東大卒中心のFinTechスタートアップのFinatext、日本IBMと組んでロボアドバイザーを提供へ

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数あるFinTech系サービスの中でも、この1年弱という短期間で注目を集めているのが「ロボアドバイザー」という領域。コンピュータを使うことで最適な資産運用(やその助言)を行うプロダクトの総称で、米国ではWealthfrontやBettermentを始めとして数多くのサービスが登場。日本でもお金のデザインの「THEO(テオ)」やウェルスナビの「WealthNavi」など、徐々にサービスが立ち上がりつつある。

2014年にスタートしたFinatextもそんなスタートアップの1社。同社は4月18日、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)と協業し、ロボアドバイザーのエンジンを金融機関向けに提供することを明らかにした。

Finatextはこれまで、株式市場の予想アプリ「あすかぶ!」や仮想通貨を使ったFXの予想アプリ「かるFX」といったコンシューマー向けのアプリを提供してきた。またこれと並行して、金融機関向けの投信データ配信サービスなども開発している。同社は東京大学経済学部の卒業生らが中心となって設立されたスタートアップ。現在個人投資家からマイナー出資を受けているが、ベンチャーキャピタルなどの資本は入っていない。

同社はアルバイト、インターンを含めて24人のチームで、そのうち8割が東京大学の出身者および在学生だそう。エンジニアの多くは東大大学院で金融工学を研究したり、経済学部に所属したりしているという。同社は、4月に入って以降、トムソン・ロイターと提携した市場動向解析コンテンツの共同開発を開始したほか、カブドットコムと協業して独自の注目株シグナルを提供するなどしている。

今回の日本IBMとの協業では、Finatextが投信のデータ(API)、ロボットアドバイザーのロジックエンジンと総合的なデザインブランディングを担当。IBMは営業やサイト構築のサポートを担当する予定。5月をめどに開発を進め、7月からの導入を目指す。詳細についてはまだ公開されていないが、導入金融機関のユーザーは、投資のスタンスに関する10個程度の質問に回答することで、最適な投資のポートフォリオの提案を受けることができるようになるという。

マネーフォワードが資金調達サービス開始へ、金融機関と提携して与信モデルも構築

中小企業の融資に関わる銀行業務で、マネーフォワードが与信サービス分野へ乗り出す一歩を踏み出した。

個人・法人向けのサービスを展開するFintechスタートアップのマネーフォワードは今日、新サービス「MFクラウドファイナンス」を夏に提供すると発表した。住信SBIネット銀行や静岡銀行など10行と資本業務提携(もしくは業務提携)し、ビジネス向けクラウド型会計ソフト「MFクラウド会計」などのデータを活用する。

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具体的にいうと、MFクラウド上の会計データを金融機関が閲覧できるようになるので、従来の書類審査に比べて大幅に効率化される。MFクラウドシリーズのユーザーは金融機関からの資金調達を従来よりも短期間で手間なく行える。マネーフォワードでは、データの信頼性向上のために会計事務所との連携も進めるという。

今回の資金調達サービスの対象利用ユーザー層は主に中小企業。企業規模は一概にいえないものの、マネーフォワードは「数百万円程度のトランザクションファイナンス」がターゲットとする層」となると説明している。

提携金融機関からみると、クラウド上に蓄積された日次の財務データ、入出金データ、請求データなどのリアルタイム性の高いデータを活用した新しい審査が可能となる。つまり、最初の一歩こそ審査処理にかかわる事務処理のオンライン化ということになるが、まず年内をめどに与信審査の自動化を目指すという。さらに、従来と異なる審査モデルの開発を進めれば、従来の与信の枠組みで貸付を行えなかったような中小企業などへの貸付など、金融機関から見た場合には資金提供先の拡大を期待できるだろう。

マネーフォワードと競合するクラウド会計の「freee」も銀行との連携は進めているし、銀行API開放の機運も高まっている。こうした企業の会計を可視化したプラットフォーム上での付加価値サービスは今後も増えそうだ。

今回、資本業務提携を発表したのは以下の金融機関:

静岡銀行/山口銀行/もみじ銀行/北九州銀行/東邦銀行/クレディセゾン

同じく業務提携を発表したのは以下:

住信SBIネット銀行/群馬銀行/滋賀銀行

連携する金融機関は以下:

みずほ銀行/GMOペイメントゲートウェイ

銀行API開放はまだか? UFJハッカソン優勝は「事務所の金庫問題」を解決

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3月13日、14日の週末に、東京・渋谷にあるイベントスペース「dots.」で三菱東京UFJ銀行(MUFG)がハッカソン「Fintech Challenge 2016 – Bring Your Own Bank!」を開催。最終日の14日には全12チームがこのハッカソンのために公開された銀行APIを活かしたアプリ・サービスのデモを披露した。

ぼくはTechCrunch Japan編集長として審査員の1人を務めさせていただいたのだけど、「もし銀行がAPIを公開したら」、しかも「手数料が無料だと仮定できるのだとしたら」という前提で作られたアプリのアイデアは思った以上に多様で、むしろBitcoinを始めとする暗号通貨の可能性の大きさ銀行APIが開放されたときに生まれるであろうFintechエコシステムの可能性を思わずにいられなかった。ちなみに、第1回のFintech Challengeで優勝した1社はクラウド会計のfreeeで、後にMUFGとfreeeは与信サービスでの協業を発表したりもしている。

今回、ハッカソンのために用意された銀行APIは、リテール向けでは「認証、残高照会、入出金明細、振込(都度、マイパターン)、来店予約、支店待ち時間情報取得」など。法人向けでは、このほかに為替レート取得などもある。

優勝は法人向け小口現金関連サービスの「Petty Pay」

今回のFintech Challengeで優勝したのは中小規模の法人向けに小口現金にまつわる問題をスマホで解決する「Petty Pay」だ。
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TechCrunch Japanを読んでいるスタートアップの経営者や経理担当、小さな事務所のオーナーであれば分かると思うのだけど、企業活動の中で発生する小口の決済は頭の痛い問題だ。支払い建て替えをする社員も含めて、レシートや領収書の精算は面倒だし、振り込みでATMの行列に並ぶこともあるだろう。きちんと収支管理をしていないと使途不明の使い込みのリスクもあるだろうし、部署間のアンバランスが可視化されていない問題も出てくるかもしれない。小さな金庫に常に現金を入れることが多いだろうが、持ち逃げの問題もある。

Petty Payは、例えば運送業者への支払いなど小口現金を電子化するのを狙う。ハッカソンのデモではiBeaconによる端末間トランザクションで、支払いをする人と業者の間で決済を行う様子を披露していた。同一法人アカウントを複数社員で使うことを想定していて、組織内の承認フローもアプリも組み込んである。事前承認がなくても個人口座で決済しておいて、後から承認ノーティフィケーションに上司が気付いてボタンを押したタイミングで払い戻しが行われる、いわゆる普通の経費精算同様のこともできる。

法人単位で利用者を囲い込みたい運送業者や飲食デリバリー、旅行代理店など、法人側にはPetty Payに対応するインセンティブがある。支払いをする社員にとっても面倒な経費精算から開放されるメリットがある。LINE Payと違ってサービス提供企業を友だちにしなくていい。そして経営者や経理担当には、もちろんメリットがある。特に法人カードが作れないような小規模なところには朗報だろう。そんな「三方良し」で、実際にサービスが立ち上がりそうなイメージが湧くというのが審査員全員が高得点を付けた理由だった。振り込み手数料についても、ある程度の単位で決済を束ねる、いわゆるネッティングをすることで低減できるのではないかと思う。

ちなみに、優勝したPetty Payのチームに贈られた賞金は日本のハッカソンとしては大きめの100万円だ。

残高の端数を手軽に募金する「Chocobo」

優勝に続く、優秀賞(賞金10万円)には2チームが選ばれた。

1つは残高が「2,483,183円」となっているときに端数の「183円」を任意の団体に募金できるアプリ「Chocobo」を作ったチームだ。UIUXが滑らかで、端数がなくなるすっきり感を示すアニメーションが楽しげなアプリだった。同一銀行内に募金団体のアカウントがあれば手数料も低く抑えられるので、銀行のCSRの一貫として既存の銀行アプリにあって良いのかもしれない。

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優秀賞のもう1チームはワリカンやプレゼント代替購入時などに使える個人間決済サービス「Check」を作ったチーム。銀行API開放で真っ先に思いつくサービスではあるが、実装レベルが高かったことと、ひいき客を増やしたい店舗がクーポンを発行できるなど工夫があったことが評価された形だ。

このほか、貯蓄や資産運用をゲーミフィケーションするアプリや、店舗でのレジ決済をスマホ決済で置き換えてレジ行列問題を解決するアプリ、小切手画像を生成してSMS経由で小口決済を行うアプリ、SNS上のグラフデータを与信の一助とすることでソーシャルレンディングをするプラットフォーム、メガバンクのWebサイト上のイケてないATM設置情報(住所のみ表示!)を混雑状況とともに地図にマッピングするアプリなどがあった。

銀行のAPI公開は進むのか?

MUFGの公式な立場としては、今回のハッカソンで提供したAPI群はあくまでも「デモAPI」で、今後これを公開するともしないとも言っていない。ただ、開発者からのフィードバックを収集するというのが今回のハッカソン開催の目的の1つでもあったというし、企画担当者レベルとの雑談では、MUFGがAPIを公開するのに半年とか1年かかかるようなことはない(もっと早い)という話でもあったので大いに期待したいところだ。銀行といっても当然一枚岩ではなくネット対応の見解についても「中の人」によっても、だいぶ温度差がある。ハッカソンを企画する現場レベルでいうと、銀行はセキュリティーレベルの要件について既存システムとネット向けアプリで2つの基準を使い分けるべきだ、という意見もあった。これは全くその通りで、一律に既存金融システムと同じ作り方をするのは無理がある。

すでにPFM(個人向け家計・資産管理:Personal Finance Management)関連サービスでは、外部サーバーから銀行のWebサイトをスクレイピングして無理やり口座情報を引っ張りだすなど、APIが存在しないがために力技に頼るようなことが行われている。このとき、利用者は銀行サイトのID・パスワードを第三者に預けていることが多い。これはセキュリティー上は決して好ましい状態ではなく、「セキュリティーや安定性を担保できないのでおいそれとAPI公開に踏み切れない」という金融関係者の懸念があるとしたら、それはむしろ現状認識としては逆だと指摘しておきたい。利用者は、便利なアプリやサービスを使いたいのだ。ビジネスの規模として小さく、リスクがあるからといって見過ごしていて良いレベルはとっくに超えていると思う。

