PayPalが仮想通貨でオンライン精算できる新機能を導入、まずは米国で

PayPal(ペイパル)は米国3月30日、消費者が何百万というオンライン事業者のサイトで仮想通貨を使って精算できる新機能「Checkout with Crypto」の立ち上げを発表した。機能の拡大は、PayPalが現在行っている仮想通貨マーケットへの投資の一環であり、投資の中には顧客がさまざまな仮想通貨の売買や保持ができるようにするためのPaxosとの提携も含まれる。また、直近の動きとしては仮想通貨セキュリティスタートアップCurvの買収がある。

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PayPalによると、仮想通貨を持つ米国の顧客は数百万の事業者との取引で自身が所有する仮想通貨を使って精算できるようになる。PayPalはこのサービスを今後数カ月で世界中の同社の顧客、2900万のオンライン事業者に拡大する計画だ。この機能には追加のインテグレーションや手数料はない。

実質的には、Checkout with Cryptoでは顧客が精算時にPayPalを通じて仮想通貨を売却し、その後米国ドルで実際の決済を行えるようにする。事業者側には何ら変更はない。事業者はこれまで同様、仮想通貨ではなく米国ドルで支払いを受ける。しかしPayPalの機能ではこうした決済がこれまでと同じ精算の流れで行われるようになっており、買い物客が簡単に仮想通貨を使ってすばやく買い物できるようにしている。

立ち上げにあたっては、Bitcoin(ビットコイン)、Litecoin(ライトコイン)、Ethereum(イーサリアム)、Bitcoin Cash(ビットコインキャッシュ)を扱う。しかしそれぞれの決済で使えるのは仮想通貨1種類のみだ。

顧客がオンライン購入の支払いをするのに十分な仮想通貨を持っている場合、銀行口座やPayPal残高、クレジットカード、デビットカードといった従来の決済方法とともにCheckout with Crypto機能が表示される。他の決済方法と同様、Checkout with Cryptoは詐欺防止や対象となるアイテムの返品・購入保護を含むPayPalの安全とセキュリティ保障の対象となる、と同社は記している。

決済が終わると、客は仮想通貨の売却の記録と決済レシートを受け取る。

同社は仮想通貨マーケットに参入した2020年、仮想通貨での決済のサポートを開始する計画を発表していた。その際、仮想通貨売買サポートを開始した後、2021年に精算機能を立ち上げると述べている。

同社は現在、顧客が仮想通貨を買ったり売ったりする際に決済手数料をとることで収益を上げている。これが、販売業者側から手数料を徴収しない理由だ。

PayPalのサービス立ち上げは仮想通貨が実社会での購入に使える場所を大幅に増やすのに役立ち、デジタル通貨の浸透を加速させるのにもひと役買うかもしれない。

同社の上級副社長であるJim Magats(ジム・マガッツ)氏によると、事業者にとって仮想通貨を決済オプションとして提供することは、歴史的に統合要件、テクニカルの障壁、消費者の間での一般的な認識の欠如のために難しかった。

「Checkout with Cryptoでは、事業者が決済手法として仮想通貨の売却の手続きを受け入れられるようにします。すべて現在のPayPal統合の中で行われ、事業者が追加で何かする必要はありません」とマガッツ氏は述べた。「顧客との間で行われる仮想通貨の売却や変換はPayPalが受け持ちます。そして事業所に購入代金を米ドルで渡すことで、事業所側のプロセスを合理化しています」。

PayPalの今回の動きは、先のTeslaの発表から間もない中でのものだ。Teslaは米国の顧客がビットコインを使ってTesla車を購入できるようになったと明らかにした。そして日本のeコマース大手楽天のニュースもあったばかりで、ユーザーは日本のオンライン事業者からの購入を仮想通貨を使って精算できるようになると発表した。そしてVisaも3月29日に仮想通貨を使った決済を導入すると発表している

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「デジタル決済とデジタル通貨の使用は加速していて、PayPal顧客にPayPalウォレットを使った支払方法で選択肢とフレキシビリティを提供する一方で、Checkout with Cryptoの導入で仮想通貨が主流のもになるよう当社は引き続き注力します」と社長のDan Schulman(ダン・シュルマン)氏はCheckout with Crypto立ち上げについての声明で述べた。「世界中の事業所での購入に仮想通貨を使えるようにすることが、デジタル通貨のユビキタスと一般受け入れを促進するという点で次のステップとなります」と付け加えた。

カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:PayPal仮想通貨

画像クレジット:PayPal

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

Visaが米ドルステーブルコイン「USDC」で仮想通貨による決済を開始

決済カードネットワークのVisa(ビザ)は、Ethereum(イーサリアム)ブロックチェーン基盤のステーブルコインであるUSDC(USD Coin、USDコイン)による決済を認める方針を発表した。Crypto.comは、自社のVisaブランドのカードでこの新機能をテストした最初の企業となった。

USDCはCircle(サークル)とCoinbase(コインベース)が共同で設立したステーブルコインで、Centre Consortiumが管理している。その名が示すように、USDCは米ドルに連動する仮想通貨だ。1 USDCは常に1米ドルの価値があるため、ステーブルコインと呼ばれる。

USDCの価値が安定していることを確認するために、USDCのパートナーは新しいトークンを発行するたびに、銀行口座に米ドルを保管する。その口座は監査され、その口座にある米ドルと同じ数のUSDCが流通していることが確認される。

では、お金のほとんどがデジタル化されている今日、なぜステーブルコインが存在するのか。他の暗号資産と同様に、ステーブルコインは価値の送受信や保管に関して柔軟性がある。銀行口座も必要なく、すべてが簡単にプログラム可能だ。また、レガシーシステムをサポートしたり、銀行と統合したり、他の金融機関に取引手数料を支払う必要もない。

USDCはもともとEthereumブロックチェーン上のトークンとしてスタートしたが、他にもAlgorand(アルゴランド)とStellar(ステラ)ブロックチェーンにもサポートされている。Visaは今のところ、USDCのEthereumバリアントにフォーカスすることを選択している。

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Visaは、すでに世界の160通貨に対応している。海外旅行をしていてもVisaカードをシームレスに利用できるのはそのためだ。トランザクションはカードの利用明細には自国通貨で記載されるが、加盟店への支払いはその国の通貨で行われる。

今回Anchorageとの提携により、Visaは初のデジタル通貨への対応を開始する。Anchorageは最近、連邦銀行の認可を受けデジタル資産銀行としての地位を確立した。Visaはおそらく、このプログラムのために信頼できるパートナーを探していたのだろう。Anchorageが規制当局から承認されたことで、このパートナーシップは理にかなうものとなった。

Crypto.comにとっては、これはUSDCを直接Visaに送れることを意味する。例えば、ウォレットにUSDCを保有しているCrypto.comの顧客がカード取引を行う場合、Crypto.comはUSDCトークンをまず米ドルに変換する必要はない。

Crypto.comはAnchorageにあるVisaのEthereumウォレットアドレスにUSDCを送って、取引を決済することができる。その後、加盟店はVisaから自国の通貨で支払いを受ける。Visaによると、Crypto.com以外にもパートナーを増やしていく予定だという。

カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:VisaUSDC仮想通貨

画像クレジット:Håkan Dahlström Photography / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Romain Dillet、翻訳:Aya Nakazato)

ボストン・ダイナミクスの次期商用ロボットは退屈な倉庫仕事をこなす「Stretch」

Handleの後継機種のStretchは物流に活躍の場を見出す

Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)が、長い年月をかけてロボットの研究会社から、ハードウェアを製品化して販売する会社へと変遷してきた様子は、とても興味深いものだった。その過程では、結局世界のほとんどのロボットは、ありふれた仕事に使われることになるという、現実的な教訓を教える厳しいレッスンもあった

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もちろん同社は、自社の技術の結晶がオールディーズに合わせて踊ってみせる、楽しいバイラルビデオを世間に向けて発信し続けるだろう。しかし、実際にロボットを販売するという話になると、そのターゲットは、人間がやりたがらない退屈で汚くて危険な(dull, dirty, dangerous、3D)仕事であるということは変わらない。あるいは、以前から私が言っているように、ロボットは、明らかにクールではないタスクを実行するための、クールなテクノロジーであることが多いのだ。

同社のSpot(スポット)は検査ロボットとして成功を収めている。この4脚ロボットは、油田や原子力発電所など、多くの人ができれば滞在時間を制限したいと考える場所に配備されている。3D仕事のうち、危険(dangerous)な部分はこれで片づいたが、同社の2台目の商用ロボットは、退屈(dull)な部分を狙っていると言ってもいいだろう。

画像クレジット:Boston Dynamics

運送・物流がいかに巨大な産業であるかについては、たくさんの統計を引用するまでもないだろう。また、多くの注文がオンラインに移行しているために、規模は拡大する一方なのだ。Locus(ローカス)、Fetch(フェッチ)、Berkshire Grey(バークシャー・グレイ)などの多くのロボット企業が、この種の自動化に事業全体を振り向けていることには理由があるのだ。LocusのCEOが最近語ったように、誰もがAmazon(アマゾン)とその強大なロボット軍団に対抗するための技術を探し求めている。

(現在はプロトタイプの)Stretch(ストレッチ)は、同社が4年あまり前にYouTubeの動画で紹介したロボットHandle(ハンドル)の商用化を目指したものだ。この車輪つきロボットは、動画で紹介された最初期型は滑走しながらバランスを保ち、さまざまな障害物を乗り越えることができる、非常に汎用性の高いロボットだった。またそのときは、100ポンド(約45kg)の木箱を拾うこともできた。当時はこれが将来の進化の基礎になるとは、ほとんど想像することはできなかった。

実際、Handleの箱持ち上げの歴史はもっと古く、同社のヒューマノイドロボットAtlas(アトラス)を使ったビデオにまでさかのぼることができる。Boston Dynamics のプロダクト・エンジニアリング担当副社長であるKevin Blankespoor(ケビン・ブランクスポーア)氏は、TechCrunchに対して「私たちはそこで、Atlasが箱を移動する様子を紹介しましたが、それには倉庫関係の方々からの大きな関心が寄せられたのです」と語った。「実際、Atlasに働いて欲しいという声が挙がりました。その声を受けて私たちは、倉庫での作業をこなすことのできる、もっとシンプルなロボットを設計できると考え、そこからHandleが生まれました。実際にその時点で、Atlasプロジェクトから分離したのです」。

ブランクスプール氏によれば、Handleは「車輪と脚を組み合わせたい」という同社の長年の願望から生まれたもので、倉庫内で物を移動させるためのロボットを設計するという初期の実験のための基礎になったという。

画像クレジット:Boston Dynamics

「私たちはHandleを倉庫に置いて、お客様と実験を始めました。そこでHandleはいくつかの異なるタスクをこなしました。1つ目はパレットからの荷下ろしで、これはかなり良い結果を出せました。2つ目の応用は、トラックからの荷下ろしでした。ここでHandleは仕事をこなすことはできましたが、それはかなり遅いものでした。狭い空間で、たくさんの操作をしなければならず、動作が遅すぎたのです」。

2019年に公開された「Handle Robot Reimagined for Logistics」と題された動画では、上部に取り付けられた大きなアームに、複数の吸盤で構成されたグリッパーを装備した、車輪型ロボットが紹介されている。その動画では、2台のロボットが連携して、1つのパレットから別のパレットに箱を移動させている。しかし、Stretchの画像を見ると、Boston Dynamicsが商業的実用化に向けて、ロボットをどれだけ劇的に見直したかがわかる。

真っ先に目につくのは、Handleの2つの大きな車輪がなくなったことだ。車輪があった場所には、大きくて黒い台がある。「移動の基盤となるのは、その底部です」とブランクスポーア氏はいう。「パレットの大きさに合わせて設計されているので、倉庫内でパレット置ける場所ならどこでも操作を行うことができます」。

