血漿ベースの新型コロナ治療法開発に米政府が約16億円注入

先週我々はEmergent BioSolutions(エマージェント・バイオソリューションズ)の治療学事業部門の責任者Laura Saward(ローラ・サワード)博士に、同社の血漿をベースとする新型コロナウイルス(COVID-19)治療法の開発について話を聞いている。そして今、同社は米国生物医学先端研究開発局(BARDA)から1450万ドル(約16億円)の資金を得たと発表した。BARDAは米保健福祉省(HHS)の一部門で、今回調達した資金は、可能性がある治療法の開発のスピードアップに使う。

Emergent BioSolutionsは、新型コロナに感染し、それによって引き起こされる呼吸器疾患を抱える患者の処置に使う2種類の血漿ベース治療法の開発にすでに取り組んでいる。そのうちの1つは馬から採取した血漿をベースにしたもので、大量生産できることがメリットだ。もう1つは人間の血漿を使用していて、こちらは患者の拒絶反応を引き起こす可能性を抑えられる。

どちらの場合も、患者の免疫を高めることができる「高度免疫」治療製品を開発する1つの方法として回復期患者の血漿を使うというコンセプトに基づいている。研究者や衛生当局が調べている、回復期患者の血漿の他の使用法と似ている。しかし直接注入するアプローチではなく、Emergentはウイルスと戦うための多くの異なる種の抗体を含む血漿ベースのソリューション、しかも予想通りの効果を伴うものを作り出すことで状況を打破しようとしている。

同社はすでにこれらのソリューションの開発に取り組んでおり、似たような治療法を実用化させた以前の経験をフル活用しながら開発、認証、テストを急いでいる。しかし今回、特に人間の血漿を使ったプログラムの開発を加速させるためにBARDAから1450万ドル(約16億円)を得た。計画では、新型コロナウイルスから回復した人の血液を使って開発を行う。同社はまた、すでに献血の回収とスクリーニングを始めている。

次のステップとして、Emergent BioSolutionsのソリューションは米国立アレルギー感染症研究所との臨床試験で確かめられる。同研究所が治療の有効性を判断する。

画像クレジット:zhangshuang/Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Mizoguchi

スペースXの最新Starship試作機が圧力テストに失敗

まったく新しい宇宙船を設計、テストし建造するプロセスは確かに困難で、いくつかの問題に直面するに違いないものだ。SpaceX(スペースX)が建造する、完全に再使用可能な巨大宇宙船であるStarshipも例外ではない。「SN3」と名付けられた最新のStarshipのプロトタイプは、試験飛行中に宇宙船が体験する圧力をシミュレートするための極低温実証試験の最中に、致命的な失敗を起こしてしまった。

SpaceXの最初のプロトタイプであるMk1も、燃料タンクの圧力試験中に破壊され、次のフルスケールのプロトタイプであるSN1も、2月下旬の圧力試験中に破壊された。もう1つのプロトタイプであるSN2は、極低温試験のために簡素化され極低温試験を通過したが、次のフルスケールのプロトタイプであるSN3は、テキサス州ボカチカにあるSpaceXの発射台での極低温試験中に再び失敗した。

NASAspaceflightのMary(@BocaChicaGal)によるYouTube動画では、極低温圧力テストの最中にSN3型の機体が崩れる瞬間を確認できるが、このプロトタイプを作り直して再利用することはおそらくないだろう。当初の計画では、SN4を高高度飛行用のプロトタイプにすることになっていたが、今回の試験結果を考えるとその可能性は低い。

スペースXの創設者かつCEOのElon Musk(イーロン・マスク)氏は、SN3の失敗は宇宙船自体の問題ではなく「テスト設定のミスだった可能性がある」とTwitterで語った。マスク氏は、午前中に一度だけデータレビューを受けると述べている。

これは確かに後退ではあるが、宇宙船開発では珍しいものではない。スペースXはこれまでの開発プログラムで成功を収めており、その中にはStarshipや最終的にはSuper Heavyブースターの推進力に使用されるRaptorエンジンの基本性能を証明した「Starhopper」のサブスケールプロトタイプのテストも含まれている。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

Googleとカリフォルニア大学SF校が薬の処方の危険な間違いを見つける機械学習ツールを共同開発

Google Healthの機械学習エキスパートがこのほど公開したUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)の計算健康科学部との共同研究は、患者の電子健康記録(EHR)を入力として研究者が作った、普通の医師たちによる薬の処方の一般的なパターンを表した機械学習モデルを記述している。これが役に立つのは、入院患者の約2%が、防ぐことのできた薬物処方の間違いに悩まされているからだ。その間違いが、死に結びつくこともある。

研究者の説明では、このシステムはクレジットカード会社が顧客に詐欺の可能性を警告するのに使っている、機械学習を利用した自動的不正検出ツールのような仕事をする。それらは、過去のクレジットカードトランザクションに基づいて消費者のノーマルな動きのベースラインを作り、それに合わない動きを見つけたら銀行のセキュリティ部署に警報したり、アクセスを凍結したりする。

GoogleとUCSFが訓練しているモデルも、「この患者の現在の状況に対しては異常」と見える処方を見つける。ただしそれは、消費者の行動の異常よりは発見が難しい。なぜなら1人ひとりの患者の状況やニーズは、機密性がある上にきわめて複雑で解明が非常に困難だからだ。

そのために彼らは、匿名化した患者の電子健康記録から、生体信号や検査結果、投薬履歴、診療履歴とそれらの予後などの情報を知る。そんな履歴データを現在の状態の情報と組み合わせてさまざまなモデルを作り、個々の患者の今後の処方の正確な予測を作り出す。

「彼らの最も性能の良いモデルでは、正答率が4分の3だ」とGoogleは説明する。本物の医師が書く処方も、このモデルで採点するとそんなものだそうだ。また、モデルの正解が医師がその患者に処方するであろう薬の上位10に含まれる率は93%と高い。しかし、1位の選択が医師が選ぶ1位ではないこともある。

研究者たちが念を押すのは、モデルは今のところ、ごく普通の処方の予測は正確だが、それから外れたものの良否をすべて正確に指摘することはできない。でも、この種の警告システムを作っていく過程の第一歩としては上出来だろう。

画像クレジット: Akio Kon/Bloomberg/Getty Images

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

NASAのレトロなワームロゴが初の有人ミッション用Falcon 9に入る

NASAとSpaceX(スペースX)は、宇宙飛行士を米国の民間ロケットで初めて宇宙へ運ぶため、Crew Dragon宇宙船によるDemo-2の打ち上げにむけ注力している。そしてCrew Dragonを宇宙へと打ち上げるFalcon 9ロケットには、1992年から退役していたNASAのロゴが入った。

1970年代に誕生した「ワーム」ロゴは20年以上もの間、NASAの記念品でしか確認することができなかった。キャップやトレーナー、ステッカー、その他のグッズで見たことがあるかもしれないが、NASAの宇宙船が退役してからは、打ち上げミッションには使用されていない。NASAが現在使用している「ミートボール」ロゴは、実はワームよりも前の1950年代後半にデザインされたものだが、ワームのほうがレトロな感じがする。

このワームロゴは、現在5月上旬から中旬に打ち上げが予定されている、NASAのDoug Hurley(ダグ・ハーレー)飛行士とBob Behnken(ボブ・ベンケン)飛行士を宇宙空間の国際宇宙ステーション(ISS)へと運ぶSpaceXのDemo-2ミッションで、再び大々的に使用される。これは、宇宙飛行士の輸送ミッションでCrew Dragonを定期的に運航するための認定の最後のステップだ。