2015年10月には、みずほ銀行がLINEと提携して残高確認ができる「LINEかんたん残高証明」を始めたり、マネーフォワードがNTTデータと共同で「Open Bank API」を推進すると発表するなど銀行API開放の機運は高まっている。2016年2月には「みずほダイレクトアプリ」がMoneytreeの口座情報を読み込む技術を採用、IBMも2月に「Fintech共通API」の提供を始めるとアナウンスしている。銀行APIが開放されて、便利なサービスが増えると消費者としては嬉しい限り。一方で少し皮肉なことを言うと、銀行の既存サービスを少し便利にする程度のものをいくら作っても、PayPalがやったような本質的なFintechイノベーションは出てこないのだろうな、ということも感じたハッカソンだった。FintechだモバイルECだといったところで金融のトランザクションは全銀システムや各行が持つメインフレーム上で起こっている。

Fintechのトレンドとして特定の銀行業務に特化したサービスが独自に立ち上がる「アンバンドリング」がいま起こりつつあることだとしたら、その次に来るのは「リバンドリング」だという意見がある。消費者個人個人が、それぞれの目的ごとにベストなサービスを自分で選ぶ「ベストオブブリード」という古きよきインターネット的なサービス利用モデルよりも、統一されたブランドの元に各サービスが統合されている未来のほうが、確かにありそうに思える。そのとき「お金のブランド」として人々が思い浮かべる名前はなんだろうか? みずほやUFJなのか、それともGoogleやAmazon、あるいは楽天やマネーフォワードなのか? それは今のところ分からない。ただ、そのブランドというのはAPIが上手に使えてエコシステムを醸成できるプレイヤーなのではないかと思う。

マネーフォワードが連携強化、他社お金関連サービスを集めてプラットフォームへ一歩

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個人・法人向けに家計簿や資産、経費管理サービスを展開するマネーフォワードが今日、個人向けアプリで新施策「マネーフォワード Apps」を開始した。まずはAndroid版を提供し、4月にはiOS版でもリリースする。

マネーフォワード Appsは、自社だけでなくパートナー企業など他社が開発した貯金、節約、投資に関するアプリを掲載する施策。すでに掲載しているアプリは以下。

・株価・為替の総合アプリ「Yahoo!ファイナンス」
・関西電力の電気代や使用料チェックアプリ「はぴ e みる電」

今後掲載を予定しているのはアプリは以下。

・NTTドコモがトライアル提供するレシートリワードを使ったマネーフォワードのアプリ
・カカクコムとの「お金のサービスランキング」連携
・お金のデザインのロボアドバイザー「THEO」
・電力比較のエネチェンジのアプリ

これ以外にもライフプラン関連などのアプリ提供を検討しているという。

マネーフォワードでは「掲載」という言葉を使っているが、これはデバイス上で別アプリを呼び出すようになっていて、未インストールの場合はGoogle PlayやApp Storeに誘導する形だ。以下の図をみると、各社アプリへの集客や開発支援をマネーフォワードが行うというふうになっていて、実際マネーフォワードAPIにあるOAuth認証を使ってアプリが開発できるという。他社アプリというのがWebアプリの場合には認証がラクになりそうだ。

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OAuth認証ということは、つまり事業者間とユーザーのコンセンサスさえあれば、技術的には各種データを企業間で共有する土台ができたわけだ。マネーフォワードは、各ユーザーごとの貯蓄額はもちろん、年収やお金の使い方について相当なデータを蓄積している。家計を見れば家族構成や年に何度旅行に行くか、なんかも分かる。これは他社からすればマーケティングデータとして欲しいところだろう。「カウント方式は非公開」ということで数字通りには受け取れないものの、マネーフォワードはユーザー数の参考値として「350万人が選んだ家計簿」という数字を出している。まだ大きいとは言えない規模だが、これまで口座アグリゲーションで自動分類をしてきた個人の家計データとなると利用価値は大きいと考えられる。そういう意味で、これまで自社を「お金のプラットフォーム」と規定してきたマネーフォワードとしては、エコシステム醸成とプラットフォーム化への一歩を踏み出すアプリだと言えそうだし、銀行のような既存プレイヤーに対してAPI公開を迫るプレッシャーとなるようであれば、消費者としては大いに歓迎したいね。

追記:記事初出時に新アプリとお伝えしましたが、正しくは既存アプリの新施策です。訂正してお詫びします。

任せっきりじゃない個人資産運用を、「Folio」がシード資金で3億円を調達

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今年1月から招待制サービスを開始した「ウェルスナビ」や、2月に本サービスを開始した「THEO」などロボアドバイザーの市場が日本でも立ち上がり始めているが、こうしたロボアドバイザーとちょっと異なるアングルから個人の資産運用の課題を解決しようというスタートアップが「Folio」(フォリオ)だ。2015年12月創業のFolioは現在、年内のサービス開始へ向けて準備中で、本日DCMベンチャーズとDraper Nexusに対して総額3億円の第三者割当増資を実施したことを発表した。Folioは現在8人のスタッフがいてファイナンス系が3人、デザイナーが1人、エンジニアが4人。

社名が暗示するように、Folioはポートフォリオを選ぶことなどにフォーカスしたサービスを開発中だ。ロボアドバイザーは、ユーザーごとに異なるリスク許容度や収入、人生設計などを考慮に入れた国際分散投資を自動化してくれるサービスで、使い始めにポートフォリオを決めれば、後は10年とか20年という単位で長期運用をすることになる。一方、Folio創業者でCEOの甲斐真一郎氏は、そうした長期運用も1つの選択肢だとしながらも、もう少し個々人が資産運用に踏み込めるようなプラットフォームサービスを構築中で、自分たちはロボアドバイザーとは少し業種が異なると話す。

Folioではポートフォリオを「探す」ことも

実際、開発中のサービスをぼくは見せてもらったのだけど、Folioは「さがす」「まかせる」の2つに大きく分類されている。「任せる」というのがロボアドバイザーの部分。Folio上にはほかにもグリーンテックやドローン関連銘柄を集めたテーマ別ポートフォリオがあり、これをユーザーの専門性や趣味嗜好などからオススメしてくれるそうだ。ドローンの例なら凸版印刷、住友精密工業といったように関連事業に取り組む銘柄数十種が含まれていて、自分で銘柄の取捨選択もできるし、簡単に分散投資ができるそうだ。

中長期のトレンドに紐づくポートフォリオだけでなく、「アノマリー系」と呼ぶイベントに対応するようなポートフォリオもある。

Folioの甲斐CEOはゴールドマン・サックスやバークレイズで金利トレーディング、アルゴリズムトレーディングなどを経験してきた経緯がある。その甲斐CEOの問題意識は、証券会社と個人投資家の金融リテラシーのギャップを埋めること。「ロボアドバイザーは1つのツールでしかありません。投資を任せる以外にも選択肢はあるはず」という考えだそうだ。

「任せることだけでは国民の金融リテラシーは上がらないと思っています。われわれが問題だと思っているのは、投資プラットフォームと国民の間に大きなギャップがあることです」

「今のオンライン証券だと3500以上の銘柄、5000本以上の信託があって、自由に選んでくださいという風になっていますよね。でも、なかなか選べません。投資教育もしっかりしていません。投資プラットフォームと国民の金融リテラシー、この2つのギャップを埋めていきたいと思っています」。

情報過多の時代にPERやPBR、テクニカル分析など、あまり詳細な情報をプラットフォーム上で見えるようにすると、ユーザーが戸惑うとの考えから、定量的な判断はあえて消すなどの工夫もしているという。

タイの株式分析アプリ、StockRadarsがアジア各国に進出。アプリ内取引も可能に

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米国のスタートアップ、Robinhoodは、ITを活用して株式市場その他の投資機会を広く普及させようとしている数あるフィンテック企業の一つだ。同社のサービスは最先端を行くもので、最近アプリ内での即時取り引きを可能にしたが、金融の障壁は欧米市場だけに立ちはだかるものではない。

StockRadarsは、タイ拠点のモバイルベースで株式の分析と洞察を提供するサービスだが、つい最近Robinhoodを追ってアプリ内でのリアルタイム株取引を可能にした。このライブ取引機能は現時点ではタイ国内に限定されているが、同社は分析サービスを新たに8ヵ国に拡大 ― 中国、台湾、香港、韓国、日本、ニュージーランド、インド、シンガポール ― しており、これらの地域にもリアルタイム取引を提供することを視野に入れている。

この地域拡大を促進するために、StockRadarsを支援するSiam Squaredが新たな資金提供を行ったことが今日のプレスイベントで発表された。ラウンドの内容は非公開だが、TechCrunchが本件に近い筋から聞いたところによると、金額は70万ドルらしい。StockRadarsは昨年80万ドルを調達しており、この最新ラウンドは今年後半の大型ラウンドへのつなぎと見られる。

今回のラウンドをリードしたのは、既に投資している日本のCyber Agent Venturesで、バンコクの著名な株売買人を含む何人かのエンジェル投資家も参加した。これは、SiamSquaredのファウンダー、Teerachart ‘Max’ KortrakulがTechCrunchによると、市場からの重要なお墨付きであり、タイおよびアジアで株式投資の「民主化」を推進する同社にとって戦略上の意義は大きい。

「われわれの技術とアプリは、株価実績を分析することによって常に人々の成功を手助けしてきたが、これからは投資の完全なソリューション提供していく」と彼は付け加えた。

StockRadarアプリは、iOSAndroid、それぞれが提供されており、ユーザーは公開株の追跡と分析ができる。ユーザーは ‘radars’ を有償で購入することが可能で、これは最も業績の良い株と投資機会を見つけるための、情報および分析のレイヤーだ。

東南アジアのフィンテック分野は急速に発展する可能性を秘めており、シンガポールが金融とスタートアップ投資の中心地として市場を引っぱっている。中でも最大級のTrade Heroは、既に1000万ドルを調達しており、株式投資以外の分野では、ソーシャル支払いのFatacashが昨年1500万ドルのシリーズAラウンドを完了、支払い支援サービスの2C2POmiseが、いずれも数百万ドルの資金を投資家から集めている。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

マネーフォワードがRuby言語(オープンソース)の「パトロン」に

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Ruby言語のコア開発、卜部昌平氏(左)とマネーフォワード代表の辻庸介氏(右)

個人・法人向けの資産管理サービスを提供するマネーフォワードが今日、「フルタイムRubyコミッター職」として、Rubyコア開発者の卜部昌平氏(うらべ・しょうへい)を迎え入れたことを発表した。オープンソース開発者2人を「技術顧問」「Rubyコミッター職」として採用するということは、すでに2015年12月に発表済みで、TechCrunch Japanでも記事にしている。今回はRubyコミッター職に就任するとしていたのが卜部氏で、正式に3月本日付けで入社したという発表だ。

Rubyは日本生まれのプログラミング言語として、特にネット系企業で世界的にも人気が高い。卜部氏はこれまで過去に各Rubyのバージョンごとに選任される「リリースマネージャー」を担当するなどRuby開発チームの中では広く知られたベテランのソフトウェア・エンジニアだ。直近はDeNAでエンジニアをしていて、空き時間にボランティアでRubyの開発やRubyKaigiなどRuby関連イベントの開催に携わってきた。

そんな卜部氏は今後、マネーフォワードのプロダクト開発には関わらず、Ruby言語の開発に専念するという。

日本企業、それもリソースに余裕のないスタートアップ企業が本業に関わらなくて良いから基盤技術であるプログラミング言語の開発だけに専念してくれ、というのは、かなり思い切った施策と言って良いだろう。マネーフォワードは何を期待しているのだろうか? マネーフォワード代表取締役社長CEO 辻庸介はTechCrunchの取材に対して、以下のように話した。

「当社の直接的な業務に携わるわけではありませんが、社内のエンジニアとのコミュニケーションは大事だと思っています。基本的には社内に来て頂いて、(社内)勉強会とかにも、どんどん入っていただきたいなと思っています」

「すでに技術顧問として入っていただいた松田氏には技術的なところはアドバイスをしてもらっています。メンタリングのようなこともやっていただければと考えています。弊社のエンジニアと一緒にそのまま飲みに行ったりしていますし、開発の最前線の人と話をするのは健全なことだと思っています」

やはり今後のエンジニア採用にプラスの施策という認識だろうか?

