYMBOL代表取締役の今井氏は「アパレルのサプライチェーンの中核に位置する両株主から学ぶアパレルのモノづくりのメカニズムをしっかりと把握し、3Dスキャニングシステムを介して収集したデータに時間(加齢ないしはダイエット・トレーニング期間)という概念を加えた精緻な4次元人体体形データが、確実にサプライチェーンと連携・活用されるようなソリューションを開発する事で、悩める巨人のような現在のアパレル産業の地殻変動に大きく貢献していきたい」と語った。

ミニアプリ構築サービス「Anybot」運営のエボラニがLINEなどから7000万円を調達

ミニアプリ構築サービス「Anybot」を運営するエボラニは11月19日、LINE Ventures、D4V、および個人投資家の有安伸宏氏などから合計で約7000万円の第三者割当増資を実施したと発表した。

中国出身の代表取締役 宋瑜氏が率いるエボラニは2018年3月に設立された。宋氏はミニアプリを「中国でテンセントが運営するメッセージングアプリWeChat上で拡大した新たなマーケティング・顧客管理手段のひとつ」だと説明。同氏の説明によると、企業はWeChat上にアカウントを設け、アカウントにEC、決済、予約などウェブやアプリと同等の機能を追加する。結果、メッセージングアプリ上で簡単かつ効率的に顧客管理をすることが出来るようになる。同氏は「僕たちはこのトレンドの可能性を強く信じていて、日本に持って来たいと考えた」と話した。

エボラニによると、中国のWechat上には1000万以上の企業アカウントが開設され、100万以上のWeChat上で機能する軽量アプリ(ミニアプリ)が誕生しているという。

エボラニが提供するミニアプリ構築基盤のAnybotは多言語・多プラットフォームに対応しており、外部API連携も柔軟に行える。顧客管理(CRM)およびマーケティングオートメーション(MA)機能によりパーソナライズされた自動接客対応が可能で、セグメント別の顧客管理等を実現した統合的なソーシャルマーケティング・顧客管理ツールとなっている。今後はLINEを始めたとしたSNS上で予約、決済、アンケートなどができる追加機能も提供される予定だ。業界別のデモや機能概要に関してはホームページに動画が用意されているのでそちらも参考にしていただきたい。

エボラニは2018年3月に設立されたばかりだが、既に複数の業界100社以上向けに提案を実施し、いくつかの日本国内および国外の企業が導入を決定している。今後は様々な業界のパートナーと手を組み、業界・業務特化型のソリューションを展開していく計画だ。

今回のエボラニへの投資はLINEにとってミニアプリ領域に対する初の投資となる。今後は両社の「多方面での業務提携」が期待できるそうだ。また、IDEOのデザイン・ブランディング面の指導をもとに、世界展開を見据えたブランディング戦略の構築を進めていくという。

京大発の“大気計測技術”でドローンの安全運航を支援、メトロウェザーが2.2億円を調達

日本郵便が11月7日から福島の一部地域で始めた“ドローンによる郵便局間輸送”が、国内初の目視外飛行ということもあり話題を呼んだ。

近年、物流を始めインフラ点検や測量、農業など人手不足が深刻化する業界においてドローンが注目を集めている。日本郵便のケースでは約9km離れた郵便局間を2kg以内の荷物を積んだドローンが行き来するというものだけれど、従来は人が担っていた役割をドローンと分担する事例が徐々に増えていきそうだ。

このように今後様々な領域でドローンが活躍していくことを見据えた際、大前提となるのが「ドローンが安全に運航できる」こと。特にドローンが飛行する地上付近は風の影響を強く受けるため、その状況を高精度に観測する技術が欠かせない。

今回紹介するメトロウェザーは、まさに京都大学の研究をベースとした大気計測装置によってドローンの安全運航を支えようとしているスタートアップだ。

同社は11月19日、Drone Fund、リアルテックファンド、個人投資家を割当先とする第三者割当増資とNEDOからの助成金により、総額で2.2億円を調達したことを明らかにした。

通り1本ごとの風の乱れも測定する技術

メトロウェザーは2015年の設立。京都大学で気象レーダーを用いた乱気流の検出・予測技術の研究開発などを行なっていた代表取締役CEOの東邦昭氏と、京都大学生存圏研究所助教の古本淳一氏が2人で立ち上げた。

現在同社ではリモート・センシング技術と信号処理技術を基に、上空や海上における風の情報を高精度に測定する独自のドップラー・ライダーを開発している。

ドップラー・ライダーとは光を使って大気を測るシステムだ。具体的にはレーザー光を大気中に発射。その光がPM2.5などの微粒子に当たりドップラー・シフトして返ってくる(反射してくる)ものを受信し、風の情報に焼き直す。微粒子は風に乗って動いているため、ドップラー・シフトを見ることで風の動きもわかる仕組みだ。

東氏によると気象学においては高層大気の研究が比較的進んでいる一方で、ドローンが飛ぶような低層大気においては未解明な部分が多かったのだという。これは「低いところの方が建物や橋など障害物の影響を受けやすく難易度が高いから」で、難しいからこそ低層大気の状況を測定できる技術にはニーズがある。

たとえばゲリラ豪雨の予測など都市の防災や洋上風力発電事業を検討する際の風況観測、航空機の安全運航などいろいろな用途で使えるそう。ドローンもその一例だ。ドップラー・ライダーはビルの影や橋のたもとなど至る所で発生している風の乱れを測れるため、ドローンの安全運航をサポートするシステムにもなりうる。

ここで付け加えておくと、何もドップラー・ライダー自体は新しい技術というわけではない。すでに製品化されているものだ。ただし古本氏が「価格が高く、1台で約1億円するものもある」と話すようにコスト面がネックになっていたことに加え、サイズもより小型化できる余地があった。

「自分たちはライダーをばら撒きたいと考えている。そのためには価格を数百万円までに抑え、ビルの屋上に置けるようなコンパクトなものを作らなければならない」(東氏)

特にドローンとの関係においては、この“ばら撒く”というのが大きなポイントになるそう。たとえば都市部の複数のビルに、複数のライダーを設置することで「通り1本ごとの風の乱れまで細かく把握できるようになる」(古本氏)からだ。

出発点は野球場1個分の大型レーダーから

この点については今回Drone Fund代表パートナーの大前創希氏にも話を聞けたのだけれど、やはり低空領域の気象状況を高い解像度で、かつ即時に測定できることが重要なのだという。

「都市部で高層ビルの間をドローンが飛べるようにするには、そもそも高層ビルの間の気象状況を細かく把握できないとどうにもならない。そのためにはライダーを1台置けばいいというものではなく、複数台設置していくことが必要だ。1億円のライダーをポンポン設置するのはハードルが高いが、数百万円なら可能。だからこそ価格を下げられる技術を持ったチームであることが重要になる」(大前氏)

メトロウェザーの強みはかねてから研究を重ねてきた信号処理技術にある。もともとレーダーを用いてノイズだらけの状態から有益なデータを取得する研究をしてきたため“ノイズを取り除く技術”が高い。結果として弱いレーザーからもしっかりとしたデータがとれるので、低価格や小型化も実現できうるのだという。

