多くのベンチャーキャピタル企業(VC)にとって、エグジット、すなわち現金化によって投資を回収して次に進むことは、その投資案件の終わりを意味する。しかし、知っての通り、スタートアップの世界は進化している。つまり、投資によってもたらされるインパクトを左右する要素は今や投資金額の大小だけではないということだ。
VC企業は、投資家として、各投資案件が人類にとって何を意味するのか、VCの使命と資本をどう連携させていくか、という点について掘り下げて考えている。長期に及ぶインパクトにつながる強力な機運を生み出すきっかけの1つは、ポートフォリオ企業のエグジット成功だ。しかし、そのエグジットの効果が最大限に生かされていない。
エグジットは、適切に活用すれば、本当の意味で影響力を持つ企業を誕生させることにつながる。すべての創業者に平等にチャンスを与えて優れたアイデアに力を与えようとする場合はなおさらだ。米国以外の国々で生まれた製品が世界を席巻し、国際的な取引が当たり前になっている今、投資業界は「アメリカファースト」のアプローチからゆっくりと離れつつある。
投資家は、非常に高いポテンシャルを持つ企業が、その所在地に左右されずに、世界中で重宝されるような製品を生み出すことを可能にする原動力になる。そのような企業の手法には、業界を刷新し、海外の創業者でも国内の創業者と同じチャンスを与えられる場所へと変える力がある。
我々は、資本を使ってその手法を実践する基本的な方法ならすでに知っている。まず必要なのは、レプリゼンテーションが低い創業者に投資することだ。しかし、この記事では、多様性に富んだ創業者が戦える場を整える点でエグジットが持つ力について語りたいと思う。そのためには、他の起業家の事業が高額で買収されるのを見ることから生まれる心理的なモチベーションや、エグジットを終えたスタートアップのチームが次に取り組むこと、また、一市民の功績が一国家の評判にどれほどの影響を及ぼすのかという点について検討する必要がある。
2020年、ベンチャー投資を受けた41の企業が10億ドル(約1100億円)規模のエグジットを達成し、そのエグジット総額は1000億ドル(約11兆円)を超えた。これは10年ぶりの最高記録だ。VC企業は今、そのようなエグジットに関してかつてないほどの影響力を持っている。そして、大型エグジットを連鎖的に引き起こしていくためにVC企業にできることが4つある。
1. 競争心を引き出す
外国人の起業家が米国企業から資金を調達し、その事業を別の米国企業に売却すれば、当然それは移民の目に留まる。その外国人起業家の製品がどれほど画期的なアイデアに基づいたものだとしても、米国に住む移民たちは、少なくともベンチャー投資用資金の93%が白人男性にコントロールされている限りは、その外国人起業家にすべての希望を託したいとは思わないだろう。
米国人の発明家よりも移民の方が40%も多くイノベーションに貢献していることが研究によって証明されているのにも関わらず、このような状況なのである。
そのような外国人起業家が最も必要としているものは自信とロールモデル、そして、同じような立場の人々が同じような業界で色々と波風を立てながらも成功していることを示すサクセスストーリーである。
したがって、あるエグジットが大きな話題になると、業界内の他の外国人創業者は、自分の事業にテコ入れをして次の段階に進めようとする。それだけなく、彼らはより自信を持って資金調達に臨むようになる。そして、その自信を投資家は高く評価する。
筆者がこの記事を書こうと思い立ったのは、自分と同じくスペインからサンフランシスコに移住した移民創業者が起業したフィンテック企業Returnly(リターンリー)がAffirm(アファーム)によって3億ドル(約329億円)で買収されたことがきっかけだった。ちなみに、完全な透明性を期すために書いておくが、筆者はリターンリーにエンジェル投資、およびシリーズBとC段階での投資を行ってきた。
個人的に金銭的な利益を享受した筆者には、それだけでもこのエグジットに対して賛辞を送る十分な理由がある。しかし、シリコンバレーという競争の激しい環境の中で、その不利な立場に負けず、米国を拠点とする投資家から多額の資金を調達し、最終的には米国企業による買収を達成した外国人創業者の成功は、世界中の多様性豊かな創業者にインスピレーションを与えた。このエグジットはスペインの主要メディアやビジネスメディアで大きく報じられ、LinkedInアカウントには「つながり」リクエストやお祝いメッセージが殺到した。