「進んでる会社とか、スタートアップのように先を行ってる会社ではRubyエンジニア獲得は激戦になっています。エンジニアが働きたいと思う会社ってお金とかじゃないと思うんですよね。サービスを通して世界を良くできるのか、どういうメンバーが働いているか、自分はそこにいることでスキルが上がっていくのか。卜部さんとか松田さんが来るのはエンジニアにとって魅力的」

トップエンジニアがいる会社には良い人材が集まる。そうだとしてもリソースの限られたスタートアップ企業で、オープンソースプロジェクトの「パトロン」となるのは厳しいのではないか。マネーフォワードは社員数135人、エンジニア比率は4割程度だ。どうやってステークホルダーを説得したのだろう。

「ペイするかというと分かりません。コスト負担は大きいです。ただ、これはきれいごとかもしれませんけど、タダ乗りってフェアじゃないよねと思っているんです。アメリカにMBAを取りに行っていたときにコントリビューションということを、すごく言われたんです。自分が所属する世界に対して何を貢献するのか、と。コミュニティーに協力して貢献する。青臭いかもしれませんけど、そこの思いから始めています。もちろんVCや株主から出資してもらっているので取締役会でも議論しました。思いと狙いのバランス、実利と両方です」

フルタイムでRuby開発に携わっているのは、Rubyの生みの親であるまつもとゆきひろ氏のほかに、Salesforce傘下のHerokuが抱える笹田耕一氏、中田伸悦氏がいる。今回卜部氏がフルタイムとなることで、Ruby開発は加速するのだろうか? 卜部氏はTechCrunchの取材に対して「Rubyの開発はもちろん加速すると思います」と明言した上で、今回の「フルタイムコミッター職」というパトロン形式での採用について以下のように話した。

「開発者を丸ごとパトロンするという認識だと、(世界的にも)珍しいと思います。ただ研究開発職と考えるとどうでしょうか。最近でこそ不景気な話も聞きますが、昔から大手企業にはプログラミングに限らずいろいろな分野の研究所で開発する研究者などがいるかと思います。そう思えばさほど違わない境遇の人は、知られていないだけで案外いたかもしれません。今回の場合は研究職との違いはオープンソースにコミットすること、だと思います。インパクトのある仕事をすることが求められているという点では一緒でしょう。自分の場合はインパクトファクターのような指標ではなく、実際のコードで、ということですね」

「最近はオープンソース開発がただの一過性の流行などではなく、企業の競争力の源泉として認識されてきているかと思います。最近でもMicrosoftが.NET CLRをオープンソースにしていたり、あるいはAppleがSwiftをオープンソースにしていたりします。このように、企業がコアコンピタンスとしてオープンソースを位置づけることはもはや珍しくないし、その中で開発力をどのように得ていくかということで、オープンソースを常時開発して、企業に貢献していく開発者という働き方が、以前よりは増えているのではないでしょうか。一般的とまで言えるかは分かりませんが」

「いま、国内でもオープンソースを技術力の源泉として『利用』している企業は、結構増えてきてると思います。これからはさらに一歩先、オープンソース『開発』を自社の技術力の源泉としていく企業が増えてほしいです。望む未来を実現するには発明してしまうのが一番早いとも言います。企業の側からのメリットはそこにあると思います」

「今回は自分としてもチャレンジングな仕事をオファーしていただいたと思っています。働き方のモデルケースとなれるように頑張っていきたいです。後に続く人が増えてほしいと思います」

BearTailが中小企業向けにクラウド経費精算サービス、2000人のオペレーターが人力でデータ入力

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スマートフォンでレシートの写真を撮影してアップロードすれば、オペレーターが人力で入力を代行し、カテゴリの分類を行った上で家計簿を作成できるサービス家計簿サービス「Dr.Wallet」。このサービスを提供するスタートアップのBearTailが2月1日、クラウド経費精算サービス「Dr.経費精算」ベータ版の提供を開始した。

Dr.経費精算は中小企業をターゲットにした経費精算サービス。Dr.Wallet同様にスマートフォンで領収書を撮影し、スマートフォンアプリもしくはウェブブラウザからアップロードすれば、自動的に経費データ化し、同時に仕訳も行う。クレジットカードや電子マネー等の利用明細の自動取得にも対応する。

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取り込んだデータからプライベートでの利用を除外するなどの編集機能も用意。法人向けということで、経費のデータ入力に加えて、管理者への経費申請を行うワークフロー機能も提供する。承認を得た経費データは管理者向けのウェブ画面からダウンロード可能。

全銀フォーマットのデータ形式に準拠しているため、各種会計ソフトへの取り込みが可能だ。承認の際、特定の勘定項目で一定額以上になっていた場合や、領収書が不足している場合に知らせるアラート機能、申請者と承認者で申請内容の確認ができるコメント機能も用意している。

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サービスの強みとなるのは、データの自動入力を裏側で支えるクラウドソーサーだ。BearTailではDr.Walletを提供するため、遠隔地で働く主婦など、約2000人の入力オペレーターを集めている。今回提供するDr.経費精算でもこのオペレーターが写真を目視してデータを入力する。これにより、自動読み取りするよりも高い精度を実現しているのだという。「重要なのはアプリやシステムと人力でのオペレーションの融合だ」(BearTail代表取締役社長の黒﨑賢一氏)

料金は1アカウントにつき月額980円。競合としてはクラウドキャストの「Staple」やマネーフォワードの「MFクラウド経費」などがある。BearTailでは6月をめどに、ICカードリーダーを活用した交通系電子マネーの自動読み取り機能を導入するほか、専用スキャナーの提供も予定する。

ブロックチェーン活用の海外送金を日中韓などアジアで、Ripple LabがSBIと合弁

ripple暗号通貨とブロックチェーン技術に関して、日本にいる我々にとって身近でかつ大きなニュースが飛び込んできた。金融機関向けにブロックチェーン技術の提供を行う米Ripple Labと日本の金融大手SBIホールディングスが合弁会社SBI Ripple Asiaを作り、日本を含むアジア諸国の金融機関に海外送金インフラを提供することを発表したのだ(Ripple LabのプレスリリースSBIホールディングスのプレスリリース)。

Ripple Labは、時価総額でBitcoinに次ぐ第2位の暗号通貨XRPの発行主体であり(このサイトによれば時価総額は2億2570万ドルにのぼる。ただし一時期Ethereumに抜かれた)、同時に複数の法定通貨を交換、送金できる海外送金のソリューションRipple Connectを提供する企業でもある。企業が運営する暗号通貨は珍しい。

今回の発表で強調しているのは、暗号通貨よりも海外送金ソリューションRipple Connectの活用だ。従来の海外送金が手数料が高額で時間も数日を費やしていたのに対して、Ripple Labのインフラは所要時間は数秒、手数料はゼロに近い送金が可能となる。

新会社が対象にする地域は日本、中国、台湾、韓国、それにASEAN諸国だ。オーストラリア、シンガポール、その他の地域は引き続きRipple APACがカバーする。

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Ripple Labのプレスリリースに、SBIホールディングスの北尾吉孝CEOは「市場調査の結果、Rippleは現場でテストされたエンタープライズ・ソリューションを提供できる唯一の企業だった」との発言を寄せている。「分散金融テクノロジーは間違いなく金融インフラを変革する。アジア全体でその普及を推進することに興奮している」としている。Ripple Labは、暗号通貨XRPをグループ企業のオンライン証券会社で取り扱う検討も行う。なお、SBIホールディングスは国際送金サービスSBIレミットをグループ企業の一社として抱えているが、発表では同社への言及はない。

暗号通貨の源流であるBitcoinは、中心を持たない(Decentralization)ネットワークにより国境を越える送金を低コスト、高速にしたことが大きな改革だった。Ripple Labは、暗号通貨/ブロックチェーン技術の海外送金の側面に注目し、ビジネスを構築した。運営主体を持たないBitcoinと、現行法定通貨の送金というB2Bビジネスを展開するRipple Labは対極的な存在といえる。

Ripple Connectの中身はP2Pネットワークによるブロックチェーン技術である。同社資料によると、金融機関のシステムのファイアウォール内部のオンプレミス環境で動かすのが典型的な使い方だ。システム間は、 HTTPSとRESTful API、つまり今どきのWebテクノロジーで結ぶ。ブロックチェーン技術は内部的に使われているものの、利用企業にとってはインターネットプロトコル(IP)を用いた金融システム間連携の技術との見方をした方が分かりやすいかもしれない。

最近の金融業界では、ブロックチェーン技術に関連する取り組みがいくつもある。最近R3 CEV社が11行(Credit Suisse、HSBCなどそうそうたる顔ぶれ)が参加したブロックチェーン技術EthereumとMicrosoft AzureによるBlockchain as a Service (BaaS)の実証実験に成功した。日本発のブロックチェーン技術であるmijinを開発するテックビューロはある国の中央銀行から打診を受けたそうだし、野村総合研究所(NRI)は住信SBIネット銀行はmijinとそのベースとなったNEMを併用した実証実験を進めると発表している(なお住信SBIネット銀行の資本比率は三井住友信託銀行50%、SBIホールディングス50%)。やはり独自ブロックチェーン技術を提供するOrb社もある地銀と話をしているそうだ。

日本経済新聞は、SBIホールディングスは約30億円でRipple Labの発行済み株式の17%弱を取得すると伝えている。FinTechの掛け声のもと、金融機関は今どきのITのメリットを取り入れるべく動き出している。そのような状況の中で、日中韓を含むアジア主要地域という大きなマーケットでRipple Labの金融機関向けブロックチェーン技術を展開するSBIホールディングスは、いち早く有利な地位を得たといえそうである。

 

フィンテックは金融ビジネスの根本的改革者になれるか?