ここに至るまでの歴史を紐解くと、メトロウェザーのチームはものすごく大きなレーダーの施設からデータを収集しつつ、どんどんサイズを小さくしていった経緯があるそう。東氏曰く「出発点は野球場1個分の大型レーダー」から。古本氏がコアとなっている技術の研究を始めたのは約20年前、東氏がポスドクとして古本氏の研究室に加わってからでも約10年が経つ。

今はレーダーからライダーに変わってはいるものの、長年の研究で培った技術やノウハウは変わらず活かされている。

ゆくゆくはライダーを作る会社から、データを扱う会社へ

左からDrone Fund最高公共政策責任者の高橋伸太郎氏、 Drone Fund代表パートナーの千葉功太郎氏、メトロウェザー 代表取締役CEOの東邦昭氏、 同社取締役の古本淳一氏、リアルテックファンドの木下太郎氏

同社のプロダクトは日常生活において多くの人が直接触れるようなものではないけれど、ドローンが安全に飛ぶためのインフラとして重要な役割を担う。Drone Fundで最高公共政策責任者を務める高橋伸太郎氏も「今後ドローンが社会的な課題解決ツールとしていろいろな場面で活用されていく中で、気象状況を把握できる技術は絶対になくてはならない存在」だと話す。

「レベル3、4の物流や広域災害調査を実現する上では『いかに気象状況を把握して安全なフライトプランを立てられるか』が重要だ(レベル3は無人地帯での、レベル4は有人地帯での目視外飛行)。そういった所でメトロウェザーの情報が必要になる。さらに先の未来の話をすると、空飛ぶクルマが人を運ぶようなエアモビリティ社会においても、低高度における天気の情報は不可欠だ」(高橋氏)

メトロウェザーでは、今年から来年にかけてまず洋上風力発電領域での利用を見据えたハイスペックなドップラー・ライダーを提供していく計画。並行して、調達した資金を基に小型の試作機作りにも取り組む。

将来的に製品化が進んだ先には「ドローンの飛ぶところを一網打尽にしたい。データを網羅的に確保してドローンが安全に飛べて、堕ちない社会の実現を目指していく」(古本氏)方針だ。

「(ライダーをばら巻くことができたら)メトロウェザーはライダーを作る会社から、だんだんとデータを扱う会社に変わっていき、データビジネスを展開するようになると考えている。たとえばドローンを運航する人に対してリアルタイムに風の情報を提供したり、ドローンの管制をする人にも同じような場を提供したり。今までは測定が難しかった低層領域の風のデータを扱うことで、ドローン前提社会に貢献していきたい」(東氏)

急増するライブコマース市場の全体図、2018年版カオスマップが登場

企業ECのHTMLに数行のコードを書き加えるだけでライブコマースの機能を追加できるクラウド型ライブコマースサービス「TAGsAPI」。同サービスを提供するMoffly(モフリ)は、「ライブコマース・サービス カオスマップ」の2018年版を公開した。

同社はここ数年で急増するライブコマースサービスを、SaaS型、越境EC型、ECモール型、SNS型など全11種類に分類。「2018年はECモール型とキュレーション型以外に、越境EC型、SaaS型などのサービスが増加した」とコメントしている。また、ライブコマースの運営を支援する“黒子”サービスも増えており、今後も新たな企業による参入や領域自体の成長が見込まれるとしている。

Pepperの次はR2-D2みたいな掃除ロボ、ソフトバンクが第2弾「Whiz」を発表ーー月額2万5000円

ソフトバンクが初めに発表した人型ロボット「Pepper」はさまざまな事ができる万能型だったけれど、今日発表されたばかりの第2弾ロボは、たった1つだけの使命を与えられてこの世に生まれてきたみたいだ。

ソフトバンクロボティクスは11月19日、オフィスや業務フロア向けのバキューム掃除ロボット「Whiz(ウィズ)」の申し込み受付を2019年2月に開始すると発表した。カーペットなど床の清掃を目的とした自律走行ロボットだ。

本体には乾式バキュームクリーナーが搭載されているので、ルンバなどの他の掃除ロボットとは違って縦に長い機体が特徴だ。ハンドルを引き伸ばした時なんかは、掃除機そのもの。もちろんコミュニケーションも取れないし、レイア姫のホログラムも映してくれないけれどR2-D2に似ているので個人的には親近感が持てる。

使い方はかんたん。最初にWhizを手押しして清掃エリアを学習させてあげると、自動的にエリアの地図データを作成して記憶する。一度ルートを作成したあとは、スタートボタンを押すだけで地図データをもとに自律走行してくれる。本体には複数のセンサーが搭載されているため、人や障害物に衝突してオフィスの厄介者になってしまうこともない。

手押しをして地図データを覚えさせるというのは一見スマートには思えない方法だけれど、ロボットに触れたこともない人たちでも簡単にWhizを使いこなせるという点では非常に優しい設計だと思う。

ソフトバンクロボティクスは、2019年3月から開始予定のレンタルプランも併せて発表。60ヶ月の貸し出しで月額は2万5000円だ(ロボット手続き手数料の9800円が別途必要)。保証などのオプションサービスの詳細はまだ明らかになっていない。

ソフトバンクはこれまでにも、「AI掃除PRO」という自動運転技術「BrainOS」を搭載した自動運転清掃・洗浄機を利用するためのサービスを提供してきた。同サービスに対応するロボットとしては、2018年8月に発売した「RS26 powered by BrainOS」に続きWhizは2機目となる。最後にWhizの仕様テーブルを下に載せておくので、参考にしてほしい。

 

東京の2018 TechCrunch Battlefieldは蠅で食糧危機を解決するMuscaが優勝

TechCrunchは今、日本の首都にいる。私たちは、スタートアップのコンペBattlefieldで東京の優秀な起業家たちが競うピッチに耳を傾けた。そして決勝に残った20社がジャッジたちの前で最後のプレゼンテーションを行い、TechCrunch Tokyo 2018の勝者が決まった。

優勝はMuscaだ!

このスタートアップはありふれた生物であるイエバエを、世界の食糧危機のソリューションとして利用する。彼らの技術は、従来の方法よりもずっと迅速に高品質な有機肥料と家畜の飼料を作り、飢餓を根絶できる。同社の秘密兵器はある特定種の蠅で、同社によるとそれはより強靭で実効性も良い。その蠅の幼虫が動物の排泄物の分解と乾燥を促進し、それを高規格な肥料として利用するとともに、幼虫は鳥や魚の飼料になる。その過程はちょうど1週間だが、ほかの方法なら2〜3か月はかかる。

Muscaは最初のプレゼンテーションでわれわれの専門家ジャッジたちに強い印象を与え、して二度目のプレゼンテーションで、Job RainbowKuraseruAeronextPol、そしてEco-Porkらとともに決勝のステージに立った。

Muscaは、100万円の優勝賞金と、日本の最高の若きスタートアップであることを自慢できる権利を獲得した。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

千葉大発ドローンスタートアップのACSLがマザーズ上場へ

千葉大学発のドローンスタートアップである自律制御システム研究所(ACSL)は11月16日、東京証券取引所マザーズ市場に新規上場を申請し承認された。上場予定日は12月21日。