外国人起業家のスタートアップにも資金調達の機会を平等に与えようとするグローバルな視点を持つ組織の存在を、エグジットを通して外国人起業家に示すことができれば、そのエグジットがもたらすインパクトはさらに強くなる。つまりそれは、世界各国の起業家に注目し、世界各地のエキスパートを結びつけるネットワークを築くVC企業が存在することを意味するからだ。
投資家は、エグジットを進める際に創業者が外国人であることを大いに宣伝し、その創業者がこれまでに乗り越えてきた課題や獲得してきたチャンスについて語ることによって、そのエグジットが業界にもたらすインパクトを最大化できる。さらに、そのようなサクセスストーリーに注目することにより、多様性が豊かな外国人起業家に投資することの価値が過小評価されているという事実を米国人投資家たちに納得させることができる。このようなエグジットを達成することにより、ニッチな外国人起業家に投資するVC企業としてのブランド力を強化し、資金調達を打診するスタートアップを引きつけて、この好循環をさらに強化することも可能だ。
2. 富を生み出す好循環を作る
大型エグジットが成功すると、関係する全投資家は多額の富を手にする。そして、その富が使われないまま投資家の手元にとどまる可能性は低い。投資家はその富を投資するために、高いポテンシャルを持つ別の企業、恐らくは大型エグジットを達成した直前の企業と同じような企業を探すことだろう。
しかし、そのような投資家は、自社のポートフォリオにおいて前述のような好循環を促進するだけでなく、同じようにするよう他の投資家にも働きかけるようになる。
どのエグジットも、成功例であれ失敗例であれ、外国人起業家とそのスタートアップにとって「前例」となる。高い利益を見込んであるスタートアップに出資する投資企業が1つでもあると、それを嗅ぎつけた他の投資家がそれに続く。なぜなら、スタートアップ投資の世界では外国人創業者や少数派民族の創業者は依然として過小評価されており、非常に高いポテンシャルを秘めていながらも、積極的に投資する企業がまだ少ないからだ。無比のチャンスを探す目を持つVC企業であれば、従来の形にとらわれないスタートアップに出資して大きな利益を手にした投資企業が1社でもあれば、それを見逃さない。その投資企業が同じ業界の別の企業に継続して投資している場合はなおさらだ。
この流れをサポートするために、最近エグジットを成功させ、類似する創業者に再投資してきたエンジェル投資家やVC企業は、そのような成功例の連鎖について大いに宣伝し、1つの成功例が同業界の別のスタートアップへの投資へとつながってきた経緯を説明するべきだ。さらに、成功した前例に基づいて特定の起業家を育てる決断をしたことを、自社のネットワーク内の企業にきちんと伝えることもできるだろう。
リターンリーの創業者は最近、自分が手にした利益の一部を当社のファンドに戻すことを申し出た。彼と同じ立場の外国人起業家が1人でも多く資金を調達できるようにするためだ。投資企業が創業者と意義深い関係を育み、多様性豊かな起業家に力を与えることに真剣に取り組めば、富の増大という投資企業としての使命もよりよく果たせるだろう。
3. 再投資を促進する
「ペイパルマフィア」はPayPal(ペイパル)の元幹部や元社員で構成される起業家集団である。そのメンバーには、南アフリカ共和国出身のElon Musk(イーロン・マスク)氏やドイツ系米国人のPeter Thiel(ピーター・ティール)氏など、1つの業界だけでなく、テクノロジーに関する複数の業界で大きな革新を生み出してきた起業家たちが名を連ねる。ペイパルマフィアの中には、YouTube(ユーチューブ)、LinkedIn(リンクトイン)、Yelp(イェルプ)、Tesla(テスラ)などの創業者や、米国大使になった者もいる。1つの企業だけでこれだけの効果を生み出せたのであれば、多様性が豊かで意欲にあふれた他のスタートアップのチームが大型エグジットに成功して資金とインスピレーションを手にしたら、チームメンバーは自分たちを信じてくれた人たちの成功に感化されて、1人また1人と、それぞれ自分で再投資を行うようになるだろう。
そのようにして設立されたベンチャーは、出自に関係なく平等なチャンスを与えるという特性を「次世代に引き継ぎ」、その使命によってより多くの雇用を創出していく可能性が高い。例えば、ペイパルマフィアのティール氏はこれまでに欧州だけで40以上の企業に投資してきた。
