著者紹介:Eric Peckham(エリック・ペックハム)氏はMonetizing Media(マネタイジング・メディア) のニュースレターおよびポッドキャストの制作者で、TechCrunchの元メディアコラムニスト。
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Unity Software Inc.(ユニティ・ソフトウェア、以下「ユニティ」)は、S-1上場申請書の提出を終え、ニューヨーク証券取引所に上場した。創業16年になるこのテック企業は、ゲーム業界では知らない者はいないほど有名だが、ゲーム業界以外ではほとんど知られていない。将来、インタラクティブな3Dメディアが、エンタテイメントや消費者向けアプリケーションだけでなく、オフィスや製造業ワークフローにまで広く利用される時代が来る。人類を待つそのような未来において基盤プラットフォームになることをもくろむユニティは、ゲーム業界を超えて業務拡大を図るべく、これまで数億ドル(約数百億円)の資金を注ぎ込んできた。
ユニティによるS-1上場申請書の提出に関する報道の大半は、同社の事業内容を正しく伝えていない。 ユニティは誤解されやすい会社だ。まず、(ゲーム)開発者を除くほとんどの人は、ゲームエンジンとは一体何なのかを知らない。また、ユニティには数多くの収益源があることもあまり知られていない。さらに、ユニティと、しばしば競合企業として比較されるEpic Games(エピック・ゲームズ)がビジネス面で競合している領域はごく一部にすぎない。
筆者は昨年、サンフランシスコとコペンハーゲンにいるユニティの経営陣20人以上にインタビューし、業界内の多数の専門家たちにも話を聞いて、同社の創設と現在の高い人気を獲得するまでの経緯を探る詳細な記事を書いた 。ユニティの最新の実態について紹介する2回シリーズの第1部となる本記事では、ユニティの事業内容、市場での地位、同社がR&Dの対象として重視している分野、そしてゲーム業界以外でも広く採用されているゲームエンジンが世界を席巻しつつある事実について説明してみたい。
第2部では 、ユニティの財務状況を分析するとともに、同社がS-1上場申請書で自社をどのように位置付けて高い評価を獲得したのかを説明し、株価が強気で推移した場合の見通しと、弱気で推移した場合の見通しの両方について考える。
ゲーム業界の住人でユニティをよく知っている人は、今回の同社のS-1上場申請を見て、驚いた点がいくつかあったと思う。Asset Store(アセット・ストア)は上場には程遠い小さな事業だったのでは、と思ったかもしれない。しかし、ユニティは実は、インディーゲーム開発者向けのセルフサービスプラットフォームというよりは、むしろエンタープライズソフトウェア企業といったほうが正しく、広告配信ソリューションが収益の大部分を占めている。
ゲームエンジンとは
ユニティはもともと、ゲームエンジン開発会社だ。ゲームエンジンとはいわば、ゲーム用のAdobe Photoshop(アドビ・フォトショップ)のようなもので、写真ではなく、ゲームの編集とインタラクティブ3Dコンテンツの作成に使用される。ユーザーはデジタルアセットを(大抵はAutodeskのMayaから)インポートし、各アセットの動作、キャラクター間の相互作用、物理特性、照明や、完全インタラクティブゲームを作成するためのその他さまざまな要素をガイドするロジックを追加する。クリエーターは、最終製品を、ユニティがサポートしている20のプラットフォーム(Apple iOS、Google Android、XboxとPlaystation、Oculus Quest、Microsoft HoloLensなど)のうち1つ以上にエクスポートできる。
この分野では、ユニティは、Electronic Arts(エレクトロニック・アーツ)やZynga(ジンガ)などのゲームスタジオやパブリッシャーよりも、むしろAdobe(アドビ)やAutodesk(オートデスク)に近いといえる。
ユニティの事業内容
2014年にJohn Riccitiello(ジョン・リッチティエッロ)氏が共同創業者のDavid Helgason(デイビット・ヘルガソン)氏からCEOの職を引き継いて以来、ユニティはゲームエンジン以外の領域にも業務を拡大し、制作ソリューション(コンテンツ制作用ツール)と運用ソリューション(コンテンツの管理および収益化ツール)の2部門からなる組織編成となった。