同社については1月に未来創生ファンド、iGlobe Partners、みずほキャピタル、Drone Fund、UTECらから21.2億円の資金調達を実施した際に紹介したけれど、2013年11月に当時千葉大学の教授だった野波健蔵氏により設立された大学発スタートアップだ。

かねてから研究室で取り組んでいた独自の制御技術とドローン機体開発・生産技術をベースに、大手企業向けの産業用ドローンを開発。2016年にインフラ点検、測量、物流などさまざまな用途で使える汎用性の高いドローン「ACSL-PF1」、2017年には非GPS環境にも対応した「PF1-Vision」などをリリースしている。

ビジネスの特徴としては、機体の販売だけではなくクラウドや点検AI、レポートUIなどと合わせ「業務組み込み型ドローンシステム」として一気通貫で提供していること。顧客との関わり方も、ドローン導入の打診に基づき概念検証(PoC)のフェーズからサポートし(ステップ1)、用途に応じたシステム全体の仕様策定や特注システム開発を実施(ステップ2)。量産機体の販売までを手がける(ステップ3、4)。

ソリューションを構築するシステムインテグレーターと量産供給を行う製造業の2つの役割を担っている点がポイントで、基本的には各ステップごとに収益を獲得するモデル。特注ドローンシステムのユーザー事例としては、楽天ドローン「天空」やNJSの「Air Slider」などがある。

有価証券報告書によると同社の2017年3月期(第5期)における売上高は1億5688万円、経常損失が4億8641万円、当期純損失が4億8881万円、2018年3月期(第6期)における売上高は3億7018万円、経常損失が4億5415万円、当期純損失が4億6041万円だ。

株式の保有比率についてはUTEC3号投資事業有限責任組合が19.93%、代表取締役の野波健蔵氏が14.23%、楽天が12.81%、菊池製作所が9.96%と続く。

近年TechCrunchでもドローンスタートアップの資金調達ニュースを紹介することが増えてきたけれど、国産ドローン銘柄のIPOに関するニュースは初めて。これを機に今後さらにこの領域が盛り上がっていきそうだ。

日本発売間近!中国でもコピー不可能なSpireのヘルスタグとは——#tctokyo 2018レポート

左からEngadget中文版編集長のRichard Lai氏、Spire CEOのJonathan Palley氏

TechCrunch Japanは2018年11月15日から2日間、スタートアップイベント「TechCrunch Tokyo 2018」を都内で開催した。本稿ではDay2のFireside Chat「充電不要、洗濯可能——-Appleも認めるスゴいヘルスタグ」で語られた内容を紹介する。モデレーターはEngadget中文版編集長のRichard Lai氏が務めた。

本誌でも既報のとおり、各国のAppleストアを通じて「Spire Health Tag」の販売を開始している。日本でも数週間後となる12月からの発売を予定していることから、Spire CEOのJonathan Palley氏が当日15日に来日し、TechCrunch Tokyo 2018に登壇した。Palley氏は既存のウェアラブルデバイスを「1.0」と定義しつつ、「ヘルスモニタリングやウェアラブル1.0は期待どおりに提供されなかった」と語る。読者諸氏もご承知のとおり、人の活動をモニタリングするデバイスは数多く登場した。だが、充電や取り外し、見た目といった課題が山積すると同時に、センサーの低精度に伴う取得データの限定性や洞察の難易度といった課題がある。筆者も多くの腕時計型ウェアラブルデバイスを試してきたが、特に精度の問題から四六時中身に付けることを諦めてしまった。

これらの課題に対する回答が、Spire Health TagだとPalley氏は語る。「医者から(従来型の腕時計型ウェアラブルデバイスを)身に付けろと言われても患者は受け入れない。医者に言われるとやりたくなるのが人間だ。さらに(既存デバイスで取得できる)データの価値が低い。健康を維持するには歩数にとどまらず、呼吸パターンや睡眠、心拍数などメトリクス(測定基準)を持ったリッチなデータが必要だ。例えば呼吸の変化から病気を未然に防ぐといったソリューションに活用できる」(Palley氏)。さらに前述した”見た目の問題”に対しては、”見えないデバイス”という解決策を示した。「洋服1つ取っても皆異なるスタイルのため、スマートシャツでは毎日取り替えることは難しい。Spire Health Tagは男性なら下着、女性ならブラウスなどに取り付けるだけだ。そのまま洗濯機や乾燥機に入れても問題ない」(Palley氏)という。なお、Spire Health Tagは胸部の動きを測定するが、モデレーターの設置場所に対する疑問について、Spireは「腰につけても構わない。深く呼吸するときは腹筋が緊張する。このわずかな動きをセンサーで取得し、アルゴリズムで検知できる」(Palley氏)と回答した。

Spire Health TagからBluetooth LE経由で取得したデータは一度スマートフォン上のアプリで取り込み、その後クラウドにアップロードする。アプリは取得データを元に睡眠やストレス、心拍数や活動を可視化し、利用者に洞察や特定の活動を提示。このあたりはウェアラブル 1.0と同じだが、気になるのはバッテリー駆動時間である。「バッテリーの寿命は1年半から約2年。バッテリーが切れたらサブスクリプションの『Spire+Membership』加入者(10ドル/月)には無償でお送りする」(Palley氏)という。米国ではSpire Health Tag単体(49ドル)ではなく、8つ入りのフルパック(299ドル)を購入する利用者が多いらしいが、モデレーターの「複数のSpire Health Tagを検知した場合は」の質問にSpireは、「呼吸や心拍数をPPG(反射型光電脈波)で計測して判断する。例えば呼吸しているのに心拍数が計測されないタグは除外する仕組みだ」(Palley氏)。

Spireは本製品を通じて2つのビジネスモデル展開を目指している。1つは消費者だ。4年前に発売したSpire Stoneは日本のAppleストアでも販売中だが、Spire Health Tagも前述のとおり発売される。モデレーターがApple Watchとの競合について尋ねると、Spireは「我々とAppleは競合関係にはない。私の立場では推測の域を出ないが、腕時計型ウェアラブルデバイスとSpire Health Tagは相互補完の関係にある」(Palley氏)と、2014年にAppleがFitbitの販売を停止した例を引用しつつ勝算を語った。

もう1つはヘルスケア市場である。同社技術はスタンフォード大学における7年間の研究が基盤となり、「米国政府からインフルエンザの流行を予防するプロジェクトに参加した。150人前後の被験者に身に付けてもらい、就寝中の呼吸変化を測定して、その変化で感染したか否かを報告している」(Palley氏)。また、米最大規模の某ヘルスケア企業と協業し、研究や次の展開を進めているという。「日本でも先月の発表以降、数社からの関心をいただいた。新たな協業の可能性にワクワクしている」(Palley氏)。

Spireは「人々は病気のことを考えたくない。テクノロジーを活用して人々のあり方を変えたい」(Palley氏)と目標を語りつつ、今後も身に付けることを意識させないウェアラブルデバイスの実現に取り組むことを表明。最後にモデレーターが「類似品登場のリスク」について尋ねると、「我々が4年前に(Spire Health Tagの)アイデアを話すと『クレイジー』と言われてきた。だが、各分野のエキスパートによる知見を持ち寄り、Spire Health Tagを作り上げた。仮に中国の方が持ち帰って分析しても、同様のセンサー精度やバッテリー寿命を再現するのは無理。(Spire Health Tagの)強みはアルゴリズムにある」(Palley氏)と強い自信を見せた。

