Birdがニューヨークで電動車いす用アタッチメントをテスト

共有型マイクロモビリティ企業であるBird(バード)は、障がい者がアクセスできるモビリティを増やすために、車いす用バッテリー駆動アタッチメントの試験的導入を限定的に開始する。

この新しい「adaptive program(アダプティブ・プログラム)」は、この夏に拡張されるニューヨーク市ブロンクスのeスクーター試験走行の一部となる。試験地域の個人はこのプログラムに申し込むことができ、参加資格があれば、Birdのチームが直接アタッチメントを届け、セットアップと使用方法を教える。

「セットアップは、Birdの技術者により30分から1時間かかります。最初に取り付けた後は、デバイスは数秒で車いすにラッチオン / オフするはずです」と、Birdの広報担当者はいう。

このプログラムは、Birdが、障がい者がアクセシブルなクルマを探して予約し、支払うことができるようにしたScootaround(スクータアラウンド)というオンデマンドのアクセシブルモビリティプログラムを拡大した数カ月後に登場した。

競合のLime(ライム)は、Lime Able(ライム・エイブル)という同様のアクセシビリティプログラムを行っており、Limeが障がい者や標準的なスクーターでは自信がない人に、3輪スクーターや座席付きスクーターなどの適応型車両を宅配(24時間レンタル)している。

Birdによると、同社の車いす用アタッチメントは、350ワットのモーター、軽量で取り外し可能なリチウムイオンバッテリー、前進と後退の別々のスロットルを備えており、利用者が時速12マイルまで進むことができる。同社は、このアタッチメントが、ライダーの傾斜地の移動や市街地の長距離移動をより容易にするという。

「Birdのadaptive programは、すでに私がより速く移動し、より多くのことを達成するのに役立っています」と、最初のプログラム参加者の1人であるブロンクス在住のEduardo Hernandez(エドゥアルド・ヘルナンデス)氏は声明の中で述べている。「新しいスピードは最高です。スーパーマーケットやその他の用事が非常に楽になりましたし、通常であれば非常に疲れる上り坂でも、信じられないほど役に立っています」。

多くの車いすは保険で賄われているため、このようなアタッチメントが保証を無効にするか、保険の規定に反するかどうかは不明で、Birdはこの件に関する説明に回答しなかった。しかし、Birdは、同社がニューヨーク市交通局、ニューヨーク市長室障がい者課、地元のニューヨーク市障がい者支援団体と協力して、参加者を探していることを明らかにした。

このサービスは現在、ブロンクス区の参加者に無料で提供されている。

画像クレジット:Bird

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Yuta Kaminishi)

マイクロソフトの「PeopleLens」プロジェクトは視覚に障がいをもつ子どもが社交的ヒントを学ぶ手助けをする

視覚障がいがある成人にとって困難なことの1つに、目が見える人たちの社交、会話に使われるボディランゲージを理解して参加することがある。PeopleLens(ピープルレンズ)はMicrosoft(マイクロソフト)の研究プロジェクトで、ユーザーに周囲にいる人たちの位置と名前を知らせて、会話をより豊かで自然なものにすることが目的だ。

晴眼者は部屋で周囲を見渡すだけで、どこに誰がいて誰が誰と話しているかなど、社交的な手がかりや行動に役立つ数多くの基本的情報を瞬時に得ることができる。しかし視覚障がい者は、現在、誰が部屋に入ってきたのか、誰かがその人を見て会話を促したのかどうか、必ずしも知ることができない。これは、集団への参加を避けるなど孤立や非社交的行動につながる。

Microsoftの研究者たちは、視覚障がいをもって生まれた子どもがその情報を得て有効に活用するために、テクノロジーをどう役立てられるかを知りたかった。そして作ったのがPeopleLens、ARメガネで動作する高度なソフトウェア群だ。

メガネに内蔵されたセンサーを使って、ソフトウェアは知っている顔を認識し、その人のいる場所と距離を音声によるヒントで示す。クリック、チャイム、名前の読み上げなどだ。例えばユーザーの頭が誰かに向くと小さなぶつかる音が鳴り、その人が3メートル以内にいれば続けて名前が読まれる。その後高くなっていく音によってユーザーがその人物の顔に注意を向ける手助けをする。他にも、近くにいる誰かがユーザーを見たときにも通知音が鳴るなどの機能がある。

PeopleLensソフトウェアとその3D表示(画像クレジット:Microsoft Research)

これは、この種のデバイスを一生身につけるということではなく、さまざまなヒントに気づき、社交的な反応を見せる能力を向上するための支援ツールとして使うことが目的だ。他の子どもたちが視覚を利用して学習する非言語的スキルを身につけるためにも役立つ。

現在のPeopleLensはまだまだ実験に過ぎないが、これまでに研究チームはかなりの年月を費やしてきている。次のステップは、英国内で5~11歳の長期間デバイスをテストできる子どもたちを集め、同世代分析を行うことだ。自分の子どもがあてはまると思う人は、MicrosoftのパートナーであるUniversity of Bristol(ブリストル大学)の研究ページで申し込みができる。

画像クレジット:Microsoft Research

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nob Takahashi / facebook

障がい者支援に向けたeラーニングサービスを提供するLean on MeがシリーズAエクステンションとして8050万円を調達

障がい者支援のeラーニングサービスを提供するLean on MeがシリーズAエクステンションとして8050万円を調達

障がい者支援者向けeラーニングサービスを提供するLean on Me(リーオンミー)は3月2日、シリーズAエクステンションラウンドとして第三者割当増資による8050万円の資金調達を実施したと発表した。これにより、シリーズAラウンド累計調達額は約3億円となった。調達した資金は、障がい者支援のためのeラーニング「Special Learning」のコンテンツ充実、サポート体制の強化、システム改良によるサービス強化にあてる。

引受先は、以下の通り。

・おおさか社会課題解決2号投資事業有限責任組合(大阪信用金庫およびフューチャーベンチャーキャピタル)
・京信イノベーションC2号投資事業有限責任組合(京都信用金庫CVC「京信ソーシャルキャピタル」およびフューチャーベンチャーキャピタル)
・京銀輝く未来応援ファンド2号投資事業有限責任組合(京銀リース・キャピタル)
・三菱UFJキャピタル8号投資事業有限責任組合(三菱UFJキャピタル)
・松尾義清氏(農業総合研究所取締役)

2014年4月設立のLean on Meは、「障がい者にやさしい街づくり」をビジョンに掲げ、障害のある方の生きづらさを解消し共生社会の社会基盤となることを目指すスタートアップ。

Special Learningは、社会福祉法人の職員や障がい者を雇用する一般企業の社員に向けたサービス。障がい者を支援するうえで必要となる知識を、動画を用いて学べるオンライン研修を提供している。日常の支援でつまずいた際に、必要とする知識・コンテンツを自ら選択し学ぶことで、実際に適切な支援が行えるようサポートするという。具体的な内容の例としては、「AEDの使い方・応急手当・防災マニュアル・移乗介助の仕方」といった安全面、「基本的人権・障害者差別解消法・虐待の5類型・運営適性委員会など」の権利面などがある。障がい者支援のeラーニングサービスを提供するLean on MeがシリーズAエクステンションとして8050万円を調達

【コラム】アクセシブルな雇用が「大量退職時代」の解決策となる

さまざまな業界で従業員が仕事を辞めている。最近では、米国で2021年に4人に1人が仕事を辞めたという調査がある。転職がコロナ禍の不安定な経済状況によるものか、仕事を取り巻く環境の見直しか、納得のいかない雇用主に対する反抗なのかなどが考えられるが、いずれにしても確かなことが1つある。米国では2021年11月時点で1000万以上の求人件数があるのだ。

求職者の中には障がい者も数多くいる。障がいのある労働者は新型コロナウイルスに関連する解雇の影響を不当に大きく受けたからだ。2020年3〜4月に、障がいのある労働者の数は20%減少した。多くの組織がすでにダイバーシティ、公平性、インクルージョンに対する取り組みを見直している中、採用担当者はアクセシビリティを「すべての人」を迎える職場づくりにとって重要な要素として認識する必要がある。

アクセシブルな採用活動は適切なことであり、ADA(Americans with Disabilities Act、障害を持つアメリカ人法)が求める要件だが、それだけではなく広範囲に及ぶ労働力不足を解消し、企業が優秀な多くの人材を集めることにもつながる。

しかし障がいのある応募者にアプローチする戦略を考える前に、それを邪魔する誤解をいくつか挙げておこう。

誤解:障がいのある人を雇おうとしたら、採用の基準を下げなくてはならない。

事実:障がいのある人が他の人より高いパフォーマンスを示すことは少なくない。しかも障がい者を雇用する企業では、インクルーシブなプロダクトを開発して新たな市場の獲得につながるイノベーションが進むため、結果として年間収益が28%多い。

