スマート体温計メーカーのKinsa(キンサ)は、インフルエンザなどの季節性疾患が地域でどのように感染拡大するかを示す正確かつ予測的なモデル作りに着手しており、発熱者マップは新型コロナウイルスの世界的なパンデミックにおいて役立つ可能性がある。キンサの米国ヘルスウェザーマップでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を特定してその感染拡大を追跡することはできないが、地理的データに紐づく発熱状況が確認できるため、各地域で講じられる社会的距離戦略と隔離対策の有効性が簡単に把握できる。
キンサのヘルスウェザーマップが2月にニューヨークタイムズに掲載されたとき、同社製体温計の米国市場での流通量は約100万個だった。だが、記事掲載の1週間前から注文が殺到し、注文数は1日あたり1万個ほどに及んでいる。これは同社の分析が、米国総人口に対し非常に膨大なデータセットに基づいていることを意味している。キンサ創設者兼CEOのInder Singh(インダー・シン)氏は、同社がオレゴン州立大学助教授Ben Dalziel(ベン・ダルジエル)氏と提携し、今までにない高精度と高粒度で、地域レベルでのインフルエンザ予測を可能にしたと説明した。
「私が当社を起業した理由の核となる仮説が正しいことが証明された。その核となる仮説とは、感染症の突発的発生の検出や感染拡大の予測をするためには、罹患者から得られる、医療的に正確でリアルタイムの地理的なデータが必要であることだ」とシン氏は言及した。「当社は、自社データをダルジエル氏の感染病拡大第一原理モデルに入力した。そして9月15日には、風邪やインフルエンザのシーズンの残り全期間すなわち超局所的な20週間における感染の山(ピーク)と谷に関して、非常に正確に予測できることが示された」
これまでも、インフルエンザの感染を追跡・予測する努力はされてきたが、今までの「最新技術」は国もしくは複数の州レベルでの予測であり、個別の州や、ましては地域内の傾向の追跡や予測は不可能であった。リードタイムに関しては、キンサとダルジエル氏によるモデルの数ヵ月ではなく、実質的に最短3週間で達成可能だった。
新型コロナウイルスの世界的大流行という危機的な状況がなかったとしても、シン氏、ダルジエル氏とキンサが成し遂げたことは、テクノロジを利用した季節性疾患の追跡と緩和に向けた大きな一歩である。またキンサは1カ月前に「非定型疾患レベル」と呼ばれるヘルスウェザーマップ機能を有効にした。これは米国における新型コロナウイルスの感染と、社会的距離戦略などの主な緩和戦略の効果を解明する重要な先行指標となるだろう。
「リアルタイムの病気の兆候を集め、そこから予想値を取り除く」とシン氏は新しいビューの機能について説明した。「そうすると、非定型疾患が残る。つまり、通常の風邪やインフルエンザの時期からは予想されない発熱者のクラスターが残る。それは新型コロナウイルスと推定できる。新型コロナウイルスだと断言はできないが、普通ではないアウトブレイクであるとは言える。完全に予期されなかった菌株の変異型インフルエンザの可能性もある。また別の何かかもしれないが、少なくともその一部はほぼ間違いなく新型コロナウイルスだろう」。
キンサの米国ヘルスウェザーマップ「非定型疾患」ビュー。赤色は、発熱で示される、予測レベルよりも高い疾患を示す
グラフは、キンサの正確な季節性インフルエンザ予測モデルに基づき、各地域の予測数(青色表示)に対する、実際の発熱者報告件数を示す
上記の例で、シン氏は発熱者の急上昇は、推奨される距離戦略のガイダンスを無視するマイアミ市民と観光客の報告と一致していることを指摘した。ただしそのエリアでは、ビーチの閉鎖やその他の隔離措置などより厳格な措置が講じられた後に急下降がみられた。シン氏は住民が社会的距離戦略を無視しているエリアには急上昇がみられ、ロックダウンやその他の措置が講じられると、その5日以内に曲線が下に向くと言及した。
キンサのデータはリアルタイムというメリットと、ユーザーによって常に更新されるというメリットがある。これは、社会的距離戦略や隔離戦略のより即効的な効果を示すという点では、増加する新型コロナウイルスの検査結果数といった他の指標よりも時間的な利点がある。こうした戦略について起こった批判の1つは、感染確認例が増加の一途をたどっていることだが、専門家は社会的距離戦略がプラスの影響を及ぼしていても、検査の利用可能性が広がると、地域に新しい感染例が増えると予測している。
シン氏が指摘するように、キンサのデータは厳密には発熱範囲の体温を示すものであり、確認された新型コロナウイルスの症例を示すものではない。しかし発熱は新型コロナウイルスの症状がある患者の重要な初期症状であり、キンサが現在行っている風邪とインフルエンザに関連する発熱患者数の予測では、現在の状況は、少なくともかなりの確率で新型コロナウイルスの感染が拡大していることを示している。
アウトブレイクの追跡に位置データを使用することに尻込みする者もいるが、シン氏は地理的な座標と体温のみに関心があると言及。これらのデータを個人を特定する情報に結び付けることはないため、完全に匿名による集計プロジェクトとなる。
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シン氏は「地理的信号をリバースエンジニアリングして個人を特定することはできない。不可能だ」と話してくれた。「これは個人のプライバシーを保護し、社会や地域が必要とするデータを公表する正しい方法だ」と言う。
非定型疾患を追跡する目的で、キンサは現在利用されている標準疾患マップと同等にまで精度を上げることはできない。そうするにはより高度な精巧性が必要とされる。しかし同社は、さらに多くの体温計を市場に出すことで、データセットの拡大に努めている。キンサのハードウェアは多くの健康関連のデバイス同様、現在いたるところで在庫切れとなっているが、シン氏は部品コストの全体的な値上がりにも関わらず、サプライヤーからの部品調達を進めていることに言及した。またシン氏は、他のスマート体温計メーカーとも協力したいと考えており、同社モデルにデータを入力するか、キンサ独自のアプリをワイヤレス体温計ハードウェア用の標準接続インターフェースを使ったBluetooth体温計と互換性を持たせることも検討している。
現在キンサでは、非定型疾患ビューを進化させ、疾患レベルがどの程度の速さで減少しているか、また感染の連鎖を効果的に断ち切るにはどの程度の速さで減少する必要があるかを視覚的に示すことで、自らの選択や行動が与える影響について、一般の人々にさらに情報を提供していくことに取り組んでいる。特に毎日公表される感染者数が切迫した数値になる中で、保健機関、研究者、医療専門家は一様に奨励していることだが、外出を控え、他者との距離を保つという勧告は我々全員にとって課題となっている。キンサの追跡機能は希望の光を与え、各個人の貢献が重要であるということを明確に示してくれるだろう。
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(翻訳:Dragonfly)