NASAはフロリダでミッションを準備中しているFalcon 9ロケットの側面に描かれた、赤いワームロゴの画像を共有し、さらに公式ミッションでロゴが使用されるのはこれが最後にはならないだろうと述べている。ただし、ミートボールロゴのファンも心配する必要はない。NASAによると、たとえワームロゴが復活したとしても、ミートボールロゴはまだその主要なシンボルだとしている。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

Virgin Orbitが大分空港にアジア初のスペースポートを整備へ

Virgin Orbit(ヴァージン・オービット)は現在、新型コロナウイルス(COVID-19)と対峙する医療従事者をサポートするために人工呼吸器の製造に注力しているが、それとは別に小型衛星の打ち上げ事業を支えるインフラの構築にも取り組んでいる。そして同社は新たに大分県と提携し、水平発射ロケットの母機を離着陸させるためのスペースポートを整備すると発表した。

同社はANAホールディングスとスペースポートジャパンの協力を得て、アジア初となる発射場として大分空港を想定しており、早ければ2022年には同空港からのミッションを開始する予定だという。

大分空港での計画が実現するまでには、地元自治体との連携による技術調査や候補地の利用に関する可能性を判断するための調査など、いくつかのステップを踏まなければならない。大分にはすでに東芝や新日鉄、キヤノン、ソニー、ダイハツなど多くの企業の施設があるが、宇宙産業への進出は初めてで同県は今後も同分野へと注力したいとしている。

「日本で初めてとなる水平離着陸型のスペースポートの整備に期待している。そして、小型衛星を使って地球規模の問題を解決している勇敢なテクノロジー企業と協力できることを、光栄に思う」と、大分県の広瀬知事はプレスリリースで述べている。「ヴァージン・オービットとのコラボレーションを皮切りに、大分県での宇宙産業の集積を促進していきたいと考えている」。

同社は今年中に軌道への小型衛星輸送の初の実証ミッションを準備しているが、その取り組みをさまざまな方法で世界中に拡大しようとしている。同社は、英国市場向けにコーンウォールのスペースポートからの打ち上げサービス計画を発表し、グアムでの拠点の設置も検討している。

同社が採用している水平打ち上げモデルは、従来の空港のインフラやプロセスを活用してずっと簡単に発射場を設置できることを意味し、これにより小型衛星の打ち上げサービスを検討している国に対して、基本的にはオンデマンドでの打ち上げ能力を提供できる。これは大きなセールスポイントであり、大分との提携によってアジア初の同社のスペースポートが開設されることは、日本にとっても大きな利益につながる。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

Estimoteが新型コロナ接触者を追跡するウェアラブル端末を発表

Bluetoothを使ったビーコン端末のスタートアップであるEstimote(エスティモート)は、その専門技術を活かし、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を抑えるための一連の新製品を開発した。同社は、社会的距離の確保や隔離が要請されている間も物理的に狭い場所に集まって作業しなければならない人たちの職場の安全性を高めると共同創設者Steve Cheney(スティーブ・チェイニー)氏が確信する、新分野のウェアラブル端末を作り出したのだ。

ストレートに「Proof of Health」(健康の証)ウェアラブルと呼ばれるこのデバイスは、接触者の追跡を目的としている。言い換えれば、それぞれの職場の施設レベルで、人から人への新型コロナウイルスの感染経路をモニターするものだ。その狙いは、従業員の間で万一感染が発生した場合、状況を把握し、手遅れになる前に拡大を抑制する手立てを提供することにある。

このデバイスには、パッシブGPSによる位置追跡システムに加え、Bluetoothと超広帯域無線(UWB)接続を利用した近接センサー、充電式バッテリー、LTE通信機能が備わっている。さらに、装着者の健康状態や、健康の保証、症状、感染の確定といった記録状態の変更を手動で行える。装着者が、感染の可能性または感染確定に自身の状態を変更すると、接近した距離と位置情報の履歴を基に、接触した相手の情報が更新される。これらの情報は、接触の可能性のある人たちの詳細情報を保管し集中管理するための健康ダッシュボードにも記録される。現在は、ひとつの組織内での使用を想定してデザインされているが、この情報を企業全体あるいは一般社会での追跡に役立てることができないか、WHOを始めとする保健機関と協力する道を探っているとチェイニー氏は話している。

このデバイスは、さまざまな形態で展開できるよう作られている。現在すでにある丸い小石のようなタイプ(紐を取り付けることで首に装着して情報を確認できる)、調整可能なバンドで腕に巻くタイプ、施設の入出管理でよく使われている従来型のセキュリティーカードと一緒に携帯しやすいコンパクトなカード型タイプがある。小石型タイプはすでに生産に入っており、これから2000ユニットが展開される。近い将来、同社のポーランドにある製造資源を生かして、さらに1万ユニットを生産できるよう態勢を強化する予定だ。

Estimoteは、ほぼ10年間、企業向けにプログラム可能なセンサー技術を構築し、AppleAmazonといった巨大グローバル企業とも協力関係にある。チェイニー氏が私に話してくれたところによると、彼はその技術を、パンデミックによって生じたこの特異な問題に応用する必要性を即座に認識したというが、Estimoteはすでに18カ月前から、別の目的でその技術の開発に取り組んでいた。サービス業界の従業員向けに、安全対策や非常ボタンを提供するというものだ。

「このスタックは18カ月間、フル稼働しています」と彼はメッセージで話してくれた。「私たちは、すべてのウェアラブルのプログラムを遠隔で操作できます(LTE接続されてます)。工場に配備する場合、そのウェアラブルに遠隔でアプリを開発します。これがプログラマブルIoTです」

「ウイルスのおかげで、人と人が間近に接する場所での健康確認の診断技術が必要になるなんて、誰も思いませんでしたよ」と彼は言い足した。

接触者追跡をテクノロジーで実現しようという提案は数多くある。スマートフォンで収集された既存のデータを利用する方法や、カルテを転送する消費者向けアプリの応用などだ。しかし、それらの取り組みには、プライバシーの問題が大きく関係してくる。しかも、スマートフォンを使うことが前提だ。人の行き来が激しい環境では、正確な位置追跡をスマートフォンで行うのはほぼ不可能だとチェイニー氏は指摘する。専用のウェアラブルを作ることで、Estimoteは従業員同士の「侵害」的な行為を避けることができるとチェイニー氏は言う。その目的に合わせて作られたデバイスを使用し、従業員の間だけでデータを共有するからだ。さらに、取り外しができる形態で、部分的に自分でコントロールができる。また屋内では、モバイル機器は専用ハードウェアのように精度の高い追跡が行えないとも彼は話している。

しかも、このようにごく限られた領域での接触者追跡は、感染拡大を、他の方法よりも早く徹底的に抑制するための早期警報を雇用主に伝えるだけのものではない。実際、センサーデータから得られた大きなスケールでの接触者追跡情報により、新型コロナウイルス対策に、新しい優れた戦略がもたらされている。