本体にはまだ車輪が付いているものの、ほぼ目立たなくなっている。2つだった車輪は4つになり、底部の内側に隠されている。どの方向にも動けるので、移動範囲が広く、このサイズのロボットとしては比較的コンパクトな旋回が可能だ。また、アームの横には「パーセプションマスト」(知覚柱)があり、自律的な移動やピッキングを行うために、ロボットの目として効率的に機能している。

画像クレジット:Boston Dynamics

このロボットは、現在約100名のスタッフが働くBoston Dynamicsの倉庫部門で設計されたものだ。その中には、2019年にKinema Systems(キネマ・システムズ)の買収の一環として同社が雇用した従業員も含まれているが、Kinama Systemsの3D視覚技術が取り込まれて、Stretchのピッキング性能を向上させている。

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初期の応用例としては、トラックからの荷降ろしやオーダービルディング(商品を1つのパレットに効率的にまとめること)などがある。将来的には、トラックへの積み込みなどの応用も考えられているが、現在はまだ初期段階だ。システムの特性は、Berkshire-Greyのようなゼロから自動化を組み上げる企業のものよりも、よりプラグアンドプレイに近いものだ。また、他の倉庫システムとも互換性を持つことができるようにしている最中だ。

Boston Dynamicsは、この夏に最初のユニットを製造し、2022年にはStretchを販売する予定だ。価格についてはまだ公表されていないものの、ブランクスポーア氏は「普通工場で見かける、床にボルトで固定された従来のロボットシステムと、同等のものになるでしょう」と語っている。

カテゴリー:ロボティクス
タグ:Boston Dynamics倉庫物流

画像クレジット:Boston Dynamics

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(文:Brian Heater、翻訳:sako)

次世代のEV充電ネットワーク構築を目指すSparkCharge

米国時間2月23日、モバイル充電バッテリー会社のSparkChargeは、AllStateとのパートナーシップ契約を発表した。これにより、同社が提供するサービスは車両サービスにまで拡大され、電気自動車の充電を次世代ギグエコノミーにおける同社の中核ビジネスにするという目標に向けてさらに前進する。

モバイル車両充電器を開発、設計、商品化した同社は、Shark Tank(シャーク・タンク、米国のテレビ番組)で、投資家のMark Cuban(マーク・キューバン)氏らが率いる500万ドル(約5億5000万円)の資金調達ラウンドで新しいモバイル充電デバイス、Roadie(ローディー)を商品化する。

SparkChargeが開発した120kWの急速充電器は、AllStateとノースカロライナ州ダーラムの車両サービススタートアップであるSpiffyを含むパートナーのネットワークを通じて、オンデマンドで提供される。顧客はローディーを使って、50~100マイル(約80〜160km)ごとに車両を充電することができる。ローディーは、SparkChargeの創設者であるJoshua Aviv(ジョシュア・アビブ)氏が構想中のより広範な充電ネットワークの中軸となる。

「アプリだけで、いつ、どこで、どれだけの充電が必要かを連絡し、料金を支払い、充電サービスを受けることができます」とアビブ氏は話す。

現在のところ、AllStateとSparkChargeの間の契約は、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴの4つの都市を対象としており、AllState(保険サービスおよびロードサイドアシスタンスサービスを提供)は約20台のポータブル充電器を発注している。

SpiffyやAllStateなどの企業を介したビジネスは、市場に参入する1つの方法ではあるものの、アビブ氏は個人事業主が顧客にオンデマンド充電サービスを提供できるようにしたいと考えている。

アビブ氏によると、オンデマンドの充電料金は1マイル(約1.6km)あたり約50セント(約54円)で、10ドル(約1080円)あれば十分に充電できる。

「私たちは根本的にまったく新しい充電ネットワークを構築しようとしています」とアビブ氏は話す。「急場をしのぐだけのネットワークではなく、常時利用可能で、従来の充電器よりも優れた高速なネットワークの構築です。許可や建設は必要ありません。顧客は充電ユニットを箱から取り出し、車に接続し、ボタンを押して充電を開始します。SparkChargeのサービスでは、すべての駐車場、すべての場所が充電ステーションになります。これは、従来のサービスよりもはるかに優れたネットワークです」。

この充電サービスを顧客に提供したい事業主は、機器代として月額約450ドル(約5万円)を支払う。するとバッテリーと必要な機器が提供され、SparkChargeのオンデマンドEV充電ビジネスを開始することができる。

「このビジネスは、誰もがEV所有者にサービスを提供できるように設計されています」とアビブ氏はいう。

マサチューセッツ州サマービルを拠点とするSparkChargeは、電気自動車の充電インフラストラクチャの現状に対するアビブ氏自身の情熱と欲求不満から生まれた。

充電インフラの欠如が、電気自動車の普及に向けて克服しなければならない主要な障害の1つだということは、ウォールストリートジャーナルの記事の通りである。

2020年9月と10月にアドボカシー団体Plug In America(プラグイン・アメリカ)が実施した調査によると、3500人の電気自動車ドライバーの半数以上が公共充電に問題があると回答している。テスラオーナー以外のドライバーにとってはさらに深刻な問題である。

Elon Musk(イーロン・マスク)氏が(何千人もの従業員と数多くのイノベーターや会社創立者とともに)作り上げたEVについて、何が真実であれ、テスラが、ほぼ適切な量の充電インフラストラクチャを備えて顧客をサポートすることに重点を置いて、多大な利益を得ていることは事実である。他の自動車メーカー、小売業者、独立充電サービスプロバイダーはやっと追いつき始めたに過ぎない。

Shellのような石油メジャーから、ディーゼル排気ガス不正問題の解決の一環として電気自動車の充電ネットワークを構築するために20億ドルを費やしたフォルクスワーゲンのような自動車メーカーに至るまで、さまざまな企業がネットワークを構築したり、準備を進めたりしている。

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2013年にシボレーボルトを購入して以来、電気自動車に乗り続けているアビブ氏にとって、問題は明らかだった。同氏はシラキュース大学の学生だった2014年にSparkChargeを立ち上げるが、大学の指導教官は、過去に環境保護庁の理事を務めており、電気自動車の熱烈な支持者であった。

アビブ氏は大学卒業後もポータブル充電ステーションの開発に取り組み続け、さらに流通および販売のプラットフォームとサービスプロバイダーのネットワークを構築した。これがSparkChargeのルーツである。

当初、同社はロサンゼルスのクリーンテック・インキュベーターなどのグループや、Techstars Boston、Techstars、Steve Case(スティーブ・ケース)氏のRise of the Restファンド、ケース氏の投資会社であるRevolution、PEAK6 Investments、Buffalo、ニューヨークを拠点とするアクセラレーターである43North、Mark Cuban(マーク・キューバン)氏のような投資家の支援を受けていた。

「現在利用できる充電インフラには多くの欠陥があることがわかりました」とアビブ氏は話す。この欠陥には、充電インフラを維持するためのダウンタイム、充電ネットワークの拡大にかかる時間、充電器のメンテナンスやサポートの不足などが含まれる。

「これらの充電サービスを進展させようという大きな動きがあります」と同氏。「電気自動車がインフラストラクチャのバックアップなしに街中を走るのは望ましくありません。これから競争が始まるとは思いますが、充電スタンドではなく、オンデマンドで充電を受けることができるのであれば、SparkChargeを使用してEVを運転したいという消費者はもっと増えるだろうと考えています」。

カテゴリー:モビリティ
タグ:SparkChargeバッテリー充電ステーション電気自動車

画像クレジット:Westend61 / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

親しみ感ある短い音声メッセージを友達と共有するCappuccino、オーディオSNSが次のフロンティアか

CappuccinoはアンチClubhouseと言えるかもしれないが、同社はここ数年間でアプリの独自のコンセプトを練り上げてきており、CEOはClubhouseに対して競合だとは考えていない。Cappuccino自体が興味深いソーシャルアプリであることは確かだ。忠実なユーザーベースを引きつけており、TikTokの動画がバズってから特に顕著になっている。

同スタートアップは、友達とポッドキャストを録音できるアプリを構築中であることを明らかにした。ここ数年、ポッドキャストの存在が多くの人に認知されつつある。ポッドキャストでは、オーディオ番組をサブスクライブしたり、オンデマンドでエピソードを視聴したりできる。

まず、人々は彼らなりの興味を持ってポッドキャストの視聴を開始する。しかし、友達同士でポッドキャストの話題になったときには、ホストのパーソナリティの魅力からその番組を気に入っているという話になるだろう。

ポッドキャストを聞くことは、他に類を見ないコンテンツ消費体験だ。YouTubeで特定のユーチューバーが公開した動画をすべて見たり、Instagramで誰かをフォローしてその人の個人的な生活をよく知って親しみを覚えたりすることもあるだろう。

しかし、イヤフォンを耳に入れたまま何時間も人の話を聞くのはかなり親密な体験だ。ポッドキャストでは、何人かの友人と部屋に座って彼らの話を聞いているような感じがする。

ただし、お気に入りのポッドキャストのホストは友達ではない可能性が高い。

そこにCappuccinoの特性が活かされるニーズがある。同アプリでは、友達や家族とグループを作ることが可能だ。グループのメンバーは、Beanというショートオーディオメッセージを録音できる。自分が考えていることについて数分間語るものだ。翌朝、グループのメンバーに「朝のカプチーノが入りました」というお知らせが届く。

「再生」をクリックすると、クールなイントロ音楽が流れ始め、友人からの音声メッセージが聞こえてくる。これは単なるボイスメモの連なりではなく、友達からのハッピーなメッセージ、楽しいメッセージ、思いやりのあるメッセージがミックスされたリラックスした雰囲気が感じられるものだ。

Cappuccinoはソーシャルアプリでありながら、親しい友人や家族に焦点を当てている。フォロワーを増やそうとするものではなく、公開投稿を共有するものでもない。すべては個人仕様に設計されており、実生活の友達のグループにフォーカスされている。

いろいろな意味で、Snapchatのグループストーリーを彷彿とさせる。しかしCappuccinoの主たるインスピレーションの源は、Snapchatではなくポッドキャスティングであった。

画像クレジット:Cappuccino

プロトタイプを早期に作成し、頻繁にイテレーションを行う

同社の共同創設者兼CEOのGilles Poupardin(ジル・プパルダン)氏にアプリの起源について話を聞いたところ、Cappuccinoはプパルダン氏の最初のスタートアップではないようだ。同氏はWhydで数年間、スタートアップとしてのあらゆる経験を積んでいる。資金調達ラウンドを行い、事業の方向転換を決め、ベイエリアのY Combinatorに参加した後、自社のCTOと道を分け、同スタートアップの閉鎖を決断した。

Whydは、AmazonのEchoやGoogleのNestが本格的に登場する前に、ボイスコントロール機能を備えたコネクテッドスピーカーの開発に取り組んでいた。しかし大手テクノロジー企業と競合するのは厳しく、ハードウェアの分野で競争することはさらに困難を極める。

その後Whydのチームは、ユーザーが独自の音声アシスタントを作成できるサービスに取り組んだが、それも期待どおりにはいかなかった。

2019年の夏、Olivier Desmoulin(オリヴィエ・デスモラン)氏はプパルダン氏に連絡を取った。当時デスモラン氏は、オンラインのプライバシーを守るためのアプリであるJumboの設計に取り組んでいた。

「当時、私は会社を再び始めたいかどうか迷っていました。私が(Whydで)行った方向転換は15回にも上りました」とプパルダン氏は語った。

しかし、両氏はソーシャルアプリの次のフロンティアとして、ポッドキャストとAirPods、そしてオーディオ全般について議論し始めた。基本的な前提はシンプルだった。ポッドキャストを聞いている人はたくさんいるが、自分でポッドキャストを作っている人はほとんどいない。