(文/写真 阿久津良和/Cactus

“トラクターのナビアプリ”で農家を支える農業情報設計社が2億円を調達、自動操舵システムも開発中

トラクターの運転支援アプリを始め、農業におけるICT技術の活用や農業機械の自動化・IT化に関する研究開発に取り組む農業情報設計社。同社は11月16日、農林漁業成長産業化支援機構、ドローンファンド(1号・2号両ファンドから)、DGインキュベーション、D2 Garage、住友商事を引受先とした第三者割当増資により総額2億円を調達したことを明らかにした。

調達した資金を活用して、運転支援アプリに対応したトラクターの直進・自動操舵装置の開発を進める計画。直進運転をアシストすることで作業の効率化や負担の軽減、資材コストの低減を目指す。

農業情報設計社が現在提供している「AgriBus-NAVI(アグリバスナビ)」は“トラクター版のカーナビアプリ”のようなサービスだ。畑の中で「どの方角に向かってどのように走れば効率がいいか」を位置情報などを基にガイドする。

解決したいのは、トラクターなどの農業機械を用いた農作業における「作業の跡が見えづらい」「まっすぐ、等間隔で走るのが難しい」という課題だ。農業情報設計社CEOの濱田安之氏によると、肥料や農薬を散布する際にどこまで作業したかがわかりづらいため、結果的に重複して作業してしまうケースが多いのだという。

効率的に作業をする上では“まっすぐ等間隔で”トラクターを走らせることが重要なポイントになるが、そう簡単なことではない。

「仮に10mの作業で1m分重複してしまうと、それだけで10%のロスが生まれる。かといって間隔を空けすぎると(農薬の場合)空いたところから病気が発生したり、全滅に繋がるケースもある」(濱田氏)

濱田氏の話では、アメリカのほとんどの農家の営業利益率が10%以下という同国農務省の統計もあるそう。農家にとっては資材コストの削減が収入にダイレクトに響いてくるため、重複作業や作業漏れによるちょっとした無駄、ムラを防止したいというニーズがある。

AgriBus-NAVIではアプリ上で作業した場所を見える化することで「どこまで作業したかわからない」問題を解決し、基準線と現在位置を照らし合わせることで「まっすぐ、等間隔で走る」ことをアシスト。累計ダウンロード数は10万件を超えていて、ブラジルやスペインを始め約140ヶ国で利用されている(ちなみに国別のDL数では1位がブラジル、2位がスペイン。DL数の95%が日本国外なのだそう)。

現在はAgriBus-NAVIに対応した直進・自動操舵装置(GNSS装置と自動操舵機器)を開発中。トラクターに取り付けることで、位置と方向を高い精度で把握しながら自動操舵によって直進運転をサポートできるプロダクトを目指している。実用化されれば作業の効率化や負担の削減に繋がるだけでなく、経験の浅い農業者を支える強力なパートナーにもなりうるだろう。

開発中のGNSS装置「AgriBus-G+」、自動操舵機器の「AgriBus-AutoSteer」

すでに似たような技術自体は存在しているものの、導入費用がネックになって全ての農家が手を出せるわけではないのだそう。市販の製品だと一式を揃えるのに250〜300万円かかるところを、農業情報設計社では100万円以下に抑えて提供していくことで、より多くの農家を支援していく計画だ。

試作のプロダクトはすでに進んでいて、北海道の農家で実証試験にも着手済み。2019年の春頃の販売を予定している。

なお濱田氏はもともと農業機械の研究者(現在の国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構で研究に取り組んでいた)。当時研究していたロボットトラクターの技術や経験が、現在提供しているプロダクトのベースになっているのだという。

「TRAVEL Now」光本氏、「ズボラ旅」有川氏に聞く新型旅行サービス誕生のトリガー

写真右からバンク代表取締役/CEO 光本勇介氏、HotSpring代表取締役 有川鴻哉氏、プレジデントオンライン編集部 岩本有平氏

東京・渋谷ヒカリエで開催中のTechCrunch Tokyo 2018。2日目の11月16日には、今年注目の旅行分野サービスを提供するスタートアップ2社が登壇し、「2018年は新型旅行サービス元年だったのか、旅領域のキーパーソンに聞く」と題してパネルディスカッションを行った。登壇したのは「TRAVEL Now」を提供するバンク代表取締役/CEOの光本勇介氏と、「ズボラ旅 by こころから(以下、ズボラ旅)」を提供するHotspring代表取締役の有川鴻哉氏。モデレーターは元TechCrunch Japan副編集長、現プレジデントオンライン編集部の岩本有平氏が務めた。

Hotspringが旅領域における新サービス、ズボラ旅を発表したのは2018年5月のこと。LINEチャットで旅をしたい日付と出発地を伝えるだけで、旅行プランを提案、予約までしてくれるズボラ旅は、旅のプランを考えることすら面倒な“ズボラ”な人でも気軽に利用できるサービスとして注目を集めた。

そして6月には、即時買取サービス「CASH」でスタートアップ界隈をにぎわせたバンクが、旅行領域に進出することを発表。与信の手続きなしで、後払いで旅行に行ける新サービス、TRAVEL Nowをスタートさせた。

ほかにもメルカリが旅行業へ参入、LINEがTravel.jpとの提携でLINEトラベル.jpをスタートするなど、今年は旅行分野でさまざまな動きが見られる年だ。その大きな渦の中、2社が旅という分野に注目した理由はなんだったのか。なぜこのタイミングだったのか。

光本氏も有川氏もシリアルアントレプレナーとして、複数の事業を立ち上げてきた人物。その2人がなぜ、今、旅行に注目したのか、まずは話を聞いた。

光本氏は「旅行領域の市場はでかい。OTA(Online Travel Agent)には巨大プレーヤーが海外にも国内にも大勢いて、楽天とじゃらんだけでも1.5兆円の規模がある。でもこの市場はお金がある人のためのもの。旅行に行きたい人はいっぱいいて、来月、再来月にはお金があるかもしれない。そういう人に旅行に行く機会を提供すれば、下手をしたら今の市場よりでかい市場があるかもしれない。『市場を作ってみないとわからない』というなら、作ってみたいと思って」と話す。

また光本氏は「個人的には毎年テーマを作っている」として「去年はお金がテーマだったので、CASHだった。今年は旅行がテーマだと思って、TRAVEL Nowを作った」とも述べている。

「なぜかといった理由がロジカルにあるわけではない。世の中、いろんな業界があって、各業界のトッププレーヤーがそれを牽引して、それなりの規模のビジネスを5年10年やっている。つまり以前に作られたメイン事業としてずっと同じことをしているわけだが、世の中や消費者はビックリするぐらい変化している」(光本氏)

光本氏は「テクノロジーやデバイスの変化に比べて、トッププレーヤーのビジネスは大きく変わっていない。既存の業界の変化もフラットに進んではいるが、世の中は想像以上に進んで変化している。そのギャップができたとき、新しい仕組みにグルッと入れ替わるんだと思う」という。