NEW YORK, NY - DECEMBER 21:  People walk along Wall Street on December 21, 2015 in New York City.  The Dow Jones industrial average was up over 100 points in morning trading following Friday's huge drop as the price of oil continued its yearly fall.  (Photo by Spencer Platt/Getty Images)

Lawrence Uebel はAlliance Dataで信用リスクの分析を行っている.

『マネー・ボール』の著者、マイケル・ルイスの新しいノンフィクションは 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』としてブラッド・ピットらによって先ごろ映画化された。

あるレビューはこの映画から、2008年の金融危機に際して「家賃をきちんと払っているにもかかわらず、家主が債務の支払いを滞らせているというだけの理由で借家人たちが家から路上に叩き出されているl.というセリフを引用していた。

このエピソードはわれわれの金融システムがいかに不完全であり、かつ根本的に不公正であるかを印象的に描き出している。

なぜわれわれはこうしたシステムを必要としているのだろう? アメリカ人は銀行家のやり口を弁護士のやり口と同様によく知っており、毛嫌いしている。だが必要になれば彼らに頼るしかない。

ベストセラー、Other People’s Moneyの中で経済学者のジョン・ケイは「金融とは貸し手と借り手を適切に組み合わせ、貯蓄は投資として有効に活用されねばならないという社会の根本的な要請によって存在する」と書いている。つまり個人の資産を生涯にわたって管理可能とすると同時に、資産の運用に必然的に伴うリスクを軽減し、支払いのシステムとしては売買や賃金、報酬の支払いを容易にする。

金融ビジネスのこうした側面は一般消費者、会社経営者のよく知るところであり、そのメリットもまた明白だ。

しかし金融ビジネス全体にとってはこうした有用な活動は極めて小さい部分をなすに過ぎない。全体としてみると、ジョン・ケイが書いているように、「金融機関は、想像力の限界を試すかのように、相互に取引する」ことを本業とするにようになる。

金融ビジネスのこの部分がウォールストリートにカジノ賭博のイメージを重ねさせる主要な原因だ。ウォールストリートのプレイヤーたちの突拍子もない行動はマイケル・ルイスの別のノンフィクション、『フラッシュ・ボーイズ-10億分の1秒の男たち』〔文藝春秋〕に詳しく描写されている。トレーダーたちはある種の取引においては処理時間を極小化することでリスクなしに巨額の利益を手にできる。

フィンテックは自らをその鏡像のような存在に転化させるべきときが来ている

CDO〔collateralized debt obligation、債務担保証券〕がビザンチン宮廷風の陰謀として描かれ、悪名を高めたのは2008年の金融危機で決定的な役割を果たしたからだ。金融ビジネス関係者―われわれが老後の資産を預けるほど日頃頼りにしているその人々―が、かくも強い毒を含んだ仕組みを考えだし、その毒が存分に発揮されるような運用をしたという事実にはぞっとさせられるものがある。

ただし明敏な観察者なら、一般の人々にメリットをもたらす金融活動と有毒な金融活動ははっきり区別できるというだろう。金というものは、要するに、なんらかの価値に関する情報であり、誰がコントロールしているのかが重要だ。鳴り物入りの大騒ぎを別にして金融ビジネスのその側面を考察するなら、日常生活に不可欠の活動も含めて、情報テクノロジーとの親和性が極めて高いことが容易に見てとれるだろう。

しかし現在の金融ビジネスが非効率であり不公正な結果をもたらすことがあるからといって、それらが情報テクノロジーが改善すべき点だと考えるなら大きな間違いを犯すことになる。金融ビジネスで破壊的改革が求められているのは単なるアルゴリズムではない。金融ビジネスは以前から数学に強かった。それどころか数学者に最高給を支払ってきたのは金融ビジネスだった。金融機関の情報インフラもまた最大級の規模だ(ただし、新システムへの置き換えを深刻に必要としている)。

金融セクターがもっとも必要としているイノベーションは一般ユーザーの「どういう方法かは分からないが自分はカモにされている」という感覚をなんかしなければならないという点だ。なぜならこの感情がよって来るところは金融機関がリスクを分散する手法(その中にはもちろんビジネスとして不可欠な正当なものも多く含まれる)にあるからだ。この手法たるや、やむを得ない面もあるとはいえ、通常きわめて複雑怪奇なものになりがちだ。しかし複雑怪奇さは金融サービスに不可欠の要素などではない。この不必要な複雑怪奇さが、真面目に家賃を払っている人々を家から追い出し、路頭に迷わせるような不公正の原因をなしている。われわれはこうした不公正さを必要としていない。

フィンテックと呼ばれる高度な金融情報テクノロジーはまだ誕生したばかりのセクターだ。しかしフィンテックはそれ自身を軸として自らをその鏡像のような存在に転化させるべきときが来ている〔訳注〕。フィンテックに流れ込む資金は巨大だ。企業は自らがそうありたいと望むビジネスの本質とそれによってどんな根本的な便益が提供されるのかをはっきり決めねばならない。すでにそれらを決めた企業が現れているが、それがフィンテックの本質に合致しているかは別問題だ。

たとえばSindeoだ。このシリコンバレーのスタートアップは当局による規制のゆるい金融セクターで資金の貸し手となろうとする企業ならではの驚くべき感情を公言している。同社は「われわれわれは『やればできる』精神の産物だ。やってみて、うまくいくようなら、それから合法化を考えればいい」と述べている。多くのフィンテック企業が矢継ぎ早に発表する商品を観察すると、その多くは債務と証券を複雑な方法でバンドルしたもので、あまりにもサブプライム危機の原因となった住宅抵当証券に似ているという多くの専門家の観察はおそらく正しいだろう。

こういったアプローチはどれも金融の根本的な改革につながるもではない。こうした人々は2008年に馬脚を現した住宅抵当証券の強引なセールスマンと同じ種族であって、違いといえばウェブサイトが当時より優れていることぐらいだ。

規制当局はすでにフィンテックに重大な関心を寄せている.

経済学者のジョン・ケイはフィンテックに参入しようとする人々に良いアドバイスを与えている。「信用力の弱い証券と返済能力に疑念のある借り手の組み合わせは単にそういうものに過ぎない。それを改善できる錬金術などは存在しない」。金融セクターにどれほど新しいテクノロジーが導入されようと、昔も今も将来も、金融の実体は決して変わりはしない。

それとは逆に、Earnestのようなビジネスも現れている。 Earnestも債務の証券化を目的としているが、健全なビジネスプランに基いて、テクノロジーによってそれを論理的に進化させる方法を論じている。債務の買い取りや返済を障害のより少ない体験にしようというのがその目的だ。

もちろんEarnestなどのスタートアップの活動はまだメディアの記事の中が主だ。長期的に維持可能なビジネスプランであるかどうかの保証はない。それでもメディアがスタートアップの文化を正しく伝えているなら、Sideoのような企業ではなく、Earnestのような企業が結局は金融ビジネスに必要な根本的変革をもたらすものだと期待したい。

規制当局はすでにフィンテックに重大な関心を寄せている。当局の専門家はアルゴリズムから実際の取引行為まですべてを精査中だ。本質的に不健全なビジネスがこの精査に耐えて生き延びる可能性はごく少ない。そして長期的にみるなら、そういう商品の買い手も生き延びることはできないだろう。

ただリスクはフィンテックの外からもやって来る。 最近のフィンテック企業と大手銀行の提携やストレートな買収のラッシュはフィンテックのファウンダーの多数を富豪にするという別のリスクを顕在化させた。こうしたファウンダーたちはきわめて満足のいくトレンドと考えるだろう(そして当然ながらそれを責めることはできないが)。しかしフィンテックが銀行に吸収されることは、あれほど非難の対象となった銀行による不愉快な取引慣行にフィンテックが組み込まれる可能性が高まることを意味する。

フィンテック・スタートアップにとって、まさにこの点が最大のリスクだ。フィンテックが金融ビジネスの既存のツールにとって変わることなく、それに同化してしまえば、何のイノベーションにもならない。われわれ一般人の立場からすれば、フィンテック関係者が巨額の小切手を受け取るとき、一瞬でも立ち止まって、社会の利益に思いを馳せ、自分たちが会社を興したそもそもの目的がこれであったかどうかを反省する瞬間を持つよう切に期待するものだ。

画像: Spencer Platt/Getty Images

〔日本版〕原文は something of a reflection pointとなっている。原文コメント欄ではinflexion pointのタイプミスだろうという意見と、このままでよいという意見が対立している。inflexion pointは数学用語で変曲点(3次曲線などが増加から減少、あるいは減少から増加に転じる点)だが、relfexion pointであれば鏡像的対称の軸となる点を意味する。ここでは原文のまま訳した。

[原文へ] 

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

クラウド家計簿提供のBearTail、今度は経費精算サービスの提供を開始

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スマホでレシートを撮影するだけで全自動で家計簿を作成できるクラウド家計簿サービス「Dr.Wallet」。このサービスを提供するBearTailが、今度はビジネスパーソンをターゲットにした新サービスを公開した。同社は12月24日、クラウド経費精算サービス「Dr.経費精算」ベータ版の提供を開始した。サービスは月額980円(30日間無料)。2016年1月には法人向けプランの提供も予定する。

Dr.経費精算は個人時事業主や中小企業向けの経費精算サービス。スマートフォンアプリやウェブサイトにて領収書を撮影して送信するだけで、データ化、さらに仕訳までを行う。登録されたデータは事後の編集も可能。データはExcel、CSV形式で提供される。

もともとBearTailが提供してきたDr.Walletでは、撮影したレシートのデータを、画像認識とクラウドソーシングの手入力で処理。目視をはさむことで高い精度を提供していた。今回提供を開始したDr.経費精算ではそのノウハウをいかしてサービスを提供しているという。

経費精算の自動化と聞いて気になるのは、交通系ICカードの読み込みだ。例えば先行する経費精算サービスであるクラウドキャストの「Staple」などは5月にICカードの読み込みに対応。この機能のリリース後にユーザーを拡大しているといった話を以前の取材で聞いた。

BearTailでもそのあたりのニーズは意識しているようで、ベータ版では交通経路検索機能により、駅名からの料金登録をまず実現。今後は「2016年早いタイミングで予定している正式版では、ICカードのNFC読み込み、オンライン利用明細の自動取り込みの機能も追加する予定」(BearTail代表取締役の黒崎賢一氏)としている。