「一般的に、接触者追跡は、個人の記憶や、高レベルの想定(例えば、その人の勤務シフトなど)に依存しています」と、ジョン・ホプキンズ大学応用物理研究室のBrianna Vechhio-Pagán(ブリアンナ・ベッキオペイガン)氏は言う。「新しいテクノロジーによって近距離、つまりおよそ2m以内での接触を追跡できるようになり、他の方法でもたらされる誤差が減りました。BlurtoothやUWB信号からの感染状態や症状を含む濃厚接触者追跡データにより、患者や医療従事者の安全を守る新しい優れた方法が発見されるでしょう」。

人との距離を保つ方針がいつまで続くかは今のところは不明だ。何カ月も続くという予測もある。感度に差があったとしても、Estimoteのようなソリューションは、リスクを回避して従業員の健康と安全を守るための最大の努力を払いつつ重要なサービスや業務を遂行する上で、欠かせないものとなる。さらに大規模な対策も必要だろう。一般市民を対象とした接触者追跡計画などだ。Estimoteの取り組みは、そうした計画の設計や開発の参考になるはずだ。

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(翻訳:金井哲夫)

スマート体温計の発熱者マップが新型コロナ対策での外出自粛の重要性を示す

米国ヘルスウェザーマップ

スマート体温計メーカーのKinsa(キンサ)は、インフルエンザなどの季節性疾患が地域でどのように感染拡大するかを示す正確かつ予測的なモデル作りに着手しており、発熱者マップは新型コロナウイルスの世界的なパンデミックにおいて役立つ可能性がある。キンサの米国ヘルスウェザーマップでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を特定してその感染拡大を追跡することはできないが、地理的データに紐づく発熱状況が確認できるため、各地域で講じられる社会的距離戦略と隔離対策の有効性が簡単に把握できる。

キンサのヘルスウェザーマップが2月にニューヨークタイムズに掲載されたとき、同社製体温計の米国市場での流通量は約100万個だった。だが、記事掲載の1週間前から注文が殺到し、注文数は1日あたり1万個ほどに及んでいる。これは同社の分析が、米国総人口に対し非常に膨大なデータセットに基づいていることを意味している。キンサ創設者兼CEOのInder Singh(インダー・シン)氏は、同社がオレゴン州立大学助教授Ben Dalziel(ベン・ダルジエル)氏と提携し、今までにない高精度と高粒度で、地域レベルでのインフルエンザ予測を可能にしたと説明した。

「私が当社を起業した理由の核となる仮説が正しいことが証明された。その核となる仮説とは、感染症の突発的発生の検出や感染拡大の予測をするためには、罹患者から得られる、医療的に正確でリアルタイムの地理的なデータが必要であることだ」とシン氏は言及した。「当社は、自社データをダルジエル氏の感染病拡大第一原理モデルに入力した。そして9月15日には、風邪やインフルエンザのシーズンの残り全期間すなわち超局所的な20週間における感染の山(ピーク)と谷に関して、非常に正確に予測できることが示された」

これまでも、インフルエンザの感染を追跡・予測する努力はされてきたが、今までの「最新技術」は国もしくは複数の州レベルでの予測であり、個別の州や、ましては地域内の傾向の追跡や予測は不可能であった。リードタイムに関しては、キンサとダルジエル氏によるモデルの数ヵ月ではなく、実質的に最短3週間で達成可能だった。

新型コロナウイルスの世界的大流行という危機的な状況がなかったとしても、シン氏、ダルジエル氏とキンサが成し遂げたことは、テクノロジを利用した季節性疾患の追跡と緩和に向けた大きな一歩である。またキンサは1カ月前に「非定型疾患レベル」と呼ばれるヘルスウェザーマップ機能を有効にした。これは米国における新型コロナウイルスの感染と、社会的距離戦略などの主な緩和戦略の効果を解明する重要な先行指標となるだろう。

「リアルタイムの病気の兆候を集め、そこから予想値を取り除く」とシン氏は新しいビューの機能について説明した。「そうすると、非定型疾患が残る。つまり、通常の風邪やインフルエンザの時期からは予想されない発熱者のクラスターが残る。それは新型コロナウイルスと推定できる。新型コロナウイルスだと断言はできないが、普通ではないアウトブレイクであるとは言える。完全に予期されなかった菌株の変異型インフルエンザの可能性もある。また別の何かかもしれないが、少なくともその一部はほぼ間違いなく新型コロナウイルスだろう」。

「非定型疾患」ビュー

キンサの米国ヘルスウェザーマップ「非定型疾患」ビュー。赤色は、発熱で示される、予測レベルよりも高い疾患を示す

発熱者報告件数

グラフは、キンサの正確な季節性インフルエンザ予測モデルに基づき、各地域の予測数(青色表示)に対する、実際の発熱者報告件数を示す

上記の例で、シン氏は発熱者の急上昇は、推奨される距離戦略のガイダンスを無視するマイアミ市民と観光客の報告と一致していることを指摘した。ただしそのエリアでは、ビーチの閉鎖やその他の隔離措置などより厳格な措置が講じられた後に急下降がみられた。シン氏は住民が社会的距離戦略を無視しているエリアには急上昇がみられ、ロックダウンやその他の措置が講じられると、その5日以内に曲線が下に向くと言及した。

キンサのデータはリアルタイムというメリットと、ユーザーによって常に更新されるというメリットがある。これは、社会的距離戦略や隔離戦略のより即効的な効果を示すという点では、増加する新型コロナウイルスの検査結果数といった他の指標よりも時間的な利点がある。こうした戦略について起こった批判の1つは、感染確認例が増加の一途をたどっていることだが、専門家は社会的距離戦略がプラスの影響を及ぼしていても、検査の利用可能性が広がると、地域に新しい感染例が増えると予測している。

シン氏が指摘するように、キンサのデータは厳密には発熱範囲の体温を示すものであり、確認された新型コロナウイルスの症例を示すものではない。しかし発熱は新型コロナウイルスの症状がある患者の重要な初期症状であり、キンサが現在行っている風邪とインフルエンザに関連する発熱患者数の予測では、現在の状況は、少なくともかなりの確率で新型コロナウイルスの感染が拡大していることを示している。

アウトブレイクの追跡に位置データを使用することに尻込みする者もいるが、シン氏は地理的な座標と体温のみに関心があると言及。これらのデータを個人を特定する情報に結び付けることはないため、完全に匿名による集計プロジェクトとなる。

関連記事:米政府はハイテク企業と協議し新型コロナとの戦いに位置情報を活す作戦を練る

シン氏は「地理的信号をリバースエンジニアリングして個人を特定することはできない。不可能だ」と話してくれた。「これは個人のプライバシーを保護し、社会や地域が必要とするデータを公表する正しい方法だ」と言う。

非定型疾患を追跡する目的で、キンサは現在利用されている標準疾患マップと同等にまで精度を上げることはできない。そうするにはより高度な精巧性が必要とされる。しかし同社は、さらに多くの体温計を市場に出すことで、データセットの拡大に努めている。キンサのハードウェアは多くの健康関連のデバイス同様、現在いたるところで在庫切れとなっているが、シン氏は部品コストの全体的な値上がりにも関わらず、サプライヤーからの部品調達を進めていることに言及した。またシン氏は、他のスマート体温計メーカーとも協力したいと考えており、同社モデルにデータを入力するか、キンサ独自のアプリをワイヤレス体温計ハードウェア用の標準接続インターフェースを使ったBluetooth体温計と互換性を持たせることも検討している。