あなたの親しい人が自分のポッドキャストは持っていなくても、InstagramやSnapchatには時々投稿する理由は3つある。

ポッドキャストは長い形式のコンテンツである。

ポッドキャストを録音して公開するのは技術的に難しい。

自分を知らない人たちをオーディエンスとして引きつけようとしている。

Cappuccinoでは、短いコンテンツ、録音しやすい、パーソナルなものという3つの点で従来とは逆のスタンスを目指している。音声を録音する人にとっても、音声を聞く人にとっても、より良い体験になるはずだ。

Cappuccinoの最初のバージョンはアプリではなく、サイドプロジェクトとなっている。「WhatsAppでグループを作って10人から15人を招待し、彼らが録音したボイスメモをオリヴィエへ送ってもらいました」とプパルダン氏は説明する。

オリヴィエ・デスモラン氏が毎晩、GarageBandを使ってすべてのボイスメモをミックスしたものを作成する。朝、同氏はWhatsAppのグループ会話に「カプチーノができました」とメッセージを送る。

画像クレジット:Cappuccino

グループメンバーから肯定的なフィードバックを得た後、プパルダン氏とデスモラン氏はさらに前進してアプリの構築を目指すようになったが、ユーザーを引きつけるソーシャルアプリの作成が非常に難しいことを知っていた。誰も使わないようなものを開発することに時間を浪費しないように留意しながら、迅速に開発を進めた。

「私たちは試しにアプリの最初のバージョンを4日で構築しました。バックエンドサービスとしてAirtableを採用しています」とプパルダン氏は続けた。

またしても、ベータ版ユーザーからのフィードバックはかなり良いものだった。両氏はこのアプリを一部の投資家に披露し、最終的にAlexia Bonatsos(アレクシア・ボナツォス)氏(Dream Machine、元TechCrunch編集者)、SV Angel、Kevin Carter(ケビン・カーター)氏(Night Capital)、Niv Shrug Capital、Jean de La Rochebrochard(ジャン・ド・ラ・ロシュブロシャード)氏(Kima Ventures)、Kevin Kuipers(ケビン・クイパース)氏、Willy Braun(ウィリー・ブラウン)氏、Marie Ekeland(マリー・エケランド)氏、Solomon Hykes(ソロモン・ハイクス)氏(Dockerの創設者)、Pierre Valade(ピエール・ヴァラード )氏(SunriseおよびJumbo Privacyの創設者)、Moshe Lifschitz(モシェ・リフシッツ)氏(Basement Fund)、Anthony Marnell(アンソニー・マーネル氏)、Bryan Kim(ブライアン・キム)氏、Uncommon Projectsなどから120万ドル(約1億3000万円)を調達した。

WhydでかつてCTOを務めていたGawen Arab(ガウエン・アラブ)氏は、再びプパルダン氏とチームを組み、時間の循環がフラットであることを証明した。同氏は現在、Cappuccinoの共同創設者兼CTOとなっている。

画像クレジット:Cappuccino

人にあなたについて話してもらうこと

Cappuccinoのチームは、プレス関係や広告に関しては積極的ではないものの、興味深い急上昇を見せながら徐々に成長している。

2020年の夏、Product HuntのスーパーユーザーであるChris Messina(クリス・メッシーナ)氏がCappuccinoについての記事を書いたが、同スタートアップがProduct Huntでの特集を目指していなかったことは少々驚きだった。それでも、共同創設者たちはProduct Huntコミュニティからの質問に熱心に答えた。

翌日、Product Huntのニュースレターに「次に来るビッグオーディオソーシャルネットワークか?」というタイトルでCappuccinoの特集が掲載され、一部の新規ユーザーを呼び込むことになった。

画像クレジット:Cappuccino

しかし、数週間前にBrittany Kay Collier(ブリタニー・ケイ・コリアー)氏がTikTokでCappuccinoについての動画を公開したことで、事態は本格的に進展し始めていた。同氏はInstagramでプパルダン氏に直接メッセージを送り、多くの再生回数を獲得していることを伝えた。最終的にこの動画は380万の再生回数と85万のいいねを集めている。

プパルダン氏はその2日後、チームへの参加をコリアー氏にオファーした。プパルダン氏はコリアー氏がイエスということをひそかに期待していたし、コリアー氏自身もCappuccinoのような会社で働くことを内心夢見ていた。

ここ数週間で、Cappuccinoは22万5千人に上る新規ユーザーを獲得した。13万のグループが生まれ、約100万件のオーディオストーリーが配信されている。

チームはTwitterでCappuccinoに関する公開記事を読むと、アプリがコアユーザーベースを得ているように感じるという。最も忠実なユーザーは20代の若い女性のようだ。彼女たちは長距離の親友と連絡を取り続けたいと思っている。

大学を卒業後に、それぞれ別の地域へ移っていくこともあるだろう。あるいは現在のパンデミックの影響で、自宅で足止めされているかもしれない。

新規ユーザーは、録音ボタンを押してストーリーを語ることに何の支障も感じないようだ。WhatsAppやiMessageのボイスメッセージに慣れているのだろう。

「オーディオメッセージを媒体とすることが魅力的なのは、Instagramで写真を撮ったり、Snapで写真を送ったり、TikTokでビデオを作ったりしたりするときとは違うストーリーを伝えられることです」とプパルダン氏は語っている。

同社が目指す領域はどこだろうか。Clubhouseはすでに800万ダウンロードを突破している。プパルダン氏は、ソーシャルグラフ、オーディオフォーマット、ユーザーベースにおける差異を挙げた。同氏によると、複数のオーディオアプリに十分な参入の余地があるという。

「動画にはYouTube、Twitch、TikTokなどがありますが、これらはすべて異なるフォーマットになっています。オーディオも同じトレンドに追随する可能性があります」とプパルダン氏はいう。また、ソーシャルアプリがスマートフォンのカメラを取り入れたのは、カメラが自社で開発するには厳しいハードウェア機能だったからであるが、オーディオも自然にそのステップを踏むことになりそうだ。

プパルダン氏は今のところ、他のオーディオスタートアップとは競合していないと感じている。同氏は、人々が目を覚ましたとき、Spotify上のランダムな音楽の代わりにCappuccinoを聞くことを期待している。「孤独を感じる人たちに手を差し伸べるようなものとなるでしょう」と同氏は語った。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:Cappuccinoポッドキャスト音声ソーシャルネットワークコラム

画像クレジット:Cappuccino

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(文:Romain Dillet、翻訳:Dragonfly)

高セキュリティのメッセージングアプリ「Signal」開発者氏が助言を行った仮想通貨「MobileCoin」がベンチャー資金調達

プライベートメッセージングアプリ「Signal」を開発したMoxie Marlinspike(モクシー・マーリンスパイク)氏から技術指導を受けた仮想通貨「MobileCoin」が、Future VenturesとGeneral Catalystから2ラウンドにわたって1135万ドル(約12億3000万円)の新たなベンチャー資金を調達した。

同社をよく知る関係者によれば、このラウンドにより、現在は利用できないSignalのプラットフォーム上でMobileCoinが利用できるようになる可能性が高まったのではないかという。

マーリンスパイク氏とは連絡が取れなかったが、彼の役割をよく知る人物によると、彼はほぼ完全に自身の事業に集中しているようだ。MobileCoinの創設者であり、LinkedInでMobileCoinの「門番」であると自称しているJoshua Goldbard(ジョシュア・ゴールドバード)氏には米国時間3月9日の午後Signalで連絡が取れたものの、質問への回答は拒否された。投資家らにMobileCoinが他の仮想通貨関連企業と比べてどうなのかという質問をしても、回答を得ることはできなかった。

WiredがMobileCoinを初めて紹介したのは2017年のことで、仮想通貨の大小さまざまな課題を克服する必要があると説明されている。多くの人や商売にとって複雑すぎて使えない、十分な拡張性がない、取引に時間がかかりすぎるなどの課題である。

例えば、CryptoKittiesやNBA Top Shotなどの事業を展開するDapper Labsは、Ethereumのスケーラビリティの問題があったことや、より「消費者志向」のプラットフォームの開発に興味を持ったことから、2020年に独自のブロックチェーンと「Flow」トークンを開発した。

当時Wiredは「世界はもうこれ以上多くの仮想通貨を必要としていないのではないか」としながらも(現在オンライン上では4000以上の仮想通貨が発行されている)「Signal」でのマーリンスパイク氏の実績を考えると「注目に値するプロジェクトである」と述べている。

MobileCoinのウェブサイトによると、同社は携帯電話での「ほぼ瞬時的な取引」による支払いに、確実なプライバシー保護を提供することを目指しているという。しかし、携帯電話に仮想通貨を保存する際のリスクとして、携帯電話のロックが解除されたまま放置されたり、携帯電話の無線がハッキングされたり、または例えばiOS自体がハッキングされたりすることもあり、こういった場合このプライバシー保護の価値が失われる可能性がある(iOSには、特定のサービスや情報へのアクセスをアプリに許可する際に強固な許可システムが採用されているが、それでもこのようなことは起こる)。

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同サイトによると、携帯電話を紛失した際には財布を「安全に復元」できるというのがMobileCoinの特徴だという。ただしこれは秘密鍵を託すプロバイダーを信用しないことには成り立たない(MobileCoinはその必要はないという)。これについては、近日中に詳細が発表されると思われる。

ゴールドバード氏とマーリンスパイク氏は、MobileCoinをSignalやWhatsAppなどのチャットアプリに組み込むことを想定しているとWiredに語っているが、もしMobileCoinがSignalでの事実上の取引方法の1つとなれば、その影響力は絶大なものになる可能性がある。

Signalはプラットフォームのユーザー数を公表していないが、現在、推定4000万人が同社の暗号化されたメッセージングアプリを利用しており、2021年初めのトランプ大統領の任期が終わりつつある時期にダウンロード数が急増した。モバイルアプリの分析を提供するSensor Towerによると、Signalの1日あたりのダウンロード数は通常5万件のところ、1月5日の週には1780万件のダウンロードがあったという。

Signalでの大量使用がMobileCoinの価値向上につながるのであれば、2020年12月初旬に仮想通貨取引所のFTXで購入できるようになったこの通貨は、上昇気流に乗っているように見える。

マーリンスパイク氏の早期段階からの関与は間違いなくプラスではあるものの、仮想通貨とメッセージングアプリの相性は、規制当局の影響もありこれまであまり良いものではなかった。2009年にウォータールー大学の学生グループによって設立されたモバイルメッセージングアプリのKik Messengerは、ユーザーがプラットフォーム内で使用できるKinというデジタル通貨を作成した。このプロジェクトは最終的に米国証券取引委員会との数年に及ぶ争いに発展し、同社はほぼ壊滅状態に陥ったが、現在は復帰を果たそうとしている。

(MobileCoinの擁護のためにいうと、ベンチャーキャピタルを頼ったMobileCoinとは対照的に、Kikはイニシャル・コイン・オファリング、ICOという、当時はまだ実績がなく規制もない資金調達方法でKinから資金を集めようとしていた)

Signalよりもはるかに大規模なメッセージングアプリであるTelegram(2020年4月時点でのユーザー数は推定4億人)も、SECと何年も争った後、スマートフォンを持っている人に独自の分散型仮想通貨を提供する計画を放棄した。Kikと同様、Telegramの一連の出来事の一部は、ICOによるトークンの早期販売に起因している。

Facebookでさえ、新しい仮想通貨に関する野心的な計画を縮小し、代わりにドルに裏づけられた単一のデジタルコインを発行することを決意したにもかかわらず、まだ何も公開していない(間もなく発表されると見込まれるが)。

もしかすると、MobileCoinは単に米国外での活動を計画しているのかもしれない。実際、2020年12月にMediumに掲載された公開記事によると、MobileCoin Foundationは、このプロジェクトを米国のユーザーや「他の禁止された管轄区域の人や団体」は利用できないと記している。