「それが去年は金融、今年は旅行と思っていたら、やはり今の消費者や世の中、デバイスに合わせた新しい旅行を提案するサービスが出てきている。タイミングだったのかな」(光本氏)

TRAVEL Nowも「思っていた以上に需要がある」と光本氏。「もっと突っ込んでいく価値がある」とサービス開始から3カ月の所感として感じているそうだ。

ちなみにバンクの光本氏はつい先日、DMMからの独立(MBO)を発表したばかりだが、事業のスピード感を上げたい、と感じたのは、このあたりの感覚もあったのかもしれない。会場では、MBO発表時のプレスリリース以上のコメントは聞くことはできなかった。

一方の有川氏も「光本さんも話すとおり、消費者とサービス提供側に差分があると感じたことが、ズボラ旅リリースのきっかけになっている」と話している。

「オンラインで旅行を買っている人は、全体の35%。服とかなら試したい、というのはわかるが、旅行は試着も何も試せないし、オフでもオンでも変わらないはず。なのにまだ3割台なのは何でだろうと考えた」(有川氏)

有川氏は「オンライン旅行サイトを触ると、いきなり目的地や日にち、人数を入れなければいけなくて、それから探し始めることになる。でもその時には行き先は決まっていないのでは?」とその理由について考えを説明している。

「友だちと会話していて『来月ぐらい温泉行きたいねー』といった感じで、旅行ができればいいのに、と思った。OTAはそことのギャップが激しい。光本さんの言う、お金がなくて旅行に行けない、という人がいるのだとしたら、申し込みがめんどくさくて行けなくなった人も、メチャメチャいるのではないか。そこでLINEのチャットで簡単に『どこかへ行きたい』と言えば予約まで行けるといいな、と思ってズボラ旅を立ち上げた」(有川氏)

現在のサービスの手応えについて有川氏は「会話で、相手が何となく見えると相談を詰めていけるので、コンバージョンは高いのではないか」と述べる。「今はサービスフローが成立して、行けるな、と思っているところ。ズボラ旅はスタッフがチャットで対応するサービスなので、オペレーションが重要。スタッフがユーザーの旅行を作っていけるのかどうか、お客さんの数を絞って検証していた。これから、ようやく増やしていくぞ、というタイミング」(有川氏)

2人ともIT畑の出身。リアルの代理店から始まっているOTAと比べて、メリットや不利と感じる点はどういうところだろうか。

光本氏は「僕たちの強みは“ド素人”なところ」という。「どのサービスでもそうだと思っているが、これまでに手がけた金融(CASH)でもオンラインストア(STORES.jp)の時も、対象にしているのはド素人の方々。旅行のド素人がド素人の方のためにサービスを作れば、気持ちをわかって作ることできる。それが強み」(光本氏)

業界ならではの知識やネットワークなどの面で弱みはあるとは思う、としながら、「いろんな企業の力を借りたり、自分たち自身が学んでカバーしている」と光本氏は話している。

「TRAVEL Nowでも情報はそぎまくった。記入するのがめんどくさい部分は、業界の人がビックリするぐらい取っちゃった。提携先の旅行会社の人からは、当たり前のように『あの情報もこの情報もほしい』とフィードバックが来たが、本当に必要かと聞くと『あったほうがいいからです』みたいな理由で。なくても予約できるし旅行はできる。ユーザーとしてはない方がいいし、実は成り立つじゃん、ということになった」(光本氏)

光本氏は「みんなが思っている以上に、旅行をガマンしている人はいると思っている」と話す。「2万円、3万円ぐらいの旅行なら行けばいいじゃないか、とよく言われるが、そういうことを言ってくるのはお金を持っている人。全国的な観点でいったら、安い温泉宿へ行くというのでもガマンしている人がいっぱいいる。『結婚記念日だから』『子どもの誕生日だから』今月旅行に行きたい。来月ならお金はどうにかなるかも。そういう人がちょっとしたお金がないから、このタイミングに旅行するのをガマンするのは悲しいし、残念だ。そういう人が旅行に行ける機会を作りまくりたい」(光本氏)

CASHもTRAVEL Nowも性善説で運営し、後払いをサービスに取り入れているが、悪用するユーザーもいるのではないか、という懸念もある。危ない人が利用するケースは「ゼロではない」と光本氏も認める。だがこの性善説で提供するサービスの領域に「興味があってチャレンジしたい」と語る。

「人を疑うのはコストでしかない。想定以上にきちんと払ってもらえるなら、ビジネスとして成り立つし、我々は疑うというコストをセーブできる。性善説に基づいたマスのサービスは世の中にない。そこに可能性と面白さがある。今はいろいろと実験しているところ。もう少し突き詰めたい」(光本氏)

有川氏は既存の旅行市場は「特殊」という。「OTAはITサービスを15〜6年やっている。ITサービスとしては長い方だ。そこには技術的負債もあり、リニューアルはされているけれど、全く新しいものではない。そこへモバイルシフト、スマートフォンの台頭とかが起きている。今このタイミングで新しく参入するからこそ、今までになかったものが出せる」とその考えを説明する。

LINEを入口としていることで、ズボラ旅のユーザーには若い人が多いのかと思いきや、お客さんの幅は広いようだ。「OTAサイトが使えない、使い方がわからない人も多い。今までインターネットが触れなかった人、60代の方が子どもに聞きながら使う、ということもある」(有川氏)

認知の部分でもLINEをベースにすることで、クリアできているようだ。今は旅行メディアとの連携により、記事を読み終わったところで申し込みできる入口を増やしているところだという。

今後、2社が考える旅行サービスの展開はどのようなものなのだろうか。

光本氏は「ポテンシャルが大きすぎるので、直近数年のイメージだが」として「超カジュアルにハードル低く、旅行に行く機会を提供しまくってみたい」と言う。

有川氏は「手段はチャットであってもなくても、旅行の相談窓口であり、オススメ場所でありたい」という。「我々が提供しているのは“レコメンド事業”だと思っている。商品はたくさんあるので、それを合う人にマッチングしていく、というサービスだ。そこでデバイスは何でもいいし、音声アシスタントを使うという方法もあると思う。形は問わなくなっていくのかな」(有川氏)

ズボラ旅はイベントが行われた11月16日、サービスを大きくリニューアルした。ホテル・旅館の予約だけでなく、新幹線や特急券、航空券などの旅行手段、現地の公園や美術館などの施設のチケット、レストランなど、何でもLINEで相談すれば、まとめて予約することが可能になったのだ。

また、2019年初にも、海外旅行への対応を予定しているという。有川氏は「飛行機もホテルも現地アクティビティーもレストランも、全部日本語でLINEで会話するだけで予約して、行って帰ってこられるようになる」として「オペレーションは大変だけれど、やる価値はあると思っている」とサービスに自信を見せる。

来年にかけて、有川氏は「何も考えなくても、どこかへ行きたいね、というのがかなう世の中を実現するために、今ないものを作っていく。今、日本で1年あたりの旅行回数は2.6回と言われているが、旅行を簡単にして、その数字を増やしていくためにインパクトを与えたい」(有川氏)