VC企業は、スピンオフするベンチャーに目をつけて、可能であればサポートする(出資しない場合でも、これまで積み上げてきた知識や人脈を使ってサポートする)ことにより、このチーム効果を活用できる。しかし、それだけでなく、投資の世界に参入するよう、そのようなベンチャー創業者の背中を押すことも検討できる。自社のポートフォリオ企業から始めるよう勧めてもよいだろう。成功したスタートアップの創業者や幹部社員の多くは投資家に転身する。例えばペイパルマフィアのメンバーは、現在最も有名なファンドのいくつかに出資してきた。成功したスタートアップのチームメンバーたちは、出自に関して自分たちもさまざまなことを経験してきたがゆえに、過小評価されている創業者たちを投資によって支援したいと、より強く思うようになる。そして、新しい起業家たちは自分たちの体験からさらなる価値を引き出せるようになるのだ。
4. 評判を次につなげる
前述したリターンリーの本社はサンフランシスコにあるが、同社の創業者はスペイン人で、従業員の多くがスペインを拠点としている。
つまり、リターンリーのエグジットによってもたらされるインパクトは大西洋の反対側にあるスペインでも、米国に入るスペイン人移民たちの間でも感じられるということだ。同じことは他のエグジット売却にも当てはまる。例えば、スペインで創業し、スペイン国内に複数のオフィスを持つAlienVault(エイリアンボルト)だ。同社は米国の通信大手AT&Tに9億ドル(約987億円)で買収された。または、IPO(新規株式公開)の例もある。今月初め、スペイン発の決済サービス企業Flywire(フライワイヤー)がIPOを申請した。IPO価格は30億ドル(約3289億円)になると予想されている。1つのスタートアップが成功すると、そのスタートアップに関わったチームメンバー全員の評判が上がり、ひいては、彼らと同じ国の出身で、同じ背景、教育、目標を持つ他の創業者や人材の評判も上がる。
その結果として、投資家や他のステークホルダーは、成功した創業者と出身国を同じくする別の創業者を支援したいという気持ちになる。その国の出身であることが、スタートアップのミッション、専門知識、文化に寄与していると考えるからだ。
同時に、成長中のスタートアップは、明白な成功実績を持つチームから人材を採用したいと感じる。これは、米国でより多くの外国人専門家を採用することだけでなく、米国以外の国へアウトソースする道を探ることも意味している。我々はすでに、リモートチームと働くことに非常に慣れており、チームの半分が眠っている時間帯にもう半分が働くというように時差を利用した方が資金を効率よく使える。しかし、創業者たちは常に、地元の人材とイノベーションがすでに活発に生まれている国に引きつけられる。VC企業はそのような話をポートフォリオ企業と始めるとよいだろう。
VC企業には、業界を永久に変え、大陸を超えてスタートアップエコシステムをつなげて、スタートアップが世界中に拡大していくのをサポートする力がある。しかし、その力を発揮するには、投資家として関わり続けるだけでなく、スタートアップがエグジットを達成した後に迎える次のステージがポジティブなものになるよう尽力する必要がある。
スタートアップの未来が本質的にグローバルで多様なものになることを認識していない投資家は、絶好のチャンスにめぐり合えないし、最良の創業者から選ばれることもないだろう。遅れを取り戻すことよりも、グローバルで多様なエコシステムを構築することに力を尽くすべきだ。
編集部注:Laura González-Estéfani(ローラ・ゴンザレス-エステファニ)氏は、TheVentureCityの創設者兼CEO。TheVentureCityは、グローバルな起業家のエコシステムをより多様に、国際的にそして公正な資本にアクセスできるように設計された、事業者主導の国際的なベンチャーアクセラレーションモデル。
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画像クレジット:Klaus Vedfelt / Getty Images
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(文:Laura González-Estéfani、翻訳:Dragonfly)