誤解:障がいのある従業員は他の人に比べて欠勤が多い。

事実:障がい者の出勤率は他の従業員と変わらないか、むしろ高い。また、離職率も低い。離職率は2021年に生産性に大きな影響を与えた問題だ。

誤解:受け入れの配慮に費用がかかりすぎる。

事実:まず、配慮の56%には費用がまったくかからない。そして費用がかかる場合のうち50%は500ドル(約5万7000円)未満だ。さらに障がい者のインクルーシブな雇用からは利益の増加や株主還元も期待できるので、組織にとっては得るものばかりだ。

アクセシビリティの文化による好影響を組織が認識したら、次は障がいのある候補者の採用方法を考えることになる。採用方法の検討には、カリフォルニアに住む障がい者の権利向上に取り組むNPO法人、Disability Rights CaliforniaのLoule Gebremedhin(ルール・ゲブレメドヒン)氏とJennifer Stark(ジェニファー・スターク)氏によるガイドラインを利用するとよい。

第1段階:募集

組織内を客観的に見る

採用プロセスを始める前に、組織は内部をよく見る必要がある。現実を認識し、障がい者を戦力として雇用するだけではない。障がいのある従業員の専門性と経験を評価し、専門性の成長を支援する環境を作るということだ。

次の質問に対する答えを考えて、ゴールを明確にしよう。障がいに関する現在の自分たちの文化はどのようなものだろうか。成長と定着を受け入れる準備はできているだろうか。公平な雇用プロセスは自分たちの大きなゴールにどのようにつながるだろうか。

組織内では福利厚生も検討する必要がある。よく知られていることだが、候補者が入社を検討する際に充実した福利厚生が検討材料となることは多い。障がい者にとってその意味はさらに大きい。多くの場合、包括的な心身の医療保障制度が勤務先を選ぶ際に最も重視されるポイントだ。

リモートワークも重要な福利厚生だ。近年、我々は家で仕事をするメリットを目撃してきた。通勤にかかる時間や費用の減少、子育ての柔軟性、高い生産性などだ。障がいのある人にとっても同様で、さらに自分のニーズに合う仕事の環境を作れるメリットもある。例えば視覚障がい者は自分にとって最も見やすい部屋の明るさを決められる。

募集の準備を整える

次に、採用担当者は職務内容と応募書類を改訂して障がい者が応募しやすいようにする。「どのように」業務を遂行するかではなく、ゴールを達成するために必要な最終的なスキルを記述するように構成し直す。例えば「口頭での高いコミュニケーション能力」ではなく「効果的にコミュニケーションできる能力」とする。米国労働省の取り組みであるEmployer Assistance and Resource Network on Disability Inclusion(障がい者インクルージョンに関する雇用主向けサポートとリソースのネットワーク)が出しているガイドが、記述を改訂する際の参考になる。

障がい者にとって応募書類を見つけて記入することは極めて難しい。デジタル応募書類の多くはアクセシビリティの要件を満たしていないからだ。このままでは障がいのある応募者の数が少なくなってしまうだけでなく、組織にとってはADA違反という法的リスクとなりかねない。応募のプロセスに対応するアクセシブルなサイトやフォームを作る開発者向けのトレーニングとツールを活用するのが、コンプライアンスを維持しつつ対象となるすべての候補者が等しくアクセスできるようにするための手軽な方法だ。

第2段階:面接

前もって対応する

障がい者は対応を要請することに慣れている。しかし要請する必要がないとしたらどうだろうか。面接のプロセスであらかじめ求職者に対して配慮していれば、求職者にとってはその組織がアクセシビリティを重視していることの確認になる(そしてこれはADAの要件でもある)。

例えば対面での面接なら、車いす利用者が面接会場に問題なく到着できるかを考慮する。バーチャル面接なら、ミーティングのプラットフォームで最低でも自動キャプション機能を有効にできることを確認する。ライブキャプションや手話を利用できればなお良い。

採用責任者をトレーニングする

採用責任者の偏見が、障がい者雇用率の低さの根底にある。組織は障がいに関するエチケットと倫理の基本や、ADAに準拠した質問に関するトレーニングを実施することで、認知度を高め偏見をなくす上で積極的な役割を果たすことができる。採用チームに障がい者を含めることも、障がいに対する意識を高めることにつながる。

第3段階:オファー

障がいのある従業員を雇用する際には、組織は競争力があり候補者のニーズにも合うオファーを提示する段階を踏む必要がある。

  • 業界全体の同様の職務と同等の報酬であることを確認する:障がい者の報酬が不当に低いことはよくあり、最低賃金以下で障がい者が働くことを許す方針がいまだに残っていることを忘れないようにする。
  • 対応できるシステムを作る:採用予定者に対して、対応を要請できることを知らせる。また、その要請に応える方針を策定する。米国労働省が資金を提供し障がい者雇用のリソースとなっているJob Accommodation Networkは、どのように対応するかの知見を得るのに役立つ。
  • メンタリングと定着のプログラムを構築する:成長とリーダーシップを支援するために、専門のメンタリング、教育、ネットワーキングの機会を提供する。

この1年間で、組織は職場のダイバーシティ、公平性、インクルージョンに関して大きな進歩を遂げた。アクセシビリティはこうした考え方の一部であり、組織が包括的なゴールを達成するためのものととらえる必要がある。

適切な行動をとることからさらに進んで、障がいのある候補者を求め、その人が成功できる環境を提供する雇用プロセスを促進すれば、現在の人材不足を解消し、イノベーションを加速し、組織の文化を強くすることにつながる。

編集部注:本記事の筆者のMeagan Taylor(ミーガン・テイラー)氏はDeque Systemsのプロジェクトマネージャーで、ウェブを含め資本や機会に対する組織の障壁をなくすことに熱心に取り組んでいる。

画像クレジット:kyotokushige / Getty Images

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(文:Meagan Taylor、翻訳:Kaori Koyama)

【コラム】高まるアクセシビリティへの意識、それは行動につながっているのだろうか?

ほぼ2年にわたり、世界中の人々が世界との関わり方を大きく変えてきた。それは多くの人々に日々の行動を変えさせた。残念なことに、これらの変化の一部によって、多くの人が当たり前に思っている日常業務が、アクセシビリティやアコモデーションを必要とする人にとって気が遠くなるような困難なものになってしまうことがある。

ハリス世論調査では、米国の成人の半数以上がパンデミックのためにオンライン活動を増やしていることが明らかになっている。障がいのある人の場合、その数字は60%になる。

オンライン活動が増えたからといって、誰もが目標を達成できるわけではない。では、この危機はアクセシビリティにどのようなインパクトを与えているのだろうか。アクセシビリティの重要性について、組織は最終的にメッセージを受け取っているのだろうか?

増加傾向にあるアクセシビリティへの意識

近年、どこを見てもアクセシビリティや障がいのある人についての何かがあるように感じられるのではないだろうか。大手テック企業のテレビ広告の多くは、障がいのある人々やアクセスしやすいテクノロジーを取り上げている。

Apple(アップル)ではネットワークテレビの最初のプライムタイム広告の始まりを告げ、Microsoft(マイクロソフト)は米国最大の試合中に広告を出している。Google(グーグル)の広告では、耳の不自由な男性が、自分のPixel(ピクセル)スマートフォンでLive Caption(ライブキャプション)を使って初めて息子に電話をかける様子が描かれている。またAmazon(アマゾン)の広告には、聴覚に障がいのある従業員Brendan(ブレンダン)氏の職場や家での姿が映し出されている。

アクセシビリティへの意識が高まっているのは明らかだ。2021年5月の「Global Accessibility Awareness Day(グローバル・アクセシビリティ・アウェアネス・デー)」に敬意を表し、Apple、Google、Microsoftは自社プロダクトのアクセシビリティに関する多数のアップデートとリソースを発表した。DAGERSystem(デーガーシステム)は、近くリリース予定のAccessible Games Database(アクセシブルゲーム・データベース)を公開した。これによりゲーマーは、プラットフォームごとにアクセシブルゲームを検索し、聴覚、視覚、色、微細運動のカテゴリー別にアクセシビリティをフィルターできるようになる。

テック企業がアクセシビリティについて語り、それをプロモーションし、マーケティング予算の一部にしているのはすばらしいことだ。しかし、それについて語ることと行動を起こすことの間には違いがある。語ることでウェブサイトのアクセス性が向上するわけではない。それには行動が必要である。

最近のForrester(フォレスター)サーベイでは、10社中8社がデジタルアクセシビリティに取り組んでいることが示された。では、実際に何か変化は起こっているのだろうか。人々は障壁なしにウェブサイトを利用することができているだろうか?