Fintechという言葉でひとくくりにするワケではないが、電子帳簿保存法の改正を受け、2017年度にもスマートフォンで撮影した領収書での経費精算が可能になると見込まれていることからも、この領域のスタートアップの動きは活発。BearTailもそこに着目した。「今後クラウド化が進んでこなかった経費精算サービスが一気にクラウド化すると考えている。帳票入力や回覧・保管にかかわる経費精算関連市場は1兆円とも言われるが、その中でデファクトスタンダードを目指す」(黒崎氏)

3タップで簡単売買、スマホ証券「One Tap BUY」が金融商品取引業者として登録完了

スマホ特化型のネット証券会社でFintechスタートアップ企業のOne Tap BUYが今日付けで、金融商品取引業者(第一種金融商品取引業)として関東財務局に登録が完了したと発表した。One Tap BUYは2013年10月の設立で来春のサービス開始へ向けて準備を進めている。

One Tap BUYはスマホで簡単に株式売買ができるアプリ「One Tap BUY」を2016年2月にローンチ予定。一般的なオンライン証券会社をスマートフォンで利用する際、16〜18タップかかる「買う・売る」の操作が3タップで終わる簡単さが特徴だ。FacebookやGoogle(Alphabet)、コカ・コーラやウォルト・ディズニーといった、日本人にも親しみのある海外ブランドの株式を、分かりやすいロゴと創業者の顔写真、マンガなどで表示して、任意の金額を指定するだけで売り買いできるようにしている。購入単位も1万円としていて、取引単位がこれを超えるようなケースでもOne Tap BUYが「端株」として吸収する。証券市場の取引可能時間など時差の違いなどもユーザーは意識する必要がないといった具合に、これまでハードルの高かった株式取引を身近なものにするのが狙い。こうした面倒な部分をサービス側で吸収するためには、法令要件や税務要件を満たしつつ金融庁と調整のうえでシステムを設計する必要があり、それを創業以来One Tap BUYは着々と進めてきたのだという。

ontapbuyOne Tap BUY創業者の林氏によれば、当初はニューヨーク証券取引所・ナスダックに上場している30銘柄に対応するが、今後は売買可能な銘柄と市場を増やす予定もあるという。東京証券取引所に対応予定のほか、もともと中国株専業のネット証券会社「ユナイテッドワールド証券」を創業して売却した経歴のある林CEOは、中国やインドの市場への対応も技術的には可能だとTechCrunch Japanに話している。

One Tap BUY創業者の林和人氏

One Tap BUYはスマホネイティブでUIを考えているのが面白い。例えば、ポートフォリオを円グラフで表示して、「この株の割合をちょっと減らしたいな」というときに、指でグリっと円グラフをなぞると回転方向に応じて株式資産の比率を再計算。それに応じて売買も行ってくれる。One Tap BUYは従来の「オンライン証券」というサービスや常識からすると、まったく異なるタイプのサービスになりそうだ。

株を保有することで得た利益を現金化する方法も、ちょっとユニーク。購買時から上がった株価の分だけを売却する、というのが1つの機能として提供されている。ここに経済的合理性があるようには思えないのだけど、そうしたニーズがあること自体は理解できる。そもそも経済合理性から言えば、現在の日本人の個人資産の現金保有残高は異常に高い。例えば日本銀行調査統計局の2015年9月3の統計によれば、日本の個人資産1717兆円のうち52%の893兆円が現金・預金となっている。歴史的な低金利が続いていることを考えると、大多数の個人投資のお金を動かすものが、必ずしも経済合理性ではないと考えるべきだろう。それがブランドへの愛着や創業ストーリーの分かりやすさ、売買アプリの敷居の低さといったことで動く可能性はあると思う。

「貯蓄から投資へ」という掛け声とともにNISAなど個人の投資環境整備が進む一方で、なかなか進まない日本の個人資産運用。One Tap BUYが、この社会課題の突破口となるのかどうか、今後の動きに注目したい。なお、One Tap BUYはTechCrunch Tokyo 2015のスタートアップバトル決勝戦で、審査員特別賞とAWS賞を受賞している。以下がOne Tap BUYが作成したテレビショッピング風の説明動画だ。

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クラウドキャストがセゾンとIMJ-IPから資金調達、経費精算サービスにクレカ連携機能

lg_staple_intro-3121e45fa784275f1d3ab97e3cd8c23f経費精算サービス「Staple(ステイプル)」を提供するクラウドキャストは12月11日、クレディセゾン(6月に設立した100%子会社のセゾン・ベンチャーズからの出資だ)およびIMJ Investment Partners(IMJ-IP)を引受先とした第三者割当増資を実施することを明らかにした。調達額や出資比率は非公開だが、関係者によれば数億円前半程度の規模になる模様。

Stapleは2014年9月のリリース。アプリへの入力で手軽に経費精算ができるほか、交通系ICカードの読み取り、会計システムとの連携にも対応している。金額は個人向けが無料、承認フローなどを備えた法人向けが1ユーザー月額600円となっている。これまで広告や人材、不動産、全国展開の小売業などの業種の中小・ベンチャー向けにサービスを提供しており、無償・トライアルを含めて150以上の企業・組織で利用されている。

同社ではクレディセゾンとの資本提携を機に、クレディセゾンの3500万人の顧客基盤や永久不滅ポイントなどと連携。Staple の機能拡張および顧客基盤拡大していくとしている。具体的には、クレジットカードの利用履歴をもとに、自動で経費を登録する機能を提供していく。

開発基盤も強化する。クラウドキャスト代表取締役の星川高志氏によると、直近2カ月弱で有償ユーザーの数が2倍になるという状況なのだそうだ。今後は領収書の読み取り機能なども提供する予定だとしている。

協業のイメージ

協業のイメージ

50億円を捨ててまで起業した男が語る「今、スタートアップに携わるべき理由」

後ほんのわずかな時間、その立場にとどまっていれば手に入ったであろう大金を顧みず、起業した男がいる。それがマネックスグループ代表執行役社長CEOの松本大さんだ。

11月18日、東京・渋谷が会場となったTechCrunch Tokyo 2015において、当時、史上最年少で外資系金融ゴールドマン・サックス証券のゼネラル・パートナーになり、その後、オンライン証券会社マネックス証券を設立した松本さんが数十億円を「捨てた」その裏側について語った。

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評価された社内「スタートアップ」

外資系金融機関を就職先に選んだ理由は「異端児だったから」という松本さん。「普通の会社に就職しても、きっと受け入れてもらえないだろう。それなら多様性を受け入れてくれ、かつ実力主義の会社で働きたい」と判断し、ソロモン・ブラザーズに1987年に入社。その3年後の1990年、ゴールドマン・サックスに移籍した。

ところが、着手したかった仕事(円のデリバティブ)をしようにも、計算技術において遅れており、商品開発ができない。そこで松本さんは「大好きな秋葉原に行って、PCを購入し、ゴールデンウィーク中、マクロを多用したスプレッドシートを書き上げ」ポートフォリオを管理するようにしたという。

「自分のデスクに新卒、中途も含め若い人たちをどんどん集めてモデルを書いて、ビジネスのアイデアも考えて実現して。そうしたらすごい儲かったんですよ。当時、外資系金融の上司たちは日本人がそんなに仕事できると考えていなかったので、あまり重用していませんでした。でも、そんなことはない。結果を出して日本の若い人が優秀だということを明らかにしたところ、社内で評価されるようになったんです」(松本さん)

開発した新商品が成功しただけではなく、そのような取り組みの結果、松本さんはわずか30歳という異例の若さでゼネラル・パートナー(共同経営者)の仲間入りを果たしたのだ。
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「一(いち)場所、二(に)餌、三(さん)仕掛け」タイミングを見逃すな

そんな松本さんに、大金を手にするチャンスが訪れた。1999年5月、パートナーとして働いていたゴールドマン・サックスが上場することになったのだ。上場すれば、プレミアム報酬として松本さんにも数十億円が手に入るはずだった。

しかし、松本さんは大金ではなく、起業の道を選んだ。株式売買委託手数料の完全自由化、インターネットの普及を見越して、個人にとって必要になると考えたオンライン証券会社を設立するというヴィジョンを取ったのだ。

「パートナーになってから4年目でした。50億は手にできたかもしれませんね」と、こともなげに松本さんは語る。「当時35歳。そんな若さで大金を手にしたら、働かなくなるかもしれない、と思ったんです。きっと遊んで暮らす道を選んでしまって、自分の可能性を追求しなくなってしまうんじゃないかと。人間、そんなに強くないですからね」(松本さん)

1999年という年は金融業界において、「クリティカルなタイミング」でもあったという。その年の10月に株式売買委託手数料の完全自由化がなされたからだ。

「下りエスカレーターに乗った状態と、上りエスカレーターに乗った状態で駆け上がっていくのとでは、断然上りエスカレーターに乗っている方がスピードはアップしますよね。完全自由化の波は“上りエスカレーター状態”。そのタイミングで開業していなければマーケティング的に意味がないと考えました。ゴールドマン・サックスの規定上、パートナーだったわたしが辞められるタイミングは1998年11月末。半年後に大金を手にできる、と分かっていても辞めるしかなかったんです」(松本さん)

「それに」と松本さんは言葉を続ける。

「釣りでは『一(いち)場所、二(に)餌、三(さん)仕掛け』といって、一番重要なのは場所だと言われています。どこでやるか、どこを釣り場に決めるか、ですよね。それと同じで、エリアを決めたらどのタイミング、という場所でビジネスをするかが重要になってくるのです。規制が変わる、そのタイミングを逃す手はありません」。

相手を信じてぎりぎりまで攻める

マネックス証券スタートにまつわるストーリーの中で外せない人物がいる。それは元ソニー社長 出井伸之さんだ。

「顧客がいないと始まりません。私がいくら『ゴールドマン・サックスで史上最年少ゼネラル・パートナーをやっていました』と言っても、”Nobody Knows Me”ですよね。でも、『ソニーが出資しています』と言えば信頼してもらえる。それで、100万人を説得するより、出井さんを説得することにしました」(松本さん)

その甲斐あって、全体の49%出資をソニーから勝ち得たが、松本さんの攻めはそれで終わらない。何と、東京・銀座にあるソニー本社のビルの壁を記者会見前夜から6日間借り、“SONY”のサイネージとその下に垂らされているマネックス証券の懸垂幕を1枚の写真に収め、記者会見で配布するプレスキットに入れたというのだ。松本さんは当時を振り返ってこう語った。「これにはソニー側の広報も真っ赤になって怒っていましたね。でも、社長の出井さんは、記者会見の最後にこんなボーナストークをしてくれたんですよ。『今日というこの日は象徴的な日で、まるでソニーがマネックスに乗っ取られたかのように、銀座のソニービルにマネックスの垂れ幕がかけられていた。これからマネックスはソニーというプラットフォームを使って、大きく羽ばたいていってほしい』」。