光本氏のほうは、「金融」「旅行」に続いて、来年は「不動産」に注目しているという。「これもロジカルな理由はないが、単純にこれまで変わっていなかった業界。世の中が変わっている中で、今の世の中に合った新しい不動産サービスは出てくるべき。世の中と業界とのギャップが開ききるタイミングじゃないか。(自分がやるかどうかはともかく)新しい価値をもたらすような不動産サービスが、来年は出てくるような気がしている。もし本当にそうなったら、褒めてください(笑)」(光本氏)

Toyota AI Venturesが考えるモビリティーは3次元的なソーシャル——#tctokyo 2018レポート

Toyota AI VenturesマネージングディレクターのJim Adler氏

11月15日(木)に開始されたTechCrunch Tokyo 2018 Day1冒頭のFireside Chatは、Toyota AI Venturesでマネージングディレクターを務めるJim Adler氏の招いてのセッションとなった。同社は、2017年7月に設立されたトヨタグループのベンチャーキャピタルファンド。人工知能やロボティクス、自動運転、データ・クラウド技術の4分野においてスタートアップの発掘と投資を行っている。

登壇したAdler氏は、Toyota AI Venture設立時からのマネージングディレクターであり、またVoteHereという電子投票のスタートアップを創業した起業家でもある。同セッションでは直接的な言及は少なかったものの、参加者は多くのヒントを得られたハズだ。

人工知能やロボティクス、自動運転、データ・クラウド技術の4分野に注目しているといいつつも、会場に到着するまでにGPSシグナルが弱く、迷子になったエピソードを交えつつ、マッピングのローカリゼーションとデータサイエンスの重要性に触れた。例えば、ドライバーのクセとGPSシグナルを組み合わせたらどうなるのか。セッションは知見とヒントを散りばめたものだったともいえる。

まずToyota AI Venturesの方向性について。同氏は、TOYOTAのイメージであれば車となるが、モビリティー全体を見ており、あらゆる交通手段に関わると語った。車から見れば、ほかの交通機関の影響はあり、その逆でも同様だ。また車はソーシャルであり、その国の文化に応じた約束事の存在にも触れた。

同氏曰く「ソーシャルコントラクト」。自動運転の安全レベルを設計するにあたり、地域ごとの決まり事をAIに教えるにはどうしたらいいのか、歩行者によって配慮を変えなくてはいけない。親子の場合、自転車の場合、スケボーの場合で異なる。また自動運転の安全レベルについても、社会として答えを出す必要があり、コミュニティーで答えを出していけるのではないか、さらに安全とはなんだろうかといった疑問の提示もあった。またAdler氏はモビリティー全体に関わるため、テックに留まらず、パッケージとして考える必要があるとも語った。

そこにイノベーションが必要であり、スタートアップによるアクションをサポートしていくというのが、Toyota AI Ventureのスタンスになる。スタートアップを市場に投入して、反応/判断を得えて、また次のステップへ。Toyota AI Ventureは、投資だけでなく生産から安全設計までサポートをする。

投資基準はどうだろうか。Adler氏自身も起業家であった経験から、起業家の視点や気持ちがわかると踏まえたうえで、最終的には技術も大事だが、スタートアップチームの性能や社内文化を見ていると述べた。市場に投入したのちの市場反応を受け入れる姿勢だけでなく、一度社会文化が出来ると変更しにくく、フローを実行しやすい文化形成の推奨のほか、アドバイスとしてハードとソフトの入念なチェックや、競合のいる市場を選ぶといった話も出た。競合はライバルでもあるが、友人であるといった点であり、競合のいない市場はオススメしないそうだ。

最後に再び、社内文化の重要性を触れてAdler氏のFireside Chatは終了した。

(文/写真 林祐樹)

米国展開とメルペイに注力——上場後のメルカリの今、そしてこれから

東京・渋谷ヒカリエで開催中のTechCrunch Tokyo 2018。初日の11月15日には、メルカリ取締役社長/COOを務め、国内事業を率いる小泉文明氏が「上場を果たしたメルカリ、これから目指すもの」と題し、メルカリ上場までのストーリーや国内戦略、今後注力していく事業・サービスなどについて語った。聞き手はTechCrunch Japan編集統括の吉田ヒロが務めた。

米国メルカリの課題は「認知」

まずは上場前後の話から。6月19日に東証マザーズ市場に上場を果たしたメルカリだが、上場のタイミングはどのように決まったのだろうか。

小泉氏は「中長期戦略の中で、メルペイの準備を始めた時期だったことが大きい。今後ペイメントや新しいチャレンジを考えている中では、社会的信頼が重要になってくる。上場するにはちょうどいいタイミングだった」と答えた。

上場による調達資金をはじめとした資金の投下先について、小泉氏は「決算説明会の資料にもあるとおり、日本は黒字だがUSは赤字、ペイメントはまだ売上がない。日本での収益とファイナンスをUSとペイメントに投資している」と説明。「まずはビジネスを当てることが大事」と言う。

米国メルカリの立ち上がりは「やはりそんなに簡単じゃない」という小泉氏。「アメリカのスタートアップでもしんどいと思う。彼らも(収益の上がりやすい)B2Bサービス、SaaSへ移っていて、コンシューマー向けサービスを提供するところは減ってきている。資金力とユーザー滞在時間を呼び戻すのが、みんなの課題となっている」(小泉氏)

米国ではアプリDL数は4000万。小泉氏によれば「継続率は日本ほど良くなっていないので改善が必要だ。また認知率が課題で、日本のようにテレビCMで5億、10億投下したら何とかなるというものじゃない」と米メルカリの課題について打ち明けた。「認知率についてはSNS広告やビルボード(屋外看板)なども行っていたが、時間がかかっている」(小泉氏)

小泉氏は一方で「アプリ内の(ユーザー遷移などの)数値はかなりいい」とも述べている。「CVCとか、日本と変わらないぐらい。プロダクトの中は良くなってきたから、認知に投資して、認知率が上がれば数字(売上)は上がるのではないか」(小泉氏)

3月に「思い切り変えた」というUSメルカリのアプリUIは、赤がキーカラーの日本と違って、米国では青が基調。タイムライン上にアイテムがずらっと並ぶ日本のUIに対し、USではジャンルである程度見せるよう、縦と横で切り口が違う見せ方になっているという。

「ある部分、日本より進んでいる、アメリカにマッチしたUIに変えている」(小泉氏)

米国で展開する広告では「Selling App(売るアプリ)」をうたっているメルカリ。ラジオ広告やビルボードで『売るだけ』をフィーチャーしてあおっているとのことだ。小泉氏は先日乗ったUBERの運転手にも「知ってるよ、“売るアプリ”だろう? ラジオで聞いてた」と言われたそうだ。

米国でのメルカリの仕組みの浸透については、小泉氏もそれほど心配していないようだ。「中古マーケットではeBAYがあるが、PCベースでの利用が中心で、日本でYahoo!オークションがあったのと同じ。スモールビジネスの売り手がいるというのも、日本に近いんじゃないか。フリマアプリ領域での競合も減ってきた。女性向けアプリなどが残っているが、オールジャンルをカバーするものではなく、もともとフリルがあった日本と同じような構造がある」(小泉氏)