インターネット利用率の上昇はアクセシビリティを向上させたか

これは、2021年のState of Accessibility Report(SOAR、アクセシビリティの状況レポート)で明らかにされた疑問である。SOARの目的は、企業や業界全体のアクセシビリティの現状を評価することにある。アクセシビリティが改善された点や、作業が必要な部分を見つけるためのツールとなっている。

同レポートはこれまで、Alexa(アレクサ)のトップ100ウェブサイトのアクセシビリティの状態を分析することで、アクセシビリティの指標を得てきた。このレポートでは、販売数ではなく、最も人気のあるデジタルプロダクトに焦点を当てている。ほとんどの場合、変化は上位から始まる。上位で状況が改善すれば、残りは後に続く。

80/20ルールとしても知られるパレートの法則がここで適用される。デジタルプロダクトの上位20%でトラフィックの約80%に到達する。

興味深いのは、Alexaのトップ100は2021年に31の新しいウェブサイトをリストしているが、それらは2019年や2020年にはトップ100に入っていなかったことだ。2019年にAlexa 100のリストに掲載されたウェブサイトの中で、2021年のリストに掲載されたのはわずか60%であった。

こうした変化や現在のAlexaトップ100ウェブサイトをレビューすることで、パンデミックによってオンライン行動がどのように変化したかが容易に見て取れる。上位のウェブサイトには、ファイル転送やコラボレーションツール、配送サービス、Zoom(ズーム)やSlack(スラック)などのコミュニケーションツールなど、多くの生産性アプリが含まれていた。

ビデオプラットフォームに関していえば、特にクローズドキャプションが導入された地域において、パンデミックがアクセシビリティに大きなインパクトをもたらしたことは明らかであろう。2020年4月の時点で、Skype(スカイプ)以外のビデオプラットフォームには自動キャプションが組み込まれていなかった。残念ながら、Skypeのキャプションは最高の品質とはいえなかった。

Google Meetには、2020年5月までにキャプションが追加された。この時点でZoomは、自動キャプションのベータテストを行っていた。だが当初は有料アカウントにのみ展開していた。嘆願書の提出を受け、Zoomは無料アカウントでの提供に同意した。そうなるまでに約8カ月を要している。

6月頃には、Microsoft TeamsのiOSアプリで、Teamsのネットワーク上にいないユーザーが無料でキャプションを付けて利用できるようになった。これは良いスタートだが、ビデオプラットフォームのアクセシビリティにはキャプション以上のものが求められる。マウスなしでナビゲートできる必要がある。キャプションに加えて、プラットフォームはトランスクリプトを提供する必要がある。スクリーンリーダーや更新可能な点字デバイスと互換性があるのは、キャプションではなくトランスクリプトになる。

Alexaのトップ100ウェブサイトのテスト結果は以下の通りである。

  • テストしたウェブサイトのうち、スクリーンリーダーがアクセシブルであるのは62%で、2020年の40%から増加した
  • すべてのページが、有効なドキュメント「lang」属性を持つことに対して合格となった
  • テストしたウェブサイトのうち、入力フィールドのラベルにエラーがあったのはわずか11%だった
  • 最も一般的なエラーはARIAの使用であった
  • 2番目に多いエラーは、カラーコントラストであった

要約すると、Alexaのトップ100ウェブサイトのスクリーンリーダーのテストでは、2019年と2020年のテストよりも大幅な改善が見られた。

モバイルアプリはどうだろうか?ある調査では、モバイルインターネットに費やされる4時間について、回答者の88%がその時間をモバイルアプリに費やすと答えている。アプリの利用率が高く、アクセシビリティコミュニティがアプリのアクセシビリティに関心を持っていることから、SOARは今回初めてモバイルアプリをテストした。Web Content Accessibility Guidelines(WCAG、ウェブコンテンツ・アクセシビリティガイドライン)2.1では、モバイルデバイスのアクセシビリティに関する10の成功基準が追加されている。

モバイル分析では、iOSとAndroid向けの無料アプリのトップ20と、両OS向けの有料アプリのトップ20に注目している。最大の驚きは、無料アプリの方が有料アプリよりはるかにアクセシブルであったことだ。

無料アプリの主要機能のアクセシビリティをテストしたところ、iOSアプリの80%、Androidアプリの65%が合格した。有料アプリの主要機能のアクセシビリティに関しては、合格したのはiOSアプリでわずか10%、Androidアプリで40%であった。

なぜ格差があるのか?Statista(スタティスタ)によると、93%以上がAndroidとiOSデバイスの両方で無料アプリを使用しており、無料アプリのユーザー数は有料アプリをはるかに上回っている。プロダクトの利用者が増えれば増えるほど、利用者がアクセシビリティに関する要望やフィードバックを行う可能性が高くなる。また、無料アプリを提供している企業の多くは、アクセシビリティを最優先事項としている大手テック企業である。

私たちができること

デジタルアクセシビリティが進歩しているのはとても喜ばしいことだが、企業は軌道を維持する必要がある。そのための最も効果的な方法の1つは、アクセシビリティに対するトップダウンのアプローチを採用することである。それを企業文化の一部にしていくのである。

アクセシビリティ優先の文化をひと晩で構築するということはなく、数カ月で構築することもない。時間が必要となる。どんな小さな一歩も進歩である。重要な点は、どんなに小さくても最初の一歩を踏み出すことだ。それは、画像に代替テキストを追加することを社内の全員に指導するようなシンプルなものかもしれない。あるいは、適切な見出しの使い方について、ということも考えられよう。

マッスルメモリーになるには相当な練習が必要となる。あるものを制覇したら、次のものに移る。SOAR 2021によると、多くの企業が代替テキストと見出しを習得し始めているという。しかし、彼らはカラーコントラストとARIAに苦戦している。おそらくそれが次のステップになるだろう。

アクセシブルなプロダクトを生み出すには、障がいのある人たちがそのプロセス全体に関わる必要がある。そう、実用最小限のプロダクトを構築する前に。さらに良いのは、障がいのある人を雇用することで、常に専門家の手が届くようにすることだ。

アクセシビリティの格差が大きい理由は、教育と訓練の不足にある。企業はプロダクト開発チームだけではなく、すべての人を訓練する必要がある。開発チームはアクセシブルなウェブサイトを作ることができるが、マーケティング担当者がキャプションなしでビデオを投稿したり、グラフィックデザイナーがコントラストの悪い画像を作成したり、営業担当者がアクセシブルでないPDFファイルを公開したりすると、その苦労はすべて水の泡になる。

アクセシビリティはすべての人の責務といえよう。

編集部注:本稿の執筆者Joe Devon(ジョー・デボン)氏は、アクセシブルな体験を構築するデジタル・エージェンシーであるDiamondの共同設立者。また、Global Accessibility Awareness Dayの共同設立者であり、GAAD Foundationの議長も務めている。

画像クレジット:twomeows / Getty Images

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(文:Joe Devon、翻訳:Dragonfly)

視覚障がいを持つ人のモビリティを強化するためスマート杖のWeWALKと提携したMoovit

世界的に人気の旅行計画アプリを提供するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)プロバイダーであるインテル傘下のMoovit(ムーヴィット)は、視覚障がい者がより安全かつ効率的に目的地に到達できるようにするために、スマート杖の会社WeWALK(ウィーウォーク)と提携した。

WeWALKの研究開発責任者Jean Marc Feghali(ジャン・マルク・フェガリ)氏によると、WeWALKのアプリは、MoovitのTransit APIと統合される予定だ。このAPIは、視覚障がい者が公共交通機関を安全に利用できるようにするために、地域の交通機関の公式情報とクラウドソースの情報を組み合わせて、各旅程に最適なルートを導き出す。

今回の提携は、共有する電動スクーターや自転車をアプリ内に表示するための、Lime(ライム)、Bird(バード)、そして最近ではSuperpedestrian(スーパーペデストリアン)などのマイクロモビリティ企業とMoovitとの統合に続くものだ。また、Moovitは、交通不便地域の利用者のためのオンデマンド交通サービスや、自律走行型送迎サービスを提供するためにインテルのMobileye(モービルアイ)と提携するなど、新たなビジネスユニットを立ち上げている。

現在3400都市で展開しているMoovitは、あらゆる場所で、あらゆる人にサービスを提供しようとしているようで、その中にはもちろん視覚障がい者も含まれるべきだ。障がい者コミュニティ向けの交通技術は決して多くはないが、いくつかの有用なイノベーションが生まれ始めている。例えば、本田技研工業のインキュベーション企業であるAshirase(あしらせ)は、最近、WeWALKの杖に似た靴の中のナビゲーションシステムを発表した

杖自体は、シャフトを介してアナログ的に地上の障害物を検知することができるが、杖に取り付けられたスマートデバイスは、超音波センサーを用いて上半身の障害物を検知する。また、杖に内蔵された振動モーターによる触覚フィードバックにより、さまざまな距離の障害物を警告する。

「WeWALKは、バス停への道案内など、さらに多くのことができます」とフェガリ氏は、TechCrunchの取材に対し述べた。「Bluetoothを介して、スマート杖は、WeWALKスマートフォンアプリに接続します。このアプリは、最も包括的で利用しやすい視覚障がい者向けナビゲーションアプリの1つだと考えています。当社のアプリは、Moovitサービスと、当社が独自に開発したナビゲーションエンジンとアプリのインターフェースを統合して、徒歩や公共交通機関のナビゲーションや都市探索機能を提供します」。