制作ソリューション部門(2020年上半期の収益の29%を占める)
Unityプラットフォーム: フリーミアムサブスクリプションモデルで運用されるコアゲームエンジン。個人、小規模チーム、学生は無償で利用できるが、有名ゲームスタジオや他業界の企業は有料(料金は、Unity Plus、Unity Pro、およびUnity Enterpriseプレミアムの各プランによって異なる)。
エンジン拡張機能: 特定の業界およびユースケース向けコアエンジンのツールや拡張機能のポートフォリオは増え続けている。例えば、VR開発用のMARS、BIMアセットと一緒に使用する建築/建設向けのReflect、CADデータインポート用のPixyz、映画バーチャルプロダクション用のCinemachine、アート自動生成用のArtEngineなどがある。
プロフェッショナルサービス: ユニティのエンジンやその他の製品を使用している企業ユーザー向けの、ハンズオンの専門コンサルティングサービス。ユニティは4月にFinger Food Studios(フィンガー・フード・スタジオ)を5500万ドル(約57億5000万円)で買収してコンサルティング業務の拡張を図っている。バンクーバーに拠点を置く社員数200人のフィンガー・フード・スタジオは、Unityを使う企業クライアント向けのインタラクティブメディアプロジェクトを構築している。
上記の3つの製品カテゴリの他に、ユニティは、S-1で別のコンテンツ制作サービス一式を「Strategic Partnerships & Other(戦略的パートナーシップなど)」として報告している(収益の9%を占める)。
戦略的パートナーシップ: 大手テック企業は、自社のソフトウェアおよびハードウェアとUnityを統合させ、その状態を維持するために、各種料金体系(定額、収益共有、ロイヤルティ)に従ってユニティに料金を支払っている。Unityは最も人気のあるゲーム構築プラットフォームであるため、例えば、Facebook(フェイスブック)やGoogle(グーグル)にとっては、それぞれOculus(オキュラス)やPlay Store(プレイストア)がUnity互換であることが極めて重要となる。
Unityアセットストア: アーティストや開発者が、自分のコンテンツで使う、不気味な森などのデジタルアセットや、キャラクターの関節の動きをガイドする物理特性マテリアルなどを売買するユニティのマーケットプレイス。これにより、すべての要素をゼロから設計およびコーディングせずに済む。広く利用されているが、大手のゲームスタジオは、アセットストアのアセットをゲームのアイデアのプロトタイピング目的にのみ使用することが多い。
運用ソリューション部門(2020年上半期の収益の62%を占める)
広告: 2014年のApplifier(アプリファイアー)の買収により、ユニティは、モバイルゲーム用のゲーム内広告ネットワークを立ち上げた。このネットワークは、ユニファイド・オークション(ゲームが潜在的な広告主の中から最高入札額を獲得できるようにする売買同時入札オークション)により著しい発展を遂げた。ユニティは現在、世界最大のモバイル広告ネットワークの1つであり、月あたり230億件の広告を配信している。また、ユニティは、広告を出す、アプリ内課金を促す、何もせずに各プレーヤーの生涯価値を最大化する、といった方法の中から最適なものをリアルタイムで査定できる動的な収益化ツールも持っている。開発者はUnity IAP機能を使用してアプリ内課金(IAP)を管理できる。しかし、現時点でユニティはIAP収益の一部を徴収することはしていない。
ライブサービス: ゲーム開発者が、ユーザーの獲得、プレーヤーのマッチメイキング、サーバーホスティング、バグの特定などを容易に管理および最適化できるようにするためのクラウドベースソリューションのポートフォリオ。このポートフォリオは主に、Multiplay(クラウドゲームサーバーのホスティングとマッチメイキング)、Vivox(ゲームのプレーヤー同士の音声およびテキストチャットを行うためのクラウドホステッドシステム)、deltaDNA(キャンペーンプレーヤーをセグメント化してエンゲージメント、収益化、リテンションを向上)といった企業を買収することで拡充されてきた。また、AIモデルをトレーニングしてリアルワールドをバーチャルで再生する(またはゲームにバグがないかテストする)Unity Simulateも用意されている。ライブサービス製品は、従量課金制で、契約後一定の使用量に達するまでは無料で利用できる。