現在キンサでは、非定型疾患ビューを進化させ、疾患レベルがどの程度の速さで減少しているか、また感染の連鎖を効果的に断ち切るにはどの程度の速さで減少する必要があるかを視覚的に示すことで、自らの選択や行動が与える影響について、一般の人々にさらに情報を提供していくことに取り組んでいる。特に毎日公表される感染者数が切迫した数値になる中で、保健機関、研究者、医療専門家は一様に奨励していることだが、外出を控え、他者との距離を保つという勧告は我々全員にとって課題となっている。キンサの追跡機能は希望の光を与え、各個人の貢献が重要であるということを明確に示してくれるだろう。

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(翻訳:Dragonfly)

Amazonが来週から倉庫従業員の体温をチェックしマスクも配布へ

Amazon(アマゾン)は、米国や欧州の倉庫での新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大を防ぐための新たな方策の詳細を明らかにした。ロイターの報道によると、Amazonの倉庫やWhole Foods(ホールフーズ)で働く従業員の体温チェックを行い、マスクも配布する。世界中の国・地域がロックダウンや自己隔離といった策を取るにつれ、Amazonの利用は急激に増えている。そして米国にある同社の倉庫で働く従業員の間でも新型コロナウイルスの感染が確認された。

Amazonはすでにいくつかの対策を明らかにしている。陽性となった従業員に対し隔離中の14日間の給料を保証するほか、施設やインフラの清掃・消毒を強化するというものだ。そして来週から導入される新たな対策では、施設の入り口で従業員の体温をチェックする。体温が38度以上だった人は帰宅するよう促される。そして職場に復帰するには、3日連続で平熱でなければならない。また、数週間前に発注した「何百万」ものサージカルマスクが届けば、従業員に配布するとのことだ。

こうした対策に加え、従業員が労働中に他人と安全な距離を保っているかを確認するために、機械学習を使ったソフトウェアを活用しながら施設内外に取り付けたカメラの映像をモニターする。

Amazonの新型コロナ危機対応をめぐっては多くの従業員が抗議している。スタテン島の倉庫ではボイコットが起こり、この動きを誘導した労働者が解雇される事態に発展した。デトロイトにある倉庫の従業員もまた、危険な労働環境だとして抗議するためにボイコットを計画している。

一方で、Amazonは増大する需要に対処するために倉庫や配送センターの従業員を増やしている。同社は以前、需要増に対応するために新たに10万人を雇用する計画だと発表したが、4月1日に同社がロイターに語ったところによると、すでに8万人を雇用したとのことだ。

画像クレジット: ANGELA WEISS/AFP / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

スタートアップ製ウェアラブルで新型コロナによる下気道感染症を早期発見する研究

現在の新型コロナウイルス(COVID-19)による危機的状況は、たった1つの試みや対処策で完全に「解決」できるという見込みはほとんどない。そこで、スタートアップのWHOOP(フープ)のフィットネスと健康管理のためのリストバンドなどを対象にした、新しい研究が重要性を増してくる。オーストラリアのセントラル・クイーンズランド大学が主導し、クリーブランド・クリニックが協力する研究では、新型コロナウイルスに感染したと自己判断している数百人のボランティアにWHOOPを装着してもらい、収集したデータから各自の呼吸活動の変化を継続的に監察する計画を立てている。

この研究で使用するデータは、WHOOP Strap 3.0という機器から回収される。このリストバンドには、装着した人の睡眠中の呼吸数から睡眠の質を数値化して示す機能があり、最近のアリゾナ大学の外部研究により、その呼吸数の測定値の正確性が認められている。その研究で、侵襲的手段を除いてはもっとも正確に呼吸数が測れる装置であることが示されたため、今回の研究に携わる人たちは、他の方法によって症状が検知される以前に新型コロナウイルス患者の呼吸活動の異常を知らせる早期警報装置として有効ではないかとの仮説を立てたのだ。

WHOOPは、彼らのハードウェアが報告する呼吸数は、正しいと認められた個々の基準値から外れることがめったにないと話している。そのため、基準値から逸脱するとしたら、極端に気温が高くなったり酸素濃度が変化するといった環境的な原因か、下気道感染症などによる身体的な異常しか考えられない。

新型コロナウイルスは、まさに下気道感染症だ。上気道感染症であるインフルエンザや風邪とは違う。つまり、(比較的簡単に解消できる)環境的原因では説明がつかない下気道の問題による呼吸数の変化と新型コロナウイルスの事例との間には、強力な相互関係があると言える。WHOOPのウェアラブルは数値の偏りを機能不全の兆候として検出するため、本人が呼吸の異常を自覚する前に、基準値と呼吸数との乖離から体の変化を知ることができる。

この研究は、現時点ではまだ仮設の段階でありデータによる裏付けが必要だ。研究チームは、それには6週間ほどかかると話しているが、その調査を開始するアプリには、すでに「新型コロナウイルスに感染したと自己申告した最初の数百人」が集まっているという。目標は、陽性と診断された500人を参加させることだ。またこの他にも、健康や運動をモニターするウェアラブルを新型コロナウイルスの早期発見システムにできないかを探る研究がいくつか進められている。そのひとつに、カリフォルニア大学サンフランシスコ校とOura Ring(オーラ・リング)の共同研究がある。

以前のパンデミックと違い、この新型コロナウイルスの場合は、私たちがデータドリブンのアプローチで問題を解決する方法に慣れてきた時期に発生した。また、自分で数値を測定できる健康器具も数多く普及している。それらが、感染拡大の状況をより正確に評価するための手段となり、ウイルスが人々の間でどのように広がり、あるいは終息していくのか、その傾向を教えてくれるようになるだろう。

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(翻訳:金井哲夫)

感染に導く新型コロナのタンパク質をモデル化、免疫療法のImmunityBioとMicrosoft Azureが協力

大量のグラフィクス処理能力を結合する取り組みが、現在のパンデミックの背後にある新型コロナウイルス(COVID-19)の治療法や治療薬の開発に取り組んでいる研究者に鍵となる力を与えるかもしれない。

免疫療法のスタートアップであるImmunityBioが、Microsoftと協力し、合計24ペタフロップのGPUによるコンピューティングパワーを使って、新型コロナウイルの原因であるSARS-CoV-2ウイルスを人間の細胞に入らせる、いわゆる「突起タンパク質」(スパイクプロテイン、Spike Protein)の極めて詳細なモデルを作ろうとしている。

この新たなパートナーシップには、スパイクプロテインのモデルを、従来のように数か月ではなくわずか数日で作れるようになる、という意味がある。この時間節約によりモデルが、ワクチンや治療薬を開発している研究者や科学者の仮想的な手に早く入るようになり、そして彼らは自分たちの仕事を、人間のACE-2プロテインのレセプターにくっつくことを彼らが防ごうとしているまさにそのプロテインの、詳細な複製を作るところまで前進させることができる。ウイルスの感染とは、まさにスパイクプロテインのその働きのことだからである。

科学者が研究している治療法のメインは、体内のウイルスの拡散を防止または最小化して、ウイルスがそれらのプロテインにくっつくのをブロックすることだ。そしてそのためのもっとも単純な方法は、スパイクプロテインがターゲットのレセプターに接続できないようにすることだ。新型コロナウイルスから回復した患者に自然に生成される抗体は、まさにそれをやっている。現在開発中のワクチンも、同じことを先回りしてやらせようとしている。また多くの治療薬は、ウイルスが新しい細胞をつかまえて体内で自分を複製しようとする能力を、弱めようとしている。