ユーザーがアプリに目的地を入れてルートを選択すると、スマート杖は音声ガイドとロービジョンマッピングによってユーザーの旅を段階的に案内し、交通機関の停留所を指示したり、次の交通機関の車両が到着したことを知らせたりする。また、乗車時や目的の停留所に到着した際には通知されるため、利用者は自分が正しい停留所にいることや、降りるタイミングを知ることができる。

ユーザーにとっての一番の利点は、片手で携帯電話を持ち、もう片方の手で杖を持つ必要がないことだ。スマート杖の柄の部分にはアプリと接続されたタッチパッドが内蔵されており、ジェスチャーを使ってスマホを操作しながら、現在地の確認、交通機関の時刻表や近くの交通機関の停留所の確認、目的地までの移動などができる。

「例えば、ユーザーがインペリアル・カレッジ・ロンドンに向かう際には、スマート杖がルートの選択肢をアナウンスし、各段階に応じてユーザーを案内します」とフェガリ氏は述べた。「歩きの場合、WeWALKはバッキンガム・パレス・ロードを12時の方向に50m進み、3時の方向に右折してステーション・ロードに入りますとアナウンスします。地下鉄の駅では、WeWALKが電車の到着時に乗るべき電車を通知し、降りる必要がある前にユーザーに知らせます」。

今回の提携は、金曜日の国際障がい者デーに合わせたもので、視覚障がい者が雇用や教育、社会活動の機会を得るために、より自律的で自由な移動ができるようになることを期待している。

「目の不自由な方は、これまでにないほど自立した生活を送ることができているが、公共交通機関を利用して移動することはまだ困難で、圧倒されることもあります」Moovitのチーフグロース&マーケティングオフィサーYovav Meydad(ヨバフ・メイダッド)氏はコメントしている。「今回の提携により、移動手段の障壁を取り除き、人々に安心感を与え、より多くの機会にアクセスできるようになることを目指します」。

画像クレジット:Moovit

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Yuta Kaminishi)

ゲームにおけるアクセシビリティは課題でありチャンスだという英国のレポート

ゲームのコミュニティ、開発者、パブリッシャーが、アクセシビリティをビジネスと楽しみの重要な部分と考え始めている。しかし先はまだ長い。英国における障がい者ゲーマーのニーズと習慣のレポートは、世界中の多くのゲーマーがプレイや購入などゲームを楽しむ際にいつも困難に直面することを示唆している。

障がい者支援組織のScopeが実施したアンケート調査についてゲームメディアのEurogamerにVivek Gohil(ビベック・ゴーヒル)氏が寄稿したところによると、1326人(障がい者812人、障がい者でない人514人)がゲームの世界で直面する問題について回答した。

回答者の3分の2がゲームに関する障壁に直面し、最も多い障壁は支援技術に対応していない、あるいは手頃な価格で利用できないということだった。アクセシビリティのオプションがないためにゲームを購入しなかった、あるいはアクセシビリティが欠如しているゲームを購入したがゲームをプレイ(または返品)できなかったと回答した人が多かった。

興味深い点として、障がいのあるゲーマーはゲーム内アイテムを購入したりeスポーツを観戦するなど、さまざまなプラットフォームに関わる傾向がかなり強い。ゴーヒル氏が指摘しているように、英国内だけでも1400万人ほどの障がい者が多くの可処分所得を有している。その中にはアクティブなゲーマーが多数いて、経済効果が望める人々だ。それにもかかわらず、ゲーム内広告のターゲットにしたりゲームに登場したりする層であるとはほとんど考えられていない。

アクセシビリティのオプションを備えればあらゆる人にとってより良いゲームになると認識する大手開発企業が増えて、こうした状況は変化しつつあるようだ。「ラチェット&クランク」「The Last of Us Part II」「Forza Horizon 5」などの新作人気タイトルは、色覚特性からゲームプレイのスピードダウン、きめ細かい難易度設定などに幅広く対応している。

中小企業が多様なニーズに応える支援デバイスを製造するようになって、ハードウェアも向上しつつある。MicrosoftのXbox Adaptive Controllerはこれまでのコントローラを使えない人たちの間で大ヒットとなった。

Microsoftは最近、スペシャルオリンピックスとの共催でインクルージョンを重視したeスポーツのトーナメントも開催した

関連記事:Xboxとスペシャルオリンピックスが知的障がい者のためのeスポーツイベントを初開催

しかしすべきことはまだたくさんあり、それはエンジニアリングや開発にはとどまらない。ゲーム内チャットは特に問題がないときでも有害であることは周知の通りだが、障がい者がチャットに参加するとひどい状況になることがScopeの調査で明らかになった。「オンラインでの障がいに対するネガティブな態度への対応にもっと取り組むこと」は優先事項として最も多い回答だった。ゲーム内で障がい者がもっと正確に、また頻繁に登場することと、支援技術がもっと手頃な価格になることも重要であるとの回答も多かった。

ゲームの世界でのアクセシビリティの向上が必要であることは明らかだが、その評価は難しい。このため、こうした研究は極めて有用だ。レポートの全文はこちらから読むことができる。

画像クレジット:aurielaki / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Kaori Koyama)

障がい者向け脳モニタリングヘッドセットを開発するCognixion、Alexaと統合しスマートデバイスのハブにもなる

身体障がい者向けの直感的な脳モニタリングヘッドセットとインターフェースを設計しているスタートアップCognixionが、アクセシビリティの向上を追求するため、1200万ドル(約13億8000万円)のAラウンドを実施した。今回の資金調達により、同社は医療機器や支援機器が広く普及するために必要な長い要件を満たすことができるはずだ。

5月に詳しく紹介したように、同社は脳波を検査して脳の活動パターンを見つける。そしてそれがカーソルをコントロールして、画面上を行き来するための完全なインターフェースを構成する。現在の対象機器はiPhoneとそのディスプレイだが、そこからさらにスピーカーやアクセシビリティデバイスに信号を送り、単一のUIで必要なことはすべてできる。

その基盤となっているのは、新しいタイプの(人体に傷を付けない)電極と、ヘッドセットに埋め込まれた電極から発生する信号をすばやく解釈する機械学習システムだ。脳波は有用ではあるが一般的には遅くてノイズが多いが、Cognixionのアプローチだと、脳を使って最新のUIを確実にナビゲートできるほど、迅速で比較的正確なものとなる。

この脳波によるUIコントロールシステムは、ジョイスティックや視線追跡デバイスといった従来から存在するアクセシビリティの手法が使えない人にも向いている。そんな状態の人のための選択肢はほとんどなく、あっても遅くて面倒なものばかりだ。

ステルス状態を脱してから以降のCognixionは、支援デバイスを市場に出すための、さまざまな困難な仕事に追われていた。アーリーアダプターたちによるパイロットテストは何度か行ったが、保険やメディケイドなどの対象になるためには、もっといろいろなことが必要だった。また支援者にとっても、使いやすく、人にすすめたくなるものでなければならない。

関連記事:考えるだけで操作できる脳モニタリングデバイス「Cognixion One」、重度障がい者の円滑な意思疎通をアシスト

CEOで共同創業者のAndreas Forsland(アンドレアス・フォースランド)氏によると「最近では臨床と規制という2つの方面で仕事が多く、最適化と効率アップが重要でした。開発に参加してくれたユーザーや医療関係者や支援要員は150名近くに達し、彼らを顧問としてとても充実したフィードバックが得られた。ハードウェアの改良は何度もやったのsで、そろそろ最終設計に近いといえるでしょう。今後は、ユーザーインターフェースと言語システムで細かい改良がたくさん必要になりそうです」という。

2つの新しい機能にも取り組んでいる。1つは、予測的発話認識のアルゴリズムで、ユーザーの断片的な発話から完全な文を構成し、そのニーズに対応すること。もう1つは、Amazon Alexaとの直接的な統合だ。CognixionはAmazonと強力して、ヘッドセットに強化された真のスマートデバイスのハブを統合した。直接的な統合であるため、ヘッドセットからの脳波信号が言語に翻訳されてAlexaへ入力されるというわけではない。

画像クレジット:Cognixion

「この工程のサポートに関して、Amazon Alexaのチームにすごく感謝している。また企業としてのAmazonがこのような例外的な開発努力を認めてくれたことにも、深く感謝したい。重要なのは、そのコンテキストだ。現在、ホームオートメーションのシステムやツールはたくさんあるが、それらとのコミュニケーションを補助したり、それらに直接インターフェースする支援技術はほとんど存在しない。そのためAmazonの尽力は、アクセシビリティ業界にとって最初の大きな第1歩であり、ユニバーサルデザインにとっても初めてのことです」とフォースランド氏は語る。

1200万ドルのラウンドはPrime Movers Labが主導し、Northwell Health、Amazon Alexa Fund、Volta Circleが参加した。

Prime Movers LabのゼネラルパートナーであるAmy Kruse(エイミー・クルーゼ)氏は同社のプレスリリースで次のように述べている。「Cognixion ONEは、まだ存在していなければ、SFの世界のものだと思うでしょう。私たちは、脳性麻痺、脳幹の脳卒中、ALSをはじめとする言語障がいや運動障がいを抱えて生きるあらゆる年齢層の人々を支援するために、AIソフトウェアプラットフォームとハードウェアを融合させた、根本的に人生を変える不可欠なものになると信じています」。