「ギリギリのところを攻めていくわたしに対して『あっぱれ』という気持ちで受け入れてくれ、ウィットに富んだ返しをしてくれたんだと思います」(松本さん)

そういう経験からも、スタートアップで組むことに選んだ相手がたとえ大企業だったとしても萎縮せず、失礼にならない形で利用するという気概をもってぶつかってほしい、と会場に集まった起業家たちに勧めていた。

生存確率は極めて低いが、社会のステップアップになくてはならない

「来場している起業家、また起業家予備軍にアドバイスを」と求められた松本さんは、最後にこう締めくくった。

「起業というのは大切なプロセス。それは突然変異のようなもの。ほとんどは死に絶えるが、生き残れば一気に社会を変化させます。もしくは社内のスタートアップであれば、会社を次のステージへとステップアップさせていきます。進化の過程での突然変異と違い、ビジネスにおける突然変異種は、たとえうまく行ってもまたすぐ誰かに真似されます。それでもなお誰かがやらないと、社会は退化してしまうのです。社会を次のステージに持っていくんだ、という気概でぜひとも取り組んでいただきたいですね」

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楽天が1億ドル規模のFinTechファンドを立ち上げ——欧米での投資を加速

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楽天代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏

昨日の話になるが、注目集まるFinTech領域で少し大きな動きがあったので紹介しておく。楽天は11月12日、最新の金融テクノロジー、いわゆるFinTechを対象としたベンチャーキャピタルファンド 「Rakuten FinTech Fund」の運用を開始したことを発表した。ファンド規模は1億ドルに上る。

Rakuten FinTech Fundでは、初期段階から中期段階のFinTechスタートアップに対して、世界規模で投資を行うという。楽天ではこれまでにもCurrency CloudWePayなどFinTech領域への投資を行っているが、新ファンドはこれをさらに発展させたものになるという。当初は北米および欧州——特にロンドン、サンフランシスコ、ニューヨーク、およびベルリン——の企業に対して投資を行い、その後は他の地域に規模を拡大する見込み。

楽天では直近、グループの「インターネット金融事業」(楽天カード、楽天証券、楽天銀行、楽天生命など)の名称を「FinTech事業」と変更しているが、今回のファンドはそのFinTech事業で組成されたものだという。同社では「FinTechのスタートアップ企業に投資することによって、世界のイノベーションを先取りし、FinTech企業を支援して世界規模でインターネット上の金融サービスに強く影響を与えることができる。また、日本および海外で迅速に成長する楽天のFinTech事業と起業家の橋渡しをする役割も担う」としている。

ロボット資産運用アドバイザーの「ウェルスナビ」が約6億円を資金調達

リスク管理アルゴリズムに基づく資産運用アドバイスを提供するスタートアップのウェルスナビが今日、グリーベンチャーズIVP(インフィニティ・ベンチャー・パートナーズ)、SMBCベンチャーキャピタルみずほキャピタル三菱UFJキャピタルおよびDBJキャピタルと約6億円の資金調達に合意したと発表した。増資に伴ってグリーベンチャーズの天野雄介氏が社外取締役に就任している。

ウェルスナビは2015年4月に設立されたFintechスタートアップで、2015年7月に5000万円のシード資金をIVPから調達していたので、今回の6億円の資金調達はシリーズAということになる。実際のサービスである「WealthNavi」は2016年にリリースする予定。現在はWealthNaviのサイト上では資産運用のシミュレーションを使うことができる。正式版リリース時には、実際の取り引きができるようになる。現在のシミュレーションでは数個の質問に応える形で判定しているが、自分でリスク許容度を設定できるようにもなるようだ。

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WealthNaviは「世界水準の資産運用とリスク管理をすべての人に」がコンセプト。ウェルスナビが世界水準と呼んでいるのはリスク管理に基づいた国際分散投資のことで、ユーザーのリスク許容度に応じて最適なポートフォリオを提示する。人間のファンド管理者による作為的なポートフォリオ提示ではなく、分散投資理論に基いているのが特徴という。ウェルスナビ創業者の柴山和久氏は、東京大学法学部卒業後にハーバード大学で金融取引法を学んだ後、日英での9年間の財務省勤務を挟んで、経営大学院のINSEADで金融工学を学んだ金融の専門家でもある。創業前のマッキンゼー在職時に、ウォール街に本拠を置く機関投資家を1年半サポートして10兆円規模のリスク管理・資産運用プロジェクトに従事していた。この時の経験から、機関投資家やプライベートバンクを通して富裕層しか恩恵を得ることができなかった資産運用のノウハウを民主化する、というウェルスナビの創業アイデアに至っているそうだ。

こうした資産運用サービスは、アメリカでは「ロボットアドバイザー」もしくは短く「ロボアドバイザー」と呼ばれていて、WealthfrontBettermentといったスタートアップ企業が知られている。Wealthfrontは現在すでに約3150億円もの資金を運用していて、急速に成長している。

ちなみにウェルスナビは、11月17日、18日に開催するTechCrunch Tokyo 2015のスタートアップバトルのファイナリストで、18日午後の決勝戦に登壇予定だ。

TechCrunch Tokyo 2015チケットはこちらから→

TechCrunch Tokyo 2015学割チケットはこちらから→

画像認識からデイトレへ、深層学習のAlcapaDBが意外なピボットで100万ドルを新規調達

「お前が一体なに言ってんのかも分かんねぇし、誰がこんなクソに金を払うのかも分からねぇよ!って、ピッチが終わった途端、開口一番にそう言われたんですよw」

デラウェア州で法人登記、満を持してのプロダクトリリース。渡米し、意気込んで多数のVC回りもした。そして東京で行われたSlush Asiaファイナルで、歯に衣着せぬ毒舌で知られる500 Startups創設者のデーブ・マクルーアに上記のように痛烈に批判され、プロダクトに根本的な問題があることに気がつく……。

と、そんな風にピボットを決める前の状況を振り返るのは、2013年2月にAlpacaDB(創業時の日本の法人名はIkkyoTechnology)を創業した横川毅CEOだ。

ディープラーニングを使った画像認識をサービスとして提供する「Labellio」をベータ版としてリリースしたのは2015年6月のこと。もともとAlpacaDBはデジタルデータの大半を占める非構造化データを処理する労働集約型の仕事を弱いAIで代替するという目標を掲げて創業していたので、画像認識領域でサービスを提供するのは自然なことだった。GPUが利用できるクラウド側で、ある程度汎用のディープラーニングの処理環境を用意してサービス開発者やエンジニアのプロトタイピング用途に向けて提供するというのがLabellioだった。

Labellioベータ版リリースのブログエントリはエンジニア界隈でちょっとした話題とはなった。ただ、いま振り返って読むと、すでにリリース時点で「用途が良く分からない」と当事者自らが語っているのは良い兆候ではなかったのかもしれない。画像のシーン解析や定点カメラの状態検知、SNS上の画像から特定プロダクトを認識する、などといった用途例を並べた後に、AlpacaDB自身が以下のように書いていたのだった。

「ただ、もちろん、用途は上記だけではないです。正直、プロダクトを作成した僕らもこのサービスで何を生み出すことができるのかわかっていません。画像認識をこれほど簡単にデザインできるプロダクトはこれまで存在しなかったので、これまで一部の人しかできなかったことが、だれでも利用できるようになったことで、たくさんの「新しい用途」が見つかるのではないかと思っています」

リリース数カ月で1200の画像認識分類器と800件のユーザー登録があったものの、確立された新しい用途を短期間で見つけ出すのは容易ではなく、結局ピボットすることに決めた。

横川CEOは、次のように振り返る。「ディープラーニングを活用した画像認識のスタートアップにはmetamindという会社もある。ただ、彼らも迷走している感がある。技術フォーカスじゃないとダメだと考えるあまり、そもそも(ユーザーがほしがるものを作れという)スタートアップの基本が欠けていた。テクノロジーアウトじゃなくて、誰が喜ぶのか考えろよということですよね」。

ならば、デイトレーダーのモデル化を助けるのに深層学習だ! えっ?

同じディープラーニングを活かして今度はデイトレーダー向けのトレーディングプラットフォーム「Capitalico」(キャピタリコ)を開発すべく、AlpacaDBは今日、総額100万ドルの資金調達をしたことを発表した。今回のラウンドで出資するのはイノベーティブ・ベンチャー・ファンドアーキタイプベンチャーズ、エンジェル投資家の木村新司氏、ビップシステムズだ。これまでにAlpacaDBはMOVIDA Japanから500万円のインキュベーション資金のほか、経産省の目利き事業による補助金や日本政策金融公庫の借入などで3000万円ほど資金を調達している。

さて、読者の99%くらいはデイトレーダーではないだろうから、このAlpacaDBのピボットに対して、「デイトレかッ!」というツッコミをしたくなる人が多いに違いない。ぼくはそうだった。

ただ、トレーディングにターゲットを絞ったのは、共同創業者を入れて7人いるメンバーで徹底して議論した末のことだという。

「6月から7月に社内で議論しました。これをやり続けるのならオレは辞めるというメンバーが出るほど議論をした。動画に技術を適用してカメラ監視に特化したらどうかという議論もあって、実際にリサーチも行った。ただ、それができたとしても嬉しくないし、いくらヒアリングしてもハラオチしなかったんです。でもトレーディングであれば、喜ぶ人がいるだろうと。少なくとも自分は嬉しい」

AlcapaDBは2015年7月から3カ月をかけてCapitalicoのMVPを作り、この10月初頭から少数の限定ユーザー向けにβ版を公開している。一般公開は2016年1月を予定している。ディープラーニングを使っているが、画像認識でCNN(Convolutional neural network)を使っていたのに対して、時系列データを扱いやすいRNN(Recurrent neural network)を使うように変更しているという。

横川CEOはもともと慶応大学卒業後に6年ほど大手投資銀行のリーマン・ブラザーズと野村證券にいて金融関連の仕事に就いていた。リーマン・ショック後に野村に移籍して2年ほど経った頃、家庭の事情で実家で仕事せざるを得ない状況となったことから退職。その後の3年間はフルタイムのデイトレーディングをやっていたという。デイトレーディングを生業とする人たちの中には、横川氏のように、ほかにできる仕事がないからという理由でやっている人もいるそうで、そういう人たちを助けたいという思いがあるそうだ。

Capitalicoは、ウェブ上でユーザーがプログラミングを一切必要とせずに自動取引アルゴリズムを生成できるプラットフォームだという。先物や為替取引のためのテクニカルのチャート分析を行うためのプラットフォームで、トレードの意思決定をするためのもの。