両社のパートナーシップの具体的な中身は、Microsoft Azureのクラスターからの機械学習アプリケーションが使用する1250のNvidia V100 Tensor Core GPU群がImmunityBioの320 GPUのクラスターによる分子モデリングワークと協働するかたちになる。そのコラボレーションの結果を、COVID-19の治療や予防に取り組んでいる研究者たちに提供し、彼らの研究開発努力の迅速化と有効化を促進する。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

DeepMindのAgent57 AIエージェントがATARIの57本のゲームで人間に勝利

人工知能エージェントの開発現場では、その能力をゲームで測ることがよくあるが、それには相応の理由がある。ゲームは幅広い習熟曲線を提示してくれるのだ。ゲームは、基本的な遊び方は比較的すぐに習得できるが、マスターするのは難しい。しかも、通常は得点システムが備わっているため、習熟度を評価しやすい。DeepMind(ディープマインド)のエージェントは囲碁に挑戦し、リアルタイムの戦略ビデオゲーム「StarCraft」(スタークラフト)にも挑戦した。だが、このAlphabet(アルファベット)傘下の企業の最新の偉業はAgent57だ。Atari(アタリ)の57本のゲームすべてにおいて、さまざまな難易度、特性、プレイスタイルで標準的な人間を負かすことができる

57本のAtariゲームで人間に勝るとは言え、使用するゲームによって深層学習エージェントの能力測定の基準が偏りそうな気がするが、これは2012年から採用されている標準的な測定法だ。使用されるAtariのクラシックゲームには、Pitfall(ピットフォール)、Solaris(ソラリス)、Montezuma’s Revenge(モンテズマズ・リベンジ)などが含まれる。これらをまとめて使うことで、難易度のレベルが大きく広がり、勝つために数多くの戦略を考える必要が生じる。

1つのゲームをプレイするごとに勝利確率を最大化していく効率的な戦略などを導き出すことが目的ではないため、これは深層学習エージェントの構築には非常に適した課題となる。つまり、こうしたエージェントの開発と、このような課題を与えたそもそもの目的は、種々雑多な、そして常に変化するシナリオや条件から学習できるAIを生み出すことにある。長期的に目指すのは、これまで遭遇したこともない目の前の問題に知性で対処できる、より人間に近い存在である汎用AIにつながるエージェントの構築だ。

DeepMindのAgent57は、Atari57セットの57本のゲームのすべてで人間に勝る能力を示した点で注目に値する。これまでのエージェントは、平均して人間よりも優れているに過ぎなかった。それは、行動と報酬の単純なループで上達できる同タイプのゲームを大変に得意とするものの、Montezuma’s Revengeのような長期の探検と記憶を要する高度なゲームではまったく振るわないためだ。

DeepMindチームは、問題の各側面ごとに個別のコンピューターが取り組むという分散型エージェントを構築し、それに対処した。一部のコンピューターは、新しい報酬(それまで出会ったことがないもの)に注目するように調整し、目新しさの価値がリセットされる時期を、長期と短期の2種類設定した。その他のコンピューターは、どの反復パターンがいちばん大きな報酬を与えてくれるかを基準によりシンプルな報酬を探し出す。これらすべての結果を総合し、与えられたゲームごとに異なるアプローチにおいてコストと利益のバランスを調子するメタコントローラーを備えたエージェントが管理を行う。

そうしてAgent57は目標を達成したわけだが、いくつか別の新しい方法による改善も可能だとチームは言う。1つ目は、演算量がきわめて膨大であるという問題がある。チームは、今後、無駄を省く方法を探る。2つ目は、簡単なゲームでは、もっとシンプルなエージェントに劣ることがあるという問題だ。それでも、従来の知的エージェントに対して上位5つのゲームで勝利している。チームは、他のそれほど高度でもないエージェントに負けてしまう単純なゲームでの能力を、さらに高める策はあると話している。

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(翻訳:金井哲夫)

NASAが新型コロナ対策のアイデアを全局員からクラウドソーシングで募集

NASAの局内でクラウドソーシングが行われる。世界で最も賢く創造的で才能に恵まれた問題解決集団が、業務の一環として日々現実世界のさまざまな課題を解決している場所だ。だからこそ、進行する新型コロナパンデミックとの戦いにNASAとそのリソースが貢献できる方法を考えるよう、NASAが全局員に呼びかけたことはわれわれにとって大きな励みになる。

NASAは、内部で問題解決に使っているクラウドソーシング・プラットフォームであるNASA@WORKを使用して、新型コロナ危機やそこから生まれるさまざまな問題に対処する新しい方法の創造的アイデアを募集する。すでにNASAはいくつかの方法に取組んでおり、スーパーコンピューターを使った治療方法の研究や、ウイルスを巡って進行中の重要な科学研究の見通しを立てるためのAIソリューションの開発などを行っている。

NASAが局員に向けて行っている公募は、ある程度選択的だ。解決策が最も緊急に必要とされる重要分野を特定し、ホワイトハウスその他のウイルス対策に関わる政府機関と協力して、個人防護具、人工呼吸器、新型コロナウイルスの拡散と伝染を追跡監視する方法などの不足や欠落を補うためにNASA局員の取り組みを集中させるかどうかを判断する。これは、NASAがその他の新型コロナ問題の解決策を聞こうとしないという意味ではない。最も緊急に必要だと判断したのが上記分野だというだけだ

この試みに生産的な時間制約を加えるべく、NASAは上記分野に関するアイデアをNASA @ WORKを通じて4月15日までに提出するよう求めている。その後、何が最も実現可能かを評価し、実現に必要な資源を割り当てるプロセスがある。結果としてつくられる製品やデザインはすべて「オープンソース化してどの企業も国も利用できる」ようにすると同局は言っている。ただし、そこで使われるテクノロジーによっては誰にでも利用可能とは限らない。

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新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Cue Healthが現場で使用する携帯型新型コロナ検査器の開発で米政府と契約

バイオテックのスタートアップCue Healthが、米保健福祉省(U.S. Department of Health and Human Services)の生物医学先端研究開発局(Biomedical Advanced Research and Development Authority, BARDA)と1300万ドル(約14億円)の契約を結んだ。この契約金は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を起こしている新型コロナウイルスSARS-CoV-2の存在を検出する、片手で持てる分子検査器の開発と迅速化に使用される。

Cueは2014年に、家庭でも検査などができるインターネットに接続された超小型実験室(ミニラボ)で起業し、これまで750万ドル(約8億円)を調達している。同社が現在開発しているプロダクトは、カートリッジのような検査キットとインターネットに接続されたミニラボデバイスを結びつけて、結果をパーソナライズされたアプリベースの健康ダッシュボードに送信する。

同社は2018年にBARDAと3000万ドル(約32億円)の契約を結んでおり、インフルエンザと多重呼吸器病原体の現場および家庭用簡易検査器の開発と検証を任されていた。この既存の関係や作業は新型検査器の開発に向けた努力を早急に始めるのに役立つだろう、と同社は言っている。

CEOのAyub Khattak(アユブ・カタック)氏は、声明で「過去2年間、家庭や治療現場でインフルエンザの分子検査を20分でできる検査器をBARDAと共同開発してきた。我々のインターネットに接続するプラットフォームは、SARS-CoV-2ウイルスの検査に関しても重要なツールとして役に立つだろう」と述べている。