ONEのヘッドセットが購入できるようになるまでには、まだ少し時間がかかりだが、フォースランド氏によると、ほぼすべての研究大学と提携しているリセラーとディストリビューターをすでに確保しているという。この革新的なアクセシビリティへの取り組みは順調に進んでおり、近い将来、必要とする人の頭に届いて欲しい。

画像クレジット:Cognixion

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

iPadで視線によるタイピング、会話、アプリ操作が可能になるケース「TD Pilot」をTobiiが発売

アイトラッキング(視線計測)技術を手がけるスウェーデンのTobii(トビー)は、その技術をApple(アップル)製のタブレットに導入し、iPadを身体障がい者のための強力なオールインワンツールにするためのケース「TD Pilot」を発表した。iPadにTD Pilotを装着したユーザーは、視線だけでアプリを起動したり、すばやくタイピングしたり、合成音声で話したりすることができる。

iPadOS 15では、iPadにアイトラッキング用ハードウェアをネイティブに統合することが可能になったが、Tobiiはおそらく、その分野で最も知られた名前だろう。

筆者はオールインワンのスクリーン型アイトラッカーや、独立型のPC用周辺機器など、同社の製品を数多くチェックしてきたが、いずれも非常にうまく機能した。しかし、Apple側の制限があったせいで、アイトラッキングは主にWindowsマシンで行われてきた。筆者は個人的には気にならないものの、iOSを好む人もいるだろう。今後はiOSでも同じようにアイトラッキングが利用できるようになる。

画像クレジット:Tobii

TD PilotはiPadに装着する大型のケースで、前面にはアイトラッキング装置(実際には驚くほど小さく、カメラが内蔵された小さな帯状のもの)、背面にはステレオスピーカーに加えて、テキストを表示するための小さなスクリーンが備わる。このデバイスのユーザーは、Tobii独自のテキスト音声変換アプリ「TD Talk(TDトーク)」または他の任意のアプリを使って、テキストまたは音声でコミュニケーションをとることができる(単に話すだけではなく、その気になればDJにだってなれる)。

このデバイスは、設定や記号コミュニケーションなど、Tobiiが用意する他の小さなアプリ群も利用できる。

「医学的にも認証されており、Appleの性能基準を満たしていると認定されています」と、Tobii Dynavox(トビー・ダイナヴォックス)のFredrik Ruben(フレドリック・ルーベン)CEOは述べている。「これにより、ユーザーは市場をリードするこの技術にアップデートとサポートが継続されると知ることができ、信頼して使うことができます。また、人気のある技術に向けて開発される可能性がある、安全ではない『ワンタイムハック』を避けることができます」。この発言は間違いなく、アイトラッキングをネイティブにサポートしていない以前のバージョンのOS用に作られた他社のソリューションを暗に示しているのだろう。

Tobiiのアイトラッキングデバイスは誰でも購入することができるが、同社の説明によると、個人のニーズに合わせたソリューション提供の一環として、医師やセラピストから指示されるケースが多いという。その場合は保険でカバーされるが、当然ながら個人によって異なる。筆者は具体的なコストを尋ねたが、Tobiiは回答を避けた。

願わくは、アイトラッキングソリューションによって最も力を得られる人たちが、保険やその他の方法でこの便利なガジェットを簡単に手に入れることができるようになって欲しいものだ。この製品はすでに出荷が始まっているので、発売を待つ必要はない。下の動画で、実際に使用している様子を見ることができる。

画像クレジット:Tobii

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Uberの乗車「待ち時間」料金を課す行為が障がい者差別と米司法省が同社を提訴

米司法省は、配車大手のUber(ウーバー)が障がいを持つ乗客を差別しており、障がいを持つアメリカ人法(ADA)違反だと主張し、Uberを提訴した。

この訴訟は、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に11月10日に提出された。Uberが障がいのある乗客に「待ち時間」料金を課す行為が、差別にあたると主張する。障がいのために乗車に通常より多くの時間を要する可能性があるからだ。Uberは2016年4月に待ち時間ポリシーを開始した。ポリシーでは、Uberの車が指定のピックアップ場所に到着した2分後から料金を請求する。

待ち時間料金はアプリで自動的に計算されるが、Uberは、待ち時間料金を免除する裁量をドライバーに与えていない。

司法省は、Uberが障がいのある乗客に十分な乗車時間を与えず、公平な運賃を提示していないため、ADAに違反していると指摘する。訴状によると、車いすや歩行器のように分解する必要がある移動補助器具や、その他の無数の理由により、障がいのある乗客が車に乗り込むのに2分以上を必要とする可能性がある。

訴状には「乗客A」「乗客B」2人の体験が載っている。乗客Aは、四肢麻痺で手動式の車いすを使用する52歳の女性で、Uberで予約した車に乗るのに、平均して5分以上かかっていた。乗車するたびに待ち時間料金が発生していたが、他の交通手段が限られていたため、毎日Uberを使い続けた。彼女は返金を要求しようとしたが拒否された。

脳性麻痺をもつ34歳の男性である乗客Bも、手動式の車いすを使用しており、アプリを通じてほぼすべての乗車について待ち時間料金を請求された。Uberは当初、料金を返金していたが、その後「返金額の上限に達した」と本人に伝えた。

訴状によると「乗客Aや乗客Bと同様、米国中の他の障がい者が、障がいを理由にUberから待ち時間料金を請求されるという差別を受けている」。

ADAは、1990年に議会で制定された画期的な法律だ。Uberは民間企業だが、司法省は、ADAには民間企業が提供する交通サービスにおける差別に対処する権限があるとしている。

訴状は「Uberやその他の類似業者が、従来のタクシーサービスに代わってオンデマンド輸送の主要な選択肢として人気を博している。そのような状況で、Uberは、同社のサービスに頼って移動することを選択した、あるいは単純に頼らなければならない無数の障がい者の自立を確保する上で重要な役割を果たしている」としている。

TechCrunchはUberにコメントを求めており、同社から回答があれば記事を更新する。

訴訟番号は3:21-cv-08735。

画像クレジット:Matthew Horwood/Getty Images / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

12月開催のSight Tech Global、アップルとアマゾンの機械学習・AI専門家の講演が決定

センサーとデータが急増している。スマートフォンから、あるいはクルマやスマートホームデバイスから得られる驚異的な量のデータをもとにして、新しいプロダクトやエクスペリエンスを考える研究者や開発者の取り組みは加速する。こうした研究や開発は、視覚障がい者に対してもこれまで以上に寄与する。

そこで12月1〜2日に開催するオンラインイベントのSight Tech Globalから、2つのセッションを紹介しよう。1つはApple(アップル)、もう1つはAmazon(アマゾン)のセッションで、この2つのセッションでは機械学習(ML)とAIのリーダーである両社が将来について、特に視覚障がい者を支援する新しいエクスペリエンスについて語る。Sight Tech Globalへの参加は無料だ。今すぐ登録して欲しい。

Designing for everyone:Accessibility and machine learning at Apple(すべての人のためのデザイン:Appleのアクセシビリティと機械学習)

Appleのセッションでは、TechCrunch編集長のMatthew Panzarino(マシュー・パンザリーノ)がJeff Bigham(ジェフリー・ビガム)氏、Sarah Herrlinger(サラ・ヘルリンガー)氏に話を聞く。

ビガム氏はAppleのAI/MLアクセシビリティリサーチ責任者で、カーネギーメロン大学でコンピュータサイエンスのアシスタントプロフェッサーも務める。同氏はAIと機械学習を活用した先進的なアクセシビリティを専門とする研究者とエンジニアのチームを率いている。

ヘルリンガー氏はAppleのグローバルアクセシビリティポリシー&イニシアチブ担当シニアディレクター。同社のアクセシビリティプログラムの責任者として、ワールドワイドで障がい者コミュニティを支援し、同社のハードウェアとソフトウェアにアクセシビリティ技術を実装し、他にもAppleのインクルージョンのカルチャーを推進する役割を担っている。

AppleのiPhoneとVoiceOverは視覚障がい者にとってナビゲーションからメールの読み上げまで多くのサービスを提供する極めて重要なツールだ。LiDARとコンピュータビジョンの機能なども取り入れることで、iPhoneとクラウドコンピューティングを組み合わせて周囲に関する情報を取得し、その情報を役に立つ形で伝える手段としてさらに機能が強化されている。ヘルリンガー氏とビガム氏が、アクセシブルなデザイン、この1年間の進歩、機械学習研究におけるインクルージョン、最新の研究と将来に関して、Appleのアプローチを語る予定だ。

Why Amazon’s vision includes talking less to Alexa(Amazonが話しかけないAlexaを考える理由)