「日本で普通の主婦が使っているのと同じように、20代の女の子とかが普通に使うアプリになってきている。テクノロジーにフィーチャーさせない方がいいかと思って、全ジャンル対応したものにしている」(小泉氏)

小泉氏は「システムが受け入れられるには、スマートフォンでいかになじむか、が大切。米国ならではのチャレンジはあるが、新しいコンセプトが必要、という感じではない」と話している。

アメリカへの投資については「ここが取れるか取れないかで全世界への展開に影響するから」と小泉氏は述べる。「アジアへの進出もよく言われるが、まずはアメリカ。PLや企業革新(の速さ)が変わってくる。実現できないと次のステージに会社として全然行けない」(小泉氏)

休止サービスの見極め方とメルペイへの意気込み

上場によって社内で変わったことは「特にない」という小泉氏。どちらかと言えば上場というよりは「ペイメントが入ることで、お金を扱うサービスとして信頼性を高める必要があると認識されるようになった」という。

ほぼ全社員がストックオプションを保有しているメルカリだが、上場で辞めたという人もほとんどいないとのこと。「まだまだメルカリの可能性はあるとみんな感じている。楽しんでいる」と小泉氏は言う。

今年に入ってメルカリでは、5月に「メルカリ アッテ」を終了、「メルカリNOW」「teacha」「メルカリ メゾンズ」の3サービスを8月に終了し、年内に「メルカリ カウル」を終了すると発表している。

休止サービスについて小泉氏は「山田(代表取締役会長兼CEOの山田進太郎氏)も自分もそもそも、スタートアップをたくさん作ってきた人間。『新規サービスはそう簡単には当たらないよね』というのが合い言葉のようになっている。無責任にサービスを延命してリソースを取られるのは避けた方がいい。メルペイのような重要なところへリソースを配分し直す、という考えだ」と語る。

サービス休止の見極めは「初動を見て」行うとのこと。「大きなチャレンジがたくさん出てきている中で、数値、そして感覚で見極める。経営会議で担当役員や事業責任者の話を聞きながら、冷静に判断している」(小泉氏)

当該サービスを担当していた社員は辞めてしまうんじゃないかとも思えるが「全然辞めない」と小泉氏は言う。「サービスが好きか会社が好きかで言えば、会社と会社のミッション、バリューが好きという社員が多い。(サービス休止で)会社に貢献できるなら、それはいいよねと思ってもらっている。いろいろ思うところはあるとは思うけれども、みんな比較的次の仕事に邁進しているという印象だ」(小泉氏)

「サービスを閉じるにあたっては、『いいチャレンジだったね』として学びを得ながら、成仏させて次のチャレンジをさせるようにしている。そうした情報はメルカン(メルカリの社内の取り組みを伝えるメディア)でも共有して、リソースを配分している」(小泉氏)

一方で車のコミュニティ「CARTUNE」を10月に買収しているメルカリだが、取り入れるサービスの線引きはどこにあるのか。

小泉氏は「メルカリのカテゴリ戦略の中で自動車カテゴリは大きい。CARTUNEは短期間で熱量の高いコミュニティができあがっている。創業者(福山誠氏)としての優秀さと事業の魅力が際立っている。いいパートナーがいてくれたと思っている」とCARTUNE子会社化に至った理由について説明する。

「CARTUNEはメルカリとは別で持って行く(成長を目指す)。彼らのコミュニティをきちんと大きくしていく。メルカリのカテゴリをその過程で大きくすることはあるが、短期的にマージすることは考えていない」(小泉氏)

また、メルペイでサービス同士をつなぐ、という発想も「なくはない」という小泉氏。「リアルな店舗で使えるだけでなく、オンラインでも使えるようにしていく」と話している。

「カテゴリーに特化するためのM&Aは今後もあるだろう。(自社は)IPOで調達しているが、M&Aも否定せずにやっていく」(小泉氏)

休止したサービスと似たようなものをまたやる可能性もある、という小泉氏は「メルカリが1回目で当たったのは奇跡。メルペイにも大変なチャレンジが待っているはず。中途半端にやっても大きな山には登れない」と語る。

今後フリマ以外で注力したいのは「やはりペイメント。ペイメントはフリマアプリとあわせることで、エコシステムが生まれてくると思うから」と小泉氏は言う。

ペイメント系サービスに関しては、LINE Payをはじめ、さまざまな先行サービスがあり、今年に入ってからもPayPayなど新規サービスも増えている状況だ。メルペイはどのように勝負していくつもりだろうか。

小泉氏は「メルカリとメルペイの連携が非常に大事」と言う。「単純にペイメントサービスを使ってください、ではハードルが高い。手数料競争になっても意味がない」(小泉氏)

「メルカリはメルペイの強み。(メルカリでアイテムを売った)アカウントに対してお金が振り込まれたら、それが店舗で払えるようになっていく。LINEにもYahoo!にもそれぞれ良さがあるのと同じ。銀行口座やクレジットー度を登録させて……というよりは、すぐ店舗で使えるようにする。それがあれば、さらに『メルカリでものを売ろう』という動きにもなる。ユーザー活性化のモチベーションにもなっていく」(小泉氏)

シナジー、ということでいえば11月にアプリがローンチされた「メルトリップ」とメルカリとの連携はあり得るのか。

小泉氏は「今はそれぞれスタンドアローン」と言いながら、「将来的には連携も可能ではないだろうか」と話している。「メルペイのように近いサービスはいいが、新規サービスを作るときに既存サービスを意識しすぎると複雑化したり、重くなったりする。大事なところ以外をケアしなければいけない、ということはあってはいけないことだ。お客さまに親しまれるサービスにしてから連携しようと考えている」(小泉氏)

個人としては「ノーロジック」で投資

小泉氏には、個人投資家としての顔もある。直近では10月17日に、クラウドファンディングサービス「Readyfor」を展開するREADYFORへ個人として出資している。

メルカリの社長という激務の中で、個人投資家として活動する理由について、小泉氏に尋ねると「経営者としてやりたいことはいくつかあるが、身体は一つ。『こういう未来になってもらいたい』という夢を託すためにお金を投資している」という答えが返ってきた。

「ストラテジーがあって投資をする千葉さん(Drone Fundの千葉功太郎氏)と比べると、今までに投資しているREADYFORやファームノート(酪農農家向けIoTサービス)とかはバラバラに見えると思う。また、儲かる案件をスルーしていることもある。そういうのは僕じゃなくても誰か出してくれる人がいるだろうと思って」(小泉氏)

「(これまでに参画している)メルカリとかミクシィも個人をエンパワーメントする流れ。READYFORなどのクラウドファンディングとかはそういう感覚でいいと思う。ファームノートについては、僕が兼業農家の子どもで農家のことはよく見てきたから……。そういう感じで脈絡なく出資している」(小泉氏)

今後も比較的「ノーロジック」で投資していくだろう、という小泉氏。「(投資しませんかという)ディールはよく来る。期待されているな、ということはスタートアップからも感じる。普遍的に人やお金は大事だ。プロダクトについては事業をやっている人は一番考えていると思う。それに対して応援団として背中を押したい」(小泉氏)