Unityと、Unrealなど他ゲームエンジンとの比較
ユニティは、もう1つの主流ゲームエンジンUnreal(アンリアル)の開発元であるエピック・ゲームズとよく比較される。以下に、この2社を特徴づける製品とサービスの概要を示す。ゲームエンジンの切り替えには大きなコストが伴う。というのは、開発者は通常、特定のエンジンに特化して使い続けるため、エンジンを切り替えて習熟するのに数か月はかかる可能性があるからだ。ただし、プロジェクトによって使うエンジンを変更する開発チームもある。既存のゲーム(または他のプロジェクト)を新しいゲームエンジンに移行するのは、広範なリビルドを必要とする大変な作業になる。
エピック・ゲームズ
エピック・ゲームズは、ゲーム開発、Epic Gamesストア、Unreal Engineの3つの主要事業を展開している。エピックゲームズの中核事業は自社ゲームの開発であり、2019年の同社の収益42億ドル(約4400億円)の大半は自社ゲーム(主にFortnite(フォートナイト))の販売によるものだ。Epic Gamesストアは一般ゲーマーがゲームを購入およびダウンロードできる消費者向けマーケットプレイスである。エピック・ゲームズは、Epic Gamesストアでの売上の12.5%をゲーム開発者から手数料として徴収する。
この2つの事業分野で、ユニティとエピック・ゲームズは競合していない。ユニティのIPOに関する報道の大半は、現在繰り広げられているエピック・ゲームズとApple(アップル)間の激しい争いがユニティに絶好の機会を与えたという切り口になっているが、これは見当違いだ。裁判所命令では、アップルが徴収しているフォートナイトのアプリ内課金の30%に相当する手数料を回避しようと試みたエピック・ゲームズに対する報復措置として、Unrealエンジンで開発されたiOSアプリをアップルがApp Storeから排除した行為に対し、排除の差し止めが言い渡された。しかし、ユニティは自社のアプリをApp Storeには一切登録しておらず、ゲーム用の消費者向けストアも持っていない。ユニティのゲームエンジンはiOS用またはAndroid用ゲームの開発者にとってすでにデフォルトの選択肢となっており、彼らにとって既存のゲームのエンジンを切り替えるのは現実的ではない。そのため、エピック・ゲームズがアップルと係争中だからといって、それがユニティにとって新しい市場参入機会となることはないのである。
ここで、UnityとUnrealのエンジンを比較してみよう。
誕生: Unrealは、1998年リリースのゲームUnreal用にエピック・ゲームズが開発した独自エンジンで、他のPCやコンソールスタジオにライセンス供与され人気が高まったことから、エピック社はゲームエンジンを自社の事業として展開することになった。Unityは、当時ゲーム不足のニッチ市場だったMacのゲームを構築するインディー開発者向けのエンジンとして登場し、コアゲーム業界では場違いと思われるような新興市場分野(小規模インディーゲームスタジオ、モバイル開発者、AR/VRゲームなど)に事業を拡大していった。
プログラミング言語: UnrealエンジンはC++プログラミング言語を基本としている。Unity(C#プログラミング言語が必須)に比べて広範なプログラミングが必要となるが、より自由なカスタマイズが可能で、その結果、高パフォーマンスを実現できる。
主要市場: Unrealエンジンは、PCおよびコンソールゲームの開発者たちの間で高い人気を誇っている。基本的には、プロフェッショナルによる大規模な高パフォーマンスプロジェクト志向のゲームエンジンだ。とはいえ、最近は、ARおよびVRの分野でも確固とした地位を築いており、フォートナイトの成功で、コンソール・PC対応ゲームをモバイル端末にも移植できることを証明した。Unityエンジンは、今やゲーム業界最大(かつ最速で成長している)セグメントであるモバイルゲーム市場を席巻している。モバイル市場におけるUnityのシェアは50%を超えており、この市場においてUnrealは一般的な代替エンジンにはなっていない。Unityは、ARおよびVRコンテンツでも60%を超える最大の市場シェアを維持している。