いずれにせよ、今回の新ラウンドはMobileCoinにとって初めての外部調達ラウンドではない。2018年5月には、投資家から2970万ドル(約32億2500万円)を調達したことをSEC提出書類で明らかにしている。報道によれば、仮想通貨取引所大手のBinanceのベンチャー部門であるBinance Labsがその資金調達を主導したという。

カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:MobileCoin仮想通貨資金調達Signal

画像クレジット:Signal

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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)

買収意欲旺盛な宇宙インフラ企業RedwireがSPAC経由で株式公開へ

2021年に発表された一連の宇宙スタートアップSPACに最も新しく仲間入りするのは、2020年にPE会社によって立ち上げられたRedwireだ。同社はここ1年ほどの間に、Adcole Space、Roccor、Made in Space、LoadPath、Oakman Aerospace、Deployable Space Systemsなど、数多くの小規模企業を買収している。Redwireは、SPAC(特別買収目的会社)であるGenesis Park Acquisition Corp.との合併により株式公開し、合併後の会社はニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場すると発表した。

この合併により、Redwireのプロフォーマ企業価値は6億1500万ドル(約671億5000万円)となり、合併後のRedwireの資金には、1億ドル(約109億円)以上のPIPE(上場企業の私募増資)を含め、1億7000万ドル(約185億6000万円)が追加されると予想される。驚くことではないだろうが、Redwireが考えている資金使途の1つは、宇宙分野でのサービス提供を強化するための継続的なM&A活動だ。

Redwireのマンデートは特に新しい宇宙関連企業を狙うことではなく、混み合った宇宙市場の中でも、特定の狭い範囲の専門知識を持つ企業をターゲットとすることだ。軌道上での製造・サービス、衛星の設計・製造・組立、ペイロードの統合、センサーの設計・開発など、同社はさまざまな能力を持っている。アイデアとしては、打上げと地上局のコンポーネントを除く宇宙技術サービスを先端から末端まで提供できる、複数の技術に精通しているインフラ企業を構築しようとしているように見える。

関連記事:ロケット打ち上げのRocket LabがSPAC合併で上場へ、企業価値4370億円に

急速に発展している宇宙経済に向けて、これはスマートなアプローチといえる。宇宙で事業を展開したいと考えているテック企業は、自社のユニークな価値提案に集中したいと考えており、実際に宇宙に行って活動するという、複雑ではあるがほとんど解決済みのビジネスを外注したいと考えている。他社も同様の方法で市場に対応しており、ロケットメーカーがプロセスの一部を内製化することで、比較的近い将来、ペイロードの顧客は基本的に宇宙に送りたいセンサーや通信機器を持ってくるだけでよく、ロケットメーカーは衛星も含めてその他のすべてを提供することになるだろう。

Redwireは2021年に1億6300万ドル(約177億9000万円)の収益を見込んでおり、収益を生み出す力があることが証明されている。また、現在Redwireの傘下で事業を展開している企業の多くはかなり成熟しており、何年にもわたって営業キャッシュフローが黒字の場合も多い。こうしたことから、公開市場への道としてのSPACは、このような場合には意味があると思われる。しかし、このルートを選択する宇宙企業の頻度と量が増えていることから、全体的には健全な懐疑心を持って見守るべきトレンドである。

関連記事:衛星コンステレーションのSpire Globalが約1712億万円のSPACを通じて上場へ

カテゴリー:宇宙
タグ:RedwireSPAC

画像クレジット:NASA

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Aya Nakazato)

今週の記事ランキング(2021.3.21〜3.25)

今週もTechCrunch Japanで最もよく読まれた5つの記事を紹介しよう。今週の1位は、「食品科学業界念願の健康的な砂糖代替品をスタートアップがついに発見か」というニュースだ。他のランキングについても振り返ってみよう。

Glossierの元役員たち作ったヘッドレスコマースのChordが18億円相当を調達

美容グッズのネットショップGlossierの役員だったHenry DavisとBryan Mahoneyの両氏は昨年、Arfaと呼ばれる新しいeコマーススタートアップを立ち上げた。そして本日(米国時間3/24)は、その企業のビジョンと新しい名前、新しい資金調達、そして買収を発表した。

まず名前から: 今後このニューヨークのスタートアップはChordと呼ばれる。会長兼COOになったDavis氏によると、その名前は、このスタートアップが今や単なるD2Cのブランドではなくて、自分たちのテクノロジー(eコマースのためのバックエンドインフラストラクチャ)を提供することにフォーカスしていることを表す。同社自身が扱うブランドについては、後日発表するそうだ。

CEOのMahoney氏によると、このプラットホームはeコマースを開きたい各ブランドに「コマース・アズ・ア・サービス」を提供する。言い換えると、企業がヘッドレス・コマースの世界へ移行し、フロントエンドのショッピング体験は自前で作っても、バックエンドのeコマースインフラストラクチャは既存のサービスを有料で使うようになると、Chordがそのために必要なニーズをすべて提供する。そこには複数のプロダクトと機能があり、コンテンツ管理や顧客データのプラットホーム、受注管理なども揃っている。

Davis氏が言うのは、そういうeコマースの運営者は、データのインフラストラクチャが不十分で、しかもますます複雑でマルチチャネルのビジネスになっていくから、自分のコアビジネスに関して妥協とトレードオフを迫られる。やるべきことに対して、その技術基盤がない。Chordは、彼らがそうならないようにしたい。「あなたのテクノロジースタックはちゃんとここにあってあなたをサポートできますよ」、とDavis氏は説明する。


Chordの創業者Henry DavisとBryan Mahoney。画像クレジット: Chord

そしてヘッドレスコマースのスタートアップは増えてきたけど、Davis氏によれば、現状のeコマースでは「みんなが同じツールを使って同じことをして競争している。他と違ったヘッドレスソリューションが同じツールにアクセスしているのでもない。それに対してわれわれは、他と差別化できる、より良いコマース・バックエンドを提供したい」、という。

Chordが提供する差別化の例としてMahoney氏は、顧客データのプラットホームが完全で漏れがなく、プラットホーム全体からデータを一箇所に集める「単一の分析レイヤ」が提供される、と言っている。

関連記事: Where is the e-commerce app ecosystem headed in 2021?(未訳、有料記事)

同社は、デンバーのeコマースデータのスタートアップYaguaraを買収した(価額は非公開)。Davis氏によるとYaguaraのチームがChordに加わったことによって、eコマースバックエンドのデータとデータ視覚化の部分が強化される。

また同社はこのほど、シリーズAで1800万ドルを調達している。Crunchbaseによると総資金額は2500万ドルだ。なお、そのラウンドはEclipse Venturesがリードした。

Mahoney氏によると、同社のビジョンは「ヘッドレスコマースのStripeとして知られるようになり、彼らがインターネット上の決済を強化するインフラストラクチャを作ったように、ヘッドレスコマースの創成と運用を強化したい」という。

関連記事: 「ヘッドレス」eコマースプラットフォームFabricが早くもシリーズAで約45億円調達

(文:Anthony Ha、翻訳:Hiroshi Iwatani)

画像クレジット: jayk7/Getty Images

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

ドイツ裁判所がフェイスブックに対する「スーパープロファイリング」訴訟を欧州司法裁判所に付託

ドイツ裁判所は、了解なくユーザーデータを組み合わせることを禁止する現地競争当局の先駆的プライバシー保護命令に対するFacebookの上訴を検討していたが、同裁判所はヨーロッパの最高裁判所に付託することを決定した。

現地時間3月24日のプレスリリースでデュッセルドルフ裁判所は次のように書いた。「Facebookの上訴は、欧州司法裁判所(ECJ)に付託した後にのみ裁決できるという結論に達した」。

「Facebookがドイツ市場におけるソーシャルネットワーク提供者としての独占的立場を乱用し、EU一般データ保護規則(GDPR)に反してユーザーのデータを収集、利用していたかどうかは、ECJに付託することなく結論を下すことはできません。なぜなら、欧州法の解釈についてはECJが責任を負っているからです」。

ドイツ・連邦カルテル庁(Bundeskartellamt)の「搾取的不正使用」の告訴は、Facebookが自社製品のユーザーに関わるデータを、ウェブ全般、サードパーティーサイト(同社がプラグインや追跡ピクセルを提供している)、および一連の自社製品(Facebook、Instagram、WhatsApp、Oculus)を通じて収集する能力を、同社の市場支配力と結びつけている。すなわち、このデータ収集はユーザーに選択権が与えられていないため、EUプライバシー法の下で違法であると主張している。

したがって関連する争点は、不適切な契約条項によってFacebookが個々のユーザー毎に専用データベースを作ることが可能になり、ユーザーの個人データをそこまで広く深く集められないライバル他社に対し、不公正な市場支配力を得ているかどうかにある。

カルテル庁のFacebookに対する訴えは、(通常は)別々であり(かつ矛盾すらある)競争法とプライバシー法の論理を組み合わせている点で、極めて革新的だとみられている。実際にこの命令が執行されれば、Facebookのビジネス帝国の構造分離を,さまざまなビジネスユニットの分割命令を下すことなく実現できるという興味深い可能性をもっている。

ただし、現時点(カルテル庁がFacebookのデータ慣行の捜査を開始した2016年3月から早5年)での執行には、まだ大きな疑問符がつく。

ユーザーデータ照合を禁止する2019年2月のカルテル庁による命令からほどなくして、Facebookは2019年8月の控訴によって命令を停止させることに成功した。

しかし2020年の夏、ドイツ連邦裁判所はこの「スーパープロファイリング」禁止命令の停止を解除し、テック巨人による無断データ収集に対するカルテル庁の挑戦を復活させた。

この最近の展開が意味しているのは、これまでEUのプライバシー規制当局が失敗してきたことが競争法の革新によって遂行されるのかどうかは、当分待たなくてはわからない、ということだ。Facebookに対する一般データ保護規則を巡る複数の訴訟が、アイルランドデータ保護委員会のデスクの上に未決のまま置かれている。

どちらの道筋をとるにせよ、現時点でプラットフォームの支配力を「迅速に動いて破壊する」ことが可能になるとは思えない。

陳述の中でデュッセルドルフ裁判所は、Facebookのデータ収集のレベルについて問題を提起しており、ユーザーに選択肢を与え、幅広いデータソースではなく、自分でアップロードしたデータのみをプロファイリングに使い、InstagramやOculusのデータ利用方法について問い合わせることで、Facebookは反トラストの問題を回避できることを示唆した。

しかし、同裁判所はカルテル庁のアプローチの欠陥も見つけている。Facebookの米国およびアイルランドにおける事業体が、ドイツのFacebookに対する命令が発行される前には公正な発言機会を与えられなかったことなどいくつかの手続きの不備を指摘した。

欧州司法裁判所への付託は、最終結果が得られるまで数年かかることがある。

今回のケースで欧州司法裁判所は、カルテル庁が権限を逸脱していないかの検討を依頼されている可能性が高いが、実際に付託されている内容は確認できない。プレスリリースによると、今後数週間のうちに書面で公表される見込みだ。

Facebook広報担当者は、裁判所のこの日の発表に対する声明で次のように述べた。

本日デュッセルドルフ裁判所は、カルテル庁の命令の正当性に疑問を呈し、欧州司法裁判所に付託することを決定しました。当社はカルテル庁の命令が欧州法にも違反していると確信しています」

カテゴリー:ネットサービス
タグ:FacebookEUドイツプライバシー

画像クレジット:Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ボートのナビゲーションにiPhone登場時のような革新もたらす「Orca」

ボート遊びは、歴史と伝統のある趣味で、ボート業界やそれを支える人々もそれを重視している。その一方で、インターネットを介したつながり、電気ボート、そしてその他の技術的変化により、この業界は古い慣習から抜け出しつつある。Orcaはハードウェアとソフトウェアを組み合わせ、他の最新の消費者向けテクノロジーと同じくらい洗練されたサービスを構築し、現在操舵に使われている古いインターフェイスと置き換えていきたいと考えている。

