地球上で最もパワフルなソーシャルネットワークでありながら、Twitterは完璧とはほど遠い状態だ。登録利用者10億人のうち、4分の1しかアクティブに利用していないのだ。日々、利用してもらうための何かが足りないのだ。さて、その足りないものとは何だろう。
AllThingsDによると、TwitterはLine、KakaoTalk、あるいはSnapchatなどを意識してメッセージアプリケーションの提供を行おうとしているのだそうだ。また、MessageMeの社員とミーティングを行ったという話もある。タッグを組むつもりなのか、あるいは買収(aqui-hire)を視野に入れているのか、細かい話はまだ何もわからない。
実際にこのような動きがあるのかどうかわからないのだが、果たしてTwitterにとって、メッセージングサービスへの参入が、今まさに望まれていることなのだろうか。
答えは「否」であると思う。
ほとんどの人は、身内の連絡用やダイレクトメッセージ送信のためにTwitterを使っているわけではない。誰のスマートフォンを覗いてみても、メッセージングアプリケーションは何本も入っているのが普通だ。そんな状況の中、TwitterのDMを使うのは、Twitter上の連絡先しか知らないからという理由がほとんどを占めるだろう。
TwitterのDMがあまり使われない理由は、単純に「便利ではない」からだろう。しかも、Twitterサービスの開始以来ずっと、Twitter社のDM機能に対する扱いも冷たいものだった。バグらしき問題が生じることもあったり(最近もURLを含んだメッセージが送れないという状況が発生している)、そもそもサイトでは裏メニューのような扱いになっていたりもする。DMを送るにはいくつもクリックしなければならないのだ。
ただ、TwitterはDM関連での機能変更を行っていたりもする。多くの人が話題にしたように、フォローしていない相手からのDMも受け取れるようになったの(標準状態ではこの設定はオフとなっていて、設定のチェックボックスにチェックすることでオンになる)。これは、これまでDMというものを完全にプライベートな世界でのものであるとしていたTwitterの立場を変更するものであるのかもしれない。
しかし、Twitter上のDM機能がさらに充実してきたとしても、通常のテキストメッセージ、Snapchat、Viber、あるいはMessageMeを使わずにTwitterを使おうという動機づけになるのだろうか。数多く存在する他のメッセージングツールから、Twitterに乗り換えるメリットは、何かあるのだろうか。
Twitterとしてみれば、メッセージングアプリケーションの世界に「標準サービス」が存在しない(少なくともアメリカでは)ところにチャンスを見出したい考えなのだろう。だがそもそもTwitterはメッセージングのジャンルを目指したのではなかったはずだ。メッセージングサービスは、Twitterの得意分野というわけでもない。将来的にも、Twitterの利用者が「メッセージング」を目的にTwitterを使うようにはならないと考えるのが普通だろう。
まあ昔話をするのであれば、Dorseyは、Twitterを仲間内での連絡手段として開発したようだ(「食事にする?」といった具合)。しかし、その意図とは異なる方向に進化することとなった。確かに当初は、お互いによく知る人と連絡をメッセージをやり取りする仕組みとして生まれたのかもしれない。そこだけをみれば、確かにTwitterはメッセージングのようなものだった。しかし進化の方向は大いに変化することとなった。
Twitterは成長するにしたがって、身の回りで起こっていることを、広い世界と共有するためのツールとなった。たとえば同じテレビ番組を観ている人たちがTwitterを経由して繋がるようになった。また同じ店にいる人や、同じ困難、あるいは幸運にであった人が、Twitterで情報を分け合うようになった。Twitterは、世界中の人を「リアルタイム」で繋ぐツールになっているのだ。人々の話の流れを楽しみ、そしてその気になれば参加することもできる。Twitterにセレブが参加するようになったことも、現在のこの状況を作り上げる一助となっている。これは「プライベート」な「当事者間」の世界とは対極をなすものだ(Anthony Weinerは個人的なことを大っぴらに扱っていて両者の区別はないのかもしれない)。
安定した数のアクティブユーザーを獲得(そして保持)したいのであれば、強みを活かして、弱い部分から手を引くということが大切なはずだ。現在のTwitterにとって、メッセージング関連サービスが提供サービスの強みであるということはないはずだ。SnapchatやMessageMeの後を追うことは、すなわちTwitterの魅力を薄めてしまうことにもなりかねないように思う。
利用者がいったい何を気に入っているのかを十分に考えるべきだと思うのだ。
たとえばTwitterの魅力のひとつとして、「フォロー」という概念がある。「相互」の関係でない「フォロー」という一方通行の関係性をソーシャルネットワークに持ち込んだのはTwitterが最初だった。この「フォロー」構造のおかげで、現実世界での関係に関わらず、ネットワーク上でいろいろな人と繋がることができるようになったのだ。
また、突然にセレブになるという可能性があるのもTwitterの特徴だ。上の階に住むおかしな隣人のことをツイートしていた人物は本を出すことになった。また、BuzzFeedのライターはFoxに職を得た。
Instagramなど、そのほか数多くのソーシャルネットワークも、Twitterの仕組みを踏襲している。すなわち、友人同士で繋がるためのツールという位置づけから、自分の話を世の中に流すためのチャネルとして機能しているのだ。
フォロワーを増やしたいと、つい考えさせられてしまうのも、広い意味ではTwitterの魅力のひとつと言えるのかもしれない。もっと多くの人にフォローして欲しいと考えて、アクティブユーザーがさらにアクティブになるというようなことがあるからだ。
