[筆者: Robyn Metcalfe](Dr. Robyn MetcalfeはFood + Cityの編集長で出版人。世界の食糧系に対する果敢な探求を行っている。)
ほぼ2世紀前にJethro Tullが、馬に曳かせた播種機を使って、作物の種子を一つずつ蒔き、それまでのばらまき方法を置換した。精密農業の初期の形とも言える彼の独創的なツールは収穫を劇的に増やし、農業の革命に導いた。
もう一人の初期の農業起業家Robert Bakewellは、1700年代の後期に同種交配法を完成させ、農家が、特別の性質を持った家畜だけを選んで、繁殖できるようになった。前世紀には、アメリカの生物学者Norman Borlaugが興した緑の革命(Green Revolution)により、種子、中でもとくに小麦の新品種が開発され、世界中の何百万もの人たちが十分な食べ物を得られるようになった。
TullやBakewellやBorlaug、それに彼らの同時代の多くの人たちが農業の生産性の向上に努力してきた。現代の農業の始まり以来、農家や起業家たちは、技術によって母なる自然の気まぐれや、食糧価格と政府の政策の変動に対応する方法を、探してきた。
そして、第二の千年紀に入った今では、最小の入力と管理費用、そして環境の尊重を伴いながら、生産性を上げる新しい方法の発見が課題だ。今の私たちはひとつの岐路に立たされており、しかも緊急の課題がある。農地と水の供給量は少ない。気候変動が作物の性質と収量に大きな影響を与えている。世界の食糧システムは2050年までに、そのころの予想人口90億人のための食べ物を作り出す能力を、持たなければならない。それはとうてい、ささやかな責任ではない。
世界の食糧システムは2050年までに、そのころの予想人口90億人のための食べ物を作り出す能力を、持たなければならない。
これらの問題を、どうやって解決するのか? 幸いにも私たちは、Jethro Tullの馬に曳かせる播種機以来、多くの進歩を成し遂げてきた。今日のイノベーションは明白にハイテクであり、農業に流入するベンチャー資本は大きく増えている。2014年の、アグテックへの投資は、23億6000万ドルと
推計されている。同じ年のクリーンテックへの投資は20億ドル、フィンテック(金融テクノロジ)は21億ドルだった。
イノベーションの重要な領域のひとつが、労働の減少短縮と、トラクターなど農業機械の安全性および電脳性の向上だ。たとえば無人運転のトラクターは、それだけなら1940年からある。そのときイリノイ州の農夫Frank W. Andrewが、無人トラクターにアームをつけて“渦巻き耕作”(spiral farming)を発明したのだ。
より最近では、物のインターネット(IoT)が農業とくっついて、新しい知識とハードウェアを提供していく可能性がある。さしずめそれは、センサからビッグデータを集め、その処理と保存を担当するロボットやドローンだろう。それらが、農地の生産性をかつてなく上げる可能性もある。ロケットが安価になれば、農地の宇宙への拡大もありえる。
マサチューセッツ州WalthamのVC Polaris Venturesと、そのパートナーAmir Nashatは、微生物を利用して収量を上げるAgBiomeに入れ込んでいる。Nashatはマイクロバイオームに関心があるだけでなく、干ばつなどの異常気象を管理するシステムの開発にも注目している。
Nashatと協働しているアグテック起業家Tom Lauritaは、NewLeaf Symbioticsの社長でCEOだ。Lauritaは農業のイノベーションを、地面の上の空間や地下に見出そうとしている。たとえば地下では、植物性微生物を使って種子の生産性を上げるのだ。
農業の起業家は世界のあらゆる片隅から芽吹き始めている。
世界中の農家が利用するデータベースをオープンシステムとして作ろう、という動きもある。ユーザ農家とそんなデータベースを取り持つAgricultural Extension Service(農業拡張サービス)という大規模なサービスがあってもよい。たとえば、作柄や天候、消費者の選好、ロジスティクス、生産性データなどのビッグデータを分析して有益な情報を農家に提供するサービスは、すでに芽生えている。
つまり全体を一言で言えば、この新興の起業分野ではすでに、大量の試行が行われているのだ。農業の起業家は世界のあらゆる片隅から芽吹き始めている。動きが活発化しつつ増大しているのは頼もしいが、まだまだやるべきことは多い。今日のテクノロジが農業に与えるインパクトの、全貌をまだわれわれは見通していない。将来性の大きい初期段階の技術も、まだまだ市場の創出に苦労している。
あれやこれやで、まだ、賑やかだがアイドリング中のようなエンジン音しか聞こえないのは、アグテックの分野ではコラボレーションが未発達だからだ。たとえば農家とシェフたちを結びつけようとするスタートアップも、農家の生産性がボトルネックになっている。その現状では、多くのシェフを顧客として集めることができない。多くの農家のコミュニティを作る、などの努力が必要だ。
農家に対するコンサルティングを抜きにして、農業にビッグデータを持ち込もうとする起業家は、廃棄物やパッケージングの問題に対応していない。
アグテックがアイドリングから本番走行へ移行できるためには、個々のスタートアップやアイデアをそれ単独で見るのではなく、コラボレーション的なコミュニティの育成課題として見ることが重要だ。すでにその動きはある。シェフたちは農家と結びつき、農家は消費者と結びつき、ヘルスケアは食品科学と結びつく。しかし今何よりも重要なのは、科学者とエンジニアと農家と環境問題の活動家たちが、もっと密接な関係を築き、食糧システムの将来の生産目標を実現する方法を、それぞれの分野の知恵を寄せあって互いに触発し合い、考え、試行していくことだ。
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa)。