同社はまた同年のシリーズBで4500万ドル(約48億円)を調達し、初めてのFDA認可の臨床製品を開発する資金にした。それらは同社にとって初めての消費者向け診断ツールの評価に使われる製品でもあった。

Cueが提案している検査ソリューションは、綿棒で採取した鼻水を検体として、25分間以内に結果が出る。検体を検査専門機関などへ送らなくても治療の現場で検査することができる。

FDAの緊急時使用認可(Emergency Use Authorization)で認められた、現場使用型高速検査器はCueの製品だけではない。利用可能になる具体的なスケジュールはないが、検査器が足りない現状では、効果がある製品がなるべく多くあった方がよい。このCueの仕事は、グローバルな危機や未来のパンデミックで役に立つ、長期的な意義を持つだろう。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

衛星燃料補給技術のOrbitFabが米国立科学財団から資金を獲得

軌道上の衛星燃料補給技術の実用化が、これまでになく現実的なものとなってきた。この技術は軌道上ビジネスのコストと持続可能性の改善に非常に役立つものだ。 2019年のTechCrunch Battlefieldファイナリストである、スタートアップのOrbitFab(オービットファブ)は、軌道上での燃料補給を実現するために取り組んでいる企業の1つである。このたび米国立科学財団(NSF)の初期ステージ高度技術R&D推進組織であるAmerica’s Seed Fundと、その目標へ向かうための新たな契約を結んだ。

この契約が目的としているのは、2つの宇宙船を接続して燃料を送り込むエンドツーエンドのプロセスを管理するために、宇宙でのランデブーおよびドッキング機能を提供するソリューションの開発だ。OrbitFabは2019年10月に開催されたDisruptで、これを可能にするためのコネクタハードウェアを発表している。現在そのハードウェアはRapidly Attachable Fluid Transfer Interface (RAFTI、迅速着脱可能燃料移送インターフェイス)という名前で呼ばれている。RAFTIは、燃料である推進剤を供給および排出するために衛星で使用されている既存のバルブに代わるものとして設計されている。その狙いは、地上での燃料補給と宇宙での燃料補給(あるいは必要に応じて1つの衛星から別の衛星への移送)の互換性を提供できる、新しい標準を確立することだ。

OrbitFabは既に、国際宇宙ステーション(ISS)まで2度飛行することに成功し、2019年には軌道上実験室に水を供給した最初の民間企業となった。同社は栄光に満足することはない、今回の新しい契約は、2020年夏に同社の試験施設で行われる予定のRAFTIのドッキング技術実証の準備に役立つだろう。

長期的には、これはNSFと結ぶ複数年契約の第1段階(フェーズ1)に過ぎない。フェーズ1に含まれるのは、最初のデモを行うための25万ドル(約2690万円)であり、このデモは最終的には宇宙で行う燃料販売ビジネスの最初の試行につながる。OrbitFabのCMOであるJeremy Schiel(ジェレミー・シエル)氏によればそれは「2年以内」に行われるということだ。

「この試行には2つの人工衛星、すなわち私たちのタンカー(補給衛星)と顧客の衛星が必要です。低地球軌道(LEO)でドッキング、燃料交換、デカップリングを行い、私たちの能力を実証できるまでこのプロセスを何度でも繰り返します」と彼はメールで述べている。

これまで軌道上燃料補給に関する多くの技術プロジェクトとデモンストレーションが行われてきており、業界最大の企業の中にもこの課題に取り組むものがいる。しかし、OrbitFabのアプローチは、衛星の大小や企業の違いを乗り越えて活用できる共通標準を提案することで、シンプルさと実現の容易さを目指している。RAFTIを広く採用されるインターフェースにするために、OrbitFabは既に30の異なるプロジェクトや組織と協力していると述べている。

これが成功すれば、OrbitFabは将来の軌道上の商業的な運用環境を支えることができるようになるだろう。宇宙船が軌道上に達したあとは、そこを周回する燃料ステーションが宇宙船からの需要に応えることができるため、燃料は打ち上げコストにおいてほとんど気にならなくなり、燃料を個別価格ではなくバルク価格で購入することができるようになる。

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(翻訳:sako)

米国食品医薬品局が新プログラム導入で新型コロナ治療法の開発を加速

米国時間3月31日、米国食品医薬品局(FDA)は「新型コロナウイルス治療法をできるだけ早く市場に出す」ために公共・民間組織の密接な協同作業を支援する新しいプログラムを発表した。米国保健福祉省のAlex Azar(アレックス・アザー)行政官がプレスリリースで語っている。「新型コロナウイルス治療加速プログラム」(CTAP)と呼ばれるそのプログラムは、FDAが資源や人材を再投入するために、民間企業の研究者、科学者に「規制に関する助言、ガイダンス、技術支援を最速で与える」ことを目的にしている。

同局の提供した情報によると、CTAPは、新しい治療方法をFDAが認可するために必要な臨床試験や手続きを行う企業や研究者にかかる負担を軽減するために、すでにFDA内部で行われていた多くの作業を正式にするということのようだ。

一般社会の言葉で表現すると、FDAはさまざまな手続きを迅速化するために、臨床試験結果の評価を24時間以内に行い、一部の治療方法を患者単位に適用する例外的あるいは研究目的の利用に関する申請を「原則として3時間以内」に処理する。またFDAは、さまざまな組織やプログラムに適用できる合理的な手順を作り、テンプレート化された戦略によって処理時間をさらに短縮することも考えている。

FDAは内部組織の再編成によってこれを可能にした。別の仕事をしていた医療と規制の担当者を新型コロナ関連の承認専門にしている。

この種のプログラム導入の意味については何らかの議論が出てくるに違いない。一方でこのプログラムは新しい手法や、立証されていないが有望な技術を開発しているバイオテックのスタートアップを、FDAの密な協力によって支援できるようにする。しかしもう一方では、FDAは新型コロナ治療に関する強引とも思わえる決定に対してすでに批判を受けており、抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンの緊急使用許可もその1つとなっている。

小規模な試験の結果は、この薬品が新型コロナ患者に一定の効果がありうるとしているが、問題は「ありうる」という部分であり、別の小規模な試験では一般的な抗ウイルス治療も同程度に効果的であることを示している。つまるところ、決定的なことをいうだけのデータはいずれにせよまだ存在していないということであり、この緊急使用許可に関していえば、新型コロナ治療のために備蓄することは、この薬品の一般的利用方法である関節リウマチの治療への利用が難しくなることを意味しており、患者の重篤度を進める恐れがある。

現在の新型コロナウイルスのパンデミックは、感染拡大と影響力において、少なくとも近代医療時代におけるウイルス蔓延という意味で前例のないものである。FDAは独自の方法でこの状況に対処する必要があるが、お役所仕事の効率化に対するプレッシャーがどんな結果を生むのか、批評家や識者が目を光らせていることは間違いない。

画像クレジット:Bloomberg / Contributor / Getty Images

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

SpaceXの有人運用1号機にJAXAの野口聡一宇宙飛行士が搭乗

SpaceXは宇宙飛行士が搭乗する最初のフライトDemo-2の準備に取り組んでいる。厳密にいうと、これはCrew Dragonカプセルが正規ミッションとして飛行開始することが正式に認可される前に必要とされる最後のデモミッションとなる。