ボート好きなら(この記事を読んでくれている読者の一部はボート好きだと信じたい)、チャートプロッティングまたは、位置や航路を追跡する2つの異なる方法に精通しているだろう。1つはボート設置型、もう1つはポケットに入れられるタイプだ。

ボートに積んでいる方は、年季の入ったセダンに搭載されているGPSインターフェイスのように古く格好が悪い。ポケットに入れられる方がかっこいいしすばやく使える。だが、携帯電話には完全な耐航性があるわけではなく、アプリはバッテリーの消耗にもつながる。

Orcaは、ボートやチャートプロッティングのベテランが集結するノルウェーのスタートアップ企業であり、ゼロから構築された最新のインターフェイスで既存の製品を飛躍させるつもりだ。

「過去20年、この業界は変わっていません。大手3社がビジネスの80%を掌握しているのです」と共同創設者兼CEOのJorge Sevillano(ホルヘ・セビジャーノ)氏は語る。「彼らにとって、ソフトウェアがどのように価値を作り出すかを考えるのは難しいでしょう。すべてのデバイスが、10~15年前のユーザーインターフェイス上に構築されています。Tomtomを例に挙げると、たくさんのメニューがあって何度もクリックが必要です。この業界は、古いものを刷新し全体のあり方を再考する経験を経てきませんでした。だから白紙の状態から新しいサービスを創ることに決めたのです」。

CTO兼共同創設者であるKristian Fallro(クリスチャン・ファルロ)氏は、数年前にこういった作業を始めた。そして彼の会社は、セビジャーノ氏が先に言及した大手企業の1つであるNavicoに買収されたのだが、彼らはそれらの構想を形にする意欲がないようであった。そこでファルロ氏は他の人々とともにアイデアをかたちにすべくOrcaを立ち上げたのである。最初に完成した製品は発表されている

「これまでの課題は、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせる必要があることでした。そのため、市場への参入は非常に困難でした」とファルロ氏は説明する。「この業界はかなり保守的ですし、またAppleやGoogleなどの大企業には小さすぎます」。

だが現在、正しいハードウェアと完全に再構築されたソフトウェアスタックの組み合わせによって、大手企業を出し抜き、古いテクノロジーをこれ以上使うことに懐疑的なボート好きの新しい時代を作り上げる準備が整ったようだ。従来のように、船内システムと自分のコンピューター間でSDカードを入れ替えて海図を更新する、方向パッドを使って目的地を入力する、または別のモバイルアプリを使い天気や航路に影響のある潮流の状況をチェックしたりする。こういったことは最新のテクノロジーとは言えないだろう。

Orcaのシステムは、Samsungから供給された高耐久性の産業用タブレット、既製の海洋向け取り付け型アーム、すばやく取り付けや充電ができるようデザインをカスタマイズしたインターフェイス、NMEA 2000プロトコルを介したソナーやGPSなどのボート独自のセンサーに接続するコンピューターベースの装置を備えている。これらは、現在ボートに積まれているどんな装置と比較しても同等か、それ以上に優秀だと言える。

現在のところ、これらが既存の多くのソリューションと似通っているのは事実だ。しかしOrcaは、ユーザーが期待するすべての利便性と接続性を備えた最新のモバイルアプリをゼロから構築したのだ。航路は、Google MapやApple Mapsのように読みやすく明確な地図上で、すぐ正確に検索できる。だが、航海には予測できないことが多々ある。天気と潮流レポートは、海上交通同様、統合されている。本アプリは、AndroidとiOSの両方で機能し、スマートフォンと主要な装置間で興味のある航路や目的地を共有することができる。

画像クレジット:Orca

「弊社はチャートプロッターが考えもしなかった新しいサービスを構築することに成功しました」とセビジャーノ氏はいう。「このサービスにより、最新の潮流レポートや風の動きに合わせ、または商業船が自分の航路上にいる場合に、ユーザーのボートの後続距離と航路を更新することができます。また、毎週新しい機能をリリースし、バグを修正するつもりです。私たちはどの企業よりも早くユーザーのフィードバックを反復適用し改善に向けて動きます」。

ボートの最も中心的なシステムに対するこうした改善は、同社が今後に向け、老朽化したガジェットを単に交換する以上の大きな志を持っていることを示している。

またボート自体から収集した情報を使用し、ほぼリアルタイムで海図を更新することができる。ボートが監視しているものに応じて、例えばまだ記録されていない大波に遭ったり、危険度の高い化学物質を見つけたり、さらには障害物を検出した際、別の船や当局に警告することもできるだろう。「これは海バージョンのWazeです」と彼はいう。「私たちの目標は、海上データ企業になることです。ボート乗り、海関連の業界そして社会への販売機会は計り知れないものがあると思います」。

設置や機能に柔軟性があるため、ボートに直接統合し、新モデルの組み込みOSにしていきたい意向だ。これは、電気ボートの将来有望なカテゴリーには特に重要である。というのも、電気ボートは古い伝統から脱し、テクノロジーに精通したボート乗りの興味をひきつける傾向があるとされているからだ。

「陸上で機能するものを海上に導入する人たちを見てきましたが、彼らはすべて同じ課題に直面しています。最大の問題は、航続距離に関する不安です。この不安は海上ではさらに悪化します」とファルロ氏はいう。「たくさんの製造メーカーと相談した結果、造船は難しいが、ナビゲーションエクスペリエンスを構築するのはさらに難しいことがわかりました」と続けた。

これが完全に正しいかどうかは造船に関する専門知識がどれくらいあるかによるが、電気ボートの有効な小航続距離を把握することは、恐ろしく困難であることには間違いない。Zin Boatsが行ったように、開始原理と高度な物理的シミュレーションから効率的かつ予測可能な新しいボートを造ったとしても、実際に航行してみると、物理の法則や船舶の性質により最善の見積もりさえも数秒ごとの修正を迫られるのだ。

「海上で後続距離を把握することは非常に難しいのですが、弊社の技術はトップクラスだと自認しています。そこでユーザーが直面している航続距離不安の解消に役立つ統合されたナビゲーションが搭載されたソフトウェアスタックを製造メーカーに提供したいと思っています」とファルロ氏は語った。

もちろん、このような船の購入を検討している消費者が、後続距離を正確に追跡するだけでなく、充電ポイント候補地やその他設備へのリアルタイムでのアクセスを可能にする最新かつ応答性の高いOSがあることを知れば、購入を決断する可能性は高まるだろう。ボートに搭載されている古いチャートプロッターにできることは非常に限られていることから、最近は自分のスマートフォンを使用するボート乗りも増えている。だが重要なのは、Orcaを使えば、これ以上迷うことはないということだ。

コンピューティングコア、取り付け、タブレットをセットにした価格は1449ユーロ(約18万7000円)で、コアだけだと449ユーロ(約5万8000円)となるが、事前注文者には大幅な割引が検討されている(新しいボートを購入する人にとって、この数字は、丸め誤差と変わらないかもしれないが)。

ファルロ氏によるとOrcaはAtomico、Nordic VC firm Skyfall VenturesそしてKahoot の共同創設者であるJohan Brand(ヨハン・ブランド)氏を含むエンジェル投資家からの投資で運用されている。同社は、機能の追加と先に明言した定期的な更新を行う前に、まずは受注した注文を処理するために労力を集中させているいう(商売は「順風満帆」ということのようだ)。

関連記事:電動化やネット接続など未来感を満載したSea Rayのプレジャーボート

カテゴリー:モビリティ
タグ:Orcaボート

画像クレジット:Orca

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

今週の記事ランキング(2021.3.14〜3.18)

今週もTechCrunch Japanで最もよく読まれた5つの記事を紹介しよう。今週の1位は、「Chromeで「シークレットモードでも個人情報を収集」発覚、Googleが約5000億円の集団訴訟に直面」というニュースだ。他のランキングについても振り返ってみよう。

再生型農業は気候変動と戦う頼もしい仲間

【編集部注:Nancy Pfund(ナンシー・ファンド)氏はDBL Partnersのマネージング・パートナー。同社は、最高水準の金銭的リターンと共に、投資先の地域とセクターに意味のある社会的、環境的、経済的リターンをもたらすことを目標にしているベンチャーキャピタル】

昨今毎週のように、新しい農業会社、消費者向け包装商品会社、銀行、テクノロジー企業、セレブ、さらにはFacebook友達もが、環境再生型農業への支援を表明しているように感じる。

気候や農業のソリューションを求めて数十年来働いている私たちにとっては、喜びとともに心配もある。

何であれ、乗り遅れないことは重要だが、その詳細や大変さ、進歩と勝利の積み重ねや残された厄介な問題の数々は往々にして見過ごされ忘れられがちだ。これほど多くの打者がホームランを狙っていると、シングルヒットや二塁打が勝利を生むことをつい忘れてしまう。

DBL Partnersのマネージング・パートナー、ファウンダーとして、私は投資先には成功するビジネスモデルを持っているだけではなく、地球最大の問題を解決する企業であることを明確に求めている。農業は、増加する人口に食料を供給するだけでなく、最大の気候ソリューションになりうると私は信じている。

同時に、課題宣伝を鎮め、議論の焦点を定め直し、農業の事例を使ってあらゆるビジネスが気候変動と戦う炭素習慣の生産的なテンプレートを作ろうと思っている。

まず、再生型農業を定義しよう。間作や耕起などのように、土壌を肥沃にして保水力を高め、炭素を隔離、排除する様々な活動のことだ。

再生型農業を巡る熱狂は、気候変動の影響を大規模に軽減できる可能性と結びついている。National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine(全米アカデミーズ)は、土壌炭素隔離によって年間2億5000万トンの二酸化炭素を除去できる可能性があると推計しており、これは米国の排出量の5%に相当する

再生型農業は新しいものではないことを覚えておくことが重要だ。自然保護活動化は間作や耕耘の削減を数十年来訴えてきたが、農業従事者は反対した。

こうした慣習が最近になって見直されているのは、大規模に実施し、数々の新たな技術やイノベーションを利用することによって、農業が気候変動との戦いをリードする可能性が示されたためだ。

ではどうすれば農業従事者に脱炭素と戦う力を与えられるのだろうか。

現在、カーボン・オフセット市場が多くの注目を集めている。ここ数年、土壌炭素のための民間任意市場が複数登場し、その多くはクレジット購入による炭素排出量相殺でカーボンニュートラルを標榜する企業の支援を受けている。

オフセット市場は農業を大規模な気候変動ソリューションの触媒にするための重要なステップだ。民間炭素市場を支援する組織は、排出量削減の手段と経済的誘因を生み出している。

“farming carbon”(農業による炭素排出量削減)は、再生型農業の金融メカニズム、データ分析ツール、および窒素固定生物などの新技術の需要を推進する。いずれも再生型農業の普及と影響を最大化し、イノベーションと起業を促進するために不可欠な要素だ。

カーボン・オフセットそのものではなく、こうした発展こそが、農業排出量を永久に減少させるのである。

オフセットは出発点でありソリューションの一部でしかない。つくったのが森林であれ、再生可能エネルギーや輸送や農業であれは、オフセットは毎年企業に買われる必要があり、購入者の排出量を必ずしも減らしていない。

必然的に、各ビジネスセクターは排出量を直接減らすか、サプライチェーン全体で排出量を減らすことで「インセット」を作る必要がある。難しいのは、まだどんな組織にとっても経済的、物流的に実現可能ではないことだ。

農業製品を購入、処理している組織(食品会社から再生燃料メーカーまで)にとって、土壌カーボン・オフセットは間接的に排出量を直ちに減らすことが可能であるだけでなく、農家を出発点として直接的永久的に排出量を減らす戦略への投資でもある。

DBLが投資しているのは、この両方の側で働く農業会社だ。土壌炭素オフセットの生成を促進し、炭素クレジット市場を確立するとともに、本質的により効率が高く、炭素依存の低い農業ビジネス・サプライチェーンをつくる。