オーサリングの容易さ: どちらのエンジンもまったくの初心者にとっては簡単ではないが、基本的なコーディング能力があり、時間をとっていろいろと試し、チュートリアルも観た人であれば操作はかなり分かりやすい。Unityエンジンは、多額の予算を持つ大手スタジオに過度に集中してしまったゲーム開発を民主化するというミッションのもと、リリース当初から使いやすさを優先しており、オーサリングの容易さを引き続き研究開発の主要テーマに据えている。Unityエンジンが教育環境や、気楽なモバイルゲームを開発している個人または少人数のチームで広く採用されているのもそのせいだ。Unityエンジンでは、エンジンのソースコードを見ることはできるが、編集はできない(編集するにはエンタープライズ向けサブスクリプション料金を支払う必要がある)。おかげで開発者が重大なミスを犯すことはないが、その分、カスタマイズが制限される。Unrealエンジンは、Unityエンジンに比べて劇的に複雑というわけではないが、全体的にUnityよりも多くのコーディングと技術スキルが必要とされる。Unrealエンジンのコードはオープンソースなのでカスタマイズに制限はない。UnrealにはビジュアルなスクリプティングツールBlueprintが備わっているため、一部の開発作業がコードなしで行える。このツールは、複雑で高パフォーマンスなゲームを開発するためのノーコードソリューションではないものの(そのようなソリューションは存在しない)、デザイナーたちに高く評価されており、広く利用されている。ユニティも最近、無料の独自ビジュアルスクリプティングソリューションBoltをリリースした。
料金体系: Unityはフリーミアムサブスクリプションモデルで運用されており、他の製品ポートフォリオも持っているが、Unrealは、ゲームの売上の5%を徴収する収益共有方式で運営されている。両社ともゲーム業界以外の企業との料金設定については別途交渉としており、その内容については公開していない。
独自エンジン
大手ゲーム会社、とりわけPCおよびコンソール対応のゲームを開発している会社は、依然として独自の自社開発ゲームエンジンを使用していることが多い。しかし、独自エンジンを維持するのは大規模かつ継続的な投資となるため、こうした大手ゲーム会社の多くがUnrealまたはUnityのエンジンに切り替えて、より多くのリソースをコンテンツ作成に振り向け、各エンジンに習熟している大規模な人材プールを活用しようとしている。
その他のエンジン
他にも注目すべきゲームエンジンとして、Cocos2D(Chukong Technologies(チューコン・テクノロジー)が開発したオープンソースフレームワークで、中国、日本、韓国のモバイル開発者に強く支持されている)、Crytek(クライテック)のCryEngine(高い視覚的精度を備えた一人称シューティングゲームで人気)、Amazon(アマゾン)のLumberyard(ランバーヤード、CryEngineのソースから構築されたエンジンで、あまり広くは使用されておらず、筆者が話を聞いた開発者や経営幹部からはあまり高く評価されていない)などがある。
YoYo Games(ヨーヨー・ゲームズ)のGameMaker StudioやScirra(シッラ)のConstructはどちらも、プログラミングスキルのないアマチュアのゲーム開発者が簡単な2Dゲームを構築するのによく使用しているエンジンだ(Constructは特に、HTML5ゲームに使用されることが多い)。これらのエンジンのユーザーは、スキルが向上するとUnityまたはUnrealエンジンに乗り換えることが多い。
市場にはニッチなゲームエンジンが今でも多数存在している。各スタジオでそうしたエンジンが必要とされているからだ。また、自社のゲームが商業的に成功しなかった場合や、同じようなゲームを開発しているスタジオが存在するニッチ市場で適切なエンジンが不足している場合には、自社開発のエンジンをライセンス供与することがよくある。とはいえ、業界標準となっているUnityとUnrealという堅牢なエンジンと競合するのは極めて厳しく、ニッチなエンジンを使用する開発者を探し出すのも難しくなっている。
UGCプラットフォーム