画像クレジット:SpaceX

Demo-2ミッションの範囲は多少調整され、宇宙飛行士のBob Behnken(ボブ・ベンキン)氏とDoug Hurley(ダグ・ハーレー)氏が、国際宇宙ステーションで実際にシフト任務を行うことになった。それでもCrew-1が、SpaceXの有人型宇宙船の公式な最初の運用ミッションであることに違いはない。今回、そこに誰が搭乗することになるのか、さらに詳しい情報を得ることができた。

日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、JAXA所属の宇宙飛行士、野口聡一氏がCrew Dragonミッションが正式に運用を開始し次第、その1号機に搭乗すると発表した。またJAXAは3月31日に、野口氏がISSに向かうためのトレーニングを開始したことも明らかにしている。同氏はこれまでに2回、別のミッションでISSに滞在した経験を持つ。最近ではロシアのソユーズで宇宙に向かい、2009年から2010年にかけて滞在した。それ以前にも2005年にはスペースシャトル・ディスカバリーに搭乗し、宇宙ステーションの組み立てに携わっている。

SpaceXとNASAは現在、Demo-1を準備している。すでに報じられているようにDemo-1には、2人のNASAの宇宙飛行士が搭乗する。現在の計画からスケジュールに変更がなければ、5月中旬から下旬には発射される予定だ。それが成功すれば、乗組員4人を運ぶことができるCrew-1のミッションが、2020年の後半には開始される予定となっている。

Crew-1には野口さんのほか、NASAの宇宙飛行士としてMike Hopkins(マイク・ホプキンス)、Victor Glover(ビクター・グローバー)の両氏、そしてNASAが米国時間3月31日にチームの新メンバーとして発表したShannon Walker(シャノン・ウォーカー)氏が搭乗することになる。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

スタートアップのグループが新型コロナと戦う医療従事者にフラットパックの防護ボックスを提供

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対処する医療機関を支援できないかと、スタートアップ企業や起業家たちがいろいろな取り組みをしている。その中に、個人用防護具の需要に応えるCOVIDボックスプロジェクトがある。トロントのボランティアが立ち上げた活動で、スタートアップの創設者やその従業員、さらに医師や医療の専門家も参加している。

このグループが作っている新型コロナウイルス感染症患者の挿管に使う箱は、ポリカーボネート製で、輸送しやすいようにフラットパックになる(平らに折り畳める)。受け取った先で即座に組み立てができ、医療機関などの医師が患者に挿管するときに使用できる。挿管とは、患者の気管にプラスティック製の管を挿入して気道を確保することをいう。特人工呼吸器を使わなければならない人には欠かせない処置だ。新型コロナウイルス感染症が重症化すると、通常は人工呼吸器による治療が必要となる。

挿管ボックスは、医療従事者を守るもう1つの防護層になる。透明プラスティックが使われているので、処置に支障はない。デザインは世界中の新型コロナウイルス感染症患者の挿管をできる限り医療従事者の安全を守りながら行うというグローバルな課題に対処するために、台湾の賴賢勇(ライ・シェンヤン)医師が考案しオープンソース化したものをベースにしている。

COVIDボックスプロジェクトでは、必要な材料がある場合に自作できる手順も公開しているが、もっと大量に配布できるように彼らは大量生産の道を探っている。まずはカナダの病院から開始して、全世界の医療機関の需要にも応じていく予定だ。Taplytics(タプリティクス)の共同創設者でCTOでもあるプロジェクトの共同創始者のJonathan Norris(ジョナサン・ノリス)氏は、チームは1週間かけてプロトタイプの作ったと話している。

「先週の初めに、Taplyticsの財務責任者Gloria Cheung(グロリア・チャン)が私たちのところへやって来て、新型コロナウイルス感染症の患者に挿管するときに医療従事者を守るための簡単なプラスティックの箱を医師たちが欲しがっていると教えてくれました」と彼はメッセージで話してくれた。「私たちは医師グループと、Taplyticsのエンジニアたち、そしてFIRSTロボティクスプログラムで指導をしてくれた私の知人たちとを引き合わせ、その目的に適ったフラットパックにできる箱のデザインを行い、いくつものプロトタイプを作ることができました。私たちはEventscape(イベントスケープ)と協力して、急いでプロトタイプを作り、最終バージョンを仕上げ、昨日、トリリアム・ヘルス・ネットワークでの使用許可をもらったところです」

グループでは、大量生産のための寄付製造を手伝ってくれる仲間を募っている。特にCNCルーターを持っているところが望ましい。むしろ、基本的にCNCルーターさえあれば作ることができるものだ。また、1/4インチ(6ミリ)厚ポリカーボネート板の提供者も探している。

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(翻訳:金井哲夫)

SpaceX Starshipのマニュアルが語るスペースシャトルの後継機となり快適な宇宙旅行を提供できる理由

SpaceX(スペースエックス)は、テキサス州ボカチカで建造を進めている次世代のロケットStarshipの、宇宙船ユーザーマニュアル初版を発表した。このマニュアルはすでに運用中のSpaceXの他のロケットのものほど詳細ではないが、例えば大容量の貨物船としてStarshipをどのように活用したいか、または人を運ぶ宇宙ライナーとして比較的豪華であるとされる理由など、いくつもの興味深い内容が含まれている。

Starshipは静止通信衛星を一度に3基まで同時に運ぶことができ、衛星コンステレーション全体を1回で展開できる。あるいは静止衛星を1基か2基搭載して、余った空間を使って小型衛星の正式な相乗りミッションに利用することも可能だ。現在使用できる手段と比較して、1回のフライトでたくさんのミッションに対応できることは、運用上の費用という面で大変な助けになる。

SpaceXが提案するStarshipのもうひとつの利用法に「宇宙空間で実験を行う宇宙船」の運搬がある。Starshipに宇宙船を搭載したまま一体となって実験やミッションを遂行して、地球に戻ってくるというものだ。事実上これは、Starshipを国際宇宙ステーションのような宇宙研究所プラットフォームにするものだが、宇宙ステーションと違い自力で飛行し帰還する能力を有する。

SpaceXではまた、Starshipは本来のペイロード・アダプターの他に、側壁やノーズにもペイロードを搭載できるようになるという。かつてスペースシャトルにも類似の機能があった。さらにスペースシャトルと同様に、Starshipは軌道上の衛星の回収して必要に応じて軌道上で修理したり、地球に持ち帰ったり、別の軌道に投入したりもできるとSpaceXはいう。これは、現在運用中のどのロケットも成し得ないことだ。

Starshipに人を乗せる場合の設備に関する提案もあった。SpaceXでは100人もの人間を地球低軌道に、さらには月や火星に運ぶことができると説明している。船内設備には「プライベートな客室、広い共有エリア、集中型倉庫、太陽風シェルター、展望ギャラリー」などが考えられると資料には記されている。SpaceXはまた、地点間の移動という用途を特に強調していた。つまり、地球上のある宇宙港から別の宇宙港への移動だが、近宇宙を通過することにより大幅に移動時間を短縮できるということだ。

最後に、小さいながらおもしろい話がある。SpaceXは、打ち上げをフロリダ州のケネディ宇宙センターとテキサス州ボカチカの両方で行い、着陸もその両地点で行われる可能性があるという。複数のSpaceshipが完成して性能が実証され、実際にフライトが始まった際には、運用の頻度が高まるというわけだ。