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機械学習で何をするかというと、これまでデイトレーダーがやっていた分析、例えば「バックテスト」と呼ばれるモデルの検証を助けること。チャート分析は、各種指標の時系列での動きを視覚化して、そこから法則性を導いて、これをアルゴリズムに落とすというような作業をする。何を指標として自分のダッシュボードにどう表示するかはトレーダーによって異なる。また、どういう時間軸で分析するかもトレーダー次第。

「チャートがこういう動きをしたときには、直後にはこういう値動きがあるのではないか」という仮説を立てて、これを過去のデータに当てはめて検証する。これがバックテストで、こうした解析はかつて簡単なプログラミングができる人たちだけが可能だったという。これをCapitalicoではノンプログラミングで行い、アルゴリズムが手元に溜まっていくようにしていくそうだ。以下は9月にNVIDIAが主催したGPU関連の技術カンファレンスのGTC JapanでAlpacaDBの林佑樹氏が行った説明のスライドだ。

 

「Capitalicoに似たテクニカル分析サービスとして、すでにQuantopianというのがあります。彼らはユーザーにPythonを書かせますが、ぼくたちはそこの部分が勝手にできるものを提供しています」

デイトレーディングは、ごくごく少数の人だけが儲けている上に、極めて投機的なギャンブルのようなもの。勝った、負けたは結果論でしかなく、常に大勝ちしている人がいるのはカジノと同じで単に確率の問題。上位1%とか2%の大金持ちにしたって運を実力だと思い込むギャンブラーと同じではないのか? ということを横川CEOに聞くと、次のような答えが返ってきた。

「デイトレで負けてる人はカンに頼っている人たち。ロジカルじゃないんです。ロジカルに分析して過去に遡って仮説を検証できるようにする。移動平均線のこういう位置関係にあったとき価格がこう動く、というアイデアがあるとき、それが本当なのか、確率はどのくらいなのか。これをノンプログラミングで分析するのがCapitalicoです」

どうして利益が出せるのかといえば、市場のプレイヤーにはいろいろな人がいて、異なる時間軸と思惑で値段を見て売り買いしているからだそうだ。例えば生命保険のALMをやってる人は為替から儲けようということは考えていなくて、ポートフォリオのバランスを取ってるだけ。だから決まった日に銀行に振り込むだけだし、1年単位で数字を見ている。デイトレーダーは1日単位、あるいはもっと短い5分単位のようなチャートを見て稼ぎを取りに行くことができる。

正直ぼくにはデイトレーディングにどういう本質的価値があるのか、そしてそれがどこまで大きくなるのか分からない。横川CEOは「特定のプロフェッショナルをサポートして彼らの業務を自動化していくサービスは経済的に意味がある」としていて、「みんなが特定の価値だけに縛られない生き方ができる世界を目指していて、人類によるお金への依存性が現状よりも少しでも減るような社会が実現されることで僕たちが思い描く世界に近づけるはず」と話している。

金融インフラをブロックチェーンで代替してコストを10分の1に、日本から「mijin」が登場

ミッションクリティカルな金融機関システムを、Bitcoinなどの暗号通貨で使われる要素技術であるブロックチェーンで置き換える――。こういうと日本のIT業界に身をおいてる人の反応は2つに割れるのではないだろうか。「何を寝言みたいなことを言ってるのだ?」という反応と、「それはとても理にかなってるね」という反応だ。

ダウンタイムの許されない高可用性や、データ損失のない信頼性が要求されるITシステムというのはハードもソフトも「枯れた技術」を使うのが定石。まだ実用性や有用性が証明されていないBitcoinの技術を使うなどというのは、世迷い事っぽくも聞こえる。ただ、Bitcoinという仕組みを実現するベースになっているブロックチェーンそのものは、可用性と堅牢性の高いP2Pネットワークとして様々な応用が期待されている技術だ。

ブロックチェーンは複数のサーバが参加するP2Pネットワークであるということから、中央管理サーバのない、いわゆる冗長構成となっているほか、原理上データの改ざんがきわめて難しいという特徴がある。

このことから、例えばシティバンクは独自のデジタル通貨プラットフォーム「CitiCoin」を実験中だし、Nasdaqはブロックチェーン技術を提供するChainと提携して未公開株式市場で同社技術を使うと発表している。ほかにもUBSが「スマート債権」を実験中だったりと、アメリカの金融大手が新技術の取り込みに向けて動き始めている。9月15日にはゴールドマン・サックスやバークレイズを含む9つの大手銀行がブロックチェーンで提携すると発表している

金融関連ベンチャー投資支援をしているAnthemisグループは「The Fintech 2.0」という分析レポートのなかで、ブロックチェーンによって銀行のインフラコストを2022年までに150〜200億ドル削減できるのではないかとしている。

面白いのは、最近アメリカの金融関係者らがBitcoinというネガティブなイメージのつきまとう言葉を避けて「ブロックチェーン」という言葉を使うようになっていることだ。Bitcoin関連のポッドキャストやコンサル、講演で知られるアンドレア・アントノポラス氏の言葉を借りて言えば、Bitcoinというのはインターネットにおける電子メールのようなもの(ちょっと長めの動画インタビュー)。1995年ごろにWebブラウザが爆発的普及を始めるまでは、インターネットとはメールのことだった。しかしTCP/IPを使った最初に成功したアプリがメールだっただけで、実際にはインターネットはもっと多様なサービスを生み出す革新的なイネーブラーだった。同様に、Bitcoin発案者とされる中本哲史の本当の発明はブロックチェーンのほうで、Bitcoinのような暗号通貨は、その1つの応用にすぎないという。

ちなみにシリコンバレーの著名投資家マーク・アンドリーセンは2014年初頭の時点でBitcoinの登場のインパクトを、1975年のパーソナル・コンピューター、1993年のインターネットの登場になぞらえている。アンドリーセンは、Bitcoinの本質的な価値は、ビザンチン将軍問題というコンピューター・サイエンスの研究者たちが取り組んできた課題におけるブレークスルーであることが根底にあると強調している。互いに無関係の参加者が、信頼性のないインターネットのようなネットワーク上で、どうやって合意形成を達成するのかという問題だ。

自社内、またはパートナー間のみ利用可能なブロックチェーン「mijin」(ミジン)

さて、アメリカでブロックチェーン技術利用へ向けて金融大手が動き出している中、日本発のBitcoin関連スタートアップであるテックビューロが今日、自社内、またはパートナー間のみ利用可能なブロックチェーン「mijin」(ミジン)を発表した。Bitcoinはオープンでパブリックなブロックチェーンで運用されているが、mijinは、そのプライベートネットワーク版といった位置付けだ。

mijinは現在クローズドβのテストフェーズにあり、2016年初頭から提携企業への提供を開始する。また2016年春には有償の商用ライセンスのほか、オープンソースライセンスのもとソースコードの一般公開を予定している。mijinは、地理的に分散したノード間で2015年末までに秒間25トランザクションの処理能力を提供し、2016年末までに秒間100トランザクションを実現するのが目標だという。プライベートな同一ネットワーク内では秒間数千トランザクション以上での高速動作も実現するとしている。mijinを提供するテックビューロは日本発のスタートアップ企業だが、顧客の大半が欧米顧客になると見ていて、そのことから「忍者」的なキャラをあえて選んだのだそうだ。mijinというのは忍者が使った武器の一種なんだとか。

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テックビューロ創業者で代表の朝山貴生氏は、mijinで構築したブロックチェーンで既存のデータベースを置き換えることで、企業のポイントサービスや決済サービス、オンラインゲーム、航空会社マイレージ、ロジスティックス、保険、金融機関、政府機関などの大規模で高度なシステム基盤にまで幅広く利用できると話す。銀行系のシステムだと初期構築とハードウェア費用で数億円、運用フェーズでも月額数千万円ということがある一方、mijinでクラウド上に数十台のインスタンスを立ち上げることで、初期費用ゼロ、月額数十万円の運用が可能となるだろうという。

このコスト削減の背景には、システムの堅牢性や冗長化といった技術的な部分がなくなることに加えて、不正防止対策や運用マニュアルの整備など運用コストの削減効果もある。テックビューロのリーガルアドバイザーである森・濱田松本法律事務所の増島雅和弁護士はプレスリリースの中で、「ビットコインプロトコルに依存しないプライベートブロックチェーンというユニークな立ち位置でローンチされるmijinが金融・商流・ガバナンスをどのように変えていくのか、大変興味深い」と語っている。

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ブロックチェーン技術を使ったスタートアップ(またはプロジェクト)には、BlockstackSETLBankchainHYPERLEDGERMultiChainEthereumFactomStorjなどがある。金融向け、汎用ビジネス向けなどいろいろあって、すでに走りだしている。ただ、オープンソースで非アプリケーションのプラットホーム指向というmijinのモデルはユニークで、今からでもポジションを確保できるのではないかと朝山氏は話している。

テックビューロは国内でBitcoinを含む暗号通貨の取引所「Zaif Exchange」を運営していて、2015年3月に日本テクノロジーベンチャーパートナーズから1億円を資金調達している。

Bitcoinやブロックチェーンがどういう技術なのかという解説は、朝山氏によるTechCrunch Japanへの寄稿も参考にしてほしい。

住宅ローン借り換えアプリ「モゲチェック」のMFSがマネックスなどから9000万円の資金調達

日本初の住宅ローン借り換えアプリとして6月に紹介した「モゲチェック」を提供するFintechスタートアップのMFSが、マネックスベンチャーズ電通デジタル・ホールディングス電通国際情報サービス(ISID)の3社から総額で約9000万円の資金を調達したとTechCrunch Japanに明らかにした。Fintechの、それもかなり特化型のアプリだから当然とも言えるかもしれないけど、いわゆる純粋なVCからの調達ではなく、事業会社とそのVCからの資金調達である点が興味深い。資金調達の発表と同時にMFSは、取締役COOとして元ボストン・コンサルティング・グループの塩澤崇氏を迎え入れたと発表している。塩澤氏はモルガン・スタンレー証券で住宅ローン証券化ビジネスに参画した後にボストン・コンサルティングへ移籍した経歴がある。

モゲチェックは返済中の住宅ローンを、条件の有利な他行のものへと変えることで数百万円程度、ローン支払い総額を減額できる消費者向けアプリ。借り入れの年月、当初借入額、金利タイプなど7項目を入力するだけで、全国120行1000本以上の住宅ローンをランキングして、どこの銀行に借り換えるといくら安くなるかが一目で分かる。

Androidベータ版を6月にリリースして以来1カ月半ほどの間に実際にモゲチェックを利用したユーザーのうち変動金利ローンのユーザー638人を対象に分析したところ、100万円以上の借り換えメリットがあるのは318件と約半数にのぼることが分かったという。