例えばRoblox(あるいはManticoreのCoreやフェイスブックのHorizonなどの新規参入組)等、ゲームを制作およびプレイするためのユーザー生成コンテンツ(UGC)プラットフォームは、少なくともしばらくの間はUnityと競合しない。というのは、こうしたプラットフォームは閉じられたエコシステム内でゲームを作成するために極度に単純化されたプラットフォームであり、収益化の機会も本当に限られているからだ。UnityからこうしたUGCプラットフォームに移行するゲーム開発者たちがいるとすれば、それはUnityの無料枠を使用しているゲームマニアくらいだろう。
筆者は、UGCベースのゲームプラットフォームは、次のソーシャルメディアパラダイムの中心として、ゲーム中心型の仮想世界の中にしっかりと根を下ろすだろうという内容の記事をいろいろなところで書いてきた 。しかし、ゲーム世界全体の成長とゲームの多様性を考えると、こうしたUGCプラットフォームは、ユニティのエンジンや広告ネットワークまたはクラウド製品を使っている従来型のスタジオの強力なライバルとなることなく、高い人気を維持できるだろう。
ユニティの技術革新における重要プロジェクト
DOTS
この3年間、ユニティは「データ指向テクノロジースタック(DOTS)」の開発を進めており、エンジンを構成する各モジュールを徐々にDOTS対応に変更している。
UnityのエンジンはC#言語で書かれたコードを中心に構成されている。C#は、C++よりも記述の抽象度が少し高いプログラミング言語であるため、学習も容易で時間の節約になる。ただ、このシンプルさには、メモリーを直接操作できないため命令をカスタマイズする自由度が低いという犠牲が伴う。一方、Unrealエンジンの標準であるC++言語は、自由にカスタマイズして高いパフォーマンスを実現できるが、その分、コーディング量もかなり多くなり、技術的なスキルも必要となる。
DOTSはこうしたトレードオフを解消するだけでなく、パフォーマンスの大幅な向上も実現しようとする取り組みだ。今日使用されている人気の高いプログラミング言語の多くは、「オブジェクト指向」言語である。オブジェクト指向のパラダイムでは、モノの特性をグループ化する。例えば、「人間」というタイプのモノには体重と身長が関連付けられるという具合だ。このほうが、人間が問題を考えて解く方法としては簡単だ。Unityは、C#のコードに注釈を付けられる機能を活用して、オブジェクト指向のコードを「データ指向」のコード(コンピューターの動作方法に合わせて最適化されたコード。上記の例でいえば、すべての身長とすべての体重をそれぞれまとめて扱うといった具合)に再コンパイルする方法を理解するための独自のブレイクスルーを達成したという。これにより、低レベル言語が1と0で構成された命令をCPUに伝えるリクエストの処理速度が桁違いに向上する。
これだけ効率が上がると、最先端のグラフィックを使ったかなり複雑なゲームやシミュレーションをGPU対応デバイスで高速実行できる。その一方で、もっとシンプルなゲームではファイルサイズを非常に小さくできるため、廉価モデルのスマートフォン、あるいはスマート冷蔵庫の液晶画面で動作するメッセンジャーアプリ内でも実行できるようになる。
UnityはDOTSをエンジンの各コンポーネントに順次組み込んでいるため、ユーザーはプロジェクトの各コンポーネントでDOTSを使用するかどうかを選択できる。同社のMegacityデモ(下の動画)では、すべての高層アパートのビルに備え付けられたエアコン室外機の回転するファンから、プレーヤーの動きに反応する空飛ぶ車まで、何万というアセットで構成されるSF都市が、DOTSによるリアルタイム・レンダリングで生成されている。
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グラフィック
最前線のグラフィックテクノロジーとしては、ゲームやその他のインタラクティブコンテンツを、高速レンダリングで現実と見まがうほどリアルに描画するレイトレーシング(さまざまな表面に光が反射する実際の動作を模倣した照明効果)がある。こうした超リアルな描画はコンテキストによっては今でも実現可能だが、それには極めて高いCPU処理能力が必要となる。このような高度なグラフィック機能の用途として最初に浮かぶのは、映画など、リアルタイムでは描画されないコンテンツだ。以下は、UnityとUnrealそれぞれのレイトレーシング機能を使って作成されたBMWのデモビデオだ。デジタルバージョンだが、実際の車を撮影した動画とほとんど見分けがつかない。