SpaceXのStarship SN3は、現在ボカチカで建造中だ。エンジンの地上燃焼試験のために、すでに打ち上げ台に運ばれている。SpaceXは2020年末の高高度飛行テストに間に合わせようと、プロトタイプの改善ペースを速めている。そしてゆくゆくはStarshipとSuper Heavy(スーパーヘビー)ロケットブースターも、完全に再利用可能な宇宙船を目指して開発したいと考えている。

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(翻訳:金井哲夫)

Colorが新型コロナ大量検査テクノロジーをオープンソース化、自社ラボも稼働へ

ヘルス・遺伝子テクノロジーのスタートアップColorは、世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に対処するために重要な役割を果たそうとしている。3月31日に公開されたCEOのOthman Laraki(オスマン・ララキ)氏の書簡で、新型コロナウイルスの検査を大幅に拡充するためのColorの支援内容が詳しく説明されている

稼働が計画されている高スループットの検査ラボでは、結果を病院に報告するまでのターンアラウンドタイムを24時間以内として1日あたり最大1万件の検査を処理できるという。Colorは新型コロナウイルス拡大防止に最大限に役立てるために、この検査ラボの設計や検査プロトコルを含むテクノロジーの詳細をオープンソース化し、誰でも利用できるようにするという。これにより高速、大容量の検査施設が世界各地にオープンされることを期待している。

Color自身のラボはすでに準備をほぼ完了しており、ララキ氏によれば「ここ数週間で稼働を開始」できるという。Colorのチームは、MIT(マサチューセッツ工科大学)とハーバード大学が運営するBroad Institute、コーネル大学のWeill Cornell Medicineと協力して、現在標準的に利用されている手法よりも高効率で結果が得られるテクノロジーを開発した。

Colorの重要な強みは、自動化と必要な資材をすばやく調達するテクノロジーにある。 例えば検査に必要な試薬は多数のサプライチェーンから入手可能だ。これは米国だけでなく世界的に大規模な検査体制を構築する上で極めて重要な要素となる。つまり全員が同じテクノロジー、同じ処理プロセスを利用していれば早い段階で試薬などの供給においてボトルネックに直面することになるからだ。1日に数万の検査を処理できるテクノロジーがあっても、必須試薬の1つが他のすべてのラボでも必要とされている場合、たちまち入手困難に陥ってしまうだろう。

Colorは、他の2つの重要な分野でも新型コロナウイルス対策に取り組んでいる。 最前線で仕事をしている人々のための検査と結果判明後のフォローアップ処理だ。こうした人々は社会を機能させるために必須であるが高いリスクに直面しているため検査の必要性が高い。Colorでは政府や雇用主と連携し、病院内の検査、検査ラボのロジスティクス、患者と医師のコミュニケーションなどの改善に注力するために全社的に人員を再配置した。

多くの医師や医療関係者から検査後のワークフローに関する問題が報告されている。つまり検査結果を有効かつ効率的に利用する一貫したフォローアップ体制を構築することが非常に難しいという問題だ。Colorはこの解決にも取り組んでいる。例えば同社はこれまでの経験を活かして構築した独自のワークフローのプラットフォームを開放し、他の新型コロナウイルス検査ラボが無料で利用できるようにしている。

無料で利用できるリソースには、検査結果報告書、患者向けのガイドラインと指示、接触履歴アンケート、陽性と判定された患者に接触しウイルスに暴露された可能性がある人々に連絡する方法などが含まれている。

Colorの新型コロナウイルス対策事業の一部は個人及び組織の寄付によって支えられてきたという。同社では、新型コロナウイルス対策のプロジェクトやリソースに関連して有用な貢献ないしビジネスができると考えるならcovid-response@color.comに直接メールするよう呼びかけている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

Medtronicは定評のあるポータブル人工呼吸器の完全な設計仕様とコードを無料公開

医療および生物医学工学系企業のMedtronic(メドトロニック)が、話題になっている。それというのもTesla(テスラ)のElon Musk(イーロン・マスク)CEOが、新型コロナウイルス(COVID-19)危機に対処するために人工呼吸器を生産したいと同社に相談を持ちかけたからだ。3月30日、Medtronicは、それよりもずっとインパクトのある取り組みを発表した。同社はPuritan Bennett(PB) 560ポータブル人工呼吸器の完全な設計仕様、製造マニュアル、設計資料そして将来的にソフトウェアのコードも一般公開する。

PB560にはいろいろな利点があるが、1つは比較的コンパクトで軽量なため、簡単に持ち運びができて、いろいろな医療機関や医療現場に設置して使えることだ。さらにこの機種は2010年に発売されているため10年間、安全に患者の治療を行ってきた医療機器としての実績もある。

現在、人工呼吸器の製造や、Dyson(ダイソン)のような畑違いの製造業者にも作ることができる新しい人工呼吸器の開発などのさまざまな取り組みが行われており、より多くの患者に行き渡るように、既存のハードウェアに改良を加えようとする企業もある。だがMedtronicは、世界中の製造業者が新たな生産ラインを設備できるように、費用も手数料も取らずにすべてを無料公開するという方法をとった。

それでも、現在の生産ラインを作り変えて別のものを製造するのは、どのような設計仕様を手に入れたそしても、現実には大変な仕事になる。だがMedtronicの取り組みは、今何が作れるかを模索している人たちに必要なリソースを与えることを意図している。それが、新しい画期的なアイデアの青写真になるからだ。製造業者は、Medtronicの実績ある設計を見ることで、自分たちでも比較的早期に製造可能なそれと同じ、または近い性能を有する機器を開発できるかも知れない。

Medtronicではその設計は、短期間で製造に入れて、それぞれの状況に適した設計を開発しようと試みている「発明家、スタートアップ、学術機関」に特に適していると話している。

「私たちはPB560の設計仕様を公開することで、業界の壁を越えて参加を望む企業が、早急に人工呼吸器を製造できる方法を考え、新型コロナウイルスと戦う医師と患者の役に立てるように手助けします」と、MedtronicのMinimally Invasive Therapies Group(低侵襲性治療グループ)対外コミュニケーション責任者John Jordan(ジョン・ジョーダン)氏は言う。

その一方でMedtronicは、PB980やPB840などのより高度な人工呼吸器の製造を続けるが、それらはさまざまな専門メーカーから集めた「1500点以上の部品」が必要で、「専門性の高い熟練した人材」と「相互接続されたグローバルなサプライチェーン」に依存しているためだと彼は話す。PB560でも、ある程度まで同じことがいえるだろうが、小型でシンプルなデザインのために、医療分野に初めて参入し、ほとんどあるいはまったく経験を持たずに人工呼吸器の製造に舵を切ろうと考える企業には最適の候補となる。

注意すべきは、Medtronicは厳密にはPB560の設計仕様をオープンソース化するわけではないということだ。同社は、新型コロナウイルスの世界的パンデミックに対処する場合に限って、特別な「パーミッシブ・ライセンス」を発行する。そして、ライセンスが失効するのは、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」の公式な終息宣言を行ったとき、または2024年10月1日のいずれか早い時点となる。

限られた期間であれ、Medtronicのような営利目的の企業が、独自開発したコード技術を一般公開するところまで考えるというのは、新型コロナウイルス危機がいまだ拡大傾向にあり、深刻化を増している証ともいえる。

PB560の設計仕様を見て、それを元に独自の機器を製造したいと考えるスタートアップや製造業者の皆さんは、こちらでライセンスの内容に同意して登録すれば、ファイルにアクセスできるようになる。

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(翻訳:金井哲夫)