不動産の“時間貸し”当たり前にーースペースマーケットが東京建物とタッグ、VCらからの調達も

写真左から、東京建物代表取締役社長執行役員の野村均氏、スペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏、XTech Ventures共同創業者の西條晋一氏

「今までは“売買”と“賃貸”しかなかった不動産市場で、新しい選択肢として“タイムシェア(時間貸し)”の文化を作っていく。不動産の運用のあり方を根本から変えるようなチャレンジをしていきたい」

そう話すのはスペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏だ。同社では2014年4月より、さまざまなスペースを1時間単位で貸し借りできるプラットフォーム「スペースマーケット」を運営。現在は会議室や撮影スタジオ、映画館、住宅などバラエティ豊かなスペースが1万件以上も掲載され、個人・法人問わず幅広い“場所探し”のニーズに応えるサービスへと成長している。

そんなスペースマーケットが不動産の利活用にさらなら変革を起こすべく、業界の大物とタッグを組むというニュースが飛び込んできた。その相手は創立から120年を超える東京建物だ。

スペースマーケットは11月16日、東京建物と資本業務提携を締結したことを明らかにした。合わせてXTech Ventures、オプトベンチャーズ、みずほキャピタル、千葉功太郎氏を引受先とした第三者割当増資を実施したことも明かしている。

今回の資金調達は同社にとってシリーズCラウンドの一環という位置付け。具体的な調達額は公開されていないけれど、数億円規模になるという。

ローンチから4年半、幅広い用途で使われるプラットフォームに

TechCrunchで最初にスペースマーケットを紹介したのはサービスローンチ時の約4年半前のこと。当時は会議や研修、イベントなどのビジネス用途が多く“ビジネス向けのAirbnb”と紹介していたけれど、今ではパーティーやスポーツ、個展などプライベートでの利用も増えている。

重松氏の話では特にここ1〜2年で利用者の層や数も広がったそう。たとえば最近は働き方改革の波にも乗って、フリーランスや副業講師のレッスンやセミナーのスペースとして活用されるケースが増加。ヨガスタジオやトレーニングジム、多目的イベントスペースなどが人気だ。

背景にはそもそもユーザーが借りたいと思うスペースが増えたことがある。ローンチ時は“お寺”や“球場”などユニークなスペースを借りられるのがひとつのウリだったけれど、近年は幅広い用途で使えるおしゃれなクリエイティブスペースが集まってきた。

その結果として写真やロケ、CMの撮影場所として頻繁に使われるスペースも出てきているそうだ。

ここ数年で利用者の“シェアエコ”サービスに対する距離感も変わってきた。重松氏も「メルカリを始めさまざまなシェアリングサービスが登場し、他のユーザーと直接モノを売買したりシェアしたりすることへの抵抗感も減ってきているのではないか」とトレンドの変化が利用者層の拡大にも影響しているという。

そのような背景もあり、スペースマーケット自体もリリースから4年半の月日を重ねる中で“空きスペースのシェアリングプラットフォーム”としてのポジションを徐々に確立し、貸し借りのサイクルが回るようになってきた。

とはいえ重松氏が「自分の周りでも徐々に使われるになってきてはいるものの、認知度調査などを実施してみてもまだまだ認知度が低い」と話すように、世間一般で広く知られている状態にはまだ至っていない。

同社にとって今回の資金調達はこのサイクルをグッと加速させるためのものでもある。調達した資金を活用して今後大規模なマーケティング施策を実施する計画だ。

不動産大手にも広がる“シェアエコ”の波

ここ数年で変わってきたのは一般の消費者だけではなく、企業も同じ。特に大企業のシェアリングに対する考え方が一気に変わってきたというのが重松氏の見解だ。不動産関連では日本でも最近WeWorkの話題を耳にすることが増えてきたけれど、それに限らず大手ディベロッパーがコーワキングスペースを開設するなどシェアエコの波が広がり始めている。

冒頭でも触れた通り、従来の不動産市場においては売買と賃貸の二択が基本路線で、そこに時間貸しという概念が入ってくることはほとんどなかった。結果的にそのどちらも難しい場合は“遊休不動産”として使われずに放置されてしまっているのが現状だ。

時間貸しすることで有効活用できるポテンシャルがあるのは、遊休化したスペースに限らない。個人の自宅やオフィス、店舗などにも使われていない時間帯や空間が存在する。実際スペースマーケットではそのようなスペースの貸し借りが活発に行われてきた。

「ビッグプレイヤーが参入してきてこそ、この流れが本物になる。実は昔から大手のデベロッパーと話をしたりはしていたが、当時はなかなか具体的な話になるまでに至らなかった。(東京建物とタッグを組むことで)不動産の時間貸しをさらに加速させられると考えている」(重松氏)

東京建物が2018年10月20日にグランドオープンした「Brillia 品川南大井」のモデルルーム。今後このスペースをスペースマーケット上に掲載して貸し出す予定だ

不動産の時間貸しを当たり前にする挑戦

今回、東京建物側の担当者である古澤嘉一氏にも少し話を聞くことができたのだけれど、興味深かったのが「不動産の活用について“柔軟性”と“契約期間”の2軸でマトリクスを作って考えてみると、両社は真逆にいるようなプレイヤーだ」という考え方だ。

東京建物の場合は基本的にある程度長いスパンで顧客に不動産を提供し、従来からの伝統的なスタイルで顧客と関係性を築く。一方のスペースマーケットは登録されたスペースが1時間単位で、かつさまざまな用途で活用される。

「この間には不動産の活用方法に関する無数の選択肢がある。たとえばウィークリーマンションのようなものもそのひとつだし、ホテルに関しても家族が長期間宿泊することにフォーカスを当てたものがあってもいい。いろいろな答えを探っていくなら、完全に逆サイドのプレイヤーと組むのが1番おもしろいと考えた」(古澤氏)

ちなみに東京建物がスタートアップに直接出資を行うのは初めてのことなのだそう。両社では今後さまざまな角度から不動産活用の選択肢を模索していくようだけれど、まずは足元の取り組みとして東京建物の保有するアセットをスペースマーケット上で運用していく方針だ。

一例としてマンションのモデルルーム内のスペースを休業日に貸し出したり、再開発エリアにある未利用の開発用不動産を活用したりといったことから取り組む。賃貸不動産や商業施設などのシェアスペースを取り入れた空室活用や、シェアスペースを前提とした新しい不動産の開発も検討するという。

八重洲の再開発事業の対象エリアにあるヤエスメッグビル。同ビル内の地下音楽ホールもスペースマーケット上で有効活用する計画

「事例ができれば可能性も広がる。まずは事例を積み重ねて、業界の中でもシェアエコの話や不動産の時間貸しの話が普通に交わされるようにしていきたい。2〜3年後、“設計の段階からシェアすることを前提とした不動産”が作られるような段階が訪れた時に、いち早くその考え方を取り入れ業界を盛り上げていけるような存在になれれば」(古澤氏)

「自分たちの中では、これから不動産のタイムシェアが当たり前になると思って事業に取り組んでいる。歴史のある業界のガリバーと組んで、不動産業界を変えていくための第一歩にしたい」(重松氏)