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レイトレーシングやその他の最先端のグラフィック機能を実現するため、ユニティは、2018年にHigh Definition Render Pipeline(HDレンダーパイプライン)をリリースした。これにより、GPUデバイス向けのより強力なグラフィックレンダリングが可能となり、コンソールやPCゲームおよび産業シミュレーションなど、ゲーム以外の用途でも高いビジュアルフィデリティを実現できる。(一方、同社のUniversal Render Pipeline(ユニバーサルレンダーパイプライン)は、モバイル端末などのローエンドハードウェア向けコンテンツを最適化する)。
次世代オーサリング
ユニティの研究開発チームは、ARまたはVRのヘッドセットが普及している現状を踏まえ、次世代のオーサリングツールに注力している。それを支えているのが「非技術系のユーザーでもユニティのツールのみを使い、ハンドジェスチャーや音声コマンドで3Dコンテンツを開発できるようになる未来を実現する」という同社のビジョンだ。ユニティは2016年に、このプロジェクトの初期コンセプトを示す動画を公開している(これは筆者が昨年、サンフランシスコのユニティ本社で見たデモ動画に似ている)。
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ゲームエンジンが世界を席巻する
UnityとUnrealの両エンジンはすでにゲーム以外の領域でも使用されているため、「ゲームエンジン」という用語自体、広く利用されている現状を正しく表す言葉ではない。両社のエンジンはインタラクティブな3Dエンジンであり、事実上、想像できるあらゆるタイプのデジタルコンテンツに使われている。コアエンジンの用途は、映画のバーチャルプロダクション、自律走行車のトレーニングシミュレーション、自動車販売サイトでの車両のコンフィグレーター、インタラクティブなビルレンダリングなど多岐にわたる。
UnityとUnrealのエンジンは長い間、ゲーム以外の領域でさまざまな用途に利用されてきた。両社はこの5年間、自社のエンジンの用途を他業種に拡大することを最優先課題として事業を展開している。主なターゲットは、(1)建築、エンジニアリング、工事関連、(2)自動車および重工業、(3)映画業界の中企業および大企業だ。
映画やテレビコマーシャルの分野では、ゲームエンジンがバーチャルプロダクションに利用されている。アニメーションやリアルワールドのスキャンなどが(ビデオゲームと同じように)バーチャル環境としてセットアップされ、そこでは、仮想キャラクターとカメラビューを即座に変更できる。人間の俳優はバーチャル環境を背景に撮影され画面に映し出される。ディレクターとVFX制作チームは、最高のシーンが撮れるまで背景や時刻をリアルタイムで自由に変更できる。
Unityエンジンの商業利用は広範囲に及ぶ。CAD、BIM、その他の形式でアセットをインポートできる上、世界全体を構築しリアルタイムで変更をシミュレートできるからだ。エンタテイメント分野以外の主な利用分野として次の4つがある。
デザインとプランニング:自社製品のインタラクティブ3Dモデルを世界中のオフィスから同時に(VR、AR、または画面で)操作し、材質、価格設定などの各コンポーネントにメタデータを添付できる。香港国際空港では、Unityエンジンを使用して、IoTデータに接続された各ターミナルのデジタルツインを作成し、乗客の移動やメンテナンス関連の問題などをリアルタイムで各ターミナルに通知できるようにしている。
トレーニング、セールス、マーケティング:インタラクティブ3Dコンテンツを使用して、スタッフや顧客が以下を実行できるようにする。(a)工業製品の写真のようにリアルなレンダリング、(b)危険の多い製造現場に備えるためのVRトレーニング、(c)カスタムのデザインをリアルタイムで実行できるオンラインの自動車コンフィグレーター、(d)プロジェクト内のすべてのアセットにメタデータを設定し、操作に反応したり、ライトを変更したりできる、新しいオフィススペースの設計プラン。