このアプローチは気候変動への影響を減らそうとしている農業関係者にとっては賢明な投資だ。ビジネスモデルもまた、真の持久力をもつ農業従事者による環境サービスの需要を生み出す。

はるか前の2006年、DBLが初めてTesla(テスラ)に投資した時、輸送を化石燃料から遠ざける世界的ムーブメント創成を手助けすることになるなどとはまったく考えていなかった。

そしてこんどは農業の番だ。科学の革新、ビッグデータ、金融、そして農家ネットワークの支えられて、再生型農業への投資は農業における炭素排出量を削減し、農業従事者の管理努力に報いることを約束している。

未来の世代はこの変化の恩恵を収穫しながら、「なぜそんなに時間がかかったのか?」と不思議に思うだろう。

関連記事:
Corporate sustainability initiatives may open doors for carbon offset startups

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画像クレジット:jarino47 / Getty Images

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(文:Nancy Pfund、翻訳:Nob Takahashi / facebook

今週の記事ランキング(2021.3.7〜3.11)

今週もTechCrunch Japanで最もよく読まれた5つの記事を紹介しよう。今週の1位は、「AmazonのFire TVが「ライブ」のチャンネル拡大とAlexa対応を発表」というニュースだ。他のランキングについても振り返ってみよう。

楽天と日本郵政が資本業務提携、共同物流拠点・配送システムの協議およびペイメント・物販協業など検討

楽天と日本郵政が資本業務提携、共同物流拠点・配送システムの協議およびペイメント領域協業など検討

楽天グループと日本郵政グループは3月12日、物流、モバイル、DX(デジタルトランスフォーメーション)などさまざまな領域での連携強化を目的に業務提携合意書を締結したと発表しました。同日の共同記者会見では、郵便局内のイベントスペースに楽天モバイルの申込みカウンターの設置を検討していることを明らかにしました。

会見に登壇した同社常務執行役員の古橋洋人氏によると、全国約2万4000局の郵便局に設置した楽天モバイルの基地局数は400局以上を超え、今後も500局以上を展開するそうです。

また、同氏は、日本郵便の配達網を活用し、各世帯に対して宣伝を行うことも明らかにしたうえで、「オンラインからの申し込みだけでなく、オフラインでのプロモーションを強化し、新規顧客の獲得につなげたい」と述べました。

楽天と日本郵政が資本業務提携、共同物流拠点・配送システムの協議およびペイメント領域協業など検討

なお、業務提携の内容には、モバイル分野のほかに共同の物流拠点の構築や、日本郵便と楽天が保有するデータの共有化、保険、金融、物販分野での協業などが含まれています。今回の業務提携で日本郵政グループは、楽天グループに約1500億円を出資し、楽天の株式8.32%を取得します。

(Source:楽天グループと日本郵政グループ(PDF)。Engadget日本版より転載)

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:日本郵政(企業)楽天 / Rakuten(企業)
楽天モバイル(企業・サービス)日本(国・地域)

PayPalがイスラエルの暗号通貨セキュリティCurvを買収へ

PayPal(ペイパル)はイスラエル・テルアビブ拠点の仮想通貨スタートアップCurv(カーブ)買収を計画していると発表した。PayPalの正式発表に先立ち、イスラエルの新聞Calcalistがこの動きを報じていている

Curvは、暗号資産を安全に管理するのをサポートする仮想通貨セキュリティ会社だ。あなたがハードウェアデバイスなしに暗号ウォレットにアクセスできるよう、クラウドベースのサービスを提供している。

同社はまた、新しいインターンが承認チェーンといったものなしに暗号資産を引き出せないよう、高度なポリシーを設けられるようにしもしている。同様に、通常の取引はより簡単に行えるようリストを作成することもできる。

この裏でCurvは秘密鍵を管理するためにマルチパーティ計算を使っている。あなたがウォレットを作る時、暗号化された秘密がユーザーのデバイスとCurvのサーバーで作られる。そしてユーザーがトランザクションを開始しようとするとき、複数の秘密鍵を使用して完全な公開鍵と秘密鍵を生成する。

秘密鍵は定期的に変わり、1つの秘密鍵だけでは何もできない。もし誰かが防犯対策がなされていないノートパソコンを盗んだとしても、ハッカーはこのデバイスに保存された情報だけでは暗号資産にアクセスできない。

おわかりのとおり、Curvはエンドユーザー向けの仮想通貨ウォレットではない。同社は両替やブローカー、店頭にサービスを提供している。もしあなたがファンドを運営していて、かなりの量の仮想通貨を購入する計画なら、Curvの利用を検討できるかもしれない。

最後に、デジタル資産を管理し、バランスシートを多様化するソリューションを探している金融機関もまたCurvと協業できそうだ。

CurvのチームはPayPal内の仮想通貨グループに加わるとPayPalは話す。同社は徐々に仮想通貨プロダクトを展開してきた。米国のユーザーが自身のPayPalアカウントから仮想通貨を購入、保持、売却できるよう、Paxosと提携した

関連記事:PayPalが仮想通貨の売買サービスを米国で開始、Paxosと提携

近い将来、PayPalは仮想通貨を使ってユーザーが物を売買できるようにもする計画だ。また直近の四半期決算発表で同社は米国外と同社が所有する消費者向けフィンテックスーパーアプリVenmoで仮想通貨プロダクトを立ち上げる計画であることも明らかにした。

買収の条件は非公開で、取引は2021年上半期のどこかで完了する見込みだ。PayPalはこの買収で2億ドル〜3億ドル(約218億〜327億円)支払う、とCalcalistは報じている。PayPalに近いとある人物は買収額は2億ドル以下だと話す。正確な額は次の四半期決算で明らかになるはずだ。

カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:PayPal仮想通貨Curvイスラエル買収

画像クレジット:Yichuan Cao/ NurPhoto / Getty Images

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nariko Mizoguchi

テック業界における多様性の欠如は「パイプライン問題」が原因ではない、その言い訳の背後にある歴史を分析

テック業界は従業員、経営幹部、ベンチャー投資家の支援を受けた創業者、ベンチャーキャピタル企業、取締役における多様性が圧倒的に欠如しているという問題に長い間取り組んできた。そして業界全体でさらなる多様化に向けて努力をしているにもかかわらず、テック業界の大部分は依然として白人と男性が占めている。

長年にわたり、テック業界における多様性の欠如はいわゆるパイプライン問題に起因している、と多くの人が主張してきた。つまり、テック業界で多様性が乏しいのは、多様なバックグラウンドを持つ有能な人材が不足しているからだという主張である。

Uber(ウーバー)のチーフダイバーシティオフィサーであるBo Young Lee(ボー・ヤング・リー)氏がTechCrunchに語ったところによると、テック業界における多様性の欠如はパイプライン問題によるものでないことを証明する十分に確立されたデータがあるとのことだ。

「パイプライン問題だと主張したいのであれば、まずそのパイプラインから人材を採用したと主張しなければなりません」と同氏はいう。「これはパイプラインの問題というより、採用プロセスの問題なのです」。

しかし、パイプライン問題が存在しないことを示す証拠があるにもかかわらず、パイプライン問題は存在するという考えは、少なくともある程度は一般市民の心理に残っている。多様性、公平性、一体性(DEI)のコンサルティング会社Paradigm(パラダイム)のディレクターであるCourri Brady(クーリー・ブレイディ)氏は、パイプライン問題の神話からまだ抜け出せない人々がいることを認めている。

「私が個人的にサポートしている企業の中にも、パイプライン問題が存在するという認識がある程度残っている企業があります。しかし、いくつかの力学が働いています」とブレイディ氏はTechCrunchに語った。

ブレイディ氏によると、これらの力学の1つは、テック企業内で比較的固定化されている採用プロセスに関係しているという。

優秀な人材を輩出するのは、特定の学校やプログラムといった特定の集団だけであり、そうした人材は多様性に欠けると企業が確信しているなら、問題は長期化するだろう、とブレイディ氏はいう。

AI Now Institute(エーアイナウ研究所)で人工知能におけるジェンダー、人種、権力の研究リーダーをしているJoy Lisi Rankin(ジョイ・リージ・ランキン)博士は、パイプライン問題の歴史を積極的に研究している。今後6カ月以内に、その研究をレポートとして出版し、書籍化する予定もある。ランキン氏は親切にも、これまでの研究の一部をTechCrunchに紹介してくれた。

「大局的には、1970年代以来、人々は何らかのかたちでパイプライン問題を語ってきました」とランキン氏はいう。「それ以前は、ある分野で博士号や修士号を取得しているのは誰か、ある分野で一流の仕事に就いているのは誰かなどが重視され、パイプライン問題は多くの場合いわゆるマンパワー問題のようなものでした。重視されるのは常に個人でした。組織や構造ではなく、人を追跡することが重要でした。だからこそ、パイプライン問題が多くの罪の便利な言い訳になり続けるのだと思います。パイプラインの話をすることで、米国ではすべてが平等であるかのように見えるからです。そして、人々がパイプライン問題という考えを持ち続けるようにする方法を見つけさえすればよいのです。一方で私たちがSTEMパイプラインについて考えるとき、米国における教育は生まれた時からずっと平等であったことがないという事実について語ることはありません。これが真実です」。

もちろんBlack Girls Code(ブラック・ガールズ・コード)、Girls Who Code(ガールズ・フー・コード)、Code.org(コード・オルグ)など、子どもたちにテクノロジーを紹介するためのプログラムはある。しかしランキン氏がいうには、こうした問題はSTEM教育よりも深く浸透している。

「長い間、どこかの大学に入学するには一定のSATスコアが必要でしたし、大学院に入学するには一定のGREスコアが必要でした」とランキン氏はいう。「しかし文字どおり何十年にもわたる研究によると、SATスコアは大学での過ごし方や学生としての在り方にはまったく相関関係がありません。SATスコアは、人種にも関連する家族の裕福さや、家庭教師などを利用できるかどうかと密接に関連します。一方で、大学生の時に取得した資格認定が必要になる場面は次から次へと登場します」。

ランキン氏によると、教育システム全体は、昔から資格認定を通して知識の門番として機能してきた。

「資格認定は、ある種の門番のようなもので、誰が権限を利用できるか、誰が利用できないかを管理するものです」とランキン氏はいう。「シリコンバレーのテック企業が、いかにして実力ではなく均質性を優先しているかを示すために、数年前にこの言葉が新しく作られたのだと思います。シリコンバレーでは、自分と似たような資格を持ち、同じような学校教育を受けた人を採用します。だからといって、資格認定のある人が必ずしも有能であるとは限りません。あらゆる種類の多様性が、さまざまな状況でより良い仕事とより良い成果をもたらすことはよく知られています。しかし特定のタイプのいわゆる資格や証明書だけを重視すると多様性は生まれません」。

「教育以外にもパイプラインは存在します。私が『もう1つのパイプライン』と呼ぶ『ゆりかごから刑務所までのパイプライン』や、『地位が低く入れ替わりが激しいH1Bビザ労働者のパイプライン』などもあります」とランキン氏は述べている。

「パイプラインは『これらの企業が人種差別主義者、白人至上主義者、女性差別者であり、こういった組織や大規模な社会的・世界的資本主義構造こそが根本から変わる必要がある』と発言するための手段ではなく、あらゆる問題を切り離して『私たちはもっと多くの黒人女性をテック業界に迎える必要がある』と発言するための手段です」。

ランキン氏によると、1950年代から60年代にかけて、しばしば女性が手作業でコンピューティングの仕事をしていたという事実は、このパイプラインという概念で捉えられていないという。当時、多くの人がコーディングは女性の仕事だと考えていた。