さらに重視すべきなのは、Twitterが「リアルタイムの会話」に力を入れたサービスである点だ。デジタルツールの中でも、これほどまでに「リアルタイム」を強調するツールは他に見当たらない。多くの人が、Twitterで一番面白かった思い出はと言われれば、他の人と「時間を共有した」瞬間のことを思い出すのではないだろうか。
スーパーボウルで停電になってしまっても、Twitterでは多くの人が共有するその事件を活用することができた。あるいは時間つぶしのドラマを最終回まで見て後悔しても、Twitterで仲間が大勢いることを知り安心することができる。
こうしたTwitterのリアルタイム性というのは、サービス全体の本質ともいえるところだ。シリアスなシリア問題から、暇つぶし的なドラマの最終回に盛り上がるといったところまでをカバーする。さらに、そこに参加して楽しむということもできれば、あるいはただ盛り上がりを眺めて楽しむという両方のスタイルが用意されているのだ。
Twitterの魅力というのはこうしたところにあるのだと思う。メッセージングというのは、そうしたTwitterの本質と離れたところにあるように思うのだ。メッセージングというのは、確かに「ソーシャル」なものではあるが、しかしあくまでも「部分的」なものに過ぎない。そうした「部分」に乗り出すのがうまくいかないのはTwitter CameraやTwitter #music(Twitter社の代表的失敗事例)でわかっていることだと思うのだ。Twitterがなすべきことは、Twitterが提供するソーシャルネットワークの「総合的」な楽しみ方を、新規利用者に対してもわかりやすく、快適に提供することであるはずだ。
もちろんTwitterがそこに気づいていないわけでもない。少しずつ努力は続けているようだ。たとえばTwitter上で交わされる会話のやり取りはスレッドにまとめられ、青線を使って時系列で見ることができるようにしたりなど、便利になる機能を追加しようとしている。会話の中に入っている人をフォローしていないと見え方が異なったり、また、ちょっと古い発言にひとことだけの返信をしたりする人がいた場合など、これまでは会話の流れが全く見えなくなってしまっていた。会話表示の改善というのは、そうした混乱をなくすためになされているものだ。
ただ、Twitterの「強み」は、実のところそのまま「弱み」にもなり得るところが難しい。先ほどあげた「フォロー」という仕組みをみてみよう。フォロワーを増やしたいという気持ちがTwitterを活性化させることがあることは先に書いた。但し、フォローする側に立ってみると、また違う側面が見えてくる。多くの場合、Twitterに参加するといろいろな人をフォローしてみるものだろう。しかしそうこうするうちに、面白そうな人、出版社、興味のある企業など多くをフォローし過ぎて、膨大な量のフィードを消化しきれなくなってしまう。
もちろん、こうした事情があれば外部サービスなどを使ってうまく対処するというのがクラウド時代の対処法だろう。ただ、Twitterでは外部アプリケーションとの連携ということを徐々に制限していたりもする。Twitterではすべてのツイートをそのまま利用者に向けて流し続けることを旨としている。すなわち利用者本人にコントロール権が存在することを意味するのだが、しかし逆に言えば、何か問題を感じたとしてもすべて自力で解決しなければならないといことになっている。
この状況を少し「改善」することでTwitterがずいぶんと使いやすくなると考えている人も多いはずだ。本当に気になるツイートのみをフィルタリングする機能などは、欲しいと考えている人も多いのではなかろうか。
そんなこんなと皆がいろいろと意見を言い始めた昨今、AllThingsDにもあるように、Twitterは7年前のサービス開始から数えて3番目となる大幅なアップグレードを準備中なのだとのこと。シンプルさを意識しつつ、テレビ番組との連携を深め、新たに参加してきた人が簡単に面白そうな話題を見つけられるようにするのだとのこと。また、写真やビデオなどのメディア系も充実する方向らしい。Twitterは、誕生のとき以来、テキストによる表現に重きをおいてきた。また、写真も扱っていこうという方向を強め始めたところで、InstagramがTwitter上に写真を表示しなくなるという「事件」も起きてしまった。そうした事象を乗り越えて、マルチメディア化を進めていくことは、新しい利用者にとっても使いやすく、そしてわかりやすい情報を提供していくことに繋がるだろう。
ちなみに、Twitterが現在のDM機能に改良を加えるというのであれば、それはそれで悪くない話なのかもしれない。DMの機能はそれなりに使い道があるものだ。但し、それを新規利用者獲得のための武器だなどと考えれば、それは思い違いになると思うのだ。また、スタンドアロンのメッセージングアプリケーションを開発するというのは、既存利用者に対するメリットは少なく、単にTwitterというサービスを見えにくくするだけの役にしか立たないのではなかろうか。Twitterの本来的目的のために使える技術者を、他の用途に回してしまうことにも繋がってしまうと思う。
いろいろと書いてきたが、Twitterが何らかの動きを見せるまではすべて憶測の話に過ぎない。しかしどうか妙な改装プランに邁進するようなことはやめて欲しいのだ。記事が「TL;DR」(Too long, didn’t read)と言われそうな記事だが、Twitterに話を聞いてもらうためなら、少しずつDMで送ってもいいと思っている。。
[Image: Flickr/Steve Snodgrass]
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(翻訳:Maeda, H)