シミュレーション:リアルワールド環境をバーチャルで再現して(サンフランシスコの自律走行車の例など)、機械学習アルゴリズム用のトレーニングデータを生成し、各バッチで何千というインスタンスを実行する。グーグル傘下のDeepMind(ディープマインド)もUnity Simulationの顧客だ。また、ユニティとLGは、自律走行車向けのシミュレーションモジュールの開発で提携している。
マンマシンインターフェイス(インタラクティブ画面):車載情報システム用のインタラクティブディスプレイやAR用ヘッドアップディスプレイ を制作。2018年にユニティが電気自動車スタートアップBytonとコラボレーションを実施した際に紹介された 。
ゲーム業界を越えて事業を拡大するユニティの野心は最終的に、日常生活のあらゆる場面に関連してくる。フェイスブックのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)CEOは、2015年にユニティ買収の意向を示した内部メモ で、「VRとARは、モバイル後の次世代の主要コンピューティングプラットフォームとなるだろう」と書いている。Unityは現在、VR/ARコンテンツの開発と各種オペレーティングシステムおよびデバイスへの配信の主要プラットフォームとして確固たる地位を築いている。ザッカーバーグ氏は、Unityを「アバター/コンテンツのマーケットプレイスおよびアプリ配信ストア」などのミックスドリアリティ(複合現実)エコシステムで「重要プラットフォームサービス」を構築するための自然なプラットフォームと考えていたようだ。
ミックスドリアリティがメインのデジタル媒体となる時代へと向かう中、Unityがあらゆるミックスドリアリティアプリケーションを構築するための主要プラットフォームとしての地位を保ち続けるなら、ユニティは世界で最も重要なテック企業の1つとして注目を浴びることになる。業種を越えてあらゆる企業がアプリケーション構築の際に同社のエンジンの利用を検討するだろう。そうなれば、TAM(獲得可能な最大の市場規模)と収益化の潜在的能力は現在よりもはるかに高くなる。その利用範囲は、ザッカーバーグ氏の言うとおり、各種アプリに共通する消費者向け機能(認証、アプリ配信、決済など)にまで拡大する可能性がある。現に、その広告製品は利用範囲が拡張され、Unityで構築されたアプリ内のAR広告にまで利用されるようになっている。これが定着すれば、ユニティはAR時代で最大の広告ネットワークとなるだろう。
しかし、こうした壮大な構想の実現にはいくつもの課題をクリアする必要がある。第一に、ゲーム業界を越えた同社の事業拡大は、十分なトラクション(推進力を得るために十分な数の顧客数)を獲得するにはまだ時期尚早であり、顧客は一般にコンサルティングによる十分なサポートを必要とする。過去数年のユニティ関連の記事を読めば分かるが、取り上げられているゲーム業界以外の使用事例はどの記事でもほとんど同じであることに気づくだろう。つまり、大企業での導入事例はまだまだ少ないということだ。ユニティの知名度はまだ低く、そのエンジンでできることの市場での認知度を高めようとしている段階だ。同社の価値の将来性を示す証拠はいくらでもあるが、市場への浸透度はまだ不足している。
第ニに、「モバイル後の次世代の主要コンピューティングプラットフォーム」としてのAR時代の到来は優に10年は先の話だ。その間、既存の、そしてこれから出現するテック大手企業が、AR技術のさまざまな側面、オーサリング、サービススタックなどでその地位を高めてくるだろう。アップル、フェイスブック、グーグル、マイクロソフトは今でこそユニティと協力関係にあるが、いずれARにフォーカスした自社製エンジンでユニティと競合関係になる可能性がある(これら大手4社のいずれかがユニティ買収の動きに出れば、4社間でのユニティの中立的地位が失われることになるため、他社もほぼ間違いなく買収に名乗りを上げるだろう)。
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カテゴリー:ゲーム / eSports
タグ:Unity ゲームエンジン
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(翻訳:Dragonfly)