「コンピューティングが社会的にも経済的にも政治的にも、いかに重要であるかが明らかになってから10年ほどで、この専門的職業は男性がやるものになりました。特定の種類のコンピューティングやプログラミングが文化的に価値を持ち始めると、給料の高い多くの仕事が男性に移っていったことは確かです。仕事の内容が変わったわけではありません。仕事に対する評判が変化したため、仕事の性差のつけ方が変化したのです」。

これらは、ランキン氏が自身の研究論文の中で概説する考えのほんの一部にすぎない。同氏は、この論文が、多様性、公平性、一体性についてのテック業界の会話を変えるきっかけになることを期待している。ランキン氏は、テック業界がパイプラインを言い訳にするのではなく、不平等、人種差別、女性蔑視や、ミクロの不平等がマクロの問題につながる仕組みをもっと重視することを望んでいると述べた。

ランキン氏の報告書には、教育を真に公平なものにするための努力や監視への取り組み、学校から刑務所へのパイプラインなどに関するいくつかの提言も含まれる。同氏はまた、給与データは公開するべきだと考えている。

「給与に関する透明性が高まれば、より実りある会話ができるようになります」とランキン氏はいう。

先にPinterest(ピンタレスト)の元従業員Ifeoma Ozoma(イフェオマ・オゾマ)氏は、カリフォルニア州上院議員Connie Leyva(コニー・レイバ)氏の後ろ盾を受けて、職場での差別や嫌がらせを経験した人々に権限を持たせる法案を提出した。Silenced No More Act(SB 331)(もう黙っていない法)は、あらゆる形態の差別や嫌がらせのある職場環境において機密保持契約の使用を防止するものだ。

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「これは間違いなく正しい方向への第一歩です」とランキン氏はいう。

提案された法案は、レイバ氏が起草し、2019年に施行された「Stand Together Against Non-Disclosures Act」による労働者の保護を拡大するものである。オゾマ氏と元同僚であるAerica Shimizu Banks(エアリカ・シミズ・バンクス)氏は2020年、人種差別と性差別の両方について訴え出た。最終的にはPinterestと和解したが、STAND法は、厳密にいえば、性差別の告発に関して彼女たちを保護したにすぎなかった。この新しい法案は、人種差別の告発についても労働者を保護することを保証している。

「今回の法案はテック業界だけでなく、みなさんの業界にも重要になるでしょう」とオゾマ氏は私に話してくれた。「物事に横断的に取り組まない限り、真の進歩はありません。私たち全員が得た教訓はこのことです。そう私は信じています」。

AI Nowのファカルティディレクターであり、2018年のGoogleストライキの共同主催者でもあるMeredith Whittaker(メレディス・ウィッタカー)氏は、この種の法案は絶対に必要だと述べている。

「構造的な見地から、問題を告発せずに、有害で差別的なテック環境を変えるつもりはありません。それは明らかです」とウィッタカー氏はTechCrunchに語った。「私たちは何十年もDEI(多様性・包括性・平等性)のPRに失敗してきました。何十年もの間、人々はパイプラインを非難してきました。そして、何十年もの間、Ifeoma(イフェオマ)氏、Aerica(アエリカ)氏、Timnit(ティムニット)氏といった優秀な人材は嫌がらせを受け、このような環境から追い出されてきました。そして多くの場合、人々は自分の経験について話すことができないため、差別的環境の深刻な毒性(企業や職場の構造的な業務手順に差別が植え付けられる慣習)が公表されることはありません」。

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また雇用や企業の採用についても透明性を高める必要がある、とランキン氏は述べた。多様性に関する目標をいち早く掲げた企業の1つであるPinterestは、女性エンジニア、マイノリティのエンジニア、マイノリティの従業員の採用率を2020年に公開した。しかし、学校、コーディングブートキャンプ、その他のプログラムとの提携による新規採用者がどれだけいるかなどを公開し、さらに透明性を高める余地がある。

Uberの多様性に関する最新のレポートでは、大学新卒者採用や、多様化するインターンシッププログラムなどについて言及しているが、同社が報告したデータでは、それらの取り組みから採用につながった人数は明らかにされていない。

Uberのボー・ヤング・リー氏によると、同社はトップ・オブ・ファネルのパイプラインを適切に追跡し、有能な人材が集まっているかどうかを確認しているという。これはマンスフィールド・ルールと呼ばれるもので、ルーニー・ルールをさらに2、3歩進めたものである。ルーニー・ルールは、欠員のある役職に対して少なくとも1人以上の多様性に富む候補者と面接することを企業に求めている。Uberがこれに正しく取り組めば、その採用パイプラインの14%は黒人とヒスパニック系になるだろうと、リー氏は2016年ニューヨークタイムズ紙の工学系卒業生に関する記事を引用して述べている。Uberはマンスフィールド・ルールを導入したばかりだが、データの一部を公開する予定があるという。それがどういうものか、まだはっきりしていないが。

一方、Google(グーグル)の多様性に関する最新のレポートでは、ラテンアメリカで1300人以上の女性が、GoogleボランティアとGoogle.orgからの助成金を利用して、どのようにウェブ開発とUXデザインの訓練を受けたかを紹介している。その結果、参加した女性の75%がテクノロジー関連の仕事に就いたとGoogleは述べている。しかしGoogleに就職した女性の人数には言及しなかった。

同じレポートの中でGoogleは、米国内の15のHistorically Black College and Universities(HBCU)、39のヒスパニック系教育機関、9つの女子大学から人材を採用したと述べている。聞こえはいいが、2020年12月に、Googleの元多様性採用担当者であるApril Curley(エイプリル・カーリー)氏は自分が解雇された経緯を明かした。カーリー氏は「黒人やヒスパニック系の学生をパイプラインから締め出すために、あらゆる人種差別的発言が行われていることに気づいた」後、解雇されたという。

「当社には、HBCUと提携して関係強化を図る専用チームを含め、黒人やその他のマイノリティの採用を増やすために、非常に熱心に取り組んでいる大規模な採用担当者チームがあります」とGoogleの広報担当者はTechCrunchに対して述べた。「この取り組みは非常に重要です。2019年には19のHBCUからの卒業生を受け入れ、過去十年間で800以上の学校に採用活動を拡大しました。同時に私たちは、全身全霊を尽くして、開放的で支援的な職場を維持しています。カーリー氏の解雇についての説明には賛同できませんが、同氏の主張へのコメントは差し控えさせていただきます」。

Googleでの出来事であろうと、他のテック企業での出来事であろうと、ランキン氏が問題にしているのは、採用プロセスの透明性が全体的に欠如していることだ。

「独自のパイプラインは問題が多く不公平です。しかし大規模な問題を取り除き、個人だけが注目されないようにするにはどうすればよいでしょう」とランキン氏はいう。

ランキン氏はテック企業の内部で働いているわけではないので、DEI部門の内部事情を語ることはできないが「事態を改善しようとしている優秀な人材がいると信じている」と述べた。

「これは教育と視点の大きな問題です。工学の学位を取得したり、テック企業に就職したりするところまで、どうたどり着けるかが重要であり、深く根ざした歴史的・構造的な問題として人種を考える必要がなかったのです」と彼女はいう。「こうした大きな問題のいくつかを無視すれば都合が良いと思いますが、特にここ数年の出来事を考えると、知らなかったでは済まされません」。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:DEI

画像クレジット:TechCrunch/Bryce Durbin

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(文:Megan Rose Dickey、翻訳:Dragonfly)

Zoomでの会話を自動で文字起こしする難聴者の新しいスタートアップ「Scribe」

Optimizely(オプティマイズリー)の共同創業者Dan Siroker(ダン・シロカー)氏は、自身の新しいスタートアップScribe(スクライブ)のアイデアはいくつかの個人的な体験に端を発していると話した。そして、Scribeの初のプロダクトはZoom(ズーム)にフォーカスしているが、そうした個人的な体験はまったくZoomに関連していなかったとも述べた。

シロカー氏は、耳が聞こえなくなり始め、補聴器を装着した時に初めて「ひらめき」を得て、失うだろうと思っていた聴覚が回復したことを回想した。

「それは本当に、体が自然に失うものを増強するための機会について考えさせる閃光でした」と話した。

また同氏は、特に自身がアファンタジア(頭の中に視覚的イメージを描けないこと)を抱えていて、それは「特定の物事を記憶しておくことを難しく」するため、記憶は明らかな増強するものの候補だったと付け加えた。

シロカー氏が2010年にPete Koomen(ピート・クーメン)氏とOptimizelyを設立し、2017年にCEO職から退き、そして同スタートアップが2020年Episerverに買収されたと書くと、思い出す人もいるかもいるかもしれない(そしていまEpiserverそのものがOptimizelyにブランド変更されている)。

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早送りして現在に目を向けると、シロカー氏はいまScribeのCEOだ。同社は初のプロダクトのサインアップを受け付けている。そのプロダクトをZoomミーティングに統合すると、ミーティングを検索可能なものに、そして筆記録をシェアできるものに変える。

シロカー氏は筆者とのZoomコールの際にそれをデモンストレートしてみせてくれた。Scribeはミーティングに追加の参加者として現れ、リアルタイムの筆記録を作成しながら録画と録音をする。ミーティングの間、あるいは終了後にユーザーは筆記録を編集したり、録画の関連する部分を視聴したり、重要な箇所にハイライトをつけたりできる。

テクノロジー的な視点からいうと、これらはすべて飛躍的な前進ではなさそうだ。しかし筆者はエクスペリエンスのシームレスさに感激した。追加の参加者を加えるだけで、フル録画でき、後にそしてこの記事を書く間にも確認するのに使える検索可能な会話の筆記録を手にすることができた。

画像クレジット:Scribe

Scribeはミーティングを録画するが、テープレコーダーというよりノート取りの代わりであって欲しいとシロカー氏は話した。

「あなたと私がミーティングにいて、私がペンと紙を持ってそのミーティングに参加し、あなたが言っていることを紙に書きます。それは完全に社会的に受け入れられることです。ある意味、相手を喜ばせるものでもあります。その代わり、テープレコーダーを持ち込んであなたの前にどすっと置いて録音を始めると、もしかするとこうした経験を持っているかもしれませんが、それはかなり異なるもののように感じます」。

シロカー氏の主張の要点は、Scribeのレコーディングと筆記録は編集でき、いつでも個々の構成要素をオンにしたりオフにしたりできるということだ。

「これは永久記録ではありません。ミーティングを持つ時のように作る、ちょうどGoogle Docのような共有アーティファクトで、いつでも戻って変更を加えられます」。

とはいえ、Scribeが恥ずかしいコメントを録音することは可能で、録音はミーティング参加者をトラブルに陥れる事態を引き起こすかもしれない(結局、リークされた企業のミーティング録音は数多くの刺激的なニュースになってきた)。シロカー氏はそれが「一般的ではない」ことを望んでいるが、もし時々起こるとすればある種のさらなる透明性と責任を生み出すかもしれないと主張する。

ScribeはOpenAIのCEO、Sam Altman(サム・アルトマン)氏がリードしたラウンド、そしてFirst Round Capitalがリードしたラウンドで計500万ドル(約5億4000万円)を調達した。

画像クレジット:Scribe

シロカー氏は、ZoomをScribeにとって単に「上陸拠点」としてとらえていると筆者に語った。次に同社はGoogle MeetやMicrosoft Teamsのようなプロダクトのサポートを追加する。ゆくゆくは、組織のための新たな「集合精神」の構築を同氏は望んでいる。そこでは、会話や知識が検索可能なためにみんなが「よりスマートで向上している」。

「どこで考えるかに本当に左右されるものを追求するところでは、我々は最大のポジティブな影響を人々の暮らしにもたらすことができます」と同氏は述べた。「配偶者と交わす個人的な会話に適用するのは難しいですが、価値とプライバシーとコントロールの正しいバランスを求めれば、実際にはウィンウィンの方法でこれを人々に浸透させることができるかもしれません」。

そしてもしScribeが幅広いコンテクストにある情報を我々が記録したり思い起こしたりするのをサポートするというミッションを実際に達成すれば、我々の物事を記憶するという自然な能力に影響を及ぼすのではないか。