Amazonのセッションでは、Be My EyesのバイスプレジデントであるWill Butler(ウィル・バトラー)氏が、Alexa AI担当バイスプレゼントのPrem Natarajan(プレム・ナタラジャン)氏、Alexa TrustディレクターのBeatrice Geoffrin(ベアトリス・ジェフリン)氏とともに語る。

ジェフリン氏はAmazonのAlexaチームでプロダクトマネジメント担当ディレクターを務めている。Alexaに対する顧客の信頼を獲得して維持し、Alexaのアクセシビリティを向上する部署であるAlexa Trustの責任者で、Alexa for Everyoneチームを監督する。

ナタラジャン氏はサイエンス、エンジニアリング、プロダクトの学際的な研究をする組織の責任者で、会話のモデリングや自然言語理解、エンティティリンキングとエンティティ解決、関連する機械学習テクノロジーの進化を通じたカスタマーエクスペリエンスの向上に取り組んでいる。

AmazonのAlexaはすでに多くの家庭で利用され、視覚障がい者が使うテクノロジーツールセットとしても効果をあげている。家庭でテクノロジーが多く使われるようになると、Teachable AIやマルチモーダル理解、センサー、コンピュータビジョンなど、さまざまなソースからのインプットによって周囲の環境が作られる。すでにAlexaスマートホームでのやりとりの5回に1回は、話し言葉以外から開始されている。Alexaは利用者や利用者の家を十分に理解してニーズを予測し、利用者に代わって有効なやり方で動作する。こうしたことは、アクセシビリティにどのような影響を及ぼすだろうか?

Sight Tech Globalはオンラインで開催され、世界中から無料で参加できる。今すぐ登録しよう。

Sight Tech Globalは、シリコンバレーで75年にわたって運営されているNPOのVista Center for the Blind and Visually Impairedが主催する。現在、Ford、Google、Humanware、Microsoft、Mojo Vision、Facebook、Fable、APH、Visperoがスポンサーとして決定し、感謝している。本イベントのスポンサーに関心をお持ちの方からの問い合わせをお待ちしている。スポンサーシップはすべて、Vista Center for the Blind and Visually Impairedの収入となる。

画像クレジット:Sight Tech Global

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(文:Ned Desmond、翻訳:Kaori Koyama)

【コラム】もっと平等な社会をつくるためにテックイノベーターはこの3ステップを実行しよう

テクノロジーの分野は障がいのある人々にとって世界をより良く、よりアクセシブルな場所にする、イノベーションとコラボレーションのすばらしい事例で満ちている。

例えば補聴器によってかつては想像できなかったほどの音を多くの人々が知覚できるようになり、現在の次世代型補聴器はさらに臨場感があって効果が高くなっている。

手話を音声言語に翻訳する手袋を開発し、手話があまりできない人とリアルタイムで会話ができるようにしている科学者もいる。スマートフォンやビデオゲームといった日常的なテクノロジーもアクセシブルになり、テクノロジーのイノベーターたちにはもっと公平な社会をつくるためのインスピレーションと能力があることを証明している。

こうしたことはアクセシビリティを日々拡張する驚くべき技術革新のほんの一部だ。テクノロジーのアクセシビリティは、社会のつながり、職業の広がり、市民的関与に欠かせない。

だから私たちは歩みを止めることはできない。あらゆる人にとってのより良いテクノロジーを構築するために私たちができることを3つ紹介しよう。

コミュニティと関わりを持つ

プロダクトやサービスにはそれぞれ固有のアクセシビリティのソリューションが必要で、あるプロダクトを障がい者にとって使いやすくする方法を他のプロダクトに適用できるとは限らない。したがってテック企業はコミュニティと深く関わり、アクセシビリティの現在のペインポイントを見つけなくてはならない。

例えば障がい者にとって重要な課題であるウェブのアクセシビリティには、可能性のあるさまざまなソリューション、つまりテックイノベーターが評価し、選択し、実装しなくてはならないモデルがある。

コミュニティとの関わりは開発者に対して方向性を示すだけでなく、テックプラットフォームとそのユーザーとの間の結束を高め、プロダクトやサービスをコミュニティの人々に継続的に適応させていくことでアクセシビリティを最大化することができる。

また、コミュニティと関わって何が必要か、何が最も最適かを理解すれば、ウェブ開発者がいい加減な、あるいは無駄なソリューションを実装することを避けられる。

最も効果的な部分に集中し、ゴールを設定する

コミュニティとの関わりから得たインサイトをもとにして、最も効果を上げられる部分に集中しよう。最も切実なアクセシビリティの障壁を見きわめ、進捗の測定のために具体的なマイルストーンを決める。

デジタルアセットをもっとアクセシブルにしようとするテックイノベーターは、コンテンツクリエイターや開発者向けの内部的なゴールを設定し、既存の、あるいは開発中のデジタルコンテンツに戦略的な変更を加える必要があるかもしれない。

対象範囲や流れは企業によって異なるだろうが、最も効果を上げられる部分に集中し進捗を測定すればアクセシビリティのゴールを現実にすることにつながる。

リソースを惜しまない

アクセシビリティの向上は明らかにwin-winだ。より多くの人がデジタルプラットフォームやサービスに参加することにつながると同時に、テック企業にとってはユーザーの数やエンゲージメントのレベルが増す。

ただし前進するには投資が必要で、適切な計画がなければ全体としての成果は少なくなってしまうだろう。バックエンドのROIは極めて高いので、先行投資はユーザーベースに対するエンゲージ、コミット、強化のための頭金と考えよう。

デジタルのプロダクトは変化し進化するので、アクセシビリティの基準やベストプラクティスもそれに合わせていく必要がある。アクセシビリティの構築を一度限りのものと考え、長期的に継続可能な結果を提供できないようでは困る。そうではなく、常にコミュニティや利用者と関わっていこう。

テクノロジーは世界をもっと良くすることができる。それは、より多くの人がプラットフォームやサービスに参加できるようになったときに最も効果的に達成される。

編集部注:本記事の執筆者Ran Ronen(ラン・ロネン)氏は、Equally AIの創業者でCEO。

画像クレジット:Malte Mueller / Getty Images

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(文:Ran Ronen、翻訳:Kaori Koyama)

分身ロボット「OriHime」開発者が「テレワークで肉体労働」に挑戦したワケ

オリィ研究所所長吉藤オリィ氏

OriHimeは病気や子育て、単身赴任などで行きたいところに行けない人が使う「分身ロボット」だ。最近では、カフェでの接客・運搬や展示会の案内に適したOriHime Porterがモスバーガーの実証実験で導入され、接客用OriHime Dを活用した実験カフェ「分身カフェDAWN version β」がアップデートを重ね、初めて常設店としてオープンしている。OriHimeのパイロット(操作者)には自室から出ることが難しいALS患者などがおり、障がい者雇用の観点からも注目されている。ロボットを使ったテレワークは働き方をどう変えるのか。どんな可能性が生まれるのか。OriHimeを開発、運用するオリィ研究所 所長 吉藤オリィ氏に話を聞いた。

オリィ研究所は「ロボットの会社」なのか?

OriHimeはオリィ研究所が開発した分身ロボットだ。リモートワークに適したOriHime Biz、カフェでの接客、展示会の説明、受付 / 誘導に適したOriHime PorterやOriHime Dなどがある。

OriHime Biz

OriHimeの操作者はパイロットと呼ばれる。パイロットは自宅などの遠隔地からiPad / iPhoneを通して職場にあるOriHimeを操作する。OriHimeにはカメラがついており、パイロットは職場の状況を見ながら、職場で働く同僚とマイクを使って話すことができる。

「遠隔で話す」というと、最近ではオンライン会議システムをイメージする人も多いだろうが、OriHimeはオンライン会議システムと違い、パイロット側の顔や動作を見ることはできない。その代わり、パイロットはOriHimeを操作してOriHimeの顔や手を動かし、ボディランゲージを伝える。

ここまで読んで「オリィ研究所はロボットの会社だ」と思う人もいるかもしれない。しかし、吉藤氏は「当社はロボット会社ではありません。孤独を解消するためのツールを提供し、研究する会社です」と断言する。

吉藤氏は自身が小・中学校で不登校を経験し、子どもの頃には入院も経験した。「孤独」を感じることが多く「孤独」は「人生の問い」のようなものだったという。

「不登校や入院の状態にある時、多くの人は『自分の居場所がない』と感じます。自分の居場所がないと、誰かとコミュニケーションをとったり、誰かの役に立つこともありません。人の役に立てなければ自己肯定感も湧きませんわきません。人は孤独になると死にたくなることだってあります。でも孤独な人はコミュニケーションが苦手だったり、何らかの理由でコミュニケーション自体が難しいわけです。目が悪い人には眼鏡があります。足の悪い人には車椅子があります。コミュニケーションが難しい人にはどんなツールが必要でしょうか?この問いから、私はOriHimeを開発しました」と吉藤氏は語る。