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国土交通省のデータによれば、支払いを残す住宅ローンは現在市場で1200万件ある。このことからMFSでは600万件ほどの「借り換えメリットあり」のターゲットユーザーがいて、単純計算で600万件x100万円=6兆円の市場があるとそろばんを弾く。

8月4日にはiOS版のリリースと同時に正式版をローンチ。現在ダウンロード数は約4000件となっているという。ベータ版では住宅ローンの比較のみだったが、実際の借り換えのための銀行の申し込みにも対応し、現在、楽天銀行、ソニー銀行、住信SBIネット銀行、イオン銀行の4行と提携していて、モゲチェック利用者はランキングから、いちばん有利な銀行を選ぶことができる。

ちなみにモゲチェックの提携行にネット銀行が多いのは当たり前で、店頭に来店するタイプのメガバンク系は、モゲチェックで上位に出てくることは少なく、ケータイのMNPで言えば転出超過になることが見込まれるグループに属するからだ。MFS代表の中山田氏によれば、提携を模索してメガバンクにも話を持ち込んでいるものの反応はにぶめ、なのだとか。

ところでリアルなターゲットユーザーとなりそうな読者は気付いたかと思うけど、実際の借り換えは実に面倒だ。モゲチェックだけで借り換えが完結することはなく、実際には銀行のサイトや店舗へ行って自分で申し込むことになる。このときネット銀行だと入力項目は100項目くらいあるので、電車の中で気軽に入れるというわけにはいかない。住民票だ、源泉徴収票だ、と必要書類を揃えるのも手間だ。ネット銀行の場合、書類不備で送返された申込書が、そのまま再度申し込まれることなく放置されるという「離脱」も結構あるのではないか、とMFSでは考えているそうで、この辺の手間や面倒さを総合的に軽減できる方策もMFSで検討しているそうだ。

現在は歴史的な超低金利で借り換えメリットが大きい人が多いだろう。一方で、いまいまの状況としては物価や金利上昇の気配も見えてきている。家計に占める出費の比率として住宅ローンは大きいので、早めにモゲチェックでチェックしてみてはどうだろうか。

(情報開示:TechCrunch Japan西村とMFS代表の中山田氏は子を介した数年来の友人)

数百万円の支払い節約もザラ、「モゲチェック」は日本初の住宅ローン借り換えアプリ

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アマゾンで中古書籍を購入するとき、300円か400円で迷うことがある。どの店から買うべきか比較していると1分くらいはかかる。比較すべきは書籍の状態や納期、これまでの書店に対する評価などだ。

支出に慎重になるのは良いことだけど、何をどこで買うかという比較検討にかける時間は、経済合理性から言えば支払う金額に比例していていいはずだ。安いものはカンで選び、10万円、100万円、1000万円とかける時間を増やすべき。もし100円の違いに1分をかける価値があるのなら、100万円の違いを生む買い物なら10000分、つまり1カ月間フルタイムで働く時間くらいをかけても良いはずだ。

現在住宅ローンを抱えている人の多くは、慎重に選んで借り換えをすれば、今後の支払総額が数百万円くらい変わってくることを薄っすら知っていながら、何もしていないのではないだろうか? このところ歴史的な超低金利ということを知りながら、住宅ローンは計算も事務手続きも面倒だからと、つい後回し。そんな人が多いようだ。

6月22日にAndroid版アプリがローンチした住宅ローン借り換えアプリ「モゲチェック」(iOS版は近日公開)は、まさにそういう人のためのローン比較アプリだ。ありそうでなかったこのアプリを使えば、全国120行1000本以上の住宅ローンをランキングして、どこの銀行に借り換えるといくら安くなるかが一目で分かる。

アプリを起動したら、まず現在利用している借り入れ金融機関名を入力する。続いて借り入れの年月、当初借入額、金利タイプを入れると、以下の画面のように借り換えメリット額一覧が表示される。ランキング表示をすれば、金利タイプ別(変動金利、5年固定、10年固定、全期間固定)に各行の住宅ローンが一覧されて、最も安い銀行が表示される。以下のサンプル画面では楽天銀行やイオン銀行などが上位に入っているが、これは店舗型に比べてネット型は販管費が安いぶん、ローンの条件も有利だからだ。

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変動金利を選ぶ場合、将来の金利をある程度予測して、その結果がどう総支払額に影響するのかシミュレーションする必要があるが、それができるのがモゲチェックの「アナリシス」という機能。例えば、いま金利が2%上がると仮定すると600万円の差が出るとか、中期的に4%ぐらい上がると考えるのであれば全期間固定でローンを組むのが有利ということが分かる。

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モゲチェックをリリースしたFinTechスタートアップ、MFS創業者の中山田明氏によれば、現在、住宅ローンを組んでいるのは全国約800万世帯と見積もられていて、そのうち借り換えで100万円以上安くできる「メリット潜在層」は400〜500万世帯あるという(情報開示:これを書いているTechCrunch Japan西村とMFS中山田氏は子を介した数年来の友人)。400万世帯で100万円の差額だとしたら、これは総額4兆円に相当する。「本当は借り換えには大きなメリットがあるのに、実際に借り換えをしている人は少ない。現状だと借り換える人たちは1年間で20万世帯ぐらいしかない。気付いてるけどめんどくさいんですよね。金利1.5%だから得するんだろうなとまでは考えるものの、アクションに繋がっていない」(中山田氏)

なぜ今までこのようなアプリがなかったのだろうか? 比較自体はネット上にそうしたサービスがあるのでは? という疑問が湧く。

photo03「確かにに住宅ローン比較サイトはありますが、これは人気ランキングといったよく分からない基準でランキングされたもので、それを使ってもどこの銀行に借換えすれば一番得するのかという答えは出ません。住宅ローンは事務手数料があったり、優遇幅が変更されたり、色々なパターンがあるので、それらを全て加味して比較するには総返済額で比較するしかありません。それを簡単な情報入力でやってくれるのがモゲチェックです」(中山田氏)。

住宅ローンというのは、ほかの一般的な借り入れとは性質が違っていて、期限前弁済にペナルティーが存在しない。貸した側からすれば、今後10年とかで払ってもらえるはずだった利息分なしに繰り上げて返済されると困るわけだが、住宅ローンは借り手が有利にできている。いつでもペナルティーなしに返済ができる「コール・オプション」が貸付条件に権利として付帯する。「これは歴史的にずっとそうなっていること。このオプションは権利なのに、多くの人が行使できていないのが現状」(中山田氏)なのだそうだ。

住宅ローンは比較がとてもむずかしい。通信キャリアの複雑怪奇な通信プランのマトリクスが可愛く見えるほど分かりづらい。例えば、全期間固定金利であれば、単純にWebサイトに掲載されている各行の金利を比較すれば済むように思える。しかし実際には「優遇幅」という割引率設定が銀行ごとに異なっているため、実質金利を計算するには優遇幅も勘案する必要がある。また、初期事務手数料がローンごとに大きく異なる上に、その料金も「29万円」のように絶対額だったり、借入額に対して0.76%と比率だったりと一定しない。さらに、変動金利と固定金利の折衷プランとして「固定特約」と呼ばれるタイプの住宅ローンを利用するのも一般的だが、変動→固定切替時の条件変化を勘案した複数行の比較シミュレーションとなると、さらにむずかしい。自分が検討すべき銀行数だけで言っても5〜10本はある住宅ローンについて、これらを比較検討するのは「プロの自分でもExcelでやりたくない作業」(中山田氏)なのだそう。だから全国120の銀行から毎月変わる住宅ローンの金利などの条件をサーバー上で最新状態にしつつ、アプリで一発比較できるようにするというのは、これまで誰もやっていなかったことなのだという。

中山田氏が何故そんなことをやるかといえば、それは氏が過去にSBIモーゲージと楽天モーゲージでCFOを務めた経歴がある住宅ローンの専門家で、借り手側の立場に立ったサービスがないことを解決したいと思ったからという。

銀行と借り手を繋ぐプラットフォームに

さて、モゲチェックは借り手側のメリットを打ち出しているが、ここに銀行側を引き込むことでマーケットプレイスのようなプラットフォームを作るというのがMFSの狙いだ。

ユーザーは名前など個人情報を入れる必要はないが、年収や就業形態を入力しておくことで、審査基準に合致する住宅ローンを持つ銀行からピンポイントでメッセージが届くようになる。ユーザーは明示的に「説明を受ける」というボタンを押して、時間端や曜日、電話番号を入れておくことで、詳しい説明の電話をもらうことができる。つまり、銀行はモゲチェック利用者に対してダイレクトマーケティングができる。

実際にモゲチェックを使ってMFSの提携銀行から借り換えを行うと、ユーザーは5000円のお祝い金を受け取る。そしてMFSには提携銀行からフィーが入る仕組みだ。

住宅ローンの借り換えは人それぞれ残高も金利も違うので、マーケティングメッセージが不特定多数向けとならざるを得なかったが、モゲチェックのように具体的な条件が比較できれば銀行側からダイレクトな提案が可能になる。こう書くと銀行側にメリットを与える構造に思う人もいるかもしれないが、モゲチェックが普及して利益を得ることになるのは、どちらかと言えば借り手側だ。有利な条件で借り換えができるし、もし借り換えメリットがないことが分かれば現在すでに効率的なローンを組んでるということで安心すればいい。情報の非対称性や事務処理の面倒さをベールにして、4兆円規模の本来不要な利息を銀行に払わされ続けていることに借り手側は気づくべきなのだ。

モゲチェックのサービスモデルは、1度借り換えの妥当性をチェックしたら、それで終わりなのかと思ったのだけど、金利変動による借り換え計画のための「モニター」としても機能する。毎月プッシュ通知で来るので、株の指値注文のように「張る」ことができる。例えば、100万円以上借換メリットが出るようになったら借り換えよう、という意思決定ができるのだ。また、今後、大幅に金利が上昇することがあれば、変動金利から固定金利に借り換えて金銭に余裕のある人が安心感のために「毎月の支払いが2、3万円上がってでも出血を止める」というようなシナリオもあり得て、その場合にもモゲチェックは有効なモニターツールになるだろうという。政府や日銀がいうようにインフレ率が2%となれば、金利が4、5%にならないと銀行に預金が集まらなくなる。すると、住宅ローンの金利をそれ以上に上げないと銀行は逆ざやになる。そういうシナリオを想定した金利ヘッジができていない住宅ローン利用者も多い、というのが中山田氏の見立てで、数百万円得をするというのと逆に、今後は「つらい局面での利用も出てくる」と見ているそうだ。

MFSは現在まで自己資金でシステム開発をしていて、金融系VCや事業会社と資金調達の話も進めている。会社帰りに利用しやすいターミナル駅に有人店舗を置くようなことも考えていて、手続きや銀行との交渉の肩代わりすることで多くの人に最適なローンへの借り換えを促すアイデアも検討しているそう。