「イエスというのが答えで、それはオーケーだと思います」とシロカー氏は答えた。「あなたの脳のエネルギーは限られています。何週間か前に誰かが言ったことを覚えておくことは、コンピューターでもできることです。それを行うのになぜあなたの大事な脳のサイクルを無駄遣いするのでしょうか」。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Scribeビデオ会議Zoom文字起こし資金調達

画像クレジット:P Getty Images

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(文:Anthony Ha、翻訳:Nariko Mizoguchi

世界的テック企業とやり合うEUの主任データ監督者は未だにLotus Notesを使っているという驚きの事実

Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Google(グーグル)、LinkedIn(リンクトイン)、TikTok(ティックトック)、Twitter(ツイッター)など、EU経済圏に存在する多数のテック大手を担当する主任データ監督者が、EUの重要規制である一般データ保護規則(GDPR)に基づいて申し立てられた苦情や調査の管理に今でもLotus Notes(ロータスノーツ)を使っていることが、Irish Council for Civil Liberties(ICCL)によって行われた情報公開請求によって判明した。

アイルランドのデータ保護委員会(Data Protection Commission:DPC)の2016年の年次報告書には、GDPR(およびePrivacy)の準備段階における主な目標の1つとして「新しいウェブサイトとケース管理システムの実装」をGDPRが施行される2018年5月までに完了することと記載されている。ところが、ICCLの情報公開申請に対する回答によると、5年近く経過した今でも、この情報通信技術のアップグレードプロジェクトは完了していないという。

アイルランドのデータ保護委員会スタッフは、世界最大手のテック企業に対する調査でLotus Notesを使用している。ICCL @ICCLtweetの調査により、@DPCIrelandがGDPRを執行できるようにするための情報通信技術の全面的な見直しが数年遅れていることが判明した。

内部文書(現在は公開されている)によるとプロジェクトの締め切り遅れは何度も繰り返され、2020年の10月までには、DPCの情報通信技術のアップグレード費用は当初の予定の2倍以上、少なくとも61万5121ユーロ(約7890万円)にまで膨らんでしまった(この数字には2016年以降のプロジェクトの人件費は含まれていない。また、アイルランド政府の司法省で生まれた時代遅れのLotus Notesシステムの保守費用も含まれていない)。

欧州の大半のテック大手を担当する主任データ監督者が、このような「前世代」のソフトウェアを使用して申し立てを処理しているという事実が判明したことで、DPCはかなり恥ずかしい思いをしているが、それだけではない。DPCの上層部の能力も疑問視されている。

DPCはテック大手に対する規制執行のペースが遅いという批判を浴び続けているが、それとGDPRのワンストップショップメカニズム(1国のデータ保護機関から承認を得れば他国の当局からの承認は不要となる制度)が相まって、膨大な数の未処理ケースが溜まっており、それがGDPRの弱点になっている(この点は欧州委員会も認めている)。そのため、自身の情報通信技術システムのテコ入れに時間がかかり過ぎているという事実が判明したことにより、規制当局が目的を果たしていないという批判はいっそう強くなるだろう。

問題はそれだけに留まらない。大半のテック大手は人々のデータから莫大な利益を獲得し、その利益で大勢の社内弁護士を雇い、規制介入されるリスクから自身を保護している。そうしたテック大手と、適切な最新ツールもなしにユーザーの権利を保護するという責務を課された、ちっぽけな資金不足の公的機関の間には、資金的にも技術専門知識という点でも大きな開きがある。

アイルランドのDPCの場合、内部の情報通信技術の全面改革にどれくらいの時間を要するかによって、リソースの管理状況に注目が集まる。2015年あたりから、GDPRの施行に合わせてDPCに割り当てられるリソースが増え、予算と人員が補強されている状況ではなおさらだ。

ICCLはアイルランド政府に対し、検査官の2人増員を検討するよう要請している。現在の検査官は、2014年に就任したHelen Dixon(ヘレン・ディクソン)氏1人だけだ。

ちなみに、アイルランドの法律では検査官を3人まで任命できる。

「FacebookとGoogleが我々ユーザーについて知っている情報を乱用しないよう監視する役割を担っている人たちが、あまりに時代遅れのシステムを使用しているので、前スタッフの1人が『そろばんを使って給与支払い処理をやろうとしているようなものだ』と言っていた」と、ICCLのシニアフェローJohnny Ryan(ジョニー・ライアン)博士はTechCrunchの取材に答えて語った。

「DPCは、テック大手の監視という使命を遂行する体制が整っていない」と同氏は指摘する。「今回の調査結果から、DPCは、自組織内の極めて重要なテクノロジープロジェクトさえ実施できていないという事実が明らかになった。そのような組織が、世界最大手のテック企業によるユーザーデータの使用を監視することなどできるだろうか。これはDPCだけでなくアイルランド政府についても深刻な問題を提起している。我々はアイルランド政府に対してGDPRを実施できない場合の戦略的経済リスクについて警告した」。

DPCにコメントを求めたところ「ケース管理システムは機能しており、目的に適ったものだ。このシステムは過去数年にわたって新しい機能(統計や管理レポートの生成機能など)が追加され最適化されてきた」という回答があった。

だが、このシステムは「時代遅れ」で「機能的にも制限されている」ため、新しいDPCウェブサイト、ウェブフォーム、およびEUデータ保護機関とのIMI(情報システム管理)共有プラットフォームに組み込んで使えるようにするため、どの程度まで改良できるかという点については、DPCも簡単ではないと認めている。何しろ、このシステムはLotus Notesのテクノロジーをベースにしているのだ。

「システムの仕様とコアモジュールの構築についてはかなりの作業が終わっている」と副長官のGraham Doyle(グラハム・ドイル)氏はいう。「一部遅れが生じているのは、セキュリティとインフラストラクチャ要素の仕様が更新されたためだ。他にも、DPCからの要請を受けて、EU各国のDPA(データ保護機関)の間における最終判定プロセスの相違の解消に必要な時間を考慮し、作業を意図的に遅らせている要素もある。そうしたプロセスには、GDPRの第60条に述べられている、異なる監督機関の間における協力と一貫性に関するメカニズムに関連したものなども該当する」。

「EDPB(欧州データ保護会議)はGDPRの第60条の運用化、さらには第65条に基づく紛争解決の仕組みの運用化に関する内部ガイダンスの作成に取りかかったばかりだ。これらは、EU各国のDPA間をまたいだ作業の重要な部分であり、システム間のハンドオフ(受け渡し)が必要になる。また、EUは当初の採択予定からほぼ3年経過しても、新しいePrivacy法をまだ採択していない。さらに、DPCは、EU各国のDPAと協力して、GDPRの手続き面と運用面の詳細な実施方法について検討を進めている段階であり、未解決事項もまだ残っている」。

ドイル氏は次のように付け加えた。「新しいケース管理システムに対する投資も継続中だ。新しいシステムの『初期コアモジュール』を2021年の第2四半期にはリリースしたいというのがDPCの意向だ」。

今までのところ、アイルランドのDPCが国境を越えたGDPR申し立てに対して下した判定は、Twitterが2019年1月に公表したセキュリティ侵害について、2020年の12月、同社に55万ドル(約5790万円)の罰金を課した1件だけだ。

このTwitterのケースは、最初の規制執行を巡ってアイルランドと他のEU諸国のDPAとで意見の相違があったため、決定プロセスが数カ月延びることになり、DPCが提示した罰金は最終的に、多数決により最大で数千ユーロ増額されることになった。

このケースへの対応は決して順風満帆ではなかったが、Facebookによる国境越えデータ転送に関する別の(2013年の)申し立て(Schrems II)の審理に、GDPRの施行前から始まって7年以上を要していることを考えると、比較的短期間で解決に至ったといえる。

Facebookの件では、DPCは、Facebookが標準契約条項(Standard contractual clauses:SCC)を根拠に、自らのデータ転送が合法だと主張する申し立てに対して判断を下すのではなく、データ転送のメカニズム自体の合法性を疑問視して法廷で争う選択をした。この件はその後、欧州司法裁判所に送られ、EU最高裁は最終的に、EUと米国間で締結された重要なデータ転送協定を無効とする判断を下した。

法廷での争いに持ち込んだ結果、EUと米国間で締結されたPrivacy Shield(米国への個人データの越境移転を認める法的枠組み)は無効とされたものの、DPCはFacebookによるEUからのデータ転送に関する問題から手を引いたわけではない。2020年9月、DPCは予備一時停止命令を発行した。これに対しFacebookは司法審査を介して即刻控訴した(この審理は一時停止されている)。

2020年、DPCは自身のプロセスに対する司法審査(Facebookに対する告訴人、Max Schrems[マックス・シュレムズ]氏が申し立てたもの)に対して示談に応じ、Facebookに対する申し立てを迅速に決着させることに同意した。判定はまだ数カ月先だが、いよいよ2021年中には最終判定が下されるはずだ。

関連記事:フェイスブックのEU米国間データ転送問題の決着が近い

DPCは規制執行が遅いという非難に対して、法的な異議申し立てに対抗できるように適正な手続きを踏む必要があるとして自己弁護を図っている。

しかし、DPCに対する批判が続く中、自組織の重要な内部情報通信技術のアップグレードが、最優先事項であると明言してから5年近くもダラダラと長引いているという事実が判明するようでは、批判者を黙らせることなど到底できない。

先週、欧州議会の人権委員会はアイルランドに対して「GDPRを適切に執行していない」とする侵害訴訟を開始するようDPCに要請するドラフト動議を発行した。

同ドラフトには、GDPRは2018年5月に施行されているにもかかわらず、GDPR違反だとする多数の申し立てに対してアイルランドDPCは未だに決定を下していないとする「深い懸念」が記されている。

LIBE委員会は、Facebookによるデータ転送に関するケースSchrems IIを取り上げ「アイルランドデータ保護委員会はGDPR第58条に従って自らの権限の範囲内で申し立てに対する決定を下すことが本分である。しかし、このケースは同委員会自らによって開始された」ことを懸念していると書いている。

また、EU全般のプラットフォーム規制(デジタルサービス法とデジタルマーケット法)を更新する同委員会の最新の計画で、強制執行のボトルネックを回避する提案がされていることも注目に値する。具体的には、1つの加盟国の規制当局が要因で、欧州市民全体のデータ権利が国境を越えて執行できなくなるというリスクを避けるために(これはGDPRで実際に起こり続けていることだが)、テック最大手のプラットフォームに対する重大な規制執行はDPCの組織内で処理すべきだとほのめかしている。

もう1つ、アイルランドDPCには情報公開法が全面適用されず「DPCの一般管理」に関する記録についてのみ適用されるという奇妙な規定もある。つまり「監督、規制、専門家による助言、申し立て処理、調査といった各職務については(ケースファイルも含め)同法に基づく公開要請の対象から除外される」(DPCのウェブサイトより抜粋)ということだ。

2020年TechCrunchが実施した情報公開要請(DPCがGDPRの権限を行使してデータ処理の一時的または完全な禁止を課した回数を尋ねたもの)は、この奇妙な規定に基づいて規制当局により拒否された。

DPCによると、侵害を行っている企業に対して個人データの処理を中止するよう指示したことがあるかという問い合わせに対する回答を拒否したのは、情報公開法が部分的にしか適用されないという理由からだという。DPCは次のように述べている。「一般管理とは情報公開対象組織の管理に関係する記録、具体的には人事、給与、採用、アカウント、情報技術、設備、内部組織、事務手続きなどに関する記録を指す」。

しかし、たとえアイルランドの情報公開法によってDPCの活動の詳細な調査が禁止されていても、同規制当局の規制執行の記録がすべてを物語っている。

関連記事:GDPRの執行力強化を切望するEU消費者保護団体の報告書、プライバシー侵害の懸念

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

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