吉藤氏は「OriHimeは着ぐるみのようなもの。だからこそパイロットはコミュニケーションに前向きになれる」ともいう。

OriHimeのパイロットにはALS(筋萎縮性側索硬化症)、筋ジストロフィー、SMA(脊髄性筋萎縮症)、脊髄損傷などの重度障害を持つ寝たきりの人もいる。そうした人が初対面の初めて会う人と対面で話したり、逆に寝たきりの人に慣れていない人が寝たきりの人と対面でコミュニケーションをとると、お互いに構えてしまうところがある。しかし、OriHimeを通すと、パイロットは自分の姿を直接見られない。「自分がどう見えているのか」を気にせずコミュニケーションをとることができる。パイロットではない方は、パイロットのバックグラウンドを気にせず、パイロットとのコミュニケーションの内容そのものに集中できる。

「いつも真面目に怖い顔をしている人でも、かわいいキャラクターの着ぐるみに入ってしまえば、やたらとかわいい仕草ができたりしますよね。それと同じで、OriHimeを通すと自分のいろいろなブレーキを外してコミュニケーションがとれるんです」と吉藤氏は説明する。

ここまで読んでわかるように、OriHimeはあくまで「外側」「分身の体」だ。OriHimeの中身は人間、つまりパイロットでなければいけない。これは最近のデータ活用やAI活用といった「情報を活用してコンテンツを作り、ビジネスを行う」流れとは異なるように見える。

吉藤氏は「OriHimeはコミュニケーションを補助し、人と繋がり、孤独を解消するためのロボットです。確かに、AI技術がものすごく進化すればAIと友達になって孤独を解消できるかもしれません。あるいは、AIを介して人間と友達になれるかもしれない。でも、それは現段階ではできないことです。今AIに褒められてもうれしくないし、自己肯定感には繋がりません。だからOriHimeの中身は人間でなければいけないのです」と人間の重要性を強調した。

遠隔で働くのに「体」は必要なのか?

「遠隔で働く」だけなら、オンライン会議システム、チャット、メール、電話など、さまざまな方法がある。OriHimeのような「物理的な分身」「アバター」を職場に置く必要はない。分身が職場にあると何が変わるのだろうか。

吉藤氏は「『体が同じ空間にある』ということは『一緒に何かをする』という感覚と密接に結びついています」という。

OriHime D

例えばある人が1人でショッピングに行って、その間ずっとショッピングの状況をスマホで撮影しながら実況し、家で寝ている病気の家族と話ことができる。しかし、その人がOriHimeと一緒にショッピングに行って、病気の家族がパイロットとして同行したらどうだろう。おそらくこちらの方が「一緒にショッピングをしている」感覚が強くなる。

実は、物理的な分身にはもう1つの側面もある。就業のハードルを下げることだ。

障がい者、特にOriHimeのパイロットに多い寝たきりの人は、移動が難しい。「それならテレワークをすればいい」と考える人もいるだろう。しかしテレワークは基本的にデスクワークだ。多くのデスクワークには一定の学校教育のバックグラウンドとコミュニケーション能力が必要だ。

しかし、寝たきりの人にはそもそも教育へのアクセスに限りがある。小学校、中学校、高校、大学など「学校に通う」「教室を移動する」ことが難しい。さらに、コロナ禍の今でこそオンライン教育は珍しくなくなったが、それまでは選択肢が限られていた。つまり、寝たきりの人は、教育にアクセスするハードルが高いため、デスクワークに必要な教育を受けてこられなかった人もいるのだ。

OriHime Porter

また、学校や部活動、アルバイト、職場で得られるコミュニケーション経験も得ることが難しい。教育やコミュニケーション経験が少ない人はデスクワークの就業が難しく、したがってテレワークで働くことが非常に難しいのだ。

「当社で秘書として働いていた番田という者がいるのですが、彼がまさにそういう状況でした。デスクワークをしたいが、それに必要な教育やコミュニケーションの場にアクセスできなかったんです。そこで番田と考えたところ、肉体労働であれば就業のハードルが低いのではないかという結論に至りました。『テレワークで肉体労働ができないか?』その問いから、接客や食べ物・飲み物を運ぶ仕事をOriHime PorterやOriHime Dなど、大型のOriHimeでテレワーク化することに繋げました」と吉藤氏は振り返る。

「人助け」ではなく「一緒にミッションを背負う」

吉藤氏は「OriHimeプロジェクトは障がい者とのとの共創で進んできた」と語る。OriHimeの開発、改善のプロセスで障がい者のある友人とコミュニケーションをとり、彼らが困っていることの解決に努めたからだ。

「OriHimeのビジネスは『人助け』に見えるかもしれませんが、そうではありません。まず最初に、OriHimeは私自身の孤独の問題に対する1つの答えです。孤独に苦しんだ自分が、かつて苦しんだ自分を救うために作ったものです。そして私はOriHimeという選択肢を次世代に残したいのです」と吉藤氏は強調する。

さらに、OriHimeは「障がい者を助けるためのプロジェクト」でもないという。

吉藤氏は「寝たきりの人たちは、人と繋がるための最初のステップのサポートを必要としているかもしれません。ですが、それは『いつまでもずっと助けて欲しい』という意味ではありません。多くの障害のある人たちは自立したいのです。それはOriHimeの開発過程でも同じでした。OriHimeの開発に関わった障害のある友人たちは、次の世代の自分と似た境遇にいる人々を助けるために私と一緒に研究をしてくれました。ALS患者の友人は『こういう体に生まれてきたからこそ残せるものがあるなら、私の人生に意味がある』と言っていました。私は『OriHimeで障がい者を助けている』のではなく、『OriHimeという共通のミッションを障がいのある友人たちと背負っている』のです」と話す。

脱「機能」、脱「効率」で経済的自立へ

オリィ研究所は6月から日本橋に「分身カフェDAWN version β」(以下、分身カフェ)を常設で開いている。これはALSなどの難病や障害で外出困難な人々がパイロットとしてOriHime、OriHime-Dを遠隔操作し、スタッフとして働く実験カフェだ。元々は期間限定の実験としてスタートし、これまで4回開催されてきた。今回は常設店として初の開店となる。

分身カフェDAWN version β

その他にも、群馬県庁にあるカフェ「YAMATOYA COFFEE32」でOriHimeが、モスバーガー大崎店ではOriHime Porterが期間限定であるが活用されている。

外出が難しい人々の就業の機会創出の手段としてOriHimeが活用されているわけだが、パイロットはこうしたカフェで経済的に自立できるのだろうか。

吉藤氏は「パイロットの経済的自立は重要なテーマです。オリィ研究所が直接マネジメントする分身ロボットカフェでは東京都の最低時給以上を出せています。ただ、これまでは3週間程度のイベントでこの水準を保ってきました。次の課題は常設カフェとして同じ結果を出せるかどうかです」と力を込める。

分身ロボットカフェでの利益追求には戦略が重要になる。遠隔操作のOriHimeを使う時点で「安さ」「速さ」での戦いは不可能だからだ。

「分身ロボットカフェでは、効率と機能を追求しているわけではありません。食べ物・飲み物を速く安く提供するのであれば、自動販売機やファストフードと競合しないといけません。ですが、私たちが目指すのは『パイロットと話す体験』というエンターテインメントです」と吉藤氏は説明する。

実は、分身カフェには思わぬ効果もあった。接客に当たっていたパイロットが客として来ていた有名企業の人事担当者にヘッドハンティングされたのだ。

「障がい者雇用促進法は、企業に障がい者を雇用することを義務付けていますが、法定雇用率に達していない企業も数多くあります。このような企業にとって、分身カフェは障害を持つOriHimeのパイロットと出会う接点になり得ることがわかりました」と吉藤氏は振り返る。

また、島根県に住むあるパイロットは、障害が重く、部屋から出られない。しかし、大阪のチーズケーキ店でOriHimeパイロットとして販売に従事。さらに東京の分身カフェでもOriHimeを使って働いている。ある日、このパイロットと仲良くなった東京の顧客が大阪のチーズケーキ店を訪れ、そこでチーズケーキを買ったという。

「店員が客のいる店に来て働くのではなく、客が店員のいる店に行くというおもしろい流れが生まれました」と吉藤氏。

障害者雇用の可能性を各方面で広めているOriHimeだが、吉藤氏は今後どんな展開を目指しているのか。

「これまで部屋を出られなかった人たちは『オンラインで勉強すればいい』『遠隔で働けばいい』と言われてきました。ですが、今、コロナを経験し、『その場にいること』『その人と一緒にいること』の大切さがわかった人も増えたと思います。部屋を出られない寝たきりの人たちは、ある意味でニューノーマルの大先輩だったわけです。部屋から一歩も出られなくなった時、『OriHimeを使って外で働きたい』と思ってもらえるようにすること。分身ロボットカフェを常設にして長期運用し、パイロットが継続的に働けるようにすることが直近の目標です。コロナが終わったら、OriHimeを使ったスナックも挑戦したいです。部屋の中から、ベッドの上で、目や指を使ってパイロットがOriHimeを通して接客することを、もっと身近にしたいですね」。

吉藤氏はそう語り、インタビューを後にした。

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【コラム】欠陥のあるデータは障がいを持つ人を危険にさらしている

編集部注:Cat Noone(キャット・ヌーン)氏は、世界のソフトウェアをアクセス可能にすることをミッションとするスタートアップStarkのプロダクトデザイナーで共同ファウンダー、CEO。彼女は世界の最新のイノベーションへのアクセスを最大化する製品と、テクノロジーを実現することにフォーカスしている。

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データは単に抽象的なものではなく、人々の生活に直接的な影響を及ぼしている。

2019年、ある車椅子ユーザーが交通量の多い道を横断していた際、AIを搭載した配達ロボットがその進行を歩道の縁石で妨げてしまうという事故が起きた。「テクノロジーの開発において、障がい者を副次的に考えるべきではありません」と当事者は話している。

他の少数派グループと同様、障がい者は長い間欠陥のあるデータやデータツールによって被害を受けてきた。障がいにはさまざまな種類がありそれぞれ大きく異なるため、パターンを検出してグループを形成するようプログラムされたAIの型通りの構造に当てはまるようなものではない。AIは異常なデータを「ノイズ」とみなして無視するため、結論から障がい者が除外されてしまうことが多々あるのが現状だ。

例えば、2018年にUberの自動運転のSUVに追突されて死亡したElaine Herzberg(エレイン・ハーツバーグ)氏のケースがある。衝突時、ハーツバーグ氏は歩いて自転車を押していたためUberのシステムはそれを「車両」「自転車」「その他」のどれかとして検出し、瞬時に分類することができなかったのだ。この悲劇は後に障がい者に多くの疑問を投げかけた。車椅子やスクーターに乗っている人も、同じようにこの致命的な分類ミスの被害者になる可能性があるのだろうか。

データを収集し処理する新たな方法が必要だ。「データ」とは個人情報、ユーザーからのフィードバック、履歴書、マルチメディア、ユーザーメトリクスなどあらゆるものを指し、ソフトウェアを最適化するために常に利用されているが、データが悪用される可能性や各タッチポイントに原則が適用されていない場合などもあり、そういった不正な方法を確実に理解した上で利用されているわけではない。

今、障がい者を考慮したデータ管理を実現するための、より公平な新しいデータフレームワークが必要とされている。それが実現しなければ、デジタルツールへの依存度が高まる日々の生活の中、障がいを持つ人々はこれからもより多くの危険に直面することになるだろう。

誤ったデータが良いツールの構築を妨げる

アクセシビリティの欠如が障がい者の外出を妨げることはないとしても、質の高い医療や教育、オンデマンド配送など、生活の要となる部分へのアクセスを妨げてしまう可能性はある。

世の中に存在するツールはすべて、作り手の世界観や主観的なレンズが反映された、作り手の環境の産物である。そしてあまりにも長い間、同一のグループの人々が欠陥したデータシステムを管理し続けてきた。これでは根本的な偏見が永続し、これまで光が当てられてこなかったグループが引き続き無視されていくという閉ざされたループに陥ってしまう。データが進歩するにつれ、このループは雪だるま式に大きくなっていくだろう。我々が扱っているのは機械「学習」モデルだ。「X(白人、健常者、シスジェンダー)でない」ことは「普通でない」ことを意味すると長い間教えられていれば、その基礎の下、進化していくのである。

データは私たちには見えないところでつながっており、アルゴリズムが障がい者を除外していないというだけでは不十分である。バイアスは他のデータセットにも存在している。例えば米国では、黒人であることを理由に住宅ローンの融資を拒否することは違法とされているが、融資は有色人種に不利なバイアスが内在するクレジットスコアに基づいて審査が行われるため、銀行は間接的に有色人種を排除していることになる。

障がいのある人の場合、身体活動の頻度や週の通勤時間などが間接的に偏ったデータとして挙げられる。間接的な偏りがソフトウェアにどのように反映されるかの具体的な例として、採用アルゴリズムがビデオ面接中の候補者の顔の動きを調査する場合、認識障がいや運動障がいのある人は、健常者の応募者とは異なる障壁を経験することになるだろう。

この問題は障がい者が企業のターゲット市場の一部として見なされていないことにも起因している。企業が理想のユーザー像を思い描いて意見を出し合う開発の初期段階において、障がい者が考慮されないことが多く、精神疾患のような人目につきにくい障がいの場合は特にその傾向が著しい。つまり、製品やサービスを改良するために使用される初期のユーザーデータには、障がい者のデータが含まれていないということだ。実際、56%の企業がデジタル製品のテストを障がい者に対して定期的に行っていないという。

テック企業が障がい者を積極的にチームに参加させれば、彼らのニーズをより反映したターゲット市場が実現するだろう。さらに技術者たちが、目に見える、あるいは目に見えない除外項目を意識してデータに反映させる必要がある。これは簡単な作業ではないためコラボレーションが不可欠となるだろう。日々使用するデータから間接的なバイアスを排除する方法について、話し合いの場を広げ、フォーラムに参加したり知識を共有することができれば理想的である。

データに対する道徳的なストレステストが必要

ユーザビリティ、エンゲージメント、さらにはロゴの好みなど、企業は製品に対して常にテストを実施している。どんな色が顧客を獲得しやすいか、人々の心に最も響く言葉は何かなど、そういったことは把握しているのに、なぜデータ倫理の基準を設定しないのか。

道徳的なテクノロジーを生み出すことに対する責任は、企業の上層部だけにあるわけではない。製品の土台となるレンガを日々積み上げている人々にも責任があるのだ。フォルクスワーゲンが米国の汚染規制を逃れるための装置を開発した際、刑務所に送られたのはCEOではなくエンジニアである。

私たちエンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャーは皆、目の前のデータを認識し、なぜそれを収集するのか、どのよう収集するのかを考えなければならない。人の障がい、性別、人種について尋ねることに意味があるのか、この情報を得ることによりエンドユーザーにとってどのようなメリットがあるのかなど、必要としているデータを調査して自身の動機を分析しなければならない。

Stark(スターク)では、あらゆる種類のソフトウェア、サービス、技術を設計、構築する際に実行すべき5つのフレームワークを開発した。

  • どのようなデータを収集しているのか。
  • なぜそのデータを収集するのか。
  • どのように使用するのか(そしてどのように誤用される可能性があるか)。
  • IFTTT(「If this, then that」の略で「この場合はこうなる」を意味する)をシミュレートする、データが悪用される可能性のあるシナリオとその代替案を説明する。例えば大規模なデータ侵害が発生した場合、ユーザーはどのような影響を受けるのか。その個人情報が家族や友人に公開されたらどうなるのか?
  • アイデアを実行するか破棄するか。

曖昧な言葉や不明瞭な期待値、こじつけでしかデータを説明できないのであれば、そのデータは使用されるべきではない。このフレームワークでは、データを最もシンプルな方法で説明することが求められるため、それができないということは責任を持ってデータを扱うことができていないということだ。

イノベーションには障がい者の参加が不可欠

ワクチン開発からロボットタクシーまで、複雑なデータテクノロジーは常に新しい分野に進出しているため、障がい者に対する偏見がこれらの分野で発生すると障がいのある人々は最先端の製品やサービスにアクセスできなくなってしまう。生活のあらゆる場面でテクノロジーへの依存度が高まるにつれ、日常的な活動を行う上で疎外されてしまう人々もさらに多くなる。

将来を見据え、インクルージョンの概念をあらかじめ製品に組み込むことが重要だ。お金や経験値の制限は問題ではない。思考プロセスや開発過程の変革にコストがかかることはなく、より良い方向へと意識的に舵を切ろうとすることが大切なのである。初期投資は少なからず負担になるかもしれないが、この市場に取り組まなかったり製品の変更を後から余儀なくされたりすることで失う利益は、初期投資をはるかに上回るだろう。特にエンタープライズレベルの企業では、コンプライアンスを遵守しなければ学術機関や政府機関との契約を結ぶことはできないだろう。

初期段階の企業は、アクセシビリティの指針を製品開発に取り入れ、ユーザーデータを収集して、その指針を常に強化していくべきだ。オンボーディングチーム、セールスチーム、デザインチームでデータを共有することで、ユーザーがどのような問題を抱えているかをより詳細に把握することができる。すでに確立された企業は自社製品のどこにアクセシビリティの指針が欠けているかを分析し、過去のデータやユーザーからの新たなフィードバックを活用して修正を行う必要がある。

AIとデータの見直しには、単にビジネスフレームワークを適応させるだけでは十分ではなく、やはり舵取りをする人たちの多様性が必要だ。テクノロジー分野では男性や白人が圧倒的に多く、障がい者を排除したり、偏見を持ったりしているという証言も数多くある。データツールを作るチーム自体が多様化しない限り、各組織の成長は阻害され続け、障がい者はその犠牲者であり続けることになるだろう。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:Stark障がいアクセシビリティ機械学習多様性コラムインクルーシブ

画像クレジット:Jorg Greuel / Getty Images

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(文:Cat Noone、翻訳:Dragonfly)